この章の目標
- 絶対値と付値を理解し、Q の絶対値を分類するオストロフスキーの定理を証明できる
- Qp を完備化として構成し、Zp を射影極限・p 進展開として扱える
- ヘンゼルの補題を証明し、Zp× の構造と p 進数の平方判定に応用できる
- 局所体の拡大(不分岐拡大・完全分岐拡大)とエイゼンシュタイン多項式の関係を理解する
- 代数体の素点と完備化、積公式、ハッセ–ミンコフスキーの定理(局所大域原理)を知る
前提:第2章(素イデアル分解)、集合と位相 第7章(完備距離空間)、可換環論 第6章(完備化)、可換環論 第7章(離散付値環)
合同式 f(x)≡0(modpn) をすべての n について同時に考えることは、関数を 1 点のまわりでテイラー展開することに似ている。ヘンゼルはこの類似を推し進め、Z の中で「p のまわりの無限小の世界」を表す環 Zp と体 Qp を導入した。Qp は R と同様に Q の完備化であり、オストロフスキーの定理によれば、Q の完備化は R と Qp で尽くされる。本章では p 進数の基本性質を調べ、代数体を各素数の「局所的な」情報に分解して調べる方法を学ぶ。
5.1 絶対値と付値
定義 5.1(絶対値, absolute value)体 K 上の関数 ∣⋅∣:K→R≥0 が
- ∣x∣=0⟺x=0
- ∣xy∣=∣x∣∣y∣
- ∣x+y∣≤∣x∣+∣y∣
をみたすとき絶対値という。3 より強い超距離不等式 ∣x+y∣≤max(∣x∣,∣y∣) をみたすものを非アルキメデス的 (non-archimedean)、そうでないものをアルキメデス的という。すべての x=0 で ∣x∣=1 となるものを自明な絶対値という。
例 5.2(p 進絶対値)素数 p と 0=x∈Q に対し、x=pna/b(a,b は p と互いに素な整数)と書いて vp(x)=n、∣x∣p=p−n とおく(∣0∣p=0、vp(0)=∞)。vp(xy)=vp(x)+vp(y)、vp(x+y)≥min(vp(x),vp(y)) なので ∣⋅∣p は非アルキメデス的絶対値である。p で何度も割り切れる数ほど「小さい」。たとえば x=12/35 では ∣x∣2=41, ∣x∣3=31, ∣x∣5=5, ∣x∣7=7 である。∣pn∣p=p−n→0 であり、1,1+p,1+p+p2,… は ∣⋅∣p に関してコーシー列になる。通常の絶対値を ∣⋅∣∞ と書く。
一般に、写像 v:K→Z∪{∞} で v(x)=∞⟺x=0、v(xy)=v(x)+v(y)、v(x+y)≥min(v(x),v(y)) をみたす全射を離散付値 (discrete valuation) という。0<c<1 に対し ∣x∣=cv(x) は非アルキメデス的絶対値である。代数体の素イデアル p に対する vp(定理 2.5)は離散付値である。
定義 5.3(同値な絶対値)∣⋅∣1=∣⋅∣2s となる s>0 があるとき、2 つの絶対値は同値であるという。同値な絶対値は同じ位相を定める。
命題 5.4 絶対値 ∣⋅∣ について、非アルキメデス的であることと、{∣n⋅1∣∣n∈Z} が有界であることは同値である。このとき ∣n⋅1∣≤1 である。
証明. 非アルキメデス的なら ∣n⋅1∣=∣1+⋯+1∣≤1。逆に ∣n⋅1∣≤C とすると、二項展開と三角不等式から
∣x+y∣N=k=0∑N(kN)xkyN−k≤(N+1)Cmax(∣x∣,∣y∣)N
N 乗根をとって N→∞ とすると ∣x+y∣≤max(∣x∣,∣y∣)。□
特に、正標数の体の絶対値はすべて非アルキメデス的である。
5.2 オストロフスキーの定理
定理 5.5(オストロフスキーの定理, Ostrowski's theorem)Q の自明でない絶対値は、∣⋅∣∞ か、ただ 1 つの素数 p についての ∣⋅∣p のいずれかに同値である。
証明. 非アルキメデス的な場合. 命題 5.4 より ∣n∣≤1(n∈Z)。a={n∈Z∣∣n∣<1} は超距離不等式と乗法性から Z のイデアルで、1∈/a、また ∣ab∣<1 なら ∣a∣<1 または ∣b∣<1 なので素イデアルである。a=0 なら 0 でない整数の絶対値がすべて 1 で、乗法性から絶対値は自明になる。よって a=pZ(p は素数)。c=∣p∣<1 とおくと、n=pkm(p∤m)について ∣m∣=1 だから ∣n∣=ck=∣n∣ps(s=−logc/logp>0)。乗法性により Q 全体で ∣⋅∣=∣⋅∣ps。
アルキメデス的な場合. 整数 m,n≥2 をとり、mk を n 進法で mk=a0+a1n+⋯+arnr(0≤ai<n, r≤klogm/logn)と書く。三角不等式より正の整数 a について ∣a∣≤a なので
∣m∣k≤i=0∑r∣ai∣∣n∣i≤(r+1)nmax(1,∣n∣)r≤(1+klognlogm)nmax(1,∣n∣)klogm/logn
k 乗根をとって k→∞ とすると ∣m∣≤max(1,∣n∣)logm/logn。仮定より ∣m0∣>1 となる m0 があるので、m=m0 とすると任意の n≥2 で ∣n∣>1 が分かり、∣m∣1/logm≤∣n∣1/logn。m,n を入れ替えて等号が成り立ち、∣n∣1/logn=es(s>0 は定数)、すなわち ∣n∣=ns=∣n∣∞s。
最後に、∣p∣p<1=∣p∣q(q=p)、∣p∣∞>1 なので、これらは互いに同値でない。□
Q の絶対値の同値類を素点 (place) といい、p に対応するものを有限素点、∣⋅∣∞ に対応するものを無限素点 ∞ という。
5.3 完備化と Qp
絶対値 ∣⋅∣ をもつ体 K のコーシー列全体を、0 に収束する列のなす極大イデアルで割ると、完備な体 K が得られ、∣⋅∣ は K に一意的に延長され、K は K で稠密である(Q から R を作る構成と同じ。集合と位相 第7章)。K を K の完備化 (completion) という。
定義 5.6 (Q,∣⋅∣p) の完備化を Qp と書き、p 進数体 (field of p-adic numbers) という。Zp={x∈Qp∣∣x∣p≤1} を p 進整数環 (ring of p-adic integers) という。
命題 5.7 K を非アルキメデス的絶対値について完備な体とする。
- ∣x∣=∣y∣ ならば ∣x+y∣=max(∣x∣,∣y∣)(すべての三角形は二等辺三角形)。特に xn→x=0 なら十分大きい n で ∣xn∣=∣x∣。
- 級数 ∑an が収束するための必要十分条件は an→0 である。
証明. (1) ∣x∣>∣y∣ とすると ∣x+y∣≤∣x∣ かつ ∣x∣=∣(x+y)−y∣≤max(∣x+y∣,∣y∣) で、後者の最大は ∣x+y∣ でなければならない。後半は ∣xn−x∣<∣x∣ となる n で (1) を使う。(2) 部分和 sn について ∣sm−sn∣≤maxn<k≤m∣ak∣ だから、an→0 ならコーシー列である。□
(1) より ∣Qp×∣p=∣Q×∣p=pZ で、vp は Qp に延長される。
命題 5.8
- Zp は部分環で、Zp×={∣x∣p=1}。0=x∈Qp は x=pnu(n=vp(x), u∈Zp×)と一意的に書ける。
- Zp は離散付値環で、0 でないイデアルは pnZp(n≥0)だけである。
- Z は Zp で稠密であり、Zp/pnZp≅Z/pnZ。
証明. (1) 超距離不等式と乗法性から。(2) x∈Zp が単元でない ⟺∣x∣p<1⟺x∈pZp。0 でないイデアル I の元で vp が最小のもの pnu をとれば I=pnZp。(3) x∈Zp と n に対し、∣x−a/b∣p≤p−n となる有理数 a/b をとる。∣a/b∣p≤1 なので p∤b としてよく、bb′≡1(modpn) となる整数 b′ をとると ∣a/b−ab′∣p=∣a∣p∣1−bb′∣p/∣b∣p≤p−n。よって ∣x−ab′∣p≤p−n で、Z→Zp/pnZp は全射、核は Z∩pnZp=pnZ。□
定理 5.9(射影極限と p 進展開)
- 写像 x↦(xmodpn)n≥1 は環同型 Zp≅limnZ/pnZ を与える。
- 任意の x∈Zp は x=∑i=0∞aipi(ai∈{0,1,…,p−1})と一意的に表される。x∈Qp は x=∑i≥−Naipi と表される。
証明. (1) 準同型であることは明らか。⋂npnZp=0 より単射。整合的な列 (xn) が与えられたとき、整数の代表 x~n をとると ∣x~n+1−x~n∣p≤p−n でコーシー列となり、極限 x は x≡x~n(modpn) をみたす。(2) xmodpn の 0 以上 pn 未満の代表 sn を p 進法で書くと、整合性から sn+1=sn+anpn(0≤an<p)となり、x=limsn=∑aipi。一意性は (1) の単射性から。Qp の元は p−Nx(x∈Zp)の形である。□
例 5.10 (a) −1=∑i≥0(p−1)pi(1+∑(p−1)pi の部分和は pn で、0 に収束する)。(b) 1−p1=∑i≥0pi。(c) 31∈Z5:3a0≡1(mod5) から a0=2、(31−2)/5=−31。3a1≡−1 から a1=3、(−31−3)/5=−32。3a2≡−2 から a2=1、(−32−1)/5=−31 で以下くり返し、
31=2+3⋅5+1⋅52+3⋅53+1⋅54+⋯
検算:2+(3⋅5+52)(1+52+54+⋯)=2+1−2540=2−35=31。一般に、有理数であることと p 進展開が循環的であることは同値である。
命題 5.11 Zp はコンパクトであり、Qp は局所コンパクトである。
証明. Zp は距離空間なので点列コンパクト性を示せばよい。点列 (xk) の p 進展開の第 0 桁は p 通りなので、無限個の xk が同じ第 0 桁をもつ。その中で無限個が同じ第 1 桁をもつ。これを続けて対角線論法で部分列をとると、第 n 桁までが一致する部分列が得られ、それは収束する。Qp の各点 a は a+Zp というコンパクトな近傍をもつ。□
補足
超距離不等式から、p 進位相は直感に反する性質をもつ。球 B(a,r)={∣x−a∣≤r} の任意の点が中心であり、2 つの球は交わらないか一方が他方を含む。球は開集合かつ閉集合で、Zp=⨆a=0p−1(a+pZp) のように自分自身の互いに素な p 個の縮小コピーに分かれる。特に Zp は完全不連結であり、カントール集合と同相である。
5.4 ヘンゼルの補題
定理 5.12(ヘンゼルの補題, Hensel's lemma)f∈Zp[x]、a0∈Zp が
∣f(a0)∣p<∣f′(a0)∣p2
をみたすとする。このとき f(a)=0 かつ ∣a−a0∣p<∣f′(a0)∣p となる a∈Zp がただ 1 つ存在する。特に、f(a0)≡0, f′(a0)≡0(modp) ならば、a≡a0(modp) となる f の根 a∈Zp がただ 1 つ存在する。
証明. ニュートン法 an+1=an−f(an)/f′(an) を用いる。∣⋅∣=∣⋅∣p、t=∣f(a0)∣/∣f′(a0)∣2<1 とおく。f(x+h)=f(x)+f′(x)h+h2g(x,h)(g∈Zp[x,h])と展開できることに注意して、帰納法で
an∈Zp,∣f′(an)∣=∣f′(a0)∣,∣f(an)∣≤∣f′(a0)∣2t2n
を示す。n で成り立つとし、hn=−f(an)/f′(an) とおくと ∣hn∣≤∣f′(a0)∣t2n<∣f′(a0)∣≤1 なので an+1=an+hn∈Zp。f(an+1)=hn2g(an,hn) より ∣f(an+1)∣≤∣hn∣2≤∣f′(a0)∣2t2n+1。また f′(an+1)=f′(an)+hn⋅(Zp の元) で ∣hn∣<∣f′(an)∣ だから、命題 5.7 (1) より ∣f′(an+1)∣=∣f′(an)∣。
∣an+1−an∣=∣hn∣→0 なので (an) はコーシー列で、極限 a は f(a)=0、∣a−a0∣≤maxn∣hn∣≤∣f′(a0)∣t<∣f′(a0)∣ をみたし、∣f′(a)∣=∣f′(a0)∣。一意性:b も条件をみたす根とし h=b−a とすると ∣h∣<∣f′(a)∣ で、0=f(b)−f(a)=h(f′(a)+hg(a,h))。h=0 なら ∣f′(a)∣=∣hg(a,h)∣≤∣h∣ となり矛盾。□
例 5.13(−1∈Z5)f=x2+1、a0=2 とすると f(2)=5≡0、f′(2)=4≡0(mod5)。根を桁ごとに求める。mod25:(2+5t)2=4+20t+25t2≡−1 から 20t≡20、t=1 で 7(72=49=50−1)。mod125:(7+25t)2≡49+350t≡−1 から 100t≡75(mod125)、4t≡3(mod5)、t=2 で 57(572+1=3250=26⋅125)。mod625:同様に t=1 で 182(1822+1=33125=53⋅625)。よって
−1=2+1⋅5+2⋅52+1⋅53+3⋅54+4⋅55+⋯∈Z5
(a0=3 から始めると −−1 が得られる)。Q3 には −1 は存在しない(−1 は mod3 で平方数でない)。
定理 5.14(Zp× の構造)Un=1+pnZp とおく。
- Qp は 1 の (p−1) 乗根をちょうど p−1 個含み、それらのなす群 μp−1 について Zp×=μp−1×U1。
- p が奇素数なら U1≅Zp(加法群)。したがって Zp×≅Z/(p−1)Z×Zp、Qp×≅Z×Z/(p−1)Z×Zp。
- p=2 なら Z2×={±1}×U2、U2≅Z2。
証明. (1) f=xp−1−1 は Fp 上で p−1 個の相異なる根 1,…,p−1 をもち、f′(a)=(p−1)ap−2≡0。ヘンゼルの補題により各根が一意的に持ち上がり、μp−1→Fp× は同型になる。Zp×→Fp× は全射で核は U1、μp−1 がその切断を与えるので直積に分解する。
(2) まず (1+p)pk=1+pk+1uk(uk∈Zp×)を k についての帰納法で示す。(1+pk+1u)p=1+pk+2u+(2p)p2k+2u2+⋯ で、p が奇数なら 2 項目以降の項は pk+3 で割り切れる((2p) は p の倍数、p 乗の項は pp(k+1) で p(k+1)≥k+3)。次に U1/Un の位数は pn−1 である(1+px と 1+py が同じ剰余類 ⟺x≡y(modpn−1))。1+p の U1/Un での位数は、上の式からちょうど pn−1 なので、U1/Un は 1+p で生成される巡回群であり、a↦(1+p)a は同型 Z/pn−1Z≅U1/Un を与える。これらは n について整合的で、U1 は完備かつ ⋂nUn={1} だから、射影極限をとって Zp≅U1。
(3) −1∈/U2 で Z2×=U1={±1}×U2。52k=1+2k+2uk(uk は単元)を同様に示せば、U2≅Z2 が従う(問題 5.7)。□
μp−1 の元 ω(a)(amodp の持ち上げ)をタイヒミュラー代表元という。例 5.13 の −1 は ω(2) に等しい(ω(2)2=ω(4)=ω(−1)=−1)。
系 5.15(平方元の判定)
- p が奇素数のとき、u∈Zp× が Qp で平方数 ⟺ umodp が Fp で平方数。x=pnu が平方数 ⟺ n が偶数かつ u が平方数。Qp×/(Qp×)2 は位数 4 で、代表は 1,ε,p,εp(ε は平方数でない単数)。
- u∈Z2× が平方数 ⟺u≡1(mod8)。Q2×/(Q2×)2 は位数 8 で、代表は ±1,±5,±2,±10。
証明. (1) f=x2−u、f′(a)=2a は単元なので、modp の根が持ち上がる。逆は明らか。(2) u≡1(mod8) なら a0=1 で ∣f(1)∣2=∣1−u∣2≤2−3<2−2=∣f′(1)∣22 なので定理 5.12 が使える。逆に奇数の平方は ≡1(mod8)。指数は (1), (2) と定理 5.14 から数えられる。□
例 5.16 −7≡1(mod8) より −7∈Z2(−7=1+2+23+⋯)。Q(−7) で 2 が分解すること(第2章 問題 2.2)はこれに対応している(5.7 節)。7≡1(mod3) より 7∈Z3。2 は Q3 で平方数でないが、Q7 では平方数である(32≡2(mod7))。
5.5 局所体
定義 5.17(局所体, local field)離散的でない局所コンパクトな位相体を局所体という。
定理 5.18(局所体の分類)局所体は、R、C、Qp の有限次拡大体、有限体 Fq 上の形式的ローラン級数体 Fq((t)) の有限次拡大体のいずれかと同型である。
証明は Neukirch 第 II 章や Serre の Local Fields を参照(本教材では主張のみ)。以下、Qp の有限次拡大を扱う。
定理 5.19(絶対値の延長)K を Qp の有限次拡大、n=[K:Qp] とする。
- ∣⋅∣p は K 上の絶対値に一意的に延長され、それは ∣x∣=∣NK/Qp(x)∣p1/n で与えられる。K はこの絶対値について完備である。
- OK={∣x∣≤1} は Zp の K における整閉包で、離散付値環である。その極大イデアルの生成元 πK を素元 (uniformizer) という。
- pOK=πKeOK、剰余体 κK=OK/πKOK を Fpf とすると ef=n。
証明は Neukirch 第 II 章などを参照。e を分岐指数、f を剰余次数といい、e=1 のとき K/Qp は不分岐 (unramified)、f=1 のとき完全分岐 (totally ramified) であるという。第2章の e,f との関係は 5.7 節で述べる。
5.6 不分岐拡大と完全分岐拡大
定理 5.20(不分岐拡大)各 f≥1 に対し、Qp の f 次不分岐拡大は(Qp の中で)ただ 1 つ存在し、それは Qp(ζpf−1) である。これはガロア拡大で、ガロア群は剰余体の拡大のガロア群 Gal(Fpf/Fp) と同型な位数 f の巡回群であり、フロベニウス元 ζpf−1↦ζpf−1p で生成される。
証明の方針. xpf−1−1 は Fp 上分離的なので、その既約因子は定理 5.12 の多項式版(既約分解の持ち上げ)により Zp[x] の既約因子に持ち上がる。Qp(ζpf−1) の剰余体は Fp(ζ)=Fpf を含み、次数は f 以下なので e=1, 次数 f となる。逆に f 次不分岐拡大 K では κK=Fpf で、ヘンゼルの補題により K は 1 の (pf−1) 乗根をすべて含むから K⊃Qp(ζpf−1)、次数を比べて等号が成り立つ。詳細は Serre の Local Fields などを参照。□
完全分岐拡大はエイゼンシュタイン多項式で特徴づけられる。以下、Qp の有限次拡大 K 上の付値 v を v(πK)=1 と正規化する。
命題 5.21(エイゼンシュタイン多項式)K を Qp の有限次拡大、π=πK とする。
- g=xn+cn−1xn−1+⋯+c0∈OK[x] がエイゼンシュタイン多項式(v(ci)≥1, v(c0)=1)ならば、g は既約で、その根 α について L=K(α) は n 次完全分岐拡大、α は L の素元である。
- 逆に L/K が n 次完全分岐拡大なら、L の素元の K 上の最小多項式はエイゼンシュタイン多項式である。
証明. (1) L=K(α) 上に付値 v を延長する(値は e(L/K)1Z に入る)。v(α)≤0 とすると αn=−∑i<nciαi の左辺の付値 nv(α) が右辺の各項の付値 v(ci)+iv(α)≥1+iv(α) より小さく矛盾するので、v(α)>0。すると i≥1 の項は v(ciαi)>1=v(c0) なので、命題 5.7 (1) より nv(α)=v(c0)=1、v(α)=1/n。よって e(L/K)≥n≥[L:K]≥e(L/K) となり、[L:K]=n(g は既約)、e=n、α は素元である。(2) 素元 πL の最小多項式の根(共役)はすべて同じ絶対値 ∣πL∣<1 をもつ(定理 5.19 の一意性)ので、係数(根の基本対称式)の付値は正、すなわち ≥1。定数項は ±NL/K(πL) で、その付値は n⋅v(πL)=n⋅n1=1。□
例 5.22 (a) Qp(ζp)/Qp は、Φp(x+1) がアイゼンシュタイン多項式なので p−1 次完全分岐拡大で、ζp−1 が素元である(定理 2.30 の局所版)。(b) Q2(i):(x+1)2+1=x2+2x+2 はアイゼンシュタインで、分岐する。Q2(−3)=Q2(ζ3) は 2 次不分岐拡大である(剰余体 F4)。(c) 系 5.15 より、p が奇素数なら Qp の 2 次拡大は Qp(ε)(不分岐)、Qp(p)、Qp(εp)(完全分岐)の 3 つ、Q2 の 2 次拡大は Q2(d)(d=−1,±2,±5,±10)の 7 つで、不分岐なのは Q2(5)=Q2(−3) だけである。
5.7 大域体の素点と完備化
代数体 K の素点 (place) とは、K の自明でない絶対値の同値類である。オストロフスキーの定理の一般化により、素点は次のもので尽くされる。
- 有限素点:0 でない素イデアル p に対し、∣x∣p=N(p)−vp(x)。
- 無限素点:実埋め込み σ に対し ∣x∣σ=∣σ(x)∣、複素埋め込みの対 {τ,τ} に対し ∣x∣τ=∣τ(x)∣2。
ここで選んだ正規化(正規化された絶対値)は、複素素点で三角不等式をみたさないが、積公式を簡潔にする。素点 v での完備化を Kv と書く。有限素点 p∣p の完備化 Kp は Qp の有限次拡大で、無限素点では R または C である。
定理 5.23 K=Q(α)、α の最小多項式を f とし、f=f1⋯fg を Qp[x] での既約分解とする。このとき
K⊗QQp≅Qp[x]/(f)≅i=1∏gQp[x]/(fi)
であり、p の上の素イデアル p1,…,pg と f1,…,fg が 1 対 1 に対応して Kpi≅Qp[x]/(fi)、[Kpi:Qp]=eifi(第2章の分岐指数・剰余次数)が成り立つ。
証明の概略. 最初の同型は K≅Q[x]/(f) から、2 番目は中国剰余定理から従う。Qp[x]/(fi) は Qp の有限次拡大で、定理 5.19 により ∣⋅∣p の延長がただ 1 つ存在し、それを K に制限すると p の上のある p の絶対値と同値になる。この対応が全単射で、e,f が局所体と大域体で一致することの証明は Neukirch 第 II 章を参照。□
例 5.24 (a) K=Q(i):x2+1 は Q5 で (x−−1)(x+−1) と分解し(例 5.13)、K⊗Q5≅Q5×Q5。これは 5=(2+i)(2−i) と分解することに対応する。Q3 上では既約で K⊗Q3=Q3(i)(2 次不分岐)、3 は惰性的。Q2 上では Q2(i) は分岐し、2 は分岐する。(b) Q(32)⊗Q5≅Q5×Q5(ζ24)(1 次と 2 次不分岐)で、例 2.15 の (ei,fi)=(1,1),(1,2) に対応する。(c) 一般に p∤2d なら、p が Q(d) で分解する ⟺ d が Qp で平方数 ⟺(pd)=1 で、定理 2.18 と系 5.15 が一致する。
5.8 積公式
定理 5.25(積公式, product formula)x∈Q× について
v∏∣x∣v=∣x∣∞p∏∣x∣p=1
である。より一般に、代数体 K と x∈K× について、正規化された絶対値の積 ∏v∣x∣v は 1 である。
証明. 両辺は乗法的なので、x=−1 と x=q(素数)で確かめればよい。x=q なら ∣q∣∞=q、∣q∣q=q−1、それ以外の p で ∣q∣p=1。代数体の場合、無限素点の積は ∏σ∣σ(x)∣=∣NK/Q(x)∣ で、x∈OK なら有限素点の積は ∏pN(p)−vp(x)=N(xOK)−1=∣NK/Q(x)∣−1(定理 2.10)。一般の x は整数の商で表せる。□
例 5.2 の x=12/35 では 3512⋅41⋅31⋅5⋅7=1 である。積公式は、代数曲線上の有理関数の零点と極の位数の和が 0 であること(代数幾何学 第8章)の数論版とみなせる。
5.9 ハッセ–ミンコフスキーの定理
方程式が Q で解をもつなら、すべての Qp と R でも解をもつ。逆が成り立つとき、局所大域原理 (local–global principle) が成り立つという。
定理 5.26(ハッセ–ミンコフスキーの定理, Hasse–Minkowski)Q 係数の非退化な二次形式 Q(x1,…,xn) が Q で非自明な零点をもつための必要十分条件は、R およびすべての Qp で非自明な零点をもつことである。
証明は Serre『数論講義』第 IV 章を参照(本教材では主張のみ)。Q を対角形 a1x12+⋯+anxn2(ai∈Z)に直しておくと、2a1⋯an を割らない素数 p では、n≥3 なら Qp での非自明な零点が自動的に存在する(有限体上のシュヴァレー–ワーニングの定理とヘンゼルの補題)ので、確かめるべき素点は有限個である。
例 5.27 (a) x2+y2=3z2 は非自明な有理数解をもたない。Q3 で解をもたないことを示せば十分である。v3 の最小値が 0 となるように解 (x,y,z)∈Z33 を正規化すると、x2+y2≡0(mod3) から(−1 は mod3 で平方数でないので)x≡y≡0。すると 9∣3z2 で 3∣z となり正規化に反する。(b) x2+y2=5z2 は (1,2,1) という解をもつ。(c) x2+y2+z2=7w2 は Q2 で解をもたない(問題 5.5)。
注意
局所大域原理は二次形式を超えると一般には成り立たない。セルマーの例 3x3+4y3+5z3=0 は R とすべての Qp で非自明な解をもつが、Q では解をもたない。この「局所大域原理の破れ」は楕円曲線のテイト–シャファレビッチ群によって測られ、第6章で触れる BSD 予想にも現れる。
まとめ
- 絶対値は非アルキメデス的なものとアルキメデス的なものに分かれ、Q の絶対値は ∣⋅∣∞ と ∣⋅∣p で尽くされる(オストロフスキー)。
- Qp は Q の p 進完備化、Zp はその付値環で、Zp≅limZ/pnZ、元は p 進展開 ∑aipi で表される。Zp はコンパクトな離散付値環である。
- ヘンゼルの補題:∣f(a0)∣<∣f′(a0)∣2 なら近くに根がある。これから Zp×=μp−1×U1、U1≅Zp(p 奇)が従う。
- 平方判定:p 奇なら単数は modp で平方数なら平方数、p=2 では mod8 で 1 なら平方数。
- 局所体は R,C、Qp の有限次拡大、Fq((t)) の有限次拡大。ef=n が成り立つ。
- 不分岐拡大は次数ごとにただ 1 つで 1 のべき根で生成され、完全分岐拡大はエイゼンシュタイン多項式で生成される。
- 大域体の p の分解は、最小多項式の Qp 上の既約分解に対応し、K⊗Qp≅∏p∣pKp。
- 積公式 ∏v∣x∣v=1。二次形式ではハッセ–ミンコフスキーの局所大域原理が成り立つ。
演習問題
問題 5.1 ★ (1) 32 の 7 進展開と、−61 の 5 進展開を求めよ。(2) x=−24572 について各 ∣x∣v を求め、積公式を確かめよ。
解答
(1) 3a0≡2(mod7) から a0=3、(32−3)/7=−31。3a≡−1(mod7) から a=2、(−31−2)/7=−31 で以下くり返し、32=3+2⋅7+2⋅72+⋯(検算:3+1−714=3−37=32)。−61:6a0≡−1(mod5) から a0=4、(−61−4)/5=−65、6a≡−5≡0 から a1=0、−65/5=−61 でくり返し、−61=4+0⋅5+4⋅52+0⋅53+⋯(検算:1−254=−61)。
(2) 72=23⋅32、245=5⋅72。∣x∣∞=24572、∣x∣2=81、∣x∣3=91、∣x∣5=5、∣x∣7=49、他は 1。積は 24572⋅721⋅245=1。
問題 5.2 ★ 級数 ∑n=0∞n! がすべての Qp で収束することを示せ。
解答
ルジャンドルの公式 vp(n!)=∑k≥1⌊n/pk⌋≥⌊n/p⌋→∞ より ∣n!∣p→0。命題 5.7 (2) より収束する。(和が有理数かどうかは知られていない。)
問題 5.3 ★★ ヘンゼルの補題を用いて 2∈Z7(≡3(mod7) となるもの)を mod73 まで求めよ。
解答
32=9≡2(mod7)、f′(3)=6≡0。mod49:(3+7t)2=9+42t+49t2≡2 から 42t≡−7、6t≡−1≡6(mod7)、t=1 で 10(100=2⋅49+2)。mod343:(10+49t)2≡100+980t≡2 から 98+980t≡0(mod343)、49 で割って 2+20t≡0(mod7)、6t≡5、t≡5⋅6≡2 で 108。検算:1082−2=11662=34⋅343。よって 2≡108=3+1⋅7+2⋅72(mod73)。
問題 5.4 ★★ 2,3,5,−1,−2,6,−7,17 のうち、Q2, Q3, Q5 でそれぞれ平方数であるものを答えよ。
解答
系 5.15 を使う。Q2:付値が奇数の 2,−2,6 は不可。単数は mod8 で 1 のもの:−7≡1、17≡1 が平方数(3,5,−1≡7 は不可)。Q3:3,6 は付値が奇数で不可。単数は mod3 で 1 のもの:−2≡1 だけ(2,5,−1,−7,17 はすべて ≡2)。Q5:5 は不可。mod5 の平方数は 1,4 で、−1≡4、6≡1 が平方数(2,3,−2≡3,−7≡3,17≡2 は不可)。
問題 5.5 ★★ x2+y2+z2=7w2 が非自明な有理数解をもたないことを、Q2 で考えて示せ。
解答
非自明な解があれば、2 進付値の最小値が 0 となるように正規化した Z2 の解 (x,y,z,w) がある(有理数解なら分母を払って整数解でもよい)。w が奇数なら 7w2≡7(mod8) だが、平方数は mod8 で 0,1,4 なので 3 つの平方の和は mod8 で 7 にならない。w が偶数なら x2+y2+z2≡0(mod4) で、平方数は mod4 で 0,1 だから x,y,z はすべて偶数となり、正規化に反する。
問題 5.6 ★★ (1) n≥1 について Qp(np)/Qp が n 次完全分岐拡大であることを示せ。(2) Q3(−1), Q3(3), Q3(−3) のうち不分岐なものはどれか。
解答
(1) xn−p はアイゼンシュタイン多項式なので、命題 5.21 (1) から従う。(2) −1 は mod3 で平方数でない単数なので Q3(−1) は x2+1 の根で生成され、剰余体は F3[x]/(x2+1)=F9、f=2 で不分岐。x2−3、x2+3 はアイゼンシュタインなので Q3(3), Q3(−3) は完全分岐。(例 5.22 (c) の ε=−1 の場合である。)
問題 5.7 ★★★ Z2×={±1}×(1+4Z2)、1+4Z2≅Z2 を示し、[Q2×:(Q2×)2]=8 を導け。
ヒント
- Z2×=1+2Z2 で、u∈Z2× は u≡1 または 3(mod4)。後者なら −u≡1(mod4)。よって Z2×={±1}×U2(Un=1+2nZ2)。
- (1+2k+2u)2=1+2k+3(u+2k+1u2) から帰納法で 52k=1+2k+2uk(uk は奇数)。よって 5 の U2/Un(位数 2n−2)での位数は 2n−2 で、U2/Un は 5 で生成される巡回群。射影極限をとって U2≅Z2。
- Q2×≅Z×Z/2Z×Z2 で、平方元の部分群は 2Z×0×2Z2。指数は 2⋅2⋅2=8。
問題 5.8 ★★★ 相異なる素数 p,q について、Qp と Qq は体として同型でないことを示せ。
ヒント
- 体の同型は素体 Q を固定する。x=1+p に注目する。
- Qp では、p と互いに素な任意の n について 1+p は n 乗数である(xn−(1+p) に a0=1 でヘンゼルの補題、f′(1)=n は単数)。
- Qq で 1+p がすべての k について qk 乗数だとする(qk は p と互いに素)。vq(1+p) は qk の倍数なので 0、すなわち 1+p∈Zq×。定理 5.14 より Zq× はねじれ部分(有限群)と Zq の直積で、⋂kqkZq=0 だから、すべての qk 乗数であるような元はねじれ部分、すなわち 1 のべき根に属する。しかし 1+p>1 は有理数で 1 のべき根でない。