この章の目標
- 本科目のフーリエ変換の規約を確認し、L1 上のフーリエ変換の基本性質を使える
- 急減少関数の空間 S 上でフーリエ変換が同型であること(反転公式)と、プランシュレルの定理を証明できる
- 緩増加超関数のフーリエ変換を定義し、デルタ・定数・p.v.x1 のフーリエ変換を計算できる
- 熱方程式・シュレディンガー方程式の解の公式を導き、不確定性原理を証明できる
前提:第1章、06-measure-integration 第5章(フビニの定理・畳み込み)、10-functional-analysis 第1章〜第2章、08-differential-equations 第6章〜第7章
2.1 フーリエ変換の規約
指数関数 eξ(x)=eix⋅ξ は ∂jeξ=iξjeξ をみたし、すべての偏微分作用素の同時固有関数である。関数を eξ の重ね合わせに分解すれば、定数係数の偏微分方程式 P(∂)u=f は各周波数 ξ ごとの代数方程式 P(iξ)u^(ξ)=f^(ξ) になる。これがフーリエ変換の威力であり、08-differential-equations 第7章 ではフーリエ級数の極限として導入した。
フーリエ変換の定数と符号の付け方は文献によって異なる。本科目では全体を通じて次の規約を用いる:
f^(ξ)=Ff(ξ)=∫Rne−ix⋅ξf(x)dx,F−1g(x)=(2π)n1∫Rneix⋅ξg(ξ)dξ
ここで x⋅ξ=∑jxjξj である。この規約は 08-differential-equations 第7章 および Hörmander と同じである。他の主な規約との比較を表にまとめる(公式を他書と照合するときに使う)。
| 規約 |
f^(ξ) |
反転公式の係数 |
∂jf |
プランシュレル |
| 本科目 |
∫e−ix⋅ξf(x) dx |
(2π)−n |
iξjf^ |
∥f^∥2=(2π)n/2∥f∥2 |
| 指数に 2π(Folland など) |
∫e−2πix⋅ξf(x) dx |
1 |
2πiξjf^ |
∥f^∥2=∥f∥2 |
| 対称型(Evans など) |
(2π)−n/2∫e−ix⋅ξf(x) dx |
(2π)−n/2 |
iξjf^ |
∥f^∥2=∥f∥2 |
本科目の規約では微分が iξ という簡単な掛け算になる代わりに、反転公式とプランシュレルの定理に 2π のべきが現れる。確率論の特性関数 E[eitX](11-probability 第3章)は指数の符号が逆である。以下 fˇ(x)=f(−x) と書く。
2.2 L1 上のフーリエ変換
f∈L1(Rn) ならば ∣e−ix⋅ξf(x)∣=∣f(x)∣ なので f^(ξ) はすべての ξ で定義される。
命題 2.1(リーマン–ルベーグの補題)f∈L1(Rn) ならば f^ は連続で ∣ξ∣→∞ のとき f^(ξ)→0。また sup∣f^∣≤∥f∥1。
証明. 連続性は優収束定理、評価は明らか。f∈Cc∞ ならば部分積分により iξjf^(ξ)=∂jf(ξ) なので ∣ξjf^(ξ)∣≤∥∂jf∥1 となり、f^(ξ)→0。一般の f は、Cc∞ の L1 での稠密性(系 1.4)と sup∣f^−g^∣≤∥f−g∥1 による。□
命題 2.2 f,g∈L1(Rn)、a,b∈Rn、λ>0 とする。
- f(⋅−a)(ξ)=e−ia⋅ξf^(ξ)、eib⋅xf(ξ)=f^(ξ−b)、f(λ ⋅)(ξ)=λ−nf^(ξ/λ)。
- f∗g=f^ g^。
- (乗法公式)∫f^(ξ)g(ξ) dξ=∫f(x)g^(x) dx。
証明. (1) は変数変換。(2)(3) はフビニの定理:たとえば ∫f^g dξ=∬e−ix⋅ξf(x)g(ξ) dx dξ=∫fg^ dx。□
例 2.3(ガウス関数)Rea>0 のとき
e−a∣x∣2(ξ)=(aπ)n/2e−∣ξ∣2/(4a)(2.1)
(a−n/2 は Rea>0 で主枝をとる)。e−a∣x∣2=∏je−axj2 だから n=1 でよい。a>0 のとき I(ξ)=∫e−ax2−ixξdx は、微分して部分積分すると I′(ξ)=−2aξI(ξ)、I(0)=π/a をみたすので I(ξ)=π/a e−ξ2/(4a)(08-differential-equations 第7章 と同じ計算)。(2.1) の両辺は Rea>0 で a の正則関数(左辺は積分記号下の微分による)で、a>0 で一致するから、一致の定理により Rea>0 全体で一致する。
例 2.4 1[−1,1](ξ)=∫−11e−ixξdx=ξ2sinξ は可積分でない。L1 の関数のフーリエ変換は L1 に入るとは限らず、反転公式 F−1f^=f を L1 の枠でそのまま述べることはできない。そこで、フーリエ変換で閉じた、扱いやすい関数空間を用意する。
2.3 急減少関数の空間と反転公式
定義 2.5(急減少関数, Schwartz function)φ∈C∞(Rn) で、すべての多重指数 α,β について
pα,β(φ)=x∈Rnsup∣xα∂βφ(x)∣<∞
となるものの全体を S(Rn) と書く。S の列 φj が φ に収束するとは、すべての α,β について pα,β(φj−φ)→0 となることをいう。
例 2.6 Cc∞(Rn)⊂S、e−∣x∣2∈S であり、(1+∣x∣2)−1∈/S。∣φ(x)∣≤C(1+∣x∣)−n−1 となるので S⊂Lp(1≤p≤∞)。また Cc∞ は S で稠密である:χ∈Cc∞ を B(0,1) 上で 1 となるようにとり φR=χ(⋅/R)φ とおくと、xα∂β(φ−φR) は ∣x∣≥R に台をもち、ライプニッツ則で展開した各項は R≥1 で Csup∣x∣≥R∣xα∂γφ∣≤RCsup∣x∣∣xα∂γφ∣ で抑えられる。
定理 2.7 F は S を S に写す連続な線形写像であり、φ∈S について
∂βφ(ξ)=(iξ)βφ^(ξ),xαφ(ξ)=(i∂ξ)αφ^(ξ)
証明. xαφ∈L1 だから積分記号下で微分でき、∂ξjφ^=(−ixj)φ、すなわち xjφ=i∂ξjφ^。第 1 式は部分積分による。両者を合わせると ξβ∂αφ^=(−i)∣β∣∂β((−ix)αφ) なので、命題 2.1 の評価と ∥ψ∥1≤Cnsup(1+∣x∣)n+1∣ψ∣ から
pβ,α(φ^)≤∥∂β(xαφ)∥1≤Cnxsup(1+∣x∣)n+1∣∂β(xαφ)(x)∣
右辺は φ の有限個の pγ,δ の和で抑えられる。よって φ^∈S で、F は連続である。□
定理 2.8(反転公式, Fourier inversion)φ∈S(Rn) ならば
φ(x)=(2π)n1∫Rneix⋅ξφ^(ξ)dξ(x∈Rn)
したがって F:S→S は線形同相写像で、F−1ψ(x)=(2π)−nψ^(−x)、F2φ=(2π)nφˇ。
証明. Gε(ξ)=e−ε2∣ξ∣2/2 とおき、乗法公式(命題 2.2)を φ^ と ψ(ξ)=eix⋅ξGε(ξ) に適用する。命題 2.2 (1) と (2.1)(a=ε2/2)から ψ^(y)=Gε(y−x)=(2π)ngε(y−x)、ただし gε(y)=(2πε2)−n/2e−∣y∣2/(2ε2) は全積分 1 のガウス関数である。よって
∫eix⋅ξφ^(ξ)Gε(ξ)dξ=(2π)n∫φ(y)gε(y−x)dy
ε→0 とすると、左辺は優収束定理(φ^∈L1)により ∫eix⋅ξφ^ dξ に、右辺は近似単位元の定理(06-measure-integration 第5章 定理 5.15)により (2π)nφ(x) に収束する。後半は、F−1 も F と同様に S 上連続であることによる。□
同じ証明で、f∈L1 かつ f^∈L1 ならば a.e. で f=F−1f^ が成り立つ(右辺は L1 で収束するので、部分列が a.e. 収束する)。特に f∈L1 は f^ で決まる。
命題 2.9 φ,ψ∈S ならば φ∗ψ∈S で、φ∗ψ=φ^ ψ^、φψ=(2π)−nφ^∗ψ^。
証明. 第 1 式は命題 2.2。S は積で閉じるので φ∗ψ=F−1(φ^ψ^)∈S。第 1 式を φ^,ψ^ に適用し、F2=(2π)n(⋅)∨ を使えば φ^∗ψ^=(2π)2n(φψ)∨。両辺に F を施し F2 の公式をもう一度使えば第 2 式を得る。□
2.4 プランシュレルの定理
定理 2.10(プランシュレルの定理, Plancherel theorem)φ,ψ∈S について
∫φ^(ξ)ψ^(ξ)dξ=(2π)n∫φ(x)ψ(x)dx(2.2)
が成り立つ。したがって F∣S は有界線形作用素 F:L2(Rn)→L2(Rn) に一意的に拡張され、∥Ff∥2=(2π)n/2∥f∥2、(2π)−n/2F はユニタリ作用素である。f∈L1∩L2 ならば Ff は積分で定義した f^ と a.e. で一致する。
証明. g=ψ^ とおくと、反転公式から g^(x)=∫eix⋅ξψ^(ξ) dξ=(2π)nψ(x)。乗法公式より ∫φ^ g=∫φ g^ で、これが (2.2) である。S は L2 で稠密(Cc∞⊂S と系 1.4)なので、(2.2) により F は定数倍の等長作用素として L2 に一意に拡張される(10-functional-analysis 第1章 命題 1.19)。値域は閉(完備空間からの定数倍の等長写像の値域)で、稠密な S を含むから L2 全体であり、(2π)−n/2F は全射な等長作用素、すなわちユニタリである。f∈L1∩L2 のときは、f1B(0,k) を軟化して fk∈Cc∞ を L1 と L2 の両方で f に収束するようにとる(定理 1.3 (4))。f^k→f^ は一様収束、f^k→Ff は L2 収束だから、部分列をとれば a.e. で f^=Ff。□
L2 の関数については、Ff=limR→∞∫∣x∣<Re−ix⋅ξf(x) dx(L2 での極限)である。L2 上でも F2f=(2π)nfˇ が成り立つ(S からの連続拡張)。
2.5 緩増加超関数
S 上のフーリエ変換は同型なので、双対をとればフーリエ変換を超関数に拡張できる。ただし D′ 全体ではなく、S 上で連続なものに限る。
定義 2.11(緩増加超関数, tempered distribution)線形写像 T:S(Rn)→C で、ある C≥0 と N∈Z≥0 について
∣⟨T,φ⟩∣≤C∣α∣,∣β∣≤N∑pα,β(φ)(φ∈S)
をみたすものを緩増加超関数といい、その全体を S′(Rn) と書く。
Cc∞ は S で稠密で、D での収束は S での収束を導くから、T↦T∣Cc∞ により S′⊂D′(Rn) とみなせる。Tj→T(S′ で)とは、すべての φ∈S で ⟨Tj,φ⟩→⟨T,φ⟩ となることとする。
例 2.12 (1) f∈Lp(1≤p≤∞)は ∣∫fφ∣≤∥f∥p∥φ∥p′≤C∥f∥psup(1+∣x∣)n+1∣φ∣ により S′ に属する。∣f(x)∣≤C(1+∣x∣)N となる可測関数(多項式増大)も同様。(2) ∂αδ∈S′。(3) p.v.x1∈S′(R):∣x∣≤1 と ∣x∣>1 に分けると ∣⟨p.v.x1,φ⟩∣≤2sup∣φ′∣+2sup∣xφ∣。(4) ex∈D′(R) は S′ に属さない。χ∈Cc∞((−1,1))、χ≥0、∫χ=1 とし φj(x)=e−j/2χ(x−j) とおくと、pα,β(φj)≤e−j/2(j+1)αsup∣χ(β)∣→0 だが ∫exφj dx≥ej/2−1→∞。一方 excos(ex)=(sinex)′ は有界関数の導関数なので S′ に属する。緩増加性は関数の大きさだけでは決まらない。
定義 2.13 T∈S′ に対し、微分 ∂αT、多項式との積 xαT、フーリエ変換 T^=FT、逆変換 F−1T を次で定める。
⟨∂αT,φ⟩=(−1)∣α∣⟨T,∂αφ⟩,⟨xαT,φ⟩=⟨T,xαφ⟩,⟨T^,φ⟩=⟨T,φ^⟩,⟨F−1T,φ⟩=⟨T,F−1φ⟩
フーリエ変換の定義は乗法公式(命題 2.2 (3))の一般化であり、f∈L1 や L2 については従来の定義と一致する。より一般に、C∞ 関数 a で各導関数が多項式増大であるものとの積 ⟨aT,φ⟩=⟨T,aφ⟩ も S′ の元を与える。
定理 2.14 F:S′→S′ は全単射で、逆は F−1 である。S′ で Tj→T ならば T^j→T^。さらに ∂αT=(iξ)αT^、xαT=(i∂ξ)αT^、F2T=(2π)nTˇ(⟨Tˇ,φ⟩=⟨T,φˇ⟩)。
証明. 定理 2.7 により F は S 上連続なので、T^ は再び定義 2.11 の評価をみたす。⟨F−1FT,φ⟩=⟨T,FF−1φ⟩=⟨T,φ⟩ で、逆順も同様。収束の主張は定義から明らか。公式は定理 2.7 から従う。たとえば
⟨∂jT,φ⟩=−⟨T,∂jφ^⟩=−⟨T,(−ixj)φ⟩=⟨T^,ixjφ⟩=⟨iξjT^,φ⟩
(最後の式では φ の変数を ξ と書いた)。□
例 2.15 (1) ⟨δ^,φ⟩=φ^(0)=∫φ より δ^=1。(2) 反転公式を x=0 で使うと ⟨1^,φ⟩=∫φ^=(2π)nφ(0)、すなわち 1^=(2π)nδ。(3) 定理 2.14 より ∂αδ=(iξ)α、xα=(2π)ni∣α∣∂αδ、eia⋅x=(2π)nδa。「一点に集中した関数(δ)は全周波数を均等に含み、一つの周波数だけをもつ平面波は δ に変換される」。
例 2.16(符号関数と主値)n=1 とする。(sgnx)′=2δ より iξ sgn=2、すなわち ξ⋅2isgn=1。問題 1.3 により 2isgn=p.v.ξ1+cδ と書ける。ガウス関数 G(ξ)=e−ξ2 と組むと、G^ が偶関数なので ⟨sgn,G⟩=⟨sgn,G^⟩=0、また ⟨p.v.ξ1,G⟩=0 だから c=0。よって
sgn=−2ip.v.ξ1,F(p.v.x1)=−iπsgnξ,H^=πδ−ip.v.ξ1
第 2 式は、第 1 式に F を施して F2sgn=2π(sgn)∨=−2πsgn を使えば得られ、第 3 式は H=21(1+sgn) と例 2.15 による。
命題 2.17 T∈S′、φ∈S ならば T∗φ(x)=⟨T,φ(x−⋅)⟩ は C∞ 級で、各導関数は多項式増大であり、T∗φ=φ^ T^。
証明は命題 1.28 と同様なので省略する。S′ の元の畳み込みが F で積に変わることは、畳み込み型の作用素(ヒルベルト変換、問題 2.6)を調べる基本的な方法である。
2.6 ペイリー–ウィーナーの定理
台がコンパクトな関数のフーリエ変換は、複素変数 ζ∈Cn に対しても φ^(ζ)=∫e−ix⋅ζφ(x) dx として意味をもつ。
定理 2.18(ペイリー–ウィーナーの定理, Paley–Wiener theorem)R>0 とする。
- φ∈Cc∞(Rn)、suppφ⊂B(0,R) ならば、φ^ は Cn 上の整関数に延長され、各 N についてある CN で ∣φ^(ζ)∣≤CN(1+∣ζ∣)−NeR∣Imζ∣ が成り立つ。逆に、この評価をみたす整関数は、台が B(0,R) に含まれる Cc∞ 関数のフーリエ変換である。
- (ペイリー–ウィーナー–シュワルツ)T∈E′(Rn) の台が B(0,R) に含まれるための必要十分条件は、T^ が整関数に延長され、ある C,N で ∣T^(ζ)∣≤C(1+∣ζ∣)NeR∣Imζ∣ をみたすことである。
証明((1) の前半のみ). 積分記号下の微分により φ^ は各変数について正則である。∣e−ix⋅ζ∣=ex⋅Imζ≤eR∣Imζ∣(∣x∣≤R)であり、部分積分により (iζ)αφ^(ζ)=∫e−ix⋅ζ∂αφ(x) dx だから ∣ζαφ^(ζ)∣≤∥∂αφ∥1eR∣Imζ∣。これから評価が従う。残りの証明は Hörmander の第7章を参照。□
特に、0 でない φ∈Cc∞ のフーリエ変換は Rn 上の実解析関数で、空でない開集合上で恒等的に 0 にはならない。関数とそのフーリエ変換の台が同時にコンパクトになることはない。これは不確定性原理(2.8 節)の定性的な形である。
2.7 応用:熱方程式とシュレディンガー方程式
熱方程式. ∂tu=Δu(x∈Rn, t>0)、u(⋅,0)=g∈S を考える。x についてフーリエ変換すると ∂tu^=−∣ξ∣2u^ なので u^(ξ,t)=e−t∣ξ∣2g^(ξ)。(2.1) で a=1/(4t) とすると e−t∣ξ∣2 は熱核 (heat kernel)
Kt(x)=(4πt)−n/2e−∣x∣2/(4t)
のフーリエ変換だから、命題 2.9 より u(⋅,t)=Kt∗g となる(Kt は第1章の熱作用素の基本解 E(⋅,t) にほかならない)。この公式は g が有界連続であれば意味をもつ。
定理 2.19(熱方程式の初期値問題)g を Rn 上の有界連続関数とし、u(x,t)=(Kt∗g)(x) とおく。
- u∈C∞(Rn×(0,∞)) で、∂tu=Δu。
- supx∣u(x,t)∣≤sup∣g∣。
- (x,t)→(x0,0) のとき u(x,t)→g(x0)。
- さらに g∈L1 ならば supx∣u(x,t)∣≤(4πt)−n/2∥g∥1。
証明. (1) (x,t) が Rn×(0,∞) のコンパクト集合を動くとき、Kt(x−y) の x,t についての各導関数は y の多項式とガウス関数 e−c∣y∣2 の積で一様に抑えられるので、積分記号下で微分できる。(∂t−Δ)Kt=0 から ut=Δu。(2) Kt>0、∫Kt=1 による。(4) Kt≤(4πt)−n/2 による。(3) δ>0 とし、∣x−x0∣<δ/2 とする。
∣u(x,t)−g(x0)∣≤∣y−x0∣<δsup∣g(y)−g(x0)∣+2sup∣g∣∫∣z∣≥δ/2Kt(z)dz
(第 2 項は ∣y−x0∣≥δ の部分で、∣x−y∣≥δ/2 を使った)。第 2 項は t→0 で 0 に収束し、第 1 項は δ を小さくすればいくらでも小さい。□
熱方程式の解は三つの際立った性質をもつ。(i) 平滑化:g が連続なだけでも t>0 で u は C∞ 級である。(ii) 無限の伝播速度:g≥0、g≡0 ならば、すべての x と t>0 で u(x,t)>0。(iii) (4) の減衰。なお、増大度の条件なしには初期値問題の解は一意でない(チホノフの例)が、∣u(x,t)∣≤Aea∣x∣2 の範囲では一意である(証明は Evans の第2章を参照)。
シュレディンガー方程式. i∂tu=−Δu、u(⋅,0)=g に同様の計算をすると u^(ξ,t)=e−it∣ξ∣2g^(ξ) を得る。∣e−it∣ξ∣2∣=1 だからプランシュレルの定理より ∥u(t)∥2=∥g∥2(質量保存)であり、熱方程式と違って平滑化も減衰も L2 ノルムでは起こらない。しかし各点の大きさは減衰する。
命題 2.20(シュレディンガー方程式の解の公式と分散評価)g∈S(Rn)、t=0 とし、u(⋅,t)=F−1(e−it∣ξ∣2g^) とおく。このとき
u(x,t)=(4πit)n/21∫Rnei∣x−y∣2/(4t)g(y)dy,xsup∣u(x,t)∣≤(4π∣t∣)−n/2∥g∥1
が成り立つ。ここで (4πit)−n/2=(4π∣t∣)−n/2e−iπnsgn(t)/4 とする。
証明. ε>0 とし、(2.1) を a=4(ε+it)1(Rea>0)に適用すると、e−(ε+it)∣ξ∣2 は kε(x)=(4π(ε+it))−n/2e−∣x∣2/(4(ε+it)) のフーリエ変換である。よって命題 2.9(の S と L1 の場合)から
F−1(e−(ε+it)∣ξ∣2g^)(x)=∫kε(x−y)g(y)dy
ε→0 とする。左辺は優収束定理(g^∈L1)により u(x,t) に収束する。右辺は、∣kε∣≤(4π∣t∣)−n/2(∣ε+it∣≥∣t∣、Rea>0)と各点収束 kε(z)→(4πit)−n/2ei∣z∣2/(4t) から、優収束定理により公式の右辺に収束する。評価は公式から明らか。□
L2 ノルムは保たれるのに各点の値が ∣t∣−n/2 で減衰するのは、周波数の異なる波が異なる速さで進み、解が空間に広がる(分散)からである(問題 2.5)。この分散評価は第5章のストリッカーツ評価の出発点になる。
2.8 不確定性原理
定理 2.21(ハイゼンベルクの不確定性原理)f∈S(R)、f=0 ならば
∥f∥2∥xf∥2⋅∥f^∥2∥ξf^∥2≥21
であり、等号は f(x)=Ce−ax2(C∈C, a>0)のとき、かつそのときに限り成り立つ。
証明. dxd∣f∣2=2Re(f′fˉ) と部分積分(f は急減少)、コーシー–シュワルツの不等式により
∥f∥22=∫∣f∣2dx=−∫xdxd∣f∣2dx=−2Re∫xff′dx≤2∥xf∥2∥f′∥2
プランシュレルの定理と f′=iξf^ から ∥f′∥2=(2π)−1/2∥ξf^∥2、∥f∥2=(2π)−1/2∥f^∥2。代入すれば不等式を得る。等号成立にはコーシー–シュワルツの等号条件 f′=λxf(λ∈C)と −Reλ=∣λ∣ が必要で、λ=−2a(a≥0)となる。f′=−2axf を解くと f=Ce−ax2 で、f∈S より a>0。逆にガウス関数で等号が成り立つことは直接計算で確かめられる。□
∣f∣2/∥f∥22 と ∣f^∣2/∥f^∥22 を確率密度とみると、左辺は位置と周波数の広がり(原点のまわりの標準偏差)の積である。関数を空間的に集中させると周波数が広がり、その逆も成り立つ。量子力学ではこれが位置と運動量の不確定性関係になる。n 次元でも各座標について ∥xjf∥2∥ξjf^∥2≥21∥f∥2∥f^∥2 が同様に成り立つ。
まとめ
- 本科目のフーリエ変換は f^(ξ)=∫e−ix⋅ξf(x) dx で、∂jf=iξjf^、反転公式の係数は (2π)−n、∥f^∥2=(2π)n/2∥f∥2。
- L1 の関数のフーリエ変換は C0 に属する(リーマン–ルベーグ)。畳み込みは積に、平行移動は位相因子に変わる。
- 急減少関数の空間 S では微分と多項式の掛け算が入れ替わり、F は S の同型である(反転公式)。F は L2 上の(定数倍の)ユニタリ作用素に拡張される(プランシュレル)。
- 緩増加超関数 S′ のフーリエ変換は双対で定義され、δ^=1、1^=(2π)nδ、F(p.v.x1)=−iπsgnξ。
- 台がコンパクトな関数のフーリエ変換は指数型の整関数である(ペイリー–ウィーナー)。
- 熱方程式の解は Kt∗g で与えられ、平滑化・無限の伝播速度・減衰を示す。シュレディンガー方程式の解は L2 ノルムを保ちつつ、∣t∣−n/2 で各点減衰する(分散)。
- 関数とそのフーリエ変換を同時に集中させることはできない(不確定性原理)。
演習問題
問題 2.1 ★ n=1 で e−∣x∣(ξ)=1+ξ22 を示し、反転公式から ∫R1+ξ2cos(xξ) dξ=πe−∣x∣ を導け。
解答
∫0∞e−xe−ixξdx=1+iξ1、∫−∞0exe−ixξdx=1−iξ1 で、和は 1+ξ22。これは可積分なので、反転公式(f,f^∈L1 の場合。f は連続なのですべての x で成り立つ)から e−∣x∣=2π1∫eixξ1+ξ22dξ。虚部は奇関数の積分で 0 なので、∫1+ξ2cos(xξ)dξ=πe−∣x∣。
問題 2.2 ★ プランシュレルの定理を用いて ∫Rx2sin2x dx=π を示せ。
解答
例 2.4 より F1[−1,1]=ξ2sinξ(1[−1,1]∈L1∩L2 なので定理 2.10 の L2 の意味でも同じ)。∥Ff∥22=2π∥f∥22 から ∫ξ24sin2ξdξ=2π⋅2、よって ∫ξ2sin2ξdξ=π。
問題 2.3 ★★ u∈S′(Rn) が Δu=0 をみたすならば u は多項式であることを示せ。これから、Rn 上の有界な調和関数は定数であること(リウヴィルの定理)を導け。
解答
Δu=−∣ξ∣2u^=0。φ∈Cc∞(Rn∖{0}) ならば φ/∣ξ∣2∈Cc∞ なので ⟨u^,φ⟩=⟨∣ξ∣2u^,φ/∣ξ∣2⟩=0。よって suppu^⊂{0} で、定理 1.25 から u^=∑∣α∣≤mcα∂αδ。⟨F−1∂αδ,φ⟩=(−1)∣α∣∂α(F−1φ)(0)=(2π)−n∫(−ix)αφ(x) dx だから F−1(∂αδ)=(2π)−n(−ix)α であり、u は多項式である。有界な調和関数は S′ に属する(例 2.12)ので多項式であり、有界な多項式は定数である。
問題 2.4 ★★ 熱核について (1) Kt∗Ks=Kt+s、(2) ∥∂jKt∥1=(πt)−1/2 を示せ。(2) から、定理 2.19 の解が supx∣∂ju(x,t)∣≤(πt)−1/2sup∣g∣ をみたすことを導け。
解答
(1) 両辺のフーリエ変換は e−t∣ξ∣2e−s∣ξ∣2=e−(t+s)∣ξ∣2 で一致し、L1 の関数はフーリエ変換で決まる(定理 2.8 の後の注意)。
(2) ∂jKt(x)=−2txjKt(x)。Kt は各座標が平均 0・分散 2t の正規分布の密度の積なので、∫∣xj∣Kt dx=2⋅2t/π=2t/π。よって ∥∂jKt∥1=2t1⋅2t/π=(πt)−1/2。∂ju=(∂jKt)∗g(積分記号下の微分)だから ∣∂ju∣≤∥∂jKt∥1sup∣g∣。t→0 で導関数の評価が悪くなる速さ t−1/2 は、放物型のスケーリング x∼t を反映している。
問題 2.5 ★★ g(x)=e−∣x∣2/2 を初期値とするシュレディンガー方程式 i∂tu=−Δu の解は ∣u(x,t)∣=(1+4t2)−n/4e−∣x∣2/(2(1+4t2)) をみたすことを示し、分散評価(命題 2.20)と比較せよ。
解答
(2.1) より g^=(2π)n/2e−∣ξ∣2/2、u^=(2π)n/2e−b∣ξ∣2(b=21+it)。再び (2.1)(a=4b1)から e−b∣ξ∣2 は (4πb)−n/2e−∣x∣2/(4b) のフーリエ変換なので、u=(2π)n/2(4πb)−n/2e−∣x∣2/(4b)=(1+2it)−n/2e−∣x∣2/(2(1+2it))。∣1+2it∣=(1+4t2)1/2、Re1+2it1=1+4t21 から主張を得る。sup∣u∣=(1+4t2)−n/4∼(2∣t∣)−n/2 は、∥g∥1=(2π)n/2 に対する分散評価の右辺 (4π∣t∣)−n/2(2π)n/2=(2∣t∣)−n/2 と t→∞ で漸近的に一致する。解の幅は (1+4t2)1/2 に比例して広がる。
問題 2.6 ★★★(ヒルベルト変換)f∈S(R) に対し Hf=π1p.v.x1∗f とおく。(1) Hf=−isgn(ξ)f^ を示し、H が L2(R) 上のユニタリ作用素に拡張され H2=−I となることを示せ。(2) H(1+x21)=1+x2x を示せ。
解答
(1) 命題 2.17 と例 2.16 より Hf=π1f^⋅(−iπsgnξ)=−isgn(ξ)f^。∣−isgnξ∣=1(a.e.)なので、プランシュレルの定理から ∥Hf∥2=∥f∥2 となり、H は L2 上の等長作用素 F−1MF(M は −isgnξ を掛ける作用素)に拡張される。M2=−I で M はユニタリだから、H2=−I で H はユニタリ。
(2) 問題 2.1 に F2=2π(⋅)∨ を使うと F(1+x21)=πe−∣ξ∣。L2 上の H は (1) の乗数で与えられるので Hf=−iπsgn(ξ)e−∣ξ∣。一方、定理 2.14 と跳びの公式(e−∣ξ∣ は連続)から F(1+x2x)=i∂ξ(πe−∣ξ∣)=−iπsgn(ξ)e−∣ξ∣。F の単射性から主張を得る。1+x21 と 1+x2x は上半平面の正則関数 z+ii の実軸上の実部と虚部であり、ヒルベルト変換は境界値の実部から虚部を与える作用素である。