Lemma数学ロードマップ

08 微分方程式 · 第 2 章

解の存在と一意性

目安 9〜12 時間定理など 15演習 6 問

この章の目標

  • 初期値問題を積分方程式に書き直し、リプシッツ条件のもとでの解の存在と一意性を、逐次近似と縮小写像の 2 通りの方法で証明できる
  • グロンウォールの不等式を証明し、一意性や解の誤差評価に使える
  • 最大存在区間と解の延長定理を理解し、解の爆発を説明できる
  • 解が初期値とパラメータに連続に依存することを証明できる
  • ペアノの存在定理をアスコリ–アルツェラの定理から証明できる

前提:第1章、微分積分学 第6章、集合と位相 第5章、第7章

第1章では、y′=y2y' = y^2 の解が有限の時刻で爆発すること(例 1.10)、トリチェリの法則 h′=−khh' = -k\sqrt{h} では解が一意でないこと(例 1.11)、y′=x2+y2y' = x^2 + y^2 は求積法で解けないこと(注意 1.6)を見た。本章では、解の式を書かずに次の問いに答える。解は存在するか。一意か。どこまで延長できるか。初期値を変えると解はどう変わるか。

以下 D⊂R×RnD \subset \mathbb{R} \times \mathbb{R}^n を開集合、f ⁣:D→Rnf\colon D \to \mathbb{R}^n を連続写像とし、Rn\mathbb{R}^n のノルム ∥⋅∥\lVert \cdot \rVert を一つ固定する(どのノルムも同値である)。nn 階の方程式は 1 階の連立方程式に書き直せる(第1章 1.1 節)ので、x′=f(t,x)x' = f(t, x) の形だけを考えれば十分である。ベクトル値関数の積分は成分ごとに定義し、∥∫abg(s) ds∥≤∫ab∥g(s)∥ ds\left\lVert \int_a^b g(s)\ ds \right\rVert \leq \int_a^b \lVert g(s) \rVert\ ds(a≤ba \leq b)を使う(リーマン和に三角不等式を適用して極限をとればよい)。

2.1 初期値問題と積分方程式

(t0,x0)∈D(t_0, x_0) \in D とし、初期値問題 x′=f(t,x)x' = f(t, x), x(t0)=x0x(t_0) = x_0 を考える。t0t_0 を含む区間 JJ 上の解とは、微分可能な x ⁣:J→Rnx\colon J \to \mathbb{R}^n で、グラフ {(t,x(t))}\lbrace (t, x(t)) \rbrace が DD に含まれ、方程式と初期条件をみたすものである。

補題 2.1 x ⁣:J→Rnx\colon J \to \mathbb{R}^n を連続でグラフが DD に含まれる写像とする。xx が初期値問題の解であるための必要十分条件は、すべての t∈Jt \in J で

x(t)=x0+∫t0tf(s,x(s)) dsx(t) = x_0 + \int_{t_0}^t f(s, x(s))\,ds

が成り立つことである。このとき xx は C1C^1 級である。

証明. 解ならば x′(t)=f(t,x(t))x'(t) = f(t, x(t)) は連続なので xx は C1C^1 級で、微分積分学の基本定理から等式が従う。逆に等式が成り立てば、被積分関数は連続なので右辺は微分可能で x′=f(t,x)x' = f(t, x)、また x(t0)=x0x(t_0) = x_0。□\square

この書き直しにより、微分が、一様収束と交換できる積分に置き換わる。

2.2 リプシッツ条件

定義 2.2(リプシッツ条件, Lipschitz condition)定数 L≥0L \geq 0 があって、(t,x),(t,y)∈D(t, x), (t, y) \in D ならば常に

∥f(t,x)−f(t,y)∥≤L∥x−y∥\lVert f(t, x) - f(t, y) \rVert \leq L\lVert x - y \rVert

が成り立つとき、ff は DD 上で xx についてリプシッツ条件をみたすといい、LL をリプシッツ定数という。DD の各点が、その上で ff がリプシッツ条件をみたす近傍をもつとき、ff は xx について局所リプシッツ (locally Lipschitz) であるという。

命題 2.3 ff と偏導関数 ∂fi/∂xj\partial f_i/\partial x_j が DD 上で連続なら、ff は xx について局所リプシッツである。

証明. (t1,x1)∈D(t_1, x_1) \in D に対し、DD は開集合なので C=[t1−r,t1+r]×B‾(x1,r)⊂DC = [t_1 - r, t_1 + r] \times \overline{B}(x_1, r) \subset D となる r>0r > 0 がある。CC はコンパクトなので、ヤコビ行列 DxfD_xf の作用素ノルムは CC 上で最大値 LL をとる。(t,x),(t,y)∈C(t, x), (t, y) \in C なら線分 y+θ(x−y)y + \theta(x - y)(0≤θ≤10 \leq \theta \leq 1)は凸集合 B‾(x1,r)\overline{B}(x_1, r) に含まれ、θ↦f(t,y+θ(x−y))\theta \mapsto f(t, y + \theta(x - y)) に微分積分学の基本定理を使うと

∥f(t,x)−f(t,y)∥=∥∫01Dxf(t,y+θ(x−y))(x−y) dθ∥≤L∥x−y∥\lVert f(t, x) - f(t, y) \rVert = \left\lVert \int_0^1 D_xf(t, y + \theta(x - y))(x - y)\,d\theta \right\rVert \leq L\lVert x - y \rVert

CC は (t1,x1)(t_1, x_1) の近傍なので主張が従う。□\square

例 2.4 (a) f(x)=∣x∣f(x) = \lvert x \rvert は微分可能でないがリプシッツ条件をみたす(L=1L = 1)。(b) f(x)=x2f(x) = x^2 は局所リプシッツだが、∣x2−y2∣=∣x+y∣∣x−y∣\lvert x^2 - y^2 \rvert = \lvert x + y \rvert\lvert x - y \rvert なので R\mathbb{R} 全体ではリプシッツでない。(c) f(x)=∣x∣f(x) = \sqrt{\lvert x \rvert} は 0 の近傍でリプシッツでない。∣f(x)−f(0)∣/∣x∣=∣x∣−1/2\lvert f(x) - f(0) \rvert/\lvert x \rvert = \lvert x \rvert^{-1/2} が x→0x \to 0 で有界でないからである。

補題 2.5 ff が xx について局所リプシッツなら、DD の任意のコンパクト部分集合 KK 上でリプシッツ条件をみたす。すなわち (t,x),(t,y)∈K(t, x), (t, y) \in K なら ∥f(t,x)−f(t,y)∥≤LK∥x−y∥\lVert f(t, x) - f(t, y) \rVert \leq L_K\lVert x - y \rVert となる定数 LKL_K がある。

証明. そうでないとすると、(tk,xk),(tk,yk)∈K(t_k, x_k), (t_k, y_k) \in K で ∥f(tk,xk)−f(tk,yk)∥>k∥xk−yk∥\lVert f(t_k, x_k) - f(t_k, y_k) \rVert > k\lVert x_k - y_k \rVert となるものがある。M=max⁡K∥f∥M = \max_K \lVert f \rVert とすると ∥xk−yk∥<2M/k→0\lVert x_k - y_k \rVert < 2M/k \to 0。部分列をとって (tk,xk)→(t∗,x∗)∈K(t_k, x_k) \to (t^{\ast}, x^{\ast}) \in K としてよく、このとき yk→x∗y_k \to x^{\ast}。(t∗,x∗)(t^{\ast}, x^{\ast}) の近傍で ff がリプシッツ定数 L′L' をもつとすると、十分大きい kk で k∥xk−yk∥<L′∥xk−yk∥k\lVert x_k - y_k \rVert < L'\lVert x_k - y_k \rVert となり(xk≠ykx_k \neq y_k に注意)、k<L′k < L' に矛盾する。□\square

2.3 ピカール–リンデレフの定理

本節では次を仮定する。

仮定 (A):a,b>0a, b > 0 に対し R={(t,x)∣∣t−t0∣≤a, ∥x−x0∥≤b}⊂DR = \lbrace (t, x) \mid \lvert t - t_0 \rvert \leq a,\ \lVert x - x_0 \rVert \leq b \rbrace \subset D とし、M=max⁡R∥f∥M = \max_R \lVert f \rVert、h=min⁡(a,b/M)h = \min(a, b/M)(M=0M = 0 なら h=ah = a)、I=[t0−h,t0+h]I = [t_0 - h, t_0 + h] とおく。

補題 2.6 仮定 (A) のもとで、t0t_0 を含む区間 J⊂IJ \subset I 上の解 xx は ∥x(t)−x0∥≤M∣t−t0∣\lVert x(t) - x_0 \rVert \leq M\lvert t - t_0 \rvert をみたす。特にそのグラフは RR に含まれる。

証明. t≥t0t \geq t_0 の側を示す(逆側も同様)。S={τ∈J∣τ≥t0, [t0,τ] 上で ∥x(t)−x0∥≤b}S = \lbrace \tau \in J \mid \tau \geq t_0,\ [t_0, \tau] \text{ 上で } \lVert x(t) - x_0 \rVert \leq b \rbrace とおく。SS は t0t_0 を含む区間で、連続性から閉である。τ∈S\tau \in S なら [t0,τ][t_0, \tau] 上でグラフは RR に含まれるので、補題 2.1 より ∥x(t)−x0∥≤∫t0t∥f(s,x(s))∥ ds≤M(t−t0)\lVert x(t) - x_0 \rVert \leq \int_{t_0}^t \lVert f(s, x(s)) \rVert\ ds \leq M(t - t_0)。SS が J∩[t0,∞)J \cap [t_0, \infty) 全体でないとすると、τ∗=max⁡S\tau^{\ast} = \max S の右にも JJ の点があるので τ∗<t0+h\tau^{\ast} < t_0 + h であり、∥x(τ∗)−x0∥≤M(τ∗−t0)<b\lVert x(\tau^{\ast}) - x_0 \rVert \leq M(\tau^{\ast} - t_0) < b(M>0M > 0 なら M(τ∗−t0)<Mh≤bM(\tau^{\ast} - t_0) < Mh \leq b、M=0M = 0 なら左辺は 0)。連続性から τ∗\tau^{\ast} の少し右でも ∥x(t)−x0∥<b\lVert x(t) - x_0 \rVert < b となり、τ∗\tau^{\ast} の最大性に矛盾する。□\square

定理 2.7(ピカール–リンデレフの定理, Picard–Lindelöf theorem)仮定 (A) に加えて、ff が RR 上で xx についてリプシッツ条件(定数 LL)をみたすとする。このとき初期値問題 x′=f(t,x)x' = f(t, x), x(t0)=x0x(t_0) = x_0 は II 上の解 φ\varphi をもつ。また t0t_0 を含む区間 J⊂IJ \subset I 上の解は、JJ 上で φ\varphi と一致する。

証明 1(逐次近似). φ0(t)=x0\varphi_0(t) = x_0 とし、t∈It \in I に対して

φk+1(t)=x0+∫t0tf(s,φk(s)) ds\varphi_{k+1}(t) = x_0 + \int_{t_0}^t f(s, \varphi_k(s))\,ds

で逐次近似 (successive approximation) φk\varphi_k を定める。

(i) φk\varphi_k は連続でグラフは RR に含まれる。帰納法による:φk\varphi_k がそうなら φk+1\varphi_{k+1} は定義できて連続で、∥φk+1(t)−x0∥≤M∣t−t0∣≤Mh≤b\lVert \varphi_{k+1}(t) - x_0 \rVert \leq M\lvert t - t_0 \rvert \leq Mh \leq b。

(ii) ∥φk+1(t)−φk(t)∥≤MLk∣t−t0∣k+1(k+1)!\lVert \varphi_{k+1}(t) - \varphi_k(t) \rVert \leq \dfrac{ML^k\lvert t - t_0 \rvert^{k+1}}{(k+1)!}。k=0k = 0 は (i) の評価そのものである。kk で成り立てば、t≥t0t \geq t_0 として

∥φk+2(t)−φk+1(t)∥≤∫t0tL∥φk+1(s)−φk(s)∥ ds≤∫t0tMLk+1(s−t0)k+1(k+1)! ds=MLk+1(t−t0)k+2(k+2)!\lVert \varphi_{k+2}(t) - \varphi_{k+1}(t) \rVert \leq \int_{t_0}^t L\lVert \varphi_{k+1}(s) - \varphi_k(s) \rVert\,ds \leq \int_{t_0}^t \frac{ML^{k+1}(s - t_0)^{k+1}}{(k+1)!}\,ds = \frac{ML^{k+1}(t - t_0)^{k+2}}{(k+2)!}

(t≤t0t \leq t_0 も同様)。

(iii) (ii) より ∑ksup⁡I∥φk+1−φk∥≤∑kMLkhk+1(k+1)!<∞\sum_k \sup_I \lVert \varphi_{k+1} - \varphi_k \rVert \leq \sum_k \frac{ML^kh^{k+1}}{(k+1)!} < \infty なので、ワイエルシュトラスの M 判定法により φk=φ0+∑j<k(φj+1−φj)\varphi_k = \varphi_0 + \sum_{j < k}(\varphi_{j+1} - \varphi_j) は II 上で一様収束する。極限 φ\varphi は連続で、RR は閉集合なのでグラフは RR に含まれる。

(iv) ∥f(s,φk(s))−f(s,φ(s))∥≤L∥φk(s)−φ(s)∥→0\lVert f(s, \varphi_k(s)) - f(s, \varphi(s)) \rVert \leq L\lVert \varphi_k(s) - \varphi(s) \rVert \to 0(一様)なので、漸化式で k→∞k \to \infty とすると φ(t)=x0+∫t0tf(s,φ(s)) ds\varphi(t) = x_0 + \int_{t_0}^t f(s, \varphi(s))\ ds。補題 2.1 より φ\varphi は解である。

(v) 一意性:ψ\psi を JJ 上の解とすると、補題 2.6 よりグラフは RR に含まれる。t0t_0 を含むコンパクト区間 J′⊂JJ' \subset J 上で K=sup⁡J′∥ψ−φ∥K = \sup_{J'}\lVert \psi - \varphi \rVert とおくと、∥ψ(t)−φ(t)∥≤∣∫t0tL∥ψ−φ∥ ds∣\lVert \psi(t) - \varphi(t) \rVert \leq \left\lvert \int_{t_0}^t L\lVert \psi - \varphi \rVert\ ds \right\rvert の繰り返しにより ∥ψ(t)−φ(t)∥≤KLk∣t−t0∣k/k!→0\lVert \psi(t) - \varphi(t) \rVert \leq KL^k\lvert t - t_0 \rvert^k/k! \to 0。よって JJ 上で ψ=φ\psi = \varphi。□\square

例 2.8 x′=xx' = x, x(0)=1x(0) = 1 の逐次近似は φk(t)=∑j=0ktj/j!\varphi_k(t) = \sum_{j=0}^k t^j/j! であり、ete^t のテイラー展開の部分和が現れる。

証明 2(縮小写像の原理). L>0L > 0 としてよい。C(I,Rn)C(I, \mathbb{R}^n) の閉部分集合 X={φ∣∥φ(t)−x0∥≤b (t∈I)}X = \lbrace \varphi \mid \lVert \varphi(t) - x_0 \rVert \leq b\ (t \in I) \rbrace に、重みつきの距離

d(φ,ψ)=sup⁡t∈Ie−2L∣t−t0∣∥φ(t)−ψ(t)∥d(\varphi, \psi) = \sup_{t \in I} e^{-2L\lvert t - t_0 \rvert}\lVert \varphi(t) - \psi(t) \rVert

を入れる。e−2Lhd∞≤d≤d∞e^{-2Lh}d_\infty \leq d \leq d_\infty(d∞d_\infty は一様距離)なので dd は一様距離と同値であり、C(I,Rn)C(I, \mathbb{R}^n) は一様距離で完備(集合と位相 定理 7.6)だから (X,d)(X, d) も完備である。(Tφ)(t)=x0+∫t0tf(s,φ(s)) ds(T\varphi)(t) = x_0 + \int_{t_0}^t f(s, \varphi(s))\ ds とおくと、証明 1 の (i) と同様に T(X)⊂XT(X) \subset X。t≥t0t \geq t_0 では

∥Tφ(t)−Tψ(t)∥≤∫t0tLe2L(s−t0)d(φ,ψ) ds≤12e2L(t−t0)d(φ,ψ)\lVert T\varphi(t) - T\psi(t) \rVert \leq \int_{t_0}^t L e^{2L(s - t_0)} d(\varphi, \psi)\,ds \leq \frac{1}{2}e^{2L(t - t_0)}d(\varphi, \psi)

であり、t≤t0t \leq t_0 でも同様なので d(Tφ,Tψ)≤12d(φ,ψ)d(T\varphi, T\psi) \leq \frac{1}{2}d(\varphi, \psi)。縮小写像の原理(集合と位相 定理 7.14)より TT は XX 内にただ一つの不動点 φ\varphi をもち、補題 2.1 より φ\varphi は解である。J⊂IJ \subset I 上の解 ψ\psi は補題 2.6 より JJ 上の XX に対応する空間に属し、JJ 上で同じ議論をすれば不動点の一意性から ψ=φ∣J\psi = \varphi\vert_J。□\square

注意 2.9 一様距離のままでは、同じ評価から得られるのは d∞(Tφ,Tψ)≤Lh d∞(φ,ψ)d_\infty(T\varphi, T\psi) \leq Lh\ d_\infty(\varphi, \psi) であり、TT が縮小写像であることが保証されるのは Lh<1Lh < 1 のとき(区間を短くとったとき)だけである。重み e−2L∣t−t0∣e^{-2L\lvert t - t_0 \rvert} はこの制限を取り除く工夫である。証明 1 の逐次近似は反復 φk+1=Tφk\varphi_{k+1} = T\varphi_k にほかならない。

2.4 グロンウォールの不等式

一意性や誤差の評価に繰り返し使う不等式を用意する。

定理 2.10(グロンウォールの不等式, Gronwall's inequality)u,βu, \beta を [t0,t1][t_0, t_1] 上の連続関数、β≥0\beta \geq 0、α∈R\alpha \in \mathbb{R} とする。すべての t∈[t0,t1]t \in [t_0, t_1] で

u(t)≤α+∫t0tβ(s)u(s) dsu(t) \leq \alpha + \int_{t_0}^t \beta(s)u(s)\,ds

ならば、u(t)≤αexp⁡(∫t0tβ(s) ds)u(t) \leq \alpha\exp\left(\int_{t_0}^t \beta(s)\ ds\right) が成り立つ。

証明. 右辺を Φ(t)=α+∫t0tβu ds\Phi(t) = \alpha + \int_{t_0}^t \beta u\ ds、B(t)=∫t0tβ dsB(t) = \int_{t_0}^t \beta\ ds とおく。β≥0\beta \geq 0 と u≤Φu \leq \Phi より Φ′=βu≤βΦ\Phi' = \beta u \leq \beta\Phi なので、(Φe−B)′=(Φ′−βΦ)e−B≤0(\Phi e^{-B})' = (\Phi' - \beta\Phi)e^{-B} \leq 0。よって Φ(t)e−B(t)≤Φ(t0)=α\Phi(t)e^{-B(t)} \leq \Phi(t_0) = \alpha で、u(t)≤Φ(t)≤αeB(t)u(t) \leq \Phi(t) \leq \alpha e^{B(t)}。□\square

t≤t0t \leq t_0 の側(u(t)≤α+∫tt0βu dsu(t) \leq \alpha + \int_t^{t_0}\beta u\ ds)でも、tt を 2t0−t2t_0 - t に置き換えれば同じ結論 u(t)≤αexp⁡∫tt0β dsu(t) \leq \alpha\exp\int_t^{t_0}\beta\ ds を得る。

系 2.11(解の誤差評価)区間 J∋t0J \ni t_0 上で、xx は x′=f(t,x)x' = f(t, x) の解、yy は y′=g(t,y)y' = g(t, y) の解とする。ff は両者のグラフを含む集合上で xx について定数 L>0L > 0 のリプシッツ条件をみたし、yy のグラフ上で ∥f(t,y)−g(t,y)∥≤ε\lVert f(t, y) - g(t, y) \rVert \leq \varepsilon とする。このとき t∈Jt \in J で

∥x(t)−y(t)∥≤∥x(t0)−y(t0)∥eL∣t−t0∣+εL(eL∣t−t0∣−1)\lVert x(t) - y(t) \rVert \leq \lVert x(t_0) - y(t_0) \rVert e^{L\lvert t - t_0 \rvert} + \frac{\varepsilon}{L}\left(e^{L\lvert t - t_0 \rvert} - 1\right)

特に g=fg = f で x(t0)=y(t0)x(t_0) = y(t_0) なら x=yx = y である。

証明. t≥t0t \geq t_0 とする。x(t)−y(t)=x(t0)−y(t0)+∫t0t(f(s,x)−f(s,y)+f(s,y)−g(s,y))dsx(t) - y(t) = x(t_0) - y(t_0) + \int_{t_0}^t\bigl(f(s, x) - f(s, y) + f(s, y) - g(s, y)\bigr)ds より、u=∥x−y∥u = \lVert x - y \rVert は u(t)≤u(t0)+∫t0t(Lu+ε) dsu(t) \leq u(t_0) + \int_{t_0}^t (Lu + \varepsilon)\ ds をみたす。w=u+ε/Lw = u + \varepsilon/L とおくと w(t)≤w(t0)+∫t0tLw dsw(t) \leq w(t_0) + \int_{t_0}^t Lw\ ds なので、定理 2.10 より w(t)≤w(t0)eL(t−t0)w(t) \leq w(t_0)e^{L(t - t_0)}。これが主張である。t≤t0t \leq t_0 も同様。□\square

誤差は時間とともに高々指数関数的にしか増えないが、LL が大きい系では初期値のわずかな誤差が急速に拡大しうる。

2.5 一意性が崩れる例

例 2.12 x′=∣x∣x' = \sqrt{\lvert x \rvert}, x(0)=0x(0) = 0 を考える。x≡0x \equiv 0 は解である。さらに 0≤c≤∞0 \leq c \leq \infty, 0≤d≤∞0 \leq d \leq \infty に対し

x(t)={(t−c)2/4(t>c)0(−d≤t≤c)−(t+d)2/4(t<−d)x(t) = \begin{cases} (t - c)^2/4 & (t > c) \\ 0 & (-d \leq t \leq c) \\ -(t + d)^2/4 & (t < -d) \end{cases}

も解である。実際 t>ct > c では x′=(t−c)/2=xx' = (t - c)/2 = \sqrt{x}、t<−dt < -d では x′=−(t+d)/2=∣x∣x' = -(t + d)/2 = \sqrt{\lvert x \rvert} であり、つなぎ目の微分係数は 0 である。解は無数にあり、「いつ動き出すか」が決まらない。右辺は x=0x = 0 でリプシッツ連続でない(例 2.4 (c))。x0>0x_0 > 0 から出発した解 (t/2+x0)2(t/2 + \sqrt{x_0})^2 も、過去にさかのぼって x=0x = 0 に達すると枝分かれする。トリチェリの法則(例 1.11)と同じ現象である。

注意 2.13 リプシッツ条件は一意性の十分条件であって必要条件ではない。たとえば ff が xx について単調減少なら、未来向き(t≥t0t \geq t_0)の一意性が成り立つ(問題 2.4)。

2.6 解の延長と最大存在区間

本節と次節では次を仮定する。

仮定 (B):f ⁣:D→Rnf\colon D \to \mathbb{R}^n は連続で、xx について局所リプシッツである。

補題 2.14(大域的な一意性)仮定 (B) のもとで、x1x_1(区間 J1J_1 上)と x2x_2(区間 J2J_2 上)が同じ初期値問題の解なら、J1∩J2J_1 \cap J_2 上で x1=x2x_1 = x_2。

証明. S={t∈J1∩J2∣x1(t)=x2(t)}S = \lbrace t \in J_1 \cap J_2 \mid x_1(t) = x_2(t) \rbrace は t0t_0 を含み、連続性から J1∩J2J_1 \cap J_2 で閉である。t1∈St_1 \in S なら、(t1,x1(t1))(t_1, x_1(t_1)) の近傍の長方形で定理 2.7 を適用すると、t1t_1 の近くで x1x_1 と x2x_2 は一致するので、SS は開でもある。区間 J1∩J2J_1 \cap J_2 は連結なので S=J1∩J2S = J_1 \cap J_2。□\square

定理 2.15(最大解)仮定 (B) のもとで、各 (t0,x0)∈D(t_0, x_0) \in D に対し、開区間 (ω−,ω+)∋t0(\omega_-, \omega_+) \ni t_0(−∞≤ω−<ω+≤∞-\infty \leq \omega_- < \omega_+ \leq \infty)上の解 xx で、初期値問題の任意の解が xx の制限になっているものがただ一つ存在する。

この xx を最大解 (maximal solution)、(ω−,ω+)(\omega_-, \omega_+) を最大存在区間 (maximal interval of existence) という。

証明. 初期値問題のすべての解の定義域の和集合を J∗J^{\ast} とすると、J∗J^{\ast} は t0t_0 を含む区間である。t∈J∗t \in J^{\ast} で定義された解の tt での値を x(t)x(t) とおくと、補題 2.14 によりこれは解の選び方によらない。xx は各点の近くで何らかの解と一致するので J∗J^{\ast} 上の解であり、どの解も xx の制限である。J∗J^{\ast} が右端 ω+\omega_+ を含むとすると、(ω+,x(ω+))∈D(\omega_+, x(\omega_+)) \in D で定理 2.7 を使って [ω+,ω++h][\omega_+, \omega_+ + h] 上の解 yy を作り、xx とつなげた関数は積分方程式をみたす(補題 2.1)ので、J∗J^{\ast} より長い区間上の解になり矛盾する。左端も同様で、J∗J^{\ast} は開区間である。□\square

定理 2.16(延長定理)仮定 (B) のもとで、xx を最大解とする。ω+<∞\omega_+ < \infty ならば、任意のコンパクト集合 K⊂DK \subset D に対し、ある tK<ω+t_K < \omega_+ があって、tK<t<ω+t_K < t < \omega_+ なら (t,x(t))∉K(t, x(t)) \notin K となる。ω−\omega_- についても同様である。

つまり、最大解のグラフは有限時刻で終わるなら、DD のどのコンパクト集合からも最終的に出ていく。

証明. DD は開、KK はコンパクトなので、r>0r > 0 を小さくとれば、KK の点 (s,y)(s, y) から ∣t−s∣≤r\lvert t - s \rvert \leq r, ∥x−y∥≤r\lVert x - y \rVert \leq r の範囲にある点全体 KrK_r は DD に含まれるコンパクト集合になる(KrK_r は有界閉集合であり、KK と DD の補集合との距離は正だから)。M=max⁡Kr∥f∥M = \max_{K_r}\lVert f \rVert、LL を KrK_r 上のリプシッツ定数(補題 2.5)、h=min⁡(r,r/M)h = \min(r, r/M)(M=0M = 0 なら h=rh = r)とする。各 (s,y)∈K(s, y) \in K で長方形 [s−r,s+r]×B‾(y,r)[s - r, s + r] \times \overline{B}(y, r) は KrK_r に含まれるので、定理 2.7 より (s,y)(s, y) を通る解が [s−h,s+h][s - h, s + h] 上に存在する。hh は (s,y)(s, y) によらないことが要点である。いま tk→ω+t_k \to \omega_+ かつ (tk,x(tk))∈K(t_k, x(t_k)) \in K となる列があったとし、ω+−tk<h\omega_+ - t_k < h となる kk をとる。(tk,x(tk))(t_k, x(t_k)) を通る [tk−h,tk+h][t_k - h, t_k + h] 上の解は補題 2.14 により xx と共通部分で一致するので、xx は tk+h>ω+t_k + h > \omega_+ まで延長でき、最大性に矛盾する。□\square

系 2.17(爆発)D=J×RnD = J \times \mathbb{R}^n(JJ は開区間)で ω+<sup⁡J\omega_+ < \sup J ならば、t→ω+t \to \omega_+ で ∥x(t)∥→∞\lVert x(t) \rVert \to \infty。

証明. 任意の ρ>0\rho > 0 に対し K=[t0,ω+]×B‾(0,ρ)K = [t_0, \omega_+] \times \overline{B}(0, \rho) は DD のコンパクト部分集合なので、定理 2.16 より ω+\omega_+ の十分近くで ∥x(t)∥>ρ\lVert x(t) \rVert > \rho。□\square

例 2.18 (a) x′=x2x' = x^2, x(0)=x0>0x(0) = x_0 > 0 の最大解は x=x0/(1−x0t)x = x_0/(1 - x_0t) で ω+=1/x0\omega_+ = 1/x_0。初期値が大きいほど早く爆発する。(b) D=R×(0,∞)D = \mathbb{R} \times (0, \infty) 上の x′=−1/(2x)x' = -1/(2x), x(0)=1x(0) = 1 の最大解は x=1−tx = \sqrt{1 - t} で ω+=1\omega_+ = 1。解は有界だが、DD の境界 x=0x = 0 に近づくことで DD のコンパクト集合から出ていく。(c) x′=−x3x' = -x^3 の解は (x2)′=−2x4≤0(x^2)' = -2x^4 \leq 0 より t≥t0t \geq t_0 で有界なので、系 2.17 より ω+=∞\omega_+ = \infty。解を求めずに得られるこのような評価をアプリオリ評価 (a priori estimate) という。

系 2.19(線形増大条件)D=J×RnD = J \times \mathbb{R}^n とし、仮定 (B) に加えて JJ 上の連続関数 α,β≥0\alpha, \beta \geq 0 により ∥f(t,x)∥≤α(t)+β(t)∥x∥\lVert f(t, x) \rVert \leq \alpha(t) + \beta(t)\lVert x \rVert が成り立つとする。このとき最大解は JJ 全体で定義される。特に、連続な係数をもつ線形系 x′=A(t)x+b(t)x' = A(t)x + b(t) の解は JJ 全体に延長できる。

証明. ω+<sup⁡J\omega_+ < \sup J とし、[t0,ω+][t_0, \omega_+] 上で α≤A\alpha \leq A, β≤B\beta \leq B とする。t∈[t0,ω+)t \in [t_0, \omega_+) で ∥x(t)∥≤∥x0∥+A(ω+−t0)+∫t0tB∥x(s)∥ ds\lVert x(t) \rVert \leq \lVert x_0 \rVert + A(\omega_+ - t_0) + \int_{t_0}^t B\lVert x(s) \rVert\ ds なので、定理 2.10 より ∥x(t)∥≤(∥x0∥+A(ω+−t0))eB(ω+−t0)\lVert x(t) \rVert \leq (\lVert x_0 \rVert + A(\omega_+ - t_0))e^{B(\omega_+ - t_0)} と有界になり、系 2.17 に矛盾する。ω−\omega_- も同様。線形系では ∥A(t)x+b(t)∥≤∥b(t)∥+∥A(t)∥∥x∥\lVert A(t)x + b(t) \rVert \leq \lVert b(t) \rVert + \lVert A(t) \rVert\lVert x \rVert である。□\square

2.7 初期値とパラメータへの連続依存性

現実の初期値や係数(パラメータ)は誤差を含む。それらを少し変えたとき解が少ししか変わらないことは、微分方程式をモデルとして使うための最低限の条件である。

定理 2.20(連続依存性)Λ⊂Rm\Lambda \subset \mathbb{R}^m を開集合、f ⁣:D×Λ→Rnf\colon D \times \Lambda \to \mathbb{R}^n を連続とし、D×ΛD \times \Lambda の各点の近傍 UU と定数 LL で、(t,x,λ),(t,y,λ)∈U(t, x, \lambda), (t, y, \lambda) \in U なら ∥f(t,x,λ)−f(t,y,λ)∥≤L∥x−y∥\lVert f(t, x, \lambda) - f(t, y, \lambda) \rVert \leq L\lVert x - y \rVert となるものがあるとする。x′=f(t,x,λ)x' = f(t, x, \lambda), x(t0)=ξx(t_0) = \xi の最大解を x(t;ξ,λ)x(t; \xi, \lambda) と書く。x∗(t)=x(t;ξ0,λ0)x^{\ast}(t) = x(t; \xi_0, \lambda_0) がコンパクト区間 [a,b]∋t0[a, b] \ni t_0 上で定義されているとする。このとき任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し δ>0\delta > 0 があって、∥ξ−ξ0∥<δ\lVert \xi - \xi_0 \rVert < \delta, ∥λ−λ0∥<δ\lVert \lambda - \lambda_0 \rVert < \delta なら x(t;ξ,λ)x(t; \xi, \lambda) は [a,b][a, b] 上で定義され

sup⁡a≤t≤b∥x(t;ξ,λ)−x∗(t)∥<ε\sup_{a \leq t \leq b}\lVert x(t; \xi, \lambda) - x^{\ast}(t) \rVert < \varepsilon

証明. (i) Γ={(t,x∗(t),λ0)∣a≤t≤b}\Gamma = \lbrace (t, x^{\ast}(t), \lambda_0) \mid a \leq t \leq b \rbrace はコンパクトなので、0<ρ<ε0 < \rho < \varepsilon を小さくとれば

U={(t,x,λ)∣a≤t≤b, ∥x−x∗(t)∥≤ρ, ∥λ−λ0∥≤ρ}U = \lbrace (t, x, \lambda) \mid a \leq t \leq b,\ \lVert x - x^{\ast}(t) \rVert \leq \rho,\ \lVert \lambda - \lambda_0 \rVert \leq \rho \rbrace

は D×ΛD \times \Lambda に含まれるコンパクト集合になる。補題 2.5 と同じ議論で、UU 上で xx についてのリプシッツ定数 L>0L > 0 がとれる。ff は UU 上で一様連続なので、η>0\eta > 0 と δ∈(0,ρ]\delta \in (0, \rho] を (δ+η/L)eL(b−a)<ρ(\delta + \eta/L)e^{L(b - a)} < \rho となるように、かつ ∥λ−λ0∥<δ\lVert \lambda - \lambda_0 \rVert < \delta なら UU 上で ∥f(t,x,λ)−f(t,x,λ0)∥≤η\lVert f(t, x, \lambda) - f(t, x, \lambda_0) \rVert \leq \eta となるようにとれる。

(ii) ∥ξ−ξ0∥<δ\lVert \xi - \xi_0 \rVert < \delta, ∥λ−λ0∥<δ\lVert \lambda - \lambda_0 \rVert < \delta とし、y(t)=x(t;ξ,λ)y(t) = x(t; \xi, \lambda) の最大存在区間を (ω−,ω+)(\omega_-, \omega_+) とする。[t0,min⁡(b,ω+))[t_0, \min(b, \omega_+)) のうち、[t0,τ][t_0, \tau] 上で ∥y(t)−x∗(t)∥≤ρ\lVert y(t) - x^{\ast}(t) \rVert \leq \rho となる τ\tau の上限を TT とする。[t0,T)[t_0, T) 上では (t,y(t),λ)∈U(t, y(t), \lambda) \in U なので、系 2.11(g=f(⋅,⋅,λ)g = f(\cdot, \cdot, \lambda)、比較する方程式は f(⋅,⋅,λ0)f(\cdot, \cdot, \lambda_0))より

∥y(t)−x∗(t)∥≤(δ+ηL)eL(t−t0)<ρ\lVert y(t) - x^{\ast}(t) \rVert \leq \left(\delta + \frac{\eta}{L}\right)e^{L(t - t_0)} < \rho

もし T<ω+T < \omega_+ かつ T<bT < b なら、連続性からこの不等式は TT の少し先でも成り立ち、TT の定義に矛盾する。もし T=ω+≤bT = \omega_+ \leq b なら、[t0,ω+)[t_0, \omega_+) 上で yy のグラフはコンパクト集合 {(t,x)∣(t,x,λ)∈U}⊂D\lbrace (t, x) \mid (t, x, \lambda) \in U \rbrace \subset D に留まり、定理 2.16 に矛盾する。よって T=b<ω+T = b < \omega_+ で、評価は [t0,b][t_0, b] で成り立つ。[a,t0][a, t_0] も同様であり、ρ<ε\rho < \varepsilon から主張が従う。□\square

λ=λ0\lambda = \lambda_0 の場合、証明から sup⁡[a,b]∥x(t;ξ,λ0)−x∗(t)∥≤eL(b−a)∥ξ−ξ0∥\sup_{[a, b]}\lVert x(t; \xi, \lambda_0) - x^{\ast}(t) \rVert \leq e^{L(b - a)}\lVert \xi - \xi_0 \rVert というリプシッツ連続性が得られる。同様に、(t,t0,ξ,λ)↦x(t;t0,ξ,λ)(t, t_0, \xi, \lambda) \mapsto x(t; t_0, \xi, \lambda) はその定義域(開集合になる)上で連続であることが示される(証明は省略)。これは第4章でフローを扱う基礎である。

注意 2.21 定数 eL(b−a)e^{L(b - a)} は時間とともに指数関数的に増える。ローレンツ方程式のようなカオス的な系では、解は初期値に連続に依存するが、長時間の予測は事実上不可能になる。連続依存性とカオスは矛盾しない。

さらに滑らかさを仮定すると、解は初期値について微分可能になる。

定理 2.22(初期値についての微分可能性)ff が (x,λ)(x, \lambda) について C1C^1 級で、その偏導関数が (t,x,λ)(t, x, \lambda) について連続なら、x(t;ξ,λ)x(t; \xi, \lambda) は (t,ξ,λ)(t, \xi, \lambda) について C1C^1 級である。Y(t)=∂x/∂ξ (t;ξ0,λ0)Y(t) = \partial x/\partial\xi\ (t; \xi_0, \lambda_0) は変分方程式 (variational equation)

Y′=Dxf(t,x∗(t),λ0) Y,Y(t0)=IY' = D_xf(t, x^{\ast}(t), \lambda_0)\,Y, \qquad Y(t_0) = I

の解であり、Z=∂x/∂λZ = \partial x/\partial\lambda は Z′=Dxf Z+DλfZ' = D_xf\ Z + D_\lambda f, Z(t0)=OZ(t_0) = O の解である。

証明の方針. 方程式を形式的に ξ\xi で微分すれば変分方程式が得られる。正当化には、差分商 qh(t)=(x(t;ξ0+hv,λ0)−x∗(t))/hq_h(t) = \bigl(x(t; \xi_0 + hv, \lambda_0) - x^{\ast}(t)\bigr)/h が、平均値の定理から qh(t)=v+∫t0tAh(s)qh(s) dsq_h(t) = v + \int_{t_0}^t A_h(s)q_h(s)\ ds、Ah(s)=∫01Dxf(s,x∗+θ(xh−x∗),λ0)dθA_h(s) = \int_0^1 D_xf\bigl(s, x^{\ast} + \theta(x_h - x^{\ast}), \lambda_0\bigr)d\theta をみたすことに注目する。定理 2.20 から Ah→Dxf(s,x∗(s),λ0)A_h \to D_xf(s, x^{\ast}(s), \lambda_0) が一様に成り立つので、系 2.11 と同様のグロンウォール評価によって qhq_h は変分方程式の解 Y(t)vY(t)v に一様収束する。詳細は常微分方程式の標準的な教科書(README の参考文献)を参照のこと。

例 2.23 x′=x2x' = x^2, x(0)=ξx(0) = \xi の解は x=ξ/(1−ξt)x = \xi/(1 - \xi t) で、∂x/∂ξ=(1−ξt)−2\partial x/\partial\xi = (1 - \xi t)^{-2} である。一方、変分方程式 Y′=2x(t)YY' = 2x(t)Y, Y(0)=1Y(0) = 1 を解くと Y=exp⁡∫0t2ξ1−ξsds=(1−ξt)−2Y = \exp\int_0^t \frac{2\xi}{1 - \xi s}ds = (1 - \xi t)^{-2} となり、一致する。

2.8 ペアノの存在定理

リプシッツ条件がなくても、解の存在だけは保証される。

定理 2.24(ペアノの存在定理, Peano existence theorem)ff が R=[t0−a,t0+a]×B‾(x0,b)R = [t_0 - a, t_0 + a] \times \overline{B}(x_0, b) 上で連続なら、M=max⁡R∥f∥M = \max_R\lVert f \rVert, h=min⁡(a,b/M)h = \min(a, b/M)(M=0M = 0 なら h=ah = a)として、初期値問題 x′=f(t,x)x' = f(t, x), x(t0)=x0x(t_0) = x_0 は [t0−h,t0+h][t_0 - h, t_0 + h] 上に少なくとも一つの解をもつ。

証明. [t0,t0+h][t_0, t_0 + h] 上の解を作る(左側も同様に作り、t0t_0 でつなげれば、補題 2.1 の積分方程式をみたすので全体で解になる)。N∈NN \in \mathbb{N} に対し tk=t0+kh/Nt_k = t_0 + kh/N(0≤k≤N0 \leq k \leq N)とおき、折れ線 φN\varphi_N を

φN(t0)=x0,φN(t)=φN(tk)+(t−tk)f(tk,φN(tk))(tk≤t≤tk+1)\varphi_N(t_0) = x_0, \qquad \varphi_N(t) = \varphi_N(t_k) + (t - t_k)f(t_k, \varphi_N(t_k)) \quad (t_k \leq t \leq t_{k+1})

で定める(オイラー折れ線, Euler polygon)。

(i) kk についての帰納法により、節点 (tk,φN(tk))(t_k, \varphi_N(t_k)) は RR に含まれ、各線分の傾きのノルムは MM 以下なので、∥φN(t)−x0∥≤M(t−t0)≤b\lVert \varphi_N(t) - x_0 \rVert \leq M(t - t_0) \leq b である。よって φN\varphi_N のグラフは RR に含まれる。

(ii) ∥φN(t)−φN(s)∥≤M∣t−s∣\lVert \varphi_N(t) - \varphi_N(s) \rVert \leq M\lvert t - s \rvert なので、{φN}\lbrace \varphi_N \rbrace は同程度連続かつ一様有界である。アスコリ–アルツェラの定理(集合と位相 定理 5.38;各成分に順に適用して部分列を nn 回とり直す)により、一様収束する部分列 φNj→φ\varphi_{N_j} \to \varphi がある。φ\varphi は連続で、グラフは RR に含まれる。

(iii) s∈[tk,tk+1)s \in [t_k, t_{k+1}) に対し τN(s)=tk\tau_N(s) = t_k とおくと、φN\varphi_N は区分的に 1 次なので

φN(t)=x0+∫t0tf(τN(s),φN(τN(s))) ds\varphi_N(t) = x_0 + \int_{t_0}^t f\bigl(\tau_N(s), \varphi_N(\tau_N(s))\bigr)\,ds

である。ここで ∣τN(s)−s∣≤h/N\lvert \tau_N(s) - s \rvert \leq h/N、また ∥φN(τN(s))−φ(s)∥≤Mh/N+sup⁡∥φN−φ∥\lVert \varphi_N(\tau_N(s)) - \varphi(s) \rVert \leq Mh/N + \sup\lVert \varphi_N - \varphi \rVert である。ff はコンパクト集合 RR 上で一様連続なので、N=Nj→∞N = N_j \to \infty のとき被積分関数は f(s,φ(s))f(s, \varphi(s)) に一様収束する。極限をとれば φ(t)=x0+∫t0tf(s,φ(s)) ds\varphi(t) = x_0 + \int_{t_0}^t f(s, \varphi(s))\ ds で、補題 2.1 より φ\varphi は解である。□\square

注意 2.25

  • オイラー折れ線は数値解法のオイラー法そのものである。解が一意でなければ列全体が収束するとは限らないが、一意なら、どの部分列も一意な解へ収束する部分列をもつので列全体が収束する。
  • ペアノの定理は無限次元のバナッハ空間では成り立たない(ディユドネの反例)。証明の本質は、有限次元性に由来するコンパクト性(アスコリ–アルツェラの定理)にある。

まとめ

  • 初期値問題は積分方程式 x(t)=x0+∫t0tf(s,x(s)) dsx(t) = x_0 + \int_{t_0}^t f(s, x(s))\ ds と同値であり、存在定理はこの形で証明する。
  • ピカール–リンデレフの定理:ff が連続で xx についてリプシッツなら、解は局所的に存在して一意である。証明は逐次近似の一様収束、または重みつき距離での縮小写像の原理による。
  • グロンウォールの不等式により、2 つの解の差は高々 eL∣t−t0∣e^{L\lvert t - t_0 \rvert} 倍にしか広がらない。一意性と誤差評価がここから従う。
  • 局所リプシッツなら最大解が一意に存在し、有限時刻で終わる最大解は定義域のどのコンパクト集合からも出ていく。D=J×RnD = J \times \mathbb{R}^n ではこれは解の爆発を意味し、線形増大条件の下では爆発は起きない。
  • 解は初期値とパラメータに連続に依存し、ff が C1C^1 級なら微分可能である(変分方程式)。
  • ペアノの定理:ff が連続なだけでも、オイラー折れ線とアスコリ–アルツェラの定理により解が存在する。

演習問題

問題 2.1 ★ x′=2t(1+x)x' = 2t(1 + x), x(0)=0x(0) = 0 の逐次近似 φk\varphi_k を求め、その極限が解であることを確かめよ。

解答

φ1=∫0t2s ds=t2\varphi_1 = \int_0^t 2s\ ds = t^2、φ2=∫0t2s(1+s2) ds=t2+t4/2\varphi_2 = \int_0^t 2s(1 + s^2)\ ds = t^2 + t^4/2、φ3=t2+t4/2+t6/6\varphi_3 = t^2 + t^4/2 + t^6/6。帰納法で φk=∑j=1kt2j/j!\varphi_k = \sum_{j=1}^k t^{2j}/j! を示す:これを仮定すると φk+1=∫0t2s(1+∑j=1ks2jj!)ds=t2+∑j=1kt2j+2(j+1)!\varphi_{k+1} = \int_0^t 2s\left(1 + \sum_{j=1}^k \frac{s^{2j}}{j!}\right)ds = t^2 + \sum_{j=1}^k \frac{t^{2j+2}}{(j+1)!}。極限は et2−1e^{t^2} - 1 で、x′=2tet2=2t(1+x)x' = 2te^{t^2} = 2t(1 + x)、x(0)=0x(0) = 0 をみたす。

問題 2.2 ★★ u,βu, \beta を [t0,t1][t_0, t_1] 上の連続関数、β≥0\beta \geq 0、α\alpha を連続な単調増加関数とする。u(t)≤α(t)+∫t0tβ(s)u(s) dsu(t) \leq \alpha(t) + \int_{t_0}^t \beta(s)u(s)\ ds ならば u(t)≤α(t)exp⁡∫t0tβ(s) dsu(t) \leq \alpha(t)\exp\int_{t_0}^t \beta(s)\ ds であることを示せ。

解答

T∈[t0,t1]T \in [t_0, t_1] を固定する。t∈[t0,T]t \in [t_0, T] では α(t)≤α(T)\alpha(t) \leq \alpha(T) なので u(t)≤α(T)+∫t0tβu dsu(t) \leq \alpha(T) + \int_{t_0}^t \beta u\ ds。区間 [t0,T][t_0, T] で定理 2.10 を定数 α(T)\alpha(T) に適用すると u(t)≤α(T)exp⁡∫t0tβ dsu(t) \leq \alpha(T)\exp\int_{t_0}^t \beta\ ds。t=Tt = T とおけば、TT は任意なので主張を得る。

問題 2.3 ★★ x′=3x2/3x' = 3x^{2/3}, x(0)=0x(0) = 0 のすべての解を求めよ(x2/3=(x1/3)2≥0x^{2/3} = (x^{1/3})^2 \geq 0 とする)。

解答

0≤c≤∞0 \leq c \leq \infty, 0≤d≤∞0 \leq d \leq \infty に対し、t>ct > c で x=(t−c)3x = (t - c)^3、−d≤t≤c-d \leq t \leq c で x=0x = 0、t<−dt < -d で x=(t+d)3x = (t + d)^3 とおいたものが解である(x=(t−c)3x = (t - c)^3 なら x′=3(t−c)2=3x2/3x' = 3(t - c)^2 = 3x^{2/3} で、つなぎ目の微分係数は 0)。逆に任意の解は x′≥0x' \geq 0 より単調増加で、x>0x > 0 の範囲では右辺が局所リプシッツなので変数分離で x1/3=t−cx^{1/3} = t - c と一意に決まり、x<0x < 0 の範囲も同様である。x=0x = 0 となる tt の集合は単調性から区間 [−d,c][-d, c] であり、解は上の形に限る。

問題 2.4 ★★ f ⁣:R→Rf\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R} が連続で単調減少なら、x′=f(x)x' = f(x), x(t0)=x0x(t_0) = x_0 の解は t≥t0t \geq t_0 の範囲で一意であることを示せ。また f(x)=−x1/3f(x) = -x^{1/3} のとき、t≤t0t \leq t_0 の範囲では一意性が成り立たないことを示せ。

解答

x,yx, y を同じ初期値の解とすると、ddt(x−y)2=2(x−y)(f(x)−f(y))≤0\frac{d}{dt}(x - y)^2 = 2(x - y)\bigl(f(x) - f(y)\bigr) \leq 0(ff は単調減少)なので、(x−y)2(x - y)^2 は t≥t0t \geq t_0 で増えず、t0t_0 で 0 だから恒等的に 0 である。

f(x)=−x1/3f(x) = -x^{1/3} で x(t0)=0x(t_0) = 0 とする。任意の s≤t0s \leq t_0 に対し、t≤st \leq s で xs(t)=(23(s−t))3/2x_s(t) = \left(\frac{2}{3}(s - t)\right)^{3/2}、s≤t≤t0s \leq t \leq t_0 で xs(t)=0x_s(t) = 0 とおく。t<st < s では xs′=−(23(s−t))1/2=−xs1/3x_s' = -\left(\frac{2}{3}(s - t)\right)^{1/2} = -x_s^{1/3} であり、t=st = s で左右の微分係数はともに 0 なので、xsx_s は (−∞,t0](-\infty, t_0] 上の解で xs(t0)=0x_s(t_0) = 0 をみたす。ss ごとに異なる解なので、過去向きの一意性は成り立たない(「いつ 0 に到達したか」が決まらない)。

問題 2.5 ★★ (1) x′′+x3=0x'' + x^3 = 0 のすべての解は R\mathbb{R} 全体で定義されることを示せ。(2) x′′=x3x'' = x^3 には有限時刻で爆発する解があることを示せ。

解答

v=x′v = x' として 1 階の系 x′=vx' = v, v′=∓x3v' = \mp x^3 を考える(右辺は C1C^1 級)。

(1) E=12v2+14x4E = \frac{1}{2}v^2 + \frac{1}{4}x^4 は E′=vv′+x3x′=−vx3+x3v=0E' = vv' + x^3x' = -vx^3 + x^3v = 0 より保存される。よって (x,v)(x, v) は有界な集合 {E≤E(0)}\lbrace E \leq E(0) \rbrace に留まり、系 2.17 より爆発しない。

(2) x(0)=1x(0) = 1, x′(0)=1/2x'(0) = 1/\sqrt{2} とすると 12x′2−14x4=0\frac{1}{2}x'^2 - \frac{1}{4}x^4 = 0 が保存されるので、x′=x2/2x' = x^2/\sqrt{2} の解 x=1/(1−t/2)x = 1/(1 - t/\sqrt{2}) を試すと、x′′=2 xx′=x3x'' = \sqrt{2}\ xx' = x^3 で初期条件もみたす。一意性からこれが解であり、t→2t \to \sqrt{2} で爆発する。

問題 2.6 ★★★ f ⁣:R×Rn→Rnf\colon \mathbb{R} \times \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n が連続かつ有界なら、任意の初期値問題は R\mathbb{R} 全体で定義された解をもつことを示せ。

解答

∥f∥≤M\lVert f \rVert \leq M とする。刻み幅 1/N1/N のオイラー折れ線 φN\varphi_N を t0t_0 から左右に R\mathbb{R} 全体で定義すると(ff が全空間で定義されているので、グラフが外に出る心配はない)、∥φN(t)−φN(s)∥≤M∣t−s∣\lVert \varphi_N(t) - \varphi_N(s) \rVert \leq M\lvert t - s \rvert、∥φN(t)−x0∥≤M∣t−t0∣\lVert \varphi_N(t) - x_0 \rVert \leq M\lvert t - t_0 \rvert が成り立つ。各 m∈Nm \in \mathbb{N} について、[t0−m,t0+m][t_0 - m, t_0 + m] 上でアスコリ–アルツェラの定理を適用し、m=1,2,…m = 1, 2, \dots と順に部分列をとり直していく。mm 番目の部分列の mm 番目の項を並べた対角線列は、すべての [t0−m,t0+m][t_0 - m, t_0 + m] 上で一様収束する。その極限 φ\varphi は、各コンパクト区間上で定理 2.24 の証明 (iii) と同じ議論により積分方程式をみたすので、R\mathbb{R} 全体での解である。

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