Lemma数学ロードマップ

02 線形代数 · 第 2 章

ベクトル空間

目安 14〜18 時間定理など 17演習 10 問

この章の目標

  • 体とベクトル空間の公理を理解し、数ベクトル空間以外の例(多項式・関数・数列の空間)を同じ言葉で扱えるようになる
  • 部分空間・一次結合・生成・一次独立を定義に基づいて判定できる
  • シュタイニッツの交換定理を証明し、次元が基底の選び方によらないことを説明できる
  • 基底の延長・和空間と直和・次元公式を証明し、具体的な計算に使える
  • 無限次元空間にも基底が存在すること(ツォルンの補題による)と、その限界を理解する

前提:第1章。2.9 節では数学の言葉 第6章 選択公理とツォルンの補題を使う。

2.1 動機:「ベクトル」とは何か

高校では、ベクトルを「向きと大きさをもつ矢印」として学んだ。しかし数学では、矢印とは似ても似つかない対象が、ベクトルと同じ振る舞いをする。

  • 同次連立方程式 Ax=0Ax = 0 の二つの解の和は解であり、解の定数倍も解である(第1章)。
  • 多項式どうしは足せて、定数倍できる。
  • 微分方程式 y′′+y=0y'' + y = 0 の解 sin⁡x\sin x, cos⁡x\cos x について、asin⁡x+bcos⁡xa \sin x + b \cos x もまた解である。
  • 漸化式 an+2=an+1+ana_{n+2} = a_{n+1} + a_n を満たす数列の和や定数倍も、同じ漸化式を満たす。

いずれも「足し算」と「スカラー倍」が定義されていて、その計算規則が数ベクトルと同じである。そこで、計算規則だけを公理として取り出し、それを満たすものをベクトル空間と呼ぶことにする。こうしておけば、一度証明した定理(例えば「次元」の理論)が、これらすべての例に同時に適用できる。例えば「y′′+y=0y'' + y = 0 の解全体は 2 次元である」ことがわかれば、sin⁡x\sin x と cos⁡x\cos x の一次結合ですべての解が尽くされることが従う。

2.2 体

スカラーとして使う数の体系を明確にしておく。

定義 2.1(体, field)集合 KK に二つの演算 ++(加法)と ⋅\cdot(乗法)が与えられ、次を満たすとき KK を体という。

  1. 加法について:結合法則、交換法則を満たし、零元 00 が存在し、各元 aa に対し a+(−a)=0a + (-a) = 0 となる −a-a が存在する。
  2. 乗法について:結合法則、交換法則を満たし、単位元 11 が存在し、00 でない各元 aa に対し aa−1=1a a^{-1} = 1 となる a−1a^{-1} が存在する。
  3. 分配法則 a(b+c)=ab+aca(b + c) = ab + ac が成り立ち、0≠10 \neq 1 である。

要するに、加減乗除(0 で割ることを除く)が自由にでき、通常の計算規則が成り立つ数の体系である。

例 2.2

  1. Q,R,C\mathbb{Q}, \mathbb{R}, \mathbb{C} は体である。整数全体 Z\mathbb{Z} は体ではない(22 の逆元が Z\mathbb{Z} にない)。
  2. pp を素数とすると、pp で割った余りの集合 Fp=Z/pZ={0,1,…,p−1}\mathbb{F}_p = \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} = \lbrace 0, 1, \dots, p-1 \rbrace は、余りの加法・乗法で体になる(代数学 第1章)。例えば F2={0,1}\mathbb{F}_2 = \lbrace 0, 1 \rbrace では 1+1=01 + 1 = 0 である。一方、Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} は体ではない(2⋅2=02 \cdot 2 = 0 なので 22 は逆元をもたない)。
  3. Q(2)={a+b2∣a,b∈Q}\mathbb{Q}(\sqrt{2}) = \lbrace a + b\sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace は体である。a+b2≠0a + b\sqrt{2} \neq 0 のとき (a+b2)−1=(a−b2)/(a2−2b2)(a + b\sqrt{2})^{-1} = (a - b\sqrt{2})/(a^2 - 2b^2) であり、2\sqrt{2} が無理数であることから分母は 0 でない。

注意 2.3 1+1+⋯+11 + 1 + \cdots + 1(pp 個)=0= 0 となる最小の p∈Np \in \mathbb{N} が存在するとき、それを KK の標数 (characteristic) といい、存在しなければ標数は 00 という。Q,R,C\mathbb{Q}, \mathbb{R}, \mathbb{C} の標数は 0、Fp\mathbb{F}_p の標数は pp である。標数 2 の体では 2=02 = 0 なので「2 で割る」ことができず、いくつかの命題(例えば問題 2.6)が成り立たなくなる。本章の定理は、特に断らない限り任意の体で成り立つ。

体の一般論は代数学 第5章、第8章で扱う。

2.3 ベクトル空間の公理と例

定義 2.4(ベクトル空間, vector space)KK を体とする。集合 VV に、加法 V×V→VV \times V \to V, (u,v)↦u+v(u, v) \mapsto u + v とスカラー倍 K×V→VK \times V \to V, (c,v)↦cv(c, v) \mapsto cv が与えられ、任意の u,v,w∈Vu, v, w \in V、c,d∈Kc, d \in K に対して次を満たすとき、VV を KK 上のベクトル空間(線形空間, linear space)といい、VV の元をベクトルという。

  1. (u+v)+w=u+(v+w)(u + v) + w = u + (v + w)
  2. u+v=v+uu + v = v + u
  3. ある元 0∈V0 \in V(零ベクトル)があって、すべての vv で v+0=vv + 0 = v
  4. 各 vv に対し v+v′=0v + v' = 0 となる v′∈Vv' \in V が存在する
  5. c(u+v)=cu+cvc(u + v) = cu + cv
  6. (c+d)v=cv+dv(c + d)v = cv + dv
  7. (cd)v=c(dv)(cd)v = c(dv)
  8. 1v=v1v = v

K=RK = \mathbb{R} のとき実ベクトル空間、K=CK = \mathbb{C} のとき複素ベクトル空間という。

命題 2.5 VV をベクトル空間とする。

  1. 零ベクトルはただ一つである。各 vv に対し公理 4 の v′v' はただ一つであり、これを −v-v と書く。
  2. 0v=00v = 0、c0=0c0 = 0、(−1)v=−v(-1)v = -v(左辺の 00 はスカラー、右辺はベクトル)。
  3. cv=0cv = 0 ならば c=0c = 0 または v=0v = 0。

証明. 1:0,0′0, 0' がともに零ベクトルなら 0=0+0′=0′+0=0′0 = 0 + 0' = 0' + 0 = 0'。v′,v′′v', v'' がともに公理 4 を満たすなら v′=v′+(v+v′′)=(v′+v)+v′′=v′′v' = v' + (v + v'') = (v' + v) + v'' = v''。

2:0v=(0+0)v=0v+0v0v = (0 + 0)v = 0v + 0v の両辺に −(0v)-(0v) を加えて 0=0v0 = 0v。c0=0c0 = 0 も同様に c0=c(0+0)=c0+c0c0 = c(0 + 0) = c0 + c0 から従う。v+(−1)v=1v+(−1)v=(1+(−1))v=0v=0v + (-1)v = 1v + (-1)v = (1 + (-1))v = 0v = 0 なので、1 の一意性から (−1)v=−v(-1)v = -v。

3:c≠0c \neq 0 なら v=1v=(c−1c)v=c−1(cv)=c−10=0v = 1v = (c^{-1}c)v = c^{-1}(cv) = c^{-1} 0 = 0。□\square

以下、u+(−v)u + (-v) を u−vu - v と書く。

例 2.6(数ベクトル空間・行列の空間)KnK^n は成分ごとの加法・スカラー倍で KK 上のベクトル空間である。同様に M⁡m,n(K)\operatorname{M}_{m,n}(K) もベクトル空間である(命題 1.4)。

例 2.7(多項式の空間)KK 係数の多項式 a0+a1x+⋯+anxna_0 + a_1 x + \cdots + a_n x^n 全体を K[x]K[x] と書く。多項式は係数の列 (a0,a1,a2,… )(a_0, a_1, a_2, \dots)(有限個を除いて 0)と同一視され、二つの多項式が等しいとは係数がすべて等しいことである。通常の加法と定数倍で K[x]K[x] はベクトル空間になる。n∈Z≥0n \in \mathbb{Z}_{\geq 0} に対し、次数 nn 以下の多項式(0 を含む)全体を K[x]≤nK[x]_{\leq n} と書く。

注意

多項式と多項式関数は区別する必要がある。F2\mathbb{F}_2 上の多項式 x2+xx^2 + x は零多項式ではないが、F2\mathbb{F}_2 の元 0,10, 1 を代入するとどちらも 0 になるので、F2→F2\mathbb{F}_2 \to \mathbb{F}_2 の関数としては零関数である。KK が無限体(R,C\mathbb{R}, \mathbb{C} など)なら、零でない多項式の根は有限個なので、この区別は問題にならない。

例 2.8(関数の空間)XX を集合とし、XX から KK への写像全体 KXK^X に

(f+g)(x)=f(x)+g(x),(cf)(x)=cf(x)(f + g)(x) = f(x) + g(x), \qquad (cf)(x) = c f(x)

で演算を定めると、KXK^X はベクトル空間である(零ベクトルは恒等的に 0 の関数)。X={1,…,n}X = \lbrace 1, \dots, n \rbrace なら KXK^X は KnK^n そのものである。区間 [a,b][a, b] 上の実数値連続関数全体 C([a,b])C([a, b])、R\mathbb{R} 上の C∞C^\infty 級関数全体 C∞(R)C^\infty(\mathbb{R}) も同じ演算でベクトル空間になる(連続関数・C∞C^\infty 級関数の和や定数倍がまたそうであることは微分積分学 第3章、第4章で学ぶ)。

例 2.9(数列の空間)KK の元の数列 (a1,a2,a3,… )(a_1, a_2, a_3, \dots) 全体 KNK^{\mathbb{N}} は、項ごとの演算でベクトル空間である(例 2.8 で X=NX = \mathbb{N} としたもの)。有限個の項を除いて 0 である数列全体を K(N)K^{(\mathbb{N})} と書く。実数の収束列全体、有界列全体も RN\mathbb{R}^{\mathbb{N}} の中でベクトル空間をなす。

例 2.10(体を取り替える)同じ集合でも、スカラーの体が違えば別のベクトル空間である。C\mathbb{C} は C\mathbb{C} 上のベクトル空間であり、また(スカラー倍を実数倍に制限して)R\mathbb{R} 上のベクトル空間でもある。同様に R\mathbb{R} は Q\mathbb{Q} 上のベクトル空間である。

例 2.11(見慣れない演算)正の実数全体 R>0\mathbb{R}_{>0} に、「加法」を u⊕v=uvu \oplus v = uv(通常の積)、「スカラー倍」を c⊙v=vcc \odot v = v^c (c∈R)(c \in \mathbb{R}) で定めると、これは R\mathbb{R} 上のベクトル空間になる。零ベクトルは 11、vv の逆ベクトルは 1/v1/v である。例えば公理 6 は vc+d=vcvdv^{c+d} = v^c v^d、公理 7 は vcd=(vd)cv^{cd} = (v^d)^c にあたる。第3章の言葉では、log⁡ ⁣:R>0→R\log\colon \mathbb{R}_{>0} \to \mathbb{R} はこのベクトル空間から R\mathbb{R} への同型写像である。公理を満たしさえすれば、演算の「見かけ」は何でもよいのである。

2.4 部分空間

定義 2.12(部分空間, subspace)ベクトル空間 VV の空でない部分集合 WW が、加法とスカラー倍について閉じている、すなわち

u,v∈W, c∈K  ⟹  u+v∈W, cu∈Wu, v \in W,\ c \in K \implies u + v \in W,\ cu \in W

を満たすとき、WW を VV の部分空間という。

部分空間は VV の演算を制限してそれ自身ベクトル空間になる(公理 1, 2, 5〜8 は VV で成り立つので WW でも成り立ち、w∈Ww \in W をとれば 0=0w∈W0 = 0w \in W、−w=(−1)w∈W-w = (-1)w \in W となる)。特に部分空間は必ず零ベクトルを含む。{0}\lbrace 0 \rbrace と VV 自身も部分空間である。

例 2.13

  1. A∈M⁡m,n(K)A \in \operatorname{M}_{m,n}(K) に対し、Ax=0Ax = 0 の解全体 {x∈Kn∣Ax=0}\lbrace x \in K^n \mid Ax = 0 \rbrace は KnK^n の部分空間である(解空間)。b≠0b \neq 0 のとき Ax=bAx = b の解全体は、00 を含まないので部分空間ではない。
  2. 対称行列全体、交代行列全体は M⁡n(K)\operatorname{M}_n(K) の部分空間である。
  3. K[x]≤nK[x]_{\leq n} は K[x]K[x] の部分空間である。一方、「ちょうど nn 次の多項式全体」は部分空間ではない(xnx^n と −xn+1-x^n + 1 の和は 11 で次数が nn でない。また 0 を含まない)。
  4. 収束列全体は有界列全体の部分空間であり、有界列全体は RN\mathbb{R}^{\mathbb{N}} の部分空間である。
  5. R2\mathbb{R}^2 の部分集合 {(x,y)∣xy=0}\lbrace (x, y) \mid xy = 0 \rbrace(2 本の座標軸の和集合)は部分空間ではない:(1,0)+(0,1)=(1,1)(1, 0) + (0, 1) = (1, 1) が含まれない。{(x,y)∣x≥0}\lbrace (x, y) \mid x \geq 0 \rbrace も部分空間ではない:(−1)(1,0)(-1)(1, 0) が含まれない。

命題 2.14 部分空間の族 (Wλ)λ∈Λ(W_\lambda)_{\lambda \in \Lambda} の共通部分 ⋂λWλ\bigcap_{\lambda} W_\lambda は部分空間である。

証明. 00 はすべての WλW_\lambda に含まれるので共通部分は空でない。u,vu, v が共通部分に含まれれば、各 WλW_\lambda で u+v,cu∈Wλu + v, cu \in W_\lambda なので共通部分に含まれる。□\square

和集合は一般に部分空間でない(例 2.13 の 5、問題 2.8)。

2.5 一次結合と生成

定義 2.15(一次結合・生成)v1,…,vk∈Vv_1, \dots, v_k \in V と c1,…,ck∈Kc_1, \dots, c_k \in K に対し、c1v1+⋯+ckvkc_1 v_1 + \cdots + c_k v_k を v1,…,vkv_1, \dots, v_k の一次結合(線形結合, linear combination)という。部分集合 S⊂VS \subset V に対し、SS の有限個の元の一次結合全体を

span⁡(S)={∑i=1kcivi | k∈Z≥0, vi∈S, ci∈K}\operatorname{span}(S) = \left\lbrace \sum_{i=1}^{k} c_i v_i \ \middle\vert\ k \in \mathbb{Z}_{\geq 0},\ v_i \in S,\ c_i \in K \right\rbrace

と書き、SS が生成する(張る, span)部分空間という(k=0k = 0 の空の和は 00 と約束し、span⁡(∅)={0}\operatorname{span}(\emptyset) = \lbrace 0 \rbrace)。span⁡(S)=V\operatorname{span}(S) = V のとき、SS は VV を生成する、あるいは SS は VV の生成系であるという。有限集合で生成されるベクトル空間を有限生成という。

一次結合は常に有限和であることを強調しておく。無限和には収束の概念が必要であり、代数的な線形代数の範囲外である。

命題 2.16 span⁡(S)\operatorname{span}(S) は SS を含む部分空間であり、SS を含む任意の部分空間に含まれる。すなわち、SS を含む最小の部分空間である。

証明. 一次結合の和や定数倍はまた一次結合なので span⁡(S)\operatorname{span}(S) は部分空間であり、v∈Sv \in S は 1v1v として含まれる。WW が SS を含む部分空間なら、WW は加法とスカラー倍で閉じているので SS の元の一次結合をすべて含む。□\square

例 2.17

  1. Kn=span⁡(e1,…,en)K^n = \operatorname{span}(e_1, \dots, e_n)、K[x]≤n=span⁡(1,x,…,xn)K[x]_{\leq n} = \operatorname{span}(1, x, \dots, x^n)、K[x]=span⁡(1,x,x2,… )K[x] = \operatorname{span}(1, x, x^2, \dots) である。K[x]K[x] は有限生成ではない:有限個の多項式の次数の最大値を NN とすると、それらの一次結合の次数は NN 以下であり、xN+1x^{N+1} を表せない。
  2. KNK^{\mathbb{N}} において、ene_n を第 nn 項だけ 1 で他が 0 の数列とすると、span⁡(e1,e2,… )=K(N)\operatorname{span}(e_1, e_2, \dots) = K^{(\mathbb{N})} であって、KNK^{\mathbb{N}} 全体ではない。例えば定数列 (1,1,1,… )(1, 1, 1, \dots) は ene_n たちの(有限個の)一次結合で書けない。
  3. A∈M⁡m,n(K)A \in \operatorname{M}_{m,n}(K) の列 a1,…,ana_1, \dots, a_n が生成する部分空間を AA の列空間という。命題 1.6 より列空間は {Ax∣x∈Kn}\lbrace Ax \mid x \in K^n \rbrace に等しく、Ax=bAx = b が解をもつことは bb が列空間に属することと同値である。

2.6 一次独立

生成系は「VV のすべてを表すのに十分な」ベクトルの集まりである。次に「無駄がない」ことを定式化する。

定義 2.18(一次独立, linear independence)v1,…,vk∈Vv_1, \dots, v_k \in V が

c1v1+⋯+ckvk=0  ⟹  c1=⋯=ck=0c_1 v_1 + \cdots + c_k v_k = 0 \implies c_1 = \cdots = c_k = 0

を満たすとき、v1,…,vkv_1, \dots, v_k は一次独立(線形独立)であるという。一次独立でないとき一次従属であるという。無限集合 S⊂VS \subset V については、SS の相異なる有限個の元がつねに一次独立であるとき、SS は一次独立であるという。

一次従属とは、自明でない一次関係 c1v1+⋯+ckvk=0c_1 v_1 + \cdots + c_k v_k = 0(ある ci≠0c_i \neq 0)が存在することである。零ベクトルを含む組や、同じベクトルを 2 回含む組は一次従属である。

例 2.19(体によって答えが変わる)K3K^3 のベクトル u1=t(1,1,0)u_1 = {}^t(1, 1, 0)、u2=t(1,0,1)u_2 = {}^t(1, 0, 1)、u3=t(0,1,1)u_3 = {}^t(0, 1, 1) を考える。c1u1+c2u2+c3u3=t(c1+c2, c1+c3, c2+c3)=0c_1 u_1 + c_2 u_2 + c_3 u_3 = {}^t(c_1 + c_2,\ c_1 + c_3,\ c_2 + c_3) = 0 とすると、c1=−c2=−c3c_1 = -c_2 = -c_3 かつ c2=−c3c_2 = -c_3 から c2=c3=−c3c_2 = c_3 = -c_3、すなわち 2c3=02c_3 = 0 である。標数が 2 でなければ c3=0c_3 = 0 となり、c1=c2=c3=0c_1 = c_2 = c_3 = 0 なので一次独立である。K=F2K = \mathbb{F}_2 では u1+u2+u3=t(2,2,2)=0u_1 + u_2 + u_3 = {}^t(2, 2, 2) = 0 なので一次従属である。

例 2.20

  1. 1,x,x2,…1, x, x^2, \dots は K[x]K[x] で一次独立である:有限個の一次結合 ∑cixi\sum c_i x^i が零多項式であることは、定義によりすべての係数 cic_i が 0 であることである。
  2. sin⁡x,cos⁡x\sin x, \cos x は C(R)C(\mathbb{R}) で一次独立である:asin⁡x+bcos⁡x=0a \sin x + b \cos x = 0(すべての xx で)とすると、x=0x = 0 を代入して b=0b = 0、x=π/2x = \pi/2 を代入して a=0a = 0。
  3. C(R)C(\mathbb{R}) で sin⁡2x,cos⁡2x,1\sin^2 x, \cos^2 x, 1 は一次従属である:sin⁡2x+cos⁡2x−1=0\sin^2 x + \cos^2 x - 1 = 0。

命題 2.21

  1. v1,…,vkv_1, \dots, v_k (k≥1)(k \geq 1) が一次従属であるための必要十分条件は、ある vjv_j が残りの viv_i (i≠j)(i \neq j) の一次結合で書けることである。
  2. v1,…,vkv_1, \dots, v_k が一次独立で v∉span⁡(v1,…,vk)v \notin \operatorname{span}(v_1, \dots, v_k) ならば、v1,…,vk,vv_1, \dots, v_k, v は一次独立である。
  3. v1,…,vkv_1, \dots, v_k が一次独立ならば、span⁡(v1,…,vk)\operatorname{span}(v_1, \dots, v_k) の元を ∑civi\sum c_i v_i と表す方法はただ一つである。

証明. 1:∑civi=0\sum c_i v_i = 0 で cj≠0c_j \neq 0 なら vj=−cj−1∑i≠jciviv_j = -c_j^{-1} \sum_{i \neq j} c_i v_i。逆に vj=∑i≠jdiviv_j = \sum_{i \neq j} d_i v_i なら vj−∑i≠jdivi=0v_j - \sum_{i \neq j} d_i v_i = 0 は vjv_j の係数が 1≠01 \neq 0 の一次関係である。

2:∑civi+cv=0\sum c_i v_i + c v = 0 とする。c≠0c \neq 0 なら v=−c−1∑civi∈span⁡(v1,…,vk)v = -c^{-1} \sum c_i v_i \in \operatorname{span}(v_1, \dots, v_k) となり仮定に反する。よって c=0c = 0 で、viv_i の一次独立性から ci=0c_i = 0。

3:∑civi=∑divi\sum c_i v_i = \sum d_i v_i なら ∑(ci−di)vi=0\sum (c_i - d_i) v_i = 0 なので ci=dic_i = d_i。□\square

数ベクトルの一次独立性は、第1章の階数で判定できる。

命題 2.22 v1,…,vk∈Knv_1, \dots, v_k \in K^n を並べた n×kn \times k 行列を A=(v1 ⋯ vk)A = (v_1 \ \cdots \ v_k) とする。v1,…,vkv_1, \dots, v_k が一次独立であるための必要十分条件は rank⁡A=k\operatorname{rank} A = k である。特に k>nk > n なら KnK^n の kk 個のベクトルは一次従属である。

証明. 命題 1.6 より ∑civi=Ac\sum c_i v_i = Ac(c=t(c1,…,ck)c = {}^t(c_1, \dots, c_k))なので、一次独立性は「Ac=0Ac = 0 の解が c=0c = 0 のみ」と同値であり、系 1.31 よりこれは rank⁡A=k\operatorname{rank} A = k と同値である。k>nk > n なら rank⁡A≤n<k\operatorname{rank} A \leq n < k。□\square

2.7 基底と次元

定義 2.23(基底, basis)ベクトル空間 VV の部分集合 BB が一次独立かつ VV を生成するとき、BB を VV の基底という。有限次元の場合は、順序をつけた組 (v1,…,vn)(v_1, \dots, v_n) を基底ということが多い。

命題 2.24 (v1,…,vn)(v_1, \dots, v_n) が VV の基底であるための必要十分条件は、任意の v∈Vv \in V が

v=c1v1+⋯+cnvn(ci∈K)v = c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n \qquad (c_i \in K)

とただ一通りに表されることである。

証明. 「表される」ことが生成、「ただ一通り」が一次独立に対応する。一次独立なら表し方が一意であることは命題 2.21 の 3 である。逆に表し方が一意なら、0=0v1+⋯+0vn0 = 0v_1 + \cdots + 0v_n という表し方しかないので一次独立である。□\square

係数の組 t(c1,…,cn)∈Kn{}^t(c_1, \dots, c_n) \in K^n を、基底 (v1,…,vn)(v_1, \dots, v_n) に関する vv の座標 (coordinates) という。基底を一つ選ぶと、VV の元と KnK^n の元が一対一に対応し、この対応は和とスカラー倍を保つ。つまり基底を選ぶことは座標系を選ぶことであり、それによって抽象的なベクトル空間が数ベクトル空間 KnK^n と同一視される。ただし、この同一視は基底の選び方に依存する。第3章以降で繰り返し見るように、線形代数の多くの議論は「都合のよい基底を選ぶ」ことに帰着する。

例 2.25

  1. (e1,…,en)(e_1, \dots, e_n) は KnK^n の基底である(標準基底)。
  2. (1,x,…,xn)(1, x, \dots, x^n) は K[x]≤nK[x]_{\leq n} の基底、{1,x,x2,… }\lbrace 1, x, x^2, \dots \rbrace は K[x]K[x] の基底である。
  3. 行列単位 EijE_{ij} (1≤i≤m, 1≤j≤n)(1 \leq i \leq m,\ 1 \leq j \leq n) は M⁡m,n(K)\operatorname{M}_{m,n}(K) の基底である。
  4. (1,i)(1, i) は R\mathbb{R} 上のベクトル空間 C\mathbb{C} の基底である。
  5. A∈M⁡m,n(K)A \in \operatorname{M}_{m,n}(K)、r=rank⁡Ar = \operatorname{rank} A とする。系 1.31 の証明で、自由変数のうち一つを 1、他を 0 として得られる n−rn - r 個の解は、Ax=0Ax = 0 の解空間の基底である。実際、補題 1.24 より任意の解は自由変数の値で決まり、自由変数の値の組 (tj)(t_j) に対応する解はこれら n−rn - r 個の解の tjt_j を係数とする一次結合である(生成)。また一次結合が 0 なら自由変数の成分がすべて 0 なので係数は 0 である(一次独立)。例 1.32 では t(−2,1,0,0){}^t(-2, 1, 0, 0)、t(−1,0,1,1){}^t(-1, 0, 1, 1) が解空間の基底である。

基底の元の個数が基底によらないことを示すのが、次の定理である。

定理 2.26(シュタイニッツの交換定理, Steinitz exchange theorem)ベクトル空間 VV において、v1,…,vmv_1, \dots, v_m が一次独立で、w1,…,wnw_1, \dots, w_n が VV を生成するとする。このとき m≤nm \leq n であり、w1,…,wnw_1, \dots, w_n の番号を適当に付け替えると、

v1,…,vm,wm+1,…,wnv_1, \dots, v_m, w_{m+1}, \dots, w_n

が VV を生成する。つまり、生成系の mm 個の元を v1,…,vmv_1, \dots, v_m と「交換」しても生成系のままである。

証明. mm に関する帰納法で示す。m=0m = 0 のときは何も示すことはない。m≥1m \geq 1 とし、m−1m - 1 のとき正しいとする。v1,…,vm−1v_1, \dots, v_{m-1} は一次独立なので、帰納法の仮定から m−1≤nm - 1 \leq n で、番号を付け替えると v1,…,vm−1,wm,…,wnv_1, \dots, v_{m-1}, w_m, \dots, w_n が VV を生成する。特に vmv_m はこれらの一次結合で

vm=a1v1+⋯+am−1vm−1+bmwm+⋯+bnwnv_m = a_1 v_1 + \cdots + a_{m-1} v_{m-1} + b_m w_m + \cdots + b_n w_n

と書ける。もし bm,…,bnb_m, \dots, b_n がすべて 0(m−1=nm - 1 = n で ww の項がない場合を含む)なら、vmv_m は v1,…,vm−1v_1, \dots, v_{m-1} の一次結合となり、v1,…,vmv_1, \dots, v_m の一次独立性(命題 2.21 の 1)に反する。したがって m−1<nm - 1 < n、すなわち m≤nm \leq n であり、ある bj≠0b_j \neq 0 (j≥m)(j \geq m) がある。番号を付け替えて bm≠0b_m \neq 0 としてよい。すると

wm=bm−1(vm−∑i=1m−1aivi−∑j=m+1nbjwj)w_m = b_m^{-1} \left( v_m - \sum_{i=1}^{m-1} a_i v_i - \sum_{j=m+1}^{n} b_j w_j \right)

であるから、wm∈span⁡(v1,…,vm,wm+1,…,wn)w_m \in \operatorname{span}(v_1, \dots, v_m, w_{m+1}, \dots, w_n) である。よってこの部分空間は v1,…,vm−1,wm,…,wnv_1, \dots, v_{m-1}, w_m, \dots, w_n をすべて含み、これらは VV を生成するので、命題 2.16 よりこの部分空間は VV に等しい。□\square

系 2.27 nn 個のベクトルで生成されるベクトル空間において、n+1n + 1 個以上のベクトルは一次従属である。

定理 2.28(次元の well-definedness)ベクトル空間 VV が有限個の元からなる基底をもつならば、VV のすべての基底は同じ個数の元からなる。

証明. (v1,…,vm)(v_1, \dots, v_m) と (w1,…,wn)(w_1, \dots, w_n) を基底とする。前者は一次独立、後者は生成系なので定理 2.26 より m≤nm \leq n。役割を入れ替えて n≤mn \leq m。□\square

(一方の基底が無限集合の場合も、系 2.27 により他方も有限にはなりえない。)

定義 2.29(次元, dimension)VV が有限個の元からなる基底をもつとき、その元の個数を VV の次元といい dim⁡V\dim V(体を明示するときは dim⁡KV\dim_K V)と書く。このとき VV は有限次元であるという。{0}\lbrace 0 \rbrace の基底は空集合であり、dim⁡{0}=0\dim \lbrace 0 \rbrace = 0 とする。有限次元でないベクトル空間を無限次元という。

例 2.30 dim⁡Kn=n\dim K^n = n、dim⁡K[x]≤n=n+1\dim K[x]_{\leq n} = n + 1、dim⁡M⁡m,n(K)=mn\dim \operatorname{M}_{m,n}(K) = mn、dim⁡RC=2\dim_{\mathbb{R}} \mathbb{C} = 2、dim⁡CC=1\dim_{\mathbb{C}} \mathbb{C} = 1。K[x]K[x] は有限生成でない(例 2.17)ので無限次元である。C([a,b])C([a, b]) は一次独立な無限集合 {1,x,x2,… }\lbrace 1, x, x^2, \dots \rbrace を含む(零でない多項式は有限個の根しかもたないので、[a,b][a, b] 上で恒等的に 0 にはならない)から、系 2.27 により無限次元である。Ax=0Ax = 0 の解空間の次元は n−rank⁡An - \operatorname{rank} A である(例 2.25 の 5)。

定理 2.31(基底の取り出しと延長)VV を有限生成なベクトル空間とする。

  1. VV の有限な生成系は、VV の基底を部分集合として含む。特に VV は有限次元である。
  2. VV の一次独立な元の組は、元を付け加えて VV の基底に延長できる。
  3. dim⁡V=n\dim V = n とする。nn 個の一次独立な元は基底である。VV を生成する nn 個の元は基底である。

証明. 1:有限な生成系 SS の部分集合で一次独立なもの(空集合はその一つ)のうち、元の個数が最大のもの BB をとる。SS の任意の元 ss は span⁡(B)\operatorname{span}(B) に属する:さもなければ命題 2.21 の 2 により B∪{s}B \cup \lbrace s \rbrace が一次独立になり、最大性に反する。よって span⁡(B)⊃S\operatorname{span}(B) \supset S であり、span⁡(B)⊃span⁡(S)=V\operatorname{span}(B) \supset \operatorname{span}(S) = V。BB は一次独立な生成系、すなわち基底である。

2:VV は nn 個の元で生成されるとする。一次独立な組 v1,…,vmv_1, \dots, v_m が VV を生成しなければ、v∉span⁡(v1,…,vm)v \notin \operatorname{span}(v_1, \dots, v_m) をとって付け加えると、命題 2.21 の 2 より一次独立な組が得られる。これを繰り返すと、系 2.27 により元の個数は nn を超えないので、有限回で VV を生成する一次独立な組、すなわち基底に到達する。

3:nn 個の一次独立な元を 2 で基底に延長すると、基底の元の個数は nn(定理 2.28)なので何も付け加わっていない。VV を生成する nn 個の元から 1 で基底を取り出すと、やはり nn 個なので何も除かれていない。□\square

定理 2.31 の 3 は実用上重要である:次元がわかっている空間で基底であることを確かめるには、一次独立性か生成性の一方だけを確かめればよい。これは正方行列の片側逆行列が逆行列になること(定理 1.34)と同じ種類の現象である。

系 2.32 VV を有限次元、WW をその部分空間とする。このとき WW も有限次元で dim⁡W≤dim⁡V\dim W \leq \dim V であり、等号が成り立つのは W=VW = V のときに限る。

証明. n=dim⁡Vn = \dim V とする。WW の一次独立な組は VV でも一次独立なので、系 2.27 より高々 nn 個の元からなる。元の個数が最大の一次独立な組 B⊂WB \subset W をとると、定理 2.31 の 1 の証明と同様に span⁡(B)=W\operatorname{span}(B) = W となり、BB は WW の基底である。よって dim⁡W≤n\dim W \leq n。dim⁡W=n\dim W = n なら、BB は VV の nn 個の一次独立な元なので定理 2.31 の 3 より VV の基底であり、W=span⁡(B)=VW = \operatorname{span}(B) = V。□\square

注意

系 2.32 の後半は無限次元では成り立たない。K[x]K[x] の部分空間 xK[x]={xp(x)∣p∈K[x]}xK[x] = \lbrace x p(x) \mid p \in K[x] \rbrace は K[x]K[x] と「同じ大きさ」(基底 {x,x2,… }\lbrace x, x^2, \dots \rbrace と {1,x,… }\lbrace 1, x, \dots \rbrace が一対一に対応する)だが、真の部分空間である。

数ベクトル空間での計算法

具体的なベクトルの組から基底を取り出すには、次の事実を使う。

命題 2.33 A∈M⁡m,n(K)A \in \operatorname{M}_{m,n}(K) の簡約階段行列を RR とし、A,RA, R の列をそれぞれ a1,…,ana_1, \dots, a_n、r1,…,rnr_1, \dots, r_n とする。

  1. AA の列の間の一次関係と RR の列の間の一次関係は一致する:∑jxjaj=0  ⟺  ∑jxjrj=0\sum_j x_j a_j = 0 \iff \sum_j x_j r_j = 0。
  2. RR の主列を j1<⋯<jrj_1 < \cdots < j_r とすると、aj1,…,ajra_{j_1}, \dots, a_{j_r} は AA の列空間の基底であり、主列でない列 aja_j は aj=∑i=1rrijajia_j = \sum_{i=1}^{r} r_{ij} a_{j_i} と表される。特に列空間の次元は rank⁡A\operatorname{rank} A に等しい。

証明. 1:∑jxjaj=Ax\sum_j x_j a_j = Ax、∑jxjrj=Rx\sum_j x_j r_j = Rx であり、命題 1.20 より Ax=0  ⟺  Rx=0Ax = 0 \iff Rx = 0。

2:RR では rji=eir_{j_i} = e_i であり、e1,…,ere_1, \dots, e_r は一次独立だから、1 より aj1,…,ajra_{j_1}, \dots, a_{j_r} も一次独立である。RR の各列は第 r+1r+1 成分以降が 0 なので、rj=∑i=1rrijei=∑i=1rrijrjir_j = \sum_{i=1}^r r_{ij} e_i = \sum_{i=1}^{r} r_{ij} r_{j_i} であり、この一次関係を 1 で AA に移すと aj=∑irijajia_j = \sum_i r_{ij} a_{j_i} を得る。よって主列に対応する AA の列は列空間を生成する。□\square

注意

行基本変形は列空間そのものを変える(AA と RR の列空間は一般に異なる)。命題 2.33 が保証するのは列の間の一次関係が保たれることであり、基底として採用すべきは RR の列ではなく元の行列 AA の列 aj1,…,ajra_{j_1}, \dots, a_{j_r} である。

例 2.34 R4\mathbb{R}^4 のベクトル

v1=(1201),v2=(2402),v3=(0111),v4=(1312)v_1 = \begin{pmatrix} 1 \\ 2 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad v_2 = \begin{pmatrix} 2 \\ 4 \\ 0 \\ 2 \end{pmatrix}, \quad v_3 = \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad v_4 = \begin{pmatrix} 1 \\ 3 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix}

が生成する部分空間 WW の基底を求める。これらを並べた行列を簡約化すると(R2−2R1R_2 - 2R_1、R4−R1R_4 - R_1、R3−R2R_3 - R_2、R4−R2R_4 - R_2)

(1201241300111212)⟶(1201001100000000)\begin{pmatrix} 1 & 2 & 0 & 1 \\ 2 & 4 & 1 & 3 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 1 & 2 & 1 & 2 \end{pmatrix} \longrightarrow \begin{pmatrix} 1 & 2 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}

となる。主列は第 1, 3 列なので (v1,v3)(v_1, v_3) が WW の基底で dim⁡W=2\dim W = 2 である。また第 2 列、第 4 列から v2=2v1v_2 = 2v_1、v4=v1+v3v_4 = v_1 + v_3 が読み取れる(検算:v1+v3=t(1,3,1,2)=v4v_1 + v_3 = {}^t(1, 3, 1, 2) = v_4)。

さらに (v1,v3)(v_1, v_3) を R4\mathbb{R}^4 の基底に延長するには、(v1 v3 e1 e2 e3 e4)(v_1 \ v_3 \ e_1 \ e_2 \ e_3 \ e_4) を簡約化して主列を選べばよい。v1,v3v_1, v_3 は一次独立なので第 1, 2 列は必ず主列になる。実際に計算すると主列は第 1〜4 列となり、(v1,v3,e1,e2)(v_1, v_3, e_1, e_2) が R4\mathbb{R}^4 の基底であることがわかる(読者は確かめよ)。

2.8 和空間と直和

二つの部分空間を「合わせる」操作と、空間を「分解する」操作を考える。

定義 2.35(和空間)W1,W2W_1, W_2 を VV の部分空間とする。W1+W2={w1+w2∣w1∈W1, w2∈W2}W_1 + W_2 = \lbrace w_1 + w_2 \mid w_1 \in W_1,\ w_2 \in W_2 \rbrace を和空間という。

W1+W2W_1 + W_2 は W1∪W2W_1 \cup W_2 を含む最小の部分空間、すなわち span⁡(W1∪W2)\operatorname{span}(W_1 \cup W_2) である(確かめよ)。

定義 2.36(直和, direct sum)W1+W2W_1 + W_2 の各元が w1+w2w_1 + w_2 (wi∈Wi)(w_i \in W_i) の形にただ一通りに書けるとき、和 W1+W2W_1 + W_2 は直和であるといい、W1⊕W2W_1 \oplus W_2 と書く。

命題 2.37 W1+W2W_1 + W_2 が直和であるための必要十分条件は W1∩W2={0}W_1 \cap W_2 = \lbrace 0 \rbrace である。

証明. 直和とし、v∈W1∩W2v \in W_1 \cap W_2 とすると v=v+0=0+vv = v + 0 = 0 + v は二通りの表示だから v=0v = 0。逆に W1∩W2={0}W_1 \cap W_2 = \lbrace 0 \rbrace とし、w1+w2=w1′+w2′w_1 + w_2 = w_1' + w_2' とすると w1−w1′=w2′−w2∈W1∩W2={0}w_1 - w_1' = w_2' - w_2 \in W_1 \cap W_2 = \lbrace 0 \rbrace なので w1=w1′w_1 = w_1'、w2=w2′w_2 = w_2'。□\square

定理 2.38(次元公式)W1,W2W_1, W_2 を有限次元ベクトル空間の部分空間とすると

dim⁡(W1+W2)+dim⁡(W1∩W2)=dim⁡W1+dim⁡W2\dim(W_1 + W_2) + \dim(W_1 \cap W_2) = \dim W_1 + \dim W_2

特に、W1+W2W_1 + W_2 が直和であることと dim⁡(W1+W2)=dim⁡W1+dim⁡W2\dim(W_1 + W_2) = \dim W_1 + \dim W_2 は同値である。

証明. W1∩W2W_1 \cap W_2 の基底 u1,…,uku_1, \dots, u_k をとり、定理 2.31 の 2 でこれを W1W_1 の基底 u1,…,uk,v1,…,vlu_1, \dots, u_k, v_1, \dots, v_l と、W2W_2 の基底 u1,…,uk,w1,…,wmu_1, \dots, u_k, w_1, \dots, w_m に延長する。u1,…,uk,v1,…,vl,w1,…,wmu_1, \dots, u_k, v_1, \dots, v_l, w_1, \dots, w_m が W1+W2W_1 + W_2 の基底であることを示せば、(k+l+m)+k=(k+l)+(k+m)(k + l + m) + k = (k + l) + (k + m) から主張が従う。

生成:W1+W2W_1 + W_2 の元は W1W_1 の元と W2W_2 の元の和であり、それぞれ上の元の一次結合である。

一次独立:∑aiui+∑bjvj+∑chwh=0\sum a_i u_i + \sum b_j v_j + \sum c_h w_h = 0 とする。x:=∑chwh=−∑aiui−∑bjvjx := \sum c_h w_h = -\sum a_i u_i - \sum b_j v_j は左辺の形から W2W_2 に、右辺の形から W1W_1 に属するので x∈W1∩W2x \in W_1 \cap W_2 であり、x=∑diuix = \sum d_i u_i と書ける。すると ∑chwh−∑diui=0\sum c_h w_h - \sum d_i u_i = 0 であり、u1,…,uk,w1,…,wmu_1, \dots, u_k, w_1, \dots, w_m は一次独立だから ch=0c_h = 0(と di=0d_i = 0)。残った ∑aiui+∑bjvj=0\sum a_i u_i + \sum b_j v_j = 0 から、W1W_1 の基底の一次独立性により ai=bj=0a_i = b_j = 0。

後半は命題 2.37 と dim⁡(W1∩W2)=0  ⟺  W1∩W2={0}\dim(W_1 \cap W_2) = 0 \iff W_1 \cap W_2 = \lbrace 0 \rbrace から従う。□\square

例 2.39 R4\mathbb{R}^4 で W1=span⁡(a1,a2)W_1 = \operatorname{span}(a_1, a_2)、W2=span⁡(b1,b2)W_2 = \operatorname{span}(b_1, b_2) とする。ただし

a1=(1010),a2=(0101),b1=(1100),b2=(0011)a_1 = \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad a_2 = \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad b_1 = \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad b_2 = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}

W1W_1 の元は t(s,t,s,t){}^t(s, t, s, t)、W2W_2 の元は t(u,u,v,v){}^t(u, u, v, v) の形である。これらが等しいのは s=u=t=vs = u = t = v のときなので、W1∩W2=span⁡(t(1,1,1,1))W_1 \cap W_2 = \operatorname{span}({}^t(1, 1, 1, 1)) で次元 1 である。dim⁡W1=dim⁡W2=2\dim W_1 = \dim W_2 = 2 だから、次元公式より dim⁡(W1+W2)=2+2−1=3\dim(W_1 + W_2) = 2 + 2 - 1 = 3。検算として、a1,a2,b1a_1, a_2, b_1 の一次結合 xa1+ya2+zb1=t(x+z,y+z,x,y)x a_1 + y a_2 + z b_1 = {}^t(x + z, y + z, x, y) が 0 なら x=y=0x = y = 0、z=0z = 0 なので a1,a2,b1a_1, a_2, b_1 は一次独立であり、b2=a1+a2−b1b_2 = a_1 + a_2 - b_1 だから W1+W2=span⁡(a1,a2,b1)W_1 + W_2 = \operatorname{span}(a_1, a_2, b_1) は確かに 3 次元である。

3 個以上の部分空間の直和も同様に定義する。

定義 2.40 部分空間 W1,…,WkW_1, \dots, W_k について、和 W1+⋯+WkW_1 + \cdots + W_k の各元が w1+⋯+wkw_1 + \cdots + w_k (wi∈Wi)(w_i \in W_i) の形にただ一通りに書けるとき、この和は直和であるといい W1⊕⋯⊕WkW_1 \oplus \cdots \oplus W_k と書く。

命題 2.41 次は同値である。

  1. W1+⋯+WkW_1 + \cdots + W_k は直和である。
  2. w1+⋯+wk=0w_1 + \cdots + w_k = 0 (wi∈Wi)(w_i \in W_i) ならば w1=⋯=wk=0w_1 = \cdots = w_k = 0。
  3. 各 ii について Wi∩(∑j≠iWj)={0}W_i \cap \left( \sum_{j \neq i} W_j \right) = \lbrace 0 \rbrace。

さらに各 WiW_i が有限次元なら、これらは dim⁡(W1+⋯+Wk)=∑idim⁡Wi\dim(W_1 + \cdots + W_k) = \sum_i \dim W_i とも同値である。

証明. (1 ⇔ 2):2 は「00 の表示の一意性」であり、差をとれば一般の元の表示の一意性と同値である(命題 2.37 の証明と同様)。(2 ⇒ 3):wi=∑j≠iwjw_i = \sum_{j \neq i} w_j なら wi−∑j≠iwj=0w_i - \sum_{j \neq i} w_j = 0 で、2 より wi=0w_i = 0。(3 ⇒ 2):∑jwj=0\sum_j w_j = 0 なら各 ii で wi=−∑j≠iwj∈Wi∩∑j≠iWjw_i = -\sum_{j \neq i} w_j \in W_i \cap \sum_{j \neq i} W_j なので wi=0w_i = 0。次元の条件:各 WiW_i の基底を合わせたものは和空間を生成するので dim⁡∑Wi≤∑dim⁡Wi\dim \sum W_i \leq \sum \dim W_i であり、等号はこの合わせた組が一次独立であることと同値である(定理 2.31)。合わせた組の一次関係は、各 WiW_i ごとにまとめると ∑wi=0\sum w_i = 0 の形になるので、その一次独立性は 2 と同値である(wiw_i は WiW_i の基底の一次結合で、wi=0w_i = 0 はその係数がすべて 0 であることと同値)。□\square

注意

3 個以上の場合、「どの 2 つの共通部分も {0}\lbrace 0 \rbrace」では直和にならない。R2\mathbb{R}^2 の 3 本の直線 W1=span⁡(e1)W_1 = \operatorname{span}(e_1)、W2=span⁡(e2)W_2 = \operatorname{span}(e_2)、W3=span⁡(e1+e2)W_3 = \operatorname{span}(e_1 + e_2) はどの 2 本も原点でしか交わらないが、e1+e2−(e1+e2)=0e_1 + e_2 - (e_1 + e_2) = 0 という自明でない表示があり、直和ではない(次元も 1+1+1=3≠21 + 1 + 1 = 3 \neq 2)。

命題 2.42(補空間の存在)VV を有限次元、WW をその部分空間とすると、V=W⊕UV = W \oplus U となる部分空間 UU が存在する。UU を WW の補空間 (complement) という。

証明. WW の基底 w1,…,wkw_1, \dots, w_k を VV の基底 w1,…,wk,u1,…,ulw_1, \dots, w_k, u_1, \dots, u_l に延長し(定理 2.31)、U=span⁡(u1,…,ul)U = \operatorname{span}(u_1, \dots, u_l) とする。V=W+UV = W + U は明らかで、dim⁡W+dim⁡U=k+l=dim⁡V\dim W + \dim U = k + l = \dim V なので定理 2.38 より直和である。□\square

補空間は一意ではない。R2\mathbb{R}^2 で W=span⁡(e1)W = \operatorname{span}(e_1) のとき、WW と異なる原点を通る任意の直線が補空間になる。「補空間」は一つに決まらないが、商空間 V/WV/W(第3章)は一つに決まる——この区別は後で重要になる。内積があれば「直交補空間」という標準的な補空間が決まる(第7章)。

例 2.43(偶関数と奇関数)V=RRV = \mathbb{R}^{\mathbb{R}}(実数値関数全体)で、偶関数全体 W+W_+、奇関数全体 W−W_- はともに部分空間であり、V=W+⊕W−V = W_+ \oplus W_- である。実際、任意の ff は

f(x)=f(x)+f(−x)2+f(x)−f(−x)2f(x) = \frac{f(x) + f(-x)}{2} + \frac{f(x) - f(-x)}{2}

と偶関数と奇関数の和に書け、W+∩W−W_+ \cap W_- の元 ff は f(x)=f(−x)=−f(x)f(x) = f(-x) = -f(x) から f=0f = 0 である。例えば ex=cosh⁡x+sinh⁡xe^x = \cosh x + \sinh x はこの分解である。

注意 2.44(外部直和)二つのベクトル空間 V,WV, W(同じ体上)に対し、直積集合 V×WV \times W に成分ごとの演算を入れたものもベクトル空間になり、これを V⊕WV \oplus W と書いて外部直和という。V×{0}V \times \lbrace 0 \rbrace と {0}×W\lbrace 0 \rbrace \times W はその部分空間で、V⊕WV \oplus W はこれらの(上の意味の)直和である。有限次元なら dim⁡(V⊕W)=dim⁡V+dim⁡W\dim(V \oplus W) = \dim V + \dim W である。

2.9 無限次元空間と基底の存在

有限生成でない空間でも、基底(定義 2.23:一次独立な生成系)は存在するだろうか。K[x]K[x] は {1,x,x2,… }\lbrace 1, x, x^2, \dots \rbrace という具体的な基底をもつ。しかし KNK^{\mathbb{N}} の {e1,e2,… }\lbrace e_1, e_2, \dots \rbrace は一次独立だが生成系ではない(例 2.17 の 2)。RN\mathbb{R}^{\mathbb{N}} の基底を具体的に書き下した人はいない。それでも、選択公理を認めれば基底は存在する。

定理 2.45(基底の存在)VV を任意のベクトル空間とする。

  1. VV の任意の一次独立な部分集合 SS は、VV のある基底に含まれる。特に VV は基底をもつ(S=∅S = \emptyset とする)。
  2. VV の任意の生成系 GG は、VV のある基底を部分集合として含む。

証明. ツォルンの補題(数学の言葉 第6章)を使う。

1:S⊂T⊂VS \subset T \subset V かつ TT が一次独立であるような TT 全体を F\mathcal{F} とし、包含関係で順序集合とみなす。S∈FS \in \mathcal{F} なので F≠∅\mathcal{F} \neq \emptyset である。C⊂F\mathcal{C} \subset \mathcal{F} を空でない全順序部分集合(鎖)とし、U=⋃T∈CTU = \bigcup_{T \in \mathcal{C}} T とおく。UU の相異なる有限個の元 u1,…,uku_1, \dots, u_k をとると、各 uiu_i はある Ti∈CT_i \in \mathcal{C} に属し、C\mathcal{C} は全順序なので T1,…,TkT_1, \dots, T_k の中に他のすべてを含む最大のもの TT がある。u1,…,uk∈Tu_1, \dots, u_k \in T で TT は一次独立だから、u1,…,uku_1, \dots, u_k は一次独立である。よって UU は一次独立で S⊂US \subset U、すなわち U∈FU \in \mathcal{F} は C\mathcal{C} の上界である(空の鎖に対しては SS が上界)。ツォルンの補題により F\mathcal{F} は極大元 BB をもつ。

BB が VV を生成することを示す。v∉span⁡(B)v \notin \operatorname{span}(B) となる vv があるとすると、B∪{v}B \cup \lbrace v \rbrace は一次独立である:その有限部分集合 b1,…,bk,vb_1, \dots, b_k, v についての一次関係 ∑cibi+cv=0\sum c_i b_i + cv = 0 で c≠0c \neq 0 なら v∈span⁡(B)v \in \operatorname{span}(B) となって矛盾するので c=0c = 0、すると BB の一次独立性から ci=0c_i = 0。これは BB の極大性に反する。よって BB は基底である。

2:GG の一次独立な部分集合全体に同じ議論を適用すると、極大な一次独立部分集合 B⊂GB \subset G が得られる。任意の g∈Gg \in G は span⁡(B)\operatorname{span}(B) に属する(さもなければ上と同様に B∪{g}B \cup \lbrace g \rbrace が GG の一次独立部分集合となり極大性に反する)。よって span⁡(B)⊃span⁡(G)=V\operatorname{span}(B) \supset \operatorname{span}(G) = V である。□\square

注意 2.46

  1. 無限次元の場合も、同じ空間の二つの基底の濃度は等しい。したがって基底の濃度として次元を定義できる。証明には濃度の議論(数学の言葉 第5章)が必要なので、本教材では省略する。
  2. 「すべてのベクトル空間は基底をもつ」という主張は、集合論の公理系 ZF のもとで選択公理と同値であることが知られている。したがって、無限次元空間の基底の存在は本質的に非構成的である。

例 2.47(Q\mathbb{Q} 上の R\mathbb{R})R\mathbb{R} を Q\mathbb{Q} 上のベクトル空間とみなすと、定理 2.45 によりその基底(ハメル基底, Hamel basis)が存在する。この基底は非可算集合である:もし可算な基底 BB があれば、R\mathbb{R} の各元は BB の有限部分集合と Q\mathbb{Q} の元の有限列で決まり、そのような組は可算個しかないので R\mathbb{R} が可算になってしまう(数学の言葉 第5章)。

補足

解析学で扱う無限次元空間(関数空間など)では、定理 2.45 の意味の基底(代数的な基底)はほとんど役に立たない。代わりに、フーリエ級数 f=∑ncneinxf = \sum_n c_n e^{inx} のような収束する無限和を許した「基底」を使う。そのためには距離や位相が必要であり、関数解析 第2章 ヒルベルト空間で扱う。本科目では、特に断らない限り有限次元の空間を中心に扱う。

まとめ

  • 体とは加減乗除ができる数の体系であり、ベクトル空間は加法とスカラー倍が 8 つの公理を満たす集合である。数ベクトル・行列・多項式・関数・数列の空間はすべてベクトル空間である。
  • 部分空間は加法とスカラー倍で閉じた空でない部分集合で、必ず 00 を含む。共通部分は部分空間だが、和集合は一般にそうではない。
  • span⁡(S)\operatorname{span}(S) は SS を含む最小の部分空間で、一次結合は常に有限和である。
  • 一次独立性は「自明な一次関係しかない」ことであり、体によって答えが変わりうる。KnK^n では階数で判定できる。
  • シュタイニッツの交換定理により、一次独立な組の個数は生成系の個数以下であり、次元(基底の元の個数)が well-defined になる。
  • 有限次元空間では、生成系から基底を取り出せ、一次独立な組は基底に延長できる。次元がわかっていれば、基底の判定は一次独立性か生成性の一方で済む。
  • 次元公式 dim⁡(W1+W2)+dim⁡(W1∩W2)=dim⁡W1+dim⁡W2\dim(W_1 + W_2) + \dim(W_1 \cap W_2) = \dim W_1 + \dim W_2。直和は表示の一意性で定義され、2 個なら W1∩W2={0}W_1 \cap W_2 = \lbrace 0 \rbrace と同値だが、3 個以上では対ごとの条件では不十分である。
  • ツォルンの補題により、すべてのベクトル空間は基底をもつ。ただし無限次元の基底は一般に具体的に書けない。

演習問題

問題 2.1 ★ 次の部分集合は部分空間か。理由とともに答えよ。

  1. {x∈R3∣x1+2x2−x3=0}\lbrace x \in \mathbb{R}^3 \mid x_1 + 2x_2 - x_3 = 0 \rbrace
  2. {x∈R3∣x1x2=0}\lbrace x \in \mathbb{R}^3 \mid x_1 x_2 = 0 \rbrace
  3. {p∈R[x]≤3∣p(1)=0}\lbrace p \in \mathbb{R}[x]_{\leq 3} \mid p(1) = 0 \rbrace
  4. {p∈R[x]≤3∣p(0)=1}\lbrace p \in \mathbb{R}[x]_{\leq 3} \mid p(0) = 1 \rbrace
  5. {A∈M⁡2(R)∣A2=O}\lbrace A \in \operatorname{M}_2(\mathbb{R}) \mid A^2 = O \rbrace
  6. {f∈C(R)∣すべての x で f(x+1)=f(x)}\lbrace f \in C(\mathbb{R}) \mid \text{すべての } x \text{ で } f(x + 1) = f(x) \rbrace
解答
  1. 部分空間(Ax=0Ax = 0 の解空間)。
  2. 部分空間でない:t(1,0,0){}^t(1, 0, 0) と t(0,1,0){}^t(0, 1, 0) は含まれるが、和 t(1,1,0){}^t(1, 1, 0) は含まれない。
  3. 部分空間:p(1)=q(1)=0p(1) = q(1) = 0 なら (p+q)(1)=0(p + q)(1) = 0、(cp)(1)=0(cp)(1) = 0。
  4. 部分空間でない:零多項式を含まない。
  5. 部分空間でない:E122=OE_{12}^2 = O、E212=OE_{21}^2 = O だが (E12+E21)2=I2≠O(E_{12} + E_{21})^2 = I_2 \neq O。
  6. 部分空間(周期 1 の連続関数全体):条件は和と定数倍で保たれ、00 を含む。

問題 2.2 ★ R4\mathbb{R}^4 のベクトル v1=t(1,1,0,1)v_1 = {}^t(1, 1, 0, 1)、v2=t(1,0,1,1)v_2 = {}^t(1, 0, 1, 1)、v3=t(2,1,1,2)v_3 = {}^t(2, 1, 1, 2)、v4=t(0,1,1,0)v_4 = {}^t(0, 1, 1, 0) が生成する部分空間の次元と基底を一組求め、基底に含まれないベクトルを基底の一次結合で表せ。

解答

並べた行列を簡約化する:

(1120101101111120)→R4−R1R2−R1(11200−1−1101110000)→R3+R2(11200−1−1100020000)\begin{pmatrix} 1 & 1 & 2 & 0 \\ 1 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 2 & 0 \end{pmatrix} \xrightarrow[R_4 - R_1]{R_2 - R_1} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 2 & 0 \\ 0 & -1 & -1 & 1 \\ 0 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \xrightarrow{R_3 + R_2} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 2 & 0 \\ 0 & -1 & -1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 2 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}

さらに (−1)×R2(-1) \times R_2、12×R3\frac{1}{2} \times R_3、R2+R3R_2 + R_3、R1−R2R_1 - R_2 と変形すると、簡約階段行列は第 1 行 (1,0,1,0)(1, 0, 1, 0)、第 2 行 (0,1,1,0)(0, 1, 1, 0)、第 3 行 (0,0,0,1)(0, 0, 0, 1)、第 4 行 00 となる。主列は第 1, 2, 4 列なので、次元は 3、基底は (v1,v2,v4)(v_1, v_2, v_4)。第 3 列から v3=v1+v2v_3 = v_1 + v_2(検算:t(1+1,1+0,0+1,1+1)=t(2,1,1,2){}^t(1 + 1, 1 + 0, 0 + 1, 1 + 1) = {}^t(2, 1, 1, 2))。

問題 2.3 ★ (1,x−1,(x−1)2)(1, x - 1, (x - 1)^2) が R[x]≤2\mathbb{R}[x]_{\leq 2} の基底であることを示し、p(x)=x2+2x+3p(x) = x^2 + 2x + 3 のこの基底に関する座標を求めよ。

解答

dim⁡R[x]≤2=3\dim \mathbb{R}[x]_{\leq 2} = 3 なので、定理 2.31 の 3 により一次独立性を示せばよい。a+b(x−1)+c(x−1)2=0a + b(x - 1) + c(x - 1)^2 = 0 とすると、x2x^2 の係数から c=0c = 0、次に xx の係数から b=0b = 0、最後に a=0a = 0。

x=(x−1)+1x = (x - 1) + 1 より x2=(x−1)2+2(x−1)+1x^2 = (x - 1)^2 + 2(x - 1) + 1 なので

p(x)=(x−1)2+2(x−1)+1+2(x−1)+2+3=(x−1)2+4(x−1)+6p(x) = (x-1)^2 + 2(x-1) + 1 + 2(x - 1) + 2 + 3 = (x - 1)^2 + 4(x - 1) + 6

座標は t(6,4,1){}^t(6, 4, 1)。検算:これは x=1x = 1 でのテイラー展開 p(1)+p′(1)(x−1)+p′′(1)2(x−1)2p(1) + p'(1)(x - 1) + \frac{p''(1)}{2}(x-1)^2 にほかならず、p(1)=6p(1) = 6、p′(1)=4p'(1) = 4、p′′(1)/2=1p''(1)/2 = 1 と一致する。

問題 2.4 ★★ 相異なる実数 a1,…,ana_1, \dots, a_n に対し、関数 ea1x,…,eanxe^{a_1 x}, \dots, e^{a_n x} は C∞(R)C^\infty(\mathbb{R}) において一次独立であることを示せ。

解答

nn に関する帰納法。n=1n = 1 は ea1x≠0e^{a_1 x} \neq 0 から明らか。n−1n - 1 まで正しいとし、すべての xx で ∑i=1ncieaix=0\sum_{i=1}^n c_i e^{a_i x} = 0 とする。両辺に e−anxe^{-a_n x} を掛けると ∑i=1n−1cie(ai−an)x+cn=0\sum_{i=1}^{n-1} c_i e^{(a_i - a_n)x} + c_n = 0 であり、これを微分して

∑i=1n−1ci(ai−an)e(ai−an)x=0\sum_{i=1}^{n-1} c_i (a_i - a_n) e^{(a_i - a_n)x} = 0

ai−ana_i - a_n (i<n)(i < n) は相異なるので、帰納法の仮定から ci(ai−an)=0c_i (a_i - a_n) = 0、ai≠ana_i \neq a_n より ci=0c_i = 0 (i<n)(i < n)。すると cneanx=0c_n e^{a_n x} = 0 から cn=0c_n = 0。

(系:C∞(R)C^\infty(\mathbb{R}) は無限次元である。)

問題 2.5 ★★ R4\mathbb{R}^4 の部分空間 W1={x∣x1+x2+x3+x4=0}W_1 = \lbrace x \mid x_1 + x_2 + x_3 + x_4 = 0 \rbrace、W2={x∣x1=x2, x3=x4}W_2 = \lbrace x \mid x_1 = x_2,\ x_3 = x_4 \rbrace について、dim⁡W1\dim W_1、dim⁡W2\dim W_2、dim⁡(W1∩W2)\dim(W_1 \cap W_2)、dim⁡(W1+W2)\dim(W_1 + W_2) を求めよ。和は直和か。

解答

W1W_1 は階数 1 の 1×41 \times 4 行列の解空間なので dim⁡W1=4−1=3\dim W_1 = 4 - 1 = 3。W2W_2 の元は t(s,s,t,t){}^t(s, s, t, t) で、基底 t(1,1,0,0){}^t(1, 1, 0, 0)、t(0,0,1,1){}^t(0, 0, 1, 1) をもつので dim⁡W2=2\dim W_2 = 2。W1∩W2W_1 \cap W_2 の元は t(s,s,t,t){}^t(s, s, t, t) で 2s+2t=02s + 2t = 0 を満たすもの、すなわち t(s,s,−s,−s){}^t(s, s, -s, -s) で、dim⁡(W1∩W2)=1\dim(W_1 \cap W_2) = 1。次元公式より dim⁡(W1+W2)=3+2−1=4\dim(W_1 + W_2) = 3 + 2 - 1 = 4、つまり W1+W2=R4W_1 + W_2 = \mathbb{R}^4。共通部分が {0}\lbrace 0 \rbrace でないので直和ではない。

問題 2.6 ★★ KK の標数が 2 でないとする。nn 次対称行列全体 Sym⁡n(K)\operatorname{Sym}_n(K) と交代行列全体 Alt⁡n(K)\operatorname{Alt}_n(K) について、dim⁡Sym⁡n(K)=n(n+1)/2\dim \operatorname{Sym}_n(K) = n(n+1)/2、dim⁡Alt⁡n(K)=n(n−1)/2\dim \operatorname{Alt}_n(K) = n(n-1)/2、M⁡n(K)=Sym⁡n(K)⊕Alt⁡n(K)\operatorname{M}_n(K) = \operatorname{Sym}_n(K) \oplus \operatorname{Alt}_n(K) を示せ。標数 2 ではどうなるか。

解答

Sym⁡n(K)\operatorname{Sym}_n(K) の基底として EiiE_{ii} (1≤i≤n)(1 \leq i \leq n) と Eij+EjiE_{ij} + E_{ji} (i<j)(i < j) がとれる(対称行列 AA は ∑iaiiEii+∑i<jaij(Eij+Eji)\sum_i a_{ii} E_{ii} + \sum_{i< j} a_{ij}(E_{ij} + E_{ji}) と一意に書ける)ので、次元は n+n(n−1)/2=n(n+1)/2n + n(n-1)/2 = n(n+1)/2。交代行列は tA=−A{}^t A = -A から対角成分が 2aii=02a_{ii} = 0 で aii=0a_{ii} = 0(標数 ≠2\neq 2 を使う)、基底は Eij−EjiE_{ij} - E_{ji} (i<j)(i < j) で次元 n(n−1)/2n(n-1)/2。任意の AA は A=12(A+tA)+12(A−tA)A = \frac{1}{2}(A + {}^t A) + \frac{1}{2}(A - {}^t A) と分解でき、A∈Sym⁡∩Alt⁡A \in \operatorname{Sym} \cap \operatorname{Alt} なら A=tA=−AA = {}^t A = -A より 2A=O2A = O、A=OA = O。よって直和である(次元の和も n2n^2 で整合する)。

標数 2 では −A=A-A = A なので「tA=−A{}^t A = -A」は「tA=A{}^t A = A」と同じ条件になり、分解は成り立たない。

問題 2.7 ★★ Fq\mathbb{F}_q を qq 元体とする。

  1. nn 次元の Fq\mathbb{F}_q 上のベクトル空間は qnq^n 個の元をもつことを示せ。
  2. Fqn\mathbb{F}_q^n の(順序つき)基底の個数は (qn−1)(qn−q)⋯(qn−qn−1)(q^n - 1)(q^n - q) \cdots (q^n - q^{n-1}) であることを示せ。
  3. Fqn\mathbb{F}_q^n の 1 次元部分空間の個数を求めよ。
解答
  1. 基底を選ぶと、元は座標 (c1,…,cn)∈Fqn(c_1, \dots, c_n) \in \mathbb{F}_q^n と一対一に対応し、その個数は qnq^n である。
  2. 基底 (v1,…,vn)(v_1, \dots, v_n) を順に選ぶ。v1v_1 は 00 以外の qn−1q^n - 1 通り。v1,…,vkv_1, \dots, v_k が一次独立に選ばれたとき、vk+1v_{k+1} は span⁡(v1,…,vk)\operatorname{span}(v_1, \dots, v_k)(qkq^k 個の元をもつ)に属さない任意の元であればよく(命題 2.21 の 2)、qn−qkq^n - q^k 通り。nn 個の一次独立な元は基底である(定理 2.31 の 3)ので、総数は ∏k=0n−1(qn−qk)\prod_{k=0}^{n-1}(q^n - q^k)。
  3. 1 次元部分空間は 0 でない元 vv で生成され、同じ部分空間を生成するのは cvcv (c≠0)(c \neq 0) の q−1q - 1 個である。よって (qn−1)/(q−1)(q^n - 1)/(q - 1) 個。例えば F22\mathbb{F}_2^2 には 3 本の「直線」がある。

問題 2.8 ★★ W1,W2W_1, W_2 を VV の部分空間とする。W1∪W2W_1 \cup W_2 が部分空間であるための必要十分条件は、W1⊂W2W_1 \subset W_2 または W2⊂W1W_2 \subset W_1 であることを示せ。

解答

十分性は明らか。必要性:どちらも成り立たないとし、w1∈W1∖W2w_1 \in W_1 \setminus W_2、w2∈W2∖W1w_2 \in W_2 \setminus W_1 をとる。W1∪W2W_1 \cup W_2 が部分空間なら w1+w2∈W1∪W2w_1 + w_2 \in W_1 \cup W_2。w1+w2∈W1w_1 + w_2 \in W_1 なら w2=(w1+w2)−w1∈W1w_2 = (w_1 + w_2) - w_1 \in W_1 となり矛盾。w1+w2∈W2w_1 + w_2 \in W_2 なら同様に w1∈W2w_1 \in W_2 となり矛盾。

問題 2.9 ★★★ KK を無限体、VV を KK 上のベクトル空間とする。VV は有限個の真部分空間の和集合として書けないことを示せ。有限体ではどうか。

解答

V=W1∪⋯∪WkV = W_1 \cup \cdots \cup W_k(各 Wi⊊VW_i \subsetneq V)と書けたとし、このような表示のうち kk が最小のものをとる。W1≠VW_1 \neq V なので k≥2k \geq 2 である。最小性から W1⊄W2∪⋯∪WkW_1 \not\subset W_2 \cup \cdots \cup W_k なので(さもなければ W1W_1 を除いても VV を覆う)、u∈W1u \in W_1 で u∉Wju \notin W_j (j≥2)(j \geq 2) となるものがとれる。また v∉W1v \notin W_1 をとる。t∈Kt \in K に対し v+tuv + tu を考えると、v+tu∈W1v + tu \in W_1 なら v=(v+tu)−tu∈W1v = (v + tu) - tu \in W_1 となり矛盾するので、v+tuv + tu は W2,…,WkW_2, \dots, W_k のどれかに属する。KK は無限なので、鳩の巣原理により相異なる t≠t′t \neq t' で v+tu,v+t′uv + tu, v + t'u が同じ WjW_j (j≥2)(j \geq 2) に属するものがある。差 (t−t′)u∈Wj(t - t')u \in W_j から u∈Wju \in W_j となり、uu の選び方に矛盾する。

有限体では成り立たない:F22\mathbb{F}_2^2 は 3 本の 1 次元部分空間 span⁡(e1)\operatorname{span}(e_1)、span⁡(e2)\operatorname{span}(e_2)、span⁡(e1+e2)\operatorname{span}(e_1 + e_2) の和集合である(問題 2.7 の 3)。

問題 2.10 ★★★ 実数列の空間 RN\mathbb{R}^{\mathbb{N}} は可算な基底をもたないことを示せ。(ヒント:t∈R∖{0}t \in \mathbb{R} \setminus \lbrace 0 \rbrace に対する等比数列 gt=(t,t2,t3,… )g_t = (t, t^2, t^3, \dots) を考える。)

解答

Step 1:相異なる t1,…,tk≠0t_1, \dots, t_k \neq 0 に対し gt1,…,gtkg_{t_1}, \dots, g_{t_k} は一次独立である。kk に関する帰納法。k=1k = 1 は gt1≠0g_{t_1} \neq 0 から。∑icitin=0\sum_i c_i t_i^n = 0(すべての n≥1n \geq 1)とすると、n+1n + 1 の式から nn の式の tkt_k 倍を引いて ∑i<kci(ti−tk)tin=0\sum_{i< k} c_i (t_i - t_k) t_i^n = 0 (n≥1)(n \geq 1)。帰納法の仮定より ci(ti−tk)=0c_i(t_i - t_k) = 0、よって ci=0c_i = 0 (i<k)(i < k)。残りの cktkn=0c_k t_k^n = 0 から ck=0c_k = 0。

Step 2:RN\mathbb{R}^{\mathbb{N}} に可算な基底 BB があったとする。BB の有限部分集合 FF は可算個しかない。各 FF について、span⁡(F)\operatorname{span}(F) は有限次元なので、その中の一次独立な集合は高々 ∣F∣\lvert F \rvert 個の元しかもたない(系 2.27)。ところで Step 1 より I={gt∣t≠0}I = \lbrace g_t \mid t \neq 0 \rbrace は一次独立な非可算集合であり、各 gtg_t はある span⁡(F)\operatorname{span}(F) に属する。すると I=⋃F(I∩span⁡(F))I = \bigcup_F (I \cap \operatorname{span}(F)) は有限集合の可算和となり可算になって矛盾する。

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