Lemma数学ロードマップ

15 · ステージ 6 大学院

代数的整数論

整数環、素イデアル分解、類数と単数、円分体と相互法則、pp 進数と局所体、L 関数、類体論

7 章目安 90〜120 時間演習 53 問

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前提となる科目Rₚ13 可換環論

章の一覧

  1. 1 代数体と整数環目安 13〜18 時間 · 演習 7 問
  2. 2 素イデアル分解目安 16〜21 時間 · 演習 8 問
  3. 3 数の幾何学:類数と単数目安 13〜18 時間 · 演習 8 問
  4. 4 円分体と平方剰余の相互法則目安 12〜16 時間 · 演習 8 問
  5. 5 pp 進数と局所体目安 13〜17 時間 · 演習 8 問
  6. 6 ゼータ関数と L 関数目安 11〜15 時間 · 演習 7 問
  7. 7 類体論入門目安 12〜16 時間 · 演習 7 問

概要

代数的整数論は、Z\mathbb{Z} の整数論を Z[i]\mathbb{Z}[i], Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}], Z[ζp]\mathbb{Z}[\zeta_p] のような「代数体の整数環」に広げて研究する分野である。出発点は具体的な疑問にある。どの素数が x2+y2x^2 + y^2 や x2+5y2x^2 + 5y^2 と表されるか。平方剰余の相互法則はなぜ成り立つのか。フェルマーの方程式 xp+yp=zpx^p + y^p = z^p を Z[ζp]\mathbb{Z}[\zeta_p] で因数分解する議論はどこで破綻し、どう修復されるのか。

これらに答えるために、19 世紀のクンマー、デデキント、クロネッカー、ヒルベルトらは、イデアルの素因数分解、イデアル類群と類数、単数群、判別式と分岐といった概念を作り上げた。これにディリクレ(1837 年)に始まりデデキントが代数体に拡張したゼータ関数・L 関数による解析的な方法と、ヘンゼル(1897 年)の pp 進数による局所的な方法が加わり、20 世紀前半に高木貞治とアルティンによって、アーベル拡大の算術を完全に記述する類体論が完成した。類体論は現在、ラングランズ・プログラムという巨大な予想群の「1 次元の場合」と位置づけられている。

この科目では、代数体と整数環の基礎から出発し、素イデアル分解、数の幾何学(類数の有限性と単数定理)、円分体と相互法則、pp 進数と局所体、ゼータ関数と L 関数を経て、類体論の入門に至る。

学び方の基本方針:この分野の定理は、抽象的に述べるとつかみどころがないが、具体的な数で計算すると驚くほど明快になる。本科目では、二次体 Q(−5)\mathbb{Q}(\sqrt{-5}), Q(−23)\mathbb{Q}(\sqrt{-23}), Q(10)\mathbb{Q}(\sqrt{10})、純三次体 Q(23)\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})、円分体 Q(ζ5)\mathbb{Q}(\zeta_5), Q(ζ7)\mathbb{Q}(\zeta_7) などを繰り返し例に使い、整数環・素数の分解・類数・基本単数・pp 進展開・L 関数の値を実際に計算する。新しい定理に出会ったら、必ずこれらの例で確かめてほしい。本文の数値例はすべて検算してあるが、読者自身も手計算や計算機代数システム(PARI/GP、SageMath など)で確かめることを勧める。

前提知識

到達目標

  • [ ] 代数的整数の和・積が代数的整数であることを証明し、ノルム・トレース・判別式を埋め込みを使って計算できる
  • [ ] 整基底の存在を証明し、二次体と Q(ζp)\mathbb{Q}(\zeta_p) の整数環を決定できる。判別式とアイゼンシュタイン多項式を使って具体的な体の整数環を求められる
  • [ ] 整数環がデデキント環であることを証明し、基本等式 ∑eifi=n\sum e_if_i = n とデデキント–クンマーの定理を使って素数の分解を計算できる
  • [ ] 二次体・円分体での素数の分解法則を証明し、ガロア拡大の分解群・惰性群・フロベニウス元を説明できる
  • [ ] ミンコフスキーの凸体定理を証明し、ミンコフスキーの限界を使って類数と類群を計算できる(例:h(Q(−5))=2h(\mathbb{Q}(\sqrt{-5})) = 2, h(Q(−23))=3h(\mathbb{Q}(\sqrt{-23})) = 3)
  • [ ] ディリクレの単数定理を証明し、実二次体の基本単数とペル方程式の解を求められる
  • [ ] ガウス和を用いる方法と円分体の分解法則を用いる方法の二通りで平方剰余の相互法則を証明し、ヤコビ記号で計算できる
  • [ ] オストロフスキーの定理とヘンゼルの補題を証明し、pp 進展開・pp 進数の平方判定・Zp×\mathbb{Z}_p^\times の構造を扱える
  • [ ] 局所体の不分岐拡大・完全分岐拡大と、大域体の素点・完備化・積公式を説明できる
  • [ ] ディリクレ指標と L 関数を扱い、L(1,χ)≠0L(1, \chi) \neq 0 と算術級数中の素数に関するディリクレの定理を証明できる
  • [ ] 類数公式・関数等式・チェボタレフの密度定理の内容を説明し、数値例で確かめられる
  • [ ] アルティンの相互法則とヒルベルト類体の主張を理解し、Q(−5)\mathbb{Q}(\sqrt{-5}) のヒルベルト類体を検証して p=x2+5y2p = x^2 + 5y^2 の判定法を導ける

章立て

  1. 第1章 代数体と整数環 代数的整数と有限生成加群による判定、整数環、埋め込みとノルム・トレース、判別式と整基底の存在、アイゼンシュタイン多項式と指数、二次体と Q(ζp)\mathbb{Q}(\zeta_p) の整数環、判別式の符号とスティッケルベルガーの定理。
  2. 第2章 素イデアル分解 整数環はデデキント環、分数イデアルとイデアル類群、イデアルのノルム、分岐指数と剰余次数、デデキント–クンマーの定理、分岐と判別式、二次体の分解法則、分解群・惰性群・フロベニウス元、円分体の分解法則。
  3. 第3章 数の幾何学:類数と単数 格子とミンコフスキーの凸体定理、代数体の格子としての実現、ミンコフスキーの限界と類数の有限性、判別式の下界、類数の計算例、ディリクレの単数定理、基本単数とペル方程式、単数規準。
  4. 第4章 円分体と平方剰余の相互法則 ガウス和、二次体は円分体に含まれること、平方剰余の相互法則の二通りの証明、補充法則、ヤコビ記号、クロネッカー–ウェーバーの定理、クンマーの仕事とベルヌーイ数、ヤコビ和。
  5. 第5章 pp 進数と局所体 絶対値と付値、オストロフスキーの定理、Qp\mathbb{Q}_p と Zp\mathbb{Z}_p、ヘンゼルの補題と Zp×\mathbb{Z}_p^\times の構造、局所体の拡大とエイゼンシュタイン多項式、素点と完備化、積公式、ハッセ–ミンコフスキーの定理。
  6. 第6章 ゼータ関数と L 関数 デデキントゼータ関数、ディリクレ指標と L 関数、ゼータ関数の L 関数への分解、L(1,χ)≠0L(1, \chi) \neq 0、算術級数中の素数、類数公式、関数等式、チェボタレフの密度定理、BSD 予想とラングランズ・プログラムへの展望。
  7. 第7章 類体論入門 アルティン写像と相互法則、ヒルベルト類体(Q(−5)\mathbb{Q}(\sqrt{-5}), Q(−23)\mathbb{Q}(\sqrt{-23}) での検証)、射類体と存在定理、イデールによる定式化、局所類体論とヒルベルト記号、p=x2+ny2p = x^2 + ny^2 の問題、ラングランズ・プログラムへの展望。

学習時間の目安と進め方

  • 1 章あたり 15〜20 時間(本文の精読 8〜10 時間、演習と計算 7〜10 時間)、全体で 110〜140 時間程度を想定している。大学院修士課程の通年講義(前半で第1〜4章、後半で第5〜7章)に相当する。
  • 章の依存関係はおおよそ次のとおりである。
    • 第1章 → 第2章 → 第3章(代数的整数論の基礎。この順に読むこと)
    • 第2章 → 第4章(第4章の相互法則の証明には第2章の分解法則とフロベニウス元を使う)
    • 第2章 → 第5章(pp 進数の基本部分は第1・2章とほぼ独立に読めるが、5.7 節以降は第2章を使う)
    • 第2〜4章 → 第6章(L 関数と円分体の分解)、第1〜6章 → 第7章
  • 第7章の類体論は、主要定理の証明を省略して主張と具体例に重点を置いている。完全な証明は参考文献(Neukirch、加藤–黒川–斎藤『数論 II』など)で学んでほしい。
  • 各章の数値例(類数、基本単数、素数の分解、pp 進展開)は、自分で手を動かして再計算すること。計算の過程で定理の仮定がどこで使われるかが見えてくる。
  • 演習問題は ★ をすべて解いてから ★★ に進むとよい。★★★ には詳しいヒントをつけた。

参考文献

  • J. Neukirch, Algebraic Number Theory (Springer) 代数的整数論の標準的な大学院教科書。整数環・付値論・類体論・ゼータ関数までを一貫した視点で扱う。本科目の各章で省略した証明の多くはここにある。
  • 高木貞治『代数的整数論』(岩波書店) 類体論の創始者自身による古典的名著。イデアル論から類体論の証明までを含む。
  • 加藤和也・黒川信重・斎藤毅『数論 I』、黒川信重・栗原将人・斎藤毅『数論 II』(岩波書店) フェルマーの最終定理を導きの糸に、pp 進数・ゼータ関数・類体論・保型形式・岩澤理論までを現代的に解説する。動機づけが丁寧で、本科目の次に読む本として最適。
  • 雪江明彦『整数論1 初等整数論から pp 進数へ』『整数論2 代数的整数論の基礎』『整数論3 解析的整数論への誘い』(日本評論社) 初等整数論から代数的整数論・解析的整数論までを詳しい証明つきで扱う 3 冊。本科目の第1〜6章の内容の多くを、より詳細に学べる。
  • 藤崎源二郎『代数的整数論入門 上・下』(裳華房) 具体例と計算を重視した入門書。二次体・円分体の計算に役立つ。
  • D. A. Marcus, Number Fields (Springer) 整数環・素イデアル分解・類数・単数・ゼータ関数を豊富な演習問題とともに扱う入門書。独習に向く。
  • J.-P. Serre, A Course in Arithmetic (Springer)(邦訳『数論講義』岩波書店) pp 進数、ヒルベルト記号、ハッセ–ミンコフスキーの定理、ディリクレの定理、モジュラー形式を簡潔かつ美しく扱う。第5章・第6章の参考書として最適。
  • J.-P. Serre, Local Fields (Springer) 局所体の理論とガロアコホモロジーによる局所類体論の標準的な教科書。第5章・第7章の発展として。
  • K. Ireland, M. Rosen, A Classical Introduction to Modern Number Theory (Springer) ガウス和・ヤコビ和・高次の相互法則・ベルヌーイ数など、古典的な整数論から代数的整数論への橋渡しをする名著。第4章の参考書として。
  • D. A. Cox, Primes of the Form x² + ny² (Wiley) p=x2+ny2p = x^2 + ny^2 という一つの問題を軸に、二次形式・類体論・虚数乗法論を解説する。第7章の内容を本格的に学ぶための本。

次に学ぶもの