この章の目標
- 代数的整数の和と積が再び代数的整数であることを、有限生成加群を使って証明できる
- 体への埋め込みを使ってノルム・トレース・判別式を計算できる
- 整基底の存在を証明し、判別式から整数環を決定する方法を使える
- 二次体と素数次の円分体 Q(ζp) の整数環を決定できる
前提:代数学 第6章(ガウスの補題、アイゼンシュタインの判定法)、代数学 第8章(最小多項式、原始元定理)、代数学 第9章(円分体)、可換環論 第4章(整拡大)
整数論の多くの問題は、有理整数 Z の中だけで考えるより、−2 や 1 の p 乗根 ζp を付け加えた大きな環で考えるほうが見通しがよくなる。たとえば x2+2=y3 は (x+−2)(x−−2)=y3 と因数分解できる。フェルマーの方程式 xp+yp=zp は ∏k=0p−1(x+ζpky)=zp となる。ただし、こうした議論が正しく働くには、その環で素因数分解の一意性のような性質が成り立つ必要がある。本章では「代数体の中の整数」とは何かを定め、その基本的な不変量である判別式を調べる。
1.1 なぜ整数環を考えるのか
例 1.1(x2+2=y3 の整数解)整数解が (x,y)=(±5,3) だけであることを示す。y が偶数なら x も偶数で、x2+2≡2(mod4) だが y3≡0(mod8) となり矛盾する。よって x,y は奇数である。R=Z[−2] はノルム a2+2b2 に関してユークリッド整域であり、したがって一意分解整域である(代数学 第6章 のガウス整数と同じ議論)。R の単元は ±1 だけである。δ が x+−2 と x−−2 の共通の素因子なら δ は差 2−2=−(−2)3 を割るので δ は −2 に同伴であり、ノルムをとると 2∣x2+2 となって x が奇数であることに反する。よって両者は互いに素で、積が立方数だから、単元 ±1 が立方数であることにも注意すると x+−2=(a+b−2)3(a,b∈Z)と書ける。展開すると
(a+b−2)3=(a3−6ab2)+(3a2b−2b3)−2
なので b(3a2−2b2)=1。よって b=±1 かつ 3a2−2=±1、すなわち b=1, a=±1 で、x=a3−6a=∓5、y=3 を得る。
この議論の要は、R で素因数分解が一意的であることだった。ところが、同じような環でも一意性が成り立たないことがある。
例 1.2 R=Z[−5] で
6=2⋅3=(1+−5)(1−−5)
である。N(a+b−5)=a2+5b2 は乗法的で、値 2,3 をとらない。したがってノルム 4,9,6 の元 2,3,1±−5 はどれも既約元であり、互いに同伴でもない。よって R は一意分解整域ではない。
この「一意分解の破綻」をイデアルの素因数分解で回復するのが第2章の主題である。その前に、どの環を考えるのが正しいかを決めておく必要がある。たとえば Z[−3] では 4=2⋅2=(1+−3)(1−−3) と一意性が壊れるが、少し大きい環 Z[ω](ω=(−1+−3)/2)は一意分解整域である。実は ω も ω2+ω+1=0 というモニック整数係数多項式の根であり、「整数」の仲間に入れるべきものだった。こうして次の定義に至る。
1.2 代数的整数
定義 1.3(代数体, number field)Q の有限次拡大体 K を代数体という。n=[K:Q] を K の次数という。n=2 のとき二次体 (quadratic field) という。
原始元定理により K=Q(θ) と書け、K は C の部分体と同型である。以下、必要に応じて K⊂C とみなす。
定義 1.4(代数的整数, algebraic integer)複素数 α が、モニックな整数係数多項式 xm+cm−1xm−1+⋯+c0∈Z[x] の根であるとき、α を代数的整数という。代数的整数全体を Z と書く。
命題 1.5 代数的数 α が代数的整数であるための必要十分条件は、α の Q 上の最小多項式 mα が Z[x] に属することである。
証明. 十分性は定義から明らかである。必要性を示す。α がモニックな g∈Z[x] の根なら g=mαh(h∈Q[x] はモニック)と書ける。正の有理数 c,c′ を cmα, c′h が原始多項式(係数の最大公約数が 1 の整数係数多項式)となるようにとる。ガウスの補題(代数学 第6章)により cc′g=(cmα)(c′h) は原始多項式である。g も原始的(モニック)なので cc′=1。cmα, c′h の最高次係数はそれぞれ c, c′ で、どちらも整数だから c=c′=1。よって mα∈Z[x] である。□
特に、有理数 a/b の最小多項式は x−a/b なので、Z∩Q=Z である。
例 1.6 (1+5)/2 の最小多項式は x2−x−1 なので代数的整数である。一方 (1+3)/2 の最小多項式は x2−x−21 なので代数的整数でない。α=2+3 については α2=5+26 から (α2−5)2=24、すなわち α4−10α2+1=0 で、代数的整数である。
和や積が代数的整数になることを、最小多項式を直接計算して示すのは難しい。次の判定法が鍵になる。
補題 1.7(有限生成加群による判定)α∈C について次は同値である。
- α は代数的整数である。
- Z[α] は有限生成 Z 加群である。
- 0 でない有限生成 Z 部分加群 M⊂C で αM⊂M となるものが存在する。
証明. (1)⇒(2):αm=−(cm−1αm−1+⋯+c0) を繰り返し使うと、すべての αk は 1,α,…,αm−1 の整数係数一次結合になる。(2)⇒(3):M=Z[α] とすればよい。(3)⇒(1):M の生成元を v1,…,vr とすると、αvi=∑jaijvj(aij∈Z)と書ける。行列 A=(aij) とベクトル v=(v1,…,vr)T=0 について (αI−A)v=0 だから det(αI−A)=0 である。det(xI−A) はモニックな整数係数多項式なので、α は代数的整数である。□
定理 1.8 代数的整数の和・差・積は代数的整数である。すなわち Z は C の部分環である。
証明. α,β がそれぞれ m 次、l 次のモニック整数係数多項式の根とする。補題 1.7 の証明と同様に、M=Z[α,β] は αiβj(0≤i<m, 0≤j<l)で生成される有限生成 Z 加群である。M は α±β 倍と αβ 倍で閉じているから、補題 1.7 の (3) により α±β, αβ は代数的整数である。□
定義 1.9(整数環, ring of integers)代数体 K に対し、OK=K∩Z を K の整数環という。定理 1.8 により OK は K の部分環である。OK の元を K の整数という。
これは可換環論の言葉では「Z の K における整閉包」である(可換環論 第4章)。
命題 1.10 K を代数体とする。
- 任意の α∈K に対し、dα∈OK となる d∈N が存在する。特に K=Frac(OK) であり、OK は K の Q 基底を含む。
- OK は整閉整域である。すなわち、K の元で OK 係数のモニック多項式の根になるものは OK に属する。
証明. (1) α が anxn+an−1xn−1+⋯+a0(ai∈Z, an=0)の根なら、両辺に ann−1 を掛けると anα はモニック多項式 xn+an−1xn−1+an−2anxn−2+⋯+a0ann−1 の根である。d=∣an∣ とすればよい。
(2) β∈K が βm+cm−1βm−1+⋯+c0=0(ci∈OK)をみたすとする。定理 1.8 の証明と同様に Z[c0,…,cm−1] は有限生成 Z 加群で、M=∑j=0m−1Z[c0,…,cm−1]βj は有限生成かつ βM⊂M をみたす。補題 1.7 により β∈Z∩K=OK。□
1.3 埋め込み、ノルムとトレース
命題 1.11 [K:Q]=n のとき、体の準同型 σ:K→C(埋め込み, embedding)はちょうど n 個ある。
証明. K=Q(θ) とし、θ の最小多項式を f とする。埋め込み σ は σ(θ) で決まり、σ(θ) は f の根である。逆に f の各根 θ′ に対し θ↦θ′ で定まる埋め込みがある(代数学 第8章)。標数 0 では既約多項式は重根をもたないので、f の根は n 個ある。□
埋め込みのうち像が R に含まれるものを実埋め込み、そうでないものを複素埋め込みという。複素埋め込みは複素共役 σ と対になって現れる。実埋め込みの個数を r1、複素埋め込みの対の個数を r2 とすると n=r1+2r2 である。
例 1.12 Q(d) は d>0 なら (r1,r2)=(2,0)、d<0 なら (0,1)。Q(32) は x3−2 の実根が 1 つなので (1,1)。p が奇素数のとき Q(ζp) は実埋め込みをもたず (0,(p−1)/2)。
定義 1.13(ノルムとトレース)α∈K に対し、Q 線形写像 μα:K→K, x↦αx の特性多項式を Pα(x) と書き、
TrK/Q(α)=tr(μα),NK/Q(α)=det(μα)
をそれぞれ α のトレース (trace)、ノルム (norm) という。
μα+β=μα+μβ, μαβ=μαμβ より、トレースは加法的、ノルムは乗法的である。(最小多項式の記号 mα と混同しないように、掛け算写像は μα と書く。)
定理 1.14 K の埋め込みを σ1,…,σn、α∈K の Q 上の次数を d とすると
Pα(x)=mα(x)n/d=i=1∏n(x−σi(α))
である。特に TrK/Q(α)=∑iσi(α), NK/Q(α)=∏iσi(α) である。
証明. L=Q(α) の基底 1,α,…,αd−1 に関する μα∣L の行列は最小多項式 mα の同伴行列で、その特性多項式は mα(x) である。K の L 上の基底 β1,…,βn/d をとると K=⨁jLβj で、各 Lβj は μα で保たれ、L 上の μα と同じ行列で表される。よって Pα=mαn/d。次に、L の埋め込みは α を mα の各根に送る d 個であり、そのそれぞれは K の埋め込みにちょうど [K:L]=n/d 通りに延長される(代数学 第8章、標数 0 なので分離的)。したがって σ1(α),…,σn(α) には mα の各根がちょうど n/d 回ずつ現れ、第 2 の等号を得る。□
系 1.15 α∈OK ならば Pα∈Z[x]、特に TrK/Q(α),NK/Q(α)∈Z である。さらに、α∈OK が OK の単元であるための必要十分条件は NK/Q(α)=±1 である。
証明. 前半は命題 1.5 と定理 1.14 から従う。αβ=1(β∈OK)なら N(α)N(β)=1 で両者は整数だから ±1。逆に N(α)=±1 とし、Pα(x)=xn+cn−1xn−1+⋯+c1x+c0 とおくと c0=(−1)nN(α)=±1 で、Pα(α)=0 から α(αn−1+cn−1αn−2+⋯+c1)=−c0。よって α−1=−c0(αn−1+⋯+c1)∈OK。□
例 1.16 二次体 Q(d) の埋め込みは d↦±d なので、Tr(a+bd)=2a, N(a+bd)=a2−db2 である。
例 1.17(純三次体)θ=32, K=Q(θ) とし、α=a+bθ+cθ2(a,b,c∈Q)とする。αθ=2c+aθ+bθ2, αθ2=2b+2cθ+aθ2 だから、基底 1,θ,θ2 に関する μα の行列と、そのトレース・行列式は
abc2cab2b2ca,Tr(α)=3a,N(α)=a3+2b3+4c3−6abc
となる。たとえば N(θ−1)=−1+2=1 なので θ−1 は単元であり、実際 (θ−1)(θ2+θ+1)=θ3−1=1 である。θ−1≈0.26 は ±1 でも 1 のべき根でもないので、そのべき (θ−1)k はすべて異なる単元である。OK の単元群は無限群であり、その構造は第3章のディリクレの単数定理で決まる。
1.4 判別式と整基底
定義 1.18(判別式, discriminant)α1,…,αn∈K(n=[K:Q])に対し
d(α1,…,αn)=det(TrK/Q(αiαj))1≤i,j≤n
を α1,…,αn の判別式という。
命題 1.19
- d(α1,…,αn)=det(σi(αj))2。
- βj=∑kcjkαk(C=(cjk)∈Mn(Q))ならば d(β1,…,βn)=(detC)2d(α1,…,αn)。
- K=Q(θ)、θ の最小多項式を f、その根を θ1,…,θn とすると
d(1,θ,…,θn−1)=i<j∏(θi−θj)2=(−1)n(n−1)/2NK/Q(f′(θ))
- d(α1,…,αn)=0 であるための必要十分条件は、α1,…,αn が K の Q 基底であることである。
証明. (1) A=(σi(αj)) とおくと (ATA)jk=∑iσi(αjαk)=Tr(αjαk)(定理 1.14)。(2) (σi(βj))=ACT と (1) から従う。(3) σi(θ)=θi とすると (σi(θj−1)) はヴァンデルモンド行列で、その行列式は ∏i<j(θj−θi)。また f′(θi)=∏j=i(θi−θj) なので ∏if′(θi)=∏i=j(θi−θj)=(−1)n(n−1)/2∏i<j(θi−θj)2、左辺は N(f′(θ)) に等しい。(4) 一次従属なら A の列が一次従属で行列式は 0。基底なら (2) により冪基底の場合に帰着し、θi は相異なるので (3) より 0 でない。□
例 1.20 f=x3−2, θ=32 では f′(θ)=3θ2、N(3θ2)=27N(θ)2=27⋅4=108 なので d(1,θ,θ2)=(−1)3⋅108=−108。一般に f=x3+ax+b なら d(1,θ,θ2)=−4a3−27b2 である(問題 1.3)。
定理 1.21(整基底の存在)[K:Q]=n とすると、OK は階数 n の自由 Z 加群である。すなわち、OK=Zω1⊕⋯⊕Zωn となる ω1,…,ωn∈OK が存在する。
証明. 命題 1.10 により、OK に含まれる K の Q 基底が存在する。そのような基底の判別式は、系 1.15 により整数行列 (Tr(αiαj)) の行列式なので整数であり、命題 1.19 (4) により 0 でない。そこで ∣d(ω1,…,ωn)∣ が最小となる基底 ω1,…,ωn⊂OK をとる。OK=∑iZωi を示す。α∈OK を α=∑iciωi(ci∈Q)と書き、ある ci、たとえば c1 が整数でないと仮定する。c1=m+r(m∈Z, 0<r<1)とし、ω1′=α−mω1=rω1+c2ω2+⋯+cnωn∈OK とおく。ω1′,ω2,…,ωn も OK に含まれる基底で、基底変換行列の行列式は r だから、命題 1.19 (2) より判別式は r2d(ω1,…,ωn) となり、絶対値が真に小さい。これは最小性に反する。□
定義 1.22(整基底と判別式)定理 1.21 の ω1,…,ωn を K の整基底 (integral basis) という。dK=d(ω1,…,ωn) を K の判別式という。
別の整基底への変換行列 C は GLn(Z) の元で detC=±1 だから、dK は整基底のとり方によらない。
命題 1.23 α1,…,αn∈OK を K の Q 基底とし、M=∑iZαi とおく。このとき
d(α1,…,αn)=[OK:M]2dK
である。特に d(α1,…,αn) が平方因子をもたなければ M=OK である。
証明. 整基底 ω1,…,ωn を用いて αj=∑kcjkωk(cjk∈Z)と書くと、自由 Z 加群の部分加群の指数は [OK:M]=∣detC∣ である(単因子標準形による。代数学 第7章)。命題 1.19 (2) から従う。□
1.5 アイゼンシュタイン多項式と指数
判別式だけでは OK が決まらないことが多い。次の補題は、Z[θ] の指数が特定の素数で割り切れないことを保証する。
命題 1.24 K=Q(θ)、θ∈OK とし、θ の最小多項式 f が素数 p に関してアイゼンシュタイン多項式であるとする。このとき p∤[OK:Z[θ]] である。
証明. f=xn+an−1xn−1+⋯+a0 で p∣ai(すべての i), p2∤a0 とする。θn=−(an−1θn−1+⋯+a0) なので θn/p∈Z[θ]、したがって θk/p∈Z[θ](k≥n)である。また N(θ)=(−1)na0 である。
p が指数を割り切ると仮定すると、有限アーベル群 OK/Z[θ] は位数 p の元をもつ。すなわち β∈OK∖Z[θ] で pβ∈Z[θ] となるものがある。pβ=c0+c1θ+⋯+cn−1θn−1(ci∈Z)と書くと、β∈/Z[θ] よりある ci は p で割り切れない。そのような最小の添字を j とすると
γ=pcjθj+⋯+cn−1θn−1=β−pc0+⋯+cj−1θj−1∈OK
である。γθn−1−j=pcjθn−1+pcj+1θn+⋯+cn−1θ2n−2−j の右辺第 2 項は Z[θ] に属するから、cjθn−1/p∈OK。そのノルム cjna0n−1/pn(符号を除く)は整数でなければならないが、p∤cj かつ a0 は p でちょうど 1 回割り切れるので分子の p べき指数は n−1 で、pn で割り切れない。矛盾である。□
例 1.25 K=Q(32) では OK=Z[θ]、dK=−108 である。実際、d(1,θ,θ2)=−108=−22⋅33 なので命題 1.23 より指数の 2 乗は 22⋅33 を割り、指数は 2a3b の形である。x3−2 は p=2 でアイゼンシュタインだから指数は偶数でない。また θ+1 の最小多項式は (x−1)3−2=x3−3x2+3x−3 で p=3 でアイゼンシュタインであり、Z[θ+1]=Z[θ] だから指数は 3 でも割り切れない。よって指数は 1 である。
注意
OK=Z[θ] はいつも成り立つわけではない。二次体 Q(5) では Z[5]⊊OK であり(次節)、Q(310) では (1+θ+θ2)/3 が整数になる(問題 1.4)。さらに、どんな θ をとっても OK=Z[θ] となる体もある(第2章 問題 2.7)。
1.6 二次体の整数環
定理 1.26(二次体の整数環)d=0,1 を平方因子をもたない整数とし、K=Q(d) とする。
OK=⎩⎨⎧Z[d],Z[21+d],d≡2,3(mod4),d≡1(mod4),dK={4d,d,d≡2,3(mod4),d≡1(mod4).
証明. α=a+bd(a,b∈Q, b=0)の最小多項式は x2−2ax+(a2−db2) なので、命題 1.5 より α∈OK⟺2a∈Z かつ a2−db2∈Z である(b=0 のときも同じ条件で正しい)。A=2a とおくと A2−d(2b)2∈4Z より d(2b)2∈Z。2b=u/v(既約分数, v≥1)とすると v2∣du2、gcd(u,v)=1 より v2∣d で、d は平方因子をもたないから v=1。よって B=2b∈Z で、条件は A2≡dB2(mod4) となる。
- A が偶数なら dB2≡0(mod4)。4∤d なので B は偶数。
- A が奇数なら dB2≡1(mod4) で、B は奇数かつ d≡1(mod4)。
したがって d≡2,3(mod4) なら a,b∈Z で OK=Z[d]。d≡1(mod4) なら OK={(A+Bd)/2∣A≡B(mod2)}=Z+Zω(ω=(1+d)/2)である。
判別式は、Tr(1)=2, Tr(d)=0, Tr(d)=2d から d(1,d)=4d。また Tr(ω)=1, ω2=(1+d+2d)/4 より Tr(ω2)=(1+d)/2 で、d(1,ω)=2⋅21+d−1=d。□
例 1.27 いくつかの二次体の整数環と判別式を挙げる。
| d |
OK |
dK |
d |
OK |
dK |
| −1 |
Z[i] |
−4 |
2 |
Z[2] |
8 |
| −2 |
Z[−2] |
−8 |
3 |
Z[3] |
12 |
| −3 |
Z[(1+−3)/2] |
−3 |
5 |
Z[(1+5)/2] |
5 |
| −5 |
Z[−5] |
−20 |
10 |
Z[10] |
40 |
| −23 |
Z[(1+−23)/2] |
−23 |
13 |
Z[(1+13)/2] |
13 |
(1+−3)/2=−ω2 なので Z[(1+−3)/2]=Z[ω] である。1.1 節で Z[−3] が「正しい環」でなかったのは、それが整数環 Z[ω] の指数 2 の部分環だったからである。
1.7 円分体の整数環
p を素数、ζ=ζp=e2πi/p、K=Q(ζ) とする。円分多項式 Φp(x)=xp−1+⋯+x+1 は既約で(代数学 第6章 定理 6.26)、[K:Q]=p−1、K の埋め込みは ζ↦ζk(1≤k≤p−1)である。
補題 1.28
- p∤k ならば (1−ζk)/(1−ζ) は Z[ζ] の単元である。
- ∏k=1p−1(1−ζk)=p。特に NK/Q(1−ζ)=p であり、p=u(1−ζ)p−1(u∈Z[ζ]×)と書ける。
- p∤k ならば TrK/Q(ζk)=−1。
証明. (1) (1−ζk)/(1−ζ)=1+ζ+⋯+ζk−1∈Z[ζ]。kl≡1(modp) となる l をとると ζ=(ζk)l なので、逆数 (1−ζ)/(1−ζk)=1+ζk+⋯+ζk(l−1) も Z[ζ] に属する。(2) Φp(x)=∏k=1p−1(x−ζk) に x=1 を代入すると Φp(1)=p。左辺は 1−ζ の共役の積すなわちノルムであり、(1) から p=∏k1−ζ1−ζk⋅(1−ζ)p−1。(3) ζk の共役は原始 p 乗根全体で、その和は Φp の xp−2 の係数の符号を変えた −1 である。□
命題 1.29 p が奇素数ならば d(1,ζ,…,ζp−2)=(−1)(p−1)/2pp−2 である。
証明. (x−1)Φp(x)=xp−1 を微分して x=ζ を代入すると (ζ−1)Φp′(ζ)=pζp−1。ノルムをとると、N(ζ)=∏kζk=1(ζp(p−1)/2=1)、N(ζ−1)=(−1)p−1N(1−ζ)=p より
N(Φp′(ζ))=N(ζ−1)pp−1N(ζ)p−1=pp−2
である。命題 1.19 (3) より d=(−1)(p−1)(p−2)/2pp−2 で、p−2 は奇数だから (p−1)(p−2)/2≡(p−1)/2(mod2)。□
定理 1.30 p を素数とすると、Q(ζp) の整数環は Z[ζp] であり、p が奇素数なら判別式は (−1)(p−1)/2pp−2 である。
証明. p=2 なら K=Q で明らかなので、p を奇素数とする。命題 1.23 と 1.29 より [OK:Z[ζ]]2 は pp−2 を割るので、指数は p のべきである。一方 π=ζ−1 の最小多項式は Φp(x+1)=∑k=1p(kp)xk−1 で、これは p に関するアイゼンシュタイン多項式である。Z[π]=Z[ζ] だから、命題 1.24 より p は指数を割らない。よって指数は 1 である。□
例 1.31 dQ(ζ3)=−3(Q(ζ3)=Q(−3) で例 1.27 と一致)、dQ(ζ5)=53=125、dQ(ζ7)=−75=−16807。
補足
一般の m についても Q(ζm) の整数環は Z[ζm] であり、判別式は (−1)φ(m)/2mφ(m)/∏p∣mpφ(m)/(p−1) である(Neukirch 第 I 章 §10)。たとえば m=8 では 84/24=256 となる。本教材では素数次の場合だけを証明する。
1.8 判別式の符号とスティッケルベルガーの定理
判別式にはいくつかの一般的な制約がある。
命題 1.32(判別式の符号)dK の符号は (−1)r2 である。
証明. 整基底 ωj について A=(σi(ωj)) とおく。複素共役をとると σi(ωj)=σi(ωj) なので、A は A の行を置換したものである。この置換は実埋め込みの行を固定し、r2 組の複素埋め込みの行を入れ替えるから、detA=(−1)r2detA。よって detA は r2 が偶数なら実数、奇数なら純虚数で、dK=(detA)2=0 の符号は (−1)r2 である。□
定理 1.33(スティッケルベルガーの定理, Stickelberger)dK≡0 または 1(mod4) である。
証明は問題 1.7 でヒントとともに扱う。これまでの例で確かめると、−108≡0、−23≡1、125≡1、−16807≡1(mod4) である。二次体の判別式が d または 4d になり、d≡2,3(mod4) のとき d そのものにならないことも、この定理と整合している。
例 1.34(判別式の例)これまでの計算と演習の結果をまとめる。
| 体 |
(r1,r2) |
OK |
dK |
| Q(32) |
(1,1) |
Z[32] |
−108 |
| Q(α), α3=α+1 |
(1,1) |
Z[α] |
−23 |
| Q(θ), θ=310 |
(1,1) |
Z[θ]+Z31+θ+θ2 |
−300 |
| Q(ζ5) |
(0,2) |
Z[ζ5] |
125 |
| Q(ζ7) |
(0,3) |
Z[ζ7] |
−16807 |
符号がすべて (−1)r2 に一致していることを確かめよ。第2章では、dK を割る素数がちょうど「分岐する素数」であることを見る。
まとめ
- 代数的整数とはモニック整数係数多項式の根であり、最小多項式が整数係数であることと同値である。
- 「Z[α] が有限生成」という判定法(行列式の技法)により、代数的整数全体は環をなす。
- 代数体 K の整数環 OK は整閉整域で、K はその分数体である。
- ノルム・トレースは n 個の埋め込みによる共役の積・和に等しく、整数の単元はノルム ±1 の元である。
- 判別式 d(α1,…,αn)=det(σi(αj))2 は基底変換で (detC)2 倍になる。判別式の最小性から整基底の存在が従い、dK が定まる。
- d(α)=[OK:M]2dK とアイゼンシュタイン多項式の補題を組み合わせると、整数環を決定できる。
- 二次体の整数環は dmod4 で決まり、dK=d または 4d である。
- Q(ζp) の整数環は Z[ζp]、判別式は (−1)(p−1)/2pp−2 である。
- dK の符号は (−1)r2 であり、dK≡0,1(mod4)(スティッケルベルガー)。
演習問題
問題 1.1 ★ 次の数が代数的整数かどうか判定せよ:(a) (3+−7)/2、(b) 32/2、(c) (2+6)/2。また (c) を用いて、K=Q(2,3) で OK=Z[2,3] であることを示せ。
解答
(a) 最小多項式は x2−3x+(9+7)/4=x2−3x+4 で、代数的整数である(−7≡1(mod4) なので定理 1.26 とも整合)。
(b) 最小多項式は x3−41 で、整数係数でないから代数的整数でない。
(c) γ=(2+6)/2 とすると γ2=(2+6+212)/4=2+3。よって (γ2−2)2=3、すなわち γ4−4γ2+1=0 で、代数的整数である。Z[2,3] は 1,2,3,6 を Z 基底にもつ(これらは Q 上一次独立で、積について閉じている)。γ=212+216 の係数は整数でないから γ∈/Z[2,3] である。
問題 1.2 ★ θ=32 とする。(1) N(1+θ), Tr(1+θ) を求めよ。(2) ε=1+θ+θ2 が単元であることをノルムで確かめ、ε2 を 1,θ,θ2 の一次結合で表して、そのノルムも 1 であることを確かめよ。
解答
例 1.17 の公式 N(a+bθ+cθ2)=a3+2b3+4c3−6abc, Tr=3a を使う。
(1) N(1+θ)=1+2=3、Tr(1+θ)=3。
(2) N(ε)=1+2+4−6=1 なので単元(逆元は θ−1)。ε2=1+2θ+3θ2+2θ3+θ4=1+2θ+3θ2+4+2θ=5+4θ+3θ2 で、N(ε2)=125+128+108−360=1。
問題 1.3 ★★ (1) f=x3+ax+b の根 θ について d(1,θ,θ2)=−4a3−27b2 を示せ。(2) α3−α−1=0 のとき、K=Q(α) の整数環が Z[α] で dK=−23 であることを示せ。
解答
(1) 両辺は a,b の多項式なので ab=0 の場合に示せば十分である(多項式として等しいことが従う)。f′(θ)=3θ2+a で、θf′(θ)=3θ3+aθ=−2aθ−3b。N(θ)=−b である。根を θi、c=3b/(2a) とおくと ∏i(θi+c)=−f(−c)=c3+ac−b だから
N(−2aθ−3b)=(−2a)3i∏(θi+c)=−8a3(8a327b3+23b−b)=−27b3−4a3b
よって N(f′(θ))=(−27b3−4a3b)/(−b)=4a3+27b2 で、命題 1.19 (3) より d=(−1)3N(f′(θ))=−4a3−27b2。
(2) x3−x−1 は ±1 を根にもたないので Q 上既約で、a=−1, b=−1 より d(1,α,α2)=4−27=−23。これは平方因子をもたないので、命題 1.23 より OK=Z[α]、dK=−23。
問題 1.4 ★★ θ=310, K=Q(θ) とする。(1) β=(1+θ+θ2)/3 について Tr(β), N(β), Tr(β2) を計算し、β の最小多項式が x3−x2−3x−3 であることを示せ。(2) OK=Z[θ]+Zβ、dK=−300 を示せ。
解答
(1) β∈/Q で [K:Q]=3 は素数なので、β の特性多項式 Pβ が最小多項式である。純三次体 Q(3m) でも例 1.17 と同様に N(a+bθ+cθ2)=a3+mb3+m2c3−3mabc、Tr=3a となる。m=10 では N(1+θ+θ2)=1+10+100−30=81 なので N(β)=81/27=3、Tr(β)=3/3=1。x の係数は β の共役の 2 つずつの積の和 s2 で、Tr(β2)=Tr(β)2−2s2 から求まる。(1+θ+θ2)2=1+2θ+3θ2+2θ3+θ4=21+12θ+3θ2 なので Tr(β2)=3⋅21/9=7、s2=(1−7)/2=−3。よって最小多項式は x3−x2−3x−3∈Z[x] で、β∈OK。
(2) d(1,θ,θ2)=−27⋅102=−2700=−22⋅33⋅52(問題 1.3 (1) で a=0, b=−10)。指数を m=[OK:Z[θ]] とすると m2∣22⋅33⋅52 より m∣30。x3−10 は 2 と 5 でアイゼンシュタインなので、命題 1.24 より 2,5∤m。β∈/Z[θ] より m=1、よって m=3。Z[θ]⊊Z[θ]+Zβ⊂OK で全体の指数が素数 3 だから OK=Z[θ]+Zβ。dK=−2700/32=−300。
問題 1.5 ★★ p を奇素数、p∗=(−1)(p−1)/2p とする。命題 1.29 を用いて p∗∈Q(ζp) を示せ。特に Q(5)⊂Q(ζ5)、Q(−7)⊂Q(ζ7) である。
解答
ζ の共役を ζ1,…,ζp−1 とし、δ=∏i<j(ζi−ζj) とおく。ζi はすべて Q(ζp) に属するので δ∈Q(ζp)。命題 1.19 (3) と 1.29 より δ2=(−1)(p−1)/2pp−2=p∗⋅pp−3。p−3 は偶数なので (δ/p(p−3)/2)2=p∗、すなわち p∗=±δ/p(p−3)/2∈Q(ζp)。p=5 で p∗=5、p=7 で p∗=−7 である。第4章ではガウス和を用いて p∗ を ζp の具体的な一次結合として表す。
問題 1.6 ★★ p を奇素数、ζ=ζp、λ=1−ζ とする。(1) λZ[ζ]∩Z=pZ を示せ。(2) 任意の α∈Z[ζ] について Tr(λα)∈pZ を示せ。
解答
(1) 補題 1.28 (2) より p∈λZ[ζ] なので pZ⊂λZ[ζ]∩Z。もし左辺が pZ より真に大きければ、p と互いに素な整数を含み、1=ap+bc の形から 1∈λZ[ζ]、すなわち λ は単元になる。しかし N(λ)=p=±1 なので系 1.15 に反する。
(2) σk(λα)=(1−ζk)σk(α) で、補題 1.28 (1) より 1−ζk∈λZ[ζ]。σk(α)∈Z[ζ] だから Tr(λα)=∑kσk(λα)∈λZ[ζ]∩Z=pZ(トレースは整数であることに注意)。この性質を使うと、定理 1.30 をアイゼンシュタインの補題を使わずに証明することもできる。
問題 1.7 ★★★ スティッケルベルガーの定理(定理 1.33)を証明せよ。
ヒント
整基底 ω1,…,ωn をとり、K のガロア閉包を L とする。det(σi(ωj))=∑π∈Snsgn(π)∏iσi(ωπ(i)) を偶置換の項の和 P と奇置換の項の和 N に分け、det=P−N と書く。
- τ∈Gal(L/Q) は τ∘σi=σρ(i) によって埋め込みの置換 ρ を引き起こす。ρ が偶置換なら τ は P,N をそれぞれ固定し、奇置換なら P と N を入れ替える。
- よって P+N と PN は Gal(L/Q) で不変で、しかも代数的整数だから Z に属する(Z∩Q=Z)。
- dK=(P−N)2=(P+N)2−4PN≡(P+N)2(mod4) で、整数の平方は 4 を法として 0 か 1 である。