この章の目標
- 整数環がデデキント環であることを証明し、イデアルの素因数分解とイデアルのノルムを使いこなす
- 分岐指数・剰余次数を定義し、基本等式 ∑eifi=n を証明する
- デデキント–クンマーの定理を証明し、素数の分解を多項式の modp 分解から計算できる
- 二次体・円分体での素数の分解法則を証明し、具体的な素数で確かめる
- ガロア拡大の分解群・惰性群・フロベニウス元を理解する
前提:第1章、可換環論 第7章(デデキント環)、代数学 第9章(ガロア理論、有限体)
第1章の例 1.2 で見たように、Z[−5] では元の素因数分解が一意的でない。19 世紀半ば、クンマーは円分体でのこの現象に直面し、「理想数」を導入して一意性を回復した。デデキントはこれをイデアルとして定式化し、任意の代数体の整数環で、イデアルが素イデアルの積に一意的に分解することを示した。本章では、この分解を具体的に計算する方法と、その背後にあるガロア群の構造を学ぶ。
2.1 イデアルで見る 6=2⋅3
例 2.1 O=Z[−5] で次のイデアルを考える。
p2=(2,1+−5),p3=(3,1+−5),p3′=(3,1−−5)
O≅Z[x]/(x2+5) より O/p2≅F2[x]/(x2+1,x+1)≅F2、O/p3≅F3[x]/(x2−1,x+1)≅F3 で、p3′ も同様である。よって 3 つとも極大イデアルである。積を計算すると
- p22=(4,2+2−5,−4+2−5) は (2+2−5)−(−4+2−5)=6 と 4 を含むので 2 を含み、生成元はすべて 2 の倍数だから p22=(2)。
- p3p3′=(9,3−3−5,3+3−5,6) は 9−6=3 を含み、同様に p3p3′=(3)。
- p2p3 は 3(1+−5)−2(1+−5)=1+−5 を含み、他の生成元 6=(1+−5)(1−−5), 2(1+−5), (1+−5)2 はその倍数なので p2p3=(1+−5)。同様に p2p3′=(1−−5)。
したがって
(6)=(2)(3)=p22p3p3′=(1+−5)(1−−5)
であり、元の 2 通りの分解は、同じ素イデアル分解 p22p3p3′ の組み替えにすぎない。p2 が単項でないこと(a2+5b2=2 に解がない)が、元の分解が一意的でない原因である。
2.2 整数環はデデキント環である
定義 2.2(デデキント環, Dedekind domain)ネーター整域 A が整閉で、0 でない素イデアルがすべて極大イデアルであるとき、A をデデキント環という(体でないことを要求する流儀もある)。
補題 2.3 K を代数体、a=0 を OK のイデアルとする。a∩Z=0 であり、OK/a は有限環である。
証明. 0=α∈a をとり、特性多項式を Pα(x)=xn+cn−1xn−1+⋯+c0 とする。Pα(α)=0 から c0=−α(αn−1+⋯+c1)∈αOK∩Z で、c0=±N(α)=0 である。m=∣c0∣ とすると OK/a は OK/mOK≅(Z/mZ)n の商なので有限である。□
定理 2.4 代数体 K の整数環 OK はデデキント環である。
証明. 定理 1.21 より OK≅Zn(Z 加群として)であり、そのイデアルは Z 部分加群として有限生成だから(単項イデアル整域上の有限生成自由加群の部分加群は有限生成、代数学 第7章)、OK はネーター環である。整閉性は命題 1.10 で示した。p=0 を素イデアルとすると、補題 2.3 より OK/p は有限整域であり、有限整域は体だから p は極大イデアルである。□
2.3 素イデアル分解と分数イデアル
デデキント環の基本定理を思い出す(可換環論 第7章)。K=Frac(OK) の OK 部分加群 a=0 で、ある 0=d∈OK について da⊂OK となるものを分数イデアル (fractional ideal) という。
定理 2.5(イデアルの素因数分解)OK の 0 でない分数イデアルの全体 IK は積に関して群をなし、a の逆元は a−1={x∈K∣xa⊂OK} である。IK は 0 でない素イデアル全体を基底とする自由アーベル群である。すなわち、任意の a∈IK は
a=p∏pvp(a)(vp(a)∈Z, 有限個を除き 0)
と一意的に表される。a⊂OK であることと、すべての p で vp(a)≥0 であることは同値である。
証明は可換環論の該当章を参照のこと。次の性質はこの定理からすぐに従い、計算で頻繁に使う。
命題 2.6 a,b を OK の 0 でないイデアルとする。
- (含むことは割ること)a⊃b⟺ ある整イデアル c で b=ac。
- a+b=∏ppmin(vp(a),vp(b))、a∩b=∏ppmax(vp(a),vp(b))。
証明. (1) ⇐ は明らか。a⊃b なら c=a−1b⊂a−1a=OK。(2) (1) より、a+b は a,b をともに割る最大の(包含について最小の)イデアル、a∩b は両者で割り切れる最小のイデアルであり、指数の比較から従う。□
定義 2.7(イデアル類群, ideal class group)単項分数イデアル xOK(x∈K×)全体 PK は IK の部分群である。商群 ClK=IK/PK を K のイデアル類群、その位数 hK を類数 (class number) という。
第3章で hK が有限であることを証明する。hK=1 は OK が単項イデアル整域であることを意味する。
命題 2.8 デデキント環 A について、A が一意分解整域であることと単項イデアル整域であることは同値である。
証明. 単項イデアル整域は一意分解整域である(代数学 第6章)。逆に A が一意分解整域とし、p=0 を素イデアルとする。0=a∈p を既約元の積に分解すると、ある既約元 π が p に属する。一意分解整域では既約元は素元なので (π) は 0 でない素イデアル、したがって極大イデアルで、(π)⊂p より p=(π)。すべての素イデアルが単項なので、定理 2.5 によりすべてのイデアルが単項である。□
例 2.1 の p2 は単項でないので、hQ(−5)≥2 である(第3章で =2 を示す)。
2.4 イデアルのノルム
定義 2.9(イデアルのノルム)0=a⊂OK に対し N(a)=∣OK/a∣(補題 2.3 より有限)とおき、a のノルムという。
定理 2.10
- N(ab)=N(a)N(b)。
- 0=α∈OK について N(αOK)=∣NK/Q(α)∣。
- p が素イデアルで p∩Z=pZ ならば、OK/p は Fp の有限次拡大体で、その次数を f とすると N(p)=pf。
- N(a)∈a。
証明. (1) 素イデアル分解 a=∏ipiki について、相異なる極大イデアルのべきは互いに素なので、中国剰余定理により OK/a≅∏iOK/piki。よって N(pk)=N(p)k を示せばよい。一意分解性より pi⊋pi+1 なので π∈pi∖pi+1 がとれ、命題 2.6 (2) より πOK+pi+1=pi(vp(π)=i に注意)。よって pi/pi+1 は体 OK/p 上 π で生成される 0 でないベクトル空間、すなわち 1 次元である。OK⊃p⊃⋯⊃pk の各段の商の位数が N(p) だから N(pk)=N(p)k。
(2) αOK=μα(OK) であり(μα は α 倍写像)、OK の Z 基底に関する μα の行列は整数行列で行列式は N(α)。部分格子の指数は行列式の絶対値に等しい(代数学 第7章)。
(3) OK/p は有限体で Z/pZ=Fp を含む。(4) 加法群 OK/a の位数は N(a) なので、ラグランジュの定理より N(a)⋅1∈a。□
ノルムを使うと、例 2.1 の計算は見通しがよくなる。N(p2)=2、N(p3)=3 で、N((1+−5))=6 だから、(1+−5) は「ノルム 2 の素イデアル」と「ノルム 3 の素イデアル」の積でなければならない。
2.5 分岐指数と剰余次数
素数 p に対し、pOK の素イデアル分解を
pOK=p1e1p2e2⋯pgeg(pi は相異なる)
と書く。pi は pi∩Z=pZ をみたす素イデアル全体であり、pi は p の上にある (lie above) という(p⊃pOK と p∩Z=pZ は同値)。
定義 2.11 ei を pi の分岐指数 (ramification index)、fi=[OK/pi:Fp] を剰余次数 (residue degree) という。ある ei≥2 のとき p は K で分岐する (ramify) といい、すべての ei=1 のとき不分岐 (unramified) という。g=n(したがって ei=fi=1)のとき完全分解する (split completely)、g=1, f1=n のとき惰性的 (inert)、g=1, e1=n のとき完全分岐する (totally ramified) という。
定理 2.12(基本等式)[K:Q]=n ならば ∑i=1geifi=n。
証明. 定理 2.10 より N(pOK)=∣NK/Q(p)∣=pn。一方 N(pOK)=∏iN(pi)ei=p∑ieifi。□
2.6 デデキント–クンマーの定理
素イデアル分解を実際に計算する最も基本的な道具が次の定理である。
定理 2.13(デデキント–クンマーの定理, Dedekind–Kummer)K=Q(θ)、θ∈OK とし、θ の最小多項式を f∈Z[x] とする。素数 p が指数 [OK:Z[θ]] を割らないとし、f の modp 還元 f∈Fp[x] の既約分解を
f=g1e1⋯grer(gi は相異なるモニック既約多項式)
とする。gi∈Z[x] を gi の任意のモニックな持ち上げとし、pi=(p,gi(θ)) とおくと、p1,…,pr は相異なる素イデアルで、N(pi)=pdeggi であり、
pOK=p1e1⋯prer
が成り立つ。特に OK=Z[θ] ならすべての素数 p に適用できる。
証明. 第 1 段:包含 Z[θ]↪OK は同型 Z[θ]/pZ[θ]≅OK/pOK を引き起こす。実際、両辺とも位数は pn だから単射性を示せばよい。x∈Z[θ]∩pOK、x=py(y∈OK)とし、m=[OK:Z[θ]] とすると my∈Z[θ]。gcd(m,p)=1 より 1=am+bp(a,b∈Z)で、y=a(my)+bx∈Z[θ]。よって x∈pZ[θ]。
第 2 段:Z[θ]≅Z[x]/(f) だから
OK/pOK≅Z[x]/(p,f)≅Fp[x]/(f)≅i=1∏rFp[x]/(giei)
(最後は中国剰余定理)。p を含む OK の素イデアルは、この環の素イデアルと 1 対 1 に対応する。Fp[x]/(f) の素イデアルは (gi) で尽くされ、対応する OK の素イデアルは θ↦x の逆像 (p,gi(θ)) である。剰余体は Fp[x]/(gi) で、次数は deggi。したがって pi は相異なる素イデアルで、p の上にある素イデアルはこれで尽くされる。
第 3 段:a=∏ipiei とおく。piei⊂(p,gi(θ)ei) なので a⊂(p,∏igi(θ)ei)。∏igiei≡f(modpZ[x]) と f(θ)=0 より ∏igi(θ)ei∈pOK。よって a⊂pOK。ノルムを比べると N(a)=p∑ieideggi=pdegf=pn=N(pOK)。a⊂pOK で指数が等しいから a=pOK。□
例 2.14(Q(−5))OK=Z[−5], f=x2+5 である。
- p=2:x2+5≡(x+1)2 で (2)=(2,1+−5)2(分岐)。
- p=3:x2+5≡x2−1=(x−1)(x+1) で (3)=(3,−5−1)(3,−5+1)(分解)。
- p=5:x2 で (5)=(−5)2(分岐)。
- p=7:−5≡2≡32 より x2+5≡(x−3)(x+3) で (7)=(7,−5−3)(7,−5+3)(分解)。
- p=11:11 を法とする平方剰余は 1,3,4,5,9 で −5≡6 は含まれないから x2+5 は既約で、(11) は素イデアル(惰性)。
例 2.15(Q(32))例 1.25 より OK=Z[θ], f=x3−2 である。
| p |
x3−2modp |
pOK |
(ei,fi) |
| 2 |
x3 |
(θ)3 |
(3,1) |
| 3 |
(x+1)3 |
(θ+1)3 |
(3,1) |
| 5 |
(x−3)(x2+3x+4) |
pp′ |
(1,1),(1,2) |
| 7 |
既約 |
(7) |
(1,3) |
| 31 |
(x−4)(x−7)(x−20) |
p1p2p3 |
(1,1) を 3 つ |
p=3 では x3−2≡x3+1=(x+1)3(mod3) で、(3,θ+1)=(θ+1) である(N(θ+1)=3)。p=7 では、7 を法とする立方数は 0,±1 だけなので x3−2 は根をもたず、3 次だから既約である。p=31 では 43=64=2⋅31+2、73=343=11⋅31+2、203=8000=258⋅31+2 と確かめられる。
注意
定理 2.13 の仮定 p∤[OK:Z[θ]] は外せない。Q(5) で θ=5 とすると x2−5≡(x+1)2(mod2) だが、2 は分岐しない(OK=Z[(1+5)/2] を使うと x2−x−1 は F2 上既約で、2 は惰性的である)。
2.7 分岐と判別式
定理 2.16 素数 p が K で分岐するための必要十分条件は p∣dK である。特に、K で分岐する素数は有限個である。
証明の概略. A=OK/pOK は n 次元 Fp 代数で、整基底 ωi の像を基底とする。A 上のトレース形式 (x,y)↦trA/Fp(xy) のグラム行列式は dKmodp に等しい(トレースは行列の対角和なので modp 還元と両立する)。一方、中国剰余定理から A≅∏iOK/piei である。
- ある ei≥2 なら、A は 0 でない冪零元 x をもつ。すべての y について xy も冪零で、冪零な線形写像のトレースは 0 だから、x はトレース形式の核に入り、dK≡0(modp)。
- すべての ei=1 なら A は有限体の直積 ∏iFpfi で、有限体の拡大は分離的だからトレース形式は各成分で非退化であり、dK≡0(modp)。
有限体の分離拡大のトレース形式が非退化であることは、第1章 命題 1.19 と同じ議論(ヴァンデルモンド行列式)で確かめられる。□
例 2.17 dQ(−5)=−20 で、分岐するのは 2,5。dQ(32)=−108 で 2,3。dQ(ζp)=±pp−2 で、分岐するのは p だけである。第3章では、K=Q なら ∣dK∣>1、すなわち少なくとも 1 つの素数が分岐することを示す。
2.8 二次体における素数の分解
定理 2.18(二次体の分解法則)K=Q(d)(d は平方因子をもたない)、判別式を dK とする。
- 奇素数 p について:p∣d なら分岐し、(pd)=1 なら分解し、(pd)=−1 なら惰性的である。
- p=2 について:d≡2,3(mod4) なら分岐し、d≡1(mod8) なら分解し、d≡5(mod8) なら惰性的である。
ここで (p⋅) はルジャンドル記号である。
証明. (1) 指数 [OK:Z[d]] は 1 か 2 なので奇素数 p は割らず、定理 2.13 を f=x2−d に適用できる。p∣d なら f=x2 で分岐。p∤d なら、f が Fp に根をもつのは d が平方剰余のときで、そのとき f=(x−a)(x+a)、a≡−a なので分解する。そうでなければ f は既約で惰性的である。
(2) d≡2,3(mod4) なら OK=Z[d] で、x2−d は mod2 で x2 または (x+1)2 だから分岐する。d≡1(mod4) なら OK=Z[ω]、ω=(1+d)/2 の最小多項式は x2−x−4d−1 である。d≡1(mod8) なら 4d−1 は偶数で mod2 で x(x−1) となり分解する。d≡5(mod8) なら x2+x+1 で、これは F2 上既約なので惰性的である。□
分岐する素数はちょうど dK の素因数であり、定理 2.16 と一致している。不分岐な p について、定理 2.18 の「分解するなら 1、惰性的なら −1」という値を χK(p) と書くと、これは p の関数として第4章・第6章で重要な役割を果たす。
例 2.19(ガウス整数)K=Q(i)(d=−1)では、奇素数 p が分解するのは (p−1)=1、すなわち p≡1(mod4) のときであり、2 は分岐する:(2)=(1+i)2。Z[i] は単項イデアル整域なので、p≡1(mod4) なら pZ[i]=(a+bi)(a−bi)、ノルムをとって p=a2+b2 を得る。たとえば 5=(2+i)(2−i)、13=(3+2i)(3−2i)。これはフェルマーの二平方和定理(代数学 第6章)のイデアル論的な解釈である。
例 2.20(Q(−23))d=−23≡1(mod8) なので 2 は分解する。(3−23)=(31)=1 で 3 も分解し、(5−23)=(52)=−1 で 5 は惰性的、23 は分岐する。
2.9 ガロア拡大における分解
L/Q をガロア拡大、G=Gal(L/Q) とする。σ∈G は OL を保ち、p の上にある素イデアルを p の上にある素イデアルに写す。
命題 2.21 G は p の上にある素イデアル全体に推移的に作用する。したがって pOL=(P1⋯Pg)e で、剰余次数はすべて等しく(f とおく)、efg=n である。
証明. P,P′ を p の上にある素イデアルとし、どの σ∈G についても P′=σP と仮定する。中国剰余定理により x∈OL で x∈P′ かつすべての σ について x≡1(modσP) となるものがとれる。N(x)=∏σ∈Gσ(x)∈P′∩Z=pZ⊂P で、P は素イデアルだからある σ で σ(x)∈P、すなわち x∈σ−1P。これは x≡1(modσ−1P) に反する。後半は、σ(pOL)=pOL より vσP(p)=vP(p)、σ が剰余体の同型 OL/P≅OL/σP を引き起こすことと、定理 2.12 から従う。□
定義 2.22(分解群・惰性群)p の上にある素イデアル P に対し
DP={σ∈G∣σP=P},IP={σ∈DP∣σ(x)≡x(modP) (∀x∈OL)}
をそれぞれ分解群 (decomposition group)、惰性群 (inertia group) という。
軌道–固定部分群定理と命題 2.21 より ∣DP∣=n/g=ef である。σ∈DP は剰余体 κ(P)=OL/P の Fp 自己同型 σ を引き起こし、準同型 DP→Gal(κ(P)/Fp) の核が IP である。
定理 2.23 準同型 DP→Gal(κ(P)/Fp) は全射である。したがって DP/IP≅Gal(κ(P)/Fp) は位数 f の巡回群で、∣IP∣=e である。
証明. f=1 なら明らかなので f≥2 とする。有限体の乗法群は巡回群だから、その生成元 a をとると κ(P)=Fp(a)、a=0。中国剰余定理により a∈OL を、a≡a(modP) かつ P 以外の p の上にある素イデアルすべてに属するようにとる。h(x)=∏σ∈G(x−σ(a)) は Z[x] に属し(係数は G 不変な代数的整数)、a は h の根である。τ∈Gal(κ(P)/Fp) について τ(a) も h の根なので、ある σ∈G で τ(a)≡σ(a)(modP)。もし σ∈/DP なら σ−1P=P で、a∈σ−1P より σ(a)∈P、すなわち τ(a)=0 となり矛盾。よって σ∈DP で、σ(a)=τ(a) から σ=τ。有限体の拡大のガロア群は位数 f の巡回群で(代数学 第9章)、∣IP∣=ef/f=e。□
定義 2.24(フロベニウス元, Frobenius element)p が L で不分岐(e=1)のとき、DP≅Gal(κ(P)/Fp) であり、x↦xp に対応する元がただ 1 つ存在する。すなわち
σ(x)≡xp(modP)(∀x∈OL)
をみたす σ∈G がただ 1 つ存在する。これを FrobP と書き、P のフロベニウス元という。
(この条件をみたす σ は自動的に DP に属する。x∈P なら σ(x)≡0 なので σP⊂P、極大性から等号が成り立つ。)
命題 2.25 p を L で不分岐とする。
- FrobP の位数は f である。特に p が完全分解することと FrobP=1 は同値である。
- τ∈G について FrobτP=τFrobPτ−1。したがって p の上の素イデアルのフロベニウス元は 1 つの共役類をなす。G がアーベル群なら FrobP は p だけで決まり、Frobp と書く。
- F⊂L が中間体で F/Q もガロア拡大なら、FrobP∣F=FrobP∩OF である。
証明. (1) 定理 2.23 から。(2) σ=FrobP とすると、x∈OL について σ(τ−1x)−(τ−1x)p∈P に τ を施して τστ−1(x)−xp∈τP。(3) σ=FrobP は OF を保ち、x∈OF について σ(x)−xp∈P∩OF。p が F で不分岐であること(次の注意)と定義 2.24 の一意性から従う。□
e(P∣p)=e(P∣p)e(p∣p),f(P∣p)=f(P∣p)f(p∣p)
が成り立つ。f は剰余体の拡大次数の乗法性である。e については、pOF=pea(p∤a)を OL に持ち上げると pOL=(pOL)e(aOL) で、P⊃aOL なら p=P∩OF⊃a となり矛盾するから、P は aOL を割らない。特に、p が L で不分岐なら F でも不分岐である。
フロベニウス元は、多項式の modp 分解と次のように結びつく。
命題 2.27 h∈Z[x] をモニック既約多項式、L をその最小分解体、α1,…,αm を h の根とし、p∤disc(h) とする。このとき p は L で不分岐で、FrobP による {α1,…,αm} の置換の巡回置換分解の型(各巡回の長さの組)は、hmodp の既約因子の次数の組に一致する。
証明. αi∈OL であり、disc(h)=∏i<j(αi−αj)2 は p で割り切れない整数なので P に属さない。よって modP の還元 αi↦αi は h の根と h の κ(P) 内の根の全単射を与え、h は重根をもたない。σ∈IP なら σ(αi)=αi で、σ(αi) も h の根だから σ(αi)=αi。L は根で生成されるので σ=1、すなわち IP=1 で、定理 2.23 より e=1(不分岐)。σ=FrobP は σ(αi)=αi p をみたすので、σ の根への作用は κ(P) でのフロベニウス写像 y↦yp の h の根への作用と同じである。h の d 次既約因子の根は y↦yp で長さ d の巡回置換として入れ替わるから、主張が従う。□
例 2.28(x3−2 の分解体)L=Q(32,ω)、G≅S3(3 根の置換)とする。disc(x3−2)=−108 なので p=2,3 は不分岐である。例 2.15 より
- p=5:x3−2≡(1 次)(2 次) で Frob は互換、f=2, g=3。
- p=7:既約で Frob は 3-巡回置換、f=3, g=2。
- p=31:3 つの 1 次式で Frob=1、31 は L で完全分解する。
S3 は非可換なので、p=5 の上の 3 つの素イデアルのフロベニウス元は 3 つの互換(共役類全体)になる。
2.10 円分体における分解
定理 2.29(円分体の分解法則, p∤m)L=Q(ζm) とし、素数 p は m を割らないとする。f を p の (Z/mZ)× における位数とすると、p は L で不分岐で、剰余次数は f、素イデアルの個数は g=φ(m)/f である。フロベニウス元は Frobp=σp:ζm↦ζmp である。
証明. ζ=ζm、xm−1=Φm(x)q(x) とする。微分して x=ζ を代入すると mζm−1=Φm′(ζ)q(ζ)。ノルムをとると N(Φm′(ζ))N(q(ζ))=±mφ(m) で、両因子は整数だから disc(Φm)=±N(Φm′(ζ)) は mφ(m) を割る。よって p∤d(1,ζ,…,ζφ(m)−1)、命題 1.23 より p∤[OL:Z[ζ]] であり、定理 2.13 が Φm に適用できる。xm−1 は Fp 上で重根をもたない(導関数 mxm−1 と共通根がない)から Φm も重根をもたず、p は不分岐である。Φm の根は Fp の中の位数ちょうど m の元であり、そのような元 y が Fpk に属するのは m∣pk−1、すなわち f∣k のときである。よって各既約因子の次数(= 根が生成する体の次数)は f で、剰余次数は f、g=φ(m)/f。最後に σp(ζ)=ζp なので、x=∑iaiζi∈Z[ζ] について σp(x)=∑iaiζip≡(∑iaiζi)p(modp)。p∤ 指数なので OL=Z[ζ]+pOL(定理 2.13 の証明第 1 段)で、任意の x∈OL について σp(x)≡xp(modpOL) が成り立つ。よって σp=FrobP(すべての P∣p について)。□
定理 2.30(素数べきの円分体での完全分岐)L=Q(ζpk)、ζ=ζpk とすると、(1−ζ) は剰余次数 1 の素イデアルで、pOL=(1−ζ)φ(pk) である。すなわち p は L で完全分岐する。
証明. Φpk(x)=Φp(xpk−1)=∏a∈(Z/pkZ)×(x−ζa) に x=1 を代入すると p=∏a(1−ζa)。補題 1.28 (1) と同じ議論で (1−ζa)/(1−ζ) は単元なので pOL=(1−ζ)φ(pk)OL。(1−ζ) の素因子分解を代入すると、定理 2.12 の ∑eifi=φ(pk) より (1−ζ) 自身が f=1 の素イデアルでなければならない。□
系 2.31 m=pkm′(p∤m′)とすると、p は Q(ζm) で e=φ(pk)、f=(p の (Z/m′Z)× での位数)、g=φ(m′)/f をみたす。
証明. L=Q(ζm) は F1=Q(ζpk) と F2=Q(ζm′) を含む。L の p の上の素イデアル P について、注意 2.26 より e(P∣p) は F1 での分岐指数 φ(pk) で割り切れ、f(P∣p) は F2 での剰余次数 f′ で割り切れる。また p の上の F2 の素イデアル g′ 個の上には、それぞれ L の素イデアルが少なくとも 1 つあるので g≥g′。よって φ(m)=efg≥φ(pk)f′g′=φ(pk)φ(m′)=φ(m) で、すべて等号が成り立つ。□
系 2.32 p∤m のとき、p が Q(ζm) で完全分解するための必要十分条件は p≡1(modm) である。
例 2.33(Q(ζ5))(Z/5Z)× で 1 の位数は 1、4 は 2、2,3 は 4 である。したがって
| pmod5 |
(e,f,g) |
例 |
| 1 |
(1,1,4) |
11:Φ5≡(x−3)(x−4)(x−5)(x−9) |
| 4 |
(1,2,2) |
19:Φ5≡(x2+5x+1)(x2−4x+1) |
| 2,3 |
(1,4,1) |
2,3,7 は惰性的 |
| 0 |
(4,1,1) |
(5)=(1−ζ5)4 |
mod11 では 3 の位数が 5(35=243=22⋅11+1)で、原始 5 乗根は 3,32=9,33≡5,34≡4 である。mod19 の分解は 5≡9 を使って Φ5=(x2+21+5x+1)(x2+21−5x+1) から得られ、展開すると x4+x3−18x2+x+1≡Φ5(mod19) となる。
まとめ
- 整数環はデデキント環であり、0 でない分数イデアルは素イデアルの積に一意的に分解する。イデアル類群 ClK は一意分解性の破れを測る。
- イデアルのノルム N(a)=∣OK/a∣ は乗法的で、単項イデアルでは元のノルムの絶対値に等しい。
- pOK=∏piei について ∑eifi=n(基本等式)。
- デデキント–クンマーの定理:p∤[OK:Z[θ]] なら、p の分解は最小多項式の modp 分解から読み取れる。
- p が分岐する ⟺p∣dK。
- 二次体では、奇素数 p∤d の分解はルジャンドル記号 (pd) で決まる。
- ガロア拡大では efg=n、分解群 DP は位数 ef、惰性群 IP は位数 e で、D/I は剰余体のガロア群と同型。不分岐素数にはフロベニウス元が定まる。
- フロベニウス元の根への作用の巡回型は、多項式の modp 分解の次数の型に一致する。
- 円分体 Q(ζm) では Frobp=σp で、p∤m の剰余次数は pmodm の位数。p∣m の部分では完全分岐が起こる。
演習問題
問題 2.1 ★ K=Q(−5) で、(3+−5) を素イデアルの積に分解せよ。また例 2.14 の (7) の素因子が単項イデアルでないことを示せ。
解答
N(3+−5)=9+5=14 なので、(3+−5) はノルム 2 と 7 の素イデアルの積である。ノルム 2 の素イデアルは p2=(2,1+−5) だけ。7 の上の素イデアルは (7,−5±3) で、3+−5∈(7,−5+3) だから、(3+−5)=p2⋅(7,3+−5)。(7,−5±3) が単項 (a+b−5) なら a2+5b2=7 だが、b=0 なら a2=7、∣b∣≥1 なら a2=2 で、どちらも解がない。
問題 2.2 ★ K=Q(−7) で 2,3,7,11 の分解を求めよ。分解する場合は素因子を単項イデアルとして具体的に書け(Z[(1+−7)/2] は単項イデアル整域であることを用いてよい)。
解答
ω=(1+−7)/2 の最小多項式は x2−x+2、N(a+bω)=a2+ab+2b2。
- 2:−7≡1(mod8) なので分解。N(ω)=2 より (2)=(ω)(ω)、ω=1−ω。
- 3:(3−7)=(32)=−1 で惰性的。
- 7:分岐、(7)=(−7)2。
- 11:(11−7)=(114)=1 で分解。N(2+−7)=4+7=11 より (11)=(2+−7)(2−−7)(2+−7=1+2ω∈OK)。
問題 2.3 ★★ K=Q(32) で 11,13,43 の分解型を求めよ。
解答
OK=Z[θ] なので定理 2.13 を x3−2 に適用する。
- 11:11≡2(mod3) なので x↦x3 は F11×(位数 10)の全単射で、x3=2 の根はちょうど 1 つ(73=343=31⋅11+2 より x=7)。残りの 2 次因子は F11 に根をもたないので既約。(11)=pp′、f=1,2。
- 13:2(13−1)/3=24=16≡3≡1(mod13) なので 2 は mod13 で立方数でない(F13× は位数 12 の巡回群)。x3−2 は根をもたず既約で、13 は惰性的。
- 43:27=128=3⋅43−1 より 214≡1、すなわち 2(43−1)/3≡1 で 2 は立方数。43≡1(mod3) だから F43 は 1 の原始 3 乗根を含み、根は 3 つある(203=8000=186⋅43+2 など、根は 20,32,34)。43 は完全分解する。
問題 2.4 ★★ Z[−2] が単項イデアル整域であることを用いて、素数 p が p=x2+2y2(x,y∈Z)と表されるための必要十分条件は p=2 または p≡1,3(mod8) であることを示せ。平方剰余の第 1・第 2 補充法則を用いてよい。
解答
K=Q(−2)、OK=Z[−2]、N(x+y−2)=x2+2y2。p=2=02+2⋅12 は表される。奇素数 p について、p=x2+2y2 なら (p)=(x+y−2)(x−y−2) で、p は惰性的でない。p∤dK=−8 より分岐もしないので分解する。逆に分解するなら (p)=pp、p=(x+y−2)(単項イデアル整域)で、ノルムをとって p=x2+2y2。定理 2.18 より分解 ⟺(p−2)=1。補充法則より (p−1)=1⟺p≡1(mod4)、(p2)=1⟺p≡±1(mod8) なので、(p−2)=1⟺p≡1,3(mod8)。
問題 2.5 ★★ L=Q(ζ7) で p=2,3,13,29 の (e,f,g) を求め、Φ7≡(x3+x+1)(x3+x2+1)(mod2) を確かめよ。
解答
定理 2.29 より f は pmod7 の位数。23=8≡1 で f=3, g=2。3 は 3,2,6,4,5,1 と位数 6 で惰性的。13≡−1 で位数 2、f=2, g=3。29≡1 で完全分解。mod2 で (x3+x+1)(x3+x2+1)=x6+x5+x4+3x3+x2+x+1≡Φ7。両因子は F2 に根をもたない 3 次式なので既約である。
問題 2.6 ★★ L=Q(ζ8)=Q(i,2) とする。(1) 奇素数 p の (e,f,g) を pmod8 で分類せよ。(2) p≡3(mod8) のとき、分解群 D=⟨σp⟩ の固定体が Q(−2) であることを確かめ、p が 3 つの二次部分体 Q(i),Q(2),Q(−2) のどれで分解するかを答えよ。
解答
(1) (Z/8Z)×={1,3,5,7} で 3,5,7 の位数はすべて 2。よって p≡1(mod8) なら (1,1,4)、p≡3,5,7(mod8) なら (1,2,2)。
(2) ζ=ζ8 とすると 2=ζ+ζ−1、i=ζ2、−2=ζ+ζ3((ζ+ζ3)2=ζ2+2ζ4+ζ6=i−2−i=−2)。σ3(ζ+ζ3)=ζ3+ζ9=ζ3+ζ で −2 は固定され、σ3(i)=i3=−i なので固定体は Q(−2)。命題 2.25 (3) より、p が二次部分体 F で分解する ⟺σp∣F=1⟺F⊂LD。よって p≡3(mod8) は Q(−2) で分解し、Q(i), Q(2) では惰性的。これは問題 2.4 や、(p−1)=−1, (p2)=−1 と整合する。
問題 2.7 ★★★(デデキントの例)α を x3−x2−2x−8 の根、K=Q(α) とする。2 が K で完全分解することを示し、どんな θ∈OK についても OK=Z[θ] であることを導け。
ヒント
- この多項式は有理根をもたず既約である。disc=−2012=−4⋅503(503 は素数)。
- β=(α2+α)/2 とおくと、α2=2β−α、αβ=2β+4、β2=3β+2α+6 が成り立ち、β3−3β2−10β−8=0 である。特に β∈OK。
- d(1,α,β)=−2012/22=−503 は平方因子をもたないので OK=Z+Zα+Zβ。
- mod2 では α2=α、β2=β、α β=0 なので、α,β,1−α−β は直交するべき等元であり、OK/2OK≅F23。よって 2 の上に剰余次数 1 の素イデアルが 3 つあり、2 は完全分解する。
- もし OK=Z[θ] なら、定理 2.13 により θ の最小多項式は mod2 で相異なる 3 つの 1 次式の積になるはずだが、F2[x] のモニック 1 次式は x,x+1 の 2 つしかない。
問題 2.8 ★★★(分解体)L/Q をガロア拡大、P を p の上の素イデアル、D=DP、Z=LD(分解体)、pZ=P∩OZ とする。(1) P は pZ の上にある L の唯一の素イデアルであることを示せ。(2) e(pZ∣p)=f(pZ∣p)=1 を示せ。
ヒント
(1) 命題 2.21 の証明は L/Z でもそのまま通用し、Gal(L/Z)=D は pZ の上の素イデアルに推移的に作用する。D は P を固定するので、軌道は {P} だけ。
(2) [L:Z]=∣D∣=ef で、(1) より L/Z での基本等式は e(P∣pZ)f(P∣pZ)=ef。注意 2.26 より e(P∣pZ)≤e、f(P∣pZ)≤f なので両方とも等号で、乗法性から e(pZ∣p)=f(pZ∣p)=1。