この章の目標
- ノルム空間・バナッハ空間を定義し、ℓp, c0, C(K), Lp, Ck などの基本例の完備性を証明できる
- 絶対収束級数による完備性の判定法を証明し、使いこなせる
- 有界線形作用素と作用素ノルムを扱い、B(X,Y) の完備性を証明できる
- 有限次元ではすべてのノルムが同値であること、無限次元では閉単位球がコンパクトでないことを証明し、両者の違いを具体例で説明できる
- 商空間とノイマン級数を使って作用素の可逆性を議論できる
前提:02-linear-algebra 第3章、03-topology 第1章・第5章・第7章、06-measure-integration 第4章
1.1 なぜ無限次元の線形代数か
次の積分方程式を考えよう。k(s,t) は [0,1]2 上の連続関数、f は [0,1] 上の連続関数で、未知関数 u を求めたい。
u(s)−∫01k(s,t)u(t)dt=f(s)(0≤s≤1)
区間を n 等分して積分をリーマン和で近似すれば、これは n 元連立一次方程式 (I−An)u=f になる。n→∞ の極限で元の方程式を理解するには、次の問いに答えなければならない。
- 関数(無限個の成分をもつベクトル)の「大きさ」や「近さ」をどう測るか。
- 近似解の列が「収束しそうに見える」とき、極限は本当に存在するか。
- 積分作用素 Ku(s)=∫01k(s,t)u(t) dt は行列のように振る舞うか。
1 の答えがノルム、2 の答えが完備性、3 の答えが有界線形作用素の理論である。有限次元の線形代数では 1〜3 はほとんど自明だった(どのノルムも同値で、すべての空間は完備で、すべての線形写像は連続)。無限次元ではそうはいかない。本章では、この違いを具体例で確かめながら関数解析の舞台を用意する。
1.2 ノルム空間とバナッハ空間
以下、K は R または C を表す。
定義 1.1(ノルム, norm)X を K 上のベクトル空間とする。写像 ∥⋅∥:X→[0,∞) が次を満たすとき、X 上のノルムという。
- (N1) ∥x∥=0⇔x=0
- (N2) ∥αx∥=∣α∣∥x∥ (α∈K, x∈X)
- (N3) ∥x+y∥≤∥x∥+∥y∥ (三角不等式)
(N1) の「⇒」を仮定しないものを半ノルム (seminorm) という。ノルムを備えたベクトル空間をノルム空間 (normed space) という。
ノルム空間は d(x,y)=∥x−y∥ により距離空間になり、収束・開集合・閉集合・完備性などの概念がすべて使える。三角不等式から ∣∥x∥−∥y∥∣≤∥x−y∥ が従うので、ノルムは連続関数である。また加法 (x,y)↦x+y とスカラー倍 (α,x)↦αx も連続である。閉単位球を BX={x∈X∣∥x∥≤1} と書く。
定義 1.2(バナッハ空間, Banach space)完備なノルム空間をバナッハ空間という。同じベクトル空間上の 2 つのノルム ∥⋅∥1,∥⋅∥2 が同値 (equivalent) であるとは、定数 c,C>0 があって、すべての x に対し c∥x∥1≤∥x∥2≤C∥x∥1 となることをいう。
同値なノルムは同じ収束列・同じ開集合・同じコーシー列を与える。したがって、一方で完備なら他方でも完備である。
例 1.3 Kn 上で、1≤p<∞ に対し ∥x∥p=(∑j=1n∣xj∣p)1/p、また ∥x∥∞=maxj∣xj∣ はノルムである(p ノルムの三角不等式はミンコフスキーの不等式であり、06-measure-integration 第4章 で数え上げ測度の場合として示されている)。単位球の形は p によって異なる(p=1 は正軸体、p=2 は球、p=∞ は立方体)が、定理 1.20 で見るとおり、これらはすべて同値である。
命題 1.4 バナッハ空間 X の部分空間 M について、M が(X のノルムの制限で)バナッハ空間であることと、M が X の閉集合であることは同値である。
証明. 完備距離空間の閉集合は完備である。逆に M が完備で xn∈M, xn→x∈X ならば、(xn) は M のコーシー列なので M の中に極限 y をもち、極限の一意性から x=y∈M である。□
1.3 数列空間
無限次元の最も素朴な例は数列の空間である。数列 x=(xn)n∈N (xn∈K) に対し次のように定める。
| 空間 |
定義 |
ノルム |
| ℓp (1≤p<∞) |
∑n∣xn∣p<∞ |
∥x∥p=(∑n∣xn∣p)1/p |
| ℓ∞ |
supn∣xn∣<∞ |
∥x∥∞=supn∣xn∣ |
| c |
収束列 |
∥x∥∞ |
| c0 |
xn→0 となる数列 |
∥x∥∞ |
| c00 |
有限個を除いて xn=0 |
文脈による |
ℓp の三角不等式は、有限和のミンコフスキーの不等式 (∑n=1N∣xn+yn∣p)1/p≤∥x∥p+∥y∥p で N→∞ とすれば得られる。同様に、1/p+1/q=1 (p=1 なら q=∞)のときヘルダーの不等式 ∑n∣xnyn∣≤∥x∥p∥y∥q が成り立つ。en で第 n 成分だけが 1 で他が 0 の数列を表す。包含関係 c00⊂ℓp⊂c0⊂c⊂ℓ∞ がある(ℓp⊂c0 は級数の項が 0 に収束することから)。
定理 1.5 1≤p≤∞ に対し、ℓp はバナッハ空間である。
証明. 1≤p<∞ の場合を示す。(x(k))k∈N を ℓp のコーシー列とする(各 x(k)=(xn(k))n は数列である)。
ステップ 1(極限の候補). 各 n について ∣xn(k)−xn(l)∣≤∥x(k)−x(l)∥p なので、(xn(k))k は K のコーシー列であり、極限 xn:=limkxn(k) が存在する。x=(xn)n とおく。
ステップ 2(評価). ε>0 に対し N を、k,l≥N ならば ∥x(k)−x(l)∥p<ε となるようにとる。任意の M∈N について
n=1∑M∣xn(k)−xn(l)∣p<εp(k,l≥N)
であり、有限和なので l→∞ の極限をとれて ∑n=1M∣xn(k)−xn∣p≤εp を得る。M は任意なので ∑n=1∞∣xn(k)−xn∣p≤εp (k≥N)。
ステップ 3(所属と収束). ステップ 2 から x(N)−x∈ℓp なので、x=x(N)−(x(N)−x)∈ℓp。さらに k≥N で ∥x(k)−x∥p≤ε だから、x(k)→x である。
p=∞ の場合は、ステップ 2 で ∣xn(k)−xn(l)∣<ε (すべての n)から l→∞ として ∣xn(k)−xn∣≤ε を得て、同様に議論すればよい。□
ヒント
完備性の証明は、ほとんどいつも「①各点(各成分)の極限で候補を作る → ②コーシー性の不等式で極限をとって評価する → ③候補が空間に属し、ノルムで収束することを示す」の 3 段階である。②で「先に有限和で極限をとる」のが要点である。
命題 1.6 c0 は ℓ∞ の閉部分空間であり、したがってバナッハ空間である。
証明. x(k)∈c0 が ℓ∞ で x に収束したとする。ε>0 に対し ∥x(k)−x∥∞<ε/2 となる k を 1 つ固定し、n≥N ならば ∣xn(k)∣<ε/2 となる N をとる。すると n≥N で ∣xn∣≤∣xn−xn(k)∣+∣xn(k)∣<ε。よって x∈c0 であり、命題 1.4 から c0 はバナッハ空間である。□
例 1.7(完備でないノルム空間)c00 に ℓ2 ノルムを入れる。x(k)=(1,1/2,…,1/k,0,0,…)∈c00 は ℓ2 で x=(1/n)n に収束する(∥x(k)−x∥22=∑n>k1/n2→0)。x∈/c00 なので c00 は ℓ2 の閉集合でなく、命題 1.4 により完備でない。実際、c00 は ℓp (p<∞)の中で稠密である(問題 1.3)。
1.4 関数空間
定理 1.8 K をコンパクト・ハウスドルフ空間とし、C(K) を K 上の K 値連続関数全体とする。一様ノルム (sup norm) ∥f∥∞=maxx∈K∣f(x)∣ により C(K) はバナッハ空間である。
証明. ∣f∣ は K 上で最大値をとるので ∥f∥∞<∞ であり、ノルムの公理は明らかである。(fn) をコーシー列とする。各 x で ∣fn(x)−fm(x)∣≤∥fn−fm∥∞ なので f(x):=limnfn(x) が存在する。ε>0 に対し n,m≥N で ∥fn−fm∥∞<ε とすると、m→∞ として ∣fn(x)−f(x)∣≤ε (すべての x, n≥N)。つまり fn→f は一様収束である。
f の連続性を示す。x0∈K を固定する。∣fN(x)−f(x)∣≤ε (すべての x)で、fN は x0 で連続なので、x0 の近傍 U があって x∈U ならば ∣fN(x)−fN(x0)∣<ε。すると x∈U で
∣f(x)−f(x0)∣≤∣f(x)−fN(x)∣+∣fN(x)−fN(x0)∣+∣fN(x0)−f(x0)∣<3ε
したがって f∈C(K) であり、∥fn−f∥∞≤ε (n≥N)より fn→f である。□
C(K) のノルム収束は一様収束にほかならない。そのほかの基本的なバナッハ空間を挙げる。
例 1.9
- Ck[a,b]:[a,b] 上の k 回連続微分可能な関数全体に、ノルム ∥f∥Ck=∑j=0k∥f(j)∥∞ を入れたものはバナッハ空間である(k=1 の場合が問題 1.4)。
- Lp(Ω,μ) (1≤p≤∞):測度空間 (Ω,μ) 上の p 乗可積分関数(ほとんど至るところ等しいものを同一視した同値類)の空間はバナッハ空間である(リース–フィッシャーの定理、06-measure-integration 第4章)。数え上げ測度をとれば ℓp が得られる。
- 有界関数の空間:集合 S 上の有界関数全体 ℓ∞(S) は一様ノルムでバナッハ空間である(定理 1.8 の証明の前半と同じ)。
例 1.10(同じ空間でも、ノルムによって完備性が変わる)C[0,1] に L1 ノルム ∥f∥1=∫01∣f(t)∣ dt を入れる。
fn(t)=⎩⎨⎧0n(t−1/2)1(0≤t≤1/2)(1/2≤t≤1/2+1/n)(1/2+1/n≤t≤1)
とおくと、m≥n のとき fn と fm は長さ 1/n の区間の外で一致し、差の絶対値は 1 以下なので ∥fn−fm∥1≤1/n。よって (fn) はコーシー列である。もし連続関数 f に L1 収束したとすると、∫01/2∣f∣ dt≤∥f−fn∥1→0 から [0,1/2] 上で f=0、また各 δ>0 について n>1/δ ならば ∫1/2+δ1∣f−1∣ dt≤∥f−fn∥1→0 から (1/2,1] 上で f=1 となり、t=1/2 での連続性に反する。よって (C[0,1],∥⋅∥1) は完備でない(その完備化は L1[0,1] である)。一方、一様ノルムでは完備だった(定理 1.8)。したがって、この 2 つのノルムは同値でない。
1.5 完備性の判定:絶対収束級数
実数の級数では「絶対収束すれば収束する」。これはノルム空間では完備性と同値になる。
定義 1.11 ノルム空間 X の点列 (xn) について、部分和 sN=∑n=1Nxn が収束するとき級数 ∑xn は収束するといい、∑n=1∞∥xn∥<∞ のとき絶対収束する (absolutely convergent) という。
定理 1.12 ノルム空間 X について、次は同値である。
- X はバナッハ空間である。
- X の絶対収束する級数はすべて収束する。
証明. (1 ⇒ 2) ∑∥xn∥<∞ とする。m>n のとき ∥sm−sn∥≤∑k=n+1m∥xk∥ であり、右辺は n→∞ で 0 に近づくから (sn) はコーシー列で、収束する。
(2 ⇒ 1) (yn) をコーシー列とする。n1<n2<⋯ を、m,l≥nk ならば ∥ym−yl∥<2−k となるようにとる。x1=yn1, xk+1=ynk+1−ynk とおくと ∥xk+1∥<2−k なので ∑k∥xk∥<∞。仮定から ∑kxk は収束する。その部分和は ∑j=1kxj=ynk だから、部分列 (ynk) が収束する。部分列が収束するコーシー列は収束する(同じ極限に)ので、(yn) は収束する。□
例 1.13 c00 に ℓ1 ノルムを入れると、∑n2−nen は絶対収束する(∑n∥2−nen∥1=1)が、c00 の中では収束しない(ℓ1 での極限 (2−n)n が c00 に属さない)。定理 1.12 により c00 は ℓ1 ノルムで完備でない。
定理 1.12 は、完備性を「コーシー列」ではなく「級数」で確かめる道具である。Lp の完備性(06-measure-integration 第4章)、商空間の完備性(命題 1.25)、ノイマン級数(定理 1.27)、開写像定理(第3章)で使われる。
1.6 有界線形作用素
ノルム空間の間の線形写像を作用素 (operator) ともよぶ。有限次元では線形写像は自動的に連続だが、無限次元ではそうでない(例 1.17)。
定義 1.14(有界作用素, bounded operator)X,Y をノルム空間とする。線形写像 T:X→Y が有界であるとは、定数 C≥0 があって、すべての x∈X で ∥Tx∥≤C∥x∥ となることをいう。有界線形作用素全体を B(X,Y) と書き、B(X)=B(X,X) とする。T∈B(X,Y) の作用素ノルム (operator norm) を
∥T∥=x=0sup∥x∥∥Tx∥=∥x∥≤1sup∥Tx∥
と定める。Y=K のとき、X∗=B(X,K) を X の双対空間 (dual space) といい、その元を連続線形汎関数 (continuous linear functional) という。
「有界」は「有界集合を有界集合に写す」という意味であり、関数として値が有界という意味ではない(T=0 なら ∥T(nx)∥=n∥Tx∥ は非有界)。定義から ∥Tx∥≤∥T∥∥x∥、また S∈B(Y,Z) に対し ∥ST∥≤∥S∥∥T∥ である。作用素ノルムは B(X,Y) 上のノルムになる。
定理 1.15 線形写像 T:X→Y について、次は同値である。(a) T は連続。(b) T は 0 で連続。(c) T は有界。
証明. (a ⇒ b) は明らか。(b ⇒ c) 0 での連続性から δ>0 があって ∥x∥≤δ ならば ∥Tx∥≤1。x=0 に対し δx/∥x∥ に適用すると ∥Tx∥≤δ−1∥x∥。(c ⇒ a) ∥Tx−Ty∥≤C∥x−y∥ なので T はリプシッツ連続である。□
例 1.16(基本的な有界作用素)以下、1≤p≤∞ とする。
- シフト作用素 (shift operator)。ℓp 上の右シフト S(x1,x2,…)=(0,x1,x2,…) と左シフト L(x1,x2,…)=(x2,x3,…) を考える。∥Sx∥p=∥x∥p (等長)なので ∥S∥=1、また ∥Lx∥p≤∥x∥p と Le2=e1 から ∥L∥=1。LS=I だが SL(x1,x2,…)=(0,x2,x3,…) なので SL=I である。S は単射だが全射でなく(e1∈/RanS)、L は全射だが単射でない(Le1=0)。
- 掛け算作用素 (multiplication operator)。a∈ℓ∞ に対し Max=(anxn)n は ℓp 上の有界作用素で ∥Ma∥=∥a∥∞ (問題 1.2)。同様に φ∈L∞(Ω,μ) に対し Lp(Ω,μ) 上の Mφf=φf は ∥Mφ∥≤∥φ∥∞ を満たす。
- 積分作用素 (integral operator)。k∈C([0,1]2) に対し (Kf)(s)=∫01k(s,t)f(t) dt とおく。k の一様連続性から Kf∈C[0,1] であり、∥Kf∥∞≤(maxs∫01∣k(s,t)∣ dt)∥f∥∞。実はここで等号が成り立つ:∥K∥=maxs∫01∣k(s,t)∣ dt (問題 1.5)。特にヴォルテラ作用素 (Volterra operator) (Vf)(s)=∫0sf(t) dt は C[0,1] 上で ∥V∥=1 を満たす(∥Vf∥∞≤∥f∥∞ で、f=1 で等号)。
注意
有限次元では、正方行列について AB=I ならば BA=I であり、単射・全射・全単射は同値だった(次元定理)。無限次元ではこれが崩れる:例 1.16 のシフトは LS=I, SL=I を満たす。「左逆をもつ」ことと「可逆である」ことを区別しなければならない。
例 1.17(非有界作用素)
- 微分作用素。D=d/dt:C1[0,1]→C[0,1] を考え、両側に一様ノルムを入れる。fn(t)=tn は ∥fn∥∞=1, ∥Dfn∥∞=n を満たすので D は有界でない。ただし定義域に C1 ノルム ∥f∥∞+∥f′∥∞ を入れれば ∥Df∥∞≤∥f∥C1 となり有界である。有界性はノルムの選び方に依存する。微分作用素のような非有界作用素は第7章で扱う。
- 非有界な線形汎関数。c00 に一様ノルムを入れ、f(x)=∑nnxn (有限和)とおくと、f は線形で ∣f(en)∣=n, ∥en∥∞=1 だから非有界である。実は、無限次元のノルム空間には必ず非有界な線形汎関数が存在する(問題 1.8、選択公理を使う)。
定理 1.18 X をノルム空間、Y をバナッハ空間とすると、B(X,Y) は作用素ノルムによりバナッハ空間である。特に、双対空間 X∗ は(X が完備でなくても)常にバナッハ空間である。
証明. (Tn) を B(X,Y) のコーシー列とする。各 x∈X について ∥Tnx−Tmx∥≤∥Tn−Tm∥∥x∥ なので (Tnx) は Y のコーシー列であり、Y の完備性から Tx:=limnTnx が存在する。極限の線形性から T は線形である。ε>0 に対し n,m≥N で ∥Tn−Tm∥<ε とすると、すべての x で ∥Tnx−Tmx∥≤ε∥x∥。m→∞ として ∥Tnx−Tx∥≤ε∥x∥ (n≥N)。よって TN−T は有界で、T=TN−(TN−T)∈B(X,Y)。さらに ∥Tn−T∥≤ε (n≥N)なので Tn→T である。□
次の命題は、稠密な部分空間の上で定義した有界作用素を全体に拡張する標準的な方法である(例えば L2 上のフーリエ変換の定義に使われる)。
命題 1.19(有界作用素の拡張)X をノルム空間、D⊂X を稠密な部分空間、Y をバナッハ空間とする。T:D→Y が線形で ∥Tx∥≤C∥x∥ (x∈D)を満たすならば、T の拡張 T~∈B(X,Y) で ∥T~∥=∥T∥ となるものがただ一つ存在する。
証明. x∈X に対し xn∈D, xn→x をとる。∥Txn−Txm∥≤C∥xn−xm∥ より (Txn) はコーシー列で極限をもつ。別の列 xn′→x をとっても ∥Txn−Txn′∥≤C∥xn−xn′∥→0 なので極限は同じであり、T~x:=limTxn は well-defined である。線形性と ∥T~x∥=lim∥Txn∥≤∥T∥∥x∥ は極限操作から従う。一意性は、連続写像が稠密集合上の値で決まることから従う。□
1.7 有限次元ノルム空間
定理 1.20 有限次元ベクトル空間 X 上のノルムはすべて同値である。
証明. 基底 e1,…,en を固定し、x=∑jξjej に対し ∥x∥1:=∑j∣ξj∣ とおく(これはノルムである)。任意のノルム ∥⋅∥ が ∥⋅∥1 と同値であることを示せばよい(同値性は同値関係なので)。
上からの評価:M=maxj∥ej∥ とおくと ∥x∥≤∑j∣ξj∣∥ej∥≤M∥x∥1。
下からの評価:関数 ϕ(ξ)=∥∑jξjej∥ を Kn 上で考える。上の評価から ∣ϕ(ξ)−ϕ(η)∣≤M∑j∣ξj−ηj∣ なので ϕ は連続である。集合 Σ={ξ∈Kn∣∑j∣ξj∣=1} は Kn の有界閉集合なのでコンパクトであり(ハイネ–ボレルの定理)、ϕ は Σ 上で最小値 c をとる。ej の一次独立性から ξ∈Σ ならば ∑jξjej=0 なので c>0。x=0 に x/∥x∥1 (座標が Σ に属する)を考えると ∥x∥≥c∥x∥1。□
系 1.21 有限次元ノルム空間について次が成り立つ。
- 有限次元ノルム空間は完備である。
- 任意のノルム空間の有限次元部分空間は閉集合である。
- 有限次元ノルム空間から任意のノルム空間への線形写像は有界である。
- 有限次元ノルム空間の有界閉集合はコンパクトである。
証明. 定理 1.20 の記号を使う。(1) ∥⋅∥ でのコーシー列は ∥⋅∥1 でもコーシー列であり、座標ごとにコーシー列になるので K の完備性から収束する。(2) (1) と命題 1.4 の証明の後半(完備な部分集合は閉)による。(3) ∥Tx∥≤∑j∣ξj∣∥Tej∥≤maxj∥Tej∥⋅c−1∥x∥。(4) 座標写像 X→Kn は両方向に有界な線形写像(同相写像)であり、有界閉集合を有界閉集合に写すので、ハイネ–ボレルの定理に帰着する。□
無限次元では、系の各項目がすべて破れる。(1) は例 1.7、(2) は c00⊂ℓ2、(3) は例 1.17 が反例である。(4) が破れることが次節の主題である。
1.8 リースの補題と単位球のコンパクト性
補題 1.22(リースの補題, Riesz's lemma)X をノルム空間、M⊊X を閉部分空間、0<θ<1 とする。このとき ∥x∥=1 かつ d(x,M):=infm∈M∥x−m∥≥θ を満たす x∈X が存在する。
証明. x0∈X∖M をとる。M は閉なので d:=d(x0,M)>0。d/θ>d だから、∥x0−m0∥≤d/θ となる m0∈M がある。x=(x0−m0)/∥x0−m0∥ とおけば ∥x∥=1 で、任意の m∈M について m0+∥x0−m0∥m∈M だから
∥x−m∥=∥x0−m0∥x0−(m0+∥x0−m0∥m)≥d/θd=θ
□
有限次元なら単位球面上の点と M の距離を最大化すれば θ=1 にできる。ヒルベルト空間では直交補空間の単位ベクトルをとれば θ=1 にできる(第2章)。一般のバナッハ空間では θ=1 にできるとは限らない。
定理 1.23(リース)ノルム空間 X について、閉単位球 BX がコンパクトであるための必要十分条件は dimX<∞ である。
証明. dimX<∞ ならば系 1.21 (4) による。dimX=∞ とする。単位ベクトルの列 x1,x2,… で ∥xn−xm∥≥1/2 (n=m)となるものを帰納的に作る。x1 は任意の単位ベクトルとする。x1,…,xn まで作ったとき、Mn=span{x1,…,xn} は有限次元なので閉(系 1.21 (2))であり、X が無限次元なので Mn=X。リースの補題(θ=1/2)から ∥xn+1∥=1, d(xn+1,Mn)≥1/2 となる xn+1 がとれる。こうして得た (xn) は BX の点列で、どの部分列もコーシー列でないから収束部分列をもたない。距離空間ではコンパクト性と点列コンパクト性は同値なので(03-topology 第5章)、BX はコンパクトでない。□
例 1.24 具体的な空間では、互いに離れた単位ベクトルの列が目に見える。
- ℓp (1≤p<∞):∥en−em∥p=21/p (n=m)。c0, ℓ∞ では ∥en−em∥∞=1。
- C[0,1]:「山形関数」gn (区間 [2−n,2−n+1] の中点で値 1、区間外で 0、区分的に一次)は gn=0 となる集合が互いに交わらないので、∥gn−gm∥∞=1。
- L2[0,2π]:un(t)=eint/2π は ∥un−um∥2=2 (第2章)。
補足
定理 1.23 から、無限次元ノルム空間のコンパクト集合は内点をもたない(内点をもてば、平行移動と拡大で閉単位球がコンパクト集合の閉部分集合になってしまう)。有限次元の解析で頼りにしていたボルツァノ–ワイエルシュトラスの定理が使えないことは、関数解析の最大の困難である。これを補う方法が、コンパクト作用素(第5章)と弱位相(第4章)である。
1.9 商空間
M をノルム空間 X の部分空間とし、商ベクトル空間 X/M の元を [x]=x+M と書く(02-linear-algebra 第3章)。
命題 1.25(商ノルム, quotient norm)M を X の閉部分空間とし、∥[x]∥:=infm∈M∥x−m∥=d(x,M) とおく。
- これは X/M 上のノルムである。
- 商写像 π:X→X/M は ∥π(x)∥≤∥x∥ を満たし、X の開単位球を X/M の開単位球の上へ写す。
- X がバナッハ空間ならば X/M もバナッハ空間である。
証明. (1) ∥[x]∥ は代表元のとり方によらない。∥[x]∥=0 ならば x∈M=M なので [x]=0(ここで M が閉であることを使う)。α=0 なら αM=M より d(αx,M)=∣α∣d(x,M)。三角不等式は ∥x+y−(m+m′)∥≤∥x−m∥+∥y−m′∥ で m,m′∈M について下限をとればよい。
(2) m=0 とすれば ∥[x]∥≤∥x∥。∥[x]∥<1 ならば ∥x−m∥<1 となる m∈M があり、π(x−m)=[x]。
(3) 定理 1.12 を使う。∑n∥[xn]∥<∞ とする。代表元を ∥xn∥≤∥[xn]∥+2−n となるように選び直すと ∑n∥xn∥<∞ なので、X の完備性から ∑nxn はある x に収束する。すると (2) から ∥[x]−∑n=1N[xn]∥≤∥x−∑n=1Nxn∥→0。よって X/M の絶対収束級数は収束し、X/M は完備である。□
M が閉でないと、x∈M∖M に対し ∥[x]∥=0, [x]=0 となり、半ノルムしか得られない。また、T∈B(X,Y) が M⊂kerT を満たせば、T~[x]:=Tx で定まる T~:X/M→Y は有界で ∥T~∥=∥T∥ である(∥Tx∥=∥T(x−m)∥≤∥T∥∥x−m∥ で下限をとる)。
例 1.26 ℓ∞/c0 の商ノルムは ∥[x]∥=limsupn→∞∣xn∣ で与えられる(問題 1.10)。「有限個の成分を無視した大きさ」が商ノルムである。
1.10 ノイマン級数と可逆作用素
T∈B(X,Y) が可逆 (invertible) であるとは、T が全単射で逆写像 T−1 も有界であることをいう。第3章の有界逆写像定理により、X,Y がバナッハ空間なら全単射であるだけで逆写像は自動的に有界になる。
実数の等比級数 1/(1−t)=∑n≥0tn (∣t∣<1)の作用素版が次の定理である。
定理 1.27(ノイマン級数, Neumann series)X をバナッハ空間、T∈B(X) とし、∑n=0∞∥Tn∥<∞ (例えば ∥T∥<1)と仮定する。このとき I−T は可逆で
(I−T)−1=n=0∑∞Tn(B(X) のノルムで収束)
である。特に ∥T∥<1 ならば ∥(I−T)−1∥≤1/(1−∥T∥)。
証明. 定理 1.18 より B(X) はバナッハ空間なので、定理 1.12 から絶対収束級数 ∑Tn はある R∈B(X) に収束する。部分和 RN=∑n=0NTn について (I−T)RN=RN(I−T)=I−TN+1 であり、収束級数の項は 0 に近づくから ∥TN+1∥→0。N→∞ として (I−T)R=R(I−T)=I を得る。∥T∥<1 のときは ∥R∥≤∑n∥T∥n=1/(1−∥T∥)。□
例 1.28(ヴォルテラ型積分方程式)Δ={(s,t)∣0≤t≤s≤1} 上の連続関数 k で ∣k∣≤M となるものをとり、C[0,1] 上の作用素 (Ku)(s)=∫0sk(s,t)u(t) dt を考える(k の一様連続性から Ku は連続)。帰納法により
∣(Knu)(s)∣≤n!Mnsn∥u∥∞
が成り立つ。実際、n で成り立てば ∣(Kn+1u)(s)∣≤∫0sM⋅n!Mntn∥u∥∞ dt=(n+1)!Mn+1sn+1∥u∥∞。したがって任意の λ∈K に対し ∑n∥(λK)n∥≤∑n(∣λ∣M)n/n!=e∣λ∣M<∞ であり、定理 1.27 から方程式
u(s)−λ∫0sk(s,t)u(t)dt=f(s)
はすべての λ と f∈C[0,1] に対してただ一つの解 u=∑nλnKnf をもち、解は f に連続に依存する。∥λK∥<1 とは限らない λ でも使えることに注意する。積分の上端が s でなく 1 のフレドホルム型の方程式では、一般の λ に対してこの議論は使えず、第5章のフレドホルム理論が必要になる。
定理 1.29(可逆作用素の集合は開集合)X,Y をバナッハ空間とし、可逆な作用素全体を G(X,Y)⊂B(X,Y) とする。T∈G(X,Y) かつ ∥S−T∥<1/∥T−1∥ ならば S∈G(X,Y) であり、
∥S−1−T−1∥≤1−∥T−1∥∥S−T∥∥T−1∥2∥S−T∥
が成り立つ。特に G(X,Y) は開集合で、T↦T−1 は G(X,Y) 上で連続である。
証明. A:=T−1(T−S)∈B(X) とおくと ∥A∥≤∥T−1∥∥S−T∥<1 であり、S=T−(T−S)=T(I−A) と書ける。定理 1.27 より I−A は B(X) で可逆なので、S は全単射で S−1=(I−A)−1T−1 は有界である。さらに
S−1−T−1=((I−A)−1−I)T−1=n=1∑∞AnT−1
なので ∥S−1−T−1∥≤1−∥A∥∥A∥∥T−1∥。t↦t/(1−t) は [0,1) で単調増加なので、∥A∥≤∥T−1∥∥S−T∥ を代入して主張の評価を得る。□
有限次元では可逆行列の集合 {A∣detA=0} が開集合であることは行列式の連続性から従った。無限次元には行列式がないので、ノイマン級数がその役割を果たす。定理 1.29 は第6章で「スペクトルは閉集合である」ことの証明に使われる。
まとめ
- ノルム空間は距離空間であり、完備なものをバナッハ空間という。ℓp, c0, C(K), Ck[a,b], Lp はバナッハ空間、c00 や L1 ノルムを入れた C[0,1] は完備でない。
- 完備性の証明は「成分ごとの極限 → 有限和で評価 → ノルム収束」の 3 段階で行う。
- ノルム空間が完備であることと、絶対収束級数がすべて収束することは同値である。
- 線形作用素の連続性と有界性は同値である。Y が完備なら B(X,Y) は完備で、特に双対空間 X∗ は常にバナッハ空間である。
- 有限次元ではすべてのノルムが同値で、線形写像はすべて有界、有界閉集合はコンパクトである。
- 無限次元では、同値でないノルム、非有界作用素(微分作用素)、単射だが全射でない作用素(シフト)が現れる。
- リースの補題により、閉単位球がコンパクトであることと有限次元であることは同値である。
- 閉部分空間による商空間は商ノルムでノルム空間になり、元の空間が完備なら完備である。
- ∑∥Tn∥<∞ ならば I−T はノイマン級数で逆をもつ。可逆作用素の集合は開集合で、逆をとる写像は連続である。
演習問題
問題 1.1 ★ 1≤p<q≤∞ のとき ℓp⊊ℓq であり、∥x∥q≤∥x∥p が成り立つことを示せ。
解答
q=∞ のときは ∣xn∣≤∥x∥p から明らか。q<∞ とし、x=0 に対し y=x/∥x∥p とおくと ∥y∥p=1 なので各 ∣yn∣≤1、よって ∣yn∣q≤∣yn∣p。和をとって ∥y∥qq≤1、すなわち ∥x∥q≤∥x∥p。包含が真であることは xn=n−1/p を考えればよい:∑nn−q/p<∞ (q/p>1)だが ∑nn−1=∞。
なお、有限測度空間 [0,1] 上の Lp では包含の向きが逆(Lq[0,1]⊂Lp[0,1])になる(06-measure-integration 第4章)。数列空間では「小さい値」が、[0,1] 上では「大きい値」が可積分性を左右するからである。
問題 1.2 ★ a∈ℓ∞ と 1≤p≤∞ に対し、ℓp 上の掛け算作用素 Max=(anxn)n の作用素ノルムが ∥a∥∞ であることを示せ。
解答
∣anxn∣≤∥a∥∞∣xn∣ より ∥Max∥p≤∥a∥∞∥x∥p なので ∥Ma∥≤∥a∥∞。逆に Maen=anen から ∥Ma∥≥∣an∣ がすべての n で成り立つので、上限をとって ∥Ma∥≥∥a∥∞。
問題 1.3 ★ c00 は ℓp (1≤p<∞)および c0 の中で稠密であることを示せ。また ℓ∞ における c00 の閉包は c0 であることを示せ。
解答
x∈ℓp に対し x(N)=(x1,…,xN,0,0,…)∈c00 とおくと ∥x−x(N)∥pp=∑n>N∣xn∣p→0 (収束級数の末尾)。x∈c0 なら ∥x−x(N)∥∞=supn>N∣xn∣→0。ℓ∞ における閉包について:c0 は閉(命題 1.6)で c00 を含むから閉包は c0 に含まれ、上で示したように c00 は c0 で稠密だから閉包は c0 を含む。特に (1,1,1,…) は c00 の元で近似できない。
問題 1.4 ★★ C1[0,1] はノルム ∥f∥C1=∥f∥∞+∥f′∥∞ でバナッハ空間であることを示せ。
解答
(fn) を C1 ノルムのコーシー列とすると、(fn) と (fn′) はともに C[0,1] の一様ノルムでコーシー列なので、定理 1.8 からある f,g∈C[0,1] に一様収束する。微分積分学の基本定理より fn(t)=fn(0)+∫0tfn′(s) ds であり、一様収束なので積分と極限が交換できて f(t)=f(0)+∫0tg(s) ds。g は連続なので f∈C1[0,1] かつ f′=g。よって ∥fn−f∥C1=∥fn−f∥∞+∥fn′−g∥∞→0。
問題 1.5 ★★ k∈C([0,1]2) とし、C[0,1] 上の積分作用素 (Kf)(s)=∫01k(s,t)f(t) dt を考える。∥K∥=maxs∈[0,1]∫01∣k(s,t)∣ dt を示せ。
解答
≤ は例 1.16 で示した。ϕ(s)=∫01∣k(s,t)∣ dt は(k の一様連続性から)連続なので、ある s0 で最大値をとる。ε>0 に対し
fε(t)=∣k(s0,t)∣+εk(s0,t)
とおくと fε∈C[0,1]、∥fε∥∞≤1 である。r=∣k(s0,t)∣ とすると r2/(r+ε)≥r−ε (r2≥r2−ε2 より)なので
∥K∥≥∣(Kfε)(s0)∣=∫01∣k(s0,t)∣+ε∣k(s0,t)∣2dt≥ϕ(s0)−ε
ε→0 として ∥K∥≥ϕ(s0)。(sgn のような不連続関数を使わず、連続関数で近似するのが要点である。)
問題 1.6 ★★ C[0,1] 上で ∥f∥1≤∥f∥∞ が成り立つが、2 つのノルムは同値でないことを示せ。また線形汎関数 δ0(f)=f(0) は一様ノルムに関して連続だが、L1 ノルムに関して連続でないことを示せ。
解答
∥f∥1=∫01∣f∣≤max∣f∣ は明らか。fn(t)=max(0,1−nt) とおくと ∥fn∥∞=1、∥fn∥1=1/(2n) なので、∥f∥∞≤C∥f∥1 となる定数 C は存在せず、同値でない。∣δ0(f)∣≤∥f∥∞ なので一様ノルムでは ∥δ0∥≤1。一方 δ0(fn)=1 で ∥fn∥1→0 だから、L1 ノルムでは有界でない。
問題 1.7 ★★ ヴォルテラ作用素 (Vf)(s)=∫0sf(t) dt を C[0,1] 上で考える。
- (Vnf)(s)=∫0s(n−1)!(s−t)n−1f(t) dt を示し、∥Vn∥=1/n! を導け。
- すべての λ∈K について I−λV が可逆であることを示し、(I−λV)−1 を積分作用素として具体的に表せ。
解答
- n=1 は定義そのもの。n で成り立てば、フビニの定理(連続関数なので累次積分の順序交換)により
(Vn+1f)(s)=∫0s∫0u(n−1)!(u−t)n−1f(t)dtdu=∫0sf(t)∫ts(n−1)!(u−t)n−1dudt=∫0sn!(s−t)nf(t)dt
よって ∣(Vnf)(s)∣≤∥f∥∞∫0s(n−1)!(s−t)n−1 dt=∥f∥∞sn/n! から ∥Vn∥≤1/n!。f=1 で (Vn1)(s)=sn/n! なので等号が成り立つ。
- ∑n∥(λV)n∥=∑n∣λ∣n/n!<∞ なので定理 1.27 から I−λV は可逆。項別に計算すると(級数は一様収束するので積分と交換できる)
(I−λV)−1f(s)=f(s)+n=1∑∞λn∫0s(n−1)!(s−t)n−1f(t)dt=f(s)+λ∫0seλ(s−t)f(t)dt
∥V∥=1 なので ∣λ∣≥1 では ∥λV∥<1 が成り立たないが、それでも逆が存在する。これは μ=0 ならば μI−V=μ(I−μ−1V) が可逆であること、すなわち(V は全射でないので 0∈σ(V) と合わせて)V のスペクトルが {0} であることを意味する(第6章)。
問題 1.8 ★★ 無限次元ノルム空間 X には非有界な線形汎関数が存在することを示せ(ハメル基底の存在を用いてよい)。さらに、線形汎関数 f=0 について、f が連続であることと kerf が閉であることは同値であることを示し、非有界な線形汎関数の核は X で稠密であることを導け。
解答
ハメル基底(代数的な基底){bα}α∈A をとり(00-foundations 第6章)、∥bα∥=1 と正規化する。A は無限集合なので相異なる α1,α2,… がとれる。f(bαn)=n、他の α では f(bα)=0 と定めて線形に拡張すると、∣f(bαn)∣=n なので非有界である。
f が連続なら kerf=f−1(0) は閉。逆に kerf が閉とし、f(x0)=1 となる x0 をとる。d=d(x0,kerf)>0 である。f(x)=0 なる x に対し x0−x/f(x)∈kerf だから ∥x∥/∣f(x)∣=∥x0−(x0−x/f(x))∥≥d、すなわち ∣f(x)∣≤d−1∥x∥。よって f は有界。
f が非有界なら kerf は閉でない。kerf は kerf を真に含む部分空間であり、kerf は余次元 1(X=kerf⊕Kx0)なので、kerf=X である。
問題 1.9 ★★★ ℓp (1≤p<∞)と c0 は可分であるが、ℓ∞ は可分でないことを示せ。
解答
成分がすべて有理数(K=C なら実部・虚部が有理数)の c00 の元全体 D は可算集合である。問題 1.3 より c00 は ℓp と c0 で稠密であり、c00 の各元は D の元で(有限個の成分を近似して)いくらでも近似できるので、D も稠密である。
ℓ∞ については、各部分集合 A⊂N に対し定義関数 1A∈ℓ∞ を考えると、A=B ならば ∥1A−1B∥∞=1。P(N) は非可算なので、半径 1/2 の開球 B(1A,1/2) は非可算個あって互いに交わらない。稠密集合はそれぞれの開球と交わるので非可算である。
問題 1.10 ★★★ ℓ∞/c0 の商ノルムについて ∥[x]∥=limsupn→∞∣xn∣ を示せ。
解答
m∈c0 に対し ∣xn∣≤∣xn−mn∣+∣mn∣ で mn→0 だから、limsupn∣xn∣≤limsupn∣xn−mn∣≤∥x−m∥∞。m について下限をとり limsupn∣xn∣≤∥[x]∥。逆に m(N)=(x1,…,xN,0,0,…)∈c0 とすると ∥x−m(N)∥∞=supn>N∣xn∣ であり、N→∞ でこれは limsupn∣xn∣ に収束する。よって ∥[x]∥≤limsupn∣xn∣。