Lemma数学ロードマップ

13 · ステージ 6 大学院

可換環論

局所化、ネーター環、準素分解、整拡大と零点定理、次元論、完備化、デデキント環、コーエン–マコーレー環

8 章目安 90〜120 時間演習 55 問

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章の一覧

  1. 1 環と加群の基礎目安 15〜20 時間 · 演習 7 問
  2. 2 局所化と素スペクトル目安 12〜16 時間 · 演習 6 問
  3. 3 ネーター環・アルティン環と準素分解目安 12〜16 時間 · 演習 7 問
  4. 4 整拡大と零点定理目安 11〜14 時間 · 演習 7 問
  5. 5 次元論目安 11〜14 時間 · 演習 7 問
  6. 6 完備化目安 10〜13 時間 · 演習 7 問
  7. 7 離散付値環とデデキント環目安 10〜13 時間 · 演習 7 問
  8. 8 深さとコーエン–マコーレー環目安 10〜13 時間 · 演習 7 問

概要

可換環論は、可換環とその上の加群を調べる分野であり、代数幾何学と代数的整数論の共通の土台である。出発点は、代数学で学んだイデアル・素イデアル・一意分解整域の理論だが、この科目ではそれらを空間の言葉で読み直す。環 AA に対し素イデアル全体の空間 Spec⁡A\operatorname{Spec} A を考えると、

  • 素イデアルは点、元は点での値をもつ関数、イデアルは方程式で定まる図形
  • 局所化は開集合への制限、あるいは 1 点のまわりへのズーム
  • クルル次元は図形の次元、正則局所環は滑らかな点、それ以外は特異点
  • 完備化は点のまわりでのべき級数展開(解析的な局所構造)

という辞書が成り立つ。Z\mathbb{Z} も C[x,y]\mathbb{C}[x, y] も、尖点をもつ曲線の座標環 K[x,y]/(y2−x3)K[x, y]/(y^2 - x^3) も、一意分解が壊れる Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] も、この同じ言葉で扱える。

科目の前半(第1〜4章)では、テンソル積・局所化・ネーター環・準素分解・整拡大といった基本的な道具を整え、ヒルベルトの零点定理に至る。後半(第5〜8章)では、次元論・完備化・デデキント環・コーエン–マコーレー環を扱い、「特異点とは何か」「素因数分解はなぜイデアルで回復するか」という問いに可換環論の答えを与える。

学び方の基本方針:すべての定義と定理を、(1) 具体的な環(Z\mathbb{Z}、K[x,y]K[x, y]、K[x,y]/(y2−x3)K[x, y]/(y^2 - x^3)、Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] など)で計算して確かめ、(2) Spec⁡\operatorname{Spec} 上の絵として解釈し、(3) 仮定(ネーター性・局所性・有限生成性)を外したときの反例を確認する、という 3 つの面から理解すること。環はすべて可換で単位元をもつとする。

前提知識

到達目標

  • [ ] イデアルの演算と Spec⁡A\operatorname{Spec} A 上の閉集合の演算を対応させ、冪零元根基・ジャコブソン根基を計算できる
  • [ ] 行列式トリックと中山の補題を証明し、局所環上の加群の極小生成系を扱える
  • [ ] テンソル積の普遍性と右完全性を証明し、係数拡大によってファイバー(例:Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] の素数 pp 上の点)を計算できる
  • [ ] 局所化の構成・完全性・素イデアルの対応を証明し、局所的性質を使った議論ができる
  • [ ] Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}、Spec⁡K[x]\operatorname{Spec} K[x]、Spec⁡C[x,y]\operatorname{Spec} \mathbb{C}[x, y] の点を分類し、ザリスキー位相の生成点・既約成分を説明できる
  • [ ] ヒルベルトの基底定理と、アルティン環 = 次元 0 のネーター環であることを証明できる
  • [ ] ネーター環のイデアルの準素分解を求め、随伴素イデアル・埋没素イデアルを幾何的に解釈できる
  • [ ] 整拡大の上昇定理・ネーターの正規化定理・ヒルベルトの零点定理を証明できる
  • [ ] クルルの単項イデアル定理を証明し、パラメータ系・超越次数・ヒルベルト–サミュエル関数で次元を計算できる
  • [ ] ヤコビアン判定法で代数多様体の特異点を求め、正則局所環を判定できる
  • [ ] アルティン–リースの補題・クルルの交叉定理・ヘンゼルの補題を証明し、pp 進数やべき級数の計算に使える
  • [ ] 離散付値環とデデキント整域の同値な特徴づけを証明し、Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] のイデアルを素イデアルに分解できる
  • [ ] 深さを Ext⁡\operatorname{Ext} で特徴づけ、コーエン–マコーレー環の例・非例を挙げ、セールの判定法で正規性を判定できる

章立て

  1. 第1章 環と加群の基礎 イデアルの演算と V(I)V(I)、素イデアル回避、冪零元根基とジャコブソン根基、局所環、行列式トリックと中山の補題、有限表示加群、テンソル積(構成・普遍性・右完全性)、係数拡大とファイバー、平坦加群。
  2. 第2章 局所化と素スペクトル 積閉集合と分数環、分数加群と完全性、局所的性質(零・単射・全射・平坦性)、素イデアルの対応、台、ザリスキー位相(準コンパクト性・生成点・関手性)、Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}・Spec⁡K[x]\operatorname{Spec} K[x]・Spec⁡C[x,y]\operatorname{Spec} \mathbb{C}[x, y] の点の分類。
  3. 第3章 ネーター環・アルティン環と準素分解 昇鎖条件、ヒルベルトの基底定理、既約成分の有限性、アルティン環の特徴づけと構造定理、加群の長さと交点の重複度、準素イデアル、ラスカー–ネーターの準素分解と一意性定理、随伴素イデアルと零因子。
  4. 第4章 整拡大と零点定理 整元と整閉包、正規環と正規化(尖点・結節点)、lying over・going up・比較不能性、going down(概略)、ネーターの正規化定理、ザリスキーの補題、ヒルベルトの零点定理、ジャコブソン環。
  5. 第5章 次元論 クルル次元と高さ、クルルの単項イデアル定理と高さ定理、パラメータ系、ヒルベルト–サミュエル関数と次元定理(概略)、次元 = 超越次数、正則局所環、ヤコビアン判定法と特異点。
  6. 第6章 完備化 II 進位相と完備化、アルティン–リースの補題、クルルの交叉定理、完備化の完全性と平坦性、ヘンゼルの補題、結節点の解析的分解、コーエンの構造定理(主張)。
  7. 第7章 離散付値環とデデキント環 付値環、離散付値環の特徴づけ、デデキント整域と分数イデアル、イデアルの一意素分解、イデアル類群(Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]・アフィン曲線)、有限次拡大での整閉包(概略)。
  8. 第8章 深さとコーエン–マコーレー環 正則列、深さと Ext⁡\operatorname{Ext}、depth⁡≤dim⁡\operatorname{depth} \leq \dim、コーエン–マコーレー環、アンミックスドネス定理、アウスランダー–ブックスバウムの公式とセールの定理(主張・概略)、セールの正規性判定法、ゴレンシュタイン環への入口。

学習時間の目安と進め方

  • 1 章あたり 12〜18 時間(本文の精読 7〜10 時間、演習 5〜8 時間)、全体で 110〜140 時間程度を想定している。大学院修士 1 年の通年講義 1 科目分に相当する。
  • 章の依存関係はおおよそ次のとおりである。
    • 第1章 → 第2章 → 第3章 → 第4章(基礎:どの後続章にも必要)
    • 第3章・第4章 → 第5章 → 第8章(次元とホモロジー的方法の流れ)
    • 第3章・第5章 → 第6章(第6章のアルティン–リースの補題は第5章の次元定理の概略でも使う)
    • 第4章・第5章・第6章 → 第7章(数論と曲線の流れ)
  • 代数的整数論を主目標とする場合は、第1〜4章の後に第7章へ進み、第5章・第6章は必要に応じて参照してよい。代数幾何学を主目標とする場合は、第1〜5章を丁寧に学んだあと 代数幾何学 と並行して第6〜8章を読むとよい。
  • 定理を読んだら、(1) 尖点・結節点・錐・Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] などの手持ちの例で確かめる、(2) Spec⁡\operatorname{Spec} の絵を描く、(3) 仮定を 1 つ外した反例を探す、の 3 点を習慣にすること。本文にも反例を多数挙げてある。
  • 演習問題は ★ で定義を確認し、★★ で標準的な計算と証明を、★★★ で発展的な内容を扱う。★★★ の多くは本文で「主張のみ」とした事実の一部の証明になっている。

参考文献

  • M. F. Atiyah, I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra (Addison-Wesley)(邦訳『可換代数入門』新妻弘訳、共立出版) 薄く簡潔な標準的入門書。本科目の第1〜7章の範囲をほぼ網羅し、演習問題が非常に充実している。最初の一冊に最適。
  • 松村英之『可換環論』(共立出版)/H. Matsumura, Commutative Ring Theory (Cambridge University Press) 修士レベルの標準的な教科書(英語版は日本語版を改訂したもの)。次元論・正則列・コーエン–マコーレー環・完備化まで、証明が簡潔かつ完全。第5〜8章の主な参考書。
  • D. Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry (Springer) 幾何的な動機づけを重視した大部の教科書。本科目の「Spec の絵で考える」方針に最も近い。ヘンゼルの補題・正規化・セールの判定法・自由分解の話題が詳しい。
  • 後藤四郎・渡辺敬一『可換環論』(日本評論社) 日本語で書かれた本格的な教科書。深さ・コーエン–マコーレー環・ゴレンシュタイン環など第8章以降の内容に詳しい。
  • 堀田良之『可換環と体』(岩波書店) 体論と可換環論を統一的に扱う。零点定理・整拡大・付値論の理解を深めるのに適する。
  • 雪江明彦『代数学3 代数学のひろがり』(日本評論社) 代数学の基礎から可換環論・代数幾何への橋渡しを丁寧に行う。第1〜4章の復習と補足に向く。
  • W. Bruns, J. Herzog, Cohen–Macaulay Rings (Cambridge University Press) コーエン–マコーレー環・ゴレンシュタイン環の専門書。第8章で主張のみとした定理(アウスランダー–ブックスバウム、セールの定理、アンミックスドネス定理)の証明はここにある。

次に学ぶもの