Lemma数学ロードマップ

08 微分方程式 · 第 7 章

古典的偏微分方程式

目安 9〜12 時間定理など 13演習 7 問

この章の目標

  • 2 階線形偏微分方程式を楕円型・放物型・双曲型に分類し、代表例(ラプラス・熱・波動方程式)の性質の違いを説明できる
  • 1 階線形方程式を特性曲線法で解ける
  • 熱方程式をフーリエ級数と熱核で解き、最大値原理から一意性と安定性を証明できる
  • 波動方程式のダランベールの公式を証明し、エネルギー保存・一意性・有限伝播速度を示せる
  • 調和関数の平均値の性質と最大値原理を証明し、円板上のディリクレ問題をポアソン核で解ける
  • アダマールの例を用いて、問題の適切性の意味を説明できる

前提:第5章、第6章、微分積分学 第10章

未知関数が複数の変数をもつ微分方程式を偏微分方程式 (partial differential equation) という。常微分方程式と違い、偏微分方程式には「一般論」がほとんどない。方程式の型によって、解の性質も、課すべき条件も、解き方もまったく異なるからである。本章では、応用上も理論上も最も基本的な 3 つの方程式、熱方程式・波動方程式・ラプラス方程式を、第5・6章の道具を使って解き、それぞれに固有の性質を調べる。

7.1 偏微分方程式の例と分類

  • 熱方程式 ut=kuxxu_t = ku_{xx}:棒の温度 u(x,t)u(x, t) について、熱の流れ(熱流束)は温度勾配に比例し(フーリエの法則 −κux-\kappa u_x)、エネルギーは保存される(cρut=(κux)xc\rho u_t = (\kappa u_x)_x)。k=κ/(cρ)>0k = \kappa/(c\rho) > 0。
  • 波動方程式 utt=c2uxxu_{tt} = c^2u_{xx}:張力 TT、線密度 ρ\rho の弦の微小な横振動で、c=T/ρc = \sqrt{T/\rho} は波の速さである。
  • ラプラス方程式 Δu=uxx+uyy=0\Delta u = u_{xx} + u_{yy} = 0:熱方程式の定常状態(ut=0u_t = 0)であり、静電ポテンシャルや非圧縮・渦なしの流れの速度ポテンシャルもみたす。
  • 輸送方程式 ut+cux=0u_t + cu_x = 0:速さ cc の流れに乗って運ばれる物質の濃度。

定義 7.1(2 階線形方程式の分類)実定数 a,b,ca, b, c(すべては 0 でない)について、auxx+2buxy+cuyy+(1 階以下の項)=0au_{xx} + 2bu_{xy} + cu_{yy} + (\text{1 階以下の項}) = 0 は、b2−ac<0b^2 - ac < 0 のとき楕円型 (elliptic)、b2−ac=0b^2 - ac = 0 のとき放物型 (parabolic)、b2−ac>0b^2 - ac > 0 のとき双曲型 (hyperbolic) であるという。

1 次変換 (ξ,η)=P(x,y)(\xi, \eta) = P(x, y) で変数を変えると、2 階の部分の係数の対称行列 AA(第 1 行 (a,b)(a, b)、第 2 行 (b,c)(b, c))は A↦PA tPA \mapsto PA\ {}^tP と合同変換される。シルヴェスターの慣性法則(線形代数 第8章)により型は変わらず、適当な変数変換で主要部を uξξ+uηηu_{\xi\xi} + u_{\eta\eta}(楕円型)、uξξu_{\xi\xi}(放物型)、uξξ−uηηu_{\xi\xi} - u_{\eta\eta}(双曲型)にできる。ラプラス方程式は楕円型、熱方程式は放物型、波動方程式は双曲型の代表である。係数が変数に依存するときは点ごとに型が決まり、たとえば遷音速流のモデル yuxx+uyy=0yu_{xx} + u_{yy} = 0(トリコミ方程式)は y>0y > 0 で楕円型、y<0y < 0 で双曲型になる。

7.2 1 階線形方程式と特性曲線法

命題 7.2 c∈Rc \in \mathbb{R}、g∈C1(R)g \in C^1(\mathbb{R}) とする。ut+cux=0u_t + cu_x = 0, u(x,0)=g(x)u(x, 0) = g(x) の C1C^1 級の解は u(x,t)=g(x−ct)u(x, t) = g(x - ct) に限る。

証明. u(x,t)=g(x−ct)u(x, t) = g(x - ct) が解であることは代入すればわかる。逆に uu を解とすると、直線 x=x0+ctx = x_0 + ct に沿って ddtu(x0+ct,t)=cux+ut=0\frac{d}{dt}u(x_0 + ct, t) = cu_x + u_t = 0 なので、u(x0+ct,t)=u(x0,0)=g(x0)u(x_0 + ct, t) = u(x_0, 0) = g(x_0)。□\square

初期の形 gg が形を変えずに速さ cc で平行移動する。直線 x−ct=x - ct = 一定を特性曲線 (characteristic curve) という。一般の 1 階線形方程式 a(x,y)ux+b(x,y)uy=f(x,y,u)a(x, y)u_x + b(x, y)u_y = f(x, y, u) でも同様に、常微分方程式 dxds=a\frac{dx}{ds} = a, dyds=b\frac{dy}{ds} = b の解曲線(特性曲線)に沿って ddsu(x(s),y(s))=f\frac{d}{ds}u(x(s), y(s)) = f となるので、偏微分方程式が特性曲線上の常微分方程式に帰着する(特性曲線法, method of characteristics)。初期値は特性曲線と横断的に交わる曲線の上で与える。

例 7.3 (1) ut+xux=0u_t + xu_x = 0, u(x,0)=g(x)u(x, 0) = g(x):特性曲線は dxdt=x\frac{dx}{dt} = x より x=x0etx = x_0e^t で、その上で uu は一定なので u(x,t)=g(xe−t)u(x, t) = g(xe^{-t})。初期の形が横に引き伸ばされていく。(2) ut+cux=−λuu_t + cu_x = -\lambda u:特性曲線に沿って ddtu=−λu\frac{d}{dt}u = -\lambda u なので u=e−λtg(x−ct)u = e^{-\lambda t}g(x - ct)(減衰しながら運ばれる)。

注意 7.4(衝撃波の発生)非線形のバーガース方程式 ut+uux=0u_t + uu_x = 0, u(x,0)=g(x)u(x, 0) = g(x) では、特性曲線は x=x0+g(x0)tx = x_0 + g(x_0)t という直線で、その上で u=g(x0)u = g(x_0) は一定である。速さが場所によって違うので、gg が減少する部分では後ろの特性曲線が前に追いつく。実際 ux=g′(x0)1+g′(x0)tu_x = \frac{g'(x_0)}{1 + g'(x_0)t} なので、g′<0g' < 0 となる点があれば t=−1/min⁡g′t = -1/\min g' で uxu_x が発散し、滑らかな解は存在しなくなる。これが衝撃波の発生であり、その後の解の意味づけには超関数(弱解)の考えが必要になる(偏微分方程式論 第6章)。

7.3 熱方程式

区間 [0,ℓ][0, \ell] の棒の両端を温度 0 に保つ問題

ut=kuxx(0<x<ℓ, t>0),u(0,t)=u(ℓ,t)=0,u(x,0)=f(x)u_t = ku_{xx} \quad (0 < x < \ell,\ t > 0), \qquad u(0, t) = u(\ell, t) = 0, \qquad u(x, 0) = f(x)

を考える。u=X(x)T(t)u = X(x)T(t) とおいて代入すると T′kT=X′′X\frac{T'}{kT} = \frac{X''}{X} で、左辺は tt だけ、右辺は xx だけの関数なので定数 −λ-\lambda に等しい。すると XX は固有値問題 −X′′=λX-X'' = \lambda X, X(0)=X(ℓ)=0X(0) = X(\ell) = 0(第5章)の解で、λn=(nπ/ℓ)2\lambda_n = (n\pi/\ell)^2, Xn=sin⁡(nπx/ℓ)X_n = \sin(n\pi x/\ell)、そして Tn=e−kλntT_n = e^{-k\lambda_nt} である。これらを重ね合わせ、初期条件を正弦級数(注意 6.3)で合わせる:

定理 7.5 ff は [0,ℓ][0, \ell] 上連続で区分的に滑らか、f(0)=f(ℓ)=0f(0) = f(\ell) = 0 とし、bn=2ℓ∫0ℓf(x)sin⁡nπxℓdxb_n = \frac{2}{\ell}\int_0^\ell f(x)\sin\frac{n\pi x}{\ell}dx とおく。

u(x,t)=∑n=1∞bne−k(nπ/ℓ)2tsin⁡nπxℓu(x, t) = \sum_{n=1}^\infty b_ne^{-k(n\pi/\ell)^2t}\sin\frac{n\pi x}{\ell}

は [0,ℓ]×[0,∞)[0, \ell] \times [0, \infty) で連続、[0,ℓ]×(0,∞)[0, \ell] \times (0, \infty) で C∞C^\infty 級であり、上の初期値境界値問題の解である。

証明. ff の奇関数拡張(周期 2ℓ2\ell)は連続で区分的に滑らかなので、定理 6.18 より ∑∣bn∣<∞\sum\lvert b_n \rvert < \infty で、正弦級数は ff に一様収束する。級数の各項は ∣bn∣\lvert b_n \rvert で抑えられるので、uu は [0,ℓ]×[0,∞)[0, \ell] \times [0, \infty) で一様収束して連続であり、u(x,0)=f(x)u(x, 0) = f(x)。t≥t0>0t \geq t_0 > 0 では、tt で ii 回、xx で jj 回微分した項は ∣bn∣(kλn)i(nπ/ℓ)je−kλnt0\lvert b_n \rvert(k\lambda_n)^i(n\pi/\ell)^je^{-k\lambda_nt_0} で抑えられ、これは nn について和が有限である。よってすべての項別微分が一様収束し、uu は C∞C^\infty 級で、各項と同様に熱方程式をみたす。境界条件は明らか。□\square

ff がリーマン積分可能なだけでも ∣bn∣\lvert b_n \rvert は有界なので、証明の後半はそのまま成り立つ:初期値がどれほど粗くても、解は t>0t > 0 で直ちに滑らかになる(平滑化効果)。

例 7.6 k=1k = 1, ℓ=π\ell = \pi, f=x(π−x)f = x(\pi - x) なら、問題 6.8 より u=8π∑n 奇数e−n2tsin⁡nxn3u = \frac{8}{\pi}\sum_{n\ \text{奇数}}\frac{e^{-n^2t}\sin nx}{n^3}。高い振動数の成分ほど速く減衰し、tt が大きいと u≈8πe−tsin⁡xu \approx \frac{8}{\pi}e^{-t}\sin x となる。温度分布は最小固有値の固有関数の形に近づきながら、e−λ1kte^{-\lambda_1kt} の速さで 0 に向かう。

最大値原理と一意性

QT=(0,ℓ)×(0,T]Q_T = (0, \ell) \times (0, T] とし、[0,ℓ]×[0,T][0, \ell] \times [0, T] の「底辺と両側面」ΓT={(x,t)∣t=0 または x=0 または x=ℓ}\Gamma_T = \lbrace (x, t) \mid t = 0 \text{ または } x = 0 \text{ または } x = \ell \rbrace を放物境界という。

定理 7.7(弱最大値原理)uu は [0,ℓ]×[0,T][0, \ell] \times [0, T] 上で連続、QTQ_T で ut,uxxu_t, u_{xx} が存在して連続で、QTQ_T 上 ut−kuxx≤0u_t - ku_{xx} \leq 0 とする。このとき max⁡[0,ℓ]×[0,T]u=max⁡ΓTu\max_{[0, \ell] \times [0, T]}u = \max_{\Gamma_T}u。

証明. ε>0\varepsilon > 0 として v=u+εx2v = u + \varepsilon x^2 とおくと、QTQ_T 上 vt−kvxx=ut−kuxx−2kε<0v_t - kv_{xx} = u_t - ku_{xx} - 2k\varepsilon < 0。vv が最大値を (x0,t0)∈QT(x_0, t_0) \in Q_T でとったとすると、x↦v(x,t0)x \mapsto v(x, t_0) は内点 x0x_0 で最大なので vxx(x0,t0)≤0v_{xx}(x_0, t_0) \leq 0、また t↦v(x0,t)t \mapsto v(x_0, t) は (0,t0](0, t_0] 上で t0t_0 において最大なので vt(x0,t0)≥0v_t(x_0, t_0) \geq 0(t0=Tt_0 = T なら左側からの微分係数を考える)。すると vt−kvxx≥0v_t - kv_{xx} \geq 0 となり矛盾する。よって vv の最大値は ΓT\Gamma_T 上でとられ、max⁡u≤max⁡v=max⁡ΓTv≤max⁡ΓTu+εℓ2\max u \leq \max v = \max_{\Gamma_T}v \leq \max_{\Gamma_T}u + \varepsilon\ell^2。ε→0\varepsilon \to 0 とすればよい。□\square

−u-u に適用すれば最小値についても同様である。熱は内部で自然に高温になることはない、という物理的直観の数学的表現である。

系 7.8(一意性と安定性)初期値境界値問題 ut=kuxxu_t = ku_{xx}(QTQ_T で)、ΓT\Gamma_T 上で uu を指定、の解は(定理 7.7 の正則性の範囲で)一意であり、2 つの解について max⁡∣u1−u2∣≤max⁡ΓT∣u1−u2∣\max\lvert u_1 - u_2 \rvert \leq \max_{\Gamma_T}\lvert u_1 - u_2 \rvert が成り立つ。また、初期値と境界値が非負なら解も非負である。

証明. u1−u2u_1 - u_2 と u2−u1u_2 - u_1 に定理 7.7 を適用すればよい。□\square

熱核

無限に長い棒 ut=kuxxu_t = ku_{xx}(x∈Rx \in \mathbb{R}, t>0t > 0)、u(x,0)=g(x)u(x, 0) = g(x) を考える。

定理 7.9(熱核)熱核 (heat kernel) を Φ(x,t)=14πkte−x2/(4kt)\Phi(x, t) = \dfrac{1}{\sqrt{4\pi kt}}e^{-x^2/(4kt)}(t>0t > 0)とする。gg が R\mathbb{R} 上の有界連続関数なら、

u(x,t)=∫−∞∞Φ(x−y,t)g(y) dyu(x, t) = \int_{-\infty}^\infty \Phi(x - y, t)g(y)\,dy

は t>0t > 0 で C∞C^\infty 級で熱方程式をみたし、(x,t)→(x0,0)(x, t) \to (x_0, 0) のとき u(x,t)→g(x0)u(x, t) \to g(x_0) となる。

証明. 直接計算で Φx=−x2ktΦ\Phi_x = -\frac{x}{2kt}\Phi, Φxx=(x24k2t2−12kt)Φ\Phi_{xx} = \left(\frac{x^2}{4k^2t^2} - \frac{1}{2kt}\right)\Phi, Φt=(x24kt2−12t)Φ\Phi_t = \left(\frac{x^2}{4kt^2} - \frac{1}{2t}\right)\Phi なので Φt=kΦxx\Phi_t = k\Phi_{xx}。また Φ>0\Phi > 0 で、ガウス積分 ∫e−x2/(4kt)dx=4πkt\int e^{-x^2/(4kt)}dx = \sqrt{4\pi kt} より ∫Φ(x,t) dx=1\int\Phi(x, t)\ dx = 1。Φ\Phi の各導関数は「多項式 × Φ\Phi」の形で、xx が有界集合、tt が (0,∞)(0, \infty) のコンパクト集合を動く範囲では yy について可積分な関数で一様に抑えられるので、積分記号下で何回でも微分でき、uu は熱方程式をみたす。初期条件:∣u(x,t)−g(x0)∣≤∫Φ(x−y,t)∣g(y)−g(x0)∣ dy\lvert u(x, t) - g(x_0) \rvert \leq \int\Phi(x - y, t)\lvert g(y) - g(x_0) \rvert\ dy。ε>0\varepsilon > 0 に対し、∣y−x0∣<δ\lvert y - x_0 \rvert < \delta で ∣g(y)−g(x0)∣<ε\lvert g(y) - g(x_0) \rvert < \varepsilon となる δ\delta をとる。∣x−x0∣<δ/2\lvert x - x_0 \rvert < \delta/2 なら、∣y−x0∣≥δ\lvert y - x_0 \rvert \geq \delta の部分は ∣x−y∣≥δ/2\lvert x - y \rvert \geq \delta/2 なので 2sup⁡∣g∣∫∣z∣≥δ/2Φ(z,t) dz2\sup\lvert g \rvert\int_{\lvert z \rvert \geq \delta/2}\Phi(z, t)\ dz 以下で、これは t→0t \to 0 で 0 に近づく(z=2kt sz = 2\sqrt{kt}\ s と置換すると積分範囲が ∣s∣≥δ/(4kt)→∞\lvert s \rvert \geq \delta/(4\sqrt{kt}) \to \infty となる)。残りは ε\varepsilon 以下である。□\square

Φ(⋅,t)\Phi(\cdot, t) は t→0t \to 0 で原点に集中する近似単位元で、フェイエール核と同じ役割を果たす。熱核の形は 7.6 節のフーリエ変換から自然に導かれる。確率論では、Φ(⋅,t)\Phi(\cdot, t) は平均 0・分散 2kt2kt の正規分布の密度であり、k=1/2k = 1/2 のとき標準ブラウン運動 BtB_t の分布の密度、一般の kk では 2k Bt\sqrt{2k}\ B_t の分布の密度である(確率論 第7章)。

注意 7.10 (1) g≥0g \geq 0, g≢0g \not\equiv 0 なら、すべての xx と t>0t > 0 で u(x,t)>0u(x, t) > 0 である。熱は無限の速さで伝わる(波動方程式と対照的)。(2) R\mathbb{R} 上では、解に増大度の条件を課さないと一意性が崩れる。初期値 0 で恒等的に 0 でない解が存在する(チホノフの例;主張のみ)。有界な解に限れば一意である(問題 7.7)。

7.4 波動方程式

定理 7.11(ダランベールの公式, d'Alembert's formula)f∈C2(R)f \in C^2(\mathbb{R}), g∈C1(R)g \in C^1(\mathbb{R}) とする。utt=c2uxxu_{tt} = c^2u_{xx}(c>0c > 0), u(x,0)=f(x)u(x, 0) = f(x), ut(x,0)=g(x)u_t(x, 0) = g(x) の R2\mathbb{R}^2 上の C2C^2 級の解はただ一つで、

u(x,t)=f(x+ct)+f(x−ct)2+12c∫x−ctx+ctg(s) dsu(x, t) = \frac{f(x + ct) + f(x - ct)}{2} + \frac{1}{2c}\int_{x - ct}^{x + ct}g(s)\,ds

証明. uu を C2C^2 級の解とし、特性座標 ξ=x+ct\xi = x + ct, η=x−ct\eta = x - ct で v(ξ,η)=u(x,t)v(\xi, \eta) = u(x, t) とおく。連鎖律より uxx=vξξ+2vξη+vηηu_{xx} = v_{\xi\xi} + 2v_{\xi\eta} + v_{\eta\eta}, utt=c2(vξξ−2vξη+vηη)u_{tt} = c^2(v_{\xi\xi} - 2v_{\xi\eta} + v_{\eta\eta}) なので utt−c2uxx=−4c2vξη=0u_{tt} - c^2u_{xx} = -4c^2v_{\xi\eta} = 0。よって vξv_\xi は η\eta によらず、積分して v=F(ξ)+G(η)v = F(\xi) + G(\eta)(F,G∈C2F, G \in C^2)。初期条件は F(x)+G(x)=f(x)F(x) + G(x) = f(x), c(F′(x)−G′(x))=g(x)c(F'(x) - G'(x)) = g(x) で、後者を積分して F(x)−G(x)=1c∫0xg+KF(x) - G(x) = \frac{1}{c}\int_0^x g + K。これを解いて u=F(x+ct)+G(x−ct)u = F(x + ct) + G(x - ct) に代入すると公式を得る。逆に公式の uu が C2C^2 級の解であることは直接確かめられる。□\square

解は左向きの進行波 F(x+ct)F(x + ct) と右向きの進行波 G(x−ct)G(x - ct) の和である。u(x,t)u(x, t) は区間 [x−ct,x+ct][x - ct, x + ct] の初期値だけで決まる(依存領域)。初期値の折れ目などの特異性は特性曲線 x±ct=x \pm ct = 一定に沿って伝わり、熱方程式のように平滑化されることはない。

例 7.12(弦の基準振動)両端固定の弦 u(0,t)=u(ℓ,t)=0u(0, t) = u(\ell, t) = 0 を変数分離すると、Xn=sin⁡nπxℓX_n = \sin\frac{n\pi x}{\ell} に対して Tn′′=−c2(nπ/ℓ)2TnT_n'' = -c^2(n\pi/\ell)^2T_n となり

u(x,t)=∑n=1∞(ancos⁡nπctℓ+bnsin⁡nπctℓ)sin⁡nπxℓu(x, t) = \sum_{n=1}^\infty\left(a_n\cos\frac{n\pi ct}{\ell} + b_n\sin\frac{n\pi ct}{\ell}\right)\sin\frac{n\pi x}{\ell}

を得る(ana_n, bnb_n は ff, gg の正弦係数から決まる)。振動数 nc2ℓ\frac{nc}{2\ell} は基本振動数 c2ℓ\frac{c}{2\ell} の整数倍(倍音)であり、弦楽器の音が快い和音を響かせる理由である。この解は、f,gf, g を奇関数かつ周期 2ℓ2\ell に拡張してダランベールの公式に代入したものと一致する。

定理 7.13(エネルギー保存と一意性)u∈C2([0,ℓ]×[0,T])u \in C^2([0, \ell] \times [0, T]) が utt=c2uxxu_{tt} = c^2u_{xx} と u(0,t)=u(ℓ,t)=0u(0, t) = u(\ell, t) = 0 をみたせば、エネルギー

E(t)=12∫0ℓ(ut2+c2ux2)dxE(t) = \frac{1}{2}\int_0^\ell\bigl(u_t^2 + c^2u_x^2\bigr)dx

は一定である。したがって初期値境界値問題の C2C^2 級の解は一意である。

証明. 積分記号下で微分し部分積分すると

E′(t)=∫0ℓ(ututt+c2uxuxt) dx=∫0ℓut(utt−c2uxx) dx+[c2uxut]x=0x=ℓ=0E'(t) = \int_0^\ell(u_tu_{tt} + c^2u_xu_{xt})\,dx = \int_0^\ell u_t(u_{tt} - c^2u_{xx})\,dx + \Bigl[c^2u_xu_t\Bigr]_{x=0}^{x=\ell} = 0

(両端で u=0u = 0 なので ut=0u_t = 0)。2 つの解の差 ww は初期値 0 の解なので E≡0E \equiv 0、よって wt=wx=0w_t = w_x = 0 で ww は定数、初期値から w=0w = 0。□\square

定理 7.14(有限伝播速度)u∈C2(R×[0,∞))u \in C^2(\mathbb{R} \times [0, \infty)) を utt=c2uxxu_{tt} = c^2u_{xx} の解とし、x0∈Rx_0 \in \mathbb{R}, R>0R > 0 とする。0≤t≤R/c0 \leq t \leq R/c に対し

e(t)=12∫x0−R+ctx0+R−ct(ut2+c2ux2)dxe(t) = \frac{1}{2}\int_{x_0 - R + ct}^{x_0 + R - ct}\bigl(u_t^2 + c^2u_x^2\bigr)dx

は単調非増加である。特に f=g=0f = g = 0 が [x0−R,x0+R][x_0 - R, x_0 + R] 上で成り立てば、三角形 {∣x−x0∣≤R−ct, 0≤t≤R/c}\lbrace \lvert x - x_0 \rvert \leq R - ct,\ 0 \leq t \leq R/c \rbrace 上で u=0u = 0。

証明. 積分区間の両端を α(t)=x0−R+ct\alpha(t) = x_0 - R + ct, β(t)=x0+R−ct\beta(t) = x_0 + R - ct とし、被積分関数を ϵ=12(ut2+c2ux2)\epsilon = \frac{1}{2}(u_t^2 + c^2u_x^2) とする。定理 7.13 の証明と同じ計算に、端点が動くことによる項を加えると

e′(t)=[c2uxut]αβ−c ϵ(β)−c ϵ(α)=−c2(ut−cux)2∣x=β−c2(ut+cux)2∣x=α≤0e'(t) = \Bigl[c^2u_xu_t\Bigr]_\alpha^\beta - c\,\epsilon(\beta) - c\,\epsilon(\alpha) = -\frac{c}{2}(u_t - cu_x)^2\Big\vert_{x = \beta} - \frac{c}{2}(u_t + cu_x)^2\Big\vert_{x = \alpha} \leq 0

後半:e(0)=0e(0) = 0(ux=f′=0u_x = f' = 0, ut=g=0u_t = g = 0)なので e≡0e \equiv 0、三角形の中で ut=ux=0u_t = u_x = 0 となり、uu は定数 u(x0,0)=0u(x_0, 0) = 0 である。□\square

この証明はダランベールの公式を使わないので、高次元の波動方程式(円錐の中のエネルギー)にもそのまま拡張できる。波の影響は速さ cc を超えて伝わらない。

7.5 ラプラス方程式

開集合 Ω⊂R2\Omega \subset \mathbb{R}^2 上の C2C^2 級関数 uu で Δu=0\Delta u = 0 をみたすものを調和関数 (harmonic function) という。正則関数の実部・虚部、log⁡(x2+y2)\log(x^2 + y^2)、極座標で rncos⁡nθr^n\cos n\theta, rnsin⁡nθr^n\sin n\theta などが例である。

定理 7.15(平均値の性質)uu が Ω\Omega で調和で、閉円板 B‾(x0,R)⊂Ω\overline{B}(x_0, R) \subset \Omega なら、0<r≤R0 < r \leq R に対し

u(x0)=12π∫02πu(x0+rcos⁡θ, y0+rsin⁡θ) dθ=1πr2∬B(x0,r)u dx dyu(x_0) = \frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}u(x_0 + r\cos\theta,\ y_0 + r\sin\theta)\,d\theta = \frac{1}{\pi r^2}\iint_{B(x_0, r)}u\,dx\,dy

(x0=(x0,y0)x_0 = (x_0, y_0) と書いた)。

証明. 円周上の平均を ϕ(r)\phi(r) とおくと、積分記号下の微分と発散定理(微分積分学 第10章)により

ϕ′(r)=12π∫02π∇u⋅(cos⁡θ,sin⁡θ) dθ=12πr∮∂Br∂u∂ν ds=12πr∬BrΔu dx dy=0\phi'(r) = \frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\nabla u \cdot (\cos\theta, \sin\theta)\,d\theta = \frac{1}{2\pi r}\oint_{\partial B_r}\frac{\partial u}{\partial\nu}\,ds = \frac{1}{2\pi r}\iint_{B_r}\Delta u\,dx\,dy = 0

よって ϕ\phi は定数で、uu の連続性から ϕ(r)→u(x0)\phi(r) \to u(x_0)(r→0r \to 0)なので ϕ(r)=u(x0)\phi(r) = u(x_0)。円板上の平均は、極座標で ∬Bru=∫0r2πs ϕ(s) ds=πr2u(x0)\iint_{B_r}u = \int_0^r 2\pi s\ \phi(s)\ ds = \pi r^2u(x_0) から従う。□\square

定理 7.16(最大値原理)(1)(強最大値原理)Ω\Omega が連結で、調和関数 uu が Ω\Omega の点で最大値をとれば、uu は定数である。(2)(弱最大値原理)Ω\Omega が有界で u∈C2(Ω)∩C(Ω‾)u \in C^2(\Omega) \cap C(\overline{\Omega}) が調和なら、max⁡Ω‾u=max⁡∂Ωu\max_{\overline{\Omega}}u = \max_{\partial\Omega}u。最小値についても同様である。

証明. (1) 最大値を MM とし S={x∈Ω∣u(x)=M}S = \lbrace x \in \Omega \mid u(x) = M \rbrace とおく。SS は空でなく、連続性から Ω\Omega で閉である。x0∈Sx_0 \in S で B‾(x0,r)⊂Ω\overline{B}(x_0, r) \subset \Omega なら、円板上の平均値の性質より ∬B(x0,r)(M−u)=0\iint_{B(x_0, r)}(M - u) = 0 で、被積分関数は非負連続なので B(x0,r)B(x_0, r) 上で u=Mu = M。よって SS は開でもあり、連結性から S=ΩS = \Omega。(2) Ω‾\overline{\Omega} はコンパクトなので最大値はどこかでとられる。それが x0∈Ωx_0 \in \Omega なら、x0x_0 を含む Ω\Omega の連結成分 Ω0\Omega_0 上で u≡Mu \equiv M で、有界な Ω0\Omega_0 の境界(空でなく ∂Ω\partial\Omega に含まれる)上でも連続性から u=Mu = M。□\square

系 7.17 有界領域 Ω\Omega 上のディリクレ問題 Δu=0\Delta u = 0(Ω\Omega で), u=fu = f(∂Ω\partial\Omega で)の解 u∈C2(Ω)∩C(Ω‾)u \in C^2(\Omega) \cap C(\overline{\Omega}) は高々一つであり、2 つの境界値に対する解は max⁡Ω‾∣u1−u2∣≤max⁡∂Ω∣f1−f2∣\max_{\overline{\Omega}}\lvert u_1 - u_2 \rvert \leq \max_{\partial\Omega}\lvert f_1 - f_2 \rvert をみたす。

円板上のディリクレ問題とポアソン核

単位円板 DD で、境界値 ff(周期 2π2\pi の連続関数 f(θ)f(\theta))を与える。極座標 Δ=urr+1rur+1r2uθθ\Delta = u_{rr} + \frac{1}{r}u_r + \frac{1}{r^2}u_{\theta\theta} で u=R(r)Θ(θ)u = R(r)\Theta(\theta) と変数分離すると、Θ=einθ\Theta = e^{in\theta} に対して r2R′′+rR′−n2R=0r^2R'' + rR' - n^2R = 0(オイラーの方程式)となり、原点で有界な解は R=r∣n∣R = r^{\lvert n \rvert} である。そこで u=∑f^(n)r∣n∣einθu = \sum\hat{f}(n)r^{\lvert n \rvert}e^{in\theta} が候補になる。

定理 7.18(ポアソンの公式)ポアソン核 (Poisson kernel) を

Pr(θ)=∑n∈Zr∣n∣einθ=1−r21−2rcos⁡θ+r2(0≤r<1)P_r(\theta) = \sum_{n \in \mathbb{Z}}r^{\lvert n \rvert}e^{in\theta} = \frac{1 - r^2}{1 - 2r\cos\theta + r^2} \qquad (0 \leq r < 1)

とし、u(reiθ)=12π∫−ππPr(θ−ϕ)f(ϕ) dϕu(re^{i\theta}) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^\pi P_r(\theta - \phi)f(\phi)\ d\phi(r<1r < 1)、u(eiθ)=f(θ)u(e^{i\theta}) = f(\theta) とおく。このとき uu は DD で調和、D‾\overline{D} で連続であり、ディリクレ問題のただ一つの解である。

証明. 級数は ∑n≥0(reiθ)n+∑n≥1(re−iθ)n=11−reiθ+re−iθ1−re−iθ\sum_{n \geq 0}(re^{i\theta})^n + \sum_{n \geq 1}(re^{-i\theta})^n = \frac{1}{1 - re^{i\theta}} + \frac{re^{-i\theta}}{1 - re^{-i\theta}} で、通分すると分母は ∣1−reiθ∣2=1−2rcos⁡θ+r2\lvert 1 - re^{i\theta} \rvert^2 = 1 - 2r\cos\theta + r^2、分子は 1−r21 - r^2 となる。r<1r < 1 では級数は ϕ\phi について一様収束するので項別積分でき、u(reiθ)=∑nf^(n)r∣n∣einθu(re^{i\theta}) = \sum_n\hat{f}(n)r^{\lvert n \rvert}e^{in\theta}。z=x+iy=reiθz = x + iy = re^{i\theta} とすると各項は znz^n または z‾∣n∣\overline{z}^{\lvert n \rvert} の定数倍で調和であり、∣f^(n)∣≤max⁡∣f∣\lvert \hat{f}(n) \rvert \leq \max\lvert f \rvert だから、r≤ρ<1r \leq \rho < 1 では級数とその各階の偏導関数の級数が一様収束する(∣∂zn∣≤nρn−1\lvert \partial z^n \rvert \leq n\rho^{n-1} など)。よって uu は DD で C∞C^\infty 級かつ調和である。

境界での連続性:Pr>0P_r > 0、12π∫Pr=1\frac{1}{2\pi}\int P_r = 1(n=0n = 0 の項)、そして 1−2rcos⁡θ+r2=(1−r)2+2r(1−cos⁡θ)1 - 2r\cos\theta + r^2 = (1 - r)^2 + 2r(1 - \cos\theta) より δ≤∣θ∣≤π\delta \leq \lvert \theta \rvert \leq \pi で Pr(θ)≤1−r22r(1−cos⁡δ)→0P_r(\theta) \leq \frac{1 - r^2}{2r(1 - \cos\delta)} \to 0(r→1r \to 1)。したがって PrP_r は近似単位元であり、フェイエールの定理(定理 6.12)と同じ議論で sup⁡θ∣u(reiθ)−f(θ)∣→0\sup_\theta\lvert u(re^{i\theta}) - f(\theta) \rvert \to 0(r→1r \to 1)。ff の連続性と合わせて uu は D‾\overline{D} で連続である。一意性は系 7.17 による。□\square

Pr(θ−ϕ)=Re⁡eiϕ+zeiϕ−zP_r(\theta - \phi) = \operatorname{Re}\frac{e^{i\phi} + z}{e^{i\phi} - z} であり、ポアソンの公式はコーシーの積分公式の実部とみなせる(複素関数論 第3章)。

系 7.19 調和関数は C∞C^\infty 級である。

証明. B‾(x0,R)⊂Ω\overline{B}(x_0, R) \subset \Omega 上で、uu はその境界値のポアソン積分(平行移動と拡大で単位円板に移す)と一致する(系 7.17 の一意性)。ポアソン積分は円板内で C∞C^\infty 級である。□\square

例 7.20 境界値 f(θ)=cos⁡2θ=12+12cos⁡2θf(\theta) = \cos^2\theta = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}\cos 2\theta なら、u=12+12r2cos⁡2θ=12+12(x2−y2)u = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}r^2\cos 2\theta = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}(x^2 - y^2)。円板の周の温度を cos⁡2θ\cos^2\theta に保ったときの定常温度分布である。

7.6 フーリエ変換の導入

区間 [−ℓ,ℓ][-\ell, \ell] のフーリエ級数で ℓ→∞\ell \to \infty とすると、周期をもたない関数の「連続的な」周波数分解が得られる。ξn=nπ/ℓ\xi_n = n\pi/\ell、Δξ=π/ℓ\Delta\xi = \pi/\ell とおくと、フーリエ係数は cn=12ℓ∫−ℓℓf(x)e−iξnxdxc_n = \frac{1}{2\ell}\int_{-\ell}^\ell f(x)e^{-i\xi_nx}dx で、f(x)=∑ncneiξnx=12π∑n(∫−ℓℓf(y)e−iξnydy)eiξnxΔξf(x) = \sum_n c_ne^{i\xi_nx} = \frac{1}{2\pi}\sum_n\left(\int_{-\ell}^\ell f(y)e^{-i\xi_ny}dy\right)e^{i\xi_nx}\Delta\xi。形式的に ℓ→∞\ell \to \infty とすれば

f^(ξ)=∫−∞∞f(x)e−ixξ dx,f(x)=12π∫−∞∞f^(ξ)eixξ dξ\hat{f}(\xi) = \int_{-\infty}^\infty f(x)e^{-ix\xi}\,dx, \qquad f(x) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^\infty\hat{f}(\xi)e^{ix\xi}\,d\xi

を得る。f^\hat{f} を ff のフーリエ変換 (Fourier transform)、右の式を反転公式という(定数の付け方は文献によって異なる)。部分積分により f′^(ξ)=iξf^(ξ)\widehat{f'}(\xi) = i\xi\hat{f}(\xi) で、微分が掛け算に変わる。

これを熱方程式 ut=kuxxu_t = ku_{xx} に xx について適用すると、各 ξ\xi ごとに常微分方程式 ∂tu^=−kξ2u^\partial_t\hat{u} = -k\xi^2\hat{u} となり、u^(ξ,t)=e−kξ2tg^(ξ)\hat{u}(\xi, t) = e^{-k\xi^2t}\hat{g}(\xi)。一方、I(ξ)=∫e−ax2e−ixξdxI(\xi) = \int e^{-ax^2}e^{-ix\xi}dx(a>0a > 0)は、微分して部分積分すると I′=−ξ2aII' = -\frac{\xi}{2a}I をみたすので I(ξ)=π/a e−ξ2/(4a)I(\xi) = \sqrt{\pi/a}\ e^{-\xi^2/(4a)}。a=1/(4kt)a = 1/(4kt) とおけば熱核について Φ^(ξ,t)=e−kξ2t\hat{\Phi}(\xi, t) = e^{-k\xi^2t} となる。積の逆変換が畳み込みになること(f∗g^=f^g^\widehat{f \ast g} = \hat{f}\hat{g})を使えば u=Φ(⋅,t)∗gu = \Phi(\cdot, t) \ast g、すなわち定理 7.9 の公式が導かれる。以上の計算は形式的なものであり、フーリエ変換の厳密な理論(どの関数に対して反転公式が成り立つか、L2L^2 上のプランシュレルの定理、緩増加超関数への拡張)は 偏微分方程式論 第2章 で扱う。

7.7 適切性とアダマールの例

定義 7.21(適切性, well-posedness)偏微分方程式の問題が、(1) 解が存在し、(2) 解が一意で、(3) 解がデータ(初期値・境界値)に連続に依存する、の 3 条件をみたすとき、アダマールの意味で適切 (well-posed) であるという。そうでないとき非適切 (ill-posed) という。

(3) は、測定誤差を含むデータから意味のある予測をするために不可欠である。本章の問題はいずれも適切である:熱方程式の初期値境界値問題(系 7.8)、波動方程式の初期値問題(ダランベールの公式から sup⁡∣u(⋅,t)∣≤sup⁡∣f∣+tsup⁡∣g∣\sup\lvert u(\cdot, t) \rvert \leq \sup\lvert f \rvert + t\sup\lvert g \rvert)、ラプラス方程式のディリクレ問題(系 7.17)。しかし、方程式と条件の組み合わせを誤ると適切でなくなる。

例 7.22(アダマールの例)ラプラス方程式に、波動方程式と同じ種類の「初期条件」を課す問題 uxx+uyy=0u_{xx} + u_{yy} = 0(y>0y > 0), u(x,0)=0u(x, 0) = 0, uy(x,0)=sin⁡nxnu_y(x, 0) = \frac{\sin nx}{n} を考える。un(x,y)=sin⁡nxsinh⁡nyn2u_n(x, y) = \frac{\sin nx\sinh ny}{n^2} は解である(Δun=sin⁡nxsinh⁡nyn2(−n2+n2)=0\Delta u_n = \frac{\sin nx\sinh ny}{n^2}(-n^2 + n^2) = 0)。データは n→∞n \to \infty で 0 に一様収束するが、各 y>0y > 0 で sup⁡x∣un(x,y)∣=sinh⁡nyn2→∞\sup_x\lvert u_n(x, y) \rvert = \frac{\sinh ny}{n^2} \to \infty である。データ 0 に対する解は u≡0u \equiv 0 であり(この問題の解は一意であることが知られている)、データへの連続依存性が成り立たない。楕円型方程式には境界値問題が、双曲型方程式には初期値問題が適切なのである。

例 7.23(逆向きの熱方程式)現在の温度分布から過去の温度分布を求める問題も非適切である。[0,π][0, \pi] 上の ut=uxxu_t = u_{xx}(ディリクレ条件)の解 un=1ne−n2tsin⁡nxu_n = \frac{1}{n}e^{-n^2t}\sin nx は、t=0t = 0 で大きさ 1n\frac{1}{n} にすぎないが、t=−τ<0t = -\tau < 0 では 1nen2τ→∞\frac{1}{n}e^{n^2\tau} \to \infty となる。平滑化効果の裏返しとして、時間をさかのぼると小さな高周波成分が爆発的に拡大する。

注意 7.24 係数が解析的な方程式について、解析的な初期データに対する初期値問題の局所解が存在する(コーシー–コワレフスカヤの定理;主張のみ)。しかし例 7.22 が示すように、これは適切性を保証しない。さらにレヴィは、ux+iuy−2i(x+iy)uz=Fu_x + iu_y - 2i(x + iy)u_z = F という係数が多項式の線形方程式が、ある滑らかな FF に対してどんな開集合でも解をもたないことを示した(1957 年)。偏微分方程式の一般論が難しい理由の一端である。

まとめ

  • 2 階線形方程式は主要部の 2 次形式の符号で楕円型(ラプラス)・放物型(熱)・双曲型(波動)に分類され、型によって適切な問題も解の性質も異なる。
  • 1 階線形方程式は特性曲線に沿った常微分方程式に帰着する。非線形では特性曲線が交わり、衝撃波が生じうる。
  • 熱方程式は変数分離とフーリエ正弦級数で解け、解は t>0t > 0 で直ちに滑らかになる。弱最大値原理から一意性と安定性が従う。R\mathbb{R} 上では熱核との畳み込みで解け、熱は無限の速さで伝わる。
  • 波動方程式の解はダランベールの公式で与えられ、特異性は保たれたまま速さ cc で伝わる。エネルギー保存から一意性、局所エネルギーの減少から有限伝播速度が従う。
  • 調和関数は平均値の性質と最大値原理をもち、円板上のディリクレ問題はポアソン核で解ける。調和関数は C∞C^\infty 級である。
  • フーリエ変換は微分を掛け算に変え、熱核を自然に導く(厳密な理論は偏微分方程式論で扱う)。
  • 解の存在・一意性・データへの連続依存性をみたす問題が適切である。ラプラス方程式の初期値問題(アダマールの例)や逆向きの熱方程式は非適切である。

演習問題

問題 7.1 ★ uxx+4uxy+3uyy=0u_{xx} + 4u_{xy} + 3u_{yy} = 0 の型を判定し、C2C^2 級の一般解を求めよ。

解答

a=1a = 1, b=2b = 2, c=3c = 3 で b2−ac=1>0b^2 - ac = 1 > 0 なので双曲型。(∂x+∂y)(∂x+3∂y)=∂x2+4∂x∂y+3∂y2(\partial_x + \partial_y)(\partial_x + 3\partial_y) = \partial_x^2 + 4\partial_x\partial_y + 3\partial_y^2 と因数分解できる。ξ=y−x\xi = y - x, η=y−3x\eta = y - 3x とおくと ∂x+∂y\partial_x + \partial_y と ∂x+3∂y\partial_x + 3\partial_y はそれぞれ η\eta, ξ\xi 方向の微分の定数倍になり((∂x+∂y)ξ=0(\partial_x + \partial_y)\xi = 0, (∂x+3∂y)η=0(\partial_x + 3\partial_y)\eta = 0)、方程式は uξη=0u_{\xi\eta} = 0 に変わる。よって u=F(y−x)+G(y−3x)u = F(y - x) + G(y - 3x)(F,G∈C2F, G \in C^2)。

問題 7.2 ★ (1) ut+2ux=0u_t + 2u_x = 0, u(x,0)=e−x2u(x, 0) = e^{-x^2} を解け。(2) yux−xuy=0yu_x - xu_y = 0 の C1C^1 級の解は、R2∖{0}\mathbb{R}^2 \setminus \lbrace 0 \rbrace 上で x2+y2x^2 + y^2 の関数であることを示せ。

解答

(1) 命題 7.2 より u=e−(x−2t)2u = e^{-(x - 2t)^2}。(2) 特性曲線は dxds=y\frac{dx}{ds} = y, dyds=−x\frac{dy}{ds} = -x、すなわち原点中心の円であり、その上で ddsu=yux−xuy=0\frac{d}{ds}u = yu_x - xu_y = 0 だから uu は各円の上で一定である。よって uu は半径 r=x2+y2r = \sqrt{x^2 + y^2} だけの関数で、x2+y2x^2 + y^2 の関数と書ける。

問題 7.3 ★★ 両端を断熱した棒 ut=uxxu_t = u_{xx}(0<x<π0 < x < \pi), ux(0,t)=ux(π,t)=0u_x(0, t) = u_x(\pi, t) = 0, u(x,0)=f(x)u(x, 0) = f(x) の解を余弦級数で表し、t→∞t \to \infty で uu が ff の平均値 1π∫0πf dx\frac{1}{\pi}\int_0^\pi f\ dx に一様収束することを示せ(ff は C1C^1 級とする)。また ∫0πu(x,t) dx\int_0^\pi u(x, t)\ dx が tt によらないことを示せ。

解答

変数分離で −X′′=λX-X'' = \lambda X, X′(0)=X′(π)=0X'(0) = X'(\pi) = 0 より Xn=cos⁡nxX_n = \cos nx, λn=n2\lambda_n = n^2(n≥0n \geq 0)。u=a02+∑n≥1ane−n2tcos⁡nxu = \frac{a_0}{2} + \sum_{n \geq 1}a_ne^{-n^2t}\cos nx、an=2π∫0πfcos⁡nx dxa_n = \frac{2}{\pi}\int_0^\pi f\cos nx\ dx。ff の偶関数拡張は連続で区分的に滑らかなので ∑∣an∣<∞\sum\lvert a_n \rvert < \infty(定理 6.18)。∣u−a02∣≤e−t∑n≥1∣an∣→0\lvert u - \frac{a_0}{2} \rvert \leq e^{-t}\sum_{n \geq 1}\lvert a_n \rvert \to 0(一様)で、a02=1π∫0πf\frac{a_0}{2} = \frac{1}{\pi}\int_0^\pi f。また ddt∫0πu dx=∫0πuxxdx=[ux]0π=0\frac{d}{dt}\int_0^\pi u\ dx = \int_0^\pi u_{xx}dx = [u_x]_0^\pi = 0(t>0t > 0)。熱が外に逃げないので総熱量は保存され、温度は均一化する。

問題 7.4 ★★ utt=c2uxxu_{tt} = c^2u_{xx}, u(x,0)=0u(x, 0) = 0, ut(x,0)=11+x2u_t(x, 0) = \frac{1}{1 + x^2} を解き、各 xx について lim⁡t→∞u(x,t)\lim_{t \to \infty}u(x, t) を求めよ。

解答

ダランベールの公式より u=12c∫x−ctx+ctds1+s2=12c(arctan⁡(x+ct)−arctan⁡(x−ct))u = \frac{1}{2c}\int_{x - ct}^{x + ct}\frac{ds}{1 + s^2} = \frac{1}{2c}\bigl(\arctan(x + ct) - \arctan(x - ct)\bigr)。t→∞t \to \infty で arctan⁡(x+ct)→π2\arctan(x + ct) \to \frac{\pi}{2}, arctan⁡(x−ct)→−π2\arctan(x - ct) \to -\frac{\pi}{2} なので u→π2cu \to \frac{\pi}{2c}。初速度の「総量」∫ds1+s2=π\int\frac{ds}{1 + s^2} = \pi の半分ずつが左右に運ばれ、1 次元の波は変位を後に残す。

問題 7.5 ★★ 単位円板上のディリクレ問題で境界値が f(θ)=sin⁡3θf(\theta) = \sin^3\theta のときの解を、x,yx, y の多項式で表せ。

解答

sin⁡3θ=34sin⁡θ−14sin⁡3θ\sin^3\theta = \frac{3}{4}\sin\theta - \frac{1}{4}\sin 3\theta なので、定理 7.18 より u=34rsin⁡θ−14r3sin⁡3θu = \frac{3}{4}r\sin\theta - \frac{1}{4}r^3\sin 3\theta。r3sin⁡3θ=Im⁡(x+iy)3=3x2y−y3r^3\sin 3\theta = \operatorname{Im}(x + iy)^3 = 3x^2y - y^3 より u=34y−14(3x2y−y3)u = \frac{3}{4}y - \frac{1}{4}(3x^2y - y^3)。Δ(3x2y−y3)=6y−6y=0\Delta(3x^2y - y^3) = 6y - 6y = 0 で調和であり、x2+y2=1x^2 + y^2 = 1 上で sin⁡3θ\sin^3\theta に一致することも確かめられる。

問題 7.6 ★★(リウヴィルの定理)R2\mathbb{R}^2 全体で調和かつ有界な関数は定数であることを、円板上の平均値の性質から示せ。

解答

∣u∣≤M\lvert u \rvert \leq M とし、2 点 a,ba, b(d=∣a−b∣d = \lvert a - b \rvert)と R>dR > d をとる。円板上の平均値の性質より u(a)−u(b)=1πR2(∬B(a,R)u−∬B(b,R)u)u(a) - u(b) = \frac{1}{\pi R^2}\left(\iint_{B(a, R)}u - \iint_{B(b, R)}u\right) で、右辺の積分の差は対称差 B(a,R)△B(b,R)B(a, R) \triangle B(b, R) 上の積分で抑えられる。対称差は環状領域 {R−d≤∣x−a∣≤R+d}\lbrace R - d \leq \lvert x - a \rvert \leq R + d \rbrace に含まれ、その面積は 4πRd4\pi Rd なので、∣u(a)−u(b)∣≤4πRdMπR2=4dMR→0\lvert u(a) - u(b) \rvert \leq \frac{4\pi RdM}{\pi R^2} = \frac{4dM}{R} \to 0(R→∞R \to \infty)。よって u(a)=u(b)u(a) = u(b)。

問題 7.7 ★★★ uu が R×[0,T]\mathbb{R} \times [0, T] 上で有界かつ連続、t>0t > 0 で ut,uxxu_t, u_{xx} が連続で ut=kuxxu_t = ku_{xx}、u(x,0)=0u(x, 0) = 0 ならば、u≡0u \equiv 0 であることを示せ。したがって熱方程式の初期値問題の有界な解は一意である。

解答

∣u∣≤M\lvert u \rvert \leq M とする。ε>0\varepsilon > 0 に対し w=u−ε(x2+2kt)w = u - \varepsilon(x^2 + 2kt) とおくと、∂t(x2+2kt)=2k=k∂x2(x2+2kt)\partial_t(x^2 + 2kt) = 2k = k\partial_x^2(x^2 + 2kt) なので ww も熱方程式をみたす。RR を εR2≥M\varepsilon R^2 \geq M となるようにとり、長方形 [−R,R]×[0,T][-R, R] \times [0, T] で定理 7.7(区間を平行移動したもの)を適用する。放物境界上では、t=0t = 0 で w=−εx2≤0w = -\varepsilon x^2 \leq 0、x=±Rx = \pm R で w≤M−εR2≤0w \leq M - \varepsilon R^2 \leq 0。よって長方形内で w≤0w \leq 0、すなわち u(x,t)≤ε(x2+2kt)u(x, t) \leq \varepsilon(x^2 + 2kt)。RR はいくらでも大きくとれるので、この不等式はすべての (x,t)(x, t) で成り立ち、ε→0\varepsilon \to 0 として u≤0u \leq 0。−u-u に適用すれば u≥0u \geq 0 で、u≡0u \equiv 0。

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