この章の目標
- 代数的集合とイデアルの対応(イデアル–多様体対応)を零点定理から導き、具体例で使える
- ザリスキー位相のネーター性と既約分解の存在・一意性を証明できる
- アフィン多様体の圏と「有限生成 k 代数である整域」の圏の反変同値を証明し、同型の判定に使える
- 接空間を定義し、ヤコビアン判定法で曲線の特異点を求められる
前提:13-commutative-algebra 第3章(ヒルベルトの基底定理)、第4章(零点定理)、第5章(次元論)、03-topology 第2章、12-category-homological-algebra 第1章(圏同値)
この章を通じて k は代数閉体とし、k[x]=k[x1,…,xn] と略記する。
1.1 動機:多項式で定義される図形
次の図形を考えよう。
- 円 x2+y2=1、放物線 y=x2、双曲線 xy=1
- 尖点(カスプ)をもつ曲線 y2=x3、結節点(ノード)をもつ曲線 y2=x2(x+1)
- 2 本の座標軸の和 xy=0
- 空間内のねじれ 3 次曲線 (twisted cubic) {(t,t2,t3)∣t∈k}
代数幾何学はこれらの図形をその上の多項式関数のなす環を通して調べる。放物線は x 座標への射影で直線と「同じ」だが、双曲線はそうではない。尖点をもつ曲線は t↦(t2,t3) で直線から全単射にパラメータ付けされるが、直線と同じとは思えない。こうした判断を環の性質で正確に述べて証明するのがこの章の目的である。k を代数閉体とするのは、R 上の x2+y2+1=0 のように零点集合が空になって方程式の情報が失われることを防ぐためである(零点定理 1.12)。
1.2 代数的集合とイデアル
kn をアフィン空間 (affine space) とよび An と書く。
定義 1.1(代数的集合, algebraic set)S⊂k[x] に対し V(S)={p∈An∣f(p)=0 (∀f∈S)} とおき、この形の部分集合を代数的集合という。逆に X⊂An に対し I(X)={f∈k[x]∣f(p)=0 (∀p∈X)} を X のイデアルという。
命題 1.2 (1) V(S)=V((S)) であり、有限個の f1,…,fr∈S で V(S)=V(f1,…,fr) となる。
(2) V(0)=An, V(1)=∅ であり、イデアル I,J,Iλ について V(I)∪V(J)=V(I∩J)=V(IJ), ⋂λV(Iλ)=V(∑λIλ)。
(3) I(X) は根基イデアルである。
(4) X⊂V(I(X)) であり、X が代数的集合なら等号が成り立つ。
証明. (1) f=∑gifi は fi の共通零点で 0 なので V(S)=V((S))。基底定理より (S) は有限生成で、生成元は S から有限個選べる。(2) IJ⊂I∩J⊂I,J より V(I)∪V(J)⊂V(I∩J)⊂V(IJ)。p∈/V(I)∪V(J) なら f(p)=0, g(p)=0 となる f∈I, g∈J があり、fg∈IJ かつ (fg)(p)=0 なので p∈/V(IJ)。共通部分の式は定義から明らか。(3) f(p)m=0 なら f(p)=0。(4) 前半は定義から。X=V(J) なら J⊂I(X) なので V(I(X))⊂V(J)=X。□
例 1.3 (1) V(xy)=V(x)∪V(y) は 2 本の座標軸である。(2) V(xz,yz)⊂A3 は平面 V(z) と直線 V(x,y) の和である(xz=yz=0 は「z=0 または x=y=0」と同値)。(3) ねじれ 3 次曲線は C=V(y−x2,z−x3) である。(4) 1 変数の k[x] は単項イデアル整域なので、A1 の代数的集合は A1 全体か有限集合(ある多項式の根全体)である。
1.3 ザリスキー位相と既約分解
定義 1.4(ザリスキー位相, Zariski topology)命題 1.2(2) より、代数的集合全体は閉集合の公理を満たす。これを閉集合系とする An の位相をザリスキー位相といい、An の部分集合には相対位相を入れる。
例 1.5 A1 のザリスキー位相は補有限位相で、空でない 2 つの開集合は必ず交わるのでハウスドルフでない。A2 のザリスキー位相は A1×A1 の積位相ではない:対角線 Δ=V(x−y) は閉だが、積位相の空でない基本開集合 U1×U2 は U1∩U2=∅ より Δ と交わるので、Δ の補集合は積位相で開でない。
定義 1.6(既約, irreducible)位相空間 X が既約であるとは、X=∅ であり、閉集合 X1,X2 について X=X1∪X2 ならば X=X1 または X=X2 となることをいう。
補集合をとれば、X が既約であることは「空でない 2 つの開集合は必ず交わる」こと、すなわち「空でない開集合はすべて稠密」であることと同値である。既約空間の空でない開集合は既約であり、既約な部分集合の閉包も既約である。
命題 1.7 代数的集合 X⊂An が既約であるための必要十分条件は、I(X) が素イデアルであることである。
証明. X が既約で fg∈I(X) なら、X=(X∩V(f))∪(X∩V(g)) と既約性から例えば X⊂V(f)、すなわち f∈I(X)。逆に I(X) が素イデアルで、X=X1∪X2(Xi⊊X は閉)と仮定する。命題 1.2(4) より Xi=V(I(Xi)) なので I(Xi)⊋I(X) であり、fi∈I(Xi)∖I(X) がとれる。f1f2 は X1∪X2=X 上で 0 なので f1f2∈I(X) となり、素イデアルであることに反する。□
定義 1.8(ネーター位相空間, noetherian topological space)閉集合の任意の降鎖 Y1⊃Y2⊃⋯ が有限で停留する位相空間をネーター位相空間という。
命題 1.9 An とその任意の部分空間はネーター位相空間である。
証明. 閉集合の降鎖 Y1⊃Y2⊃⋯ に対し、I(Y1)⊂I(Y2)⊂⋯ はネーター環 k[x] のイデアルの昇鎖なので停留し、Yi=V(I(Yi)) も停留する。部分空間 Z の閉集合 Z∩F は Z∩Z∩F に等しいので、An での閉包の降鎖に帰着する。□
定理 1.10(既約分解)X をネーター位相空間とする。X の空でない閉集合 Y は、既約閉集合 Y1,…,Yr で i=j なら Yi⊂Yj を満たすものの和 Y=Y1∪⋯∪Yr に表され、この表示は順序を除いて一意である。Yi を Y の既約成分 (irreducible component) という。
証明. 存在:このように表せない空でない閉集合の全体 Σ が空でないとする。ネーター性より Σ には極小元 Y がある(なければ真の降鎖が無限に続く)。Y は既約でないから Y=Y′∪Y′′(Y′,Y′′⊊Y は空でない閉集合)と書け、極小性から Y′,Y′′ は既約閉集合の有限和である。すると Y もそうなり矛盾。有限和の表示から他の成分に含まれる成分を除けば、条件を満たす表示が得られる。
一意性:Y=Y1∪⋯∪Yr=Z1∪⋯∪Zs を条件を満たす二つの表示とする。Yi=⋃j(Yi∩Zj) と Yi の既約性から、ある j で Yi⊂Zj。同様にある i′ で Zj⊂Yi′。Yi⊂Yi′ より i=i′ なので Yi=Zj。対称性から {Y1,…,Yr}={Z1,…,Zs} であり、各表示に重複はないので順序を除いて一致する。□
例 1.11 f∈I(V(x)) なら f(0,y) は多項式として 0 なので x∣f、よって I(V(x))=(x) は素イデアルで V(x) は既約である。したがって V(xy)=V(x)∪V(y) は既約分解である。同様に V(xz,yz)=V(z)∪V(x,y) も既約分解である。
1.4 零点定理とイデアル–多様体対応
定理 1.12(ヒルベルトの零点定理, Nullstellensatz)k を代数閉体とする。
(1) k[x] の極大イデアルは (x1−a1,…,xn−an)(a∈kn)の形のものに限る。
(2)(弱形)イデアル I について V(I)=∅⇔I=(1)。
(3)(強形)イデアル I について I(V(I))=I。
証明は 13-commutative-algebra 第4章 を参照(k が代数閉でないと (2) は成り立たない)。
系 1.13(イデアル–多様体対応)V と I は、An の代数的集合全体と k[x] の根基イデアル全体の間の、包含関係を逆にする全単射を与える。この対応で既約な代数的集合は素イデアルに、点は極大イデアルに対応する。
証明. 代数的集合 X について V(I(X))=X(命題 1.2(4))、根基イデアル J について I(V(J))=J=J(定理 1.12(3))。後半は命題 1.7 と定理 1.12(1)、および I({a})=(x1−a1,…,xn−an) による。□
| 幾何 |
代数 |
| 代数的集合 X |
根基イデアル I(X) |
| 既約な代数的集合 |
素イデアル |
| 点 a |
極大イデアル (x1−a1,…,xn−an) |
| X∪Y |
I(X)∩I(Y) |
| X∩Y |
I(X)+I(Y) |
| V(I) の既約成分 |
I を含む極小な素イデアル |
例 1.14(交わりの重複度)放物線 y=x2 と接線 y=0 の交わりを考える。I=(y−x2,y)=(x2,y) で、V(I)={(0,0)}、I=(x,y) である。集合としては 1 点だが、dimkk[x,y]/I=2 は「接して 2 重に交わる」ことを記憶している。直線 y=c(c=0)との交わり 2 点 (±c,c) が c→0 で合流した結果が k[x]/(x2) である。根基イデアルだけを見るとこの情報が失われる。これを幾何的対象として保持するのが第4章のスキームであり、Speck[x]/(x2) は冪零元をもつ「二重点」になる。
例 1.15(超曲面, hypersurface)定数でない f∈k[x] を f=cf1e1⋯frer(fi は互いに同伴でない既約多項式)と分解する。k[x] は一意分解整域なので (fi) は素イデアルで、零点定理より I(V(fi))=(fi)。よって V(f)=V(f1)∪⋯∪V(fr) は既約分解で、I(V(f))=(f1⋯fr) である。y2−x3, y2−x2(x+1), x2+y2−1(標数 =2)は、c(x) が k(x) の平方でない y2−c(x) の形なので(ガウスの補題より)既約であり、これらの曲線は既約である。
1.5 座標環と正則関数
定義 1.16(アフィン多様体, affine variety)既約な代数的集合をアフィン多様体という。アフィン多様体 X⊂An に対し A(X)=k[x]/I(X) を座標環 (coordinate ring)、その分数体 K(X) を関数体 (function field) という。
A(X) は X 上の多項式関数のなす有限生成 k 代数で、整域である。系 1.13 より X の点 p と A(X) の極大イデアル mp={f∣f(p)=0} は一対一に対応する。
定義 1.17(正則関数, regular function)X をアフィン多様体、U⊂X を開集合とする。関数 φ:U→k が点 p∈U で正則であるとは、p の開近傍 W⊂U と g,h∈A(X) があって、W 上で h が 0 にならず φ=g/h となることをいう。U の各点で正則な関数の全体のなす環を OX(U) と書く。
正則関数は A1 への写像として連続である(W 上で φ−1(c)=W∩V(g−ch) は閉)。よって U が既約なら、空でない開集合上で一致する二つの正則関数は U 全体で一致する(一致する点の集合は閉かつ稠密)。
定理 1.18 X をアフィン多様体とする。
(1) OX(X)=A(X)。
(2) f∈A(X), f=0 に対し D(f)={p∈X∣f(p)=0} とおくと OX(D(f))=A(X)f。
(3) p∈X における正則関数の芽のなす環 OX,p は局所環 A(X)mp に同型である。
証明. (1) A(X)⊂OX(X) は明らか。φ∈OX(X) とし、J={h∈A(X)∣hφ∈A(X)}(「φ の分母のイデアル」)とおく。各点 p で開近傍 W と g,h があって h(p)=0 かつ W 上 hφ=g となる。hφ と g はともに X 上の正則関数で空でない開集合 W 上一致するから、X 上で一致し、h∈J。つまり J は各点 p で 0 にならない元を含む。J の k[x] における逆像を J~ とすると V(J~)=∅ となり、零点定理より J~=(1)。よって 1∈J、すなわち φ∈A(X)。
(2) φ∈OX(D(f)) について、D(f) 上で hφ が A(X) の元に等しくなる h の全体を J とすると、(1) と同様に V(J~)⊂V(f~) となる。零点定理よりある m で fm∈J、すなわち φ=g/fm∈A(X)f。
(3) A(X)mp→OX,p を g/h↦(D(h) 上の関数 g/h の芽)で定めると、正則関数の定義から全射である。g/h の芽が 0 なら g は空でない開集合上で 0 なので X 上で 0、すなわち g=0 となり単射である。□
例 1.19 O(A1∖{0})=k[x,x−1] は双曲線 H=V(xy−1) の座標環に等しく、x↦(x,1/x) は 第2章の意味で同型になる。開集合 D(f) はそれ自身「アフィン」である。
1.6 射と座標環の反変同値
定義 1.20(射, morphism)アフィン多様体 X⊂An, Y⊂Am の間の写像 φ:X→Y が射であるとは、多項式 f1,…,fm∈k[x] があって φ(p)=(f1(p),…,fm(p))(p∈X)となることをいう。逆写像も射であるような射を同型 (isomorphism) という。
射 φ は k 代数の準同型 φ∗:A(Y)→A(X), g↦g∘φ を引き起こし、(ψ∘φ)∗=φ∗∘ψ∗ が成り立つ。射は連続である(φ−1(V(J))=V(φ∗J))。
定理 1.21(反変同値)(1) アフィン多様体 X,Y について、φ↦φ∗ は全単射 Mor(X,Y)→Homk(A(Y),A(X)) を与える(右辺は k 代数の準同型全体)。
(2) X↦A(X) は、アフィン多様体の圏と「有限生成 k 代数である整域」の圏の間の反変同値を与える。
証明. (1) Y⊂Am の座標関数を yˉ1,…,yˉm∈A(Y) とする。射 φ=(f1,…,fm) について φ∗(yˉj)=fj なので、φ は φ∗ から復元でき、写像は単射である。全射性:k 代数の準同型 θ:A(Y)→A(X) が与えられたとき、θ(yˉj) の代表元 fj∈k[x] をとり、φ=(f1,…,fm):X→Am とおく。g∈I(Y) について、θ が k 代数の準同型であることから
g(φ(p))=g(f1,…,fm)(p)=θ(g(yˉ1,…,yˉm))(p)=θ(0)(p)=0
なので φ(X)⊂V(I(Y))=Y。φ∗ と θ は生成元 yˉj で一致するので φ∗=θ である。
(2) (1) より関手は忠実充満である。有限生成 k 代数である整域 B は B≅k[x]/p(p は素イデアル)と書ける。X=V(p) とおくと零点定理より I(X)=p=p なので、X はアフィン多様体で A(X)≅B。よって本質的全射でもあり、12-category-homological-algebra 第1章 の定理(忠実充満かつ本質的全射な関手は圏同値)から結論を得る。□
特に X≅Y⇔A(X)≅A(Y) であり、同型の判定は環の判定に帰着する。
例 1.23 (1) 放物線 P=V(y−x2):A(P)=k[x,y]/(y−x2)≅k[t] なので P≅A1。対応する射は t↦(t,t2) と (x,y)↦x である。
(2) 双曲線 H=V(xy−1):A(H)≅k[x,x−1] は k× に属さない単元 x をもつが、k[t]×=k× なので H≅A1。
(3) ねじれ 3 次曲線 C:k[x,y,z]/(y−x2,z−x3)≅k[x] は整域なので (y−x2,z−x3) は素イデアルで、零点定理より I(C)=(y−x2,z−x3)。よって C≅A1。
(4) 尖点をもつ曲線 C′=V(y2−x3):φ:A1→C′, t↦(t2,t3) は全単射な射だが、φ∗ の像は k[t2,t3]∋t なので同型でない。さらに C′≅A1 である。実際 φ∗ は単射(φ は全射)で A(C′)≅k[t2,t3] だが、この環は分数体の元 t(T2−t2 の根)を含まないので整閉でなく、一方 k[t] は整閉である。
1.7 次元
定義 1.24(次元, dimension)位相空間 X の次元 dimX を、既約閉集合の鎖 Z0⊊Z1⊊⋯⊊Zd の長さ d の上限と定める。
命題 1.25 アフィン多様体 X について dimX=dimA(X)(右辺はクルル次元)。
証明. 系 1.13 より、X の既約閉集合は I(X) を含む k[x] の素イデアル、すなわち A(X) の素イデアルと、包含を逆にして一対一に対応する。□
定理 1.26(13-commutative-algebra 第5章)B を有限生成 k 代数である整域とする。
(1) dimB=trdegkFracB。
(2) B の素イデアルの極大な鎖の長さはすべて dimB に等しい。特に素イデアル p について htp+dimB/p=dimB。
(3)(クルルの単項イデアル定理)0=f∈B が単元でなければ、f を含む極小な素イデアルの高さは 1 である。
例 1.27 (1) dimAn=n。(2) 既約多項式 f の超曲面 V(f) は n−1 次元である((f) は高さ 1 の素イデアル)。平面曲線は 1 次元である。(3) V(xz,yz) の既約成分は 2 次元と 1 次元で、成分の次元は揃うとは限らない。(4) ねじれ 3 次曲線は 1 次元である。定理 1.26(2) から、アフィン多様体 X の真の閉部分集合の次元は dimX より小さい。
1.8 接空間と特異点
尖点や結節点では曲線が「滑らかでない」。微分積分では f=0 は ∇f=0 の点の近くで滑らかである(01-calculus 第8章)。一般の k でも多項式の偏微分は形式的に定義できる。
定義 1.28(接空間, tangent space)代数的集合 X⊂An と p∈X に対し、次の部分空間を X の p における(ザリスキー)接空間という。
TpX={v∈kni=1∑n∂xi∂f(p)vi=0(∀f∈I(X))}
I(X)=(f1,…,fr) のとき、f=∑jgjfj について fj(p)=0 から ∂xi∂f(p)=∑jgj(p)∂xi∂fj(p) となる。よって TpX はヤコビ行列 J(p)=(∂xi∂fj(p)) の核であり、dimTpX=n−rankJ(p)。
命題 1.29 mp⊂A(X) を点 p に対応する極大イデアルとすると、TpX≅(mp/mp2)∗(双対空間)。特に TpX は埋め込み X⊂An によらない。
証明. M=(x1−p1,…,xn−pn)⊂k[x] とし、線形写像 θ:M→(kn)∗ を θ(f)(v)=∑i∂xi∂f(p)vi で定める。f∈M を p のまわりで展開すると f=∑ici(xi−pi)+(M2 の元), ci=∂xi∂f(p) だから、θ は全射で核は M2 である。mp=M/I(X) より
mp/mp2≅M/(M2+I(X))≅(kn)∗/θ(I(X))
であり、その双対は θ(I(X)) のすべての元で消える v∈kn の全体、すなわち TpX である。□
定義 1.30(非特異点, nonsingular point)アフィン多様体 X の点 p は、dimTpX=dimX のとき非特異、そうでないとき特異 (singular) であるという。すべての点が非特異なとき X は非特異であるという。
定理 1.31(主張)X をアフィン多様体とする。(1) すべての p∈X で dimTpX≥dimX。(2) 特異点の全体は X の真の閉部分集合である。(3) p が非特異 ⇔ OX,p が正則局所環。
(1)(3) は dimOX,p=dimX(定理 1.26(2))と局所環の不等式 dimkm/m2≥dimR から従う。(2) の閉性は小行列式の消滅で表されることから、真部分集合であることは Hartshorne 第 I 章 5 節を参照(超曲面なら問題 1.5)。
系 1.32(ヤコビアン判定法, Jacobian criterion)X⊂An を d 次元アフィン多様体、I(X)=(f1,…,fr) とする。p∈X が非特異 ⇔ rankJ(p)=n−d。特に既約多項式 f の超曲面 V(f) では、p が特異 ⇔ すべての i で ∂xi∂f(p)=0。
例 1.33(標数 =2,3 とする)(1) 尖点 y2=x3:∇f=(−3x2,2y) は曲線上で原点だけで 0 になり、T0=k2。A1 の接空間は 1 次元なので、C′≅A1 の別証明になる。
(2) 結節点 y2=x2(x+1):∇f=(−3x2−2x,2y) より特異点は原点だけ。原点の近くでは最低次の項 y2−x2=(y−x)(y+x) が支配的で、2 本の接線 y=±x がある。
(3) xy=0:これは 2 本の直線の和で既約でないので、系 1.32 はそのままは適用できない。そこで接空間の次元を直接比べる。∇f=(y,x) であり、原点以外の点 p では ∇f(p)=0 なので dimTp=1、原点では ∇f=0 なので T0=k2 である。各点を通る既約成分はどれも 1 次元の直線だから、接空間の次元が 1 を超える原点(2 直線の交点)だけが特異点である。
(4) ねじれ 3 次曲線:I(C)=(y−x2,z−x3) のヤコビ行列
J=(−2x−3x21001)
はつねに階数 2 なので、C は非特異である(C≅A1 と整合する)。
(5) 円 x2+y2=1:∇f=(2x,2y) は円上で 0 にならないので非特異である。
注意
接空間の計算には I(X) の生成元を使う。V(x)=V(x2) を x2 で計算すると勾配 (2x,0) が直線上で 0 になり、すべての点が「特異」に見えてしまう。
k=C なら、非特異な d 次元アフィン多様体は d 次元複素多様体である(07-manifolds 第2章)。
まとめ
- 零点定理により、代数的集合 ↔ 根基イデアル、既約 ↔ 素イデアル、点 ↔ 極大イデアル。
- ザリスキー位相はネーター的で非ハウスドルフ。閉集合は既約成分に一意に分解する。
- OX(X)=A(X), OX(D(f))=A(X)f, OX,p=A(X)mp。
- アフィン多様体の圏は有限生成 k 代数である整域の圏と反変同値。同型の判定は環の判定になる。
- 次元 = 座標環のクルル次元 = 関数体の超越次数。
- 接空間は (mp/mp2)∗ で、特異点はヤコビアン判定法で求まる。
- 根基イデアルでは交わりの重複度が失われる(例 1.14)。これがスキームへの動機の一つである。
演習問題
問題 1.1 ★ V(x2−yz,xz−x)⊂A3 を既約成分に分解せよ。
解答
xz−x=x(z−1) なので、x=0 または z=1 である。x=0 のとき yz=0 となり、V(x,y)(z 軸)と V(x,z)(y 軸)を得る。z=1 のとき y=x2 となり、放物線 V(z−1,y−x2) を得る。よって
V(x2−yz,xz−x)=V(x,y)∪V(x,z)∪V(z−1,y−x2)
各成分の座標環はそれぞれ k[z], k[y], k[x] に同型な整域なので、定義イデアルは素イデアルで(零点定理より I に一致し)、各成分は既約である。3 つはどれも他に含まれない(たとえば放物線上の点 (1,1,1) は他の 2 本に属さない)ので、これが既約分解である。
問題 1.2 ★★ C[x,y] のイデアル I=(x2+y2−1,x−1) について V(I) と I を求め、I=I であることを示せ。この結果を、円と直線 x=1 の位置関係で説明せよ。
解答
x2+y2−1=y2+(x−1)(x+1) より I=(x−1,y2)。よって V(I)={(1,0)} で、零点定理より I=I(V(I))=(x−1,y)。C[x,y]/I≅C[y]/(y2) において y=0 なので y∈/I、したがって I=I。直線 x=1 は円の点 (1,0) における接線であり、交わりは集合としては 1 点だが、dimCC[x,y]/I=2 は接点での交わりの重複度 2 を表している(例 1.14 と同じ現象)。
問題 1.3 ★★ 標数 =2,3 とする。a,b∈k について、曲線 E=V(y2−x3−ax−b) が非特異であるための必要十分条件は 4a3+27b2=0 であることを示せ。
解答
g(x)=x3+ax+b とおくと、例 1.15 と同様に f=y2−g(x) は既約で、系 1.32 より特異点は y=0 かつ x0 が g と g′=3x2+a の共通根となる点 (x0,0) である。
共通根 x0 があるとする。x02=−a/3 を g(x0)=x0(x02+a)+b=0 に代入すると 32ax0=−b。a=0 なら x0=0, b=0 で 4a3+27b2=0。a=0 なら x0=−3b/(2a) を 3x02+a=0 に代入して 4a227b2+a=0、すなわち 4a3+27b2=0。
逆に 4a3+27b2=0 とする。a=0 なら b=0 で x0=0 が共通根。a=0 なら x0=−3b/(2a) とおくと 3x02+a=4a227b2+4a3=0、さらに x02=−a/3 より g(x0)=32ax0+b=−b+b=0。よって特異点 (x0,0) が存在する。
問題 1.4 ★★ 結節点をもつ曲線 N=V(y2−x2(x+1))(標数 =2,3)について、φ:A1→N, t↦(t2−1,t(t2−1)) は全射な射で、原点の逆像は {±1}、他の点の逆像は 1 点であることを示せ。また N≅A1 を示せ。
解答
x=t2−1, y=t(t2−1) とおくと y2=t2(t2−1)2=x2(x+1) なので φ は N への射である。(x,y)∈N, x=0 のとき、t が逆像なら y=tx より t=y/x に限る。実際この t は t2=y2/x2=x+1 を満たすので x=t2−1, y=tx=t(t2−1) となり、逆像はちょうど 1 点である。x=0 なら y=0 で、t2−1=0 より逆像は {±1}。
N の原点は特異点(例 1.33(2))で dimT0N=2 だが、A1 の接空間はつねに 1 次元であり、同型は(命題 1.29 より)接空間の次元を保つ。よって N≅A1。
問題 1.5 ★★★ 定数でない既約多項式 f∈k[x1,…,xn] の超曲面 X=V(f) の特異点の全体は、X の真の閉部分集合であることを示せ(標数は任意)。
解答
例 1.15 と例 1.27 より I(X)=(f), dimX=n−1 なので、系 1.32 より特異点の集合は X∩V(∂f/∂x1,…,∂f/∂xn) であり、閉である。これが X 全体だと仮定すると、各 ∂f/∂xi は V(f) 上で 0 なので、零点定理より ∂f/∂xi∈(f)=(f)。∂f/∂xi=0 なら全次数は degf 未満なので f の倍元になりえず、すべての i で ∂f/∂xi=0 である。
標数 0 なら f は定数となり矛盾。標数 p>0 なら、各単項式の xi の指数はすべて p の倍数であり、f=∑αcαxpα と書ける。k は代数閉体なので cα=dαp となる dα があり、f=(∑αdαxα)p となって既約性に反する。よって特異点の集合は X の真部分集合である。