Lemma数学ロードマップ

10 関数解析 · 第 1 章

ノルム空間とバナッハ空間

目安 11〜16 時間定理など 15演習 10 問

この章の目標

  • ノルム空間・バナッハ空間を定義し、ℓp\ell^p, c0c_0, C(K)C(K), LpL^p, CkC^k などの基本例の完備性を証明できる
  • 絶対収束級数による完備性の判定法を証明し、使いこなせる
  • 有界線形作用素と作用素ノルムを扱い、B(X,Y)\mathcal{B}(X, Y) の完備性を証明できる
  • 有限次元ではすべてのノルムが同値であること、無限次元では閉単位球がコンパクトでないことを証明し、両者の違いを具体例で説明できる
  • 商空間とノイマン級数を使って作用素の可逆性を議論できる

前提:02-linear-algebra 第3章、03-topology 第1章・第5章・第7章、06-measure-integration 第4章

1.1 なぜ無限次元の線形代数か

次の積分方程式を考えよう。k(s,t)k(s,t) は [0,1]2[0,1]^2 上の連続関数、ff は [0,1][0,1] 上の連続関数で、未知関数 uu を求めたい。

u(s)−∫01k(s,t) u(t) dt=f(s)(0≤s≤1)u(s) - \int_0^1 k(s,t)\, u(t)\, dt = f(s) \qquad (0 \leq s \leq 1)

区間を nn 等分して積分をリーマン和で近似すれば、これは nn 元連立一次方程式 (I−An)u=f(I - A_n)\boldsymbol{u} = \boldsymbol{f} になる。n→∞n \to \infty の極限で元の方程式を理解するには、次の問いに答えなければならない。

  1. 関数(無限個の成分をもつベクトル)の「大きさ」や「近さ」をどう測るか。
  2. 近似解の列が「収束しそうに見える」とき、極限は本当に存在するか。
  3. 積分作用素 Ku(s)=∫01k(s,t)u(t) dtK u(s) = \int_0^1 k(s,t) u(t)\ dt は行列のように振る舞うか。

1 の答えがノルム、2 の答えが完備性、3 の答えが有界線形作用素の理論である。有限次元の線形代数では 1〜3 はほとんど自明だった(どのノルムも同値で、すべての空間は完備で、すべての線形写像は連続)。無限次元ではそうはいかない。本章では、この違いを具体例で確かめながら関数解析の舞台を用意する。

1.2 ノルム空間とバナッハ空間

以下、K\mathbb{K} は R\mathbb{R} または C\mathbb{C} を表す。

定義 1.1(ノルム, norm)XX を K\mathbb{K} 上のベクトル空間とする。写像 ∥⋅∥ ⁣:X→[0,∞)\lVert \cdot \rVert\colon X \to [0, \infty) が次を満たすとき、XX 上のノルムという。

  • (N1) ∥x∥=0⇔x=0\lVert x \rVert = 0 \Leftrightarrow x = 0
  • (N2) ∥αx∥=∣α∣∥x∥\lVert \alpha x \rVert = \lvert \alpha \rvert \lVert x \rVert (α∈K\alpha \in \mathbb{K}, x∈Xx \in X)
  • (N3) ∥x+y∥≤∥x∥+∥y∥\lVert x + y \rVert \leq \lVert x \rVert + \lVert y \rVert (三角不等式)

(N1) の「⇒\Rightarrow」を仮定しないものを半ノルム (seminorm) という。ノルムを備えたベクトル空間をノルム空間 (normed space) という。

ノルム空間は d(x,y)=∥x−y∥d(x, y) = \lVert x - y \rVert により距離空間になり、収束・開集合・閉集合・完備性などの概念がすべて使える。三角不等式から ∣∥x∥−∥y∥∣≤∥x−y∥\lvert \lVert x \rVert - \lVert y \rVert \rvert \leq \lVert x - y \rVert が従うので、ノルムは連続関数である。また加法 (x,y)↦x+y(x, y) \mapsto x + y とスカラー倍 (α,x)↦αx(\alpha, x) \mapsto \alpha x も連続である。閉単位球を BX={x∈X∣∥x∥≤1}B_X = \lbrace x \in X \mid \lVert x \rVert \leq 1 \rbrace と書く。

定義 1.2(バナッハ空間, Banach space)完備なノルム空間をバナッハ空間という。同じベクトル空間上の 2 つのノルム ∥⋅∥1,∥⋅∥2\lVert \cdot \rVert_1, \lVert \cdot \rVert_2 が同値 (equivalent) であるとは、定数 c,C>0c, C > 0 があって、すべての xx に対し c∥x∥1≤∥x∥2≤C∥x∥1c \lVert x \rVert_1 \leq \lVert x \rVert_2 \leq C \lVert x \rVert_1 となることをいう。

同値なノルムは同じ収束列・同じ開集合・同じコーシー列を与える。したがって、一方で完備なら他方でも完備である。

例 1.3 Kn\mathbb{K}^n 上で、1≤p<∞1 \leq p < \infty に対し ∥x∥p=(∑j=1n∣xj∣p)1/p\lVert x \rVert_p = (\sum_{j=1}^n \lvert x_j \rvert^p)^{1/p}、また ∥x∥∞=max⁡j∣xj∣\lVert x \rVert_\infty = \max_j \lvert x_j \rvert はノルムである(pp ノルムの三角不等式はミンコフスキーの不等式であり、06-measure-integration 第4章 で数え上げ測度の場合として示されている)。単位球の形は pp によって異なる(p=1p = 1 は正軸体、p=2p = 2 は球、p=∞p = \infty は立方体)が、定理 1.20 で見るとおり、これらはすべて同値である。

命題 1.4 バナッハ空間 XX の部分空間 MM について、MM が(XX のノルムの制限で)バナッハ空間であることと、MM が XX の閉集合であることは同値である。

証明. 完備距離空間の閉集合は完備である。逆に MM が完備で xn∈Mx_n \in M, xn→x∈Xx_n \to x \in X ならば、(xn)(x_n) は MM のコーシー列なので MM の中に極限 yy をもち、極限の一意性から x=y∈Mx = y \in M である。□\square

1.3 数列空間

無限次元の最も素朴な例は数列の空間である。数列 x=(xn)n∈Nx = (x_n)_{n \in \mathbb{N}} (xn∈Kx_n \in \mathbb{K}) に対し次のように定める。

空間 定義 ノルム
ℓp\ell^p (1≤p<∞1 \leq p < \infty) ∑n∣xn∣p<∞\sum_n \lvert x_n \rvert^p < \infty ∥x∥p=(∑n∣xn∣p)1/p\lVert x \rVert_p = (\sum_n \lvert x_n \rvert^p)^{1/p}
ℓ∞\ell^\infty sup⁡n∣xn∣<∞\sup_n \lvert x_n \rvert < \infty ∥x∥∞=sup⁡n∣xn∣\lVert x \rVert_\infty = \sup_n \lvert x_n \rvert
cc 収束列 ∥x∥∞\lVert x \rVert_\infty
c0c_0 xn→0x_n \to 0 となる数列 ∥x∥∞\lVert x \rVert_\infty
c00c_{00} 有限個を除いて xn=0x_n = 0 文脈による

ℓp\ell^p の三角不等式は、有限和のミンコフスキーの不等式 (∑n=1N∣xn+yn∣p)1/p≤∥x∥p+∥y∥p(\sum_{n=1}^N \lvert x_n + y_n \rvert^p)^{1/p} \leq \lVert x \rVert_p + \lVert y \rVert_p で N→∞N \to \infty とすれば得られる。同様に、1/p+1/q=11/p + 1/q = 1 (p=1p = 1 なら q=∞q = \infty)のときヘルダーの不等式 ∑n∣xnyn∣≤∥x∥p∥y∥q\sum_n \lvert x_n y_n \rvert \leq \lVert x \rVert_p \lVert y \rVert_q が成り立つ。ene_n で第 nn 成分だけが 1 で他が 0 の数列を表す。包含関係 c00⊂ℓp⊂c0⊂c⊂ℓ∞c_{00} \subset \ell^p \subset c_0 \subset c \subset \ell^\infty がある(ℓp⊂c0\ell^p \subset c_0 は級数の項が 0 に収束することから)。

定理 1.5 1≤p≤∞1 \leq p \leq \infty に対し、ℓp\ell^p はバナッハ空間である。

証明. 1≤p<∞1 \leq p < \infty の場合を示す。(x(k))k∈N(x^{(k)})_{k \in \mathbb{N}} を ℓp\ell^p のコーシー列とする(各 x(k)=(xn(k))nx^{(k)} = (x^{(k)}_n)_n は数列である)。

ステップ 1(極限の候補). 各 nn について ∣xn(k)−xn(l)∣≤∥x(k)−x(l)∥p\lvert x^{(k)}_n - x^{(l)}_n \rvert \leq \lVert x^{(k)} - x^{(l)} \rVert_p なので、(xn(k))k(x^{(k)}_n)_k は K\mathbb{K} のコーシー列であり、極限 xn:=lim⁡kxn(k)x_n := \lim_k x^{(k)}_n が存在する。x=(xn)nx = (x_n)_n とおく。

ステップ 2(評価). ε>0\varepsilon > 0 に対し NN を、k,l≥Nk, l \geq N ならば ∥x(k)−x(l)∥p<ε\lVert x^{(k)} - x^{(l)} \rVert_p < \varepsilon となるようにとる。任意の M∈NM \in \mathbb{N} について

∑n=1M∣xn(k)−xn(l)∣p<εp(k,l≥N)\sum_{n=1}^{M} \lvert x^{(k)}_n - x^{(l)}_n \rvert^p < \varepsilon^p \qquad (k, l \geq N)

であり、有限和なので l→∞l \to \infty の極限をとれて ∑n=1M∣xn(k)−xn∣p≤εp\sum_{n=1}^{M} \lvert x^{(k)}_n - x_n \rvert^p \leq \varepsilon^p を得る。MM は任意なので ∑n=1∞∣xn(k)−xn∣p≤εp\sum_{n=1}^\infty \lvert x^{(k)}_n - x_n \rvert^p \leq \varepsilon^p (k≥Nk \geq N)。

ステップ 3(所属と収束). ステップ 2 から x(N)−x∈ℓpx^{(N)} - x \in \ell^p なので、x=x(N)−(x(N)−x)∈ℓpx = x^{(N)} - (x^{(N)} - x) \in \ell^p。さらに k≥Nk \geq N で ∥x(k)−x∥p≤ε\lVert x^{(k)} - x \rVert_p \leq \varepsilon だから、x(k)→xx^{(k)} \to x である。

p=∞p = \infty の場合は、ステップ 2 で ∣xn(k)−xn(l)∣<ε\lvert x^{(k)}_n - x^{(l)}_n \rvert < \varepsilon (すべての nn)から l→∞l \to \infty として ∣xn(k)−xn∣≤ε\lvert x^{(k)}_n - x_n \rvert \leq \varepsilon を得て、同様に議論すればよい。□\square

ヒント

完備性の証明は、ほとんどいつも「①各点(各成分)の極限で候補を作る → ②コーシー性の不等式で極限をとって評価する → ③候補が空間に属し、ノルムで収束することを示す」の 3 段階である。②で「先に有限和で極限をとる」のが要点である。

命題 1.6 c0c_0 は ℓ∞\ell^\infty の閉部分空間であり、したがってバナッハ空間である。

証明. x(k)∈c0x^{(k)} \in c_0 が ℓ∞\ell^\infty で xx に収束したとする。ε>0\varepsilon > 0 に対し ∥x(k)−x∥∞<ε/2\lVert x^{(k)} - x \rVert_\infty < \varepsilon/2 となる kk を 1 つ固定し、n≥Nn \geq N ならば ∣xn(k)∣<ε/2\lvert x^{(k)}_n \rvert < \varepsilon/2 となる NN をとる。すると n≥Nn \geq N で ∣xn∣≤∣xn−xn(k)∣+∣xn(k)∣<ε\lvert x_n \rvert \leq \lvert x_n - x^{(k)}_n \rvert + \lvert x^{(k)}_n \rvert < \varepsilon。よって x∈c0x \in c_0 であり、命題 1.4 から c0c_0 はバナッハ空間である。□\square

例 1.7(完備でないノルム空間)c00c_{00} に ℓ2\ell^2 ノルムを入れる。x(k)=(1,1/2,…,1/k,0,0,… )∈c00x^{(k)} = (1, 1/2, \dots, 1/k, 0, 0, \dots) \in c_{00} は ℓ2\ell^2 で x=(1/n)nx = (1/n)_n に収束する(∥x(k)−x∥22=∑n>k1/n2→0\lVert x^{(k)} - x \rVert_2^2 = \sum_{n > k} 1/n^2 \to 0)。x∉c00x \notin c_{00} なので c00c_{00} は ℓ2\ell^2 の閉集合でなく、命題 1.4 により完備でない。実際、c00c_{00} は ℓp\ell^p (p<∞p < \infty)の中で稠密である(問題 1.3)。

1.4 関数空間

定理 1.8 KK をコンパクト・ハウスドルフ空間とし、C(K)C(K) を KK 上の K\mathbb{K} 値連続関数全体とする。一様ノルム (sup norm) ∥f∥∞=max⁡x∈K∣f(x)∣\lVert f \rVert_\infty = \max_{x \in K} \lvert f(x) \rvert により C(K)C(K) はバナッハ空間である。

証明. ∣f∣\lvert f \rvert は KK 上で最大値をとるので ∥f∥∞<∞\lVert f \rVert_\infty < \infty であり、ノルムの公理は明らかである。(fn)(f_n) をコーシー列とする。各 xx で ∣fn(x)−fm(x)∣≤∥fn−fm∥∞\lvert f_n(x) - f_m(x) \rvert \leq \lVert f_n - f_m \rVert_\infty なので f(x):=lim⁡nfn(x)f(x) := \lim_n f_n(x) が存在する。ε>0\varepsilon > 0 に対し n,m≥Nn, m \geq N で ∥fn−fm∥∞<ε\lVert f_n - f_m \rVert_\infty < \varepsilon とすると、m→∞m \to \infty として ∣fn(x)−f(x)∣≤ε\lvert f_n(x) - f(x) \rvert \leq \varepsilon (すべての xx, n≥Nn \geq N)。つまり fn→ff_n \to f は一様収束である。

ff の連続性を示す。x0∈Kx_0 \in K を固定する。∣fN(x)−f(x)∣≤ε\lvert f_N(x) - f(x) \rvert \leq \varepsilon (すべての xx)で、fNf_N は x0x_0 で連続なので、x0x_0 の近傍 UU があって x∈Ux \in U ならば ∣fN(x)−fN(x0)∣<ε\lvert f_N(x) - f_N(x_0) \rvert < \varepsilon。すると x∈Ux \in U で

∣f(x)−f(x0)∣≤∣f(x)−fN(x)∣+∣fN(x)−fN(x0)∣+∣fN(x0)−f(x0)∣<3ε\lvert f(x) - f(x_0) \rvert \leq \lvert f(x) - f_N(x) \rvert + \lvert f_N(x) - f_N(x_0) \rvert + \lvert f_N(x_0) - f(x_0) \rvert < 3\varepsilon

したがって f∈C(K)f \in C(K) であり、∥fn−f∥∞≤ε\lVert f_n - f \rVert_\infty \leq \varepsilon (n≥Nn \geq N)より fn→ff_n \to f である。□\square

C(K)C(K) のノルム収束は一様収束にほかならない。そのほかの基本的なバナッハ空間を挙げる。

例 1.9

  • Ck[a,b]C^k[a,b]:[a,b][a,b] 上の kk 回連続微分可能な関数全体に、ノルム ∥f∥Ck=∑j=0k∥f(j)∥∞\lVert f \rVert_{C^k} = \sum_{j=0}^k \lVert f^{(j)} \rVert_\infty を入れたものはバナッハ空間である(k=1k = 1 の場合が問題 1.4)。
  • Lp(Ω,μ)L^p(\Omega, \mu) (1≤p≤∞1 \leq p \leq \infty):測度空間 (Ω,μ)(\Omega, \mu) 上の pp 乗可積分関数(ほとんど至るところ等しいものを同一視した同値類)の空間はバナッハ空間である(リース–フィッシャーの定理、06-measure-integration 第4章)。数え上げ測度をとれば ℓp\ell^p が得られる。
  • 有界関数の空間:集合 SS 上の有界関数全体 ℓ∞(S)\ell^\infty(S) は一様ノルムでバナッハ空間である(定理 1.8 の証明の前半と同じ)。

例 1.10(同じ空間でも、ノルムによって完備性が変わる)C[0,1]C[0,1] に L1L^1 ノルム ∥f∥1=∫01∣f(t)∣ dt\lVert f \rVert_1 = \int_0^1 \lvert f(t) \rvert\ dt を入れる。

fn(t)={0(0≤t≤1/2)n(t−1/2)(1/2≤t≤1/2+1/n)1(1/2+1/n≤t≤1)f_n(t) = \begin{cases} 0 & (0 \leq t \leq 1/2) \\ n(t - 1/2) & (1/2 \leq t \leq 1/2 + 1/n) \\ 1 & (1/2 + 1/n \leq t \leq 1) \end{cases}

とおくと、m≥nm \geq n のとき fnf_n と fmf_m は長さ 1/n1/n の区間の外で一致し、差の絶対値は 1 以下なので ∥fn−fm∥1≤1/n\lVert f_n - f_m \rVert_1 \leq 1/n。よって (fn)(f_n) はコーシー列である。もし連続関数 ff に L1L^1 収束したとすると、∫01/2∣f∣ dt≤∥f−fn∥1→0\int_0^{1/2} \lvert f \rvert\ dt \leq \lVert f - f_n \rVert_1 \to 0 から [0,1/2][0, 1/2] 上で f=0f = 0、また各 δ>0\delta > 0 について n>1/δn > 1/\delta ならば ∫1/2+δ1∣f−1∣ dt≤∥f−fn∥1→0\int_{1/2+\delta}^1 \lvert f - 1 \rvert\ dt \leq \lVert f - f_n \rVert_1 \to 0 から (1/2,1](1/2, 1] 上で f=1f = 1 となり、t=1/2t = 1/2 での連続性に反する。よって (C[0,1],∥⋅∥1)(C[0,1], \lVert \cdot \rVert_1) は完備でない(その完備化は L1[0,1]L^1[0,1] である)。一方、一様ノルムでは完備だった(定理 1.8)。したがって、この 2 つのノルムは同値でない。

1.5 完備性の判定:絶対収束級数

実数の級数では「絶対収束すれば収束する」。これはノルム空間では完備性と同値になる。

定義 1.11 ノルム空間 XX の点列 (xn)(x_n) について、部分和 sN=∑n=1Nxns_N = \sum_{n=1}^N x_n が収束するとき級数 ∑xn\sum x_n は収束するといい、∑n=1∞∥xn∥<∞\sum_{n=1}^\infty \lVert x_n \rVert < \infty のとき絶対収束する (absolutely convergent) という。

定理 1.12 ノルム空間 XX について、次は同値である。

  1. XX はバナッハ空間である。
  2. XX の絶対収束する級数はすべて収束する。

証明. (1 ⇒ 2) ∑∥xn∥<∞\sum \lVert x_n \rVert < \infty とする。m>nm > n のとき ∥sm−sn∥≤∑k=n+1m∥xk∥\lVert s_m - s_n \rVert \leq \sum_{k=n+1}^m \lVert x_k \rVert であり、右辺は n→∞n \to \infty で 0 に近づくから (sn)(s_n) はコーシー列で、収束する。

(2 ⇒ 1) (yn)(y_n) をコーシー列とする。n1<n2<⋯n_1 < n_2 < \cdots を、m,l≥nkm, l \geq n_k ならば ∥ym−yl∥<2−k\lVert y_m - y_l \rVert < 2^{-k} となるようにとる。x1=yn1x_1 = y_{n_1}, xk+1=ynk+1−ynkx_{k+1} = y_{n_{k+1}} - y_{n_k} とおくと ∥xk+1∥<2−k\lVert x_{k+1} \rVert < 2^{-k} なので ∑k∥xk∥<∞\sum_k \lVert x_k \rVert < \infty。仮定から ∑kxk\sum_k x_k は収束する。その部分和は ∑j=1kxj=ynk\sum_{j=1}^k x_j = y_{n_k} だから、部分列 (ynk)(y_{n_k}) が収束する。部分列が収束するコーシー列は収束する(同じ極限に)ので、(yn)(y_n) は収束する。□\square

例 1.13 c00c_{00} に ℓ1\ell^1 ノルムを入れると、∑n2−nen\sum_n 2^{-n} e_n は絶対収束する(∑n∥2−nen∥1=1\sum_n \lVert 2^{-n} e_n \rVert_1 = 1)が、c00c_{00} の中では収束しない(ℓ1\ell^1 での極限 (2−n)n(2^{-n})_n が c00c_{00} に属さない)。定理 1.12 により c00c_{00} は ℓ1\ell^1 ノルムで完備でない。

定理 1.12 は、完備性を「コーシー列」ではなく「級数」で確かめる道具である。LpL^p の完備性(06-measure-integration 第4章)、商空間の完備性(命題 1.25)、ノイマン級数(定理 1.27)、開写像定理(第3章)で使われる。

1.6 有界線形作用素

ノルム空間の間の線形写像を作用素 (operator) ともよぶ。有限次元では線形写像は自動的に連続だが、無限次元ではそうでない(例 1.17)。

定義 1.14(有界作用素, bounded operator)X,YX, Y をノルム空間とする。線形写像 T ⁣:X→YT\colon X \to Y が有界であるとは、定数 C≥0C \geq 0 があって、すべての x∈Xx \in X で ∥Tx∥≤C∥x∥\lVert Tx \rVert \leq C \lVert x \rVert となることをいう。有界線形作用素全体を B(X,Y)\mathcal{B}(X, Y) と書き、B(X)=B(X,X)\mathcal{B}(X) = \mathcal{B}(X, X) とする。T∈B(X,Y)T \in \mathcal{B}(X, Y) の作用素ノルム (operator norm) を

∥T∥=sup⁡x≠0∥Tx∥∥x∥=sup⁡∥x∥≤1∥Tx∥\lVert T \rVert = \sup_{x \neq 0} \frac{\lVert Tx \rVert}{\lVert x \rVert} = \sup_{\lVert x \rVert \leq 1} \lVert Tx \rVert

と定める。Y=KY = \mathbb{K} のとき、X∗=B(X,K)X^{\ast} = \mathcal{B}(X, \mathbb{K}) を XX の双対空間 (dual space) といい、その元を連続線形汎関数 (continuous linear functional) という。

「有界」は「有界集合を有界集合に写す」という意味であり、関数として値が有界という意味ではない(T≠0T \neq 0 なら ∥T(nx)∥=n∥Tx∥\lVert T(nx) \rVert = n \lVert Tx \rVert は非有界)。定義から ∥Tx∥≤∥T∥∥x∥\lVert Tx \rVert \leq \lVert T \rVert \lVert x \rVert、また S∈B(Y,Z)S \in \mathcal{B}(Y, Z) に対し ∥ST∥≤∥S∥∥T∥\lVert ST \rVert \leq \lVert S \rVert \lVert T \rVert である。作用素ノルムは B(X,Y)\mathcal{B}(X, Y) 上のノルムになる。

定理 1.15 線形写像 T ⁣:X→YT\colon X \to Y について、次は同値である。(a) TT は連続。(b) TT は 00 で連続。(c) TT は有界。

証明. (a ⇒ b) は明らか。(b ⇒ c) 00 での連続性から δ>0\delta > 0 があって ∥x∥≤δ\lVert x \rVert \leq \delta ならば ∥Tx∥≤1\lVert Tx \rVert \leq 1。x≠0x \neq 0 に対し δx/∥x∥\delta x / \lVert x \rVert に適用すると ∥Tx∥≤δ−1∥x∥\lVert Tx \rVert \leq \delta^{-1} \lVert x \rVert。(c ⇒ a) ∥Tx−Ty∥≤C∥x−y∥\lVert Tx - Ty \rVert \leq C \lVert x - y \rVert なので TT はリプシッツ連続である。□\square

例 1.16(基本的な有界作用素)以下、1≤p≤∞1 \leq p \leq \infty とする。

  1. シフト作用素 (shift operator)。ℓp\ell^p 上の右シフト S(x1,x2,… )=(0,x1,x2,… )S(x_1, x_2, \dots) = (0, x_1, x_2, \dots) と左シフト L(x1,x2,… )=(x2,x3,… )L(x_1, x_2, \dots) = (x_2, x_3, \dots) を考える。∥Sx∥p=∥x∥p\lVert Sx \rVert_p = \lVert x \rVert_p (等長)なので ∥S∥=1\lVert S \rVert = 1、また ∥Lx∥p≤∥x∥p\lVert Lx \rVert_p \leq \lVert x \rVert_p と Le2=e1L e_2 = e_1 から ∥L∥=1\lVert L \rVert = 1。LS=ILS = I だが SL(x1,x2,… )=(0,x2,x3,… )SL(x_1, x_2, \dots) = (0, x_2, x_3, \dots) なので SL≠ISL \neq I である。SS は単射だが全射でなく(e1∉Ran⁡Se_1 \notin \operatorname{Ran} S)、LL は全射だが単射でない(Le1=0L e_1 = 0)。
  2. 掛け算作用素 (multiplication operator)。a∈ℓ∞a \in \ell^\infty に対し Max=(anxn)nM_a x = (a_n x_n)_n は ℓp\ell^p 上の有界作用素で ∥Ma∥=∥a∥∞\lVert M_a \rVert = \lVert a \rVert_\infty (問題 1.2)。同様に φ∈L∞(Ω,μ)\varphi \in L^\infty(\Omega, \mu) に対し Lp(Ω,μ)L^p(\Omega, \mu) 上の Mφf=φfM_\varphi f = \varphi f は ∥Mφ∥≤∥φ∥∞\lVert M_\varphi \rVert \leq \lVert \varphi \rVert_\infty を満たす。
  3. 積分作用素 (integral operator)。k∈C([0,1]2)k \in C([0,1]^2) に対し (Kf)(s)=∫01k(s,t)f(t) dt(Kf)(s) = \int_0^1 k(s,t) f(t)\ dt とおく。kk の一様連続性から Kf∈C[0,1]Kf \in C[0,1] であり、∥Kf∥∞≤(max⁡s∫01∣k(s,t)∣ dt)∥f∥∞\lVert Kf \rVert_\infty \leq \bigl(\max_s \int_0^1 \lvert k(s,t) \rvert\ dt\bigr) \lVert f \rVert_\infty。実はここで等号が成り立つ:∥K∥=max⁡s∫01∣k(s,t)∣ dt\lVert K \rVert = \max_s \int_0^1 \lvert k(s,t) \rvert\ dt (問題 1.5)。特にヴォルテラ作用素 (Volterra operator) (Vf)(s)=∫0sf(t) dt(Vf)(s) = \int_0^s f(t)\ dt は C[0,1]C[0,1] 上で ∥V∥=1\lVert V \rVert = 1 を満たす(∥Vf∥∞≤∥f∥∞\lVert Vf \rVert_\infty \leq \lVert f \rVert_\infty で、f=1f = 1 で等号)。

注意

有限次元では、正方行列について AB=IAB = I ならば BA=IBA = I であり、単射・全射・全単射は同値だった(次元定理)。無限次元ではこれが崩れる:例 1.16 のシフトは LS=ILS = I, SL≠ISL \neq I を満たす。「左逆をもつ」ことと「可逆である」ことを区別しなければならない。

例 1.17(非有界作用素)

  1. 微分作用素。D=d/dt ⁣:C1[0,1]→C[0,1]D = d/dt\colon C^1[0,1] \to C[0,1] を考え、両側に一様ノルムを入れる。fn(t)=tnf_n(t) = t^n は ∥fn∥∞=1\lVert f_n \rVert_\infty = 1, ∥Dfn∥∞=n\lVert D f_n \rVert_\infty = n を満たすので DD は有界でない。ただし定義域に C1C^1 ノルム ∥f∥∞+∥f′∥∞\lVert f \rVert_\infty + \lVert f' \rVert_\infty を入れれば ∥Df∥∞≤∥f∥C1\lVert Df \rVert_\infty \leq \lVert f \rVert_{C^1} となり有界である。有界性はノルムの選び方に依存する。微分作用素のような非有界作用素は第7章で扱う。
  2. 非有界な線形汎関数。c00c_{00} に一様ノルムを入れ、f(x)=∑nnxnf(x) = \sum_n n x_n (有限和)とおくと、ff は線形で ∣f(en)∣=n\lvert f(e_n) \rvert = n, ∥en∥∞=1\lVert e_n \rVert_\infty = 1 だから非有界である。実は、無限次元のノルム空間には必ず非有界な線形汎関数が存在する(問題 1.8、選択公理を使う)。

定理 1.18 XX をノルム空間、YY をバナッハ空間とすると、B(X,Y)\mathcal{B}(X, Y) は作用素ノルムによりバナッハ空間である。特に、双対空間 X∗X^{\ast} は(XX が完備でなくても)常にバナッハ空間である。

証明. (Tn)(T_n) を B(X,Y)\mathcal{B}(X, Y) のコーシー列とする。各 x∈Xx \in X について ∥Tnx−Tmx∥≤∥Tn−Tm∥∥x∥\lVert T_n x - T_m x \rVert \leq \lVert T_n - T_m \rVert \lVert x \rVert なので (Tnx)(T_n x) は YY のコーシー列であり、YY の完備性から Tx:=lim⁡nTnxTx := \lim_n T_n x が存在する。極限の線形性から TT は線形である。ε>0\varepsilon > 0 に対し n,m≥Nn, m \geq N で ∥Tn−Tm∥<ε\lVert T_n - T_m \rVert < \varepsilon とすると、すべての xx で ∥Tnx−Tmx∥≤ε∥x∥\lVert T_n x - T_m x \rVert \leq \varepsilon \lVert x \rVert。m→∞m \to \infty として ∥Tnx−Tx∥≤ε∥x∥\lVert T_n x - Tx \rVert \leq \varepsilon \lVert x \rVert (n≥Nn \geq N)。よって TN−TT_N - T は有界で、T=TN−(TN−T)∈B(X,Y)T = T_N - (T_N - T) \in \mathcal{B}(X, Y)。さらに ∥Tn−T∥≤ε\lVert T_n - T \rVert \leq \varepsilon (n≥Nn \geq N)なので Tn→TT_n \to T である。□\square

次の命題は、稠密な部分空間の上で定義した有界作用素を全体に拡張する標準的な方法である(例えば L2L^2 上のフーリエ変換の定義に使われる)。

命題 1.19(有界作用素の拡張)XX をノルム空間、D⊂XD \subset X を稠密な部分空間、YY をバナッハ空間とする。T ⁣:D→YT\colon D \to Y が線形で ∥Tx∥≤C∥x∥\lVert Tx \rVert \leq C \lVert x \rVert (x∈Dx \in D)を満たすならば、TT の拡張 T~∈B(X,Y)\tilde{T} \in \mathcal{B}(X, Y) で ∥T~∥=∥T∥\lVert \tilde{T} \rVert = \lVert T \rVert となるものがただ一つ存在する。

証明. x∈Xx \in X に対し xn∈Dx_n \in D, xn→xx_n \to x をとる。∥Txn−Txm∥≤C∥xn−xm∥\lVert Tx_n - Tx_m \rVert \leq C \lVert x_n - x_m \rVert より (Txn)(Tx_n) はコーシー列で極限をもつ。別の列 xn′→xx_n' \to x をとっても ∥Txn−Txn′∥≤C∥xn−xn′∥→0\lVert Tx_n - Tx_n' \rVert \leq C \lVert x_n - x_n' \rVert \to 0 なので極限は同じであり、T~x:=lim⁡Txn\tilde{T}x := \lim Tx_n は well-defined である。線形性と ∥T~x∥=lim⁡∥Txn∥≤∥T∥∥x∥\lVert \tilde{T} x \rVert = \lim \lVert Tx_n \rVert \leq \lVert T \rVert \lVert x \rVert は極限操作から従う。一意性は、連続写像が稠密集合上の値で決まることから従う。□\square

1.7 有限次元ノルム空間

定理 1.20 有限次元ベクトル空間 XX 上のノルムはすべて同値である。

証明. 基底 e1,…,ene_1, \dots, e_n を固定し、x=∑jξjejx = \sum_j \xi_j e_j に対し ∥x∥1:=∑j∣ξj∣\lVert x \rVert_1 := \sum_j \lvert \xi_j \rvert とおく(これはノルムである)。任意のノルム ∥⋅∥\lVert \cdot \rVert が ∥⋅∥1\lVert \cdot \rVert_1 と同値であることを示せばよい(同値性は同値関係なので)。

上からの評価:M=max⁡j∥ej∥M = \max_j \lVert e_j \rVert とおくと ∥x∥≤∑j∣ξj∣∥ej∥≤M∥x∥1\lVert x \rVert \leq \sum_j \lvert \xi_j \rvert \lVert e_j \rVert \leq M \lVert x \rVert_1。

下からの評価:関数 ϕ(ξ)=∥∑jξjej∥\phi(\xi) = \lVert \sum_j \xi_j e_j \rVert を Kn\mathbb{K}^n 上で考える。上の評価から ∣ϕ(ξ)−ϕ(η)∣≤M∑j∣ξj−ηj∣\lvert \phi(\xi) - \phi(\eta) \rvert \leq M \sum_j \lvert \xi_j - \eta_j \rvert なので ϕ\phi は連続である。集合 Σ={ξ∈Kn∣∑j∣ξj∣=1}\Sigma = \lbrace \xi \in \mathbb{K}^n \mid \sum_j \lvert \xi_j \rvert = 1 \rbrace は Kn\mathbb{K}^n の有界閉集合なのでコンパクトであり(ハイネ–ボレルの定理)、ϕ\phi は Σ\Sigma 上で最小値 cc をとる。eje_j の一次独立性から ξ∈Σ\xi \in \Sigma ならば ∑jξjej≠0\sum_j \xi_j e_j \neq 0 なので c>0c > 0。x≠0x \neq 0 に x/∥x∥1x / \lVert x \rVert_1 (座標が Σ\Sigma に属する)を考えると ∥x∥≥c∥x∥1\lVert x \rVert \geq c \lVert x \rVert_1。□\square

系 1.21 有限次元ノルム空間について次が成り立つ。

  1. 有限次元ノルム空間は完備である。
  2. 任意のノルム空間の有限次元部分空間は閉集合である。
  3. 有限次元ノルム空間から任意のノルム空間への線形写像は有界である。
  4. 有限次元ノルム空間の有界閉集合はコンパクトである。

証明. 定理 1.20 の記号を使う。(1) ∥⋅∥\lVert \cdot \rVert でのコーシー列は ∥⋅∥1\lVert \cdot \rVert_1 でもコーシー列であり、座標ごとにコーシー列になるので K\mathbb{K} の完備性から収束する。(2) (1) と命題 1.4 の証明の後半(完備な部分集合は閉)による。(3) ∥Tx∥≤∑j∣ξj∣∥Tej∥≤max⁡j∥Tej∥⋅c−1∥x∥\lVert Tx \rVert \leq \sum_j \lvert \xi_j \rvert \lVert Te_j \rVert \leq \max_j \lVert T e_j \rVert \cdot c^{-1} \lVert x \rVert。(4) 座標写像 X→KnX \to \mathbb{K}^n は両方向に有界な線形写像(同相写像)であり、有界閉集合を有界閉集合に写すので、ハイネ–ボレルの定理に帰着する。□\square

無限次元では、系の各項目がすべて破れる。(1) は例 1.7、(2) は c00⊂ℓ2c_{00} \subset \ell^2、(3) は例 1.17 が反例である。(4) が破れることが次節の主題である。

1.8 リースの補題と単位球のコンパクト性

補題 1.22(リースの補題, Riesz's lemma)XX をノルム空間、M⊊XM \subsetneq X を閉部分空間、0<θ<10 < \theta < 1 とする。このとき ∥x∥=1\lVert x \rVert = 1 かつ d(x,M):=inf⁡m∈M∥x−m∥≥θd(x, M) := \inf_{m \in M} \lVert x - m \rVert \geq \theta を満たす x∈Xx \in X が存在する。

証明. x0∈X∖Mx_0 \in X \setminus M をとる。MM は閉なので d:=d(x0,M)>0d := d(x_0, M) > 0。d/θ>dd / \theta > d だから、∥x0−m0∥≤d/θ\lVert x_0 - m_0 \rVert \leq d/\theta となる m0∈Mm_0 \in M がある。x=(x0−m0)/∥x0−m0∥x = (x_0 - m_0) / \lVert x_0 - m_0 \rVert とおけば ∥x∥=1\lVert x \rVert = 1 で、任意の m∈Mm \in M について m0+∥x0−m0∥m∈Mm_0 + \lVert x_0 - m_0 \rVert m \in M だから

∥x−m∥=∥x0−(m0+∥x0−m0∥m)∥∥x0−m0∥≥dd/θ=θ\lVert x - m \rVert = \frac{\bigl\lVert x_0 - (m_0 + \lVert x_0 - m_0 \rVert m) \bigr\rVert}{\lVert x_0 - m_0 \rVert} \geq \frac{d}{d/\theta} = \theta

□\square

有限次元なら単位球面上の点と MM の距離を最大化すれば θ=1\theta = 1 にできる。ヒルベルト空間では直交補空間の単位ベクトルをとれば θ=1\theta = 1 にできる(第2章)。一般のバナッハ空間では θ=1\theta = 1 にできるとは限らない。

定理 1.23(リース)ノルム空間 XX について、閉単位球 BXB_X がコンパクトであるための必要十分条件は dim⁡X<∞\dim X < \infty である。

証明. dim⁡X<∞\dim X < \infty ならば系 1.21 (4) による。dim⁡X=∞\dim X = \infty とする。単位ベクトルの列 x1,x2,…x_1, x_2, \dots で ∥xn−xm∥≥1/2\lVert x_n - x_m \rVert \geq 1/2 (n≠mn \neq m)となるものを帰納的に作る。x1x_1 は任意の単位ベクトルとする。x1,…,xnx_1, \dots, x_n まで作ったとき、Mn=span⁡{x1,…,xn}M_n = \operatorname{span}\lbrace x_1, \dots, x_n \rbrace は有限次元なので閉(系 1.21 (2))であり、XX が無限次元なので Mn≠XM_n \neq X。リースの補題(θ=1/2\theta = 1/2)から ∥xn+1∥=1\lVert x_{n+1} \rVert = 1, d(xn+1,Mn)≥1/2d(x_{n+1}, M_n) \geq 1/2 となる xn+1x_{n+1} がとれる。こうして得た (xn)(x_n) は BXB_X の点列で、どの部分列もコーシー列でないから収束部分列をもたない。距離空間ではコンパクト性と点列コンパクト性は同値なので(03-topology 第5章)、BXB_X はコンパクトでない。□\square

例 1.24 具体的な空間では、互いに離れた単位ベクトルの列が目に見える。

  • ℓp\ell^p (1≤p<∞1 \leq p < \infty):∥en−em∥p=21/p\lVert e_n - e_m \rVert_p = 2^{1/p} (n≠mn \neq m)。c0c_0, ℓ∞\ell^\infty では ∥en−em∥∞=1\lVert e_n - e_m \rVert_\infty = 1。
  • C[0,1]C[0,1]:「山形関数」gng_n (区間 [2−n,2−n+1][2^{-n}, 2^{-n+1}] の中点で値 1、区間外で 0、区分的に一次)は gn≠0g_n \neq 0 となる集合が互いに交わらないので、∥gn−gm∥∞=1\lVert g_n - g_m \rVert_\infty = 1。
  • L2[0,2π]L^2[0, 2\pi]:un(t)=eint/2πu_n(t) = e^{int}/\sqrt{2\pi} は ∥un−um∥2=2\lVert u_n - u_m \rVert_2 = \sqrt{2} (第2章)。

補足

定理 1.23 から、無限次元ノルム空間のコンパクト集合は内点をもたない(内点をもてば、平行移動と拡大で閉単位球がコンパクト集合の閉部分集合になってしまう)。有限次元の解析で頼りにしていたボルツァノ–ワイエルシュトラスの定理が使えないことは、関数解析の最大の困難である。これを補う方法が、コンパクト作用素(第5章)と弱位相(第4章)である。

1.9 商空間

MM をノルム空間 XX の部分空間とし、商ベクトル空間 X/MX/M の元を [x]=x+M[x] = x + M と書く(02-linear-algebra 第3章)。

命題 1.25(商ノルム, quotient norm)MM を XX の閉部分空間とし、∥[x]∥:=inf⁡m∈M∥x−m∥=d(x,M)\lVert [x] \rVert := \inf_{m \in M} \lVert x - m \rVert = d(x, M) とおく。

  1. これは X/MX/M 上のノルムである。
  2. 商写像 π ⁣:X→X/M\pi\colon X \to X/M は ∥π(x)∥≤∥x∥\lVert \pi(x) \rVert \leq \lVert x \rVert を満たし、XX の開単位球を X/MX/M の開単位球の上へ写す。
  3. XX がバナッハ空間ならば X/MX/M もバナッハ空間である。

証明. (1) ∥[x]∥\lVert [x] \rVert は代表元のとり方によらない。∥[x]∥=0\lVert [x] \rVert = 0 ならば x∈M‾=Mx \in \overline{M} = M なので [x]=0[x] = 0(ここで MM が閉であることを使う)。α≠0\alpha \neq 0 なら αM=M\alpha M = M より d(αx,M)=∣α∣d(x,M)d(\alpha x, M) = \lvert \alpha \rvert d(x, M)。三角不等式は ∥x+y−(m+m′)∥≤∥x−m∥+∥y−m′∥\lVert x + y - (m + m') \rVert \leq \lVert x - m \rVert + \lVert y - m' \rVert で m,m′∈Mm, m' \in M について下限をとればよい。

(2) m=0m = 0 とすれば ∥[x]∥≤∥x∥\lVert [x] \rVert \leq \lVert x \rVert。∥[x]∥<1\lVert [x] \rVert < 1 ならば ∥x−m∥<1\lVert x - m \rVert < 1 となる m∈Mm \in M があり、π(x−m)=[x]\pi(x - m) = [x]。

(3) 定理 1.12 を使う。∑n∥[xn]∥<∞\sum_n \lVert [x_n] \rVert < \infty とする。代表元を ∥xn∥≤∥[xn]∥+2−n\lVert x_n \rVert \leq \lVert [x_n] \rVert + 2^{-n} となるように選び直すと ∑n∥xn∥<∞\sum_n \lVert x_n \rVert < \infty なので、XX の完備性から ∑nxn\sum_n x_n はある xx に収束する。すると (2) から ∥[x]−∑n=1N[xn]∥≤∥x−∑n=1Nxn∥→0\lVert [x] - \sum_{n=1}^N [x_n] \rVert \leq \lVert x - \sum_{n=1}^N x_n \rVert \to 0。よって X/MX/M の絶対収束級数は収束し、X/MX/M は完備である。□\square

MM が閉でないと、x∈M‾∖Mx \in \overline{M} \setminus M に対し ∥[x]∥=0\lVert [x] \rVert = 0, [x]≠0[x] \neq 0 となり、半ノルムしか得られない。また、T∈B(X,Y)T \in \mathcal{B}(X, Y) が M⊂ker⁡TM \subset \ker T を満たせば、T~[x]:=Tx\tilde{T}[x] := Tx で定まる T~ ⁣:X/M→Y\tilde{T}\colon X/M \to Y は有界で ∥T~∥=∥T∥\lVert \tilde{T} \rVert = \lVert T \rVert である(∥Tx∥=∥T(x−m)∥≤∥T∥∥x−m∥\lVert Tx \rVert = \lVert T(x - m) \rVert \leq \lVert T \rVert \lVert x - m \rVert で下限をとる)。

例 1.26 ℓ∞/c0\ell^\infty / c_0 の商ノルムは ∥[x]∥=lim sup⁡n→∞∣xn∣\lVert [x] \rVert = \limsup_{n \to \infty} \lvert x_n \rvert で与えられる(問題 1.10)。「有限個の成分を無視した大きさ」が商ノルムである。

1.10 ノイマン級数と可逆作用素

T∈B(X,Y)T \in \mathcal{B}(X, Y) が可逆 (invertible) であるとは、TT が全単射で逆写像 T−1T^{-1} も有界であることをいう。第3章の有界逆写像定理により、X,YX, Y がバナッハ空間なら全単射であるだけで逆写像は自動的に有界になる。

実数の等比級数 1/(1−t)=∑n≥0tn1/(1 - t) = \sum_{n \geq 0} t^n (∣t∣<1\lvert t \rvert < 1)の作用素版が次の定理である。

定理 1.27(ノイマン級数, Neumann series)XX をバナッハ空間、T∈B(X)T \in \mathcal{B}(X) とし、∑n=0∞∥Tn∥<∞\sum_{n=0}^\infty \lVert T^n \rVert < \infty (例えば ∥T∥<1\lVert T \rVert < 1)と仮定する。このとき I−TI - T は可逆で

(I−T)−1=∑n=0∞Tn(B(X) のノルムで収束)(I - T)^{-1} = \sum_{n=0}^\infty T^n \qquad (\mathcal{B}(X) \text{ のノルムで収束})

である。特に ∥T∥<1\lVert T \rVert < 1 ならば ∥(I−T)−1∥≤1/(1−∥T∥)\lVert (I - T)^{-1} \rVert \leq 1/(1 - \lVert T \rVert)。

証明. 定理 1.18 より B(X)\mathcal{B}(X) はバナッハ空間なので、定理 1.12 から絶対収束級数 ∑Tn\sum T^n はある R∈B(X)R \in \mathcal{B}(X) に収束する。部分和 RN=∑n=0NTnR_N = \sum_{n=0}^N T^n について (I−T)RN=RN(I−T)=I−TN+1(I - T) R_N = R_N (I - T) = I - T^{N+1} であり、収束級数の項は 0 に近づくから ∥TN+1∥→0\lVert T^{N+1} \rVert \to 0。N→∞N \to \infty として (I−T)R=R(I−T)=I(I - T)R = R(I - T) = I を得る。∥T∥<1\lVert T \rVert < 1 のときは ∥R∥≤∑n∥T∥n=1/(1−∥T∥)\lVert R \rVert \leq \sum_n \lVert T \rVert^n = 1/(1 - \lVert T \rVert)。□\square

例 1.28(ヴォルテラ型積分方程式)Δ={(s,t)∣0≤t≤s≤1}\Delta = \lbrace (s,t) \mid 0 \leq t \leq s \leq 1 \rbrace 上の連続関数 kk で ∣k∣≤M\lvert k \rvert \leq M となるものをとり、C[0,1]C[0,1] 上の作用素 (Ku)(s)=∫0sk(s,t)u(t) dt(Ku)(s) = \int_0^s k(s,t) u(t)\ dt を考える(kk の一様連続性から KuKu は連続)。帰納法により

∣(Knu)(s)∣≤Mnsnn!∥u∥∞\lvert (K^n u)(s) \rvert \leq \frac{M^n s^n}{n!} \lVert u \rVert_\infty

が成り立つ。実際、nn で成り立てば ∣(Kn+1u)(s)∣≤∫0sM⋅Mntnn!∥u∥∞ dt=Mn+1sn+1(n+1)!∥u∥∞\lvert (K^{n+1}u)(s) \rvert \leq \int_0^s M \cdot \frac{M^n t^n}{n!} \lVert u \rVert_\infty\ dt = \frac{M^{n+1} s^{n+1}}{(n+1)!} \lVert u \rVert_\infty。したがって任意の λ∈K\lambda \in \mathbb{K} に対し ∑n∥(λK)n∥≤∑n(∣λ∣M)n/n!=e∣λ∣M<∞\sum_n \lVert (\lambda K)^n \rVert \leq \sum_n (\lvert \lambda \rvert M)^n / n! = e^{\lvert \lambda \rvert M} < \infty であり、定理 1.27 から方程式

u(s)−λ∫0sk(s,t)u(t) dt=f(s)u(s) - \lambda \int_0^s k(s,t) u(t)\,dt = f(s)

はすべての λ\lambda と f∈C[0,1]f \in C[0,1] に対してただ一つの解 u=∑nλnKnfu = \sum_n \lambda^n K^n f をもち、解は ff に連続に依存する。∥λK∥<1\lVert \lambda K \rVert < 1 とは限らない λ\lambda でも使えることに注意する。積分の上端が ss でなく 11 のフレドホルム型の方程式では、一般の λ\lambda に対してこの議論は使えず、第5章のフレドホルム理論が必要になる。

定理 1.29(可逆作用素の集合は開集合)X,YX, Y をバナッハ空間とし、可逆な作用素全体を G(X,Y)⊂B(X,Y)\mathcal{G}(X, Y) \subset \mathcal{B}(X, Y) とする。T∈G(X,Y)T \in \mathcal{G}(X, Y) かつ ∥S−T∥<1/∥T−1∥\lVert S - T \rVert < 1/\lVert T^{-1} \rVert ならば S∈G(X,Y)S \in \mathcal{G}(X, Y) であり、

∥S−1−T−1∥≤∥T−1∥2∥S−T∥1−∥T−1∥∥S−T∥\lVert S^{-1} - T^{-1} \rVert \leq \frac{\lVert T^{-1} \rVert^2 \lVert S - T \rVert}{1 - \lVert T^{-1} \rVert \lVert S - T \rVert}

が成り立つ。特に G(X,Y)\mathcal{G}(X, Y) は開集合で、T↦T−1T \mapsto T^{-1} は G(X,Y)\mathcal{G}(X, Y) 上で連続である。

証明. A:=T−1(T−S)∈B(X)A := T^{-1}(T - S) \in \mathcal{B}(X) とおくと ∥A∥≤∥T−1∥∥S−T∥<1\lVert A \rVert \leq \lVert T^{-1} \rVert \lVert S - T \rVert < 1 であり、S=T−(T−S)=T(I−A)S = T - (T - S) = T(I - A) と書ける。定理 1.27 より I−AI - A は B(X)\mathcal{B}(X) で可逆なので、SS は全単射で S−1=(I−A)−1T−1S^{-1} = (I - A)^{-1} T^{-1} は有界である。さらに

S−1−T−1=((I−A)−1−I)T−1=∑n=1∞An T−1S^{-1} - T^{-1} = \bigl((I - A)^{-1} - I\bigr) T^{-1} = \sum_{n=1}^\infty A^n\, T^{-1}

なので ∥S−1−T−1∥≤∥A∥1−∥A∥∥T−1∥\lVert S^{-1} - T^{-1} \rVert \leq \frac{\lVert A \rVert}{1 - \lVert A \rVert} \lVert T^{-1} \rVert。t↦t/(1−t)t \mapsto t/(1-t) は [0,1)[0,1) で単調増加なので、∥A∥≤∥T−1∥∥S−T∥\lVert A \rVert \leq \lVert T^{-1} \rVert \lVert S - T \rVert を代入して主張の評価を得る。□\square

有限次元では可逆行列の集合 {A∣det⁡A≠0}\lbrace A \mid \det A \neq 0 \rbrace が開集合であることは行列式の連続性から従った。無限次元には行列式がないので、ノイマン級数がその役割を果たす。定理 1.29 は第6章で「スペクトルは閉集合である」ことの証明に使われる。

まとめ

  • ノルム空間は距離空間であり、完備なものをバナッハ空間という。ℓp\ell^p, c0c_0, C(K)C(K), Ck[a,b]C^k[a,b], LpL^p はバナッハ空間、c00c_{00} や L1L^1 ノルムを入れた C[0,1]C[0,1] は完備でない。
  • 完備性の証明は「成分ごとの極限 → 有限和で評価 → ノルム収束」の 3 段階で行う。
  • ノルム空間が完備であることと、絶対収束級数がすべて収束することは同値である。
  • 線形作用素の連続性と有界性は同値である。YY が完備なら B(X,Y)\mathcal{B}(X, Y) は完備で、特に双対空間 X∗X^{\ast} は常にバナッハ空間である。
  • 有限次元ではすべてのノルムが同値で、線形写像はすべて有界、有界閉集合はコンパクトである。
  • 無限次元では、同値でないノルム、非有界作用素(微分作用素)、単射だが全射でない作用素(シフト)が現れる。
  • リースの補題により、閉単位球がコンパクトであることと有限次元であることは同値である。
  • 閉部分空間による商空間は商ノルムでノルム空間になり、元の空間が完備なら完備である。
  • ∑∥Tn∥<∞\sum \lVert T^n \rVert < \infty ならば I−TI - T はノイマン級数で逆をもつ。可逆作用素の集合は開集合で、逆をとる写像は連続である。

演習問題

問題 1.1 ★ 1≤p<q≤∞1 \leq p < q \leq \infty のとき ℓp⊊ℓq\ell^p \subsetneq \ell^q であり、∥x∥q≤∥x∥p\lVert x \rVert_q \leq \lVert x \rVert_p が成り立つことを示せ。

解答

q=∞q = \infty のときは ∣xn∣≤∥x∥p\lvert x_n \rvert \leq \lVert x \rVert_p から明らか。q<∞q < \infty とし、x≠0x \neq 0 に対し y=x/∥x∥py = x / \lVert x \rVert_p とおくと ∥y∥p=1\lVert y \rVert_p = 1 なので各 ∣yn∣≤1\lvert y_n \rvert \leq 1、よって ∣yn∣q≤∣yn∣p\lvert y_n \rvert^q \leq \lvert y_n \rvert^p。和をとって ∥y∥qq≤1\lVert y \rVert_q^q \leq 1、すなわち ∥x∥q≤∥x∥p\lVert x \rVert_q \leq \lVert x \rVert_p。包含が真であることは xn=n−1/px_n = n^{-1/p} を考えればよい:∑nn−q/p<∞\sum_n n^{-q/p} < \infty (q/p>1q/p > 1)だが ∑nn−1=∞\sum_n n^{-1} = \infty。

なお、有限測度空間 [0,1][0,1] 上の LpL^p では包含の向きが逆(Lq[0,1]⊂Lp[0,1]L^q[0,1] \subset L^p[0,1])になる(06-measure-integration 第4章)。数列空間では「小さい値」が、[0,1][0,1] 上では「大きい値」が可積分性を左右するからである。

問題 1.2 ★ a∈ℓ∞a \in \ell^\infty と 1≤p≤∞1 \leq p \leq \infty に対し、ℓp\ell^p 上の掛け算作用素 Max=(anxn)nM_a x = (a_n x_n)_n の作用素ノルムが ∥a∥∞\lVert a \rVert_\infty であることを示せ。

解答

∣anxn∣≤∥a∥∞∣xn∣\lvert a_n x_n \rvert \leq \lVert a \rVert_\infty \lvert x_n \rvert より ∥Max∥p≤∥a∥∞∥x∥p\lVert M_a x \rVert_p \leq \lVert a \rVert_\infty \lVert x \rVert_p なので ∥Ma∥≤∥a∥∞\lVert M_a \rVert \leq \lVert a \rVert_\infty。逆に Maen=anenM_a e_n = a_n e_n から ∥Ma∥≥∣an∣\lVert M_a \rVert \geq \lvert a_n \rvert がすべての nn で成り立つので、上限をとって ∥Ma∥≥∥a∥∞\lVert M_a \rVert \geq \lVert a \rVert_\infty。

問題 1.3 ★ c00c_{00} は ℓp\ell^p (1≤p<∞1 \leq p < \infty)および c0c_0 の中で稠密であることを示せ。また ℓ∞\ell^\infty における c00c_{00} の閉包は c0c_0 であることを示せ。

解答

x∈ℓpx \in \ell^p に対し x(N)=(x1,…,xN,0,0,… )∈c00x^{(N)} = (x_1, \dots, x_N, 0, 0, \dots) \in c_{00} とおくと ∥x−x(N)∥pp=∑n>N∣xn∣p→0\lVert x - x^{(N)} \rVert_p^p = \sum_{n > N} \lvert x_n \rvert^p \to 0 (収束級数の末尾)。x∈c0x \in c_0 なら ∥x−x(N)∥∞=sup⁡n>N∣xn∣→0\lVert x - x^{(N)} \rVert_\infty = \sup_{n > N} \lvert x_n \rvert \to 0。ℓ∞\ell^\infty における閉包について:c0c_0 は閉(命題 1.6)で c00c_{00} を含むから閉包は c0c_0 に含まれ、上で示したように c00c_{00} は c0c_0 で稠密だから閉包は c0c_0 を含む。特に (1,1,1,… )(1, 1, 1, \dots) は c00c_{00} の元で近似できない。

問題 1.4 ★★ C1[0,1]C^1[0,1] はノルム ∥f∥C1=∥f∥∞+∥f′∥∞\lVert f \rVert_{C^1} = \lVert f \rVert_\infty + \lVert f' \rVert_\infty でバナッハ空間であることを示せ。

解答

(fn)(f_n) を C1C^1 ノルムのコーシー列とすると、(fn)(f_n) と (fn′)(f_n') はともに C[0,1]C[0,1] の一様ノルムでコーシー列なので、定理 1.8 からある f,g∈C[0,1]f, g \in C[0,1] に一様収束する。微分積分学の基本定理より fn(t)=fn(0)+∫0tfn′(s) dsf_n(t) = f_n(0) + \int_0^t f_n'(s)\ ds であり、一様収束なので積分と極限が交換できて f(t)=f(0)+∫0tg(s) dsf(t) = f(0) + \int_0^t g(s)\ ds。gg は連続なので f∈C1[0,1]f \in C^1[0,1] かつ f′=gf' = g。よって ∥fn−f∥C1=∥fn−f∥∞+∥fn′−g∥∞→0\lVert f_n - f \rVert_{C^1} = \lVert f_n - f \rVert_\infty + \lVert f_n' - g \rVert_\infty \to 0。

問題 1.5 ★★ k∈C([0,1]2)k \in C([0,1]^2) とし、C[0,1]C[0,1] 上の積分作用素 (Kf)(s)=∫01k(s,t)f(t) dt(Kf)(s) = \int_0^1 k(s,t) f(t)\ dt を考える。∥K∥=max⁡s∈[0,1]∫01∣k(s,t)∣ dt\lVert K \rVert = \max_{s \in [0,1]} \int_0^1 \lvert k(s,t) \rvert\ dt を示せ。

解答

≤\leq は例 1.16 で示した。ϕ(s)=∫01∣k(s,t)∣ dt\phi(s) = \int_0^1 \lvert k(s,t) \rvert\ dt は(kk の一様連続性から)連続なので、ある s0s_0 で最大値をとる。ε>0\varepsilon > 0 に対し

fε(t)=k(s0,t)‾∣k(s0,t)∣+εf_\varepsilon(t) = \frac{\overline{k(s_0, t)}}{\lvert k(s_0, t) \rvert + \varepsilon}

とおくと fε∈C[0,1]f_\varepsilon \in C[0,1]、∥fε∥∞≤1\lVert f_\varepsilon \rVert_\infty \leq 1 である。r=∣k(s0,t)∣r = \lvert k(s_0, t) \rvert とすると r2/(r+ε)≥r−εr^2/(r + \varepsilon) \geq r - \varepsilon (r2≥r2−ε2r^2 \geq r^2 - \varepsilon^2 より)なので

∥K∥≥∣(Kfε)(s0)∣=∫01∣k(s0,t)∣2∣k(s0,t)∣+ε dt≥ϕ(s0)−ε\lVert K \rVert \geq \lvert (K f_\varepsilon)(s_0) \rvert = \int_0^1 \frac{\lvert k(s_0,t) \rvert^2}{\lvert k(s_0,t) \rvert + \varepsilon}\,dt \geq \phi(s_0) - \varepsilon

ε→0\varepsilon \to 0 として ∥K∥≥ϕ(s0)\lVert K \rVert \geq \phi(s_0)。(sgn⁡\operatorname{sgn} のような不連続関数を使わず、連続関数で近似するのが要点である。)

問題 1.6 ★★ C[0,1]C[0,1] 上で ∥f∥1≤∥f∥∞\lVert f \rVert_1 \leq \lVert f \rVert_\infty が成り立つが、2 つのノルムは同値でないことを示せ。また線形汎関数 δ0(f)=f(0)\delta_0(f) = f(0) は一様ノルムに関して連続だが、L1L^1 ノルムに関して連続でないことを示せ。

解答

∥f∥1=∫01∣f∣≤max⁡∣f∣\lVert f \rVert_1 = \int_0^1 \lvert f \rvert \leq \max \lvert f \rvert は明らか。fn(t)=max⁡(0,1−nt)f_n(t) = \max(0, 1 - nt) とおくと ∥fn∥∞=1\lVert f_n \rVert_\infty = 1、∥fn∥1=1/(2n)\lVert f_n \rVert_1 = 1/(2n) なので、∥f∥∞≤C∥f∥1\lVert f \rVert_\infty \leq C \lVert f \rVert_1 となる定数 CC は存在せず、同値でない。∣δ0(f)∣≤∥f∥∞\lvert \delta_0(f) \rvert \leq \lVert f \rVert_\infty なので一様ノルムでは ∥δ0∥≤1\lVert \delta_0 \rVert \leq 1。一方 δ0(fn)=1\delta_0(f_n) = 1 で ∥fn∥1→0\lVert f_n \rVert_1 \to 0 だから、L1L^1 ノルムでは有界でない。

問題 1.7 ★★ ヴォルテラ作用素 (Vf)(s)=∫0sf(t) dt(Vf)(s) = \int_0^s f(t)\ dt を C[0,1]C[0,1] 上で考える。

  1. (Vnf)(s)=∫0s(s−t)n−1(n−1)!f(t) dt(V^n f)(s) = \int_0^s \frac{(s-t)^{n-1}}{(n-1)!} f(t)\ dt を示し、∥Vn∥=1/n!\lVert V^n \rVert = 1/n! を導け。
  2. すべての λ∈K\lambda \in \mathbb{K} について I−λVI - \lambda V が可逆であることを示し、(I−λV)−1(I - \lambda V)^{-1} を積分作用素として具体的に表せ。
解答
  1. n=1n = 1 は定義そのもの。nn で成り立てば、フビニの定理(連続関数なので累次積分の順序交換)により
(Vn+1f)(s)=∫0s∫0u(u−t)n−1(n−1)!f(t) dt du=∫0sf(t)∫ts(u−t)n−1(n−1)! du dt=∫0s(s−t)nn!f(t) dt(V^{n+1} f)(s) = \int_0^s \int_0^u \frac{(u-t)^{n-1}}{(n-1)!} f(t)\,dt\,du = \int_0^s f(t) \int_t^s \frac{(u-t)^{n-1}}{(n-1)!}\,du\,dt = \int_0^s \frac{(s-t)^n}{n!} f(t)\,dt

よって ∣(Vnf)(s)∣≤∥f∥∞∫0s(s−t)n−1(n−1)! dt=∥f∥∞sn/n!\lvert (V^n f)(s) \rvert \leq \lVert f \rVert_\infty \int_0^s \frac{(s-t)^{n-1}}{(n-1)!}\ dt = \lVert f \rVert_\infty s^n / n! から ∥Vn∥≤1/n!\lVert V^n \rVert \leq 1/n!。f=1f = 1 で (Vn1)(s)=sn/n!(V^n 1)(s) = s^n/n! なので等号が成り立つ。

  1. ∑n∥(λV)n∥=∑n∣λ∣n/n!<∞\sum_n \lVert (\lambda V)^n \rVert = \sum_n \lvert \lambda \rvert^n / n! < \infty なので定理 1.27 から I−λVI - \lambda V は可逆。項別に計算すると(級数は一様収束するので積分と交換できる)
(I−λV)−1f(s)=f(s)+∑n=1∞λn∫0s(s−t)n−1(n−1)!f(t) dt=f(s)+λ∫0seλ(s−t)f(t) dt(I - \lambda V)^{-1} f(s) = f(s) + \sum_{n=1}^\infty \lambda^n \int_0^s \frac{(s-t)^{n-1}}{(n-1)!} f(t)\,dt = f(s) + \lambda \int_0^s e^{\lambda (s-t)} f(t)\,dt

∥V∥=1\lVert V \rVert = 1 なので ∣λ∣≥1\lvert \lambda \rvert \geq 1 では ∥λV∥<1\lVert \lambda V \rVert < 1 が成り立たないが、それでも逆が存在する。これは μ≠0\mu \neq 0 ならば μI−V=μ(I−μ−1V)\mu I - V = \mu(I - \mu^{-1} V) が可逆であること、すなわち(VV は全射でないので 0∈σ(V)0 \in \sigma(V) と合わせて)VV のスペクトルが {0}\lbrace 0 \rbrace であることを意味する(第6章)。

問題 1.8 ★★ 無限次元ノルム空間 XX には非有界な線形汎関数が存在することを示せ(ハメル基底の存在を用いてよい)。さらに、線形汎関数 f≠0f \neq 0 について、ff が連続であることと ker⁡f\ker f が閉であることは同値であることを示し、非有界な線形汎関数の核は XX で稠密であることを導け。

解答

ハメル基底(代数的な基底){bα}α∈A\lbrace b_\alpha \rbrace_{\alpha \in A} をとり(00-foundations 第6章)、∥bα∥=1\lVert b_\alpha \rVert = 1 と正規化する。AA は無限集合なので相異なる α1,α2,…\alpha_1, \alpha_2, \dots がとれる。f(bαn)=nf(b_{\alpha_n}) = n、他の α\alpha では f(bα)=0f(b_\alpha) = 0 と定めて線形に拡張すると、∣f(bαn)∣=n\lvert f(b_{\alpha_n}) \rvert = n なので非有界である。

ff が連続なら ker⁡f=f−1(0)\ker f = f^{-1}(0) は閉。逆に ker⁡f\ker f が閉とし、f(x0)=1f(x_0) = 1 となる x0x_0 をとる。d=d(x0,ker⁡f)>0d = d(x_0, \ker f) > 0 である。f(x)≠0f(x) \neq 0 なる xx に対し x0−x/f(x)∈ker⁡fx_0 - x/f(x) \in \ker f だから ∥x∥/∣f(x)∣=∥x0−(x0−x/f(x))∥≥d\lVert x \rVert / \lvert f(x) \rvert = \lVert x_0 - (x_0 - x/f(x)) \rVert \geq d、すなわち ∣f(x)∣≤d−1∥x∥\lvert f(x) \rvert \leq d^{-1} \lVert x \rVert。よって ff は有界。

ff が非有界なら ker⁡f\ker f は閉でない。ker⁡f‾\overline{\ker f} は ker⁡f\ker f を真に含む部分空間であり、ker⁡f\ker f は余次元 1(X=ker⁡f⊕Kx0X = \ker f \oplus \mathbb{K} x_0)なので、ker⁡f‾=X\overline{\ker f} = X である。

問題 1.9 ★★★ ℓp\ell^p (1≤p<∞1 \leq p < \infty)と c0c_0 は可分であるが、ℓ∞\ell^\infty は可分でないことを示せ。

解答

成分がすべて有理数(K=C\mathbb{K} = \mathbb{C} なら実部・虚部が有理数)の c00c_{00} の元全体 DD は可算集合である。問題 1.3 より c00c_{00} は ℓp\ell^p と c0c_0 で稠密であり、c00c_{00} の各元は DD の元で(有限個の成分を近似して)いくらでも近似できるので、DD も稠密である。

ℓ∞\ell^\infty については、各部分集合 A⊂NA \subset \mathbb{N} に対し定義関数 1A∈ℓ∞\mathbf{1}_A \in \ell^\infty を考えると、A≠BA \neq B ならば ∥1A−1B∥∞=1\lVert \mathbf{1}_A - \mathbf{1}_B \rVert_\infty = 1。P(N)\mathcal{P}(\mathbb{N}) は非可算なので、半径 1/21/2 の開球 B(1A,1/2)B(\mathbf{1}_A, 1/2) は非可算個あって互いに交わらない。稠密集合はそれぞれの開球と交わるので非可算である。

問題 1.10 ★★★ ℓ∞/c0\ell^\infty / c_0 の商ノルムについて ∥[x]∥=lim sup⁡n→∞∣xn∣\lVert [x] \rVert = \limsup_{n \to \infty} \lvert x_n \rvert を示せ。

解答

m∈c0m \in c_0 に対し ∣xn∣≤∣xn−mn∣+∣mn∣\lvert x_n \rvert \leq \lvert x_n - m_n \rvert + \lvert m_n \rvert で mn→0m_n \to 0 だから、lim sup⁡n∣xn∣≤lim sup⁡n∣xn−mn∣≤∥x−m∥∞\limsup_n \lvert x_n \rvert \leq \limsup_n \lvert x_n - m_n \rvert \leq \lVert x - m \rVert_\infty。mm について下限をとり lim sup⁡n∣xn∣≤∥[x]∥\limsup_n \lvert x_n \rvert \leq \lVert [x] \rVert。逆に m(N)=(x1,…,xN,0,0,… )∈c0m^{(N)} = (x_1, \dots, x_N, 0, 0, \dots) \in c_0 とすると ∥x−m(N)∥∞=sup⁡n>N∣xn∣\lVert x - m^{(N)} \rVert_\infty = \sup_{n > N} \lvert x_n \rvert であり、N→∞N \to \infty でこれは lim sup⁡n∣xn∣\limsup_n \lvert x_n \rvert に収束する。よって ∥[x]∥≤lim sup⁡n∣xn∣\lVert [x] \rVert \leq \limsup_n \lvert x_n \rvert。

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