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00 数学の言葉:論理・集合・写像 · 第 6 章

選択公理とツォルンの補題

目安 3〜5 時間定理など 8演習 10 問

この章の目標

  • 選択公理の主張と、それが必要になる場面・不要な場面を説明できる
  • 選択公理のいくつかの同値な言いかえ(直積・選択関数・全射の右逆写像)を証明できる
  • ツォルンの補題を正確に述べ、選択公理からの証明を理解する
  • ツォルンの補題を使って、任意のベクトル空間が基底をもつことを証明できる
  • 整列可能定理との関係、非可測集合やバナッハ–タルスキーの定理など選択公理の「副作用」を知る

前提:第3章、第4章(半順序・整列集合)、第5章

空でない集合からは元を一つ選べる。二つでも、百個でも、有限個なら順に選べばよい。では無限個の空でない集合から、同時に一つずつ元を選ぶことはできるだろうか。これを保証するのが選択公理である。直観的には当たり前に見えるこの公理は、他の公理から証明できないことが知られており、しかも一見奇妙な帰結をもたらす。一方で、「任意のベクトル空間は基底をもつ」「環は極大イデアルをもつ」など、現代数学の多くの基本定理が選択公理に依存している。本章では、選択公理を実際に使うための最も重要な道具であるツォルンの補題を、証明とともに学ぶ。

6.1 選択公理

公理 6.1(選択公理, axiom of choice)空でない集合からなる任意の族 (Xλ)λ∈Λ(X_\lambda)_{\lambda \in \Lambda} について、その直積 ∏λ∈ΛXλ\prod_{\lambda \in \Lambda} X_\lambda は空でない。すなわち、各 λ∈Λ\lambda \in \Lambda に対して xλ∈Xλx_\lambda \in X_\lambda となるような族 (xλ)λ∈Λ(x_\lambda)_{\lambda \in \Lambda} が存在する。

選択公理を AC と略記する。直積の元とは各 XλX_\lambda から一つずつ元を選んだものだから(定義 3.34)、選択公理は「無限個の集合からも同時に元を選べる」と主張している。

定義 6.2(選択関数)集合 XX に対し、写像 c ⁣:P(X)∖{∅}→Xc\colon \mathcal{P}(X) \setminus \lbrace \emptyset \rbrace \to X で、空でないすべての A⊂XA \subset X について c(A)∈Ac(A) \in A を満たすものを、XX 上の選択関数 (choice function) という。

例 6.3(選択公理が要る場合・要らない場合)

  1. 有限個の空でない集合からは、選択公理なしに元を選べる(問題 6.1)。
  2. N\mathbb{N} の空でない部分集合全体からは、「最小元を選ぶ」という規則で一斉に選べる。つまり N\mathbb{N} 上の選択関数 c(A):=min⁡Ac(A) := \min A が選択公理なしに存在する。
  3. 空でない開区間 (a,b)(a, b) 全体からは「中点を選ぶ」という規則で選べる。一方、R\mathbb{R} の空でない部分集合全体から一斉に選ぶ規則は知られていない(min⁡\min は (0,1)(0, 1) で存在しない)。実際、R\mathbb{R} 上の選択関数の存在は選択公理なしには証明できないことが知られている。
  4. ラッセルのたとえ:無限組の靴から一足ずつ選ぶには「左の靴を選ぶ」という規則があるが、無限組の靴下(左右の区別がない)から一つずつ選ぶには選択公理が要る。

選択公理が必要になるのは、無限個の選択を、それを指定する規則なしに行うときである。

定理 6.4(選択公理の言いかえ)ZF のもとで、次の三条件は同値である。

  1. 選択公理
  2. 任意の集合 XX 上に選択関数が存在する。
  3. 任意の全射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y は右逆写像をもつ(f∘h=idYf \circ h = \mathrm{id}_Y となる h ⁣:Y→Xh\colon Y \to X が存在する)。

証明. (1)⇒\Rightarrow(2):Λ:=P(X)∖{∅}\Lambda := \mathcal{P}(X) \setminus \lbrace \emptyset \rbrace を添字集合とする族 (A)A∈Λ(A)_{A \in \Lambda} に選択公理を適用すると、直積の元として c(A)∈Ac(A) \in A を満たす cc が得られる。

(2)⇒\Rightarrow(1):(Xλ)λ∈Λ(X_\lambda)_{\lambda \in \Lambda} を空でない集合の族とし、X:=⋃λXλX := \bigcup_\lambda X_\lambda 上の選択関数 cc をとる。λ↦c(Xλ)\lambda \mapsto c(X_\lambda) は直積の元である。

(1)⇒\Rightarrow(3):ff が全射なので、ファイバーの族 (f−1({y}))y∈Y(f^{-1}(\lbrace y \rbrace))_{y \in Y} は空でない集合の族である。その直積の元 hh は、各 yy で h(y)∈f−1({y})h(y) \in f^{-1}(\lbrace y \rbrace)、すなわち f(h(y))=yf(h(y)) = y を満たす(定理 3.22)。

(3)⇒\Rightarrow(1):(Xλ)λ∈Λ(X_\lambda)_{\lambda \in \Lambda} を空でない集合の族とし、X:={(λ,x)∣λ∈Λ, x∈Xλ}X := \lbrace (\lambda, x) \mid \lambda \in \Lambda,\ x \in X_\lambda \rbrace、p ⁣:X→Λp\colon X \to \Lambda、(λ,x)↦λ(\lambda, x) \mapsto \lambda とおく。各 XλX_\lambda が空でないので pp は全射であり、右逆写像 ss がある。s(λ)=(λ,xλ)s(\lambda) = (\lambda, x_\lambda) と書くと xλ∈Xλx_\lambda \in X_\lambda なので、(xλ)λ(x_\lambda)_\lambda は直積の元である。□\square

注意 6.5(弱い選択公理)解析学では、次のような弱い形で十分なことが多い。

  • 可算選択公理:空でない集合の可算族の直積は空でない。定理 5.14(可算集合の可算和は可算)の証明に使ったのはこれである。微分積分学でおなじみの「ff が aa で連続でなければ、各 nn について ∣xn−a∣<1/n\lvert x_n - a \rvert < 1/n かつ ∣f(xn)−f(a)∣≥ε\lvert f(x_n) - f(a) \rvert \geq \varepsilon となる xnx_n をとる」という議論も、可算個の空でない集合から同時に一つずつ選んでいるので、これを使っている。
  • 従属選択公理:空でない集合 XX 上の関係 RR で「どの x∈Xx \in X に対しても xRyx \mathrel{R} y となる y∈Xy \in X がある」ものについて、x1Rx2Rx3R⋯x_1 \mathrel{R} x_2 \mathrel{R} x_3 \mathrel{R} \cdots となる列が存在する。前に選んだ元に応じて次の元を選んでいく議論(たとえば、極大元をもたない空でない半順序集合で x1<x2<x3<⋯x_1 < x_2 < x_3 < \cdots となる列を作る議論)はこれに依存する。従属選択公理から可算選択公理が導かれる。

微分積分学の標準的な議論の多くは、気づかないうちにこうした弱い選択公理を使っている。

6.2 ツォルンの補題

選択公理を実際の証明で使うとき、直接使うよりも便利な形がツォルンの補題である。まず用語を用意する。半順序集合の鎖とは、どの二元も比較可能な部分集合のことであった(定義 4.18)。空集合も鎖である。

定義 6.6(帰納的順序集合)半順序集合 (P,≤)(P, \leq) の任意の鎖が PP の中に上界をもつとき、PP を帰納的順序集合 (inductively ordered set) という。

空な鎖の上界は PP の任意の元なので、帰納的順序集合は空でない。逆に、空でない半順序集合で空でない鎖がすべて上界をもつなら帰納的である。

定理 6.7(ツォルンの補題, Zorn's lemma)選択公理を仮定する。帰納的順序集合は極大元をもつ。すなわち、PP を空でない半順序集合とし、PP の任意の鎖が PP の中に上界をもつならば、PP は極大元をもつ。

例 6.8

  1. (N,≤)(\mathbb{N}, \leq) は極大元をもたない。実際、鎖 N\mathbb{N} 自身が上界をもたないので、仮定を満たさない。
  2. (P(X),⊂)(\mathcal{P}(X), \subset) は帰納的である(鎖の和集合が上界)。極大元は XX であり、これはツォルンの補題を使うまでもない。
  3. N\mathbb{N} の真部分集合全体 (P(N)∖{N},⊂)(\mathcal{P}(\mathbb{N}) \setminus \lbrace \mathbb{N} \rbrace, \subset) は帰納的でない。鎖 [1]⊂[2]⊂[3]⊂⋯[1] \subset [2] \subset [3] \subset \cdots の上界は N\mathbb{N} を含まねばならないからである。それでも極大元 N∖{n}\mathbb{N} \setminus \lbrace n \rbrace は存在する。ツォルンの補題の仮定は十分条件であって必要条件ではない。

証明の着想を述べる。極大元がないとすると、どの元にもそれより大きい元がある。x0x_0 から出発して x0<x1<x2<⋯x_0 < x_1 < x_2 < \cdots と選び続け、鎖ができたらその上界をとり、さらにその上を選び……と、「無限の先」まで登り続ける。いつまでも止まらないはずだが、PP は集合なので、登っていく鎖が PP に収まりきらなくなって矛盾する。この「選び続ける」操作を一度に行うために選択公理を使い、「無限の先まで登る」過程を整列集合で表現する。

以下、定理 6.7 の証明が終わるまで、(P,≤)(P, \leq) は帰納的順序集合で極大元をもたないと仮定する。

準備. 鎖 C⊂PC \subset P に対し、CC の真の上界全体を U(C):={p∈P∣∀c∈C, c<p}U(C) := \lbrace p \in P \mid \forall c \in C,\ c < p \rbrace とおく。U(C)≠∅U(C) \neq \emptyset である。実際 CC の上界 bb をとると、bb は極大元でないので b<pb < p となる pp があり、任意の c∈Cc \in C について c≤b<pc \leq b < p より c<pc < p となる。PP の鎖全体の集合を C\mathcal{C} とし、族 (U(C))C∈C(U(C))_{C \in \mathcal{C}} に選択公理を適用して、写像 g ⁣:C→Pg\colon \mathcal{C} \to P で

すべての鎖 C について g(C)∈U(C)\text{すべての鎖 } C \text{ について } g(C) \in U(C)

を満たすものをとる。選択公理を使うのはここだけである。 以下 gg を固定し、全順序集合 WW と x∈Wx \in W に対して W<x:={w∈W∣w<x}W_{< x} := \lbrace w \in W \mid w < x \rbrace と書く。

定義 6.9(gg-列と始切片)

  1. W⊂PW \subset P が次の二条件を満たすとき、WW を gg-列と呼ぶ:(i) WW は ≤\leq について整列集合である。(ii) すべての x∈Wx \in W について x=g(W<x)x = g(W_{< x}) である。
  2. 全順序集合 WW の部分集合 SS が「s∈Ss \in S、w∈Ww \in W、w<sw < s ならば w∈Sw \in S」を満たすとき、SS を WW の始切片 (initial segment) という。

(ii) で W<xW_{< x} は鎖なので g(W<x)g(W_{< x}) は意味をもつ。gg-列とは、「それまでに選んだ元全体に gg を施して次の元を決める」という規則で作られた整列集合である。たとえば ∅\emptyset、{g(∅)}\lbrace g(\emptyset) \rbrace、{g(∅),g({g(∅)})}\lbrace g(\emptyset), g(\lbrace g(\emptyset) \rbrace) \rbrace は gg-列である。

補題 6.10 W,VW, V を gg-列とすると、「W⊂VW \subset V かつ WW は VV の始切片」または「V⊂WV \subset W かつ VV は WW の始切片」が成り立つ。

証明. W∩VW \cap V の部分集合で、WW の始切片でも VV の始切片でもあるもの全体の和集合を JJ とおく。始切片の和集合は始切片なので、JJ も WW と VV の両方の始切片である。J=WJ = W または J=VJ = V を示せば、主張が従う。

J≠WJ \neq W かつ J≠VJ \neq V と仮定する。W,VW, V は整列集合なので x:=min⁡(W∖J)x := \min(W \setminus J)、y:=min⁡(V∖J)y := \min(V \setminus J) がとれる。W<x=JW_{< x} = J を示す。w∈Ww \in W、w<xw < x なら xx の最小性から w∈Jw \in J。逆に j∈Jj \in J とすると、WW は全順序なので j<xj < x、j=xj = x、x<jx < j のいずれかであり、j=xj = x は x∉Jx \notin J に反し、x<jx < j なら JJ が始切片であることから x∈Jx \in J となって矛盾する。よって j<xj < x。同様に V<y=JV_{< y} = J である。gg-列の条件 (ii) より

x=g(W<x)=g(J)=g(V<y)=yx = g(W_{< x}) = g(J) = g(V_{< y}) = y

となる。すると J∪{x}J \cup \lbrace x \rbrace は W∩VW \cap V に含まれ、WW の始切片である(w<xw < x なら w∈W<x=Jw \in W_{< x} = J)。同様に VV の始切片でもある。JJ の定義から J∪{x}⊂JJ \cup \lbrace x \rbrace \subset J となり、x∉Jx \notin J に矛盾する。□\square

補題 6.11 すべての gg-列の和集合 W0W_0 は gg-列である。

証明. (a) 各 gg-列 WW について「x∈Wx \in W、z∈W0z \in W_0、z<xz < x ならば z∈Wz \in W」が成り立つ。実際 zz はある gg-列 VV に属し、補題 6.10 より V⊂WV \subset W ならば明らか、WW が VV の始切片ならば z∈Vz \in V、z<x∈Wz < x \in W より z∈Wz \in W。

(b) W0W_0 は全順序集合である。x,y∈W0x, y \in W_0 はそれぞれある gg-列 W,VW, V に属し、補題 6.10 よりどちらかが他方を含むので、x,yx, y は同じ gg-列に属し、比較可能である。

(c) W0W_0 は整列集合である。S⊂W0S \subset W_0 を空でない部分集合とし、s∈Ss \in S が属する gg-列 WW をとる。S∩WS \cap W は空でないので最小元 mm をもつ。t∈St \in S が t<mt < m を満たすなら、(a) より t∈Wt \in W となり mm の最小性に反する。W0W_0 は全順序なので、すべての t∈St \in S で m≤tm \leq t、すなわち m=min⁡Sm = \min S。

(d) 条件 (ii):x∈W0x \in W_0 が属する gg-列 WW をとると、(a) より (W0)<x=W<x(W_0)_{< x} = W_{< x} なので、g((W0)<x)=g(W<x)=xg((W_0)_{< x}) = g(W_{< x}) = x。□\square

定理 6.7 の証明. 補題 6.11 の W0W_0 は鎖なので、p:=g(W0)p := g(W_0) は W0W_0 のすべての元より真に大きく、特に p∉W0p \notin W_0 である。W1:=W0∪{p}W_1 := W_0 \cup \lbrace p \rbrace が gg-列であることを示す。pp は最大元として付け加えられているので W1W_1 は全順序であり、空でない S⊂W1S \subset W_1 は、S∩W0≠∅S \cap W_0 \neq \emptyset ならその最小元が、そうでなければ pp が最小元である。条件 (ii):x∈W0x \in W_0 なら (W1)<x=(W0)<x(W_1)_{< x} = (W_0)_{< x} なので g((W1)<x)=xg((W_1)_{< x}) = x、また (W1)<p=W0(W_1)_{< p} = W_0 なので g((W1)<p)=g(W0)=pg((W_1)_{< p}) = g(W_0) = p。よって W1W_1 は gg-列であり、W0W_0 の定義から W1⊂W0W_1 \subset W_0、すなわち p∈W0p \in W_0 となって矛盾する。したがって PP は極大元をもつ。□\square

ヒント

ツォルンの補題を使う証明はたいてい同じ型をしている。(1) 作りたいものの「部分的な候補」全体を PP とし、「拡張になっている」ことで順序を入れる(多くは ⊂\subset)。(2) PP が空でないことを確かめる。(3) 鎖の和集合が再び PP に属し、上界になることを確かめる。(4) 極大元 MM をとり、「MM が完成していなければ、さらに拡張できて極大性に反する」という背理法で MM が求めるものであることを示す。(3) で「和集合が PP に属する」ことの確認を忘れるのが典型的な誤りである。

6.3 整列可能定理

定理 6.12(整列可能定理, well-ordering theorem)選択公理を仮定する。任意の集合 XX 上に整列順序が存在する。

証明の方針. XX の部分集合 AA とその上の整列順序 ≤A\leq_A の組 (A,≤A)(A, \leq_A) 全体を PP とする。(A,≤A)⪯(B,≤B)(A, \leq_A) \preceq (B, \leq_B) を「A⊂BA \subset B、≤B\leq_B を AA に制限すると ≤A\leq_A になり、かつ AA は (B,≤B)(B, \leq_B) の始切片である」で定めると、PP は半順序集合になる。(∅,∅)∈P(\emptyset, \emptyset) \in P なので空でなく、鎖に対しては、和集合に順序をつなぎ合わせたものが再び整列集合になり(補題 6.11 の (c) と同じ議論)、上界を与える。ツォルンの補題により極大元 (M,≤M)(M, \leq_M) がある。M≠XM \neq X なら x∈X∖Mx \in X \setminus M を MM のすべての元より大きい元として付け加えると、より大きい元が得られて極大性に反する。よって M=XM = X である。細部の確認は省略する。□\square

R\mathbb{R} 上の整列順序は、通常の大小とはまったく異なる順序であり、具体的に書き下すことはできない。

定理 6.13 ZF のもとで、選択公理、ツォルンの補題、整列可能定理の三つは同値である。

証明の方針. 選択公理 ⇒\Rightarrow ツォルンの補題は定理 6.7、ツォルンの補題 ⇒\Rightarrow 整列可能定理は定理 6.12 の証明の方針で示した(そこでは選択公理をツォルンの補題を通してのみ使っている)。整列可能定理 ⇒\Rightarrow 選択公理は、⋃λXλ\bigcup_\lambda X_\lambda を整列し、各 XλX_\lambda の最小元を選べばよい(問題 6.4)。□\square

三つは同値だが、見た目の印象はまったく違う。「選択公理は明らかに正しく、整列可能定理は明らかに誤りで、ツォルンの補題はどちらともいえない」という冗談があるほどである。

6.4 応用:ベクトル空間の基底

ツォルンの補題の代表的な応用として、任意のベクトル空間が基底をもつことを示す。以下、KK を体(Q\mathbb{Q}、R\mathbb{R}、C\mathbb{C} など)、VV を KK 上のベクトル空間とする(定義は線形代数 第2章)。無限次元の場合も扱えるように、一次独立性と基底を次のように定める。

定義 6.14(一次独立・基底)

  1. S⊂VS \subset V が一次独立 (linearly independent) であるとは、SS の相異なる有限個の元 v1,…,vnv_1, \dots, v_n と c1,…,cn∈Kc_1, \dots, c_n \in K について、c1v1+⋯+cnvn=0c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n = 0 ならば c1=⋯=cn=0c_1 = \cdots = c_n = 0 となることをいう。
  2. SS の元の有限一次結合 c1v1+⋯+cnvnc_1 v_1 + \cdots + c_n v_n 全体を span⁡S\operatorname{span} S と書く(span⁡∅={0}\operatorname{span} \emptyset = \lbrace 0 \rbrace)。
  3. 一次独立で span⁡S=V\operatorname{span} S = V となる SS を VV の基底 (basis) という。

無限集合 SS の場合も、考えるのは有限個の和だけである(無限和は収束の概念がないと意味をもたない)。

補題 6.15 S⊂VS \subset V が一次独立で、v∈V∖span⁡Sv \in V \setminus \operatorname{span} S ならば、S∪{v}S \cup \lbrace v \rbrace も一次独立である。

証明. S∪{v}S \cup \lbrace v \rbrace の相異なる有限個の元の一次結合が 00 になったとする。vv を含まない場合は SS の一次独立性から係数はすべて 00 である。vv を含む場合、cv+c1v1+⋯+cnvn=0cv + c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n = 0(vi∈Sv_i \in S は相異なる)と書ける。c≠0c \neq 0 なら v=−c−1(c1v1+⋯+cnvn)∈span⁡Sv = -c^{-1}(c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n) \in \operatorname{span} S となり仮定に反するので、c=0c = 0。すると SS の一次独立性から c1=⋯=cn=0c_1 = \cdots = c_n = 0。□\square

定理 6.16(基底の存在)選択公理を仮定する。ベクトル空間 VV の任意の一次独立な部分集合 S0S_0 は、VV のある基底に含まれる。特に(S0=∅S_0 = \emptyset として)任意のベクトル空間は基底をもつ。

証明. P:={S⊂V∣S0⊂S, S は一次独立}P := \lbrace S \subset V \mid S_0 \subset S,\ S \text{ は一次独立} \rbrace に包含関係 ⊂\subset で順序を入れる。S0∈PS_0 \in P なので PP は空でない。

K⊂P\mathcal{K} \subset P を空でない鎖とし、U:=⋃KU := \bigcup \mathcal{K} とおく。U∈PU \in P を示す。S0⊂US_0 \subset U は明らかである。UU の相異なる有限個の元 v1,…,vnv_1, \dots, v_n をとると、各 viv_i はある Si∈KS_i \in \mathcal{K} に属する。K\mathcal{K} は鎖なので S1,…,SnS_1, \dots, S_n の中に他のすべてを含む最大のもの SkS_k があり(nn についての帰納法)、v1,…,vn∈Skv_1, \dots, v_n \in S_k である。SkS_k は一次独立なので、v1,…,vnv_1, \dots, v_n の一次結合が 00 なら係数はすべて 00 である。よって UU は一次独立で U∈PU \in P であり、UU は K\mathcal{K} の上界である。空な鎖に対しては S0S_0 が上界である。

ツォルンの補題により PP は極大元 BB をもつ。BB は一次独立で S0S_0 を含む。span⁡B=V\operatorname{span} B = V を示す。v∈V∖span⁡Bv \in V \setminus \operatorname{span} B があったとすると、補題 6.15 より B∪{v}∈PB \cup \lbrace v \rbrace \in P であり、B⊊B∪{v}B \subsetneq B \cup \lbrace v \rbrace となって BB の極大性に反する。よって BB は基底である。□\square

有限次元の場合は、ベクトルを一つずつ付け加えていけば有限回で終わるので、ツォルンの補題は要らない。ツォルンの補題は、この「一つずつ付け加える」操作を無限の先まで続けることの代わりをしている。

例 6.17 R\mathbb{R} は Q\mathbb{Q} 上のベクトル空間とみなせる(スカラー倍は有理数倍)。定理 6.16 より R\mathbb{R} の Q\mathbb{Q} 上の基底 BB(ハメル基底, Hamel basis)が存在し、すべての実数は BB の元の有理数係数の有限一次結合としてただ一通りに表せる。BB は非可算である(問題 6.7)。しかし、BB の具体的な例を与えることは誰にもできない。実際、選択公理を仮定しない理論ではハメル基底の存在は証明できないことが知られている。ハメル基底を使うと、f(x+y)=f(x)+f(y)f(x + y) = f(x) + f(y) を満たすが連続でない関数 f ⁣:R→Rf\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R} が作れる(問題 6.8)。

注意 6.18(他の応用)ツォルンの補題は次のような定理の証明で使われる。いずれもそれぞれの科目で扱う。

6.5 選択公理を使うときの注意

選択公理は「存在する」とだけ主張し、存在するものを具体的に与えない。そのため、直観に反する対象の存在も導かれる。

例 6.19(ヴィタリ集合・概略)R\mathbb{R} 上の同値関係 x∼y  ⟺  x−y∈Qx \sim y \iff x - y \in \mathbb{Q} を考える。各同値類 x+Qx + \mathbb{Q} は [0,1][0, 1] と交わるので、選択公理により、各同値類からちょうど一つずつ [0,1][0, 1] の元を選んだ集合 V⊂[0,1]V \subset [0, 1] がとれる。q∈Q∩[−1,1]q \in \mathbb{Q} \cap [-1, 1] に対し Vq:={v+q∣v∈V}V_q := \lbrace v + q \mid v \in V \rbrace とおくと、次が成り立つ。

  • q≠q′q \neq q' なら Vq∩Vq′=∅V_q \cap V_{q'} = \emptyset(v+q=v′+q′v + q = v' + q' なら v∼v′v \sim v' なので v=v′v = v'、よって q=q′q = q')。
  • [0,1]⊂⋃qVq⊂[−1,2][0, 1] \subset \bigcup_q V_q \subset [-1, 2](x∈[0,1]x \in [0, 1] と同値な VV の元 vv について x−v∈Q∩[−1,1]x - v \in \mathbb{Q} \cap [-1, 1])。

もし R\mathbb{R} のすべての部分集合に、平行移動で不変で、可算個の交わらない集合の和について加法的で、区間には長さを与えるような「測度」mm が定義できたとすると、m(Vq)=m(V)m(V_q) = m(V) であり、上の包含から 1≤∑qm(V)≤31 \leq \sum_q m(V) \leq 3 となる。Q∩[−1,1]\mathbb{Q} \cap [-1, 1] は可算無限集合なので、左辺の和は m(V)=0m(V) = 0 なら 00、m(V)>0m(V) > 0 なら ∞\infty であり、どちらでも矛盾する。したがって VV には「長さ」を矛盾なく与えられない。このため測度論では、長さ(ルベーグ測度)を定義する集合を可測集合に限る(測度と積分 第2章)。

注意 6.20(バナッハ–タルスキーの定理と独立性)3 次元空間では、さらに驚くべきことが起こる。バナッハ–タルスキーの定理によれば、選択公理のもとで、R3\mathbb{R}^3 の球体を有限個(5 個で足りる)の部分集合に分割し、それらを回転と平行移動だけで動かして組み直すと、もとと同じ大きさの球体が二つできる。分割の各部分は可測でない、非常に複雑な集合であり、「体積が増えた」わけではない。これは体積をすべての部分集合に定義することが不可能であることを示している。

こうした帰結があるにもかかわらず、選択公理は他の公理と矛盾しない。ゲーデルは ZF が無矛盾なら ZFC も無矛盾であることを(1938 年頃)、コーエンは ZF が無矛盾なら選択公理の否定を加えた体系も無矛盾であることを(1963 年)示した。つまり選択公理は ZF から独立である。現代数学の大部分は ZFC の上で展開されており、本教材でも選択公理を自由に使う。ただし、選択公理を本質的に使う箇所ではそのことを明記する。

まとめ

  • 選択公理:空でない集合の任意の族の直積は空でない。無限個の選択を規則なしに行うときに必要になる。
  • 選択公理は「選択関数の存在」「全射が右逆写像をもつ」と同値である。解析学では可算選択公理・従属選択公理で足りることが多い。
  • ツォルンの補題:任意の鎖が上界をもつ半順序集合は極大元をもつ。証明では選択公理で「次の元」を選ぶ関数 gg を固定し、gg-列の和集合という最長の列を作って矛盾を導く。
  • 選択公理・ツォルンの補題・整列可能定理は ZF のもとで同値である。
  • ツォルンの補題の典型的な使い方:部分的な候補を包含で順序づけ、鎖の和集合が上界になることを確かめ、極大元が完成品であることを背理法で示す。任意のベクトル空間の基底の存在はその代表例である。
  • 選択公理からは非可測集合やバナッハ–タルスキーの定理など、直観に反する帰結も導かれる。選択公理は ZF から独立である。

演習問題

問題 6.1 ★ 選択公理を使わずに、有限個の空でない集合 X1,…,XnX_1, \dots, X_n の直積 X1×⋯×XnX_1 \times \cdots \times X_n が空でないことを示せ。

解答

nn についての帰納法で示す。n=1n = 1 のとき、X1≠∅X_1 \neq \emptyset より元 x1x_1 が一つとれる(これは「空でない」ということの意味そのものであり、公理は要らない)。X1×⋯×XnX_1 \times \cdots \times X_n が元 (x1,…,xn)(x_1, \dots, x_n) をもつとすると、Xn+1≠∅X_{n+1} \neq \emptyset から元 xn+1x_{n+1} をとって (x1,…,xn+1)(x_1, \dots, x_{n+1}) が直積の元になる。各段階で一つの集合から一つ元をとるだけなので、選択公理は使っていない。

問題 6.2 ★ 次の選択のうち、選択公理を使わずに行えるものはどれか。理由とともに答えよ。 (a) N\mathbb{N} の空でない各部分集合から一つずつ元を選ぶ。 (b) R\mathbb{R} の空でない各開区間から一つずつ元を選ぶ。 (c) R/Z\mathbb{R}/\mathbb{Z}(x−y∈Zx - y \in \mathbb{Z} で同一視)の各同値類から一つずつ元を選ぶ。 (d) R/Q\mathbb{R}/\mathbb{Q}(x−y∈Qx - y \in \mathbb{Q} で同一視)の各同値類から一つずつ元を選ぶ。

解答

(a) 可能。最小元を選べばよい。(b) 可能。(a,b)(a, b) なら中点 (a+b)/2(a + b)/2、(a,∞)(a, \infty) なら a+1a + 1、(−∞,b)(-\infty, b) なら b−1b - 1、R\mathbb{R} なら 00 を選べばよい。(c) 可能。各同値類は [0,1)[0, 1) の元をちょうど一つ含むので(問題 4.6)、それを選べばよい(x↦x−⌊x⌋x \mapsto x - \lfloor x \rfloor)。(d) 選択公理なしには行えない。選び方を指定する規則が知られていないだけでなく、ZF だけからはこのような選択が可能であることを証明できない(ZF が無矛盾ならば)ことが知られている。例 6.19 のヴィタリ集合の構成に選択公理を使うのはこのためである。

問題 6.3 ★ 次の半順序集合について、上界をもたない鎖を一つ挙げ、極大元が存在するかどうかを答えよ。 (a) ((0,1),≤)((0, 1), \leq) (b) N\mathbb{N} の有限部分集合全体に ⊂\subset で順序を入れたもの

解答

(a) 鎖 (0,1)(0, 1) 自身は上界をもたない(上界 u∈(0,1)u \in (0, 1) があれば (u+1)/2(u + 1)/2 が uu より大きい元になる)。極大元も存在しない(同じ理由)。 (b) 鎖 {[n]∣n∈N}\lbrace [n] \mid n \in \mathbb{N} \rbrace の上界はすべての [n][n] を含むので N\mathbb{N} を含み、有限集合でない。極大元も存在しない:有限集合 FF に対し、FF に属さない自然数 mm(たとえば FF の最大元より大きい数、F=∅F = \emptyset なら 11)をとれば F⊊F∪{m}F \subsetneq F \cup \lbrace m \rbrace。

問題 6.4 ★★ 整列可能定理から選択公理を導け。

解答

(Xλ)λ∈Λ(X_\lambda)_{\lambda \in \Lambda} を空でない集合の族とし、X:=⋃λXλX := \bigcup_\lambda X_\lambda 上の整列順序 ≤\leq をとる。各 XλX_\lambda は XX の空でない部分集合なので最小元 min⁡Xλ\min X_\lambda をもつ。λ↦min⁡Xλ\lambda \mapsto \min X_\lambda は直積 ∏λXλ\prod_\lambda X_\lambda の元である。「最小元をとる」という規則で選んでいるので、ここで新たな選択は必要ない。

問題 6.5 ★★(ハウスドルフの極大原理)ツォルンの補題を用いて、半順序集合 (P,≤)(P, \leq) の任意の鎖 C0C_0 は、包含関係について極大な鎖に含まれることを示せ。

解答

C0C_0 を含む鎖全体の集合 Q\mathcal{Q} に ⊂\subset で順序を入れる。C0∈QC_0 \in \mathcal{Q} なので空でない。K⊂Q\mathcal{K} \subset \mathcal{Q} を空でない鎖とし、U:=⋃KU := \bigcup \mathcal{K} とおく。x,y∈Ux, y \in U ならそれぞれ C1,C2∈KC_1, C_2 \in \mathcal{K} に属し、K\mathcal{K} は鎖なので一方が他方を含む。よって x,yx, y は同じ鎖に属し比較可能であり、UU は C0C_0 を含む鎖、すなわち U∈QU \in \mathcal{Q} で、K\mathcal{K} の上界である(空な鎖の上界は C0C_0)。ツォルンの補題より Q\mathcal{Q} は極大元をもち、それが C0C_0 を含む極大な鎖である。

問題 6.6 ★★ ベクトル空間 VV の部分集合 SS が span⁡S=V\operatorname{span} S = V を満たすとき、SS は VV の基底を含むことを示せ。

解答

P:={T⊂S∣T は一次独立}P := \lbrace T \subset S \mid T \text{ は一次独立} \rbrace に ⊂\subset で順序を入れる。∅∈P\emptyset \in P であり、鎖の和集合は定理 6.16 の証明と同じ理由で一次独立で、SS に含まれるので PP に属する。ツォルンの補題より極大元 BB がある。S⊂span⁡BS \subset \operatorname{span} B を示せば V=span⁡S⊂span⁡BV = \operatorname{span} S \subset \operatorname{span} B となり、BB は基底である。s∈S∖span⁡Bs \in S \setminus \operatorname{span} B があれば、補題 6.15 より B∪{s}B \cup \lbrace s \rbrace は一次独立で SS に含まれ、BB の極大性に反する。

問題 6.7 ★★ 例 6.17 のハメル基底 BB は非可算であることを示せ。

解答

BB が高々可算であると仮定する。BB が有限で B={b1,…,bn}B = \lbrace b_1, \dots, b_n \rbrace なら、Qn→R\mathbb{Q}^n \to \mathbb{R}、(q1,…,qn)↦∑qibi(q_1, \dots, q_n) \mapsto \sum q_i b_i は全射なので、R\mathbb{R} は高々可算になる(系 5.13、系 5.11 (3))。B={b1,b2,… }B = \lbrace b_1, b_2, \dots \rbrace が可算なら、R=⋃nspan⁡{b1,…,bn}\mathbb{R} = \bigcup_{n} \operatorname{span} \lbrace b_1, \dots, b_n \rbrace であり、各 span⁡{b1,…,bn}\operatorname{span} \lbrace b_1, \dots, b_n \rbrace は上と同じ全射の像なので可算である。その番号づけは BB の番号づけと Qn\mathbb{Q}^n の具体的な番号づけから決まるので、選択公理を使わずに R\mathbb{R} が高々可算であることが従う。いずれも定理 5.18 に反する。

問題 6.8 ★★★ f(x+y)=f(x)+f(y)f(x + y) = f(x) + f(y)(x,y∈Rx, y \in \mathbb{R})を満たすが、どんな定数 cc についても f(x)=cxf(x) = cx とは書けない関数 f ⁣:R→Rf\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R} が存在することを示せ。また、このような ff は連続でないことを示せ。

解答

定理 6.16 より、一次独立な集合 {1}\lbrace 1 \rbrace を含む R\mathbb{R} の Q\mathbb{Q} 上の基底 BB がとれる。問題 6.7 より BB は 11 以外の元 b1b_1 をもつ。各 x∈Rx \in \mathbb{R} は x=∑b∈Bqbbx = \sum_{b \in B} q_b b(有限個の bb を除いて qb=0q_b = 0)とただ一通りに書けるので、f(x):=q1f(x) := q_1(b=1b = 1 の係数)と定めると、表し方の一意性から f(x+y)=f(x)+f(y)f(x + y) = f(x) + f(y) である。f(1)=1f(1) = 1、f(b1)=0f(b_1) = 0 なので、f(x)=cxf(x) = cx なら c=1c = 1 かつ b1=0b_1 = 0 となり矛盾する。

連続でないこと:加法性から f(0)=0f(0) = 0、f(nx)=nf(x)f(nx) = nf(x)(n∈Zn \in \mathbb{Z})、さらに f(x)=nf(x/n)f(x) = n f(x/n) より f(q)=qf(1)f(q) = q f(1)(q∈Qq \in \mathbb{Q})がわかる。ff が連続なら、任意の xx に収束する有理数列 qnq_n をとって f(x)=lim⁡f(qn)=lim⁡qnf(1)=xf(1)f(x) = \lim f(q_n) = \lim q_n f(1) = x f(1) となり、f(x)=cxf(x) = cx の形になってしまう。

問題 6.9 ★★★(濃度の比較可能性)選択公理を仮定する。任意の集合 X,YX, Y について、∣X∣≤∣Y∣\lvert X \rvert \leq \lvert Y \rvert または ∣Y∣≤∣X∣\lvert Y \rvert \leq \lvert X \rvert が成り立つことを、ツォルンの補題を用いて示せ。

解答

X×YX \times Y の部分集合 GG で、ある A⊂XA \subset X からの単射 A→YA \to Y のグラフになっているもの全体を PP とし、⊂\subset で順序を入れる。空写像のグラフ ∅\emptyset が PP に属するので空でない。K⊂P\mathcal{K} \subset P を空でない鎖とし、H:=⋃KH := \bigcup \mathcal{K} とおく。(x,y),(x,y′)∈H(x, y), (x, y') \in H ならそれらはある G1,G2∈KG_1, G_2 \in \mathcal{K} に属し、一方が他方を含むので同じグラフに属し、y=y′y = y'。同様に (x,y),(x′,y)∈H(x, y), (x', y) \in H なら x=x′x = x'。よって HH は単射のグラフで PP に属し、K\mathcal{K} の上界である。

ツォルンの補題より極大元、すなわち単射 f ⁣:A→Yf\colon A \to Y(A⊂XA \subset X)のグラフで極大なものがある。A≠XA \neq X かつ f(A)≠Yf(A) \neq Y と仮定すると、x∈X∖Ax \in X \setminus A、y∈Y∖f(A)y \in Y \setminus f(A) をとって ff を x↦yx \mapsto y で拡張したものも単射であり、極大性に反する。よって A=XA = X(このとき f ⁣:X→Yf\colon X \to Y は単射で ∣X∣≤∣Y∣\lvert X \rvert \leq \lvert Y \rvert)または f(A)=Yf(A) = Y(このとき f−1 ⁣:Y→A⊂Xf^{-1}\colon Y \to A \subset X は単射で ∣Y∣≤∣X∣\lvert Y \rvert \leq \lvert X \rvert)である。

問題 6.10 ★★★ 選択公理を仮定する。(a) 任意の無限集合 XX は可算な部分集合を含むことを示せ。(b) XX が無限集合であることと、XX がある真部分集合と対等であることは同値であることを示せ。

解答

(a) XX 上の選択関数 cc をとる(定理 6.4)。x1:=c(X)x_1 := c(X)、xn+1:=c(X∖{x1,…,xn})x_{n+1} := c(X \setminus \lbrace x_1, \dots, x_n \rbrace) と帰納的に定める。{x1,…,xn}\lbrace x_1, \dots, x_n \rbrace は有限集合で XX は無限集合なので、差集合は空でなく、この定義は意味をもつ。作り方から xn+1∉{x1,…,xn}x_{n+1} \notin \lbrace x_1, \dots, x_n \rbrace なので n↦xnn \mapsto x_n は単射であり、D:={xn∣n∈N}D := \lbrace x_n \mid n \in \mathbb{N} \rbrace は可算な部分集合である。

(b) (⇒\Rightarrow) (a) の DD を使い、h(xn):=xn+1h(x_n) := x_{n+1}、x∉Dx \notin D では h(x):=xh(x) := x と定める。hh は単射で、像は X∖{x1}X \setminus \lbrace x_1 \rbrace なので、XX は真部分集合 X∖{x1}X \setminus \lbrace x_1 \rbrace と対等である。(⇐\Leftarrow) 対偶を示す。XX が有限集合で X∼Y⊊XX \sim Y \subsetneq X なら、全単射 X→YX \to Y と包含写像の合成は単射 X→XX \to X だが全射でないので、問題 5.7 に反する。

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