この章の目標
- 楕円関数に関するリウヴィルの定理群(定数・留数和・零点と極の個数・アーベルの関係)を証明できる
- ワイエルシュトラスの ℘ 関数を構成し、微分方程式 (℘′)2=4℘3−g2℘−g3 を導ける
- C/Λ が平面 3 次曲線と同型であることを証明し、加法定理から楕円曲線の群構造を理解する
- j 不変量が複素トーラスの同型類を決定することを証明できる
前提:第1章、05-complex-analysis 第5章(留数定理・偏角の原理)
第1章で見たように、複素トーラス C/Λ 上の有理型関数は、Λ を周期にもつ C 上の有理型関数である。この章では、そのような関数を具体的に作り、その性質を使って C/Λ を平面 3 次曲線として実現する。種数 1 のリーマン面を完全に理解することは、一般の種数の理論(第4章〜第6章)の最良の予習でもある。
2.1 格子と楕円関数
命題 2.1 C の離散的な部分群 L は、{0}、Zω(ω=0)、Zω1+Zω2(ω1,ω2 は R 上一次独立)のいずれかである。
証明. L={0} とする。離散性より任意の円板に含まれる L の元は有限個だから、L∖{0} の中で絶対値最小の元 ω1 がとれる。L⊂Rω1 なら、ω=tω1∈L に対し ω−⌊t⌋ω1 は絶対値が ∣ω1∣ 未満だから 0 であり、L=Zω1 である。そうでなければ L∖Rω1 の中で絶対値最小の元 ω2 をとる。ω∈L を ω=t1ω1+t2ω2(ti∈R)と書き、整数を引いて ω′=s1ω1+s2ω2∈L、∣si∣≤1/2 とする。s2=0 なら ω′∈/Rω1 であり、ω1,ω2 は R 上一次独立だから三角不等式の等号は成り立たず、∣ω′∣<∣s1∣∣ω1∣+∣s2∣∣ω2∣≤∣ω2∣ となって ω2 の最小性に反する。よって s2=0 で、前半と同様に s1=0、すなわち ω∈Zω1+Zω2 である。□
3 番目の場合が格子である。以下、格子 Λ の基底 ω1,ω2 は Im(ω1/ω2)>0 となる順に選ぶ。a∈C に対し
Pa={a+sω2+tω1∣0≤s,t≤1}
を基本平行四辺形という。その境界 ∂Pa を a→a+ω2→a+ω2+ω1→a+ω1→a の順にたどると正の向き(反時計回り)になる。Pa から向かい合う辺の一方ずつを除いた集合は C/Λ の代表系である。
定義 2.2(楕円関数, elliptic function)C 上の有理型関数 f が、すべての ω∈Λ について f(z+ω)=f(z) を満たすとき、f を Λ に関する楕円関数という。これは C/Λ 上の有理型関数と同じものであり、全体は体 M(C/Λ) をなす。定数でない楕円関数 f の C/Λ 上の極の個数(重複度込み)を f の位数という(第1章の次数 degf に等しい)。
2.2 リウヴィルの定理群
定理 2.3(リウヴィルの定理群)f を Λ に関する楕円関数とする。
- f が極をもたなければ、f は定数である。
- C/Λ の代表系に含まれる極での留数の和は 0 である。
- f が定数でなければ、代表系に含まれる零点の個数と極の個数(重複度込み)は等しい。
- (アーベルの関係)代表系に含まれる零点を a1,…,an、極を b1,…,bn(重複度だけ繰り返す)とすると、∑iai−∑ibi∈Λ である。
証明. 1. f は整関数で、コンパクトな P0 上で有界だから C 全体で有界であり、リウヴィルの定理より定数である。
2〜4 では、∂Pa 上に零点も極もないように a を選ぶ(零点と極は離散的だから可能)。辺を σ1=[a,a+ω2], σ2=[a+ω2,a+ω2+ω1] とすると、残りの 2 辺は σ1+ω1, σ2−ω2 を逆向きにたどったものである。したがって ∂Pa 上で連続な関数 h について
∮∂Pah(z)dz=∫σ1(h(z)−h(z+ω1))dz+∫σ2(h(z)−h(z−ω2))dz(1)
が成り立つ。
-
h=f とすると (1) の被積分関数は 0 だから ∮∂Paf dz=0 であり、留数定理より留数の和は 0 である。
-
h=f′/f も楕円関数だから、2 と同様に ∮∂Paf′/f dz=0 である。偏角の原理より、これは 2πi ×(零点の個数 − 極の個数)に等しい。
-
h(z)=zf′(z)/f(z) とする。留数定理より 2πi1∮∂Pah dz=∑ai−∑bi である。一方 h(z)−h(z+ω1)=−ω1f′(z)/f(z), h(z)−h(z−ω2)=ω2f′(z)/f(z) だから (1) より
i∑ai−i∑bi=−ω1⋅2πi1∫σ1ff′dz+ω2⋅2πi1∫σ2ff′dz
となる。f は σ1 の両端で同じ値をとるから、f∘σ1 は 0 を通らない閉曲線であり、2πi1∫σ1f′/f dz はその 0 のまわりの回転数、すなわち整数である。σ2 についても同様である。よって右辺は Λ に属する。□
系 2.4 定数でない楕円関数の位数は 2 以上である。また、位数 n の楕円関数は、C/Λ 上ですべての値 c∈C^ をちょうど n 回(重複度込み)とる。
証明. 位数 1 なら極は 1 位の極 1 つで、その留数は 0 でないから定理 2.3 の 2 に反する。後半は f−c に定理 2.3 の 3 を適用する(系 1.24 の特別な場合でもある)。□
2.3 ワイエルシュトラスの ℘ 関数
系 2.4 より、最も簡単な楕円関数は位数 2 であり、極は 2 位の極 1 つか、1 位の極 2 つである。前者を具体的に作ろう。素朴に ∑ω(z−ω)−2 とすると収束しないので、補正項を入れる。
補題 2.5 ∑ω∈Λ∖{0}∣ω∣−s は s>2 のとき収束する(s≤2 では発散する)。
証明. (x,y)↦∣xω1+yω2∣ は R2 のノルムだから、最大値ノルムと同値である:定数 0<c≤C があって cmax(∣m∣,∣n∣)≤∣mω1+nω2∣≤Cmax(∣m∣,∣n∣)。max(∣m∣,∣n∣)=r となる整数の組はちょうど 8r 個(r≥1)だから、和は ∑r≥18r⋅r−s=8∑rr1−s と比較でき、これは s>2 で収束し s≤2 で発散する。□
定義 2.6(ワイエルシュトラスの ℘ 関数, Weierstrass ℘-function)
℘(z)=℘(z;Λ)=z21+ω∈Λ∖{0}∑((z−ω)21−ω21)
定理 2.7 (1) 定義 2.6 の級数は C∖Λ の各コンパクト集合上で絶対かつ一様に収束し、℘ は Λ の各点に 2 位の極(主要部 (z−ω)−2、留数 0)をもつほかは正則な有理型関数である。
(2) ℘ は偶関数で、℘′(z)=−2∑ω∈Λ(z−ω)−3 は奇関数である。
(3) ℘ と ℘′ はともに Λ に関する楕円関数であり、位数はそれぞれ 2 と 3 である。
証明. (1) ∣ω∣≥2∣z∣ なら ∣2ω−z∣≤25∣ω∣, ∣z−ω∣≥21∣ω∣ より
(z−ω)21−ω21=∣ω∣2∣z−ω∣2∣z∣∣2ω−z∣≤∣ω∣310∣z∣
である。∣z∣≤R では有限個を除くすべての ω が ∣ω∣≥2R を満たすから、補題 2.5(s=3)とワイエルシュトラスの M 判定法により一様収束する。残りの有限個の項が極を与える。
(2) ω↦−ω は Λ∖{0} の全単射だから ℘(−z)=℘(z) である。項別微分により ℘′ の式を得る。
(3) ℘′ の級数は Λ 全体にわたる絶対収束和なので、z↦z+ω で項が並べ替わるだけであり、℘′ は楕円関数である。よって ℘(z+ωi)−℘(z) は導関数が 0 だから定数 ci であり、z=−ωi/2(ωi/2∈/Λ なので極でない)を代入すると、℘ が偶関数であることから ci=℘(ωi/2)−℘(−ωi/2)=0 である。位数は極の位数から読みとれる。□
命題 2.8(ローラン展開)Gk=Gk(Λ)=∑ω∈Λ∖{0}ω−k(k≥3)とおくと、k が奇数なら Gk=0 であり、0<∣z∣<minω=0∣ω∣ で
℘(z)=z21+n≥1∑(2n+1)G2n+2z2n=z21+3G4z2+5G6z4+7G8z6+⋯
証明. ω↦−ω で奇数の k について Gk=−Gk である。∣z∣<∣ω∣ で (z−ω)−2−ω−2=∑m≥1(m+1)zmω−m−2 であり、二重級数は絶対収束するから和の順序を交換して ℘(z)−z−2=∑m≥1(m+1)Gm+2zm を得る。奇数の G は消えるので m=2n の項だけが残る。□
定理 2.9(℘ の微分方程式)g2=g2(Λ)=60G4, g3=g3(Λ)=140G6 とおくと
℘′(z)2=4℘(z)3−g2℘(z)−g3
証明. 命題 2.8 より、z=0 の近くで
℘′(z)2℘(z)3=(−z32+6G4z+20G6z3+⋯)2=z64−z224G4−80G6+O(z2),=z61+z29G4+15G6+O(z2)
であるから、h=℘′2−4℘3+60G4℘+140G6 は h(z)=O(z2) を満たす。h は楕円関数で、極は Λ にしかあり得ないが 0 で正則(しかも 0 で値 0)だから、極をもたない。定理 2.3 の 1 より h は定数であり、h(0)=0 より h≡0 である。□
命題 2.10 e1=℘(ω1/2), e2=℘(ω2/2), e3=℘((ω1+ω2)/2) とおく。C/Λ で ℘′ の零点はこの 3 つの半周期点だけで、いずれも単純零点である。e1,e2,e3 は相異なり
4x3−g2x−g3=4(x−e1)(x−e2)(x−e3),Δ(Λ):=g23−27g32=16i<j∏(ei−ej)2=0
証明. u を半周期(2u∈Λ, u∈/Λ)とすると、℘′ は奇関数で周期的だから ℘′(u)=−℘′(−u)=−℘′(u)、すなわち ℘′(u)=0 である。℘′ は位数 3 だから零点はちょうど 3 個(重複度込み)で、それが 3 つの半周期であり、いずれも単純である。℘−ei は半周期 ui で零点をもち、℘′(ui)=0 よりそれは 2 位以上だが、℘ の位数は 2 だから ℘ は値 ei を ui でしかとらない。よって ei は相異なる。定理 2.9 より ℘′(ui)2=0 から ei は 4x3−g2x−g3 の根であり、因数分解を得る。x3+px+q の判別式 −4p3−27q2 に p=−g2/4, q=−g3/4 を代入すると ∏i<j(ei−ej)2=(g23−27g32)/16 となる。□
定理 2.11(楕円関数体の構造)M(C/Λ)=C(℘,℘′) であり、[C(℘,℘′):C(℘)]=2 である。より詳しく、偶な楕円関数は ℘ の有理関数であり、任意の楕円関数 f は f=R1(℘)+℘′R2(℘)(R1,R2 は有理関数)と一意に書ける。
証明. f を定数でない偶な楕円関数とする。a∈/Λ について、2a∈/Λ なら a と −a は C/Λ の異なる点で ordaf=ord−af である。2a∈Λ なら −a≡a だから f(a+z)=f(−a−z)=f(a−z) となり、z↦f(a+z) は偶関数なので ordaf は偶数である。そこで C/Λ の 0 以外の零点・極を ± の組に分けて代表 a1,…,ar を選び、mi=ordaif(2ai∈Λ なら ordaif/2)として
g(z)=i=1∏r(℘(z)−℘(ai))mi
とおく。℘−℘(a) は、2a∈/Λ なら ±a に単純零点、2a∈Λ なら a に 2 位の零点をもち、0 以外に極をもたないから、f/g は C/Λ で 0 以外に零点も極もない楕円関数である。定理 2.3 の 3 より 0 でも零点・極をもたず、定理 2.3 の 1 より定数である。よって f∈C(℘)。一般の f は f±(z)=(f(z)±f(−z))/2 と分解すると、f+ と f−/℘′ は偶だから f=f++℘′⋅(f−/℘′)∈C(℘)+℘′C(℘) である。℘′ は奇関数なので C(℘)(偶関数からなる)に属さず、℘′2∈C(℘) だから拡大次数は 2 である。□
2.4 格子のアイゼンシュタイン級数
命題 2.8 で現れた Gk(Λ) をアイゼンシュタイン級数という(k≥4 は偶数)。定義から直ちに斉次性
Gk(αΛ)=α−kGk(Λ),℘(αz;αΛ)=α−2℘(z;Λ)(α∈C×)
が成り立つ。特に g2(αΛ)=α−4g2(Λ), g3(αΛ)=α−6g3(Λ), Δ(αΛ)=α−12Δ(Λ) である。Λτ=Zτ+Z(τ∈H)について
Gk(τ):=Gk(Λτ)=(m,n)=(0,0)∑(mτ+n)k1
は H 上の関数である。第3章では、これが重さ k のモジュラー形式であることを示し、フーリエ展開(q 展開)を求める。
例 2.12(G2n の漸化式)定理 2.9 を微分すると 2℘′℘′′=12℘2℘′−g2℘′、すなわち ℘′′=6℘2−g2/2 である。℘=z−2+∑n≥1cnz2n(cn=(2n+1)G2n+2)を代入して z2n−2 の係数を比べると、n≥3 で
(2n+3)(n−2)cn=3i+j=n−1, i,j≥1∑cicj
を得る(2n(2n−1)−12=2(2n+3)(n−2) に注意)。n=3 で c3=c12/3、すなわち 7G8=3G42。n=4 で c4=113c1c2、すなわち 9G10=1145G4G6。よって
G8=73G42,G10=115G4G6
であり、帰納的にすべての G2n は G4 と G6 の有理係数多項式である。これは第3章の定理 M=C[E4,E6] の予告になっている。
例 2.13(正方格子と正三角格子)Λ=Z[i] なら iΛ=Λ だから G6(Λ)=G6(iΛ)=i−6G6(Λ)=−G6(Λ)、よって g3=0 である。Λ=Z[ρ](ρ=e2πi/3)なら ρΛ=Λ だから G4=ρ−4G4=ρ−1G4、よって g2=0 である。
2.5 C/Λ と平面 3 次曲線
定理 2.14 E⊂P2 を Y2Z=4X3−g2XZ2−g3Z3 で定まる曲線(g2=g2(Λ), g3=g3(Λ))とする。E は非特異であり、
Φ:C/Λ→E,Φ(z)=[℘(z):℘′(z):1] (z∈/Λ),Φ(0)=[0:1:0]
は双正則写像である。
証明. アフィン部分 y2=4x3−g2x−g3 は、右辺が重根をもたない(命題 2.10)から例 1.9 より滑らかである。Z=0 とすると X=0 なので無限遠点は O=[0:1:0] だけであり、Y=1 のアフィン座標 (X,Z) で E は G=Z−4X3+g2XZ2+g3Z3=0 となる。∂G/∂Z(0,0)=1=0 だから O でも滑らかで、X が局所座標である。
Φ の像が E に含まれることは定理 2.9 による。z∈/Λ で Φ は正則である。z=0 の近くでは、Y=1 の座標で Φ(z)=(℘/℘′,1/℘′) であり、℘/℘′=−z/2+O(z5)、1/℘′=−z3/2+O(z7) は 0 で正則な関数だから、Φ は 0 でも正則である。
全射:(x,y)∈E をアフィン部分の点とする。℘ は位数 2 だから ℘(z0)=x となる z0 があり、℘′(z0)2=y2 より ℘′(z0)=±y である。℘′(z0)=y なら Φ(z0)=(x,y)、℘′(z0)=−y なら Φ(−z0)=(x,y) である。
単射:Φ(0) は無限遠点だから、z1,z2∈/Λ で Φ(z1)=Φ(z2) とする。℘ は位数 2 で偶だから ℘(z1)=℘(z2) より z2≡±z1 である。z2≡−z1 かつ z2≡z1 なら、℘′(z1)=℘′(z2)=−℘′(z1) より ℘′(z1)=0、したがって z1 は半周期で z1≡−z1≡z2 となり矛盾する。よって z1≡z2 である。
全単射な正則写像は双正則である(注意 1.20)。□
E のように、非特異な 3 次曲線に 1 点 O を指定したものを楕円曲線 (elliptic curve) という。定理 2.14 により、複素トーラスは楕円曲線である。逆に、判別式が 0 でない任意の y2=4x3−ax−b が複素トーラスから得られることは、第3章で j 関数の全射性から示す(系 3.25)。
2.6 加法定理と楕円曲線の群構造
C/Λ は加法群であるから、Φ を通して E にも群構造が入る。それを座標で書き表すのが加法定理である。
定理 2.15(℘ の加法定理)z,w,z±w∈/Λ のとき
℘(z+w)=−℘(z)−℘(w)+41(℘(z)−℘(w)℘′(z)−℘′(w))2
証明. z≡±w だから ℘(z)=℘(w) である。まず、℘(z),℘(w),℘(z+w) が相異なる場合に示す(w を固定すれば、これが成り立たない z は C/Λ で有限個である)。m=(℘′(z)−℘′(w))/(℘(z)−℘(w)), b=℘′(z)−m℘(z) とおくと、直線 y=mx+b は Φ(z) と Φ(w) を通る。楕円関数 h(u)=℘′(u)−m℘(u)−b は 0 に 3 位の極をもつだけだから、零点はちょうど 3 個で、z,w がそのうちの 2 つである。アーベルの関係(定理 2.3 の 4)より、3 番目の零点 u3 は z+w+u3≡0(極は 0 の 3 重)、すなわち u3≡−(z+w) である。3 点 Φ(z),Φ(w),Φ(u3) はいずれも E と直線の交点で、x 座標 ℘(z),℘(w),℘(u3)=℘(z+w) は相異なるから、これらは 3 次方程式
4x3−g2x−g3−(mx+b)2=0
の 3 根のすべてである。根と係数の関係より ℘(z)+℘(w)+℘(z+w)=m2/4 であり、主張を得る。一般の場合は、両辺が z の有理型関数として C/Λ の有限個の点を除いて一致するから、一致の定理により一致する。□
証明から次の幾何学的な記述が得られる。E の直線 L との交点を重複度込みで数えると 3 点である(接線は接点を 2 回、変曲点での接線は 3 回数える)。
系 2.16(楕円曲線の群法則)Φ によって C/Λ の加法を E に移すと、単位元は O=[0:1:0]、(x,y) の逆元は (x,−y) であり、E の 3 点 P,Q,R について「P+Q+R=O ⇔ P,Q,R は一直線上にある」。
証明の概略. 逆元は ℘ が偶、℘′ が奇であることから従う。直線 αX+βY+γZ=0 が β=0 なら、α℘+β℘′+γ は位数 3 で極は 0 だけだから、交点に対応する零点 u1,u2,u3 はアーベルの関係から u1+u2+u3≡0 を満たす。β=0, α=0(垂直な直線 x=c)なら、交点は ±u0(℘(u0)=c)と O で、和は 0。無限遠直線 Z=0 は O で E に 3 重に接する。零点の重複度と交点の重複度が一致することは認める。□
実用上は、y=Y/2 とおいて y2=x3+ax+b の形で計算することが多い(g2=−4a, g3=−4b に対応する)。このとき P=(x1,y1), Q=(x2,y2)(x1=x2)に対し
λ=x2−x1y2−y1,x3=λ2−x1−x2,y3=λ(x1−x3)−y1
とおくと P+Q=(x3,y3) である(定理 2.15 の 41(⋅)2 が λ2 になる。y 座標は直線上の第 3 の交点 (x3,λx3+y1−λx1) の符号を変えたもの)。P=Q のときは接線の傾き λ=(3x12+a)/(2y1) を使う。
例 2.17 E:y2=x3+17 上の有理点 P=(−2,3), Q=(−1,4) を考える((−2)3+17=9, (−1)3+17=16)。λ=(4−3)/(−1+2)=1, x3=1+2+1=4, y3=1⋅(−2−4)−3=−9 だから P+Q=(4,−9) である。検算:43+17=81=(−9)2。係数が有理数なら P+Q も有理点になるので、有理点の全体 E(Q) は群をなす。その構造(モーデルの定理)は数論の中心的な話題の一つである。
2.7 楕円積分とヤコビの楕円関数(紹介)
楕円関数の歴史は、その逆関数である楕円積分から始まった。楕円 x=asint, y=bcost の弧長 ∫a2cos2t+b2sin2t dt や、レムニスケートの弧長 ∫dt/1−t4 は初等関数で表せない。オイラー、ルジャンドルらはこれらの積分の加法公式を研究し、アーベルとヤコビは逆関数を考えることで二重周期性を発見した。
℘ の言葉では次のようになる。x=℘(z) とおくと dx=℘′(z) dz だから、曲線 E 上で
dz=ydx,z≡∫OΦ(z)ydx(modΛ)
が成り立つ。右辺は E 上の O から Φ(z) への道に沿った積分で(古典的には y=4x3−g2x−g3 と書いて x についての積分とみる)、道のとり方に依存するが、その不定性がちょうど周期 Λ である。つまり周期は閉曲線に沿った dx/y の積分であり、z は E から C/Λ への逆写像を与える。これは第4章のアーベル–ヤコビ写像の種数 1 の場合である。
例 2.19(レムニスケートの場合)g2=4, g3=0 とすると 4x3−4x=4x(x−1)(x+1) で e1=1 である。g2,g3 が実数で Δ=64>0 のとき格子は長方形で、実の周期 ω は ℘ が (0,ω/2] で +∞ から e1 まで単調減少することから ω=2∫e1∞dx/4x3−g2x−g3 で与えられる(ここでは認める)。x=1/t2 と置換すると
ω=2∫1∞4x3−4xdx=∫1∞x3−xdx=2∫011−t4dt=ϖ≈2.62206
となる(ϖ はレムニスケート定数)。g3=0 だから j=1728 で(2.8 節)、格子は正方格子 ϖZ[i] である。ガウスは ϖ=π/M(1,2)(M は算術幾何平均)を発見した。
ヤコビは 0<k<1 に対し u=∫0xdt/(1−t2)(1−k2t2) の逆関数 x=sn(u,k) を考えた。sn は周期 4K, 2iK′(K=∫01dt/(1−t2)(1−k2t2)、K′ は k を 1−k2 に替えたもの)をもつ位数 2 の楕円関数で、(sn′)2=(1−sn2)(1−k2sn2) を満たす。極が 2 つの単純極であることが ℘ との違いである。e1>e2>e3 が実数のとき、k2=(e2−e3)/(e1−e3) として ℘(z)=e3+(e1−e3)/sn2(e1−e3 z,k) が成り立つことが知られている(主張)。ヤコビの理論はテータ関数による表示を経て、第3章のモジュラー形式にもつながる。
2.8 j 不変量
定義 2.20(j 不変量, j-invariant)格子 Λ に対し
j(Λ)=1728g2(Λ)3−27g3(Λ)2g2(Λ)3
とおく(分母は命題 2.10 より 0 でない)。斉次性より j(αΛ)=j(Λ) である。
定理 2.21 C/Λ≅C/Λ′ であるための必要十分条件は j(Λ)=j(Λ′) である。
証明. 同型なら定理 1.30 より Λ′=αΛ で、j は相似で不変である。逆に j(Λ)=j(Λ′) とし、g2,g3 と g2′,g3′ をそれぞれの不変量とする。λ∈C× で
g2′=λ4g2,g3′=λ6g3(2)
となるものが存在することを示す。j の等式を分母を払って整理すると g23g3′2=g2′3g32 となる。g2=0 なら j=0 だから g2′=0 で、g3,g3′=0 だから λ6=g3′/g3 となる λ をとればよい。g3=0 なら同様に g3′=0 で、λ4=g2′/g2 ととればよい。g2g3=0 なら λ4=g2′/g2 ととると (g3′/g3)2=(g2′/g2)3=λ12 より g3′=±λ6g3 で、符号が負なら λ を iλ に替えればよい(λ4 は不変、λ6 は符号が変わる)。
(2) と斉次性より、格子 Λ′′=λ−1Λ は g2(Λ′′)=g2′, g3(Λ′′)=g3′ を満たす。例 2.12 の漸化式より ℘ のローラン係数 cn はすべて c1=g2/20 と c2=g3/28 の多項式で決まるから、℘(z;Λ′′) と ℘(z;Λ′) は 0 の近くで一致し、一致の定理より C 全体で一致する。格子は ℘ の極の集合として ℘ から復元できるので Λ′′=Λ′、すなわち Λ′=λ−1Λ であり、C/Λ≅C/Λ′ である。□
例 2.22 例 2.13 より j(Z[i])=1728, j(Z[ρ])=0 である。また、ルジャンドル標準形 y2=x(x−1)(x−λ)(λ=0,1)で表される楕円曲線の j 不変量は
j=256λ2(λ−1)2(λ2−λ+1)3
であることが知られている(主張。y2=4x3−g2x−g3 の形への変数変換で確かめられる)。たとえば λ=−1 では 256⋅27/4=1728 となり、y2=x3−x が正方格子に対応することと整合する。
第1章の系 1.31 と合わせると、j は SL2(Z)\H 上の関数 τ↦j(Λτ) を定め、これは単射である。第3章でこれが全単射 SL2(Z)\H→C であることを示す(定理 3.24)。
まとめ
- 楕円関数は C/Λ 上の有理型関数である。基本平行四辺形の境界での積分により、定数・留数和 0・零点と極の個数の一致・アーベルの関係 ∑ai−∑bi∈Λ が得られる。
- ℘(z)=z−2+∑ω=0((z−ω)−2−ω−2) は位数 2 の偶な楕円関数で、℘(z)=z−2+3G4z2+5G6z4+⋯ である。
- (℘′)2=4℘3−g2℘−g3(g2=60G4, g3=140G6)が成り立ち、右辺の 3 根は半周期での値 ei で相異なる。
- 楕円関数体は C(℘,℘′) で、C(℘) の 2 次拡大である。G2n はすべて G4,G6 の多項式である。
- z↦[℘:℘′:1] により C/Λ は非特異 3 次曲線 y2=4x3−g2x−g3 と同型になる。
- 加法定理により、C/Λ の加法は「一直線上の 3 点の和が O」という楕円曲線の群法則になる。
- 楕円積分 ∫dx/y は ℘ の逆関数であり、周期は閉曲線に沿った dx/y の積分である。
- j=1728g23/(g23−27g32) は複素トーラスの同型類を決定する。
演習問題
問題 2.1 ★ a∈/Λ とする。楕円関数 ℘(z)−℘(a) の C/Λ における零点を、2a∈/Λ の場合と 2a∈Λ の場合に分けて求めよ。
解答
℘−℘(a) は位数 2 だから零点は重複度込みで 2 個である。℘ は偶だから a と −a は零点である。2a∈/Λ なら a≡−a だから、零点は a と −a で、いずれも単純である。2a∈Λ なら a は半周期で ℘′(a)=0(命題 2.10)だから a は 2 位の零点であり、零点はこれだけである。
問題 2.2 ★ 例 2.12 の G8=73G42 を Λ=Λτ に適用し、Imτ→∞ とすると Gk(τ)→2ζ(k) となること(第3章の q 展開から従う)を使って、ζ(4)=π4/90, ζ(8)=π8/9450 と整合することを確かめよ。
解答
極限をとると 2ζ(8)=73(2ζ(4))2、すなわち ζ(8)=76ζ(4)2 となるはずである。実際 76⋅8100π8=567006π8=9450π8 で一致する。同様に G10=115G4G6 からは ζ(10)=1110ζ(4)ζ(6)=1110⋅90π4⋅945π6=93555π10 が得られ、これも正しい値である。
問題 2.3 ★★(倍角公式)2z∈/Λ のとき次を示せ:
℘(2z)=−2℘(z)+41(℘′(z)℘′′(z))2
解答
定理 2.15 で z を固定し w→z とする。z は半周期でない(2z∈/Λ)ので ℘′(z)=0 であり、℘(w)−℘(z)=℘′(z)(w−z)+O((w−z)2) は w=z(w が z に近いとき)で 0 でない。℘(z)−℘(w)℘′(z)−℘′(w)→℘′(z)℘′′(z) だから、両辺の連続性より主張を得る。なお ℘′′=6℘2−g2/2 を代入すれば右辺は ℘ と ℘′ の有理式になる。
問題 2.4 ★★ Λ=Z[i] とする。(1) ℘(iz)=−℘(z) を示せ。(2) ℘((1+i)/2)=0 を示し、e=℘(1/2) とおくと ℘(i/2)=−e、g2=4e2 であることを示せ。
解答
(1) 斉次性より ℘(iz;iΛ)=i−2℘(z;Λ) で、iΛ=Λ だから ℘(iz)=−℘(z)。
(2) u=(1+i)/2 について iu=(i−1)/2=u−1≡u だから、(1) より ℘(u)=℘(iu)=−℘(u)、よって ℘(u)=0。また ℘(i/2)=℘(i⋅21)=−℘(1/2)=−e。3 根が e,−e,0 だから 4x3−g2x−g3=4x(x−e)(x+e)=4x3−4e2x であり、g2=4e2, g3=0(例 2.13 と整合)。
問題 2.5 ★★ 例 2.17 の E:y2=x3+17 と P=(−2,3) について 2P を求め、それが E 上にあることを確かめよ。
解答
接線の傾きは λ=3x12/(2y1)=12/6=2(a=0)。x3=λ2−2x1=4+4=8, y3=λ(x1−x3)−y1=2(−2−8)−3=−23。よって 2P=(8,−23) で、83+17=529=232 より E 上にある。
問題 2.6 ★★ 例 2.22 の式 j(λ)=256(λ2−λ+1)3/(λ2(λ−1)2) について、j(λ)=j(1/λ)=j(1−λ) を示せ。また λ=2,21 で j=1728、λ=eπi/3 で j=0 となることを確かめよ。
解答
λ↦1/λ で、λ2−λ+1↦(λ2−λ+1)/λ2、λ2(λ−1)2↦(1−λ)2/λ4 だから、比は λ6(λ2−λ+1)3⋅(λ−1)2λ4 で元に戻る。λ↦1−λ では (1−λ)2−(1−λ)+1=λ2−λ+1 で、分母も (1−λ)2λ2 だから不変。したがって j は λ,1/λ,1−λ から生成される 6 つの値 λ,λ1,1−λ,1−λ1,λ−1λ,λλ−1 で等しい。λ=2:256⋅27/(4⋅1)=1728。λ=1/2 は 2 の逆数なので同じく 1728。λ=eπi/3 は λ2−λ+1=0 の根だから j=0。
問題 2.7 ★★★ ワイエルシュトラスのゼータ関数 ζΛ(z)=z1+∑ω=0(z−ω1+ω1+ω2z) とシグマ関数 σ(z)=z∏ω=0(1−ωz)ez/ω+z2/(2ω2) を考える。(1) ζΛ′=−℘ を示し、ηi=ζΛ(z+ωi)−ζΛ(z) が定数であることを示せ。(2) ルジャンドルの関係式 η2ω1−η1ω2=2πi を示せ。(3) アーベルの関係の逆「a1,…,an, b1,…,bn(どの ai もどの bj と合同でない)が ∑ai≡∑bi(modΛ) を満たせば、それらをちょうど零点・極とする楕円関数が存在する」を示せ。
ヒント
(1) 補題 2.5(s=3)で収束し、項別微分で ζΛ′=−℘。℘ の周期性から ζΛ(z+ωi)−ζΛ(z) の導関数は 0。
(2) ζΛ は Pa 内にただ一つの極(留数 1)をもつから ∮∂PaζΛ dz=2πi。一方、定理 2.3 の証明の式 (1) で h=ζΛ とすると、h(z)−h(z+ω1)=−η1, h(z)−h(z−ω2)=η2 で、∫σ1dz=ω2, ∫σ2dz=ω1 だから、積分は −η1ω2+η2ω1 に等しい。
(3) σ′/σ=ζΛ から dzdlogσ(z)σ(z+ωi)=ηi となり、σ(z+ωi)=cieηizσ(z)。z=−ωi/2 を代入し σ が奇関数であることを使うと ci=−eηiωi/2、すなわち σ(z+ωi)=−eηi(z+ωi/2)σ(z)。bn を Λ の元だけずらして ∑ai=∑bi(等号)としておき、f(z)=∏iσ(z−ai)/∏iσ(z−bi) とおくと、f(z+ωi)/f(z)=eηi(∑bk−∑ak)=1 となり、f が求める楕円関数である。