Lemma数学ロードマップ

04 代数学(群・環・体) · 第 5 章

環とイデアル

目安 12〜16 時間定理など 19演習 10 問

この章の目標

  • 環・整域・体の定義を理解し、Z\mathbb{Z}、多項式環、行列環、関数環、ガウス整数、四元数で具体的に計算できる
  • イデアルと剰余環を扱い、環の準同型定理を証明して剰余環を具体的に決定できる
  • 素イデアル・極大イデアルを剰余環によって特徴づけ、極大イデアルの存在をツォルンの補題で証明できる
  • 環の中国剰余定理・分数体・多項式環の代入・標数と素体を理解する

前提:第1章(整数と合同式)、第2章(剰余群と準同型定理)、00-foundations 第6章(ツォルンの補題)

群は 1 つの演算をもつ集合であった。整数・多項式・行列には足し算と掛け算の 2 つの演算があり、分配法則で結びついている。この構造を抽象化したものが環である。

環論の中心的な概念はイデアルである。Z\mathbb{Z} の「nn の倍数全体」nZn\mathbb{Z} は、足し算で閉じているだけでなく、任意の整数を掛けても外に出ない。この性質をもつ部分集合がイデアルであり、イデアルで割ることで剰余環 Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} のような新しい環が作られる。19 世紀にクンマーとデデキントは、Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] のような環で素因数分解の一意性が崩れる現象を、「数」の代わりにイデアルを考えることで救った(第6章、代数的整数論 第2章)。

5.1 環の定義と例

定義 5.1(環, ring)集合 RR と 2 つの演算 ++(加法)、⋅\cdot(乗法)の組が次をみたすとき、RR を環という。

  1. (R,+)(R, +) は可換群である。その単位元を 00、aa の逆元を −a-a と書く。
  2. 乗法は結合法則 (ab)c=a(bc)(ab)c = a(bc) をみたし、単位元 11(1a=a1=a1a = a1 = a)をもつ。
  3. 分配法則 a(b+c)=ab+aca(b + c) = ab + ac, (a+b)c=ac+bc(a + b)c = ac + bc が成り立つ。

任意の a,ba, b について ab=baab = ba が成り立つ環を可換環 (commutative ring) という。

本教材では環は必ず乗法の単位元 11 をもつとする(NOTATION)。{0}\lbrace 0 \rbrace も 1=01 = 0 である環とみなし、零環 (zero ring) という。

命題 5.2 環 RR の任意の元 a,ba, b について

  1. 0a=a0=00a = a0 = 0
  2. (−a)b=a(−b)=−(ab)(-a)b = a(-b) = -(ab)、(−a)(−b)=ab(-a)(-b) = ab、特に (−1)a=−a(-1)a = -a
  3. 1=01 = 0 ならば R={0}R = \lbrace 0 \rbrace

証明. (1) 0a=(0+0)a=0a+0a0a = (0 + 0)a = 0a + 0a の両辺に −0a-0a を加えて 0a=00a = 0。a0a0 も同様。(2) ab+(−a)b=(a+(−a))b=0b=0ab + (-a)b = (a + (-a))b = 0b = 0 より (−a)b=−(ab)(-a)b = -(ab)。a(−b)a(-b) も同様で、(−a)(−b)=−(a(−b))=−(−(ab))=ab(-a)(-b) = -(a(-b)) = -(-(ab)) = ab。(3) a=1a=0a=0a = 1a = 0a = 0。□\square

定義 5.3(部分環)環 RR の部分集合 SS が 11 を含み、減法と乗法で閉じているとき、SS を RR の部分環 (subring) という。

例 5.4(環の例)

  1. Z,Q,R,C\mathbb{Z}, \mathbb{Q}, \mathbb{R}, \mathbb{C} は可換環であり、Z⊂Q⊂R⊂C\mathbb{Z} \subset \mathbb{Q} \subset \mathbb{R} \subset \mathbb{C} は部分環の列である。Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} も可換環である。
  2. 多項式環 (polynomial ring):可換環 RR に対し、RR 係数の xx の多項式 f=a0+a1x+⋯+anxnf = a_0 + a_1x + \cdots + a_nx^n 全体 R[x]R[x] は通常の和と積
(∑iaixi)(∑jbjxj)=∑k(∑i+j=kaibj)xk\Bigl(\sum_i a_ix^i\Bigr)\Bigl(\sum_j b_jx^j\Bigr) = \sum_k \Bigl(\sum_{i+j=k} a_ib_j\Bigr)x^k

で可換環になる(厳密な定義は 5.9 節)。an≠0a_n \neq 0 のとき nn を ff の次数 (degree) deg⁡f\deg f、ana_n を最高次係数 (leading coefficient) といい、an=1a_n = 1 のとき ff をモニック (monic) という。deg⁡0=−∞\deg 0 = -\infty と約束する。繰り返して多変数多項式環 R[x1,…,xn]=R[x1,…,xn−1][xn]R[x_1, \dots, x_n] = R[x_1, \dots, x_{n-1}][x_n] が定まる。 3. 行列環:環 RR に対し RR 成分の nn 次正方行列全体 M⁡n(R)\operatorname{M}_n(R) は行列の和と積で環になる。n≥2n \geq 2 なら可換でない:(i,j)(i, j) 成分だけが 11 で他が 00 の行列を EijE_{ij} とすると E12E21=E11≠E22=E21E12E_{12}E_{21} = E_{11} \neq E_{22} = E_{21}E_{12}。 4. 関数環:集合 XX から環 RR への写像全体 RXR^X は、各点ごとの和と積 (f+g)(x)=f(x)+g(x)(f + g)(x) = f(x) + g(x), (fg)(x)=f(x)g(x)(fg)(x) = f(x)g(x) で環になる。[0,1][0, 1] 上の実数値連続関数全体 C([0,1])C([0, 1]) はその部分環である。 5. ガウス整数環 (ring of Gaussian integers):Z[i]={a+bi∣a,b∈Z}\mathbb{Z}[i] = \lbrace a + bi \mid a, b \in \mathbb{Z} \rbrace は C\mathbb{C} の部分環である((a+bi)(c+di)=(ac−bd)+(ad+bc)i(a + bi)(c + di) = (ac - bd) + (ad + bc)i)。同様に Z[−5]={a+b−5∣a,b∈Z}\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] = \lbrace a + b\sqrt{-5} \mid a, b \in \mathbb{Z} \rbrace, Z[2]\mathbb{Z}[\sqrt{2}] なども C\mathbb{C} の部分環である。 6. 四元数環 (quaternions):H={a+bi+cj+dk∣a,b,c,d∈R}\mathbb{H} = \lbrace a + bi + cj + dk \mid a, b, c, d \in \mathbb{R} \rbrace に、第2章 例 2.8 の関係式 i2=j2=k2=−1i^2 = j^2 = k^2 = -1, ij=−ji=kij = -ji = k, jk=−kj=ijk = -kj = i, ki=−ik=jki = -ik = j と分配法則で積を定めたものは可換でない環である(第2章と同様に M⁡2(C)\operatorname{M}_2(\mathbb{C}) の部分環として実現すれば環の公理が従う)。q=a+bi+cj+dkq = a + bi + cj + dk に対し q‾=a−bi−cj−dk\overline{q} = a - bi - cj - dk とおくと、展開して qq‾=q‾q=a2+b2+c2+d2q\overline{q} = \overline{q}q = a^2 + b^2 + c^2 + d^2 が確かめられる。 7. 直積:環 R,SR, S に対し R×SR \times S は成分ごとの演算で環になる(単位元は (1,1)(1, 1))。 8. 部分環でない例:2Z2\mathbb{Z} は加法と乗法で閉じているが 11 を含まないので、本教材の約束では Z\mathbb{Z} の部分環ではない。

5.2 単元・零因子・整域・体

定義 5.5 RR を環とする。

  1. ab=ba=1ab = ba = 1 となる b∈Rb \in R が存在する aa を単元(可逆元, unit)という。単元全体 R×R^\times は乗法で群をなし、単元群 (group of units) という。
  2. a≠0a \neq 0 で、ab=0ab = 0 または ba=0ba = 0 となる b≠0b \neq 0 が存在するとき、aa を零因子 (zero divisor) という。an=0a^n = 0 となる n∈Nn \in \mathbb{N} が存在する aa を冪零元 (nilpotent element) という。
  3. 1≠01 \neq 0 で零因子をもたない可換環を整域 (integral domain) という。
  4. 1≠01 \neq 0 で 00 以外のすべての元が単元である環を斜体(可除環, division ring)といい、可換な斜体を体 (field) という。

整域では簡約律が成り立つ:a≠0a \neq 0, ab=acab = ac なら a(b−c)=0a(b - c) = 0 より b=cb = c。

命題 5.6

  1. 体は整域である。
  2. 有限な整域は体である。

証明. (1) a≠0a \neq 0, ab=0ab = 0 なら b=a−1ab=0b = a^{-1}ab = 0。(2) RR を有限整域、a≠0a \neq 0 とする。写像 R→RR \to R, x↦axx \mapsto ax は簡約律により単射で、RR は有限なので全射。よって ax=1ax = 1 となる xx があり、可換性より aa は単元。□\square

例 5.7

  1. Z\mathbb{Z} は整域だが体でなく、Z×={±1}\mathbb{Z}^\times = \lbrace \pm 1 \rbrace。Q,R,C\mathbb{Q}, \mathbb{R}, \mathbb{C} は体。
  2. Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} が整域   ⟺  \iff 体   ⟺  \iff nn が素数(第1章 系 1.24)。Z/6Z\mathbb{Z}/6\mathbb{Z} では 2‾⋅3‾=0‾\overline{2} \cdot \overline{3} = \overline{0}。Z/8Z\mathbb{Z}/8\mathbb{Z} では 2‾3=0‾\overline{2}^3 = \overline{0} で 2‾\overline{2} は冪零元。
  3. RR が整域なら R[x]R[x] も整域で、deg⁡(fg)=deg⁡f+deg⁡g\deg(fg) = \deg f + \deg g、R[x]×=R×R[x]^\times = R^\times である。実際、f,gf, g の最高次係数 a,ba, b について ab≠0ab \neq 0 なので fgfg の最高次係数は abab である。fg=1fg = 1 なら deg⁡f+deg⁡g=0\deg f + \deg g = 0 で f,gf, g は定数。
  4. 整域でない係数環では (3) は成り立たない:(Z/4Z)[x](\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})[x] で (1+2x)2=1+4x+4x2=1(1 + 2x)^2 = 1 + 4x + 4x^2 = 1 なので、1+2x1 + 2x は 1 次の単元である。
  5. M⁡n(K)\operatorname{M}_n(K)(KK は体, n≥2n \geq 2)では E11E22=0E_{11}E_{22} = 0 で、単元群は GL⁡n(K)\operatorname{GL}_n(K)。
  6. C([0,1])C([0, 1]) で f(x)=max⁡(0,12−x)f(x) = \max(0, \frac{1}{2} - x), g(x)=max⁡(0,x−12)g(x) = \max(0, x - \frac{1}{2}) とすると fg=0fg = 0 なので零因子をもつ。単元は零点をもたない関数である。
  7. Z[i]\mathbb{Z}[i] は C\mathbb{C} の部分環なので整域である。ノルム N(a+bi)=a2+b2=∣a+bi∣2N(a + bi) = a^2 + b^2 = \lvert a + bi \rvert^2 は乗法的(N(αβ)=N(α)N(β)N(\alpha\beta) = N(\alpha)N(\beta))であり、α\alpha が単元なら N(α)N(α−1)=1N(\alpha)N(\alpha^{-1}) = 1 から N(α)=1N(\alpha) = 1、よって Z[i]×={±1,±i}\mathbb{Z}[i]^\times = \lbrace \pm 1, \pm i \rbrace。
  8. H\mathbb{H} は斜体だが体でない:q≠0q \neq 0 なら q−1=q‾/(a2+b2+c2+d2)q^{-1} = \overline{q}/(a^2 + b^2 + c^2 + d^2)。
  9. R×SR \times S(R,S≠0R, S \neq 0)は (1,0)(0,1)=(0,0)(1, 0)(0, 1) = (0, 0) なので整域でない。
  10. Q(2)={a+b2∣a,b∈Q}\mathbb{Q}(\sqrt{2}) = \lbrace a + b\sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace は体である:(a,b)≠(0,0)(a, b) \neq (0, 0) なら 2\sqrt{2} の無理性から a2−2b2≠0a^2 - 2b^2 \neq 0 で、(a+b2)−1=(a−b2)/(a2−2b2)(a + b\sqrt{2})^{-1} = (a - b\sqrt{2})/(a^2 - 2b^2)。

以下、特に断らない限り環は可換環とする。

5.3 イデアルと剰余環

剰余群 G/NG/N を作るには NN が正規部分群である必要があった。剰余環 R/IR/I で積 (a+I)(b+I)=ab+I(a + I)(b + I) = ab + I が well-defined であるための条件がイデアルである。

定義 5.8(イデアル, ideal)可換環 RR の部分集合 II が

  1. II は (R,+)(R, +) の部分群である
  2. 任意の r∈Rr \in R, a∈Ia \in I について ra∈Ira \in I

をみたすとき、II を RR のイデアルという。非可換環では、2 の代わりに ra∈Ira \in I(左イデアル)、ar∈Iar \in I(右イデアル)、両方(両側イデアル)を考える。

{0}\lbrace 0 \rbrace((0)(0) とも書く)と RR はイデアルである。I=R  ⟺  1∈I  ⟺  II = R \iff 1 \in I \iff I が単元を含む(u∈Iu \in I が単元なら 1=u−1u∈I1 = u^{-1}u \in I)。I≠RI \neq R となるイデアルを真のイデアルという。

a1,…,an∈Ra_1, \dots, a_n \in R で生成されるイデアルを

(a1,…,an)=a1R+⋯+anR={r1a1+⋯+rnan∣ri∈R}(a_1, \dots, a_n) = a_1R + \cdots + a_nR = \lbrace r_1a_1 + \cdots + r_na_n \mid r_i \in R \rbrace

と書く。1 つの元で生成されるイデアル (a)=aR(a) = aR を単項イデアル (principal ideal) という。イデアル I,JI, J に対し、I+J={a+b∣a∈I,b∈J}I + J = \lbrace a + b \mid a \in I, b \in J \rbrace、I∩JI \cap J、IJIJ(積 abab(a∈Ia \in I, b∈Jb \in J)の有限和全体)もイデアルであり、IJ⊂I∩JIJ \subset I \cap J である。

命題 5.9 1≠01 \neq 0 の可換環 RR が体であるための必要十分条件は、RR のイデアルが (0)(0) と RR だけであることである。

証明. 体なら、(0)(0) でないイデアルは 00 でない元、すなわち単元を含むので RR に等しい。逆に a≠0a \neq 0 なら (a)≠(0)(a) \neq (0) なので (a)=R∋1(a) = R \ni 1、すなわち ab=1ab = 1 となる bb がある。□\square

例 5.10

  1. Z\mathbb{Z} のイデアルは nZ=(n)n\mathbb{Z} = (n)(n≥0n \geq 0)に限る。イデアルは加法部分群であり、Z\mathbb{Z} の部分群は nZn\mathbb{Z} の形に限る(第2章 定理 2.23)からである。(m)+(n)=(gcd⁡(m,n))(m) + (n) = (\gcd(m, n)), (m)∩(n)=(lcm⁡(m,n))(m) \cap (n) = (\operatorname{lcm}(m, n)), (m)(n)=(mn)(m)(n) = (mn)。
  2. Z[x]\mathbb{Z}[x] で (2,x)={2f+xg}(2, x) = \lbrace 2f + xg \rbrace は定数項が偶数の多項式全体である。これは単項イデアルでない(問題 5.2)。
  3. C([0,1])C([0, 1]) で mc={f∣f(c)=0}\mathfrak{m}_c = \lbrace f \mid f(c) = 0 \rbrace(c∈[0,1]c \in [0, 1])はイデアルである。
  4. M⁡n(K)\operatorname{M}_n(K) の両側イデアルは 00 と全体だけである(問題 5.7)。一方、第 1 列以外が 00 の行列全体は左イデアルである。

定理 5.11(剰余環)II を可換環 RR のイデアルとする。加法群としての剰余群 R/IR/I に、積 (a+I)(b+I):=ab+I(a + I)(b + I) := ab + I を定めると well-defined であり、R/IR/I は可換環になる。これを剰余環(商環, quotient ring)という。自然な射影 π ⁣:R→R/I\pi\colon R \to R/I, a↦a+Ia \mapsto a + I は環準同型(定義 5.12)である。

証明. a′=a+xa' = a + x, b′=b+yb' = b + y(x,y∈Ix, y \in I)なら a′b′=ab+(ay+xb+xy)a'b' = ab + (ay + xb + xy) で、括弧内はイデアルの性質 2 により II に属する。よって a′b′+I=ab+Ia'b' + I = ab + I。環の公理は RR の公理から直ちに従う。□\square

a+Ia + I を a‾\overline{a} と書き、a−b∈Ia - b \in I を a≡b(modI)a \equiv b \pmod{I} と書くことが多い。

5.4 環準同型と準同型定理

定義 5.12(環準同型, ring homomorphism)環 R,SR, S の間の写像 f ⁣:R→Sf\colon R \to S が

f(a+b)=f(a)+f(b),f(ab)=f(a)f(b),f(1)=1f(a + b) = f(a) + f(b), \qquad f(ab) = f(a)f(b), \qquad f(1) = 1

をみたすとき、ff を環準同型写像という。全単射な環準同型を同型写像といい、同型写像が存在するとき R≅SR \cong S と書く。

Ker⁡f=f−1(0)\operatorname{Ker} f = f^{-1}(0) は RR のイデアルであり(a∈Ker⁡fa \in \operatorname{Ker} f なら f(ra)=f(r)⋅0=0f(ra) = f(r) \cdot 0 = 0)、Im⁡f\operatorname{Im} f は SS の部分環である。群の場合と同様に、ff が単射   ⟺  Ker⁡f=(0)\iff \operatorname{Ker} f = (0)。

例 5.13

  1. 自然な射影 Z→Z/nZ\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}。複素共役 C→C\mathbb{C} \to \mathbb{C} は同型写像である。
  2. 任意の環 RR に対し、環準同型 Z→R\mathbb{Z} \to R はただ一つ存在する:f(1)=1f(1) = 1 から f(n)=n⋅1=1+⋯+1f(n) = n \cdot 1 = 1 + \cdots + 1(nn 個)と決まる。
  3. 代入:a∈Ra \in R に対し R[x]→RR[x] \to R, f↦f(a)f \mapsto f(a) は環準同型である(5.9 節)。R[x]→C\mathbb{R}[x] \to \mathbb{C}, f↦f(i)f \mapsto f(i) も環準同型。
  4. 準同型でない例:Z→Z\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}, n↦2nn \mapsto 2n は加法を保つが積を保たない。Z/6Z→Z/6Z\mathbb{Z}/6\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/6\mathbb{Z}, x↦3xx \mapsto 3x は和と積を保つ(9≡3(mod6)9 \equiv 3 \pmod 6 による)が、11 を 33 に写すので本教材の約束では環準同型でない。

定理 5.14(環の準同型定理)f ⁣:R→Sf\colon R \to S を環準同型とすると、f‾ ⁣:R/Ker⁡f→Im⁡f\overline{f}\colon R/\operatorname{Ker} f \to \operatorname{Im} f, a+Ker⁡f↦f(a)a + \operatorname{Ker} f \mapsto f(a) は well-defined な環の同型写像である。

証明. 加法群としての第 1 同型定理(第2章 定理 2.41)により、f‾\overline{f} は well-defined な加法群の同型写像である。さらに f‾((a+I)(b+I))=f‾(ab+I)=f(ab)=f(a)f(b)\overline{f}((a + I)(b + I)) = \overline{f}(ab + I) = f(ab) = f(a)f(b)、f‾(1+I)=1\overline{f}(1 + I) = 1 なので環準同型である。□\square

群の場合と同様に、対応定理が成り立つ:II を含む RR のイデアル JJ と R/IR/I のイデアルは J↦J/I=π(J)J \mapsto J/I = \pi(J) で 1 対 1 に対応し、(R/I)/(J/I)≅R/J(R/I)/(J/I) \cong R/J である(第 3 同型定理)。証明は第2章 定理 2.45, 2.47 と同様で、π(J)\pi(J) がイデアルになることは π\pi の全射性から、π−1\pi^{-1} でイデアルがイデアルに写ることは直接確かめられる。

例 5.15(剰余環の決定)

  1. R[x]/(x2+1)≅C\mathbb{R}[x]/(x^2 + 1) \cong \mathbb{C}:φ ⁣:R[x]→C\varphi\colon \mathbb{R}[x] \to \mathbb{C}, f↦f(i)f \mapsto f(i) は a+bx↦a+bia + bx \mapsto a + bi より全射。x2+1∈Ker⁡φx^2 + 1 \in \operatorname{Ker} \varphi であり、逆に f(i)=0f(i) = 0 なら、ff を x2+1x^2 + 1 で割って f=(x2+1)q+(a+bx)f = (x^2 + 1)q + (a + bx)(5.9 節の除法の原理)とすると a+bi=0a + bi = 0 より a=b=0a = b = 0。よって Ker⁡φ=(x2+1)\operatorname{Ker} \varphi = (x^2 + 1)。同じ議論で Z[x]/(x2+1)≅Z[i]\mathbb{Z}[x]/(x^2 + 1) \cong \mathbb{Z}[i](モニック多項式による割り算は Z\mathbb{Z} 係数でできる)。
  2. Z[i]/(2+i)≅Z/5Z\mathbb{Z}[i]/(2 + i) \cong \mathbb{Z}/5\mathbb{Z}:ψ ⁣:Z→Z[i]/(2+i)\psi\colon \mathbb{Z} \to \mathbb{Z}[i]/(2 + i) を考える。剰余環で i≡−2i \equiv -2 なので a+bi≡a−2ba + bi \equiv a - 2b となり ψ\psi は全射。5=(2+i)(2−i)∈(2+i)5 = (2 + i)(2 - i) \in (2 + i) なので 5Z⊂Ker⁡ψ5\mathbb{Z} \subset \operatorname{Ker} \psi。逆に n=(2+i)βn = (2 + i)\beta なら n2=N(n)=5N(β)n^2 = N(n) = 5N(\beta) で、55 は素数なので 5∣n5 \mid n。よって Ker⁡ψ=5Z\operatorname{Ker} \psi = 5\mathbb{Z}。
  3. Z[x]/(n)≅(Z/nZ)[x]\mathbb{Z}[x]/(n) \cong (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})[x](係数を nn で割った余りに写す準同型の核が (n)(n))。Z[x]/(2,x)≅Z/2Z\mathbb{Z}[x]/(2, x) \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}(f↦f(0) mod 2f \mapsto f(0) \bmod 2 の核が (2,x)(2, x))。
  4. KK を体、a∈Ka \in K とすると K[x]/(x−a)≅KK[x]/(x - a) \cong K(f↦f(a)f \mapsto f(a) の核が (x−a)(x - a)。因数定理(系 5.29)による)。
  5. C([0,1])/mc≅RC([0, 1])/\mathfrak{m}_c \cong \mathbb{R}(f↦f(c)f \mapsto f(c) は全射で核は mc\mathfrak{m}_c)。

5.5 素イデアルと極大イデアル

素数 pp は「p∣ab⇒p∣ap \mid ab \Rightarrow p \mid a または p∣bp \mid b」という性質をもつ(第1章 補題 1.14)。これをイデアルの言葉にしたものが素イデアルである。

定義 5.16(素イデアルと極大イデアル)RR を可換環とする。

  1. 真のイデアル p\mathfrak{p} が「ab∈p⇒a∈pab \in \mathfrak{p} \Rightarrow a \in \mathfrak{p} または b∈pb \in \mathfrak{p}」をみたすとき、p\mathfrak{p} を素イデアル (prime ideal) という。
  2. 真のイデアル m\mathfrak{m} で、m⊊J⊊R\mathfrak{m} \subsetneq J \subsetneq R となるイデアル JJ が存在しないものを極大イデアル (maximal ideal) という。

定理 5.17 RR を可換環、II をイデアルとする。

  1. II が素イデアル   ⟺  R/I\iff R/I が整域。
  2. II が極大イデアル   ⟺  R/I\iff R/I が体。

特に、極大イデアルは素イデアルである。

証明. (1) R/IR/I で 1≠0  ⟺  1∉I  ⟺  I≠R1 \neq 0 \iff 1 \notin I \iff I \neq R。また (a+I)(b+I)=0  ⟺  ab∈I(a + I)(b + I) = 0 \iff ab \in I なので、「R/IR/I に零因子がない」は「ab∈I⇒a∈Iab \in I \Rightarrow a \in I または b∈Ib \in I」と同値である。

(2) II が極大とし、a∉Ia \notin I とする。I⊊I+(a)I \subsetneq I + (a) なので極大性より I+(a)=RI + (a) = R、よって 1=x+ra1 = x + ra(x∈Ix \in I, r∈Rr \in R)と書け、(r+I)(a+I)=1+I(r + I)(a + I) = 1 + I。I≠RI \neq R より R/IR/I において 1≠01 \neq 0 なので、R/IR/I は体である。逆に R/IR/I が体なら I≠RI \neq R で、I⊊JI \subsetneq J となるイデアル JJ から a∈J∖Ia \in J \setminus I をとると、a+Ia + I が可逆なので ab−1∈I⊂Jab - 1 \in I \subset J となる bb があり、1=ab−(ab−1)∈J1 = ab - (ab - 1) \in J、J=RJ = R。

最後の主張は、体が整域であること(命題 5.6)から従う。□\square

例 5.18

  1. Z\mathbb{Z} の素イデアルは (0)(0) と (p)(p)(pp は素数)であり、極大イデアルは (p)(p) である。n≥2n \geq 2 が合成数なら n=abn = ab(1<a,b<n1 < a, b < n)で ab∈(n)ab \in (n), a,b∉(n)a, b \notin (n) なので (n)(n) は素イデアルでない。(0)(0) は素イデアルだが極大でない。
  2. KK を体とすると (x−a)⊂K[x](x - a) \subset K[x] は極大イデアル(K[x]/(x−a)≅KK[x]/(x - a) \cong K)。R[x]\mathbb{R}[x] の (x2+1)(x^2 + 1) も極大イデアル(R[x]/(x2+1)≅C\mathbb{R}[x]/(x^2 + 1) \cong \mathbb{C})。
  3. Z[x]\mathbb{Z}[x] で、(x)(x) は素イデアル(Z[x]/(x)≅Z\mathbb{Z}[x]/(x) \cong \mathbb{Z} は整域)だが極大でない((x)⊊(2,x)⊊Z[x](x) \subsetneq (2, x) \subsetneq \mathbb{Z}[x])。(2,x)(2, x) は極大(剰余環は Z/2Z\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})。(x2+1)(x^2 + 1) は素イデアル(剰余環は Z[i]\mathbb{Z}[i])で、x2+1=(x−2)(x+2)+5x^2 + 1 = (x - 2)(x + 2) + 5 より (x2+1)⊊(5,x−2)(x^2 + 1) \subsetneq (5, x - 2)、Z[x]/(5,x−2)≅Z/5Z\mathbb{Z}[x]/(5, x - 2) \cong \mathbb{Z}/5\mathbb{Z} なので (5,x−2)(5, x - 2) は極大である。こうして素イデアルの列 (0)⊊(x2+1)⊊(5,x−2)(0) \subsetneq (x^2 + 1) \subsetneq (5, x - 2) が得られる。
  4. C([0,1])C([0, 1]) の mc\mathfrak{m}_c は極大イデアル(剰余環は R\mathbb{R})。実は C([0,1])C([0, 1]) の極大イデアルはこれで尽きる(問題 5.9)。
  5. Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の素イデアルは、対応定理により 12Z12\mathbb{Z} を含む Z\mathbb{Z} の素イデアル (2),(3)(2), (3) に対応する (2‾),(3‾)(\overline{2}), (\overline{3}) であり、これらは極大でもある。

命題 5.19 f ⁣:R→Sf\colon R \to S を可換環の準同型、q\mathfrak{q} を SS の素イデアルとすると、f−1(q)f^{-1}(\mathfrak{q}) は RR の素イデアルである。

証明. f(1)=1∉qf(1) = 1 \notin \mathfrak{q} より f−1(q)≠Rf^{-1}(\mathfrak{q}) \neq R。ab∈f−1(q)ab \in f^{-1}(\mathfrak{q}) なら f(a)f(b)∈qf(a)f(b) \in \mathfrak{q} で、f(a)∈qf(a) \in \mathfrak{q} または f(b)∈qf(b) \in \mathfrak{q}。□\square

注意

極大イデアルの逆像は極大とは限らない。包含写像 Z→Q\mathbb{Z} \to \mathbb{Q} で Q\mathbb{Q} の極大イデアル (0)(0) の逆像は (0)(0) で、Z\mathbb{Z} の極大イデアルではない。

5.6 極大イデアルの存在

定理 5.20(クルル, Krull)RR を零環でない可換環、II を真のイデアルとすると、II を含む極大イデアルが存在する。特に RR は極大イデアルをもつ。

証明. S={J∣J は R のイデアルで I⊂J≠R}\mathcal{S} = \lbrace J \mid J \text{ は } R \text{ のイデアルで } I \subset J \neq R \rbrace を包含関係で順序づける。I∈SI \in \mathcal{S} なので S≠∅\mathcal{S} \neq \emptyset。C⊂S\mathcal{C} \subset \mathcal{S} を空でない全順序部分集合(鎖)とし、U=⋃J∈CJU = \bigcup_{J \in \mathcal{C}} J とおく。a,b∈Ua, b \in U なら a∈J1a \in J_1, b∈J2b \in J_2(J1,J2∈CJ_1, J_2 \in \mathcal{C})で、全順序性からたとえば J1⊂J2J_1 \subset J_2 なので a−b∈J2⊂Ua - b \in J_2 \subset U。また r∈Rr \in R なら ra∈J1⊂Ura \in J_1 \subset U。よって UU はイデアルであり、I⊂UI \subset U。さらに各 J∈CJ \in \mathcal{C} は 11 を含まないので 1∉U1 \notin U、すなわち U≠RU \neq R。よって U∈SU \in \mathcal{S} は C\mathcal{C} の上界である(空の鎖の上界としては II がとれる)。ツォルンの補題(00-foundations 第6章)により S\mathcal{S} は極大元 m\mathfrak{m} をもつ。m⊊J⊊R\mathfrak{m} \subsetneq J \subsetneq R となるイデアル JJ があれば J∈SJ \in \mathcal{S} となり極大性に反するので、m\mathfrak{m} は極大イデアルである。□\square

系 5.21 a∈Ra \in R が単元であるための必要十分条件は、aa がどの極大イデアルにも属さないことである。

証明. 単元はどの真のイデアルにも属さない。単元でなければ (a)≠R(a) \neq R なので、定理 5.20 より (a)(a) を含む極大イデアルがある。□\square

補足

Z\mathbb{Z} や K[x]K[x] のように具体的な環では、極大イデアルは具体的に構成できるのでツォルンの補題は不要である(ネーター環では「イデアルの上昇列が止まる」ことから存在がわかる。可換環論 第3章)。一方、一般の可換環に対する定理 5.20 は、ZF 集合論のもとで選択公理と同値であることが知られている。

5.7 中国剰余定理

第1章の中国剰余定理は、環とイデアルの言葉で一般化される。

定義 5.22 可換環 RR のイデアル I,JI, J が I+J=RI + J = R をみたすとき、II と JJ は互いに素 (coprime, comaximal) であるという。

Z\mathbb{Z} では (m)+(n)=(gcd⁡(m,n))(m) + (n) = (\gcd(m, n)) なので、(m),(n)(m), (n) が互いに素   ⟺  gcd⁡(m,n)=1\iff \gcd(m, n) = 1 である。

定理 5.23(中国剰余定理, Chinese remainder theorem)可換環 RR のイデアル I1,…,InI_1, \dots, I_n がどの 2 つも互いに素ならば、I1∩⋯∩In=I1I2⋯InI_1 \cap \cdots \cap I_n = I_1I_2\cdots I_n であり、

R/(I1∩⋯∩In)→R/I1×⋯×R/In,a+⋂kIk↦(a+I1,…,a+In)R/(I_1 \cap \cdots \cap I_n) \to R/I_1 \times \cdots \times R/I_n, \qquad a + \textstyle\bigcap_k I_k \mapsto (a + I_1, \dots, a + I_n)

は環の同型写像である。

証明. n=2n = 2 の場合:I+J=RI + J = R より 1=a+b1 = a + b(a∈Ia \in I, b∈Jb \in J)と書ける。IJ⊂I∩JIJ \subset I \cap J であり、逆に x∈I∩Jx \in I \cap J なら x=xa+xbx = xa + xb で、xa∈JIxa \in JI、xb∈IJxb \in IJ なので x∈IJx \in IJ。環準同型 φ ⁣:R→R/I×R/J\varphi\colon R \to R/I \times R/J, r↦(r+I,r+J)r \mapsto (r + I, r + J) の核は I∩JI \cap J である。全射性:(x+I,y+J)(x + I, y + J) に対し r=xb+yar = xb + ya とおくと、r=x(1−a)+ya≡x(modI)r = x(1 - a) + ya \equiv x \pmod I、r=xb+y(1−b)≡y(modJ)r = xb + y(1 - b) \equiv y \pmod J。準同型定理より主張が従う。

一般の場合:nn についての帰納法。各 k≥2k \geq 2 について 1=ak+bk1 = a_k + b_k(ak∈I1a_k \in I_1, bk∈Ikb_k \in I_k)と書くと

1=∏k=2n(ak+bk)∈I1+I2I3⋯In1 = \prod_{k=2}^{n} (a_k + b_k) \in I_1 + I_2I_3\cdots I_n

(展開すると b2⋯bnb_2 \cdots b_n 以外の項は I1I_1 に属する)なので、I1I_1 と I2⋯InI_2 \cdots I_n は互いに素である。帰納法の仮定より I2∩⋯∩In=I2⋯InI_2 \cap \cdots \cap I_n = I_2 \cdots I_n で、n=2n = 2 の場合を I1I_1 と I2⋯InI_2 \cdots I_n に適用すれば ⋂kIk=I1I2⋯In\bigcap_k I_k = I_1 I_2 \cdots I_n、および R/⋂kIk≅R/I1×R/(I2⋯In)≅R/I1×R/I2×⋯×R/InR/\bigcap_k I_k \cong R/I_1 \times R/(I_2 \cdots I_n) \cong R/I_1 \times R/I_2 \times \cdots \times R/I_n(後者は帰納法の仮定)。□\square

例 5.24

  1. R=ZR = \mathbb{Z} なら第1章 定理 1.28 そのものである。
  2. ラグランジュ補間:KK を体、a1,…,an∈Ka_1, \dots, a_n \in K を相異なる元とすると、(x−ai)+(x−aj)∋aj−ai(x - a_i) + (x - a_j) \ni a_j - a_i(単元)なので互いに素であり、K[x]/((x−a1)⋯(x−an))≅KnK[x]/((x - a_1)\cdots(x - a_n)) \cong K^n。すなわち、nn 個の点で任意の値をとる n−1n - 1 次以下の多項式がただ一つ存在する。
  3. R[x]/(x2−1)≅R×R\mathbb{R}[x]/(x^2 - 1) \cong \mathbb{R} \times \mathbb{R}(f↦(f(1),f(−1))f \mapsto (f(1), f(-1)))。
  4. Z[i]\mathbb{Z}[i] で (2+i)+(2−i)∋5−(2+i)−(2−i)=1(2 + i) + (2 - i) \ni 5 - (2 + i) - (2 - i) = 1 なので (2+i)(2 + i) と (2−i)(2 - i) は互いに素であり、(2+i)(2−i)=(5)(2 + i)(2 - i) = (5)。例 5.15(2) と同様に Z[i]/(2−i)≅Z/5Z\mathbb{Z}[i]/(2 - i) \cong \mathbb{Z}/5\mathbb{Z} なので、Z[i]/(5)≅F5×F5\mathbb{Z}[i]/(5) \cong \mathbb{F}_5 \times \mathbb{F}_5。

5.8 分数体

Z\mathbb{Z} から Q\mathbb{Q} を作るように、整域には分数を付け加えて体を作ることができる。

定理 5.25(分数体, field of fractions)RR を整域とする。R×(R∖{0})R \times (R \setminus \lbrace 0 \rbrace) 上の関係 (a,b)∼(c,d)  ⟺  ad=bc(a, b) \sim (c, d) \iff ad = bc は同値関係である。(a,b)(a, b) の同値類を a/ba/b と書き、商集合を Frac⁡(R)\operatorname{Frac}(R) とおくと、

ab+cd=ad+bcbd,ab⋅cd=acbd\frac{a}{b} + \frac{c}{d} = \frac{ad + bc}{bd}, \qquad \frac{a}{b} \cdot \frac{c}{d} = \frac{ac}{bd}

は well-defined で、Frac⁡(R)\operatorname{Frac}(R) は体になる。ι ⁣:R→Frac⁡(R)\iota\colon R \to \operatorname{Frac}(R), a↦a/1a \mapsto a/1 は単射な環準同型である。さらに、体 LL への単射な環準同型 f ⁣:R→Lf\colon R \to L は f~(a/b)=f(a)f(b)−1\tilde{f}(a/b) = f(a)f(b)^{-1} によって Frac⁡(R)\operatorname{Frac}(R) からの環準同型に一意的に拡張される。

証明. 反射律・対称律は明らか。推移律:ad=bcad = bc, cf=decf = de なら adf=bcf=bdeadf = bcf = bde で、d(af−be)=0d(af - be) = 0, d≠0d \neq 0 と RR が整域であることから af=beaf = be。b,d≠0b, d \neq 0 なら bd≠0bd \neq 0(整域)なので演算の右辺は意味をもつ。和の well-defined 性:(a,b)∼(a′,b′)(a, b) \sim (a', b') なら (ad+bc)b′d=ab′dd+bb′cd=a′bdd+bb′cd=(a′d+b′c)bd(ad + bc)b'd = ab'dd + bb'cd = a'bdd + bb'cd = (a'd + b'c)bd より (ad+bc,bd)∼(a′d+b′c,b′d)(ad + bc, bd) \sim (a'd + b'c, b'd)。積も同様である。環の公理は分数の通常の計算と同じく直接確かめられ、零元は 0/10/1、単位元は 1/11/1。a/b≠0a/b \neq 0(すなわち a≠0a \neq 0)なら (a/b)(b/a)=ab/ab=1/1(a/b)(b/a) = ab/ab = 1/1 なので体である。ι\iota が準同型であることは明らかで、a/1=0/1  ⟺  a=0a/1 = 0/1 \iff a = 0 より単射。

拡張:ff が単射なので b≠0b \neq 0 なら f(b)≠0f(b) \neq 0 で、f~(a/b)=f(a)f(b)−1\tilde{f}(a/b) = f(a)f(b)^{-1} は意味をもつ。ad=bcad = bc なら f(a)f(d)=f(b)f(c)f(a)f(d) = f(b)f(c) より f(a)f(b)−1=f(c)f(d)−1f(a)f(b)^{-1} = f(c)f(d)^{-1} なので well-defined であり、準同型性は計算で確かめられる。f~(b/1)=f(b)\tilde{f}(b/1) = f(b) と f~(a/b)f~(b/1)=f~(a/1)\tilde{f}(a/b)\tilde{f}(b/1) = \tilde{f}(a/1) から、拡張は ff の値だけで決まり一意である。□\square

ι\iota によって RR を Frac⁡(R)\operatorname{Frac}(R) の部分環とみなす。拡張の性質から、Frac⁡(R)\operatorname{Frac}(R) は「RR を含む最小の体」である。

例 5.26 Frac⁡(Z)=Q\operatorname{Frac}(\mathbb{Z}) = \mathbb{Q}。Frac⁡(K[x])=K(x)\operatorname{Frac}(K[x]) = K(x)(有理関数体、f/gf/g の形の元全体)。Frac⁡(Z[i])=Q(i)={a+bi∣a,b∈Q}\operatorname{Frac}(\mathbb{Z}[i]) = \mathbb{Q}(i) = \lbrace a + bi \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace(C\mathbb{C} の部分体として。(a+bi)−1=(a−bi)/(a2+b2)(a + bi)^{-1} = (a - bi)/(a^2 + b^2) より分母を有理数にできる)。分母を「00 でない元全体」から一般の積閉集合に替えたものが局所化である(可換環論 第2章)。

5.9 多項式環と代入準同型

可換環 RR 上の多項式環 R[x]R[x] は、厳密には「有限個を除いて 00 である RR の元の列 (a0,a1,a2,… )(a_0, a_1, a_2, \dots) 全体」に、成分ごとの和と例 5.4(2) の畳み込み積を入れた環として定義される。x=(0,1,0,0,… )x = (0, 1, 0, 0, \dots) とおけば (a0,a1,…,an,0,… )=∑aixi(a_0, a_1, \dots, a_n, 0, \dots) = \sum a_ix^i と書ける。多項式は「xx に値を代入する関数」とは異なる形式的な対象であることに注意する。たとえば Fp[x]\mathbb{F}_p[x] で xp−x≠0x^p - x \neq 0 だが、フェルマーの小定理より Fp\mathbb{F}_p のすべての元 aa で ap−a=0a^p - a = 0 である。

定理 5.27(代入の普遍性)φ ⁣:R→S\varphi\colon R \to S を可換環の準同型、s∈Ss \in S とすると、φ\varphi を拡張し xx を ss に写す環準同型 Φ ⁣:R[x]→S\Phi\colon R[x] \to S がただ一つ存在する。それは Φ(∑aixi)=∑φ(ai)si\Phi(\sum a_ix^i) = \sum \varphi(a_i)s^i で与えられる。

証明. 環準同型が RR 上で φ\varphi と一致し x↦sx \mapsto s ならば、和と積を保つことから Φ(∑aixi)=∑φ(ai)si\Phi(\sum a_ix^i) = \sum \varphi(a_i)s^i でなければならず、一意性が従う。逆にこの式で Φ\Phi を定めると、加法と 11 を保つことは明らか。積については、SS の可換性により

Φ(f)Φ(g)=(∑iφ(ai)si)(∑jφ(bj)sj)=∑k(∑i+j=kφ(ai)φ(bj))sk=Φ(fg)\Phi(f)\Phi(g) = \Bigl(\sum_i \varphi(a_i)s^i\Bigr)\Bigl(\sum_j \varphi(b_j)s^j\Bigr) = \sum_k \Bigl(\sum_{i+j=k}\varphi(a_i)\varphi(b_j)\Bigr)s^k = \Phi(fg)

□\square

R⊂SR \subset S で φ\varphi が包含写像のとき、Φ(f)\Phi(f) を f(s)f(s) と書き、Φ\Phi を代入準同型 (evaluation homomorphism) という。f(s)=0f(s) = 0 となる ss を ff の根 (root) という。像 Φ(R[x])={f(s)∣f∈R[x]}\Phi(R[x]) = \lbrace f(s) \mid f \in R[x] \rbrace を R[s]R[s] と書き、RR に ss を添加した環という(Z[i]\mathbb{Z}[i] はこの意味で Z\mathbb{Z} に ii を添加した環である)。

定理 5.28(多項式の除法の原理)RR を可換環、g∈R[x]g \in R[x] を最高次係数が単元の多項式とする。任意の f∈R[x]f \in R[x] に対し、f=qg+rf = qg + r, deg⁡r<deg⁡g\deg r < \deg g をみたす q,r∈R[x]q, r \in R[x] がただ一つ存在する。

証明. 存在:deg⁡f\deg f についての帰納法。deg⁡f<deg⁡g\deg f < \deg g なら q=0q = 0, r=fr = f。deg⁡f=n≥m=deg⁡g\deg f = n \geq m = \deg g とし、f,gf, g の最高次係数を a,ba, b(b∈R×b \in R^\times)とすると、f1=f−ab−1xn−mgf_1 = f - ab^{-1}x^{n-m}g は deg⁡f1<n\deg f_1 < n なので、帰納法の仮定より f1=q1g+rf_1 = q_1g + r と書け、f=(q1+ab−1xn−m)g+rf = (q_1 + ab^{-1}x^{n-m})g + r。一意性:qg+r=q′g+r′qg + r = q'g + r' なら (q−q′)g=r′−r(q - q')g = r' - r。q≠q′q \neq q' なら、gg の最高次係数が単元(したがって零因子でない)なので左辺の次数は deg⁡g\deg g 以上となり、右辺の次数 <deg⁡g< \deg g に矛盾。よって q=q′q = q', r=r′r = r'。□\square

系 5.29(因数定理)a∈Ra \in R, f∈R[x]f \in R[x] について、f(a)=0  ⟺  ff(a) = 0 \iff f は x−ax - a で割り切れる。

証明. f=q(x−a)+rf = q(x - a) + r(r∈Rr \in R は定数)と割ると、代入して f(a)=rf(a) = r。□\square

系 5.30 RR を整域とする。00 でない f∈R[x]f \in R[x] の RR における根の個数は deg⁡f\deg f 以下である。

証明. deg⁡f\deg f についての帰納法。ff が根 aa をもてば f=(x−a)qf = (x - a)q, deg⁡q=deg⁡f−1\deg q = \deg f - 1。b≠ab \neq a が ff の根なら (b−a)q(b)=0(b - a)q(b) = 0 で、RR は整域なので q(b)=0q(b) = 0。よって ff の根は aa と qq の根に限り、帰納法の仮定より個数は 1+(deg⁡f−1)1 + (\deg f - 1) 以下。□\square

注意

整域でないと系 5.30 は成り立たない:Z/8Z\mathbb{Z}/8\mathbb{Z} で x2−1x^2 - 1 は 4 個の根 1‾,3‾,5‾,7‾\overline{1}, \overline{3}, \overline{5}, \overline{7} をもつ。非可換な斜体 H\mathbb{H} では x2+1x^2 + 1 が bi+cj+dkbi + cj + dk(b2+c2+d2=1b^2 + c^2 + d^2 = 1)という無限個の根をもつ。

系 5.31 KK を体とすると、K[x]K[x] の任意のイデアルは単項イデアルである。より詳しく、I≠(0)I \neq (0) なら I=(f)I = (f) で、ff は II に属する 00 でない多項式のうち次数最小のものである。

証明. I≠(0)I \neq (0) として、00 でない元のうち次数最小の ff をとる。g∈Ig \in I を g=qf+rg = qf + r(deg⁡r<deg⁡f\deg r < \deg f)と割ると、r=g−qf∈Ir = g - qf \in I なので次数の最小性から r=0r = 0。よって I=(f)I = (f)。□\square

この性質(単項イデアル整域であること)は第6章で詳しく扱う。

5.10 標数と素体

定義 5.32(標数, characteristic)環 RR に対し、唯一の環準同型 Z→R\mathbb{Z} \to R の核を nZn\mathbb{Z}(n≥0n \geq 0)とするとき、nn を RR の標数といい char⁡R\operatorname{char} R と書く。

すなわち char⁡R\operatorname{char} R は、n⋅1=0n \cdot 1 = 0 となる最小の n∈Nn \in \mathbb{N}(存在しなければ 00)である。char⁡Q=char⁡R=0\operatorname{char} \mathbb{Q} = \operatorname{char} \mathbb{R} = 0、char⁡Z/nZ=n\operatorname{char} \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} = n、char⁡Fp[x]=p\operatorname{char} \mathbb{F}_p[x] = p。

命題 5.33 整域の標数は 00 または素数である。

証明. char⁡R=n\operatorname{char} R = n とすると、準同型定理より Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} は RR の部分環と同型であり、整域の部分環は整域である。RR は零環でないので n≠1n \neq 1。n≥2n \geq 2 なら Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} が整域であることから nn は素数である。□\square

定義 5.34(素体, prime field)体 KK の部分体(KK の部分環で体であるもの)すべての共通部分を KK の素体という。

素体は KK の最小の部分体である。

定理 5.35 体 KK の素体は、char⁡K=0\operatorname{char} K = 0 なら Q\mathbb{Q} に、char⁡K=p\operatorname{char} K = p なら Fp=Z/pZ\mathbb{F}_p = \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} に同型である。

証明. 部分体はすべて 11 を含むので、ι ⁣:Z→K\iota\colon \mathbb{Z} \to K の像 ι(Z)\iota(\mathbb{Z}) を含む。char⁡K=p\operatorname{char} K = p なら ι(Z)≅Z/pZ\iota(\mathbb{Z}) \cong \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} は体なので、これが最小の部分体、すなわち素体である。char⁡K=0\operatorname{char} K = 0 なら ι\iota は単射で、定理 5.25 により Q=Frac⁡(Z)→K\mathbb{Q} = \operatorname{Frac}(\mathbb{Z}) \to K に拡張される。その像は ι(Z)\iota(\mathbb{Z}) を含む体で、ι(Z)\iota(\mathbb{Z}) を含む任意の部分体は ι(a)ι(b)−1\iota(a)\iota(b)^{-1} の形の元をすべて含むので、像が素体であり、Q\mathbb{Q} と同型(体からの準同型は単射。核が真のイデアル (0)(0) だから)である。□\square

命題 5.36(フロベニウス準同型)RR を標数 pp(素数)の可換環とすると、任意の a,b∈Ra, b \in R について (a+b)p=ap+bp(a + b)^p = a^p + b^p である。したがって F ⁣:R→RF\colon R \to R, a↦apa \mapsto a^p は環準同型であり、これをフロベニウス準同型 (Frobenius homomorphism) という。

証明. 二項定理より (a+b)p=∑k=0p(pk)akbp−k(a + b)^p = \sum_{k=0}^{p} \binom{p}{k}a^kb^{p-k}。0<k<p0 < k < p なら (pk)=p!k!(p−k)!\binom{p}{k} = \frac{p!}{k!(p-k)!} の分子は pp で割り切れ、分母は割り切れないので p∣(pk)p \mid \binom{p}{k}、よってこれらの項は 00 である。積と 11 を保つことは可換性より明らか。□\square

Fp\mathbb{F}_p 上ではフェルマーの小定理より FF は恒等写像である。体上の FF は単射であり(体からの準同型)、有限体上では全単射である。フロベニウス準同型は、有限体のガロア理論(第9章)で主役を演じる。

まとめ

  • 環は加法について可換群、乗法について結合的で単位元をもち、分配法則が成り立つ。例:Z\mathbb{Z}, Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}, R[x]R[x], M⁡n(R)\operatorname{M}_n(R), C([0,1])C([0, 1]), Z[i]\mathbb{Z}[i], H\mathbb{H}。
  • 整域は零因子のない可換環、体は 00 以外が単元の可換環。有限整域は体。Z[i]×={±1,±i}\mathbb{Z}[i]^\times = \lbrace \pm 1, \pm i \rbrace、(Z/4Z)[x](\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})[x] には 1 次の単元がある。
  • イデアルは「任意の元を掛けても外に出ない」加法部分群であり、剰余環 R/IR/I が作れる条件である。
  • 環の準同型定理 R/Ker⁡f≅Im⁡fR/\operatorname{Ker} f \cong \operatorname{Im} f で剰余環を決定する:R[x]/(x2+1)≅C\mathbb{R}[x]/(x^2 + 1) \cong \mathbb{C}, Z[i]/(2+i)≅Z/5Z\mathbb{Z}[i]/(2 + i) \cong \mathbb{Z}/5\mathbb{Z}。
  • p\mathfrak{p} が素イデアル   ⟺  R/p\iff R/\mathfrak{p} が整域、m\mathfrak{m} が極大イデアル   ⟺  R/m\iff R/\mathfrak{m} が体。極大イデアルは素イデアル。
  • ツォルンの補題により、真のイデアルは極大イデアルに含まれる。
  • 互いに素なイデアルについて R/(I1∩⋯∩In)≅∏R/IkR/(I_1 \cap \cdots \cap I_n) \cong \prod R/I_k(中国剰余定理)。ラグランジュ補間はその例。
  • 整域 RR は分数体 Frac⁡(R)\operatorname{Frac}(R) に埋め込まれる。
  • 多項式環は代入の普遍性をもつ。最高次係数が単元の多項式で割り算ができ、整域上の dd 次多項式の根は高々 dd 個、体上の多項式環のイデアルは単項。
  • 体の標数は 00 か素数で、素体はそれぞれ Q\mathbb{Q}, Fp\mathbb{F}_p。標数 pp ではフロベニウス写像 a↦apa \mapsto a^p が環準同型になる。

演習問題

問題 5.1 ★ Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の単元・零因子・冪零元をすべて求めよ。また、有限可換環の 00 でない元は単元か零因子のいずれかであることを示せ。

解答

単元は gcd⁡(a,12)=1\gcd(a, 12) = 1 となる 1‾,5‾,7‾,11‾\overline{1}, \overline{5}, \overline{7}, \overline{11}。零因子は残りの 00 でない元 2‾,3‾,4‾,6‾,8‾,9‾,10‾\overline{2}, \overline{3}, \overline{4}, \overline{6}, \overline{8}, \overline{9}, \overline{10}(gcd⁡(a,12)=d>1\gcd(a, 12) = d > 1 なら a‾⋅12/d‾=0‾\overline{a} \cdot \overline{12/d} = \overline{0})。冪零元は an≡0(mod12)a^n \equiv 0 \pmod{12} となるもので、2⋅3∣a2 \cdot 3 \mid a が必要十分なので 0‾,6‾\overline{0}, \overline{6}。

一般に、有限可換環 RR の元 a≠0a \neq 0 が零因子でなければ、x↦axx \mapsto ax は単射(ax=ay⇒a(x−y)=0⇒x=yax = ay \Rightarrow a(x - y) = 0 \Rightarrow x = y)で、RR が有限なので全射。よって ax=1ax = 1 となる xx があり、aa は単元である。

問題 5.2 ★ Z[x]\mathbb{Z}[x] のイデアル (2,x)(2, x) は単項イデアルでないことを示せ。

解答

(2,x)=(f)(2, x) = (f) と仮定する。2∈(f)2 \in (f) より 2=fg2 = fg で、Z\mathbb{Z} は整域なので deg⁡f+deg⁡g=0\deg f + \deg g = 0、ff は定数で f∈{±1,±2}f \in \lbrace \pm 1, \pm 2 \rbrace。f=±1f = \pm 1 なら (2,x)=Z[x](2, x) = \mathbb{Z}[x] だが、Z[x]/(2,x)≅Z/2Z≠0\mathbb{Z}[x]/(2, x) \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \neq 0(例 5.15(3))に矛盾。f=±2f = \pm 2 なら x∈(2)x \in (2) となるが、2h2h の係数はすべて偶数なので x=2hx = 2h は不可能。

問題 5.3 ★ R[x]/(x2−1)≅R×R\mathbb{R}[x]/(x^2 - 1) \cong \mathbb{R} \times \mathbb{R} であるが、R[x]/(x2)\mathbb{R}[x]/(x^2) は R×R\mathbb{R} \times \mathbb{R} と同型でないことを示せ。

解答

前半は中国剰余定理(例 5.24(3)):(x−1)+(x+1)∋2(x - 1) + (x + 1) \ni 2 は単元なので互いに素で、R[x]/(x2−1)≅R[x]/(x−1)×R[x]/(x+1)≅R×R\mathbb{R}[x]/(x^2 - 1) \cong \mathbb{R}[x]/(x - 1) \times \mathbb{R}[x]/(x + 1) \cong \mathbb{R} \times \mathbb{R}。

後半:R[x]/(x2)\mathbb{R}[x]/(x^2) で x‾≠0\overline{x} \neq 0, x‾2=0\overline{x}^2 = 0 なので 00 でない冪零元がある。R×R\mathbb{R} \times \mathbb{R} で (a,b)n=(an,bn)=0(a, b)^n = (a^n, b^n) = 0 なら a=b=0a = b = 0 なので 00 でない冪零元はない。同型写像は冪零元を冪零元に写すので、両者は同型でない。

問題 5.4 ★★ Z[i]/(3)\mathbb{Z}[i]/(3) は 9 個の元からなる体であり、Z[i]/(5)\mathbb{Z}[i]/(5) は体でないことを示せ。

解答

Z[i]≅Z[x]/(x2+1)\mathbb{Z}[i] \cong \mathbb{Z}[x]/(x^2 + 1) なので、第 3 同型定理より Z[i]/(3)≅Z[x]/(3,x2+1)≅F3[x]/(x2+1)\mathbb{Z}[i]/(3) \cong \mathbb{Z}[x]/(3, x^2 + 1) \cong \mathbb{F}_3[x]/(x^2 + 1)。除法の原理より各元は a+bx‾a + b\overline{x}(a,b∈F3a, b \in \mathbb{F}_3)とただ一通りに書けるので、元は 9 個。(a+bx‾)(a−bx‾)=a2−b2x‾2=a2+b2(a + b\overline{x})(a - b\overline{x}) = a^2 - b^2\overline{x}^2 = a^2 + b^2 である。F3\mathbb{F}_3 の平方は 0,10, 1 だけなので、a2+b2=0  ⟺  a=b=0a^2 + b^2 = 0 \iff a = b = 0。よって a+bx‾≠0a + b\overline{x} \neq 0 なら a2+b2∈F3×a^2 + b^2 \in \mathbb{F}_3^\times で、(a+bx‾)−1=(a2+b2)−1(a−bx‾)(a + b\overline{x})^{-1} = (a^2 + b^2)^{-1}(a - b\overline{x})。したがって体である。

Z[i]/(5)\mathbb{Z}[i]/(5) では (2+i)(2−i)=5≡0(2 + i)(2 - i) = 5 \equiv 0 だが、2+i∉(5)2 + i \notin (5)((5)(5) の元は実部・虚部とも 5 の倍数)なので零因子があり、体でない。(例 5.24(4) より F5×F5\mathbb{F}_5 \times \mathbb{F}_5 に同型である。)

問題 5.5 ★★ 可換環 RR の冪零元全体 nil⁡(R)\operatorname{nil}(R) はイデアルであり、R/nil⁡(R)R/\operatorname{nil}(R) は 00 以外に冪零元をもたないことを示せ。

解答

am=0a^m = 0, bn=0b^n = 0 とする。二項定理より (a−b)m+n−1=∑k(m+n−1k)ak(−b)m+n−1−k(a - b)^{m+n-1} = \sum_k \binom{m+n-1}{k} a^k(-b)^{m+n-1-k} で、各項は k≥mk \geq m なら ak=0a^k = 0、k≤m−1k \leq m - 1 なら m+n−1−k≥nm + n - 1 - k \geq n で bm+n−1−k=0b^{m+n-1-k} = 0 なので 00。また (ra)m=rmam=0(ra)^m = r^ma^m = 0。よってイデアルである(二項定理には可換性が必要)。

a‾∈R/nil⁡(R)\overline{a} \in R/\operatorname{nil}(R) が冪零、すなわち ak∈nil⁡(R)a^k \in \operatorname{nil}(R) なら、(ak)l=0(a^k)^l = 0 となる ll があり akl=0a^{kl} = 0、よって a∈nil⁡(R)a \in \operatorname{nil}(R)、a‾=0\overline{a} = 0。

問題 5.6 ★★ (1) 有限可換環の素イデアルは極大イデアルであることを示せ。 (2) Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} の素イデアルをすべて求めよ。

解答

(1) p\mathfrak{p} が素イデアルなら R/pR/\mathfrak{p} は有限整域なので体(命題 5.6(2))。定理 5.17 より p\mathfrak{p} は極大。

(2) 対応定理より、Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} のイデアルは nZ⊂dZn\mathbb{Z} \subset d\mathbb{Z}、すなわち d∣nd \mid n(d≥1d \geq 1)となる dZ/nZ=(d‾)d\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} = (\overline{d}) である。(Z/nZ)/(d‾)≅Z/dZ(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})/(\overline{d}) \cong \mathbb{Z}/d\mathbb{Z} が整域   ⟺  d\iff d は素数。よって素イデアルは nn の素因数 pp に対する (p‾)(\overline{p}) であり、(1) よりすべて極大である。

問題 5.7 ★★ KK を体とする。行列環 M⁡n(K)\operatorname{M}_n(K) の両側イデアルは 00 と M⁡n(K)\operatorname{M}_n(K) だけであることを示せ。

解答

I≠0I \neq 0 を両側イデアルとし、A=(akl)∈IA = (a_{kl}) \in I, akl≠0a_{kl} \neq 0 とする。行列単位について EikAElj=aklEijE_{ik}AE_{lj} = a_{kl}E_{ij}(EikAE_{ik}A は AA の第 kk 行を第 ii 行に置いた行列で、それに EljE_{lj} を右から掛けると (i,l)(i, l) 成分 akla_{kl} が (i,j)(i, j) 成分に移る)。よって Eij=akl−1EikAElj∈IE_{ij} = a_{kl}^{-1}E_{ik}AE_{lj} \in I がすべての i,ji, j で成り立ち、単位行列 E=∑iEii∈IE = \sum_i E_{ii} \in I。ゆえに I=M⁡n(K)I = \operatorname{M}_n(K)。

(したがって M⁡n(K)\operatorname{M}_n(K) は非可換環として「単純」であるが、零因子をもつので斜体ではない。可換環で命題 5.9 が成り立つのとは対照的である。)

問題 5.8 ★★ f≡2(modx−1)f \equiv 2 \pmod{x - 1} かつ f≡x(modx2+1)f \equiv x \pmod{x^2 + 1} をみたす f∈Q[x]f \in \mathbb{Q}[x] で次数 2 以下のものを求めよ。

解答

(x2+1)−(x+1)(x−1)=2(x^2 + 1) - (x + 1)(x - 1) = 2 より、a=−12(x2−1)∈(x−1)a = -\frac{1}{2}(x^2 - 1) \in (x - 1), b=12(x2+1)∈(x2+1)b = \frac{1}{2}(x^2 + 1) \in (x^2 + 1) として a+b=1a + b = 1。定理 5.23 の証明に従い

f0=2b+xa=(x2+1)−x3−x2=−x3+2x2+x+22f_0 = 2b + xa = (x^2 + 1) - \frac{x^3 - x}{2} = \frac{-x^3 + 2x^2 + x + 2}{2}

これを (x−1)(x2+1)=x3−x2+x−1(x - 1)(x^2 + 1) = x^3 - x^2 + x - 1 で割った余りを求めると、−x3+2x2+x+2=−(x3−x2+x−1)+(x2+2x+1)-x^3 + 2x^2 + x + 2 = -(x^3 - x^2 + x - 1) + (x^2 + 2x + 1) より

f=x2+2x+12=(x+1)22f = \frac{x^2 + 2x + 1}{2} = \frac{(x + 1)^2}{2}

検算:f(1)=4/2=2f(1) = 4/2 = 2。x2≡−1(modx2+1)x^2 \equiv -1 \pmod{x^2 + 1} より f≡(−1+2x+1)/2=xf \equiv (-1 + 2x + 1)/2 = x。

問題 5.9 ★★★ C([0,1])C([0, 1]) の極大イデアルは mc={f∣f(c)=0}\mathfrak{m}_c = \lbrace f \mid f(c) = 0 \rbrace(c∈[0,1]c \in [0, 1])の形のものに限ることを示せ。

解答

II を真のイデアルとし、ある cc で I⊂mcI \subset \mathfrak{m}_c となることを示せばよい(II が極大なら I=mcI = \mathfrak{m}_c)。そうでないと仮定すると、各 c∈[0,1]c \in [0, 1] に対し fc(c)≠0f_c(c) \neq 0 となる fc∈If_c \in I がある。連続性より fcf_c は cc の開近傍 UcU_c 上で 00 にならない。[0,1][0, 1] はコンパクトなので(集合と位相 第5章)、有限個の Uc1,…,UcmU_{c_1}, \dots, U_{c_m} で覆われる。g=fc12+⋯+fcm2∈Ig = f_{c_1}^2 + \cdots + f_{c_m}^2 \in I は各点で正であり、1/g∈C([0,1])1/g \in C([0, 1]) なので gg は単元、I=C([0,1])I = C([0, 1]) となり矛盾する。

(点 cc と極大イデアル mc\mathfrak{m}_c を同一視する考え方は、代数幾何学 第1章の出発点である。)

問題 5.10 ★★ pp を素数とする。Fp[x]\mathbb{F}_p[x] において、任意の ff について f(x)p=f(xp)f(x)^p = f(x^p) が成り立つことを示せ。これを用いて、整数 aia_i に対し (a0+a1+⋯+an)p≡a0+a1+⋯+an(modp)(a_0 + a_1 + \cdots + a_n)^p \equiv a_0 + a_1 + \cdots + a_n \pmod p を導け。

解答

f=∑aixif = \sum a_ix^i とする。Fp[x]\mathbb{F}_p[x] は標数 pp なのでフロベニウス写像は環準同型で、fp=∑aipxipf^p = \sum a_i^p x^{ip}。フェルマーの小定理より aip=aia_i^p = a_i なので、fp=∑ai(xp)i=f(xp)f^p = \sum a_i(x^p)^i = f(x^p)。

後半:f=∑ai‾xif = \sum \overline{a_i}x^i に上の等式を適用して x=1x = 1 を代入する(代入は環準同型)と、(∑ai‾)p=∑ai‾(\sum \overline{a_i})^p = \sum \overline{a_i}。これは両辺の Z\mathbb{Z} における値について主張の合同式を意味する(フェルマーの小定理そのものの言い換えでもある)。

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「読了」にすると学習記録とロードマップに反映されます。演習の自己採点もお忘れなく。

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