Lemma数学ロードマップ

05 複素関数論 · 第 3 章

コーシーの積分公式とその帰結

目安 9〜12 時間定理など 23演習 10 問

この章の目標

  • コーシーの積分公式を証明し、「円周上の値が内部の値をすべて決める」ことを理解する
  • 正則関数が無限回微分可能で、特異点までの距離を半径とする円板でテイラー展開できることを証明できる
  • コーシーの評価式からリウヴィルの定理と代数学の基本定理を導ける
  • 一致の定理、最大値の原理、モレラの定理、ワイエルシュトラスの定理、シュワルツの補題を証明し使える
  • 正則関数と調和関数の関係(平均値の性質)を説明できる

前提:第1章、第2章

3.1 コーシーの積分公式

第2章では、正則関数の閉曲線に沿った積分が(適当な条件のもとで)0 になることを示した。本章ではこれを使って、正則関数の値そのものを積分で表す。その結果、実関数からは想像できない性質が次々に導かれる。

定理 3.1(コーシーの積分公式, Cauchy's integral formula)ff を開集合 UU で正則な関数とし、閉円板 D(a,r)‾⊂U\overline{D(a, r)} \subset U とする。このとき任意の z∈D(a,r)z \in D(a, r) について

f(z)=12πi∫C(a,r)f(ζ)ζ−z dζf(z) = \frac{1}{2\pi i} \int_{C(a, r)} \frac{f(\zeta)}{\zeta - z}\,d\zeta

が成り立つ。

証明. まず、ある R>rR > r について D(a,R)⊂UD(a, R) \subset U となることを示す。U=CU = \mathbb{C} なら明らか。そうでなければ関数 ζ↦dist⁡(ζ,C∖U)\zeta \mapsto \operatorname{dist}(\zeta, \mathbb{C} \setminus U) はコンパクト集合 D(a,r)‾\overline{D(a, r)} 上で正の最小値 δ\delta をとる。R=r+δR = r + \delta とすると、r<∣w−a∣<Rr < \lvert w - a \rvert < R なる ww は D(a,r)‾\overline{D(a, r)} の点 a+r(w−a)/∣w−a∣a + r(w - a)/\lvert w - a \rvert からの距離が δ\delta 未満なので UU に属する。

z∈D(a,r)z \in D(a, r) を固定し、

g(ζ)={f(ζ)−f(z)ζ−z(ζ≠z)f′(z)(ζ=z)g(\zeta) = \begin{cases} \dfrac{f(\zeta) - f(z)}{\zeta - z} & (\zeta \neq z) \\ f'(z) & (\zeta = z) \end{cases}

とおく。gg は D(a,R)D(a, R) で連続、D(a,R)∖{z}D(a, R) \setminus \lbrace z \rbrace で正則である。円板は凸なので定理 2.16 より ∫C(a,r)g(ζ) dζ=0\int_{C(a, r)} g(\zeta)\ d\zeta = 0、すなわち

∫C(a,r)f(ζ)ζ−z dζ=f(z)∫C(a,r)dζζ−z=f(z)⋅2πi n(C(a,r),z)=2πif(z)\int_{C(a, r)} \frac{f(\zeta)}{\zeta - z}\,d\zeta = f(z) \int_{C(a, r)} \frac{d\zeta}{\zeta - z} = f(z) \cdot 2\pi i\,n(C(a, r), z) = 2\pi i f(z)

である(円の内部の点の回転数は 1。例 2.21)。□\square

系 3.2(平均値の性質, mean value property)定理 3.1 の状況で

f(a)=12π∫02πf(a+reit) dtf(a) = \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} f(a + re^{it})\,dt

が成り立つ。つまり中心での値は円周上の値の平均である。

証明. 定理 3.1 で z=az = a とし、ζ=a+reit\zeta = a + re^{it}, dζ=ireit dtd\zeta = ire^{it}\ dt を代入する。□\square

例 3.3

  1. ∫C(0,2)ezz−1 dz=2πie\int_{C(0, 2)} \frac{e^z}{z - 1}\ dz = 2\pi i e(定理 3.1 で f(z)=ezf(z) = e^z, z=1z = 1)。

  2. 部分分数分解 1z2+1=12i(1z−i−1z+i)\frac{1}{z^2 + 1} = \frac{1}{2i}\left( \frac{1}{z - i} - \frac{1}{z + i} \right) と定理 3.1 より

    ∫C(0,2)ezz2+1 dz=12i⋅2πi(ei−e−i)=2πisin⁡1\int_{C(0, 2)} \frac{e^z}{z^2 + 1}\,dz = \frac{1}{2i} \cdot 2\pi i (e^{i} - e^{-i}) = 2\pi i \sin 1

注意 3.4 定理 3.1 は、円周上の値だけで円板内部のすべての値が決まることを述べている。実の意味で C∞C^\infty 級の関数では、境界の値は内部の値を全く決めない(境界で 0 になる C∞C^\infty 級関数はいくらでもある)。複素微分可能性がいかに強い条件であるかが、ここで初めてはっきりと見える。

3.2 無限回微分可能性とテイラー展開

積分公式の右辺は、zz を分母にしか含まない。この形の積分は zz のべき級数に展開できる。

補題 3.5(コーシー型積分)γ\gamma を曲線、φ\varphi を γ∗\gamma^{\ast} 上の連続関数とし、z∉γ∗z \notin \gamma^{\ast} に対して

F(z)=∫γφ(ζ)ζ−z dζF(z) = \int_\gamma \frac{\varphi(\zeta)}{\zeta - z}\,d\zeta

とおく。z0∉γ∗z_0 \notin \gamma^{\ast}, d=dist⁡(z0,γ∗)d = \operatorname{dist}(z_0, \gamma^{\ast}) とすると、D(z0,d)D(z_0, d) 上で

F(z)=∑n=0∞cn(z−z0)n,cn=∫γφ(ζ)(ζ−z0)n+1 dζF(z) = \sum_{n=0}^{\infty} c_n (z - z_0)^n, \qquad c_n = \int_\gamma \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta - z_0)^{n+1}}\,d\zeta

が成り立つ。したがって FF は C∖γ∗\mathbb{C} \setminus \gamma^{\ast} で無限回複素微分可能であり、F(n)(z)=n!∫γφ(ζ)(ζ−z)n+1 dζF^{(n)}(z) = n! \int_\gamma \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}}\ d\zeta である。

証明. ∣z−z0∣<d\lvert z - z_0 \rvert < d とし q=∣z−z0∣/d<1q = \lvert z - z_0 \rvert/d < 1 とおく。ζ∈γ∗\zeta \in \gamma^{\ast} なら ∣ζ−z0∣≥d\lvert \zeta - z_0 \rvert \geq d だから

1ζ−z=1(ζ−z0)−(z−z0)=∑n=0∞(z−z0)n(ζ−z0)n+1,∣(z−z0)n(ζ−z0)n+1∣≤qnd\frac{1}{\zeta - z} = \frac{1}{(\zeta - z_0) - (z - z_0)} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(z - z_0)^n}{(\zeta - z_0)^{n+1}}, \qquad \left\lvert \frac{(z - z_0)^n}{(\zeta - z_0)^{n+1}} \right\rvert \leq \frac{q^n}{d}

であり、級数は ζ∈γ∗\zeta \in \gamma^{\ast} について一様に収束する(M 判定法)。有界な φ\varphi を掛けても一様収束は保たれるので、命題 2.6 により項別積分して展開式を得る。後半は系 1.24 により F(n)(z0)=n!cnF^{(n)}(z_0) = n! c_n であることと、z0z_0 が任意であることからしたがう。□\square

定理 3.6(正則関数は無限回微分可能, グルサの公式)ff が開集合 UU で正則ならば、f′f' も UU で正則である。したがって ff は無限回複素微分可能で、すべての導関数は正則である。さらに D(a,r)‾⊂U\overline{D(a, r)} \subset U ならば、z∈D(a,r)z \in D(a, r) に対し

f(n)(z)=n!2πi∫C(a,r)f(ζ)(ζ−z)n+1 dζ(n=0,1,2,… )f^{(n)}(z) = \frac{n!}{2\pi i} \int_{C(a, r)} \frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}}\,d\zeta \qquad (n = 0, 1, 2, \dots)

が成り立つ。

証明. 各点 a∈Ua \in U について D(a,r)‾⊂U\overline{D(a, r)} \subset U となる rr をとる。定理 3.1 により D(a,r)D(a, r) 上で ff は補題 3.5 の FF(γ=C(a,r)\gamma = C(a, r), φ=f/(2πi)\varphi = f/(2\pi i))に一致するので、補題 3.5 から結論を得る。□\square

これが本科目の最初の大きな「驚き」である。1 回複素微分可能なら、自動的に何回でも微分できる。 実関数ではまったく事情が異なり、たとえば x∣x∣x\lvert x \rvert は C1C^1 級だが原点で 2 回微分可能でない。複素関数ではこのようなことは起こらない。

定理 3.7(テイラー展開)ff を開集合 UU で正則、a∈Ua \in U とし、D(a,R)⊂UD(a, R) \subset U(0<R≤∞0 < R \leq \infty)とする。このとき D(a,R)D(a, R) の各点で

f(z)=∑n=0∞f(n)(a)n!(z−a)nf(z) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!} (z - a)^n

が成り立つ。特に、テイラー級数の収束半径は aa から UU の境界までの距離以上である。

証明. z∈D(a,R)z \in D(a, R) に対し ∣z−a∣<r<R\lvert z - a \rvert < r < R となる rr をとると D(a,r)‾⊂U\overline{D(a, r)} \subset U である。定理 3.1 と補題 3.5(z0=az_0 = a, d=rd = r)により f(z)=∑cn(z−a)nf(z) = \sum c_n (z - a)^n で、定理 3.6 より cn=12πi∫C(a,r)f(ζ)(ζ−a)n+1 dζ=f(n)(a)n!c_n = \frac{1}{2\pi i}\int_{C(a, r)} \frac{f(\zeta)}{(\zeta - a)^{n+1}}\ d\zeta = \frac{f^{(n)}(a)}{n!} である。係数は rr によらない。□\square

系 3.8 開集合 UU 上の関数 ff について、次は同値である。

  1. ff は UU で正則である(各点で複素微分可能)。
  2. ff は UU の各点で解析的である(各点の近傍でべき級数に等しい)。

また、ff が C1C^1 級でコーシー–リーマン方程式を満たすことも 1 と同値である。

証明. 1 ⇒ 2 は定理 3.7、2 ⇒ 1 は定理 1.23。最後の主張は、定理 1.15(C1C^1 級なら全微分可能)と、正則なら f′f' が連続であること(定理 3.6)による。□\square

例 3.9(実関数の謎の解明)f(x)=1/(1+x2)f(x) = 1/(1 + x^2) は実数全体で無限回微分可能で、どこにも「特異な」点はない。ところが原点でのテイラー級数 ∑(−1)nx2n\sum (-1)^n x^{2n} の収束半径は 1 である。理由は複素平面を見ればわかる。1/(1+z2)1/(1 + z^2) は ±i\pm i で分母が 0 になり、z→iz \to i で ∣f(z)∣→∞\lvert f(z) \rvert \to \infty となる。もしテイラー級数の収束半径が 1 より大きければ、その和は D(0,1)D(0, 1) で ff に一致し、かつ ii で連続なので z→iz \to i(z∈D(0,1)z \in D(0,1))で有界にとどまるはずで、矛盾する。定理 3.7 と合わせて収束半径はちょうど 1 である。同様に、x=1x = 1 を中心とするテイラー級数の収束半径は ∣1−i∣=2\lvert 1 - i \rvert = \sqrt{2} であり、tan⁡z\tan z の原点でのテイラー級数の収束半径は最も近い極 ±π/2\pm \pi/2 までの距離 π/2\pi/2 である。収束半径は、複素平面で見た最も近い特異点までの距離である。

系 3.10(対数と平方根の存在)DD を単連結な領域、ff を DD で正則かつ零点をもたない関数とする。このとき DD で正則な関数 gg で eg=fe^{g} = f となるものが存在する。特に h=eg/2h = e^{g/2} は h2=fh^2 = f を満たす正則関数である。

証明. 定理 3.6 より f′f' は正則で、f′/ff'/f も DD で正則である。系 2.25 により原始関数 GG が存在する。(fe−G)′=f′e−G−fG′e−G=0(f e^{-G})' = f' e^{-G} - f G' e^{-G} = 0 だから fe−Gf e^{-G} は 0 でない定数 cc で、c=ec0c = e^{c_0} となる c0c_0 をとれば g=G+c0g = G + c_0 が求めるものである。□\square

この系は第6章のリーマンの写像定理の証明で本質的に使う。命題 1.33 と問題 2.7 は、単連結性の仮定が外せないことを示している。

3.3 コーシーの評価式とリウヴィルの定理

定理 3.11(コーシーの評価式, Cauchy's estimate)ff を開集合 UU で正則、D(a,r)‾⊂U\overline{D(a, r)} \subset U、M(r)=max⁡∣z−a∣=r∣f(z)∣M(r) = \max_{\lvert z - a \rvert = r} \lvert f(z) \rvert とする。このとき

∣f(n)(a)∣≤n! M(r)rn(n=0,1,2,… )\lvert f^{(n)}(a) \rvert \leq \frac{n!\,M(r)}{r^n} \qquad (n = 0, 1, 2, \dots)

である。

証明. 定理 3.6 の公式(z=az = a)に ML 不等式を適用すると ∣f(n)(a)∣≤n!2π⋅M(r)rn+1⋅2πr\lvert f^{(n)}(a) \rvert \leq \frac{n!}{2\pi} \cdot \frac{M(r)}{r^{n+1}} \cdot 2\pi r。□\square

定理 3.12(リウヴィルの定理, Liouville's theorem)有界な整関数は定数である。

証明. ∣f∣≤M\lvert f \rvert \leq M とする。任意の a∈Ca \in \mathbb{C} と r>0r > 0 について定理 3.11 より ∣f′(a)∣≤M/r\lvert f'(a) \rvert \leq M/r。r→∞r \to \infty として f′(a)=0f'(a) = 0。命題 1.21 より ff は定数である。□\square

実関数 sin⁡x\sin x は R\mathbb{R} 上で有界かつ微分可能だが、複素変数の sin⁡z\sin z は有界でない(命題 1.28)。リウヴィルの定理からみれば、これは必然である。

定理 3.13(代数学の基本定理, fundamental theorem of algebra)次数 1 以上の複素係数多項式は C\mathbb{C} に根をもつ。したがって複素係数の nn 次多項式は、重複を込めてちょうど nn 個の根をもち、1 次式の積に分解する。

証明. p(z)=anzn+⋯+a0p(z) = a_n z^n + \cdots + a_0(n≥1n \geq 1, an≠0a_n \neq 0)が根をもたないと仮定する。∣z∣≥1\lvert z \rvert \geq 1 のとき

∣p(z)∣≥∣an∣∣z∣n(1−∑k=0n−1∣ak∣∣an∣∣z∣n−k)≥∣an∣∣z∣n(1−1∣z∣∑k=0n−1∣ak∣∣an∣)\lvert p(z) \rvert \geq \lvert a_n \rvert \lvert z \rvert^n \left( 1 - \sum_{k=0}^{n-1} \frac{\lvert a_k \rvert}{\lvert a_n \rvert \lvert z \rvert^{n-k}} \right) \geq \lvert a_n \rvert \lvert z \rvert^n \left( 1 - \frac{1}{\lvert z \rvert} \sum_{k=0}^{n-1} \frac{\lvert a_k \rvert}{\lvert a_n \rvert} \right)

だから、R0≥1R_0 \geq 1 を十分大きくとれば ∣z∣≥R0\lvert z \rvert \geq R_0 で ∣p(z)∣≥∣an∣R0n/2\lvert p(z) \rvert \geq \lvert a_n \rvert R_0^n / 2 となる。よって 1/p1/p は ∣z∣≥R0\lvert z \rvert \geq R_0 で有界であり、コンパクト集合 D(0,R0)‾\overline{D(0, R_0)} 上でも連続だから有界である。1/p1/p は有界な整関数なので定理 3.12 より定数となり、pp も定数となって矛盾する。後半は根 α\alpha について p(z)=(z−α)q(z)p(z) = (z - \alpha) q(z) と割り算し、次数についての帰納法を用いればよい。□\square

この定理により C\mathbb{C} は代数的閉体である(代数学 第8章)。線形代数で「複素正方行列は必ず固有値をもつ」と述べるときの根拠もこの定理である(線形代数 第5章)。

3.4 零点の孤立性と一致の定理

補題 3.14 DD を領域、ff を DD で正則とする。ある点 c∈Dc \in D ですべての n≥0n \geq 0 について f(n)(c)=0f^{(n)}(c) = 0 ならば、DD 上で f≡0f \equiv 0 である。

証明. A={z∈D∣f(n)(z)=0 (n=0,1,2,… )}A = \lbrace z \in D \mid f^{(n)}(z) = 0 \ (n = 0, 1, 2, \dots) \rbrace とおく。各 f(n)f^{(n)} は連続だから AA は DD の閉集合である。z∈Az \in A なら、D(z,r)⊂DD(z, r) \subset D となる円板の上で定理 3.7 によりテイラー展開の係数がすべて 0 なので f=0f = 0、したがって D(z,r)⊂AD(z, r) \subset A となり、AA は開集合である。c∈Ac \in A より A≠∅A \neq \emptyset で、DD は連結だから A=DA = D である。□\square

定理 3.15(零点の位数と孤立性)DD を領域、ff を DD で正則で恒等的に 0 ではない関数とし、f(a)=0f(a) = 0 とする。このとき、ある m∈Nm \in \mathbb{N} と DD で正則な関数 gg で g(a)≠0g(a) \neq 0 となるものがあって

f(z)=(z−a)mg(z)(z∈D)f(z) = (z - a)^m g(z) \qquad (z \in D)

と書ける。mm を零点 aa の位数 (order) という。さらに、ある r>0r > 0 について ff は 0<∣z−a∣<r0 < \lvert z - a \rvert < r で零点をもたない(零点は孤立している)。

証明. 補題 3.14 より f(n)(a)≠0f^{(n)}(a) \neq 0 となる nn が存在する。その最小のものを mm とすると m≥1m \geq 1 で、D(a,R)⊂DD(a, R) \subset D 上で

f(z)=∑n≥mcn(z−a)n=(z−a)m∑n≥mcn(z−a)n−m,cm=f(m)(a)m!≠0f(z) = \sum_{n \geq m} c_n (z - a)^n = (z - a)^m \sum_{n \geq m} c_n (z - a)^{n - m}, \qquad c_m = \frac{f^{(m)}(a)}{m!} \neq 0

である。g(z)=f(z)/(z−a)mg(z) = f(z)/(z - a)^m(z≠az \neq a)、g(a)=cmg(a) = c_m とおくと、gg は D(a,R)D(a, R) 上では収束べき級数、D∖{a}D \setminus \lbrace a \rbrace 上では正則関数の商なので DD で正則である。gg は aa で連続かつ g(a)≠0g(a) \neq 0 だから、ある r>0r > 0 について D(a,r)D(a, r) 上で g≠0g \neq 0 であり、ff は 0<∣z−a∣<r0 < \lvert z - a \rvert < r で 0 にならない。□\square

定理 3.16(一致の定理, identity theorem)DD を領域、f,gf, g を DD で正則な関数とする。集合 {z∈D∣f(z)=g(z)}\lbrace z \in D \mid f(z) = g(z) \rbrace が DD の中に集積点をもつならば、DD 上で f≡gf \equiv g である。

証明. h=f−gh = f - g とし、c∈Dc \in D を hh の零点集合の集積点とする。hh の連続性から h(c)=0h(c) = 0 で、cc は孤立しない零点である。h≢0h \not\equiv 0 なら定理 3.15 に反するので h≡0h \equiv 0 である。□\square

特に、領域上の正則関数は、どんなに小さな円板の上の値、あるいは収束する点列上の値だけで決まってしまう。

例 3.17(関数関係の延長)exe^x を R\mathbb{R} から C\mathbb{C} へ正則に拡張する方法は eze^z ただ 1 つである。R\mathbb{R} の点はすべて C\mathbb{C} の中の集積点だからである。同様に、実数について成り立つ恒等式 sin⁡2x=2sin⁡xcos⁡x\sin 2x = 2\sin x\cos x から、両辺が整関数であることにより複素数についても sin⁡2z=2sin⁡zcos⁡z\sin 2z = 2 \sin z \cos z が成り立つ。このように、実数での等式を複素数に「持ち上げる」議論は第7章のガンマ関数で繰り返し使う。

例 3.18

  1. f(z)=sin⁡(1/z)f(z) = \sin(1/z) は D=C∖{0}D = \mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace で正則で、零点 1/(nπ)1/(n\pi) は 00 に集積するが、f≢0f \not\equiv 0 である。集積点 00 が DD に属さないので定理 3.16 とは矛盾しない。
  2. 実関数では一致の定理は成り立たない。φ(x)=e−1/x2\varphi(x) = e^{-1/x^2}(x>0x > 0)、φ(x)=0\varphi(x) = 0(x≤0x \leq 0)は R\mathbb{R} 上 C∞C^\infty 級で、区間 (−∞,0](-\infty, 0] 上で 0 と一致するが、恒等的に 0 ではない。

注意

一致の定理では「集積点が領域の中にある」ことと「領域が連結である」ことが本質的である。例 3.18 の 1 のように集積点が境界にある場合は結論が成り立たない。また連結でない開集合では、成分ごとに別々の関数を置けるので、やはり成り立たない。

3.5 最大値の原理

定理 3.19(最大値の原理, maximum modulus principle)DD を領域、ff を DD で正則とする。∣f∣\lvert f \rvert が DD のある点 aa で極大(aa のある近傍で ∣f(z)∣≤∣f(a)∣\lvert f(z) \rvert \leq \lvert f(a) \rvert)になるならば、ff は DD 上で定数である。

証明. D(a,ρ)‾⊂D\overline{D(a, \rho)} \subset D かつ D(a,ρ)D(a, \rho) 上で ∣f∣≤∣f(a)∣\lvert f \rvert \leq \lvert f(a) \rvert となる ρ>0\rho > 0 をとる。0<r<ρ0 < r < \rho に対し系 3.2 より

∣f(a)∣≤12π∫02π∣f(a+reit)∣ dt,すなわち∫02π(∣f(a)∣−∣f(a+reit)∣) dt≤0\lvert f(a) \rvert \leq \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} \lvert f(a + re^{it}) \rvert\,dt, \qquad \text{すなわち} \qquad \int_0^{2\pi} \bigl( \lvert f(a) \rvert - \lvert f(a + re^{it}) \rvert \bigr)\,dt \leq 0

である。被積分関数は連続かつ 0 以上なので恒等的に 0 であり、円 C(a,r)C(a, r) 上で ∣f∣=∣f(a)∣\lvert f \rvert = \lvert f(a) \rvert となる。rr は任意だから D(a,ρ)D(a, \rho) 上で ∣f∣\lvert f \rvert は定数であり、問題 1.4 により ff は D(a,ρ)D(a, \rho) 上で定数である。一致の定理(定理 3.16)より ff は DD 上で定数である。□\square

系 3.20 DD を有界な領域、ff を D‾\overline{D} で連続かつ DD で正則な関数とする。このとき max⁡D‾∣f∣=max⁡∂D∣f∣\max_{\overline{D}} \lvert f \rvert = \max_{\partial D} \lvert f \rvert である。

証明. D‾\overline{D} はコンパクトなので ∣f∣\lvert f \rvert はある点で最大値をとる。それが DD の点なら定理 3.19 より ff は DD 上で定数、連続性から D‾\overline{D} 上で定数なので、最大値は ∂D\partial D(DD は有界で空でないから ∂D≠∅\partial D \neq \emptyset)でもとられる。□\square

系 3.21(最小値の原理)DD を領域、ff を DD で正則で零点をもたない関数とする。∣f∣\lvert f \rvert が DD の点で極小になるならば ff は定数である。

証明. 1/f1/f に定理 3.19 を適用する。□\square

零点をもつ場合は明らかに成り立たない(f(z)=zf(z) = z は原点で ∣f∣\lvert f \rvert の最小値 0 をとる)。

注意

系 3.20 で領域の有界性は外せない。帯領域 S={∣Im⁡z∣<π/2}S = \lbrace \lvert \operatorname{Im} z \rvert < \pi/2 \rbrace と f(z)=exp⁡(ez)f(z) = \exp(e^z) を考える。境界 z=x±iπ/2z = x \pm i\pi/2 では ez=±iexe^z = \pm i e^x だから ∣f(z)∣=∣exp⁡(±iex)∣=1\lvert f(z) \rvert = \lvert \exp(\pm i e^x) \rvert = 1 である。しかし実軸上では f(x)=exp⁡(ex)→∞f(x) = \exp(e^x) \to \infty で、ff は SS で有界ですらない。非有界領域で最大値の原理を使うには、増大度についての追加の仮定(フラグメン–リンデレーフの定理)が必要になる。

3.6 モレラの定理と広義一様収束

定理 3.22(モレラの定理, Morera's theorem)ff を開集合 UU 上の連続関数とし、UU に含まれる任意の閉三角形 TT について ∫∂Tf(z) dz=0\int_{\partial T} f(z)\ dz = 0 であるとする。このとき ff は UU で正則である。

証明. 正則性は局所的な性質なので、UU に含まれる各開円板 D=D(a,r)D = D(a, r) の上で示せばよい。F(z)=∫[a,z]fF(z) = \int_{[a, z]} f とおくと、定理 2.16 の証明と同じ議論(三角形の周に沿った積分が 0 であることだけを使った)により FF は DD で正則で F′=fF' = f である。定理 3.6 により F′F' も正則、すなわち ff は DD で正則である。□\square

系 3.23 開集合 UU 上の連続関数 ff が、ある p∈Up \in U を除いて正則ならば、ff は UU で正則である。

証明. 定理 2.13 により UU 内の閉三角形の周に沿った積分は 0 なので、定理 3.22 を適用する。□\square

第4章では「連続」を「有界」に弱めた形(リーマンの除去可能特異点定理)を証明する。

定義 3.24(広義一様収束, locally uniform convergence)開集合 UU 上の関数列 fnf_n が、UU の任意のコンパクト部分集合の上で ff に一様収束するとき、fnf_n は UU 上で ff に広義一様収束するという。

各点が一様収束する近傍をもつことと同値である(コンパクト集合は有限個の近傍で覆えるため)。

定理 3.25(ワイエルシュトラスの定理, Weierstrass' theorem)fnf_n を開集合 UU で正則な関数の列とし、UU 上で ff に広義一様収束するとする。このとき ff は UU で正則であり、各 k≥1k \geq 1 について fn(k)f_n^{(k)} は UU 上で f(k)f^{(k)} に広義一様収束する。

証明. 各点の近傍で一様収束するので ff は連続である。UU に含まれる閉三角形 TT について、∂T\partial T はコンパクトだから fn→ff_n \to f は ∂T\partial T 上で一様であり、命題 2.6 とグルサの定理(定理 2.12)より ∫∂Tf=lim⁡∫∂Tfn=0\int_{\partial T} f = \lim \int_{\partial T} f_n = 0。モレラの定理より ff は正則である。

K⊂UK \subset U をコンパクト集合とし、δ=dist⁡(K,C∖U)>0\delta = \operatorname{dist}(K, \mathbb{C} \setminus U) > 0(U=CU = \mathbb{C} なら δ=1\delta = 1)、r=δ/2r = \delta/2、K′={ζ∣dist⁡(ζ,K)≤r}K' = \lbrace \zeta \mid \operatorname{dist}(\zeta, K) \leq r \rbrace とおく。K′K' は有界閉集合でコンパクト、かつ K′⊂UK' \subset U である。z∈Kz \in K について D(z,r)‾⊂K′\overline{D(z, r)} \subset K' だから、定理 3.6 の公式(中心 zz、半径 rr)により

∣fn(k)(z)−f(k)(z)∣=∣k!2πi∫C(z,r)fn(ζ)−f(ζ)(ζ−z)k+1 dζ∣≤k!rkmax⁡K′∣fn−f∣\lvert f_n^{(k)}(z) - f^{(k)}(z) \rvert = \left\lvert \frac{k!}{2\pi i} \int_{C(z, r)} \frac{f_n(\zeta) - f(\zeta)}{(\zeta - z)^{k+1}}\,d\zeta \right\rvert \leq \frac{k!}{r^k} \max_{K'} \lvert f_n - f \rvert

である。右辺は z∈Kz \in K によらず n→∞n \to \infty で 0 に収束する。□\square

注意 3.26(実関数との対比)実関数では、ワイエルシュトラスの近似定理により、[0,1][0, 1] 上の任意の連続関数(至るところ微分不可能なものも含む)が多項式の一様極限になる(集合と位相 第7章 のストーン–ワイエルシュトラスの定理)。また fn(x)=sin⁡(nx)/nf_n(x) = \sin(nx)/\sqrt{n} は 00 に一様収束するが、導関数 ncos⁡(nx)\sqrt{n}\cos(nx) は収束しない。複素関数では、一様極限は正則性を保ち、導関数まで自動的に収束する。たとえば zˉ\bar{z} は D‾\overline{\mathbb{D}} 上で多項式の一様極限にはなりえない(なれば D\mathbb{D} で正則になってしまう)。

例 3.27(ゼータ関数の正則性)n−s=e−slog⁡nn^{-s} = e^{-s\log n} は ss の整関数である。Re⁡s≥1+δ\operatorname{Re} s \geq 1 + \delta(δ>0\delta > 0)では ∣n−s∣=n−Re⁡s≤n−1−δ\lvert n^{-s} \rvert = n^{-\operatorname{Re} s} \leq n^{-1-\delta} で ∑n−1−δ<∞\sum n^{-1-\delta} < \infty だから、M 判定法により ζ(s)=∑n=1∞n−s\zeta(s) = \sum_{n=1}^{\infty} n^{-s} はそこで一様収束する。Re⁡s>1\operatorname{Re} s > 1 のコンパクト集合はある Re⁡s≥1+δ\operatorname{Re} s \geq 1 + \delta に含まれるので、級数は広義一様収束し、定理 3.25 により ζ\zeta は Re⁡s>1\operatorname{Re} s > 1 で正則で、項別微分 ζ′(s)=−∑n≥1(log⁡n)n−s\zeta'(s) = -\sum_{n \geq 1} (\log n) n^{-s} が成り立つ。第8章でこの関数を詳しく調べる。

3.7 シュワルツの補題

定理 3.28(シュワルツの補題, Schwarz's lemma)f ⁣:D→Df\colon \mathbb{D} \to \mathbb{D} を正則で f(0)=0f(0) = 0 とする。このとき

  1. 任意の z∈Dz \in \mathbb{D} について ∣f(z)∣≤∣z∣\lvert f(z) \rvert \leq \lvert z \rvert、また ∣f′(0)∣≤1\lvert f'(0) \rvert \leq 1 である。
  2. ある z0≠0z_0 \neq 0 で ∣f(z0)∣=∣z0∣\lvert f(z_0) \rvert = \lvert z_0 \rvert となるか、∣f′(0)∣=1\lvert f'(0) \rvert = 1 ならば、ある実数 θ\theta について f(z)=eiθzf(z) = e^{i\theta} z である。

証明. テイラー展開 f(z)=∑n≥1cnznf(z) = \sum_{n \geq 1} c_n z^n(c0=f(0)=0c_0 = f(0) = 0)より、g(z)=f(z)/zg(z) = f(z)/z(z≠0z \neq 0)、g(0)=f′(0)g(0) = f'(0) とおくと g(z)=∑n≥1cnzn−1g(z) = \sum_{n \geq 1} c_n z^{n-1} は D\mathbb{D} で正則である。0<r<10 < r < 1 とすると、∣z∣=r\lvert z \rvert = r で ∣g(z)∣=∣f(z)∣/r<1/r\lvert g(z) \rvert = \lvert f(z) \rvert/r < 1/r だから、最大値の原理(系 3.20)より ∣z∣≤r\lvert z \rvert \leq r で ∣g(z)∣≤1/r\lvert g(z) \rvert \leq 1/r。zz を固定して r→1r \to 1 とすれば ∣g(z)∣≤1\lvert g(z) \rvert \leq 1、すなわち 1 を得る。2 の仮定のもとでは ∣g∣\lvert g \rvert が D\mathbb{D} の内点で最大値 1 をとるので、定理 3.19 より gg は絶対値 1 の定数 eiθe^{i\theta} である。□\square

シュワルツの補題は「単位円板の正則な自己写像は、原点を固定するなら距離を縮める」ことを述べており、第6章で単位円板の自己同型群を決定するとき、およびリーマンの写像定理の証明で決定的な役割を果たす。

例 3.29 f ⁣:D→Df\colon \mathbb{D} \to \mathbb{D} が正則で f(0)=0f(0) = 0 なら ∣f(1/2)∣≤1/2\lvert f(1/2) \rvert \leq 1/2 であり、等号が成り立つのは f(z)=eiθzf(z) = e^{i\theta} z のときに限る。f(1/2)=1/2f(1/2) = 1/2 ならさらに eiθ=1e^{i\theta} = 1 で、ff は恒等写像である。

3.8 調和関数との関係

定義 3.30(調和関数, harmonic function)開集合 UU 上の実数値 C2C^2 級関数 uu が Δu=uxx+uyy=0\Delta u = u_{xx} + u_{yy} = 0 を満たすとき、uu は調和であるという。

定理 3.31 f=u+ivf = u + iv が開集合 UU で正則ならば、u,vu, v は C∞C^\infty 級の調和関数である。

証明. 定理 1.15 より f′=ux+ivx=vy−iuyf' = u_x + i v_x = v_y - i u_y、すなわち ux=Re⁡f′u_x = \operatorname{Re} f', uy=−Im⁡f′u_y = -\operatorname{Im} f', vx=Im⁡f′v_x = \operatorname{Im} f', vy=Re⁡f′v_y = \operatorname{Re} f' である。f′f' も正則(定理 3.6)なので、u,vu, v の 1 階偏導関数は正則関数の実部・虚部として連続であり、再び同じ関係が f′f' に適用できる。帰納的に u,vu, v は C∞C^\infty 級である。コーシー–リーマン方程式と偏微分の順序交換から uxx=(vy)x=(vx)y=−uyyu_{xx} = (v_y)_x = (v_x)_y = -u_{yy} であり、vv も同様である。□\square

定理 3.32(共役調和関数の存在)DD を単連結な領域、uu を DD 上の調和関数とする。このとき DD で正則な関数 ff で Re⁡f=u\operatorname{Re} f = u となるものが存在し、虚数の定数を加える差を除いて一意である。Im⁡f\operatorname{Im} f を uu の共役調和関数 (harmonic conjugate) という。

証明. g=ux−iuyg = u_x - i u_y とおく。gg は C1C^1 級で、U=uxU = u_x, V=−uyV = -u_y とおくと Ux−Vy=uxx+uyy=0U_x - V_y = u_{xx} + u_{yy} = 0, Uy+Vx=uxy−uyx=0U_y + V_x = u_{xy} - u_{yx} = 0 だから、コーシー–リーマン方程式を満たし正則である(定理 1.15)。系 2.25 により原始関数 G=P+iQG = P + iQ が存在する。G′=Px+iQx=Px−iPyG' = P_x + i Q_x = P_x - i P_y(GG のコーシー–リーマン方程式)だから Px=uxP_x = u_x, Py=uyP_y = u_y となり、P−uP - u は勾配が 0 なので DD 上で定数 cc である(命題 1.21 の証明と同じく、線分に沿って平均値の定理を使う)。f=G−cf = G - c とおけばよい。一意性は、2 つの解の差が実部 0 の正則関数であり、命題 1.21 により定数であることからしたがう。□\square

系 3.33 調和関数 uu について次が成り立つ。

  1. uu は C∞C^\infty 級である。
  2. (平均値の性質)D(a,r)‾⊂U\overline{D(a, r)} \subset U ならば u(a)=12π∫02πu(a+reit) dtu(a) = \dfrac{1}{2\pi} \displaystyle\int_0^{2\pi} u(a + re^{it})\ dt。
  3. (最大値の原理)uu が領域 DD の点で最大値をとれば、uu は DD 上で定数である。

証明. 1, 2. D(a,r)‾⊂D(a,R)⊂U\overline{D(a, r)} \subset D(a, R) \subset U となる R>rR > r をとる。円板は単連結なので、定理 3.32 により D(a,R)D(a, R) 上で u=Re⁡fu = \operatorname{Re} f(ff は正則)と書ける。定理 3.31 と系 3.2 の実部から 1, 2 がしたがう。

  1. M=max⁡DuM = \max_D u とし、A={z∈D∣u(z)=M}A = \lbrace z \in D \mid u(z) = M \rbrace とおく。AA は閉集合である。a∈Aa \in A なら、小さい rr について 2 より ∫02π(M−u(a+reit)) dt=0\int_0^{2\pi} \bigl( M - u(a + re^{it}) \bigr)\ dt = 0 で被積分関数は非負連続だから、C(a,r)C(a, r) 上で u=Mu = M となる。よって AA は開集合で、DD の連結性から A=DA = D である。□\square

例 3.34 u(z)=log⁡∣z∣u(z) = \log \lvert z \rvert は C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace 上の調和関数である(C∖(−∞,0]\mathbb{C} \setminus (-\infty, 0] 上で Re⁡Log⁡z\operatorname{Re} \operatorname{Log} z に等しく、同様に原点からの任意の半直線を除いた領域で対数の分枝の実部に等しい)。しかし C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace 全体で u=Re⁡fu = \operatorname{Re} f となる正則関数 ff は存在しない。もし存在すれば C∖(−∞,0]\mathbb{C} \setminus (-\infty, 0] 上で f−Log⁡f - \operatorname{Log} は実部 0 の正則関数、したがって定数 icic となり、f−icf - ic は Log⁡\operatorname{Log} の C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace への連続な延長として対数の分枝を与えてしまい、命題 1.33 に反する。定理 3.32 の単連結性の仮定は外せない。

注意 3.35 調和関数は、平面の熱平衡状態や静電ポテンシャルを表す。境界での値を与えて内部の調和関数を求める問題(ディリクレ問題)は、円板の場合にはポアソン積分によって解かれ、コーシーの積分公式の実部をとったものと見ることができる。偏微分方程式論の立場からの扱いは 微分方程式 第7章 や 偏微分方程式論 第4章 を参照のこと。

まとめ

  • コーシーの積分公式:D(a,r)‾⊂U\overline{D(a,r)} \subset U なら f(z)=12πi∫C(a,r)f(ζ)ζ−zdζf(z) = \frac{1}{2\pi i}\int_{C(a,r)} \frac{f(\zeta)}{\zeta - z}d\zeta。円周上の値が内部の値をすべて決める。
  • 正則関数は無限回微分可能で、f(n)(z)=n!2πi∫f(ζ)(ζ−z)n+1dζf^{(n)}(z) = \frac{n!}{2\pi i}\int \frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}}d\zeta(グルサの公式)。正則 ⇔ 解析的。
  • テイラー級数は、UU に含まれる最大の円板で収束する。収束半径は最も近い特異点までの距離である。
  • コーシーの評価式 ∣f(n)(a)∣≤n!M(r)/rn\lvert f^{(n)}(a) \rvert \leq n! M(r)/r^n からリウヴィルの定理(有界な整関数は定数)と代数学の基本定理が出る。
  • 恒等的に 0 でない正則関数の零点は有限位数で孤立している。一致の定理:集積点をもつ集合で一致すれば全体で一致する。
  • 最大値の原理:領域の内点で ∣f∣\lvert f \rvert が極大なら定数。有界領域では最大値は境界でとられる。
  • モレラの定理(三角形上の積分が 0 なら正則)とワイエルシュトラスの定理(広義一様極限は正則で、導関数も収束)。
  • シュワルツの補題:f ⁣:D→Df\colon \mathbb{D} \to \mathbb{D}, f(0)=0f(0) = 0 なら ∣f(z)∣≤∣z∣\lvert f(z) \rvert \leq \lvert z \rvert。
  • 正則関数の実部・虚部は調和関数であり、単連結領域では逆に調和関数は正則関数の実部である。

演習問題

問題 3.1 ★ 次の積分を求めよ。(1) ∫C(0,2)ez(z−1)3 dz\displaystyle \int_{C(0,2)} \frac{e^z}{(z - 1)^3}\ dz (2) ∫C(0,4)ezz2−π2 dz\displaystyle \int_{C(0,4)} \frac{e^z}{z^2 - \pi^2}\ dz

解答

(1) 定理 3.6 で n=2n = 2, f=ezf = e^z, z=1z = 1 とすると ∫C(0,2)eζ(ζ−1)3 dζ=2πi2!f′′(1)=πie\int_{C(0,2)} \frac{e^\zeta}{(\zeta - 1)^3}\ d\zeta = \frac{2\pi i}{2!} f''(1) = \pi i e。

(2) 1z2−π2=12π(1z−π−1z+π)\frac{1}{z^2 - \pi^2} = \frac{1}{2\pi}\left( \frac{1}{z - \pi} - \frac{1}{z + \pi} \right) で、±π\pm\pi はともに D(0,4)D(0, 4) 内にあるから、定理 3.1 より 12π⋅2πi(eπ−e−π)=i(eπ−e−π)=2isinh⁡π\frac{1}{2\pi} \cdot 2\pi i (e^{\pi} - e^{-\pi}) = i(e^\pi - e^{-\pi}) = 2i\sinh\pi。

問題 3.2 ★ 次の関数の、指定された点でのテイラー級数の収束半径を(級数を計算せずに)求めよ。(1) 1z2+2z+2\dfrac{1}{z^2 + 2z + 2}、中心 11 (2) 1cos⁡z\dfrac{1}{\cos z}、中心 00

解答

(1) 分母の零点は −1±i-1 \pm i で、そこで ∣f∣→∞\lvert f \rvert \to \infty となる。中心 11 からの距離は ∣2∓i∣=5\lvert 2 \mp i \rvert = \sqrt{5} である。定理 3.7 より収束半径は 5\sqrt{5} 以上で、例 3.9 と同じ理由でそれより大きくはならない。答えは 5\sqrt{5}。

(2) cos⁡z\cos z の零点は π/2+πZ\pi/2 + \pi\mathbb{Z} だけ(命題 1.28)なので、最も近いのは ±π/2\pm\pi/2 で、答えは π/2\pi/2。

問題 3.3 ★★ 整関数 ff が、ある定数 C>0C > 0 と n∈Z≥0n \in \mathbb{Z}_{\geq 0} について ∣f(z)∣≤C(1+∣z∣)n\lvert f(z) \rvert \leq C(1 + \lvert z \rvert)^n を満たすならば、ff は次数 nn 以下の多項式であることを示せ。

解答

コーシーの評価式(中心 0、半径 rr)より k>nk > n のとき ∣f(k)(0)∣≤k!C(1+r)n/rk→0\lvert f^{(k)}(0) \rvert \leq k! C (1 + r)^n / r^k \to 0(r→∞r \to \infty)。よって f(k)(0)=0f^{(k)}(0) = 0(k>nk > n)で、ff の原点でのテイラー展開(定理 3.7 より C\mathbb{C} 全体で成り立つ)は次数 nn 以下の多項式である。

問題 3.4 ★★ 整関数 ff について次を示せ。(1) Re⁡f\operatorname{Re} f が上に有界なら ff は定数である。(2) f(C)f(\mathbb{C}) がある円板 D(w0,ρ)D(w_0, \rho) と交わらなければ ff は定数である。

解答

(1) Re⁡f≤M\operatorname{Re} f \leq M なら ∣ef∣=eRe⁡f≤eM\lvert e^{f} \rvert = e^{\operatorname{Re} f} \leq e^M で、efe^f は有界な整関数だから定数である。微分して f′ef=0f' e^f = 0、ef≠0e^f \neq 0 より f′=0f' = 0 で ff は定数。

(2) ∣f(z)−w0∣≥ρ\lvert f(z) - w_0 \rvert \geq \rho だから 1/(f−w0)1/(f - w_0) は整関数で絶対値が 1/ρ1/\rho 以下。リウヴィルの定理より定数で、ff も定数である。

問題 3.5 ★★ 次の条件を満たす D\mathbb{D} 上の正則関数 ff は存在するか。存在すれば求めよ。(1) f(1/n)=f(−1/n)=1/n3f(1/n) = f(-1/n) = 1/n^3(n≥2n \geq 2) (2) f(1/n)=1/(n+1)f(1/n) = 1/(n + 1)(n≥2n \geq 2)

解答

(1) 存在しない。f(1/n)=(1/n)3f(1/n) = (1/n)^3 より、一致の定理(集積点 0∈D0 \in \mathbb{D})から f(z)=z3f(z) = z^3 でなければならないが、すると f(−1/n)=−1/n3≠1/n3f(-1/n) = -1/n^3 \neq 1/n^3 となる。

(2) 1n+1=1/n1+1/n\frac{1}{n + 1} = \frac{1/n}{1 + 1/n} だから f(z)=z1+zf(z) = \frac{z}{1 + z} は条件を満たし、D\mathbb{D} で正則である(−1∉D-1 \notin \mathbb{D})。一致の定理によりこれが唯一の解である。

問題 3.6 ★★ ff を D‾\overline{\mathbb{D}} を含む開集合で正則とし、∣z∣=1\lvert z \rvert = 1 で ∣f(z)∣=1\lvert f(z) \rvert = 1、かつ D\mathbb{D} に零点をもたないとする。ff は定数であることを示せ。

解答

系 3.20 より D‾\overline{\mathbb{D}} 上で ∣f∣≤1\lvert f \rvert \leq 1。ff は D‾\overline{\mathbb{D}} 上で零点をもたない(境界では ∣f∣=1\lvert f \rvert = 1)ので 1/f1/f も D‾\overline{\mathbb{D}} の近傍で正則で、同様に ∣1/f∣≤1\lvert 1/f \rvert \leq 1。よって D\mathbb{D} 上で ∣f∣=1\lvert f \rvert = 1 となり、∣f∣\lvert f \rvert は内点で最大値をとるので定理 3.19 より ff は定数である。(零点があってよければ f(z)=zf(z) = z が反例になる。)

問題 3.7 ★★ f ⁣:D→Df\colon \mathbb{D} \to \mathbb{D} が正則で f(0)=1/2f(0) = 1/2 ならば ∣f′(0)∣≤3/4\lvert f'(0) \rvert \leq 3/4 であることを示せ。(ヒント:φ(w)=w−1/21−w/2\varphi(w) = \dfrac{w - 1/2}{1 - w/2} は D\mathbb{D} を D\mathbb{D} に写す。これは恒等式 ∣1−aˉw∣2−∣w−a∣2=(1−∣a∣2)(1−∣w∣2)\lvert 1 - \bar{a}w \rvert^2 - \lvert w - a \rvert^2 = (1 - \lvert a \rvert^2)(1 - \lvert w \rvert^2) からわかる。)

解答

恒等式は両辺を展開すれば確かめられ、∣a∣,∣w∣<1\lvert a \rvert, \lvert w \rvert < 1 なら右辺が正なので ∣w−a∣<∣1−aˉw∣\lvert w - a \rvert < \lvert 1 - \bar{a}w \rvert、すなわち φ(D)⊂D\varphi(\mathbb{D}) \subset \mathbb{D}(a=1/2a = 1/2)である。g=φ∘f ⁣:D→Dg = \varphi \circ f\colon \mathbb{D} \to \mathbb{D} は正則で g(0)=φ(1/2)=0g(0) = \varphi(1/2) = 0 だから、シュワルツの補題より ∣g′(0)∣≤1\lvert g'(0) \rvert \leq 1。

φ′(w)=(1−w/2)+(w−1/2)/2(1−w/2)2=3/4(1−w/2)2,φ′(1/2)=3/4(3/4)2=43\varphi'(w) = \frac{(1 - w/2) + (w - 1/2)/2}{(1 - w/2)^2} = \frac{3/4}{(1 - w/2)^2}, \qquad \varphi'(1/2) = \frac{3/4}{(3/4)^2} = \frac{4}{3}

より g′(0)=φ′(1/2)f′(0)=43f′(0)g'(0) = \varphi'(1/2) f'(0) = \frac{4}{3} f'(0) で、∣f′(0)∣≤3/4\lvert f'(0) \rvert \leq 3/4。一般に ∣f′(0)∣≤1−∣f(0)∣2\lvert f'(0) \rvert \leq 1 - \lvert f(0) \rvert^2 が成り立つ(シュワルツ–ピックの補題の特別な場合)。

問題 3.8 ★★ DD を有界な領域とし、fnf_n を D‾\overline{D} で連続かつ DD で正則な関数の列とする。fnf_n が ∂D\partial D 上で一様収束するならば、D‾\overline{D} 上で一様収束し、極限は DD で正則であることを示せ。

解答

系 3.20 を fn−fmf_n - f_m に適用すると max⁡D‾∣fn−fm∣=max⁡∂D∣fn−fm∣\max_{\overline{D}} \lvert f_n - f_m \rvert = \max_{\partial D} \lvert f_n - f_m \rvert で、右辺は n,m→∞n, m \to \infty で 0 に収束する(一様コーシー列)。よって fnf_n は D‾\overline{D} 上で一様コーシー列であり、一様収束する。極限は DD の各コンパクト集合上でも一様極限なので、定理 3.25 により DD で正則である。

問題 3.9 ★★ u(x,y)=excos⁡y+x2−y2u(x, y) = e^x\cos y + x^2 - y^2 は R2\mathbb{R}^2 上の調和関数であることを確かめ、Re⁡f=u\operatorname{Re} f = u となる整関数 ff をすべて求めよ。

解答

uxx=excos⁡y+2u_{xx} = e^x\cos y + 2, uyy=−excos⁡y−2u_{yy} = -e^x\cos y - 2 より Δu=0\Delta u = 0。Re⁡ez=excos⁡y\operatorname{Re} e^z = e^x \cos y, Re⁡z2=x2−y2\operatorname{Re} z^2 = x^2 - y^2 だから f(z)=ez+z2f(z) = e^z + z^2 は条件を満たす。定理 3.32 の一意性より、求める関数は f(z)=ez+z2+icf(z) = e^z + z^2 + ic(c∈Rc \in \mathbb{R})である。証明の構成に沿えば g=ux−iuy=excos⁡y+2x−i(−exsin⁡y−2y)=ez+2zg = u_x - i u_y = e^x\cos y + 2x - i(-e^x\sin y - 2y) = e^z + 2z で、その原始関数が ez+z2e^z + z^2 である。

問題 3.10 ★★★ R2\mathbb{R}^2 全体で定義された調和関数 uu が上に有界ならば、uu は定数であることを示せ(調和関数に対するリウヴィルの定理)。

解答

C\mathbb{C} は星型なので単連結であり(系 2.25)、定理 3.32 により u=Re⁡fu = \operatorname{Re} f となる整関数 ff が存在する。u≤Mu \leq M なら ∣ef∣=eu≤eM\lvert e^{f} \rvert = e^{u} \leq e^M で、efe^f は有界な整関数だからリウヴィルの定理により定数である。f′ef=0f' e^f = 0 より f′=0f' = 0、したがって ff も uu も定数である。

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