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18 · ステージ 6 大学院

偏微分方程式論

超関数、フーリエ変換、ソボレフ空間、楕円型方程式の弱解と正則性、発展方程式、非線形問題

6 章目安 80〜100 時間演習 37 問

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章の一覧

  1. 1 超関数目安 17〜21 時間 · 演習 7 問
  2. 2 フーリエ変換と緩増加超関数目安 13〜16 時間 · 演習 6 問
  3. 3 ソボレフ空間目安 16〜20 時間 · 演習 6 問
  4. 4 楕円型方程式目安 13〜16 時間 · 演習 6 問
  5. 5 発展方程式目安 10〜12 時間 · 演習 6 問
  6. 6 非線形問題への入門目安 11〜14 時間 · 演習 6 問

科目の概要

偏微分方程式は、熱の伝わり方(熱方程式)、波の伝播(波動方程式)、量子力学(シュレディンガー方程式)、流体の運動(ナビエ–ストークス方程式)、そして極小曲面や曲率の問題など、自然科学と幾何学の至るところに現れる。08-differential-equations 第7章 では、変数分離・フーリエ級数・積分公式によって古典的な方程式を具体的に解いた。しかし、係数が一定でない方程式、一般の領域上の問題、非線形方程式では、解を式で書き表すことはほとんど期待できない。

この科目では、関数解析的手法による現代的な偏微分方程式論を学ぶ。その骨格は次の 3 段階である。

段階 内容 主な道具 章
1. 解の概念を広げる 微分を試験関数に移し、微分できない関数にも方程式の意味を与える 超関数、弱導関数、フーリエ変換 第1〜3章
2. 弱解の存在を示す 完備な関数空間の上で解を作る ラックス–ミルグラムの定理、ガラーキン法、変分法、不動点定理 第4〜6章
3. 正則性を示す 弱解が実は滑らかで古典解であることを示す 差分商、ソボレフの埋め込み定理、ブートストラップ 第3・4章

各段階でなぜその関数空間が必要かを意識することが大切である。超関数の空間 D′\mathcal{D}' は「何でも微分できる」ために、緩増加超関数 S′\mathcal{S}' は「何でもフーリエ変換できる」ために、ソボレフ空間 H1H^1 は「エネルギーについて完備である」ために、H−1H^{-1} は右辺のデータを受け止めるために、L2(0,T;H01)L^2(0, T; H_0^1) は時間発展を扱うために導入される。そしてソボレフの埋め込み定理が、弱い意味の微分可能性を古典的な滑らかさに翻訳し、レリッヒのコンパクト性定理がフレドホルム理論と非線形問題の存在定理を支える。

最終章では、この方法が非線形問題でどこまで通用するかを見る。3 次元ナビエ–ストークス方程式は、弱解の存在(第 2 段階)は 1934 年に示されたが、正則性(第 3 段階)がいまだに示されていない問題であり、クレイ数学研究所のミレニアム問題の一つである。

前提知識

この科目の記法

NOTATION.md に加えて、この科目では次の記法を使う。

記号 意味
Ω\Omega Rn\mathbb{R}^n の開集合(第4章以降は有界とすることが多い)
V⋐ΩV \Subset \Omega V‾\overline{V} がコンパクトで Ω\Omega に含まれる
α\alpha, ∣α∣\lvert\alpha\rvert, ∂α\partial^\alpha, xαx^\alpha 多重指数 α∈Z≥0n\alpha \in \mathbb{Z}_{\geq 0}^n とその長さ、偏微分、単項式
ωn\omega_n Rn\mathbb{R}^n の単位球の体積(単位球面の面積は nωnn\omega_n)
Cc∞(Ω)=D(Ω)C_c^\infty(\Omega) = \mathcal{D}(\Omega), D′(Ω)\mathcal{D}'(\Omega) 試験関数の空間、超関数の空間
S(Rn)\mathcal{S}(\mathbb{R}^n), S′(Rn)\mathcal{S}'(\mathbb{R}^n) 急減少関数の空間、緩増加超関数の空間
⟨T,φ⟩\langle T, \varphi\rangle 超関数と試験関数の組、H−1H^{-1} と H01H_0^1 の組(双線形で、内積ではない)
(u,v)(u, v) L2(Ω)L^2(\Omega) の内積 ∫uv dx\int uv\ dx(第4章以降は実数値)
f^=Ff\hat f = \mathcal{F}f フーリエ変換 ∫e−ix⋅ξf(x) dx\int e^{-ix\cdot\xi}f(x)\ dx(規約は第2章冒頭で固定する)
fˇ\check f 反転 fˇ(x)=f(−x)\check f(x) = f(-x)
ηε\eta_\varepsilon, fε=ηε∗ff^\varepsilon = \eta_\varepsilon \ast f 標準軟化子と軟化
Wk,pW^{k,p}, HkH^k, W0k,pW_0^{k,p}, H01H_0^1, H−1H^{-1}, HsH^s ソボレフ空間(第3章)
p∗=npn−pp^{\ast} = \frac{np}{n-p} ソボレフ共役指数(1≤p<n1 \leq p < n)
C=C(n,p,Ω)C = C(n, p, \Omega) 定数 CC が括弧内の量だけに依存すること

補足

NOTATION.md では ⟨⋅,⋅⟩\langle\cdot, \cdot\rangle は内積を表すが、偏微分方程式論では ⟨T,φ⟩\langle T, \varphi\rangle を超関数の作用(双線形の組)に使うのが標準的なので、この科目ではそれに従い、L2L^2 内積は (u,v)(u, v) と書く。

到達目標

  • [ ] 超関数を定義し、ヘヴィサイド関数・log⁡∣x∣\log\lvert x\rvert・主値 p.v.⁡1x\operatorname{p.v.}\frac{1}{x} などの超関数としての導関数を計算できる
  • [ ] 軟化子による近似定理を証明し、Cc∞C_c^\infty の稠密性や変分法の基本補題に応用できる
  • [ ] ラプラシアン・熱作用素・波動作用素の基本解を求め、−Δu=f-\Delta u = f の解を構成できる
  • [ ] S\mathcal{S} 上のフーリエ変換の反転公式とプランシュレルの定理を証明し、緩増加超関数のフーリエ変換を計算できる
  • [ ] 熱方程式・シュレディンガー方程式の解の公式を導き、平滑化・分散・不確定性原理を説明できる
  • [ ] ソボレフ空間の完備性と近似定理を証明し、トレース・W0k,pW_0^{k,p} の意味を説明できる
  • [ ] ガリアルド–ニーレンバーグ–ソボレフ、モリー、ポアンカレの不等式を、定数の依存関係とともに証明できる
  • [ ] レリッヒ–コンドラショフの定理の主張と、コンパクト性が破れる例(非有界領域・臨界指数)を説明できる
  • [ ] ラックス–ミルグラムの定理を証明し、楕円型方程式のディリクレ問題の弱解の存在と一意性を示せる
  • [ ] フレドホルムの択一定理と固有関数展開を、コンパクト作用素の理論から導ける
  • [ ] 差分商の方法で内部正則性を証明し、「弱解 → 古典解」の流れを説明できる
  • [ ] ガラーキン法で放物型方程式の弱解を構成し、半群による定式化と比較できる
  • [ ] 波動方程式のエネルギー保存と有限伝播速度、放物型方程式の最大値原理を証明できる
  • [ ] 変分法の直接法で非線形楕円型方程式(pp-ラプラシアンなど)の解の存在を示せる
  • [ ] 不動点定理・単調作用素法・峠の定理の使い方を説明でき、臨界指数とナビエ–ストークス方程式の問題の所在を説明できる

章立て

  1. 超関数 — デルタ関数と弱い意味の微分を動機に、試験関数の空間と超関数を定義する。超関数の微分・台・位数・積・畳み込み、軟化子による近似、ラプラシアン・熱作用素・波動作用素の基本解、−Δu=f-\Delta u = f の解の構成。
  2. フーリエ変換と緩増加超関数 — フーリエ変換の規約を固定し、L1L^1・S\mathcal{S}・L2L^2 上のフーリエ変換(反転公式・プランシュレルの定理)、緩増加超関数のフーリエ変換、ペイリー–ウィーナーの定理、熱方程式とシュレディンガー方程式への応用、不確定性原理。
  3. ソボレフ空間 — 弱導関数と Wk,pW^{k,p}、近似定理、W0k,pW_0^{k,p} と H−1H^{-1}、フーリエ変換による HsH^s、延長とトレース、ソボレフの埋め込み定理(ガリアルド–ニーレンバーグ–ソボレフ・モリー)、レリッヒ–コンドラショフのコンパクト性定理、ポアンカレの不等式。
  4. 楕円型方程式 — 一様楕円型作用素と弱解、ラックス–ミルグラムの定理、エネルギー評価、フレドホルムの択一定理、固有関数展開、差分商による内部正則性と境界正則性、弱最大値原理、ディリクレ原理。
  5. 発展方程式 — バナッハ空間値関数、ガラーキン法による放物型方程式の弱解、熱半群とヒレ–吉田の定理、放物型の最大値原理、波動方程式のエネルギー法と有限伝播速度、シュレディンガー方程式のユニタリ群とストリッカーツ評価。
  6. 非線形問題への入門 — 変分法の直接法、オイラー–ラグランジュ方程式と pp-ラプラシアン、単調作用素、不動点定理による −Δu=f(u)-\Delta u = f(u) の解の存在、峠の定理、臨界指数とコンパクト性の破れ、ナビエ–ストークス方程式とミレニアム問題。

学習時間の目安と進め方

  • 1 章あたり講義 4〜5 回分(1 回 90 分)、全体で半年〜1 年の講義に相当する。演習を含めて 1 章に 20 時間程度を見込むとよい。
  • 第1〜3章が道具、第4〜6章がその応用である。第2章は第3章の HsH^s と第5章のシュレディンガー方程式で使う。第4章は第3章のほぼすべて(特にポアンカレの不等式とレリッヒの定理)を使い、第5・6章は第4章を土台にする。
  • 定理を読むたびに、(1) どの関数空間で考えているか、なぜその空間か、(2) 仮定(領域の有界性・境界の滑らかさ・指数 pp の範囲・係数の条件)を外すと何が起こるか、(3) 評価の定数が何に依存するか、を確かめること。本文では各定理の後にできるだけ反例を置いた。
  • 繰り返し使う具体例:∣x∣−a\lvert x\rvert^{-a}(可積分性とソボレフ空間への所属)、ガウス関数(フーリエ変換・熱核)、区間や正方形の固有関数(ポアンカレ定数・固有値)、スケーリング u(λx)u(\lambda x)(不等式の指数の決定とコンパクト性の破れ)。自分で計算して確かめると理解が定着する。

参考文献

英語

  • L. C. Evans, Partial Differential Equations (American Mathematical Society) — 本科目全体の標準的な参照先。古典的な表示公式から、ソボレフ空間、2 階楕円型・線形発展方程式、変分法、非変分的な方法(単調性・不動点定理)まで扱う。
  • H. Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations (Springer) — 関数解析からソボレフ空間と楕円型・発展方程式(ヒレ–吉田の定理)までを一貫して扱う。第3〜5章の参照先。
  • D. Gilbarg, N. S. Trudinger, Elliptic Partial Differential Equations of Second Order (Springer) — 楕円型方程式の定番の専門書。最大値原理、シャウダー理論、ソボレフ空間と弱解の正則性理論を詳しく扱う。
  • G. B. Folland, Introduction to Partial Differential Equations (Princeton University Press) — 超関数とフーリエ解析を用いて、ラプラス・熱・波動作用素と基本解を簡潔に扱う。第1・2章の参照先。
  • L. Hörmander, The Analysis of Linear Partial Differential Operators I (Springer) — 超関数とフーリエ解析の決定版。本科目で証明を省いた超関数の定理(1 点に台をもつ超関数、ペイリー–ウィーナー–シュワルツの定理など)の参照先。

日本語

  • 溝畑茂『偏微分方程式論』(岩波書店)— 超関数を基礎とする線形偏微分方程式論の古典的な教科書。
  • 井川満『偏微分方程式論入門』(裳華房)— 偏微分方程式論の入門的な教科書。
  • 宮島静雄『ソボレフ空間の基礎と応用』(共立出版)— ソボレフ空間の理論と偏微分方程式への応用を丁寧に扱う。第3・4章をより深く学ぶのに向く。
  • 儀我美一・儀我美保『非線形偏微分方程式』(共立出版)— 非線形偏微分方程式論への入門書。第6章の先に進むときに。

次に学ぶもの

  • リーマン幾何学:楕円型作用素の正則性とフレドホルム性はホッジ理論の基礎である(17-riemannian-geometry 第7章)。第6章の臨界指数の問題は山辺問題(スカラー曲率一定の計量の存在)に現れる。
  • リーマン面:ディリクレ原理とポテンシャル論は一意化定理の証明に使われる(19-riemann-surfaces 第6章)。
  • 確率論:熱方程式とブラウン運動は表裏一体である(11-probability 第7章)。
  • 総合演習:20-problems 第9章(修士レベル:解析・幾何)。
  • さらに進んだ話題として、調和解析(特異積分作用素)、擬微分作用素と超局所解析、非線形分散型方程式、幾何解析(調和写像・曲率流)、数理流体力学、変分法の発展(有界変動関数・ガンマ収束)がある。