この章の目標
- バナッハ空間値関数の空間 Lp(0,T;X) と、時間についての弱微分を理解する
- ガラーキン法により放物型方程式の弱解を構成し、エネルギー評価と一意性を示せる
- 熱方程式を作用素半群として定式化し、ヒレ–吉田の定理の仮定を確かめられる
- 放物型方程式の最大値原理、波動方程式のエネルギー保存と有限伝播速度を証明できる
- シュレディンガー方程式のユニタリ群・分散評価・ストリッカーツ評価の意味を説明できる
前提:第2章〜第4章、10-functional-analysis 第7章(ストーンの定理・ヒレ–吉田の定理)、08-differential-equations 第3章・第7章
5.1 関数空間に値をとる関数
熱方程式 ut=Δu を、時刻 t ごとの「空間の関数」u(t)=u(⋅,t) の時間発展と見れば、関数空間 X における常微分方程式 u′(t)=Δu(t) になる。Δ は非有界作用素なので、常微分方程式の理論(08-differential-equations 第3章)はそのままでは使えない。本章では二つの方法を扱う。
- エネルギー法とガラーキン法:有限次元の常微分方程式で近似し、エネルギー評価と弱コンパクト性で極限をとる。係数が時間に依存する問題や非線形問題にも使える。
- 作用素半群:u(t)=etΔu(0) を関数解析的に構成する(ヒレ–吉田の定理)。
どちらの方法でも、第4章の楕円型理論が土台になる。まず、関数空間に値をとる関数の空間を用意する。
定義 5.1(ボホナー空間)X をバナッハ空間、T>0 とする。単関数の a.e. 極限として表される関数 u:[0,T]→X(強可測関数)で、∥u∥Lp(0,T;X)=(∫0T∥u(t)∥Xpdt)1/p<∞(p=∞ では ess supt∥u(t)∥X<∞)となるものの全体を Lp(0,T;X) と書く。u,v∈L1(0,T;X) について、すべての φ∈Cc∞(0,T) に対し ∫0Tφ′(t)u(t) dt=−∫0Tφ(t)v(t) dt(X におけるボホナー積分)が成り立つとき、v を u の弱導関数といい u′=v と書く。
X がヒルベルト空間なら L2(0,T;X) もヒルベルト空間である。放物型方程式ではゲルファントの三つ組 H01(Ω)⊂L2(Ω)⊂H−1(Ω) を用いる:f∈L2(Ω) を汎関数 v↦(f,v) とみて H−1 の元と同一視し、H−1 と H01 の組を ⟨⋅,⋅⟩ と書く。
定理 5.2 (1) u∈Lp(0,T;X)、u′∈Lp(0,T;X)(1≤p≤∞)ならば、u は C([0,T];X) の元と a.e. で一致し、u(t)=u(s)+∫stu′(τ) dτ。
(2)(リオンス–マジェネス)Ω を有界開集合とし、u∈L2(0,T;H01(Ω))、u′∈L2(0,T;H−1(Ω)) とする。このとき u は C([0,T];L2(Ω)) の元と a.e. で一致し、t↦∥u(t)∥L22 は絶対連続で、a.e. の t で dtd∥u(t)∥L22=2⟨u′(t),u(t)⟩。
証明は Evans の第5章を参照。(2) は、u(t) 自身は H01 にしか、u′(t) は H−1 にしかなくても、両者の組が「ちょうど釣り合って」L2 ノルムの微分が計算できることを述べている。
5.2 放物型方程式の弱解:ガラーキン法
Ω を有界開集合、L を第4章の仮定 (A) をみたす作用素(係数は t によらない)、B を対応する双線形形式とし、
ut+Lu=f (Ω×(0,T)),u=0 (∂Ω×[0,T]),u=g (t=0)(5.1)
を考える。データは f∈L2(0,T;L2(Ω))、g∈L2(Ω) とする。滑らかな解に v∈H01 を掛けて x について部分積分すると (ut,v)+B[u,v]=(f,v) となる。各時刻で u(t)∈H01 ならば B[u(t),v] が意味をもち、ut=f−Lu は H−1 に属するのが自然である。
定義 5.3(弱解)u∈L2(0,T;H01(Ω))、u′∈L2(0,T;H−1(Ω)) が
- a.e. の t∈[0,T] とすべての v∈H01(Ω) について ⟨u′(t),v⟩+B[u(t),v]=(f(t),v)、
- u(0)=g(定理 5.2 (2) により u∈C([0,T];L2) なので意味をもつ)
をみたすとき、u を (5.1) の弱解という。
定理 5.4(弱解の存在と一意性)(5.1) の弱解はただ一つ存在し、第4章の定数 α,γ(定理 4.5)について
0≤t≤Tmax∥u(t)∥2≤e(2γ+1)T(∥g∥2+∫0T∥f∥2dt),θ∫0T∥u∥H12dt≤e(2γ+1)T(∥g∥2+∫0T∥f∥2dt)
および ∥u′(t)∥H−1≤∥f(t)∥+α∥u(t)∥H1(a.e. t)が成り立つ。ここで ∥⋅∥ は L2(Ω) のノルムである。
証明(詳しい概略). (i) ガラーキン近似. wk を −Δ のディリクレ固有関数(定理 4.10)とする。{wk} は L2(Ω) の正規直交基底で、(∇wk,∇wl)=λkδkl。um(t)=∑k=1mdmk(t)wk を
(um′,wk)+B[um,wk]=(f(t),wk),dmk(0)=(g,wk)(k=1,…,m)
で定める。これは定数係数の線形系 d′+Md=F(t)(Mkl=B[wl,wk]、Fk=(f(t),wk)∈L2(0,T))であり、d(t)=e−tMd(0)+∫0te−(t−s)MF(s) ds がただ一つの(絶対連続な)解である。
(ii) エネルギー評価. k 番目の式に dmk を掛けて和をとると 21dtd∥um∥2+B[um,um]=(f,um)。定理 4.5 の B[u,u]≥2θ∥u∥H12−γ∥u∥2 と 2(f,um)≤∥f∥2+∥um∥2 から
dtd∥um∥2+θ∥um∥H12≤κ∥um∥2+∥f∥2(κ=2γ+1)
e−κt を掛けて 0 から t まで積分し、∥um(0)∥≤∥g∥(ベッセルの不等式)を使うと、∥um(t)∥2+θ∫0t∥um∥H12≤eκT(∥g∥2+∫0T∥f∥2)(グロンウォールの不等式)。時間微分については、v∈H01 と Pmv=∑k≤m(v,wk)wk について ∥Pmv∥≤∥v∥、∥∇Pmv∥2=∑k≤mλk(v,wk)2≤∥∇v∥2(定理 4.10)だから ∥Pmv∥H1≤∥v∥H1 で、
(um′,v)=(um′,Pmv)=(f,Pmv)−B[um,Pmv],∥um′∥H−1≤∥f∥+α∥um∥H1
固有関数を基底に選んだのはこの評価のためである。以上から (um) は L2(0,T;H01) で、(um′) は L2(0,T;H−1) で有界である。
(iii) 極限. ヒルベルト空間の有界列なので、部分列について um⇀u(L2(0,T;H01))、um′⇀u♯(L2(0,T;H−1))と弱収束し、弱導関数の定義で極限をとれば u♯=u′。N を固定し、v(t)=∑k=1Nαk(t)wk(αk∈C1[0,T])とすると、m≥N で ∫0T(⟨um′,v⟩+B[um,v]) dt=∫0T(f,v) dt。弱極限をとると u についても同じ式が成り立ち、このような v は L2(0,T;H01) で稠密なので、定義 5.3 の 1 が a.e. の t で成り立つ。v(T)=0 となる v で時間について部分積分し、um(0)→g(L2)と比べると u(0)=g を得る。評価は弱極限でも保たれる(ノルムの弱下半連続性と、定理 5.2 (2) による u 自身のエネルギー等式)。
(iv) 一意性. f=0、g=0 の弱解 u について、定理 5.2 (2) と v=u(t) から dtd∥u∥2=−2B[u,u]≤2γ∥u∥2。∥u(0)∥=0 とグロンウォールの不等式より u≡0。□
5.3 半群による定式化
簡単のため L=−Δ とし、Ω は有界で境界が C2 級とする。X=L2(Ω) 上の作用素 A を
D(A)=H2(Ω)∩H01(Ω),Au=Δu
で定める。境界条件は定義域 D(A) に組み込まれている。
命題 5.6(熱半群)A は L2(Ω) 上の縮小 C0 半群 S(t)=etΔ を生成する。−Δ のディリクレ固有値・固有関数を λk, wk(定理 4.10)とすると
S(t)g=k=1∑∞e−λkt(g,wk)wk,∥S(t)g∥≤e−λ1t∥g∥,∥ΔS(t)g∥≤et1∥g∥(t>0)
証明. ヒレ–吉田の定理(10-functional-analysis 第7章 定理 7.18)の仮定を確かめる。D(A)⊃Cc∞(Ω) は稠密。λ>0、f∈L2 に対し、λu−Δu=f、u∈H01 はただ一つの弱解をもち(系 4.7 で c=λ)、境界正則性(定理 4.16)により u∈H2、すなわち u∈D(A) で (λ−A)u=f。よって λ−A:D(A)→L2 は全単射で、v=u を代入した λ∥u∥2+∥∇u∥2=(f,u) から ∥(λ−A)−1f∥≤∥f∥/λ。有界な逆をもつので A は閉作用素である。したがって A は縮小半群を生成する。wk∈D(A)、Awk=−λkwk なので e−λktwk は u′=Au、u(0)=wk の解であり、半群による解の一意性から S(t)wk=e−λktwk。線形性と連続性から展開式を得る。A は(グリーンの公式により)D(A) 上で対称なので、u∈D(A) について (Au,wk)=−λk(u,wk) であり
∥ΔS(t)g∥2=k∑λk2e−2λkt(g,wk)2≤(λ>0supλe−λt)2∥g∥2=(et)21∥g∥2
第 2 の評価も同様である。□
∥ΔS(t)g∥≤(et)−1∥g∥ は平滑化効果の定量的な表現である。同様に ∥ΔkS(t)g∥≤(k/(et))k∥g∥ となり、∂Ω が C∞ 級なら、境界正則性(定理 4.16)を繰り返し使って t>0 で S(t)g∈C∞(Ω) がわかる。−A は非負の自己共役作用素なので、系 7.19(同第7章)から直接に半群の生成を結論してもよい。非斉次方程式 u′=Au+f の解はデュアメルの公式 u(t)=S(t)g+∫0tS(t−s)f(s) ds で与えられ、これは定理 5.4 の弱解と一致する。
5.4 放物型方程式の最大値原理
Ω を有界開集合、ΩT=Ω×(0,T] とし、放物境界 ΓT=ΩT∖ΩT=(Ω×{0})∪(∂Ω×[0,T]) とおく。ΩT で u,∂iu,∂i∂ju,∂tu が連続な関数の全体を C2,1(ΩT) と書く。
定理 5.7(放物型の弱最大値原理)u∈C2,1(ΩT)∩C(ΩT) が ΩT で ut−Δu≤0 をみたすならば、maxΩTu=maxΓTu。
証明. まず ut−Δu<0 と仮定する。u が最大値を (x0,t0)∈ΩT でとったとすると、x0 は u(⋅,t0) の内部の最大点なので Δu(x0,t0)≤0。また 0<t0≤T で、t↦u(x0,t) は t0 で(t0=T なら左側から)最大なので ut(x0,t0)≥0。よって ut−Δu≥0 となり矛盾。一般の場合は ε>0 について v=u−εt とすると vt−Δv≤−ε<0 なので、maxΩTu≤maxΩTv+εT=maxΓTv+εT≤maxΓTu+εT。ε→0 とすればよい。□
系 5.8 u∈C2,1(ΩT)∩C(ΩT) が ut−Δu=f(f は有界)をみたすならば maxΩT∣u∣≤maxΓT∣u∣+Tsup∣f∣。特に、初期値・境界値問題の古典解は一意であり、データに一様ノルムで連続に依存する。
証明. v=±u−tsup∣f∣ は vt−Δv≤0 をみたし、ΓT 上で v≤maxΓT∣u∣。定理 5.7 を適用すればよい。□
1 次元の場合は 08-differential-equations 第7章 で扱った。さらに強最大値原理が成り立つ:Ω が連結で、u が最大値を (x0,t0)∈ΩT でとるならば、u は Ω×[0,t0] で定数である(主張のみ;Evans の第2章・第7章)。したがって、g≥0、g≡0、境界値 0 の熱方程式の解は、すべての t>0 で Ω 全体において正になる。熱は瞬時に全体に伝わる(無限の伝播速度)。
5.5 波動方程式
Ω を有界で境界が C1 級の開集合とし、utt−Δu=f を考える。エネルギーを
E(t)=21∫Ω(ut2+∣∇u∣2)dx
で定める(運動エネルギーと位置エネルギーの和)。
定理 5.9(エネルギー等式と一意性)u∈C2(Ω×[0,T]) が utt−Δu=f(Ω×(0,T) で)、u=0(∂Ω×[0,T] で)をみたすならば、E′(t)=∫Ωfut dx であり、
E(t)1/2≤E(0)1/2+21∫0t∥f(s)∥ds(0≤t≤T)
特に f=0 ならば E(t)=E(0)(エネルギー保存)。初期値・境界値問題の古典解は一意である。
証明. 積分記号下で微分し、ガウス–グリーンの公式を使うと
E′(t)=∫Ω(ututt+∇u⋅∇ut)dx=∫Ωut(utt−Δu)dx+∫∂Ωut∂νudS=∫Ωfutdx
(境界で u=0 だから ut=0)。E′≤∥f∥∥ut∥≤∥f∥2E より、ε>0 について dtdE+ε=2E+εE′≤2∥f∥。積分して ε→0 とすれば評価を得る。一意性:2 つの解の差は f=0、初期値 0 の解なので E≡0、よって ut=0、∇u=0 で、u≡0。□
同じエネルギー評価を用いて、ガラーキン法により弱解が構成できる:g∈H01(Ω)、h∈L2(Ω)、f∈L2(0,T;L2(Ω)) に対し、初期条件 u(0)=g、ut(0)=h の弱解 u∈C([0,T];H01)∩C1([0,T];L2) がただ一つ存在し、エネルギー等式をみたす(証明は Evans の第7章)。半群の言葉では、U=(u,ut) をエネルギー空間 H01×L2 上の方程式 U′=AU、A(u,v)=(v,Δu) とみると、A は歪自己共役で、etA はエネルギーを保つ群になる(ストーンの定理)。熱方程式と違い、波動方程式には平滑化効果がなく、時間を逆向きにも解ける。
定理 5.10(有限伝播速度)u∈C2(Rn×[0,∞)) が utt−Δu=0 をみたし、x0∈Rn、t0>0 について B(x0,t0) 上で u(⋅,0)=ut(⋅,0)=0 とする。このとき円錐 K={(x,t)∣0≤t≤t0, ∣x−x0∣≤t0−t} 上で u=0。
証明. 0≤t<t0 に対し、縮んでいく球の上の局所エネルギー e(t)=21∫B(x0,t0−t)(ut2+∣∇u∣2) dx を考える。半径が速さ 1 で減るので
e′(t)=∫B(x0,t0−t)(ututt+∇u⋅∇ut)dx−21∫∂B(x0,t0−t)(ut2+∣∇u∣2)dS
第 1 項は部分積分により ∫∂But ∂νu dS に等しく(utt−Δu=0)、∣ut ∂νu∣≤21(ut2+∣∇u∣2) だから e′(t)≤0。e(0)=0 なので [0,t0) で e≡0、すなわち K(頂点を除く、連続性により頂点も含む)で ut=0、∇u=0。K は連結で、t=0 で u=0 だから、K 上で u=0。□
点 (x0,t0) での解の値は、初期データの B(x0,t0) 上の値だけで決まる(依存領域)。擾乱は速さ 1 を超えて伝わらない。これは第1章で見た波動作用素の基本解の台が円錐 ∣x∣≤t に含まれることに対応する。フーリエ変換では解は u^=cos(t∣ξ∣)g^+∣ξ∣sin(t∣ξ∣)h^ と表され、これらの乗数が指数型 t の整関数に延長されることが、ペイリー–ウィーナー–シュワルツの定理(定理 2.18)を通じて有限伝播速度を与える。
5.6 シュレディンガー方程式
自由シュレディンガー方程式 i∂tu=−Δu(x∈Rn)を考える。H=−Δ、D(H)=H2(Rn) はフーリエ変換により ∣ξ∣2 を掛ける作用素にユニタリ同値なので、L2(Rn) 上の非負の自己共役作用素である(実数値関数を掛ける作用素は、その最大定義域で自己共役)。ストーンの定理(10-functional-analysis 第7章 定理 7.16)により、U(t)=e−itH は強連続なユニタリ群で、g∈H2 なら u(t)=U(t)g は iu′=Hu、u(0)=g の解である。第2章の計算と合わせて次を得る。
命題 5.11(シュレディンガー群)U(t)g(ξ)=e−it∣ξ∣2g^(ξ) であり、
- すべての s∈R について ∥U(t)g∥Hs=∥g∥Hs(特に L2 ノルムの保存)。
- (分散評価)g∈L1∩L2、t=0 ならば supx∣U(t)g(x)∣≤(4π∣t∣)−n/2∥g∥L1。
- 2≤p≤∞、p1+p′1=1 ならば ∥U(t)g∥Lp≤(4π∣t∣)−n(21−p1)∥g∥Lp′。
証明. (1) ∣e−it∣ξ∣2∣=1 と Hs ノルムの定義による。(2) g∈S なら命題 2.20 であり、一般の場合は L1∩L2 での近似による((1) により L2 で、したがって部分列が a.e. で収束する)。(3) は p=2((1))と p=∞((2))の間のリース–トーリンの補間定理による(補間定理は本教材では証明しない)。□
熱方程式と違い、シュレディンガー方程式は Hs ノルムを保つので平滑化も減衰もしない(L2 の意味で)。しかし (2)(3) の意味で解は空間に広がって各点で減衰する。この分散性を時空の積分ノルムで表したものがストリッカーツ評価である。
定理 5.12(ストリッカーツ評価, Strichartz estimates)2≤q,r≤∞、q2+rn=2n、(q,r,n)=(2,∞,2) とする(許容対)。定数 C=C(n,q,r) があって、すべての g∈L2(Rn) について
(∫R∥U(t)g∥Lr(Rn)qdt)1/q≤C∥g∥L2(Rn)
(主張のみ。)指数の関係は、u(x,t) が解なら u(λx,λ2t) も解であるというスケーリングから必要になる(問題 5.6)。(q,r)=(∞,2) は L2 ノルムの保存そのものである。q>2 の場合の証明は次の TT∗ 論法による。Tg=U(⋅)g とおくと ∥T∥2=∥TT∗∥ で、TT∗F(t)=∫U(t−s)F(s) ds。命題 5.11 (3) により ∥U(t−s)F(s)∥Lr≤C∣t−s∣−2/q∥F(s)∥Lr′(n(21−r1)=q2)であり、時間変数についての ∣t∣−2/q との畳み込みはハーディ–リトルウッド–ソボレフの不等式により Lq′→Lq で有界である(0<q2<1 が必要)。端点 q=2(n≥3)はキール–タオ(1998)による。ストリッカーツ評価は、非線形シュレディンガー方程式 iut+Δu=±∣u∣p−1u の解を縮小写像の原理で構成するための基本的な道具である(第6章)。
まとめ
- 発展方程式は関数空間に値をとる関数の常微分方程式とみなせる。弱解は u∈L2(0,T;H01)、u′∈L2(0,T;H−1) の枠で定式化され、u∈C([0,T];L2) となる(リオンス–マジェネスの定理)。
- ガラーキン法:有限次元近似 → エネルギー評価(グロンウォール)→ 弱コンパクト性で極限、という手順で放物型方程式の弱解を構成した。一意性もエネルギー法による。
- 熱方程式は、境界条件を定義域に組み込んだ A=Δ が縮小半群を生成すること(ヒレ–吉田の定理の仮定は第4章の楕円型理論で確かめられる)として捉えられ、∥ΔetΔg∥≤(et)−1∥g∥ という平滑化効果をもつ。
- 放物型方程式は最大値原理をみたし、熱は無限の速さで伝わる。
- 波動方程式はエネルギーを保存し、擾乱は有限の速さでしか伝わらない。平滑化効果はない。
- シュレディンガー方程式はユニタリ群 eitΔ で解かれ、Hs ノルムを保ちつつ ∣t∣−n/2 で各点減衰する。これはストリッカーツ評価に一般化される。
演習問題
問題 5.1 ★ Ω を有界で境界が C1 級とし、u∈C2(Ω×[0,T]) が ut=Δu、境界で u=0 をみたすとする。∥u(t)∥L2 と ∥∇u(t)∥L2 はともに t について単調非増加であることを示せ。さらに Ω=(0,π) では ∥u(t)∥L2≤e−t∥u(0)∥L2 を示せ。
解答
21dtd∥u∥2=∫uΔu=−∥∇u∥2≤0(境界項は u=0 で消える)。21dtd∥∇u∥2=∫∇u⋅∇ut=−∫Δu ut+∫∂Ωut ∂νu dS=−∫ut2≤0(境界で ut=0)。Ω=(0,π) では問題 3.5 より ∥ux∥2≥∥u∥2 なので dtd∥u∥2≤−2∥u∥2、よって ∥u(t)∥2≤e−2t∥u(0)∥2。減衰率 1 は第 1 固有値 λ1=1 である。
問題 5.2 ★ 系 5.8 の仮定のもとで、ut−Δu≤vt−Δv(ΩT で)かつ ΓT 上で u≤v ならば ΩT で u≤v であることを示せ。これを用いて、0≤g≤1 を初期値、境界値 0 とする熱方程式の古典解は 0≤u≤1 をみたすことを示せ。
解答
w=u−v は wt−Δw≤0 で ΓT 上 w≤0 なので、定理 5.7 より w≤0。後半は v=1(vt−Δv=0、ΓT 上 u≤1)と比べて u≤1、0 と比べて(−u に適用して)u≥0。
問題 5.3 ★★ 命題 5.6 の半群について、∥∇S(t)g∥≤(2et)−1/2∥g∥(t>0)を示せ。
解答
S(t)g∈H01 で、定理 4.10 の公式 ∥∇u∥2=∑kλk(u,wk)2(u∈H01)を u=S(t)g、(u,wk)=e−λkt(g,wk) に使うと ∥∇S(t)g∥2=∑kλke−2λkt(g,wk)2≤supλ>0λe−2λt ∥g∥2。λe−2λt は λ=2t1 で最大値 2et1 をとる。
問題 5.4 ★★ m≥0 とし、u∈C2(Rn×[0,∞)) がクライン–ゴルドン方程式 utt−Δu+m2u=0 をみたすとする。定理 5.10 の結論が同じ仮定のもとで成り立つことを示せ。また、u(⋅,t) が各 t でコンパクト台をもつとき、21∫(ut2+∣∇u∣2+m2u2) dx が保存されることを示せ。
解答
e(t)=21∫B(x0,t0−t)(ut2+∣∇u∣2+m2u2) dx とおくと、定理 5.10 の証明と同様に
e′(t)=∫∂But∂νudS−21∫∂B(ut2+∣∇u∣2+m2u2)dS≤0
(内部の項は ut(utt−Δu+m2u)=0 となって消える)。e(0)=0 から K 上 ut=∇u=0、u=0。保存則は、十分大きな球の上で同じ計算をすれば境界項が消えることによる。
問題 5.5 ★★(エネルギーの等分配)g,h∈Cc∞(R) とし、u を utt=uxx、u(x,0)=g、ut(x,0)=h の解とする。十分大きな t について ∫ut2 dx=∫ux2 dx であることを示せ。
解答
ダランベールの公式(08-differential-equations 第7章)より u=F(x+t)+G(x−t)、F′=21(g′+h)、G′=21(g′−h) で、F′,G′ はコンパクト台をもつ。ut=F′(x+t)−G′(x−t)、ux=F′(x+t)+G′(x−t) なので ∫ut2−∫ux2=−4∫F′(x+t)G′(x−t) dx。F′(⋅+t) の台は左に、G′(⋅−t) の台は右に速さ 1 で動くので、t が大きければ交わらず、積分は 0 になる。
問題 5.6 ★★★ (1) 不等式 ∥U(t)g∥LtqLxr≤C∥g∥L2 が成り立つためには q2+rn=2n が必要であることを示せ。(2) 分散評価を用いて、すべての g∈L2(Rn) について t→∞ で U(t)g は L2 で 0 に弱収束することを示せ(∥U(t)g∥L2 は一定であることに注意)。
解答
(1) gλ(x)=g(λx) とすると、g^λ(ξ)=λ−ng^(ξ/λ) から U(t)gλ(x)=(U(λ2t)g)(λx)。よって ∥U(t)gλ∥LtqLxr=λ−q2−rn∥U(t)g∥LtqLxr、一方 ∥gλ∥2=λ−n/2∥g∥2。λ→0,∞ を考えれば、指数が等しくなければ不等式は成り立たない。
(2) φ,g∈L1∩L2 ならば ∣(U(t)g,φ)∣≤sup∣U(t)g∣ ∥φ∥1≤(4πt)−n/2∥g∥1∥φ∥1→0。一般の g,φ∈L2 については、ε>0 に対し L1∩L2 の元 g′,φ′ を ∥g−g′∥2,∥φ−φ′∥2<ε となるようにとる(Cc∞ は L2 で稠密)。U(t) はユニタリなので ∣(U(t)g,φ)−(U(t)g′,φ′)∣≤ε(∥φ∥2+∥g′∥2) で、limsupt∣(U(t)g,φ)∣≤ε(∥φ∥2+∥g∥2+ε)。ε→0 とすればよい。質量は保存されるが、どの有界領域からも逃げていく。