Lemma数学ロードマップ

08 微分方程式 · 第 4 章

安定性と力学系

目安 9〜12 時間定理など 14演習 6 問

この章の目標

  • 自励系の解を相空間の軌道として捉え、2 次元線形系の相図を分類できる
  • リャプノフ安定性と漸近安定性を定義し、線形化とリャプノフ関数によって判定できる(証明を含む)
  • ハミルトン系・極限集合・ラサールの不変性原理を理解し、振り子の運動を説明できる
  • ポアンカレ–ベンディクソンの定理を用いて極限周期軌道の存在を論じ、ファン・デル・ポール方程式やロトカ–ヴォルテラ方程式の振る舞いを説明できる

前提:第2章、第3章

ほとんどの非線形方程式は解けない。しかし応用で知りたいのは、長時間たつと系はどうなるか、平衡状態は小さな乱れに対して保たれるか、周期的な振動は存在するかといった定性的な性質であることが多い。ポアンカレに始まる力学系の理論は、解を空間内の曲線(軌道)として幾何学的に捉え、解を求めずにこれらに答える。

4.1 自励系と相空間

U⊂RnU \subset \mathbb{R}^n を開集合、f ⁣:U→Rnf\colon U \to \mathbb{R}^n を C1C^1 級とし、自励系 (autonomous system) x′=f(x)x' = f(x) を考える。ff は局所リプシッツなので、第2章により各 p∈Up \in U を初期値とする最大解がただ一つある。それを t↦φt(p)t \mapsto \varphi_t(p) と書き、φ\varphi をフロー (flow) という。UU を相空間 (phase space)、解の像 {φt(p)}\lbrace \varphi_t(p) \rbrace を pp の軌道 (orbit)、軌道を描いた図を相図 (phase portrait) という。f(p)=0f(p) = 0 となる点 pp を平衡点 (equilibrium) という。平衡点の軌道は 1 点である。

命題 4.1

  1. x(t)x(t) が解なら、任意の cc について x(t+c)x(t + c) も解である。
  2. φ0(p)=p\varphi_0(p) = p であり、両辺が定義される限り φt+s(p)=φt(φs(p))\varphi_{t + s}(p) = \varphi_t(\varphi_s(p))。
  3. 2 つの軌道は一致するか交わらないかのどちらかである。
  4. 平衡点でない点の軌道は有限時間で平衡点に達しない。また φt1(p)=φt2(p)\varphi_{t_1}(p) = \varphi_{t_2}(p)(t1≠t2t_1 \neq t_2)なら、解は R\mathbb{R} 全体で定義された周期関数である。

証明. 1 は ff が tt によらないことから明らか。2:t↦φt+s(p)t \mapsto \varphi_{t + s}(p) と t↦φt(φs(p))t \mapsto \varphi_t(\varphi_s(p)) はともに t=0t = 0 で φs(p)\varphi_s(p) を通る解なので、一意性(補題 2.14)により一致する。3:軌道が点 q=φa(p)=φb(p′)q = \varphi_a(p) = \varphi_b(p') を共有すれば、2 より φt(p)=φt−a(q)\varphi_t(p) = \varphi_{t - a}(q), φt(p′)=φt−b(q)\varphi_t(p') = \varphi_{t - b}(q) で、両者は同じ軌道である。4:平衡点 qq に φt1(p)=q\varphi_{t_1}(p) = q となれば、定数解 qq と φt(p)\varphi_{t}(p) は t1t_1 で一致するので p=qp = q。後半は、T=t2−t1T = t_2 - t_1 として x(t+T)x(t + T) と x(t)x(t) が同じ初期値をもつことから x(t+T)=x(t)x(t + T) = x(t) となり、解は R\mathbb{R} 全体に延長される。□\square

したがって軌道は、平衡点、閉曲線(周期軌道, periodic orbit)、自己交差しない曲線のいずれかである。

4.2 安定性の定義と線形系

以下、ノルムは任意に固定する(同値なノルムの間で安定性の概念は変わらない)。

定義 4.2(リャプノフ安定性)x∗x^{\ast} を平衡点とする。

  1. 任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し δ>0\delta > 0 があって、∥p−x∗∥<δ\lVert p - x^{\ast} \rVert < \delta なら φt(p)\varphi_t(p) はすべての t≥0t \geq 0 で定義され ∥φt(p)−x∗∥<ε\lVert \varphi_t(p) - x^{\ast} \rVert < \varepsilon となるとき、x∗x^{\ast} はリャプノフ安定 (Lyapunov stable) であるという。
  2. 安定であり、さらにある δ0>0\delta_0 > 0 があって ∥p−x∗∥<δ0\lVert p - x^{\ast} \rVert < \delta_0 なら φt(p)→x∗\varphi_t(p) \to x^{\ast}(t→∞t \to \infty)となるとき、漸近安定 (asymptotically stable) であるという。
  3. 安定でないとき不安定 (unstable) であるという。

例 4.3 (a) 調和振動子 x′=yx' = y, y′=−xy' = -x の原点は安定だが漸近安定ではない(軌道は円)。(b) 近くの解がすべて近づいても安定とは限らない。円周上の方程式 θ′=1−cos⁡θ\theta' = 1 - \cos\theta では、θ=0\theta = 0 の少し正の側から出た解は円周を一周して反対側から 00 に近づく。すべての解が 00 に収束するが、00 は安定でない。

補題 4.4 A∈M⁡n(R)A \in \operatorname{M}_n(\mathbb{R}) の固有値の実部の最大値を σ\sigma とする。任意の α>σ\alpha > \sigma に対し、t≥0t \geq 0 で ∥etA∥≤Keαt\lVert e^{tA} \rVert \leq Ke^{\alpha t} となる定数 KK がある。

証明. 命題 3.5 より etAe^{tA} の各成分は tjeλtt^je^{\lambda t} の一次結合で、∣tjeλt∣e−αt=tje(Re⁡λ−α)t\lvert t^je^{\lambda t} \rvert e^{-\alpha t} = t^je^{(\operatorname{Re}\lambda - \alpha)t} は [0,∞)[0, \infty) で有界である。□\square

定理 4.5(線形系の安定性)x′=Axx' = Ax の原点について:

  1. すべての固有値の実部が負 ⇔\Leftrightarrow 漸近安定。このときすべての解は指数関数的に 0 に収束する。
  2. すべての固有値の実部が 0 以下で、実部 0 の固有値のジョルダン細胞がすべてサイズ 1 ⇔\Leftrightarrow 安定。

証明. 1 の ⇒\Rightarrow:補題 4.4 で σ<α<0\sigma < \alpha < 0 とすれば ∥etAp∥≤Keαt∥p∥\lVert e^{tA}p \rVert \leq Ke^{\alpha t}\lVert p \rVert。⇐\Leftarrow:Re⁡λ≥0\operatorname{Re}\lambda \geq 0 の固有値 λ\lambda と固有ベクトル vv があれば、eλtve^{\lambda t}v の実部または虚部は 0 に収束しない実解で、vv を小さくとっても変わらない。2:条件のもとで etAe^{tA} は t≥0t \geq 0 で有界(命題 3.5)なので安定である。逆に実部正の固有値があるか、実部 0 の固有値にサイズ 2 以上の細胞があれば、eλtve^{\lambda t}v や teλtte^{\lambda t} を含む非有界な解があり、初期値をいくら小さくしても非有界である。□\square

4.3 2 次元線形系の相図

A∈M⁡2(R)A \in \operatorname{M}_2(\mathbb{R})、det⁡A≠0\det A \neq 0 とし、τ=tr⁡A\tau = \operatorname{tr}A, Δ=det⁡A\Delta = \det A とおく。固有値は λ2−τλ+Δ=0\lambda^2 - \tau\lambda + \Delta = 0 の根である。線形代数の実標準形

(λ100λ2),(λ10λ),(α−ββα)\begin{pmatrix} \lambda_1 & 0 \\ 0 & \lambda_2 \end{pmatrix}, \qquad \begin{pmatrix} \lambda & 1 \\ 0 & \lambda \end{pmatrix}, \qquad \begin{pmatrix} \alpha & -\beta \\ \beta & \alpha \end{pmatrix}

のいずれかに座標変換すれば、相図は次のように分類される。

条件 固有値 平衡点の名称 安定性
Δ<0\Delta < 0 異符号の実数 鞍点 (saddle) 不安定
Δ>0\Delta > 0, τ2>4Δ\tau^2 > 4\Delta 同符号の相異なる実数 結節点 (node) τ<0\tau < 0 で漸近安定、τ>0\tau > 0 で不安定
Δ>0\Delta > 0, τ2=4Δ\tau^2 = 4\Delta 実数の重根 退化結節点・星形結節点 同上
Δ>0\Delta > 0, 0<τ2<4Δ0 < \tau^2 < 4\Delta 共役な複素数 渦状点 (spiral, focus) 同上
Δ>0\Delta > 0, τ=0\tau = 0 純虚数 渦心点 (center) 安定だが漸近安定でない
  • 鞍点:λ1<0<λ2\lambda_1 < 0 < \lambda_2 なら解は c1eλ1tv1+c2eλ2tv2c_1e^{\lambda_1t}v_1 + c_2e^{\lambda_2t}v_2。v1v_1 方向の直線上の解だけが原点に近づき(安定多様体)、他の解はやがて v2v_2 方向へ遠ざかる。
  • 結節点:λ1<λ2<0\lambda_1 < \lambda_2 < 0 なら、すべての解は原点に近づき、ほとんどの解は減衰の遅い v2v_2 方向に接して原点に入る。
  • 渦状点:極座標で r′=αrr' = \alpha r, θ′=β\theta' = \beta となり、軌道は対数らせん(例 1.13)である。
  • 渦心点:軌道は原点を囲む楕円である。
  • 重根で対角化できない場合(退化結節点)は eλt(c1+c2t,c2)e^{\lambda t}(c_1 + c_2t, c_2) の形の解をもち、A=λIA = \lambda I の場合(星形結節点)は原点を通る直線がすべて軌道になる。

例 4.6(減衰振動の相図)x′′+γx′+ω2x=0x'' + \gamma x' + \omega^2x = 0(y=x′y = x')では τ=−γ\tau = -\gamma, Δ=ω2>0\Delta = \omega^2 > 0。γ=0\gamma = 0 で渦心点、0<γ<2ω0 < \gamma < 2\omega で安定渦状点(減衰振動)、γ>2ω\gamma > 2\omega で安定結節点(過減衰)、γ=2ω\gamma = 2\omega で退化結節点(臨界減衰)となり、例 1.31 の 3 つの場合に対応する。

4.4 線形化による安定性判定

平衡点 x∗x^{\ast} の近くで f(x)≈Df(x∗)(x−x∗)f(x) \approx Df(x^{\ast})(x - x^{\ast}) である。この線形化 (linearization) の安定性が、もとの系に受け継がれるかを調べる。鍵は、行列に合わせて内積をうまく選ぶことである。

補題 4.7(適合内積)B∈M⁡m(R)B \in \operatorname{M}_m(\mathbb{R}) の固有値の実部がすべて [a,b][a, b] に含まれるとする。任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し、Rm\mathbb{R}^m の内積 ⟨⋅,⋅⟩\langle \cdot, \cdot \rangle で、そのノルムについて (a−ε)∥v∥2≤⟨Bv,v⟩≤(b+ε)∥v∥2(a - \varepsilon)\lVert v \rVert^2 \leq \langle Bv, v \rangle \leq (b + \varepsilon)\lVert v \rVert^2 がすべての vv で成り立つものがある。

証明. 複素ジョルダン標準形により Q0−1BQ0=D+NQ_0^{-1}BQ_0 = D + N(DD は対角、NN は上隣接対角成分だけが 0 または 1)とする。S=diag⁡(1,ε,…,εm−1)S = \operatorname{diag}(1, \varepsilon, \dots, \varepsilon^{m-1})、Q=Q0SQ = Q_0S とおくと Q−1BQ=D+εNQ^{-1}BQ = D + \varepsilon N となる。u=Q−1vu = Q^{-1}v, u′=Q−1wu' = Q^{-1}w として ⟨v,w⟩=Re⁡∑iuiui′‾\langle v, w \rangle = \operatorname{Re}\sum_i u_i\overline{u'_i} と定めると、これは Rm\mathbb{R}^m 上の内積で、∥v∥=∥u∥\lVert v \rVert = \lVert u \rVert(Cm\mathbb{C}^m の標準ノルム)である。⟨Bv,v⟩=Re⁡((D+εN)u⋅u‾)=∑iRe⁡λi∣ui∣2+εRe⁡(Nu⋅u‾)\langle Bv, v \rangle = \operatorname{Re}\bigl((D + \varepsilon N)u \cdot \overline{u}\bigr) = \sum_i\operatorname{Re}\lambda_i\lvert u_i \rvert^2 + \varepsilon\operatorname{Re}(Nu \cdot \overline{u}) であり、∥Nu∥≤∥u∥\lVert Nu \rVert \leq \lVert u \rVert とコーシー–シュワルツの不等式から最後の項の絶対値は ε∥u∥2\varepsilon\lVert u \rVert^2 以下である。□\square

定理 4.8(線形化による安定性判定)f(x∗)=0f(x^{\ast}) = 0、A=Df(x∗)A = Df(x^{\ast}) とする。

  1. AA のすべての固有値の実部が負なら、x∗x^{\ast} は漸近安定である。さらに δ,C,μ>0\delta, C, \mu > 0 があって、∥p−x∗∥<δ\lVert p - x^{\ast} \rVert < \delta なら ∥φt(p)−x∗∥≤Ce−μt∥p−x∗∥\lVert \varphi_t(p) - x^{\ast} \rVert \leq Ce^{-\mu t}\lVert p - x^{\ast} \rVert(t≥0t \geq 0)。
  2. AA が実部正の固有値をもてば、x∗x^{\ast} は不安定である。

証明. x∗=0x^{\ast} = 0 とし、g(x)=f(x)−Axg(x) = f(x) - Ax とおくと、微分可能性から ∥g(x)∥/∥x∥→0\lVert g(x) \rVert/\lVert x \rVert \to 0(x→0x \to 0)。

  1. 固有値の実部の最大値より大きい負の数 −2μ-2\mu をとり、補題 4.7 により ⟨Av,v⟩≤−2μ∥v∥2\langle Av, v \rangle \leq -2\mu\lVert v \rVert^2 となる内積を選ぶ。r>0r > 0 を、∥x∥≤r\lVert x \rVert \leq r で x∈Ux \in U かつ ∥g(x)∥≤μ∥x∥\lVert g(x) \rVert \leq \mu\lVert x \rVert となるようにとる。解が閉球 ∥x∥≤r\lVert x \rVert \leq r にある間は
ddt∥x∥2=2⟨Ax+g(x),x⟩≤−4μ∥x∥2+2μ∥x∥2=−2μ∥x∥2\frac{d}{dt}\lVert x \rVert^2 = 2\langle Ax + g(x), x \rangle \leq -4\mu\lVert x \rVert^2 + 2\mu\lVert x \rVert^2 = -2\mu\lVert x \rVert^2

なので ∥x(t)∥≤e−μt∥x(0)∥\lVert x(t) \rVert \leq e^{-\mu t}\lVert x(0) \rVert。∥x(0)∥<r\lVert x(0) \rVert < r なら、ノルムが増えないので解は球から出られず、延長定理(定理 2.16)により t≥0t \geq 0 全体で定義され、この評価が成り立つ。もとのノルムに戻すと定数 CC が現れる。

  1. Rn\mathbb{R}^n を、実部正の固有値の一般固有空間の和 E+E_+ と、残りの和 E−E_- に分解する(AA で不変な実部分空間)。β>0\beta > 0 を E+E_+ 上の固有値の実部の最小値とし、補題 4.7 で E+E_+ 上に ⟨Ay,y⟩≥3β4∥y∥2\langle A y, y \rangle \geq \frac{3\beta}{4}\lVert y \rVert^2、E−E_- 上に ⟨Az,z⟩≤β4∥z∥2\langle Az, z \rangle \leq \frac{\beta}{4}\lVert z \rVert^2 となる内積をとり、E+⊥E−E_+ \perp E_- となるように合わせて Rn\mathbb{R}^n の内積とする。x=y+zx = y + z(y∈E+y \in E_+, z∈E−z \in E_-)に対し V(x)=12(∥y∥2−∥z∥2)V(x) = \frac{1}{2}(\lVert y \rVert^2 - \lVert z \rVert^2) とおき、r>0r > 0 を ∥x∥≤r\lVert x \rVert \leq r で ∥g(x)∥≤β8∥x∥\lVert g(x) \rVert \leq \frac{\beta}{8}\lVert x \rVert となるようにとる。gg の E±E_\pm 成分のノルムは ∥g∥\lVert g \rVert 以下なので、解に沿って
ddtV≥3β4∥y∥2−β4∥z∥2−∥g(x)∥(∥y∥+∥z∥)\frac{d}{dt}V \geq \frac{3\beta}{4}\lVert y \rVert^2 - \frac{\beta}{4}\lVert z \rVert^2 - \lVert g(x) \rVert(\lVert y \rVert + \lVert z \rVert)

V>0V > 0(すなわち ∥y∥>∥z∥\lVert y \rVert > \lVert z \rVert)かつ ∥x∥<r\lVert x \rVert < r なら、∥x∥≤2∥y∥\lVert x \rVert \leq \sqrt{2}\lVert y \rVert、∥y∥+∥z∥≤2∥y∥\lVert y \rVert + \lVert z \rVert \leq 2\lVert y \rVert より右辺は c∥y∥2≥2cVc\lVert y \rVert^2 \geq 2cV 以上である(c=(2−2)β/4>0c = (2 - \sqrt{2})\beta/4 > 0)。いま 0≠p∈E+0 \neq p \in E_+ を任意に小さくとると V(p)>0V(p) > 0 で、解が ∥x∥<r\lVert x \rVert < r にある間 VV は正のまま増加し V(φt(p))≥V(p)e2ctV(\varphi_t(p)) \geq V(p)e^{2ct} となる。V≤r2/2V \leq r^2/2 なので、解は有限時間で球面 ∥x∥=r\lVert x \rVert = r に達する。pp はいくらでも 0 に近くとれるので、0 は不安定である。□\square

例 4.9(減衰のある振り子)θ′=ω\theta' = \omega, ω′=−sin⁡θ−γω\omega' = -\sin\theta - \gamma\omega(γ>0\gamma > 0)の平衡点は (kπ,0)(k\pi, 0) である。(0,0)(0, 0) でのヤコビ行列は第 1 行 (0,1)(0, 1)、第 2 行 (−1,−γ)(-1, -\gamma) で、τ=−γ<0\tau = -\gamma < 0, Δ=1>0\Delta = 1 > 0 なので漸近安定(真下の静止状態)。(π,0)(\pi, 0) では第 2 行が (1,−γ)(1, -\gamma) となり Δ=−1<0\Delta = -1 < 0、鞍点で不安定(真上の倒立状態)。

注意 4.10 実部 0 の固有値があるとき、線形化だけでは判定できない。x′=−y+ϵx(x2+y2)x' = -y + \epsilon x(x^2 + y^2), y′=x+ϵy(x2+y2)y' = x + \epsilon y(x^2 + y^2) の線形化はどの ϵ\epsilon でも渦心点だが、極座標では r′=ϵr3r' = \epsilon r^3 となり、ϵ<0\epsilon < 0 なら漸近安定、ϵ>0\epsilon > 0 なら不安定である。

実部 0 の固有値がない平衡点を双曲型 (hyperbolic) という。双曲型平衡点の近くでは、相図そのものが線形化と同じ形をしている。

定理 4.11(ハートマン–グロブマンの定理, Hartman–Grobman theorem;主張のみ)x∗x^{\ast} が双曲型平衡点で A=Df(x∗)A = Df(x^{\ast}) なら、x∗x^{\ast} の近傍 WW と原点の近傍の間の同相写像 hh(h(x∗)=0h(x^{\ast}) = 0)があって、φs(p)∈W\varphi_s(p) \in W(ss は 0 と tt の間)である限り h(φt(p))=etAh(p)h(\varphi_t(p)) = e^{tA}h(p) が成り立つ。

hh は一般に微分同相にはとれない。証明は力学系の教科書(Hirsch–Smale–Devaney など)を参照のこと。

4.5 リャプノフ関数

線形化が使えないときや、平衡点から遠くまでの振る舞いを知りたいときは、エネルギーの一般化であるリャプノフ関数を使う(リャプノフの直接法)。C1C^1 級関数 VV の解に沿った微分は、連鎖律により ddtV(φt(p))∣t=0=∇V(p)⋅f(p)\frac{d}{dt}V(\varphi_t(p))\big\vert_{t=0} = \nabla V(p) \cdot f(p) である。これを V˙(p)\dot{V}(p) と書く。V˙\dot{V} の計算に解は不要である。

定理 4.12(リャプノフの定理)x∗x^{\ast} を平衡点、W⊂UW \subset U を x∗x^{\ast} の近傍とし、C1C^1 級関数 V ⁣:W→RV\colon W \to \mathbb{R} が V(x∗)=0V(x^{\ast}) = 0、x≠x∗x \neq x^{\ast} で V(x)>0V(x) > 0 をみたすとする(正定値)。

  1. WW 上で V˙≤0\dot{V} \leq 0 なら、x∗x^{\ast} は安定である。
  2. W∖{x∗}W \setminus \lbrace x^{\ast} \rbrace 上で V˙<0\dot{V} < 0 なら、x∗x^{\ast} は漸近安定である。

証明. 1:ε>0\varepsilon > 0 を B‾(x∗,ε)⊂W\overline{B}(x^{\ast}, \varepsilon) \subset W となるようにとり、m=min⁡∥x−x∗∥=εV>0m = \min_{\lVert x - x^{\ast} \rVert = \varepsilon}V > 0 とおく。VV は連続で V(x∗)=0V(x^{\ast}) = 0 なので、B(x∗,δ)B(x^{\ast}, \delta) 上で V<mV < m となる δ∈(0,ε)\delta \in (0, \varepsilon) がある。p∈B(x∗,δ)p \in B(x^{\ast}, \delta) から出た解は、B‾(x∗,ε)\overline{B}(x^{\ast}, \varepsilon) にある間 VV が増えないので V<mV < m のままであり、球面 ∥x−x∗∥=ε\lVert x - x^{\ast} \rVert = \varepsilon に達することができない。よって解は球内に留まり、延長定理によりすべての t≥0t \geq 0 で定義される。

2:1 の pp について V(φt(p))V(\varphi_t(p)) は単調減少なので極限 c≥0c \geq 0 をもつ。c>0c > 0 なら、V<cV < c となる球 B(x∗,η)B(x^{\ast}, \eta) に解は入らないので、解はコンパクト集合 {η≤∥x−x∗∥≤ε}\lbrace \eta \leq \lVert x - x^{\ast} \rVert \leq \varepsilon \rbrace に留まる。そこで V˙≤−κ<0\dot{V} \leq -\kappa < 0(連続関数の最大値)なので V(φt(p))≤V(p)−κt→−∞V(\varphi_t(p)) \leq V(p) - \kappa t \to -\infty となり矛盾する。よって c=0c = 0。もし φt(p)↛x∗\varphi_t(p) \not\to x^{\ast} なら、∥φtk(p)−x∗∥≥η′\lVert \varphi_{t_k}(p) - x^{\ast} \rVert \geq \eta' となる tk→∞t_k \to \infty があるが、コンパクト集合 {η′≤∥x−x∗∥≤ε}\lbrace \eta' \leq \lVert x - x^{\ast} \rVert \leq \varepsilon \rbrace 上の VV の最小値は正なので V(φtk(p))→0V(\varphi_{t_k}(p)) \to 0 に矛盾する。□\square

例 4.13 x′=−y−x3x' = -y - x^3, y′=x−y3y' = x - y^3 の原点の線形化は渦心点で、定理 4.8 は使えない。V=x2+y2V = x^2 + y^2 とおくと V˙=2x(−y−x3)+2y(x−y3)=−2(x4+y4)<0\dot{V} = 2x(-y - x^3) + 2y(x - y^3) = -2(x^4 + y^4) < 0(原点以外)なので、原点は漸近安定である。

例 4.14 定理 4.8 の 1 の証明の V(x)=∥x∥2V(x) = \lVert x \rVert^2(適合内積のノルム)は、2 次形式のリャプノフ関数である。一般にリャプノフ関数を見つける方法はなく、物理的なエネルギーが最初の候補になる。

4.6 保存系とハミルトン系

C1C^1 級関数 FF が解に沿って一定、すなわち F˙=0\dot{F} = 0 のとき、FF を第一積分 (first integral) または保存量という。

定義 4.15(ハミルトン系, Hamiltonian system)C2C^2 級関数 H(q,p)H(q, p)(q,p∈Rmq, p \in \mathbb{R}^m)に対し

qi′=∂H∂pi,pi′=−∂H∂qi(i=1,…,m)q_i' = \frac{\partial H}{\partial p_i}, \qquad p_i' = -\frac{\partial H}{\partial q_i} \qquad (i = 1, \dots, m)

をハミルトン系、HH をハミルトニアンという。

H˙=∑i(HqiHpi−HpiHqi)=0\dot{H} = \sum_i(H_{q_i}H_{p_i} - H_{p_i}H_{q_i}) = 0 なので、HH(エネルギー)は第一積分である。また右辺の発散は ∑i(Hpiqi−Hqipi)=0\sum_i(H_{p_iq_i} - H_{q_ip_i}) = 0 である。変分方程式(定理 2.22)にリウヴィルの公式(定理 3.3)を適用すると det⁡Dφt(x)=exp⁡∫0tdiv⁡f(φs(x)) ds\det D\varphi_t(x) = \exp\int_0^t \operatorname{div}f(\varphi_s(x))\ ds となるので、ハミルトン系のフローは体積を保つ(リウヴィルの定理)。

命題 4.16 平衡点 x∗x^{\ast} の近傍で定義された連続な第一積分 FF が、x∗x^{\ast} のどの近傍上でも定数でないなら、x∗x^{\ast} は漸近安定でない。特に、ハミルトン系は漸近安定な平衡点をもたない。

証明. x∗x^{\ast} が漸近安定なら、x∗x^{\ast} の近くの各点 pp で F(p)=F(φt(p))→F(x∗)F(p) = F(\varphi_t(p)) \to F(x^{\ast}) となり、FF は近傍で定数である。ハミルトン系で HH が x∗x^{\ast} の近傍 WW で定数なら、WW 上で ∇H=0\nabla H = 0、すなわち f=0f = 0 となり、WW の各点は平衡点である。平衡点 p≠x∗p \neq x^{\ast} の解は x∗x^{\ast} に収束しないので矛盾する。□\square

例 4.17(振り子の相図)θ′=ω\theta' = \omega, ω′=−k2sin⁡θ\omega' = -k^2\sin\theta(k2=g/ℓk^2 = g/\ell)は H=12ω2−k2cos⁡θH = \frac{1}{2}\omega^2 - k^2\cos\theta のハミルトン系である。平衡点 (2jπ,0)(2j\pi, 0) の線形化の固有値は ±ik\pm ik(渦心点)、((2j+1)π,0)((2j + 1)\pi, 0) では ±k\pm k(鞍点)である。軌道は HH の等高線に含まれる。−k2<H<k2-k^2 < H < k^2 の等高線は原点を囲む閉曲線で、振り子の往復運動(秤動)を表す。H>k2H > k^2 では ω\omega の符号が一定で、振り子が回り続ける(回転)。境目の H=k2H = k^2 の等高線 ω=±2kcos⁡(θ/2)\omega = \pm 2k\cos(\theta/2) は鞍点どうしを結ぶ軌道(セパラトリクス)で、真上の倒立状態に無限の時間をかけて近づく運動を表す。

命題 4.18(ラグランジュ–ディリクレ)V ⁣:Rm→RV\colon \mathbb{R}^m \to \mathbb{R} を C2C^2 級とし、x∗x^{\ast} を VV の狭義の極小点とする。x′′=−∇V(x)x'' = -\nabla V(x)(すなわち x′=vx' = v, v′=−∇V(x)v' = -\nabla V(x))の平衡点 (x∗,0)(x^{\ast}, 0) は安定である。

証明. E(x,v)=12∥v∥2+V(x)−V(x∗)E(x, v) = \frac{1}{2}\lVert v \rVert^2 + V(x) - V(x^{\ast}) は (x∗,0)(x^{\ast}, 0) の近傍で正定値であり、E˙=v⋅v′+∇V⋅x′=0\dot{E} = v \cdot v' + \nabla V \cdot x' = 0。定理 4.12 の 1 を適用すればよい。□\square

4.7 極限集合とラサールの不変性原理

定義 4.19(ω\omega 極限集合)p∈Up \in U の解が t≥0t \geq 0 で定義されているとき、tk→∞t_k \to \infty となる列で φtk(p)→y\varphi_{t_k}(p) \to y となるものがあるような点 yy 全体を ω(p)\omega(p) と書き、pp の ω\omega 極限集合 (omega-limit set) という。

平衡点に収束する解では ω(p)\omega(p) はその 1 点、周期軌道に巻きつく解では ω(p)\omega(p) はその周期軌道である。

命題 4.20 pp の前方軌道 {φt(p)∣t≥0}\lbrace \varphi_t(p) \mid t \geq 0 \rbrace がコンパクト集合 K⊂UK \subset U に含まれるとする。このとき ω(p)\omega(p) は空でないコンパクト連結集合で、不変(y∈ω(p)y \in \omega(p) なら解 φt(y)\varphi_t(y) はすべての t∈Rt \in \mathbb{R} で定義され ω(p)\omega(p) に含まれる)であり、t→∞t \to \infty で dist⁡(φt(p),ω(p))→0\operatorname{dist}(\varphi_t(p), \omega(p)) \to 0 となる。

証明. 空でない:点列 φk(p)∈K\varphi_k(p) \in K は収束部分列をもつ。コンパクト:ω(p)=⋂T≥0{φt(p)∣t≥T}‾\omega(p) = \bigcap_{T \geq 0}\overline{\lbrace \varphi_t(p) \mid t \geq T \rbrace} は閉集合の共通部分で KK に含まれる。不変:y=lim⁡φtk(p)y = \lim\varphi_{t_k}(p) とし、φs(y)\varphi_s(y) が定義される ss について、フローの連続性(定理 2.20 とその後の段落)から φs(y)=lim⁡φtk+s(p)∈ω(p)\varphi_s(y) = \lim\varphi_{t_k + s}(p) \in \omega(p)。よって yy の解は最大存在区間全体でコンパクト集合 ω(p)\omega(p) に留まり、延長定理から R\mathbb{R} 全体で定義される。距離の収束:そうでなければ dist⁡(φtk(p),ω(p))≥ε\operatorname{dist}(\varphi_{t_k}(p), \omega(p)) \geq \varepsilon となる tk→∞t_k \to \infty があり、その収束部分列の極限は ω(p)\omega(p) の点なので矛盾する。連結:ω(p)\omega(p) が交わらない空でない閉集合 A,BA, B の和なら、d=dist⁡(A,B)>0d = \operatorname{dist}(A, B) > 0 である。解は AA の d/3d/3 近傍と BB の d/3d/3 近傍を無限回行き来するので、中間値の定理により、dist⁡(x,A)=d/2\operatorname{dist}(x, A) = d/2 となる点 xx を t→∞t \to \infty で無限回通る。その集積点は ω(p)\omega(p) に属するが、AA からも BB からも距離 d/2d/2 以上離れていて矛盾する。□\square

定理 4.21(ラサールの不変性原理, LaSalle's invariance principle)V ⁣:U→RV\colon U \to \mathbb{R} を C1C^1 級で UU 上 V˙≤0\dot{V} \leq 0 とする。pp の前方軌道がコンパクト集合 K⊂UK \subset U に含まれるなら、ω(p)\omega(p) は集合 {x∈K∣V˙(x)=0}\lbrace x \in K \mid \dot{V}(x) = 0 \rbrace に含まれる最大の不変集合に含まれる。

証明. V(φt(p))V(\varphi_t(p)) は単調減少で KK 上有界なので極限 cc をもち、連続性から ω(p)\omega(p) 上で V=cV = c である。ω(p)\omega(p) は不変なので、y∈ω(p)y \in \omega(p) の解に沿って VV は一定値 cc をとり、V˙(y)=0\dot{V}(y) = 0。□\square

例 4.22 例 4.9 の減衰のある振り子で E=12ω2+1−cos⁡θE = \frac{1}{2}\omega^2 + 1 - \cos\theta とおくと E˙=−γω2≤0\dot{E} = -\gamma\omega^2 \leq 0 で、E˙\dot{E} は原点以外の点を含む {ω=0}\lbrace \omega = 0 \rbrace 上で 0 になるので定理 4.12 の 2 は使えない。しかし {E˙=0}={ω=0}\lbrace \dot{E} = 0 \rbrace = \lbrace \omega = 0 \rbrace に含まれる不変集合の上では ω≡0\omega \equiv 0 から ω′=−sin⁡θ=0\omega' = -\sin\theta = 0、すなわち平衡点しかない。∣θ∣<π\lvert \theta \rvert < \pi かつ E<2E < 2 の初期値 pp から出た解は、コンパクト集合 K={(θ,ω)∣∣θ∣≤π, E≤E(p)}K = \lbrace (\theta, \omega) \mid \lvert \theta \rvert \leq \pi,\ E \leq E(p) \rbrace に留まる(θ=±π\theta = \pm\pi では E≥2E \geq 2 なので、解は直線 θ=±π\theta = \pm\pi に達しない)。KK に含まれる平衡点は原点だけなので、定理 4.21 より ω(p)={(0,0)}\omega(p) = \lbrace (0, 0) \rbrace であり、命題 4.20 より解は原点に収束する。こうして、真下の平衡点が {∣θ∣<π, E<2}\lbrace \lvert \theta \rvert < \pi,\ E < 2 \rbrace の全体を引き寄せることがわかる。

4.8 ポアンカレ–ベンディクソンの定理と極限周期軌道

平面の軌道は自分自身とも他の軌道とも交われないため、振る舞いが強く制限される。

定理 4.23(ポアンカレ–ベンディクソンの定理, Poincaré–Bendixson theorem;主張のみ)U⊂R2U \subset \mathbb{R}^2 とする。pp の前方軌道がコンパクト集合 K⊂UK \subset U に含まれ、KK の中の平衡点が有限個なら、ω(p)\omega(p) は次のいずれかである:(i) 1 つの平衡点、(ii) 1 つの周期軌道、(iii) 有限個の平衡点と、t→±∞t \to \pm\infty でそれらに収束する軌道からなる集合。特に ω(p)\omega(p) が平衡点を含まなければ、ω(p)\omega(p) は周期軌道である。

証明はジョルダンの曲線定理を用いる(Hirsch–Smale–Devaney 参照)。応用上は次の形で使うことが多い:平衡点を含まないコンパクト集合 KK に入った解が KK から出ないなら、KK は周期軌道を含む。 近くの軌道が巻きついてくる孤立した周期軌道を極限周期軌道(リミットサイクル, limit cycle)という。3 次元以上ではこの定理は成り立たず、ローレンツ方程式のように複雑な(カオス的な)極限集合が現れる。

例 4.24 x′=x−y−x(x2+y2)x' = x - y - x(x^2 + y^2), y′=x+y−y(x2+y2)y' = x + y - y(x^2 + y^2) は極座標で r′=r(1−r2)r' = r(1 - r^2), θ′=1\theta' = 1 となる。r′r' はベルヌーイ型で、r(t)=(1+(r0−2−1)e−2t)−1/2r(t) = \bigl(1 + (r_0^{-2} - 1)e^{-2t}\bigr)^{-1/2}(r0>0r_0 > 0)。原点以外のすべての解は単位円に巻きつき、単位円は安定な極限周期軌道である。

周期軌道が存在しないことを示すには、次の判定法が便利である。

命題 4.25(ベンディクソンの判定法)単連結な領域 Ω⊂R2\Omega \subset \mathbb{R}^2 上で div⁡f=∂f1/∂x+∂f2/∂y\operatorname{div}f = \partial f_1/\partial x + \partial f_2/\partial y が符号を変えず、Ω\Omega のどの空でない開部分集合の上でも恒等的に 0 ではないなら、Ω\Omega 内に周期軌道はない。

証明. 周期 TT の周期軌道 Γ\Gamma があれば、それが囲む領域 G⊂ΩG \subset \Omega(単連結性とジョルダンの曲線定理による)にグリーンの定理(微分積分学 第10章)を適用して

∬Gdiv⁡f dx dy=∮Γ(f1 dy−f2 dx)=∫0T(f1f2−f2f1) dt=0\iint_G \operatorname{div}f\,dx\,dy = \oint_\Gamma (f_1\,dy - f_2\,dx) = \int_0^T (f_1f_2 - f_2f_1)\,dt = 0

一方、左辺は仮定から 0 でない(連続な被積分関数が符号を変えず、空でない開集合 GG 上で恒等的に 0 ではない)。□\square

仮定を「Ω\Omega 上で恒等的に 0 でない」に弱めると誤りになる:div⁡f\operatorname{div}f が Ω\Omega の一部で正で、周期軌道の囲む領域では恒等的に 0 ということがありうる(たとえば x≤1x \leq 1 で φ(x)=0\varphi(x) = 0、x>1x > 1 で φ(x)=(x−1)2\varphi(x) = (x - 1)^2 とおくと、x′=−y+φ(x)x' = -y + \varphi(x), y′=xy' = x は R2\mathbb{R}^2 上で div⁡f=φ′(x)≥0\operatorname{div}f = \varphi'(x) \geq 0 かつ恒等的に 0 ではないが、半径 1 以下の円周はすべて周期軌道である)。

例 4.26(ファン・デル・ポール方程式)真空管の発振回路のモデル

x′′−μ(1−x2)x′+x=0(μ>0)x'' - \mu(1 - x^2)x' + x = 0 \qquad (\mu > 0)

をファン・デル・ポール方程式 (van der Pol equation) という。E=12(x2+x′2)E = \frac{1}{2}(x^2 + x'^2) とおくと E˙=μ(1−x2)x′2\dot{E} = \mu(1 - x^2)x'^2:振幅が小さい(∣x∣<1\lvert x \rvert < 1)ときはエネルギーが注入され、大きいときは散逸する。原点の線形化の固有値 (μ±μ2−4)/2(\mu \pm \sqrt{\mu^2 - 4})/2 の実部は正なので原点は不安定で、小さな振動は成長し、大きな振動は減衰する。平衡点は原点だけなので、原点の近傍を除いた環状領域で解が外に出ないものを作れば、定理 4.23 より周期軌道が存在する。さらに次が知られている(リエナールの定理の特別な場合;主張のみ):任意の μ>0\mu > 0 に対し、ファン・デル・ポール方程式はただ一つの周期軌道をもち、原点以外から出発したすべての解はそれに巻きつく。

μ\mu が小さいとき周期軌道の振幅はおよそ 2 である。実際 x≈acos⁡tx \approx a\cos t とすると、1 周期にわたる E˙\dot{E} の平均は μa2(12−a28)\mu a^2\bigl(\frac{1}{2} - \frac{a^2}{8}\bigr)(cos⁡2tsin⁡2t\cos^2t\sin^2t の平均は 1/81/8)で、これが 0 になるのは a=2a = 2 のときである(厳密な議論ではない)。μ\mu が大きいと、ゆっくりした変化と急激な跳躍を繰り返す緩和振動になる。

4.9 ロトカ–ヴォルテラ方程式

被食者(小魚)の数 xx と捕食者(大きな魚)の数 yy の変化のモデル

x′=x(a−by),y′=y(−c+dx)(a,b,c,d>0)x' = x(a - by), \qquad y' = y(-c + dx) \qquad (a, b, c, d > 0)

をロトカ–ヴォルテラ方程式 (Lotka–Volterra equations) という。被食者は捕食者がいなければ指数的に増え、捕食者は被食者がいなければ指数的に減る。

命題 4.27 開象限 Q={x>0,y>0}Q = \lbrace x > 0, y > 0 \rbrace は不変であり、QQ 内の平衡点 (c/d,a/b)(c/d, a/b) 以外から出たすべての解は周期解である。周期 TT の解について、時間平均は 1T∫0Tx dt=cd\frac{1}{T}\int_0^T x\ dt = \frac{c}{d}, 1T∫0Ty dt=ab\frac{1}{T}\int_0^T y\ dt = \frac{a}{b} である。

証明. 座標軸は不変(x=0x = 0 なら x′=0x' = 0 など)なので、一意性から QQ の解は QQ から出ない。H(x,y)=dx−clog⁡x+by−alog⁡yH(x, y) = dx - c\log x + by - a\log y とおくと

H˙=(d−cx)x(a−by)+(b−ay)y(−c+dx)=(dx−c)(a−by)+(by−a)(dx−c)=0\dot{H} = \left(d - \frac{c}{x}\right)x(a - by) + \left(b - \frac{a}{y}\right)y(-c + dx) = (dx - c)(a - by) + (by - a)(dx - c) = 0

HH は xx だけの狭義凸関数と yy だけの狭義凸関数の和で、(c/d,a/b)(c/d, a/b) で最小値 h0h_0 をとり、QQ の境界や無限遠で +∞+\infty に発散する。よって h>h0h > h_0 の等高線 {H=h}\lbrace H = h \rbrace は、コンパクトな凸集合 {H≤h}\lbrace H \leq h \rbrace の境界である閉曲線で、平衡点を含まない。解はこの閉曲線の上を、速さの正の下限をもって動くので、有限時間で一周して周期解になる。平均:(log⁡y)′=−c+dx(\log y)' = -c + dx を 1 周期積分すると 0=−cT+d∫0Tx dt0 = -cT + d\int_0^T x\ dt。xx についても同様。□\square

線形化は (c/d,a/b)(c/d, a/b) で固有値 ±iac\pm i\sqrt{ac} の渦心点であり、注意 4.10 のように線形化だけでは判定できなかった。第一積分 HH によって初めて周期性が示されたのである。

漁獲が両種の死亡率を ε\varepsilon だけ増やすとすると、a→a−εa \to a - \varepsilon, c→c+εc \to c + \varepsilon となり、平均は被食者 (c+ε)/d(c + \varepsilon)/d、捕食者 (a−ε)/b(a - \varepsilon)/b に変わる。漁獲を減らすと捕食者の平均が増え、被食者の平均が減る(ヴォルテラの原理)。第一次世界大戦中にアドリア海の漁獲が減った際、水揚げに占める捕食魚の割合が増えたという観察の説明として提案された。

まとめ

  • 自励系の解は相空間の軌道として捉えられ、軌道は平衡点・周期軌道・自己交差しない曲線のいずれかである。
  • 2 次元線形系の平衡点は tr⁡A\operatorname{tr}A と det⁡A\det A により鞍点・結節点・渦状点・渦心点に分類される。線形系の原点はすべての固有値の実部が負なら漸近安定である。
  • 線形化の固有値の実部がすべて負なら平衡点は漸近安定、実部正の固有値があれば不安定である(適合内積による証明)。実部 0 の固有値があると線形化では判定できない。双曲型平衡点の近くの相図は線形化と同相である(ハートマン–グロブマン)。
  • 正定値な VV で V˙≤0\dot{V} \leq 0 なら安定、V˙<0\dot{V} < 0 なら漸近安定である(リャプノフ)。V˙≤0\dot{V} \leq 0 しか言えないときは、ラサールの不変性原理が使える。
  • ハミルトン系ではエネルギーが保存され、フローは体積を保ち、漸近安定な平衡点は存在しない。
  • 平面では、平衡点を含まないコンパクトな領域に閉じ込められた解は周期軌道に近づく(ポアンカレ–ベンディクソン)。ファン・デル・ポール方程式は安定な極限周期軌道をもつ。
  • ロトカ–ヴォルテラ方程式は第一積分をもち、正の解はすべて周期的で、時間平均は平衡点の値に等しい。

演習問題

問題 4.1 ★ 次の行列 AA について、x′=Axx' = Ax の原点の型と安定性を判定せよ。(1) 第 1 行 (1,2)(1, 2)、第 2 行 (3,2)(3, 2)。(2) 第 1 行 (−1,−4)(-1, -4)、第 2 行 (1,−1)(1, -1)。(3) 第 1 行 (2,1)(2, 1)、第 2 行 (−1,0)(-1, 0)。

解答

(1) Δ=2−6=−4<0\Delta = 2 - 6 = -4 < 0:鞍点、不安定。(2) τ=−2\tau = -2, Δ=1+4=5\Delta = 1 + 4 = 5, τ2−4Δ=−16<0\tau^2 - 4\Delta = -16 < 0:安定渦状点(漸近安定)。固有値は −1±2i-1 \pm 2i。(3) τ=2\tau = 2, Δ=1\Delta = 1, τ2=4Δ\tau^2 = 4\Delta:固有値 1 の重根で、A≠IA \neq I なので退化結節点、不安定。

問題 4.2 ★ 1 次元の自励系 x′=f(x)x' = f(x)(ff は C1C^1 級)の解は単調であることを示せ。また、有界な解は t→∞t \to \infty で平衡点に収束することを示せ。

解答

f(x(t1))=0f(x(t_1)) = 0 となる t1t_1 があれば、一意性から解は定数である(命題 4.1 の 4)。そうでなければ x′(t)=f(x(t))x'(t) = f(x(t)) は符号を変えない(中間値の定理)ので、解は狭義単調である。有界な単調関数は極限 x∞x_\infty をもつ。f(x∞)≠0f(x_\infty) \neq 0 なら、十分大きな tt で ∣x′∣≥∣f(x∞)∣/2>0\lvert x' \rvert \geq \lvert f(x_\infty) \rvert/2 > 0 となり、有界性に反する。よって x∞x_\infty は平衡点である(解が t≥0t \geq 0 全体で定義されることは延長定理による)。

問題 4.3 ★★ x′=yx' = y, y′=−x−y3y' = -x - y^3 の原点について、線形化では判定できないことを確かめ、V=x2+y2V = x^2 + y^2 とラサールの不変性原理を用いて、すべての解が原点に収束することを示せ。

解答

線形化の行列は第 1 行 (0,1)(0, 1)、第 2 行 (−1,0)(-1, 0) で、固有値 ±i\pm i(渦心点)。V˙=2xy+2y(−x−y3)=−2y4≤0\dot{V} = 2xy + 2y(-x - y^3) = -2y^4 \leq 0 なので、各解は有界集合 {V≤V(p)}\lbrace V \leq V(p) \rbrace に留まり、t≥0t \geq 0 で定義される。{V˙=0}={y=0}\lbrace \dot{V} = 0 \rbrace = \lbrace y = 0 \rbrace に含まれる不変集合の上では y≡0y \equiv 0 より y′=−x=0y' = -x = 0 なので、原点だけである。定理 4.21 より ω(p)={0}\omega(p) = \lbrace 0 \rbrace で、命題 4.20 より解は原点に収束する。原点は安定でもある(定理 4.12 の 1)ので、大域的に漸近安定である。

問題 4.4 ★★(勾配系)F ⁣:Rn→RF\colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R} を C2C^2 級とし、x′=−∇F(x)x' = -\nabla F(x) を考える。(1) 周期軌道が存在しないことを示せ。(2) x∗x^{\ast} が FF の狭義の極小点で、その近くに他の臨界点がなければ、x∗x^{\ast} は漸近安定であることを示せ。

解答

(1) ddtF(x(t))=−∥∇F∥2≤0\frac{d}{dt}F(x(t)) = -\lVert \nabla F \rVert^2 \leq 0。周期 TT の解なら F(x(T))=F(x(0))F(x(T)) = F(x(0)) より ∫0T∥∇F(x(t))∥2dt=0\int_0^T\lVert \nabla F(x(t)) \rVert^2dt = 0 で、x′=−∇F=0x' = -\nabla F = 0 が常に成り立ち、解は定数(平衡点)である。(2) V=F−F(x∗)V = F - F(x^{\ast}) は x∗x^{\ast} の近くで正定値で、V˙=−∥∇F∥2\dot{V} = -\lVert \nabla F \rVert^2 は x∗x^{\ast} 以外で負である(他の臨界点がない)。定理 4.12 の 2 より漸近安定。

問題 4.5 ★★(ホップ分岐)μ∈R\mu \in \mathbb{R} とし、x′=μx−y−x(x2+y2)x' = \mu x - y - x(x^2 + y^2), y′=x+μy−y(x2+y2)y' = x + \mu y - y(x^2 + y^2) を考える。原点の安定性を μ\mu の値ごとに調べ、μ>0\mu > 0 では安定な極限周期軌道が存在することを示せ。

解答

極座標で r′=μr−r3r' = \mu r - r^3, θ′=1\theta' = 1。μ<0\mu < 0:線形化の固有値 μ±i\mu \pm i の実部が負で漸近安定。μ=0\mu = 0:線形化は渦心点だが r′=−r3<0r' = -r^3 < 0 なので漸近安定(V=r2V = r^2)。μ>0\mu > 0:固有値の実部 μ>0\mu > 0 で不安定。このとき円 r=μr = \sqrt{\mu} は r′=0r' = 0 で周期軌道であり、0<r<μ0 < r < \sqrt{\mu} では r′>0r' > 0、r>μr > \sqrt{\mu} では r′<0r' < 0 なので、原点以外の解の rr は単調に μ\sqrt{\mu} に近づく(問題 4.2)。よって安定な極限周期軌道である。μ\mu が 0 を横切るとき、平衡点の安定性が失われて周期軌道が生まれる。この現象をホップ分岐という。

問題 4.6 ★★★ 被食者に密度効果を入れたモデル x′=x(a−ex−by)x' = x(a - ex - by), y′=y(−c+dx)y' = y(-c + dx)(a,b,c,d,e>0a, b, c, d, e > 0)を考える。ad>cead > ce なら QQ 内に平衡点 (x∗,y∗)=(c/d,(a−ce/d)/b)(x^{\ast}, y^{\ast}) = \bigl(c/d, (a - ce/d)/b\bigr) がある。QQ 内のすべての解がこの平衡点に収束することを示せ。

解答

H=d(x−x∗log⁡x)+b(y−y∗log⁡y)H = d(x - x^{\ast}\log x) + b(y - y^{\ast}\log y) とおくと、a=ex∗+by∗a = ex^{\ast} + by^{\ast}, c=dx∗c = dx^{\ast} を使って

H˙=d(x−x∗)(−e(x−x∗)−b(y−y∗))+b(y−y∗)d(x−x∗)=−de(x−x∗)2≤0\dot{H} = d(x - x^{\ast})\bigl(-e(x - x^{\ast}) - b(y - y^{\ast})\bigr) + b(y - y^{\ast})d(x - x^{\ast}) = -de(x - x^{\ast})^2 \leq 0

HH は命題 4.27 の証明と同様に (x∗,y∗)(x^{\ast}, y^{\ast}) で最小となり、QQ の境界と無限遠で発散するので、{H≤H(p)}\lbrace H \leq H(p) \rbrace は QQ 内のコンパクト集合で、解はそこに留まる。{H˙=0}={x=x∗}\lbrace \dot{H} = 0 \rbrace = \lbrace x = x^{\ast} \rbrace に含まれる不変集合の上では x≡x∗x \equiv x^{\ast} より x′=x∗(a−ex∗−by)=0x' = x^{\ast}(a - ex^{\ast} - by) = 0、よって y=y∗y = y^{\ast}。定理 4.21 より ω(p)={(x∗,y∗)}\omega(p) = \lbrace (x^{\ast}, y^{\ast}) \rbrace で、解は平衡点に収束する。密度効果により、ロトカ–ヴォルテラ方程式の周期振動は減衰振動に変わる。

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