この章の目標
- 格子とミンコフスキーの凸体定理を理解し、証明できる
- 代数体を Rn の格子として実現し、ミンコフスキーの限界から類数の有限性を証明する
- ミンコフスキーの限界を使って、具体的な代数体の類数と類群を計算できる
- ディリクレの単数定理を証明し、実二次体の基本単数を求め、ペル方程式を解ける
前提:第1章(判別式)、第2章(イデアルのノルム、デデキント–クンマーの定理)、測度と積分 第2章(ルベーグ測度の平行移動不変性と線形変換)
代数的整数論の二つの基本的な有限性定理――イデアル類群は有限群である、単数群は有限生成である――は、どちらも「Rn の格子と凸集合」という幾何学的な考察から導かれる。ミンコフスキーが「数の幾何学」と名づけたこの方法は、面積や体積を比べるだけで整数論的な対象の存在を保証する。本章では、まずこの方法で類数を計算し、次にディリクレの単数定理を証明する。
3.1 格子と基本領域
定義 3.1(格子, lattice)Rn の基底 v1,…,vn によって Λ=Zv1+⋯+Zvn と書ける部分群を格子という。Φ={∑itivi∣0≤ti<1} を基本平行体 (fundamental parallelotope) といい、その体積
vol(Rn/Λ)=∣det(v1,…,vn)∣
を Λ の余体積 (covolume) という。
別の基底への変換行列は GLn(Z) に属し行列式が ±1 なので、余体積は基底によらない。Rn=⨆λ∈Λ(Φ+λ)(非交和)である。部分格子 Λ′⊂Λ については vol(Rn/Λ′)=[Λ:Λ′]vol(Rn/Λ) が成り立つ(指数は基底変換行列の行列式の絶対値)。
命題 3.2 Γ を Rm の離散部分群とする。Γ は R 上一次独立なベクトル v1,…,vr を用いて Γ=Zv1⊕⋯⊕Zvr と書ける。特に r≤m である。
証明. まず、有界集合 B に含まれる Γ の元は有限個である。無限個あればボルツァーノ–ワイエルシュトラスの定理により集積点をもち、差をとると 0 に収束する Γ∖{0} の点列が得られて離散性に反する。Γ が張る部分空間 V の基底 u1,…,ur を Γ からとり、Γ0=⨁iZui とおく。γ∈Γ を γ=γ0+∑itiui(γ0∈Γ0, 0≤ti<1)と書くと ∑itiui∈Γ は有界集合に属するから、剰余類 Γ/Γ0 は有限で、その位数を q とすると qΓ⊂Γ0。よって Γ0⊂Γ⊂q1Γ0≅Zr で、Γ は階数 r の自由アーベル群である(代数学 第7章)。その基底 v1,…,vr は V を張るので一次独立である。□
3.2 ミンコフスキーの凸体定理
補題 3.3(ブリクフェルト, Blichfeldt)Λ⊂Rn を格子、S⊂Rn を可測集合とし、vol(S)>vol(Rn/Λ) とする。このとき x=y となる x,y∈S で x−y∈Λ となるものが存在する。
証明. Sλ=(S∩(Φ+λ))−λ⊂Φ とおく。ルベーグ測度の平行移動不変性と可算加法性より ∑λ∈Λvol(Sλ)=vol(S)>vol(Φ)。Sλ がどれも交わらなければ左辺は vol(Φ) 以下なので、ある λ=μ について Sλ∩Sμ=∅。共通の点を x−λ=y−μ(x,y∈S)と書けば x−y=λ−μ∈Λ∖{0}。□
定理 3.4(ミンコフスキーの凸体定理, Minkowski's convex body theorem)Λ⊂Rn を格子、X⊂Rn を原点対称(x∈X⇒−x∈X)な凸集合とする。
vol(X)>2nvol(Rn/Λ)
ならば、X は Λ の 0 でない点を含む。X がコンパクトなら、≥ でも同じ結論が成り立つ。
証明. vol(21X)=2−nvol(X)>vol(Rn/Λ) なので、補題 3.3 より x=y∈21X で x−y∈Λ となるものがある。2x,−2y∈X だから凸性より x−y=21(2x)+21(−2y)∈X。
X がコンパクトで等号の場合、各 k∈N について (1+k1)X に前半を適用して 0=λk∈Λ∩(1+k1)X を得る。これらは有界集合 2X に属し、格子の有界部分は有限集合だから、ある λ が無限個の k で現れる。λ∈⋂k(1+k1)X=X(X は閉集合)である。□
例 3.5(二平方和定理の別証明)p≡1(mod4) を素数とし、u2≡−1(modp) となる u をとる(代数学 第1章 のオイラーの規準)。Λ={(a,b)∈Z2∣b≡ua(modp)} は Z2 の指数 p の部分格子で、余体積は p。円板 X={a2+b2<2p} の面積 2πp は 4p より大きいので、0=(a,b)∈Λ∩X がある。a2+b2≡a2(1+u2)≡0(modp) かつ 0<a2+b2<2p だから a2+b2=p。
3.3 代数体の格子としての実現
K を n 次の代数体とし、実埋め込みを σ1,…,σr1、複素埋め込みの各対から 1 つずつ選んだものを τ1,…,τr2 とする。
j:K→KR:=Rr1×Cr2,j(α)=(σ1(α),…,σr1(α),τ1(α),…,τr2(α))
とおき、C∋z=x+iy↦(x,y)∈R2 によって KR=Rn とみなす(体積は Rn のルベーグ測度)。
命題 3.6 a=0 を OK のイデアルとすると、j(a) は Rn の格子で
vol(Rn/j(a))=2−r2∣dK∣ N(a)
である。
証明. 整基底 ω1,…,ωn をとる。j(ωk) の座標を並べた n×n 行列 B の各行は、σi(ωk) または Reτj(ωk)=21(τj+τj)(ωk), Imτj(ωk)=2i1(τj−τj)(ωk) である。一方 A=(σ(ωk))σ,k(σ はすべての埋め込み)について、τj,τj の 2 行を上の 2 行に置き換える操作は、2 行に左から行列
(1/21/(2i)1/2−1/(2i))(行列式は i/2)
を掛けることなので、行列式を i/2 倍する。よって ∣detB∣=2−r2∣detA∣=2−r2∣dK∣(命題 1.19)。特に B は正則で j(OK) は格子である。j(a) は指数 [OK:a]=N(a) の部分格子である。□
3.4 ミンコフスキーの限界と類数の有限性
補題 3.7 t>0 に対し Xt={(x,z)∈Rr1×Cr2∣∑i∣xi∣+2∑j∣zj∣≤t} とおくと
vol(Xt)=2r1(2π)r2n!tn(n=r1+2r2)
証明. Va,b(t)=vol(Xt)(r1=a, r2=b)とおく。Xt は t 倍の相似で得られるから Va,b(t)=ca,btm(m=a+2b)と書ける。示すべき式は ca,b=2a(π/2)b/m! で、c1,0=2(区間 [−t,t])、c0,1=π/4(半径 t/2 の円板)は正しい。実座標を 1 つ分離すると、フビニの定理より
Va,b(t)=∫−ttVa−1,b(t−∣x∣)dx=2ca−1,b∫0t(t−x)m−1dx=m2ca−1,btm
複素座標 z=ρeiϕ を 1 つ分離すると、極座標により
Va,b(t)=∫02π∫0t/2ca,b−1(t−2ρ)m−2ρdρdϕ=2πca,b−1⋅4m(m−1)tm
(u=2ρ と置換し ∫0t(t−u)m−2u du=tm/(m(m−1)) を用いた)。よって ca,b=2ca−1,b/m、ca,b=2πca,b−1/(m(m−1)) で、これらは 2a(π/2)b/m! がみたす漸化式と同じである。帰納法により主張が従う。□
定理 3.8(ミンコフスキーの限界, Minkowski bound)a=0 を OK のイデアルとすると、0=α∈a で
∣NK/Q(α)∣≤MKN(a),MK=nnn!(π4)r2∣dK∣
をみたすものが存在する。MK をミンコフスキーの限界という。
証明. Xt はコンパクトで原点対称な凸集合である。vol(Xt)=2nvol(Rn/j(a)) となるように t を選ぶと、補題 3.7 と命題 3.6 より
2r1(2π)r2n!tn=2n−r2∣dK∣N(a),すなわちtn=n!(π4)r2∣dK∣N(a)
(n−r1−r2=r2 を用いた)。定理 3.4 より 0=α∈a で j(α)∈Xt となるものがある。n 個の数 ∣σi(α)∣(i≤r1)と ∣τj(α)∣(各 2 回)に相加相乗平均の不等式を適用すると
∣N(α)∣=i∏∣σi(α)∣j∏∣τj(α)∣2≤(n1(i∑∣σi(α)∣+2j∑∣τj(α)∣))n≤nntn
これが求める不等式である。□
系 3.9 任意のイデアル類は、N(b)≤MK をみたす整イデアル b を含む。したがって ClK は、N(p)≤MK をみたす素イデアル p の類で生成される。
証明. 類 c に対し、c−1 に属する整イデアル a をとる(分数イデアルに適当な整数を掛ければよい)。定理 3.8 の α∈a について b=αa−1 は整イデアル(αOK⊂a より)で、類 c に属し、N(b)=∣N(α)∣/N(a)≤MK。後半は、b の素因子のノルムがすべて N(b) 以下であることから従う。□
定理 3.10(類数の有限性)hK=∣ClK∣ は有限である。
証明. 系 3.9 より、ノルムが MK 以下の整イデアルが有限個であることを示せばよい。N(b)=m なら m∈b(定理 2.10 (4))なので b⊃mOK、すなわち b は mOK の約数であり、そのようなイデアルは有限個しかない。□
3.5 判別式の下界
定理 3.11(ミンコフスキー)K=Q ならば ∣dK∣>1 である。したがって、Q 以外の代数体では少なくとも 1 つの素数が分岐する。
証明. 定理 3.8 を a=OK に適用すると、0=α∈OK で 1≤∣N(α)∣≤MK となるものがある。よって MK≥1 で、r2≤n/2 と π/4<1 から
∣dK∣≥n!nn(4π)r2≥bn:=n!nn(4π)n/2
b2=π/2>1 であり、bn+1/bn=(1+n1)nπ/4≥2⋅2π>1 なので、n≥2 で bn>1。後半は定理 2.16 から従う。□
bn は指数関数的に増大するので、次数 n は ∣dK∣ で上から抑えられる(問題 3.7)。これを精密化すると次の定理が得られる。
定理 3.12(エルミートの定理, Hermite)与えられた D>0 に対し、∣dK∣≤D をみたす代数体 K(C の部分体として)は有限個しかない。
証明は Neukirch の本などを参照(ミンコフスキーの定理を精密化して用いる)。
3.6 類数の計算例
系 3.9 の手順は次のとおりである。(i) MK を計算する。(ii) MK 以下の素数 p の分解をデデキント–クンマーの定理で求め、N(p)≤MK の素イデアルを列挙する。(iii) ノルムの計算によって、それらの間の関係(単項かどうか、どの積が単項か)を調べる。二次体では MK=21dK(実二次体)、MK=π2∣dK∣(虚二次体)である。
例 3.13(類数 1 の例)Q(i) は M=π2⋅2≈1.27、Q(−3) は ≈1.10、Q(2) は 218≈1.41、Q(5) は ≈1.12 で、いずれも M<2。ノルム 1 の整イデアルは OK だけなので、類数は 1 である。
例 3.14(Q(−5)、h=2)dK=−20、M=π220≈2.85。調べるのは p=2 の上の素イデアルだけで、(2)=p22、p2=(2,1+−5)。a2+5b2=2 に解はないので p2 は単項でなく、p22=(2) は単項。よって ClK=⟨[p2]⟩≅Z/2Z、h=2。
例 3.15(Q(−23)、h=3)dK=−23、M=π223≈3.05。ω=(1+−23)/2 の最小多項式は x2−x+6、N(a+bω)=a2+ab+6b2 である。例 2.20 より 2, 3 は分解し
(2)=pp,p=(2,ω), p=(2,ω−1);(3)=qq,q=(3,ω), q=(3,ω−1)
(x2−x+6≡x(x−1) を mod2, mod3 で用いた)。
- p は単項でない:a2+ab+6b2=(a+b/2)2+423b2 は b=0 なら ≥23/4>2、b=0 なら平方数で、2 にならない。同様に p2 も単項でない(ノルム 4 の元は ±2 だけで、(2)=pp=p2)。
- p3 は単項:N(1+ω)=1+1+6=8。1+ω≡1(modp) で 1+ω≡2≡0(modp) なので、(1+ω) は p だけで割り切れ、(1+ω)=p3。共役をとって p3=(1+ω)。
- N(ω)=6 で ω∈p∩q より (ω)=pq。よって [q]=[p]−1、[q]=[p]。
したがって ClK=⟨[p]⟩≅Z/3Z、h=3。
例 3.16(Q(10)、h=2)dK=40、M=2140=10≈3.16。x2−10 を mod2,3 で分解して、(2)=p22(p2=(2,10))、(3)=p3p3′(p3=(3,1+10), p3′=(3,1−10))。実二次体ではノルムが負にもなり得るので a2−10b2=±2,±3 を調べる。mod5 で平方数は 0,±1 なので a2≡±2,±3(mod5) は不可能であり、p2,p3,p3′ はどれも単項でない。一方 N(2+10)=−6 で、10≡1(modp3′) より 2+10∈p3′ だから (2+10)=p2p3′。よって [p3′]=[p2]−1=[p2]、[p3]=[p3′]−1=[p2] で、ClK≅Z/2Z。
例 3.17(Q(32)、h=1)n=3, r2=1, dK=−108 より M=276⋅π4⋅108≈2.94。ノルム 2 の素イデアルは (θ)((2)=(θ)3、例 2.15)だけで、これは単項。よって h=1。
補足
虚二次体 Q(−m) で類数が 1 になるのは m=1,2,3,7,11,19,43,67,163 の 9 個だけである(ヒーグナー、ベイカー、スターク)。一方、実二次体で類数 1 のものが無限に存在するかどうかは未解決である(ガウスの予想)。類群は巡回群とは限らず、たとえば Q(−30) の類群は Z/2Z×Z/2Z である。
3.7 ディリクレの単数定理
OK× の構造を決める。K に含まれる 1 のべき根全体を μK と書く。
補題 3.18 C>0 に対し、すべての埋め込み σ について ∣σ(α)∣≤C となる α∈OK は有限個である。特に(クロネッカーの定理)すべての共役の絶対値が 1 である α∈OK は 1 のべき根であり、μK は有限巡回群である。
証明. 特性多項式 Pα(x)=∏σ(x−σ(α)) の xn−k の係数は絶対値が (kn)Ck 以下の整数なので、Pα の候補は有限個であり、その根も有限個である。すべての共役の絶対値が 1 なら、べき αk もすべてその有限集合に属するので αa=αb(a>b)となり、αa−b=1。μK は体の乗法群の有限部分群なので巡回群である。□
r=r1+r2−1 とおく。対数写像を
ℓ:OK×→Rr1+r2,ℓ(u)=(log∣σ1(u)∣,…,log∣σr1(u)∣,2log∣τ1(u)∣,…,2log∣τr2(u)∣)
で定める。ℓ は準同型で、∣N(u)∣=1 より像は超平面 H={y∣∑iyi=0}(r 次元)に含まれる。以下、ℓ の第 i 成分を ℓi と書く。
定理 3.19(ディリクレの単数定理, Dirichlet's unit theorem)
OK×≅μK×Zr,r=r1+r2−1
すなわち、単元 ε1,…,εr が存在して、任意の単元は ζε1k1⋯εrkr(ζ∈μK, ki∈Z)と一意的に表される。
証明. (1) 核と離散性. ℓ(u)=0 はすべての共役の絶対値が 1 であることを意味するので、補題 3.18 より kerℓ=μK。また Rr1+r2 の有界集合に像をもつ単元はすべての共役が有界なので有限個であり、ℓ(OK×) は離散部分群である。命題 3.2 より ℓ(OK×)≅Zs、s≤dimH=r。
(2) 単元の構成. B=(2/π)r2∣dK∣ とおく。k∈{1,…,r+1} を固定し、次を示す:「0=α∈OK に対し、0=β∈OK で ∣N(β)∣≤B かつ k 以外のすべての添字 i で ∣ρi(β)∣<∣ρi(α)∣ となるものがある」(ρ1,…,ρr+1 は σ1,…,σr1,τ1,…,τr2 を並べたもの)。実際、i=k について 0<ci<∣ρi(α)∣ を選び、ck を ∏i≤r1ci∏i>r1ci2=B となるように定める。集合 {∣ρi∣≤ci (∀i)} はコンパクトで原点対称な凸集合で、体積は 2r1πr2B=2r1+r2∣dK∣=2nvol(Rn/j(OK))。定理 3.4 より求める β がある。
α1=1 から始めてこれを繰り返すと、α1,α2,… で、i=k について ∣ρi(αm)∣ が m について狭義単調減少し、∣N(αm)∣≤B となるものが得られる。ノルムが B 以下の単項イデアルは有限個(定理 3.10 の証明)なので、ある m<m′ で (αm)=(αm′)。uk=αm′/αm は単元で、i=k について ∣ρi(uk)∣<1、すなわち ℓi(uk)<0 である。∑iℓi(uk)=0 より ℓk(uk)>0。
(3) 階数. k=1,…,r について (2) の uk をとり、r×r 行列 A=(ℓi(uk))1≤i,k≤r を考える。第 k 列の対角成分は正、非対角成分は負で、列和は ∑i=1rℓi(uk)=−ℓr+1(uk)>0。よって akk>∑i=k∣aik∣。もし yTA=0(y=0)なら、∣yk∣ が最大となる k について akkyk=−∑i=kaikyi で、akk∣yk∣≤∑i=k∣aik∣∣yk∣<akk∣yk∣ となり矛盾。よって A は正則で、ℓ(u1),…,ℓ(ur) は一次独立、s=r。
(4) 構造. OK×/μK≅ℓ(OK×)≅Zr は自由アーベル群なので、ℓ(εi) が基底となる εi をとれば OK×=μK×⟨ε1,…,εr⟩ である。□
定義 3.20(基本単数と単数規準)定理 3.19 の ε1,…,εr を基本単数系 (system of fundamental units) という。(r+1)×r 行列 (ℓi(εj)) から 1 行を除いた r 次正方行列の行列式の絶対値
RK=∣det(ℓi(εj))1≤i,j≤r∣
を K の単数規準 (regulator) という(r=0 なら RK=1)。
除く行によらないことは、全行の和が 0 であることから分かる(除いた後の行列の 1 行を他の行との和で置き換えると、除いた行の −1 倍になる)。基本単数系の取り替えは GLr(Z) の元を掛けることなので、RK は基本単数系のとり方にもよらない。RK は ℓ(OK×) の H における余体積(の定数倍)であり、第6章の類数公式に現れる。
例 3.21(単数群の階数)虚二次体では r=0 で OK×=μK は有限(Q(i) で位数 4、Q(−3) で位数 6、それ以外は ±1)。実二次体では r=1。Q(32) は (r1,r2)=(1,1) で r=1、OK×={±1}×⟨ε⟩、ε=1+θ+θ2≈3.847(例 1.17 の単元 θ−1 の逆元)が基本単数であることが知られており、RK=logε≈1.347。Q(ζp)(p は奇素数)は r=(p−3)/2 である。
3.8 実二次体の基本単数とペル方程式
K=Q(d)(d>1 は平方因子をもたない)とする。定理 3.19 より OK×={±εk∣k∈Z} で、ε>1 ととれる。これを K の基本単数 (fundamental unit) という。RK=logε である。
命題 3.22(基本単数の求め方)OK の単元 u>1 は u=(a+bd)/2(a,b は正の整数、a2−db2=±4)と書ける。基本単数 ε は、そのような u のうち b が最小のもの(そのうち a が最小のもの)である。特に d≡2,3(mod4) のときは、db2±1 が平方数 a2 となる最小の b≥1 をとれば ε=a+bd である。
証明. u の共役を u′ とすると uu′=±1 なので ∣u′∣=1/u<1。a=u+u′, bd=u−u′ はともに正である。εk=(ak+bkd)/2 とすると、積の公式から bk+1=(akb1+a1bk)/2≥(b1+bk)/2 なので、帰納法により bk≥b1(k≥1)。単元 u>1 は εk(k≥1)の形なので、b の最小値は b1 である。b を固定すると u は a について増加し、ε は最小の単元 >1 だから、b=b1 のうち a が最小のものが ε。d≡2,3(mod4) なら OK=Z[d] で、a,b は偶数、a/2+(b/2)d について同じ議論をすればよい(このとき db2+1 と db2−1 が同時に平方数になることはない)。□
例 3.23 命題 3.22 で小さい b から順に調べると、次の表を得る。
| d |
ε |
N(ε) |
d |
ε |
N(ε) |
| 2 |
1+2 |
−1 |
10 |
3+10 |
−1 |
| 3 |
2+3 |
1 |
13 |
(3+13)/2 |
−1 |
| 5 |
(1+5)/2 |
−1 |
19 |
170+3919 |
1 |
| 6 |
5+26 |
1 |
61 |
(39+561)/2 |
−1 |
| 7 |
8+37 |
1 |
94 |
2143295+22106494 |
1 |
たとえば d=7 では 7b2±1 が b=1 で 8,6、b=2 で 29,27、b=3 で 64=82 となる。d=19,94 のように、d が小さくても基本単数が非常に大きくなることがある。
ペル方程式. d>1 を平方数でない整数とする。x2−dy2=1 の整数解は、Z[d] のノルム 1 の単元 x+yd と対応する。
定理 3.24(ペル方程式, Pell's equation)x2−dy2=1 は x,y>0 となる解をもつ。その中で x+yd が最小の解を (x1,y1) とすると、すべての整数解は x+yd=±(x1+y1d)k(k∈Z)で与えられる。
証明. K=Q(d)、m=[OK:Z[d]] とすると mOK⊂Z[d]。基本単数 ε の像は有限環 OK/mOK の単元群の元なので、ある k≥1 で εk≡1(modmOK)、よって εk∈1+mOK⊂Z[d]。η=ε2k はノルム 1 で η>1 だから、x2−dy2=1 は正の解をもつ。ノルム 1 の単元のなす Z[d]× の部分群は {±1}×(無限巡回群)の部分群で η を含むので、{±η1k}(η1>1 は最小のもの)の形である。命題 3.22 の証明と同様に η1=x1+y1d で x1,y1>0。□
例 3.25 x2−5y2=1:ε=(1+5)/2 について ε3=2+5(ノルム −1)、ε6=9+45 で、最小解は (9,4)。x2−61y2=1:ε=(39+561)/2 について ε3=29718+380561(ノルム −1)、
ε6=(29718+380561)2=1766319049+22615398061
で、最小解は (x,y)=(1766319049,226153980) である。
ヒント
実際の計算では d の連分数展開が有効である。d の連分数は周期的で、周期の直前の近似分数 p/q が p2−dq2=±1 をみたす。たとえば 7=[2;1,1,1,4] で、近似分数 2,3,5/2,8/3 の最後から 82−7⋅32=1 を得る(証明は Ireland–Rosen などの初等整数論の本を参照)。
まとめ
- 格子の余体積の 2n 倍より大きい体積をもつ原点対称な凸集合は、0 でない格子点を含む(ミンコフスキーの凸体定理)。
- 埋め込み j:K→Rr1×Cr2 により OK は余体積 2−r2∣dK∣ の格子になる。
- 各イデアル類はノルムが MK=nnn!(π4)r2∣dK∣ 以下の整イデアルを含み、類数は有限である。
- MK≥1 から K=Q なら ∣dK∣>1、すなわち分岐する素数が必ずある。
- 類数の計算:MK 以下の素イデアルを列挙し、ノルム方程式で単項性と関係を調べる。h(Q(−5))=2, h(Q(−23))=3, h(Q(10))=2。
- ディリクレの単数定理:OK×≅μK×Zr1+r2−1。証明の鍵は対数写像の像が離散であることと、ミンコフスキーの定理による単元の構成である。
- 実二次体の単数群は ±εk で、基本単数は db2±1(または ±4)が平方数となる最小の b から求まる。ペル方程式の解はノルム 1 の単元である。
演習問題
問題 3.1 ★ ミンコフスキーの限界を用いて、Q(−2), Q(−7), Q(−19) の類数がすべて 1 であることを示せ。
解答
M=π2∣dK∣。Q(−2) は dK=−8, M≈1.80、Q(−7) は dK=−7, M≈1.68 で、ともに M<2 だから h=1。Q(−19) は M≈2.77 で、ノルム 2 の素イデアルを調べればよいが、−19≡5(mod8) なので 2 は惰性的で(定理 2.18)、ノルム 2 の素イデアルは存在しない。よって h=1。
問題 3.2 ★ Q(6), Q(11), Q(13) の基本単数を求めよ。
解答
d=6:6⋅1±1=7,5、6⋅4±1=25,23 で b=2, a=5、ε=5+26。d=11:b=1 で 12,10、b=2 で 45,43、b=3 で 100,98 より ε=10+311。d=13≡1(mod4):13b2±4 が b=1 で 17,9 となり a=3、ε=(3+13)/2(ノルム (9−13)/4=−1)。
問題 3.3 ★★ Q(−6) の類数が 2 であることを示せ。
解答
dK=−24、M=π224≈3.12。OK=Z[−6] で、x2+6 は mod2 で x2、mod3 で x2 なので (2)=p22、(3)=p32(p2=(2,−6), p3=(3,−6))。a2+6b2=2,3 は解をもたないので p2,p3 は単項でない。N(−6)=6 より (−6)=p2p3 で [p3]=[p2]−1=[p2]。よって ClK=⟨[p2]⟩≅Z/2Z。
問題 3.4 ★★ K=Q(−14) の類群が位数 4 の巡回群であることを示せ。
解答
OK=Z[−14]、dK=−56、M=π256≈4.76 なので、ノルム 2, 3(とその積 4)の素イデアルを調べる。(2)=p22(p2=(2,−14))、x2+14≡x2−1(mod3) より (3)=qq(q=(3,1+−14), q=(3,1−−14))。
- a2+14b2=2,3 は解なし。ノルム 9 の元は ±3 だけで (3)=qq なので、q2 も単項でない。
- N(5+2−14)=25+56=81。−14≡−1(modq) より 5+2−14≡3≡0(modq)、modq では 5+2=7≡0。よって (5+2−14)=q4。
- N(2+−14)=18、2+−14∈p2 かつ modq で 2+1=3≡0 より (2+−14)=p2q2。よって [p2]=[q]−2=[q]2。
以上より [q] は位数 4 で、[p2],[q]=[q]−1 もその生成する群に入る。系 3.9 より ClK=⟨[q]⟩≅Z/4Z。
問題 3.5 ★★ x2−13y2=±1 の正の最小解をそれぞれ求めよ。
解答
ε=(3+13)/2 とする。ε2=(11+313)/2、ε3=ε2ε=(72+2013)/4=18+513 で、Z[13] に入る最初のべきである(ε,ε2 は係数が半整数)。N(ε3)=324−325=−1。Z[13]× は ±ε3k からなるので、x2−13y2=−1 の最小解は (18,5)、x2−13y2=1 の最小解は ε6=(18+513)2=649+18013 より (649,180)(6492−13⋅1802=421201−421200=1)。
問題 3.6 ★★ ミンコフスキーの限界を用いて、Q(ζ5) と Q(ζ7) の類数が 1 であることを示せ。
解答
Q(ζ5):n=4, r2=2, d=125 で M=444!(π4)2125≈0.0938×1.621×11.18≈1.70<2。よって h=1。
Q(ζ7):n=6, r2=3, ∣d∣=75=16807 で M=666!(π4)316807≈0.01543×2.064×129.6≈4.13。ノルム 4 以下の素イデアルを調べる。定理 2.29 より 2 の上の素イデアルは剰余次数 3(2mod7 の位数)でノルム 8、3 の上はノルム 36、7 の上は (1−ζ7) でノルム 7。ノルム 2, 3, 4 の素イデアルは存在しないので h=1。
問題 3.7 ★★ (1) n≥2 のとき ∣dK∣≥3π(43π)n−1 を示せ。特に n は ∣dK∣ の対数で上から抑えられる。(2) 3 次体について、総実(r2=0)なら ∣dK∣≥21、r2=1 なら ∣dK∣≥13 を示せ(実際の最小値は 49 と 23 である)。
解答
(1) 定理 3.11 の証明から ∣dK∣≥cn:=(n!nn)2(4π)n。c2=4⋅16π2=4π2=3π⋅43π。cn+1/cn=(1+n1)2n4π で、(1+n1)n は増加列なので n≥2 で (1+n1)2n≥(49)2、よって cn+1/cn≥1681⋅4π>43π。帰納法で主張が従う。
(2) MK≥1 より ∣dK∣≥627(4π)r2。r2=0 なら ∣dK∣≥20.25、r2=1 なら ∣dK∣≥(4.5×0.785)2≈12.5。
問題 3.8 ★★★ 定理 3.19 を使わずに、d>1 が平方数でないとき x2−dy2=1 が y=0 の解をもつことを証明せよ。
ヒント
- ディリクレの鳩の巣原理により、∣x−yd∣<1/y をみたす x,y∈N が無限個ある。このとき ∣x2−dy2∣=∣x−yd∣⋅∣x+yd∣<y1(2yd+y1)≤2d+1。
- よってある整数 k=0 について x2−dy2=k となる組が無限個あり、さらに (xmod∣k∣,ymod∣k∣) が一致する 2 組 (x1,y1)=(x2,y2) がとれる(x1+y1d=±(x2+y2d) となるように)。
- α=(x1+y1d)/(x2+y2d)=(x1+y1d)(x2−y2d)/k の分子は、合同条件から x1x2−dy1y2≡x12−dy12≡0、x2y1−x1y2≡0(mod∣k∣) となり、α∈Z[d]。N(α)=1 で α=±1 なので、α=x+yd は y=0 の解を与える。