Lemma数学ロードマップ

19 リーマン面と保型形式 · 第 4 章

微分形式と積分

目安 11〜13 時間定理など 15演習 6 問

この章の目標

  • リーマン面上の (1,0)(1,0) 形式・(0,1)(0,1) 形式、正則・有理型 1 形式とその留数を扱える
  • コンパクトなリーマン面上で留数の和が 00 になることをストークスの定理から証明できる
  • 調和形式が正則 1 形式とその共役の和であることを示し、dim⁡Ω(X)≤g\dim\Omega(X) \leq g を証明できる
  • リーマンの双線形関係を証明し、周期行列とヤコビ多様体を定義できる

前提:第1章、07-manifolds 第5章・第6章・第7章(微分形式、ストークスの定理、ド・ラーム・コホモロジー)

4.1 動機

関数はリーマン面の上で定義できたが、関数の「積分」をリーマン面の上で考えるには、座標変換で正しく変換する対象――微分形式――が必要である。第2章で見たように、楕円積分 ∫dx/y\int dx/y は曲線 y2=4x3−g2x−g3y^2 = 4x^3 - g_2x - g_3 上の 1 形式 dx/ydx/y の積分であり、その周期が格子 Λ\Lambda を与えた。一般の種数でも、正則 1 形式の周期がリーマン面の複素構造を記述する。この章ではその基礎を整える。

4.2 リーマン面上の 1 形式

リーマン面 XX を実 2 次元の多様体とみて、複素数値の微分形式を考える。局所座標 z=x+iyz = x + iy のもとで

dz=dx+i dy,dzˉ=dx−i dy,∂∂z=12(∂∂x−i∂∂y),∂∂zˉ=12(∂∂x+i∂∂y)dz = dx + i\,dy, \qquad d\bar{z} = dx - i\,dy, \qquad \frac{\partial}{\partial z} = \frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x} - i\frac{\partial}{\partial y}\right), \qquad \frac{\partial}{\partial \bar{z}} = \frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x} + i\frac{\partial}{\partial y}\right)

とおくと、滑らかな関数 ff について df=∂f∂zdz+∂f∂zˉdzˉdf = \frac{\partial f}{\partial z}dz + \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}d\bar{z} であり、ff が正則であることは ∂f/∂zˉ=0\partial f/\partial \bar{z} = 0 と同値である。

定義 4.1((1,0)(1,0) 形式と (0,1)(0,1) 形式)複素数値の滑らかな 1 形式で、各局所座標で f dzf\ dz と書けるものを (1,0)(1,0) 形式、g dzˉg\ d\bar{z} と書けるものを (0,1)(0,1) 形式という。

補題 4.2 (1) 定義 4.1 の型は局所座標のとり方によらない。したがって任意の 1 形式は (1,0)(1,0) 形式と (0,1)(0,1) 形式の和に一意に分解される。 (2) 関数 ff について ∂f=∂f∂zdz\partial f = \frac{\partial f}{\partial z}dz, ∂ˉf=∂f∂zˉdzˉ\bar{\partial}f = \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}d\bar{z} とおくと df=∂f+∂ˉfdf = \partial f + \bar{\partial}f である。(1,0)(1,0) 形式 ω=f dz\omega = f\ dz について dω=∂f∂zˉdzˉ∧dzd\omega = \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}d\bar{z} \wedge dz である。 (3) dz∧dzˉ=−2i dx∧dydz \wedge d\bar{z} = -2i\ dx \wedge dy。

証明. (1) 別の局所座標 ww への座標変換 z=z(w)z = z(w) は正則だから dz=z′(w)dwdz = z'(w)dw, dzˉ=z′(w)‾dwˉd\bar{z} = \overline{z'(w)}d\bar{w} である。よって f dz=fz′(w) dwf\ dz = f z'(w)\ dw は ww についても (1,0)(1,0) 形式であり、(0,1)(0,1) 形式も同様である。各点で dz,dzˉdz, d\bar{z} は複素化余接空間の基底だから分解は一意である。(2) d(f dz)=df∧dz=∂f∂zˉdzˉ∧dzd(f\ dz) = df \wedge dz = \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}d\bar{z} \wedge dz。(3) (dx+i dy)∧(dx−i dy)=−i dx∧dy+i dy∧dx=−2i dx∧dy(dx + i\ dy) \wedge (dx - i\ dy) = -i\ dx \wedge dy + i\ dy \wedge dx = -2i\ dx \wedge dy。□\square

特に、(1,0)(1,0) 形式 ω=f dz\omega = f\ dz が閉形式であることと ff が正則であることは同値である。

定義 4.3(正則・有理型 1 形式)各局所座標で f dzf\ dz(ff は正則関数)と書ける 1 形式を正則 1 形式(第 1 種アーベル微分)といい、その全体を Ω(X)\Omega(X) と書く。ff が有理型のものを有理型 1 形式という。有理型 1 形式 ω≠0\omega \neq 0 と点 pp について、pp のまわりの局所座標 zz(z(p)=0z(p) = 0)で ω=f dz\omega = f\ dz と書くとき、ord⁡pω=ord⁡0f\operatorname{ord}_p\omega = \operatorname{ord}_0 f とおき、ff のローラン展開の z−1z^{-1} の係数を留数 Res⁡pω\operatorname{Res}_p\omega という。XX がコンパクトなら ord⁡pω≠0\operatorname{ord}_p\omega \neq 0 となる点は有限個で、形式的な和 div⁡(ω)=∑p(ord⁡pω)p\operatorname{div}(\omega) = \sum_p(\operatorname{ord}_p\omega)p を ω\omega の因子という。

座標変換 z=z(w)z = z(w) で f(z)dz=f(z(w))z′(w)dwf(z)dz = f(z(w))z'(w)dw であり z′z' は零点をもたないので、ord⁡pω\operatorname{ord}_p\omega は座標によらない。留数については次が成り立つ。

命題 4.4 Res⁡pω\operatorname{Res}_p\omega は局所座標のとり方によらない。実際、pp のまわりの十分小さな座標円板の境界を正の向きに回る閉曲線 γ\gamma について Res⁡pω=12πi∫γω\operatorname{Res}_p\omega = \frac{1}{2\pi i}\int_\gamma\omega である。

証明. 座標 zz で ω=f dz\omega = f\ dz とすると、複素関数論の留数定理より 12πi∫γω=12πi∫z(γ)f(z) dz\frac{1}{2\pi i}\int_\gamma\omega = \frac{1}{2\pi i}\int_{z(\gamma)}f(z)\ dz は ff の 00 での留数である。線積分は座標のとり方によらない(変数変換公式)。別の座標で pp を 1 回正の向きに回る小さな円周も、pp を除いた円板の中で γ\gamma とホモトピックだから、正則な(したがって閉じた)形式 ω\omega の積分は同じである。□\square

例 4.5(リーマン球面)C^\hat{\mathbb{C}} 上の dzdz は C\mathbb{C} で正則で零点をもたない。∞\infty のまわりの座標 w=1/zw = 1/z では dz=−dw/w2dz = -dw/w^2 だから ∞\infty で 2 位の極をもつ。よって div⁡(dz)=−2⋅∞\operatorname{div}(dz) = -2\cdot\infty で次数は −2-2 である。任意の有理型 1 形式は R(z)dzR(z)dz(RR は有理関数)と書けるから、その因子の次数は deg⁡div⁡(R)−2=−2\deg\operatorname{div}(R) - 2 = -2 である(系 1.24)。特に Ω(C^)=0\Omega(\hat{\mathbb{C}}) = 0。

例 4.6(複素トーラス)C\mathbb{C} 上の dzdz は平行移動で不変だから C/Λ\mathbb{C}/\Lambda 上の正則 1 形式を定め、零点をもたない。任意の ω∈Ω(C/Λ)\omega \in \Omega(\mathbb{C}/\Lambda) は ω=f dz\omega = f\ dz で ff は正則な楕円関数、すなわち定数だから Ω(C/Λ)=C dz\Omega(\mathbb{C}/\Lambda) = \mathbb{C}\ dz である。第2章の定理 2.14 の同型 Φ\Phi のもとで、dzdz は曲線上の dx/ydx/y に対応する。

例 4.7(超楕円曲線)X ⁣:y2=f(x)X\colon y^2 = f(x)(deg⁡f=2g+1\deg f = 2g + 1 または 2g+22g + 2, 例 1.10)上で

ωj=xj−1 dxy(1≤j≤g)\omega_j = \frac{x^{j-1}\,dx}{y} \qquad (1 \leq j \leq g)

は正則 1 形式である。確かめよう。y≠0y \neq 0 の点では xx が局所座標だから正則である。根 aa の上の点 (a,0)(a, 0) では yy が局所座標で、2y dy=f′(x)dx2y\ dy = f'(x)dx より dx/y=2dy/f′(x)dx/y = 2dy/f'(x) は正則で零点をもたない(f′(a)≠0f'(a) \neq 0)。無限遠点では u=1/xu = 1/x, v=y/xg+1v = y/x^{g+1} とおくと

xj−1 dxy=u1−j⋅(−duu2)⋅ug+1v=−ug−j duv\frac{x^{j-1}\,dx}{y} = u^{1-j} \cdot \left(-\frac{du}{u^2}\right) \cdot \frac{u^{g+1}}{v} = -\frac{u^{g-j}\,du}{v}

となる。deg⁡f=2g+2\deg f = 2g + 2 なら 2 つの無限遠点で v≠0v \neq 0 で uu が局所座標だから、ωj\omega_j は位数 g−j≥0g - j \geq 0 の零点をもつ。deg⁡f=2g+1\deg f = 2g + 1 なら無限遠点 (0,0)(0, 0) で vv が局所座標、du/v=2dv/f~′(u)du/v = 2dv/\tilde{f}'(u) は正則で零点をもたず、uu は vv について 2 位の零点をもつから、ωj\omega_j は位数 2(g−j)≥02(g - j) \geq 0 の零点をもつ。いずれにせよ ω1,…,ωg\omega_1, \dots, \omega_g は正則であり、xj−1x^{j-1} が一次独立だから一次独立である。特に div⁡(ω1)\operatorname{div}(\omega_1) の次数は 2(g−1)=2g−22(g - 1) = 2g - 2 である。

注意 4.8 dd 次の非特異射影平面曲線のアフィン方程式を F(x,y)=0F(x, y) = 0 とすると、deg⁡P≤d−3\deg P \leq d - 3 の多項式 PP に対する P(x,y)dx/FyP(x, y)dx/F_y が正則 1 形式の全体を与え、その次元は (d−1)(d−2)/2=g(d - 1)(d - 2)/2 = g であることが知られている(主張)。たとえば問題 1.4 の y3=x4+1y^3 = x^4 + 1(g=3g = 3)では dx/y2dx/y^2, x dx/y2x\ dx/y^2, dx/ydx/y が基底である。

4.3 積分とストークスの定理

リーマン面は向き付けられた 2 次元多様体であり(注意 1.3)、dx∧dydx \wedge dy が正の向きを与える。したがって区分的に滑らかな道に沿った 1 形式の積分、コンパクトな台をもつ 2 形式の積分が定義される(07-manifolds 第6章)。

定理 4.9(ストークスの定理)Y⊂XY \subset X を区分的に滑らかな境界をもつコンパクトな部分領域(境界に誘導された向きを入れる)、η\eta を XX 上の滑らかな 1 形式とすると ∫Ydη=∫∂Yη\int_Y d\eta = \int_{\partial Y}\eta。特に XX がコンパクトなら ∫Xdη=0\int_X d\eta = 0。

閉形式の閉曲線に沿った積分はホモロジー類だけで決まる(ストークスの定理とド・ラームの定理、07-manifolds 第7章)。正則 1 形式は閉形式だから、ω∈Ω(X)\omega \in \Omega(X) と c∈H1(X;Z)c \in H_1(X; \mathbb{Z}) に対して周期 ∫cω\int_c\omega が定まる。

4.4 留数定理

定理 4.10(留数定理)XX をコンパクトなリーマン面、ω\omega を有理型 1 形式とすると

∑p∈XRes⁡pω=0\sum_{p \in X}\operatorname{Res}_p\omega = 0

証明. ω\omega の極 p1,…,pnp_1, \dots, p_n は有限個である。互いに交わらない座標円板 Dj∋pjD_j \ni p_j をとり、Y=X∖⋃jDjY = X \setminus \bigcup_j D_j とおく。YY 上で ω\omega は正則だから dω=0d\omega = 0(補題 4.2)。∂Y\partial Y は円周 ∂Dj\partial D_j を逆向きにしたものの和だから、ストークスの定理と命題 4.4 より

0=∫Ydω=∫∂Yω=−∑j∫∂Djω=−2πi∑jRes⁡pjω0 = \int_Y d\omega = \int_{\partial Y}\omega = -\sum_j\int_{\partial D_j}\omega = -2\pi i\sum_j\operatorname{Res}_{p_j}\omega

である(厳密には ω\omega を YY の近傍で滑らかな形式に延ばしてから適用する)。□\square

系 4.11 XX をコンパクトなリーマン面とする。

  1. 定数でない有理型関数 ff について ∑pord⁡pf=0\sum_p\operatorname{ord}_pf = 0(零点と極の個数は等しい)。
  2. ただ 1 つの 1 位の極をもち、他で正則な有理型 1 形式は存在しない。
  3. X=C^X = \hat{\mathbb{C}} のとき、有理関数 RR について、∞\infty を含めた R(z)dzR(z)dz の留数の和は 00 である。

証明. 1. Res⁡p(df/f)=ord⁡pf\operatorname{Res}_p(df/f) = \operatorname{ord}_pf(局所的に f=zmuf = z^mu, u(0)≠0u(0) \neq 0 なら df/f=m dz/z+du/udf/f = m\ dz/z + du/u)に定理 4.10 を適用する。2. その極での留数は 00 でないから定理 4.10 に反する。3. 定理 4.10 そのもの。□\square

系 4.11 の 1 は系 1.24 の別証明であり、第2章の定理 2.3 の 2(楕円関数の留数和が 00)は、C/Λ\mathbb{C}/\Lambda 上の f dzf\ dz に定理 4.10 を適用したものにほかならない。

例 4.12 ω=dz/(z2+1)\omega = dz/(z^2 + 1) を C^\hat{\mathbb{C}} 上で考える。Res⁡iω=12i\operatorname{Res}_i\omega = \frac{1}{2i}, Res⁡−iω=−12i\operatorname{Res}_{-i}\omega = -\frac{1}{2i}。∞\infty では w=1/zw = 1/z として ω=−dw/(1+w2)\omega = -dw/(1 + w^2) で正則だから留数は 00。和は確かに 00 である。一方 dz/zdz/z では Res⁡0=1\operatorname{Res}_0 = 1, ∞\infty で −dw/w-dw/w より Res⁡∞=−1\operatorname{Res}_\infty = -1 である。

4.5 調和関数と調和形式

定義 4.13(ホッジのスター作用素, Hodge star)局所座標 z=x+iyz = x + iy で、1 形式に対し ∗dx=dy\ast dx = dy, ∗dy=−dx\ast dy = -dx で定まる複素線形作用素を ∗\ast と書く。実関数 uu は d∗du=0d\ast du = 0 のとき調和であるという。1 形式 ω\omega は dω=0d\omega = 0 かつ d∗ω=0d\ast\omega = 0 のとき調和形式であるという。

∗du=−uy dx+ux dy\ast du = -u_y\ dx + u_x\ dy, d∗du=(uxx+uyy)dx∧dyd\ast du = (u_{xx} + u_{yy})dx \wedge dy だから、関数の調和性は通常の意味(ラプラス方程式)と一致する。

補題 4.14 ∗dz=−i dz\ast dz = -i\ dz, ∗dzˉ=i dzˉ\ast d\bar{z} = i\ d\bar{z} である。したがって ∗\ast は (1,0)(1,0) 形式に −i-i 倍、(0,1)(0,1) 形式に ii 倍として作用し、局所座標のとり方によらない(複素構造だけで決まる)。

証明. ∗dz=dy−i dx=−i(dx+i dy)=−i dz\ast dz = dy - i\ dx = -i(dx + i\ dy) = -i\ dz、∗dzˉ=dy+i dx=i dzˉ\ast d\bar{z} = dy + i\ dx = i\ d\bar{z}。型は座標によらない(補題 4.2)から、∗\ast も座標によらない。□\square

命題 4.15 1 形式 ω\omega を ω=ω1+ω2′\omega = \omega_1 + \omega_2'(ω1\omega_1 は (1,0)(1,0) 形式、ω2′\omega_2' は (0,1)(0,1) 形式)と分解する。ω\omega が調和形式であるための必要十分条件は、ω1\omega_1 と ω2′‾\overline{\omega_2'} がともに正則 1 形式であることである。したがって XX 上の調和形式の空間は Ω(X)⊕Ω(X)‾\Omega(X) \oplus \overline{\Omega(X)} である。

証明. 局所的に ω=f dz+g dzˉ\omega = f\ dz + g\ d\bar{z} と書くと、補題 4.14 より ∗ω=−if dz+ig dzˉ\ast\omega = -if\ dz + ig\ d\bar{z} で

dω=(∂g∂z−∂f∂zˉ)dz∧dzˉ,d∗ω=i(∂g∂z+∂f∂zˉ)dz∧dzˉd\omega = \left(\frac{\partial g}{\partial z} - \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}\right)dz \wedge d\bar{z}, \qquad d\ast\omega = i\left(\frac{\partial g}{\partial z} + \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}\right)dz \wedge d\bar{z}

である。両方が 00 であることは ∂f/∂zˉ=0\partial f/\partial \bar{z} = 0 かつ ∂g/∂z=0\partial g/\partial z = 0、すなわち ff と gˉ\bar{g} が正則であることと同値である。型の分解は大域的に一意だから、局所的な分解は貼り合う。□\square

命題 4.16 コンパクトなリーマン面上の調和関数は定数である。

証明. 実調和関数 uu は最大値をとる。最大値をとる点 pp の座標円板上で uu は正則関数の実部であり、調和関数の最大値原理より pp の近傍で定数である。よって最大値をとる点の集合は開かつ閉で、XX の連結性より uu は定数である。複素数値なら実部と虚部に分ける。□\square

4.6 正則 1 形式の空間

定理 4.17 XX を種数 gg のコンパクトなリーマン面とすると dim⁡CΩ(X)=g\dim_{\mathbb{C}}\Omega(X) = g である。

証明(不等式 ≤\leq の部分). HdR1(X;C)H^1_{\mathrm{dR}}(X; \mathbb{C}) を複素数値の閉 1 形式を完全形式で割った空間とする。ド・ラームの定理と H1(X;Z)≅Z2gH_1(X; \mathbb{Z}) \cong \mathbb{Z}^{2g} より dim⁡CHdR1(X;C)=2g\dim_{\mathbb{C}}H^1_{\mathrm{dR}}(X; \mathbb{C}) = 2g である。写像

Ω(X)⊕Ω(X)‾→HdR1(X;C),(ω1,ω2‾)↦[ω1+ω2‾]\Omega(X) \oplus \overline{\Omega(X)} \to H^1_{\mathrm{dR}}(X; \mathbb{C}), \qquad (\omega_1, \overline{\omega_2}) \mapsto [\omega_1 + \overline{\omega_2}]

が単射であることを示す。ω1+ω2‾=df\omega_1 + \overline{\omega_2} = df とすると、型を比べて ∂f=ω1\partial f = \omega_1, ∂ˉf=ω2‾\bar{\partial}f = \overline{\omega_2} である。ω1\omega_1 は正則だから 0=dω1=∂ˉ∂f0 = d\omega_1 = \bar{\partial}\partial f で、局所座標では ∂2f∂z∂zˉ=14Δf=0\frac{\partial^2 f}{\partial z\partial \bar{z}} = \frac{1}{4}\Delta f = 0 となり、ff は調和である。命題 4.16 より ff は定数、よって ω1=ω2‾=0\omega_1 = \overline{\omega_2} = 0 である。したがって 2dim⁡Ω(X)≤2g2\dim\Omega(X) \leq 2g。□\square

逆の不等式 dim⁡Ω(X)≥g\dim\Omega(X) \geq g は正則 1 形式の存在を主張する深い結果であり、ディリクレ原理(4.9 節)またはリーマン–ロッホの定理(第5章の系 5.16)から従う。本章では認めて使う。

例 4.18 超楕円曲線では例 4.7 の gg 個の一次独立な正則 1 形式があるから、上の不等式と合わせて Ω(X)\Omega(X) の基底は xj−1dx/yx^{j-1}dx/y(1≤j≤g1 \leq j \leq g)であり、定理 4.17 はこの場合完全に証明された。

注意 4.19 定理 4.17 と命題 4.15 を合わせると、証明中の単射は同型であり、HdR1(X;C)≅Ω(X)⊕Ω(X)‾H^1_{\mathrm{dR}}(X; \mathbb{C}) \cong \Omega(X) \oplus \overline{\Omega(X)} となる(ホッジ分解)。各コホモロジー類はただ一つの調和形式で代表される。高次元版は 17-riemannian-geometry 第7章 で扱う。

4.7 周期とリーマンの双線形関係

種数 g≥1g \geq 1 のコンパクトなリーマン面 XX は、4g4g 角形 Π\Pi の辺を a1b1a1−1b1−1⋯agbgag−1bg−1a_1b_1a_1^{-1}b_1^{-1} \cdots a_gb_ga_g^{-1}b_g^{-1} の順に貼り合わせて得られる(閉曲面の分類、09-algebraic-topology 第2章 の例 2.17 と定理 2.20)。辺の像の閉曲線 ai,bia_i, b_i のホモロジー類は H1(X;Z)H_1(X; \mathbb{Z}) の基底をなし、交点数は ai⋅bj=δija_i \cdot b_j = \delta_{ij}, ai⋅aj=bi⋅bj=0a_i \cdot a_j = b_i \cdot b_j = 0 である(標準的ホモロジー基底)。閉 1 形式 θ\theta に対し Ai(θ)=∫aiθA_i(\theta) = \int_{a_i}\theta, Bi(θ)=∫biθB_i(\theta) = \int_{b_i}\theta とおく。

補題 4.20 θ,η\theta, \eta を XX 上の滑らかな閉 1 形式とすると

∫Xθ∧η=∑i=1g(Ai(θ)Bi(η)−Bi(θ)Ai(η))\int_X\theta \wedge \eta = \sum_{i=1}^g\bigl(A_i(\theta)B_i(\eta) - B_i(\theta)A_i(\eta)\bigr)

証明. θ,η\theta, \eta を Π\Pi に引き戻す。Π\Pi は単連結だから θ=df\theta = df となる関数 ff が Π\Pi 上にある。dη=0d\eta = 0 より θ∧η=d(fη)\theta \wedge \eta = d(f\eta) で、ストークスの定理より ∫Xθ∧η=∫∂Πfη\int_X\theta \wedge \eta = \int_{\partial\Pi}f\eta である。

辺 aia_i 上の点 pp と、それに貼り合わされる辺 ai−1a_i^{-1} 上の点 p′p' を考える。Π\Pi 内で pp から p′p' へ境界に沿って進む道は、aia_i の残り、bib_i、ai−1a_i^{-1} の途中までをたどり、XX では bib_i と(共役を除いて)同じ閉曲線になる。よって f(p′)−f(p)=Bi(θ)f(p') - f(p) = B_i(\theta)(pp によらない定数)である。辺 ai−1a_i^{-1} は aia_i を逆向きにたどるから

∫aifη+∫ai−1fη=∫ai(f(p)−f(p′))η=−Bi(θ)Ai(η)\int_{a_i}f\eta + \int_{a_i^{-1}}f\eta = \int_{a_i}\bigl(f(p) - f(p')\bigr)\eta = -B_i(\theta)A_i(\eta)

である。同様に辺 bib_i 上の点 qq とその相手 q′q' については、qq から q′q' への道は bib_i の残り、ai−1a_i^{-1}、bi−1b_i^{-1} の途中までをたどり、XX では ai−1a_i^{-1} と同じ閉曲線になるから f(q′)−f(q)=−Ai(θ)f(q') - f(q) = -A_i(\theta) であり、∫bifη+∫bi−1fη=Ai(θ)Bi(η)\int_{b_i}f\eta + \int_{b_i^{-1}}f\eta = A_i(\theta)B_i(\eta) である。すべての ii について足し合わせればよい。□\square

定理 4.21(リーマンの双線形関係, Riemann bilinear relations)ω,ω′∈Ω(X)\omega, \omega' \in \Omega(X) とする。

  1. ∑i=1g(Ai(ω)Bi(ω′)−Bi(ω)Ai(ω′))=0\sum_{i=1}^g\bigl(A_i(\omega)B_i(\omega') - B_i(\omega)A_i(\omega')\bigr) = 0。
  2. ω≠0\omega \neq 0 ならば Im⁡∑i=1gAi(ω)‾Bi(ω)>0\operatorname{Im}\sum_{i=1}^g\overline{A_i(\omega)}B_i(\omega) > 0。

証明. 1. ω,ω′\omega, \omega' はともに (1,0)(1,0) 形式だから ω∧ω′=0\omega \wedge \omega' = 0 で、補題 4.20 から従う。2. 局所的に ω=f dz\omega = f\ dz なら補題 4.2 (3) より i2ω∧ωˉ=∣f∣2dx∧dy\frac{i}{2}\omega \wedge \bar{\omega} = \lvert f \rvert^2dx \wedge dy だから、ω≠0\omega \neq 0 なら i2∫Xω∧ωˉ>0\frac{i}{2}\int_X\omega \wedge \bar{\omega} > 0 である。ωˉ\bar{\omega} の周期は ω\omega の周期の複素共役だから、補題 4.20 より

i2∫Xω∧ωˉ=i2∑i(AiBi‾−BiAi‾)=i2⋅2iIm⁡∑iAiBi‾=Im⁡∑iAi‾Bi\frac{i}{2}\int_X\omega \wedge \bar{\omega} = \frac{i}{2}\sum_i\bigl(A_i\overline{B_i} - B_i\overline{A_i}\bigr) = \frac{i}{2} \cdot 2i\operatorname{Im}\sum_iA_i\overline{B_i} = \operatorname{Im}\sum_i\overline{A_i}B_i

(Ai=Ai(ω)A_i = A_i(\omega), Bi=Bi(ω)B_i = B_i(\omega))となり、主張を得る。□\square

系 4.22 (1) ω∈Ω(X)\omega \in \Omega(X) の AA 周期がすべて 00 なら ω=0\omega = 0 である。 (2) Ω(X)\Omega(X) には Ai(ωj)=δijA_i(\omega_j) = \delta_{ij} を満たすただ一つの基底 ω1,…,ωg\omega_1, \dots, \omega_g(正規化された基底)がある。周期行列 Z=(Bi(ωj))i,jZ = (B_i(\omega_j))_{i,j} は対称で、虚部 Im⁡Z\operatorname{Im}Z は正定値である。

証明. (1) 定理 4.21 の 2 の左辺が 00 になるから ω=0\omega = 0。(2) (1) より線形写像 ω↦(A1(ω),…,Ag(ω))\omega \mapsto (A_1(\omega), \dots, A_g(\omega)) は Ω(X)→Cg\Omega(X) \to \mathbb{C}^g の単射で、定理 4.17 より次元が等しいから同型である。定理 4.21 の 1 を ωj,ωk\omega_j, \omega_k に適用すると Zjk−Zkj=0Z_{jk} - Z_{kj} = 0。実ベクトル c≠0c \neq 0 について ω=∑jcjωj\omega = \sum_jc_j\omega_j とすると Ai(ω)=ciA_i(\omega) = c_i, Bi(ω)=(Zc)iB_i(\omega) = (Zc)_i だから、定理 4.21 の 2 より cT(Im⁡Z)c>0c^T(\operatorname{Im}Z)c > 0 である。□\square

例 4.23(種数 1)X=C/ΛτX = \mathbb{C}/\Lambda_\tau で、aa を 00 から 11 への線分、bb を 00 から τ\tau への線分の像とすると、a⋅b=1a \cdot b = 1 である。ω=dz\omega = dz について A=1A = 1, B=τB = \tau だから、周期行列は Z=(τ)Z = (\tau) で、条件 Im⁡Z>0\operatorname{Im}Z > 0 は τ∈H\tau \in \mathbb{H} にほかならない。また i2∫Xdz∧dzˉ\frac{i}{2}\int_Xdz \wedge d\bar{z} は基本平行四辺形の面積 Im⁡τ\operatorname{Im}\tau で、Im⁡(AˉB)\operatorname{Im}(\bar{A}B) と一致する。種数 gg の周期行列の集合 {Z∣Z=ZT,Im⁡Z>0}\lbrace Z \mid Z = Z^T, \operatorname{Im}Z > 0 \rbrace をジーゲル上半空間といい、H\mathbb{H} の一般化である。

4.8 ヤコビ多様体

定義 4.24(ヤコビ多様体とアーベル–ヤコビ写像)正規化された基底 ω1,…,ωg\omega_1, \dots, \omega_g と周期行列 ZZ について、Λ=Zg+ZZg⊂Cg\Lambda = \mathbb{Z}^g + Z\mathbb{Z}^g \subset \mathbb{C}^g とおき、Jac⁡(X)=Cg/Λ\operatorname{Jac}(X) = \mathbb{C}^g/\Lambda を XX のヤコビ多様体という。基点 p0∈Xp_0 \in X を固定して

u ⁣:X→Jac⁡(X),u(p)=(∫p0pω1,…,∫p0pωg) mod Λu\colon X \to \operatorname{Jac}(X), \qquad u(p) = \left(\int_{p_0}^p\omega_1, \dots, \int_{p_0}^p\omega_g\right) \bmod \Lambda

をアーベル–ヤコビ写像という。

積分路を変えると差は閉曲線 c=∑i(miai+nibi)c = \sum_i(m_ia_i + n_ib_i) 上の積分 (∫cωj)j=m+Zn(\int_c\omega_j)_j = m + Zn(ZZ の対称性を使った)であり、これは Λ\Lambda に属するから uu は well-defined で、正則写像である。

命題 4.25 Λ\Lambda は Cg≅R2g\mathbb{C}^g \cong \mathbb{R}^{2g} の格子(階数 2g2g の離散部分群)であり、Jac⁡(X)\operatorname{Jac}(X) は gg 次元のコンパクトな複素トーラスである。

証明. 2g2g 個のベクトル e1,…,eg,Ze1,…,Zege_1, \dots, e_g, Ze_1, \dots, Ze_g が R\mathbb{R} 上一次独立であることを示せばよい。実ベクトル x,yx, y について x+Zy=0x + Zy = 0 なら、虚部をとって (Im⁡Z)y=0(\operatorname{Im}Z)y = 0、Im⁡Z\operatorname{Im}Z は正定値だから y=0y = 0、したがって x=0x = 0 である。□\square

例 4.26 g=1g = 1 では Jac⁡(C/Λτ)=C/Λτ\operatorname{Jac}(\mathbb{C}/\Lambda_\tau) = \mathbb{C}/\Lambda_\tau で、p0=0p_0 = 0 とすれば uu は恒等写像である。XX を 3 次曲線 EE として実現すると、u(P)=∫OPdx/yu(P) = \int_O^P dx/y は第2章 2.7 節の楕円積分、すなわち Φ\Phi の逆写像である。一般の種数では、uu は XX を Jac⁡(X)\operatorname{Jac}(X) に埋め込み(g≥1g \geq 1)、因子の言葉で述べたアーベルの定理とヤコビの逆問題(第5章 5.7 節)によって Jac⁡(X)\operatorname{Jac}(X) は次数 00 の因子類群と同一視される。

4.9 ワイルの補題とディリクレ原理(紹介)

定理 4.17 の「≥\geq」や、コンパクトなリーマン面が定数でない有理型関数をもつことは、何らかの存在定理を必要とする。リーマンはこれをディリクレ原理によって示そうとした:与えられた境界条件や特異性をもつ関数のうち、ディリクレ積分

D(u)=∫(ux2+uy2) dx dy=∫du∧∗duD(u) = \int\bigl(u_x^2 + u_y^2\bigr)\,dx\,dy = \int du \wedge \ast du

(補題 4.14 より複素構造だけで決まる)を最小にするものは調和関数である、という原理である。ワイエルシュトラスは最小値が達成されるとは限らないことを指摘したが、ヒルベルトは 1900 年頃にこの原理を正当化した。現代的には、L2L^2 の 1 形式の空間を直交分解し、射影で得られた弱い意味の調和形式が滑らかであることを次の補題で示す。

定理 4.27(ワイルの補題, Weyl's lemma。主張)U⊂CU \subset \mathbb{C} を開集合、uu を UU 上の局所可積分関数とし、すべての φ∈Cc∞(U)\varphi \in C_c^\infty(U) について ∫UuΔφ dx dy=0\int_U u\Delta\varphi\ dx\ dy = 0 とする。このとき uu は(測度 00 の集合上で修正すれば)UU 上の C∞C^\infty 級の調和関数である。

定理 4.28(存在定理。主張)XX をリーマン面、p∈Xp \in X、zz を pp のまわりの局所座標(z(p)=0z(p) = 0)、n≥1n \geq 1 とする。X∖{p}X \setminus \lbrace p \rbrace 上の調和関数 uu で、u−Re⁡(z−n)u - \operatorname{Re}(z^{-n}) が pp の近傍で調和になるものが存在する。

定理 4.28 の uu について ω=∂u\omega = \partial u(の 2 倍)は pp に n+1n + 1 位の極をもつ有理型 1 形式であり、XX がコンパクトならこれらの 1 形式と周期の議論から、定数でない有理型関数の存在や dim⁡Ω(X)=g\dim\Omega(X) = g が導かれる。詳細は Forster 第 2 章・第 3 章、Donaldson の教科書を参照。ワイルの補題は楕円型方程式の正則性定理の原型であり、一般化は 18-pde 第4章 で扱う。

まとめ

  • リーマン面上の 1 形式は (1,0)(1,0) 部分と (0,1)(0,1) 部分に座標によらず分解され、(1,0)(1,0) 形式 f dzf\ dz が閉であることと ff が正則であることは同値である。
  • 有理型 1 形式の位数・留数・因子は座標によらない。C^\hat{\mathbb{C}} 上の dzdz は ∞\infty に 2 位の極をもち、トーラス上の dzdz は零点も極もない。超楕円曲線では xj−1dx/yx^{j-1}dx/y(1≤j≤g1 \leq j \leq g)が正則である。
  • コンパクトなリーマン面上の有理型 1 形式の留数の和は 00(ストークスの定理による)。
  • スター作用素は (1,0)(1,0) 形式に −i-i 倍で作用し、調和形式の空間は Ω(X)⊕Ω(X)‾\Omega(X) \oplus \overline{\Omega(X)} である。コンパクトなら調和関数は定数。
  • dim⁡Ω(X)≤g\dim\Omega(X) \leq g は調和関数の議論から従い、等号は存在定理(ディリクレ原理またはリーマン–ロッホ)による。
  • ∫Xθ∧η=∑(AiBi′−BiAi′)\int_X\theta \wedge \eta = \sum(A_iB_i' - B_iA_i') から、双線形関係:正規化された周期行列 ZZ は対称で Im⁡Z>0\operatorname{Im}Z > 0。
  • ヤコビ多様体 Jac⁡(X)=Cg/(Zg+ZZg)\operatorname{Jac}(X) = \mathbb{C}^g/(\mathbb{Z}^g + Z\mathbb{Z}^g) とアーベル–ヤコビ写像は、楕円積分の高種数版である。

演習問題

問題 4.1 ★ C^\hat{\mathbb{C}} 上の ω=dz/(z2−1)\omega = dz/(z^2 - 1) の因子と各点での留数を求め、deg⁡div⁡(ω)=−2\deg\operatorname{div}(\omega) = -2 と留数定理を確かめよ。

解答

±1\pm 1 で 1 位の極、留数は Res⁡1=12\operatorname{Res}_1 = \frac{1}{2}, Res⁡−1=−12\operatorname{Res}_{-1} = -\frac{1}{2}。∞\infty では w=1/zw = 1/z として z2−1=(1−w2)/w2z^2 - 1 = (1 - w^2)/w^2, dz=−dw/w2dz = -dw/w^2 より ω=−dw/(1−w2)\omega = -dw/(1 - w^2) で、正則かつ 00 でない。よって div⁡(ω)=−[1]−[−1]\operatorname{div}(\omega) = -[1] - [-1]、次数 −2-2、留数の和 00。

問題 4.2 ★ X=C/ΛX = \mathbb{C}/\Lambda 上で div⁡(℘ dz)\operatorname{div}(\wp\ dz) と div⁡(℘′ dz)\operatorname{div}(\wp'\ dz) を求め、次数がともに 2g−2=02g - 2 = 0 であることを確かめよ。また Res⁡0(℘ dz)=0\operatorname{Res}_0(\wp\ dz) = 0 を確かめよ。

解答

dzdz は零点も極もないので、div⁡(f dz)=div⁡(f)\operatorname{div}(f\ dz) = \operatorname{div}(f)。℘\wp は 00 に 2 位の極、零点は ±z0\pm z_0(℘(z0)=0\wp(z_0) = 0。z0z_0 が半周期なら 2 位の零点 1 つ)だから div⁡(℘ dz)=[z0]+[−z0]−2[0]\operatorname{div}(\wp\ dz) = [z_0] + [-z_0] - 2[0]。℘′\wp' は 00 に 3 位の極、3 つの半周期 u1,u2,u3u_1, u_2, u_3 に単純零点をもつから div⁡(℘′ dz)=[u1]+[u2]+[u3]−3[0]\operatorname{div}(\wp'\ dz) = [u_1] + [u_2] + [u_3] - 3[0]。いずれも次数 00。℘=z−2+O(z2)\wp = z^{-2} + O(z^2) で z−1z^{-1} の項がないから留数は 00。

問題 4.3 ★★ 種数 2 の曲線 X ⁣:y2=x5−xX\colon y^2 = x^5 - x について、Ω(X)\Omega(X) の基底を求め、div⁡(dx/y)=2∞\operatorname{div}(dx/y) = 2\infty, div⁡(x dx/y)=2P0\operatorname{div}(x\ dx/y) = 2P_0(P0=(0,0)P_0 = (0, 0))を示せ。

解答

例 4.18 より基底は dx/ydx/y, x dx/yx\ dx/y。例 4.7 の計算より、dx/ydx/y はアフィン部分で零点も極ももたず、ただ 1 つの無限遠点 ∞\infty(deg⁡f=5=2g+1\deg f = 5 = 2g + 1)で位数 2(g−1)=22(g - 1) = 2 の零点をもつ。よって div⁡(dx/y)=2∞\operatorname{div}(dx/y) = 2\infty。次に xx の因子を求める。xx は次数 2 の関数で、x=0x = 0 となる点は P0P_0 だけ(f(0)=0f(0) = 0)で、そこでは yy が局所座標、x=y2/f′(0)+⋯=−y2+⋯x = y^2/f'(0) + \cdots = -y^2 + \cdots だから 2 位の零点。極は ∞\infty だけで 2 位。よって div⁡(x)=2P0−2∞\operatorname{div}(x) = 2P_0 - 2\infty で、div⁡(x dx/y)=2P0−2∞+2∞=2P0\operatorname{div}(x\ dx/y) = 2P_0 - 2\infty + 2\infty = 2P_0。次数はいずれも 2=2g−22 = 2g - 2。

問題 4.4 ★★ f(z)=cnzn+⋯+c0f(z) = c_nz^n + \cdots + c_0(n≥2n \geq 2, cn≠0c_n \neq 0)が重根をもたないとき、C^\hat{\mathbb{C}} 上の zkdz/f(z)z^kdz/f(z) に留数定理を適用して、次を示せ。

∑f(a)=0akf′(a)={0(0≤k≤n−2)1/cn(k=n−1)\sum_{f(a) = 0}\frac{a^k}{f'(a)} = \begin{cases} 0 & (0 \leq k \leq n - 2) \\ 1/c_n & (k = n - 1) \end{cases}
解答

ω=zkdz/f(z)\omega = z^kdz/f(z) は ff の根 aa で 1 位の極をもち、Res⁡aω=ak/f′(a)\operatorname{Res}_a\omega = a^k/f'(a)。∞\infty では w=1/zw = 1/z として

ω=−wn−k−2 dwcn+cn−1w+⋯+c0wn\omega = -\frac{w^{n-k-2}\,dw}{c_n + c_{n-1}w + \cdots + c_0w^n}

となる。k≤n−2k \leq n - 2 なら ∞\infty で正則で留数は 00。k=n−1k = n - 1 なら w−1w^{-1} の係数は −1/cn-1/c_n。定理 4.10 より根での留数の和は 00 または 1/cn1/c_n である。

問題 4.5 ★★ ディリクレ積分 D(u)=∫ux2+uy2 dx dyD(u) = \int u_x^2 + u_y^2\ dx\ dy が正則な座標変換で不変であることを、補題 4.14 を使って示せ。また u=Re⁡hu = \operatorname{Re}h(hh は正則)なら D(u)=i2∫dh∧dh‾D(u) = \frac{i}{2}\int dh \wedge \overline{dh} であることを示せ。

解答

du∧∗du=(ux dx+uy dy)∧(−uy dx+ux dy)=(ux2+uy2)dx∧dydu \wedge \ast du = (u_x\ dx + u_y\ dy) \wedge (-u_y\ dx + u_x\ dy) = (u_x^2 + u_y^2)dx \wedge dy であり、∗\ast は複素構造だけで決まる(補題 4.14)から、du∧∗dudu \wedge \ast du は座標によらない 2 形式で、D(u)D(u) は不変である。u=Re⁡hu = \operatorname{Re}h なら du=12(h′dz+h′‾dzˉ)du = \frac{1}{2}(h'dz + \overline{h'}d\bar{z}) で、∗du=12(−ih′dz+ih′‾dzˉ)\ast du = \frac{1}{2}(-ih'dz + i\overline{h'}d\bar{z})。よって du∧∗du=14(i∣h′∣2dz∧dzˉ−i∣h′∣2dzˉ∧dz)=i2∣h′∣2dz∧dzˉ=i2dh∧dh‾du \wedge \ast du = \frac{1}{4}\bigl(i\lvert h' \rvert^2 dz \wedge d\bar{z} - i\lvert h' \rvert^2 d\bar{z} \wedge dz\bigr) = \frac{i}{2}\lvert h' \rvert^2 dz \wedge d\bar{z} = \frac{i}{2}dh \wedge \overline{dh}。

問題 4.6 ★★★ 超楕円曲線 X ⁣:y2=f(x)X\colon y^2 = f(x) について、定理 4.17 を使わずに、任意の ω∈Ω(X)\omega \in \Omega(X) が h(x)dx/yh(x)dx/y(hh は次数 g−1g - 1 以下の多項式)と書けることを示せ。

ヒント

ω=h dx/y\omega = h\ dx/y とおくと hh は有理型関数で、dx/ydx/y はアフィン部分で零点をもたないから、hh はアフィン部分で正則である。超楕円対合 ι(x,y)=(x,−y)\iota(x, y) = (x, -y) について ι∗(dx/y)=−dx/y\iota^\ast(dx/y) = -dx/y。h±=(h±h∘ι)/2h_\pm = (h \pm h \circ \iota)/2 とおく。(i) ι\iota で不変な有理型関数は xx の各ファイバー上で一定だから C^\hat{\mathbb{C}} 上の有理型関数を定め、xx の有理関数である。アフィン部分で正則なので h+h_+ は xx の多項式。(ii) h−/yh_-/y は ι\iota 不変で、根の上の点では h−h_- が(局所座標 yy について奇関数だから)零点をもつので正則。よって h−=yP(x)h_- = yP(x)(PP は多項式)で、h−dx/y=P(x)dxh_-dx/y = P(x)dx は P≠0P \neq 0 なら無限遠点で極をもつ(例 4.5 と同様に dxdx は無限遠点で極をもつ)から P=0P = 0。(iii) h+(x)dx/yh_+(x)dx/y の無限遠点での位数は例 4.7 の計算から deg⁡h+≤g−1\deg h_+ \leq g - 1 と同値。

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