この章の目標
- ド・ラーム・コホモロジーを定義し、H0, H∗(R), H1(S1) を計算できる
- ホモトピー不変性とポアンカレの補題を、ホモトピー作用素を構成して証明できる
- マイヤー–ヴィートリス完全列を証明し、球面・トーラス・穴あき平面のコホモロジーを計算できる
- 写像度を定義してその基本性質を示し、毛玉の定理を証明できる
- ポアンカレ双対性とド・ラームの定理の主張と意味を説明できる
前提:第5章、第6章、線形代数 第2章(商空間)
第5章で見たように、完全形式は閉形式であるが、逆は一般に成り立たない。R2∖{0} の角形式は閉だが完全でなく、それは原点の「穴」が原因であった。閉形式を完全形式で割った商空間は、微分形式という解析的な道具から、空間の位相的な情報を取り出す。
以下、M は n 次元多様体(境界なし)とする。
7.1 定義と最初の例
定義 7.1(ド・ラーム・コホモロジー, de Rham cohomology)Zk(M)=ker(d:Ωk(M)→Ωk+1(M))(閉形式全体)、Bk(M)=d(Ωk−1(M))(完全形式全体、B0=0)とおく。d∘d=0 より Bk⊂Zk であり、商ベクトル空間
HdRk(M)=Zk(M)/Bk(M)
を k 次のド・ラーム・コホモロジー群という。以下では Hk(M) と略記し、ω の類を [ω] と書く。k<0 と k>n では Hk(M)=0 である。
命題 7.2 H0(M) は M 上の局所定数関数の空間である。特に M が m 個の連結成分をもてば H0(M)≅Rm である。
証明. B0=0 なので H0=Z0={f∣df=0} である。連結なチャート上で df=0 ならすべての偏導関数が 0 なので、f は定数である。よって df=0 と f が局所定数であることは同値である。局所定数関数は各連結成分上で定数である。□
例 7.3 H1(R)=0 である。実際、ω=g(t) dt に対し f(t)=∫0tg とおけば df=ω となる。したがって H∗(R) は H0=R だけである。
命題 7.4 積分 [ω]↦∫S1ω は同型 H1(S1)≅R を与える。
証明. 完全形式の積分は 0 なので(系 6.17)、この写像は well-defined である。角形式の制限 dθ の積分は 2π なので、全射である。単射を示す。p(t)=(cost,sint) は局所微分同相で p(t+2π)=p(t) を満たすので、p∗ω=g(t) dt と書くと g は周期 2π をもち、∫S1ω=∫02πg dt である。これが 0 なら、F(t)=∫0tg は F(t+2π)=F(t)+∫tt+2πg=F(t) を満たすので、F=f∘p となる滑らかな f:S1→R がある。p∗(df)=dF=p∗ω であり、p は全射な局所微分同相なので df=ω となる。□
命題 7.5(積構造)[ω]∧[η]=[ω∧η] は well-defined であり、H∗(M)=⨁kHk(M) は次数付き可換な代数になる。
証明. 閉形式どうしのウェッジ積は閉形式である。ω∈Zk, η∈Zl のとき、
(ω+dα)∧(η+dβ)=ω∧η+d(α∧η+(−1)kω∧β+α∧dβ)
が成り立つ(右辺を定理 5.12 の条件 2 で展開すればよい)。□
7.2 引き戻しと関手性
滑らかな写像 F:M→N に対し、F∗ は d と可換なので(定理 5.15)、閉形式を閉形式に、完全形式を完全形式に写す。したがって線形写像 F∗:Hk(N)→Hk(M) が誘導される。(G∘F)∗=F∗∘G∗、id∗=id であり、F∗ は積を保つ。特に、微分同相な多様体のコホモロジーは同型である。つまり H∗ は微分同相不変量である。
7.3 ホモトピー不変性
滑らかな写像 H:M×R→N があって H(⋅,0)=F, H(⋅,1)=G となるとき、F と G は滑らかにホモトピックであるという(M×[0,1] 上の滑らかなホモトピーは、t を 0 の近くで 0、1 の近くで 1 となる滑らかな関数で置き換えれば M×R に拡張できる)。it:M→M×R, it(p)=(p,t) とし、T=∂/∂t とおく。
補題 7.6(ホモトピー作用素)h:Ωk(M×R)→Ωk−1(M) を
hω=∫01it∗(ιTω)dt
で定める(各点・各引数で t について積分する)。このとき d(hω)+h(dω)=i1∗ω−i0∗ω が成り立つ。
証明. T のフローは θs(p,t)=(p,t+s) であり、it=θt∘i0 である。第5章の式 (1) とカルタンの公式により
dtdit∗ω=i0∗dtdθt∗ω=i0∗θt∗LTω=it∗(dιTω+ιTdω)=d(it∗ιTω)+it∗ιT(dω)
となる。これを t∈[0,1] で積分する。d と ∫01dt は交換する(座標で見れば積分記号下の微分)ので、主張を得る。□
例 7.7(座標での検算)M の座標 x を使う。ω=f(x,t) dxI なら ιTω=0 で hω=0 であり、dω=∂tf dt∧dxI+(dt を含まない項) なので、h(dω)=(∫01∂tf dt)dxI=(f(x,1)−f(x,0)) dxI=i1∗ω−i0∗ω となる。ω=f dt∧dxI なら it∗ω=0 であり、dhω=∑j(∫01∂jf dt)dxj∧dxI、h(dω)=h(−∑j∂jf dt∧dxj∧dxI)=−∑j(∫01∂jf dt)dxj∧dxI となって、和は 0 である。
定理 7.8(ホモトピー不変性)滑らかにホモトピックな写像 F,G:M→N は、コホモロジー上で同じ写像 F∗=G∗ を誘導する。
証明. H をホモトピーとすると F=H∘i0, G=H∘i1 である。閉形式 ω に対し、補題 7.6 より
G∗ω−F∗ω=i1∗H∗ω−i0∗H∗ω=d(hH∗ω)+h(H∗dω)=d(hH∗ω)
となり、差は完全形式である。□
系 7.9 F:M→N が滑らかなホモトピー同値写像(G∘F, F∘G がそれぞれ恒等写像と滑らかにホモトピックとなる G が存在する)ならば、F∗ は同型である。特に、可縮な多様体(恒等写像が定値写像とホモトピック)では H0=R で、k≥1 に対して Hk=0 である。
証明. F∗G∗=(G∘F)∗=id などから従う。可縮な場合は、恒等写像が 1 点を経由する定値写像とホモトピックであり、1 点のコホモロジーは次数 0 にしかない。□
連続写像は滑らかな写像とホモトピックであり、連続にホモトピックな滑らかな写像は滑らかにホモトピックである(ホイットニーの近似定理、主張のみ)。したがってド・ラーム・コホモロジーは、実は多様体のホモトピー型だけで決まる。
7.4 ポアンカレの補題
定理 7.10(ポアンカレの補題, Poincaré lemma)U⊂Rn がある点に関して星形の開集合ならば、k≥1 に対して Hk(U)=0 である。すなわち、U 上の閉形式はすべて完全形式である。
証明. 星形の中心を 0 とする。ρ:R→[0,1] を、t≤0 で 0、t≥1 で 1 となる滑らかな関数とし(第2章)、H(x,t)=ρ(t)x とおく。星形なので H(x,t)∈U であり、H は定値写像 0 から恒等写像への滑らかなホモトピーである。系 7.9 より従う。□
どの多様体も局所的には Rn の開球と微分同相なので、閉形式は局所的には常に完全形式である。Hk が測っているのは、局所的な原始形式を大域的につなげられるかどうかという障害である。
例 7.11(原始形式の具体形)H(x,t)=tx で補題 7.6 の hH∗ を計算すると、k 形式 ω に対して (Kω)x=∫01tk−1 ιxωtx dt という式が得られ、閉形式 ω について ω=d(Kω) となる。
(1) k=1, ω=∑iωi dxi のとき f(x)=∫01∑ixiωi(tx) dt である。閉性 ∂jωi=∂iωj を使うと、直接
∂jf=∫01(ωj(tx)+t∑ixi∂iωj(tx))dt=∫01dtd(t ωj(tx))dt=ωj(x)
と確かめられる。例えば ω=y dx+x dy なら f=∫012txy dt=xy である。
(2) R3 で divF=0 のとき、ηF は閉 2 形式である。ιxηF(v)=det(F,x,v)=(F×x)⋅v だから、ηF=dωA(すなわち F=rotA)となるベクトルポテンシャルは A(x)=∫01tF(tx)×x dt である。F=(0,0,1) なら A=21(−y,x,0) となり、rotA=(0,0,21+21)=(0,0,1) で確かに正しい。
7.5 マイヤー–ヴィートリス完全列
大きな多様体のコホモロジーを、開集合への分割から計算する。M=U∪V(U,V は開集合)とする。
補題 7.12 各 k について
0⟶Ωk(M) r Ωk(U)⊕Ωk(V) s Ωk(U∩V)⟶0
は完全である。ここで r(ω)=(ω∣U,ω∣V), s(α,β)=β∣U∩V−α∣U∩V であり、r,s は d と可換である。
証明. r の単射性と s∘r=0 は明らかである。s(α,β)=0 なら α と β は U∩V 上で一致するので、貼り合わせて M 上の形式になる。s の全射性を示す。{U,V} に従属する 1 の分割 ρU,ρV をとる。τ∈Ωk(U∩V) に対し、ρVτ は U∖suppρV の上で 0 になるので、0 で延長すれば U 上の滑らかな形式になる(U=(U∩V)∪(U∖suppρV) は開被覆)。同様に ρUτ は V 上の形式になる。s(−ρVτ,ρUτ)=ρUτ+ρVτ=τ である。□
定理 7.13(マイヤー–ヴィートリス完全列, Mayer–Vietoris sequence)次の長完全列が存在する。
⋯→Hk(M)r∗Hk(U)⊕Hk(V)s∗Hk(U∩V) δ Hk+1(M)r∗⋯
連結準同型は δ[τ]=[dρU∧τ] で与えられる(dρU∧τ の台は U∩V に含まれ、0 で延長して M 上の形式とみる)。
証明. 補題 7.12 の完全列を 0→AfBgC→0(各次数で完全、f,g は d と可換)と書く。
δ の定義. 閉形式 c∈Ck に対し、g(b)=c となる b をとる。g(db)=dc=0 より、db=f(a) となる a∈Ak+1 がただ一つある。f(da)=ddb=0 で f は単射なので da=0 である。δ[c]=[a] と定める。b を b+f(a′) に替えると a は a+da′ に変わり、c を c+dc′(g(b′)=c′)に替えると b を b+db′ にとれて a は変わらない。よって δ は well-defined である。MV の場合、b=(−ρVτ,ρUτ) ととれば、dρV=−dρU と dτ=0 より db=(dρU∧τ,dρU∧τ)=r(dρU∧τ) となり、公式が得られる。
Hk(B) での完全性. g∘f=0 より g∗f∗=0 である。閉な b について g(b)=dc′ なら、g(b′)=c′ となる b′ をとると g(b−db′)=0 なので b−db′=f(a) と書ける。f(da)=d(b−db′)=0 より da=0 であり、f∗[a]=[b] となる。
Hk(C) での完全性. 閉な b に対し、c=g(b) の δ は、同じ b を使うと db=0 から a=0 となるので、δg∗=0 である。逆に δ[c]=0、すなわち a=da′′ なら、b−f(a′′) は閉形式で g(b−f(a′′))=c なので、[c]=g∗[b−f(a′′)] となる。
Hk+1(A) での完全性. f∗δ[c]=[f(a)]=[db]=0 である。逆に閉な a について f(a)=db なら、c=g(b) は dc=g(f(a))=0 を満たし、定義から δ[c]=[a] となる。□
有限次元ベクトル空間の完全列 0→V1→⋯→Vm→0 では ∑i(−1)idimVi=0 である(次元定理)。これを繰り返し使う。
例 7.14(S1 の再計算)U=S1∖{N}, V=S1∖{S}(N=(0,1), S=(0,−1))はともに R と微分同相であり、U∩V は右半円 A+ と左半円 A− の 2 つの弧からなる。完全列
0→H0(S1)→R2s∗R2δH1(S1)→0
で s∗(a,b)=(b−a,b−a) の階数は 1 なので、dimH1(S1)=2−1=1 である。A+ 上で 1、A− 上で 0 の関数 τ について、δ[τ]=[dρU∧τ] の積分は、A+ を S から N へ進むときの ρU の変化量 0−1=−1 である(S の近くで ρU=1、N の近くで ρU=0)。よって δ[τ] は 0 でなく、命題 7.4 と整合する。
7.6 計算例
定理 7.15 n≥1 のとき、Hk(Sn)≅R(k=0,n)、Hk(Sn)=0(それ以外)である。Hn(Sn) は体積形式の類で生成される。
証明. n=1 は命題 7.2, 7.4 である。n≥2 とし、U=Sn∖{N}, V=Sn∖{S} とおく。U,V≅Rn は可縮である。立体射影により U∩V≅Rn∖{0} であり、包含 Sn−1→Rn∖{0} と x↦x/∣x∣ は互いにホモトピー逆(ホモトピー (1−t)x+tx/∣x∣)なので、H∗(U∩V)≅H∗(Sn−1) である。k≥1 では Hk(U)⊕Hk(V)=0 なので、MV 完全列から δ:Hk(U∩V)→Hk+1(Sn) は同型である。低次の部分 0→H0(Sn)→R2→H0(U∩V)→H1(Sn)→0 では、n≥2 より U∩V は連結で H0(U∩V)=R であり、次元の交代和から dimH1(Sn)=1−2+1=0 となる。したがって Hk+1(Sn)≅Hk(Sn−1)(k≥1)、H1(Sn)=0 であり、n についての帰納法で主張が従う。体積形式は積分が 0 でないので完全でなく(系 6.17)、1 次元の Hn(Sn) を生成する。□
例 7.16(トーラス)T2=S1×S1 の角座標を (θ1,θ2) とする。S1 の異なる 2 点 p,q をとり、U=(S1∖{p})×S1, V=(S1∖{q})×S1 とおく。U,V は S1 とホモトピー同値であり、H1 は [dθ2] で生成される。U∩V は S1 とホモトピー同値な 2 成分からなる。MV 完全列は
0→H0(T2)→R2αR2δH1(T2)→R2βR2δH2(T2)→0
となる。α(a,b)=(b−a,b−a) で、β も (a[dθ2],b[dθ2])↦((b−a)[dθ2],(b−a)[dθ2]) なので、どちらも階数 1 である。よって
dimH1(T2)=dimImδ+dimkerβ=(2−1)+(2−1)=2,dimH2(T2)=dimCokerβ=1
である。基底は [dθ1],[dθ2] と [dθ1∧dθ2] である。実際、円 C1=S1×{∗}, C2={∗}×S1 上の積分は ∫Cidθj=2πδij なので [dθ1],[dθ2] は一次独立であり、∫T2dθ1∧dθ2=4π2=0 である。積 [dθ1]∧[dθ2] が H2 を生成する点に注意する。一般にキュネットの公式 Hk(M×N)≅⨁i+j=kHi(M)⊗Hj(N)(コホモロジーが有限次元のとき、主張のみ)により、dimHk(Tn)=(kn) である。
例 7.17(穴あき平面)R2∖{0} は S1 とホモトピー同値なので、H1≅R であり、角形式 ω の類で生成される。閉曲線 γ に対する 2π1∫γω は原点のまわりの回転数である。同様に R3∖{0}≃S2 の H2 は立体角形式 Ω で生成される。
7.7 写像度
定理 7.18(主張のみ)M を向き付けられた連結なコンパクト n 次元多様体(境界なし、n≥1)とすると、積分は同型 Hn(M)≅R を与える。
全射であることは体積形式からわかる。単射性の証明には、台がコンパクトで積分が 0 の Rn 上の n 形式が、台がコンパクトな形式の外微分になることを使う(Lee の教科書、Bott–Tu の教科書を参照)。M=Sn の場合は定理 7.15 から従う。
定義 7.19(写像度, degree)M,N を向き付けられた連結なコンパクト n 次元多様体(境界なし)、F:M→N を滑らかな写像とする。定理 7.18 により、ある実数 degF があって、すべての ω∈Ωn(N) について
∫MF∗ω=degF∫Nω
が成り立つ(Hn(N)F∗Hn(M)∫R は 1 次元空間 Hn(N)≅R 上の線形写像だから)。degF を F の写像度という。
命題 7.20 (1) deg(G∘F)=degG⋅degF、degid=1。
(2) 滑らかにホモトピックな写像の写像度は等しい。
(3) 向きを保つ(逆にする)微分同相写像の写像度は 1(−1)である。
(4) F が全射でなければ degF=0 である。
(5) q∈N が F の正則値ならば、degF=∑p∈F−1(q)sgndetdFp である。ここで符号は、dFp が向きを保つとき +1、逆にするとき −1 とする。特に degF∈Z である。
証明. (1) は (G∘F)∗=F∗G∗、(2) は定理 7.8、(3) は積分の変数変換から従う。(4) F(M) はコンパクトなので N∖F(M) は空でない開集合であり、そこに台をもち ∫Nω=1 となる ω がとれる(チャート内の隆起関数)。F∗ω=0 なので degF=0 である。
(5) F−1(q) は各点で dFp が同型なので離散的であり、コンパクトだから有限集合 {p1,…,pm} である(空なら (4) と同じ議論で 0)。逆関数定理により、互いに交わらない近傍 Ui∋pi で、F∣Ui が q の近傍 Wi への微分同相となるものがとれる。W=⋂iWi∖F(M∖⋃iUi) は q の開近傍であり(F(M∖⋃Ui) はコンパクトで q を含まない)、F−1(W)⊂⋃iUi となる。台が W に含まれ ∫Nω=1 となる ω をとれば、(3) により ∫MF∗ω=∑i∫Ui∩F−1(W)F∗ω=∑isgndetdFpi となる。正則値の存在はサードの定理(定理 3.25)による。□
例 7.21 (1) F:S1→S1, F(z)=zk は角座標で θ↦kθ なので、F∗dθ=k dθ であり degF=k である。
(2) 対蹠写像 a:Sn→Sn は、命題 6.4 の証明より a∗σ=(−1)n+1σ なので、dega=(−1)n+1 である。鏡映 (x1,x2,…)↦(−x1,x2,…) の写像度は −1 である。
7.8 毛玉の定理
定理 7.22(毛玉の定理, hairy ball theorem)Sn 上に至る所 0 でない滑らかなベクトル場が存在するための必要十分条件は、n が奇数であることである。
証明. n が奇数なら例 4.2 (3) がある。逆に、至る所 0 でないベクトル場 X があるとする。Sn⊂Rn+1 とみて V=X/∣X∣ とおくと、V(x) は x に直交する単位ベクトルである。H(x,t)=cos(πt) x+sin(πt) V(x) とおくと、∣H(x,t)∣2=cos2(πt)+sin2(πt)=1 なので、H は Sn に値をとる滑らかなホモトピーであり、H(⋅,0)=id, H(⋅,1)=a となる。命題 7.20 と例 7.21 より 1=dega=(−1)n+1 なので、n は奇数である。□
特に、S2 上の風の速度場には必ず無風の点がある。連続なベクトル場についても、近似により同じ結論が成り立つ。
系 7.23 n が偶数ならば、任意の滑らかな写像 F:Sn→Sn について、F(x)=x となる点か F(x)=−x となる点が存在する。
証明. F に不動点がないとする。(1−t)F(x)−tx=0 なら、ノルムを比べて t=1/2、F(x)=x となってしまうので、((1−t)F(x)−tx)/∣(1−t)F(x)−tx∣ は F から a へのホモトピーであり、degF=dega=−1 である。同様に F(x)=−x となる点がなければ、(1−t)F(x)+tx を正規化すれば F と恒等写像がホモトピックになり、degF=1 である。両方が起これば矛盾する。□
7.9 コンパクト台コホモロジーとポアンカレ双対性
台がコンパクトな k 形式全体を Ωck(M) とし、Hck(M)=kerd/d(Ωck−1(M)) をコンパクト台コホモロジーという。M がコンパクトなら Hc∗=H∗ である。Rn では Hcn(Rn)≅R(積分が同型を与える)で、それ以外の次数は 0 である(n=1 の場合は演習問題 7.5)。H∗(Rn) が次数 0 にしかないのと対照的であり、Hc∗ はホモトピー不変でない。
向き付けられた M 上で、ω∈Zk(M), η∈Zcn−k(M) に対し ∫Mω∧η を考える。(ω+dα)∧η=ω∧η+d(α∧η) であり、α∧η の台はコンパクトなので、ストークスの定理からこの積分は類だけで決まる(η の側も同様)。
定理 7.24(ポアンカレ双対性, Poincaré duality)M を向き付けられた n 次元多様体(境界なし)で、有限個の開集合からなる「良い被覆」(空でない有限個の共通部分がすべて Rn と微分同相)をもつものとする(コンパクトならこれを満たす)。このとき、双線形形式 ([ω],[η])↦∫Mω∧η は非退化であり、同型 Hk(M)≅(Hcn−k(M))∗ を与える。特に M がコンパクトなら dimHk(M)=dimHn−k(M) である。
証明は、良い被覆についての帰納法で、マイヤー–ヴィートリス完全列と五項補題を使って行う(Bott–Tu の教科書の第1章を参照。本書では主張のみ)。意味を例で確かめる。
- Sn の次元の列 (1,0,…,0,1) と T2 の (1,2,1) は左右対称である。T2 では ∫dθ1∧dθ2=4π2、∫dθ2∧dθ1=−4π2 であり、H1×H1 上の双線形形式の基底 [dθ1],[dθ2] に関する行列は、対角成分が 0、非対角成分が ±4π2 の正則行列である。
- Rn では H0=R と Hcn=R が ∫1⋅η で対になっている。
- 向き付けられた奇数次元のコンパクト多様体では、dimHk=dimHn−k と (−1)k=−(−1)n−k から、オイラー標数 χ(M)=∑k(−1)kdimHk(M) は 0 になる。
- 向き付け可能でない連結なコンパクト多様体では Hn(M)=0 となる(主張のみ)。例えば Hk(RPn) は、k=0 と「k=n かつ n が奇数」の場合に R、それ以外は 0 である(主張のみ。命題 6.4 と整合する)。
7.10 ド・ラームの定理
定理 7.25(ド・ラームの定理, de Rham theorem。主張のみ)滑らかな多様体 M について、閉形式を滑らかな特異鎖の上で積分する写像は同型
HdRk(M)≅Hk(M;R)
を与える。右辺は実係数の特異コホモロジーであり、この同型はウェッジ積をカップ積に写す。
積分が鎖の境界と整合すること(鎖に対するストークスの定理 ∫∂cω=∫cdω)から、積分はコホモロジーの間の写像を定める。定理の内容は、それが同型であるということである。したがって、ド・ラーム・コホモロジーは位相不変量であり、閉形式が完全であるための必要十分条件は、すべての滑らかなサイクル上の積分(周期)が 0 になることである。角形式はサイクル S1 上の周期 2π をもつので完全でない、という例 5.23 の議論は、この一般的な原理の特別な場合である。特異(コ)ホモロジーとポアンカレ双対性は 位相幾何学 第6章・第7章 で扱う。ホッジ理論(リーマン幾何学 第7章)によれば、コンパクトなリーマン多様体では、各コホモロジー類はただ一つの調和形式で代表される。
まとめ
- Hk(M)=(閉 k 形式)/(完全 k 形式)。H0 は局所定数関数、H1(S1)≅R(積分による)。
- 引き戻しにより H∗ は関手になり、ウェッジ積で次数付き可換代数になる。
- ホモトピー作用素 h により dh+hd=i1∗−i0∗ となり、ホモトピー不変性が従う。星形領域では閉形式は完全である(ポアンカレの補題)。
- マイヤー–ヴィートリス完全列の連結準同型は δ[τ]=[dρU∧τ] で与えられる。
- H∗(Sn) は次数 0,n に R、H∗(T2) の次元は (1,2,1)、R2∖{0} の H1 は角形式で生成される。
- 写像度は整数値のホモトピー不変量であり、正則値の逆像を符号付きで数えて求められる。対蹠写像の写像度は (−1)n+1 であり、ここから毛玉の定理が従う。
- ポアンカレ双対性 Hk≅(Hcn−k)∗ とド・ラームの定理 HdRk≅Hk( ⋅ ;R) が、解析と位相をつなぐ。
演習問題
問題 7.1 ★ n=m ならば、Rn∖{0} と Rm∖{0} は微分同相でない(ホモトピー同値ですらない)ことを示せ。
解答
R1∖{0} は 2 成分なので dimH0=2 である。n≥2 なら Rn∖{0}≃Sn−1 は連結で、定理 7.15 より正の次数で 0 でない Hk は k=n−1 だけである。したがって、コホモロジーから n が決まる。
問題 7.2 ★ F:S1→S1, F(eiθ)=ei(2θ+sinθ) の写像度を、積分と正則値の逆像の個数の両方で求めよ。
解答
F∗dθ=(2+cosθ) dθ なので、∫F∗dθ=4π となり、degF=4π/2π=2 である。一方、g(θ)=2θ+sinθ は g′=2+cosθ>0 より狭義単調増加で、[0,2π) を [0,4π) に写す。q=1 の逆像は g(θ)∈{0,2π}、すなわち θ=0,π の 2 点で、どちらも符号 +1 である。よって degF=2 となり、一致する。
問題 7.3 ★★ 相異なる 2 点を除いた平面 M=R2∖{p,q} のコホモロジーを求めよ。
解答
p=(0,0), q=(1,0) とし、U={x<3/4}∖{p}, V={x>1/4}∖{q} とおく。U,V≃S1 であり、U∩V は帯 1/4<x<3/4 で可縮である。MV 完全列は 0→H0(M)→R2→RδH1(M)→R2→0→H2(M)→0 となる。R2→R は全射なので δ=0 であり、H1(M)≅R2 となる。また H0(M)=R, H2(M)=0 である。H1 の基底は、p と q のまわりの角形式である。
問題 7.4 ★★ 滑らかな写像 F:S2→T2 の写像度は 0 であることを示せ。
解答
H1(S2)=0 なので F∗[dθ1]=F∗[dθ2]=0 である。F∗ は積を保つから F∗[dθ1∧dθ2]=F∗[dθ1]∧F∗[dθ2]=0 となる。よって degF⋅4π2=∫S2F∗(dθ1∧dθ2)=0 である。
問題 7.5 ★★ Hc0(R)=0 および Hc1(R)≅R(積分による)を示せ。
解答
台がコンパクトな局所定数関数は、R が連結で非コンパクトなので 0 である。∫:Hc1(R)→R は、∫Rdg=0(g の台はコンパクト)より well-defined であり、隆起関数を使えば全射である。ω=f dt∈Ωc1 で ∫f=0 なら、F(t)=∫−∞tf は suppf の左側でも右側でも 0 なので台がコンパクトで、dF=ω となる。よって単射である。
問題 7.6 ★★★ n が偶数のとき、Sn に微分同相写像として自由に作用する(単位元以外は不動点をもたない)群の位数は 2 以下であることを示せ。
解答
各 g∈G は微分同相なので degg=±1 であり、命題 7.20 (1) より deg:G→{±1} は準同型である。g=e は不動点をもたないので、系 7.23 の証明のとおり g は a とホモトピックであり、degg=dega=(−1)n+1=−1 となる。よって核は {e} であり、G は {±1} に単射に埋め込まれる。RPn(n 偶数)は Z/2Z による商であり、これが実現される。
問題 7.7 ★★★ 種数 2 の閉曲面 Σ2 のコホモロジーの次元が (1,4,1) であることを、次の手順で示せ。(a) 1 点を除いたトーラス W=T2∖{p} について dimH∗(W)=(1,2,0)。(b) Σ2=U∪V(U,V≃W、U∩V は円環)に MV を適用する。
解答
(ヒント)(a) T2=W∪D(D は p のまわりの円板)とし、W∩D≃S1 とする。τ を p のまわりの角形式とすると、δ[τ]=[dρW∧τ] である。ρW は p の近くで 0、D の縁の近くで 1 なので、円環上でストークスの定理を使うと ∫T2dρW∧τ=±2π=0 となる。よって δ:H1(W∩D)→H2(T2) は同型である。一方、H0 の部分の写像 R2→R は全射なので、H1(T2)→H1(W) は単射である。δ が同型なので H1(W)→H1(W∩D) は 0 であり、H1(W)≅H1(T2)=R2 となる。また H2(T2)→H2(W) は 0 で、次の項が 0 なので H2(W)=0 となる。
(b) W 上の閉 1 形式の、穴のまわりの円 C 上の積分は、C がコンパクト曲面「T2 から開円板を除いたもの」の境界なので、ストークスの定理から 0 である。したがって H1(U)⊕H1(V)→H1(U∩V) は 0 である。MV 完全列 0→R→R2→R→H1(Σ2)→R40R→H2(Σ2)→0 で、R2→R が全射であることから、H1(Σ2)≅R4、H2(Σ2)≅R を得る。オイラー標数は 1−4+1=−2=2−2⋅2 であり、第1章のガウス–ボネの定理の χ と一致する。