この章の目標
- マイヤー–ヴィートリス完全列を用いて球面などのホモロジーを計算できる
- ホモロジーを用いて Rm≅Rn、ブラウアーの不動点定理、毛玉の定理を証明できる
- 写像度の性質を理解し、対蹠写像の写像度を求められる
- CW 複体の胞体ホモロジーで、射影空間や閉曲面のホモロジーを計算できる
- オイラー標数の不変性と、レフシェッツの不動点定理・ジョルダン–ブラウアーの分離定理の主張を理解する
前提:第4章
第4章で整えた道具(ホモトピー不変性・長完全列・切除定理)は抽象的だったが、組み合わせると多くの空間のホモロジーが計算でき、第1章の応用が任意の次元に拡張される。
5.1 マイヤー–ヴィートリス完全列
ファン・カンペンの定理のホモロジー版にあたるのが次の完全列である。
定理 5.1(マイヤー–ヴィートリス完全列, Mayer–Vietoris sequence)A,B⊂X の内部が X を覆うとする。次の完全列が存在する。
⋯→Hn(A∩B)ΦHn(A)⊕Hn(B)ΨHn(X)∂Hn−1(A∩B)→⋯→H0(X)→0
ここで Φ(x)=(x,−x)、Ψ(x,y)=x+y(包含写像の誘導準同型を省略して書いた)であり、∂ は、輪体 z を A の鎖 x と B の鎖 y の和 z=x+y に書いたとき ∂[z]=[∂x] で与えられる。A∩B=∅ なら被約ホモロジーについても同様の完全列がある。
証明. 第4章 4.7 節の C∙U(X)(U={A,B})について、鎖複体の短完全列
0→Cn(A∩B)x↦(x,−x)Cn(A)⊕Cn(B)(x,y)↦x+yCnU(X)→0
がある(第 2 の写像の核は Cn(A)∩Cn(B)=Cn(A∩B) の元 x による (x,−x) 全体である)。定理 4.16 と、包含 C∙U(X)→C∙(X) がホモロジーの同型を誘導すること(定理 4.21 の証明の方針)から従う。∂ の記述は定理 4.16 の連結準同型の記述そのものである。□
マイヤー–ヴィートリス完全列は自然である:f:X→Y が f(A)⊂A′, f(B)⊂B′ を満たせば、二つの完全列の間の可換図式が得られる。
5.2 球面のホモロジー
定理 5.2 n≥0 について、H~k(Sn)≅Z(k=n)、H~k(Sn)=0(k=n)である。
証明. n=0 なら S0 は 2 点なので H0=Z2、H~0=Z、他は 0。n≥1 とし、Sn⊂Rn+1 の北極・南極を N=en, S=−en(座標を x0,…,xn とする)、A=Sn∖{N}, B=Sn∖{S} とおく。A,B は立体射影で Rn と同相なので可縮である。A∩B は x=(y,t)(y∈Rn∖{0})と書け、((y,t),s)↦(y,(1−s)t)/∥(y,(1−s)t)∥ で赤道 Sn−1={xn=0} に変位レトラクトする。被約版のマイヤー–ヴィートリス完全列
0=H~k(A)⊕H~k(B)→H~k(Sn)∂H~k−1(A∩B)→H~k−1(A)⊕H~k−1(B)=0
より H~k(Sn)≅H~k−1(Sn−1)。n についての帰納法で結論を得る。□
例 4.19 (2) と合わせると Hk(Dn,Sn−1)≅Z(k=n)、0(k=n)である。
5.3 応用:レトラクト・不動点・次元
定理 5.3 n≥1 のとき、Sn−1 は Dn のレトラクトでない。
証明. レトラクション r があれば、H~n−1(Sn−1)≅Z 上の恒等写像 r∗i∗ が H~n−1(Dn)=0 を経由することになり矛盾する。□
定理 5.4(ブラウアーの不動点定理, Brouwer fixed point theorem)任意の写像 h:Dn→Dn は不動点をもつ。
証明. 定理 1.27 の証明で作ったレトラクション r(x)=x+λ(x)(x−h(x)) は Rn でもそのまま意味をもつので、定理 5.3 に帰着する。□
点 x∈X について Hk(X,X∖{x}) を x における局所ホモロジー群という。
定理 5.5(次元の不変性)m=n ならば Rm と Rn は同相でない。
証明. n≥1 として、Rn の可縮性と対の長完全列(被約版)、Rn∖{x}≃Sn−1 より
Hk(Rn,Rn∖{x})≅H~k−1(Rn∖{x})≅H~k−1(Sn−1)
であり、これは k=n のときだけ Z、それ以外は 0 である(n=0 なら Hk(R0,∅) は k=0 でのみ Z)。同相写像 h:Rm→Rn は対の同相 (Rm,Rm∖{x})≅(Rn,Rn∖{h(x)}) を与えるので、局所ホモロジーを比べて m=n。□
切除定理より、開集合 U∋x について Hk(U,U∖{x})≅Hk(X,X∖{x}) なので、局所ホモロジーは x の近くだけで決まる。これから、空でない位相多様体の次元が well-defined であることもわかる(問題 5.8)。
5.4 写像度
n≥1 とする。写像 f:Sn→Sn の誘導する f∗:Hn(Sn)→Hn(Sn) は Z の自己準同型なので、ある整数 d 倍写像である。この d を f の写像度 (degree) といい degf と書く(生成元の選び方によらない)。
命題 5.6 f,g:Sn→Sn について次が成り立つ。
- degid=1、deg(fg)=degf⋅degg、f≃g なら degf=degg。
- f が全射でなければ degf=0。f がホモトピー同値写像なら degf=±1。
- 鏡映 r(x0,x1,…,xn)=(−x0,x1,…,xn) について degr=−1。
- 対蹠写像 a(x)=−x について dega=(−1)n+1。
- f が不動点をもたなければ degf=(−1)n+1。
証明. (1) は関手性とホモトピー不変性から明らか。(2) f が点 y を像に含まなければ、f は可縮な Sn∖{y}≅Rn を経由するので f∗=0。後半は (1) から。
(3) 定理 5.2 の証明の A,B を考えると、n≥1 なので r は N,S を固定し、A,B をそれぞれ自分自身に写し、赤道 Sn−1 上では同じ形の鏡映になる。マイヤー–ヴィートリス完全列の自然性より、同型 ∂:H~n(Sn)→H~n−1(Sn−1) は r∗ と可換なので、Sn 上の r の写像度は Sn−1 上の鏡映の写像度に等しい。これを繰り返すと S0={p,q} の二点を入れ替える写像に帰着し、H~0(S0)=Z(p−q) 上で p−q↦q−p なので −1 である。
(4) 座標 xi の符号を変える鏡映 ri は、座標の置換 σ により ri=σrσ−1 と書けるので、(1) より degri=degr=−1。a=r0r1⋯rn なので dega=(−1)n+1。
(5) f(x)=x なら、(1−t)f(x)−tx=0(t=1/2 かつ f(x)=x のときのみ 0 になる)なので、Ft(x)=((1−t)f(x)−tx)/∥(1−t)f(x)−tx∥ は f から a へのホモトピーである。(1), (4) による。□
定理 5.7(毛玉の定理, hairy ball theorem)Sn 上に、どこでも 0 にならない連続な接ベクトル場が存在するための必要十分条件は、n が奇数であることである。
証明. 接ベクトル場 v(⟨v(x),x⟩=0)が 0 にならないとし、w=v/∥v∥ とおく。Ft(x)=cos(πt) x+sin(πt) w(x) は x⊥w(x) より単位ベクトルで、id から a へのホモトピーを与える。よって 1=dega=(−1)n+1 で n は奇数である。逆に n=2k−1 なら、v(x1,x2,…,x2k−1,x2k)=(−x2,x1,…,−x2k,x2k−1) が求めるベクトル場である。□
特に、地球上の風がどこでも吹いていることはない(2 次元球面上の連続な風の場には無風の点がある)。
5.5 CW 複体
多くの空間は、胞体(円板)を次元の低い順に貼り付けて作られる。第2章の 2 次元 CW 複体を一般化する。
定義 5.9(CW 複体, CW complex)空間 X が次のように作られるとき CW 複体という。(i) X0 は離散空間。(ii) Xn は Xn−1 に、写像 φα:Sn−1→Xn−1 で n 胞体 eαn たちを貼り付けた空間(定義 2.14)。(iii) X=⋃nXn で、A⊂X はすべての A∩Xn が Xn で開のとき開とする。Xn を n 切片 (n-skeleton)、Dn→Xn−1⊔Dn→X を特性写像という。胞体が有限個なら有限 CW 複体(コンパクト)、X=Xn となる最小の n を次元という。胞体の和集合で閉集合かつそれ自身 CW 複体になるものを部分複体という。
例 5.10
- Sn=e0∪en(Dn の境界全体を一点に貼り付ける)。
- RPn=e0∪e1∪⋯∪en(例 2.16 の RPk=RPk−1∪qDk による)。
- CPn=(Cn+1∖{0})/C×=S2n+1/S1 の各点は、最後の座標が 0 以上の実数である代表元 (w,1−∥w∥2)(w∈D2n)をもつ。∥w∥<1 ならこの代表元は一意で、∥w∥=1 の部分は S2n−1/S1=CPn−1 に写る。よって CPn=CPn−1∪qD2n=e0∪e2∪⋯∪e2n(q:S2n−1→CPn−1 は商写像)。
- Mg=e0∪(2g 個の e1)∪e2、Nh=e0∪(h 個の e1)∪e2(例 2.17)。
- CW 複体の積は(有限の場合)積胞体 eαp×eβq を胞体とする CW 複体である。Tn=(e0∪e1)n は k 胞体を (kn) 個もつ。
補題 5.11 X を CW 複体とする。
- (Xn,Xn−1) は良い対で、Xn/Xn−1 は n 胞体の個数だけの Sn のブーケである。したがって Hk(Xn,Xn−1) は k=n のとき n 胞体を基底とする自由アーベル群、k=n のとき 0。
- k>n なら Hk(Xn)=0。
- k<n なら包含写像は同型 Hk(Xn)≅Hk(X) を誘導する。
証明の概略. (1) 各胞体の中心の小円板の外側は、放射状に Xn−1 に縮むので良い対である。商については特性写像が ⨆Dαn/⨆Sαn−1≅⋁Sn を与える。ホモロジーは定理 4.23、系 4.24、定理 5.2 による。(2) 対 (Xm,Xm−1) の長完全列から、k>m なら Hk(Xm−1)≅Hk(Xm) であり、Hk(X0)=0 から帰納的に従う。(3) 同様に k<m なら Hk(Xm)≅Hk(Xm+1)。X が有限次元ならこれで終わり、一般には特異鎖の像がコンパクトで有限個の胞体にしか触れないことを用いる。□
5.6 胞体ホモロジー
定義 5.12(胞体鎖複体)CnCW(X)=Hn(Xn,Xn−1) とし、dn を合成
Hn(Xn,Xn−1)∂nHn−1(Xn−1)jn−1Hn−1(Xn−1,Xn−2)
で定める。dn−1dn=jn−2(∂n−1jn−1)∂n=0(∂n−1jn−1 は対 (Xn−1,Xn−2) の長完全列の隣り合う写像)なので鎖複体であり、そのホモロジーを胞体ホモロジー HnCW(X) という。
定理 5.13 HnCW(X)≅Hn(X) である。
証明. 補題 5.11 (2) より Hn(Xn−1)=0 なので、対 (Xn,Xn−1) の長完全列から jn:Hn(Xn)→Hn(Xn,Xn−1) は単射で、像は ker∂n。また Hn−1(Xn−2)=0 より jn−1 は単射なので ker∂n=kerdn。次に対 (Xn+1,Xn) の長完全列 Hn+1(Xn+1,Xn)∂n+1Hn(Xn)→Hn(Xn+1)→Hn(Xn+1,Xn)=0 から Hn(Xn+1)≅Hn(Xn)/im∂n+1。jn で写すと im∂n+1 は imdn+1 に対応する。補題 5.11 (3) と合わせて Hn(X)≅Hn(Xn+1)≅kerdn/imdn+1。□
特に、n 胞体をもたない CW 複体では Hn(X)=0 であり、Hn(X) は n 胞体の個数以下の個数の元で生成される。境界準同型は次の公式で計算できる(証明は Hatcher, 2.2 節の胞体境界公式)。
定理 5.14(胞体境界公式)dn(eαn)=∑βdαβ eβn−1 であり、dαβ は合成 Sn−1φαXn−1→Xn−1/(Xn−1∖eβn−1)≅Sn−1 の写像度である。特に d1(e1)=(終点 )−(始点 ) であり、グラフに語に沿って貼った 2 胞体については、dαβ は語に現れる文字 β の指数の和である。
例 5.15(CPn)胞体が偶数次元にしかないので、すべての dk は 0 または 0 への写像である。よって H2k(CPn)≅Z(0≤k≤n)、それ以外は 0。一般に、偶数次元の胞体しかもたない CW 複体では H2k は 2k 胞体の個数を階数とする自由アーベル群、奇数次のホモロジーは 0 である。
例 5.16(RPn)ek の接着写像は商写像 q:Sk−1→RPk−1 で、これと RPk−1→RPk−1/RPk−2≅Sk−1 の合成は、Sk−1 の二つの開半球面をそれぞれ同相に写し、両者は対蹠写像 a で移り合う。注意 5.8 (ii) より写像度は ±(1+dega)=±(1+(−1)k) となり、dk は k が偶数なら ±2 倍、奇数なら 0 である。胞体鎖複体
0→Zdn⋯2Z0Z2Z0Z→0
(右端が次数 0)より
Hk(RPn)≅⎩⎨⎧ZZ/20(k=0, または k=n が奇数)(k が奇数,0<k<n)(それ以外)
たとえば H∗(RP3)=Z,Z/2,0,Z である。
例 5.17(閉曲面)Mg では 0 胞体が一つなので d1=0、2 胞体の語 ∏[ai,bi] では各文字の指数和が 0 なので d2=0。よって H∗(Mg)=Z,Z2g,Z。Nh では d2(e2)=2(a1+⋯+ah) なので H∗(Nh)=Z,Zh−1⊕Z/2,0。第2章・第4章の計算と一致する。
5.7 オイラー標数
凸多面体の頂点・辺・面の数について V−E+F=2 が成り立つ(オイラーの多面体定理)。この左辺の交代和は、胞体分割の仕方によらない位相不変量である。有限生成アーベル群 G の階数 rankG を、G≅Zr⊕(有限群) の r とする(dimQ(G⊗Q) に等しく、短完全列 0→G′→G→G′′→0 について rankG=rankG′+rankG′′ が成り立つ)。
定義 5.18(オイラー標数, Euler characteristic)n 胞体を cn 個もつ有限 CW 複体 X に対し、χ(X)=∑n(−1)ncn とおく。
定理 5.19 有限 CW 複体 X について χ(X)=∑n(−1)nrankHn(X) である。特に χ(X) は胞体分割によらず、ホモトピー不変量である。
証明. 有限生成自由アーベル群の有限な鎖複体 C∙ について ∑(−1)nrankCn=∑(−1)nrankHn(C) を示せば、胞体鎖複体(rankCnCW=cn)と定理 5.13 から従う。短完全列 0→Zn→Cn∂Bn−1→0、0→Bn→Zn→Hn→0 と階数の加法性から
rankCn=rankBn+rankHn+rankBn−1
であり、交代和をとると B の項が打ち消し合う。□
例 5.20 χ(Sn)=1+(−1)n、χ(Mg)=2−2g、χ(Nh)=2−h、χ(CPn)=n+1、χ(RPn) は n が偶数なら 1、奇数なら 0。凸多面体の表面は S2 と同相で、頂点・辺・面が CW 構造を与えるので V−E+F=χ(S2)=2。また k 葉被覆 X~→X について、各胞体の特性写像は(Dn が単連結なので)ちょうど k 通りに持ち上がり X~ の CW 構造を与えるから、χ(X~)=kχ(X) である。
5.8 レフシェッツの不動点定理
ブラウアーの不動点定理を大きく一般化するのが次の定理である。有限 CW 複体 X の写像 f:X→X に対し、Hn(X) をねじれ部分群で割った自由アーベル群上の f∗ のトレースを用いて
L(f)=n∑(−1)ntr(f∗:Hn(X)/tors→Hn(X)/tors)
とおき、レフシェッツ数という。ホモトピックな写像のレフシェッツ数は等しく、L(id)=χ(X) である。
定理 5.21(レフシェッツの不動点定理, Lefschetz fixed point theorem)X を有限単体複体(またはそのレトラクト)、f:X→X を写像とする。L(f)=0 ならば f は不動点をもつ。
証明は、単体近似定理で f を単体写像に取り替え、「∑(−1)ntr(f∗∣Hn)=∑(−1)ntr(f♯∣Cn)」(ホップのトレース公式、定理 5.19 の証明と同様)を用いて、不動点がなければ右辺が 0 になることを示す(Hatcher, 定理 2C.3)。ここでは主張の応用を述べる。
例 5.22
- X が可縮なら H0 以外は 0 で、f∗ は H0=Z 上で恒等写像なので L(f)=1。よって可縮な有限単体複体の自己写像は必ず不動点をもつ(ブラウアーの定理の一般化)。
- f:Sn→Sn について L(f)=1+(−1)ndegf。L(f)=0 となるのは degf=(−1)n+1 のときに限り、命題 5.6 (5) と整合する。
- χ(X)=0 なら、idX にホモトピックな写像は不動点をもつ。たとえば S2k 上に零点のない接ベクトル場 v があれば、f(x)=(x+v(x))/∥x+v(x)∥ は ft(x)=(x+tv(x))/∥x+tv(x)∥ により id にホモトピックで(v(x)⊥x より分母は 0 にならない)、しかも不動点をもたない(f(x)=x なら v(x) は x の実数倍で、v(x)⊥x より v(x)=0)。χ(S2k)=2=0 に矛盾するので、再び毛玉の定理が得られる。逆に T2 では χ=0 で、平行移動は不動点をもたない。
5.9 ジョルダン–ブラウアーの分離定理
平面内の単純閉曲線が平面を内側と外側の二つに分けるというジョルダンの曲線定理は、直観的には明らかだが、曲線がいくらでも複雑になりうるので証明は難しい。ホモロジーを使うと高次元版まで一挙に証明できる。
定理 5.23(ジョルダン–ブラウアーの分離定理)(1) h:Dk→Sn が埋め込み(像への同相写像)なら、すべての i で H~i(Sn∖h(Dk))=0。
(2) k<n で h:Sk→Sn が埋め込みなら、H~i(Sn∖h(Sk)) は i=n−k−1 のとき Z、それ以外で 0 である。
特に Sn−1 を Sn(n≥2 なら Rn でもよい)に埋め込むと、補集合はちょうど二つの弧状連結成分をもち、h(Sn−1) はその両方の境界である。
証明は k についての帰納法で、Dk を二つに分けてマイヤー–ヴィートリス完全列を使う(Hatcher, 命題 2B.1)。n=2 の場合がジョルダンの曲線定理である。系として領域不変性(Rn の開集合から Rn への単射連続写像は開写像)も得られる。
注意
n=3 で補集合の成分が開球体と同相になるとは限らない。「アレクサンダーの角付き球面」は S3 に埋め込まれた S2 で、補集合の一方の成分は単連結でない。定理 5.23 が主張するのはホモロジーについてだけである。
基本的な空間のホモロジー
ここまでの計算を表にまとめておく(空欄に相当する次数のホモロジーは 0)。
| 空間 |
H0 |
H1 |
H2 |
Hk(k≥3) |
χ |
| Sn(n≥3) |
Z |
0 |
0 |
k=n で Z |
1+(−1)n |
| Mg(T2=M1) |
Z |
Z2g |
Z |
0 |
2−2g |
| Nh |
Z |
Zh−1⊕Z/2 |
0 |
0 |
2−h |
| RPn(n≥3) |
Z |
Z/2 |
0 |
奇数 k<n で Z/2、奇数 k=n で Z |
0 または 1 |
| CPn |
Z |
0 |
Z |
偶数 k≤2n で Z |
n+1 |
| ⋁nS1 |
Z |
Zn |
0 |
0 |
1−n |
ホモロジー群が一致しても空間がホモトピー同値とは限らない(問題 5.1)。これを区別するためにコホモロジー環を導入するのが次章である。
まとめ
- マイヤー–ヴィートリス完全列 ⋯→Hn(A∩B)→Hn(A)⊕Hn(B)→Hn(X)→Hn−1(A∩B)→⋯ により、H~k(Sn) は k=n でのみ Z となる。
- 応用:Sn−1 は Dn のレトラクトでない、ブラウアーの不動点定理、局所ホモロジーによる Rm≅Rn(m=n)。
- 写像度は積に関して乗法的なホモトピー不変量で、対蹠写像の写像度は (−1)n+1。毛玉の定理:Sn に零点のない接ベクトル場があるのは n が奇数のときに限る。
- CW 複体のホモロジーは胞体鎖複体 Hn(Xn,Xn−1) で計算でき、境界は接着写像の写像度で与えられる。H∗(CPn) は偶数次に Z、H∗(RPn) は奇数次に Z/2 が現れる。
- オイラー標数 χ=∑(−1)ncn=∑(−1)nrankHn はホモトピー不変量で、有限被覆に関して乗法的である。
- レフシェッツ数が 0 でない写像は不動点をもつ。Sn に埋め込まれた Sn−1 は Sn を二つに分ける(ジョルダン–ブラウアー)。
演習問題
問題 5.1 ★ S2∨S1∨S1 と T2 のホモロジー群が同型であることを示せ。
解答
系 4.24 (2) と定理 5.2 より、H~n(S2∨S1∨S1)≅H~n(S2)⊕H~n(S1)2 は n=1 で Z2、n=2 で Z、それ以外で 0。例 5.17(g=1)の H∗(T2)=Z,Z2,Z と一致する。両者がホモトピー同値でないことは第6章でカップ積を用いて示す。
問題 5.2 ★ f:Sn→Sn について、degf=(−1)n+1 なら f は不動点をもち、degf=1 なら f(x)=−x となる x があることを示せ。
解答
前半は命題 5.6 (5) の対偶である。後半:すべての x で f(x)=−x なら a∘f は不動点をもたないので、deg(af)=(−1)n+1degf=(−1)n+1、すなわち degf=1。
問題 5.3 ★★ m≥1 について X=S1∪ωmD2(ωm(z)=zm で 2 胞体を貼った空間)のホモロジーを求めよ。
解答
胞体は e0,e1=a,e2 で、e2 は語 am に沿って貼られるので定理 5.14 より d2(e2)=ma、d1=0。よって H0=Z、H1=Z/m、H2=ker(m:Z→Z)=0。m=2 なら RP2 である。
問題 5.4 ★★ S2 の北極と南極を同一視した空間 X のホモロジーを胞体ホモロジーで求めよ。
解答
S2 に、0 胞体 N,S、1 胞体 e(S から N への経線)、2 胞体(境界の円を e に沿って往復するように e⋅eˉ で貼る)という CW 構造を入れる。N と S を同一視すると、X は 0 胞体 1 個、1 胞体 a(ループ)1 個、語 aa−1 で貼った 2 胞体 1 個の CW 複体になる。d1=0、d2=(1−1)a=0 なので H∗(X)=Z,Z,Z(実際 X≃S2∨S1)。
問題 5.5 ★★ 群 G が S2k に同相写像として自由に(単位元以外の元が不動点をもたないように)作用するなら、∣G∣≤2 であることを示せ。
解答
g↦degg は G から {±1} への準同型である(命題 5.6 (1), (2))。g=e は不動点をもたないので degg=(−1)2k+1=−1。よって核は自明で、G は {±1} に単射に写る。例:Z/2 の対蹠作用。
問題 5.6 ★★ 向き付け可能閉曲面の k 葉被覆 Mg→Mh が存在するなら g−1=k(h−1) であることを示せ。特に T2 を被覆する向き付け可能閉曲面は T2 だけであることを示せ。
解答
例 5.20 より χ(Mg)=kχ(Mh)、すなわち 2−2g=k(2−2h)。h=1 なら g=1(S2 も χ=2=0 なので除かれる)。なお、オイラー標数だけでは向き付け不可能な曲面は除けない(クラインの壺も χ=0)。向き付け可能な多様体の被覆空間は向き付け可能である(向きを局所同相で引き戻せばよい。第7章)ことを使うと、T2 を被覆する閉曲面は T2 だけであることがわかる。
問題 5.7 ★★ 任意の写像 f:RP2k→RP2k は不動点をもつことを示せ。
解答
例 5.16 より Hn(RP2k) は n=0 で Z、それ以外はねじれ群か 0 である。f∗ は H0=Z 上で恒等写像なので L(f)=1=0。定理 5.21 より不動点をもつ(RP2k は有限単体複体と同相である)。
問題 5.8 ★★★ Rm の空でない開集合 U と Rn の空でない開集合 V が同相なら m=n であることを示せ。これから、空でない位相多様体の次元が well-defined であることを導け。
解答
x∈U について、Z=Rm∖U は閉集合で開集合 Rm∖{x} に含まれるので、切除定理より Hk(U,U∖{x})≅Hk(Rm,Rm∖{x})。これは定理 5.5 の証明より k=m でのみ Z である。同相 h:U→V は Hk(U,U∖{x})≅Hk(V,V∖{h(x)}) を与えるので m=n。多様体の点の近傍が Rm とも Rn とも同相な開集合をもてば、両者の共通部分の開集合を比べて m=n。