この章の目標
- 2 階線形偏微分方程式を楕円型・放物型・双曲型に分類し、代表例(ラプラス・熱・波動方程式)の性質の違いを説明できる
- 1 階線形方程式を特性曲線法で解ける
- 熱方程式をフーリエ級数と熱核で解き、最大値原理から一意性と安定性を証明できる
- 波動方程式のダランベールの公式を証明し、エネルギー保存・一意性・有限伝播速度を示せる
- 調和関数の平均値の性質と最大値原理を証明し、円板上のディリクレ問題をポアソン核で解ける
- アダマールの例を用いて、問題の適切性の意味を説明できる
前提:第5章、第6章、微分積分学 第10章
未知関数が複数の変数をもつ微分方程式を偏微分方程式 (partial differential equation) という。常微分方程式と違い、偏微分方程式には「一般論」がほとんどない。方程式の型によって、解の性質も、課すべき条件も、解き方もまったく異なるからである。本章では、応用上も理論上も最も基本的な 3 つの方程式、熱方程式・波動方程式・ラプラス方程式を、第5・6章の道具を使って解き、それぞれに固有の性質を調べる。
7.1 偏微分方程式の例と分類
- 熱方程式 ut=kuxx:棒の温度 u(x,t) について、熱の流れ(熱流束)は温度勾配に比例し(フーリエの法則 −κux)、エネルギーは保存される(cρut=(κux)x)。k=κ/(cρ)>0。
- 波動方程式 utt=c2uxx:張力 T、線密度 ρ の弦の微小な横振動で、c=T/ρ は波の速さである。
- ラプラス方程式 Δu=uxx+uyy=0:熱方程式の定常状態(ut=0)であり、静電ポテンシャルや非圧縮・渦なしの流れの速度ポテンシャルもみたす。
- 輸送方程式 ut+cux=0:速さ c の流れに乗って運ばれる物質の濃度。
定義 7.1(2 階線形方程式の分類)実定数 a,b,c(すべては 0 でない)について、auxx+2buxy+cuyy+(1 階以下の項)=0 は、b2−ac<0 のとき楕円型 (elliptic)、b2−ac=0 のとき放物型 (parabolic)、b2−ac>0 のとき双曲型 (hyperbolic) であるという。
1 次変換 (ξ,η)=P(x,y) で変数を変えると、2 階の部分の係数の対称行列 A(第 1 行 (a,b)、第 2 行 (b,c))は A↦PA tP と合同変換される。シルヴェスターの慣性法則(線形代数 第8章)により型は変わらず、適当な変数変換で主要部を uξξ+uηη(楕円型)、uξξ(放物型)、uξξ−uηη(双曲型)にできる。ラプラス方程式は楕円型、熱方程式は放物型、波動方程式は双曲型の代表である。係数が変数に依存するときは点ごとに型が決まり、たとえば遷音速流のモデル yuxx+uyy=0(トリコミ方程式)は y>0 で楕円型、y<0 で双曲型になる。
7.2 1 階線形方程式と特性曲線法
命題 7.2 c∈R、g∈C1(R) とする。ut+cux=0, u(x,0)=g(x) の C1 級の解は u(x,t)=g(x−ct) に限る。
証明. u(x,t)=g(x−ct) が解であることは代入すればわかる。逆に u を解とすると、直線 x=x0+ct に沿って dtdu(x0+ct,t)=cux+ut=0 なので、u(x0+ct,t)=u(x0,0)=g(x0)。□
初期の形 g が形を変えずに速さ c で平行移動する。直線 x−ct= 一定を特性曲線 (characteristic curve) という。一般の 1 階線形方程式 a(x,y)ux+b(x,y)uy=f(x,y,u) でも同様に、常微分方程式 dsdx=a, dsdy=b の解曲線(特性曲線)に沿って dsdu(x(s),y(s))=f となるので、偏微分方程式が特性曲線上の常微分方程式に帰着する(特性曲線法, method of characteristics)。初期値は特性曲線と横断的に交わる曲線の上で与える。
例 7.3 (1) ut+xux=0, u(x,0)=g(x):特性曲線は dtdx=x より x=x0et で、その上で u は一定なので u(x,t)=g(xe−t)。初期の形が横に引き伸ばされていく。(2) ut+cux=−λu:特性曲線に沿って dtdu=−λu なので u=e−λtg(x−ct)(減衰しながら運ばれる)。
7.3 熱方程式
区間 [0,ℓ] の棒の両端を温度 0 に保つ問題
ut=kuxx(0<x<ℓ, t>0),u(0,t)=u(ℓ,t)=0,u(x,0)=f(x)
を考える。u=X(x)T(t) とおいて代入すると kTT′=XX′′ で、左辺は t だけ、右辺は x だけの関数なので定数 −λ に等しい。すると X は固有値問題 −X′′=λX, X(0)=X(ℓ)=0(第5章)の解で、λn=(nπ/ℓ)2, Xn=sin(nπx/ℓ)、そして Tn=e−kλnt である。これらを重ね合わせ、初期条件を正弦級数(注意 6.3)で合わせる:
定理 7.5 f は [0,ℓ] 上連続で区分的に滑らか、f(0)=f(ℓ)=0 とし、bn=ℓ2∫0ℓf(x)sinℓnπxdx とおく。
u(x,t)=n=1∑∞bne−k(nπ/ℓ)2tsinℓnπx
は [0,ℓ]×[0,∞) で連続、[0,ℓ]×(0,∞) で C∞ 級であり、上の初期値境界値問題の解である。
証明. f の奇関数拡張(周期 2ℓ)は連続で区分的に滑らかなので、定理 6.18 より ∑∣bn∣<∞ で、正弦級数は f に一様収束する。級数の各項は ∣bn∣ で抑えられるので、u は [0,ℓ]×[0,∞) で一様収束して連続であり、u(x,0)=f(x)。t≥t0>0 では、t で i 回、x で j 回微分した項は ∣bn∣(kλn)i(nπ/ℓ)je−kλnt0 で抑えられ、これは n について和が有限である。よってすべての項別微分が一様収束し、u は C∞ 級で、各項と同様に熱方程式をみたす。境界条件は明らか。□
f がリーマン積分可能なだけでも ∣bn∣ は有界なので、証明の後半はそのまま成り立つ:初期値がどれほど粗くても、解は t>0 で直ちに滑らかになる(平滑化効果)。
例 7.6 k=1, ℓ=π, f=x(π−x) なら、問題 6.8 より u=π8∑n 奇数n3e−n2tsinnx。高い振動数の成分ほど速く減衰し、t が大きいと u≈π8e−tsinx となる。温度分布は最小固有値の固有関数の形に近づきながら、e−λ1kt の速さで 0 に向かう。
最大値原理と一意性
QT=(0,ℓ)×(0,T] とし、[0,ℓ]×[0,T] の「底辺と両側面」ΓT={(x,t)∣t=0 または x=0 または x=ℓ} を放物境界という。
定理 7.7(弱最大値原理)u は [0,ℓ]×[0,T] 上で連続、QT で ut,uxx が存在して連続で、QT 上 ut−kuxx≤0 とする。このとき max[0,ℓ]×[0,T]u=maxΓTu。
証明. ε>0 として v=u+εx2 とおくと、QT 上 vt−kvxx=ut−kuxx−2kε<0。v が最大値を (x0,t0)∈QT でとったとすると、x↦v(x,t0) は内点 x0 で最大なので vxx(x0,t0)≤0、また t↦v(x0,t) は (0,t0] 上で t0 において最大なので vt(x0,t0)≥0(t0=T なら左側からの微分係数を考える)。すると vt−kvxx≥0 となり矛盾する。よって v の最大値は ΓT 上でとられ、maxu≤maxv=maxΓTv≤maxΓTu+εℓ2。ε→0 とすればよい。□
−u に適用すれば最小値についても同様である。熱は内部で自然に高温になることはない、という物理的直観の数学的表現である。
系 7.8(一意性と安定性)初期値境界値問題 ut=kuxx(QT で)、ΓT 上で u を指定、の解は(定理 7.7 の正則性の範囲で)一意であり、2 つの解について max∣u1−u2∣≤maxΓT∣u1−u2∣ が成り立つ。また、初期値と境界値が非負なら解も非負である。
証明. u1−u2 と u2−u1 に定理 7.7 を適用すればよい。□
熱核
無限に長い棒 ut=kuxx(x∈R, t>0)、u(x,0)=g(x) を考える。
定理 7.9(熱核)熱核 (heat kernel) を Φ(x,t)=4πkt1e−x2/(4kt)(t>0)とする。g が R 上の有界連続関数なら、
u(x,t)=∫−∞∞Φ(x−y,t)g(y)dy
は t>0 で C∞ 級で熱方程式をみたし、(x,t)→(x0,0) のとき u(x,t)→g(x0) となる。
証明. 直接計算で Φx=−2ktxΦ, Φxx=(4k2t2x2−2kt1)Φ, Φt=(4kt2x2−2t1)Φ なので Φt=kΦxx。また Φ>0 で、ガウス積分 ∫e−x2/(4kt)dx=4πkt より ∫Φ(x,t) dx=1。Φ の各導関数は「多項式 × Φ」の形で、x が有界集合、t が (0,∞) のコンパクト集合を動く範囲では y について可積分な関数で一様に抑えられるので、積分記号下で何回でも微分でき、u は熱方程式をみたす。初期条件:∣u(x,t)−g(x0)∣≤∫Φ(x−y,t)∣g(y)−g(x0)∣ dy。ε>0 に対し、∣y−x0∣<δ で ∣g(y)−g(x0)∣<ε となる δ をとる。∣x−x0∣<δ/2 なら、∣y−x0∣≥δ の部分は ∣x−y∣≥δ/2 なので 2sup∣g∣∫∣z∣≥δ/2Φ(z,t) dz 以下で、これは t→0 で 0 に近づく(z=2kt s と置換すると積分範囲が ∣s∣≥δ/(4kt)→∞ となる)。残りは ε 以下である。□
Φ(⋅,t) は t→0 で原点に集中する近似単位元で、フェイエール核と同じ役割を果たす。熱核の形は 7.6 節のフーリエ変換から自然に導かれる。確率論では、Φ(⋅,t) は平均 0・分散 2kt の正規分布の密度であり、k=1/2 のとき標準ブラウン運動 Bt の分布の密度、一般の k では 2k Bt の分布の密度である(確率論 第7章)。
7.4 波動方程式
定理 7.11(ダランベールの公式, d'Alembert's formula)f∈C2(R), g∈C1(R) とする。utt=c2uxx(c>0), u(x,0)=f(x), ut(x,0)=g(x) の R2 上の C2 級の解はただ一つで、
u(x,t)=2f(x+ct)+f(x−ct)+2c1∫x−ctx+ctg(s)ds
証明. u を C2 級の解とし、特性座標 ξ=x+ct, η=x−ct で v(ξ,η)=u(x,t) とおく。連鎖律より uxx=vξξ+2vξη+vηη, utt=c2(vξξ−2vξη+vηη) なので utt−c2uxx=−4c2vξη=0。よって vξ は η によらず、積分して v=F(ξ)+G(η)(F,G∈C2)。初期条件は F(x)+G(x)=f(x), c(F′(x)−G′(x))=g(x) で、後者を積分して F(x)−G(x)=c1∫0xg+K。これを解いて u=F(x+ct)+G(x−ct) に代入すると公式を得る。逆に公式の u が C2 級の解であることは直接確かめられる。□
解は左向きの進行波 F(x+ct) と右向きの進行波 G(x−ct) の和である。u(x,t) は区間 [x−ct,x+ct] の初期値だけで決まる(依存領域)。初期値の折れ目などの特異性は特性曲線 x±ct= 一定に沿って伝わり、熱方程式のように平滑化されることはない。
例 7.12(弦の基準振動)両端固定の弦 u(0,t)=u(ℓ,t)=0 を変数分離すると、Xn=sinℓnπx に対して Tn′′=−c2(nπ/ℓ)2Tn となり
u(x,t)=n=1∑∞(ancosℓnπct+bnsinℓnπct)sinℓnπx
を得る(an, bn は f, g の正弦係数から決まる)。振動数 2ℓnc は基本振動数 2ℓc の整数倍(倍音)であり、弦楽器の音が快い和音を響かせる理由である。この解は、f,g を奇関数かつ周期 2ℓ に拡張してダランベールの公式に代入したものと一致する。
定理 7.13(エネルギー保存と一意性)u∈C2([0,ℓ]×[0,T]) が utt=c2uxx と u(0,t)=u(ℓ,t)=0 をみたせば、エネルギー
E(t)=21∫0ℓ(ut2+c2ux2)dx
は一定である。したがって初期値境界値問題の C2 級の解は一意である。
証明. 積分記号下で微分し部分積分すると
E′(t)=∫0ℓ(ututt+c2uxuxt)dx=∫0ℓut(utt−c2uxx)dx+[c2uxut]x=0x=ℓ=0
(両端で u=0 なので ut=0)。2 つの解の差 w は初期値 0 の解なので E≡0、よって wt=wx=0 で w は定数、初期値から w=0。□
定理 7.14(有限伝播速度)u∈C2(R×[0,∞)) を utt=c2uxx の解とし、x0∈R, R>0 とする。0≤t≤R/c に対し
e(t)=21∫x0−R+ctx0+R−ct(ut2+c2ux2)dx
は単調非増加である。特に f=g=0 が [x0−R,x0+R] 上で成り立てば、三角形 {∣x−x0∣≤R−ct, 0≤t≤R/c} 上で u=0。
証明. 積分区間の両端を α(t)=x0−R+ct, β(t)=x0+R−ct とし、被積分関数を ϵ=21(ut2+c2ux2) とする。定理 7.13 の証明と同じ計算に、端点が動くことによる項を加えると
e′(t)=[c2uxut]αβ−cϵ(β)−cϵ(α)=−2c(ut−cux)2x=β−2c(ut+cux)2x=α≤0
後半:e(0)=0(ux=f′=0, ut=g=0)なので e≡0、三角形の中で ut=ux=0 となり、u は定数 u(x0,0)=0 である。□
この証明はダランベールの公式を使わないので、高次元の波動方程式(円錐の中のエネルギー)にもそのまま拡張できる。波の影響は速さ c を超えて伝わらない。
7.5 ラプラス方程式
開集合 Ω⊂R2 上の C2 級関数 u で Δu=0 をみたすものを調和関数 (harmonic function) という。正則関数の実部・虚部、log(x2+y2)、極座標で rncosnθ, rnsinnθ などが例である。
定理 7.15(平均値の性質)u が Ω で調和で、閉円板 B(x0,R)⊂Ω なら、0<r≤R に対し
u(x0)=2π1∫02πu(x0+rcosθ, y0+rsinθ)dθ=πr21∬B(x0,r)udxdy
(x0=(x0,y0) と書いた)。
証明. 円周上の平均を ϕ(r) とおくと、積分記号下の微分と発散定理(微分積分学 第10章)により
ϕ′(r)=2π1∫02π∇u⋅(cosθ,sinθ)dθ=2πr1∮∂Br∂ν∂uds=2πr1∬BrΔudxdy=0
よって ϕ は定数で、u の連続性から ϕ(r)→u(x0)(r→0)なので ϕ(r)=u(x0)。円板上の平均は、極座標で ∬Bru=∫0r2πs ϕ(s) ds=πr2u(x0) から従う。□
定理 7.16(最大値原理)(1)(強最大値原理)Ω が連結で、調和関数 u が Ω の点で最大値をとれば、u は定数である。(2)(弱最大値原理)Ω が有界で u∈C2(Ω)∩C(Ω) が調和なら、maxΩu=max∂Ωu。最小値についても同様である。
証明. (1) 最大値を M とし S={x∈Ω∣u(x)=M} とおく。S は空でなく、連続性から Ω で閉である。x0∈S で B(x0,r)⊂Ω なら、円板上の平均値の性質より ∬B(x0,r)(M−u)=0 で、被積分関数は非負連続なので B(x0,r) 上で u=M。よって S は開でもあり、連結性から S=Ω。(2) Ω はコンパクトなので最大値はどこかでとられる。それが x0∈Ω なら、x0 を含む Ω の連結成分 Ω0 上で u≡M で、有界な Ω0 の境界(空でなく ∂Ω に含まれる)上でも連続性から u=M。□
系 7.17 有界領域 Ω 上のディリクレ問題 Δu=0(Ω で), u=f(∂Ω で)の解 u∈C2(Ω)∩C(Ω) は高々一つであり、2 つの境界値に対する解は maxΩ∣u1−u2∣≤max∂Ω∣f1−f2∣ をみたす。
円板上のディリクレ問題とポアソン核
単位円板 D で、境界値 f(周期 2π の連続関数 f(θ))を与える。極座標 Δ=urr+r1ur+r21uθθ で u=R(r)Θ(θ) と変数分離すると、Θ=einθ に対して r2R′′+rR′−n2R=0(オイラーの方程式)となり、原点で有界な解は R=r∣n∣ である。そこで u=∑f^(n)r∣n∣einθ が候補になる。
定理 7.18(ポアソンの公式)ポアソン核 (Poisson kernel) を
Pr(θ)=n∈Z∑r∣n∣einθ=1−2rcosθ+r21−r2(0≤r<1)
とし、u(reiθ)=2π1∫−ππPr(θ−ϕ)f(ϕ) dϕ(r<1)、u(eiθ)=f(θ) とおく。このとき u は D で調和、D で連続であり、ディリクレ問題のただ一つの解である。
証明. 級数は ∑n≥0(reiθ)n+∑n≥1(re−iθ)n=1−reiθ1+1−re−iθre−iθ で、通分すると分母は ∣1−reiθ∣2=1−2rcosθ+r2、分子は 1−r2 となる。r<1 では級数は ϕ について一様収束するので項別積分でき、u(reiθ)=∑nf^(n)r∣n∣einθ。z=x+iy=reiθ とすると各項は zn または z∣n∣ の定数倍で調和であり、∣f^(n)∣≤max∣f∣ だから、r≤ρ<1 では級数とその各階の偏導関数の級数が一様収束する(∣∂zn∣≤nρn−1 など)。よって u は D で C∞ 級かつ調和である。
境界での連続性:Pr>0、2π1∫Pr=1(n=0 の項)、そして 1−2rcosθ+r2=(1−r)2+2r(1−cosθ) より δ≤∣θ∣≤π で Pr(θ)≤2r(1−cosδ)1−r2→0(r→1)。したがって Pr は近似単位元であり、フェイエールの定理(定理 6.12)と同じ議論で supθ∣u(reiθ)−f(θ)∣→0(r→1)。f の連続性と合わせて u は D で連続である。一意性は系 7.17 による。□
Pr(θ−ϕ)=Reeiϕ−zeiϕ+z であり、ポアソンの公式はコーシーの積分公式の実部とみなせる(複素関数論 第3章)。
系 7.19 調和関数は C∞ 級である。
証明. B(x0,R)⊂Ω 上で、u はその境界値のポアソン積分(平行移動と拡大で単位円板に移す)と一致する(系 7.17 の一意性)。ポアソン積分は円板内で C∞ 級である。□
例 7.20 境界値 f(θ)=cos2θ=21+21cos2θ なら、u=21+21r2cos2θ=21+21(x2−y2)。円板の周の温度を cos2θ に保ったときの定常温度分布である。
7.6 フーリエ変換の導入
区間 [−ℓ,ℓ] のフーリエ級数で ℓ→∞ とすると、周期をもたない関数の「連続的な」周波数分解が得られる。ξn=nπ/ℓ、Δξ=π/ℓ とおくと、フーリエ係数は cn=2ℓ1∫−ℓℓf(x)e−iξnxdx で、f(x)=∑ncneiξnx=2π1∑n(∫−ℓℓf(y)e−iξnydy)eiξnxΔξ。形式的に ℓ→∞ とすれば
f^(ξ)=∫−∞∞f(x)e−ixξdx,f(x)=2π1∫−∞∞f^(ξ)eixξdξ
を得る。f^ を f のフーリエ変換 (Fourier transform)、右の式を反転公式という(定数の付け方は文献によって異なる)。部分積分により f′(ξ)=iξf^(ξ) で、微分が掛け算に変わる。
これを熱方程式 ut=kuxx に x について適用すると、各 ξ ごとに常微分方程式 ∂tu^=−kξ2u^ となり、u^(ξ,t)=e−kξ2tg^(ξ)。一方、I(ξ)=∫e−ax2e−ixξdx(a>0)は、微分して部分積分すると I′=−2aξI をみたすので I(ξ)=π/a e−ξ2/(4a)。a=1/(4kt) とおけば熱核について Φ^(ξ,t)=e−kξ2t となる。積の逆変換が畳み込みになること(f∗g=f^g^)を使えば u=Φ(⋅,t)∗g、すなわち定理 7.9 の公式が導かれる。以上の計算は形式的なものであり、フーリエ変換の厳密な理論(どの関数に対して反転公式が成り立つか、L2 上のプランシュレルの定理、緩増加超関数への拡張)は 偏微分方程式論 第2章 で扱う。
7.7 適切性とアダマールの例
定義 7.21(適切性, well-posedness)偏微分方程式の問題が、(1) 解が存在し、(2) 解が一意で、(3) 解がデータ(初期値・境界値)に連続に依存する、の 3 条件をみたすとき、アダマールの意味で適切 (well-posed) であるという。そうでないとき非適切 (ill-posed) という。
(3) は、測定誤差を含むデータから意味のある予測をするために不可欠である。本章の問題はいずれも適切である:熱方程式の初期値境界値問題(系 7.8)、波動方程式の初期値問題(ダランベールの公式から sup∣u(⋅,t)∣≤sup∣f∣+tsup∣g∣)、ラプラス方程式のディリクレ問題(系 7.17)。しかし、方程式と条件の組み合わせを誤ると適切でなくなる。
例 7.22(アダマールの例)ラプラス方程式に、波動方程式と同じ種類の「初期条件」を課す問題 uxx+uyy=0(y>0), u(x,0)=0, uy(x,0)=nsinnx を考える。un(x,y)=n2sinnxsinhny は解である(Δun=n2sinnxsinhny(−n2+n2)=0)。データは n→∞ で 0 に一様収束するが、各 y>0 で supx∣un(x,y)∣=n2sinhny→∞ である。データ 0 に対する解は u≡0 であり(この問題の解は一意であることが知られている)、データへの連続依存性が成り立たない。楕円型方程式には境界値問題が、双曲型方程式には初期値問題が適切なのである。
例 7.23(逆向きの熱方程式)現在の温度分布から過去の温度分布を求める問題も非適切である。[0,π] 上の ut=uxx(ディリクレ条件)の解 un=n1e−n2tsinnx は、t=0 で大きさ n1 にすぎないが、t=−τ<0 では n1en2τ→∞ となる。平滑化効果の裏返しとして、時間をさかのぼると小さな高周波成分が爆発的に拡大する。
まとめ
- 2 階線形方程式は主要部の 2 次形式の符号で楕円型(ラプラス)・放物型(熱)・双曲型(波動)に分類され、型によって適切な問題も解の性質も異なる。
- 1 階線形方程式は特性曲線に沿った常微分方程式に帰着する。非線形では特性曲線が交わり、衝撃波が生じうる。
- 熱方程式は変数分離とフーリエ正弦級数で解け、解は t>0 で直ちに滑らかになる。弱最大値原理から一意性と安定性が従う。R 上では熱核との畳み込みで解け、熱は無限の速さで伝わる。
- 波動方程式の解はダランベールの公式で与えられ、特異性は保たれたまま速さ c で伝わる。エネルギー保存から一意性、局所エネルギーの減少から有限伝播速度が従う。
- 調和関数は平均値の性質と最大値原理をもち、円板上のディリクレ問題はポアソン核で解ける。調和関数は C∞ 級である。
- フーリエ変換は微分を掛け算に変え、熱核を自然に導く(厳密な理論は偏微分方程式論で扱う)。
- 解の存在・一意性・データへの連続依存性をみたす問題が適切である。ラプラス方程式の初期値問題(アダマールの例)や逆向きの熱方程式は非適切である。
演習問題
問題 7.1 ★ uxx+4uxy+3uyy=0 の型を判定し、C2 級の一般解を求めよ。
解答
a=1, b=2, c=3 で b2−ac=1>0 なので双曲型。(∂x+∂y)(∂x+3∂y)=∂x2+4∂x∂y+3∂y2 と因数分解できる。ξ=y−x, η=y−3x とおくと ∂x+∂y と ∂x+3∂y はそれぞれ η, ξ 方向の微分の定数倍になり((∂x+∂y)ξ=0, (∂x+3∂y)η=0)、方程式は uξη=0 に変わる。よって u=F(y−x)+G(y−3x)(F,G∈C2)。
問題 7.2 ★ (1) ut+2ux=0, u(x,0)=e−x2 を解け。(2) yux−xuy=0 の C1 級の解は、R2∖{0} 上で x2+y2 の関数であることを示せ。
解答
(1) 命題 7.2 より u=e−(x−2t)2。(2) 特性曲線は dsdx=y, dsdy=−x、すなわち原点中心の円であり、その上で dsdu=yux−xuy=0 だから u は各円の上で一定である。よって u は半径 r=x2+y2 だけの関数で、x2+y2 の関数と書ける。
問題 7.3 ★★ 両端を断熱した棒 ut=uxx(0<x<π), ux(0,t)=ux(π,t)=0, u(x,0)=f(x) の解を余弦級数で表し、t→∞ で u が f の平均値 π1∫0πf dx に一様収束することを示せ(f は C1 級とする)。また ∫0πu(x,t) dx が t によらないことを示せ。
解答
変数分離で −X′′=λX, X′(0)=X′(π)=0 より Xn=cosnx, λn=n2(n≥0)。u=2a0+∑n≥1ane−n2tcosnx、an=π2∫0πfcosnx dx。f の偶関数拡張は連続で区分的に滑らかなので ∑∣an∣<∞(定理 6.18)。∣u−2a0∣≤e−t∑n≥1∣an∣→0(一様)で、2a0=π1∫0πf。また dtd∫0πu dx=∫0πuxxdx=[ux]0π=0(t>0)。熱が外に逃げないので総熱量は保存され、温度は均一化する。
問題 7.4 ★★ utt=c2uxx, u(x,0)=0, ut(x,0)=1+x21 を解き、各 x について limt→∞u(x,t) を求めよ。
解答
ダランベールの公式より u=2c1∫x−ctx+ct1+s2ds=2c1(arctan(x+ct)−arctan(x−ct))。t→∞ で arctan(x+ct)→2π, arctan(x−ct)→−2π なので u→2cπ。初速度の「総量」∫1+s2ds=π の半分ずつが左右に運ばれ、1 次元の波は変位を後に残す。
問題 7.5 ★★ 単位円板上のディリクレ問題で境界値が f(θ)=sin3θ のときの解を、x,y の多項式で表せ。
解答
sin3θ=43sinθ−41sin3θ なので、定理 7.18 より u=43rsinθ−41r3sin3θ。r3sin3θ=Im(x+iy)3=3x2y−y3 より u=43y−41(3x2y−y3)。Δ(3x2y−y3)=6y−6y=0 で調和であり、x2+y2=1 上で sin3θ に一致することも確かめられる。
問題 7.6 ★★(リウヴィルの定理)R2 全体で調和かつ有界な関数は定数であることを、円板上の平均値の性質から示せ。
解答
∣u∣≤M とし、2 点 a,b(d=∣a−b∣)と R>d をとる。円板上の平均値の性質より u(a)−u(b)=πR21(∬B(a,R)u−∬B(b,R)u) で、右辺の積分の差は対称差 B(a,R)△B(b,R) 上の積分で抑えられる。対称差は環状領域 {R−d≤∣x−a∣≤R+d} に含まれ、その面積は 4πRd なので、∣u(a)−u(b)∣≤πR24πRdM=R4dM→0(R→∞)。よって u(a)=u(b)。
問題 7.7 ★★★ u が R×[0,T] 上で有界かつ連続、t>0 で ut,uxx が連続で ut=kuxx、u(x,0)=0 ならば、u≡0 であることを示せ。したがって熱方程式の初期値問題の有界な解は一意である。
解答
∣u∣≤M とする。ε>0 に対し w=u−ε(x2+2kt) とおくと、∂t(x2+2kt)=2k=k∂x2(x2+2kt) なので w も熱方程式をみたす。R を εR2≥M となるようにとり、長方形 [−R,R]×[0,T] で定理 7.7(区間を平行移動したもの)を適用する。放物境界上では、t=0 で w=−εx2≤0、x=±R で w≤M−εR2≤0。よって長方形内で w≤0、すなわち u(x,t)≤ε(x2+2kt)。R はいくらでも大きくとれるので、この不等式はすべての (x,t) で成り立ち、ε→0 として u≤0。−u に適用すれば u≥0 で、u≡0。