この章の目標
- 単体ホモロジーを定義し、三角形やトーラスのホモロジーを手で計算できる
- 鎖複体・鎖写像・鎖ホモトピーの言葉を使いこなす
- 特異ホモロジーを定義し、関手性・ホモトピー不変性・H0 の意味を理解する
- 蛇の補題を証明し、対の長完全列を導ける
- 切除定理と良い対の定理の主張を理解し、H1 が基本群のアーベル化であることを説明できる
前提:第1章、第2章(4.9 節のみ)、04-algebra 第7章(有限生成アーベル群)
4.1 動機:穴を数える
基本群は強力だが、非可換で計算が難しく、しかも n≥2 の球面 Sn をすべて自明群としか見なさない。高次元の「穴」を捉える、計算しやすい可換な不変量が欲しい。
グラフで考えよう。辺に向きをつけ、辺の整数係数の形式和(鎖)を考える。鎖の「境界」を、各辺 [v,w] について w−v を足し合わせたものと定める。境界が 0 になる鎖(輪体)は、閉じた道のように「一周して戻ってくる」鎖である。三角形の周 [v0,v1]+[v1,v2]+[v2,v0] は輪体だが、三角形の内部が埋まっていれば、それは 2 次元の面の境界であり「穴を囲んでいない」。そこで
ホモロジー=境界輪体
とすれば、真の穴だけが残る。これを各次元で行うのがホモロジーである。
4.2 Δ複体と単体ホモロジー
RN の中のアフィン独立な点 v0,…,vn の凸包を n 単体 [v0,…,vn] という(頂点の順序も込めて考える)。一つの頂点を除いて得られる [v0,…,v^i,…,vn] を面という( ^ は除くことを表す)。Δn=[e0,…,en]={(t0,…,tn)∈Rn+1∣ti≥0,∑ti=1} を標準 n 単体という。頂点の順序を保つ線形同相 Δn→[v0,…,vn] で両者を同一視する。
定義 4.1(Δ複体, Δ-complex)いくつかの単体を、面どうしを頂点の順序を保つ線形同相で貼り合わせて得られる空間を Δ複体という。正確には、空間 X と写像の族 σα:Δnα→X で、(i) σα は単体の内部で単射で、X の各点はちょうど一つの σα の内部の像に属し、(ii) σα の面への制限はある σβ であり、(iii) A⊂X はすべての σα−1(A) が開のとき開、を満たすものである。各単体が頂点の集合で決まり、面の同一視がないものが(順序付き)単体複体である。
定義 4.2(単体ホモロジー, simplicial homology)Δ複体 X の n 単体 σα を基底とする自由アーベル群を Δn(X) とし、境界準同型 ∂n:Δn(X)→Δn−1(X) を
∂nσα=i=0∑n(−1)iσα∣[v0,…,v^i,…,vn]
で定める。HnΔ(X)=ker∂n/im∂n+1 を単体ホモロジー群という(∂0=0)。
符号 (−1)i は面の「向き」を表す。たとえば ∂[v0,v1]=v1−v0、∂[v0,v1,v2]=[v1,v2]−[v0,v2]+[v0,v1] で、後者は三角形の周を v0→v1→v2→v0 と一周する鎖である。
補題 4.3 ∂n−1∘∂n=0 である。
証明. ∂∂σ を展開すると、j<i のとき vj,vi を除いた面は、先に vi を除くと (−1)i(−1)j、先に vj を除くと(vi の位置が一つ前にずれるので)(−1)j(−1)i−1 の符号で現れ、打ち消し合う。□
例 4.4(三角形)三角形の周 K(頂点 v0,v1,v2、辺 [v0,v1],[v1,v2],[v0,v2])では、∂(a[v1,v2]+b[v0,v2]+c[v0,v1])=−(b+c)v0+(c−a)v1+(a+b)v2 なので、ker∂1 は z=[v0,v1]+[v1,v2]−[v0,v2] で生成され、H1Δ(K)≅Z。また im∂1 は v1−v0,v2−v0 で生成されるので H0Δ(K)≅Z。内部を埋めた三角形では ∂[v0,v1,v2]=z となり、H1Δ=0、∂2 は単射なので H2Δ=0。穴を埋めると 1 次元ホモロジーが消える。
例 4.5(トーラス)正方形 [0,1]2 を対角線で二つの三角形に分け、対辺を同一視してトーラス T2 の Δ複体を作る。頂点は一つ v(四隅がすべて同一視される)、辺は水平な a(左から右)、垂直な b(下から上)、対角線 c((0,0) から (1,1))の 3 本、2 単体は下の三角形 L=[(0,0),(1,0),(1,1)] と上の三角形 U=[(0,0),(0,1),(1,1)] である。L の辺は順に a,b,c、U の辺は b,a,c なので
∂L=b−c+a,∂U=a−c+b,∂a=∂b=∂c=v−v=0
∂1=0 より H0Δ≅Z。{a,b,a+b−c} は Δ1≅Z3 の基底で im∂2=⟨a+b−c⟩ なので H1Δ(T2)≅Z2(a,b の類が基底)。∂(pU+qL)=(p+q)(a+b−c) より ker∂2=⟨U−L⟩ で、H2Δ(T2)≅Z。U−L は曲面全体を覆う「基本輪体」である。
4.3 鎖複体
定義 4.6(鎖複体, chain complex)アーベル群 Cn(n∈Z)と準同型 ∂n:Cn→Cn−1 で ∂n−1∂n=0 を満たすものを鎖複体という。Zn=ker∂n の元を輪体 (cycle)、Bn=im∂n+1 の元を境界 (boundary) といい、Hn(C)=Zn/Bn をホモロジー群という。すべての Hn=0 のとき完全であるという。
定義 4.7 鎖複体の間の準同型の族 fn:Cn→Dn で ∂f=f∂ を満たすものを鎖写像という。鎖写像 f,g に対し、準同型 P:Cn→Dn+1 で
∂P+P∂=g−f
を満たすものを鎖ホモトピーという。
命題 4.8 鎖写像 f は準同型 f∗:Hn(C)→Hn(D) を誘導し、(gf)∗=g∗f∗。鎖ホモトピックな鎖写像は同じ準同型を誘導する。
証明. ∂f=f∂ より f は輪体を輪体に、境界を境界に写すので、f∗[z]=[f(z)] が定まる。輪体 z について g(z)−f(z)=∂Pz+P∂z=∂Pz は境界である。□
4.4 特異ホモロジー
単体ホモロジーは計算しやすいが、空間の Δ複体の構造に依存しているように見え、連続写像との相性も悪い。そこで空間へのすべての連続写像を単体として使う。
定義 4.9(特異ホモロジー, singular homology)連続写像 σ:Δn→X を特異 n 単体という。特異 n 単体全体を基底とする自由アーベル群を Cn(X) とし(n<0 では 0)、
∂σ=i=0∑n(−1)iσ∣[e0,…,e^i,…,en]
と定める(右辺の各項は Δn−1 と面との同一視による特異 (n−1) 単体)。補題 4.3 と同じ計算で ∂∂=0 なので鎖複体が得られ、そのホモロジー Hn(X) を X の特異ホモロジー群という。
Cn(X) は巨大(一般に非可算階数)だが、ホモロジー群は多くの場合きわめて小さい。Δ複体については単体ホモロジーと特異ホモロジーが自然に同型になる(Hatcher, 定理 2.27)ので、例 4.4, 4.5 の計算は Hn(K), Hn(T2) の計算でもある。
命題 4.10(関手性)写像 f:X→Y に対し f♯(σ)=f∘σ は鎖写像で、f∗:Hn(X)→Hn(Y) を誘導する。(gf)∗=g∗f∗、(id)∗=id であり、特に同相な空間のホモロジー群は同型である。
証明. f∘(σ∣面)=(f∘σ)∣面 より f♯∂=∂f♯。残りは命題 4.8 と定義から明らか。□
命題 4.11 (1) X の弧状連結成分を Xα とすると Hn(X)≅⨁αHn(Xα)。(2) X が空でなく弧状連結なら H0(X)≅Z。したがって H0(X) は弧状連結成分を基底とする自由アーベル群である。
証明. (1) Δn は弧状連結なので、特異単体の像は一つの Xα に含まれる。よって Cn(X)=⨁αCn(Xα) で、∂ はこの分解を保つ。(2) 添加写像 ε:C0(X)→Z, ∑niσi↦∑ni は全射である。1 単体 σ について ∂σ=σ(e1)−σ(e0) なので ε∂=0。逆に ∑nixi∈kerε(xi は点、すなわち 0 単体)なら、基点 x0 から xi への道 σi をとると ∂∑niσi=∑nixi−(∑ni)x0=∑nixi。よって im∂1=kerε で H0(X)≅Z。□
例 4.12(一点)X={pt} では各 n≥0 に特異単体がただ一つ σn あり、∂σn=∑i=0n(−1)iσn−1 は n が正の偶数なら σn−1、奇数なら 0 である。鎖複体 ⋯≅Z0Z≅Z0Z→0 より、H0=Z、n>0 で Hn=0。
鎖複体 ⋯→C1(X)→C0(X)εZ→0 のホモロジーを被約ホモロジー H~n(X) という。X=∅ なら H0(X)≅H~0(X)⊕Z、n>0 で H~n(X)=Hn(X) であり、一点の被約ホモロジーはすべて 0 である。
4.5 ホモトピー不変性
定理 4.13(ホモトピー不変性)f≃g:X→Y ならば f∗=g∗:Hn(X)→Hn(Y) である。
証明. F:X×I→Y をホモトピーとする。角柱 Δn×I の底面の頂点を vi=(ei,0)、上面の頂点を wi=(ei,1) とすると、角柱は n+1 個の (n+1) 単体 [v0,…,vi,wi,…,wn](0≤i≤n)に分割される(n=1 なら正方形を対角線で二つの三角形に分ける図である)。角柱作用素 P:Cn(X)→Cn+1(Y) を
P(σ)=i=0∑n(−1)iF∘(σ×idI)∣[v0,…,vi,wi,…,wn]
で定める。∂P(σ) を展開すると、[v0,…,vi,wi,…,wn] から vj または wj を除いた項が現れる。j=i の項は、i 番目の単体から vi を除いたものと (i−1) 番目の単体から wi−1 を除いたものが同じ単体 [v0,…,vi−1,wi,…,wn] になって打ち消し合い、両端の [w0,…,wn](符号 +)と [v0,…,vn](符号 −)だけが残る。j=i の項は、σ の面に対する角柱作用素の項とちょうど符号を逆にして一致する。まとめると
∂P=g♯−f♯−P∂
となり、P は f♯ から g♯ への鎖ホモトピーである。命題 4.8 より結論を得る。□
系 4.14 ホモトピー同値写像はホモロジー群の同型を誘導する。特に可縮な空間の被約ホモロジー群はすべて 0 である。
4.6 完全列と相対ホモロジー
ホモロジーの計算の主な道具は完全列である。次の補題が基本になる。
補題 4.15(蛇の補題, snake lemma)アーベル群と準同型の可換図式
0→Aa↓A′ii′B↓bB′jj′C↓cC′→0
の各行が完全ならば、準同型 δ:kerc→cokera が存在して、次の列は完全である。
kera→kerb→kercδcokera→cokerb→cokerc
証明. δ の構成. z∈kerc に対し j(y)=z となる y∈B をとる。j′b(y)=cj(y)=0 なので b(y)=i′(x′) となる x′∈A′ がただ一つあり、δ(z)=[x′] とおく。別の y1 をとると y1−y=i(x) で、b(y1)−b(y)=i′a(x) より x′ は a(x) だけ変わるので、[x′] は well-defined。準同型であることは明らか。
kerb での完全性. ji=0 は明らか。y∈kerb が j(y)=0 なら y=i(x) で、i′a(x)=b(y)=0 と i′ の単射性から x∈kera。
kerc での完全性. y∈kerb なら x′=0 なので δj(y)=0。逆に δ(z)=0 なら x′=a(x) となる x があり、y−i(x) は z に写り、b(y−i(x))=i′(x′)−i′a(x)=0。
cokera での完全性. i′(x′)=b(y) なので δ(z) の cokerb での像は 0。逆に i′(x′)=b(y) となる y があれば、z=j(y) は c(z)=j′i′(x′)=0 を満たし、δ(z)=[x′]。
cokerb での完全性. j′i′=0 より合成は 0。j′(y′)=c(z) なら、z=j(y) として j′(y′−b(y))=0、よって y′−b(y)∈imi′ となり、[y′] は cokera の像に入る。□
鎖複体の列 0→A∙iB∙jC∙→0 が各次数で完全なとき、鎖複体の短完全列という。
定理 4.16(ホモロジー長完全列)鎖複体の短完全列 0→A∙→B∙→C∙→0 に対し、連結準同型 ∂:Hn(C)→Hn−1(A) が存在して、次の列は完全である。
⋯→Hn(A)i∗Hn(B)j∗Hn(C)∂Hn−1(A)i∗Hn−1(B)→⋯
∂[c] は、j(b)=c となる b をとり、∂b=i(a) となる a の類 [a] である。
証明. An/Bn(A)→Bn/Bn(B)→Cn/Bn(C)→0 は完全であり(境界で割っても右完全性は保たれる)、0→Zn−1(A)→Zn−1(B)→Zn−1(C) も完全である(i の単射性と、j(y)=0 なら y=i(x) で i(∂x)=∂y=0 から x も輪体となること)。境界準同型は縦の写像 An/Bn(A)→Zn−1(A) などを誘導し、その核は Zn/Bn=Hn、余核は Zn−1/Bn−1=Hn−1 である。補題 4.15 を適用すれば、Hn(A)→Hn(B)→Hn(C)→Hn−1(A)→Hn−1(B)→Hn−1(C) が完全となる。これを n についてつなげばよい。δ の構成から連結準同型の記述も従う。□
連結準同型は自然である(鎖複体の短完全列の間の可換図式から、長完全列の間の可換図式が得られる。証明は ∂ の記述から直接確かめられる)。
定義 4.17(相対ホモロジー)A⊂X に対し、Cn(X,A)=Cn(X)/Cn(A) は ∂ から誘導される境界準同型で鎖複体になる。そのホモロジー Hn(X,A) を対 (X,A) の相対ホモロジー群という。
Hn(X,A) の元は、境界が A に含まれる鎖(相対輪体)で代表され、A 内の鎖と境界の和の違いを無視したものである。0→C∙(A)→C∙(X)→C∙(X,A)→0 に定理 4.16 を適用して次を得る。
系 4.18(対の長完全列)次の列は完全である。∂ は相対輪体をその境界(A の輪体)に写す。
⋯→Hn(A)→Hn(X)→Hn(X,A)∂Hn−1(A)→⋯→H0(X,A)→0
A=∅ なら、被約ホモロジーについても同様の完全列が成り立つ(H~n(X,A)=Hn(X,A))。
対の写像 f:(X,A)→(Y,B)(f(A)⊂B)は Hn(X,A)→Hn(Y,B) を誘導し、長完全列の間の可換図式を与える。
例 4.19 (1) H~∗({x0})=0 なので、被約版の長完全列から Hn(X,x0)≅H~n(X)。(2) Dn は可縮なので Hk(Dn,Sn−1)≅H~k−1(Sn−1)。
長完全列を比較するときに頻繁に使うのが次の補題である(証明は問題 4.5)。
補題 4.20(5 項補題, five lemma)行が完全な可換図式
A1↓α1B1→→A2↓α2B2→→A3↓α3B3→→A4↓α4B4→→A5↓α5B5
で α1,α2,α4,α5 が同型ならば、α3 も同型である。
4.7 切除定理
相対ホモロジー Hn(X,A) は「A を無視した X のホモロジー」であり、A の内部の深いところは取り除いても変わらないはずである。これが切除定理で、ホモロジーを局所的な情報から計算するための鍵である。
定理 4.21(切除定理, excision)Z⊂A⊂X で Z⊂A∘ ならば、包含写像 (X∖Z,A∖Z)→(X,A) はすべての n で同型 Hn(X∖Z,A∖Z)≅Hn(X,A) を誘導する。同値な言い換え:A,B⊂X の内部が X を覆うならば、包含写像は同型 Hn(B,A∩B)≅Hn(X,A) を誘導する。
証明の方針. (B=X∖Z とおけば二つの主張は同値である。)U={A,B} とし、各特異単体が A または B に含まれる鎖からなる部分複体を C∙U(X) とする。鍵は次の事実である:包含 C∙U(X)→C∙(X) はホモロジーの同型を誘導する。これを示すには、単体を重心細分(各辺の中点・各面の重心を新しい頂点として、単体をより小さな単体に分割すること)する鎖写像 S:Cn(X)→Cn(X) を作り、(i) S は恒等写像に鎖ホモトピックであること(∂T+T∂=1−S となる T が構成できる)、(ii) Δn の重心細分に現れる単体の直径は元の n/(n+1) 倍以下であること、を示す。(ii) とルベーグ数の補題から、各特異単体 σ について、十分大きな m で Smσ のすべての単体は A または B に含まれる。これと (i) を合わせて上の事実が従う。すると Cn(B)/Cn(A∩B) と CnU(X)/Cn(A) はともに「B に含まれ A に含まれない単体」を基底とする自由アーベル群で一致し、後者のホモロジーは長完全列と補題 4.20 により Hn(X,A) と同型である。詳細は Hatcher の命題 2.21 を参照。□
4.8 良い対と商空間のホモロジー
定義 4.22 空でない閉集合 A⊂X が、ある近傍 V の変位レトラクトであるとき、(X,A) を良い対 (good pair) という。
たとえば (Dn,Sn−1)、CW 複体とその部分複体(第5章)は良い対である。
定理 4.23 (X,A) が良い対ならば、商写像 q:(X,A)→(X/A,A/A) は同型 Hn(X,A)≅Hn(X/A,A/A)≅H~n(X/A) を誘導する。
証明. V を A に変位レトラクトする近傍とする。次の可換図式を考える。
Hn(X,A)↓Hn(X/A,A/A)→→Hn(X,V)↓Hn(X/A,V/A)←←Hn(X∖A,V∖A)↓Hn(X/A∖A/A,V/A∖A/A)
左の横の写像は同型である:対 (X,A)→(X,V) の長完全列を比べると、A→V はホモトピー同値なので Hk(A)≅Hk(V) であり、補題 4.20 が使える。下の行も、V の変位レトラクションが A 上で動かないので商に降りて V/A を点 A/A に変位レトラクトすることから、同様である。右の横の写像は切除定理(Z=A で、A は閉、A⊂V∘)により同型である。右の縦の写像は、q が X∖A を X/A∖A/A に同相に写すので同型である。可換性より左の縦の写像も同型である。最後の同型は例 4.19 (1) による。□
系 4.24 (1) 良い対 (X,A) に対し、完全列 ⋯→H~n(A)→H~n(X)→H~n(X/A)→H~n−1(A)→⋯ が成り立つ。(2) 基点 xα∈Xα について (Xα,xα) がすべて良い対なら、ブーケ(一点和)について H~n(⋁αXα)≅⨁αH~n(Xα)。
証明. (1) 対の長完全列(被約版)に定理 4.23 を代入する。(2) X=⨆Xα, A=⨆{xα} に定理 4.23 と命題 4.11 を適用すると、H~n(⋁Xα)≅Hn(X,A)≅⨁αHn(Xα,xα)≅⨁αH~n(Xα)。□
Dn/Sn−1≅Sn なので、例 4.19 (2) と定理 4.23 から H~k(Sn)≅H~k−1(Sn−1) が得られ、帰納的に球面のホモロジーが決まる。これは第5章で改めて扱う。
4.9 H1 と基本群のアーベル化
I=[0,1] と Δ1 を同一視すれば、道は特異 1 単体であり、ループは輪体である。
定理 4.25(1 次元のフレヴィッツの定理, Hurewicz theorem)X を弧状連結とする。ループをその 1 輪体に写す h:π1(X,x0)→H1(X) は全射準同型で、核は交換子群 [π1,π1] である。したがって H1(X)≅π1(X,x0)ab。
証明の概略. 次の事実を特異 2 単体を具体的に作って示す。(i) 定値の道は境界である(定値な 2 単体 τ について ∂τ=c−c+c=c)。(ii) 道ホモトピックな道 f≃g について f−g は境界である(道ホモトピー I×I→X を対角線で二つの 2 単体に分け、境界を計算する)。(iii) f⋅g−f−g は境界である(辺 [e0,e1],[e1,e2],[e0,e2] がそれぞれ f,g,f⋅g となる 2 単体 σ を、Δ2 から辺 [e0,e2] への射影と f⋅g の合成として作れば、∂σ=g−f⋅g+f)。(ii), (iii) から h は well-defined な準同型で、H1(X) はアーベル群なので h は π1ab を経由する。全射性:1 輪体 ∑niσi の各頂点 x に基点からの道 γx を選び、σi をループ γσi(0)⋅σi⋅γˉσi(1) に取り替えると、(ii), (iii) により差は境界と γ の項の和であり、輪体であることから γ の項は打ち消し合う。核が交換子群に一致することの証明は Hatcher の定理 2A.1 を参照。□
例 4.26 第2章の計算から、H1(⋁nS1)≅Zn、H1(Mg)≅Z2g、H1(Nh)≅Zh−1⊕Z/2、H1(RPn)≅Z/2(n≥2)、H1(Sn)=0(n≥2)。三葉結び目 K については ⟨x,y∣x2=y3⟩ のアーベル化 Z2/⟨(2,−3)⟩ は、(2,−3),(1,−1) が Z2 の基底(行列式 1)なので Z と同型であり、H1(R3∖K)≅Z となる。
まとめ
- ホモロジーは「輪体 / 境界」であり、∂∂=0 を満たす鎖複体から作られる。鎖写像はホモロジーの準同型を誘導し、鎖ホモトピックな鎖写像は同じ準同型を誘導する。
- Δ複体の単体ホモロジーは有限の計算で求まる(例:H∗(T2)=Z,Z2,Z)。特異ホモロジーは連続写像に対して関手的で、Δ複体では単体ホモロジーと一致する。
- H0(X) は弧状連結成分で生成される自由アーベル群。可縮な空間の被約ホモロジーは 0。ホモトピックな写像は同じ準同型を誘導する(角柱作用素)。
- 蛇の補題から、鎖複体の短完全列はホモロジーの長完全列を与える。特に対 (X,A) の長完全列がある。
- 切除定理:Z⊂A∘ なら Hn(X∖Z,A∖Z)≅Hn(X,A)。良い対では Hn(X,A)≅H~n(X/A) で、ブーケの被約ホモロジーは直和になる。
- 弧状連結な X について H1(X)≅π1(X)ab。
演習問題
問題 4.1 ★ X が弧状連結で A=∅ なら H0(X,A)=0 であることを示せ。また A が X の変位レトラクトなら、すべての n で Hn(X,A)=0 であることを示せ。
解答
H0(X)≅Z は任意の一点の類で生成されるので、H0(A)→H0(X) は全射であり、完全列 H0(A)→H0(X)→H0(X,A)→0 より H0(X,A)=0。A が変位レトラクトなら包含写像はホモトピー同値で、i∗:Hk(A)→Hk(X) はすべて同型である。完全列 Hn(A)→Hn(X)→Hn(X,A)→Hn−1(A)→Hn−1(X) で、最初の写像が全射なので Hn(X)→Hn(X,A) は 0、最後の写像が単射なので ∂=0。よって Hn(X,A)=0。
問題 4.2 ★ A が X のレトラクトなら、i∗:Hn(A)→Hn(X) は単射で、Hn(X)≅Hn(A)⊕Hn(X,A) であることを示せ。
解答
レトラクション r について r∗i∗=id なので i∗ は単射である。すべての n で i∗ が単射なので対の長完全列の ∂ は 0 で、短完全列 0→Hn(A)→Hn(X)→Hn(X,A)→0 を得る。r∗ が左分裂を与えるので直和分解が従う。
問題 4.3 ★★ 正方形の境界を (s,0)∼(1−s,1), (0,t)∼(1,1−t) で同一視すると RP2 が得られる。反対角線で二つの三角形に分けると、頂点 v((0,0)∼(1,1))と w((1,0)∼(0,1))、辺 a(下辺), b(左辺), c(反対角線、w から w へ)、2 単体 T1,T2 からなる Δ複体で ∂a=∂b=w−v, ∂c=0, ∂T1=a−b+c, ∂T2=−a+b+c となる(図を描いて確かめよ)。H∗(RP2) を求めよ。
解答
H0:im∂1=⟨w−v⟩ なので Z2/⟨w−v⟩≅Z。ker∂1={xa+yb+zc∣x+y=0} は e1=a−b, e2=c を基底とする。∂T1=e1+e2、∂T2=−e1+e2 で、係数の行列式は 1⋅1−(−1)⋅1=2 なので H1≅Z2/⟨(1,1),(−1,1)⟩≅Z/2(基底を e1+e2,e2 に取り替えると関係は f1=0, 2f2=0 となる)。∂(pT1+qT2)=(p−q)e1+(p+q)e2=0 なら p=q=0 なので H2=0。
問題 4.4 ★★ 正方形の境界を (s,0)∼(s,1), (0,t)∼(1,1−t) で同一視したクラインの壺は、頂点 1 個、辺 a,b,c(すべてループ)、2 単体 T1,T2 で ∂T1=−a+b+c, ∂T2=a+b−c となる Δ複体をもつ。H∗ を求めよ。
解答
∂1=0 なので H0≅Z、ker∂1=Z3。基底を a,b,c′=−a+b+c に取り替えると、∂T1=c′、∂T2=a+b−(c′+a−b)=2b−c′ なので H1≅⟨a,b,c′∣c′,2b⟩≅Z⊕Z/2。∂(pT1+qT2) の a,b の係数は −p+q, p+q なので、0 なら p=q=0 で H2=0。第2章の π1 のアーベル化と一致する。
問題 4.5 ★★ 補題 4.20(5 項補題)を証明せよ。
解答
上の行の写像を fk:Ak→Ak+1、下の行を gk とする。全射:b3∈B3 をとる。g3(b3)=α4(a4) となる a4 があり、α5f4(a4)=g4g3(b3)=0 と α5 の単射性から f4(a4)=0、よって a4=f3(a3)。g3(b3−α3(a3))=0 なので b3−α3(a3)=g2(b2)、b2=α2(a2) とすれば b3=α3(a3+f2(a2))。単射:α3(a3)=0 なら α4f3(a3)=0 より f3(a3)=0、よって a3=f2(a2)。g2α2(a2)=0 より α2(a2)=g1(b1)、b1=α1(a1) とすれば α2(a2−f1(a1))=0 で a2=f1(a1)。よって a3=f2f1(a1)=0。
問題 4.6 ★★ 例 4.4 の三角形の周は S1 と同相である。系 4.24 を用いて H~n(⋁kS1) を求め、H1 が π1 のアーベル化と一致することを確かめよ。
解答
例 4.4 と特異ホモロジーとの一致から H~n(S1) は n=1 で Z、それ以外で 0。(S1,x0) は良い対(x0 の開弧近傍が x0 に変位レトラクト)なので、系 4.24 より H~1(⋁kS1)≅Zk、それ以外は 0。一方 π1(⋁kS1)=Fk のアーベル化は Zk(注意 2.4)であり、定理 4.25 と一致する。
問題 4.7 ★★★ 三葉結び目 K の補空間と、自明な結び目 U(平面内の円周)の補空間について、H1 はともに Z であるが、基本群は同型でないことを説明せよ。H1 だけで結び目を区別できないのはなぜか。
解答
例 4.26 より H1(R3∖K)≅Z。R3∖U≃S1∨S2(例 2.19 で述べた事実)なので、π1≅Z、H1≅Z。一方 π1(R3∖K)=⟨x,y∣x2=y3⟩ は非可換(S3 への全射をもつ)なので Z と同型でない。H1 は π1 のアーベル化にすぎず、非可換な情報を捨ててしまう。実際、第7章のアレクサンダー双対性により、S3 内のどんな結び目の補空間も S1 と同じホモロジー群をもつので、ホモロジー群だけでは結び目を区別できない。