Lemma数学ロードマップ

14 代数幾何学 · 第 5 章

スキームの性質と射

目安 16〜21 時間定理など 8演習 6 問

この章の目標

  • 被約・整・ネーターなどスキームの性質と、開・閉部分スキーム、被約化を例で扱える
  • ファイバー積とファイバーを計算できる(Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z}、曲線の族の退化)
  • 有限型・有限・分離的・固有な射を定義し、原点が 2 つある直線や A1\mathbb{A}^1 が反例になる理由を説明できる
  • 平坦性とファイバーの次元の関係を例で説明できる

前提:第4章、13-commutative-algebra 第1章(テンソル積・平坦性)、第4章(整拡大)、第5章(次元)

5.1 動機:相対的な視点

グロタンディークの基本的な発想は、スキーム XX そのものより射 f ⁣:X→Sf\colon X \to S を調べることである。ff は SS の点 ss でパラメータ付けられたスキームの族 XsX_s(ファイバー)と考えられる。

  • xy=txy = t を tt 軸 A1\mathbb{A}^1 上の族とみると、t≠0t \neq 0 では双曲線、t=0t = 0 では 2 直線 xy=0xy = 0 に退化する。
  • x2=tx^2 = t では、t≠0t \neq 0 の 2 点が t=0t = 0 で合流して二重点 k[x]/(x2)k[x]/(x^2) になる。
  • Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} は、素数 pp ごとに有限個の点を並べた族である。

射の性質(有限・固有・分離的・平坦)は、ファイバーが「有限集合である」「コンパクトである」「ハウスドルフである」「連続的に変化する」ことの代数的な表現である。

5.2 スキームの性質

定義 5.1 スキーム XX が

  • 被約 (reduced) とは、すべての開集合 UU で OX(U)\mathcal{O}_X(U) が冪零元 ≠0\neq 0 をもたないこと(すべての茎が被約であることと同値)。
  • 整 (integral) とは、空でないすべての開集合 UU で OX(U)\mathcal{O}_X(U) が整域であること。
  • 局所ネーター (locally noetherian) とは、ネーター環 AiA_i の Spec⁡Ai\operatorname{Spec} A_i で覆われること。さらに準コンパクト(任意の開被覆が有限部分被覆をもつ。局所ネーターなスキームでは、有限個のそのような Spec⁡Ai\operatorname{Spec} A_i で覆えることと同値)ならネーターという。

命題 5.2 スキーム XX が整であるための必要十分条件は、被約かつ既約であることである。

証明. (⇒\Rightarrow) 被約は明らか。X=Z1∪Z2X = Z_1 \cup Z_2(Zi⊊XZ_i \subsetneq X は閉)なら Ui=X∖ZiU_i = X \setminus Z_i は空でなく交わらないので、OX(U1⊔U2)=OX(U1)×OX(U2)\mathcal{O}_X(U_1 \sqcup U_2) = \mathcal{O}_X(U_1) \times \mathcal{O}_X(U_2) は整域でない。(⇐\Leftarrow) 空でない開集合 UU と f,g∈OX(U)f, g \in \mathcal{O}_X(U) で fg=0fg = 0 とする。Zf={x∈U∣fx∈mx}Z_f = \lbrace x \in U \mid f_x \in \mathfrak{m}_x \rbrace は閉集合である(補集合は ff が単元となる点で、単元であることは近傍に広がる)。fxgx=0∈mxf_x g_x = 0 \in \mathfrak{m}_x より U=Zf∪ZgU = Z_f \cup Z_g で、UU は既約なので例えば U=ZfU = Z_f。UU に含まれるアフィン開集合 Spec⁡A\operatorname{Spec} A 上では、ff はすべての素イデアルに属するので冪零、被約性から 0 である。層の性質より f=0f = 0。□\square

整スキームは生成点 η\eta をもち、K(X)=OX,ηK(X) = \mathcal{O}_{X, \eta} を関数体という。

例 5.3 (1) Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec} k[x]/(x^2) は被約でない。(2) Spec⁡k[x,y]/(xy)\operatorname{Spec} k[x, y]/(xy) は被約だが既約でない。(3) Pkn\mathbb{P}^n_k, Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}, AZn\mathbb{A}^n_{\mathbb{Z}} は整でネーター。(4) A=k[x1,x2,… ]/(x1,x2,… )2A = k[x_1, x_2, \dots]/(x_1, x_2, \dots)^2 の Spec⁡\operatorname{Spec} は 1 点(位相空間としてはネーター)だが、AA はネーター環でないのでネータースキームではない(Spec⁡A\operatorname{Spec} A が局所ネーター ⇔\Leftrightarrow AA がネーター:Hartshorne 第 II 章命題 3.2)。

5.3 開部分スキームと閉部分スキーム

定義 5.4(閉埋め込み, closed immersion)スキームの射 f ⁣:Z→Xf\colon Z \to X が閉埋め込みであるとは、ff が ZZ から XX の閉集合への同相写像で、f♯ ⁣:OX→f∗OZf^{\sharp}\colon \mathcal{O}_X \to f_{\ast}\mathcal{O}_Z が(層の射として)全射であることをいう。閉埋め込みの同型類を閉部分スキームという。開集合 UU と OX∣U\mathcal{O}_X\vert_U の組は開部分スキーム、それへの同型は開埋め込みである。

例 5.5 イデアル I⊂AI \subset A について Spec⁡A/I→Spec⁡A\operatorname{Spec} A/I \to \operatorname{Spec} A は閉埋め込みである(像は V(I)V(I) で、茎の写像 Ap→(A/I)pA_{\mathfrak{p}} \to (A/I)_{\mathfrak{p}} は全射)。同じ閉集合に異なる閉部分スキームの構造が入りうる。A2=Spec⁡k[x,y]\mathbb{A}^2 = \operatorname{Spec} k[x, y] の中で

  • V(x)V(x):直線、
  • V(x2)V(x^2):直線を「2 重にした」もの(yy 軸が、それと直交する xx 軸方向に無限小の厚みをもつ)、
  • V(x2,xy)V(x^2, xy):直線の原点だけに「埋め込まれた点」がついたもの(問題 5.3)

は、いずれも集合としては yy 軸である。

命題 5.6(主張)アフィンスキーム Spec⁡A\operatorname{Spec} A の閉部分スキームは、イデアル II による Spec⁡A/I\operatorname{Spec} A/I に限る。一般のスキーム XX の閉部分スキームは、準連接なイデアル層 I⊂OX\mathcal{I} \subset \mathcal{O}_X(第6章)と一対一に対応する。

証明は Hartshorne 第 II 章命題 5.9, 系 5.10 を参照。

被約化 (reduction):OX\mathcal{O}_X の冪零元のなすイデアル層 N\mathcal{N} で定まる閉部分スキーム XredX_{\mathrm{red}} は、XX と同じ位相空間をもつ被約スキームで、アフィンなら Spec⁡A/nil⁡(A)\operatorname{Spec} A/\operatorname{nil}(A) である。被約スキームから XX への射は XredX_{\mathrm{red}} を一意に経由する(主張)。閉集合 ZZ に対しても、ZZ 上で 0 になる関数全体のイデアル層で被約な誘導構造が定まる。

5.4 ファイバー積

定理 5.7(ファイバー積の存在)スキームの射 f ⁣:X→Sf\colon X \to S, g ⁣:Y→Sg\colon Y \to S に対し、スキーム X×SYX \times_S Y と射 p1,p2p_1, p_2 で次の図式を可換にし、同じ性質をもつ任意の (T,q1,q2)(T, q_1, q_2) がただ一つの射 T→X×SYT \to X \times_S Y を経由するものが存在する。

X×SY→ p2 Yp1↓↓gX→ f S\begin{array}{ccc} X \times_S Y & \xrightarrow{\ p_2\ } & Y \\ {\scriptstyle p_1}\downarrow & & \downarrow{\scriptstyle g} \\ X & \xrightarrow{\ f\ } & S \end{array}

アフィンの場合は Spec⁡A×Spec⁡RSpec⁡B=Spec⁡(A⊗RB)\operatorname{Spec} A \times_{\operatorname{Spec} R} \operatorname{Spec} B = \operatorname{Spec}(A \otimes_R B) である。

証明の方針. アフィンの場合:任意のスキーム TT について、定理 4.7 とテンソル積の普遍性(RR 代数の圏での余積)から

Hom⁡(T,Spec⁡(A⊗RB))=Hom⁡R(A⊗RB,Γ(T))=Hom⁡(T,Spec⁡A)×Hom⁡(T,Spec⁡R)Hom⁡(T,Spec⁡B)\operatorname{Hom}(T, \operatorname{Spec}(A \otimes_R B)) = \operatorname{Hom}_R(A \otimes_R B, \Gamma(T)) = \operatorname{Hom}(T, \operatorname{Spec} A) \times_{\operatorname{Hom}(T, \operatorname{Spec} R)} \operatorname{Hom}(T, \operatorname{Spec} B)

が自然に成り立ち、これが普遍性そのものである。一般の場合は S,X,YS, X, Y をアフィン開集合で覆い、アフィンの場合のファイバー積を普遍性による一意性を使って貼り合わせる(Hartshorne 第 II 章定理 3.3)。□\square

注意

X×SYX \times_S Y の点の集合は、点の集合のファイバー積ではない。Spec⁡C×Spec⁡RSpec⁡C=Spec⁡(C⊗RC)\operatorname{Spec} \mathbb{C} \times_{\operatorname{Spec} \mathbb{R}} \operatorname{Spec} \mathbb{C} = \operatorname{Spec}(\mathbb{C} \otimes_{\mathbb{R}} \mathbb{C}) で、C⊗RC≅C[x]/(x2+1)≅C×C\mathbb{C} \otimes_{\mathbb{R}} \mathbb{C} \cong \mathbb{C}[x]/(x^2 + 1) \cong \mathbb{C} \times \mathbb{C} なので 2 点からなる。また Ak1×kAk1=Ak2\mathbb{A}^1_k \times_k \mathbb{A}^1_k = \mathbb{A}^2_k には曲線の生成点のように「点の組」でない点がある。

定義 5.8(ファイバーと基底変換)射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y と y∈Yy \in Y に対し、Xy=X×YSpec⁡κ(y)X_y = X \times_Y \operatorname{Spec} \kappa(y) を yy 上のファイバー (fiber) という。XyX_y の位相空間は f−1(y)f^{-1}(y) に同相である(主張)。Y′→YY' \to Y に対し X×YY′→Y′X \times_Y Y' \to Y' を基底変換 (base change) という。R\mathbb{R} 上の XX から XCX_{\mathbb{C}} を作る係数拡大、Z\mathbb{Z} 上の XX から XFpX_{\mathbb{F}_p} を作る「pp を法とする還元」は基底変換である。YY が整なら生成点上のファイバーを生成ファイバーという。

例 5.9(Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} のファイバー)素数 pp 上のファイバーは

Spec⁡(Z[i]⊗ZFp)=Spec⁡Fp[x]/(x2+1)\operatorname{Spec}(\mathbb{Z}[i] \otimes_{\mathbb{Z}} \mathbb{F}_p) = \operatorname{Spec} \mathbb{F}_p[x]/(x^2 + 1)

である。

  • p=2p = 2:x2+1=(x+1)2x^2 + 1 = (x + 1)^2 なので、1 点からなる被約でないスキーム Spec⁡F2[x]/((x+1)2)\operatorname{Spec} \mathbb{F}_2[x]/((x+1)^2)。(2)=(1+i)2(2) = (1 + i)^2 は分岐する。
  • p≡1(mod4)p \equiv 1 \pmod 4:−1-1 は平方剰余で x2+1=(x−a)(x+a)x^2 + 1 = (x - a)(x + a), a≠−aa \neq -a なので、Spec⁡(Fp×Fp)\operatorname{Spec}(\mathbb{F}_p \times \mathbb{F}_p) は被約な 2 点。pp は分解する(例:p=5p = 5, x2+1=(x−2)(x+2)x^2 + 1 = (x - 2)(x + 2))。
  • p≡3(mod4)p \equiv 3 \pmod 4:x2+1x^2 + 1 は既約で、Spec⁡Fp2\operatorname{Spec} \mathbb{F}_{p^2} の 1 点。pp は惰性的である。
  • 生成ファイバーは Spec⁡Q(i)\operatorname{Spec} \mathbb{Q}(i)。

どのファイバーでも環の κ(y)\kappa(y) 上の次元は 2 で一定である(5.9 節の平坦性)。分解する素数が p=a2+b2p = a^2 + b^2 と書ける奇素数であること(2=12+122 = 1^2 + 1^2 は分岐する)(04-algebra 第6章)は、この幾何的な描像の数論的な内容である。

例 5.10(曲線の族)kk を代数閉体(標数 ≠2\neq 2)とする。(1) X=Spec⁡k[x,y,t]/(xy−t)→At1X = \operatorname{Spec} k[x, y, t]/(xy - t) \to \mathbb{A}^1_t の t=a≠0t = a \neq 0 上のファイバーは双曲線 xy=axy = a、t=0t = 0 上のファイバーは 2 直線 xy=0xy = 0 である。(2) X′=Spec⁡k[x,t]/(x2−t)→At1X' = \operatorname{Spec} k[x, t]/(x^2 - t) \to \mathbb{A}^1_t のファイバーは、t=a≠0t = a \neq 0 では 2 点 x=±ax = \pm\sqrt{a}、t=0t = 0 では二重点 Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec} k[x]/(x^2) である。冪零元は族の極限として自然に現れる。

5.5 有限型の射と有限射

定義 5.11 射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y について、YY のアフィン開被覆 Vi=Spec⁡BiV_i = \operatorname{Spec} B_i で次を満たすものがあるとする。

  • f−1(Vi)f^{-1}(V_i) が有限生成 BiB_i 代数 AijA_{ij} の Spec⁡\operatorname{Spec} で覆われるとき局所有限型、さらに各 ii で有限個で覆えるとき有限型 (finite type)。
  • f−1(Vi)=Spec⁡Aif^{-1}(V_i) = \operatorname{Spec} A_i で AiA_i が有限生成 BiB_i 加群のとき有限 (finite)。

例 5.12 (1) Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} は有限(Z[i]=Z⊕Zi\mathbb{Z}[i] = \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z} i)。(2) A1→A1\mathbb{A}^1 \to \mathbb{A}^1, x↦x2x \mapsto x^2(t↦x2t \mapsto x^2)は有限(k[x]=k[t]⊕k[t]xk[x] = k[t] \oplus k[t] x)。(3) 射影 V(xy−1)→Ax1V(xy - 1) \to \mathbb{A}^1_x は有限型でファイバーは 1 点か空だが、k[x,x−1]k[x, x^{-1}] は k[x]k[x] 上有限生成加群でないので有限でない。(4) PAn→Spec⁡A\mathbb{P}^n_A \to \operatorname{Spec} A(n≥1n \geq 1)は有限型だが有限でない。(5) Spec⁡Q→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Q} \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} は局所有限型でない。

有限射のファイバーは有限個の点からなり(有限次元 κ(y)\kappa(y) 代数の Spec⁡\operatorname{Spec})、有限射は閉写像である(問題 5.4)。

5.6 分離的射

位相空間 XX がハウスドルフであることは、対角線 Δ⊂X×X\Delta \subset X \times X が積位相で閉であることと同値である。ザリスキー位相では積位相を使えないので(例 1.5)、スキームのファイバー積の対角射で代用する。

定義 5.13(分離的, separated)射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y の対角射 Δ ⁣:X→X×YX\Delta\colon X \to X \times_Y X を p1∘Δ=p2∘Δ=idXp_1 \circ \Delta = p_2 \circ \Delta = \mathrm{id}_X で定める。Δ\Delta が閉埋め込みのとき ff は分離的であるという。X→Spec⁡ZX \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} が分離的なとき XX は分離的であるという。

命題 5.14 アフィンスキームの間の射は分離的である。

証明. Spec⁡A→Spec⁡B\operatorname{Spec} A \to \operatorname{Spec} B の対角射は乗法 A⊗BA→AA \otimes_B A \to A, a⊗a′↦aa′a \otimes a' \mapsto aa' に対応し、これは全射なので例 5.5 より閉埋め込みである。□\square

例 5.15(原点が 2 つある直線)例 4.14 の X=U1∪U2X = U_1 \cup U_2(Ui≅A1=Spec⁡k[t]U_i \cong \mathbb{A}^1 = \operatorname{Spec} k[t])を考える。X×kXX \times_k X は 4 つのアフィン開集合 Ua×Ub≅A2U_a \times U_b \cong \mathbb{A}^2 で覆われる。Δ−1(U1×U2)=U1∩U2=A1∖{0}\Delta^{-1}(U_1 \times U_2) = U_1 \cap U_2 = \mathbb{A}^1 \setminus \lbrace 0 \rbrace の像は、U1×U2=Spec⁡k[s,t]U_1 \times U_2 = \operatorname{Spec} k[s, t] の中で対角線 V(s−t)V(s - t) から原点を除いたものであり、閉でない(閉包は (01,02)(0_1, 0_2) に当たる原点を含む)。よって Δ(X)\Delta(X) は閉でなく、XX は分離的でない。

命題 5.16(主張)(1) 開埋め込み・閉埋め込みは分離的であり、分離的な射の合成と基底変換は分離的である。射影スキーム・準射影多様体は分離的である。(2) 分離的なスキームでは、2 つのアフィン開集合の共通部分はアフィンである。

(2) は第7章のチェック・コホモロジーで重要になる。平面 A2\mathbb{A}^2 の原点を 2 つにしたスキームでは、2 つのアフィン開集合の共通部分が A2∖{0}\mathbb{A}^2 \setminus \lbrace 0 \rbrace となりアフィンでない(問題 4.3)ので、分離的でない。

定理 5.17(分離性の付値判定法、主張)XX をネータースキーム、f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を射とする。ff が分離的であるための必要十分条件は、任意の付値環 RR(商体 KK)と可換図式 Spec⁡K→X\operatorname{Spec} K \to X, Spec⁡R→Y\operatorname{Spec} R \to Y に対し、Spec⁡R→X\operatorname{Spec} R \to X への持ち上げが高々一つであることである。

証明は Hartshorne 第 II 章定理 4.3 を参照。Spec⁡R\operatorname{Spec} R は「生成点 Spec⁡K\operatorname{Spec} K と閉点からなる小さな曲線の芽」であり、判定法は「曲線の極限点は高々一つ」と読める。原点が 2 つある直線では、t→0t \to 0 となる曲線の極限が 01,020_1, 0_2 の 2 つある。

5.7 固有射

定義 5.18(固有, proper)射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y が普遍的に閉 (universally closed) とは、任意の基底変換 X×YY′→Y′X \times_Y Y' \to Y' が閉写像であることをいう。分離的・有限型・普遍的に閉である射を固有射という。

例 5.19 Ak1→Spec⁡k\mathbb{A}^1_k \to \operatorname{Spec} k は閉写像(像は 1 点)だが固有でない。Ak1\mathbb{A}^1_k への基底変換 Ak2→Ak1\mathbb{A}^2_k \to \mathbb{A}^1_k で、閉集合 V(xy−1)V(xy - 1) の像は A1∖{0}\mathbb{A}^1 \setminus \lbrace 0 \rbrace で閉でない。同様に AZ1→Spec⁡Z\mathbb{A}^1_{\mathbb{Z}} \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} は閉写像でない(問題 5.5)。

定理 5.20(主張)(1) 有限射は固有である。(2) 射影的な射(閉埋め込み X→PYnX \to \mathbb{P}^n_Y と射影 PYn→Y\mathbb{P}^n_Y \to Y の合成)は固有である。特に Pkn→Spec⁡k\mathbb{P}^n_k \to \operatorname{Spec} k は固有で、定理 2.18 はこの特別な場合である。(3)(固有性の付値判定法)XX をネータースキーム、ff を有限型の射とする。ff が固有 ⇔\Leftrightarrow 定理 5.17 の状況で持ち上げがちょうど一つ存在する。

証明は Hartshorne 第 II 章定理 4.7, 4.9 を参照。(3) でネーターの場合は離散付値環だけを考えれば十分である(同 演習 4.11)。

例 5.21(P1\mathbb{P}^1 と A1\mathbb{A}^1)RR を kk を含む離散付値環、π\pi を素元、KK を商体、vv を付値とする。kk 上の射 Spec⁡K→Pk1\operatorname{Spec} K \to \mathbb{P}^1_k は [a:b][a : b](a,b∈Ka, b \in K は同時に 0 でない)で与えられる。m=min⁡(v(a),v(b))m = \min(v(a), v(b)) とおくと [a:b]=[π−ma:π−mb][a : b] = [\pi^{-m} a : \pi^{-m} b] で、両成分は RR に属し一方は単元なので、Spec⁡R→Pk1\operatorname{Spec} R \to \mathbb{P}^1_k への延長が得られる。一方 Ak1\mathbb{A}^1_k の KK 値点 x=π−1x = \pi^{-1} は RR 値点に延びない。R=k[t](t)R = k[t]_{(t)} なら、これは「t→0t \to 0 で x=1/tx = 1/t が無限遠に逃げる」ことであり、P1\mathbb{P}^1 では ∞\infty が極限として補われている。

5.8 スキームの次元

スキームの次元は位相空間としての次元(定義 1.24)とする。dim⁡Spec⁡A=dim⁡A\dim \operatorname{Spec} A = \dim A である。

例 5.22 dim⁡Spec⁡Z=1\dim \operatorname{Spec} \mathbb{Z} = 1、dim⁡Akn=n\dim \mathbb{A}^n_k = n、dim⁡AZn=n+1\dim \mathbb{A}^n_{\mathbb{Z}} = n + 1(ネーター環 AA で dim⁡A[x]=dim⁡A+1\dim A[x] = \dim A + 1)、dim⁡Spec⁡k[x]/(x2)=0\dim \operatorname{Spec} k[x]/(x^2) = 0。Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x] は 2 次元の「数論的曲面」である(問題 4.6)。

注意

一般のスキームでは開集合の次元が全体より小さくなりうる。離散付値環 RR の Spec⁡R\operatorname{Spec} R は 1 次元だが、開集合 {η}\lbrace \eta \rbrace は 0 次元である。体上有限型の整スキーム XX では、空でない任意の開集合の次元は dim⁡X=trdeg⁡K(X)\dim X = \operatorname{trdeg} K(X) に等しい(主張)。

5.9 平坦射とファイバーの次元

定義 5.23(平坦, flat)射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y が x∈Xx \in X で平坦であるとは、OX,x\mathcal{O}_{X,x} が平坦 OY,f(x)\mathcal{O}_{Y, f(x)} 加群であることをいう。すべての点で平坦なとき ff は平坦であるという。

BB が平坦 AA 加群なら Spec⁡B→Spec⁡A\operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A は平坦である(局所化は平坦性を保つ)。単項イデアル整域 AA 上の加群は、ねじれがないとき、かつそのときに限り平坦である。

例 5.24 (1) 開埋め込みは平坦(局所化は平坦)。(2) Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} と x2=tx^2 = t の族(例 5.10(2))は、階数 2 の自由加群なので平坦。ファイバーの「長さ」がつねに 2 であることと対応する。(3) Spec⁡k→Ak1\operatorname{Spec} k \to \mathbb{A}^1_k(t=0t = 0 での閉埋め込み)は平坦でない:単射 k[t]→tk[t]k[t] \xrightarrow{t} k[t] に ⊗k[t]/(t)\otimes k[t]/(t) を施すと零写像 k→kk \to k になる。(4) Spec⁡k[x,t]/(xt)→At1\operatorname{Spec} k[x, t]/(xt) \to \mathbb{A}^1_t は平坦でない:t⋅x=0t \cdot x = 0 なので tt 倍が単射でなく、ねじれがある。幾何的には、ファイバーは t≠0t \neq 0 で 1 点 x=0x = 0 だが、t=0t = 0 では直線 Ax1\mathbb{A}^1_x 全体で、次元が跳ね上がる。

平坦性は「ファイバーが連続的に変化する」ことの代数的な定式化であり、次の定理が成り立つ。

定理 5.25(ファイバーの次元、主張)(1) f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を体 kk 上有限型のスキームの間の平坦な射、x∈Xx \in X を閉点、y=f(x)y = f(x) とすると、dim⁡xXy=dim⁡xX−dim⁡yY\dim_x X_y = \dim_x X - \dim_y Y(dim⁡x\dim_x は xx を含む既約成分の次元の最大値)。 (2) f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を kk 上有限型の整スキームの間の支配的な射とすると、空でない各ファイバーの既約成分の次元は dim⁡X−dim⁡Y\dim X - \dim Y 以上であり、YY の空でない開集合上では等号が成り立つ。

証明は Hartshorne 第 III 章 9 節と第 II 章演習 3.22 を参照。

例 5.26(原点での爆発)A~2={((x,y),[u:v])∣xv=yu}⊂A2×P1\widetilde{\mathbb{A}}^2 = \lbrace ((x, y), [u : v]) \mid xv = yu \rbrace \subset \mathbb{A}^2 \times \mathbb{P}^1 と射影 π ⁣:A~2→A2\pi\colon \widetilde{\mathbb{A}}^2 \to \mathbb{A}^2 を考える。(x,y)≠0(x, y) \neq 0 上のファイバーは 1 点 [x:y][x : y]、原点上のファイバーは P1\mathbb{P}^1 全体である。A~2\widetilde{\mathbb{A}}^2 と A2\mathbb{A}^2 はともに 2 次元なので、定理 5.25(1) より π\pi は原点上の点で平坦でない。π\pi は固有で、原点の外では同型である(爆発 (blow-up):第9章)。

まとめ

  • 整 ⇔\Leftrightarrow 被約かつ既約。閉部分スキームはイデアル(層)に対応し、同じ集合に冪零元を含む様々な構造が入る。
  • ファイバー積はアフィンではテンソル積で、ファイバー XyX_y は X×YSpec⁡κ(y)X \times_Y \operatorname{Spec} \kappa(y)。Spec⁡Z[i]\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] のファイバーは素数の分岐・分解・惰性を表す。
  • 有限射は有限生成加群に対応し、ファイバーは有限集合。
  • 分離的 = 対角が閉(ハウスドルフの類似)。原点が 2 つある直線は分離的でない。
  • 固有 = 分離的・有限型・普遍的に閉(コンパクトの類似)。射影的な射は固有で、A1\mathbb{A}^1 は固有でない。付値判定法は「曲線の極限がただ一つ存在する」と読める。
  • 平坦性はファイバーの連続的な変化を表し、平坦ならファイバーの次元は dim⁡X−dim⁡Y\dim X - \dim Y で一定である。

演習問題

問題 5.1 ★ Spec⁡Fp2×Spec⁡FpSpec⁡Fp2\operatorname{Spec} \mathbb{F}_{p^2} \times_{\operatorname{Spec} \mathbb{F}_p} \operatorname{Spec} \mathbb{F}_{p^2} は何点からなるか。

解答

Fp2=Fp[x]/(g)\mathbb{F}_{p^2} = \mathbb{F}_p[x]/(g)(gg は 2 次の既約多項式)と書くと、Fp2⊗FpFp2≅Fp2[x]/(g)\mathbb{F}_{p^2} \otimes_{\mathbb{F}_p} \mathbb{F}_{p^2} \cong \mathbb{F}_{p^2}[x]/(g)。gg は Fp2\mathbb{F}_{p^2} で相異なる 2 根 α,αp\alpha, \alpha^p をもつ(有限体は完全体)ので、中国剰余定理より ≅Fp2×Fp2\cong \mathbb{F}_{p^2} \times \mathbb{F}_{p^2}。よって 2 点からなる。一般に有限次ガロア拡大 L/KL/K で L⊗KL≅L[L:K]L \otimes_K L \cong L^{[L:K]} である。

問題 5.2 ★★ Spec⁡Z[2]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[\sqrt{2}] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} の各素数 pp 上のファイバーを決定せよ。

解答

ファイバーは Spec⁡Fp[x]/(x2−2)\operatorname{Spec} \mathbb{F}_p[x]/(x^2 - 2)。p=2p = 2 では x2x^2 なので、1 点の被約でないスキーム(分岐)。pp が奇素数のとき、22 が pp を法とする平方剰余なら x2−2x^2 - 2 は相異なる 2 根をもち 2 点(分解)、そうでなければ既約で Spec⁡Fp2\operatorname{Spec} \mathbb{F}_{p^2} の 1 点(惰性)である。平方剰余の相互法則の第 2 補充法則(04-algebra 第1章)より、分解するのは p≡±1(mod8)p \equiv \pm 1 \pmod 8、惰性なのは p≡±3(mod8)p \equiv \pm 3 \pmod 8 のときである。

問題 5.3 ★★ X=Spec⁡k[x,y]/(x2,xy)X = \operatorname{Spec} k[x, y]/(x^2, xy) について、(1) XX は既約だが被約でないこと、(2) Xred=Spec⁡k[y]X_{\mathrm{red}} = \operatorname{Spec} k[y]、(3) 原点以外の点では局所環が被約であることを示せ。

解答

A=k[x,y]/(x2,xy)A = k[x, y]/(x^2, xy) とおく。x2=0x^2 = 0 より xx は冪零で、x≠0x \neq 0(x∉(x2,xy)x \notin (x^2, xy))なので被約でない。nil⁡(A)∋x\operatorname{nil}(A) \ni x で A/(x)=k[y]A/(x) = k[y] は整域なので nil⁡(A)=(x)\operatorname{nil}(A) = (x)、Xred=Spec⁡k[y]X_{\mathrm{red}} = \operatorname{Spec} k[y]。位相空間は XredX_{\mathrm{red}} と同じなので既約である。点 p\mathfrak{p} が原点 (x,y)(x, y) でなければ y∉py \notin \mathfrak{p} である(p∋x\mathfrak{p} \ni x なので p\mathfrak{p} は k[y]k[y] の素イデアルに対応し、yy を含むのは原点だけ)。このとき ApA_{\mathfrak{p}} で yy は単元なので、xy=0xy = 0 から x=0x = 0、Ap=k[y]pA_{\mathfrak{p}} = k[y]_{\mathfrak{p}} は被約。原点では x≠0x \neq 0 なので被約でない。原点が「埋め込まれた点」である。

問題 5.4 ★★ 有限射 f ⁣:Spec⁡B→Spec⁡Af\colon \operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A は閉写像であることを示せ。

解答

閉集合 V(J)⊂Spec⁡BV(J) \subset \operatorname{Spec} B の像が V(φ−1(J))V(\varphi^{-1}(J))(φ ⁣:A→B\varphi\colon A \to B)に一致することを示す。q⊃J\mathfrak{q} \supset J なら φ−1(q)⊃φ−1(J)\varphi^{-1}(\mathfrak{q}) \supset \varphi^{-1}(J) なので像は V(φ−1(J))V(\varphi^{-1}(J)) に含まれる。逆に A′=A/φ−1(J)→B′=B/JA' = A/\varphi^{-1}(J) \to B' = B/J は単射で、B′B' は A′A' 上有限生成加群なので整拡大である。整拡大の上昇定理(lying over、13-commutative-algebra 第4章)より、A′A' の任意の素イデアルの上に B′B' の素イデアルがある。すなわち V(φ−1(J))V(\varphi^{-1}(J)) の任意の点は V(J)V(J) の点の像である。

問題 5.5 ★★ 素数 pp について、AZ1=Spec⁡Z[x]→Spec⁡Z\mathbb{A}^1_{\mathbb{Z}} = \operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} による閉集合 V(px−1)V(px - 1) の像を求め、この射が固有でないことを示せ。

解答

Z[x]/(px−1)≅Z[1/p]\mathbb{Z}[x]/(px - 1) \cong \mathbb{Z}[1/p] なので V(px−1)≅Spec⁡Z[1/p]V(px - 1) \cong \operatorname{Spec} \mathbb{Z}[1/p] で、その像は pp を含まない素イデアル全体 D(p)=Spec⁡Z∖{(p)}D(p) = \operatorname{Spec} \mathbb{Z} \setminus \lbrace (p) \rbrace である。これは (0)(0) を含み (p)(p) を含まないので閉でない((0)(0) の閉包は全体)。よって射は閉写像でなく、固有でない。直観的には、点 x=1/px = 1/p は pp を法とする還元で「無限遠に逃げる」。

問題 5.6 ★★★ 平面 Ak2\mathbb{A}^2_k の 2 つのコピーを A2∖{0}\mathbb{A}^2 \setminus \lbrace 0 \rbrace に沿って恒等写像で貼り合わせたスキーム YY(原点が 2 つある平面)が分離的でないことを、命題 5.16(2) を使わずに示せ。

解答

例 5.15 と同様に考える。Y=U1∪U2Y = U_1 \cup U_2, Ui≅A2=Spec⁡k[x,y]U_i \cong \mathbb{A}^2 = \operatorname{Spec} k[x, y] とし、U1×kU2=Spec⁡k[x,y,x′,y′]U_1 \times_k U_2 = \operatorname{Spec} k[x, y, x', y'] とする。Δ−1(U1×U2)=U1∩U2=A2∖{0}\Delta^{-1}(U_1 \times U_2) = U_1 \cap U_2 = \mathbb{A}^2 \setminus \lbrace 0 \rbrace の Δ\Delta による像は、対角線 V(x−x′,y−y′)≅A2V(x - x', y - y') \cong \mathbb{A}^2 から原点を除いたものである。これは U1×U2U_1 \times U_2 で閉でない(原点はその閉包に属する)。Δ(Y)∩(U1×U2)\Delta(Y) \cap (U_1 \times U_2) がこの集合なので、Δ(Y)\Delta(Y) は閉でなく、YY は分離的でない。なお U1∩U2U_1 \cap U_2 はアフィンでない(問題 4.3)ので、命題 5.16(2) からもわかる。

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