Lemma数学ロードマップ

14 代数幾何学 · 第 4 章

スキーム

目安 18〜24 時間定理など 8演習 6 問

この章の目標

  • 冪零元・生成点・数論的対象の具体例で、スキームが必要な理由を説明できる
  • アフィンスキームの構造層を構成し、O(D(f))=Af\mathcal{O}(D(f)) = A_f と茎が ApA_{\mathfrak{p}} であることを証明できる
  • Hom⁡(X,Spec⁡A)=Hom⁡(A,OX(X))\operatorname{Hom}(X, \operatorname{Spec} A) = \operatorname{Hom}(A, \mathcal{O}_X(X)) を証明し、TT 値点の計算に使える
  • 貼り合わせと Proj⁡\operatorname{Proj} で射影空間や原点が 2 つある直線を構成できる

前提:第1章〜第3章、13-commutative-algebra 第2章(局所化と素スペクトル)、12-category-homological-algebra 第2章(米田の補題)

以下、環はすべて可換で単位元をもつ。

4.1 なぜスキームが必要か

第1章〜第3章の古典的な多様体は、代数閉体 kk 上の有限生成被約代数(座標環)と対応していた。この枠組みには次の三つの不足がある。

  1. 冪零元:放物線 y=x2y = x^2 と接線 y=0y = 0 の交わりは環 k[x]/(x2)k[x]/(x^2) で表され、「2 重の点」であることを記憶している(例 1.14)。直線 y=cy = c との 2 交点が c→0c \to 0 で合流する極限もこの環である。しかし被約な環しか扱わない理論では、これは 1 点 kk と区別できない。
  2. 生成点:多様体の点は極大イデアルに対応したが、素イデアルは既約な部分多様体に対応していた(系 1.13)。素イデアルも「点」として扱うと、既約な集合の「一般の点」が一つの点(生成点)として実在する。
  3. 数論的対象:Z\mathbb{Z} や Z[i]\mathbb{Z}[i] も幾何的に扱いたい。方程式 x2+y2=1x^2 + y^2 = 1 を Z\mathbb{Z} 上で考えると、Q\mathbb{Q} 上の円と、すべての素数 pp についての Fp\mathbb{F}_p 上の曲線が一つの対象の「ファイバー」として並ぶ(第5章)。代数閉でない体 R\mathbb{R} 上の x2+1=0x^2 + 1 = 0 も、剰余体 C\mathbb{C} をもつ 1 点として扱える。

グロタンディークのスキーム (scheme) は、任意の環 AA に局所環付き空間 Spec⁡A\operatorname{Spec} A を対応させ、それを貼り合わせることで、これらすべてを一つの幾何学に収める。

4.2 素スペクトル

環 AA の素イデアル全体 Spec⁡A\operatorname{Spec} A に、V(I)={p∣p⊃I}V(I) = \lbrace \mathfrak{p} \mid \mathfrak{p} \supset I \rbrace を閉集合とするザリスキー位相を入れる(13-commutative-algebra 第2章)。f∈Af \in A に対し D(f)=Spec⁡A∖V(f)D(f) = \operatorname{Spec} A \setminus V(f) とおく。

命題 4.1 (1) D(f)D(f) は開基をなし、D(f)∩D(g)=D(fg)D(f) \cap D(g) = D(fg)。 (2) D(f)⊂D(g)⇔f∈(g)D(f) \subset D(g) \Leftrightarrow f \in \sqrt{(g)}。特に D(f)=∅⇔fD(f) = \emptyset \Leftrightarrow f は冪零。 (3) {p}‾=V(p)\overline{\lbrace \mathfrak{p} \rbrace} = V(\mathfrak{p})。特に閉点は極大イデアルであり、V(I)V(I) が既約 ⇔I\Leftrightarrow \sqrt{I} が素イデアルで、既約閉集合はただ一つの生成点 (generic point) I\sqrt{I} をもつ。 (4) D(f)D(f)(特に Spec⁡A=D(1)\operatorname{Spec} A = D(1))はコンパクトである。 (5) 環準同型 φ ⁣:A→B\varphi\colon A \to B は連続写像 Spec⁡B→Spec⁡A\operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A, q↦φ−1(q)\mathfrak{q} \mapsto \varphi^{-1}(\mathfrak{q}) を引き起こす。

証明. (2) (g)\sqrt{(g)} は gg を含む素イデアルの共通部分なので、V(g)⊂V(f)⇔f∈(g)V(g) \subset V(f) \Leftrightarrow f \in \sqrt{(g)}。(4) D(f)⊂⋃iD(gi)D(f) \subset \bigcup_i D(g_i) なら V((gi)i)⊂V(f)V((g_i)_i) \subset V(f) なので f∈(gi)if \in \sqrt{(g_i)_i}、すなわち fn=∑aigif^n = \sum a_i g_i(有限和)と書け、そこに現れる有限個の D(gi)D(g_i) で覆われる。(5) φ\varphi による逆像は V(I)V(I) を V(φ(I)B)V(\varphi(I)B) に写す。他は定義から直ちに従う。□\square

例 4.2 (1) Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}:閉点 (2),(3),(5),…(2), (3), (5), \dots と生成点 (0)(0) からなり、(0)(0) の閉包は全体である。空でない開集合は、(0)(0) を含み有限個の素数を除いた集合である。

(2) Spec⁡k[x]\operatorname{Spec} k[x](kk 代数閉):閉点 (x−a)(x - a)(a∈ka \in k)と生成点 (0)(0)。古典的な直線 A1\mathbb{A}^1 に生成点を 1 つ加えたものである。

(3) Spec⁡R[x]\operatorname{Spec} \mathbb{R}[x]:閉点は (x−a)(x - a)(a∈Ra \in \mathbb{R})と (x2+bx+c)(x^2 + bx + c)(b2<4cb^2 < 4c)で、後者は共役な複素数の組 {z,zˉ}\lbrace z, \bar{z} \rbrace に対応する。これに生成点 (0)(0) が加わる。

(4) Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec} k[x, y]:閉点 (x−a,y−b)(x - a, y - b)、既約曲線の生成点 (f)(f)(ff は既約多項式)、全体の生成点 (0)(0)。

(5) 離散付値環 RR(たとえば Z(p)\mathbb{Z}_{(p)}):閉点 m\mathfrak{m} と開点である生成点 (0)(0) の 2 点(問題 3.2 の空間)。

(6) Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec} k[x]/(x^2):素イデアルは (x)(x) だけで 1 点である。位相空間としては Spec⁡k\operatorname{Spec} k と同じだが、環は冪零元 xx をもつ。

4.3 構造層

Spec⁡A\operatorname{Spec} A の上の「関数」として、局所的に分数 a/fa/f で書けるものを考える。p∈Spec⁡A\mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} A における値は局所環 ApA_{\mathfrak{p}} に属する。

定義 4.3(構造層, structure sheaf)X=Spec⁡AX = \operatorname{Spec} A の開集合 UU に対し、O(U)\mathcal{O}(U) を写像 s ⁣:U→⨆p∈UAps\colon U \to \bigsqcup_{\mathfrak{p} \in U} A_{\mathfrak{p}} で s(p)∈Aps(\mathfrak{p}) \in A_{\mathfrak{p}} かつ次を満たすものの全体とする:各 p∈U\mathfrak{p} \in U に対し、開近傍 V⊂UV \subset U と a,f∈Aa, f \in A があって、すべての q∈V\mathfrak{q} \in V で f∉qf \notin \mathfrak{q} かつ AqA_{\mathfrak{q}} の中で s(q)=a/fs(\mathfrak{q}) = a/f。

条件は局所的なので、O\mathcal{O} は環の層である。

定理 4.4 X=Spec⁡AX = \operatorname{Spec} A とする。 (1) 各 p\mathfrak{p} で、茎 Op\mathcal{O}_{\mathfrak{p}} は ApA_{\mathfrak{p}} に同型である。 (2) 各 f∈Af \in A で O(D(f))≅Af\mathcal{O}(D(f)) \cong A_f。特に Γ(X,O)=A\Gamma(X, \mathcal{O}) = A。

証明. (1) s↦s(p)s \mapsto s(\mathfrak{p}) は準同型 Op→Ap\mathcal{O}_{\mathfrak{p}} \to A_{\mathfrak{p}} を定める。全射:a/f∈Apa/f \in A_{\mathfrak{p}}(f∉pf \notin \mathfrak{p})は、D(f)D(f) 上の切断 q↦a/f\mathfrak{q} \mapsto a/f の芽の像である。単射:ss の芽の像が 0 とし、p\mathfrak{p} の近傍 VV で s=a/fs = a/f と書く。ApA_{\mathfrak{p}} で a/f=0a/f = 0 なので ha=0ha = 0 となる h∉ph \notin \mathfrak{p} がある。すると V∩D(h)V \cap D(h) の各 q\mathfrak{q} で AqA_{\mathfrak{q}} の中で a/f=0a/f = 0 となり、芽は 0 である。

(2) ψ ⁣:Af→O(D(f))\psi\colon A_f \to \mathcal{O}(D(f)) を a/fn↦(q↦a/fn)a/f^n \mapsto (\mathfrak{q} \mapsto a/f^n) で定める。

単射:ψ(a/fn)=0\psi(a/f^n) = 0 とし、a=Ann⁡(a)\mathfrak{a} = \operatorname{Ann}(a) とおく。各 q∈D(f)\mathfrak{q} \in D(f) で AqA_{\mathfrak{q}} の中で a=0a = 0 なので、ha=0ha = 0 となる h∉qh \notin \mathfrak{q} があり、a⊄q\mathfrak{a} \not\subset \mathfrak{q}。よって V(a)⊂V(f)V(\mathfrak{a}) \subset V(f) で、f∈af \in \sqrt{\mathfrak{a}}、すなわち fma=0f^m a = 0 となり、AfA_f で a/fn=0a/f^n = 0。

全射:s∈O(D(f))s \in \mathcal{O}(D(f)) とする。D(f)D(f) を開集合 ViV_i で覆い、ViV_i 上 s=ai/gis = a_i/g_i(gig_i は ViV_i 上で 0 にならない)とする。開基 D(hi)⊂ViD(h_i) \subset V_i に縮めると D(hi)⊂D(gi)D(h_i) \subset D(g_i) より him=cgih_i^m = c g_i と書け、ai/gi=cai/hima_i/g_i = c a_i/h_i^m。himh_i^m を改めて hih_i とおいて、D(hi)D(h_i) 上で s=ai/his = a_i/h_i としてよい。命題 4.1(4) より有限個 i=1,…,ri = 1, \dots, r で D(f)D(f) が覆われる。D(hihj)=D(hi)∩D(hj)D(h_i h_j) = D(h_i) \cap D(h_j) 上で ai/hia_i/h_i と aj/hja_j/h_j は同じ切断を定めるので、単射性(環 AA と D(hihj)D(h_i h_j) に適用)から AhihjA_{h_i h_j} で等しく、ある NN ですべての i,ji, j について (hihj)N(hjai−hiaj)=0(h_i h_j)^N (h_j a_i - h_i a_j) = 0。hiN+1h_i^{N+1} を hih_i、hiNaih_i^N a_i を aia_i と置き直すと、D(hi)D(h_i) 上 s=ai/his = a_i/h_i のまま

hjai=hiaj(すべての i,j)h_j a_i = h_i a_j \quad (\text{すべての } i, j)

となる。D(f)⊂⋃D(hi)D(f) \subset \bigcup D(h_i) より fn=∑ibihif^n = \sum_i b_i h_i と書ける。a=∑ibiaia = \sum_i b_i a_i とおくと hja=∑ibihiaj=fnajh_j a = \sum_i b_i h_i a_j = f^n a_j なので、D(hj)D(h_j) 上 a/fn=aj/hj=sa/f^n = a_j/h_j = s。よって s=ψ(a/fn)s = \psi(a/f^n)。□\square

定義 4.5(アフィンスキーム, affine scheme)局所環付き空間 (Spec⁡A,O)(\operatorname{Spec} A, \mathcal{O}) を Spec⁡A\operatorname{Spec} A と書き、これに同型な局所環付き空間をアフィンスキームという。点 p\mathfrak{p} の剰余体を κ(p)=Ap/pAp\kappa(\mathfrak{p}) = A_{\mathfrak{p}}/\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} とし、f∈Af \in A の κ(p)\kappa(\mathfrak{p}) への像を ff の p\mathfrak{p} での値 f(p)f(\mathfrak{p}) という。

たとえば 15∈Z15 \in \mathbb{Z} は Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} 上の「関数」で、(2)(2) での値は 1∈F21 \in \mathbb{F}_2、(3)(3) での値は 0∈F30 \in \mathbb{F}_3、(0)(0) での値は 15∈Q15 \in \mathbb{Q} である。値をとる体が点ごとに違う。さらに k[x]/(x2)k[x]/(x^2) の元 xx はただ一つの点で値 0 をとるが 0 ではない。スキーム上の関数は値だけでは決まらない。これが古典的な多様体との本質的な違いである。

4.4 スキームの定義と Spec⁡\operatorname{Spec} の関手性

定義 4.6(スキーム, scheme)局所環付き空間 (X,OX)(X, \mathcal{O}_X) で、各点が開近傍 UU をもち (U,OX∣U)(U, \mathcal{O}_X\vert_U) がアフィンスキームになるものをスキームという。スキームの射は局所環付き空間の射とする。

D(f)⊂Spec⁡AD(f) \subset \operatorname{Spec} A は Spec⁡Af\operatorname{Spec} A_f と同型であり(定理 4.4 を D(f)D(f) の中の D(fg)D(fg) に適用すればよい)、したがってスキームの開集合はスキームになる(開部分スキーム)。

定理 4.7 XX をスキーム、AA を環とする。射 (f,f♯)(f, f^{\sharp}) に大域切断の準同型 f♯ ⁣:A=Γ(Spec⁡A,O)→Γ(X,OX)f^{\sharp}\colon A = \Gamma(\operatorname{Spec} A, \mathcal{O}) \to \Gamma(X, \mathcal{O}_X) を対応させる写像

Hom⁡Sch(X,Spec⁡A)→Hom⁡Ring(A,Γ(X,OX))\operatorname{Hom}_{\mathbf{Sch}}(X, \operatorname{Spec} A) \to \operatorname{Hom}_{\mathbf{Ring}}(A, \Gamma(X, \mathcal{O}_X))

は全単射である。

証明. まず X=Spec⁡BX = \operatorname{Spec} B の場合を示す。

単射:射 (f,f♯)(f, f^{\sharp}) から φ=f♯ ⁣:A→B\varphi = f^{\sharp}\colon A \to B が得られたとする。p∈Spec⁡B\mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} B で茎の準同型 fp♯f^{\sharp}_{\mathfrak{p}} は次の図式を可換にする。

A→ φ B↓↓Af(p)→ fp♯ Bp\begin{array}{ccc} A & \xrightarrow{\ \varphi\ } & B \\ \downarrow & & \downarrow \\ A_{f(\mathfrak{p})} & \xrightarrow{\ f^{\sharp}_{\mathfrak{p}}\ } & B_{\mathfrak{p}} \end{array}

fp♯f^{\sharp}_{\mathfrak{p}} は局所準同型なので、極大イデアルの逆像をとって AA に引き戻すと f(p)=φ−1(p)f(\mathfrak{p}) = \varphi^{-1}(\mathfrak{p})。また局所化の普遍性から fp♯f^{\sharp}_{\mathfrak{p}} は φ\varphi の局所化 φp\varphi_{\mathfrak{p}} に等しい。切断はその芽で決まるので、ff と f♯f^{\sharp} はともに φ\varphi で決まる。

全射:φ ⁣:A→B\varphi\colon A \to B に対し f(p)=φ−1(p)f(\mathfrak{p}) = \varphi^{-1}(\mathfrak{p}) とおくと連続である(命題 4.1(5))。Spec⁡A\operatorname{Spec} A の開集合 VV 上の切断 ss に対し f♯(s)(p)=φp(s(f(p)))f^{\sharp}(s)(\mathfrak{p}) = \varphi_{\mathfrak{p}}(s(f(\mathfrak{p}))) と定めると、s=a/gs = a/g と書ける所では f♯(s)=φ(a)/φ(g)f^{\sharp}(s) = \varphi(a)/\varphi(g) となるので f−1(V)f^{-1}(V) 上の切断である。茎での写像 φp\varphi_{\mathfrak{p}} は局所準同型であり、大域切断では φ\varphi に等しい。

一般の XX の場合:XX をアフィン開集合 UiU_i で覆い、Ui∩UjU_i \cap U_j をアフィン開集合 UijkU_{ijk} で覆う。射は局所的に定まり貼り合わさるので、Hom⁡(X,Spec⁡A)\operatorname{Hom}(X, \operatorname{Spec} A) は ∏iHom⁡(Ui,Spec⁡A)⇉∏i,j,kHom⁡(Uijk,Spec⁡A)\prod_i \operatorname{Hom}(U_i, \operatorname{Spec} A) \rightrightarrows \prod_{i,j,k} \operatorname{Hom}(U_{ijk}, \operatorname{Spec} A) のイコライザーである。層の条件から Γ(X,OX)\Gamma(X, \mathcal{O}_X) も ∏Γ(Ui)⇉∏Γ(Uijk)\prod \Gamma(U_i) \rightrightarrows \prod \Gamma(U_{ijk}) のイコライザーで、Hom⁡(A,−)\operatorname{Hom}(A, -) はイコライザーを保つ。アフィンの場合の全単射はこれらの図式と両立するので、全単射が得られる。□\square

系 4.8 (1) A↦Spec⁡AA \mapsto \operatorname{Spec} A は環の圏とアフィンスキームの圏の反変同値を与える(定理 1.21 の一般化)。 (2) Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} はスキームの圏の終対象である。すなわち任意のスキームはただ一通りに Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} 上のスキームである。 (3) 任意のスキーム XX に対し、idΓ(X,OX)\mathrm{id}_{\Gamma(X, \mathcal{O}_X)} に対応する標準的な射 X→Spec⁡Γ(X,OX)X \to \operatorname{Spec} \Gamma(X, \mathcal{O}_X) がある。XX がアフィンであることと、この射が同型であることは同値である。

(2) は Z\mathbb{Z} が環の圏の始対象であることによる。環 RR に対し、射 X→Spec⁡RX \to \operatorname{Spec} R を与えたスキームを RR 上のスキームという。

4.5 例:二重点・生成点・数論

例 4.9(二重点と接ベクトル)D=Spec⁡k[ε]/(ε2)D = \operatorname{Spec} k[\varepsilon]/(\varepsilon^2) は 1 点だが冪零元をもつ。X=Spec⁡k[x1,…,xn]/IX = \operatorname{Spec} k[x_1, \dots, x_n]/I に対し、kk 上の射 D→XD \to X は kk 準同型 k[x]/I→k[ε]/(ε2)k[x]/I \to k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)、すなわち xi↦ai+εvix_i \mapsto a_i + \varepsilon v_i で II の元を 0 に写すものである。テイラー展開

f(a+εv)=f(a)+ε∑i∂f∂xi(a)vif(a + \varepsilon v) = f(a) + \varepsilon \sum_{i} \frac{\partial f}{\partial x_i}(a) v_i

より、条件は a∈V(I)a \in V(I) かつ vv が aa での接空間(定義 1.28 の式を II で計算したもの)に属することである。二重点からの射とは「点と接ベクトルの組」であり、冪零元は無限小の情報を担っている。

例 4.10(生成点)AA が整域なら (0)(0) は Spec⁡A\operatorname{Spec} A の生成点 η\eta で、{η}‾=Spec⁡A\overline{\lbrace \eta \rbrace} = \operatorname{Spec} A、Oη=Frac⁡A\mathcal{O}_{\eta} = \operatorname{Frac} A。η\eta は空でない任意の開集合に属するので、「η\eta で成り立つ」ことは「稠密な開集合で成り立つ」ことの言い換えになる。たとえば f∈Af \in A が η\eta で 0 でない ⇔\Leftrightarrow f≠0f \neq 0 ⇔\Leftrightarrow D(f)D(f) は空でない開集合。平面曲線 V(f)⊂A2V(f) \subset \mathbb{A}^2 の「一般の点」は、Spec⁡k[x,y]\operatorname{Spec} k[x, y] の点 (f)(f) として実在する。

例 4.11(数論的な例)包含 Z→Z[i]\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}[i] から射 Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z} が定まる。素数 pp の上にある点は Z[i]/(p)≅Fp[x]/(x2+1)\mathbb{Z}[i]/(p) \cong \mathbb{F}_p[x]/(x^2 + 1) の素イデアルで、p=2p = 2 では (x+1)2(x+1)^2 より 1 点、p≡1(mod4)p \equiv 1 \pmod 4 では x2+1x^2 + 1 が相異なる 2 根をもつので 2 点、p≡3(mod4)p \equiv 3 \pmod 4 では既約なので 1 点(剰余体 Fp2\mathbb{F}_{p^2})である。Spec⁡Z[i]\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] は Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} の「2 重被覆」で、(2)(2) の上で分岐している。詳しくは第5章でファイバーとして扱う(15-algebraic-number-theory 第2章も参照)。

4.6 貼り合わせ

命題 4.12(貼り合わせ、主張)スキーム XiX_i と開部分スキーム Uij⊂XiU_{ij} \subset X_i、同型 φij ⁣:Uij→Uji\varphi_{ij}\colon U_{ij} \to U_{ji} が与えられ、Uii=XiU_{ii} = X_i, φii=id\varphi_{ii} = \mathrm{id}, φij(Uij∩Uik)=Uji∩Ujk\varphi_{ij}(U_{ij} \cap U_{ik}) = U_{ji} \cap U_{jk} かつ Uij∩UikU_{ij} \cap U_{ik} 上で φik=φjk∘φij\varphi_{ik} = \varphi_{jk} \circ \varphi_{ij}(コサイクル条件)を満たすとする。このとき、スキーム XX と開埋め込み ψi ⁣:Xi→X\psi_i\colon X_i \to X で、X=⋃ψi(Xi)X = \bigcup \psi_i(X_i)、UijU_{ij} 上 ψj∘φij=ψi\psi_j \circ \varphi_{ij} = \psi_i、ψi(Uij)=ψi(Xi)∩ψj(Xj)\psi_i(U_{ij}) = \psi_i(X_i) \cap \psi_j(X_j) となるものが同型を除いて一意に存在する。

証明は位相空間を貼り合わせたのち層を貼り合わせればよい(Hartshorne 第 II 章演習 2.12)。

例 4.13(射影直線)X0=Spec⁡A[t]X_0 = \operatorname{Spec} A[t] と X1=Spec⁡A[s]X_1 = \operatorname{Spec} A[s] を、D(t)≅D(s)D(t) \cong D(s)(環の同型 A[t,t−1]≅A[s,s−1]A[t, t^{-1}] \cong A[s, s^{-1}], t↔s−1t \leftrightarrow s^{-1})で貼り合わせたものが PA1\mathbb{P}^1_A である。大域切断は、A[t,t−1]A[t, t^{-1}] の中で f(t)=g(t−1)f(t) = g(t^{-1}) となる多項式の組 (f,g)(f, g) であり、両辺の tt の次数を比べると定数に限るので Γ(PA1,O)=A\Gamma(\mathbb{P}^1_A, \mathcal{O}) = A。Pk1\mathbb{P}^1_k がアフィンなら系 4.8(3) より Spec⁡k\operatorname{Spec} k(1 点)に同型になるので、Pk1\mathbb{P}^1_k はアフィンでない。

例 4.14(原点が 2 つある直線)Ak1=Spec⁡k[t]\mathbb{A}^1_k = \operatorname{Spec} k[t] の 2 つのコピーを、開集合 D(t)D(t) どうしを恒等写像で貼り合わせたスキーム XX を考える。原点だけが 2 つ(01,020_1, 0_2)ある。大域切断は k[t]k[t] の元の組 (f,g)(f, g) で k[t,t−1]k[t, t^{-1}] の中で f=gf = g となるもの、すなわち Γ(X,OX)=k[t]\Gamma(X, \mathcal{O}_X) = k[t]。標準的な射 X→Spec⁡k[t]X \to \operatorname{Spec} k[t] は 01,020_1, 0_2 をともに (t)(t) に写すので単射でなく、系 4.8(3) より XX はアフィンでない。これはハウスドルフでない多様体の類似で、第5章で「分離的でない」スキームの典型例として現れる。

4.7 Proj⁡\operatorname{Proj} と射影空間

定義 4.15(Proj⁡\operatorname{Proj})次数付き環 S=⨁d≥0SdS = \bigoplus_{d \geq 0} S_d と S+=⨁d>0SdS_+ = \bigoplus_{d > 0} S_d に対し、S+S_+ を含まない斉次素イデアルの全体を Proj⁡S\operatorname{Proj} S とする。閉集合を V+(a)={p⊃a}V_+(\mathfrak{a}) = \lbrace \mathfrak{p} \supset \mathfrak{a} \rbrace(a\mathfrak{a} は斉次イデアル)とし、正の次数の斉次元 ff に対し D+(f)={p∣f∉p}D_+(f) = \lbrace \mathfrak{p} \mid f \notin \mathfrak{p} \rbrace とおく。SfS_f の次数 0 の部分を S(f)S_{(f)} と書く。

命題 4.16(主張)Proj⁡S\operatorname{Proj} S には、各 D+(f)D_+(f) が Spec⁡S(f)\operatorname{Spec} S_{(f)} に同型なアフィンスキームになる構造層が入り、スキームになる。

証明は Hartshorne 第 II 章 2 節(命題 2.5)を参照。

例 4.17 (1) PAn=Proj⁡A[x0,…,xn]\mathbb{P}^n_A = \operatorname{Proj} A[x_0, \dots, x_n] は D+(xi)≅Spec⁡A[x0/xi,…,xn/xi]≅AAnD_+(x_i) \cong \operatorname{Spec} A[x_0/x_i, \dots, x_n/x_i] \cong \mathbb{A}^n_A で覆われる。n=1n = 1 では例 4.13 に一致する。

(2) 斉次イデアル II による Proj⁡A[x0,…,xn]/I\operatorname{Proj} A[x_0, \dots, x_n]/I を AA 上の射影スキームという。たとえば X=Proj⁡Z[x,y,z]/(x2+y2−z2)X = \operatorname{Proj} \mathbb{Z}[x, y, z]/(x^2 + y^2 - z^2) は「Z\mathbb{Z} 上の円錐曲線」である。F2\mathbb{F}_2 に還元すると x2+y2−z2≡(x+y+z)2x^2 + y^2 - z^2 \equiv (x + y + z)^2 なので、(2)(2) の上には「2 重の直線」が現れる。冪零元は数論の中でも自然に現れるのである。

4.8 古典的な多様体からスキームへ

定理 4.18(主張)kk を代数閉体とする。kk 上の多様体 XX に対し、XX の既約閉集合全体を t(X)t(X) とし、XX の閉集合 YY に対する t(Y)t(Y) を閉集合とする位相と、α ⁣:X→t(X)\alpha\colon X \to t(X), p↦{p}p \mapsto \lbrace p \rbrace による層 α∗OX\alpha_{\ast}\mathcal{O}_X を入れる。このとき t(X)t(X) は kk 上のスキームで、tt は多様体の圏から kk 上のスキームの圏への忠実充満な関手である。アフィン多様体 XX については t(X)=Spec⁡A(X)t(X) = \operatorname{Spec} A(X) である。

証明は Hartshorne 第 II 章命題 2.6 を参照。α\alpha は XX を t(X)t(X) の閉点の集合と同一視し、t(X)t(X) は XX の各既約閉集合に生成点を付け加えたものである。像は kk 上の有限型で分離的な整スキーム(第5章)のうち準射影的なものからなる。以後、多様体と対応するスキームを同一視する。

4.9 関手的な見方:TT 値点

定義 4.19(TT 値点)スキーム X,TX, T に対し X(T)=Hom⁡(T,X)X(T) = \operatorname{Hom}(T, X) を XX の TT 値点という。環 RR に対し X(R)=X(Spec⁡R)X(R) = X(\operatorname{Spec} R) と書く。SS 上のスキームでは SS 上の射を考える。

命題 4.20 X=Spec⁡Z[x1,…,xn]/(f1,…,fr)X = \operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x_1, \dots, x_n]/(f_1, \dots, f_r) と環 RR について、X(R)={a∈Rn∣fj(a)=0 (1≤j≤r)}X(R) = \lbrace a \in R^n \mid f_j(a) = 0 \ (1 \leq j \leq r) \rbrace。

証明. 定理 4.7 より X(R)=Hom⁡(Z[x]/(f1,…,fr),R)X(R) = \operatorname{Hom}(\mathbb{Z}[x]/(f_1, \dots, f_r), R) で、準同型は xix_i の像 aia_i で決まり、fj(a)=0f_j(a) = 0 が条件である。□\square

例 4.21 (1) X=Spec⁡Z[x,y]/(x2+y2−1)X = \operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x, y]/(x^2 + y^2 - 1) に対し、X(R)X(\mathbb{R}) は円、X(Fp)X(\mathbb{F}_p) は有限集合、X(Z)={(±1,0),(0,±1)}X(\mathbb{Z}) = \lbrace (\pm 1, 0), (0, \pm 1) \rbrace、X(Q)X(\mathbb{Q}) はピタゴラス数と対応する(t↦(1−t21+t2,2t1+t2)t \mapsto \bigl(\frac{1 - t^2}{1 + t^2}, \frac{2t}{1 + t^2}\bigr))。一つのスキームが、あらゆる環での解の集合を一度に表している。

(2)(群スキーム)Gm=Spec⁡Z[x,x−1]\mathbb{G}_m = \operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x, x^{-1}] は Gm(R)=R×\mathbb{G}_m(R) = R^{\times}、Ga=Spec⁡Z[x]\mathbb{G}_a = \operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x] は Ga(R)=R\mathbb{G}_a(R) = R、μn=Spec⁡Z[x]/(xn−1)\mu_n = \operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x]/(x^n - 1) は μn(R)={r∈R∣rn=1}\mu_n(R) = \lbrace r \in R \mid r^n = 1 \rbrace を与え、いずれも群を値にもつ関手である。Fp\mathbb{F}_p 上の μp=Spec⁡Fp[x]/((x−1)p)\mu_p = \operatorname{Spec} \mathbb{F}_p[x]/((x - 1)^p) は 1 点からなるが、R=Fp[ε]/(εp)R = \mathbb{F}_p[\varepsilon]/(\varepsilon^p) では 1+ε∈μp(R)1 + \varepsilon \in \mu_p(R) のように自明でない点をもつ。

米田の補題(12-category-homological-algebra 第2章)より X↦X(−)X \mapsto X(-) は忠実充満であり、スキームはその TT 値点の関手で決まる(さらに環 RR 上の値だけで決まる)。

注意

スキーム XX の点の集合と X(K)X(K)(KK は体)は別物である。AC1\mathbb{A}^1_{\mathbb{C}} の生成点は C\mathbb{C} 値点ではなく、AR1\mathbb{A}^1_{\mathbb{R}} の点 (x2+1)(x^2 + 1) は 2 つの C\mathbb{C} 値点 ±i\pm i に対応する。一般に X(K)X(K) は「点 xx と体の埋め込み κ(x)→K\kappa(x) \to K の組」の全体である(問題 4.4)。

まとめ

  • スキームは冪零元(無限小・重複度)、生成点(一般の点)、数論的対象(Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} 上の族)を統一的に扱うために導入される。
  • Spec⁡A\operatorname{Spec} A の構造層は局所的な分数の層で、O(D(f))=Af\mathcal{O}(D(f)) = A_f, Op=Ap\mathcal{O}_{\mathfrak{p}} = A_{\mathfrak{p}}, Γ=A\Gamma = A。
  • スキームはアフィンスキームで覆われる局所環付き空間。関数は値だけでは決まらない。
  • Hom⁡(X,Spec⁡A)=Hom⁡(A,Γ(X,OX))\operatorname{Hom}(X, \operatorname{Spec} A) = \operatorname{Hom}(A, \Gamma(X, \mathcal{O}_X))。特に環の圏とアフィンスキームの圏は反変同値で、Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} は終対象。
  • 貼り合わせで P1\mathbb{P}^1 や原点が 2 つある直線ができ、Proj⁡\operatorname{Proj} で射影スキームができる。いずれもアフィンでない。
  • 古典的な多様体は、生成点を加えることでスキームとみなせる。
  • TT 値点の関手は方程式の解の集合を環ごとに与え、スキームを決定する。

演習問題

問題 4.1 ★ Spec⁡Z/12Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の点・位相・各点の局所環を求めよ。

解答

Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の素イデアルは 1212 を含む Z\mathbb{Z} の素イデアル (2),(3)(2), (3) に対応する 2 点で、どちらも極大なので閉点、位相は離散である。中国剰余定理より Z/12Z≅Z/4Z×Z/3Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} \cong \mathbb{Z}/4\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/3\mathbb{Z} で、(2)(2) での局所環は Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}(冪零元 2 をもつ)、(3)(3) での局所環は F3\mathbb{F}_3 である。(2)(2) は「二重点」、(3)(3) は被約な点である。

問題 4.2 ★★ Spec⁡A\operatorname{Spec} A が連結であるための必要十分条件は、AA が 0,10, 1 以外のべき等元をもたないことであることを示せ。

解答

ee がべき等元なら e(1−e)=0e(1 - e) = 0, e+(1−e)=1e + (1 - e) = 1 より、任意の素イデアルは e,1−ee, 1 - e のちょうど一方を含む。よって Spec⁡A=V(e)⊔V(1−e)\operatorname{Spec} A = V(e) \sqcup V(1 - e) は閉集合(したがって開集合)の非交和で、e≠0,1e \neq 0, 1 なら両方空でない(V(e)=∅V(e) = \emptyset なら ee は単元で、e2=ee^2 = e から e=1e = 1)。逆に Spec⁡A=U1⊔U2\operatorname{Spec} A = U_1 \sqcup U_2(空でない開集合)なら、U1U_1 上 1、U2U_2 上 0 となる切断 e∈Γ(Spec⁡A,O)=Ae \in \Gamma(\operatorname{Spec} A, \mathcal{O}) = A(定理 4.4)が貼り合わせで得られ、e2=ee^2 = e, e≠0,1e \neq 0, 1。

問題 4.3 ★★ kk を体とし、U=Ak2∖{(x,y)}=D(x)∪D(y)U = \mathbb{A}^2_k \setminus \lbrace (x, y) \rbrace = D(x) \cup D(y)(原点を除いた平面)とする。Γ(U,O)=k[x,y]\Gamma(U, \mathcal{O}) = k[x, y] を示し、UU がアフィンでないことを示せ。

解答

Γ(U,O)\Gamma(U, \mathcal{O}) は k[x,y]xk[x, y]_x と k[x,y]yk[x, y]_y の元で k[x,y]xyk[x, y]_{xy} の中で一致するものの組、すなわち分数体の中での共通部分 k[x,y]x∩k[x,y]yk[x, y]_x \cap k[x, y]_y である。f/xm=g/ynf/x^m = g/y^n(f,gf, g は多項式)なら ynf=xmgy^n f = x^m g で、一意分解性から xm∣fx^m \mid f。よって共通部分は k[x,y]k[x, y]。UU がアフィンなら、系 4.8(3) の射 U→Spec⁡k[x,y]U \to \operatorname{Spec} k[x, y](これは包含である)が同型のはずだが、原点 (x,y)(x, y) が像に含まれないので同型でない。

問題 4.4 ★★ 体 KK とスキーム XX について、射 Spec⁡K→X\operatorname{Spec} K \to X は、点 x∈Xx \in X と体の準同型 κ(x)→K\kappa(x) \to K の組と一対一に対応することを示せ。

解答

Spec⁡K\operatorname{Spec} K は 1 点なので、射は像の点 xx と、xx のアフィン近傍 Spec⁡A\operatorname{Spec} A への射、すなわち(定理 4.7)準同型 φ ⁣:A→K\varphi\colon A \to K で φ−1(0)=px\varphi^{-1}(0) = \mathfrak{p}_x となるもので決まる。ker⁡φ=px\ker \varphi = \mathfrak{p}_x なので φ\varphi は A/pxA/\mathfrak{p}_x から KK への単射を経由し、A∖pxA \setminus \mathfrak{p}_x の元は単元に写るので Apx/pxApx=κ(x)A_{\mathfrak{p}_x}/\mathfrak{p}_x A_{\mathfrak{p}_x} = \kappa(x) から KK への準同型に一意に延びる。逆に κ(x)→K\kappa(x) \to K から A→κ(x)→KA \to \kappa(x) \to K が得られる。アフィン近傍のとり方によらないことも同様に確かめられる。

問題 4.5 ★★ 尖点曲線 C′=Spec⁡k[x,y]/(y2−x3)C' = \operatorname{Spec} k[x, y]/(y^2 - x^3) と Ak1\mathbb{A}^1_k について、原点に写る kk 上の射 Spec⁡k[ε]/(ε2)→C′\operatorname{Spec} k[\varepsilon]/(\varepsilon^2) \to C' および →Ak1\to \mathbb{A}^1_k の全体をそれぞれ求めよ。

解答

例 4.9 より、原点に写る射は (x,y)↦(εv1,εv2)(x, y) \mapsto (\varepsilon v_1, \varepsilon v_2) で f=y2−x3f = y^2 - x^3 について ∇f(0)⋅v=0\nabla f(0) \cdot v = 0 を満たすもの。∇f(0)=(0,0)\nabla f(0) = (0, 0) なので、すべての (v1,v2)∈k2(v_1, v_2) \in k^2 が許され、射の全体は 2 次元のベクトル空間 k2k^2 である。実際 (εv2)2−(εv1)3=0(\varepsilon v_2)^2 - (\varepsilon v_1)^3 = 0 が ε2=0\varepsilon^2 = 0 から成り立つ。一方 Ak1\mathbb{A}^1_k では t↦εvt \mapsto \varepsilon v で 1 次元。二重点からの射が接空間を与えるので、C′C' の原点は特異点である(例 1.33)。

問題 4.6 ★★★ Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x] の点を分類せよ(ヒント:素イデアル p\mathfrak{p} に対し p∩Z\mathfrak{p} \cap \mathbb{Z} で場合分けする)。

解答

p∩Z\mathfrak{p} \cap \mathbb{Z} は Z\mathbb{Z} の素イデアルなので (0)(0) か (p)(p) である。

(i) p∩Z=(p)\mathfrak{p} \cap \mathbb{Z} = (p) のとき、p\mathfrak{p} は Z[x]/(p)=Fp[x]\mathbb{Z}[x]/(p) = \mathbb{F}_p[x] の素イデアルに対応し、それは (0)(0) または (gˉ)(\bar{g})(gˉ\bar{g} はモニック既約)である。よって p=(p)\mathfrak{p} = (p) または p=(p,g)\mathfrak{p} = (p, g)(gg は gˉ\bar{g} の持ち上げ)で、後者は極大イデアル(剰余体 Fp[x]/(gˉ)\mathbb{F}_p[x]/(\bar{g}) は有限体)。

(ii) p∩Z=(0)\mathfrak{p} \cap \mathbb{Z} = (0) のとき、p\mathfrak{p} は局所化 Q[x]\mathbb{Q}[x] の素イデアル (0)(0) または (h)(h)(hh は既約)に対応する。後者のとき p=hQ[x]∩Z[x]\mathfrak{p} = h\mathbb{Q}[x] \cap \mathbb{Z}[x] で、hh を係数の最大公約数が 1 の整数係数多項式 h0h_0 にとれば、ガウスの補題より p=(h0)\mathfrak{p} = (h_0)。

まとめると点は、生成点 (0)(0)、「縦の直線」(p)(p)(Fp\mathbb{F}_p 上の直線 AFp1\mathbb{A}^1_{\mathbb{F}_p} の生成点)、「水平な曲線」(h0)(h_0)、閉点 (p,g)(p, g) である。Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x] は 2 次元の「数論的曲面」であり、マンフォードの本(参考文献)に有名な絵がある。

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