Lemma数学ロードマップ

09 位相幾何学 · 第 2 章

ファン・カンペンの定理

目安 12〜16 時間定理など 7演習 8 問

この章の目標

  • 自由群・群の表示・自由積・融合積を、普遍性とともに理解する
  • ファン・カンペンの定理を証明し、空間を開集合で分割して基本群を計算できる
  • 円周のブーケ・射影平面・閉曲面・三葉結び目の補空間の基本群を生成元と関係式で表せる
  • 胞体の貼り付けが基本群に及ぼす効果を理解し、曲面の分類定理の主張と、基本群による区別を説明できる

前提:第1章、04-algebra 第2章(正規部分群・準同型定理)、第4章(交換子群)

第1章で計算できた基本群は Z\mathbb{Z}、自明群とそれらの直積だけだった。8 の字形の空間(二つの円周を一点でつないだもの)の基本群は何か。二つのループ a,ba, b をどの順にたどったかが本質的に区別されるはずで、答えは非可換な群になる。本章では、空間を開集合 U,VU, V に分けたとき π1(U)\pi_1(U), π1(V)\pi_1(V), π1(U∩V)\pi_1(U \cap V) から π1(X)\pi_1(X) を組み立てる方法を与える。そのための代数的な道具が自由群と融合積である。

2.1 自由群

定義 2.1(語, word)集合 SS に対し、形式的な記号の集合 S−1={s−1∣s∈S}S^{-1} = \lbrace s^{-1} \mid s \in S \rbrace を SS と交わらないようにとり、S±=S⊔S−1S^{\pm} = S \sqcup S^{-1} の元を文字とよぶ。(s−1)−1=s(s^{-1})^{-1} = s と約束する。文字の有限列 x1x2⋯xnx_1 x_2 \cdots x_n(n=0n = 0 のときは空語 ee)を語といい、隣り合う xixi+1x_i x_{i+1} で xi+1=xi−1x_{i+1} = x_i^{-1} となるものを含まない語を既約語 (reduced word) という。

定理 2.2(自由群, free group)既約語全体の集合 F(S)F(S) に、次を満たす群構造がただ一つ存在する:単位元は ee で、既約語 x1⋯xnx_1 \cdots x_n は一文字の語 x1,…,xnx_1, \dots, x_n の積に等しく、s−1s^{-1} は ss の逆元である。積は「語をつなげて、xx−1x x^{-1} の形の部分を消去できなくなるまで消す」ことで与えられる。F(S)F(S) を SS 上の自由群という。

証明. 一意性は、既約語が文字の積に等しいことから明らかである。存在を示す(ファン・デル・ヴェルデンの方法)。文字 xx に対し Lx ⁣:F(S)→F(S)L_x\colon F(S) \to F(S) を、x1≠x−1x_1 \neq x^{-1}(または空語)なら Lx(x1⋯xn)=xx1⋯xnL_x(x_1 \cdots x_n) = x x_1 \cdots x_n、x1=x−1x_1 = x^{-1} なら Lx(x1⋯xn)=x2⋯xnL_x(x_1 \cdots x_n) = x_2 \cdots x_n と定める。Lx−1Lx=idL_{x^{-1}} L_x = \mathrm{id} である。実際、前者の場合 Lx(w)L_x(w) の先頭は xx なので Lx−1L_{x^{-1}} で消えて ww に戻り、後者の場合 ww が既約なので x2≠x1−1=xx_2 \neq x_1^{-1} = x であり、Lx−1L_{x^{-1}} は x−1=x1x^{-1} = x_1 を先頭に付けて ww に戻す。よって各 LxL_x は全単射である。

LxL_x たちが生成する置換群を F≤Sym⁡(F(S))\mathcal{F} \leq \operatorname{Sym}(F(S)) とし、Θ ⁣:F→F(S)\Theta\colon \mathcal{F} \to F(S), Θ(ϕ)=ϕ(e)\Theta(\phi) = \phi(e) とおく。既約語 x1⋯xnx_1 \cdots x_n について Lx1⋯Lxn(e)=x1⋯xnL_{x_1} \cdots L_{x_n}(e) = x_1 \cdots x_n(各段階で先頭に文字を付けるだけ)なので Θ\Theta は全射である。また F\mathcal{F} の元は Ly1⋯LymL_{y_1} \cdots L_{y_m} と書け、yi=yi+1−1y_i = y_{i+1}^{-1} となる隣り合う組を LyLy−1=idL_{y}L_{y^{-1}} = \mathrm{id} で消していけば、y1⋯ymy_1 \cdots y_m が既約な表示が得られる。このとき ϕ(e)=y1⋯ym\phi(e) = y_1 \cdots y_m から (y1,…,ym)(y_1, \dots, y_m)、したがって ϕ\phi が決まるので Θ\Theta は単射である。Θ\Theta で F\mathcal{F} の群構造を F(S)F(S) に移せばよい。積 ww′=Lx1⋯Lxn(w′)w w' = L_{x_1} \cdots L_{x_n}(w') は上の「つなげて消す」操作である。□\square

命題 2.3(自由群の普遍性)任意の群 GG と写像 φ ⁣:S→G\varphi\colon S \to G に対し、準同型 Φ ⁣:F(S)→G\Phi\colon F(S) \to G で Φ(s)=φ(s)\Phi(s) = \varphi(s)(s∈Ss \in S)となるものがただ一つ存在する。

証明. F(S)F(S) は SS で生成されるので一意性は明らか。φ(s−1)=φ(s)−1\varphi(s^{-1}) = \varphi(s)^{-1} と拡張し、既約語に対し Φ(x1⋯xn)=φ(x1)⋯φ(xn)\Phi(x_1 \cdots x_n) = \varphi(x_1) \cdots \varphi(x_n) と定める。ww′w w' は ww と w′w' をつないだ語から xx−1x x^{-1} を消去して得られ、消去は φ(x)φ(x)−1=1\varphi(x) \varphi(x)^{-1} = 1 より右辺の値を変えないので、Φ(ww′)=Φ(w)Φ(w′)\Phi(w w') = \Phi(w) \Phi(w')。□\square

注意 2.4 F(S)F(S) のアーベル化 F(S)/[F(S),F(S)]F(S)/[F(S), F(S)] は、普遍性を比べれば SS 上の自由アーベル群 ⨁s∈SZ\bigoplus_{s \in S} \mathbb{Z} である。したがって SS が有限なら ∣S∣\lvert S \rvert は群 F(S)F(S) から決まり、これを階数という。階数 nn の自由群を FnF_n と書く。F1≅ZF_1 \cong \mathbb{Z} だが、n≥2n \geq 2 なら FnF_n は非可換である(abab と baba は異なる既約語)。

2.2 生成元と関係式による表示

群 GG の部分集合 RR を含む最小の正規部分群を RR の正規閉包 (normal closure) といい N(R)N(R) と書く。N(R)N(R) は共役元 grg−1g r g^{-1}(g∈Gg \in G, r∈R∪R−1r \in R \cup R^{-1})の積全体である。

定義 2.5(群の表示, presentation)集合 SS と部分集合 R⊂F(S)R \subset F(S) に対し ⟨S∣R⟩=F(S)/N(R)\langle S \mid R \rangle = F(S)/N(R) とおく。群 GG が ⟨S∣R⟩\langle S \mid R \rangle と同型のとき、SS を生成元、RR の元を関係子といい、組を GG の表示という。関係子 rr を関係式 r=1r = 1 と書き、uv−1u v^{-1} を u=vu = v と書くこともある。S,RS, R が有限にとれるとき GG は有限表示であるという。

命題 2.6(表示の普遍性)群 GG と写像 φ ⁣:S→G\varphi\colon S \to G に対し、命題 2.3 の Φ\Phi がすべての r∈Rr \in R について Φ(r)=1\Phi(r) = 1 を満たすならば、φ\varphi は準同型 ⟨S∣R⟩→G\langle S \mid R \rangle \to G を一意に誘導する。

証明. ker⁡Φ\ker \Phi は RR を含む正規部分群なので N(R)⊂ker⁡ΦN(R) \subset \ker \Phi。準同型定理による。□\square

どの群 GG も表示をもつ(F(G)→GF(G) \to G は全射で、その核を関係子にとればよい)。命題 2.6 は表示された群から準同型を作る唯一の手段であり、以下で繰り返し使う。

例 2.7

  1. ⟨a∣an⟩≅Z/nZ\langle a \mid a^n \rangle \cong \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}。
  2. ⟨a,b∣aba−1b−1⟩≅Z2\langle a, b \mid a b a^{-1} b^{-1} \rangle \cong \mathbb{Z}^2。実際、命題 2.6 により a↦(1,0)a \mapsto (1, 0), b↦(0,1)b \mapsto (0, 1) は準同型 α\alpha を定める。逆に左辺では a,ba, b が可換なので (m,n)↦ambn(m, n) \mapsto a^m b^n は準同型 β\beta であり、αβ\alpha \beta, βα\beta \alpha は生成元を固定するので恒等写像である。
  3. アーベル化の計算:⟨S∣R⟩\langle S \mid R \rangle のアーベル化は、SS で生成され RR の各元を加法的に書いた(各生成元の指数の和をとった)関係式をもつアーベル群である。両者がアーベル群への準同型について同じ普遍性をもつからである。

注意

表示から群の性質を読み取るのは一般に非常に難しい。与えられた有限表示の群が自明群かどうかを判定するアルゴリズムは存在しない(アディアン–ラビンの定理。語の問題の非可解性に関するノビコフ–ブーンの定理から導かれる。証明は省略)。具体的な計算では、適当な群への準同型を作って非自明性を示すのが常套手段である。

2.3 自由積と融合積

定義 2.8(自由積, free product)群の族 {Gα}\lbrace G_\alpha \rbrace に対し、群 GG と準同型 jα ⁣:Gα→Gj_\alpha\colon G_\alpha \to G の組が次の普遍性をもつとき、GG を自由積といい ∗αGα\ast_\alpha G_\alpha と書く:任意の群 HH と準同型 φα ⁣:Gα→H\varphi_\alpha\colon G_\alpha \to H に対し、Φ∘jα=φα\Phi \circ j_\alpha = \varphi_\alpha となる準同型 Φ ⁣:G→H\Phi\colon G \to H がただ一つ存在する。

普遍性から自由積は同型を除いて一意である。存在は、Gα=⟨Sα∣Rα⟩G_\alpha = \langle S_\alpha \mid R_\alpha \rangle と表示すれば ⟨⨆αSα∣⋃αRα⟩\langle \bigsqcup_\alpha S_\alpha \mid \bigcup_\alpha R_\alpha \rangle が命題 2.6 より普遍性をもつことからわかる。さらに次の正規形が成り立つ(証明は定理 2.2 と同じ方法でできるので省略する):∗αGα\ast_\alpha G_\alpha の単位元以外の元は、gi∈Gαi∖{1}g_i \in G_{\alpha_i} \setminus \lbrace 1 \rbrace、αi≠αi+1\alpha_i \neq \alpha_{i+1} を満たす積 g1g2⋯gmg_1 g_2 \cdots g_m としてただ一通りに表される。特に jαj_\alpha は単射である。

例 2.9 F(S)≅∗s∈SZF(S) \cong \ast_{s \in S} \mathbb{Z}、特に Z∗Z≅F2\mathbb{Z} \ast \mathbb{Z} \cong F_2。Z/2∗Z/2=⟨a,b∣a2,b2⟩\mathbb{Z}/2 \ast \mathbb{Z}/2 = \langle a, b \mid a^2, b^2 \rangle では (ab)n=abab⋯ab(ab)^n = abab \cdots ab は正規形なので abab は無限位数であり、二つの有限群の自由積が無限群になる。

定義 2.10(融合積, amalgamated product)準同型 i1 ⁣:H→G1i_1\colon H \to G_1, i2 ⁣:H→G2i_2\colon H \to G_2 に対し、G1∗G2G_1 \ast G_2 を {i1(h)i2(h)−1∣h∈H}\lbrace i_1(h) i_2(h)^{-1} \mid h \in H \rbrace の正規閉包で割った群を融合積といい G1∗HG2G_1 \ast_H G_2 と書く。

融合積は、φ1∘i1=φ2∘i2\varphi_1 \circ i_1 = \varphi_2 \circ i_2 を満たす準同型の組 φk ⁣:Gk→K\varphi_k\colon G_k \to K が準同型 G1∗HG2→KG_1 \ast_H G_2 \to K を一意に誘導する、という普遍性をもつ(圏論の言葉では群の圏における押し出し (pushout))。表示で書けば、Gk=⟨Sk∣Rk⟩G_k = \langle S_k \mid R_k \rangle で HH が TT で生成されるとき

G1∗HG2≅⟨S1⊔S2∣R1∪R2∪{i1(t)i2(t)−1∣t∈T}⟩G_1 \ast_H G_2 \cong \langle S_1 \sqcup S_2 \mid R_1 \cup R_2 \cup \lbrace i_1(t) i_2(t)^{-1} \mid t \in T \rbrace \rangle

である(i1(h)=i2(h)i_1(h) = i_2(h) が成り立つ hh の全体は部分群なので、生成元について課せば十分)。G2=1G_2 = 1 なら G1∗H1=G1/N(i1(H))G_1 \ast_H 1 = G_1 / N(i_1(H)) である。

2.4 ファン・カンペンの定理

X=U∪VX = U \cup V を開集合 U,VU, V の和とし、U,V,U∩VU, V, U \cap V は弧状連結で x0∈U∩Vx_0 \in U \cap V とする。包含写像 U∩V→UU \cap V \to U, U∩V→VU \cap V \to V の誘導準同型を i1,i2i_1, i_2、U→XU \to X, V→XV \to X の誘導準同型を j1,j2j_1, j_2 とする。j1∘i1=j2∘i2j_1 \circ i_1 = j_2 \circ i_2 なので、融合積の普遍性から準同型

Φ ⁣:π1(U,x0)∗π1(U∩V,x0)π1(V,x0)→π1(X,x0)\Phi\colon \pi_1(U, x_0) \ast_{\pi_1(U \cap V, x_0)} \pi_1(V, x_0) \to \pi_1(X, x_0)

が定まる。

定理 2.11(ザイフェルト–ファン・カンペンの定理, Seifert–van Kampen theorem)上の状況で Φ\Phi は同型である。すなわち

π1(X,x0)≅π1(U,x0)∗π1(U∩V,x0)π1(V,x0)\pi_1(X, x_0) \cong \pi_1(U, x_0) \ast_{\pi_1(U \cap V, x_0)} \pi_1(V, x_0)

証明. 全射性. ff を x0x_0 でのループとする。ルベーグ数の補題より、分割 0=s0<s1<⋯<sm=10 = s_0 < s_1 < \cdots < s_m = 1 を、各 f([si−1,si])f([s_{i-1}, s_i]) が UU または VV に含まれるようにとれる。同じ集合に入る隣り合う区間をまとめれば、隣り合う区間は異なる集合に入るとしてよく、このとき f(si)∈U∩Vf(s_i) \in U \cap V(0<i<m0 < i < m)である。U∩VU \cap V 内の x0x_0 から f(si)f(s_i) への道 gig_i をとり(g0,gmg_0, g_m は定値)、fif_i を f∣[si−1,si]f\vert_{[s_{i-1}, s_i]} とすると

f≃(g0⋅f1⋅gˉ1)⋅(g1⋅f2⋅gˉ2)⋯(gm−1⋅fm⋅gˉm)f \simeq (g_0 \cdot f_1 \cdot \bar{g}_1) \cdot (g_1 \cdot f_2 \cdot \bar{g}_2) \cdots (g_{m-1} \cdot f_m \cdot \bar{g}_m)

であり、各因子は UU または VV 内の x0x_0 でのループである。よって [f][f] は j1,j2j_1, j_2 の像の積で表される。

単射性. [f]∈π1(X,x0)[f] \in \pi_1(X, x_0) の分解とは、UU または VV 内の x0x_0 でのループ f1,…,fkf_1, \dots, f_k で f≃f1⋯fkf \simeq f_1 \cdots f_k となるものの類の形式的な積 [f1]⋯[fk][f_1] \cdots [f_k](各 [fi][f_i] は π1(U)\pi_1(U) または π1(V)\pi_1(V) の元とみる)のことである。これは π1(U)∗π1(V)\pi_1(U) \ast \pi_1(V) の元で [f][f] に写るものにほかならない。二つの分解は、次の操作とその逆で移り合うとき同値であるという:(a) 同じ群に属する隣り合う項をその群で掛け合わせる、(b) U∩VU \cap V 内のループ fif_i について、[fi][f_i] を π1(U)\pi_1(U) の元とみるか π1(V)\pi_1(V) の元とみるかを取り替える。(a) は自由積の、(b) は融合の関係式なので、同値な分解は融合積の同じ元を表す。したがって「同じ [f][f] の任意の二つの分解は同値である」ことを示せば Φ\Phi は単射である(Φ(w)=1\Phi(w) = 1 なら ww と空の分解が同値になる)。

[f1]⋯[fk][f_1] \cdots [f_k] と [f1′]⋯[fl′][f'_1] \cdots [f'_l] を [f][f] の二つの分解とし、F ⁣:I×I→XF\colon I \times I \to X を f1⋯fkf_1 \cdots f_k から f1′⋯fl′f'_1 \cdots f'_l への道ホモトピーとする(fif_i は区間 [(i−1)/k,i/k][(i-1)/k, i/k] でたどられる)。ルベーグ数の補題により、II の分割 0=s0<⋯<sm=10 = s_0 < \cdots < s_m = 1 と 0=t0<⋯<tn=10 = t_0 < \cdots < t_n = 1 を、各長方形 Rab=[sa−1,sa]×[tb−1,tb]R_{ab} = [s_{a-1}, s_a] \times [t_{b-1}, t_b] が UU または VV に写り、かつ ss の分点が i/ki/k と j/lj/l をすべて含むようにとる。各長方形に、その像を含む UU または VV を一つ割り当てる。

各頂点 v=(sa,tb)v = (s_a, t_b) について、F(v)F(v) は vv を含む長方形に割り当てられた集合すべてに属し、さらに vv が底辺上にあれば対応する fif_i が属する集合にも、上辺上にあれば対応する fj′f'_j の集合にも属する。これらの集合すべての共通部分(UU, VV, U∩VU \cap V のいずれか、いずれも弧状連結で x0x_0 を含む)の中で x0x_0 から F(v)F(v) への道 gvg_v をとる。F(v)=x0F(v) = x_0 のとき(左右の辺上や底辺・上辺の点 i/ki/k, j/lj/l)は gvg_v を定値にとる。

長方形を下の行から順に、各行では左から右へ番号づけ、最初の rr 個とそれ以外を分ける、左辺から右辺への格子の辺からなる道を γr\gamma_r とする(γ0\gamma_0 は底辺、γmn\gamma_{mn} は上辺)。γr\gamma_r の各辺 ee(頂点 vv から ww)について、gv⋅F∣e⋅gˉwg_v \cdot F\vert_e \cdot \bar{g}_w は ee を含む長方形の割り当てられた集合内のループである。左右の辺は x0x_0 に写るので、F∘γrF \circ \gamma_r はこれらのループの積とホモトピックで、[f][f] の分解が得られる(辺が二つの長方形に含まれ割り当てが異なるときは、ループは U∩VU \cap V 内にあり、どちらとみるかは操作 (b) で移り合う)。

  • γ0\gamma_0 の分解は [f1]⋯[fk][f_1] \cdots [f_k] と同値である。区間 [(i−1)/k,i/k]×{0}[(i-1)/k, i/k] \times \lbrace 0 \rbrace 上の辺から来るループは、gvg_v の選び方から fif_i の属する集合内にあり(操作 (b) でその群の元とみなせる)、その積は fif_i にホモトピックなので、操作 (a) で [fi][f_i] にまとまる。同様に γmn\gamma_{mn} の分解は [f1′]⋯[fl′][f'_1] \cdots [f'_l] と同値である。
  • γr−1\gamma_{r-1} と γr\gamma_r は rr 番目の長方形 RR のところだけが違い、RR の左辺と下辺を通るか、上辺と右辺を通るかの差である。RR は凸なのでこの二つの道は RR 内で端点を固定してホモトピックであり、FF で写せば RR に割り当てられた集合 AA 内でホモトピックになる。これらの辺から来る項はすべて AA 内のループなので、π1(A)\pi_1(A) の元とみて(操作 (b))掛け合わせれば一致する(操作 (a))。よって γr−1\gamma_{r-1} と γr\gamma_r の分解は同値である。

以上より二つの分解は同値であり、Φ\Phi は単射である。□\square

注意 2.12 より一般に、x0x_0 を含む弧状連結な開集合の族 {Aα}\lbrace A_\alpha \rbrace で XX が覆われ、どの二つの共通部分も弧状連結なら ∗απ1(Aα)→π1(X)\ast_\alpha \pi_1(A_\alpha) \to \pi_1(X) は全射であり、さらにどの三つの共通部分も弧状連結なら、核は iαβ(ω)iβα(ω)−1i_{\alpha\beta}(\omega) i_{\beta\alpha}(\omega)^{-1}(ω∈π1(Aα∩Aβ)\omega \in \pi_1(A_\alpha \cap A_\beta))の正規閉包である。証明は上と同様で、長方形を煉瓦積みにずらして各点が高々三つの長方形にしか含まれないようにする点だけが異なる(Hatcher, 定理 1.20)。

2.5 応用:ブーケ・胞体の貼り付け・閉曲面

例 2.13(円周のブーケ)円周 S11,…,Sn1S^1_1, \dots, S^1_n をそれぞれ一点で一つにつないだ空間をブーケ (bouquet) Xn=⋁i=1nS1X_n = \bigvee_{i=1}^n S^1 とし、つないだ点を x0x_0、Si1S^1_i を一周するループを aia_i とする。このとき π1(Xn,x0)\pi_1(X_n, x_0) は a1,…,ana_1, \dots, a_n を基底とする自由群 FnF_n である。

nn についての帰納法で示す。p∈Sn1∖{x0}p \in S^1_n \setminus \lbrace x_0 \rbrace をとり、U=Xn∖{p}U = X_n \setminus \lbrace p \rbrace、VV を Sn1S^1_n と他の円周の x0x_0 の近くの短い開弧との和とする。Sn1∖{p}S^1_n \setminus \lbrace p \rbrace は x0x_0 を含む開弧で x0x_0 に縮むので、UU は Xn−1X_{n-1} に変位レトラクトする。同様に VV は Sn1S^1_n に、U∩VU \cap V(x0x_0 から 2n2n 本の開弧が出た星形)は x0x_0 に変位レトラクトする。定理 2.11 より π1(Xn)≅Fn−1∗1Z=Fn−1∗Z≅Fn\pi_1(X_n) \cong F_{n-1} \ast_1 \mathbb{Z} = F_{n-1} \ast \mathbb{Z} \cong F_n。無限個の円周のブーケについても、注意 2.12 から同様に自由群を得る。

次に、空間に円板を貼り付けると基本群がどう変わるかを調べる。

定義 2.14(胞体の貼り付け)空間 XX と写像 φ ⁣:Sn−1→X\varphi\colon S^{n-1} \to X に対し、X⊔DnX \sqcup D^n で y∈Sn−1y \in S^{n-1} と φ(y)\varphi(y) を同一視した商空間を X∪φDnX \cup_\varphi D^n と書き、XX に nn 胞体 (nn-cell) を φ\varphi で貼り付けた空間という。φ\varphi を接着写像 (attaching map) という。

有限グラフ(頂点に 1 胞体を貼り付けたもの)に 2 胞体をいくつか貼り付けた空間を 2 次元 CW 複体という(一般の CW 複体は第5章で扱う)。

命題 2.15 XX を弧状連結、φ ⁣:S1→X\varphi\colon S^1 \to X、Y=X∪φD2Y = X \cup_\varphi D^2、x0=φ(1)x_0 = \varphi(1) とし、φ\varphi を x0x_0 でのループ s↦φ(e2πis)s \mapsto \varphi(e^{2\pi i s}) とみる。包含写像の誘導する π1(X,x0)→π1(Y,x0)\pi_1(X, x_0) \to \pi_1(Y, x_0) は全射で、核は [φ][\varphi] の正規閉包である。すなわち π1(Y)≅π1(X)/N([φ])\pi_1(Y) \cong \pi_1(X)/N([\varphi])。また n≥3n \geq 3 なら X∪φDnX \cup_\varphi D^n の基本群は π1(X)\pi_1(X) と同型である。

証明. q ⁣:X⊔D2→Yq\colon X \sqcup D^2 \to Y を商写像とし、円板の中心の像を cc とする。U=Y∖{c}U = Y \setminus \lbrace c \rbrace、V=q(int⁡D2)V = q(\operatorname{int} D^2)(開円板と同相で可縮)とおく。D2∖{0}D^2 \setminus \lbrace 0 \rbrace を S1S^1 に縮める変位レトラクション (z,t)↦(1−t)z+tz/∣z∣(z, t) \mapsto (1 - t) z + t z / \lvert z \rvert は S1S^1 を動かさないので、XX 上の恒等写像と合わせて UU を XX に変位レトラクトする。U∩VU \cap V は穴あき開円板で、円 ∣z∣=1/2\lvert z \rvert = 1/2 を一周するループ ℓ\ell が π1(U∩V,y0)\pi_1(U \cap V, y_0) を生成する(y0=q(1/2)y_0 = q(1/2))。定理 2.11 を y0y_0 で適用すると、π1(V)=1\pi_1(V) = 1 だから π1(Y,y0)≅π1(U,y0)/N([ℓ])\pi_1(Y, y_0) \cong \pi_1(U, y_0)/N([\ell])。

基点を x0x_0 に移す。δ(s)=q((1+s)/2)\delta(s) = q((1 + s)/2) は y0y_0 から x0x_0 への道で、ループの族 ℓt(s)=q(1+t2e2πis)\ell_t(s) = q(\frac{1 + t}{2} e^{2\pi i s})(基点は δ\delta に沿って動く)に補題 1.19 を適用すると [ℓ]=βδ[φ][\ell] = \beta_\delta[\varphi] となる。βδ\beta_\delta で π1(U,x0)≅π1(U,y0)\pi_1(U, x_0) \cong \pi_1(U, y_0) と同一視すれば、π1(Y,x0)≅π1(U,x0)/N([φ])≅π1(X,x0)/N([φ])\pi_1(Y, x_0) \cong \pi_1(U, x_0)/N([\varphi]) \cong \pi_1(X, x_0)/N([\varphi]) を得る。n≥3n \geq 3 なら同様に U≃XU \simeq X、VV は可縮、U∩V≃Sn−1U \cap V \simeq S^{n-1} は単連結なので、π1(Y)≅π1(U)≅π1(X)\pi_1(Y) \cong \pi_1(U) \cong \pi_1(X)。□\square

例 2.16(射影空間)RPn=Sn/(x∼−x)\mathbb{R}P^n = S^n/(x \sim -x) とする。各点は閉上半球面 ≅Dn\cong D^n に代表元をもち、代表元は赤道 Sn−1S^{n-1} 上で ±\pm の二つになる以外は一意である(コンパクトからハウスドルフへの連続全射は商写像なので、位相も込めて)RPn=Dn/(z∼−z, z∈Sn−1)\mathbb{R}P^n = D^n/(z \sim -z,\ z \in S^{n-1})。赤道の像は RPn−1\mathbb{R}P^{n-1} なので

RPn=RPn−1∪qDn(q ⁣:Sn−1→RPn−1 は商写像)\mathbb{R}P^n = \mathbb{R}P^{n-1} \cup_{q} D^n \quad (q\colon S^{n-1} \to \mathbb{R}P^{n-1} \text{ は商写像})

である。n=2n = 2 のとき、RP1=S1/±\mathbb{R}P^1 = S^1/\pm は z↦z2z \mapsto z^2 により S1S^1 と同一視され、qq は z↦z2z \mapsto z^2、すなわちループとしては ω2=a2\omega_2 = a^2 になる。命題 2.15 より π1(RP2)≅⟨a∣a2⟩≅Z/2\pi_1(\mathbb{R}P^2) \cong \langle a \mid a^2 \rangle \cong \mathbb{Z}/2。n≥3n \geq 3 では胞体の貼り付けで基本群は変わらないので、π1(RPn)≅Z/2\pi_1(\mathbb{R}P^n) \cong \mathbb{Z}/2(n≥2n \geq 2)。

例 2.17(閉曲面)g≥1g \geq 1 とし、4g4g 角形 PP の辺に、境界を一周する順に a1,b1,a1−1,b1−1,…,ag,bg,ag−1,bg−1a_1, b_1, a_1^{-1}, b_1^{-1}, \dots, a_g, b_g, a_g^{-1}, b_g^{-1} とラベルを付ける(x−1x^{-1} は辺 xx を逆向きにたどることを表す)。同じ文字の辺を向きを合わせて貼り合わせた空間が、種数 gg の向き付け可能閉曲面 MgM_g(gg 個のトーラスの連結和、「gg 個の穴の開いた浮き輪の表面」)である。g=1g = 1 は正方形の対辺を aba−1b−1aba^{-1}b^{-1} に従って貼り合わせたトーラス T2T^2 である。ラベルをたどると PP の頂点はすべて一点に同一視され、∂P\partial P の像は 2g2g 個の円周のブーケになる。したがって MgM_g はブーケに 2 胞体を語 [a1,b1]⋯[ag,bg][a_1, b_1] \cdots [a_g, b_g]([a,b]=aba−1b−1[a, b] = aba^{-1}b^{-1})に沿って貼り付けたもので、例 2.13 と命題 2.15 より

π1(Mg)≅⟨a1,b1,…,ag,bg∣[a1,b1][a2,b2]⋯[ag,bg]⟩\pi_1(M_g) \cong \langle a_1, b_1, \dots, a_g, b_g \mid [a_1, b_1] [a_2, b_2] \cdots [a_g, b_g] \rangle

同様に h≥1h \geq 1 について、2h2h 角形の辺を a1a1a2a2⋯ahaha_1 a_1 a_2 a_2 \cdots a_h a_h に従って貼り合わせた空間が向き付け不可能閉曲面 NhN_h(hh 個の射影平面の連結和)であり、N1=RP2N_1 = \mathbb{R}P^2、N2N_2 はクラインの壺 (Klein bottle) である。やはり頂点は一点に同一視され

π1(Nh)≅⟨a1,…,ah∣a12a22⋯ah2⟩\pi_1(N_h) \cong \langle a_1, \dots, a_h \mid a_1^2 a_2^2 \cdots a_h^2 \rangle

例 2.7 (3) によりアーベル化を計算すると、π1(Mg)ab≅Z2g\pi_1(M_g)^{\mathrm{ab}} \cong \mathbb{Z}^{2g}(関係子の指数和はすべて 0)、π1(Nh)ab≅Zh/⟨2(a1+⋯+ah)⟩≅Zh−1⊕Z/2\pi_1(N_h)^{\mathrm{ab}} \cong \mathbb{Z}^h / \langle 2(a_1 + \cdots + a_h) \rangle \cong \mathbb{Z}^{h-1} \oplus \mathbb{Z}/2(基底を a1+⋯+ah,a2,…,aha_1 + \cdots + a_h, a_2, \dots, a_h に取り替える)。

定理 2.18 任意の有限表示群 GG に対し、π1(X)≅G\pi_1(X) \cong G となる有限 2 次元 CW 複体 XX が存在する。

証明. G=⟨g1,…,gn∣r1,…,rm⟩G = \langle g_1, \dots, g_n \mid r_1, \dots, r_m \rangle とする。ブーケ ⋁i=1nS1\bigvee_{i=1}^n S^1 に、語 rjr_j に従って円周をたどるループを接着写像として 2 胞体を mm 個貼り付ける。命題 2.15 を mm 回適用すると(各段階で空間は弧状連結)、基本群は Fn/N(r1,…,rm)=GF_n / N(r_1, \dots, r_m) = G となる。□\square

たとえば S1∪ωmD2S^1 \cup_{\omega_m} D^2 の基本群は Z/m\mathbb{Z}/m である。さらに、任意の有限表示群は閉じた 4 次元多様体の基本群として実現される(証明は省略)。上の WARNING と合わせると、4 次元多様体の分類が本質的に不可能であることがわかる。

2.6 三葉結び目の補空間

例 2.19(三葉結び目, trefoil knot)R3\mathbb{R}^3 内の標準的なトーラス TT 上に、トーラスの中心軸のまわりを 2 周しつつ、断面の円に沿って 3 周する閉曲線 KK を描く(T=S1×S1T = S^1 \times S^1 上の曲線 t↦(e4πit,e6πit)t \mapsto (e^{4\pi i t}, e^{6\pi i t}))。これが三葉結び目である。その補空間について

π1(R3∖K)≅⟨x,y∣x2=y3⟩\pi_1(\mathbb{R}^3 \setminus K) \cong \langle x, y \mid x^2 = y^3 \rangle

が成り立つ。証明の概略:R3∪{∞}=S3\mathbb{R}^3 \cup \lbrace \infty \rbrace = S^3 は TT に沿って二つのソリッドトーラス V1V_1(内側)と V2V_2(外側、∞\infty を含む)に分かれる。VkV_k の中心の円周を CkC_k とする。T∖KT \setminus K は開いた円環で、KK と平行な中心線 AA に変位レトラクトする。これを用いると、S3∖KS^3 \setminus K は C1∪C2C_1 \cup C_2 と、AA の各点を C1C_1, C2C_2 へ放射状に結ぶ線分たちの和である 2 次元複体 XX に変位レトラクトする。XX は、円柱 A×[0,1]A \times [0, 1] の一方の端を C1C_1 に 2 回、他方の端を C2C_2 に 3 回巻きつけて貼った空間である(C2C_2 の方向は V1V_1 の断面の円の方向である)。C1C_1 の近傍と C2C_2 の近傍に分けて定理 2.11 を適用すると、π1(C1)=⟨x⟩\pi_1(C_1) = \langle x \rangle、π1(C2)=⟨y⟩\pi_1(C_2) = \langle y \rangle、共通部分(円柱の中央部)の生成元はそれぞれ x2x^2, y3y^3 に写るので、π1(X)≅⟨x,y∣x2=y3⟩\pi_1(X) \cong \langle x, y \mid x^2 = y^3 \rangle。最後に、3 次元多様体から一点を除いても基本群は変わらないので(小球 BB について B∖{pt}≃S2B \setminus \lbrace \mathrm{pt} \rbrace \simeq S^2 は単連結だから定理 2.11 による)、π1(R3∖K)≅π1(S3∖K)\pi_1(\mathbb{R}^3 \setminus K) \cong \pi_1(S^3 \setminus K)。

この群は非可換である。実際、x↦(1 2)x \mapsto (1\ 2), y↦(1 2 3)y \mapsto (1\ 2\ 3) は関係式 x2=1=y3x^2 = 1 = y^3 を満たすので、命題 2.6 により S3\mathfrak{S}_3 への全射準同型を定める。一方、結び目のない円周(自明な結び目)の補空間の基本群は Z\mathbb{Z} である(補空間は S1∨S2S^1 \vee S^2 とホモトピー同値になる)。したがって三葉結び目は、R3\mathbb{R}^3 の中でほどいて自明な結び目に変形することができない。

2.7 曲面の分類

定理 2.20(閉曲面の分類定理)連結な閉曲面(コンパクトで境界のない 2 次元位相多様体)は、S2S^2、MgM_g(g≥1g \geq 1)、NhN_h(h≥1h \geq 1)のうちのちょうど一つと同相である。

「どれかと同相である」部分の証明は、曲面の三角形分割の存在(ラドーの定理)と切り貼りの議論を要するので省略する(Massey の本の第1章、小島『トポロジー入門』を参照)。「ちょうど一つ」の部分は基本群で示せる。同相な空間の基本群は同型で、同型な群のアーベル化は同型である。例 2.17 のアーベル化 00(S2S^2)、Z2g\mathbb{Z}^{2g}、Zh−1⊕Z/2\mathbb{Z}^{h-1} \oplus \mathbb{Z}/2 は、ねじれ部分の有無と階数によってすべて互いに異なる。□\square

特に、同相でない二つの閉曲面はホモトピー同値でさえない。MgM_g と NhN_h の区別は「向き付け可能性」によるもので、これは第7章でホモロジーの言葉で定式化される。

まとめ

  • 自由群 F(S)F(S) は既約語の群で、「SS から任意の群への写像が準同型に一意に延びる」という普遍性で特徴づけられる。群は生成元と関係式で表示でき、表示された群からの準同型は命題 2.6 で作る。
  • 自由積は群の余積、融合積 G1∗HG2G_1 \ast_H G_2 は押し出しであり、表示を合併して融合の関係式を加えれば表示が得られる。
  • ファン・カンペンの定理:X=U∪VX = U \cup V(U,V,U∩VU, V, U \cap V は弧状連結な開集合)なら π1(X)≅π1(U)∗π1(U∩V)π1(V)\pi_1(X) \cong \pi_1(U) \ast_{\pi_1(U \cap V)} \pi_1(V)。
  • π1(⋁nS1)≅Fn\pi_1(\bigvee_n S^1) \cong F_n。2 胞体の貼り付けは接着写像の類の正規閉包で割ることに対応し、3 次元以上の胞体の貼り付けは基本群を変えない。π1(RPn)≅Z/2\pi_1(\mathbb{R}P^n) \cong \mathbb{Z}/2(n≥2n \geq 2)。
  • π1(Mg)=⟨ai,bi∣∏[ai,bi]⟩\pi_1(M_g) = \langle a_i, b_i \mid \prod [a_i, b_i] \rangle、π1(Nh)=⟨ai∣∏ai2⟩\pi_1(N_h) = \langle a_i \mid \prod a_i^2 \rangle。アーベル化によりすべての閉曲面が区別される。
  • 任意の有限表示群は 2 次元 CW 複体の基本群である。三葉結び目の補空間の基本群 ⟨x,y∣x2=y3⟩\langle x, y \mid x^2 = y^3 \rangle は非可換で、三葉結び目はほどけない。

演習問題

問題 2.1 ★ 命題 2.15 を用いて π1(S1∨S2)≅Z\pi_1(S^1 \vee S^2) \cong \mathbb{Z}、π1(S2∨S2)=1\pi_1(S^2 \vee S^2) = 1 を示せ。

解答

D2/S1≅S2D^2/S^1 \cong S^2 なので、S2S^2 は一点に定値写像で 2 胞体を貼った空間であり、S1∨S2=S1∪cD2S^1 \vee S^2 = S^1 \cup_c D^2(cc は基点への定値写像)である。[c]=1[c] = 1 なので π1≅Z/N(1)=Z\pi_1 \cong \mathbb{Z}/N(1) = \mathbb{Z}。S2∨S2S^2 \vee S^2 は一点に二つの 2 胞体を定値写像で貼った空間なので、基本群は自明群の商で自明である。

問題 2.2 ★★ ⟨a,b∣abab−1⟩≅⟨c,d∣c2d2⟩\langle a, b \mid abab^{-1} \rangle \cong \langle c, d \mid c^2 d^2 \rangle を示せ(前者は正方形の辺を abab−1abab^{-1} に従って貼ったクラインの壺の表示である)。またこの群は非可換で、アーベル化は Z⊕Z/2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/2 であることを示せ。

解答

c↦abc \mapsto ab, d↦b−1d \mapsto b^{-1} は c2d2↦abab⋅b−2=abab−1c^2 d^2 \mapsto abab \cdot b^{-2} = abab^{-1} より準同型を定め、a↦cda \mapsto cd, b↦d−1b \mapsto d^{-1} は abab−1↦cd⋅d−1⋅cd⋅d=c2d2abab^{-1} \mapsto cd \cdot d^{-1} \cdot cd \cdot d = c^2 d^2 より準同型を定める(命題 2.6)。合成は生成元を固定する(たとえば a↦cd↦ab⋅b−1=aa \mapsto cd \mapsto ab \cdot b^{-1} = a)ので互いに逆である。a↦(1 2 3)a \mapsto (1\ 2\ 3), b↦(1 2)b \mapsto (1\ 2) は bab−1=a−1b a b^{-1} = a^{-1}、すなわち関係式を満たすので S3\mathfrak{S}_3 への全射を与え、群は非可換である。アーベル化は例 2.17 の h=2h = 2 の場合で Z⊕Z/2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/2。

問題 2.3 ★★ トーラスから一点を除いた空間 T2∖{p}T^2 \setminus \lbrace p \rbrace は S1∨S1S^1 \vee S^1 に変位レトラクトすることを示し、包含写像の誘導する π1(T2∖{p})→π1(T2)\pi_1(T^2 \setminus \lbrace p \rbrace) \to \pi_1(T^2) を記述せよ。

解答

正方形 PP の中心を pp とすると、P∖{p}P \setminus \lbrace p \rbrace は中心からの放射状の射影で ∂P\partial P に変位レトラクトする。これは辺上の点を動かさないので貼り合わせと両立し、T2∖{p}T^2 \setminus \lbrace p \rbrace を ∂P\partial P の像 S1∨S1S^1 \vee S^1 に変位レトラクトする。よって π1≅F2=⟨a,b⟩\pi_1 \cong F_2 = \langle a, b \rangle で、包含写像は命題 2.15 の商写像 F2→⟨a,b∣aba−1b−1⟩≅Z2F_2 \to \langle a, b \mid aba^{-1}b^{-1} \rangle \cong \mathbb{Z}^2、すなわちアーベル化である。同様に Mg∖{p}≃⋁2gS1M_g \setminus \lbrace p \rbrace \simeq \bigvee_{2g} S^1。

問題 2.4 ★★ ⟨a,b∣a2,b3,(ab)2⟩≅S3\langle a, b \mid a^2, b^3, (ab)^2 \rangle \cong \mathfrak{S}_3 を示し、基本群が S3\mathfrak{S}_3 と同型な 2 次元 CW 複体を構成せよ。

解答

左辺を GG とする。a−1=aa^{-1} = a と abab=1abab = 1 より aba−1=b−1a b a^{-1} = b^{-1}。よって ⟨b⟩\langle b \rangle(位数 3 以下)は正規部分群で G=⟨b⟩⟨a⟩G = \langle b \rangle \langle a \rangle、∣G∣≤6\lvert G \rvert \leq 6。一方 a↦(1 2)a \mapsto (1\ 2), b↦(1 2 3)b \mapsto (1\ 2\ 3) は (1 2)(1 2 3)=(2 3)(1\ 2)(1\ 2\ 3) = (2\ 3) の平方が 1 なので関係式を満たし、S3\mathfrak{S}_3 への全射を与える。位数を比べて同型である。CW 複体は、S1∨S1S^1 \vee S^1 に語 a2a^2, b3b^3, abababab に沿って 2 胞体を 3 個貼ったもの(定理 2.18)。

問題 2.5 ★★ 平面から kk 点を除いた空間の基本群は FkF_k であることを示せ。これを用いて、原点を通る相異なる nn 本の直線を R3\mathbb{R}^3 から除いた空間の基本群が F2n−1F_{2n-1} であることを示せ。

解答

点を pj=(j,0)p_j = (j, 0)(1≤j≤k1 \leq j \leq k)としてよい。U={x<k−1/3}∖{p1,…,pk−1}U = \lbrace x < k - 1/3 \rbrace \setminus \lbrace p_1, \dots, p_{k-1} \rbrace、V={x>k−2/3}∖{pk}V = \lbrace x > k - 2/3 \rbrace \setminus \lbrace p_k \rbrace とおくと、U∩VU \cap V は帯状の凸集合で単連結、UU は平面から k−1k - 1 点を除いた空間と同相、V≃S1V \simeq S^1。帰納法と定理 2.11 より π1≅Fk−1∗Z≅Fk\pi_1 \cong F_{k-1} \ast \mathbb{Z} \cong F_k。直線の場合、x↦x/∥x∥x \mapsto x / \lVert x \rVert への直線ホモトピーにより、空間は S2S^2 から 2n2n 点を除いた空間に変位レトラクトし、その一点からの立体射影により平面から 2n−12n - 1 点を除いた空間と同相になる。

問題 2.6 ★★ ⟨x,y∣x2=y3⟩≅⟨a,b∣aba=bab⟩\langle x, y \mid x^2 = y^3 \rangle \cong \langle a, b \mid aba = bab \rangle を示せ(後者は三葉結び目の図式から得られるヴィルティンガー表示である)。

解答

ϕ ⁣:x↦aba\phi\colon x \mapsto aba, y↦aby \mapsto ab とすると ϕ(x2)=aba⋅aba=aba⋅bab=(ab)3=ϕ(y3)\phi(x^2) = aba \cdot aba = aba \cdot bab = (ab)^3 = \phi(y^3) で準同型。ψ ⁣:a↦y−1x\psi\colon a \mapsto y^{-1} x, b↦x−1y2b \mapsto x^{-1} y^2 とすると ψ(aba)=y−1x⋅x−1y2⋅y−1x=x\psi(aba) = y^{-1} x \cdot x^{-1} y^2 \cdot y^{-1} x = x、ψ(bab)=x−1y2⋅y−1x⋅x−1y2=x−1y3=x\psi(bab) = x^{-1} y^2 \cdot y^{-1} x \cdot x^{-1} y^2 = x^{-1} y^3 = x で準同型。ψϕ(x)=x\psi\phi(x) = x, ψϕ(y)=y−1xx−1y2=y\psi\phi(y) = y^{-1} x x^{-1} y^2 = y、ϕψ(a)=(ab)−1aba=a\phi\psi(a) = (ab)^{-1} aba = a, ϕψ(b)=(aba)−1abab=b\phi\psi(b) = (aba)^{-1} abab = b なので互いに逆である。

問題 2.7 ★★ g≥2g \geq 2 なら π1(Mg)\pi_1(M_g) は非可換であることを示せ。

解答

ai↦xia_i \mapsto x_i, bi↦1b_i \mapsto 1 は関係子 ∏[ai,bi]\prod [a_i, b_i] を 11 に写すので、自由群 Fg=F(x1,…,xg)F_g = F(x_1, \dots, x_g) への全射準同型を定める(命題 2.6)。g≥2g \geq 2 なら FgF_g は非可換(注意 2.4)なので、π1(Mg)\pi_1(M_g) も非可換である。

問題 2.8 ★★★ G=⟨x,y∣x2=y3⟩G = \langle x, y \mid x^2 = y^3 \rangle とし、z=x2z = x^2 とおく。zz は GG の中心に属し、G/⟨z⟩≅Z/2∗Z/3G/\langle z \rangle \cong \mathbb{Z}/2 \ast \mathbb{Z}/3 であることを示せ。これを用いて GG が非可換な無限群であることを示せ。

解答

z=x2z = x^2 は xx と、z=y3z = y^3 は yy と可換なので zz は中心に属し、⟨z⟩\langle z \rangle は正規部分群である。G/⟨z⟩=⟨x,y∣x2=y3,x2⟩=⟨x,y∣x2,y3⟩=Z/2∗Z/3G/\langle z \rangle = \langle x, y \mid x^2 = y^3, x^2 \rangle = \langle x, y \mid x^2, y^3 \rangle = \mathbb{Z}/2 \ast \mathbb{Z}/3。自由積の正規形により xy≠yxxy \neq yx であり、(xy)n(xy)^n(長さ 2n2n の正規形)はすべて異なるので、商群は非可換な無限群である。よって GG もそうである。

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