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19 リーマン面と保型形式 · 第 1 章

リーマン面の定義と例

目安 15〜19 時間定理など 11演習 7 問

この章の目標

  • 正則な座標変換によってリーマン面を定義し、C\mathbb{C}、リーマン球面、複素トーラス、滑らかな平面代数曲線がリーマン面であることを示せる
  • 正則写像の局所標準形 z↦zkz \mapsto z^k を証明し、分岐指数と次数を具体的に計算できる
  • リーマン–フルヴィッツの公式を証明し、超楕円曲線やフェルマー曲線の種数を求められる
  • 複素トーラスの間の正則写像を決定し、複素トーラスの同型類が SL⁡2(Z)\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}) の作用で分類されることを説明できる

前提:05-complex-analysis 第4章(孤立特異点)、07-manifolds 第2章(多様体)、09-algebraic-topology 第3章(被覆空間)、陰関数定理(01-calculus 第8章)

1.1 動機:多価関数の住む場所

z\sqrt{z} は 00 以外の各点で 2 つの値をとり、log⁡z\log z は無限個の値をとる。複素関数論では「切れ目」を入れて分枝を選ぶが、切れ目の選び方は人為的であり、切れ目をまたぐと値が飛ぶ(05-complex-analysis 第1章)。リーマン(1851 年の学位論文)は発想を逆転させた。関数を平面に押し込めるのをやめ、関数が 1 価になるような曲面を作ればよい。たとえば

R={(z,w)∈C2∣w2=z}R = \lbrace (z, w) \in \mathbb{C}^2 \mid w^2 = z \rbrace

の上では (z,w)↦w(z, w) \mapsto w が本物の(1 価の)関数であり、これが「z\sqrt{z} の正体」である。第 1 成分への射影 R→CR \to \mathbb{C} は 00 以外で 2 対 1 であり、00 の上で 2 枚のシートがつながっている。

同じ考え方で、二重周期関数(楕円関数)は平面 C\mathbb{C} ではなく、周期で割ったトーラス C/Λ\mathbb{C}/\Lambda 上の関数と見るのが自然である。こうして「正則関数を考えることのできる曲面」という概念が必要になる。それがリーマン面である。この科目の目標は、リーマン面の大域的な理論――コンパクトなリーマン面は射影代数曲線と同じものであること(第5章)、すべてのリーマン面は C^\hat{\mathbb{C}}, C\mathbb{C}, H\mathbb{H} のいずれかの商であること(第6章)――を理解し、その過程で楕円関数とモジュラー形式(第2章・第3章)に出会うことである。

1.2 リーマン面の定義

多様体の定義(07-manifolds 第2章)で座標変換の C∞C^\infty 性を要求したのと同じように、座標変換の正則性を要求する。

定義 1.1(複素座標近傍, complex chart)XX を 2 次元の位相多様体(ハウスドルフかつ第二可算)とする。開集合 U⊂XU \subset X から C\mathbb{C} の開集合への同相写像 φ ⁣:U→φ(U)\varphi\colon U \to \varphi(U) を複素座標近傍という。2 つの複素座標近傍 (U1,φ1)(U_1, \varphi_1), (U2,φ2)(U_2, \varphi_2) は、U1∩U2=∅U_1 \cap U_2 = \emptyset であるか、または座標変換

φ2∘φ1−1 ⁣:φ1(U1∩U2)→φ2(U1∩U2)\varphi_2 \circ \varphi_1^{-1}\colon \varphi_1(U_1 \cap U_2) \to \varphi_2(U_1 \cap U_2)

が双正則であるとき、正則に両立するという。XX を覆う互いに正則に両立する複素座標近傍の族を複素アトラスといい、2 つの複素アトラスは、その和がまた複素アトラスになるとき同値であるという。複素アトラスの同値類を XX 上の複素構造 (complex structure) という。

定義 1.2(リーマン面, Riemann surface)連結な 2 次元位相多様体と、その上の複素構造の組をリーマン面という。複素構造に属するアトラスの座標近傍(極大アトラスの元)を局所座標という。

注意 1.3 (1) 第二可算性は実は自動的に成り立つ(ラドーの定理, Radó's theorem。証明は Forster 第 3 章を参照)。本書では多様体の約束(NOTATION.md)に従い最初から仮定する。

(2) 正則な座標変換 ff の実ヤコビ行列式は ∣f′(z)∣2>0\lvert f'(z) \rvert^2 > 0 である(コーシー–リーマンの方程式)。したがってリーマン面は向き付け可能であり、コンパクトなリーマン面は向き付け可能な閉曲面である。閉曲面の分類により、それは種数 gg の閉曲面(穴が gg 個ある浮き輪の表面)と同相である(09-algebraic-topology 第2章 の閉曲面の分類定理)。

(3) 複素構造は滑らかな構造よりはるかに強い構造である。実際、トーラスには互いに同型でない複素構造が連続無限個ある(1.8 節)。

1.3 例

例 1.4(C\mathbb{C} と領域)C\mathbb{C} は恒等写像 1 つからなるアトラスによってリーマン面である。C\mathbb{C} の領域(連結開集合)も同様である。より一般に、リーマン面の連結開集合は、制限した座標近傍によってリーマン面になる。

例 1.5(リーマン球面, Riemann sphere)C^=C∪{∞}\hat{\mathbb{C}} = \mathbb{C} \cup \lbrace \infty \rbrace に、S2S^2 と立体射影で同一視した位相を入れる。U1=CU_1 = \mathbb{C}, φ1(z)=z\varphi_1(z) = z と、U2=C^∖{0}U_2 = \hat{\mathbb{C}} \setminus \lbrace 0 \rbrace, φ2(z)=1/z\varphi_2(z) = 1/z(φ2(∞)=0\varphi_2(\infty) = 0)の 2 つの座標近傍を考えると、座標変換は φ2∘φ1−1(z)=1/z\varphi_2 \circ \varphi_1^{-1}(z) = 1/z(z∈C∖{0}z \in \mathbb{C} \setminus \lbrace 0 \rbrace)で双正則である。複素射影直線 P1=(C2∖{0})/C×\mathbb{P}^1 = (\mathbb{C}^2 \setminus \lbrace 0 \rbrace)/\mathbb{C}^{\times} とは [1:z]↔z[1 : z] \leftrightarrow z, [0:1]↔∞[0 : 1] \leftrightarrow \infty によって同一視でき、以後 C^\hat{\mathbb{C}} と P1\mathbb{P}^1 を区別しない。

例 1.6(複素トーラス, complex torus)ω1,ω2∈C\omega_1, \omega_2 \in \mathbb{C} を R\mathbb{R} 上一次独立とし、Λ=Zω1+Zω2\Lambda = \mathbb{Z}\omega_1 + \mathbb{Z}\omega_2 を格子 (lattice) とする。X=C/ΛX = \mathbb{C}/\Lambda を商群、π ⁣:C→X\pi\colon \mathbb{C} \to X を射影とする。ω1,ω2\omega_1, \omega_2 を標準基底に写す R\mathbb{R} 線形同型 C→R2\mathbb{C} \to \mathbb{R}^2 により X≅R2/Z2=S1×S1X \cong \mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2 = S^1 \times S^1 であるから、XX はコンパクトなハウスドルフ空間であり、種数 1 の閉曲面である。

ε=12min⁡{∣ω∣∣ω∈Λ∖{0}}\varepsilon = \frac{1}{2}\min\lbrace \lvert \omega \rvert \mid \omega \in \Lambda \setminus \lbrace 0 \rbrace \rbrace とおくと、半径 ε\varepsilon の開円板 DD について D∩(D+ω)=∅D \cap (D + \omega) = \emptyset(ω≠0\omega \neq 0)であるから、π∣D\pi\vert_D は DD から開集合 π(D)\pi(D) への同相写像であり、π\pi は被覆写像である(09-algebraic-topology 第3章 の被覆空間作用)。座標近傍を φD=(π∣D)−1 ⁣:π(D)→D\varphi_D = (\pi\vert_D)^{-1}\colon \pi(D) \to D で定める。2 つの円板 D,D′D, D' について、x∈π(D)∩π(D′)x \in \pi(D) \cap \pi(D') の近くで φD′∘φD−1(z)−z∈Λ\varphi_{D'} \circ \varphi_D^{-1}(z) - z \in \Lambda であり、これは zz の連続関数で値が離散集合 Λ\Lambda に入るから、各連結成分の上で定数 ω\omega である。よって座標変換は平行移動 z↦z+ωz \mapsto z + \omega で、双正則である。こうして XX はコンパクトなリーマン面になる。

次に、多項式の零点集合がリーマン面になることを示す。鍵は正則版の陰関数定理である。

補題 1.7(正則版の陰関数定理)F(z,w)F(z, w) を (z0,w0)∈C2(z_0, w_0) \in \mathbb{C}^2 の近傍で 2 変数について正則な関数とし、F(z0,w0)=0F(z_0, w_0) = 0, ∂F∂w(z0,w0)≠0\frac{\partial F}{\partial w}(z_0, w_0) \neq 0 とする。このとき z0z_0, w0w_0 の開近傍 UU, VV と正則関数 g ⁣:U→Vg\colon U \to V が存在して、{(z,w)∈U×V∣F(z,w)=0}={(z,g(z))∣z∈U}\lbrace (z, w) \in U \times V \mid F(z, w) = 0 \rbrace = \lbrace (z, g(z)) \mid z \in U \rbrace となる。

証明. FF を R4\mathbb{R}^4 から R2\mathbb{R}^2 への C∞C^\infty 写像とみる。w=s+itw = s + it に関する実ヤコビ行列は、FF が ww について正則だから ∂F∂w=a+ib\frac{\partial F}{\partial w} = a + ib 倍写像の行列であり、その行列式は a2+b2=∣∂F∂w∣2≠0a^2 + b^2 = \lvert \frac{\partial F}{\partial w} \rvert^2 \neq 0 である。実の陰関数定理(01-calculus 第8章)より、近傍 U,VU, V と C∞C^\infty 写像 g ⁣:U→Vg\colon U \to V で、U×VU \times V の中の零点集合が gg のグラフに一致するものが存在する。gg が正則であることを示す。FF は正則だから dF=Fz dz+Fw dwdF = F_z\ dz + F_w\ dw であり(dzˉd\bar{z}, dwˉd\bar{w} の成分がない)、これを z↦(z,g(z))z \mapsto (z, g(z)) で引き戻すと、G(z)=F(z,g(z))≡0G(z) = F(z, g(z)) \equiv 0 について

0=dG=Fz dz+Fw(∂g∂z dz+∂g∂zˉ dzˉ)0 = dG = F_z\,dz + F_w\left(\frac{\partial g}{\partial z}\,dz + \frac{\partial g}{\partial \bar{z}}\,d\bar{z}\right)

を得る。dzˉd\bar{z} の係数を比べると Fw⋅∂g/∂zˉ=0F_w \cdot \partial g/\partial \bar{z} = 0 であり、Fw≠0F_w \neq 0(UU を小さくとる)だから ∂g/∂zˉ=0\partial g/\partial \bar{z} = 0、すなわち gg は正則である。□\square

定理 1.8(滑らかな平面曲線)F∈C[z,w]F \in \mathbb{C}[z, w] とし、X={(z,w)∈C2∣F(z,w)=0}X = \lbrace (z, w) \in \mathbb{C}^2 \mid F(z, w) = 0 \rbrace とおく。XX の各点で (∂F∂z,∂F∂w)≠(0,0)\left(\frac{\partial F}{\partial z}, \frac{\partial F}{\partial w}\right) \neq (0, 0) ならば(このとき XX は滑らかまたは非特異であるという)、XX の各連結成分はリーマン面である。局所座標は、∂F/∂w≠0\partial F/\partial w \neq 0 となる点の近くでは射影 (z,w)↦z(z, w) \mapsto z、∂F/∂z≠0\partial F/\partial z \neq 0 となる点の近くでは射影 (z,w)↦w(z, w) \mapsto w でとれる。

証明. XX は C2\mathbb{C}^2 の部分空間としてハウスドルフかつ第二可算である。p=(z0,w0)∈Xp = (z_0, w_0) \in X で Fw(p)≠0F_w(p) \neq 0 なら、補題 1.7 の U,V,gU, V, g について X∩(U×V)X \cap (U \times V) は gg のグラフであり、(z,w)↦z(z, w) \mapsto z はこれを UU に同相に写す(逆写像は z↦(z,g(z))z \mapsto (z, g(z)))。Fz(p)≠0F_z(p) \neq 0 なら zz と ww の役割を入れ替えて、(z,w)↦w(z, w) \mapsto w が座標近傍を与える。仮定よりこれらで XX が覆われる。座標変換を調べる。2 つとも zz への射影なら座標変換は恒等写像である。zz への射影と ww への射影が重なる部分では、座標変換は z↦g(z)z \mapsto g(z) であって正則であり、その逆 w↦h(w)w \mapsto h(w) も同様に正則である。よって複素アトラスが得られ、各連結成分はリーマン面である。□\square

例 1.9(超楕円曲線のアフィン部分)f(x)∈C[x]f(x) \in \mathbb{C}[x] を重根をもたない次数 d≥1d \geq 1 の多項式とし、X0={(x,y)∣y2=f(x)}X_0 = \lbrace (x, y) \mid y^2 = f(x) \rbrace とする。F=y2−f(x)F = y^2 - f(x) について Fy=2yF_y = 2y, Fx=−f′(x)F_x = -f'(x) であり、両方が 00 になるのは y=0y = 0 かつ f(x)=f′(x)=0f(x) = f'(x) = 0 のときだけだが、ff は重根をもたないのでそのような点は X0X_0 上にない。よって X0X_0 は滑らかで、y≠0y \neq 0 の点では xx が、ff の根 aa の上の点 (a,0)(a, 0) では yy が局所座標になる。

X0X_0 は連結である。実際、ff の根の集合を AA とすると、x ⁣:X0∖x−1(A)→C∖Ax\colon X_0 \setminus x^{-1}(A) \to \mathbb{C} \setminus A は 2 重被覆である。任意の点 p∈X0p \in X_0 に対し、x(p)x(p) から根 a1a_1 へ、途中で AA を通らない道 γ\gamma をとり、[0,1)[0, 1) 上で pp から持ち上げると、y(t)2=f(γ(t))→0y(t)^2 = f(\gamma(t)) \to 0 より持ち上げは (a1,0)(a_1, 0) に収束する。よってすべての点が (a1,0)(a_1, 0) と道で結ばれる。

例 1.10(超楕円曲線のコンパクト化)例 1.9 で d=2g+1d = 2g + 1 または d=2g+2d = 2g + 2(g≥0g \geq 0)とする。X0X_0 に「無限遠点」を付け加えてコンパクトなリーマン面を作る。f~(u)=u2g+2f(1/u)\tilde{f}(u) = u^{2g+2}f(1/u) とおくと f~\tilde{f} は多項式で、d=2g+2d = 2g + 2 なら f~(0)≠0\tilde{f}(0) \neq 0、d=2g+1d = 2g + 1 なら u=0u = 0 は f~\tilde{f} の単根である。いずれの場合も f~\tilde{f} は重根をもたないので、X1={(u,v)∣v2=f~(u)}X_1 = \lbrace (u, v) \mid v^2 = \tilde{f}(u) \rbrace も滑らかである。X0X_0 の x≠0x \neq 0 の部分と X1X_1 の u≠0u \neq 0 の部分を

u=1x,v=yxg+1u = \frac{1}{x}, \qquad v = \frac{y}{x^{g+1}}

で貼り合わせる(v2=y2/x2g+2=f(x)/x2g+2=f~(1/x)v^2 = y^2/x^{2g+2} = f(x)/x^{2g+2} = \tilde{f}(1/x) なので矛盾なく貼れる)。得られる空間 XX では、xx は X→C^X \to \hat{\mathbb{C}} という連続写像になり、x−1({∣x∣≤1})x^{-1}(\lbrace \lvert x \rvert \leq 1 \rbrace) と x−1({∣x∣≥1}∪{∞})x^{-1}(\lbrace \lvert x \rvert \geq 1 \rbrace \cup \lbrace \infty \rbrace) はそれぞれ C2\mathbb{C}^2 の有界閉集合と同相だからコンパクト、よって XX はコンパクトである。ハウスドルフ性も、xx の値が異なる 2 点は xx で分離でき、値が等しい 2 点は同じ X0X_0 または X1X_1 に入ることから従う。無限遠点(u=0u = 0 の点)は、d=2g+2d = 2g + 2 なら (0,±f~(0))(0, \pm\sqrt{\tilde{f}(0)}) の 2 点、d=2g+1d = 2g + 1 なら (0,0)(0, 0) の 1 点である。このコンパクトなリーマン面を超楕円曲線 y2=f(x)y^2 = f(x) と呼び、同じ記号 XX で表す(「超楕円曲線」は g≥2g \geq 2 のときに限って使うことも多い)。

注意

y2=f(x)y^2 = f(x) の射影平面 P2\mathbb{P}^2 での閉包 Y2Zd−2=Zdf(X/Z)Y^2Z^{d-2} = Z^d f(X/Z) は、d≥4d \geq 4 のとき無限遠点 [0:1:0][0 : 1 : 0] で特異になる。コンパクトなリーマン面を得るには、上のように別の座標で貼り合わせる必要がある。

例 1.11(射影平面曲線とフェルマー曲線)F(X,Y,Z)F(X, Y, Z) を dd 次の斉次多項式とし、C={[X:Y:Z]∈P2∣F=0}C = \lbrace [X : Y : Z] \in \mathbb{P}^2 \mid F = 0 \rbrace とする。CC 上で (FX,FY,FZ)≠(0,0,0)(F_X, F_Y, F_Z) \neq (0, 0, 0) のとき CC は非特異であるという。オイラーの関係式 XFX+YFY+ZFZ=dFXF_X + YF_Y + ZF_Z = dF より、たとえばアフィン部分 Z=1Z = 1 の点 (x,y)(x, y) で FX=FY=0F_X = F_Y = 0 なら FZ=dF−xFX−yFY=0F_Z = dF - xF_X - yF_Y = 0 となってしまう。したがって非特異な CC の各アフィン部分は定理 1.8 の意味で滑らかであり、アフィン部分の間の座標変換は P2\mathbb{P}^2 の座標変換の制限だから正則である。CC は P2\mathbb{P}^2 の閉集合としてコンパクトである。非特異な射影平面曲線は連結であることが知られており(主張)、したがってコンパクトなリーマン面である。

フェルマー曲線 Xn ⁣:Xn+Yn=ZnX_n\colon X^n + Y^n = Z^n(n≥1n \geq 1)では (FX,FY,FZ)=n(Xn−1,Yn−1,−Zn−1)(F_X, F_Y, F_Z) = n(X^{n-1}, Y^{n-1}, -Z^{n-1}) が P2\mathbb{P}^2 上で零にならないので、XnX_n は非特異である。

例 1.12(z\sqrt{z} と log⁡z\log z のリーマン面)1.1 節の R={w2=z}R = \lbrace w^2 = z \rbrace は、F=w2−zF = w^2 - z について Fz=−1≠0F_z = -1 \neq 0 だから滑らかで、ww が RR 全体の座標を与える:R≅CR \cong \mathbb{C}。この同一視のもとで射影 (z,w)↦z(z, w) \mapsto z は w↦w2w \mapsto w^2 であり、「z\sqrt{z}」は 1 価正則関数 ww になる。同様に L={(z,w)∈C××C∣ew=z}L = \lbrace (z, w) \in \mathbb{C}^{\times} \times \mathbb{C} \mid e^w = z \rbrace も ww を座標として C\mathbb{C} と同型であり、射影は exp⁡ ⁣:C→C×\exp\colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}^{\times}、すなわち無限シートの(分岐のない)被覆写像である。「log⁡z\log z」は LL 上の 1 価関数 ww になる。解析接続の言葉では、LL は log⁡\log のすべての関数要素を集めて作った曲面であり、モノドロミー(05-complex-analysis 第7章)は被覆変換 w↦w+2πiw \mapsto w + 2\pi i として現れる。

1.4 正則写像と有理型関数

定義 1.13(正則写像)X,YX, Y をリーマン面とする。連続写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y が正則であるとは、XX の任意の局所座標 (U,φ)(U, \varphi) と YY の任意の局所座標 (V,ψ)(V, \psi) で f(U)⊂Vf(U) \subset V となるものについて、ψ∘f∘φ−1\psi \circ f \circ \varphi^{-1} が正則関数であることをいう。正則な全単射で逆写像も正則なものを双正則写像または同型という。Y=CY = \mathbb{C} のとき ff を正則関数といい、XX 上の正則関数全体を O(X)\mathcal{O}(X) と書く。

座標変換が正則だから、この条件は各点で 1 組の座標について確かめればよい。

定義 1.14(有理型関数, meromorphic function)XX をリーマン面とし、P⊂XP \subset X を離散的な閉集合とする。正則関数 f ⁣:X∖P→Cf\colon X \setminus P \to \mathbb{C} が、各 p∈Pp \in P で lim⁡x→p∣f(x)∣=∞\lim_{x \to p}\lvert f(x) \rvert = \infty を満たすとき、ff を有理型関数、PP の点を極という。XX 上の有理型関数全体を M(X)\mathcal{M}(X) と書く。

命題 1.15 X,YX, Y をリーマン面とする。

  1. (一致の定理)正則写像 f,g ⁣:X→Yf, g\colon X \to Y が、集積点をもつ集合の上で一致すれば f=gf = g である。
  2. 有理型関数 ff に極で値 ∞\infty を与えると、ff は正則写像 X→C^X \to \hat{\mathbb{C}} になる。逆に、恒等的に ∞\infty でない正則写像 X→C^X \to \hat{\mathbb{C}} は有理型関数である。特に M(X)\mathcal{M}(X) は体である。

証明. 1. AA を「aa のある近傍で f=gf = g」となる点 aa 全体とすると AA は開集合である。a∈A‾a \in \overline{A} なら連続性より f(a)=g(a)f(a) = g(a) で、aa と f(a)f(a) のまわりの座標で f,gf, g は正則関数として表され、aa に集積する点で一致するから、C\mathbb{C} での一致の定理より aa の近傍で一致する。よって AA は閉集合でもある。仮定の集積点を a0a_0 とすると同じ議論で a0∈Aa_0 \in A だから A≠∅A \neq \emptyset、XX の連結性より A=XA = X である。

  1. 極 pp の近くで 1/f1/f は pp を除いて正則で、pp で 00 に連続に延びるから、リーマンの除去可能特異点定理により正則である。C^\hat{\mathbb{C}} の ∞\infty のまわりの座標は 1/w1/w だから、これは f ⁣:X→C^f\colon X \to \hat{\mathbb{C}} が pp で正則であることを意味する。逆は、∞\infty の逆像が(一致の定理より)離散的な閉集合であることから従う。f≠0f \neq 0 なら 1/f1/f も有理型なので M(X)\mathcal{M}(X) は体である。□\square

命題 1.16 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を定数でない正則写像とする。

  1. (開写像定理)ff は開写像である。
  2. XX がコンパクトなら、ff は全射で YY もコンパクトである。
  3. XX がコンパクトなら、XX 上の正則関数は定数である:O(X)=C\mathcal{O}(X) = \mathbb{C}。

証明. 1. 局所座標で見ると、ff は定数でない正則関数(一致の定理より局所的にも定数でない)であり、複素関数論の開写像定理(05-complex-analysis 第5章)から従う。2. f(X)f(X) は開集合であり、コンパクト集合の像としてコンパクト、したがって閉集合である。YY は連結だから f(X)=Yf(X) = Y である。3. 定数でない正則関数 X→CX \to \mathbb{C} があれば 2 より C\mathbb{C} がコンパクトになり矛盾する。□\square

例 1.17(C^\hat{\mathbb{C}} 上の有理型関数)M(C^)=C(z)\mathcal{M}(\hat{\mathbb{C}}) = \mathbb{C}(z)(有理関数体)である。実際、f∈M(C^)f \in \mathcal{M}(\hat{\mathbb{C}}) の極は離散的な閉集合でコンパクトな C^\hat{\mathbb{C}} の中にあるから有限個である。C\mathbb{C} 内の各極 aia_i での主要部 Pi(1/(z−ai))P_i(1/(z - a_i)) と、∞\infty での主要部 P∞(z)P_\infty(z)(zz の多項式で定数項なし)を引いた f−∑iPi(1/(z−ai))−P∞(z)f - \sum_i P_i(1/(z - a_i)) - P_\infty(z) は C^\hat{\mathbb{C}} 上正則だから定数である。よって ff は有理関数である。一方、X=C/ΛX = \mathbb{C}/\Lambda 上の有理型関数は Λ\Lambda を周期にもつ C\mathbb{C} 上の有理型関数、すなわち楕円関数にほかならない。これが第2章の主題である。

1.5 局所標準形と分岐

正則写像は、局所的には必ず z↦zkz \mapsto z^k の形をしている。これが以後のすべての議論の出発点である。

定理 1.18(局所標準形, local normal form)f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を定数でない正則写像、p∈Xp \in X とする。このとき、ただ 1 つの整数 k≥1k \geq 1 と、pp のまわりの局所座標 zz(z(p)=0z(p) = 0)と f(p)f(p) のまわりの局所座標 ww(w(f(p))=0w(f(p)) = 0)が存在して、座標表示が

w=zkw = z^k

となる。

証明. pp, f(p)f(p) のまわりに 00 を中心とする局所座標 z1z_1, ww をとり、ff の座標表示を h(z1)h(z_1) とすると、h(0)=0h(0) = 0 で hh は恒等的に 00 ではない。hh の 00 での零点の位数を k≥1k \geq 1 とすると h(z1)=z1ku(z1)h(z_1) = z_1^k u(z_1)、u(0)≠0u(0) \neq 0 と書ける。00 の小さな円板上で uu は零点をもたず単連結だから、正則な kk 乗根 vv(vk=uv^k = u)が存在する。z=z1v(z1)z = z_1 v(z_1) とおくと、dzdz1(0)=v(0)≠0\frac{dz}{dz_1}(0) = v(0) \neq 0 だから、逆関数定理により z1↦zz_1 \mapsto z は 00 の近傍で双正則であり、zz は新しい局所座標になる。このとき w=h(z1)=(z1v(z1))k=zkw = h(z_1) = (z_1 v(z_1))^k = z^k である。

kk の一意性:座標表示 w=zkw = z^k のもとでは、f(p)f(p) に十分近い f(p)f(p) 以外の点は、pp の十分小さな近傍にちょうど kk 個の逆像をもつ。この性質は座標のとり方によらない位相的な性質だから、kk は ff と pp だけで決まる。□\square

定義 1.19(分岐指数, ramification index)定理 1.18 の kk を ff の pp での分岐指数(または多重度)といい ep(f)e_p(f) と書く。ep(f)≥2e_p(f) \geq 2 のとき pp を分岐点 (ramification point)、その像 f(p)f(p) を分岐値(branch point)という。

注意 1.20 任意の局所座標での座標表示 hh について、ep(f)=1+ord⁡0h′e_p(f) = 1 + \operatorname{ord}_0 h' である(h=zkuh = z^k u なら h′h' は 00 で位数 k−1k - 1 の零点をもつ)。したがって分岐点は h′=0h' = 0 となる点であり、一致の定理より離散的な閉集合をなす。XX がコンパクトなら分岐点は有限個である。また ep(f)=1e_p(f) = 1 となる点の近傍で ff は局所双正則であるから、単射な正則写像は像への双正則写像であり、全単射な正則写像は双正則である。

例 1.21 (1) f(z)=zkf(z) = z^k を C^→C^\hat{\mathbb{C}} \to \hat{\mathbb{C}} とみると、e0=ke_0 = k であり、∞\infty のまわりの座標 1/z1/z では 1/z↦(1/z)k1/z \mapsto (1/z)^k だから e∞=ke_\infty = k である。他の点では e=1e = 1 である。

(2) 例 1.10 の超楕円曲線 XX と x ⁣:X→C^x\colon X \to \hat{\mathbb{C}} を考える。y≠0y \neq 0 の点では xx 自身が局所座標だから e=1e = 1 である。根 aa の上の点 (a,0)(a, 0) では yy が局所座標で、y2=f(x)=f′(a)(x−a)+⋯y^2 = f(x) = f'(a)(x - a) + \cdots(f′(a)≠0f'(a) \neq 0)より x−ax - a は yy について 2 位の零点をもつから e=2e = 2 である。無限遠点では座標 u=1/xu = 1/x を見る。d=2g+2d = 2g + 2 なら 2 つの無限遠点で uu が局所座標だから e=1e = 1。d=2g+1d = 2g + 1 なら無限遠点 (0,0)(0, 0) で vv が局所座標、v2=f~(u)v^2 = \tilde{f}(u) で u=0u = 0 は単根だから uu は vv について 2 位の零点をもち、e=2e = 2 である。まとめると、xx の分岐点はちょうど 2g+22g + 2 個(d=2g+2d = 2g + 2 なら ff の根の上の 2g+22g + 2 点、d=2g+1d = 2g + 1 なら根の上の 2g+12g + 1 点と無限遠点)で、分岐指数はすべて 2 である。

1.6 正則写像の次数

定理 1.22(次数の well-definedness)X,YX, Y をコンパクトなリーマン面、f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を定数でない正則写像とする。q∈Yq \in Y に対し

dq=∑p∈f−1(q)ep(f)d_q = \sum_{p \in f^{-1}(q)} e_p(f)

とおくと、dqd_q は qq によらない。

証明. 一致の定理より f−1(q)f^{-1}(q) は離散的な閉集合で、XX はコンパクトだから有限集合 {p1,…,pr}\lbrace p_1, \dots, p_r \rbrace である。ki=epi(f)k_i = e_{p_i}(f) とおく。定理 1.18 より、pip_i のまわりの局所座標 ziz_i と qq のまわりの局所座標 ww で、ff が w=zikiw = z_i^{k_i} と表されるものがとれる(ww は ii によらず共通にとれる:各 ii で ww を固定して証明を行えばよい)。ε>0\varepsilon > 0 を十分小さくとり、Ui={∣zi∣<ε}U_i = \lbrace \lvert z_i \rvert < \varepsilon \rbrace が互いに交わらないようにする。K=X∖⋃iUiK = X \setminus \bigcup_i U_i はコンパクトで f(K)f(K) は qq を含まない閉集合だから、

V={∣w∣<min⁡iεki}∖f(K)V = \lbrace \lvert w \rvert < \min_i \varepsilon^{k_i} \rbrace \setminus f(K)

は qq の開近傍で、f−1(V)⊂⋃iUif^{-1}(V) \subset \bigcup_i U_i である。q′∈Vq' \in V, w(q′)=c≠0w(q') = c \neq 0 とすると、UiU_i の中で ziki=cz_i^{k_i} = c の解は ∣c∣<εki\lvert c \rvert < \varepsilon^{k_i} よりちょうど kik_i 個あり、各解で ddziziki≠0\frac{d}{dz_i}z_i^{k_i} \neq 0 だから分岐指数は 1 である。よって dq′=∑iki=dqd_{q'} = \sum_i k_i = d_q である。したがって q↦dqq \mapsto d_q は局所定数であり、YY は連結だから定数である。□\square

定義 1.23(次数, degree)定理 1.22 の値 dqd_q を ff の次数といい deg⁡f\deg f と書く。

系 1.24 XX をコンパクトなリーマン面とする。

  1. 定数でない f∈M(X)f \in \mathcal{M}(X) について、零点の個数と極の個数は(重複度を込めて)等しく、ともに deg⁡f\deg f に等しい。さらに ff はすべての値 c∈C^c \in \hat{\mathbb{C}} を同じ回数 deg⁡f\deg f だけとる。
  2. 正則写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y の次数が 1 なら ff は双正則である。特に、次数 1 の有理型関数をもつコンパクトなリーマン面は C^\hat{\mathbb{C}} と同型である。

証明. 1. 命題 1.15 により f ⁣:X→C^f\colon X \to \hat{\mathbb{C}} とみて、q=0q = 0 と q=∞q = \infty に定理 1.22 を適用する。有理型関数の零点・極の位数は分岐指数に一致する。2. 次数 1 ならどの点の逆像も 1 点でその分岐指数は 1 だから、ff は全単射な局所双正則写像、すなわち双正則である。□\square

例 1.25 (1) 既約分数で表された有理関数 f=P/Qf = P/Q の次数は max⁡(deg⁡P,deg⁡Q)\max(\deg P, \deg Q) である(f(z)=cf(z) = c の解は P−cQ=0P - cQ = 0 の解であり、一般の cc でその個数は max⁡(deg⁡P,deg⁡Q)\max(\deg P, \deg Q))。(2) 超楕円曲線の x ⁣:X→C^x\colon X \to \hat{\mathbb{C}} は次数 2 である。(3) フェルマー曲線 XnX_n 上の x=X/Zx = X/Z は次数 nn である(一般の cc に対し yn=1−cny^n = 1 - c^n の解は nn 個)。(4) 複素トーラス上の z↦nzz \mapsto nz は次数 n2n^2 である(問題 1.5)。

1.7 リーマン–フルヴィッツの公式

コンパクトなリーマン面 XX の種数 (genus) g=g(X)g = g(X) を、閉曲面としての種数で定める。オイラー標数は χ(X)=2−2g\chi(X) = 2 - 2g であり、任意の有限三角形分割の頂点数 VV・辺の数 EE・面の数 FF から χ(X)=V−E+F\chi(X) = V - E + F で計算できる(09-algebraic-topology 第5章)。コンパクトなリーマン面が三角形分割をもつことは認める(ラドーの定理)。

定理 1.26(リーマン–フルヴィッツの公式, Riemann–Hurwitz formula)f ⁣:X→Yf\colon X \to Y をコンパクトなリーマン面の間の次数 nn の正則写像とする。このとき

2g(X)−2=n(2g(Y)−2)+∑p∈X(ep(f)−1)2g(X) - 2 = n\bigl(2g(Y) - 2\bigr) + \sum_{p \in X}\bigl(e_p(f) - 1\bigr)

が成り立つ(右辺の和は分岐点についての有限和である)。

証明. B⊂YB \subset Y を分岐値全体(有限集合)とする。YY の三角形分割で、BB の点がすべて頂点になり、各閉三角形は BB の点を高々 1 つ(頂点として)しか含まないものをとる(任意の三角形分割を、BB の点で星状に細分し、さらに重心細分を繰り返せばよい)。

(i) f ⁣:X∖f−1(B)→Y∖Bf\colon X \setminus f^{-1}(B) \to Y \setminus B は nn 重の被覆写像である。実際、q∉Bq \notin B の逆像は分岐指数 1 の nn 点で、定理 1.22 の証明の VV と UiU_i をとると f−1(V)=⨆i(Ui∩f−1(V))f^{-1}(V) = \bigsqcup_i (U_i \cap f^{-1}(V)) で各 Ui∩f−1(V)→VU_i \cap f^{-1}(V) \to V は同相である。

(ii) 閉三角形 TT をとり、その頂点で BB に属するものがあればそれを vv とする。T∖{v}T \setminus \lbrace v \rbrace は可縮だから、その上で被覆 (i) は自明であり、f−1(T∖{v})f^{-1}(T \setminus \lbrace v \rbrace) は T∖{v}T \setminus \lbrace v \rbrace と同相な nn 個の成分に分かれる(09-algebraic-topology 第3章 の持ち上げの判定条件)。各成分の閉包は vv の上の 1 点を付け加えたもので、TT と同相な閉三角形である(vv の上の点 pp のまわりでは局所標準形 w=zepw = z^{e_p} により、ww 平面で vv を頂点とする角 θ\theta の扇形は、zz 平面で角 θ/ep\theta/e_p の epe_p 個の扇形に持ち上がる)。こうして持ち上げた三角形たちは XX の三角形分割を与える。

(iii) 数える。面と辺は nn 倍になる:FX=nFYF_X = nF_Y, EX=nEYE_X = nE_Y。頂点 vv の上には ∑p∈f−1(v)ep=n\sum_{p \in f^{-1}(v)} e_p = n より ∣f−1(v)∣=n−∑p∈f−1(v)(ep−1)\lvert f^{-1}(v) \rvert = n - \sum_{p \in f^{-1}(v)}(e_p - 1) 個の点があり、分岐点はすべて頂点の上にあるから VX=nVY−∑p∈X(ep−1)V_X = nV_Y - \sum_{p \in X}(e_p - 1) である。よって

χ(X)=VX−EX+FX=nχ(Y)−∑p∈X(ep−1)\chi(X) = V_X - E_X + F_X = n\chi(Y) - \sum_{p \in X}(e_p - 1)

であり、χ=2−2g\chi = 2 - 2g を代入すれば主張を得る。□\square

例 1.27(超楕円曲線の種数)例 1.10 の X ⁣:y2=f(x)X\colon y^2 = f(x)(deg⁡f=2g+1\deg f = 2g + 1 または 2g+22g + 2)について、x ⁣:X→C^x\colon X \to \hat{\mathbb{C}} は次数 2 で、例 1.21 より分岐指数 2 の分岐点がちょうど 2g+22g + 2 個ある。リーマン–フルヴィッツの公式より

2g(X)−2=2⋅(0−2)+(2g+2)=2g−22g(X) - 2 = 2 \cdot (0 - 2) + (2g + 2) = 2g - 2

だから g(X)=gg(X) = g である。たとえば y2=x3−xy^2 = x^3 - x や y2=x4−1y^2 = x^4 - 1 は種数 1、y2=x5−xy^2 = x^5 - x や y2=x6−1y^2 = x^6 - 1 は種数 2 である。

例 1.28(フェルマー曲線の種数)Xn ⁣:Xn+Yn=ZnX_n\colon X^n + Y^n = Z^n と次数 nn の写像 ϕ=[X:Z] ⁣:Xn→P1\phi = [X : Z]\colon X_n \to \mathbb{P}^1 を考える(X=Z=0X = Z = 0 なら Y=0Y = 0 となるので ϕ\phi は至るところ定義される)。ϕ=c\phi = c(cn≠1c^n \neq 1, c≠∞c \neq \infty)の逆像は yn=1−cny^n = 1 - c^n の nn 個の解で、分岐はない。c=∞c = \infty(Z=0Z = 0)の逆像は Xn+Yn=0X^n + Y^n = 0 の nn 点で、やはり分岐はない。cn=1c^n = 1 の逆像は 1 点 [c:0:1][c : 0 : 1] だけだから、定理 1.22 よりそこでの分岐指数は nn である。よって ∑(ep−1)=n(n−1)\sum(e_p - 1) = n(n - 1) であり、

2g(Xn)−2=n(−2)+n(n−1)=n2−3n,g(Xn)=(n−1)(n−2)22g(X_n) - 2 = n(-2) + n(n - 1) = n^2 - 3n, \qquad g(X_n) = \frac{(n - 1)(n - 2)}{2}

を得る。n=3n = 3 で g=1g = 1、n=4n = 4 で g=3g = 3 である。(なお、全分岐する点を 2 つの成分が共有できないことから、XnX_n の連結性もこの議論で確かめられる。)一般の dd 次非特異平面曲線の種数も (d−1)(d−2)/2(d - 1)(d - 2)/2 である(問題 1.7)。

系 1.29 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y をコンパクトなリーマン面の間の定数でない正則写像とし、n=deg⁡fn = \deg f とする。

  1. g(X)≥g(Y)g(X) \geq g(Y) である。
  2. Y=C^Y = \hat{\mathbb{C}} のとき ∑p(ep−1)=2g(X)−2+2n\sum_p (e_p - 1) = 2g(X) - 2 + 2n。特に次数 nn の有理関数では ∑p(ep−1)=2n−2\sum_p(e_p - 1) = 2n - 2 である。
  3. g(X)=g(Y)=1g(X) = g(Y) = 1 なら ff は分岐しない。g(X)=g(Y)≥2g(X) = g(Y) \geq 2 なら ff は同型である。

証明. 1. g(Y)=0g(Y) = 0 なら明らか。g(Y)≥1g(Y) \geq 1 なら 2g(Y)−2≥02g(Y) - 2 \geq 0 で、公式より 2g(X)−2≥n(2g(Y)−2)≥2g(Y)−22g(X) - 2 \geq n(2g(Y) - 2) \geq 2g(Y) - 2。2. 公式に g(Y)=0g(Y) = 0 を代入する。3. g=g(X)=g(Y)g = g(X) = g(Y) とおくと、公式は (n−1)(2g−2)+∑p(ep−1)=0(n - 1)(2g - 2) + \sum_p(e_p - 1) = 0 となる。g=1g = 1 なら ∑p(ep−1)=0\sum_p(e_p - 1) = 0。g≥2g \geq 2 なら両項が 00 以上だから n=1n = 1 であり、系 1.24 より ff は同型である。□\square

1.8 複素トーラスの間の正則写像

複素トーラスは位相的にはすべて同じ S1×S1S^1 \times S^1 だが、複素構造としては格子によって異なる。どのようなときに同型になるかを決定しよう。

定理 1.30 Λ,Λ′\Lambda, \Lambda' を格子とし、π ⁣:C→C/Λ\pi\colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}/\Lambda, π′ ⁣:C→C/Λ′\pi'\colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}/\Lambda' を射影とする。任意の正則写像 f ⁣:C/Λ→C/Λ′f\colon \mathbb{C}/\Lambda \to \mathbb{C}/\Lambda' に対し、αΛ⊂Λ′\alpha\Lambda \subset \Lambda' を満たす α,β∈C\alpha, \beta \in \mathbb{C} が存在して

f(π(z))=π′(αz+β)(z∈C)f(\pi(z)) = \pi'(\alpha z + \beta) \qquad (z \in \mathbb{C})

となる。特に、C/Λ\mathbb{C}/\Lambda と C/Λ′\mathbb{C}/\Lambda' が同型であるための必要十分条件は、Λ′=αΛ\Lambda' = \alpha\Lambda となる α∈C×\alpha \in \mathbb{C}^{\times} が存在することである。

証明. C\mathbb{C} は単連結で π′\pi' は被覆写像だから、f∘π ⁣:C→C/Λ′f \circ \pi\colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}/\Lambda' は π′∘F=f∘π\pi' \circ F = f \circ \pi を満たす連続写像 F ⁣:C→CF\colon \mathbb{C} \to \mathbb{C} に持ち上がる(09-algebraic-topology 第3章 の持ち上げの判定条件)。π′\pi' は局所双正則だから F=(π′∣U)−1∘f∘πF = (\pi'\vert_U)^{-1} \circ f \circ \pi と局所的に書け、FF は正則である。ω∈Λ\omega \in \Lambda に対し π′(F(z+ω))=f(π(z))=π′(F(z))\pi'(F(z + \omega)) = f(\pi(z)) = \pi'(F(z)) だから F(z+ω)−F(z)∈Λ′F(z + \omega) - F(z) \in \Lambda' であり、これは zz の連続関数で離散集合に値をとるから定数である。よって F′(z+ω)=F′(z)F'(z + \omega) = F'(z) となり、F′F' は Λ\Lambda を周期にもつ整関数である。F′F' は基本平行四辺形(コンパクト)の上で有界だから C\mathbb{C} 全体で有界であり、リウヴィルの定理より定数 α\alpha である。よって F(z)=αz+βF(z) = \alpha z + \beta であり、αω=F(z+ω)−F(z)∈Λ′\alpha\omega = F(z + \omega) - F(z) \in \Lambda' である。

ff が同型なら、f−1f^{-1} にも同じことを適用して α′Λ′⊂Λ\alpha'\Lambda' \subset \Lambda となる α′\alpha' を得る。f−1∘f=idf^{-1} \circ f = \mathrm{id} の持ち上げ z↦α′(αz+β)+β′z \mapsto \alpha'(\alpha z + \beta) + \beta' は π\pi と両立するから zz との差が Λ\Lambda に値をとる定数であり、α′α=1\alpha'\alpha = 1 である。よって Λ′=αα′Λ′⊂αΛ⊂Λ′\Lambda' = \alpha\alpha'\Lambda' \subset \alpha\Lambda \subset \Lambda'、すなわち Λ′=αΛ\Lambda' = \alpha\Lambda である。逆に Λ′=αΛ\Lambda' = \alpha\Lambda なら z↦αzz \mapsto \alpha z が同型 C/Λ→C/Λ′\mathbb{C}/\Lambda \to \mathbb{C}/\Lambda' を誘導する。□\square

特に、原点を原点に写す正則写像 C/Λ→C/Λ′\mathbb{C}/\Lambda \to \mathbb{C}/\Lambda' は群の準同型である。これは第2章で楕円曲線の群構造を考えるときの背景になる。

系 1.31 格子 Λ=Zω1+Zω2\Lambda = \mathbb{Z}\omega_1 + \mathbb{Z}\omega_2 の基底を Im⁡(ω1/ω2)>0\operatorname{Im}(\omega_1/\omega_2) > 0 となるように選び、τ=ω1/ω2∈H\tau = \omega_1/\omega_2 \in \mathbb{H}、Λτ=Zτ+Z\Lambda_\tau = \mathbb{Z}\tau + \mathbb{Z} とおくと、C/Λ≅C/Λτ\mathbb{C}/\Lambda \cong \mathbb{C}/\Lambda_\tau である。さらに τ,τ′∈H\tau, \tau' \in \mathbb{H} について、C/Λτ≅C/Λτ′\mathbb{C}/\Lambda_\tau \cong \mathbb{C}/\Lambda_{\tau'} であるための必要十分条件は

τ′=aτ+bcτ+d,(abcd)∈SL⁡2(Z)\tau' = \frac{a\tau + b}{c\tau + d}, \qquad \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \in \operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})

と表されることである。

証明. Λ=ω2Λτ\Lambda = \omega_2\Lambda_\tau だから前半は定理 1.30 から従う。C/Λτ≅C/Λτ′\mathbb{C}/\Lambda_\tau \cong \mathbb{C}/\Lambda_{\tau'} とすると、定理 1.30 より Λτ′=αΛτ\Lambda_{\tau'} = \alpha\Lambda_\tau となる α\alpha があり、ατ,α\alpha\tau, \alpha は Λτ′\Lambda_{\tau'} の基底である。よって ατ=aτ′+b\alpha\tau = a\tau' + b, α=cτ′+d\alpha = c\tau' + d となる整数 a,b,c,da, b, c, d(ad−bc=±1ad - bc = \pm 1、基底の取り替え行列)があり、τ=(aτ′+b)/(cτ′+d)\tau = (a\tau' + b)/(c\tau' + d) である。一般に実行列 γ\gamma について

Im⁡aτ′+bcτ′+d=(ad−bc)Im⁡τ′∣cτ′+d∣2\operatorname{Im}\frac{a\tau' + b}{c\tau' + d} = \frac{(ad - bc)\operatorname{Im}\tau'}{\lvert c\tau' + d \rvert^2}

であり(第3章の補題 3.1)、τ,τ′∈H\tau, \tau' \in \mathbb{H} だから ad−bc=1ad - bc = 1 である。SL⁡2(Z)\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}) は群だから、逆行列をとって τ′\tau' を τ\tau で表すこともできる。逆に τ′=(aτ+b)/(cτ+d)\tau' = (a\tau + b)/(c\tau + d) なら、Λτ′=(cτ+d)−1(Z(aτ+b)+Z(cτ+d))=(cτ+d)−1Λτ\Lambda_{\tau'} = (c\tau + d)^{-1}(\mathbb{Z}(a\tau + b) + \mathbb{Z}(c\tau + d)) = (c\tau + d)^{-1}\Lambda_\tau である(行列式が 1 なので aτ+ba\tau + b, cτ+dc\tau + d は Λτ\Lambda_\tau の基底)。□\square

注意 1.32 系 1.31 は、複素トーラスの同型類全体が商集合 SL⁡2(Z)\H\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\backslash\mathbb{H} と一対一に対応することを示している。この商がどのような空間か(基本領域)、その上にどのような「関数」があるか(モジュラー形式と jj 関数)を調べるのが第3章である。種数 1 の曲面の複素構造は 1 つの複素パラメータ τ\tau で決まる。種数 g≥2g \geq 2 では 3g−33g - 3 個のパラメータが必要になる(第6章)。

まとめ

  • リーマン面は、座標変換が正則な 2 次元多様体(連結)である。向き付け可能で、コンパクトなら種数 gg の閉曲面である。
  • C\mathbb{C}、リーマン球面 C^\hat{\mathbb{C}}、複素トーラス C/Λ\mathbb{C}/\Lambda、滑らかな平面曲線(正則版陰関数定理による)、超楕円曲線 y2=f(x)y^2 = f(x) とそのコンパクト化、フェルマー曲線が基本的な例である。
  • z\sqrt{z} や log⁡z\log z はそれぞれのリーマン面の上で 1 価正則関数になる。
  • 正則写像は局所的に z↦zkz \mapsto z^k と書け(局所標準形)、k=ep(f)k = e_p(f) が分岐指数である。
  • コンパクトなリーマン面の間の正則写像では、各点の逆像の分岐指数の和 deg⁡f\deg f が一定である。有理型関数の零点と極の個数は等しい。
  • リーマン–フルヴィッツの公式 2g(X)−2=n(2g(Y)−2)+∑(ep−1)2g(X) - 2 = n(2g(Y) - 2) + \sum(e_p - 1) により、超楕円曲線の種数 gg、フェルマー曲線の種数 (n−1)(n−2)/2(n-1)(n-2)/2 が求まる。
  • 複素トーラスの間の正則写像は z↦αz+βz \mapsto \alpha z + \beta から来る。同型類は SL⁡2(Z)\H\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\backslash\mathbb{H} で分類される。

演習問題

問題 1.1 ★ 次数 n≥1n \geq 1 の多項式 p(z)p(z) は p(∞)=∞p(\infty) = \infty とおくことで正則写像 C^→C^\hat{\mathbb{C}} \to \hat{\mathbb{C}} に延び、e∞(p)=ne_\infty(p) = n、deg⁡p=n\deg p = n であることを示せ。

解答

p(z)=anzn+⋯+a0p(z) = a_nz^n + \cdots + a_0(an≠0a_n \neq 0)とする。∞\infty のまわりの座標 w=1/zw = 1/z と、値域の ∞\infty のまわりの座標 1/p1/p で表すと

1p(1/w)=wnan+an−1w+⋯+a0wn\frac{1}{p(1/w)} = \frac{w^n}{a_n + a_{n-1}w + \cdots + a_0w^n}

であり、これは w=0w = 0 の近傍で正則で、00 で nn 位の零点をもつ。よって pp は ∞\infty で正則で e∞(p)=ne_\infty(p) = n である。有限の zz では p(z)p(z) は有限だから p−1(∞)={∞}p^{-1}(\infty) = \lbrace \infty \rbrace であり、deg⁡p=e∞(p)=n\deg p = e_\infty(p) = n である。

問題 1.2 ★ f(z)=z3−3zf(z) = z^3 - 3z を C^→C^\hat{\mathbb{C}} \to \hat{\mathbb{C}} とみて、分岐点と分岐指数をすべて求め、系 1.29 の 2 を確かめよ。また f−1(2)f^{-1}(2) を求めて deg⁡f=3\deg f = 3 を確かめよ。

解答

f′(z)=3(z2−1)f'(z) = 3(z^2 - 1) は z=±1z = \pm 1 で単純零点をもつから、注意 1.20 より e±1=2e_{\pm 1} = 2 である。問題 1.1 より e∞=3e_\infty = 3。他の点では e=1e = 1。よって ∑(ep−1)=1+1+2=4=2⋅3−2\sum(e_p - 1) = 1 + 1 + 2 = 4 = 2 \cdot 3 - 2 である。分岐値は f(1)=−2f(1) = -2, f(−1)=2f(-1) = 2, ∞\infty である。f(z)−2=z3−3z−2=(z+1)2(z−2)f(z) - 2 = z^3 - 3z - 2 = (z + 1)^2(z - 2) だから f−1(2)={−1,2}f^{-1}(2) = \lbrace -1, 2 \rbrace で、e−1+e2=2+1=3e_{-1} + e_2 = 2 + 1 = 3 となり deg⁡f=3\deg f = 3 と一致する。

問題 1.3 ★ 次のコンパクトなリーマン面の種数を、xx への射影とリーマン–フルヴィッツの公式で求めよ:(a) y2=x3−xy^2 = x^3 - x、(b) y2=x5−xy^2 = x^5 - x、(c) y2=x6−1y^2 = x^6 - 1。

解答

いずれも右辺は重根をもたない((b) の根は 0,±1,±i0, \pm 1, \pm i、(c) の根は 1 の 6 乗根)。xx は次数 2 で、分岐点は根の上の点と、次数が奇数なら無限遠点である(例 1.21)。(a) 分岐点は 3+1=43 + 1 = 4 個で 2g−2=2(−2)+4=02g - 2 = 2(-2) + 4 = 0、g=1g = 1。(b) 分岐点は 5+1=65 + 1 = 6 個で 2g−2=−4+6=22g - 2 = -4 + 6 = 2、g=2g = 2。(c) 分岐点は根の上の 6 個(無限遠点は 2 点で分岐しない)で、g=2g = 2。

問題 1.4 ★★ C ⁣:Y3Z=X4+Z4C\colon Y^3Z = X^4 + Z^4 を射影平面の 4 次曲線とする(アフィン部分は y3=x4+1y^3 = x^4 + 1)。CC が非特異であることを示し、ϕ=X/Z ⁣:C→P1\phi = X/Z\colon C \to \mathbb{P}^1 の分岐を調べて種数を求めよ。例 1.28 の後に述べた公式 (d−1)(d−2)/2(d-1)(d-2)/2 と比較せよ。

解答

F=Y3Z−X4−Z4F = Y^3Z - X^4 - Z^4 とすると ∇F=(−4X3,3Y2Z,Y3−4Z3)\nabla F = (-4X^3, 3Y^2Z, Y^3 - 4Z^3)。これが 00 なら X=0X = 0、Y2Z=0Y^2Z = 0、Y3=4Z3Y^3 = 4Z^3。Y=0Y = 0 なら Z=0Z = 0、Z=0Z = 0 なら Y=0Y = 0 となり、いずれも (0,0,0)(0, 0, 0) で射影平面の点でない。よって非特異である。

ϕ\phi の次数は 3 である(一般の cc で y3=c4+1y^3 = c^4 + 1 の解は 3 個)。c4+1=0c^4 + 1 = 0 となる 4 点 c=αc = \alpha の上には点 (α,0)(\alpha, 0) が 1 つだけあり、そこでは Fx=−4α3≠0F_x = -4\alpha^3 \neq 0 だから yy が局所座標で、x−αx - \alpha は yy について 3 位の零点をもつ:e=3e = 3。無限遠直線 Z=0Z = 0 との交点は X4=0X^4 = 0 より [0:1:0][0 : 1 : 0] の 1 点である。Y=1Y = 1 のアフィン座標 (X,Z)(X, Z) では Z=X4+Z4Z = X^4 + Z^4 で、∂Z(Z−X4−Z4)=1≠0\partial_Z(Z - X^4 - Z^4) = 1 \neq 0 だから XX が局所座標で Z=X4+⋯Z = X^4 + \cdots。よって ϕ=X/Z\phi = X/Z は 3 位の極をもち e=3e = 3 である。その他の点では e=1e = 1。したがって ∑(ep−1)=5⋅2=10\sum(e_p - 1) = 5 \cdot 2 = 10 で

2g−2=3⋅(−2)+10=4,g=3=(4−1)(4−2)22g - 2 = 3 \cdot (-2) + 10 = 4, \qquad g = 3 = \frac{(4 - 1)(4 - 2)}{2}

となり、公式と一致する。

問題 1.5 ★★ (1) n≥1n \geq 1 に対し、z↦nzz \mapsto nz が誘導する写像 [n] ⁣:C/Λ→C/Λ[n]\colon \mathbb{C}/\Lambda \to \mathbb{C}/\Lambda は分岐のない次数 n2n^2 の正則写像であることを示し、リーマン–フルヴィッツの公式と整合することを確かめよ。(2) 定数でない正則写像 C^→C/Λ\hat{\mathbb{C}} \to \mathbb{C}/\Lambda は存在しないことを、リーマン–フルヴィッツの公式を使う方法と、持ち上げを使う方法の 2 通りで示せ。

解答

(1) nΛ⊂Λn\Lambda \subset \Lambda だから well-defined で、局所座標で z↦nzz \mapsto nz と書けるので正則かつ微分が n≠0n \neq 0、すなわち分岐しない。[n]−1(0)=1nΛ/Λ≅(Z/n)2[n]^{-1}(0) = \frac{1}{n}\Lambda/\Lambda \cong (\mathbb{Z}/n)^2 は n2n^2 点だから deg⁡[n]=n2\deg [n] = n^2。公式は 0=n2⋅0+00 = n^2 \cdot 0 + 0 となり整合する。

(2) 次数 nn の写像があれば公式より −2=n⋅0+∑(ep−1)≥0-2 = n \cdot 0 + \sum(e_p - 1) \geq 0 となり矛盾する。別証:C^≅S2\hat{\mathbb{C}} \cong S^2 は単連結だから、正則写像 f ⁣:C^→C/Λf\colon \hat{\mathbb{C}} \to \mathbb{C}/\Lambda は被覆 C→C/Λ\mathbb{C} \to \mathbb{C}/\Lambda を通して正則写像 F ⁣:C^→CF\colon \hat{\mathbb{C}} \to \mathbb{C} に持ち上がる。命題 1.16 より FF は定数だから ff も定数である。

問題 1.6 ★★ 格子 Λ\Lambda に対し、αΛ=Λ\alpha\Lambda = \Lambda を満たす α∈C×\alpha \in \mathbb{C}^{\times}(すなわち原点を固定する C/Λ\mathbb{C}/\Lambda の自己同型)は、一般には ±1\pm 1 だけであり、Λ\Lambda が Z[i]\mathbb{Z}[i] に相似なら {±1,±i}\lbrace \pm 1, \pm i \rbrace、Z[ρ]\mathbb{Z}[\rho](ρ=e2πi/3\rho = e^{2\pi i/3})に相似なら 1 の 6 乗根全体であること、それ以外の可能性はないことを示せ。

解答

αΛ=Λ\alpha\Lambda = \Lambda とする。基本平行四辺形の面積は α\alpha 倍で ∣α∣2\lvert \alpha \rvert^2 倍になるが、格子が同じなので面積も同じであり、∣α∣=1\lvert \alpha \rvert = 1 である。α\alpha 倍は Λ≅Z2\Lambda \cong \mathbb{Z}^2 の自己同型だから整数行列 MM で表され、C=R2\mathbb{C} = \mathbb{R}^2 上の線形写像として固有値 α,αˉ\alpha, \bar{\alpha} をもつ。よって tr⁡M=2Re⁡α=:t∈Z\operatorname{tr} M = 2\operatorname{Re}\alpha =: t \in \mathbb{Z}、det⁡M=∣α∣2=1\det M = \lvert \alpha \rvert^2 = 1 で、α\alpha は x2−tx+1=0x^2 - tx + 1 = 0 の根、∣t∣≤2\lvert t \rvert \leq 2 である。t=±2t = \pm 2 なら α=±1\alpha = \pm 1、t=0t = 0 なら α=±i\alpha = \pm i、t=±1t = \pm 1 なら α\alpha は 1 の原始 3 乗根または原始 6 乗根である。

iΛ=Λi\Lambda = \Lambda なら Λ\Lambda は Z[i]\mathbb{Z}[i] 加群で、階数 1 の有限生成ねじれなし加群である。Z[i]\mathbb{Z}[i] は単項イデアル整域だから Λ=βZ[i]\Lambda = \beta\mathbb{Z}[i] と書け、Z[i]\mathbb{Z}[i] に相似である。逆に Z[i]\mathbb{Z}[i] は ii 倍で不変。ρ\rho についても同様に Λ=βZ[ρ]\Lambda = \beta\mathbb{Z}[\rho] となる(Z[ρ]\mathbb{Z}[\rho] も単項イデアル整域)。Z[i]\mathbb{Z}[i] は ρ\rho 倍で不変でない(ρ∉Z[i]\rho \notin \mathbb{Z}[i])から、2 つの場合は重ならない。

問題 1.7 ★★★ C⊂P2C \subset \mathbb{P}^2 を dd 次の非特異曲線とする。CC 上にない点 PP からの射影 ϕ ⁣:C→P1\phi\colon C \to \mathbb{P}^1(PP を通る直線全体を P1\mathbb{P}^1 と同一視する)を使って、g(C)=(d−1)(d−2)/2g(C) = (d - 1)(d - 2)/2 を示せ。ただし次の事実を認めてよい:(a) ϕ\phi の次数は dd。(b) ϕ\phi の分岐点は PP を通る直線が CC に接する点であり、それは CC と極曲線 ∑iPi∂F/∂Xi=0\sum_i P_i \partial F/\partial X_i = 0(d−1d - 1 次曲線)の交点である。(c) PP を一般の位置にとれば、分岐はすべて単純(e=2e = 2)で、交点はベズーの定理どおり d(d−1)d(d-1) 個ある。

ヒント

(a)〜(c) より ∑p(ep−1)=d(d−1)\sum_p (e_p - 1) = d(d - 1) である。リーマン–フルヴィッツの公式より

2g−2=d⋅(−2)+d(d−1)=d2−3d,g=d2−3d+22=(d−1)(d−2)22g - 2 = d \cdot (-2) + d(d - 1) = d^2 - 3d, \qquad g = \frac{d^2 - 3d + 2}{2} = \frac{(d - 1)(d - 2)}{2}

となる。(b) の理由:P=[0:1:0]P = [0 : 1 : 0] となるように座標をとると ϕ=[X:Z]\phi = [X : Z] で、アフィン座標では (x,y)↦x(x, y) \mapsto x である。定理 1.8 より、Fy≠0F_y \neq 0 の点では xx が局所座標で分岐せず、Fy=0F_y = 0 の点では yy が局所座標で xx の yy についての微分が 00 になる(Fx dx+Fy dy=0F_x\ dx + F_y\ dy = 0)。Fy=∑iPi∂F/∂XiF_y = \sum_i P_i \partial F/\partial X_i がちょうど極曲線である。例 1.28 は、P=[0:1:0]P = [0 : 1 : 0] という特別な点(CC 上にない)をとった場合の計算になっている(分岐は単純でないが、∑p(ep−1)=n(n−1)=d(d−1)\sum_p(e_p - 1) = n(n - 1) = d(d - 1) は同じ)。なお問題 1.4 では P=[0:1:0]P = [0 : 1 : 0] が CC 上にあるので、ϕ\phi は CC 上の点からの射影で次数は d−1=3d - 1 = 3 になり、この問題の状況とは異なる。

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