Lemma数学ロードマップ

07 多様体 · 第 4 章

ベクトル場とフロー

目安 11〜15 時間定理など 11演習 7 問

この章の目標

  • ベクトル場を接束の切断として、また関数の導分として扱い、局所座標で計算できる
  • 積分曲線とフローの存在を常微分方程式の定理から理解し、コンパクト台のベクトル場が完備であることを証明できる
  • リー括弧を座標で計算し、リー微分との一致 LXY=[X,Y]L_XY = [X, Y] と、可換なフローの特徴づけを証明できる
  • フロベニウスの定理を証明し、分布の積分可能性を判定できる
  • リー群の左不変ベクトル場とリー環の関係を説明できる

前提:第3章、微分方程式 第2章(解の存在・一意性と初期値への滑らかな依存性)

ベクトル場は、多様体の各点に接ベクトルを一つずつ滑らかに配置したものである。物理的には流れの速度場であり、その流れ(フロー)を追うことで多様体上の力学系が得られる。また、ベクトル場は関数を微分する作用素でもあり、二つのベクトル場の「交換子」であるリー括弧は、二つの流れがどれだけ可換でないかを測る。

以下、MM は nn 次元の滑らかな多様体とする。

4.1 ベクトル場

定義 4.1(ベクトル場, vector field)滑らかな写像 X ⁣:M→TMX\colon M \to TM で π∘X=idM\pi \circ X = \mathrm{id}_M を満たすもの(接束の切断)をベクトル場という。X(p)X(p) を XpX_p と書き、ベクトル場全体を X(M)\mathfrak{X}(M) と書く。チャート (U,(xi))(U, (x^i)) 上では X=∑iXi ∂/∂xiX = \sum_i X^i\ \partial/\partial x^i と書け、XiX^i を XX の成分という。

接束のチャート φ~\tilde{\varphi}(命題 3.14)による局所表示は x↦(x,X1(x),…,Xn(x))x \mapsto (x, X^1(x), \dots, X^n(x)) なので、XX が滑らかであることと、各チャートで成分 XiX^i が滑らかであることは同値である。

f∈C∞(M)f \in C^\infty(M) に対し (Xf)(p)=Xpf(Xf)(p) = X_pf とおくと、座標では Xf=∑iXi ∂f/∂xiXf = \sum_i X^i\ \partial f/\partial x^i となり、Xf∈C∞(M)Xf \in C^\infty(M) である。こうして XX は、ライプニッツ則 X(fg)=fX(g)+gX(f)X(fg) = fX(g) + gX(f) を満たす線形写像 C∞(M)→C∞(M)C^\infty(M) \to C^\infty(M)(導分)を定める。逆に、そのような導分 DD は、Xpf=(Df)(p)X_pf = (Df)(p) によって、ただ一つのベクトル場 XX から来る(XpX_p は pp における導分であり、成分 X(xi)X(x^i) は滑らかである)。以後、ベクトル場と C∞(M)C^\infty(M) の導分を同一視する。

例 4.2 (1) R2\mathbb{R}^2 上の回転ベクトル場 X=−y ∂x+x ∂yX = -y\ \partial_x + x\ \partial_y とオイラーのベクトル場 E=x ∂x+y ∂yE = x\ \partial_x + y\ \partial_y。例 3.8 より、XX は極座標では ∂/∂θ\partial/\partial\theta である。 (2) 点 (x,y,z)∈S2(x, y, z) \in S^2 で (−y,x,0)⋅(x,y,z)=0(-y, x, 0) \cdot (x, y, z) = 0 なので、X=−y ∂x+x ∂yX = -y\ \partial_x + x\ \partial_y は S2S^2 上のベクトル場を定める。これは zz 軸まわりの回転の速度場で、両極で 00 になる。zz 軸まわりの回転は立体射影 σN\sigma_N と可換なので、座標 u=σNu = \sigma_N では X=−u2 ∂/∂u1+u1 ∂/∂u2X = -u^2\ \partial/\partial u^1 + u^1\ \partial/\partial u^2 と表される。 (3) 奇数次元球面 S2m−1⊂R2mS^{2m-1} \subset \mathbb{R}^{2m} 上で X(x)=(−x2,x1,−x4,x3,…,−x2m,x2m−1)X(x) = (-x^2, x^1, -x^4, x^3, \dots, -x^{2m}, x^{2m-1}) とおくと、X(x)⋅x=0X(x) \cdot x = 0 かつ ∣X(x)∣=1\lvert X(x) \rvert = 1 である。これは至る所 00 でないベクトル場である。偶数次元球面にはそのようなベクトル場が存在しない(第7章の毛玉の定理)。

定義 4.3(FF 関係)F ⁣:M→NF\colon M \to N を滑らかな写像とする。X∈X(M)X \in \mathfrak{X}(M), Y∈X(N)Y \in \mathfrak{X}(N) は、すべての pp で dFp(Xp)=YF(p)dF_p(X_p) = Y_{F(p)} となるとき、FF 関係にある (FF-related) という。これは、すべての f∈C∞(N)f \in C^\infty(N) について X(f∘F)=(Yf)∘FX(f \circ F) = (Yf) \circ F が成り立つことと同値である。FF が微分同相なら、F∗X=dF∘X∘F−1F_{\ast}X = dF \circ X \circ F^{-1} が XX と FF 関係にある唯一のベクトル場である(押し出し)。

4.2 積分曲線とフロー

定義 4.4(積分曲線, integral curve)開区間 JJ 上の滑らかな曲線 γ ⁣:J→M\gamma\colon J \to M が、すべての t∈Jt \in J で γ′(t)=Xγ(t)\gamma'(t) = X_{\gamma(t)} を満たすとき、XX の積分曲線という。

座標で書けば γ(t)=(x1(t),…,xn(t))\gamma(t) = (x^1(t), \dots, x^n(t)) に関する自励系の常微分方程式 dxi/dt=Xi(x1,…,xn)dx^i/dt = X^i(x^1, \dots, x^n) である。

例 4.5 (1) 回転ベクトル場の、(x0,y0)(x_0, y_0) を出発する積分曲線は γ(t)=(x0cos⁡t−y0sin⁡t,x0sin⁡t+y0cos⁡t)\gamma(t) = (x_0\cos t - y_0\sin t, x_0\sin t + y_0\cos t) である。実際、γ′=(−γ2,γ1)\gamma' = (-\gamma^2, \gamma^1) となる。 (2) オイラーのベクトル場の積分曲線は γ(t)=etp\gamma(t) = e^tp である。 (3) R\mathbb{R} 上の X=x2 ∂xX = x^2\ \partial_x では、x0>0x_0 > 0 を出発する積分曲線は γ(t)=x0/(1−x0t)\gamma(t) = x_0/(1 - x_0t) であり(γ′=x02/(1−x0t)2=γ2\gamma' = x_0^2/(1 - x_0t)^2 = \gamma^2)、t→1/x0t \to 1/x_0 で発散する。したがって t<1/x0t < 1/x_0 にしか延長できない。

定理 4.6(フローの基本定理)X∈X(M)X \in \mathfrak{X}(M) に対し、{0}×M\lbrace 0 \rbrace \times M を含む開集合 D⊂R×M\mathcal{D} \subset \mathbb{R} \times M と、滑らかな写像 θ ⁣:D→M\theta\colon \mathcal{D} \to M(XX のフロー)が存在して、次を満たす。θt(p)=θ(t,p)\theta_t(p) = \theta(t, p) と書く。

  1. 各 pp に対し、D(p)={t∣(t,p)∈D}\mathcal{D}^{(p)} = \lbrace t \mid (t, p) \in \mathcal{D} \rbrace は 00 を含む開区間であり、t↦θt(p)t \mapsto \theta_t(p) は pp を出発する XX の極大な積分曲線である。
  2. θ0=id\theta_0 = \mathrm{id} であり、s∈D(p)s \in \mathcal{D}^{(p)}, t∈D(θs(p))t \in \mathcal{D}^{(\theta_s(p))} ならば s+t∈D(p)s + t \in \mathcal{D}^{(p)} かつ θt(θs(p))=θt+s(p)\theta_t(\theta_s(p)) = \theta_{t+s}(p) である。
  3. Mt={p∣(t,p)∈D}M_t = \lbrace p \mid (t, p) \in \mathcal{D} \rbrace は開集合であり、θt ⁣:Mt→M−t\theta_t\colon M_t \to M_{-t} は逆写像 θ−t\theta_{-t} をもつ微分同相写像である。

証明の方針. チャートの中では、常微分方程式の解の存在と一意性、および解が初期値に滑らかに依存すること(微分方程式 第2章。そこでの定理 2.22 は C1C^1 級であることを示す。XX が C∞C^\infty 級なら、解と変分方程式を連立させた系に同じ定理を繰り返し適用して C∞C^\infty 級であることがわかる)から、(t,p)(t, p) が (0,p0)(0, p_0) に近い範囲で θ(t,p)\theta(t, p) が定義され、滑らかである。一意性により、同じ点を出発する二つの積分曲線は共通の定義域で一致する。そこで、それらをすべて貼り合わせて極大な積分曲線が得られる。2 は、t↦θt+s(p)t \mapsto \theta_{t+s}(p) と t↦θt(θs(p))t \mapsto \theta_t(\theta_s(p)) がともに θs(p)\theta_s(p) を出発する積分曲線であることから、一意性によって従う。D\mathcal{D} が開集合であり θ\theta がその上で滑らかであることは、短い時間の局所フローを 2 を使ってつないでいく議論で示される(詳細は Lee の教科書(第2版)の第9章を参照)。□\square

定義 4.7(完備性・1 径数変換群)D=R×M\mathcal{D} = \mathbb{R} \times M のとき、XX は完備 (complete) であるという。このとき {θt}t∈R\lbrace \theta_t \rbrace_{t \in \mathbb{R}} は、θ0=id\theta_0 = \mathrm{id}, θs+t=θs∘θt\theta_{s+t} = \theta_s \circ \theta_t を満たす微分同相写像の族であり、これを1 径数変換群 (one-parameter group of diffeomorphisms) という。逆に、滑らかな R\mathbb{R} 作用 θ\theta があれば、Xp=ddt∣t=0θt(p)X_p = \left. \frac{d}{dt} \right\vert_{t=0}\theta_t(p) はそのフローが θ\theta となる完備なベクトル場である(無限小生成作用素)。

例 4.5 の (1), (2) は完備であり、(3) は完備でない。

補題 4.8(一様時間補題)ある ε>0\varepsilon > 0 があって、すべての点を出発する積分曲線が (−ε,ε)(-\varepsilon, \varepsilon) 上で定義されるならば、XX は完備である。

証明. ある pp の極大積分曲線 γ\gamma の定義域が (a,b)(a, b) で b<∞b < \infty であったとする。t0∈(b−ε,b)t_0 \in (b - \varepsilon, b) をとり、γ(t0)\gamma(t_0) を出発する積分曲線 σ\sigma を考えると、σ\sigma は (−ε,ε)(-\varepsilon, \varepsilon) 上で定義される。t↦σ(t−t0)t \mapsto \sigma(t - t_0) は γ\gamma と共通部分で一致する積分曲線であり(一意性)、t0+ε>bt_0 + \varepsilon > b まで定義される。これは γ\gamma の極大性に矛盾する。a>−∞a > -\infty の場合も同様である。□\square

定理 4.9 台がコンパクトなベクトル場は完備である。特に、コンパクト多様体上のベクトル場はすべて完備である。

証明. K=supp⁡XK = \operatorname{supp}X とする。D\mathcal{D} は {0}×M\lbrace 0 \rbrace \times M を含む開集合なので、各 p∈Kp \in K に対し、近傍 UpU_p と εp>0\varepsilon_p > 0 で (−εp,εp)×Up⊂D(-\varepsilon_p, \varepsilon_p) \times U_p \subset \mathcal{D} となるものがある。有限個の Up1,…,UpmU_{p_1}, \dots, U_{p_m} で KK を覆い、ε=min⁡iεpi\varepsilon = \min_i\varepsilon_{p_i} とおく。p∈Kp \in K を出発する積分曲線は (−ε,ε)(-\varepsilon, \varepsilon) 上で定義される。p∉Kp \notin K なら Xp=0X_p = 0 であり、定値曲線 γ(t)=p\gamma(t) = p がすべての tt で定義された積分曲線になる。補題 4.8 より XX は完備である。□\square

4.3 リー括弧

二つのベクトル場 X,YX, Y を関数に続けて作用させた X(Yf)X(Yf) は、一般には 2 階の微分作用素である。ところが交換子をとると 2 階の部分が消える。

定義 4.10(リー括弧, Lie bracket)X,Y∈X(M)X, Y \in \mathfrak{X}(M) に対し、[X,Y]f=X(Yf)−Y(Xf)[X, Y]f = X(Yf) - Y(Xf) と定める。

命題 4.11 [X,Y][X, Y] はベクトル場であり、座標では次のように表される。

[X,Y]=∑j=1n∑i=1n(Xi∂Yj∂xi−Yi∂Xj∂xi)∂∂xj[X, Y] = \sum_{j=1}^n \sum_{i=1}^n \left( X^i\frac{\partial Y^j}{\partial x^i} - Y^i\frac{\partial X^j}{\partial x^i} \right)\frac{\partial}{\partial x^j}

証明. X(Y(fg))=X(f Yg+g Yf)=Xf Yg+f XYg+Xg Yf+g XYfX(Y(fg)) = X(f\ Yg + g\ Yf) = Xf\ Yg + f\ XYg + Xg\ Yf + g\ XYf である。XX と YY を入れ替えたものを引くと、Xf Yg+Xg YfXf\ Yg + Xg\ Yf の項が消えて [X,Y](fg)=f[X,Y]g+g[X,Y]f\lbrack X, Y \rbrack(fg) = f[X, Y]g + g[X, Y]f が残る。よって [X,Y][X, Y] は導分、すなわちベクトル場である。座標では

X(Yf)=∑i,jXi∂Yj∂xi∂f∂xj+∑i,jXiYj∂2f∂xi∂xjX(Yf) = \sum_{i, j}X^i\frac{\partial Y^j}{\partial x^i}\frac{\partial f}{\partial x^j} + \sum_{i, j}X^iY^j\frac{\partial^2 f}{\partial x^i\partial x^j}

であり、2 階導関数の項は XX, YY について対称なので、差をとると消える。□\square

命題 4.12 X,Y,Z∈X(M)X, Y, Z \in \mathfrak{X}(M), f,g∈C∞(M)f, g \in C^\infty(M) に対し、次が成り立つ。

  1. [X,Y][X, Y] は R\mathbb{R} 上双線形で、[Y,X]=−[X,Y][Y, X] = -[X, Y] である。
  2. (ヤコビ恒等式)[X,[Y,Z]]+[Y,[Z,X]]+[Z,[X,Y]]=0[X, [Y, Z]] + [Y, [Z, X]] + [Z, [X, Y]] = 0。
  3. [fX,gY]=fg[X,Y]+f(Xg)Y−g(Yf)X[fX, gY] = fg[X, Y] + f(Xg)Y - g(Yf)X。
  4. (自然性)XiX_i と YiY_i が FF 関係にあれば(i=1,2i = 1, 2)、[X1,X2][X_1, X_2] と [Y1,Y2][Y_1, Y_2] も FF 関係にある。

証明. 1 は定義から明らかである。2:[X,[Y,Z]]=XYZ−XZY−YZX+ZYX[X, [Y, Z]] = XYZ - XZY - YZX + ZYX(関数に作用させる作用素として)を巡回的に 3 つ足すと、12 項が 2 つずつ打ち消し合う。3:[fX,gY]h=fX(g Yh)−gY(f Xh)=f(Xg)Yh+fg XYh−g(Yf)Xh−gf YXh[fX, gY]h = fX(g\ Yh) - gY(f\ Xh) = f(Xg)Yh + fg\ XYh - g(Yf)Xh - gf\ YXh である。4:X1X2(f∘F)=X1((Y2f)∘F)=(Y1Y2f)∘FX_1X_2(f \circ F) = X_1((Y_2f) \circ F) = (Y_1Y_2f) \circ F であり、添字を入れ替えたものを引けばよい。□\square

例 4.13(線形ベクトル場)A∈M⁡n(R)A \in \operatorname{M}_n(\mathbb{R}) に対し、Rn\mathbb{R}^n 上のベクトル場 VA(x)=AxV_A(x) = Ax、すなわち VA=∑j(Ax)j ∂jV_A = \sum_j (Ax)^j\ \partial_j を考える。命題 4.11 より

[VA,VB]j=∑i((Ax)iBji−(Bx)iAji)=(BAx−ABx)j[V_A, V_B]^j = \sum_i \left( (Ax)^iB_{ji} - (Bx)^iA_{ji} \right) = (BAx - ABx)^j

なので、[VA,VB]=−V[A,B][V_A, V_B] = -V_{[A, B]}([A,B]=AB−BA[A, B] = AB - BA)である。R3\mathbb{R}^3 の回転の速度場 X1=y ∂z−z ∂yX_1 = y\ \partial_z - z\ \partial_y, X2=z ∂x−x ∂zX_2 = z\ \partial_x - x\ \partial_z, X3=x ∂y−y ∂xX_3 = x\ \partial_y - y\ \partial_x は、それぞれ A1,A2,A3∈so(3)A_1, A_2, A_3 \in \mathfrak{so}(3) に対する VAiV_{A_i} であり、[A1,A2]=A3[A_1, A_2] = A_3 を満たす。したがって [X1,X2]=−X3[X_1, X_2] = -X_3 である。検算として xx に作用させると、[X1,X2]x=X1(z)−X2(0)=y[X_1, X_2]x = X_1(z) - X_2(0) = y、−X3x=y-X_3x = y となり、一致する。符号が行列の交換子と逆になる理由は、4.7 節で説明する。

4.4 リー微分

YY が XX の流れに沿ってどう変化するかを測りたい。点 θt(p)\theta_t(p) での YY を、フローの逆向き d(θ−t)d(\theta_{-t}) で TpMT_pM に引き戻して比較する。

定義 4.14(リー微分, Lie derivative)XX のフローを θ\theta とし、

(LXY)p=ddt∣t=0d(θ−t)θt(p)(Yθt(p))=lim⁡t→0d(θ−t)(Yθt(p))−Ypt(L_XY)_p = \left. \frac{d}{dt} \right\vert_{t=0} d(\theta_{-t})_{\theta_t(p)}\left( Y_{\theta_t(p)} \right) = \lim_{t \to 0}\frac{d(\theta_{-t})(Y_{\theta_t(p)}) - Y_p}{t}

と定める。V(t)=d(θ−t)(Yθt(p))V(t) = d(\theta_{-t})(Y_{\theta_t(p)}) は、有限次元ベクトル空間 TpMT_pM の中の滑らかな曲線である(座標で見ればわかる)。

定理 4.15 LXY=[X,Y]L_XY = [X, Y] である。

証明. pp と f∈C∞(M)f \in C^\infty(M) を固定する。(t,q)(t, q) が (0,p)(0, p) に近いとき

f(θt(q))−f(q)=∫01ddsf(θst(q)) ds=t∫01(Xf)(θst(q)) ds=:t g(t,q)f(\theta_t(q)) - f(q) = \int_0^1 \frac{d}{ds}f(\theta_{st}(q))\,ds = t\int_0^1 (Xf)(\theta_{st}(q))\,ds =: t\,g(t, q)

である。gg は滑らかで g(0,q)=(Xf)(q)g(0, q) = (Xf)(q) となる。gt=g(t,⋅)g_t = g(t, \cdot) とおくと f∘θ−t=f−t g−tf \circ \theta_{-t} = f - t\ g_{-t} なので、

V(t)f=Yθt(p)(f∘θ−t)=(Yf)(θt(p))−t (Yg−t)(θt(p))V(t)f = Y_{\theta_t(p)}(f \circ \theta_{-t}) = (Yf)(\theta_t(p)) - t\,(Yg_{-t})(\theta_t(p))

となる。したがって

V(t)f−V(0)ft=(Yf)(θt(p))−(Yf)(p)t−(Yg−t)(θt(p))⟶Xp(Yf)−Yp(g0)=[X,Y]pf(t→0)\frac{V(t)f - V(0)f}{t} = \frac{(Yf)(\theta_t(p)) - (Yf)(p)}{t} - (Yg_{-t})(\theta_t(p)) \longrightarrow X_p(Yf) - Y_p(g_0) = [X, Y]_pf \quad (t \to 0)

である。左辺の極限は V′(0)fV'(0)f なので、(LXY)p=[X,Y]p(L_XY)_p = [X, Y]_p が成り立つ。□\square

例 4.16(検算)(1) Rn\mathbb{R}^n では θt(x)=x+tX(x)+O(t2)\theta_t(x) = x + tX(x) + O(t^2), dθ−t=I−t DX+O(t2)d\theta_{-t} = I - t\ DX + O(t^2) なので、V(t)=(I−t DX(x))(Y(x)+t DY(x)X(x))+O(t2)V(t) = (I - t\ DX(x))(Y(x) + t\ DY(x)X(x)) + O(t^2) となる。したがって V′(0)=DY⋅X−DX⋅YV'(0) = DY \cdot X - DX \cdot Y であり、これは命題 4.11 の成分表示と一致する。 (2) X=∂xX = \partial_x, Y=x ∂yY = x\ \partial_y のとき、θt(x,y)=(x+t,y)\theta_t(x, y) = (x + t, y) で dθ−td\theta_{-t} は恒等写像なので、V(t)=(x+t) ∂yV(t) = (x + t)\ \partial_y、V′(0)=∂yV'(0) = \partial_y である。一方、命題 4.11 から [∂x,x ∂y]=∂y[\partial_x, x\ \partial_y] = \partial_y となり、一致する。

4.5 可換なフロー

定理 4.17 X,YX, Y を完備なベクトル場とし、フローをそれぞれ θ,η\theta, \eta とする。すべての s,ts, t で θt∘ηs=ηs∘θt\theta_t \circ \eta_s = \eta_s \circ \theta_t となるための必要十分条件は [X,Y]=0[X, Y] = 0 である。

証明. (⇒\Rightarrow) フローが可換なら、 d(θ−t)(Yθt(p))=dds∣s=0θ−t(ηs(θt(p)))=dds∣s=0ηs(p)=Ypd(\theta_{-t})(Y_{\theta_t(p)}) = \left. \frac{d}{ds} \right\vert_{s=0}\theta_{-t}(\eta_s(\theta_t(p))) = \left. \frac{d}{ds} \right\vert_{s=0}\eta_s(p) = Y_p となる。V(t)V(t) は定数なので、[X,Y]p=V′(0)=0[X, Y]_p = V'(0) = 0 である。

(⇐\Leftarrow) V(t)=d(θ−t)(Yθt(p))V(t) = d(\theta_{-t})(Y_{\theta_t(p)}) とする。θ−t0−h=θ−t0∘θ−h\theta_{-t_0-h} = \theta_{-t_0} \circ \theta_{-h} と d(θ−t0)d(\theta_{-t_0}) の線形性から、

V′(t0)=d(θ−t0)(ddh∣h=0d(θ−h)(Yθh(θt0(p))))=d(θ−t0)([X,Y]θt0(p))=0V'(t_0) = d(\theta_{-t_0})\left( \left. \frac{d}{dh} \right\vert_{h=0} d(\theta_{-h})(Y_{\theta_h(\theta_{t_0}(p))}) \right) = d(\theta_{-t_0})\left( [X, Y]_{\theta_{t_0}(p)} \right) = 0

となる。よって V(t)=YpV(t) = Y_p、すなわち d(θt)(Yp)=Yθt(p)d(\theta_t)(Y_p) = Y_{\theta_t(p)} がすべての p,tp, t で成り立つ。そこで c(s)=θt(ηs(p))c(s) = \theta_t(\eta_s(p)) とおくと、c′(s)=dθt(Yηs(p))=Yc(s)c'(s) = d\theta_t(Y_{\eta_s(p)}) = Y_{c(s)} であり、c(0)=θt(p)c(0) = \theta_t(p) である。積分曲線の一意性から c(s)=ηs(θt(p))c(s) = \eta_s(\theta_t(p)) が従う。□\square

完備でない場合も、両辺が定義される範囲で同じ主張(局所版)が同じ証明で成り立つ。例えば回転ベクトル場とオイラーのベクトル場は可換であり(演習問題 4.3)、実際、回転と拡大は可換である。

定理 4.18(可換な枠の標準形)X1,…,XkX_1, \dots, X_k は pp の近くで互いに可換([Xi,Xj]=0[X_i, X_j] = 0)なベクトル場で、X1(p),…,Xk(p)X_1(p), \dots, X_k(p) は一次独立であるとする。このとき pp のまわりのチャート (y1,…,yn)(y^1, \dots, y^n) で、Xi=∂/∂yiX_i = \partial/\partial y^i(i=1,…,ki = 1, \dots, k)となるものが存在する。特に k=1k = 1 の場合、Xp≠0X_p \neq 0 ならば X=∂/∂y1X = \partial/\partial y^1 となる座標がある(フロー・ボックス定理)。

証明. pp を中心とするチャート φ=(xi)\varphi = (x^i) を、X1(p),…,Xk(p),∂/∂xk+1∣p,…,∂/∂xn∣pX_1(p), \dots, X_k(p), \partial/\partial x^{k+1}\vert_p, \dots, \partial/\partial x^n\vert_p が基底になるようにとる(座標を一次変換すればよい)。XiX_i のフローを θi\theta^i とし、00 の近くの (t,y)=(t1,…,tk,yk+1,…,yn)(t, y) = (t^1, \dots, t^k, y^{k+1}, \dots, y^n) に対し

Φ(t,y)=θt11∘⋯∘θtkk(φ−1(0,…,0,yk+1,…,yn))\Phi(t, y) = \theta^1_{t^1} \circ \cdots \circ \theta^k_{t^k}\left( \varphi^{-1}(0, \dots, 0, y^{k+1}, \dots, y^n) \right)

とおく。定理 4.17(局所版)によりフローは可換なので、θtii\theta^i_{t^i} を先頭に移せば ∂Φ/∂ti=Xi(Φ(t,y))\partial\Phi/\partial t^i = X_i(\Phi(t, y)) となる。また Φ(0,y)=φ−1(0,y)\Phi(0, y) = \varphi^{-1}(0, y) より ∂Φ/∂yj(0)=∂/∂xj∣p\partial\Phi/\partial y^j(0) = \partial/\partial x^j\vert_p である。したがって dΦ0d\Phi_0 は標準基底を上の基底に写す同型であり、逆関数定理により Φ\Phi は 00 の近くで微分同相である。その逆写像を座標 (y1,…,yn)=(t1,…,tk,yk+1,…,yn)(y^1, \dots, y^n) = (t^1, \dots, t^k, y^{k+1}, \dots, y^n) とすれば、∂/∂yi=dΦ(∂/∂ti)=Xi\partial/\partial y^i = d\Phi(\partial/\partial t^i) = X_i となる。□\square

4.6 分布とフロベニウスの定理

定義 4.19(分布, distribution)各点 pp に kk 次元部分空間 Dp⊂TpMD_p \subset T_pM を対応させたもので、各点の近くで kk 個の滑らかなベクトル場(局所枠)で張られるものを、階数 kk の分布という。

  • 部分多様体 NN ですべての q∈Nq \in N で TqN=DqT_qN = D_q となるものを DD の積分多様体という。各点を通る積分多様体があるとき、DD は積分可能であるという。
  • X,YX, Y が DD に値をとるベクトル場なら [X,Y][X, Y] も DD に値をとるとき、DD は包合的 (involutive) であるという。

命題 4.20 積分可能な分布は包合的である。

証明. X,YX, Y を DD に値をとるベクトル場、p∈Mp \in M とし、pp を通る積分多様体 NN をとる(必要なら縮めて埋め込まれているとする)。X,YX, Y は NN に接するので、NN 上のベクトル場 X~,Y~\tilde{X}, \tilde{Y} と包含写像 ι\iota について ι\iota 関係にある。命題 4.12 の 4 より [X,Y]p=dιp([X~,Y~]p)∈TpN=Dp[X, Y]_p = d\iota_p([\tilde{X}, \tilde{Y}]_p) \in T_pN = D_p である。□\square

定理 4.21(フロベニウスの定理, Frobenius theorem)階数 kk の包合的な分布 DD に対し、各点 pp のまわりにチャート (y1,…,yn)(y^1, \dots, y^n) があって、その上で D=span⁡(∂/∂y1,…,∂/∂yk)D = \operatorname{span}(\partial/\partial y^1, \dots, \partial/\partial y^k) となる。特に、スライス {yk+1=ck+1,…,yn=cn}\lbrace y^{k+1} = c^{k+1}, \dots, y^n = c^n \rbrace は積分多様体であり、DD は積分可能である。

証明. pp のまわりのチャート (xi)(x^i) をとる。座標の番号を付け替えて、写像 ϖ ⁣:TqM→Rk\varpi\colon T_qM \to \mathbb{R}^k, v↦(v(x1),…,v(xk))v \mapsto (v(x^1), \dots, v(x^k)) が DpD_p 上で同型であるとしてよい。局所枠で表せば行列式の連続性がわかるので、qq が pp に近ければ ϖ∣Dq\varpi\vert_{D_q} も同型である。そこで、DD に値をとるベクトル場 X1,…,XkX_1, \dots, X_k を ϖ(Xi)=ei\varpi(X_i) = e_i で定めると、

Xi=∂∂xi+∑j>kaij∂∂xjX_i = \frac{\partial}{\partial x^i} + \sum_{j > k}a_i^j\frac{\partial}{\partial x^j}

の形になる(aija_i^j は局所枠の係数から連立一次方程式を解いて得られ、滑らかである)。XiX_i の ∂/∂xm\partial/\partial x^m(m≤km \leq k)成分は定数なので、命題 4.11 より [Xi,Xl][X_i, X_l] の ∂/∂xm\partial/\partial x^m 成分(m≤km \leq k)は 00、すなわち ϖ([Xi,Xl])=0\varpi([X_i, X_l]) = 0 である。包合性から [Xi,Xl]∈D[X_i, X_l] \in D であり、ϖ\varpi は DD 上で単射なので [Xi,Xl]=0[X_i, X_l] = 0 となる。定理 4.18 により Xi=∂/∂yiX_i = \partial/\partial y^i となる座標があり、そこで D=span⁡(X1,…,Xk)=span⁡(∂/∂y1,…,∂/∂yk)D = \operatorname{span}(X_1, \dots, X_k) = \operatorname{span}(\partial/\partial y^1, \dots, \partial/\partial y^k) である。□\square

例 4.22 (1) R3\mathbb{R}^3 上で X=∂x+y ∂zX = \partial_x + y\ \partial_z, Y=∂y+x ∂zY = \partial_y + x\ \partial_z が張る分布では、[X,Y]=(X(x)−Y(y)) ∂z=0[X, Y] = (X(x) - Y(y))\ \partial_z = 0 なので包合的である。実際、曲面 z=xy+cz = xy + c の接ベクトル (1,0,y),(0,1,x)(1, 0, y), (0, 1, x) はちょうど X,YX, Y であり、これらが積分多様体である。 (2) X=∂x+y ∂zX = \partial_x + y\ \partial_z, Y=∂yY = \partial_y が張る分布では [X,Y]=−Y(y) ∂z=−∂z[X, Y] = -Y(y)\ \partial_z = -\partial_z となる。(0,0,1)(0, 0, 1) は (1,0,y)(1, 0, y) と (0,1,0)(0, 1, 0) の一次結合でないので、この分布は包合的でなく、命題 4.20 より積分曲面をもたない(接触構造の典型例)。第5章では、この分布を 1 形式 dz−y dxdz - y\ dx の核として扱う。

4.7 リー群と左不変ベクトル場

定義 4.23(リー群, Lie group)群であって滑らかな多様体でもあり、積 (g,h)↦gh(g, h) \mapsto gh と逆元 g↦g−1g \mapsto g^{-1} が滑らかであるものをリー群という。

Rn\mathbb{R}^n、S1⊂C×S^1 \subset \mathbb{C}^{\times}、TnT^n、GL⁡n(R)\operatorname{GL}_n(\mathbb{R})(積は多項式、逆元はクラメルの公式により有理式)、その部分多様体である部分群 SL⁡n(R)\operatorname{SL}_n(\mathbb{R}), O⁡(n)\operatorname{O}(n)、単位四元数全体 S3S^3 はリー群である。左移動 Lg(h)=ghL_g(h) = gh は微分同相写像である(逆写像は Lg−1L_{g^{-1}})。

定義 4.24(左不変ベクトル場)X∈X(G)X \in \mathfrak{X}(G) が、すべての g,h∈Gg, h \in G で d(Lg)h(Xh)=Xghd(L_g)_h(X_h) = X_{gh} を満たすとき、左不変であるという。

命題 4.25 (1) 左不変ベクトル場 XX に Xe∈TeGX_e \in T_eG を対応させる写像は線形同型である。逆写像は v↦Xvv \mapsto X^v, Xgv=d(Lg)e(v)X^v_g = d(L_g)_e(v) で与えられる。 (2) 左不変ベクトル場のリー括弧は左不変である。したがって g=TeG\mathfrak{g} = T_eG にリー括弧 [v,w]=[Xv,Xw]e[v, w] = [X^v, X^w]_e が入る。これを GG のリー環 (Lie algebra) という。 (3) G=GL⁡n(R)G = \operatorname{GL}_n(\mathbb{R}) では XgA=gAX^A_g = gA であり、[XA,XB]=X[A,B][X^A, X^B] = X^{[A, B]}([A,B]=AB−BA[A, B] = AB - BA)が成り立つ。XAX^A のフローは θt(g)=getA\theta_t(g) = ge^{tA} である。

証明. (1) 左不変なら Xg=d(Lg)e(Xe)X_g = d(L_g)_e(X_e) なので、XX は XeX_e で決まる。逆に XvX^v は、Lg∘Lh=LghL_g \circ L_h = L_{gh} と連鎖律から左不変である。XvX^v の滑らかさは、Xvf(g)=ddt∣t=0f(gγ(t))X^vf(g) = \left. \frac{d}{dt} \right\vert_{t=0}f(g\gamma(t))(γ\gamma は γ′(0)=v\gamma'(0) = v となる曲線)と表し、積の滑らかさを使えば確かめられる。(2) X,YX, Y は自分自身と LgL_g 関係にあるので、命題 4.12 の 4 より [X,Y][X, Y] も LgL_g 関係にある。(3) LgL_g は線形写像 h↦ghh \mapsto gh の制限なので、XgA=gAX^A_g = gA である。M⁡n(R)\operatorname{M}_n(\mathbb{R}) の開集合上では [X,Y](x)=DY(x)X(x)−DX(x)Y(x)\lbrack X, Y \rbrack(x) = DY(x)X(x) - DX(x)Y(x) であり(命題 4.11)、DXB(g)[H]=HBDX^B(g)[H] = HB なので [XA,XB](g)=(gA)B−(gB)A=g[A,B]\lbrack X^A, X^B \rbrack(g) = (gA)B - (gB)A = g[A, B] となる。また ddt(getA)=getAA=XA(getA)\frac{d}{dt}(ge^{tA}) = ge^{tA}A = X^A(ge^{tA}) である。□\square

例 4.13 の VA(x)=AxV_A(x) = Ax のように、左から掛ける形のベクトル場 g↦Agg \mapsto Ag は右不変であり、そのリー括弧は −[A,B]-[A, B] に対応する。左不変ベクトル場を使えば、行列の交換子がそのまま現れる。左不変ベクトル場は完備であり(フローは g↦gexp⁡(tv)g \mapsto g\exp(tv))、その積分曲線から指数写像 exp⁡ ⁣:g→G\exp\colon \mathfrak{g} \to G が得られる。リー群とリー環の対応については リー群と表現論 第2章 で詳しく扱う。

まとめ

  • ベクトル場は接束の切断であり、C∞(M)C^\infty(M) の導分と同じものである。座標では X=∑iXi ∂/∂xiX = \sum_i X^i\ \partial/\partial x^i と書ける。
  • 積分曲線は自励系の常微分方程式の解であり、極大なものを集めてフロー θt\theta_t ができる。台がコンパクトなベクトル場は完備である。
  • リー括弧 [X,Y]=XY−YX[X, Y] = XY - YX はベクトル場であり、成分は ∑i(Xi∂iYj−Yi∂iXj)\sum_i (X^i\partial_iY^j - Y^i\partial_iX^j) である。ヤコビ恒等式と自然性をもつ。
  • リー微分はリー括弧に一致する:LXY=[X,Y]L_XY = [X, Y]。フローが可換であることと [X,Y]=0[X, Y] = 0 は同値である。
  • 可換で一次独立なベクトル場は座標ベクトル場にできる。これを使ってフロベニウスの定理(包合的 ⇔\Leftrightarrow 積分可能)が証明される。
  • リー群の左不変ベクトル場は TeGT_eG と同一視され、リー環をなす。GL⁡n\operatorname{GL}_n では括弧は行列の交換子である。

演習問題

問題 4.1 ★ R2\mathbb{R}^2 上の X=x ∂x−y ∂yX = x\ \partial_x - y\ \partial_y のフローを求め、積分曲線が双曲線 xy=一定xy = \text{一定} の上にあることを確かめよ。

解答

x′=xx' = x, y′=−yy' = -y を解いて θt(x,y)=(etx,e−ty)\theta_t(x, y) = (e^tx, e^{-t}y) を得る。これは完備であり、(etx)(e−ty)=xy(e^tx)(e^{-t}y) = xy は一定である。

問題 4.2 ★ R\mathbb{R} 上の X=(1+x2) ∂xX = (1 + x^2)\ \partial_x の極大積分曲線を求め、XX が完備でないことを示せ。

解答

x′=1+x2x' = 1 + x^2, x(0)=x0x(0) = x_0 の解は x(t)=tan⁡(t+arctan⁡x0)x(t) = \tan(t + \arctan x_0) であり、定義域は −π/2−arctan⁡x0<t<π/2−arctan⁡x0-\pi/2 - \arctan x_0 < t < \pi/2 - \arctan x_0 である。端で発散するので延長できず、これが極大積分曲線である。定義域が R\mathbb{R} でないので、XX は完備でない。

問題 4.3 ★ 回転ベクトル場 X=−y ∂x+x ∂yX = -y\ \partial_x + x\ \partial_y とオイラーのベクトル場 E=x ∂x+y ∂yE = x\ \partial_x + y\ \partial_y について [X,E]=0[X, E] = 0 を示し、フローが可換であることを直接確かめよ。

解答

命題 4.11 より、[X,E]x=X(x)−E(−y)=−y+y=0[X, E]^x = X(x) - E(-y) = -y + y = 0、[X,E]y=X(y)−E(x)=x−x=0[X, E]^y = X(y) - E(x) = x - x = 0 である。フローは θt=(角 t の回転)\theta_t = (\text{角 } t \text{ の回転})、ηs(p)=esp\eta_s(p) = e^sp であり、回転は線形なので θt(esp)=esθt(p)\theta_t(e^sp) = e^s\theta_t(p) となって可換である。

問題 4.4 ★★ S2∖{N}S^2 \setminus \lbrace N \rbrace 上で、立体射影の座標 uu により E=u1 ∂/∂u1+u2 ∂/∂u2E = u^1\ \partial/\partial u^1 + u^2\ \partial/\partial u^2 と定める。南極からの座標 w=u/∣u∣2w = u/\lvert u \rvert^2 で EE を表し、EE が S2S^2 全体の滑らかなベクトル場に延長されることを示せ。また、そのフローを説明せよ。

解答

EE のフローは u↦etuu \mapsto e^tu である。座標 ww では w↦etw/e2t=e−tww \mapsto e^tw/e^{2t} = e^{-t}w となるので、w≠0w \neq 0 で E=−(w1 ∂/∂w1+w2 ∂/∂w2)E = -(w^1\ \partial/\partial w^1 + w^2\ \partial/\partial w^2) である(命題 3.7 で直接計算してもよい)。右辺は w=0w = 0(北極)でも滑らかで 00 になるので、NN で EN=0E_N = 0 と定めれば S2S^2 上の滑らかなベクトル場になる。EE は南極と北極でだけ 00 となる。それ以外の点は、t→−∞t \to -\infty で南極から出て、t→∞t \to \infty で北極に近づく経線に沿って流れる。S2S^2 はコンパクトなので EE は完備である。

問題 4.5 ★★ R3\mathbb{R}^3 上の滑らかな関数 a(x,y),b(x,y)a(x, y), b(x, y) に対し、X=∂x+a ∂zX = \partial_x + a\ \partial_z, Y=∂y+b ∂zY = \partial_y + b\ \partial_z が張る分布が積分可能であるための必要十分条件は ∂a/∂y=∂b/∂x\partial a/\partial y = \partial b/\partial x であることを示せ。このとき積分多様体を求めよ。

解答

[X,Y]=(X(b)−Y(a)) ∂z=(bx−ay) ∂z[X, Y] = (X(b) - Y(a))\ \partial_z = (b_x - a_y)\ \partial_z である。∂z\partial_z は X,YX, Y の一次結合でないので、包合的であることと ay=bxa_y = b_x は同値である。これはフロベニウスの定理と命題 4.20 により、積分可能性と同値である。ay=bxa_y = b_x なら、R2\mathbb{R}^2 上で hx=ah_x = a, hy=bh_y = b となる hh が存在する(h(x,y)=∫0xa(s,0) ds+∫0yb(x,s) dsh(x, y) = \int_0^x a(s, 0)\ ds + \int_0^y b(x, s)\ ds とおけばよい。第7章のポアンカレの補題の特別な場合)。曲面 z=h(x,y)+cz = h(x, y) + c の接ベクトルは (1,0,a)(1, 0, a) と (0,1,b)(0, 1, b) であり、これが積分多様体である。

問題 4.6 ★★ 四元数体 H=R4\mathbb{H} = \mathbb{R}^4 の単位球面 S3S^3 上で、X1(x)=xiX_1(x) = xi, X2(x)=xjX_2(x) = xj, X3(x)=xkX_3(x) = xk(四元数の積)とおく。これらは S3S^3 上の左不変ベクトル場であり、各点で一次独立であることを示せ。さらに [X1,X2]=2X3[X_1, X_2] = 2X_3 を示せ。

解答

∣x∣=1\lvert x \rvert = 1 のとき、左からの積 y↦xyy \mapsto xy は H\mathbb{H} の直交変換で、1↦x1 \mapsto x と写す。i,j,ki, j, k は 11 に直交する正規直交系なので、xi,xj,xkxi, xj, xk は xx に直交する正規直交系である。よって S3S^3 に接し、一次独立である。Xv(x)=xvX_v(x) = xv は Lg(x)=gxL_g(x) = gx に関して d(Lg)(Xv(x))=gxv=Xv(gx)d(L_g)(X_v(x)) = gxv = X_v(gx) を満たすので左不変である。H∖{0}\mathbb{H} \setminus \lbrace 0 \rbrace 上で命題 4.25 (3) と同じ計算をすると [Xu,Xv](x)=(xu)v−(xv)u=x(uv−vu)\lbrack X_u, X_v \rbrack(x) = (xu)v - (xv)u = x(uv - vu) であり、ij−ji=k−(−k)=2kij - ji = k - (-k) = 2k だから [X1,X2]=2X3[X_1, X_2] = 2X_3 となる。特に S3S^3 は、至る所一次独立な 3 つのベクトル場をもつ(平行化可能である)。

問題 4.7 ★★★ MM を連結な多様体とする。任意の p,q∈Mp, q \in M に対し、F(p)=qF(p) = q となる微分同相写像 F ⁣:M→MF\colon M \to M が存在することを示せ。

解答

p∼qp \sim q を「F(p)=qF(p) = q となる微分同相 FF が存在する」で定めると、同値関係である。各同値類が開集合であることを示せば、連結性から同値類はただ一つになる。pp を中心とするチャート φ\varphi で φ(U)⊃B(0,3)\varphi(U) \supset B(0, 3) となるものをとり、q∈φ−1(B(0,1))q \in \varphi^{-1}(B(0, 1)) とする。a=φ(q)a = \varphi(q) とおき、隆起関数 ρ\rho(B‾(0,1)\overline{B}(0, 1) 上で 11、台は B‾(0,2)\overline{B}(0, 2))を使って、UU 上では V=ρ ∑iai ∂/∂xiV = \rho\ \sum_i a^i\ \partial/\partial x^i、UU の外では 00 と定める。VV は台がコンパクトなので完備である(定理 4.9)。00 を出発する積分曲線は、∣ta∣<1\lvert ta \rvert < 1 の範囲で V=∑iai ∂/∂xiV = \sum_i a^i\ \partial/\partial x^i なので φ−1(ta)\varphi^{-1}(ta) であり、t=1t = 1 で qq に達する。よって時刻 1 のフロー θ1\theta_1 は θ1(p)=q\theta_1(p) = q を満たす微分同相写像である。したがって pp の同値類は pp の近傍 φ−1(B(0,1))\varphi^{-1}(B(0, 1)) を含み、同値類は開集合である。

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