この章の目標
- 円環領域で正則な関数が、負のべきを含むローラン級数にただ一通りに展開できることを証明する
- 孤立特異点を除去可能特異点・極・真性特異点に分類し、関数の振る舞いで特徴づける(リーマンの定理、カゾラティ–ワイエルシュトラスの定理)
- 無限遠点での振る舞いを調べ、リーマン球面上の有理型関数は有理関数に限ることを証明する
前提:第2章(回転数、ホモトピー形のコーシーの定理)、第3章
4.1 ローラン展開
正則関数は各点の近傍でテイラー展開できた(定理 3.7)が、1/z や e1/z のように 1 点 a を除いた近傍でだけ正則な関数は、a を中心にテイラー展開できない。そこで負のべき (z−a)−n も許す。たとえば 0<∣z∣<1 では
z(1−z)1=z1+1+z+z2+⋯
であり、0 での「特異さ」は 1/z の項に集約されている。以下、0≤r<R≤∞ に対し円環 (annulus) を A(a;r,R)={z∣r<∣z−a∣<R} と書き、D∗(a,R)=A(a;0,R) を穴あき円板 (punctured disk) という。円 C(a,ρ) は反時計回りに 1 周する。
補題 4.1(円環におけるコーシーの積分公式)f を円環 A=A(a;r,R) で正則とし、r<ρ1<ρ2<R とする。ρ1<∣z−a∣<ρ2 ならば
f(z)=2πi1∫C(a,ρ2)ζ−zf(ζ)dζ−2πi1∫C(a,ρ1)ζ−zf(ζ)dζ
が成り立つ。
証明. z を固定し、g(ζ)=(f(ζ)−f(z))/(ζ−z)(ζ=z)、g(z)=f′(z) とおく。g は A で連続、A∖{z} で正則だから、系 3.23 により A で正則である。2 つの円 C(a,ρ1), C(a,ρ2) は A においてホモトープなので(例 2.30)、∫C(a,ρ1)g dζ=∫C(a,ρ2)g dζ である。一方、例 2.21 より n(C(a,ρ2),z)=1, n(C(a,ρ1),z)=0 だから
∫C(a,ρj)g(ζ)dζ=∫C(a,ρj)ζ−zf(ζ)dζ−2πin(C(a,ρj),z)f(z)(j=1,2)
の j=1,2 の値が等しいことを書き直せば主張を得る。□
定理 4.2(ローラン展開, Laurent expansion)f を円環 A=A(a;r,R) で正則とする。n∈Z に対し
cn=2πi1∫C(a,ρ)(ζ−a)n+1f(ζ)dζ(r<ρ<R)
とおくと、cn は ρ によらず、A の各点で
f(z)=n=−∞∑∞cn(z−a)n:=n=0∑∞cn(z−a)n+n=1∑∞c−n(z−a)−n
が成り立つ。右辺の第 1 の級数は D(a,R) で、第 2 の級数は ∣z−a∣>r で、それぞれ絶対収束かつ広義一様収束する。さらに展開は一意的である。すなわち A の各点で f(z)=∑n∈Zbn(z−a)n(正のべきの部分と負のべきの部分がそれぞれ収束する)ならば、すべての n について bn=cn である。
証明. 係数が ρ によらないこと. ζ↦f(ζ)(ζ−a)−n−1 は A で正則だから、例 2.30 による。
展開. z∈A を固定し、r<ρ1<∣z−a∣<ρ2<R となる ρ1,ρ2 をとる。ζ∈C(a,ρ2) のとき q2=∣z−a∣/ρ2<1 で
ζ−z1=(ζ−a)−(z−a)1=n=0∑∞(ζ−a)n+1(z−a)n
であり、第 n 項の絶対値は q2n/ρ2 以下だから、この級数は ζ∈C(a,ρ2) について一様収束する。有界な f(ζ) を掛けて項別積分すれば(命題 2.6)、補題 4.1 の第 1 項は ∑n≥0cn(z−a)n に等しい。同様に ζ∈C(a,ρ1) のとき q1=ρ1/∣z−a∣<1 で
−ζ−z1=(z−a)−(ζ−a)1=m=0∑∞(z−a)m+1(ζ−a)m
が ζ について一様収束するから、補題 4.1 の第 2 項は
m=0∑∞(z−a)−m−1⋅2πi1∫C(a,ρ1)f(ζ)(ζ−a)mdζ=n=1∑∞c−n(z−a)−n
に等しい(n=m+1 とおいた)。補題 4.1 より展開式が成り立つ。
収束. べき級数 ∑n≥0cnwn は w=z−a(z∈A)で収束するから、定理 1.22 より収束半径は supz∈A∣z−a∣=R 以上である。同様に ∑n≥1c−nwn は w=1/(z−a) で収束するから、収束半径は 1/r 以上である(r=0 なら ∞)。よって第 1 の級数は ∣z−a∣≤ρ<R で、第 2 の級数は ∣z−a∣≥ρ>r で絶対かつ一様に収束し、A のコンパクト集合はこのような閉円環に含まれる。
一意性. f(z)=∑bn(z−a)n とすると、上と同じ理由で両方の部分は C(a,ρ) 上で一様収束する。k∈Z として (ζ−a)−k−1 を掛けて項別積分すると、例 2.3 より n=k の項だけが残り
2πi1∫C(a,ρ)(ζ−a)k+1f(ζ)dζ=n∈Z∑bn⋅2πi1∫C(a,ρ)(ζ−a)n−k−1dζ=bk
となる。左辺は ck である。□
定義 4.3(主要部)定理 4.2 の展開を f の a を中心とするローラン展開(ローラン級数)という。負のべきの部分 ∑n≥1c−n(z−a)−n を主要部 (principal part)、∑n≥0cn(z−a)n を正則部分という。
主要部は ∣z−a∣>r で、正則部分は D(a,R) で正則な関数を表す。特に D∗(a,R) で正則な f の主要部は、C∖{a} 全体で広義一様収束する(第5章の留数定理の証明で使う)。実際の計算では一意性を使う。どんな方法でも、円環全体で収束する (z−a) の整数べきの級数が得られれば、それがローラン展開である。
例 4.4(展開は円環による)f(z)=z(z−1)1=z−11−z1 は 0 と 1 を除いて正則である。
- 0<∣z∣<1 では z−11=−∑n≥0zn より f(z)=−z1−1−z−z2−⋯。
- ∣z∣>1 では z−11=z1⋅1−1/z1=∑n≥1z−n より f(z)=∑n≥2z−n=z21+z31+⋯。
- 1 を中心とする 0<∣z−1∣<1 では、w=z−1 として −z1=−1+w1=−∑n≥0(−w)n より f(z)=z−11−1+(z−1)−(z−1)2+⋯。
同じ中心でも円環が違えば展開は異なる。一意性は「円環を決めれば」の意味である。
例 4.5
- e1/z=∑n=0∞n!1z−n(0<∣z∣)。主要部は無限個の項をもつ。
- z3sinz=∑k=0∞(2k+1)!(−1)kz2k−2=z21−61+120z2−⋯(0<∣z∣)。主要部は 1/z2 である。
4.2 孤立特異点の分類
定義 4.7(孤立特異点, isolated singularity)f がある穴あき円板 D∗(a,r) で正則なとき、a を f の孤立特異点という(f は a で定義されていなくても、定義されていてもよい)。D∗(a,r) でのローラン展開を f(z)=∑n∈Zcn(z−a)n とする。
- すべての n<0 について cn=0 のとき、a を除去可能特異点 (removable singularity) という。
- ある m∈N について c−m=0 かつ n<−m なら cn=0 のとき、a を位数 m の極 (pole of order m) という。位数 1 の極を単純極 (simple pole) という。
- cn=0 となる n<0 が無限個あるとき、a を真性特異点 (essential singularity) という。
係数は r のとり方によらない(一意性)ので、分類は well-defined である。除去可能特異点では、f(a):=c0 と定めれば f は D(a,r) 上のべき級数になり正則になる(定理 1.23)。逆に f が D(a,r) で正則な関数に拡張できるなら、テイラー展開がローラン展開になるので、a は除去可能である。
例 4.8
- zsinz=1−6z2+⋯ の 0 は除去可能特異点である。
- z21 と z3sinz(例 4.5)の 0 は位数 2 の極、z(z−1)1 の 0 と 1 は単純極である(例 4.4)。
- e1/z の 0 は真性特異点である(例 4.5)。
4.3 リーマンの除去可能特異点定理
実関数 sin(1/x) は x=0 で有界かつ滑らかだが、0 で連続にすら拡張できない。正則関数ではこうしたことは起こらない。
定理 4.10(リーマンの除去可能特異点定理, Riemann's removable singularity theorem)f を D∗(a,r) で正則とする。次は同値である。
- a は f の除去可能特異点である。
- ある 0<δ≤r について、f は D∗(a,δ) で有界である。
- limz→a(z−a)f(z)=0。
証明. 1 ⇒ 2:拡張した f は a で連続なので、a の近くで有界である。2 ⇒ 3:∣(z−a)f(z)∣≤M∣z−a∣→0。
3 ⇒ 1:n≥1 と 0<ρ<min(r,1) について、ML 不等式より
∣c−n∣=2πi1∫C(a,ρ)f(ζ)(ζ−a)n−1dζ≤2π2πρ∣ζ−a∣=ρmax∣f(ζ)∣ρn−1=ρn−1∣ζ−a∣=ρmax∣(ζ−a)f(ζ)∣
である。ρn−1≤1 であり、仮定 3 より右辺の最大値は ρ→0 で 0 に収束する。よって c−n=0 である。□
例 4.11 sin(1/z) は実軸上では有界だが、y>0 について sin(1/(iy))=−isinh(1/y) は y→+0 で発散するので、0 の近くで有界でない。実際 sin(1/z)=∑k≥0(2k+1)!(−1)kz−2k−1 で、0 は真性特異点である。
4.4 極と位数
命題 4.12(極の特徴づけ)f を D∗(a,r) で正則とし、m∈N とする。次は同値である。
- a は f の位数 m の極である。
- D(a,r) で正則な関数 g で g(a)=0 かつ D∗(a,r) 上で f(z)=(z−a)−mg(z) となるものが存在する。
- ある δ>0 について D∗(a,δ) 上で f=0 であり、1/f の a は除去可能特異点で、拡張した関数は a に位数 m の零点をもつ。
証明. 1 ⇒ 2:g(z):=(z−a)mf(z)=∑k≥0ck−m(z−a)k は D∗(a,r) で収束するべき級数なので D(a,r) で正則に拡張され、g(a)=c−m=0。2 ⇒ 1:g のテイラー展開を (z−a)m で割ったものが f のローラン展開であり(一意性)、最低次の係数は g(a)=0 である。2 ⇒ 3:D(a,δ) で g=0 となる δ をとれば 1/f=(z−a)m/g。3 ⇒ 2:拡張した 1/f は定理 3.15 より (z−a)mk(z)、k(a)=0 と書け、k は D(a,δ) で零点をもたない。g=(z−a)mf は D∗(a,r) で正則で、D∗(a,δ) では 1/k に等しいから、g(a)=1/k(a)=0 と定めれば D(a,r) で正則である。□
定理 4.13 a を f の孤立特異点とする。a が f の極であるための必要十分条件は limz→a∣f(z)∣=∞ である。
証明. 極なら命題 4.12 の 2 より ∣f(z)∣=∣g(z)∣∣z−a∣−m→∞。逆に ∣f(z)∣→∞ なら、ある D∗(a,δ) で ∣f∣>1 で、h=1/f はそこで正則かつ ∣h∣<1 だから、定理 4.10 より除去可能で h(a)=0 である。h は D∗(a,δ) で 0 にならないので、定理 3.15 により a は有限の位数 m の零点であり、命題 4.12 の 3 より a は位数 m の極である。□
定理 4.10 と定理 4.13 から、孤立特異点の種類は z→a での ∣f∣ の振る舞いで判定できる。
| 種類 |
z→a での振る舞い |
| 除去可能特異点 |
f は a の近くで有界 |
| 極 |
∣f(z)∣→∞ |
| 真性特異点 |
有界でも ∣f(z)∣→∞ でもない |
定義 4.14(位数)a が f の除去可能特異点または極で、f が a のどんな穴あき近傍でも恒等的に 0 ではないとき、f の a での位数 ordaf を、除去した後の f が a に位数 m≥0 の零点をもつなら m(f(a)=0 なら 0)、位数 m の極なら −m と定める。
定理 3.15 と命題 4.12 より、k=ordaf とすると、a の近くで f(z)=(z−a)kg(z)、g は a で正則かつ g(a)=0 と書ける。この表示から直ちに
orda(fg)=ordaf+ordag,orda(1/f)=−ordaf
がわかる。特に、g が a に位数 m の零点をもてば、1/g は a に位数 m の極をもつ。
例 4.15
- sinz の零点は kπ だけで(命題 1.28)、coskπ=0 だから単純零点である。よって 1/sinz は各 kπ に単純極をもつ。
- 1−cosz=2z2−⋯ だから、1−cosz1 の 0 は位数 2 の極である。
- ez−1z の 0 は除去可能特異点で(ez−1=z(1+z/2+⋯))、除去した値は 1 である。2πik(k=0)では分母が単純零点なので単純極である。
- z3ez−1 の 0 では位数が 1−3=−2、すなわち位数 2 の極である。
4.5 真性特異点とカゾラティ–ワイエルシュトラスの定理
定理 4.16(カゾラティ–ワイエルシュトラスの定理, Casorati–Weierstrass theorem)a を f の真性特異点とし、f は D∗(a,r) で正則とする。このとき任意の 0<δ≤r について、像 f(D∗(a,δ)) は C で稠密である。
証明. 稠密でないとすると、w0∈C と ε>0 で、D∗(a,δ) 上 ∣f(z)−w0∣≥ε となるものがある。g=1/(f−w0) は D∗(a,δ) で正則かつ ∣g∣≤1/ε だから、定理 4.10 より除去可能であり、0 にならないので恒等的に 0 ではない。
g(a)=0 なら f=w0+1/g は a で正則に拡張され、g(a)=0 なら a は g の有限位数の零点だから f−w0=1/g は a に極をもつ。いずれも a が真性特異点であることに矛盾する。□
例 4.17 w=0 とする。Logw の虚部は (−π,π] にあるので、整数 k=0 について Logw+2πik=0 であり、zk=1/(Logw+2πik) は e1/zk=w、zk→0 を満たす。よって e1/z は 0 のどんな穴あき近傍でも 0 以外のすべての値を無限回とる(0 はとらない)。一般に次のことが知られている。
定理 4.18(ピカールの大定理, Picard's great theorem)a を f の真性特異点とする。このとき a の任意の穴あき近傍において、f は高々 1 つの例外を除くすべての複素数の値を無限回とる。
本書ではこの定理の証明を省略する(主張のみ)。証明には楕円モジュラー関数や、第6章の正規族の理論の精密化が必要である。例 4.17 のように、例外値は実際に現れうる。
4.6 有理型関数と無限遠点
定義 4.20(有理型関数, meromorphic function)開集合 U 上の関数 f が有理型であるとは、U の中に集積点をもたない部分集合 P⊂U があって、f は U∖P で正則であり、P の各点は f の極であることをいう。
有理関数、tanz、第7章のガンマ関数、第8章のゼータ関数は C 上の有理型関数である。e1/z は C 上の有理型関数ではない。
命題 4.21 領域 D 上の有理型関数の全体 M(D) は、各点での和と積(除去可能特異点は除去する)について体をなす。
証明. f,g の極の集合の和集合も D の中に集積点をもたない。その点 a の近くでは f=(z−a)−ku, g=(z−a)−lv(k,l≥0、u,v は a で正則)と書けるので、f±g, fg は (z−a)−(k+l)×(a で正則な関数)の形で、a は除去可能特異点か極である。
f≡0 とする。E を、f がその点のある穴あき近傍で恒等的に 0 となる点全体とすると、E は開集合である。a∈/E ならローラン展開に 0 でない係数があるので f=(z−a)ku(u(a)=0)と書け、a のある穴あき近傍で f=0 となるから、D∖E も開集合である。D は連結で E=D だから E=∅。よって各点で f=(z−a)ku(u(a)=0)と書け、1/f=(z−a)−k/u は各点で正則か極をもち、零点(1/f の極)は集積しない。□
次に、z=1/w という座標変換で無限遠点を 0 に移して調べる。
定義 4.23(無限遠点での振る舞い)f がある R≥0 について ∣z∣>R で正則なとき、∞ を f の孤立特異点という。g(w)=f(1/w) は D∗(0,1/R) で正則であり(R=0 なら 1/R=∞)、0 が g の除去可能特異点・位数 m の極・真性特異点であるとき、∞ はそれぞれ f の除去可能特異点・位数 m の極・真性特異点であるという。C 上の有理型関数 f が、ある ∣z∣>R で正則で、∞ が除去可能特異点または極であるとき、f は C^ 上の有理型関数であるという。
∣z∣>R でのローラン展開 f(z)=∑ncnzn に対し g(w)=∑ncnw−n だから、∞ が除去可能 ⇔ n>0 で cn=0、位数 m の極 ⇔ cm=0 かつ n>m で cn=0、真性特異点 ⇔ cn=0 となる n>0 が無限個、である。無限遠点では正のべきが主要部の役割を果たす。
例 4.24
- m 次の多項式は ∞ に位数 m の極をもつ。z−1z2+1=z+1+z−12 は ∞ に単純極をもつ。
- 1/z の ∞ は除去可能で、値は 0 である。ez、sinz、cosz は ∞ に真性特異点をもつ。
命題 4.25 f を整関数とする。
- ∞ が f の除去可能特異点であることと、f が定数であることは同値である。
- ∞ が f の位数 m の極であることと、f が m 次の多項式であることは同値である。
- f が多項式でなければ、∞ は f の真性特異点である。
証明. 原点でのテイラー級数 ∑n≥0anzn は C 全体で収束するから(定理 3.7)、A(0;R,∞) でのローラン展開でもある。上の判定法から 1〜3 が従う。□
特に、多項式でない整関数 f では、どんな R>0 についても f({∣z∣>R}) は稠密である(定理 4.16)。また ∣f(z)∣→∞(z→∞)となる整関数は、定理 4.13 より ∞ が極なので多項式である。
定理 4.26 C^ 上の有理型関数は有理関数である。
証明. f は ∣z∣>R で正則とする。C 内の極はコンパクト集合 D(0,R) に含まれ、集積点をもたないから有限個である。それらを a1,…,ak とし、aj での主要部を
Pj(z)=l=1∑mj(z−aj)lc−l(j)
とする(極なので有限和)。また ∣z∣>R でのローラン展開 f(z)=∑ncnzn の正のべきの部分を P∞(z)=∑n=1mcnzn とする(∞ が除去可能なら P∞=0)。
g=f−P∞−∑jPj とおく。aj の近くでは f−Pj のローラン展開に負のべきはなく、他の項は aj で正則だから、g は整関数に拡張される。∣z∣≥R+1 では ∣f−P∞∣=∣∑n≤0cnzn∣≤∑l≥0∣c−l∣(R+1)−l<∞(定理 4.2 の絶対収束)で、各 Pj も z→∞ で 0 に収束するから、g は有界である。リウヴィルの定理より g は定数 c であり
f(z)=c+P∞(z)+j=1∑kPj(z)
は有理関数である。□
系 4.27(部分分数分解)有理関数 f=P/Q は、多項式と、Q の各根 aj についての ∑lcjl(z−aj)−l の形の和として、ただ一通りに表される。
証明. 存在は定理 4.26 の証明の式そのものである(有理関数は明らかに C^ 上の有理型関数)。一意性は、そのような表示の (z−aj)−l の部分が f の aj での主要部に、多項式部分の非定数項が ∞ での主要部に一致しなければならないこと(ローラン展開の一意性)による。□
有理関数の積分で使った部分分数分解(微分積分学 第5章)は、こうして複素関数論から自然に導かれる。「コンパクトな C^ 上の有理型関数は有限個のデータ(極と主要部)で決まる」という定理 4.26 の現象は、コンパクトなリーマン面上のリーマン–ロッホの定理(リーマン面と保型形式 第5章)へとつながる。
まとめ
- 円環 r<∣z−a∣<R で正則な関数は、ローラン級数 ∑n∈Zcn(z−a)n、cn=2πi1∫C(a,ρ)f(ζ)(ζ−a)−n−1dζ に一意的に展開される。計算は一意性に基づいて既知の級数から行う。
- 孤立特異点は、ローラン展開の負のべきが「ない・有限個・無限個」に応じて、除去可能特異点・極・真性特異点に分類される。
- リーマンの定理:孤立特異点の近くで有界(あるいは (z−a)f(z)→0)なら除去可能。
- 位数 m の極 ⇔ f=(z−a)−mg(g(a)=0)⇔ 1/f が位数 m の零点をもつ。極であることは ∣f(z)∣→∞ と同値。
- カゾラティ–ワイエルシュトラス:真性特異点の任意の穴あき近傍の像は稠密。ピカールの大定理(主張のみ):高々 1 つの例外値を除き、すべての値を無限回とる。
- 有理型関数は極以外で正則な関数で、リーマン球面への連続写像とみなせる。
- 無限遠点の特異点は w=1/z で調べる。整関数は、∞ が極なら多項式、そうでなければ(定数を除き)∞ は真性特異点。
- リーマン球面上の有理型関数は有理関数であり、部分分数分解はこの定理から導かれる。
演習問題
問題 4.1 ★ f(z)=(z−1)(z−2)1 の、原点を中心とするローラン展開を、次の各領域で求めよ。(1) ∣z∣<1 (2) 1<∣z∣<2 (3) ∣z∣>2
解答
f(z)=z−21−z−11 と分解する。∣z∣<2 では z−21=−21⋅1−z/21=−∑n≥02n+1zn、∣z∣>2 では z−21=z1⋅1−2/z1=∑n≥12n−1z−n。また ∣z∣<1 では −z−11=∑n≥0zn、∣z∣>1 では −z−11=−∑n≥1z−n。したがって
(1) f(z)=∑n≥0(1−2−n−1)zn。
(2) f(z)=−∑n≥1z−n−∑n≥02−n−1zn。
(3) f(z)=∑n≥1(2n−1−1)z−n=z21+z33+z47+⋯。
検算:(1) の定数項 1/2 は f(0) に等しく、(3) の初項 1/z2 は z→∞ での f(z)≈1/z2 と合う。
問題 4.2 ★ 次の関数の指定された点の特異点を分類し、極ならその位数を求めよ。(1) z2sinz1、z=0 (2) z2ez−1−z、z=0 (3) cos(1/z)、z=0 (4) (ez−1)21、z=2πik(k∈Z)
解答
(1) z2sinz=z3(1−z2/6+⋯) は 0 に位数 3 の零点をもつので、位数 3 の極。
(2) ez−1−z=z2/2+z3/6+⋯ より z2ez−1−z=21+6z+⋯。除去可能特異点で、除去した値は 1/2。
(3) cos(1/z)=∑k≥0(2k)!(−1)kz−2k は負のべきを無限個含むので、真性特異点。
(4) ez−1 は 2πik で 0 になり、導関数 e2πik=1=0 だから単純零点である。(ez−1)2 は位数 2 の零点をもち、(ez−1)21 は位数 2 の極をもつ。
問題 4.3 ★ sinz1 の 0 を中心とするローラン展開を z3 の項まで求めよ。また、その展開が成り立つ最大の穴あき円板を答えよ。
解答
sinz=z(1−u)、u=6z2−120z4+⋯ と書くと
1−u1=1+u+u2+⋯=1+6z2+(361−1201)z4+⋯=1+6z2+3607z4+⋯
だから sinz1=z1+6z+3607z3+⋯。1/sinz は 0<∣z∣<π で正則で ±π に極をもつから、展開が成り立つ最大の穴あき円板は D∗(0,π) である(定理 4.2)。
問題 4.4 ★★ f を D∗(a,r) で正則とし、定数 C>0, α>0 について ∣f(z)∣≤C∣z−a∣−α が成り立つとする。a は除去可能特異点か、位数 ⌊α⌋ 以下の極であることを示せ。
解答
定理 4.10 の証明と同様に、0<ρ<r で ∣c−n∣≤ρnmax∣ζ−a∣=ρ∣f(ζ)∣≤Cρn−α である。n>α なら ρ→0 として c−n=0。よって負のべきは n≤⌊α⌋ に限られ、a は除去可能特異点か位数 ⌊α⌋ 以下の極である。
問題 4.5 ★★ a を f の孤立特異点とし、a のある穴あき近傍で Ref(z)≤M が成り立つとする。a は除去可能特異点であることを示せ。
解答
真性特異点なら、カゾラティ–ワイエルシュトラスの定理により像は稠密で、実部が M より大きい値をとるから矛盾する。位数 m の極とすると、命題 4.12 より f(z)=(z−a)−mg(z)、g(a)=c=0 である。e−imθc=∣c∣ となる θ をとり z=a+teiθ(t>0)とすると、f(z)=t−me−imθg(a+teiθ) で、t→+0 のとき e−imθg(a+teiθ)→∣c∣>0 だから Ref(z)→+∞ となり、やはり矛盾する。よって a は除去可能特異点である。
問題 4.6 ★★ a が f の極ならば、a は ef の真性特異点であることを示せ。
解答
問題 4.5 の解答と同様に、a に近づく方向を選べば Ref→+∞ とも、(θ を π/m ずらして)Ref→−∞ ともできる。よって ∣ef∣=eRef は a の近くで有界でなく、∞ にも収束しない。定理 4.10 と定理 4.13 により、a は ef の真性特異点である。
問題 4.7 ★★ P,Q を互いに素な多項式、p=degP, q=degQ とし、f=P/Q とする。C^ 上で重複度を込めて数えると、f の零点の個数と極の個数はともに max(p,q) であることを示せ。
解答
P,Q は共通の根をもたないので、C 内の零点は重複度込みで p 個、極は q 個である。∞ では f(z)=bazp−q(1+O(1/z))(a,b は最高次係数)だから、p>q なら位数 p−q の極、p<q なら位数 q−p の零点、p=q なら零点でも極でもない。合計すると、零点は p+max(q−p,0)=max(p,q) 個、極は q+max(p−q,0)=max(p,q) 個である。この共通の値を有理関数の次数という。
問題 4.8 ★★★ f を D∗(0,r) で正則とし、∬D∗(0,r)∣f(x+iy)∣2 dx dy<∞ とする。0 は除去可能特異点であることを示せ。(ヒント:円周上でパーセヴァルの等式を示す。)
解答
ローラン展開 f(z)=∑ncnzn は円周 ∣z∣=ρ(0<ρ<r)上で絶対かつ一様に収束する。∣f∣2=ffˉ=∑n,mcncˉmρn+mei(n−m)θ も一様収束する二重級数なので項別積分でき、∫02πei(n−m)θdθ=2πδnm から
∫02π∣f(ρeiθ)∣2dθ=2πn∈Z∑∣cn∣2ρ2n
を得る。極座標で積分すると(非負項の級数なので和と積分は交換できる)
∬D∗(0,r)∣f∣2dxdy=∫0r(2πn∑∣cn∣2ρ2n)ρdρ=2πn∑∣cn∣2∫0rρ2n+1dρ
である。n≤−1 なら ∫0rρ2n+1dρ=∞ だから、左辺が有限なら n≤−1 で cn=0 であり、0 は除去可能特異点である。