Lemma数学ロードマップ

05 複素関数論 · 第 2 章

コーシーの積分定理

目安 10〜15 時間定理など 13演習 8 問

この章の目標

  • 複素線積分を定義し、ML 不等式や原始関数との関係を使える
  • グルサの定理と、星型領域におけるコーシーの積分定理を証明できる
  • 回転数が整数であることを証明し、「偏角の増分」として理解する
  • ホモトピー形のコーシーの積分定理を証明し、一般形(ホモロジー形)の主張と意味を説明できる

前提:第1章、微分積分学 第10章(グリーンの定理)、集合と位相 第5章・第6章

2.1 曲線と複素線積分

実 1 変数の微分積分学の要は、微分と積分が互いに逆の操作であるという基本定理 ∫abF′(x)dx=F(b)−F(a)\int_a^b F'(x) dx = F(b) - F(a) であった。複素関数では、積分は平面内の曲線に沿って行う。すると「積分の値は曲線の両端だけで決まるか、途中の道筋にもよるか」という、実数直線では起こらない問題が現れる。この問いに対する答えがコーシーの積分定理であり、複素関数論のすべての結果の出発点となる。

定義 2.1(曲線, curve)連続写像 γ ⁣:[a,b]→C\gamma\colon [a, b] \to \mathbb{C} を曲線という。分割 a=t0<t1<⋯<tm=ba = t_0 < t_1 < \cdots < t_m = b があって各 [tk−1,tk][t_{k-1}, t_k] 上で γ\gamma が C1C^1 級(端点では片側微分)であるとき区分的に C1C^1 級であるという。γ(a)=γ(b)\gamma(a) = \gamma(b) のとき閉曲線 (closed curve) という。像 γ([a,b])\gamma([a, b]) を γ∗\gamma^{\ast} と書く。

以下、特に断らない限り「曲線」は区分的に C1C^1 級の曲線を意味する。基本的な例は次のものである。

  • 線分 [z,w][z, w]:γ(t)=z+t(w−z)\gamma(t) = z + t(w - z)(0≤t≤10 \leq t \leq 1)。
  • 円 C(a,r)C(a, r):γ(t)=a+reit\gamma(t) = a + re^{it}(0≤t≤2π0 \leq t \leq 2\pi)。反時計回りに 1 周する。
  • 三角形 TT の周 ∂T\partial T:頂点 a,b,ca, b, c の三角形について [a,b],[b,c],[c,a][a, b], [b, c], [c, a] をつないだ閉曲線。

γ\gamma の逆向きの曲線 γ−\gamma^- を γ−(t)=γ(a+b−t)\gamma^-(t) = \gamma(a + b - t) で定め、γ1\gamma_1 の終点と γ2\gamma_2 の始点が一致するとき、つないだ曲線を γ1+γ2\gamma_1 + \gamma_2 と書く。

定義 2.2(複素線積分, contour integral)曲線 γ ⁣:[a,b]→C\gamma\colon [a, b] \to \mathbb{C} と γ∗\gamma^{\ast} 上の連続関数 ff に対し

∫γf(z) dz=∫abf(γ(t))γ′(t) dt\int_\gamma f(z)\,dz = \int_a^b f(\gamma(t)) \gamma'(t)\,dt

と定める(右辺は C1C^1 級の部分ごとの積分の和。複素数値関数の積分は実部と虚部を別々に積分する)。L(γ)=∫ab∣γ′(t)∣dtL(\gamma) = \int_a^b \lvert \gamma'(t) \rvert dt を γ\gamma の長さという。

例 2.3(最も重要な計算)n∈Zn \in \mathbb{Z} とする。γ(t)=a+reit\gamma(t) = a + re^{it} について γ′(t)=ireit\gamma'(t) = ire^{it} だから

∫C(a,r)(z−a)n dz=∫02πrneint⋅ireit dt=irn+1∫02πei(n+1)t dt={2πi(n=−1)0(n≠−1)\int_{C(a, r)} (z - a)^n\,dz = \int_0^{2\pi} r^n e^{int} \cdot ire^{it}\,dt = i r^{n+1} \int_0^{2\pi} e^{i(n+1)t}\,dt = \begin{cases} 2\pi i & (n = -1) \\ 0 & (n \neq -1) \end{cases}

である。この単純な計算が、第3章以降の積分公式・ローラン展開・留数定理のすべての核になる。

例 2.4(積分は道筋によりうる)f(z)=zˉf(z) = \bar{z} を 00 から 1+i1 + i まで積分する。線分 γ1(t)=(1+i)t\gamma_1(t) = (1 + i)t に沿えば γ1ˉγ1′=(1−i)t(1+i)=2t\bar{\gamma_1}\gamma_1' = (1 - i)t(1 + i) = 2t だから積分は 11 である。一方、0→1→1+i0 \to 1 \to 1 + i と折れ線で進むと、前半は ∫01t dt=1/2\int_0^1 t\ dt = 1/2、後半は γ(t)=1+it\gamma(t) = 1 + it で ∫01(1−it)i dt=i+1/2\int_0^1 (1 - it) i\ dt = i + 1/2 となり、合計 1+i1 + i である。値が道筋によって異なる。また ∫C(a,r)zˉ dz=∫02π(aˉ+re−it)ireit dt=2πir2≠0\int_{C(a, r)} \bar{z}\ dz = \int_0^{2\pi} (\bar{a} + re^{-it}) ire^{it}\ dt = 2\pi i r^2 \neq 0 である。

命題 2.5(線積分の基本性質)γ\gamma を曲線、f,gf, g を γ∗\gamma^{\ast} 上の連続関数、α,β∈C\alpha, \beta \in \mathbb{C} とする。

  1. ∫γ(αf+βg) dz=α∫γf dz+β∫γg dz\int_\gamma (\alpha f + \beta g)\ dz = \alpha \int_\gamma f\ dz + \beta \int_\gamma g\ dz
  2. (パラメータの取り替え)φ ⁣:[c,d]→[a,b]\varphi\colon [c, d] \to [a, b] が区分的に C1C^1 級の増加する全単射ならば ∫γ∘φf dz=∫γf dz\int_{\gamma \circ \varphi} f\ dz = \int_\gamma f\ dz
  3. ∫γ−f dz=−∫γf dz\int_{\gamma^-} f\ dz = -\int_\gamma f\ dz、∫γ1+γ2f dz=∫γ1f dz+∫γ2f dz\int_{\gamma_1 + \gamma_2} f\ dz = \int_{\gamma_1} f\ dz + \int_{\gamma_2} f\ dz
  4. (ML 不等式)∣∫γf dz∣≤∫ab∣f(γ(t))∣∣γ′(t)∣ dt≤max⁡z∈γ∗∣f(z)∣⋅L(γ)\displaystyle \left\lvert \int_\gamma f\ dz \right\rvert \leq \int_a^b \lvert f(\gamma(t)) \rvert \lvert \gamma'(t) \rvert\ dt \leq \max_{z \in \gamma^{\ast}} \lvert f(z) \rvert \cdot L(\gamma)

証明. 1 は定義から明らか。2 は実部と虚部それぞれに置換積分 ∫cdf(γ(φ(s)))γ′(φ(s))φ′(s) ds=∫abf(γ(t))γ′(t) dt\int_c^d f(\gamma(\varphi(s))) \gamma'(\varphi(s)) \varphi'(s)\ ds = \int_a^b f(\gamma(t)) \gamma'(t)\ dt を適用すればよい。3 の前半は t↦a+b−tt \mapsto a + b - t という置換(向きが逆転するので符号が変わる)、後半は定義から。

4 の最初の不等式は、連続関数 g ⁣:[a,b]→Cg\colon [a, b] \to \mathbb{C} について ∣∫abg dt∣≤∫ab∣g∣ dt\lvert \int_a^b g\ dt \rvert \leq \int_a^b \lvert g \rvert\ dt が成り立つことに帰着する。I=∫abg dt≠0I = \int_a^b g\ dt \neq 0 として I=∣I∣eiθI = \lvert I \rvert e^{i\theta} と書くと

∣I∣=e−iθI=∫abRe⁡(e−iθg(t)) dt≤∫ab∣g(t)∣ dt\lvert I \rvert = e^{-i\theta} I = \int_a^b \operatorname{Re}\bigl(e^{-i\theta} g(t)\bigr)\,dt \leq \int_a^b \lvert g(t) \rvert\,dt

である(e−iθIe^{-i\theta} I は実数なので、その虚部の積分は 0 である)。2 番目の不等式は明らかである。□\square

ML 不等式は、本科目を通じて積分を評価する最も基本的な道具である(MM は被積分関数の最大値、LL は曲線の長さ)。

命題 2.6 連続関数列 fnf_n が γ∗\gamma^{\ast} 上で ff に一様収束すれば ∫γfn dz→∫γf dz\int_\gamma f_n\ dz \to \int_\gamma f\ dz である。関数項級数についても同様に、一様収束すれば項別積分できる。

証明. ML 不等式より ∣∫γ(fn−f) dz∣≤max⁡γ∗∣fn−f∣⋅L(γ)→0\lvert \int_\gamma (f_n - f)\ dz \rvert \leq \max_{\gamma^{\ast}} \lvert f_n - f \rvert \cdot L(\gamma) \to 0。□\square

2.2 原始関数と線積分

定義 2.7(原始関数, primitive)開集合 UU 上の連続関数 ff に対し、UU で正則で F′=fF' = f となる FF を ff の原始関数という。

定理 2.8 開集合 UU 上の連続関数 ff が原始関数 FF をもてば、UU 内の任意の曲線 γ ⁣:[a,b]→U\gamma\colon [a, b] \to U について

∫γf(z) dz=F(γ(b))−F(γ(a))\int_\gamma f(z)\,dz = F(\gamma(b)) - F(\gamma(a))

が成り立つ。特に UU 内の任意の閉曲線 γ\gamma について ∫γf dz=0\int_\gamma f\ dz = 0 である。

証明. γ\gamma が C1C^1 級である各区間 [tk−1,tk][t_{k-1}, t_k] 上で、命題 1.20 より (F∘γ)′(t)=f(γ(t))γ′(t)(F \circ \gamma)'(t) = f(\gamma(t)) \gamma'(t) であり、これは連続である。実部と虚部に微分積分学の基本定理を適用して ∫tk−1tkf(γ(t))γ′(t) dt=F(γ(tk))−F(γ(tk−1))\int_{t_{k-1}}^{t_k} f(\gamma(t))\gamma'(t)\ dt = F(\gamma(t_k)) - F(\gamma(t_{k-1}))。kk について和をとれば中間項が打ち消し合う。□\square

例 2.9

  1. n≠−1n \neq -1 のとき (z−a)n(z - a)^n は原始関数 (z−a)n+1/(n+1)(z - a)^{n+1}/(n + 1) をもつ(n≤−2n \leq -2 なら C∖{a}\mathbb{C} \setminus \lbrace a \rbrace 上で)。よって閉曲線に沿った積分は 0 で、例 2.3 と合っている。多項式も原始関数をもつ。
  2. 1/(z−a)1/(z - a) は C∖{a}\mathbb{C} \setminus \lbrace a \rbrace 上で原始関数をもたない。もてば ∫C(a,r)dz/(z−a)=0\int_{C(a, r)} dz/(z - a) = 0 となるはずだが、実際は 2πi2\pi i である。ただし aa から出る半直線を除いた領域では、対数の分枝(たとえば Log⁡(z−a)\operatorname{Log}(z - a))が原始関数になる(定理 1.32)。「局所的には原始関数があるが大域的にはない」という現象が、以下の理論の中心的な話題である。
  3. zˉ\bar{z} はどんな開集合上でも原始関数をもたない。開集合内の任意の小円 C(a,r)C(a, r) について ∫C(a,r)zˉ dz=2πir2≠0\int_{C(a, r)} \bar{z}\ dz = 2\pi i r^2 \neq 0 だからである(例 2.4)。

定理 2.10 領域 DD 上の連続関数 ff について次は同値である。

  1. ff は DD 上で原始関数をもつ。
  2. DD 内の任意の閉曲線 γ\gamma について ∫γf dz=0\int_\gamma f\ dz = 0。
  3. ∫γf dz\int_\gamma f\ dz は DD 内の曲線 γ\gamma の始点と終点だけで決まる。

証明. (1 ⇒ 2) 定理 2.8。(2 ⇔ 3) 同じ始点・終点をもつ曲線 γ1,γ2\gamma_1, \gamma_2 に対し、γ1+γ2−\gamma_1 + \gamma_2^- は閉曲線で、その積分は ∫γ1f−∫γ2f\int_{\gamma_1} f - \int_{\gamma_2} f である。逆に閉曲線は始点と終点が一致する曲線であり、定数曲線と比べればよい。

(3 ⇒ 1) z0∈Dz_0 \in D を固定し、z∈Dz \in D に対して z0z_0 から zz への曲線 γz\gamma_z(命題 1.6 の折れ線でとれる)をとり、F(z)=∫γzf dwF(z) = \int_{\gamma_z} f\ dw とおく。3 により FF は γz\gamma_z の選び方によらない。D(z,r)⊂DD(z, r) \subset D とし 0<∣h∣<r0 < \lvert h \rvert < r とすると、γz+[z,z+h]\gamma_z + [z, z + h] は z+hz + h への曲線だから F(z+h)−F(z)=∫[z,z+h]f(w) dwF(z + h) - F(z) = \int_{[z, z+h]} f(w)\ dw である。∫[z,z+h]dw=h\int_{[z, z+h]} dw = h に注意すると

∣F(z+h)−F(z)h−f(z)∣=∣1h∫[z,z+h](f(w)−f(z)) dw∣≤max⁡w∈[z,z+h]∣f(w)−f(z)∣\left\lvert \frac{F(z + h) - F(z)}{h} - f(z) \right\rvert = \left\lvert \frac{1}{h} \int_{[z, z+h]} \bigl(f(w) - f(z)\bigr)\,dw \right\rvert \leq \max_{w \in [z, z+h]} \lvert f(w) - f(z) \rvert

であり、ff の連続性より右辺は h→0h \to 0 で 0 に収束する。よって F′=fF' = f である。□\square

2.3 グルサの定理

正則関数 ff について、閉曲線に沿った積分はいつ 0 になるだろうか。ff の導関数が連続であると仮定してよければ、答えはグリーンの定理からすぐに得られる。

注意 2.11(グリーンの定理による見通し)f=u+ivf = u + iv が C1C^1 級で、DD が区分的に滑らかな境界をもつ有界領域なら、f dz=f dx+if dyf\ dz = f\ dx + if\ dy にグリーンの定理(微分積分学 第10章)を適用して

∫∂Df dz=∬D(i∂f∂x−∂f∂y)dx dy=2i∬D∂f∂zˉ dx dy\int_{\partial D} f\,dz = \iint_D \left( i \frac{\partial f}{\partial x} - \frac{\partial f}{\partial y} \right) dx\,dy = 2i \iint_D \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}\,dx\,dy

となる。正則なら ∂f/∂zˉ=0\partial f/\partial \bar{z} = 0(注意 1.18)なので積分は 0 である。しかし正則性の定義には f′f' の連続性は含まれていない。グルサの定理は f′f' の連続性を仮定せずに同じ結論を導く。そして第3章で、その帰結として f′f' が自動的に連続(さらに正則)であることがわかる。

定理 2.12(グルサの定理, Goursat's theorem)UU を開集合、ff を UU で正則な関数とし、T⊂UT \subset U を閉三角形(3 点の凸包。内部を含む)とする。このとき

∫∂Tf(z) dz=0\int_{\partial T} f(z)\,dz = 0

である。

証明. I=∫∂Tf dzI = \int_{\partial T} f\ dz とおき、dd を TT の直径、LL を ∂T\partial T の長さとする。

細分. TT の 3 辺の中点を結ぶと、TT は相似比 1/21/2 の 4 つの閉三角形 T1,…,T4T_1, \dots, T_4 に分かれる。各 ∂Tj\partial T_j に ∂T\partial T と同じ向きを与えると、内部にできた 3 本の辺はそれぞれ逆向きに 2 回ずつ現れて打ち消し合うので

I=∑j=14∫∂Tjf dzI = \sum_{j=1}^{4} \int_{\partial T_j} f\,dz

である。したがってある jj について ∣∫∂Tjf dz∣≥∣I∣/4\lvert \int_{\partial T_j} f\ dz \rvert \geq \lvert I \rvert/4 となる。この TjT_j を T(1)T^{(1)} とする。同じ操作を繰り返して閉三角形の減少列 T=T(0)⊃T(1)⊃T(2)⊃⋯T = T^{(0)} \supset T^{(1)} \supset T^{(2)} \supset \cdots を作ると

∣I∣≤4n∣∫∂T(n)f dz∣,diam⁡T(n)=2−nd,L(∂T(n))=2−nL\lvert I \rvert \leq 4^n \left\lvert \int_{\partial T^{(n)}} f\,dz \right\rvert, \qquad \operatorname{diam} T^{(n)} = 2^{-n} d, \qquad L(\partial T^{(n)}) = 2^{-n} L

である。

極限点での評価. T(n)T^{(n)} は空でないコンパクト集合の減少列で直径が 0 に収束するから、⋂nT(n)\bigcap_n T^{(n)} はただ 1 点 z0∈T⊂Uz_0 \in T \subset U からなる。ff は z0z_0 で複素微分可能なので

f(z)=f(z0)+f′(z0)(z−z0)+ε(z)(z−z0),lim⁡z→z0ε(z)=0f(z) = f(z_0) + f'(z_0)(z - z_0) + \varepsilon(z)(z - z_0), \qquad \lim_{z \to z_0} \varepsilon(z) = 0

と書ける(ε(z0)=0\varepsilon(z_0) = 0 とおく)。1 次式 f(z0)+f′(z0)(z−z0)f(z_0) + f'(z_0)(z - z_0) は原始関数をもつから、定理 2.8 よりその ∂T(n)\partial T^{(n)} 上の積分は 0 である。z∈∂T(n)z \in \partial T^{(n)} なら ∣z−z0∣≤diam⁡T(n)\lvert z - z_0 \rvert \leq \operatorname{diam} T^{(n)} だから、ML 不等式により

∣∫∂T(n)f dz∣=∣∫∂T(n)ε(z)(z−z0) dz∣≤sup⁡z∈T(n)∣ε(z)∣⋅2−nd⋅2−nL\left\lvert \int_{\partial T^{(n)}} f\,dz \right\rvert = \left\lvert \int_{\partial T^{(n)}} \varepsilon(z)(z - z_0)\,dz \right\rvert \leq \sup_{z \in T^{(n)}} \lvert \varepsilon(z) \rvert \cdot 2^{-n} d \cdot 2^{-n} L

を得る。以上より ∣I∣≤dLsup⁡z∈T(n)∣ε(z)∣\lvert I \rvert \leq dL \sup_{z \in T^{(n)}} \lvert \varepsilon(z) \rvert であり、T(n)⊂D(z0,2−nd)‾T^{(n)} \subset \overline{D(z_0, 2^{-n} d)} だから右辺は n→∞n \to \infty で 0 に収束する。よって I=0I = 0 である。□\square

証明の要点は、「細分するたびに積分の下限は 1/41/4 倍にしか減らないが、微分可能性による誤差は(直径)×(長さ)で 1/41/4 倍より速く減る」という比較である。第3章のコーシーの積分公式では、1 点で正則性が未知の関数にもこの定理を使いたいので、次の形に拡張しておく。

定理 2.13 UU を開集合、p∈Up \in U とし、ff は UU で連続かつ U∖{p}U \setminus \lbrace p \rbrace で正則とする。このとき UU に含まれる任意の閉三角形 TT について ∫∂Tf dz=0\int_{\partial T} f\ dz = 0 である。

証明. 3 点が一直線上にある退化した三角形では、∂T\partial T が同じ線分を往復するだけなので積分は 0 である。以下 TT は退化していないとする。

(i) p∉Tp \notin T のとき:TT は開集合 U∖{p}U \setminus \lbrace p \rbrace に含まれるので定理 2.12 から。

(ii) pp が TT の頂点のとき:TT の頂点を p,b,cp, b, c とし、辺 [p,b][p, b] 上に点 b′b'、辺 [p,c][p, c] 上に点 c′c' をとる(どちらも pp と異なる)。TT は三角形 Δ(p,b′,c′)\Delta(p, b', c')、Δ(b′,b,c)\Delta(b', b, c)、Δ(b′,c,c′)\Delta(b', c, c') に分割され、向きをそろえると共通の辺が打ち消し合って

∫∂Tf dz=∫∂Δ(p,b′,c′)f dz+∫∂Δ(b′,b,c)f dz+∫∂Δ(b′,c,c′)f dz\int_{\partial T} f\,dz = \int_{\partial \Delta(p, b', c')} f\,dz + \int_{\partial \Delta(b', b, c)} f\,dz + \int_{\partial \Delta(b', c, c')} f\,dz

となる。後ろの 2 つの三角形は pp を含まない(pp は TT の頂点であり、これらの三角形の頂点ではない)から、(i) によりその積分は 0 である。よって ML 不等式から ∣∫∂Tf dz∣≤max⁡T∣f∣⋅L(∂Δ(p,b′,c′))\lvert \int_{\partial T} f\ dz \rvert \leq \max_T \lvert f \rvert \cdot L(\partial \Delta(p, b', c')) であり、b′,c′→pb', c' \to p とすれば右辺は 0 に近づく。

(iii) pp が TT の頂点以外の点のとき:TT の頂点を a,b,ca, b, c として TT を Δ(a,b,p)\Delta(a, b, p), Δ(b,c,p)\Delta(b, c, p), Δ(c,a,p)\Delta(c, a, p) に分けると、pp に向かう辺は打ち消し合い、各三角形は pp を頂点とする(退化するものがあってもよい)。(ii) と退化の場合から、それぞれの積分は 0 である。□\square

2.4 星型領域におけるコーシーの積分定理

定義 2.14(星型, star-shaped)開集合 UU と z0∈Uz_0 \in U について、任意の z∈Uz \in U に対し線分 [z0,z]⊂U[z_0, z] \subset U となるとき、UU は z0z_0 に関して星型であるという。

例 2.15

  1. 凸集合(円板、半平面、長方形の内部など)は任意の点に関して星型である。
  2. C∖(−∞,0]\mathbb{C} \setminus (-\infty, 0] は 11 に関して星型である。実際 zz がこの集合の点なら、線分上の点 (1−t)+tz(1 - t) + tz の虚部は tIm⁡zt \operatorname{Im} z で、Im⁡z≠0\operatorname{Im} z \neq 0 なら t=0t = 0(点 11)でしか実軸に触れず、Im⁡z=0\operatorname{Im} z = 0 なら z>0z > 0 で線分は正の実軸上にある。同様に、C\mathbb{C} から原点を端点とする半直線を除いた集合は星型である。
  3. 円環 {r<∣z∣<R}\lbrace r < \lvert z \rvert < R \rbrace や C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace は星型でない。どの点 z0z_0 についても、−z0-z_0 方向の点との線分が原点付近を通るからである。

定理 2.16(星型領域におけるコーシーの積分定理)UU を z0z_0 に関して星型な開集合とし、ff は UU で正則、あるいはより一般に、ある p∈Up \in U について UU で連続かつ U∖{p}U \setminus \lbrace p \rbrace で正則とする。このとき

F(z)=∫[z0,z]f(w) dwF(z) = \int_{[z_0, z]} f(w)\,dw

は UU 上の ff の原始関数である。したがって UU 内の任意の閉曲線 γ\gamma について ∫γf(z) dz=0\int_\gamma f(z)\ dz = 0 である。

証明. z∈Uz \in U とし、D(z,r)⊂UD(z, r) \subset U となる r>0r > 0 をとる。∣h∣<r\lvert h \rvert < r のとき、三角形 Δ=Δ(z0,z,z+h)\Delta = \Delta(z_0, z, z + h) は UU に含まれる。実際、Δ\Delta の任意の点はある w∈[z,z+h]⊂D(z,r)⊂Uw \in [z, z + h] \subset D(z, r) \subset U に対する線分 [z0,w][z_0, w] 上にあり、星型の仮定より [z0,w]⊂U[z_0, w] \subset U である。定理 2.13 より ∫∂Δf=0\int_{\partial \Delta} f = 0、すなわち

∫[z0,z]f+∫[z,z+h]f+∫[z+h,z0]f=0,F(z+h)−F(z)=∫[z,z+h]f(w) dw\int_{[z_0, z]} f + \int_{[z, z+h]} f + \int_{[z + h, z_0]} f = 0, \qquad F(z + h) - F(z) = \int_{[z, z+h]} f(w)\,dw

である。あとは定理 2.10 の証明の後半と全く同じ評価により F′(z)=f(z)F'(z) = f(z) がわかる。最後の主張は定理 2.8 による。□\square

例 2.17 ∫C(0,2)dzz−3=0\int_{C(0, 2)} \frac{dz}{z - 3} = 0 である。1/(z−3)1/(z - 3) は凸集合 D(0,3)D(0, 3) で正則で、円 C(0,2)C(0, 2) はその中にあるからである。一方、∫C(0,2)dzz−1=2πi\int_{C(0, 2)} \frac{dz}{z - 1} = 2\pi i であることは次節の回転数の性質からわかる。定理 2.16 が適用できないのは、1/(z−1)1/(z - 1) が正則な星型領域で C(0,2)C(0, 2) を含むものが存在しないからである。

2.5 回転数(巻き数)

例 2.3 の積分 12πi∫dzz−a\frac{1}{2\pi i}\int \frac{dz}{z - a} は、一般の閉曲線に対しても整数になり、曲線が点 aa のまわりを何回まわるかを数える。

定義 2.18(回転数, winding number)閉曲線 γ\gamma と a∉γ∗a \notin \gamma^{\ast} に対し

n(γ,a)=12πi∫γdzz−an(\gamma, a) = \frac{1}{2\pi i} \int_\gamma \frac{dz}{z - a}

を γ\gamma の aa のまわりの回転数(巻き数、指数)という。

定理 2.19 γ\gamma を閉曲線とする。

  1. a∉γ∗a \notin \gamma^{\ast} ならば n(γ,a)∈Zn(\gamma, a) \in \mathbb{Z} である。
  2. a↦n(γ,a)a \mapsto n(\gamma, a) は C∖γ∗\mathbb{C} \setminus \gamma^{\ast} の各連結成分の上で定数である。
  3. C∖γ∗\mathbb{C} \setminus \gamma^{\ast} の非有界な連結成分はただ 1 つで、その上で n(γ,a)=0n(\gamma, a) = 0 である。

証明. 1. γ ⁣:[t0,t1]→C\gamma\colon [t_0, t_1] \to \mathbb{C} とし

h(t)=∫t0tγ′(s)γ(s)−a dsh(t) = \int_{t_0}^{t} \frac{\gamma'(s)}{\gamma(s) - a}\,ds

とおく。hh は連続で、有限個の点を除いて h′(t)=γ′(t)/(γ(t)−a)h'(t) = \gamma'(t)/(\gamma(t) - a) である。したがって

ddt((γ(t)−a)e−h(t))=γ′(t)e−h(t)−(γ(t)−a)h′(t)e−h(t)=0\frac{d}{dt}\Bigl( (\gamma(t) - a) e^{-h(t)} \Bigr) = \gamma'(t) e^{-h(t)} - (\gamma(t) - a) h'(t) e^{-h(t)} = 0

が有限個の点を除いて成り立ち、(γ(t)−a)e−h(t)(\gamma(t) - a)e^{-h(t)} は連続だから定数である。t=t0t = t_0 での値と比べて

γ(t)−a=(γ(t0)−a)eh(t)(1)\gamma(t) - a = (\gamma(t_0) - a) e^{h(t)} \tag{1}

を得る。t=t1t = t_1 とすると γ(t1)=γ(t0)≠a\gamma(t_1) = \gamma(t_0) \neq a より eh(t1)=1e^{h(t_1)} = 1、よって h(t1)=2πi n(γ,a)∈2πiZh(t_1) = 2\pi i\ n(\gamma, a) \in 2\pi i \mathbb{Z} である(定理 1.26)。

  1. a∉γ∗a \notin \gamma^{\ast} とし δ=dist⁡(a,γ∗)>0\delta = \operatorname{dist}(a, \gamma^{\ast}) > 0 とする(γ∗\gamma^{\ast} はコンパクト)。∣b−a∣<δ/2\lvert b - a \rvert < \delta/2 なら z∈γ∗z \in \gamma^{\ast} について ∣z−b∣≥δ/2\lvert z - b \rvert \geq \delta/2 だから
∣n(γ,a)−n(γ,b)∣=12π∣∫γ(a−b) dz(z−a)(z−b)∣≤L(γ)2π⋅∣a−b∣δ⋅δ/2\lvert n(\gamma, a) - n(\gamma, b) \rvert = \frac{1}{2\pi} \left\lvert \int_\gamma \frac{(a - b)\,dz}{(z - a)(z - b)} \right\rvert \leq \frac{L(\gamma)}{2\pi} \cdot \frac{\lvert a - b \rvert}{\delta \cdot \delta/2}

となり、n(γ,⋅)n(\gamma, \cdot) は連続である。整数値の連続関数は連結集合の上で定数である。

  1. γ∗⊂D(0,M)\gamma^{\ast} \subset D(0, M) となる MM をとる。{∣a∣>M}\lbrace \lvert a \rvert > M \rbrace は連結で γ∗\gamma^{\ast} と交わらないから、ある 1 つの連結成分に含まれる。非有界な成分は必ずこの集合と交わるので、非有界な成分はこの 1 つだけである。∣a∣>M\lvert a \rvert > M なら ML 不等式から ∣n(γ,a)∣≤L(γ)/(2π(∣a∣−M))\lvert n(\gamma, a) \rvert \leq L(\gamma)/(2\pi(\lvert a \rvert - M)) で、∣a∣\lvert a \rvert が十分大きければ 1 未満、よって 0 である。2 によりこの成分全体で 0 である。□\square

回転数の幾何学的な意味は次の命題で明らかになる。

命題 2.20(偏角の増分としての回転数)γ ⁣:[t0,t1]→C\gamma\colon [t_0, t_1] \to \mathbb{C} を閉曲線、a∉γ∗a \notin \gamma^{\ast} とする。γ(t)−a=∣γ(t)−a∣eiθ(t)\gamma(t) - a = \lvert \gamma(t) - a \rvert e^{i\theta(t)} を満たす連続関数 θ ⁣:[t0,t1]→R\theta\colon [t_0, t_1] \to \mathbb{R}(連続な偏角)が存在し、どのように選んでも

n(γ,a)=θ(t1)−θ(t0)2πn(\gamma, a) = \frac{\theta(t_1) - \theta(t_0)}{2\pi}

が成り立つ。

証明. γ(t0)−a=r0eiθ0\gamma(t_0) - a = r_0 e^{i\theta_0} と書く。(1) より γ(t)−a=r0eRe⁡h(t)ei(θ0+Im⁡h(t))\gamma(t) - a = r_0 e^{\operatorname{Re} h(t)} e^{i(\theta_0 + \operatorname{Im} h(t))} だから、θ0+Im⁡h(t)\theta_0 + \operatorname{Im} h(t) は連続な偏角である。2 つの連続な偏角の差は 2πZ2\pi\mathbb{Z} に値をとる連続関数だから定数である。よって任意の連続な偏角 θ\theta について θ(t1)−θ(t0)=Im⁡h(t1)−Im⁡h(t0)=Im⁡(2πi n(γ,a))=2πn(γ,a)\theta(t_1) - \theta(t_0) = \operatorname{Im} h(t_1) - \operatorname{Im} h(t_0) = \operatorname{Im}(2\pi i\ n(\gamma, a)) = 2\pi n(\gamma, a) である。□\square

つまり n(γ,a)n(\gamma, a) は、動点 γ(t)\gamma(t) を aa から眺めたときの方向(偏角)が、1 周する間に正味何回転したかを表す。

例 2.21

  1. γ(t)=a+reikt\gamma(t) = a + re^{ikt}(0≤t≤2π0 \leq t \leq 2\pi, k∈Zk \in \mathbb{Z})は円を kk 回まわる。∣b−a∣<r\lvert b - a \rvert < r なら n(γ,b)=n(γ,a)=kn(\gamma, b) = n(\gamma, a) = k(例 2.3 と同様の計算、および定理 2.19 の 2)、∣b−a∣>r\lvert b - a \rvert > r なら n(γ,b)=0n(\gamma, b) = 0 である。
  2. 凸な領域の境界を反時計回りに 1 周する曲線(円、三角形、長方形、半円板の周など)では、内部の点から見た偏角は単調に増加してちょうど 2π2\pi 増えるので、内部の点の回転数は 1 である。外部の点 aa については、曲線が aa を含まない閉半平面に含まれるので(凸集合の分離)、偏角の変化は π\pi 未満の範囲にとどまり、回転数は 0 である。
  3. 数字の 8 の字を描く曲線では、2 つの輪の内部で回転数は 11 と −1-1 になる(輪を回る向きが逆になるため)。

注意 2.22 n(γ,a)n(\gamma, a) は、円周から円周への写像 t↦(γ(t)−a)/∣γ(t)−a∣t \mapsto (\gamma(t) - a)/\lvert \gamma(t) - a \rvert の「写像度」であり、位相幾何学で円周の基本群が Z\mathbb{Z} であること(位相幾何学 第1章)の解析的な表現である。命題 2.20 の連続な偏角の構成は、被覆空間 R→S1\mathbb{R} \to S^1 への道の持ち上げにあたる。

2.6 ホモトピー形のコーシーの定理

星型領域では閉曲線に沿った積分が 0 になった。一般の領域では、「閉曲線を領域の中で連続的に変形しても積分は変わらない」ことが鍵になる。

定義 2.23(ホモトピー, homotopy)UU を開集合とし、γ0,γ1 ⁣:[0,1]→U\gamma_0, \gamma_1\colon [0, 1] \to U を閉曲線とする。連続写像 H ⁣:[0,1]×[0,1]→UH\colon [0, 1] \times [0, 1] \to U で

H(0,t)=γ0(t),H(1,t)=γ1(t),H(s,0)=H(s,1)(0≤s,t≤1)H(0, t) = \gamma_0(t), \quad H(1, t) = \gamma_1(t), \quad H(s, 0) = H(s, 1) \quad (0 \leq s, t \leq 1)

を満たすものが存在するとき、γ0\gamma_0 と γ1\gamma_1 は UU において閉曲線としてホモトープであるという。定数曲線とホモトープな閉曲線を 0 にホモトープ (null-homotopic) という。UU 内のすべての閉曲線が 0 にホモトープであるような領域 UU を単連結 (simply connected) という。

始点 z0z_0 と終点 z1z_1 を共有する曲線 γ0,γ1\gamma_0, \gamma_1 については、条件 H(s,0)=H(s,1)H(s, 0) = H(s, 1) を H(s,0)=z0H(s, 0) = z_0, H(s,1)=z1H(s, 1) = z_1 に替えたものを端点を固定したホモトピーという。

曲線のパラメータ区間は命題 2.5 の 2 により [0,1][0, 1] にそろえてよい。途中の曲線 H(s,⋅)H(s, \cdot) は連続であればよく、区分的に C1C^1 級である必要はない。

定理 2.24(コーシーの積分定理:ホモトピー形)ff を開集合 UU で正則な関数とする。閉曲線 γ0,γ1\gamma_0, \gamma_1 が UU において閉曲線としてホモトープならば

∫γ0f(z) dz=∫γ1f(z) dz\int_{\gamma_0} f(z)\,dz = \int_{\gamma_1} f(z)\,dz

である。端点を固定してホモトープな曲線についても同じ結論が成り立つ。

証明. HH をホモトピーとし、K=H([0,1]2)K = H([0, 1]^2) とおく。KK はコンパクトで UU に含まれるから、ある ε>0\varepsilon > 0 があって任意の w∈Kw \in K について D(w,ε)⊂UD(w, \varepsilon) \subset U となる(U=CU = \mathbb{C} なら任意の ε\varepsilon、そうでなければ ε\varepsilon を KK と C∖U\mathbb{C} \setminus U の距離にとる)。HH は一様連続なので、n∈Nn \in \mathbb{N} を十分大きくとれば

∣s−s′∣≤1n, ∣t−t′∣≤1n ⟹ ∣H(s,t)−H(s′,t′)∣<ε\lvert s - s' \rvert \leq \frac{1}{n}, \ \lvert t - t' \rvert \leq \frac{1}{n} \ \Longrightarrow \ \lvert H(s, t) - H(s', t') \rvert < \varepsilon

となる。zj,k=H(j/n,k/n)z_{j,k} = H(j/n, k/n)(0≤j,k≤n0 \leq j, k \leq n)、Dj,k=D(zj,k,ε)⊂UD_{j,k} = D(z_{j,k}, \varepsilon) \subset U とおく。円板は凸なので、定理 2.16 により ff は各 Dj,kD_{j,k} 上で原始関数 Fj,kF_{j,k} をもつ。PjP_j を折れ線 [zj,0,zj,1]+[zj,1,zj,2]+⋯+[zj,n−1,zj,n][z_{j,0}, z_{j,1}] + [z_{j,1}, z_{j,2}] + \cdots + [z_{j,n-1}, z_{j,n}] とする。zj,0=zj,nz_{j,0} = z_{j,n} だから PjP_j は閉曲線である。

(a) ∫γ0f=∫P0f\int_{\gamma_0} f = \int_{P_0} f. 各 kk について、γ0\gamma_0 の [k/n,(k+1)/n][k/n, (k+1)/n] 上の部分は D0,kD_{0,k} に含まれ(その上の点 H(0,t)H(0, t) は z0,kz_{0,k} から ε\varepsilon 未満の距離にある)、線分 [z0,k,z0,k+1][z_{0,k}, z_{0,k+1}] も凸性から D0,kD_{0,k} に含まれる。どちらも z0,kz_{0,k} から z0,k+1z_{0,k+1} への曲線なので、定理 2.8 により積分はともに F0,k(z0,k+1)−F0,k(z0,k)F_{0,k}(z_{0,k+1}) - F_{0,k}(z_{0,k}) に等しい。kk について和をとればよい。同様に ∫γ1f=∫Pnf\int_{\gamma_1} f = \int_{P_n} f である。

(b) ∫Pjf=∫Pj+1f\int_{P_j} f = \int_{P_{j+1}} f(0≤j<n0 \leq j < n). 4 点 zj,k,zj,k+1,zj+1,k+1,zj+1,kz_{j,k}, z_{j,k+1}, z_{j+1,k+1}, z_{j+1,k} はすべて Dj,kD_{j,k} に属するので、これらを順に結ぶ閉折れ線 Qj,kQ_{j,k} は Dj,kD_{j,k} に含まれ、∫Qj,kf=0\int_{Q_{j,k}} f = 0 である。k=0,1,…,n−1k = 0, 1, \dots, n - 1 について和をとると、「縦の辺」[zj,k,zj+1,k][z_{j,k}, z_{j+1,k}] は Qj,k−1Q_{j,k-1} と Qj,kQ_{j,k} に逆向きに 1 回ずつ現れて打ち消し合う。両端 k=0k = 0 と k=nk = n の縦の辺も、zj,0=zj,nz_{j,0} = z_{j,n}, zj+1,0=zj+1,nz_{j+1,0} = z_{j+1,n} より互いに逆向きの同じ線分なので打ち消し合う。残るのは「横の辺」だけで

0=∑k=0n−1∫Qj,kf dz=∫Pjf dz−∫Pj+1f dz0 = \sum_{k=0}^{n-1} \int_{Q_{j,k}} f\,dz = \int_{P_j} f\,dz - \int_{P_{j+1}} f\,dz

を得る。

(a), (b) より ∫γ0f=∫P0f=∫P1f=⋯=∫Pnf=∫γ1f\int_{\gamma_0} f = \int_{P_0} f = \int_{P_1} f = \cdots = \int_{P_n} f = \int_{\gamma_1} f である。端点を固定したホモトピーの場合は、両端の縦の辺が 1 点に退化する(zj,0=z0z_{j,0} = z_0, zj,n=z1z_{j,n} = z_1)ので、同じ議論がそのまま通る。□\square

系 2.25 ff を開集合 UU で正則とする。

  1. UU 内の閉曲線 γ\gamma が 0 にホモトープならば ∫γf dz=0\int_\gamma f\ dz = 0 であり、a∉Ua \notin U ならば n(γ,a)=0n(\gamma, a) = 0 である。
  2. UU が単連結な領域ならば、ff は UU 上で原始関数をもつ。
  3. 星型の開集合は単連結である。

証明. 1. 定数曲線に沿った積分は 0 である。後半は 1/(z−a)1/(z - a) が UU で正則であることから。2 は 1 と定理 2.10 による。3. UU が z0z_0 に関して星型なら、H(s,t)=(1−s)γ(t)+sz0H(s, t) = (1 - s)\gamma(t) + s z_0 は γ\gamma と定数曲線 z0z_0 を結ぶ UU 内のホモトピーである(H(s,t)∈[z0,γ(t)]⊂UH(s, t) \in [z_0, \gamma(t)] \subset U)。□\square

例 2.26 C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace は単連結でない。単位円 C(0,1)C(0, 1) が 0 にホモトープなら、系 2.25 より ∫C(0,1)dz/z=0\int_{C(0,1)} dz/z = 0 となるはずだが、実際は 2πi2\pi i だからである。同様に円環 {r<∣z∣<R}\lbrace r < \lvert z \rvert < R \rbrace も単連結でない。解析的な量(積分)が位相的な性質(単連結性)を検出している。

2.7 一般形のコーシーの定理(ホモロジー形)

ホモトピー形の定理は強力だが、「γ\gamma が 0 にホモトープか」を確かめるのは必ずしも容易でない。実は、積分が 0 になるための正確な条件は回転数だけで述べられる。

定義 2.27(サイクル・ホモローグ)閉曲線の形式的な和 Γ=γ1+⋯+γm\Gamma = \gamma_1 + \cdots + \gamma_m をサイクル (cycle) といい、∫Γf dz=∑j∫γjf dz\int_\Gamma f\ dz = \sum_j \int_{\gamma_j} f\ dz、n(Γ,a)=∑jn(γj,a)n(\Gamma, a) = \sum_j n(\gamma_j, a) と定める(Γ∗=⋃γj∗\Gamma^{\ast} = \bigcup \gamma_j^{\ast})。開集合 UU 内のサイクル Γ\Gamma が、すべての a∈C∖Ua \in \mathbb{C} \setminus U について n(Γ,a)=0n(\Gamma, a) = 0 を満たすとき、Γ\Gamma は UU において 0 にホモローグ (homologous to zero) であるという。

定理 2.28(コーシーの積分定理:一般形, general form of Cauchy's theorem)ff を開集合 UU で正則な関数、Γ\Gamma を UU において 0 にホモローグなサイクルとする。このとき

∫Γf(z) dz=0,n(Γ,a)f(a)=12πi∫Γf(z)z−a dz(a∈U∖Γ∗)\int_\Gamma f(z)\,dz = 0, \qquad n(\Gamma, a) f(a) = \frac{1}{2\pi i} \int_\Gamma \frac{f(z)}{z - a}\,dz \quad (a \in U \setminus \Gamma^{\ast})

が成り立つ。

本書ではこの定理の証明を省略する(主張と説明のみ)。証明は参考文献のアールフォルス『複素解析』などを参照してほしい。以下では、この定理の意味を説明する。

注意 2.29

  1. 条件は必要十分である. UU で正則なすべての ff について ∫Γf=0\int_\Gamma f = 0 となるなら、a∉Ua \notin U に対する f(z)=1/(z−a)f(z) = 1/(z - a) を代入して n(Γ,a)=0n(\Gamma, a) = 0 を得る。つまり「0 にホモローグ」は積分がすべて消えるための必要条件でもある。
  2. ホモトピー形との関係. 系 2.25 より、0 にホモトープな閉曲線は 0 にホモローグである。逆は成り立たない。たとえば U=C∖{0,1}U = \mathbb{C} \setminus \lbrace 0, 1 \rbrace で、0 のまわりを正の向きに 1 周する閉曲線 α\alpha と 1 のまわりを 1 周する閉曲線 β\beta を α,β,α−,β−\alpha, \beta, \alpha^-, \beta^- の順につないだ閉曲線は、0 と 1 のまわりの回転数がともに 0 なので 0 にホモローグだが、0 にホモトープではない(証明には基本群の計算が必要である。位相幾何学 第2章)。積分は回転数(ホモロジー)しか見ていない。
  3. 本書での使い方. 第3章以降の主要な定理(積分公式、ローラン展開、留数定理)は、ホモトピー形の定理 2.24 と星型領域の定理 2.16 だけを使って証明する。定理 2.28 を認めれば、それらの定理の仮定を「0 にホモローグ」に弱められる。

2.8 多重連結領域での扱い

穴のあいた領域(多重連結領域)では、閉曲線に沿った積分は 0 とは限らないが、「穴のまわりの積分」に帰着できる。

例 2.30(円環)ff が円環 A={r<∣z−a∣<R}A = \lbrace r < \lvert z - a \rvert < R \rbrace で正則なら、r<ρ1<ρ2<Rr < \rho_1 < \rho_2 < R に対し

∫C(a,ρ1)f(z) dz=∫C(a,ρ2)f(z) dz\int_{C(a, \rho_1)} f(z)\,dz = \int_{C(a, \rho_2)} f(z)\,dz

である。H(s,t)=a+((1−s)ρ1+sρ2)e2πitH(s, t) = a + \bigl((1 - s)\rho_1 + s\rho_2\bigr) e^{2\pi i t} が 2 つの円(パラメータを [0,1][0, 1] にとったもの)を結ぶ AA 内のホモトピーだからである(定理 2.24)。つまり ∫C(a,ρ)f dz\int_{C(a, \rho)} f\ dz は ρ\rho によらない。これは第4章のローラン展開の出発点である。

命題 2.31 閉円板 D(a0,R0)‾\overline{D(a_0, R_0)} の内部に、互いに交わらない閉円板 D(aj,rj)‾\overline{D(a_j, r_j)}(j=1,…,mj = 1, \dots, m)があるとし、K=D(a0,R0)‾∖⋃j=1mD(aj,rj)K = \overline{D(a_0, R_0)} \setminus \bigcup_{j=1}^{m} D(a_j, r_j) とおく。ff が KK を含む開集合 UU で正則ならば

∫C(a0,R0)f(z) dz=∑j=1m∫C(aj,rj)f(z) dz\int_{C(a_0, R_0)} f(z)\,dz = \sum_{j=1}^{m} \int_{C(a_j, r_j)} f(z)\,dz

である(円はすべて反時計回り)。

証明. 定理 2.28 を用いる。サイクル Γ=C(a0,R0)−C(a1,r1)−⋯−C(am,rm)\Gamma = C(a_0, R_0) - C(a_1, r_1) - \cdots - C(a_m, r_m)(−C-C は逆向きの円)は K⊂UK \subset U に含まれる。b∉Ub \notin U とすると b∉Kb \notin K だから、∣b−a0∣>R0\lvert b - a_0 \rvert > R_0 であるか、ある jj について b∈D(aj,rj)b \in D(a_j, r_j) である。前者ならすべての円の回転数が 0 で n(Γ,b)=0n(\Gamma, b) = 0、後者なら n(C(a0,R0),b)=n(C(aj,rj),b)=1n(C(a_0, R_0), b) = n(C(a_j, r_j), b) = 1 で他は 0 だから、やはり n(Γ,b)=1−1=0n(\Gamma, b) = 1 - 1 = 0 である。よって Γ\Gamma は UU において 0 にホモローグで、∫Γf=0\int_\Gamma f = 0 が結論である。□\square

直観的には、外側の円と内側の各円を「切れ目」の線分で結び、切れ目の両岸を逆向きに通る閉曲線を作ると、それは穴を囲まない閉曲線になり積分が 0 になる。切れ目の上の積分は往復で打ち消し合うので、上の等式が残る。命題 2.31 の証明は定理 2.28(証明は省略)に依存しているが、本書の以降の議論では、必要な場面では部分分数分解や第5章の留数定理で直接計算するので、この命題には依存しない。

例 2.32 ∫C(0,2)zz2−1 dz\int_{C(0, 2)} \frac{z}{z^2 - 1}\ dz を求める。部分分数分解 zz2−1=12(1z−1+1z+1)\frac{z}{z^2 - 1} = \frac{1}{2}\left( \frac{1}{z - 1} + \frac{1}{z + 1} \right) と、n(C(0,2),±1)=1n(C(0, 2), \pm 1) = 1(例 2.21)より、値は 12(2πi+2πi)=2πi\frac{1}{2}(2\pi i + 2\pi i) = 2\pi i である。同様に 1z2−1=12(1z−1−1z+1)\frac{1}{z^2 - 1} = \frac{1}{2}\left( \frac{1}{z - 1} - \frac{1}{z + 1} \right) より ∫C(0,2)dzz2−1=0\int_{C(0, 2)} \frac{dz}{z^2 - 1} = 0 である。後者は、被積分関数が C(0,2)C(0,2) の内部で正則でないにもかかわらず積分が 0 になる例である(2 つの穴からの寄与が打ち消し合う)。

まとめ

  • 複素線積分は ∫γf dz=∫abf(γ(t))γ′(t) dt\int_\gamma f\ dz = \int_a^b f(\gamma(t))\gamma'(t)\ dt で定義され、ML 不等式 ∣∫γf∣≤max⁡∣f∣⋅L(γ)\lvert \int_\gamma f \rvert \leq \max \lvert f \rvert \cdot L(\gamma) で評価できる。
  • 最も基本的な計算は ∫C(a,r)(z−a)ndz=2πi\int_{C(a,r)} (z - a)^n dz = 2\pi i(n=−1n = -1)、00(n≠−1n \neq -1)である。
  • 原始関数があれば積分は端点だけで決まり、閉曲線に沿った積分は 0 になる。逆に、閉曲線積分がすべて 0 なら原始関数が存在する。
  • グルサの定理:正則関数の三角形の周に沿った積分は 0(f′f' の連続性は不要)。1 点で連続性だけを仮定しても成り立つ。
  • 星型領域では正則関数は原始関数をもち、閉曲線に沿った積分は 0 である。
  • 回転数 n(γ,a)n(\gamma, a) は整数で、γ(t)−a\gamma(t) - a の偏角の正味の増分を 2π2\pi で割ったものに等しい。C∖γ∗\mathbb{C} \setminus \gamma^{\ast} の各連結成分で定数、非有界成分で 0 である。
  • ホモトピー形:閉曲線を領域内で連続変形しても積分は変わらない。単連結領域では正則関数は原始関数をもつ。
  • 一般形(証明は省略):UU の外の点の回転数がすべて 0 のサイクルに沿った積分は 0 である。この条件は必要十分である。

演習問題

問題 2.1 ★ f(z)=Re⁡zf(z) = \operatorname{Re} z を、(a) 線分 [0,1+i][0, 1 + i]、(b) 折れ線 0→1→1+i0 \to 1 \to 1 + i に沿って積分せよ。Re⁡z\operatorname{Re} z は原始関数をもつか。

解答

(a) γ(t)=(1+i)t\gamma(t) = (1 + i)t で Re⁡γ=t\operatorname{Re}\gamma = t, γ′=1+i\gamma' = 1 + i だから ∫01t(1+i) dt=(1+i)/2\int_0^1 t(1 + i)\ dt = (1 + i)/2。

(b) 前半 γ(t)=t\gamma(t) = t で ∫01t dt=1/2\int_0^1 t\ dt = 1/2。後半 γ(t)=1+it\gamma(t) = 1 + it で Re⁡γ=1\operatorname{Re}\gamma = 1, γ′=i\gamma' = i より ∫01i dt=i\int_0^1 i\ dt = i。合計 1/2+i1/2 + i。

値が異なるので、定理 2.8 により Re⁡z\operatorname{Re} z は(C\mathbb{C} 上で)原始関数をもたない。実際、Re⁡z\operatorname{Re} z は正則でない(コーシー–リーマン方程式 ux=1≠0=vyu_x = 1 \neq 0 = v_y が成り立たない)。

問題 2.2 ★ ML 不等式を用いて ∣∫C(0,2)ezz2+1 dz∣≤4πe23\displaystyle \left\lvert \int_{C(0, 2)} \frac{e^z}{z^2 + 1}\ dz \right\rvert \leq \frac{4\pi e^2}{3} を示せ。

解答

∣z∣=2\lvert z \rvert = 2 のとき ∣ez∣=eRe⁡z≤e2\lvert e^z \rvert = e^{\operatorname{Re} z} \leq e^2、∣z2+1∣≥∣z∣2−1=3\lvert z^2 + 1 \rvert \geq \lvert z \rvert^2 - 1 = 3 である。円の長さは 4π4\pi だから、積分の絶対値は e23⋅4π\frac{e^2}{3} \cdot 4\pi 以下である。

問題 2.3 ★ 部分分数分解を用いて ∫C(0,2)dzz2(z−1)\displaystyle \int_{C(0, 2)} \frac{dz}{z^2(z - 1)} と ∫C(0,1/2)dzz2(z−1)\displaystyle \int_{C(0, 1/2)} \frac{dz}{z^2(z - 1)} を求めよ。

解答

1z2(z−1)=1z−1−1z−1z2\dfrac{1}{z^2(z - 1)} = \dfrac{1}{z - 1} - \dfrac{1}{z} - \dfrac{1}{z^2}(通分して確認できる)。例 2.3・例 2.21 より ∫C(0,2)dzz−1=2πi\int_{C(0,2)} \frac{dz}{z - 1} = 2\pi i、∫C(0,2)dzz=2πi\int_{C(0,2)} \frac{dz}{z} = 2\pi i、∫C(0,2)dzz2=0\int_{C(0,2)} \frac{dz}{z^2} = 0 だから、前者は 2πi−2πi−0=02\pi i - 2\pi i - 0 = 0。

C(0,1/2)C(0, 1/2) では 1/(z−1)1/(z - 1) は凸集合 D(0,1)D(0, 1) で正則なので積分は 0(定理 2.16)であり、答えは 0−2πi−0=−2πi0 - 2\pi i - 0 = -2\pi i。

問題 2.4 ★★ a,b>0a, b > 0 とし、楕円 γ(t)=acos⁡t+ibsin⁡t\gamma(t) = a\cos t + ib\sin t(0≤t≤2π0 \leq t \leq 2\pi)について n(γ,0)=1n(\gamma, 0) = 1 を示せ。これを用いて

∫02πdta2cos⁡2t+b2sin⁡2t=2πab\int_0^{2\pi} \frac{dt}{a^2 \cos^2 t + b^2 \sin^2 t} = \frac{2\pi}{ab}

を示せ。

解答

H(s,t)=((1−s)a+s)cos⁡t+i((1−s)b+s)sin⁡tH(s, t) = \bigl((1 - s)a + s\bigr)\cos t + i\bigl((1 - s)b + s\bigr)\sin t は γ\gamma と単位円を結ぶ C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace 内のホモトピーである(係数が正なので 0 にならない)。1/z1/z は C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace で正則だから定理 2.24 より n(γ,0)=n(C(0,1),0)=1n(\gamma, 0) = n(C(0,1), 0) = 1。

一方、γ′(t)γ(t)‾=(−asin⁡t+ibcos⁡t)(acos⁡t−ibsin⁡t)=(b2−a2)sin⁡tcos⁡t+iab\gamma'(t) \overline{\gamma(t)} = (-a\sin t + ib\cos t)(a\cos t - ib\sin t) = (b^2 - a^2)\sin t\cos t + iab だから

2πi=∫γdzz=∫02πγ′(t)γ(t)‾∣γ(t)∣2 dt=∫02π(b2−a2)sin⁡tcos⁡ta2cos⁡2t+b2sin⁡2t dt+iab∫02πdta2cos⁡2t+b2sin⁡2t2\pi i = \int_\gamma \frac{dz}{z} = \int_0^{2\pi} \frac{\gamma'(t)\overline{\gamma(t)}}{\lvert \gamma(t) \rvert^2}\,dt = \int_0^{2\pi} \frac{(b^2 - a^2)\sin t\cos t}{a^2\cos^2 t + b^2\sin^2 t}\,dt + iab \int_0^{2\pi} \frac{dt}{a^2\cos^2 t + b^2\sin^2 t}

である。虚部を比べて求める等式を得る(実部から、第 1 項の積分が 0 であることもわかる)。

問題 2.5 ★★ ff が閉円板 D‾\overline{\mathbb{D}} 上で連続、D\mathbb{D} で正則ならば ∫C(0,1)f(z) dz=0\int_{C(0,1)} f(z)\ dz = 0 であることを示せ。

解答

0<r<10 < r < 1 に対し C(0,r)C(0, r) は凸集合 D\mathbb{D} に含まれるから、定理 2.16 より ∫C(0,r)f dz=∫02πf(reit)ireit dt=0\int_{C(0,r)} f\ dz = \int_0^{2\pi} f(re^{it}) ire^{it}\ dt = 0。ff はコンパクト集合 D‾\overline{\mathbb{D}} 上で一様連続だから、r→1r \to 1 のとき f(reit)ireitf(re^{it})ire^{it} は tt について一様に f(eit)ieitf(e^{it})ie^{it} に収束する。よって積分も収束し、∫C(0,1)f dz=lim⁡r→10=0\int_{C(0,1)} f\ dz = \lim_{r \to 1} 0 = 0。

問題 2.6 ★★ b>0b > 0 とする。e−z2e^{-z^2} を長方形 [−R,R]×[0,b][-R, R] \times [0, b] の周に沿って積分することにより

∫−∞∞e−x2cos⁡(2bx) dx=π e−b2\int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2} \cos(2bx)\,dx = \sqrt{\pi}\,e^{-b^2}

を示せ。∫−∞∞e−x2 dx=π\int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2}\ dx = \sqrt{\pi}(微分積分学 第9章)は用いてよい。

解答

e−z2e^{-z^2} は整関数なので、長方形の周(凸集合の中の閉曲線)に沿った積分は 0 である(定理 2.16)。周を 4 辺に分ける。

  • 下辺 [−R,R][-R, R]:∫−RRe−x2 dx\int_{-R}^{R} e^{-x^2}\ dx。
  • 上辺(R+ibR + ib から −R+ib-R + ib へ):e−(x+ib)2=e−x2+b2−2ibxe^{-(x + ib)^2} = e^{-x^2 + b^2 - 2ibx} より −∫−RRe−x2+b2e−2ibx dx-\int_{-R}^{R} e^{-x^2 + b^2} e^{-2ibx}\ dx。
  • 縦の辺 ±R+iy\pm R + iy(0≤y≤b0 \leq y \leq b):∣e−(±R+iy)2∣=e−R2+y2≤e−R2+b2\lvert e^{-(\pm R + iy)^2} \rvert = e^{-R^2 + y^2} \leq e^{-R^2 + b^2} で長さは bb だから、ML 不等式より絶対値は beb2−R2→0b e^{b^2 - R^2} \to 0(R→∞R \to \infty)。

R→∞R \to \infty として ∫−∞∞e−x2 dx=eb2∫−∞∞e−x2e−2ibx dx\int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2}\ dx = e^{b^2} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2} e^{-2ibx}\ dx、すなわち ∫−∞∞e−x2e−2ibx dx=πe−b2\int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2} e^{-2ibx}\ dx = \sqrt{\pi} e^{-b^2}。実部をとれば求める式を得る(虚部 −∫e−x2sin⁡(2bx) dx-\int e^{-x^2}\sin(2bx)\ dx は奇関数の積分で 0)。これはガウス関数のフーリエ変換がガウス関数であることを示しており、第8章で使う。

問題 2.7 ★★ C∖{0}\mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace 上の正則関数 gg で g(z)2=zg(z)^2 = z を満たすものは存在しないことを、線積分を用いて示せ。

解答

存在したとすると g(z)≠0g(z) \neq 0 で、微分して 2gg′=12g g' = 1、よって g′=1/(2g)g' = 1/(2g) は連続で g′/g=1/(2g2)=1/(2z)g'/g = 1/(2g^2) = 1/(2z) である。γ=C(0,1)\gamma = C(0, 1) とすると ∫γg′(z)g(z) dz=12∫γdzz=πi\int_\gamma \frac{g'(z)}{g(z)}\ dz = \frac{1}{2}\int_\gamma \frac{dz}{z} = \pi i。一方、g∘γg \circ \gamma は区分的に C1C^1 級の閉曲線で (g∘γ)′=g′(γ)γ′(g \circ \gamma)' = g'(\gamma)\gamma' だから

∫γg′(z)g(z) dz=∫02π(g∘γ)′(t)g(γ(t)) dt=∫g∘γdww=2πi n(g∘γ,0)∈2πiZ\int_\gamma \frac{g'(z)}{g(z)}\,dz = \int_0^{2\pi} \frac{(g \circ \gamma)'(t)}{g(\gamma(t))}\,dt = \int_{g \circ \gamma} \frac{dw}{w} = 2\pi i\,n(g \circ \gamma, 0) \in 2\pi i \mathbb{Z}

となり、πi∉2πiZ\pi i \notin 2\pi i\mathbb{Z} に矛盾する。

問題 2.8 ★★★(フレネル積分)eiz2e^{iz^2} を扇形 {z=reiθ∣0≤r≤R,0≤θ≤π/4}\lbrace z = re^{i\theta} \mid 0 \leq r \leq R, 0 \leq \theta \leq \pi/4 \rbrace の周に沿って積分することにより

∫0∞cos⁡(x2) dx=∫0∞sin⁡(x2) dx=12π2\int_0^\infty \cos(x^2)\,dx = \int_0^\infty \sin(x^2)\,dx = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{\pi}{2}}

を示せ。円弧上の積分の評価には、0≤φ≤π/20 \leq \varphi \leq \pi/2 で成り立つ不等式 sin⁡φ≥2φ/π\sin\varphi \geq 2\varphi/\pi(ジョルダンの不等式)を用いよ。

解答

扇形は凸で eiz2e^{iz^2} は整関数だから、周に沿った積分は 0 である。周は 3 つの部分からなる。

  • 線分 [0,R][0, R]:∫0Reix2 dx\int_0^R e^{ix^2}\ dx。
  • 円弧 z=Reiθz = Re^{i\theta}(0≤θ≤π/40 \leq \theta \leq \pi/4):∣eiz2∣=∣eiR2e2iθ∣=e−R2sin⁡2θ\lvert e^{iz^2} \rvert = \lvert e^{iR^2 e^{2i\theta}} \rvert = e^{-R^2 \sin 2\theta}。ジョルダンの不等式(φ=2θ∈[0,π/2]\varphi = 2\theta \in [0, \pi/2])より sin⁡2θ≥4θ/π\sin 2\theta \geq 4\theta/\pi だから
∣∫arceiz2 dz∣≤∫0π/4e−R2sin⁡2θR dθ≤R∫0π/4e−4R2θ/π dθ≤R⋅π4R2=π4R→0.\left\lvert \int_{\text{arc}} e^{iz^2}\,dz \right\rvert \leq \int_0^{\pi/4} e^{-R^2\sin 2\theta} R\,d\theta \leq R\int_0^{\pi/4} e^{-4R^2\theta/\pi}\,d\theta \leq R \cdot \frac{\pi}{4R^2} = \frac{\pi}{4R} \to 0.
  • 線分(Reiπ/4Re^{i\pi/4} から 00 へ):z=teiπ/4z = te^{i\pi/4} で iz2=i⋅it2=−t2iz^2 = i \cdot it^2 = -t^2 だから −eiπ/4∫0Re−t2 dt-e^{i\pi/4}\int_0^R e^{-t^2}\ dt。

ジョルダンの不等式は、sin⁡\sin が [0,π/2][0, \pi/2] で上に凸なので、グラフが両端 (0,0)(0, 0), (π/2,1)(\pi/2, 1) を結ぶ弦の上にあることからしたがう。

以上より ∫0Reix2 dx=eiπ/4∫0Re−t2 dt+(円弧の寄与)\int_0^R e^{ix^2}\ dx = e^{i\pi/4}\int_0^R e^{-t^2}\ dt + (\text{円弧の寄与}) で、R→∞R \to \infty のとき右辺は eiπ/4π/2e^{i\pi/4}\sqrt{\pi}/2 に収束する。よって左辺の広義積分も収束して

∫0∞eix2 dx=π2⋅1+i2=12π2 (1+i)\int_0^\infty e^{ix^2}\,dx = \frac{\sqrt{\pi}}{2} \cdot \frac{1 + i}{\sqrt{2}} = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{\pi}{2}}\,(1 + i)

である。実部と虚部を比べればよい。

この章を読み終えたら

「読了」にすると学習記録とロードマップに反映されます。演習の自己採点もお忘れなく。

この章の誤りを報告GitHub で見る