この章の目標
- ハーン–バナッハの定理(解析形)をツォルンの補題から証明し、その帰結(ノルムを達成する汎関数、点の分離)を使える
- 凸集合の分離定理(幾何形)を証明できる
- (ℓp)∗=ℓq, c0∗=ℓ1 を証明し、反射性を具体例で判定できる
- 弱位相・弱 ∗ 位相を扱い、バナッハ–アラオグルの定理を証明して使える
前提:第1章〜第3章、00-foundations 第6章(ツォルンの補題)、03-topology 第5章(チコノフの定理)
4.1 連続線形汎関数は十分にあるか
有限次元では、x=0 に対し f(x)=0 となる線形汎関数(例えば座標)がいつでもあり、双対空間 X∗ は X と同じ次元をもつ。無限次元のノルム空間では、連続な線形汎関数が十分にあるかどうかは自明でない。ヒルベルト空間ではリースの表現定理が答えを与えたが(定理 2.10)、ℓ∞ や C[0,1] のような空間ではどうか。
ハーン–バナッハの定理はこの問いに肯定的に答える。その結果、ノルム空間 X はつねに双対空間 X∗ と対になって扱えるようになり、次の 2 つの道具が手に入る。
- 幾何:凸集合を超平面で分離できる(最適化・凸解析の基礎)。
- 位相:X∗ を使って X にノルム位相より弱い位相を入れると、無限次元で失われた単位球のコンパクト性(リースの定理 1.23)を取り戻せる。
4.2 解析形
定義 4.1 実ベクトル空間 X 上の関数 p:X→R が、すべての x,y∈X と t≥0 について p(x+y)≤p(x)+p(y) および p(tx)=tp(x) を満たすとき、劣線形 (sublinear) であるという。ノルムやセミノルムは劣線形である。
定理 4.2(ハーン–バナッハの定理・実の場合, Hahn–Banach theorem)X を実ベクトル空間、p を劣線形汎関数、M を部分空間とし、線形汎関数 f:M→R が M 上で f≤p を満たすとする。このとき線形汎関数 F:X→R で、F∣M=f かつ X 上で F≤p となるものが存在する。
証明. 第 1 段(1 次元の拡張):x0∈/M とし、M1=M+Rx0 上に拡張する。F(m+tx0)=f(m)+tc の形で、すべての m∈M, t∈R について f(m)+tc≤p(m+tx0) となる c を選べばよい。t>0 と t<0 の場合を t で割って整理すると、条件は
m′∈Msup(f(m′)−p(m′−x0))≤c≤m∈Minf(p(m+x0)−f(m))
となる(t>0 なら m/t を m と書き直して c≤p(m+x0)−f(m)、t=−s<0 なら m/s を m′ と書き直して c≥f(m′)−p(m′−x0))。このような c が存在するのは、任意の m,m′∈M について
f(m′)+f(m)=f(m′+m)≤p(m′+m)≤p(m′−x0)+p(m+x0)
が成り立つからである。
第 2 段(ツォルンの補題):M⊂N となる部分空間 N と、f を拡張し N 上で g≤p を満たす線形汎関数 g の組 (N,g) 全体を P とし、「(N,g)⪯(N′,g′) ⇔ N⊂N′ かつ g′∣N=g」で順序を入れる。(M,f)∈P なので空でなく、全順序部分集合 {(Nλ,gλ)} は和集合 ⋃Nλ 上で gλ をつないだものを上界にもつ。ツォルンの補題により極大元 (N,g) が存在する。N=X なら第 1 段により真に大きい拡張が作れて極大性に反するので、N=X であり、F=g が求めるものである。□
定理 4.3(複素の場合)X を複素ベクトル空間、p をセミノルム、M を部分空間とし、線形汎関数 f:M→C が M 上で ∣f∣≤p を満たすとする。このとき f の線形な拡張 F:X→C で、X 上で ∣F∣≤p となるものが存在する。
証明. X を実ベクトル空間とみなし、u=Ref とおくと u は M 上の実線形汎関数で u≤∣f∣≤p。また Imf(x)=−Re(if(x))=−u(ix) なので f(x)=u(x)−iu(ix)。定理 4.2 により u を X 上の実線形汎関数 U≤p に拡張し、F(x)=U(x)−iU(ix) とおく。F は実線形で、F(ix)=U(ix)−iU(−x)=i(U(x)−iU(ix))=iF(x) なので複素線形であり、M 上で f に一致する。x∈X に対し θ∈R を eiθF(x)=∣F(x)∣ となるようにとれば、∣F(x)∣=F(eiθx) は実数なので
∣F(x)∣=ReF(eiθx)=U(eiθx)≤p(eiθx)=p(x)
□
系 4.4 X をノルム空間、M を部分空間、f∈M∗ とすると、F∣M=f かつ ∥F∥=∥f∥ となる F∈X∗ が存在する。
証明. p(x)=∥f∥∥x∥ として定理 4.2(実)または定理 4.3(複素)を適用すれば ∣F(x)∣≤∥f∥∥x∥。F は f の拡張なので ∥F∥≥∥f∥。□
系 4.5 X をノルム空間とする。
- x0=0 ならば、∥f∥=1 かつ f(x0)=∥x0∥ となる f∈X∗ が存在する。
- X∗ は X の点を分離する:x=y ならば f(x)=f(y) となる f∈X∗ がある。
- すべての x について ∥x∥=max{∣f(x)∣∣f∈X∗, ∥f∥≤1}。
- M を閉部分空間、x0∈/M、d=d(x0,M) とすると、∥f∥=1, f∣M=0, f(x0)=d となる f∈X∗ が存在する。特に、部分空間 M が稠密であるための必要十分条件は、M 上で 0 になる f∈X∗ が 0 に限ることである。
証明. 1:Kx0 上で g(tx0)=t∥x0∥ とおくと ∥g∥=1 なので、系 4.4 で拡張する。2:x−y に 1 を適用。3:∣f(x)∣≤∥f∥∥x∥ と 1 から従う。4:M+Kx0 上で g(m+tx0)=td とおく。t=0 なら ∣g(m+tx0)∣=∣t∣d≤∣t∣∥x0+m/t∥=∥m+tx0∥ なので ∥g∥≤1。mn∈M を ∥x0−mn∥→d となるようにとれば g(x0−mn)=d より ∥g∥≥d/∥x0−mn∥→1。これを系 4.4 で拡張する。最後の主張は、M=X なら M に 4 を適用すればよい。□
系 4.5 の 3 は、第1章の作用素ノルムの定義 ∥f∥=sup∥x∥≤1∣f(x)∣ と「双対」な公式であり、X のノルムが X∗ によって完全に決まることを表す。
注意
ハーン–バナッハの拡張は一般に一意でなく(問題 4.2)、証明はツォルンの補題(選択公理)に依存する非構成的なものである。ヒルベルト空間では、拡張はリースの表現定理と直交射影で具体的に書け、しかも一意である(問題 4.1)。
4.3 幾何形:凸集合の分離
有限次元では、交わらない 2 つの凸集合は超平面で分離できた。無限次元では「超平面」を連続線形汎関数の等位集合 {x∣Ref(x)=γ} で表す。
補題 4.6(ミンコフスキー汎関数, Minkowski functional)C をノルム空間 X の開凸集合で 0∈C とし、p(x)=inf{t>0∣x/t∈C} とおく。このとき p は劣線形で、ある K について 0≤p(x)≤K∥x∥、かつ C={x∣p(x)<1}。
証明. B(0,r)⊂C とすると、t>∥x∥/r なら x/t∈C なので p(x)≤∥x∥/r。p(sx)=sp(x)(s≥0)は定義から明らか。x/t0∈C かつ t>t0 なら x/t=(t0/t)(x/t0)+(1−t0/t)0∈C に注意する。ε>0 に対し a=p(x)+ε, b=p(y)+ε とおけば x/a,y/b∈C で、凸性より
a+bx+y=a+ba⋅ax+a+bb⋅by∈C
よって p(x+y)≤a+b=p(x)+p(y)+2ε。最後に、x∈C なら C が開なので (1+ε)x∈C となる ε>0 があり p(x)≤1/(1+ε)<1。逆に p(x)<1 なら x/t∈C となる t<1 があり、x=t(x/t)+(1−t)0∈C。□
定理 4.7(ハーン–バナッハの定理・第 1 幾何形)X をノルム空間、A,B⊂X を交わらない空でない凸集合とし、A は開であるとする。このとき f∈X∗ と γ∈R で、すべての a∈A, b∈B について Ref(a)<γ≤Ref(b) となるものが存在する。
証明. まず実の場合を示す。C=A−B={a−b∣a∈A, b∈B} は凸で、開集合 A−b の和なので開であり、0∈/C。z0∈C を 1 つとり D=C−z0 とおくと、D は 0 を含む開凸集合で −z0∈/D。補題 4.6 の p を D についてとると p(−z0)≥1。R(−z0) 上で g(−tz0)=t とおけば、t>0 なら g(−tz0)=t≤tp(−z0)=p(−tz0)、t≤0 なら g≤0≤p。定理 4.2 で拡張した F は F≤p≤K∥⋅∥ かつ −F(x)=F(−x)≤K∥x∥ を満たすので連続である。x∈D なら F(x)≤p(x)<1=F(−z0)、すなわち c∈C について F(c)=F(c−z0)+F(z0)<1−1=0。よって F(a)<F(b)(a∈A, b∈B)。F=0 なので F(A) は R の開集合(F(a+sz)=F(a)+sF(z))であり、γ=supF(A) とおけば F(a)<γ≤F(b)。
複素の場合は、X を実ノルム空間とみて得られる実線形の u に対し f(x)=u(x)−iu(ix) とおけば、定理 4.3 の証明と同様に f∈X∗, Ref=u となる。□
定理 4.8(第 2 幾何形)X をノルム空間、C⊂X を空でない閉凸集合、x0∈/C とする。このとき f∈X∗ で supc∈CRef(c)<Ref(x0) となるものが存在する。
証明. r=d(x0,C)>0 とし、A=C+B(0,r/2)(開凸集合)と B={x0} に定理 4.7 を適用すると、c∈C, ∥z∥<r/2 について Ref(c+z)<γ≤Ref(x0)。z について上限をとると Ref(c)+2r∥f∥≤γ であり、f=0 なので supCRef≤γ−2r∥f∥<Ref(x0)。□
したがって、閉凸集合はそれを含む閉半空間 {x∣Ref(x)≤γ} 全体の共通部分に等しい。凸な最適化問題の双対性(ラグランジュ乗数の存在など)は、この分離定理を無限次元で使うことで得られる。
4.4 双対空間の具体例
双対空間を「具体的に決定する」とは、X∗ と既知のバナッハ空間との等長同型を見つけることである。数列空間では、汎関数 f を単位ベクトル上の値 yn=f(en) で表す。以下、1≤p≤∞ に対し 1/p+1/q=1 で q を定める。
定理 4.9 1≤p<∞ とする。y∈ℓq に対し Φ(y)(x)=∑nxnyn とおくと、Φ:ℓq→(ℓp)∗ は線形な等長全単射である。すなわち (ℓp)∗=ℓq。
証明. ヘルダーの不等式より ∣Φ(y)(x)∣≤∥x∥p∥y∥q なので ∥Φ(y)∥≤∥y∥q。f∈(ℓp)∗ を任意にとり yn=f(en) とおく。y∈ℓq かつ ∥y∥q≤∥f∥ を示す。
1<p<∞ の場合:N を固定し、n≤N で yn=0 なら xn=∣yn∣q−2yn、それ以外は xn=0 とおく。xnyn=∣yn∣q かつ (q−1)p=q より ∥x∥pp=∑n≤N∣yn∣q なので、sN=∑n≤N∣yn∣q とおくと sN=f(x)≤∥f∥sN1/p。sN>0 なら sN1/q≤∥f∥ で、N→∞ として ∥y∥q≤∥f∥。p=1 の場合:∣yn∣=∣f(en)∣≤∥f∥ より ∥y∥∞≤∥f∥。
f と Φ(y) は c00 上で一致し(線形性)、c00 は ℓp(p<∞)で稠密なので f=Φ(y)。以上より Φ は全射で ∥y∥q≤∥Φ(y)∥≤∥y∥q。□
定理 4.10 同じ Φ により c0∗=ℓ1(等長同型)。
証明. y∈ℓ1 なら ∣∑xnyn∣≤∥x∥∞∥y∥1。f∈c0∗ に対し yn=f(en) とし、n≤N で xn=yn/∣yn∣(yn=0 なら 0)、n>N で xn=0 とおくと ∥x∥∞≤1 で f(x)=∑n≤N∣yn∣≤∥f∥。よって ∥y∥1≤∥f∥ で、あとは定理 4.9 と同様(c00 は c0 で稠密)。□
例 4.11((ℓ∞)∗=ℓ1)Φ:ℓ1→(ℓ∞)∗ は等長だが全射でない。実際 c0 は ℓ∞ の閉な真部分空間なので、系 4.5 の 4 により c0 上で 0 となる 0=f∈(ℓ∞)∗ がある。f=Φ(y) なら yn=f(en)=0 となって f=0 となり矛盾。このような f の例がバナッハ極限(問題 4.7)である。なお (Lp)∗=Lq(1≤p<∞、p=1 では σ-有限を仮定)は 06-measure-integration 第6章、C(K)∗ が正則ボレル測度の空間であること(リース–マルコフの定理)は 06-measure-integration 第8章 で扱う。
4.5 第 2 双対と反射性
x∈X に対し (Jx)(f)=f(x)(f∈X∗)とおくと Jx∈X∗∗ であり、系 4.5 の 3 により ∥Jx∥=∥x∥。J:X→X∗∗ を標準埋め込み (canonical embedding) という。X∗∗ は完備なので、J(X) の閉包は X の完備化を与える。
定義 4.12 J が全射であるとき、X は反射的 (reflexive) であるという。反射的な空間は X∗∗=J(X) と同型なので必ずバナッハ空間である。
例 4.13
- ヒルベルト空間は反射的。ξ∈H∗∗ に対し g(y)=ξ(⟨⋅,y⟩) とおくと、y↦⟨⋅,y⟩ が共役線形なので g は線形かつ有界で、リースの表現定理により g(y)=⟨y,x⟩ となる x がある。すると ξ(⟨⋅,y⟩)=⟨y,x⟩=⟨x,y⟩=(Jx)(⟨⋅,y⟩) で、H∗ の元はすべて ⟨⋅,y⟩ の形なので ξ=Jx。
- 1<p<∞ なら ℓp は反射的。Φp:ℓq→(ℓp)∗, Φq:ℓp→(ℓq)∗ を定理 4.9 の同型とする。ξ∈(ℓp)∗∗ に対し ξ∘Φp∈(ℓq)∗ なので ξ∘Φp=Φq(x) となる x∈ℓp がある。すると ξ(Φp(y))=∑xnyn=Φp(y)(x) で、ξ=Jx。同様に Lp(1<p<∞)も反射的である。
- c0 は反射的でない。c0∗=ℓ1, (ℓ1)∗=ℓ∞ により c0∗∗ は ℓ∞ と等長同型で、この同一視のもとで J は包含写像 c0↪ℓ∞ になる((Jx)(Φ(y))=∑xnyn)。これは全射でない。ℓ1, ℓ∞, L1[0,1], C[0,1] も反射的でない(ℓ1 は問題 4.4)。
4.6 弱位相と弱 ∗ 位相
リースの定理 1.23 により、無限次元ノルム空間の閉単位球はノルム位相でコンパクトでない。そこで位相を弱めて、コンパクト性を取り戻すことを考える。
定義 4.14 ノルム空間 X 上で、すべての f∈X∗ を連続にする最弱の位相を弱位相 (weak topology) σ(X,X∗) という。x0 の基本近傍系は {x∣∣fi(x−x0)∣<ε, i=1,…,n}(fi∈X∗, ε>0)で与えられる。点列 (xn) が x に弱収束する(xn⇀x)とは、すべての f∈X∗ で f(xn)→f(x) となることである。
双対空間 X∗ 上で、すべての x∈X について f↦f(x) を連続にする最弱の位相を弱 ∗ 位相 (weak-star topology) σ(X∗,X) という。fn が f に弱 ∗ 収束するとは、すべての x で fn(x)→f(x) となることである。
X∗ 上の弱 ∗ 位相は、X∗ の弱位相 σ(X∗,X∗∗) よりさらに弱い(J(X)⊂X∗∗ だから)。X が反射的なら両者は一致する。ヒルベルト空間では、リースの表現定理により xn⇀x は「すべての y で ⟨xn,y⟩→⟨x,y⟩」と同じである。
命題 4.15 X をノルム空間とする。(1) 弱極限は一意である。(2) 弱収束列 xn⇀x は有界であり、∥x∥≤liminfn∥xn∥。
証明. (1) 系 4.5 の 2(点の分離)から。(2) X∗ はバナッハ空間(定理 1.18)で、Jxn∈X∗∗=B(X∗,K) は各点 f で有界なので、一様有界性原理(定理 3.4)により supn∥xn∥=supn∥Jxn∥<∞。系 4.5 の 1 で ∥f∥=1, f(x)=∥x∥ となる f をとれば、∥x∥=limn∣f(xn)∣≤liminfn∥xn∥。□
例 4.16 1<p<∞ なら ℓp で en⇀0 である(f=Φ(y), y∈ℓq について f(en)=yn→0)。しかし ∥en∥=1 なのでノルム収束はしない。命題 4.15 の不等式が等号にならない典型例である。一方 ℓ1 では en は弱収束しない(問題 4.3)が、ℓ1=c0∗ の弱 ∗ 位相では en→0 である(x∈c0 について ⟨x,en⟩=xn→0)。
命題 4.17(マズールの定理, Mazur)ノルム位相で閉な凸集合は弱位相でも閉である。
証明. C を閉凸集合、x0∈/C とする。定理 4.8 により supCRef<γ<Ref(x0) となる f, γ がある。{x∣Ref(x)>γ} は x0 の弱近傍で C と交わらない。よって X∖C は弱開集合である。□
定理 4.18(バナッハ–アラオグルの定理, Banach–Alaoglu theorem)ノルム空間 X について、双対空間の閉単位球 BX∗ は弱 ∗ 位相でコンパクトである。
証明. 各 x∈X に対し Dx={λ∈K∣∣λ∣≤∥x∥} はコンパクトなので、チコノフの定理により直積 P=∏x∈XDx(直積位相)はコンパクトである。ι:BX∗→P, ι(f)=(f(x))x∈X は単射で、座標射影 πx について πx∘ι は評価写像 f↦f(x) である。弱 ∗ 位相も直積位相も「各評価(各座標)を連続にする最弱の位相」なので、ι は BX∗ から像 ι(BX∗) への同相写像である。
像は P の元 ω のうち線形なもの全体、すなわち、すべての x,y∈X, α∈K について ω(x+y)=ω(x)+ω(y) かつ ω(αx)=αω(x) を満たすもの全体に等しい(線形で ∣ω(x)∣≤∥x∥ なら ω∈BX∗)。各条件は有限個の座標の連続関数で書けるので閉集合を定め、その共通部分である像は P の閉集合、したがってコンパクトである。□
定理 4.19 X が可分なノルム空間ならば、X∗ の有界列は弱 ∗ 収束する部分列をもつ。
証明. ∥fn∥≤C とし、{xk} を X の稠密な可算集合とする。対角線論法により、すべての k で fnj(xk) が収束する部分列がとれる。x∈X, ε>0 に対し ∥x−xk∥<ε となる k を選べば ∣fnj(x)−fnl(x)∣≤2Cε+∣fnj(xk)−fnl(xk)∣ なので fnj(x) は収束する。極限 f(x) は線形で ∣f(x)∣≤C∥x∥ だから f∈X∗。□
定理 4.20(反射的空間の弱点列コンパクト性)反射的なバナッハ空間の有界列は、弱収束する部分列をもつ。さらに、バナッハ空間 X が反射的であることと、BX が弱位相でコンパクトであることは同値である(角谷の定理)。
証明は省略する(前半は、有界列の閉線形包 Y が可分かつ反射的であることから Y∗ も可分になることを示し、定理 4.19 を Y∗ の双対に適用する。Brezis の本などを参照)。ヒルベルト空間の場合は問題 2.9 で直接示した。定理 4.20 は、有界な最小化列から弱収束部分列を取り出して汎関数の最小元を得る直接法の基礎であり、偏微分方程式の変分法で繰り返し使われる。
4.7 端点と一様凸性
定義 4.21 凸集合 K の点 x が、x=21(y+z)(y,z∈K)ならば y=z=x となるとき、x を K の端点 (extreme point) という。
定理 4.22(クライン–ミルマンの定理, Krein–Milman theorem)X をノルム空間とし、K を X∗ の空でない弱 ∗ コンパクト凸集合(または X の空でない弱コンパクト凸集合)とする。このとき K は端点をもち、K は端点全体の凸包の弱 ∗ 閉包(弱閉包)に等しい。
証明は省略する(一般に局所凸空間のコンパクト凸集合について成り立ち、ツォルンの補題と定理 4.7 型の分離定理を使う。Rudin, Functional Analysis などを参照)。
例 4.23 Bc0 は端点をもたない。実際 x∈Bc0 なら ∣xN∣<1/2 となる N があり、x±21eN∈Bc0 で x はその中点である。もし c0 があるバナッハ空間 Y の双対 Y∗ と等長同型なら、Bc0 は BY∗ に対応し、バナッハ–アラオグルの定理とクライン–ミルマンの定理により端点をもつはずである。よって c0 はどんなバナッハ空間の双対とも等長同型でない。
定義 4.24 バナッハ空間 X が一様凸 (uniformly convex) であるとは、任意の ε>0 に対し δ>0 があって、∥x∥,∥y∥≤1 かつ ∥x−y∥≥ε ならば ∥(x+y)/2∥≤1−δ となることである。
ヒルベルト空間は中線定理 ∥(x+y)/2∥2=21(∥x∥2+∥y∥2)−∥(x−y)/2∥2≤1−ε2/4 により一様凸である。Lp(1<p<∞)もクラークソンの不等式により一様凸である(証明は省略)。ℓ1 や c0 は一様凸でない(ℓ1 では x=e1, y=e2、c0 では x=e1+e2, y=e1−e2 とすると ∥x−y∥=2 だが中点のノルムは 1)。
定理 4.25(ミルマン–ペティスの定理, Milman–Pettis theorem)一様凸なバナッハ空間は反射的である。
証明は省略する。これにより Lp(1<p<∞)の反射性が、双対空間の決定を経ずに幾何学的に示される。
まとめ
- ハーン–バナッハの定理:劣線形汎関数で押さえられた線形汎関数は全体に拡張できる。証明はツォルンの補題による。複素の場合は実部を拡張して復元する。
- 帰結として、ノルムを保つ拡張、∥f∥=1 で f(x0)=∥x0∥ となる汎関数が存在し、∥x∥=max∥f∥≤1∣f(x)∣。部分空間の稠密性は汎関数で判定できる。
- 幾何形:開凸集合と凸集合、閉凸集合と点は閉超平面で分離できる(ミンコフスキー汎関数を使う)。
- (ℓp)∗=ℓq(1≤p<∞)、c0∗=ℓ1 だが、(ℓ∞)∗ は ℓ1 より真に大きい。
- 標準埋め込み J:X→X∗∗ は等長であり、全射のとき反射的という。ヒルベルト空間、ℓp, Lp(1<p<∞)は反射的、c0, ℓ1, ℓ∞, C[0,1] は反射的でない。
- 弱収束列は有界で、ノルムは弱収束について下半連続である。閉凸集合は弱閉である(マズール)。
- バナッハ–アラオグルの定理:BX∗ は弱 ∗ コンパクトである。ノルム位相で失われたコンパクト性を弱い位相で取り戻すのが双対性の要点である。
- クライン–ミルマンの定理により、c0 はどの空間の双対とも等長同型でない。一様凸な空間は反射的である(ミルマン–ペティス)。
演習問題
問題 4.1 ★ H をヒルベルト空間、M を部分空間、f∈M∗ とする。∥F∥=∥f∥ を満たす f の拡張 F∈H∗ はただ一つであることを示せ。
解答
f は一様連続なので閉包 M にノルムを変えずに一意に拡張でき(命題 1.19)、M はヒルベルト空間だからリースの表現定理により f(m)=⟨m,y⟩(y∈M, ∥y∥=∥f∥)。F=⟨⋅,y⟩ はノルムを保つ拡張である。別の拡張 G=⟨⋅,z⟩ が ∥z∥=∥f∥ を満たすとすると、M 上で ⟨m,z−y⟩=0 なので w=z−y∈M⊥ で、∥z∥2=∥y∥2+∥w∥2。∥z∥=∥y∥ より w=0。
問題 4.2 ★ R2 にノルム ∥(x,y)∥1=∣x∣+∣y∣ を入れ、M=R(1,0) 上の f(t,0)=t を考える。f のノルムを保つ拡張が無数にあることを示せ。
解答
∥f∥=1。拡張は F(x,y)=x+cy の形で、∣x+cy∣≤max(1,∣c∣)(∣x∣+∣y∣) かつ F(0,1)=c より ∥F∥=max(1,∣c∣)。したがって ∣c∣≤1 を満たすすべての c がノルムを保つ拡張を与える。単位球が「角」をもつ(一様凸でない)ことが非一意性の原因である。
問題 4.3 ★★ (1) c0 で en⇀0 を示せ。(2) ℓ1 で (en) は弱収束しないことを示せ。(3) L2[0,2π] で sin(nt)⇀0 だが、ノルムでは収束しないことを示せ。
解答
(1) 定理 4.10 より f∈c0∗ は y∈ℓ1 で表され、f(en)=yn→0。
(2) en⇀x とすると、座標汎関数 x↦xk を考えて xk=limn(en)k=0、よって x=0。しかし y=(1,1,…)∈ℓ∞=(ℓ1)∗ について Φ(y)(en)=1→0 で矛盾する。
(3) (sin(nt)/π)n≥1 は正規直交系なので、ベッセルの不等式より任意の g で ⟨sin(nt),g⟩→0。リースの表現定理により、これは弱収束 sin(nt)⇀0 を意味する(これはリーマン–ルベーグの補題の L2 版でもある)。一方 ∥sin(nt)∥2=π なのでノルムでは 0 に収束しない。
問題 4.4 ★★ ノルム空間 X の双対 X∗ が可分ならば X も可分であることを示せ。これを用いて ℓ1 が反射的でないことを示せ。
解答
{fn} を X∗ の稠密な可算集合とし、∥xn∥=1, ∣fn(xn)∣≥∥fn∥/2 となる xn をとる。M=span{xn} は可分である。M=X なら系 4.5 の 4 により ∥f∥=1, f∣M=0 となる f がある。∥f−fn∥<1/3 となる n をとると ∥fn∥>2/3 なので ∣fn(xn)∣>1/3 だが、∣fn(xn)∣=∣(fn−f)(xn)∣<1/3 となり矛盾。よって X=M は可分である。
ℓ1 が反射的なら (ℓ1)∗∗=J(ℓ1) は可分である。(ℓ1)∗ は ℓ∞ と等長同型なので、(ℓ∞)∗ も可分になり、前半により ℓ∞ が可分となって問題 1.9 に反する。
問題 4.5 ★★ 無限次元ノルム空間 X では、単位球面 S={x∣∥x∥=1} の弱閉包が 0 を含むことを示せ。
解答
0 の弱近傍は V={x∣∣fi(x)∣<ε, i=1,…,n} の形の集合を含む。写像 x↦(f1(x),…,fn(x))∈Kn の核 N=⋂ikerfi は余次元 n 以下なので、X が無限次元なら N={0}。y∈N, ∥y∥=1 をとれば y∈V∩S。よって 0 のどの弱近傍も S と交わる。特に無限次元では弱位相はノルム位相より真に弱く、0 の弱近傍はすべて非有界である。
問題 4.6 ★★(マズールの補題)xn⇀x ならば、xn たちの凸結合からなる列で x にノルム収束するものが存在することを示せ。
解答
C=conv{xn}(有限凸結合全体)のノルム閉包 C は閉凸集合なので、命題 4.17 により弱閉である。xn∈C で xn⇀x だから x∈C、すなわち x は C の元のノルム極限である。同じ議論を {xn∣n≥N} に適用すれば、各 N について n≥N の xn だけの凸結合 zN で ∥zN−x∥<1/N となるものがとれる。
問題 4.7 ★★★(バナッハ極限)実数値の ℓ∞ 上の線形汎関数 Λ で、(i) liminfnxn≤Λ(x)≤limsupnxn、(ii) Λ(Lx)=Λ(x)(L は左シフト)を満たすものが存在することを示せ。また Λ((1,0,1,0,…))=1/2 を示せ。
解答
p(x)=limsupn→∞n1∑k=1nxk は劣線形である。収束列の空間 c 上の lim は、チェザロ平均が同じ極限に収束するので limx=p(x) を満たす。定理 4.2 で拡張した Λ は Λ≤p を満たし、チェザロ平均の上極限は limsupxn 以下なので Λ(x)≤limsupxn。−x に適用して Λ(x)≥liminfxn。特に ∣Λ(x)∣≤∥x∥∞ で Λ は連続である。
(ii):n1∑k=1n(xk−xk+1)=nx1−xn+1→0 なので p(x−Lx)=p(Lx−x)=0。よって Λ(x−Lx)≤0 かつ Λ(Lx−x)≤0 で、Λ(Lx)=Λ(x)。
x=(1,0,1,0,…) なら x+Lx=(1,1,1,…) なので 2Λ(x)=Λ(x+Lx)=1。Λ は c0 上で 0 だが 0 でないので、例 4.11 の汎関数の具体例になっている。
問題 4.8 ★★★ L1[0,1] の閉単位球は端点をもたないことを示し、L1[0,1] がどんなバナッハ空間の双対とも等長同型でないことを導け。
解答
∥f∥1<1 の元は端点でない:f=0 なら f=21((1+ε)f+(1−ε)f)(ε は小さく)、f=0 なら 0=21(g+(−g))(∥g∥1=1)。∥f∥1=1 とする。ϕ(s)=∫0s∣f∣ dt は ϕ(0)=0 から ϕ(1)=1 まで連続に増加するので、ϕ(s0)=1/2 となる s0 がある。g=2f1[0,s0], h=2f1(s0,1] とおくと ∥g∥1=∥h∥1=1, f=(g+h)/2, g=h。よって端点はない。
L1[0,1] が Y∗ と等長同型なら、単位球はバナッハ–アラオグルの定理により弱 ∗ コンパクト凸集合に対応し、クライン–ミルマンの定理により端点をもつはずで、矛盾する。