この章の目標
- ベールのカテゴリー定理を使って「一般の位置にある元」の存在を示す議論を理解する
- 一様有界性原理(バナッハ–シュタインハウスの定理)を証明し、連続関数でフーリエ級数が発散するものの存在を示せる
- 開写像定理・有界逆写像定理・閉グラフ定理を証明し、ノルムの比較や作用素の有界性の判定に使える
- どの定理でも完備性が本質的であることを反例で説明できる
前提:第1章、第2章、03-topology 第7章
3.1 完備性から何が引き出せるか
有限次元では、次の 3 つは線形代数からほぼ自明に従った。
- 線形写像の族が各点で有界なら、行列成分が有界なので一様に有界である。
- 線形写像が全単射なら逆写像も線形であり、(有限次元なので)連続である。
- 線形写像はすべて連続である。
無限次元ではどれも無条件には成り立たない。本章の 3 つの基本原理――一様有界性原理、開写像定理、閉グラフ定理――は、空間の完備性を仮定すれば、これらの代わりになる主張が成り立つことを示す。証明の鍵はいずれもベールのカテゴリー定理であり、「完備距離空間は可算個の『薄い』集合の和にはならない」という位相的事実が線形性と結びついて強力な結論を生む。
3.2 ベールのカテゴリー定理
定理 3.1(ベールのカテゴリー定理, Baire category theorem)完備距離空間 X の稠密な開集合の列 (Un) について、⋂nUn は X で稠密である。同値な言い換えとして、X=⋃nFn(各 Fn は閉集合)ならば、ある Fn は内点をもつ。
証明.(03-topology 第7章の復習)空でない開集合 W が ⋂nUn と交わることを示す。U1∩W は空でない開集合なので、閉球 B(x1,r1)⊂U1∩W(0<r1<1)がとれる。帰納的に B(xn,rn)⊂Un∩B(xn−1,rn−1), 0<rn<1/n ととる(Un が稠密な開集合なので可能)。m≥n なら xm∈B(xn,rn) なので (xn) はコーシー列で、極限 x は各 B(xn,rn) に属する。よって x∈W∩⋂nUn。後半は Un=X∖Fn に前半を適用すればよい。□
定義 3.2 距離空間 X の部分集合 A の閉包が内点をもたないとき、A は疎 (nowhere dense) であるという。可算個の疎な集合の和を第一類集合 (first category set, meager set)、第一類でない集合を第二類集合という。第一類集合の補集合を剰余集合 (residual set) という。
ベールの定理は「完備距離空間では剰余集合は稠密(特に空でない)」と言い換えられる。そこで、ある性質をもつ元の存在を示すには、その性質をもたない元の集合が第一類であることを示せばよい。構成的に例を作るのが難しい場合でも、この方法で「ほとんどすべての元」がその性質をもつことが示せる。
例 3.3(ハメル基底は非可算)無限次元バナッハ空間 X は可算なハメル基底をもたない。実際、{e1,e2,…} がハメル基底なら X=⋃nFn, Fn=span{e1,…,en} となる。Fn は有限次元なので閉であり(系 1.21)、真部分空間なので内点をもたない(部分空間が球 B(x,r) を含めば、平行移動と拡大により全体を含む)。これはベールの定理に反する。特に、c00 や多項式全体の空間には、どんなノルムを入れても完備にならない。
3.3 一様有界性原理
定理 3.4(一様有界性原理, uniform boundedness principle/バナッハ–シュタインハウスの定理)X をバナッハ空間、Y をノルム空間、F⊂B(X,Y) とする。すべての x∈X で supT∈F∥Tx∥<∞ ならば、supT∈F∥T∥<∞。
対偶の形で、より強く次が成り立つ:supT∈F∥T∥=∞ ならば、supT∈F∥Tx∥=∞ となる x の全体は X の剰余集合(特に稠密)である。
証明. Fn={x∈X∣∥Tx∥≤n (∀T∈F)} とおく。各 T は連続なので Fn は閉集合の共通部分として閉である。ある FN が閉球 B(x0,r)(r>0)を含むとすると、∥z∥≤r なる z と T∈F について
∥Tz∥≤∥T(x0+z)∥+∥Tx0∥≤2N
なので ∥T∥≤2N/r。したがって supT∥T∥=∞ ならば、どの Fn も内点をもたず、{x∣supT∥Tx∥<∞}=⋃nFn は第一類集合である。その補集合は剰余集合であり、ベールの定理により稠密である。特に各点有界性(⋃nFn=X)の仮定のもとでは supT∥T∥<∞ でなければならない。□
系 3.5 X をバナッハ空間、Y をノルム空間とし、Tn∈B(X,Y) がすべての x で Tx:=limnTnx をもつとする。このとき T∈B(X,Y) で、supn∥Tn∥<∞, ∥T∥≤liminfn∥Tn∥。
証明. 収束列は有界なので F={Tn} は各点有界であり、定理 3.4 より supn∥Tn∥<∞。T の線形性は明らかで、∥Tx∥=limn∥Tnx∥≤liminfn∥Tn∥∥x∥。□
すべての x で Tnx→Tx となることを強収束 (strong convergence)、∥Tn−T∥→0 をノルム収束(一様収束)という。
例 3.6
- (強収束はノルム収束より弱い)ℓ2 上で PN を最初の N 成分への直交射影とすると、各 x で ∥x−PNx∥2=∑n>N∣xn∣2→0 だが、(I−PN)eN+1=eN+1 より ∥I−PN∥=1。左シフトのべき Ln も ∥Lnx∥2=∑k>n∣xk∣2→0 で強収束するが、∥Ln∥=1(Lnen+1=e1)。有限次元では強収束とノルム収束は同値である。
- (完備性は必要)c00 に一様ノルムを入れ、fn(x)=nxn とおく。各 x∈c00 について n が大きければ fn(x)=0 なので {fn} は各点有界だが、∥fn∥=n である。
系 3.7 H をヒルベルト空間とする。A⊂H がすべての y∈H について supx∈A∣⟨x,y⟩∣<∞ を満たすならば、A は有界である。特に、すべての y で ⟨xn,y⟩ が収束する列 (xn) は有界である。
証明. x∈A に対し fx=⟨⋅,x⟩∈H∗ とおくと、∣fx(y)∣=∣⟨x,y⟩∣ なので族 {fx}x∈A はバナッハ空間 H 上で各点有界である。定理 3.4 とリースの表現定理(∥fx∥=∥x∥)より supx∈A∥x∥<∞。□
一般のノルム空間での同様の主張(弱有界な集合は有界)は、ハーン–バナッハの定理を使って第4章で示す。
3.4 応用:フーリエ級数が発散する連続関数
C(T) を R 上の 2π 周期連続関数の全体とし、一様ノルムを入れる(C[−π,π] の閉部分空間 {f∣f(−π)=f(π)} と同一視でき、バナッハ空間である)。f のフーリエ部分和
SNf(x)=n=−N∑Nf^(n)einx,f^(n)=2π1∫−ππf(t)e−int dt
は、f が C1 級なら一様に f に収束する(08-differential-equations 第6章)。連続なだけではどうだろうか。
定理 3.8(デュ・ボア=レーモン)フーリエ級数が x=0 で発散する f∈C(T) が存在する。さらに、supN∣SNf(0)∣=∞ となる f の全体は C(T) の剰余集合である。
証明. ディリクレ核 DN(t)=∑n=−NNeint を使うと SNf(0)=2π1∫−ππf(t)DN(t) dt である(DN は実数値の偶関数)。DN(t)⋅2isin(t/2)=∑n=−NN(ei(n+1/2)t−ei(n−1/2)t)=2isin((N+21)t) より、t∈/2πZ で
DN(t)=sin(t/2)sin((N+21)t)
ΛNf:=SNf(0) は C(T) 上の有界線形汎関数である。そのノルムがルベーグ定数 LN:=2π1∫−ππ∣DN(t)∣ dt に等しいことを示す。∣ΛNf∣≤LN∥f∥∞ は明らか。逆に fj=DN/(∣DN∣+1/j)∈C(T) とおくと ∥fj∥∞≤1 で、DN の零点(有限個)以外で fjDN→∣DN∣ だから、優収束定理により ΛNfj→LN。よって ∥ΛN∥=LN。
次に LN→∞ を示す。∣sin(t/2)∣≤∣t∣/2 と DN の偶性、変数変換 u=(N+21)t により
LN≥π2∫0πt∣sin((N+21)t)∣ dt=π2∫0(N+21)πu∣sinu∣ du≥π2k=1∑Nkπ1∫(k−1)πkπ∣sinu∣ du=π24k=1∑Nk1
であり、右辺は N→∞ で発散する。定理 3.4 の後半により、supN∣ΛNf∣=∞ となる f の全体は剰余集合であり、そのような f のフーリエ級数は 0 で発散する。□
補足
この証明は発散する関数を具体的に構成しない。それでも「ほとんどすべての」連続関数(剰余集合の意味で)のフーリエ級数が 0 で発散することを示している。平行移動を考え、可算個の剰余集合の共通部分をとれば、有理数点すべてで発散する連続関数の存在もわかる。一方、フーリエ級数は L2 ノルムでは常に収束し(例 2.18)、さらに L2 関数のフーリエ級数はほとんど至るところ収束する(カールソンの定理、1966 年。証明は非常に難しい)。
3.5 開写像定理と有界逆写像定理
有限次元では全単射な線形写像の逆写像は自動的に連続であった。無限次元では、逆写像が存在しても非有界になりうる(C[0,1] 上の恒等写像を一様ノルムから L1 ノルムへの写像とみれば、有界な全単射だが逆は非有界:問題 1.6)。これを排除するのが両側の空間の完備性である。
定理 3.9(開写像定理, open mapping theorem)X,Y をバナッハ空間とし、T∈B(X,Y) が全射であるとする。このとき T は開写像である。より正確には、ある δ>0 について T(BX(0,1))⊃BY(0,δ) となる(B(0,r) は開球)。
証明. 第 1 段:T(BX(0,1)) が 0 のまわりの球を含むことを示す。T は全射なので Y=⋃nT(BX(0,n))。ベールの定理より、ある n で T(BX(0,n)) は球 B(y0,ε) を含む。この集合は凸かつ対称(y を含めば −y も含む)なので、∥y∥<ε ならば y0+y と −(y0−y) をともに含み、その中点 y も含む。よって BY(0,ε)⊂T(BX(0,n))。η=ε/n とおけば、拡大縮小により、すべての r>0 で
BY(0,ηr)⊂T(BX(0,r))
第 2 段:閉包を外す。∥y∥<η/2 とする。第 1 段(r=1/2)から x1∈BX(0,1/2) を ∥y−Tx1∥<η/4 となるようにとれる。y−Tx1∈BY(0,η/4) に第 1 段(r=1/4)を適用して x2∈BX(0,1/4) を ∥y−Tx1−Tx2∥<η/8 となるようにとる。以下同様に ∥xk∥<2−k, ∥y−T(x1+⋯+xk)∥<η2−k−1 となる xk がとれる。∑k∥xk∥≤∥x1∥+∑k≥22−k<1/2+1/2=1 なので、定理 1.12 により x=∑kxk が収束して ∥x∥<1、T の連続性から Tx=y。よって δ=η/2 とおけば BY(0,δ)⊂T(BX(0,1))。
開写像であること:U⊂X が開で x∈U なら B(x,r)⊂U となる r>0 があり、T(U)⊃Tx+T(B(0,r))⊃B(Tx,δr)。□
系 3.10(有界逆写像定理, bounded inverse theorem)X,Y をバナッハ空間、T∈B(X,Y) を全単射とすると、T−1∈B(Y,X) である。
証明. 定理 3.9 の δ について、∥y∥<δ ならば ∥T−1y∥<1。よって y=0 に対し 0<δ′<δ として δ′y/∥y∥ に適用すれば ∥T−1y∥≤∥y∥/δ′。δ′→δ として ∥T−1∥≤1/δ。□
特に、バナッハ空間上の T∈B(X) について「λI−T が全単射」と「λI−T が有界な逆をもつ」は同値である。第6章でスペクトルを定義するときにこの事実を使う。
系 3.11(ノルムの比較)ベクトル空間 X が 2 つのノルム ∥⋅∥1,∥⋅∥2 のどちらについても完備であり、∥x∥2≤C∥x∥1 が成り立つならば、2 つのノルムは同値である。
証明. 恒等写像 (X,∥⋅∥1)→(X,∥⋅∥2) は有界な全単射なので、系 3.10 により逆も有界である。□
例 3.12(値域が閉でない単射)ℓ2 上の対角作用素 Tx=(xn/n)n は有界な単射で、値域は c00 を含むので稠密だが、全射ではない((1/n)n=Tx となる x は (1,1,…)∈/ℓ2)。RanT 上で定義された逆 T−1y=(nyn)n は非有界である(T−1en=nen)。系 3.10 と矛盾しないのは RanT が完備でないからである。一般に、有界な単射 T の値域が閉であることと、∥Tx∥≥c∥x∥ となる c>0 が存在することは同値である(問題 3.4)。
3.6 閉グラフ定理
作用素 T の連続性を示すには、「xn→x ならば Txn→Tx」を示す必要がある。閉グラフ定理によれば、完備な空間の間では、Txn が収束すると仮定してよい。
定義 3.13 X,Y をノルム空間とし、X×Y にノルム ∥(x,y)∥=∥x∥+∥y∥ を入れる(X,Y が完備なら X×Y も完備)。線形写像 T:X→Y のグラフ (graph) G(T)={(x,Tx)∣x∈X} が X×Y の閉集合であるとき、T は閉 (closed) であるという。これは「xn→x かつ Txn→y ならば y=Tx」と同値である。
定理 3.14(閉グラフ定理, closed graph theorem)X,Y をバナッハ空間とし、線形写像 T:X→Y のグラフが閉であるとする。このとき T は有界である。
証明. G(T) はバナッハ空間 X×Y の閉部分空間なのでバナッハ空間である。射影 π:G(T)→X, (x,Tx)↦x は有界な全単射なので、系 3.10 により逆 x↦(x,Tx) も有界である。すなわち ∥x∥+∥Tx∥≤C∥x∥ となる C があり、∥Tx∥≤C∥x∥。□
系 3.15(ヘリンガー–テプリッツの定理, Hellinger–Toeplitz theorem)ヒルベルト空間 H 全体で定義された線形写像 T:H→H が、すべての x,y∈H で ⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩ を満たすならば、T は有界である。
証明. xn→x, Txn→z とすると、すべての y で ⟨z,y⟩=limn⟨Txn,y⟩=limn⟨xn,Ty⟩=⟨x,Ty⟩=⟨Tx,y⟩ なので z=Tx。閉グラフ定理を適用すればよい。□
例 3.16(閉作用素の予告)C[0,1](一様ノルム)の部分空間 C1[0,1] 上で微分 D=d/dt を考える。fn→f かつ fn′→g(ともに一様収束)ならば f∈C1 で f′=g である(01-calculus 第6章)から、D のグラフは C[0,1]×C[0,1] で閉である。しかし例 1.17 で見たとおり D は非有界である。閉グラフ定理と矛盾しないのは、定義域 C1[0,1] が一様ノルムで完備でないからである。
系 3.15 と合わせると、量子力学に現れる非有界な「対称」作用素(運動量 −i d/dx や位置 x の掛け算)は、ヒルベルト空間全体では定義できない。稠密な部分空間を定義域とする閉作用素を扱う必要があり、これが第7章の出発点になる。
3.7 3 つの原理の比較
| 原理 |
仮定 |
結論 |
完備性がないときの反例 |
| 一様有界性原理 |
X がバナッハ空間 |
各点有界 ⇒ 一様有界 |
c00 上の fn(x)=nxn(例 3.6) |
| 開写像定理 |
X,Y がバナッハ空間 |
全射な有界作用素は開写像 |
恒等写像 (C[0,1],∥⋅∥∞)→(C[0,1],∥⋅∥1) |
| 閉グラフ定理 |
X,Y がバナッハ空間 |
グラフが閉 ⇒ 有界 |
C1[0,1]⊂C[0,1] 上の微分(例 3.16) |
3 つの原理は互いに導き合う関係にあり(閉グラフ定理は開写像定理から導いた。逆に閉グラフ定理から開写像定理を導くこともできる)、すべての根はベールの定理にある。ベールの定理は「存在」を示す道具でもあり、定理 3.8 のように、具体的な構成が難しい対象(フーリエ級数が発散する連続関数、至るところ微分不可能な連続関数など)が「一般的には」存在することを示すのに使われる。
まとめ
- ベールのカテゴリー定理:完備距離空間では可算個の稠密開集合の共通部分は稠密である。これにより無限次元バナッハ空間のハメル基底は非可算である。
- 一様有界性原理:バナッハ空間上の有界作用素の族が各点有界なら一様有界である。有界作用素列の強収束極限は有界である。
- 強収束はノルム収束より弱い(PN→I, Ln→0 は強収束するがノルム収束しない)。
- ディリクレ核の L1 ノルム(ルベーグ定数)が発散することから、フーリエ級数が 1 点で発散する連続関数が「一般的に」存在する。
- 開写像定理:バナッハ空間の間の有界な全射は開写像である。系として、有界な全単射の逆は有界であり、完備な 2 つのノルムは一方が他方で押さえられれば同値である。
- 閉グラフ定理:バナッハ空間の間でグラフが閉な線形写像は有界である。その系として、全体で定義された対称作用素は有界である(ヘリンガー–テプリッツ)。
- どの原理でも完備性は本質的であり、定義域が完備でない微分作用素は「閉だが非有界」になりうる。これが非有界作用素論(第7章)の出発点である。
演習問題
問題 3.1 ★ ℓ2 上の右シフト S について、Sn は 0 に強収束しないが、すべての x,y で ⟨Snx,y⟩→0 となることを示せ。
解答
S は等長なので ∥Snx∥=∥x∥ で、x=0 なら Snx→0。一方 ⟨Snx,y⟩=⟨x,Lny⟩(S∗=L)であり、例 3.6 より ∥Lny∥→0 なので ∣⟨Snx,y⟩∣≤∥x∥∥Lny∥→0。Sn は 0 に弱収束するが強収束しない。
問題 3.2 ★ 多項式全体のなす空間 K[t] には、それを完備にするノルムが存在しないことを示せ。
解答
{1,t,t2,…} は可算なハメル基底である。どんなノルムで完備にしても、例 3.3 と同様に Fn=span{1,…,tn} は内点をもたない閉集合で、K[t]=⋃nFn がベールの定理に反する。
問題 3.3 ★★ 数列 a=(an) について、すべての x∈c0 で級数 ∑nanxn が収束するならば a∈ℓ1 であることを示せ。
解答
fN(x)=∑n=1Nanxn は c0 上の有界線形汎関数で、∥fN∥=∑n=1N∣an∣ である(≤ は明らか。an=0 なら xn=an/∣an∣、そうでなければ xn=0 として n≤N の成分だけをもつ x を考えれば等号)。仮定より各 x で (fN(x))N は収束するので有界であり、定理 3.4 により supN∑n=1N∣an∣<∞、すなわち a∈ℓ1。
問題 3.4 ★★ X,Y をバナッハ空間、T∈B(X,Y) を単射とする。RanT が閉であるための必要十分条件は、ある c>0 ですべての x について ∥Tx∥≥c∥x∥ となることであることを示せ。
解答
RanT が閉ならバナッハ空間で、T:X→RanT は有界な全単射なので、系 3.10 により逆が有界:∥x∥≤∥T−1∥∥Tx∥。逆に不等式が成り立つとし、Txn→y とすると ∥xn−xm∥≤c−1∥Txn−Txm∥ より (xn) はコーシー列で、極限 x について Tx=y。よって値域は閉である。例 3.12 の Tx=(xn/n) は ∥Ten∥=1/n なので不等式を満たさず、値域は閉でない。
問題 3.5 ★★ バナッハ空間 X が閉部分空間 M,N の代数的な直和 X=M⊕N であるとき、x=m+n に m を対応させる射影 P は有界であることを示せ。
解答
M×N(ノルム ∥m∥+∥n∥)はバナッハ空間で、Φ(m,n)=m+n は M×N→X の有界な全単射である。系 3.10 より Φ−1 も有界なので、∥Px∥≤∥m∥+∥n∥≤∥Φ−1∥∥x∥。閉グラフ定理を使って、xk→x, Pxk→m のとき m=Px を示すこともできる(xk−Pxk∈N が x−m に収束し、M,N が閉なので m∈M, x−m∈N)。
問題 3.6 ★★ (Ω,μ) を σ-有限測度空間、φ を可測関数とし、すべての f∈L2(Ω,μ) で φf∈L2(Ω,μ) となるとする。Mφf=φf は有界であり、φ∈L∞ となることを示せ。
解答
閉グラフ定理を使う。fn→f, φfn→g(L2)とすると、部分列をとって fnk→f, φfnk→g がほとんど至るところ成り立つので g=φf a.e.。よって Mφ は有界である。∣φ∣>∥Mφ∥+ε となる集合が正測度をもつとすると、σ-有限性からその中に 0<μ(E)<∞ となる E がとれ、f=1E に対し ∥φf∥2>(∥Mφ∥+ε)∥f∥2 となって矛盾。よって ∥φ∥∞≤∥Mφ∥。
問題 3.7 ★★ X をバナッハ空間、Y をノルム空間とし、Tn,T∈B(X,Y) がすべての x で Tnx→Tx を満たすとする。(1) xn→x ならば Tnxn→Tx を示せ。(2) K⊂X がコンパクトならば supx∈K∥Tnx−Tx∥→0 を示せ。
解答
系 3.5 より C:=supn∥Tn∥<∞。(1) ∥Tnxn−Tx∥≤∥Tn∥∥xn−x∥+∥Tnx−Tx∥≤C∥xn−x∥+∥Tnx−Tx∥→0。(2) ε>0 に対し、K の有限個の点 x1,…,xm で K⊂⋃jB(xj,ε) となるものをとる。n が大きければすべての j で ∥Tnxj−Txj∥<ε。x∈K に対し ∥x−xj∥<ε となる j を選べば、∥Tnx−Tx∥≤(C+∥T∥)ε+ε。
問題 3.8 ★★★ L1(T) を 2π 周期の可積分関数の空間(ノルム ∥f∥1=2π1∫−ππ∣f∣ dt)とする。フーリエ係数をとる写像 Ff=(f^(n))n∈Z は L1(T) から c0(Z) への有界な単射だが、全射でないことを示せ。単射性(一意性定理)は認めてよい。
解答
∣f^(n)∣≤∥f∥1 なので F は ℓ∞(Z) への有界作用素である。三角多項式 g では g^(n) は有限個を除いて 0 で、三角多項式は L1(T) で稠密(連続周期関数が L1 で稠密で、それが三角多項式で一様近似できる)なので、∥f^−g^∥∞≤∥f−g∥1 から f^∈c0(リーマン–ルベーグの補題)。
全射だとすると、系 3.10 により ∥f∥1≤C∥f^∥∞ となる C がある。f=DN とすると D^N(n) は ∣n∣≤N で 1、それ以外で 0 なので ∥D^N∥∞=1。一方 ∥DN∥1=LN→∞(定理 3.8 の証明)。これは矛盾である。したがって、c0(Z) の元で、どんな可積分関数のフーリエ係数にもならないものが存在する。