この章の目標
- 「アーベル拡大における素イデアルの分解は、基礎体のイデアルの合同条件で決まる」という類体論の主張を理解する
- アルティン写像とアルティンの相互法則を理解し、Q 上では円分体と平方剰余の相互法則に帰着することを確かめる
- Q(−5) と Q(−23) のヒルベルト類体を具体的に検証する
- 射類群と存在定理、イデールによる定式化、局所類体論の主張を知る
- p=x2+ny2 の問題への応用と、ラングランズ・プログラムへの展望を得る
前提:第2章(フロベニウス元)、第3章(イデアル類群)、第4章(円分体、クロネッカー–ウェーバーの定理)、第5章(局所体)、第6章(L 関数、チェボタレフの密度定理)
フェルマーは「奇素数 p が x2+y2 と表される ⟺p≡1(mod4)」「p=x2+2y2⟺p≡1,3(mod8)」を発見した。ところが x2+5y2 では、p≡1,9(mod20) の素数は x2+5y2 と表されるが、p≡3,7(mod20) の素数は 2x2+2xy+3y2 と表される、という形になる。さらに x2+27y2 になると、合同条件だけでは答えが書けない(第4章 4.10 節、第6章 例 6.26)。
これらの現象を統一的に説明するのが類体論 (class field theory) である。類体論は、代数体 K のアーベル拡大 L/K とその中での素イデアルの分解が、K 自身のイデアルの言葉(射類群)で完全に記述されることを主張する。高木貞治(1920 年)が存在定理を含む理論を完成させ、アルティン(1927 年)が相互法則によって分解法則を明示した。本章では主要な定理を主張として述べ、具体例で検証することに重点を置く。
7.1 アーベル拡大のフロベニウス元
第2章ではガロア拡大 L/Q のフロベニウス元を定義した。一般の拡大 L/K でも同様である。L/K をガロア拡大、p を L で不分岐な K の素イデアル、P をその上の L の素イデアルとすると、
σ(x)≡xN(p)(modP)(∀x∈OL)
をみたす σ∈Gal(L/K) がただ 1 つ存在する(証明は定理 2.23 と同じ。剰余体の拡大 OL/P⊃OK/p のガロア群は x↦xN(p) で生成される)。これを FrobP と書く。L/K がアーベル拡大(ガロア群がアーベル群)なら、命題 2.25 と同様に FrobP は p だけで決まるので Frobp と書く。その位数は p の剰余次数 f であり、p が L で完全分解する ⟺Frobp=1 である。
定義 7.1(アルティン写像, Artin map)L/K を有限次アーベル拡大、S を L で分岐する素イデアルをすべて含む有限集合とし、S に属さない素イデアルで生成される分数イデアルの群を IKS とする。準同型
ψL/K:IKS→Gal(L/K),p∏pap↦p∏Frobpap
をアルティン写像という。
例 7.2(Q(ζm)/Q)K=Q のとき、IQS(S は m の素因数)の元は (a/b)(a,b は m と互いに素な正の整数)と一意的に書ける。定理 2.29 より Frobp=σp なので
ψ((a/b))=σaσb−1=σab−1modm
である。したがって ψ の核は「a≡b(modm) となる正の a/b が生成する単項イデアル」全体であり、ψ は同型 IQS/kerψ≅(Z/mZ)×≅Gal(Q(ζm)/Q) を与える。つまり、アルティン写像は「pmodm」という合同条件を読み取る写像になっている。
7.2 アルティンの相互法則
K のイデアルに対する「合同条件」を定式化する。
定義 7.3(モジュラスと射類群)K のモジュラス (modulus) m=m0m∞ とは、OK の 0 でないイデアル m0 と、実埋め込みの集合 m∞ の組である。m0 と互いに素な分数イデアルの群を IKm とし、
PK,1m={(α)∣α∈K×, α≡1mod×m0, σ(α)>0 (σ∈m∞)}
とおく。ここで α≡1mod×m0 は、m0 の各素因子 p について vp(α−1)≥vp(m0) となることを意味する。商群 ClKm=IKm/PK,1m を法 m の射類群 (ray class group) という。
m=1 なら ClKm=ClK である。一般に ClKm は有限群で、完全系列
1→OK×/OK,m×→(OK/m0)××{±1}m∞→ClKm→ClK→1
(OK,m× は ≡1mod×m0 かつ m∞ の実素点で正となる単数のなす部分群)によって類群から計算できる。K=Q、m=m∞ なら、例 7.2 の計算から ClQm∞≅(Z/mZ)× である。
定理 7.4(アルティンの相互法則, Artin reciprocity law)L/K を有限次アーベル拡大とする。L で分岐する K の素点(有限素点と、複素化される実素点)をすべて割るモジュラス m で、次をみたすものが存在する。
- PK,1m⊂kerψL/K。したがって ψL/K は ClKm→Gal(L/K) を引き起こす。
- ψL/K は全射で、その核は PK,1mNL/K(ILm) である。
このような m のうち最小のものを L/K の導手 (conductor) f(L/K) といい、f(L/K) を割る素点はちょうど L で分岐する素点である。
証明は Neukirch 第 VI 章などを参照(本教材では主張のみ)。NL/K(P)=pf で、Frobpf=1 だから、ノルムの像が核に含まれることは容易に分かる。本質的なのは、ψ が単項イデアルの合同条件だけで決まるという 1 の主張である。
例 7.5(二次体と平方剰余の相互法則)K=Q、L=Q(d) とすると、ψ((p))=Frobp は χL(p)∈{±1} と同一視できる(命題 6.9)。アルティンの相互法則は「χL(p) が p の mod ∣dL∣(および符号)の類だけで決まる」ことを主張し、これは平方剰余の相互法則にほかならない(例 4.10、命題 6.9)。第4章の第 2 の証明は、クロネッカー–ウェーバーの定理(L⊂Q(ζ∣dL∣))を通じて、例 7.2 に帰着させる証明だったと解釈できる。同様に、アルティンの相互法則からは 3 次・4 次の相互法則やアイゼンシュタインの相互法則など、既知のあらゆるべき剰余の相互法則が導かれる。
7.3 ヒルベルト類体
モジュラスが m=1 の場合、すなわちどこでも不分岐なアーベル拡大を考える。
定理 7.6(ヒルベルト類体, Hilbert class field)K のすべての素点(無限素点を含む)で不分岐な最大のアーベル拡大 H が存在する。アルティン写像は同型
ClK ∼ Gal(H/K)
を引き起こす。特に [H:K]=hK であり、K の素イデアル p が H で完全分解するための必要十分条件は、p が単項イデアルであることである。
H を K のヒルベルト類体という。さらに、K のすべてのイデアルは H で単項イデアルになる(単項化定理、フルトヴェングラー)。Q のヒルベルト類体は Q 自身である(h=1。これは Q の不分岐拡大が存在しないというミンコフスキーの定理 3.11 と整合する)。
例 7.7(Q(−5) のヒルベルト類体)K=Q(−5)、H=K(i)=Q(−5,i) とする。H がヒルベルト類体であることを確かめる。
(a) 次数. i∈/K なので [H:K]=2=hK(例 3.14)。H/K は 2 次拡大なのでアーベル拡大である。また H=K(5)(5=−i−5)でもある。
(b) 不分岐性. K は虚二次体なので実素点はなく、無限素点での分岐は考えなくてよい。H は双二次体で、3 つの二次部分体 Q(i), Q(5), Q(−5) をもつ。双二次体の判別式は 3 つの二次部分体の判別式の積に等しい(導手判別式公式の特別な場合、証明は省略)ので dH=(−4)⋅5⋅(−20)=400=24⋅52。定理 2.16 より 2,5 以外の素数は H で不分岐である。p=5 は Q(i) で不分岐なので、H の 5 の上の素イデアル P について e(P∣5)=e(P∣pQ(i))e(pQ(i)∣5)≤[H:Q(i)]⋅1=2(注意 2.26)。一方 5 は K で e=2 で分岐するので、注意 2.26 の乗法性から K の 5 の上の素イデアルは H/K で不分岐。p=2 も同様に、2 は Q(5) で不分岐(5≡5(mod8) で惰性的)なので e(P∣2)≤2=e(p2∣2)、p2 は H/K で不分岐である。
(c) 結論. H/K はどこでも不分岐な 2 次アーベル拡大で、[H:K]=hK だから、定理 7.6 より H はヒルベルト類体である。
(d) 分解法則の検証. p=2,5 が K で分解し (p)=pp となるとき、p の剰余体は Fp で、σ=Frobp∈Gal(H/K)={1,τ} は σ(i)≡ip=(−1)(p−1)/2i(modP) をみたす。σ(i)=±i で、p は奇数なので i≡−i(modP)。よって Frobp=1⟺p≡1(mod4)。一方 p が単項 (x+y−5) であることは p=x2+5y2 と同値である。定理 7.6 と合わせ、(p−5)=1⟺p≡1,3,7,9(mod20) を用いると
p=x2+5y2⟺p≡1,9(mod20)
を得る。数値で確かめると、29=32+5⋅22、41=62+5⋅12、61=42+5⋅32 で、3,7,23,43(≡3,7(mod20))は x2+5y2 と表されない。後者では p は単項でなく、pp2 が単項になるので 2p=x2+5y2 と表される:6=1+5, 14=9+5, 46=1+45, 86=81+5(問題 7.3)。
例 7.8(Q(−23) のヒルベルト類体)K=Q(−23) は hK=3(例 3.15)で、ヒルベルト類体は 3 次の非自明な拡大である。f=x3−x−1 の最小分解体を L とすると、disc(f)=−23 は平方数でないので Gal(L/Q)≅S3 で、−23=±∏i<j(αi−αj)∈L より L⊃K、L/K は 3 次巡回拡大である。実は L/K は不分岐であり(問題 7.6)、L=H がヒルベルト類体になる。定理 7.6 と命題 2.27 から、p=23 について
p=x2+xy+6y2⟺x3−x−1 が modp で 3 つの根をもつ
が得られる(K で分解し、その素因子が単項 ⟺ H で完全分解 ⟺ L で完全分解)。たとえば 59=52+5⋅2+6⋅22 で、x3−x−1≡(x−4)(x−13)(x−42)(mod59)。一方 2 は K で分解するが素因子は単項でない(例 3.15)ので、x3−x−1≡x3+x+1 は F2 上既約である。右辺の条件は合同条件で書けない(L/Q は非アーベル)。
7.4 射類体と存在定理
定理 7.9(存在定理, 高木)K の任意のモジュラス m に対し、K のアーベル拡大 Km で、m を割らない素点で不分岐であり、アルティン写像が同型 ClKm≅Gal(Km/K) を引き起こすものがただ 1 つ存在する。さらに、
- K の任意の有限次アーベル拡大は、ある Km に含まれる。
- PK,1m⊂H⊂IKm となる部分群 H と、Km の中間体 L は、H=ker(ψL/K) によって包含関係を逆にして 1 対 1 に対応する。m を割らない素イデアル p が L で完全分解する ⟺p∈H。
Km を法 m の射類体 (ray class field) という。m=1 ならヒルベルト類体である。
例 7.10(Q の射類体)Qm∞=Q(ζm)、Qm=Q(ζm+ζm−1)(ClQm≅(Z/mZ)×/{±1})である。定理 7.9 (1) から、Q のアーベル拡大はすべて円分体に含まれる。これがクロネッカー–ウェーバーの定理(定理 4.14)である。
補足
虚二次体 K の射類体は、楕円関数やモジュラー関数の特殊値で生成される(虚数乗法論、クロネッカーの青春の夢、ヒルベルトの第 12 問題)。たとえばヒルベルト類体は H=K(j(OK)) で、j は楕円モジュラー関数である。Q(−163) は類数 1 なので j(21+−163)=−6403203 は整数になり、j(τ)=q−1+744+O(q)(q=e2πiτ)から eπ163=262537412640768743.99999999999925… がほとんど整数 6403203+744 に等しいという有名な現象が説明される。
7.5 イデールによる定式化
射類群はモジュラスごとに定義されるので扱いが煩雑である。シュヴァレーはすべてのモジュラスを同時に扱うためにイデールを導入した。
定義 7.11(イデール, idele)代数体 K のすべての素点 v にわたる制限直積
AK×={(av)v∈v∏Kv×有限個の v を除いて av∈Ov×}
をイデール群という(Ov× は Kv の単数群)。K× は対角的に埋め込まれ、CK=AK×/K× をイデール類群という。
積公式(定理 5.25)は、K× がイデールのノルム ∣a∣=∏v∣av∣v の核に含まれることを意味する。
命題 7.12 AQ×=Q××(R>0×∏pZp×)(内部直積)。したがって CQ≅R>0×Z×、ここで Z×=∏pZp×≅limm(Z/mZ)×。
証明. イデール a=(a∞,a2,a3,…) に対し r=sgn(a∞)∏ppvp(ap) は有限積で Q× の元であり、r−1a の実成分は正、各 p 成分は単数である。分解の一意性は、Q×∩(R>0×∏pZp×) が、すべての p で単数である正の有理数すなわち 1 だけからなることから従う。最後の同型は中国剰余定理と定理 5.9 による(問題 7.7)。□
定理 7.13(大域類体論)連続な全射準同型 ψK:CK→Gal(Kab/K)(Kab は最大アーベル拡大)が存在し、次をみたす。
- 有限次アーベル拡大 L/K について、ψK は同型 CK/NL/K(CL)≅Gal(L/K) を引き起こす。
- L/K で不分岐な有限素点 v の素元 πv(v 成分が πv で他が 1 のイデール)は、Frobv に写る。
- CK の有限指数の開部分群と、K の有限次アーベル拡大は、L↦NL/K(CL) によって 1 対 1 に対応する。
証明は Neukirch 第 VI 章を参照(本教材では主張のみ)。m に対応する開部分群で CK を割ると ClKm が得られ、定理 7.4, 7.9 が再現される。K=Q では命題 7.12 から Gal(Qab/Q)≅Z×≅limmGal(Q(ζm)/Q) となり、Qab=⋃mQ(ζm) である(相互写像の符号の約束は文献によって異なる)。
7.6 局所類体論
イデールの各成分 Kv× に対応して、局所体についても類体論が成り立つ。
定理 7.14(局所類体論)K を Qp の有限次拡大とする。準同型 recK:K×→Gal(Kab/K) で次をみたすものがただ 1 つ存在する。
- L/K が不分岐拡大で π が K の素元なら、recK(π)∣L は L/K のフロベニウス元である。
- 有限次アーベル拡大 L/K について、recK は同型 K×/NL/K(L×)≅Gal(L/K) を引き起こす。
さらに OK× の像は惰性群であり、K× の有限指数の開部分群はすべてノルム群として現れる。
大域的な相互写像 ψK の Kv× への制限は、局所相互写像 recKv(のガロア群への像)に一致する(局所大域両立性)。
例 7.15(Qp のアーベル拡大)Qp×=pZ×Zp×(定理 5.14)に対応して、Qp の最大アーベル拡大は、最大不分岐拡大 ⋃p∤nQp(ζn) と完全分岐拡大 ⋃kQp(ζpk) の合成体である(局所クロネッカー–ウェーバーの定理)。p はフロベニウスに、Zp× は Gal(⋃kQp(ζpk)/Qp)≅limk(Z/pkZ)×=Zp× に対応する。
例 7.16(ヒルベルト記号と相互法則)a,b∈Qv× に対し、ax2+by2=z2 が Qv で非自明な解をもつなら (a,b)v=1、そうでなければ −1 と定める(ヒルベルト記号)。これは「a が Qv(b) からのノルムかどうか」を表し、局所類体論の 2 次拡大の場合にあたる。奇素数 p と a=pαu, b=pβw(u,w∈Zp×)について
(a,b)p=(−1)αβ2p−1(pu)β(pw)α
であり、p=2 でも u,w の mod8 の類で表す公式がある(奇数 u,w について (u,w)2=(−1)2u−1⋅2w−1 など。Serre『数論講義』第 III 章)。大域類体論の帰結として、a,b∈Q× についてヒルベルトの相互法則
v∏(a,b)v=1
が成り立つ。相異なる奇素数 p,q に適用すると、(p,q)∞=1、(p,q)p=(pq)、(p,q)q=(qp)、(p,q)2=(−1)2p−1⋅2q−1、他の v では 1 なので、平方剰余の相互法則が得られる。たとえば (p,q)=(3,7) では、v=∞,2,3,7 の順に 1,−1,1,−1 で、積は 1 である。
7.7 例:p=x2+ny2 の問題
例 7.7, 7.8 の議論を一般化すると、次の定理が得られる(証明には Z[−n] の環類体を用いる。詳細は Cox の本 §9 を参照)。
定理 7.17(p=x2+ny2)n を正の整数とする。次数 h(−4n)(判別式 −4n の二次形式の類数)のモニック既約多項式 fn∈Z[x] が存在して、n も disc(fn) も割らない奇素数 p について
p=x2+ny2⟺(p−n)=1 かつ fn(x)≡0(modp) が整数解をもつ
が成り立つ。
いくつかの n について fn と結果を挙げる(いずれも p<5000 の素数で数値的に確かめられる)。
| n |
h(−4n) |
fn |
p=x2+ny2 となる条件 |
| 1 |
1 |
x |
p≡1(mod4) |
| 2 |
1 |
x |
p≡1,3(mod8) |
| 5 |
2 |
x2+1 |
p≡1,9(mod20) |
| 6 |
2 |
x2−2 |
p≡1,7(mod24) |
| 14 |
4 |
x4+2x2−7 |
(p−14)=1 かつ (x2+1)2≡8(modp) が可解 |
| 23 |
3 |
x3−x−1 |
x3−x−1 が modp で根をもつ((p−23)=1 のもとで) |
| 27 |
3 |
x3−2 |
p≡1(mod3) かつ 2 が modp で立方剰余 |
n=1,2,5,6 では fn の根で生成される拡大が Q 上アーベルになり、条件は合同条件で書ける(ガウスの種の理論)。n=14,23,27 では環類体は Q 上非アーベル(二面体群)で、合同条件だけでは書けない。n=23 の行は例 7.8 と同じ内容である(x2+23y2 は Z[−23] のノルム形式で、その環類体は判別式 −92 の類数 3 から K のヒルベルト類体に一致する)。n=27 の行は第4章 4.10 節で述べたガウスの結果の言い換えで、31=22+27, 43=42+27, 109=12+27⋅22 ではいずれも 2 が立方剰余である。n=14 では、23=32+14 について (23−14)=1 で、x4+2x2−7 は mod23 で根 3,9,14,20 をもつ。
7.8 ラングランズ・プログラムへの展望
類体論は、ガロア群 GK=Gal(K/K) の1 次元表現(アーベル商の指標)を、K 自身の算術的な対象(イデール類群の指標、すなわちヘッケ指標)で記述する理論と言い換えられる。ラングランズ・プログラムは、これを n 次元表現に拡張することを目指す。すなわち、GK の n 次元表現 ρ と、GLn(AK) の保型表現 π が対応し、L 関数が一致する(L(s,ρ)=L(s,π))ことを予想する。n=1 の場合が類体論である。
例 7.18(2 次元アルティン表現と重さ 1 の保型形式)x3−x−1 の分解体のガロア群 S3 の 2 次元既約表現 ρ の指標は、恒等置換、互換、3-巡回置換でそれぞれ 2,0,−1 である。命題 2.27 より、p=23 について trρ(Frobp)=(x3−x−1 の modp での根の個数)−1。一方、デデキントのイータ関数を用いた
η(z)η(23z)=qn≥1∏(1−qn)(1−q23n)=n≥1∑anqn=q−q2−q3+q6+q8+⋯
は重さ 1 の保型形式であり、p=23 について ap=trρ(Frobp) が成り立つ(ヘッケ)。実際、a2=a3=−1(mod2,3 で根なし)、a5=a7=0(根が 1 つ:mod5 で 2、mod7 で 5)、a59=2(根が 3 つ)である。
例 7.19(楕円曲線のモジュラー性)第6章の E:y2+y=x3−x2 について、ap=p+1−∣E(Fp)∣ は
η(z)2η(11z)2=qn≥1∏(1−qn)2(1−q11n)2=q−2q2−q3+2q4+q5+2q6−2q7−2q9−2q10+q11−2q12+4q13+⋯
の qp の係数に一致する(a2=−2, a3=−1, a5=1, a7=−2, a13=4)。有理数体上のすべての楕円曲線について同様の対応が成り立つことがモジュラー性定理(ワイルズ、テイラー–ワイルズ、ブルイユ–コンラッド–ダイアモンド–テイラー)であり、その帰結としてフェルマーの最終定理が証明された(フライ曲線とリベットの定理による)。L(E,s) の解析接続と関数等式もここから従い、BSD 予想(予想 6.27)を定式化する土台となる。
ラングランズ・プログラムはさらに、局所ラングランズ対応(局所類体論の非可換版、GLn ではハリス–テイラー、エナールが証明)や関手性予想を含む、現代数論の中心的な研究領域である。保型形式については リーマン面と保型形式 第3章 を、表現論の基礎については リー群と表現論 を参照のこと。
まとめ
- アーベル拡大 L/K では不分岐な素イデアル p にフロベニウス元 Frobp が定まり、アルティン写像 ψL/K:IKS→Gal(L/K) が得られる。
- アルティンの相互法則:ψL/K は射類群 ClKm を経由する全射で、核はノルム群である。K=Q では円分体の分解法則と平方剰余の相互法則に帰着する。
- ヒルベルト類体 H は最大不分岐アーベル拡大で、Gal(H/K)≅ClK、p が H で完全分解 ⟺p は単項。例:Q(−5) に対し Q(−5,i)、Q(−23) に対し x3−x−1 の分解体。
- 存在定理:各モジュラスに射類体があり、すべてのアーベル拡大はその部分体である。Q ではクロネッカー–ウェーバーの定理になる。
- イデール類群 CK を用いると、大域類体論は CK/NL/KCL≅Gal(L/K) と簡潔に書け、局所類体論 Kv×/N(Lw×)≅Gal(Lw/Kv) と両立する。ヒルベルトの相互法則 ∏v(a,b)v=1 はその 2 次の場合である。
- p=x2+ny2 の判定は環類体での完全分解で与えられ、n=5 では p≡1,9(mod20)、n=27 では「p≡1(mod3) かつ 2 が立方剰余」となる。
- ラングランズ・プログラムは類体論の非可換化であり、アルティン表現と保型形式、楕円曲線とモジュラー形式の対応はその具体例である。
演習問題
問題 7.1 ★ L=Q(ζ12) の二次部分体は Q(i), Q(−3), Q(3) である。アルティン写像を用いて、5,7,11 がそれぞれどの二次部分体で分解するかを答え、ψ((35))=ψ((5))ψ((7))=ψ((11)) を確かめよ。
解答
ψ((p))=σp(ζ12↦ζ12p)。i=ζ123、ω=ζ124、3=ζ12+ζ12−1。σ5 は i↦i5=i を固定、ω↦ω5=ω2 で −3 を動かし、3↦ζ5+ζ−5=−3。よって 5 は Q(i) だけで分解。σ7:i↦i7=−i、ω↦ω7=ω、3↦ζ7+ζ−7=−3 で、7 は Q(−3) だけで分解。σ11=σ−1 は複素共役で 3 だけを固定し、11 は Q(3) だけで分解。35≡11(mod12) より ψ((35))=σ35=σ5σ7=σ11。(定理 2.18 による直接計算とも一致する:たとえば (113)=1、11≡3(mod4)、11≡2(mod3)。)
問題 7.2 ★★ K=Q(−6) のヒルベルト類体が H=Q(−6,2) であることを、例 7.7 と同様に確かめよ(双二次体の判別式が 3 つの二次部分体の判別式の積であることは認めてよい)。さらに、p=x2+6y2⟺p≡1,7(mod24) を導け。
解答
hK=2(問題 3.3)、[H:K]=2。H の二次部分体は Q(2), Q(−3), Q(−6) で、dH=8⋅(−3)⋅(−24)=576=26⋅32。2,3 以外は不分岐。2 は Q(−3) で不分岐なので e(P∣2)≤2=e(p2∣2)、3 は Q(2) で不分岐なので e(P∣3)≤2=e(p3∣3)。よって H/K はどこでも不分岐で、H はヒルベルト類体。
p=2,3 が K で分解((p−6)=1)するとき、素因子 p が単項 ⟺ p が H=K(2) で分解 ⟺ Frobp(2)=2。Frobp(2)≡2p=2(p−1)/22≡(p2)2 なので、これは (p2)=1 と同値。よって p=x2+6y2⟺(p−6)=(p2)=1⟺(p−3)=(p2)=1⟺p≡1(mod3) かつ p≡±1(mod8)⟺p≡1,7(mod24)。例:7=1+6, 31=52+6, 73=72+6⋅22, 97=1+6⋅42。
問題 7.3 ★★ 奇素数 p=5 について、p≡3,7(mod20)⟺2p=x2+5y2 が整数解をもつ ⟺p=2x2+2xy+3y2 が整数解をもつ、を示せ。
解答
p≡3,7(mod20) なら (p−5)=1 で (p)=pp、例 7.7 (d) より p は単項でない。hK=2 なので pp2 は単項 (x+y−5) で、ノルムをとって 2p=x2+5y2。逆に 2p=x2+5y2 なら (x+y−5) はノルム 2p のイデアルで p2p または p2p の形(p は K で分解する:x2≡−5y2(modp) で p∤y)。p が単項なら p2p は単項でないので、p は単項でなく、p≡3,7(mod20)。
後半:2(2x2+2xy+3y2)=(2x+y)2+5y2。逆に 2p=X2+5Y2 なら X2+Y2≡0(mod2) より X≡Y(mod2) で、y=Y, x=(X−Y)/2 とおけば p=2x2+2xy+3y2。例:3=2⋅02+2⋅0⋅1+3⋅12、7=2+2+3((x,y)=(1,1))。
問題 7.4 ★★ ヒルベルト記号の公式を用いて、(a,b)=(3,7) と (−1,3) についてヒルベルトの相互法則を確かめよ。また 3x2+7y2=z2 が非自明な有理数解をもたないことを導け。
解答
(3,7):v=∞ で 1(ともに正)。v=3 で α=1, β=0 より (37)=(31)=1。v=7 で (73)=−1(mod7 の平方剰余は 1,2,4)。v=2 で (−1)23−1⋅27−1=(−1)3=−1。積は 1。(−1,3):v=∞ で 1(3>0)、v=3 で (3−1)=−1、v=2 で (−1)2−1−1⋅23−1=(−1)−1=−1。積は 1。
3x2+7y2=z2 は (3,7)2=−1 より Q2 で(また (3,7)7=−1 より Q7 でも)非自明な解をもたないので、Q でも解をもたない。
問題 7.5 ★★ チェボタレフの密度定理(定理 6.25)と定理 7.17 を用いて、x2+5y2 と表される素数の密度が 1/4、x2+27y2 と表される素数の密度が 1/6 であることを示せ。
解答
n=5:条件は p が H=Q(−5,i) で完全分解すること、すなわち p が H(Q 上 4 次ガロア拡大)で完全分解することで、密度は 1/4。合同条件 p≡1,9(mod20) で見ても、(Z/20Z)×(位数 8)の 2 類なので 2/8=1/4 と一致する。n=27:条件は p が x3−2 の最小分解体 L(Q 上 6 次)で完全分解することと同値である(p≡1(mod3) は Q(ω)⊂L での分解、2 が立方剰余は x3−2 の根の存在で、このとき 3 根をもつ)。密度は 1/6(例 6.26 の数値と一致)。
問題 7.6 ★★★ f=x3−x−1 の最小分解体を L、K=Q(−23) とする。L/K が不分岐であることを示し、L が K のヒルベルト類体であることを結論せよ。
ヒント
- α を f の実根、F=Q(α) とすると、問題 1.3 より OF=Z[α]、dF=−23。F は実埋め込みを 1 つもつので、L=F(−23) は Q 上 6 次である。
- p=23 は F で不分岐(定理 2.16)、K でも不分岐。命題 2.27 より p=23 は L で不分岐。
- p=23:f≡(x−3)(x−10)2(mod23) を確かめよ(f(3)=23, f(10)=989=43⋅23, f′(10)=299=13⋅23)。定理 2.13 より 23OF=q1q22 で、L での 23 の分岐指数は L/F(2 次)の分だけ高々 2 倍になり、ガロア拡大 L/Q では分岐指数は素イデアルによらないので e≤2(q1 の上で e≤2)。一方 23 は K で e=2 なので、K の 23 の上の素イデアルは L/K で不分岐。
- K は虚二次体で実素点がない。よって L/K はどこでも不分岐な 3 次アーベル(巡回)拡大で、hK=3 と定理 7.6 から L=H。(別解:dL=−233 を計算し、dL=dK3N(dL/K) から N(dL/K)=1 を導く。)
問題 7.7 ★★ Z=limmZ/mZ(m は整除関係で順序づける)とおく。環同型 Z≅∏pZp を示し、Z×≅∏pZp×≅limm(Z/mZ)× を導け。
解答
中国剰余定理より m=∏ppep について Z/mZ≅∏pZ/pepZ で、これは m∣m′ に関する射影と両立する。射影極限をとると、limm∏pZ/pep(m)Z≅∏plimeZ/peZ=∏pZp(定理 5.9)。m として N!(N→∞)の形の共終列をとれば、各 p の指数がいくらでも大きくなることから確かめられる。単元群をとると Z×=∏pZp× で、射影極限と単元群をとる操作は可換(整合的な列が各段で単元であることと極限が単元であることは同値)なので limm(Z/mZ)× とも同型である。