この章の目標
- 閉作用素・可閉作用素・共役作用素を理解し、微分作用素について計算できる
- 対称作用素と自己共役作用素の違いを、−i d/dt の境界条件の例で説明できる
- 自己共役性の基本判定法を証明し、掛け算作用素などに適用できる
- ストーンの定理とヒレ–吉田の定理の主張を理解し、熱方程式・シュレディンガー方程式の解を作用素の指数関数として表せる
前提:第2章、第3章、第6章、06-measure-integration 第7章(絶対連続関数)
7.1 なぜ非有界作用素か
量子力学では、位置は L2(R) 上の掛け算作用素 (Qf)(x)=xf(x)、運動量は P=−i d/dx で表され、正準交換関係 PQ−QP=−iI を満たす。しかし有界作用素ではこれは実現できない。
命題 7.1(ヴィーラント–ヴィントナー, Wielandt–Wintner)ノルム空間 X={0} 上の P,Q∈B(X) が PQ−QP=cI を満たせば、c=0 である。
証明. c=0 とする。帰納法で PQn−QnP=ncQn−1(n≥1)が示せる。Qm=0 となる m≥1 があれば、この式から順に Qm−1=⋯=Q0=I=0 となり矛盾。そうでなければ n∣c∣∥Qn−1∥≤2∥P∥∥Q∥∥Qn−1∥ から、すべての n で n∣c∣≤2∥P∥∥Q∥ となり矛盾。□
ヘリンガー–テプリッツの定理(系 3.15)により、ヒルベルト空間全体で定義された対称作用素は有界なので、P や Q は稠密な部分空間上でしか定義できない。また熱方程式 ut=Δu を u′=Au とみて u(t)=etAu0 と解きたいが、A=Δ は非有界なので ∑ntnAn/n! は意味をもたない。本章では、定義域を明示して非有界作用素を扱う方法と、etA の構成(作用素半群)を学ぶ。
7.2 閉作用素
定義 7.2 X,Y をバナッハ空間とする。部分空間 D(T)⊂X(定義域, domain)上の線形写像 T:D(T)→Y を作用素といい、D(T) が稠密なとき稠密に定義されている (densely defined) という。G(S)⊂G(T) のとき S⊂T(T は S の拡張)と書く。S=T は定義域も等しいことを意味する。グラフ G(T)={(x,Tx)∣x∈D(T)} が X×Y で閉のとき閉 (closed) といい、G(T) がある作用素のグラフになるとき可閉 (closable) といって、その作用素を閉包 T と書く。D(T) 上のグラフノルムを ∥x∥T=∥x∥+∥Tx∥ と定める。
命題 7.3 (1) T が閉であることと、(D(T),∥⋅∥T) がバナッハ空間であることは同値である。(2) T が閉で単射なら T−1:RanT→X は閉である。
証明. (1) x↦(x,Tx) は (D(T),∥⋅∥T) から G(T) への等長全単射であり、G(T) が完備であることと閉であることは同値である(命題 1.4)。(2) G(T−1) は G(T) の成分を入れ替えたものである。□
複素バナッハ空間 X 上の閉作用素 T について、λI−T:D(T)→X が全単射となる λ の全体をレゾルベント集合 ρ(T)、その補集合をスペクトル σ(T) という。このとき (λI−T)−1 は命題 7.3 の (2) により閉で、X 全体で定義されているので、閉グラフ定理(定理 3.14)により有界である。
微分作用素を扱うため、g∈L2[0,1] によって u(t)=u(0)+∫0tg と書ける u∈C[0,1] の全体を H1(0,1)⊂L2[0,1] とし、u′:=g とおく。06-measure-integration 第7章 の定理 7.14 により、これは a.e. の導関数 u′ が L2 に属する絶対連続関数の全体である。
補題 7.4 u∈H1(0,1) ならば maxt∣u(t)∣≤∥u∥2+∥u′∥2 である。L2[0,1] 上の作用素 u↦u′(定義域 H1(0,1))は閉であり、u↦u(0) と u↦u(1) はグラフノルムについて連続である。
証明. u(t)=u(s)+∫stu′ より ∣u(t)∣≤∣u(s)∣+∥u′∥1 で、s について積分して ∣u(t)∣≤∥u∥1+∥u′∥1≤∥u∥2+∥u′∥2。グラフノルムのコーシー列 (un) はこの評価からある u∈C[0,1] に一様収束し、un′→g(L2)となる g がある。un(t)=un(0)+∫0tun′ で極限をとれば u∈H1, u′=g であり、un→u(グラフノルム)。命題 7.3 の (1) から閉である。□
例 7.5(可閉でない作用素)D(T)=C[0,1]⊂L2[0,1] 上で Tf=f(0)1(1 は定数関数)とおく。fn(t)=max(0,1−nt) は ∥fn∥2→0 を満たすが Tfn=1 なので (0,1)∈G(T) となり、T は可閉でない。
7.3 共役作用素
定義 7.6(共役作用素, adjoint)T をヒルベルト空間 H 上の稠密に定義された作用素とする。x↦⟨Tx,y⟩ が D(T) 上で有界となる y の全体を D(T∗) とする。リースの表現定理と D(T) の稠密性から、⟨Tx,y⟩=⟨x,z⟩(x∈D(T))を満たす z がただ一つ存在する。T∗y=z と定め、T∗ を T の共役作用素という。
命題 7.7 T を稠密に定義された作用素とする。
- T∗ は閉である。また S⊂T ならば T∗⊂S∗。
- T が可閉であることと D(T∗) が稠密であることは同値で、このとき T=T∗∗。
- kerT∗=(RanT)⊥。また B∈B(H) なら (T+B)∗=T∗+B∗。
証明. ヒルベルト空間 H×H 上のユニタリ作用素 J(a,b)=(−b,a) を考える。(y,z)∈G(T∗) ⇔ すべての x∈D(T) で ⟨(x,Tx),(−z,y)⟩=0 ⇔ J(y,z)∈G(T)⊥ なので、J−1=−J と合わせて
G(T∗)=(JG(T))⊥
1:直交補空間は閉だから T∗ は閉である。後半は G(S)⊂G(T) から従う。2:J はユニタリで J2=−I だから JG(T∗)=(J2G(T))⊥=G(T)⊥ である。D(T∗) が稠密なら T∗∗ が定義され、G(T∗∗)=(JG(T∗))⊥=G(T)⊥⊥=G(T)。逆に 0=w⊥D(T∗) があれば、(0,w) は JG(T∗)={(−T∗y,y)∣y∈D(T∗)} に直交するので (0,w)∈G(T)⊥⊥=G(T) となり、T は可閉でない。3:y∈kerT∗ ⇔ すべての x∈D(T) で ⟨Tx,y⟩=0 ⇔ y⊥RanT。また ⟨(T+B)x,y⟩=⟨Tx,y⟩+⟨x,B∗y⟩ から後半が従う。□
7.4 対称作用素と自己共役作用素
定義 7.8 稠密に定義された作用素 T が T⊂T∗、すなわち ⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩(x,y∈D(T))を満たすとき対称 (symmetric)、T=T∗(定義域も一致)のとき自己共役 (self-adjoint) という。
対称作用素は D(T∗)⊃D(T) が稠密なので可閉で、T⊂T=T∗∗⊂T∗。自己共役作用素は閉である。非有界な場合、D(T∗) は D(T) より真に大きくなりえ、その差は境界条件に現れる。
例 7.9(−i d/dt と境界条件)H=L2[0,1] で、次の作用素を考える(いずれも u↦−iu′)。
D(Tmax)D(Tα)=H1(0,1),D(T0)={u∈H1(0,1)∣u(0)=u(1)=0},={u∈H1(0,1)∣u(1)=αu(0)}(α∈C, ∣α∣=1)
T0⊂Tα⊂Tmax であり、補題 7.4 よりいずれも閉である(境界値はグラフノルムについて連続)。このとき
T0∗=Tmax,Tmax∗=T0,Tα∗=Tα
が成り立つ。したがって T0 は閉な対称作用素だが自己共役でなく、Tα(∣α∣=1)は T0 の相異なる自己共役拡張であり、Tmax は対称でない。
証明. 絶対連続関数の部分積分(06-measure-integration 第7章 問題 7.5)により、u,v∈H1(0,1) について
⟨−iu′,v⟩−⟨u,−iv′⟩=−i(u(1)v(1)−u(0)v(0))(1)
u∈D(T0) なら (1) の右辺は 0 なので Tmax⊂T0∗。逆に v∈D(T0∗), w=T0∗v とし、W(t)=∫0tw とおく。u∈D(T0) に対し、部分積分と u(0)=u(1)=0 から ⟨u,w⟩=−⟨u′,W⟩ なので、−i⟨u′,v⟩=⟨u,w⟩=−⟨u′,W⟩、すなわち ⟨u′,v−iW⟩=0。ここで {u′∣u∈D(T0)}={g∈L2∣∫01g=0}={1}⊥ だから、v−iW∈{1}⊥⊥=C1。よって v=iW+c∈H1 で −iv′=w、すなわち T0∗⊂Tmax。T0 は閉なので、命題 7.7 の 2 より Tmax∗=T0∗∗=T0。
u,v∈D(Tα) なら (1) の右辺は −i(∣α∣2−1)u(0)v(0)=0 なので Tα⊂Tα∗。逆に T0⊂Tα より Tα∗⊂T0∗=Tmax で、v∈D(Tα∗), u∈D(Tα) について (1) の左辺は 0 だから u(0)(αv(1)−v(0))=0。u(t)=1+(α−1)t とすれば v(0)=αv(1)、すなわち v(1)=αv(0) となり、v∈D(Tα)。□
例 7.10(スペクトル)eλ(t)=eiλt は −ieλ′=λeλ を満たす。
- Tmax ではすべての λ が固有値である。T0−λI は単射だが(u(0)=0 と解の一意性)、命題 7.7 の 3 より Ran(T0−λI)⊥=ker(Tmax−λˉI)=Ceλˉ なので σ(T0)=σ(Tmax)=C。
- α=eiθ なら σ(Tα)=θ+2πZ で、すべて固有値である(問題 7.2)。
- D(T)={u∈H1∣u(0)=0}, Tu=−iu′ とすると、任意の λ∈C と f∈L2 について (T−λI)u=f はただ一つの解 u(t)=i∫0teiλ(t−s)f(s) ds をもつので、σ(T)=∅ である。
このように閉作用素のスペクトルは空にも C 全体にもなりうるが、自己共役作用素ではそうならない。系 7.12 により σ(T)⊂R であり、H={0} なら σ(T)=∅ であることも定理 7.15 と問題 7.3 からわかる(本質的値域は空でない)。
7.5 自己共役性の判定法
D(T∗) を例 7.9 のように決定するのは一般には難しい。次の判定法は、自己共役性を方程式 (T±iI)u=f の可解性に帰着させる。
定理 7.11(自己共役性の基本判定法)T を対称作用素とする。次は同値である。
- T は自己共役である。
- T は閉で、ker(T∗+iI)=ker(T∗−iI)={0}。
- Ran(T+iI)=Ran(T−iI)=H。
証明. x∈D(T) なら ⟨Tx,x⟩∈R なので ⟨Tx,±ix⟩ は純虚数であり、
∥(T±iI)x∥2=∥Tx∥2+∥x∥2(2)
1 ⇒ 2:自己共役作用素は閉である。T∗x=ix なら Tx=ix で、i∥x∥2=⟨Tx,x⟩∈R から x=0。−i も同様。
2 ⇒ 3:命題 7.7 の 3 より Ran(T+iI)⊥=ker(T∗−iI)={0} なので、値域は稠密である。(T+iI)xn→y とすると、式 (2) から (xn) と (Txn) はコーシー列で xn→x, Txn→z となり、T が閉だから x∈D(T), Tx=z, y=(T+iI)x。よって値域は閉で、H に等しい。T−iI も同様。
3 ⇒ 1:D(T∗)⊂D(T) を示せばよい。y∈D(T∗) に対し、仮定から (T−iI)x=(T∗−iI)y となる x∈D(T) がある。T⊂T∗ より (T∗−iI)(y−x)=0 で、ker(T∗−iI)=Ran(T+iI)⊥={0} だから y=x∈D(T)。□
系 7.12 T が自己共役ならば σ(T)⊂R であり、Imλ=0 のとき ∥(T−λI)−1∥≤1/∣Imλ∣。
証明. λ=α+iβ(β=0)なら T−λI=β(S−iI)、S=(T−αI)/β で、S は自己共役だから定理 7.11 と式 (2) を S に適用すればよい。□
例 7.13(掛け算作用素)(Ω,μ) を σ-有限測度空間、φ を実数値可測関数とし、D(Mφ)={f∈L2∣φf∈L2}, Mφf=φf とおく。優収束定理により f1{∣φ∣≤n}→f なので定義域は稠密であり、φ が実数値だから対称である。g∈L2 に対し f=g/(φ±i) は ∣f∣≤∣g∣, ∣φf∣≤∣g∣ を満たすので、f∈D(Mφ) かつ (Mφ±iI)f=g。定理 7.11 より Mφ は自己共役である。
L2(R) のフーリエ変換 F はユニタリで(プランシュレルの定理、18-pde 第2章)、u′(ξ)=iξu^(ξ) を満たすので、運動量作用素 P=F−1MξF(滑らかで急減少する u では Pu=−iu′)は自己共役である。同様に、Rd 上の −Δ=F−1M∣ξ∣2F も自己共役である。
補足
閉対称作用素 T の不足指数 (deficiency indices) n±=dimker(T∗∓iI) について、T が自己共役拡張をもつための必要十分条件は n+=n− である(フォン・ノイマン、主張のみ)。例 7.9 の T0 では ker(Tmax∓iI) が e∓t で張られて n+=n−=1 であり、自己共役拡張は Tα(∣α∣=1)で尽くされる。
7.6 ケイリー変換・スペクトル定理・ストーンの定理
R を単位円周に写す λ↦(λ−i)/(λ+i) を作用素に適用すると、自己共役作用素をユニタリ作用素に変換できる。
定理 7.14(ケイリー変換, Cayley transform)T が自己共役ならば、U=(T−iI)(T+iI)−1 はユニタリで、I−U は単射、Ran(I−U)=D(T)、T=i(I+U)(I−U)−1 である。逆に、I−U が単射なユニタリ作用素 U からこの式で定まる T は自己共役である。
前半は、定理 7.11 と式 (2) から U:(T+iI)x↦(T−iI)x が全射な等長作用素であることと、(I−U)(T+iI)x=2ix, (I+U)(T+iI)x=2Tx から従う。後半は主張のみとする。
ケイリー変換 U に定理 6.35 を適用して z↦i(1+z)/(1−z) で引き戻すと、次が得られる。
定理 7.15(非有界自己共役作用素のスペクトル定理)H を可分なヒルベルト空間、T を自己共役作用素とする。有限測度空間 (Z,μ)、a.e. で有限な実数値可測関数 φ、ユニタリ作用素 U:H→L2(Z,μ) で、定義域を含めて UTU−1=Mφ(例 7.13)となるものが存在する。
主張のみとする(射影値測度による表示 T=∫Rλ dE(λ) も成り立つ)。ボレル関数 f に対し f(T)=U−1Mf∘φU と定めれば(関数計算)、f が有界なら f(T)∈B(H) であり、例えば eitT はユニタリである。
定理 7.16(ストーンの定理, Stone's theorem)T を自己共役作用素とすると、U(t)=eitT は強連続 1 径数ユニタリ群(各 U(t) はユニタリ、U(0)=I, U(s+t)=U(s)U(t) で、各 x について t↦U(t)x は連続)である。さらに、極限 limt→0(U(t)x−x)/t が存在することと x∈D(T) は同値で、そのとき極限は iTx に等しい。逆に、任意の強連続 1 径数ユニタリ群はただ一つの自己共役作用素 T によってこの形に書ける。
前半は定理 7.15 により T=Mφ の場合に帰着する。f∈D(Mφ) なら ∣(eitφ−1)f/t∣≤∣φf∣ と優収束定理から (eitφ−1)f/t→iφf(L2)であり、逆にこの商が L2 で g に収束すれば、a.e. 収束する部分列を考えて g=iφf となり φf∈L2 である。後半の証明の骨格は問題 7.6 で扱う。
量子力学では、ハミルトニアン A による時間発展 ψ(t)=e−itAψ0 がシュレディンガー方程式 iψ′=Aψ を解き、∥ψ(t)∥=∥ψ0∥(確率の保存)を満たす。ストーンの定理によれば、確率を保存する時間発展を与えるのは自己共役作用素であり、単なる対称作用素ではない。自己共役拡張の選び方(例 7.9 の α)が時間発展を決める。
7.7 C0 半群とヒレ–吉田の定理
熱方程式の時間発展は t≥0 でしか定義されず、ノルムも保存されない。そこでユニタリ群を次のように一般化する。
定義 7.17 バナッハ空間 X 上の有界作用素の族 (T(t))t≥0 が T(0)=I, T(t+s)=T(t)T(s) を満たし、各 x で limt↓0T(t)x=x となるとき、C0 半群 (C0-semigroup) という。Ax=limt↓0(T(t)x−x)/t(この極限が存在する x の全体を D(A) とする)で定まる作用素 A を生成作用素 (generator) という。すべての t で ∥T(t)∥≤1 のとき縮小半群という。
C0 半群について、(i) ある M≥1, ω∈R で ∥T(t)∥≤Meωt(一様有界性原理による)、(ii) A は稠密に定義された閉作用素、(iii) x∈D(A) なら u(t)=T(t)x は u′=Au, u(0)=x のただ一つの解、が成り立つ(証明は Brezis や Yosida の本を参照)。この意味で T(t) は「etA」であり、A が有界なら T(t)=∑ntnAn/n! である。
定理 7.18(ヒレ–吉田の定理, Hille–Yosida theorem)バナッハ空間上の作用素 A が縮小 C0 半群の生成作用素であるための必要十分条件は、A が稠密に定義された閉作用素で、(0,∞)⊂ρ(A) かつすべての λ>0 で ∥(λI−A)−1∥≤1/λ となることである。
証明の概略. 必要性:R(λ)x=∫0∞e−λtT(t)x dt が (λI−A)−1 を与え、∥R(λ)∥≤∫0∞e−λt dt=1/λ。十分性:吉田近似 Aλ=λA(λI−A)−1=λ2(λI−A)−1−λI は有界で、x∈D(A) なら Aλx→Ax(λ→∞)。∥etAλ∥≤e−λtetλ2∥(λI−A)−1∥≤1 であり、Aλ たちは互いに可換なので、esAλe(t−s)Aμx を s で微分して積分すれば ∥etAλx−etAμx∥≤t∥Aλx−Aμx∥。よって T(t)x=limλ→∞etAλx が(まず D(A) 上で、次に全体で)存在し、これが求める縮小半群になる。□
系 7.19 ヒルベルト空間上の自己共役作用素 T が T≥0(⟨Tx,x⟩≥0, x∈D(T))を満たせば、−T は縮小 C0 半群を生成する。
証明. λ>0 なら λ∥x∥2≤⟨(λI+T)x,x⟩≤∥(λI+T)x∥∥x∥ なので、λI+T は下に有界で値域は閉(T は閉)。Ran(λI+T)⊥=ker(λI+T)={0} より全射で、∥(λI+T)−1∥≤1/λ。定理 7.18 を A=−T に適用すればよい(得られる半群は関数計算の e−tT に一致する)。□
7.8 応用:熱方程式とシュレディンガー方程式
[0,1] 上の熱方程式 ut=uxx, u(t,0)=u(t,1)=0, u(0,x)=f(x) を考える(08-differential-equations 第7章)。例 5.19 の正規直交基底 φn(x)=2sin(nπx) を用いて
D(L)={f∈L2[0,1]∣n∑n4∣⟨f,φn⟩∣2<∞},Lf=n∑n2π2⟨f,φn⟩φn
とおく。L は ℓ2 上の対角作用素にユニタリ同値なので、例 7.13 から自己共役で L≥0 である。f∈C2[0,1], f(0)=f(1)=0 なら 2 回の部分積分で ⟨−f′′,φn⟩=n2π2⟨f,φn⟩ となるので Lf=−f′′ であり、L はディリクレ境界条件つきの −d2/dx2 の自己共役な実現である。系 7.19 により
u(t)=e−tLf=n∑e−n2π2t⟨f,φn⟩φn(t≥0)
が解を与える。∥u(t)∥≤e−π2t∥f∥(指数的減衰)であり、f∈L2 にすぎなくても t>0 では u(t) は滑らかになる(平滑化:問題 7.5)。一方 etL は有界でないので、熱方程式は時間を逆向きには解けない。
同じ L について、ψ(t)=e−itLψ0=∑ne−in2π2t⟨ψ0,φn⟩φn は区間内の自由粒子のシュレディンガー方程式 iψ′=Lψ の解を与えるユニタリ群である。∥ψ(t)∥=∥ψ0∥(確率の保存)で、時間を逆向きにも解けるが、平滑化は起こらない(∣e−in2π2t∣=1)。Rd では etΔ はガウス核 (4πt)−d/2e−∣x∣2/(4t) との畳み込みになる(18-pde 第5章)。
まとめ
- 非有界作用素は定義域と組で扱う。閉作用素はグラフノルムで完備であり、微分作用素は H1 などの適切な定義域で閉になる。
- T∗ は常に閉で、T が可閉 ⇔ D(T∗) が稠密(このとき T=T∗∗)。
- 対称と自己共役は異なる。[0,1] 上の −i d/dt は境界条件によって、対称だが自己共役でない(T0)、自己共役(Tα)、対称でない(Tmax)のいずれにもなる。
- 対称作用素 T が自己共役 ⇔ Ran(T±iI)=H。掛け算作用素や運動量・ラプラシアンは自己共役で、スペクトルは R に含まれる。
- ケイリー変換によりスペクトル定理が非有界な場合に拡張され、ストーンの定理により強連続ユニタリ群 eitT と自己共役作用素 T が 1 対 1 に対応する。
- ヒレ–吉田の定理:縮小半群の生成作用素はレゾルベント評価 ∥(λI−A)−1∥≤1/λ で特徴づけられる。熱方程式は縮小半群、シュレディンガー方程式はユニタリ群で解かれる。
演習問題
問題 7.1 ★ 例 7.5 の作用素 T について、D(T∗)={1}⊥ かつ T∗=0 を示し、命題 7.7 の 2 と整合することを確かめよ。
解答
⟨Tf,g⟩=f(0)⟨1,g⟩ である。⟨1,g⟩=0 なら、例 7.5 の fn で ∥fn∥2→0, ∣⟨Tfn,g⟩∣=∣⟨1,g⟩∣ となるので g∈/D(T∗)。⟨1,g⟩=0 ならこの汎関数は 0 で T∗g=0。D(T∗) は稠密でないので、命題 7.7 の 2 からも T は可閉でない。
問題 7.2 ★★ 例 7.9 の Tα(α=eiθ)について、λ∈/θ+2πZ なら (Tα−λI)−1 は有界な核をもつ積分作用素であることを示し、σ(Tα)=θ+2πZ を導け。
解答
(Tα−λI)u=f は u′=iλu+if, u(1)=αu(0) と同値で、u(t)=eiλtu(0)+i∫0teiλ(t−s)f(s) ds と境界条件から u(0)=α−eiλi∫01eiλ(1−s)f(s) ds(eiλ=α)。代入すると u(t)=∫01k(t,s)f(s) ds、ただし
k(t,s)=α−eiλiαeiλ(t−s)(s<t),k(t,s)=α−eiλieiλ(t−s+1)(s>t)
この u は D(Tα) に属する唯一の解(eiλt は境界条件を満たさない)なので λ∈ρ(Tα) で、k は有界だからヒルベルト–シュミット作用素でありコンパクト(例 5.9)。λ∈θ+2πZ なら eλ は固有関数なので、σ(Tα)=θ+2πZ。
問題 7.3 ★★ 例 7.13 の Mφ について、σ(Mφ) は φ の本質的値域 {λ∈R∣∀ε>0, μ({∣φ−λ∣<ε})>0} に等しいことを示せ。これを用いて、運動量 P と Rd 上の −Δ のスペクトルを求めよ。
解答
λ が本質的値域に属さなければ、ある ε>0 で a.e. に ∣φ−λ∣≥ε なので、g↦g/(φ−λ) が有界な逆を与える。属するなら、σ-有限性から Bn⊂{∣φ−λ∣<1/n}, 0<μ(Bn)<∞ がとれ、fn=1Bn/μ(Bn)1/2 は ∥fn∥=1, ∥(Mφ−λI)fn∥≤1/n を満たすので、有界な逆は存在しない。ユニタリ同値はスペクトルを保つので、σ(P)=R(φ(ξ)=ξ)、σ(−Δ)=[0,∞)(φ(ξ)=∣ξ∣2)。
問題 7.4 ★★ f∈Cc∞(R) に対し Qf=xf, Pf=−if′ とおく。(PQ−QP)f=−if を示し、不確定性原理 ∥f∥2≤2∥Qf∥∥Pf∥ を導け。
解答
PQf=−i(xf)′=−if−ixf′, QPf=−ixf′ より (PQ−QP)f=−if。P,Q は Cc∞(R) 上で対称(部分積分)なので
−i∥f∥2=⟨(PQ−QP)f,f⟩=⟨Qf,Pf⟩−⟨Pf,Qf⟩=2iIm⟨Qf,Pf⟩
よって ∥f∥2=2∣Im⟨Qf,Pf⟩∣≤2∥Qf∥∥Pf∥。
問題 7.5 ★★ 7.8 節の熱半群について、u(t,x)=(e−tLf)(x) は (0,∞)×[0,1] で C∞ 級で、ut=uxx を満たすことを示せ。
解答
cn=⟨f,φn⟩ とおくと ∣cn∣≤∥f∥。t≥t0>0 で第 n 項 cne−n2π2tφn(x) の ∂tj∂xk は 2∥f∥(nπ)2j+ke−n2π2t0 以下で、その n についての和は有限だから、項別微分した級数はすべて一様収束し(01-calculus 第6章)、u は C∞ 級で、各項が ut=uxx を満たすから u も満たす。
問題 7.6 ★★★(ストーンの定理の後半)U(t) を強連続 1 径数ユニタリ群とし、極限 limt→0(U(t)x−x)/t が存在する x の全体を D(T)、その極限を iTx とおく。7.7 節の (i)〜(iii) を用いて示せ。(1) T は稠密に定義された閉な対称作用素である。(2) ker(T∗∓iI)={0}。(3) T は自己共役で、U(t)=eitT。
解答
(1) (U(t))t≥0 は C0 半群で、その生成作用素 A について、x∈D(A) なら −hU(−h)x−x=U(−h)hU(h)x−x→Ax(h↓0)なので D(T)=D(A), iT=A。(ii) より T は稠密に定義された閉作用素である。U(t)∗=U(−t) より、x,y∈D(T) で ⟨iTx,y⟩=limt→0⟨x,(U(−t)y−y)/t⟩=⟨x,−iTy⟩、すなわち ⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩。
(2) T∗y=iy とし、x∈D(T) に対し g(t)=⟨U(t)x,y⟩(t≥0)とおく。(iii) より g′(t)=⟨iTU(t)x,y⟩=i⟨U(t)x,T∗y⟩=g(t) なので g(t)=etg(0)。∣g∣≤∥x∥∥y∥ より ⟨x,y⟩=g(0)=0 で、D(T) は稠密だから y=0。T∗y=−iy なら h(t)=⟨U(−t)x,y⟩ について同様に h′=h となる。
(3) 定理 7.11 より T は自己共役。V(t)=eitT も生成作用素 iT をもつ(定理 7.16)ので、x∈D(T) なら U(t)x, V(t)x はともに u′=iTu, u(0)=x の解で、(iii) より一致する。稠密性から U(t)=V(t)(t≥0)で、逆元をとれば t<0 でも一致する。