この章の目標
- 昇鎖条件の同値な言い換えを証明し、ヒルベルトの基底定理によりネーター環の例を量産できる
- アルティン環が次元 0 のネーター環にほかならないことを証明し、その構造を理解する
- 加群の長さを計算し、交点の重複度として解釈できる
- ネーター環で準素分解の存在と 2 つの一意性定理を証明し、随伴素イデアルと零因子の関係を使える
前提:第1章、第2章
Z の元が素数べきの積に分解されるように、ネーター環のイデアルは準素イデアルの共通部分に分解される。幾何的には、図形 V(I) を既約成分に分けることにあたるが、それだけでは終わらない。第1章の例 1.6 で見た (x2,xy) のように、イデアルは図形の上に「埋め込まれた点」をもちうる。準素分解は、既約成分と埋め込まれた部分を合わせて記述する道具である。その前提となるのが、イデアルの昇鎖が必ず止まるというネーター性である。
3.1 ネーター加群
定義 3.1 A 加群 M の部分加群の任意の昇鎖 M1⊂M2⊂⋯ がある番号から先で一定になるとき(昇鎖条件, ACC)、M をネーター加群 (Noetherian module) という。A 自身がネーター A 加群のとき、A をネーター環という。降鎖条件(DCC)をみたすものをアルティン加群・アルティン環という。
命題 3.2 次は同値である。(a) M はネーター加群 (b) 部分加群からなる空でない集合は必ず極大元をもつ (c) M の部分加群はすべて有限生成。
証明. (a)⇒(b):極大元がなければ、選択公理により真の昇鎖が無限に続く。(b)⇒(c):部分加群 N の有限生成部分加群全体の極大元 N0 をとると、任意の x∈N について N0+Ax も有限生成なので N0+Ax=N0、よって N=N0。(c)⇒(a):昇鎖の和集合 ⋃Mi は部分加群で有限生成だから、生成元はすべてある Mn に含まれ、Mn=Mn+1=⋯。□
命題 3.3 0→M′fMgM′′→0 を完全列とすると、M がネーター ⟺ M′ と M′′ がネーター。アルティンについても同様である。
証明. (⇒) M′ の昇鎖は f で M の昇鎖に、M′′ の昇鎖は g−1 で M の昇鎖に写る。(⇐) M の昇鎖 Li に対し f−1(Li) と g(Li) はある番号から一定になる。Li⊂Li+1 で f−1(Li)=f−1(Li+1), g(Li)=g(Li+1) なら Li=Li+1 である(x∈Li+1 に対し g(x)=g(y) となる y∈Li をとると x−y∈f(M′)∩Li+1=f(f−1(Li+1))⊂Li)。降鎖も同じ。□
系 3.4 A がネーター環なら、有限生成 A 加群はネーター加群であり、特に有限表示である。
証明. An は命題 3.3 と帰納法でネーター、その剰余加群もネーター。有限生成 M に対する全射 An→M の核は有限生成なので M は有限表示。□
例 3.5(ネーターでない環)(1) 無限変数の多項式環 K[x1,x2,…]:(x1)⊊(x1,x2)⊊⋯。
(2) C([0,1]):In={f∣[0,1/n] 上で f=0} は真の昇鎖をなす。
(3) 代数的整数全体の環 Z:(2)⊊(21/2)⊊(21/4)⊊⋯(真であることは 2−1/2n+1 が代数的整数でないことから、第4章)。
(4) ネーター環の部分環はネーターとは限らない:K[x,xy,xy2,…]⊂K[x,y](問題 3.6)。
3.2 ヒルベルトの基底定理
定理 3.6(ヒルベルトの基底定理, Hilbert's basis theorem)A がネーター環ならば A[x] もネーター環である。
証明. I⊂A[x] をイデアルとし、Ln を「I に属する次数 n の多項式の最高次係数と 0」の集合とする。Ln は A のイデアルで、x を掛けることにより L0⊂L1⊂⋯。A はネーターなのでこれは LN で止まり、各 Ln (n≤N) は有限生成である。Ln の生成元 an1,…,ankn を最高次係数にもつ次数 n の fnj∈I をとり、J=(fnj)n≤N,j⊂I とおく。f∈I が J に属することを次数 d に関する帰納法で示す。d>N なら f の最高次係数は Ld=LN に属し ∑cjaNj と書けるので、f−∑cjxd−NfNj は次数 <d で I に属する。d≤N なら f−∑cjfdj で同様。帰納法の仮定よりそれは J に属し、f∈J。よって I=J は有限生成である。□
系 3.7 ネーター環 A について、(1) 有限型 A 代数はネーター環 (2) 剰余環 A/I はネーター環 (3) 局所化 S−1A はネーター環。
証明. (1) 定理 3.6 と帰納法で A[x1,…,xn] はネーター、その剰余環もネーター((2))。(2) A/I のイデアルは I を含む A のイデアルに対応する。(3) S−1A のイデアル J は J=S−1(ι−1J) をみたす(定理 2.17 の証明)ので、S−1A の昇鎖は A の昇鎖 ι−1(Ji) から得られる。□
Z[x1,…,xn]、K[x,y]/(y2−x3)、Z[−5]、Z(p)、K[x,y](x,y) はすべてネーター環である。幾何的には、任意の図形 V(I) は有限個の方程式で定義される。
命題 3.8 A をネーター環とすると、SpecA の閉集合は有限個の既約閉集合の和集合に書け、互いに包含関係のない書き方は順序を除き一意的である。特に A の極小素イデアルは有限個である。
証明. 閉集合 V(I) の降鎖は根基イデアル I(V) の昇鎖に対応する(命題 2.23)ので止まる。有限和に書けない閉集合の全体が空でなければ極小元 Y がある。Y は既約でないので Y=Y1∪Y2(真の閉部分集合)と書け、極小性から Y1,Y2 は有限和に書けるので Y も書けて矛盾。一意性:Y1∪⋯∪Yr=Z1∪⋯∪Zs なら、Y1=⋃j(Y1∩Zj) と既約性より Y1⊂Zj、同様に Zj⊂Yk となり、包含関係がないことから Y1=Zj。後半は、SpecA の既約成分 V(p) が極小素イデアル p に対応することによる(定理 2.25)。□
例:V(xy)⊂SpecK[x,y] の既約成分は 2 本の軸 V(x),V(y)。V(xy,xz)⊂SpecK[x,y,z] は (xy,xz)=(x)∩(y,z) より平面 V(x) と直線 V(y,z) の和で、次元の異なる成分をもつ。
3.3 アルティン環
補題 3.9 A をアルティン環とする。(1) 素イデアルはすべて極大イデアル。(2) 極大イデアルは有限個。(3) nil(A) は冪零イデアル(nil(A)k=0 となる k がある)。
証明. (1) B=A/p はアルティン整域。0=x∈B について (x)⊃(x2)⊃⋯ は止まり、xn=xn+1y から 1=xy。よって B は体。(2) 有限個の極大イデアルの共通部分全体の極小元 m1∩⋯∩mn をとる。任意の極大イデアル m について m∩m1∩⋯∩mn=m1∩⋯∩mn なので m⊃m1⋯mn、よって m⊃mi、m=mi。(3) N=nil(A) の降鎖 N⊃N2⊃⋯ は a=Nk=Nk+1=⋯ で止まる。a=0 と仮定し、ba=0 となるイデアル b 全体(a2=a より a を含む)の極小元 c をとる。xa=0 となる x∈c があり、極小性から c=(x)。(xa)a=xa=0 で xa⊂(x) だから xa=(x) となり、x=xy (y∈a)。y は冪零なので x=xy=xy2=⋯=0 となり矛盾。□
補題 3.10 極大イデアル(重複を許す)の積が m1⋯mn=0 ならば、A がネーター ⟺ A がアルティン。
証明. 列 A⊃m1⊃m1m2⊃⋯⊃m1⋯mn=0 の各商は A/mi 上のベクトル空間であり、ベクトル空間では ACC ⟺ 有限次元 ⟺ DCC。命題 3.3 を繰り返し使う。□
定理 3.11 A がアルティン環 ⟺ A はネーター環で、すべての素イデアルが極大(クルル次元 0、第5章)。
証明. (⇒) 補題 3.9 の記号で、(1) より rad(A)=nil(A)。(m1⋯mn)k⊂nil(A)k=0 なので補題 3.10 よりネーター。(⇐) 命題 3.8 より極小素イデアルは有限個で、それらは極大なので素イデアル全体 m1,…,mn である。nil(A)=⋂mi は有限生成なので冪零(生成元 xi が xiei=0 なら nil(A)∑(ei−1)+1=0)。(m1⋯mn)k=0 となり補題 3.10 を使う。□
定理 3.12(アルティン環の構造定理)アルティン環 A は有限個のアルティン局所環の直積に同型であり、その因子は A の極大イデアル mi での局所化 Ami として一意的に定まる。
証明の概略. 上の証明の k について ∏imik=0 で、mik たちはどの 2 つも互いに素(和の根基が mi+mj=A を含む)。中国剰余定理(代数学 第5章 定理 5.23)より A≅∏iA/mik で、A/mik の素イデアルは mi だけだから局所環である。一意性は、直積 ∏Bj(Bj 局所)の各極大イデアルでの局所化が Bj に一致すること(問題 2.4)から従う。□
幾何的には、アルティン環の Spec は有限個の点からなる離散空間で、各点に冪零元による「太さ」がついている。
例 3.13 Z/12≅Z/4×Z/3、K[x]/(x2(x−1))≅K[x]/(x2)×K。K[x,y]/(x2,xy,y2) は局所アルティン環。Z はネーターだがアルティンでない((2)⊋(4)⊋⋯、次元 1)。加群では、Z[1/p]/Z はアルティンだがネーターでない Z 加群である(問題 3.5)。
3.4 加群の長さ
定義 3.14 部分加群の列 M=M0⊋M1⊋⋯⊋Mn=0 で各 Mi−1/Mi が単純加群(0 でなく、0 と自身以外の部分加群をもたない)であるものを組成列 (composition series) という。組成列をもつとき、その長さ n を M の長さ (length) といい ℓA(M) と書く。
単純 A 加群は A/m(m 極大)に同型である。
定理 3.15 M が長さ n の組成列をもてば、M の部分加群の真の降鎖の長さは n 以下で、組成列はすべて長さ n である。M が組成列をもつ ⟺ M はネーターかつアルティン。完全列 0→M′→M→M′′→0 に対し ℓ(M)=ℓ(M′)+ℓ(M′′)。
証明の概略. 組成列の最小の長さを ℓ(M) とし、真の部分加群 N⊊M について ℓ(N)<ℓ(M) を示せば前半が従う。最短の組成列 (Mi) と Ni=N∩Mi をとると、Ni−1/Ni↪Mi−1/Mi は 0 か同型なので、重複を除いて N の組成列が得られ、長さが n に等しければ下から順に Ni=Mi となって N=M となる。組成列をもてば鎖の長さが有界なので ACC と DCC をみたす。逆に ACC から極大な真部分加群を次々ととり、DCC によりその列が 0 で止まる。加法性は M′ と M′′ の組成列をつなげばよい(詳しくは [Atiyah–Macdonald] 第6章)。□
例 3.16 (1) 体上のベクトル空間の長さは次元。(2) ℓZ(Z/12)=3(Z/12⊃2Z/12⊃4Z/12⊃0)。一般に ℓ(Z/n) は n の素因数の重複込みの個数。(3) ℓ(K[x]/(xn))=n、ℓ(K[x,y]/(x,y)n)=n(n+1)/2(次数 <n の単項式の個数)。
長さは交点の重複度を与える。放物線 y=x2 と接線 y=0 の原点での交わりは K[x,y]/(y−x2,y)≅K[x]/(x2) で長さ 2、尖点 y2=x3 と直線 y=0 では K[x,y]/(y2−x3,y)≅K[x]/(x3) で長さ 3 である。「接する」ことが冪零元として代数的にとらえられる。
3.5 準素イデアル
素イデアルが素数、準素イデアルが素数べきの一般化である。
定義 3.17(準素イデアル, primary ideal)イデアル q=A が「xy∈q かつ x∈/q ならば yn∈q となる n がある」をみたすとき準素という。言い換えると、A/q の零因子はすべて冪零である。
命題 3.18 (1) q が準素なら p=q は q を含む最小の素イデアルである。このとき q を p 準素という。
(2) I が極大イデアル m ならば I は m 準素。特に mn は m 準素。
(3) p 準素イデアルの有限個の共通部分は p 準素。
証明. (1) xy∈q, x∈/q なら xmym∈q で xm∈/q なので ymn∈q。最小性は系 1.10。(2) A/I の素イデアルは m/I だけなので、A/I の元は単元か冪零(冪零元根基 =m/I)。零因子は単元でないので冪零。(3) ⋂qi=⋂qi=p。xy∈⋂qi, x∈/⋂qi なら、ある i で x∈/qi なので y∈p。□
例 3.19 (1) Z の準素イデアルは (0) と (pn)。
(2) K[x,y] の (x,y2) は根基が極大 (x,y) なので準素だが、(x,y)2⊊(x,y2)⊊(x,y) より素イデアルのべきではない。幾何的には「原点にある、y 方向に長さ 2 の太った点」である。
(3) 根基が素でも準素とは限らない:I=(x2,xy) は I=(x) だが、xy∈I, x∈/I, y∈/I。
(4) 素イデアルのべきは準素とは限らない:A=K[x,y,z]/(xy−z2)、p=(x,z) では xy=z2∈p2 だが x∈/p2, y∈/p(問題 3.3)。
補題 3.20 q を p 準素、x∈A とする。(1) x∈q なら (q:x)=A。(2) x∈/q なら (q:x) は p 準素。(3) x∈/p なら (q:x)=q。
証明. (1) は明らか。(2) y∈(q:x) なら xy∈q, x∈/q より y∈p。よって q⊂(q:x)⊂p で根基は p。yz∈(q:x), y∈/p なら y(xz)∈q で y のべきは q に入らないので xz∈q、すなわち z∈(q:x)。(3) xy∈q で x のべきは q に入らないので y∈q。□
3.6 準素分解
定義 3.21 I=q1∩⋯∩qn(qi 準素)を I の準素分解 (primary decomposition) という。qi が相異なり、どの qi も残りの共通部分を含まないとき最短であるという。
命題 3.18 (3) により、同じ根基をもつ成分をまとめ、余分な成分を除けば、準素分解は最短にできる。
定理 3.22(ラスカー–ネーター, Lasker–Noether)ネーター環のイデアルは準素分解をもつ。
証明. I が I=J∩J′(J,J′⊋I)と書けないとき既約とよぶ。
(i) 任意のイデアルは有限個の既約イデアルの共通部分:そうでないイデアル全体に極大元 I があれば、I は既約でないので I=J∩J′ (J,J′⊋I) で、J,J′ は極大性より有限個の既約イデアルの共通部分となり矛盾。
(ii) 既約イデアルは準素:A/I に移って (0) が既約として示す。xy=0, y=0 とする。Ann(x)⊂Ann(x2)⊂⋯ は Ann(xn)=Ann(xn+1) で止まる。a∈(xn)∩(y) を a=bxn=cy と書くと、ax=cxy=0 より bxn+1=0、b∈Ann(xn+1)=Ann(xn) で a=0。よって (xn)∩(y)=0 で、(0) の既約性と (y)=0 から xn=0。□
定理 3.23(第一一意性定理)I=⋂i=1nqi を最短準素分解、pi=qi とする。{p1,…,pn} は、x∈A を動かしたときに (I:x) として現れる素イデアル全体に一致する。特に分解によらない。
証明. (I:x)=⋂i(qi:x) なので、補題 3.20 より (I:x)=⋂x∈/qipi。これが素イデアル p なら、p⊃∏x∈/qipi よりある pj⊂p で、逆の包含もあるので p=pj。逆に最短性から xi∈⋂j=iqj∖qi がとれ、(I:xi)=pi。□
pi のうち包含に関して極小なものを孤立素イデアル (isolated prime)、そうでないものを埋没素イデアル (embedded prime) という。I を含む素イデアルはある qi、したがって pi を含むので、孤立素イデアルは I を含む極小素イデアル、すなわち V(I) の既約成分に対応する。
定理 3.24(第二一意性定理)pi が孤立素イデアルならば、成分 qi は I だけで決まる:qi={x∈A∣sx∈I (∃s∈/pi)}。
証明. p=pi で局所化する。系 2.8 より IAp=⋂jqjAp。j=i なら極小性より pj⊂p、よって qj⊂p で qjAp=Ap。ゆえに IAp=qiAp で、両辺を A に引き戻すと右辺の引き戻しは補題 3.20 (3) より qi、左辺は主張の集合である。□
例 3.25(埋没成分は一意でない)K[x,y] で
(x2,xy)=(x)∩(x,y)2=(x)∩(x2,y)
実際 xf∈(x,y)2⟺f∈(x,y)、xf∈(x2,y)⟺f∈(x,y) なので、どちらの右辺も x(x,y) に等しい。随伴素イデアルは (x)(孤立:y 軸)と (x,y)(埋没:原点)で、孤立成分 (x) は一意だが、原点の成分は (x,y)2 とも (x2,y) とも選べる。埋没素イデアル自体(原点)は一意に決まる。
3.7 随伴素イデアルと零因子
定義 3.26(随伴素イデアル, associated prime)A 加群 M について、ある x∈M により p=Ann(x) と書ける素イデアル p を M の随伴素イデアルといい、その全体を AssAM と書く。p∈AssM は単射 A/p↪M の存在と同値である。
定理 3.27 A をネーター環、M を A 加群とする。
(1) {Ann(x)∣0=x∈M} の極大元は素イデアルで AssM に属する。特に M=0 なら AssM=∅。
(2) M の零因子(ax=0 となる 0=x∈M が存在する a)全体は ⋃p∈AssMp に等しい。
(3) I=⋂qi が最短準素分解なら Ass(A/I)={qi}。
(4) M が有限生成なら AssM は有限集合である。
証明. (1) Ann(y) が極大で bc∈Ann(y), c∈/Ann(y) とすると、cy=0 で Ann(cy)⊃Ann(y) だから等号が成り立ち、b∈Ann(cy)=Ann(y)。y=0 より Ann(y)=A。
(2) a∈Ann(x) (x=0) なら、Ann(x) を含む Ann(y) (y=0) の極大元(ネーター性より存在)が (1) より随伴素イデアルで a を含む。逆は明らか。
(3) xˉ∈A/I について Ann(xˉ)=(I:x) なので、これが素なら定理 3.23 より pi のどれか。逆に xi∈⋂j=iqj∖qi をとると (I:xi)=(qi:xi) は pi 準素(補題 3.20)。pi は有限生成なので piNxi⊂qi となる最小の N≥1 があり、y∈piN−1xi∖qi をとると y∈⋂j=iqj、piy⊂qi なので pi⊂(qi:y)⊂pi、すなわち (I:y)=pi。
(4) 完全列 0→M′→M→M′′→0 について AssM⊂AssM′∪AssM′′ である(p=Ann(x) で Ax∩M′∋ax=0 なら Ann(ax)=(p:a)=p、Ax∩M′=0 なら x の M′′ での像の零化イデアルが p)。(1) を繰り返し使うと、ネーター性により 0=M0⊂M1⊂⋯⊂Mn=M、Mi/Mi−1≅A/pi となる列がとれ、Ass(A/p)={p} から AssM⊂{p1,…,pn}。□
Ass(A/I) の極小元は I の極小素イデアル(既約成分)、それ以外が埋没素イデアルである。
幾何的意味. Ass(A/I) は「V(I) の既約成分」と「冪零な構造が埋め込まれている部分多様体」をあわせたものである。定理 3.27 (2) は「f が A/I の零因子 ⟺ f がある随伴成分(埋没成分を含む)上で恒等的に 0」と読める。例 3.25 の A=K[x,y]/(x2,xy) では AssA={(x),(x,y)} である。y は y 軸上で恒等的に 0 ではないが、埋没点(原点)で 0 になるため零因子である(y⋅xˉ=0)。一方 y+1 はどちらの素イデアルにも属さず零因子でない。
まとめ
- ネーター性は「昇鎖条件」「極大元の存在」「部分加群の有限生成性」と同値で、完全列・剰余・局所化・有限型代数で保たれる(ヒルベルトの基底定理)。
- ネーター環の Spec は有限個の既約成分をもち、極小素イデアルは有限個。
- アルティン環 = 次元 0 のネーター環。アルティン環はアルティン局所環の有限直積に一意的に分解する。
- 加群の長さは組成列の長さで、完全列について加法的。交点の重複度を与える。
- ネーター環のイデアルは準素分解をもつ(既約イデアル経由)。随伴素イデアルの集合(第一一意性)と孤立成分(第二一意性)は一意だが、埋没成分は一意でない。
- ネーター環上で零因子全体は随伴素イデアルの和集合。幾何的には埋没点も零因子を生む。
演習問題
問題 3.1 ★ 次の環はネーター環か。(a) Z[x]/(x2) (b) Z[1/2] (c) K[x,y](x,y) (d) B=∏n∈NF2。(d) についてはさらに、B のすべての素イデアル p で Bp≅F2 を示せ(ネーター性が局所的性質でないことの例)。
解答
(a)(b)(c) はネーター環(定理 3.6 と系 3.7:Z[1/2]=Z[x]/(2x−1)、(c) は K[x,y] の局所化)。
(d) In={(ak)∣k>n なら ak=0} は真の昇鎖なのでネーターでない。B の任意の元 e は e2=e をみたす。素イデアル p について e(1−e)=0∈p だから e∈p または 1−e∈p(両方は 1∈p となり不可)。e∈/p なら e/1 は単元で e(1−e)=0 より (1−e)/1=0、すなわち e/1=1。e∈p なら同様に e/1=0。Bp の元 b/s は s/1=1 より b/1∈{0,1} に等しく、Bp=0 なので Bp≅F2。
問題 3.2 ★★ K[x,y] のイデアル I=(x2y,xy2) の最短準素分解を求め、Ass(A/I) と A/I の零因子全体を答えよ(A=K[x,y])。V(I) と比べて幾何的に解釈せよ。
解答
I=xy(x,y) である。(x)∩(y)=(xy) で、xyf∈(x,y)3⟺f∈(x,y)(次数の比較)なので (xy)∩(x,y)3=xy(x,y)=I。よって
I=(x)∩(y)∩(x,y)3
は準素分解で((x,y)3 は命題 3.18 (2) より準素)、どの成分も除けない((x)∩(y)=(xy)=I など)ので最短。Ass(A/I)={(x),(y),(x,y)} で、(x,y) が埋没素イデアル。零因子全体は (x)∪(y)∪(x,y)=(x,y)。V(I) は 2 本の軸の和集合にすぎないが、I は原点に埋没点をもつ。実際 xy=0 は x,y で零化され、原点にのみ存在する。
問題 3.3 ★★ A=K[x,y,z]/(xy−z2)、p=(x,z)、m=(x,y,z) とする。(1) p は素イデアルで、p2 は準素でないことを示せ。(2) p2=(x)∩m2 が最短準素分解であることを示せ。
解答
A は x,y,z に次数 1 を与えた次数付き環で、xy−z2 は既約なので A は整域である。
(1) A/p≅K[y] は整域。p2=(x2,xz,z2)=(x2,xz,xy)=xm は次数 2 以上の元からなるので x∈/p2、また y∈/p=p2。一方 xy=z2∈p2。よって準素でない。
(2) A/(x)≅K[y,z]/(z2) の零因子は z の倍元で冪零なので、(x) は (x)=(x,z)=p の準素イデアル。m2 は m 準素。xf∈m2⟺f∈m(f の定数項 c があれば xf は次数 1 の成分 cx=0 をもつ)なので (x)∩m2=xm=p2。(x)⊂m2、m2⊂(x)(y2∈/(x))より最短。幾何的には、錐 xy=z2 上の直線 x=z=0 を「2 重」にしたものが、錐の頂点(特異点)に埋没点をもつ。孤立成分 (x) は記号的べき p(2)=p2Ap∩A である。
問題 3.4 ★★ λ∈K とし、尖点 C:y2=x3 と直線 L:y=λx の交わり K[x,y]/(y2−x3,y−λx) を、アルティン局所環の直積に分解せよ。交点ごとの長さを求め、その総和が 3 であることを確かめよ。直線 x=0 についても調べよ。
解答
y=λx を代入して K[x]/(λ2x2−x3)=K[x]/(x2(λ2−x))。λ=0 なら中国剰余定理で K[x]/(x2)×K[x]/(x−λ2):原点で長さ 2、点 (λ2,λ3) で長さ 1、計 3。λ=0 なら K[x]/(x3):原点で長さ 3(接線方向の直線は尖点と 3 重に交わる)。x=0 なら K[y]/(y2) で原点で長さ 2。この場合の総和が 2 なのは、交点が「無限遠点」に 1 つ逃げているためである(射影平面では 3 になる:ベズーの定理、代数幾何学 第2章)。
問題 3.5 ★★ (1) K[x]/(x3−x2) と Z/360 をアルティン局所環の直積に分解し、Z/360 の Z 加群としての長さを求めよ。(2) M=Z[1/p]/Z はアルティン Z 加群だがネーター加群でないことを示せ。
解答
(1) K[x]/(x2(x−1))≅K[x]/(x2)×K。360=23⋅32⋅5 より Z/360≅Z/8×Z/9×Z/5、長さは 3+2+1=6。
(2) Mn=⟨1/pn⟩≅Z/pn は真の昇鎖をなすのでネーターでない。M の部分加群 N=M は、ある n で N=Mn となる:N が a/pk (p∤a) を含めば 1/pk も含む(ab≡1modpk となる b を掛ける)ので、N に現れる分母の指数が有界なら N=Mn、非有界なら N=M。よって真の部分加群は有限集合で、降鎖は止まる。
問題 3.6 ★★ B=K[x,xy,xy2,…]⊂K[x,y] はネーター環でないことを示せ。
解答
B=K+xK[x,y] である(右辺は環で生成元を含み、逆に xa+1yb=xa⋅xyb∈B)。I=xK[x,y] は B のイデアルである。I が f1,…,fn∈I で生成されると仮定し、N を fi の y についての次数の最大値とする。xyN+1=∑fibi、bi=ci+xgi (ci∈K,gi∈K[x,y]) と書くと、∑fibi=∑cifi+x∑figi で、第 2 項は x2K[x,y] に属する。よって xyN+1 は ∑cifi の x について 1 次の部分から来るが、そこに現れる y の次数は N 以下で矛盾。
問題 3.7 ★★★ A がネーター環ならば形式的べき級数環 A[[x]] もネーター環であることを示せ。
解答
(詳しいヒント)定理 3.6 の証明で「最高次係数」を「最低次係数」に置き換える。イデアル I⊂A[[x]] に対し、Ln を「I の元で xn の係数から始まる(位数 n の)ものの xn の係数と 0」の集合とすると、L0⊂L1⊂⋯ はイデアルの昇鎖で LN で止まる。各 Ln (n≤N) の生成元を最低次係数にもつ位数 n の元 fnj∈I をとる。f∈I に対し、f−∑jcjfnj の位数を 1 ずつ上げる操作を繰り返す。位数が N を超えてからは ∑jcj(m)xm−NfNj を引いていき、係数 ∑mcj(m)xm−N は A[[x]] の元として収束する(x 進位相、第6章)。こうして f は有限個の fnj の A[[x]] 係数一次結合になる。