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14 代数幾何学 · 第 3 章

層

目安 16〜22 時間定理など 6演習 6 問

この章の目標

  • 前層・層・茎を定義し、連続関数・正則関数・定数層・摩天楼層の例で確かめられる
  • 層の射の単射・全射・同型が茎で判定できることを証明できる
  • 層化を構成してその普遍性を証明し、大域切断関手が右完全でない例を挙げられる
  • 順像と逆像の随伴を証明し、多様体を局所環付き空間として捉えられる

前提:第1章、第2章、03-topology 第2章、12-category-homological-algebra 第3章(随伴関手)。例で 05-complex-analysis 第3章 を使う。

3.1 動機:局所的なデータとその貼り合わせ

アフィン直線 A1\mathbb{A}^1 と尖点曲線 C′=V(y2−x3)C' = V(y^2 - x^3) は、位相空間としては区別できない。どちらも濃度 ∣k∣\lvert k \rvert の集合に補有限位相を入れたもので、t↦(t2,t3)t \mapsto (t^2, t^3) は同相写像である。両者を区別するのは「どの関数が正則か」という情報であった(例 1.23)。そして正則関数は各点の近くの条件で定義される(定義 1.17)。

一方、局所的に存在するものが大域的に存在するとは限らない。C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace の各点の近くには zz の対数の分枝があるが、全体で定義された対数は存在しない。

層 (sheaf) は、「各開集合の上の関数(のようなもの)」と「それを小さい開集合に制限する操作」と「局所的なデータの貼り合わせ」を公理化したものである。局所から大域へ移るときの障害を測るのが層のコホモロジー(第7章)である。

3.2 前層と層

定義 3.1(前層, presheaf)位相空間 XX 上のアーベル群の前層 F\mathcal{F} とは、各開集合 UU にアーベル群 F(U)\mathcal{F}(U) を、開集合の包含 V⊂UV \subset U に準同型 ρUV ⁣:F(U)→F(V)\rho_{UV}\colon \mathcal{F}(U) \to \mathcal{F}(V) を対応させ、ρUU=id\rho_{UU} = \mathrm{id}, ρVW∘ρUV=ρUW\rho_{VW} \circ \rho_{UV} = \rho_{UW}(W⊂V⊂UW \subset V \subset U)を満たすものである。F(U)\mathcal{F}(U) の元を UU 上の切断 (section) といい、ρUV(s)\rho_{UV}(s) を s∣Vs\vert_V と書く。F(U)\mathcal{F}(U) を Γ(U,F)\Gamma(U, \mathcal{F}) とも書く。

開集合を対象、包含を射とする圏を Open(X)\mathbf{Open}(X) とすれば、前層は反変関手 Open(X)op→Ab\mathbf{Open}(X)^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Ab} にほかならない。集合・環などの前層も同様に定める。

定義 3.2(層, sheaf)前層 F\mathcal{F} が層であるとは、任意の開集合 UU と開被覆 U=⋃iUiU = \bigcup_i U_i について次が成り立つことをいう。

  • (S1)(局所性)s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U) がすべての ii で s∣Ui=0s\vert_{U_i} = 0 を満たせば s=0s = 0。
  • (S2)(貼り合わせ)si∈F(Ui)s_i \in \mathcal{F}(U_i) がすべての i,ji, j で si∣Ui∩Uj=sj∣Ui∩Ujs_i\vert_{U_i \cap U_j} = s_j\vert_{U_i \cap U_j} を満たせば、s∣Ui=sis\vert_{U_i} = s_i となる s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U) が存在する。

(S1)(S2) は、列 0→F(U)→∏iF(Ui)→∏i,jF(Ui∩Uj)0 \to \mathcal{F}(U) \to \prod_i \mathcal{F}(U_i) \to \prod_{i,j} \mathcal{F}(U_i \cap U_j)(2 番目の写像は (si)↦(si∣Ui∩Uj−sj∣Ui∩Uj)(s_i) \mapsto (s_i\vert_{U_i \cap U_j} - s_j\vert_{U_i \cap U_j}))が完全であることと同値である。空集合の空な被覆を考えると F(∅)=0\mathcal{F}(\emptyset) = 0 となる。

例 3.3(層の例)(1) 位相空間 XX 上の実数値連続関数の全体 CX(U)C_X(U)。連続性は局所的な性質で、一致する関数は貼り合わさる。(2) 同様に、多様体上の滑らかな関数の層 CM∞C^\infty_M、C\mathbb{C} の開集合上の正則関数の層 O\mathcal{O}、代数多様体 XX 上の正則関数の層 OX\mathcal{O}_X(定義 1.17・2.6 は局所的な条件である)。(3) 定数層 (constant sheaf) A‾\underline{A}:A‾(U)\underline{A}(U) は局所定数関数 U→AU \to A の全体。UU が連結なら A‾(U)=A\underline{A}(U) = A、U=U1⊔U2U = U_1 \sqcup U_2(開集合の非交和)なら A×AA \times A。(4) 摩天楼層 (skyscraper sheaf) ip∗Ai_{p\ast} A:p∈Up \in U なら AA、そうでなければ 00。(5) 連続写像 π ⁣:E→X\pi\colon E \to X の連続な切断 s ⁣:U→Es\colon U \to E(π∘s=idU\pi \circ s = \mathrm{id}_U)の全体(集合の層)。

例 3.4(層でない前層)(1) R\mathbb{R} 上の有界連続関数の前層:関数 xx は各区間 (n−1,n+1)(n-1, n+1) 上では有界だが、貼り合わせた R\mathbb{R} 上の関数は有界でなく、(S2) が成り立たない。(2) A≠0A \neq 0 に対し U↦AU \mapsto A(すべての制限は恒等写像)とする定数前層:F(∅)=A≠0\mathcal{F}(\emptyset) = A \neq 0 であり、交わらない開集合 U1,U2U_1, U_2 上の異なる元 a,ba, b は貼り合わさらない。

3.3 茎と芽

定義 3.5(茎, stalk)前層 F\mathcal{F} と p∈Xp \in X に対し、pp の開近傍 UU と s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U) の組 (U,s)(U, s) に、「pp のある開近傍 W⊂U∩VW \subset U \cap V で s∣W=t∣Ws\vert_W = t\vert_W」で同値関係を入れた商を Fp=lim→⁡U∋pF(U)\mathcal{F}_p = \varinjlim_{U \ni p} \mathcal{F}(U) と書き、pp における茎という。(U,s)(U, s) の類を ss の pp における芽 (germ) といい sps_p と書く。

例 3.6 (1) C\mathbb{C} 上の正則関数の層の茎 Oa\mathcal{O}_a は、z−az - a の収束べき級数環である(一致の定理により芽はテイラー展開で決まる)。(2) 代数多様体 XX では OX,p≅A(X)mp\mathcal{O}_{X,p} \cong A(X)_{\mathfrak{m}_p}(定理 1.18)。(3) 摩天楼層 ip∗Ai_{p\ast} A の茎は、q∈{p}‾q \in \overline{\lbrace p \rbrace} なら AA、そうでなければ 00 である。実際 q∈{p}‾q \in \overline{\lbrace p \rbrace} なら qq の任意の開近傍は pp を含み、そうでなければ pp を含まない qq の開近傍がある。XX がハウスドルフ(あるいは 1 点が閉)なら茎は pp でだけ AA だが、第4章で扱う Spec⁡\operatorname{Spec} のように閉でない点をもつ空間では、その閉包全体で茎が AA になる。

命題 3.7 F\mathcal{F} を層とする。s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U) がすべての p∈Up \in U で sp=0s_p = 0 を満たせば s=0s = 0。

証明. 各 pp に開近傍 Wp⊂UW_p \subset U があって s∣Wp=0s\vert_{W_p} = 0。U=⋃pWpU = \bigcup_p W_p なので (S1) より s=0s = 0。□\square

3.4 層の射と茎による判定

定義 3.8(層の射)前層の射 φ ⁣:F→G\varphi\colon \mathcal{F} \to \mathcal{G} とは、準同型の族 φU ⁣:F(U)→G(U)\varphi_U\colon \mathcal{F}(U) \to \mathcal{G}(U) で制限と可換なもの(関手の間の自然変換)である。射は茎の準同型 φp ⁣:Fp→Gp\varphi_p\colon \mathcal{F}_p \to \mathcal{G}_p を引き起こす。層の射 φ\varphi が

  • 単射 (injective) であるとは、すべての φU\varphi_U が単射であることをいう。
  • 全射 (surjective) であるとは、任意の t∈G(U)t \in \mathcal{G}(U) と p∈Up \in U に対し、pp の開近傍 W⊂UW \subset U と s∈F(W)s \in \mathcal{F}(W) があって φ(s)=t∣W\varphi(s) = t\vert_W となること(局所的に持ち上がること)をいう。

核 U↦ker⁡φUU \mapsto \ker \varphi_U は層である(問題 3.1)が、像 U↦im⁡φUU \mapsto \operatorname{im} \varphi_U は一般に層でない(例 3.10)。全射の定義で各 φU\varphi_U の全射性を要求しないのはこのためである。

定理 3.9 φ ⁣:F→G\varphi\colon \mathcal{F} \to \mathcal{G} を層の射とする。 (1) φ\varphi が単射 ⇔\Leftrightarrow すべての pp で φp\varphi_p が単射。 (2) φ\varphi が全射 ⇔\Leftrightarrow すべての pp で φp\varphi_p が全射。 (3) すべての φU\varphi_U が同型 ⇔\Leftrightarrow すべての pp で φp\varphi_p が同型 ⇔\Leftrightarrow φ\varphi は単射かつ全射。

証明. (1) (⇒\Rightarrow) φp(sp)=0\varphi_p(s_p) = 0 なら pp の近傍 WW で φ(s)∣W=φ(s∣W)=0\varphi(s)\vert_W = \varphi(s\vert_W) = 0、単射性から s∣W=0s\vert_W = 0 で sp=0s_p = 0。(⇐\Leftarrow) φ(s)=0\varphi(s) = 0 なら各 pp で φp(sp)=0\varphi_p(s_p) = 0 より sp=0s_p = 0、命題 3.7 より s=0s = 0。

(2) (⇒\Rightarrow) 定義から直ちに従う。(⇐\Leftarrow) t∈G(U)t \in \mathcal{G}(U), p∈Up \in U とする。tp=φp(σ)t_p = \varphi_p(\sigma) となる芽 σ\sigma を s∈F(V)s \in \mathcal{F}(V) で代表させると、φ(s)p=tp\varphi(s)_p = t_p なので、pp の近傍 W⊂U∩VW \subset U \cap V で φ(s∣W)=t∣W\varphi(s\vert_W) = t\vert_W。

(3) 第 1 の条件から第 2 の条件は明らかで、第 2 の条件から第 3 の条件は (1)(2) による。第 3 から第 1 を示す。(1) より各 φU\varphi_U は単射。t∈G(U)t \in \mathcal{G}(U) に対し、全射性から開被覆 U=⋃UiU = \bigcup U_i と si∈F(Ui)s_i \in \mathcal{F}(U_i) で φ(si)=t∣Ui\varphi(s_i) = t\vert_{U_i} となるものがある。Ui∩UjU_i \cap U_j 上で φ(si−sj)=0\varphi(s_i - s_j) = 0 なので、単射性から sis_i と sjs_j は一致し、(S2) で s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U) に貼り合わさる。φ(s)\varphi(s) と tt は各 UiU_i 上で一致するので (S1) より φ(s)=t\varphi(s) = t。□\square

例 3.10(指数関数)X=C∖{0}X = \mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace 上で、正則関数の加法群の層 O\mathcal{O} から、至るところ 0 でない正則関数の乗法群の層 O×\mathcal{O}^{\times} への射 e(f)=exp⁡(2πif)e(f) = \exp(2\pi i f) を考える。円板上では対数の分枝がとれるので ee は全射(すべての茎で全射)である。しかし e ⁣:O(X)→O×(X)e\colon \mathcal{O}(X) \to \mathcal{O}^{\times}(X) は全射でない:exp⁡(2πig)=z\exp(2\pi i g) = z となる g∈O(X)g \in \mathcal{O}(X) があれば 2πi g′=1/z2\pi i\ g' = 1/z となり、単位円に沿った積分で 0=∮2πig′ dz=∮dz/z=2πi0 = \oint 2\pi i g'\ dz = \oint dz/z = 2\pi i という矛盾が生じる。関数 zz は局所的には像に属するが大域的には属さず、像の前層は (S2) を満たさない。

3.5 層化

定理 3.11(層化, sheafification)前層 F\mathcal{F} に対し、層 F+\mathcal{F}^+ と前層の射 θ ⁣:F→F+\theta\colon \mathcal{F} \to \mathcal{F}^+ で次を満たすものが存在する。 (a) すべての pp で θp ⁣:Fp→Fp+\theta_p\colon \mathcal{F}_p \to \mathcal{F}^+_p は同型。 (b) 任意の層 G\mathcal{G} と前層の射 φ ⁣:F→G\varphi\colon \mathcal{F} \to \mathcal{G} に対し、φ=ψ∘θ\varphi = \psi \circ \theta となる層の射 ψ ⁣:F+→G\psi\colon \mathcal{F}^+ \to \mathcal{G} がただ一つ存在する。

証明. 構成:F+(U)\mathcal{F}^+(U) を、写像 s ⁣:U→⨆p∈UFps\colon U \to \bigsqcup_{p \in U} \mathcal{F}_p で s(p)∈Fps(p) \in \mathcal{F}_p かつ次を満たすものの全体とする:各 p∈Up \in U に開近傍 W⊂UW \subset U と t∈F(W)t \in \mathcal{F}(W) があって、すべての q∈Wq \in W で s(q)=tqs(q) = t_q。制限は写像の制限、θ(t)=(p↦tp)\theta(t) = (p \mapsto t_p) とする。条件が局所的なので F+\mathcal{F}^+ は層である(写像は局所的に一致すれば一致し、局所的に定義されていれば貼り合わさる)。

(a) 全射:Fp+\mathcal{F}^+_p の元を代表する ss は pp の近傍 WW 上で θ(t)\theta(t) に一致するので、その芽は θp(tp)\theta_p(t_p)。単射:θ(t)p=0\theta(t)_p = 0 なら pp の近傍で θ(t)=0\theta(t) = 0、特に tp=θ(t)(p)=0t_p = \theta(t)(p) = 0。

(b) 一意性:ψ1,ψ2\psi_1, \psi_2 が条件を満たせば、茎で ψi,p∘θp=φp\psi_{i,p} \circ \theta_p = \varphi_p で θp\theta_p は同型なので ψ1,p=ψ2,p\psi_{1,p} = \psi_{2,p}。よって ψ1(s)\psi_1(s) と ψ2(s)\psi_2(s) の芽はすべて一致し、命題 3.7 より ψ1=ψ2\psi_1 = \psi_2。存在:s∈F+(U)s \in \mathcal{F}^+(U) に対し、開被覆 U=⋃WiU = \bigcup W_i と ti∈F(Wi)t_i \in \mathcal{F}(W_i) で s∣Wi=θ(ti)s\vert_{W_i} = \theta(t_i) となるものをとる。φ(ti)∈G(Wi)\varphi(t_i) \in \mathcal{G}(W_i) の q∈Wi∩Wjq \in W_i \cap W_j での芽は φq(s(q))\varphi_q(s(q)) で、ii によらない。命題 3.7 より φ(ti)\varphi(t_i) と φ(tj)\varphi(t_j) は Wi∩WjW_i \cap W_j 上一致するので、G(U)\mathcal{G}(U) の元に貼り合わさる。これを ψ(s)\psi(s) とすれば、被覆のとり方によらず(芽が φq(s(q))\varphi_q(s(q)) で決まるため)、ψ\psi は層の射で ψ∘θ=φ\psi \circ \theta = \varphi を満たす。□\square

F+\mathcal{F}^+ を F\mathcal{F} の層化という。定数前層の層化は定数層である。層の射 φ ⁣:F→G\varphi\colon \mathcal{F} \to \mathcal{G} の像の前層の層化を像層 im⁡φ\operatorname{im} \varphi という。茎は im⁡φp⊂Gp\operatorname{im} \varphi_p \subset \mathcal{G}_p なので、定理 3.9(1) より im⁡φ\operatorname{im} \varphi は G\mathcal{G} の部分層であり、φ\varphi が全射 ⇔im⁡φ=G\Leftrightarrow \operatorname{im} \varphi = \mathcal{G} である。同様に余核の前層の層化を余核層とする。こうして XX 上のアーベル群の層の全体はアーベル圏 Ab(X)\mathbf{Ab}(X) をなす(12-category-homological-algebra 第4章)。

3.6 層の完全列と大域切断

定義 3.12(完全列)層の射の列 F′→αF→βF′′\mathcal{F}' \xrightarrow{\alpha} \mathcal{F} \xrightarrow{\beta} \mathcal{F}'' が F\mathcal{F} で完全であるとは、ker⁡β=im⁡α\ker \beta = \operatorname{im} \alpha(部分層として)となることをいう。茎は核・像と可換なので、これはすべての pp で茎の列 Fp′→Fp→Fp′′\mathcal{F}'_p \to \mathcal{F}_p \to \mathcal{F}''_p が完全であることと同値である。

命題 3.13(大域切断の左完全性)層の完全列 0→F′→αF→βF′′0 \to \mathcal{F}' \xrightarrow{\alpha} \mathcal{F} \xrightarrow{\beta} \mathcal{F}'' に対し、任意の開集合 UU で 0→F′(U)→F(U)→F′′(U)0 \to \mathcal{F}'(U) \to \mathcal{F}(U) \to \mathcal{F}''(U) は完全である。

証明. αU\alpha_U の単射性は定理 3.9(1) による。β∘α\beta \circ \alpha は茎で 0 なので命題 3.7 より 0 である。s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U), β(s)=0\beta(s) = 0 とする。各 pp で sp∈ker⁡βp=im⁡αps_p \in \ker \beta_p = \operatorname{im} \alpha_p なので、定理 3.9(2) の証明と同様に、開被覆 U=⋃WiU = \bigcup W_i と ti∈F′(Wi)t_i \in \mathcal{F}'(W_i) で α(ti)=s∣Wi\alpha(t_i) = s\vert_{W_i} となるものがとれる。α(ti−tj)=0\alpha(t_i - t_j) = 0 と単射性から tit_i たちは貼り合わさって t∈F′(U)t \in \mathcal{F}'(U) となり、(S1) より α(t)=s\alpha(t) = s。□\square

層の全射 F→F′′\mathcal{F} \to \mathcal{F}'' から大域切断の全射は従わない。つまり関手 Γ(X,−)\Gamma(X, -) は右完全でない。

例 3.14 (1) 例 3.10 の ee の核は、局所定数関数で値が整数のもの、すなわち定数層 Z‾\underline{\mathbb{Z}} なので、層の完全列

0→Z‾→O→eO×→00 \to \underline{\mathbb{Z}} \to \mathcal{O} \xrightarrow{e} \mathcal{O}^{\times} \to 0

(指数関数列)を得るが、X=C∖{0}X = \mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace 上の大域切断では右端が全射でない。

(2)(代数的な例)X=P1X = \mathbb{P}^1 と相異なる 2 点 p,qp, q に対し、OX→ip∗k⊕iq∗k\mathcal{O}_X \to i_{p\ast} k \oplus i_{q\ast} k, f↦(f(p),f(q))f \mapsto (f(p), f(q)) を考える。pp での茎の写像は評価写像 OX,p→k\mathcal{O}_{X,p} \to k で全射、qq でも同様、他の点 rr では右辺の茎が 0 である(1 点は閉集合)。よってこれは層の全射だが、大域切断は O(P1)=k\mathcal{O}(\mathbb{P}^1) = k(命題 2.8)から k2k^2 への c↦(c,c)c \mapsto (c, c) で、全射でない。「pp と qq で値を指定した大域的な関数」が存在しないのである。この障害は第7章で H1H^1 として測られる。

3.7 順像・逆像と随伴

定義 3.15(順像と逆像)f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を連続写像とする。

  • XX 上の層 F\mathcal{F} の順像 (direct image) f∗Ff_{\ast}\mathcal{F} を (f∗F)(V)=F(f−1(V))(f_{\ast}\mathcal{F})(V) = \mathcal{F}(f^{-1}(V)) で定める(YY 上の層)。
  • YY 上の層 G\mathcal{G} の逆像 (inverse image) f−1Gf^{-1}\mathcal{G} を、前層 fpG ⁣:U↦lim→⁡V⊃f(U)G(V)f^{p}\mathcal{G}\colon U \mapsto \varinjlim_{V \supset f(U)} \mathcal{G}(V) の層化で定める。

例 f ⁣:X→{pt}f\colon X \to \lbrace \mathrm{pt} \rbrace なら f∗F=Γ(X,F)f_{\ast}\mathcal{F} = \Gamma(X, \mathcal{F})。i ⁣:{p}→Xi\colon \lbrace p \rbrace \to X なら i−1G=Gpi^{-1}\mathcal{G} = \mathcal{G}_p で、i∗Ai_{\ast} A は摩天楼層。開集合の包含 j ⁣:U→Xj\colon U \to X なら j−1G=G∣Uj^{-1}\mathcal{G} = \mathcal{G}\vert_U(制限)。茎については (f−1G)x=Gf(x)(f^{-1}\mathcal{G})_x = \mathcal{G}_{f(x)} が成り立つ(問題 3.5)。

定理 3.16(随伴)f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を連続写像とする。XX 上の層 F\mathcal{F} と YY 上の層 G\mathcal{G} について、自然な全単射

Hom⁡X(f−1G,F)≅Hom⁡Y(G,f∗F)\operatorname{Hom}_X(f^{-1}\mathcal{G}, \mathcal{F}) \cong \operatorname{Hom}_Y(\mathcal{G}, f_{\ast}\mathcal{F})

が存在する。すなわち f−1f^{-1} は f∗f_{\ast} の左随伴である。

証明. 定理 3.11(b) より左辺は前層の射 fpG→Ff^p\mathcal{G} \to \mathcal{F} の全体に等しい。帰納極限の普遍性から、そのような射 α\alpha は、U⊂f−1(V)U \subset f^{-1}(V) を満たす開集合の組 (U,V)(U, V) ごとの準同型 αU,V ⁣:G(V)→F(U)\alpha_{U,V}\colon \mathcal{G}(V) \to \mathcal{F}(U) で、UU の縮小と VV の縮小の両方について制限と両立するものと同じである。右辺の元 β\beta は、制限と両立する準同型 βV ⁣:G(V)→F(f−1V)\beta_V\colon \mathcal{G}(V) \to \mathcal{F}(f^{-1}V) の族である。β\beta に対し αU,V=(制限 F(f−1V)→F(U))∘βV\alpha_{U,V} = (\text{制限 } \mathcal{F}(f^{-1}V) \to \mathcal{F}(U)) \circ \beta_V とおき、α\alpha に対し βV=αf−1V,V\beta_V = \alpha_{f^{-1}V, V} とおく。α\alpha の UU についての両立性から αU,V\alpha_{U,V} は αf−1V,V\alpha_{f^{-1}V,V} の制限に等しいので、二つの対応は互いに逆である。自然性は構成から明らかである。□\square

随伴の一般論から、f∗f_{\ast} は極限を保ち左完全であり、f−1f^{-1} は茎の計算から完全である。

3.8 環付き空間と局所環付き空間

多様体を「位相空間と正則関数の層の組」として捉え直す。

定義 3.17(局所環付き空間, locally ringed space)位相空間 XX と XX 上の環の層 OX\mathcal{O}_X の組 (X,OX)(X, \mathcal{O}_X) を環付き空間という。環付き空間の射 (f,f♯) ⁣:(X,OX)→(Y,OY)(f, f^{\sharp})\colon (X, \mathcal{O}_X) \to (Y, \mathcal{O}_Y) は、連続写像 ff と環の層の射 f♯ ⁣:OY→f∗OXf^{\sharp}\colon \mathcal{O}_Y \to f_{\ast}\mathcal{O}_X の組である。f♯f^{\sharp} は茎の準同型 fx♯ ⁣:OY,f(x)→OX,xf^{\sharp}_x\colon \mathcal{O}_{Y,f(x)} \to \mathcal{O}_{X,x} を引き起こす。すべての茎が局所環である環付き空間を局所環付き空間といい、その射としては、各 fx♯f^{\sharp}_x が局所準同型((fx♯)−1(mx)=mf(x)(f^{\sharp}_x)^{-1}(\mathfrak{m}_x) = \mathfrak{m}_{f(x)})であるものだけを考える。

局所性の意味は「f(x)f(x) で 0 になる関数の引き戻しは xx で 0 になる」である。

例 3.18 (1) 滑らかな多様体 (M,CM∞)(M, C^\infty_M) や代数多様体 (X,OX)(X, \mathcal{O}_X) は局所環付き空間であり、茎の極大イデアルはその点で 0 になる関数の芽の全体である。(2) 1 点に環 Z(p)\mathbb{Z}_{(p)} をのせた空間 YY と、1 点に Q\mathbb{Q} をのせた空間 XX の間で、包含 Z(p)→Q\mathbb{Z}_{(p)} \to \mathbb{Q} は環付き空間の射 X→YX \to Y を定めるが、極大イデアルの元 pp が単元に写るので局所環付き空間の射ではない。

命題 3.19 X,YX, Y を kk 上の多様体とする。 (1) 多様体の射 φ ⁣:X→Y\varphi\colon X \to Y は、φ♯(g)=g∘φ\varphi^{\sharp}(g) = g \circ \varphi によって局所環付き空間の射を定める。 (2) 逆に、局所環付き空間の射 (f,f♯) ⁣:(X,OX)→(Y,OY)(f, f^{\sharp})\colon (X, \mathcal{O}_X) \to (Y, \mathcal{O}_Y) で f♯f^{\sharp} が kk 線形なものは、つねに f♯(g)=g∘ff^{\sharp}(g) = g \circ f を満たし、ff は多様体の射である。

証明. (1) g∘φg \circ \varphi が xx で 0 になることと gg が φ(x)\varphi(x) で 0 になることは同値なので、φx♯\varphi^{\sharp}_x は局所準同型である。(2) g∈OY,f(x)g \in \mathcal{O}_{Y,f(x)} に対し g−g(f(x))∈mf(x)g - g(f(x)) \in \mathfrak{m}_{f(x)} である。fx♯f^{\sharp}_x は kk 線形な局所準同型なので fx♯(g)−g(f(x))∈mxf^{\sharp}_x(g) - g(f(x)) \in \mathfrak{m}_x、すなわち f♯(g)(x)=g(f(x))f^{\sharp}(g)(x) = g(f(x))。正則関数は値で決まるので f♯(g)=g∘ff^{\sharp}(g) = g \circ f であり、ff は正則関数を正則関数に引き戻す連続写像、すなわち多様体の射である(定義 2.6)。□\square

こうして kk 上の多様体は「アフィン多様体 (X,OX)(X, \mathcal{O}_X) に局所的に同型な局所環付き空間」とみなせ、射は局所環付き空間の射と一致する。アフィン多様体を任意の環 AA の Spec⁡A\operatorname{Spec} A に置き換えたものが次章のスキームである。

まとめ

  • 前層は開集合の圏上の反変関手、層は局所性 (S1) と貼り合わせ (S2) を満たす前層である。
  • 茎 Fp\mathcal{F}_p は pp の近くの切断の芽の全体。層の切断は芽で決まる。
  • 層の射の単射・全射・同型は茎で判定できる。全射は「局所的に持ち上がる」ことで、各開集合上の全射ではない。
  • 層化 F+\mathcal{F}^+ は茎を変えずに前層を層にする普遍的な構成で、像層・余核層を与える。
  • Γ(U,−)\Gamma(U, -) は左完全だが右完全でない(指数関数列、P1\mathbb{P}^1 上の 2 点での評価)。
  • 逆像 f−1f^{-1} は順像 f∗f_{\ast} の左随伴。
  • 多様体は局所環付き空間であり、射は局所環付き空間の射と一致する。

演習問題

問題 3.1 ★ 層の射 φ ⁣:F→G\varphi\colon \mathcal{F} \to \mathcal{G} の核の前層 U↦ker⁡φUU \mapsto \ker \varphi_U は層であることを示せ。

解答

(S1) は F\mathcal{F} の (S1) から従う。(S2):si∈ker⁡φUis_i \in \ker \varphi_{U_i} が共通部分で一致すれば、F\mathcal{F} の (S2) で s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U) に貼り合わさる。φ(s)∣Ui=φ(si)=0\varphi(s)\vert_{U_i} = \varphi(s_i) = 0 なので、G\mathcal{G} の (S1) より φ(s)=0\varphi(s) = 0、すなわち s∈ker⁡φUs \in \ker \varphi_U。

問題 3.2 ★ X={s,η}X = \lbrace s, \eta \rbrace に開集合 ∅,{η},X\emptyset, \lbrace \eta \rbrace, X を与えた空間(第4章で見るように離散付値環の Spec⁡\operatorname{Spec} である)を考える。XX 上の層は準同型 F(X)→F({η})\mathcal{F}(X) \to \mathcal{F}(\lbrace \eta \rbrace) と同じものであることを示し、茎 Fs,Fη\mathcal{F}_s, \mathcal{F}_\eta を求めよ。また摩天楼層 iη∗Ai_{\eta\ast} A の茎を求めよ。

解答

空でない開集合は {η}⊂X\lbrace \eta \rbrace \subset X だけで、自明でない開被覆は X=X∪{η}X = X \cup \lbrace \eta \rbrace などしかなく、(S1)(S2) は自動的に成り立つ(F(∅)=0\mathcal{F}(\emptyset) = 0 とすればよい)。よって層は制限写像 F(X)→F({η})\mathcal{F}(X) \to \mathcal{F}(\lbrace \eta \rbrace) で決まり、任意の準同型が層を与える。ss の最小の開近傍は XX、η\eta の最小の開近傍は {η}\lbrace \eta \rbrace なので Fs=F(X)\mathcal{F}_s = \mathcal{F}(X), Fη=F({η})\mathcal{F}_\eta = \mathcal{F}(\lbrace \eta \rbrace)。iη∗Ai_{\eta\ast} A は XX と {η}\lbrace \eta \rbrace の両方で AA なので、茎は両点で AA である(s∈{η}‾=Xs \in \overline{\lbrace \eta \rbrace} = X)。

問題 3.3 ★★ 茎がすべて 0 だが 0 でない前層の例を挙げ、定理 3.9(3) が前層では成り立たないことを示せ。

解答

X={a,b}X = \lbrace a, b \rbrace を離散空間とし、F(X)=Z\mathcal{F}(X) = \mathbb{Z}, F({a})=F({b})=F(∅)=0\mathcal{F}(\lbrace a \rbrace) = \mathcal{F}(\lbrace b \rbrace) = \mathcal{F}(\emptyset) = 0 とする(制限はすべて 0 写像)。aa の最小の開近傍は {a}\lbrace a \rbrace なので Fa=0\mathcal{F}_a = 0、同様に Fb=0\mathcal{F}_b = 0。よって射 0→F0 \to \mathcal{F} は茎で同型だが、XX 上で同型でない。F\mathcal{F} は (S1) を満たさない(1∈F(X)1 \in \mathcal{F}(X) は被覆 {a},{b}\lbrace a \rbrace, \lbrace b \rbrace への制限が 0)。

問題 3.4 ★★ S1=R/ZS^1 = \mathbb{R}/\mathbb{Z} 上で、実数値連続関数の層 CRC_{\mathbb{R}} から S1S^1 値連続写像の層 CS1C_{S^1} への射 f↦(f mod Z)f \mapsto (f \bmod \mathbb{Z}) を考える。層の完全列 0→Z‾→CR→CS1→00 \to \underline{\mathbb{Z}} \to C_{\mathbb{R}} \to C_{S^1} \to 0 を示し、大域切断では全射でないことを示せ。

解答

R→R/Z\mathbb{R} \to \mathbb{R}/\mathbb{Z} は被覆写像なので、S1S^1 値連続写像は十分小さい区間(単連結)の上で実数値に持ち上がる(09-algebraic-topology 第3章)。よって全射。核は Z\mathbb{Z} 値の連続関数、すなわち局所定数関数なので Z‾\underline{\mathbb{Z}}。大域切断:恒等写像 id ⁣:S1→S1\mathrm{id}\colon S^1 \to S^1 が連続関数 f ⁣:S1→Rf\colon S^1 \to \mathbb{R} の像なら、R→S1\mathbb{R} \to S^1 と合成して id\mathrm{id} が R\mathbb{R} を経由し、基本群 π1(S1)≅Z\pi_1(S^1) \cong \mathbb{Z} 上で恒等写像が 0 写像を経由することになり矛盾する。よって全射でない。

問題 3.5 ★★ 連続写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y と YY 上の層 G\mathcal{G} について (f−1G)x≅Gf(x)(f^{-1}\mathcal{G})_x \cong \mathcal{G}_{f(x)} を示し、f−1f^{-1} が完全関手であることを導け。

解答

層化は茎を変えないので、(fpG)x=lim→⁡U∋xlim→⁡V⊃f(U)G(V)(f^p\mathcal{G})_x = \varinjlim_{U \ni x} \varinjlim_{V \supset f(U)} \mathcal{G}(V) を計算すればよい。これは f(x)∈Vf(x) \in V かつ x∈U⊂f−1(V)x \in U \subset f^{-1}(V) となる組 (U,V)(U, V) 上の帰納極限で、各 V∋f(x)V \ni f(x) に対し U=f−1(V)U = f^{-1}(V) がとれるので、VV だけの帰納極限 lim→⁡V∋f(x)G(V)=Gf(x)\varinjlim_{V \ni f(x)} \mathcal{G}(V) = \mathcal{G}_{f(x)} に等しい(共終性)。完全性は茎で判定でき(定義 3.12)、f−1f^{-1} を施した列の xx での茎はもとの列の f(x)f(x) での茎なので、完全列は完全列に写る。

問題 3.6 ★★★ 前層 F\mathcal{F} に対し E=⨆p∈XFpE = \bigsqcup_{p \in X} \mathcal{F}_p とおき、π ⁣:E→X\pi\colon E \to X を自然な射影とする。s∈F(U)s \in \mathcal{F}(U) ごとの集合 {sp∣p∈U}\lbrace s_p \mid p \in U \rbrace を開基とする位相を EE に入れる(エタール空間)。π\pi の連続な切断の層が F+\mathcal{F}^+ に一致することを示せ。

解答

ヒント. まず与えられた集合族が開基の条件を満たすこと(二つの基本開集合の共通部分に属する σ\sigma が sp=tps_p = t_p を満たせば、pp の近傍 WW で s∣W=t∣Ws\vert_W = t\vert_W となり {sq∣q∈W}\lbrace s_q \mid q \in W \rbrace が σ\sigma を含む共通部分内の基本開集合になる)と、π\pi が局所同相であることを確かめる。次に写像 σ ⁣:U→E\sigma\colon U \to E(σ(p)∈Fp\sigma(p) \in \mathcal{F}_p)が連続であることと、定理 3.11 の証明の条件「各点の近くで t∈F(W)t \in \mathcal{F}(W) の芽の族に一致する」が同値であることを示す。(⇐\Leftarrow) WW 上で σ=(q↦tq)\sigma = (q \mapsto t_q) なら、基本開集合の逆像は {q∣tq=sq}\lbrace q \mid t_q = s_q \rbrace で開集合。(⇒\Rightarrow) σ(p)=tp\sigma(p) = t_p となる tt をとると、基本開集合 {tq}\lbrace t_q \rbrace の逆像は pp を含む開集合 WW で、WW 上 σ(q)=tq\sigma(q) = t_q。以上より連続な切断の全体は F+(U)\mathcal{F}^+(U) と一致する。

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