この章の目標
- 整域における単元・同伴・既約元・素元を理解し、ユークリッド整域 ⇒ 単項イデアル整域 ⇒ 一意分解整域を証明できる
- Z[−5] で一意分解が崩れることを確かめ、各含意の逆が成り立たない例を挙げられる
- ガウスの補題を証明し、R が一意分解整域なら R[x] もそうであることを示せる
- アイゼンシュタインの判定法と modp 還元で多項式の既約性を判定できる
- ガウス整数環 Z[i] の素元を決定し、フェルマーの二平方和定理を証明できる
前提:第1章(素因数分解の一意性、ウィルソンの定理)、第5章(イデアル、剰余環、多項式環)
整数の素因数分解の一意性(第1章 定理 1.15)は、除法の原理 → ベズーの等式 → ユークリッドの補題 → 一意性、という流れで証明された。同じ論法は多項式環 K[x] やガウス整数環 Z[i] でも通用する。一方、Z[−5] では 6=2⋅3=(1+−5)(1−−5) と、本質的に異なる 2 通りの分解が起こる。
本章では「どのような環で素因数分解が一意的か」を調べる。答えは、除法の原理が使える環(ユークリッド整域)、すべてのイデアルが単項である環(単項イデアル整域)、一意分解整域、という 3 段階の階層として整理される。後半では多項式の既約性を判定する実用的な方法を学び、最後にガウス整数の算術から「4k+1 型の素数は 2 つの平方数の和である」というフェルマーの定理を導く。
本章を通じて R は整域 とする。
6.1 同伴・既約元・素元
定義 6.1(整除と同伴)a,b∈R について、b=ac となる c∈R があるとき a∣b と書く。a=ub となる単元 u が存在するとき、a と b は同伴 (associate) であるといい、a∼b と書く。
a∣b⟺(b)⊂(a) であり、a∼b⟺(a)=(b) である(後者の ⇐:a=bc, b=ad なら a=adc で、a=0 なら dc=1。a=0 なら b=0)。
定義 6.2(既約元と素元)0 でも単元でもない a∈R について、
- a=bc ならば b または c が単元であるとき、a を既約元 (irreducible element) という。
- a∣bc ならば a∣b または a∣c であるとき、a を素元 (prime element) という。
p=0 が素元 ⟺ (p) が素イデアル、である。
命題 6.3 整域において、素元は既約元である。
証明. 素元 p が p=bc と書けたとする。p∣bc なので、たとえば p∣b、b=pd とすると p=pdc、整域なので dc=1 で c は単元である。□
逆は一般には成り立たない(例 6.5)。
例 6.4
- Z の既約元・素元は ±p(p は素数)である。
- 体 K 上の K[x] の単元は 0 でない定数であり(第5章 例 5.7)、f∼g⟺f=cg(c∈K×)。既約元は既約多項式(1 次以上で、より低い次数の多項式の積に分解しない多項式)である。1 次式は既約である。x2+1 は R[x] で既約だが、C[x] では (x+i)(x−i) と分解する。2 次・3 次の多項式が体 K 上既約であるための必要十分条件は K に根をもたないことである(分解すれば 1 次因子をもつので、因数定理による)。
- 2x は Q[x] で既約(x と同伴)だが、Z[x] では 2⋅x で 2 が単元でないので既約でない。
- Z[i] ではノルム N(a+bi)=a2+b2 が乗法的で、α が単元 ⟺N(α)=1 である。N(α) が素数なら α は既約である(α=βγ なら N(β)N(γ) は素数なので一方が 1)。たとえば 1+i, 2+i は既約。3 も既約である:3=βγ(非単元)なら N(β)=3=a2+b2 となるが、これは解をもたない。一方 2=−i(1+i)2, 5=(2+i)(2−i) は既約でない。
例 6.5(Z[−5])R=Z[−5] で N(a+b−5)=a2+5b2 とおくと、これも乗法的である。N(α)=1⟺α=±1 なので R×={±1}。a2+5b2=2 や 3 となる整数解はないので、ノルムが 2,3 の元は存在しない。
2,3,1+−5,1−−5 のノルムはそれぞれ 4,9,6,6 であり、非単元の積に分解すれば因子のノルムは 2 または 3 になってしまうので、これら 4 つはすべて既約である。また、ノルムが異なる(または ±1 倍でない)ので互いに同伴でない。そして
6=2⋅3=(1+−5)(1−−5)
と、既約元の積への分解が 2 通りある。特に 2 は既約だが素元でない:2∣(1+−5)(1−−5) だが、(1±−5)/2∈/R なので 2∤1±−5。
6.2 一意分解整域
定義 6.6(一意分解整域, unique factorization domain)整域 R が次の 2 条件をみたすとき、一意分解整域(UFD)という。
- (存在)0 でも単元でもない任意の元は、有限個の既約元の積として表される。
- (一意性)p1⋯pm=q1⋯qn(pi,qj は既約元)ならば、m=n であり、番号を付け替えると各 i について pi∼qi となる。
命題 6.7 整域 R が定義 6.6 の条件 1 をみたすとする。このとき、R が一意分解整域であることと、R のすべての既約元が素元であることは同値である。
証明. (⇐) p1⋯pm=q1⋯qn とし、m についての帰納法で示す。p1 は素元なので、ある qj を割り切る(p1∣q1⋯qn から、素元の定義を繰り返し使う)。番号を付け替えて j=1 とし q1=p1u とすると、q1 は既約で p1 は単元でないので u は単元、p1∼q1。簡約律より p2⋯pm=(uq2)q3⋯qn で、uq2 も既約なので帰納法の仮定から主張が従う(m=1 のときは n=1 でなければならない。n≥2 なら p1=q1⋯qn が既約であることに反する。同様に m≥2 のときは n≥2 である。n=1 なら簡約律より p2⋯pm=u が単元となり、p2 が単元になって矛盾する)。
(⇒) p を既約元とし、p∣ab, ab=pc とする。a が単元なら p∣b なので、a,b は単元でないとしてよい(a=0 または b=0 なら自明)。c が単元なら ab=pc は既約元の単元倍で、既約元は 2 つの非単元の積にならないので矛盾する。よって a,b,c をそれぞれ既約元の積に分解すると、ab=pc の両辺は既約元の積であり、一意性より p は a または b の分解に現れるある既約元と同伴である。よって p∣a または p∣b。□
一意分解整域では、0 でない元 a,b の最大公約数 gcd(a,b)(a,b の公約数で、任意の公約数で割り切れるもの)が単元倍を除いて存在する:既約元の代表系をとって a,b を分解し、各既約元の指数の小さい方をとればよい。
6.3 ユークリッド整域・単項イデアル整域・一意分解整域
定義 6.8(ユークリッド整域, Euclidean domain)整域 R と写像 δ:R∖{0}→Z≥0 があって、任意の a∈R, b∈R∖{0} に対し
a=bq+r,r=0 または δ(r)<δ(b)
をみたす q,r∈R が存在するとき、R をユークリッド整域という。
定義 6.9(単項イデアル整域, principal ideal domain)すべてのイデアルが単項イデアルである整域を単項イデアル整域(PID)という。
例 6.10
- Z は δ(a)=∣a∣ でユークリッド整域(第1章 定理 1.4)。
- 体 K 上の K[x] は δ(f)=degf でユークリッド整域(第5章 定理 5.28)。
- Z[i] は δ=N でユークリッド整域である。a,b∈Z[i], b=0 に対し、C で a/b=s+ti(s,t∈Q)と書き、∣s−m∣≤21, ∣t−n∣≤21 となる整数 m,n をとる。q=m+ni, r=a−bq∈Z[i] とおくと
N(r)=N(b)ba−q2≤N(b)(41+41)=2N(b)<N(b)
幾何的には、格子 bZ[i] の正方形の中の任意の点から最も近い格子点までの距離が、正方形の一辺より短いことを使っている。
定理 6.11 ユークリッド整域は単項イデアル整域である。
証明. I=(0) をイデアルとし、I∖{0} の中で δ が最小の b をとる。a∈I を a=bq+r と割ると r=a−bq∈I で、δ の最小性から r=0。よって I=(b)。□
補題 6.12 R を単項イデアル整域とする。
- p が既約元ならば (p) は極大イデアルであり、特に p は素元である。
- (昇鎖条件)イデアルの増大列 I1⊂I2⊂⋯ は、ある番号から先で一定になる。
証明. (1) (p)⊂J⊊R とし、J=(m) と書く。p=mc で、m は単元でない(J=R)から既約性より c が単元、よって J=(m)=(p)。(p)=R(p は単元でない)なので (p) は極大イデアル、したがって素イデアルで、p は素元である。
(2) I=⋃nIn は(増大列なので)イデアルであり、I=(a) と書ける。a∈IN となる N をとると、n≥N で I=(a)⊂IN⊂In⊂I。□
定理 6.13 単項イデアル整域は一意分解整域である。
証明. 命題 6.7 と補題 6.12(1) より、既約元の積への分解の存在を示せばよい。0 でも単元でもない a で、既約元の積に書けないものがあると仮定する。a は既約でないので a=a1b1(a1,b1 は非単元)と書け、a1,b1 の少なくとも一方は既約元の積に書けない。それを a1 とすると、b1 が単元でないので (a)⊊(a1)。同じ議論を a1 に繰り返すと、狭義の増大列 (a)⊊(a1)⊊(a2)⊊⋯ が得られ、補題 6.12(2) に矛盾する。□
系 6.14 Z, 体 K 上の K[x], Z[i] は一意分解整域である。
単項イデアル整域では、(a,b)=(d) となる d が gcd(a,b) であり、ベズーの等式 ax+by=d が成り立つ。ユークリッド整域では、これを互除法で計算できる(問題 6.3)。
K[x] については、次の事実が体論(第8章)の出発点となる。
系 6.15 K を体、f∈K[x] を 1 次以上の多項式とすると、次は同値である。
- f は既約多項式である。
- (f) は K[x] の極大イデアルである。
- K[x]/(f) は体である。
証明. (1)⇒(2) は補題 6.12(1)。(2)⇔(3) は第5章 定理 5.17。(2)⇒(1):f=gh(g,h は 1 次以上)なら (f)⊊(g)⊊K[x] となり極大でない。□
例 6.16(含意の逆が成り立たない例)
| 環 |
ED |
PID |
UFD |
| Z, K[x], Z[i] |
○ |
○ |
○ |
| Z[21+−19] |
× |
○ |
○ |
| Z[x], K[x,y] |
× |
× |
○ |
| Z[−5] |
× |
× |
× |
- Z[x] と K[x,y] が一意分解整域であることは次節の定理 6.22 で示す。Z[x] のイデアル (2,x) は単項でない(第5章 問題 5.2)。K[x,y] の (x,y) も単項でない:(x,y)=(f) なら f∣x, f∣y から f は 0 でない定数、すると (x,y)=K[x,y] だが、K[x,y]/(x,y)≅K=0 に矛盾する。
- Z[−5] は例 6.5 より一意分解整域でない。
- Z[(1+−19)/2] が単項イデアル整域だがユークリッド整域でないことは知られているが、証明は省略する。
6.4 ガウスの補題と一意分解整域上の多項式環
Z[x] の多項式の Q[x] における分解と Z[x] における分解の関係を調べる。この節では R を一意分解整域、K=Frac(R) とする。
定義 6.17(内容と原始多項式)0 でない f∈R[x] の係数の最大公約数を f の内容 (content) といい c(f) と書く(単元倍を除いて定まる)。c(f) が単元であるとき、f を原始多項式 (primitive polynomial) という。
たとえば c(6x2+4x+2)=2 で、3x2+2x+1 は原始多項式である。
補題 6.18(ガウスの補題, Gauss's lemma)原始多項式の積は原始多項式である。より一般に、f,g∈R[x]∖{0} について c(fg)∼c(f)c(g)。
証明. f,g が原始的で fg が原始的でないとすると、c(fg) を割る既約元、すなわち素元 p がある(R は一意分解整域なので既約元は素元)。p は fg のすべての係数を割る。係数を modp で還元する準同型 R[x]→(R/(p))[x] を考えると、f g=fg=0。(p) は素イデアルなので R/(p) は整域、したがって (R/(p))[x] も整域で、f=0 または g=0。すなわち p は f または g のすべての係数を割り、原始性に反する。
一般の場合は f=c(f)f0, g=c(g)g0(f0,g0 は原始的)と書けば、fg=c(f)c(g)f0g0 で f0g0 は原始的なので c(fg)∼c(f)c(g)。□
補題 6.19 0 でない f∈K[x] は、f=cf0(c∈K×, f0∈R[x] は原始多項式)と表され、c と f0 は R の単元倍を除いて一意的である。特に、f∈R[x] が原始多項式 f0 により f=cf0(c∈K×)と書ければ c∈R である。
証明. 係数の分母の積 d∈R を掛けると df∈R[x] で、df=c(df)f0(f0 は原始的)より f=(c(df)/d)f0。一意性:cf0=c′f0′ とし、c=a/b, c′=a′/b′(a,b,a′,b′∈R)と書くと ab′f0=a′bf0′。両辺の内容を比べると ab′∼a′b、すなわち c′=uc(u∈R×)で、f0=uf0′。最後の主張:f=c(f)⋅f1(f1 原始的)とも書けるので、一意性より c∼c(f)∈R。□
定理 6.20(ガウス)f∈R[x] を 1 次以上の原始多項式とする。
- f が K[x] で f=gh(g,h は 1 次以上)と分解すれば、R[x] でも degg1=degg, degh1=degh となる f=g1h1 に分解する。
- f が R[x] で既約 ⟺ f が K[x] で既約。
証明. (1) g=c1g0, h=c2h0(g0,h0 は原始的)と書くと f=c1c2⋅g0h0 で、ガウスの補題より g0h0 は原始的。補題 6.19 より c1c2∈R、しかも f は原始的なので c1c2 は単元。g1=c1c2g0, h1=h0 とおけばよい。
(2) (⇐) f=gh を R[x] での分解とする。K[x] で既約なので g,h の一方、たとえば g は定数 a∈R である。a は f のすべての係数を割るので a∣c(f)、よって a は単元。(⇒) (1) の対偶である(K[x] の単元は 0 でない定数、R[x] で 1 次以上の因子は単元でない)。□
注意
原始性の仮定は必要である。2x+2=2(x+1) は Q[x] で既約(1 次式)だが、Z[x] では 2 が単元でないので既約でない。
定理 6.21 R[x] の既約元は、(i) R の既約元(定数多項式)と、(ii) K[x] で既約な 1 次以上の原始多項式、で尽くされ、これらはすべて R[x] の素元である。
証明. f∈R[x] が既約とする。degf=0 なら f∈R で、R で分解すれば R[x] でも分解するので R の既約元である。degf≥1 なら f=c(f)f0 より c(f) は単元(そうでなければ非単元の積に分解)で f は原始的、定理 6.20(2) より K[x] で既約。逆に (i), (ii) の元が既約であることも同様に示される。
素元であること:(i) p∈R が既約なら素元で、R[x]/(p)≅(R/(p))[x] は整域なので p は R[x] の素元。(ii) f を K[x] で既約な原始多項式とし、f∣gh(R[x] で)とする。K[x] は単項イデアル整域なので f は K[x] の素元であり、たとえば g=fk(k∈K[x])。k=ck0(k0 原始的)と書くと g=c⋅fk0 で、fk0 はガウスの補題より原始的だから、補題 6.19 より c∈R。よって k∈R[x] で、f∣g が R[x] で成り立つ。□
定理 6.22 R が一意分解整域ならば、R[x] も一意分解整域である。
証明. 命題 6.7 と定理 6.21 より、既約元の積への分解の存在を示せばよい。f∈R[x] を 0 でも単元でもない元とし、f=c(f)f0 と書く。c(f) は(単元でなければ)R で既約元の積に分解する。degf0≥1 なら、K[x] は一意分解整域なので f0=g1⋯gk(gi は K[x] の既約元)と書ける。gi=cigi′(gi′ は原始的)とすると f0=(c1⋯ck)g1′⋯gk′ で、ガウスの補題と補題 6.19 から c1⋯ck は R の単元である。各 gi′ は K[x] で既約な原始多項式、すなわち R[x] の既約元なので、f の既約元への分解が得られる。□
系 6.23 Z[x1,…,xn] と、体 K 上の K[x1,…,xn] は一意分解整域である。
証明. R[x1,…,xn]=R[x1,…,xn−1][xn] と定理 6.22 に、n についての帰納法を適用する。□
6.5 既約性の判定法
Q[x] の多項式の既約性は、定理 6.20 により Z[x] の原始多項式の既約性に帰着する。さらに素数 p で係数を還元することで、判定のための強力な道具が得られる。
定理 6.24(アイゼンシュタインの判定法, Eisenstein's criterion)R を一意分解整域、K=Frac(R)、p を R の素元とする。f=anxn+an−1xn−1+⋯+a0∈R[x](n≥1)が
p∤an,p∣ai (0≤i≤n−1),p2∤a0
をみたすならば、f は K[x] で既約である。
証明. f が K[x] で 1 次以上の 2 つの多項式の積に分解すると仮定する。f=c(f)f0 とすると f0 も K[x] で分解するので、定理 6.20(1) より f0=g0h0(g0,h0∈R[x]、1 次以上)と書け、f=gh(g=c(f)g0, h=h0)は R[x] における 1 次以上の多項式への分解である。modp で還元すると、仮定より f=anxn なので
gh=anxnin (R/(p))[x]
g,h の最高次係数の積は an で p で割り切れないので、degg=degg≥1, degh=degh≥1。R/(p) は整域なのでその分数体 F 上の多項式環 F[x](一意分解整域)で考えると、x は素元であり、anxn の約元は cxk の形に限る。よって g=bxk, h=b′xn−k(k,n−k≥1)で、g,h の定数項は 0、すなわち p∣g(0), p∣h(0)。すると p2∣g(0)h(0)=a0 となり矛盾する。□
例 6.25
- xn−2 は任意の n≥1 で Q[x] の既約多項式である(p=2)。特に Q 上には任意の次数の既約多項式がある。
- x5−6x+3(p=3)、x4+10x+5(p=5)は Q 上既約。
- 変数変換も有効である:φ(x)↦φ(x+1) は Q[x] の環自己同型(逆は x↦x−1 の代入)なので既約性を保つ。x4+1 に x↦x+1 を施すと x4+4x3+6x2+4x+2 となり、p=2 でアイゼンシュタインの条件をみたすので、x4+1 は Q 上既約である。
定理 6.26(円分多項式 Φp の既約性)p を素数とすると、
Φp(x)=x−1xp−1=xp−1+xp−2+⋯+x+1
は Q[x] の既約多項式である。
証明. x=y+1 を代入すると、二項定理より
Φp(y+1)=y(y+1)p−1=k=1∑p(kp)yk−1=yp−1+(p−1p)yp−2+⋯+(2p)y+(1p)
最高次係数は 1、1≤k≤p−1 で p∣(kp)(第5章 命題 5.36 の証明)、定数項 (1p)=p は p2 で割り切れない。アイゼンシュタインの判定法より Φp(y+1) は既約で、例 6.25(3) の注意により Φp(x) も既約である。□
Φp の根は 1 の原始 p 乗根 e2πik/p(1≤k≤p−1)である。一般の円分多項式 Φn の既約性は第9章で証明する。
定理 6.27(modp 還元)f∈Z[x], degf=n≥1 とし、素数 p は f の最高次係数を割らないとする。f を modp で還元した f∈Fp[x] が既約ならば、f は Q[x] で既約である。
証明. f が Q[x] で 1 次以上の多項式の積に分解すれば、定理 6.24 の証明と同様に f=gh(g,h∈Z[x], 1 次以上)と書ける。最高次係数の積が p で割り切れないので degg=degg, degh=degh で、f=g h は Fp[x] における 1 次以上の多項式への分解となり、仮定に反する。□
例 6.28
- x3−3x−1 を mod2 で還元すると x3+x+1。F2 で 0,1 を代入するといずれも 1 なので根がなく、3 次なので F2 上既約。よって x3−3x−1 は Q 上既約である。この多項式は 2cos20∘ を根にもち、第8章で角の三等分の不可能性を示すのに使う。
- x4+x+1 は F2 上既約である:根をもたず(0,1 で値 1)、2 次の既約多項式の積でもない(F2 上の 2 次の既約多項式は x2+x+1 だけで、(x2+x+1)2=x4+x2+1)。したがって、mod2 でこれに還元される x4+2x3+3x+5 などは Q 上既約である。
- 有理根定理:f=anxn+⋯+a0∈Z[x] が有理数の根 r/s(既約分数)をもてば、r∣a0 かつ s∣an。実際 anrn+an−1rn−1s+⋯+a0sn=0 から r∣a0sn, s∣anrn で、gcd(r,s)=1 による。2 次・3 次の多項式では根の候補を調べ尽くせば既約性が判定できる。
注意
定理 6.27 の逆は成り立たない。x4+1 は Q 上既約(例 6.25(3))だが、すべての素数 p で modp で可約になることが知られている。たとえば mod2 で (x+1)4、mod3 で (x2+x+2)(x2+2x+2) である。
6.6 ガウス整数とフェルマーの二平方和定理
どの素数が 2 つの平方数の和で表されるだろうか。小さい素数で試すと
2=12+12,5=12+22,13=22+32,17=12+42,29=22+52,37=12+62
であり、3,7,11,19,23,31 は表せない。平方数は mod4 で 0 か 1 なので、4k+3 型の数は 2 つの平方数の和にならない。フェルマーは逆に 4k+1 型の素数はすべて表されると主張した。a2+b2=(a+bi)(a−bi) に注目すると、この問題は Z[i] における素数の分解の問題になる。
補題 6.29 p≡1(mod4) を素数とすると、x2≡−1(modp) となる整数 x が存在する。
証明. ウィルソンの定理(第1章 定理 1.38)より −1≡(p−1)!。k と p−k(1≤k≤(p−1)/2)を組にすると k(p−k)≡−k2 なので
−1≡(p−1)!≡k=1∏(p−1)/2(−k2)=(−1)(p−1)/2((2p−1)!)2(modp)
(p−1)/2 は偶数なので、x=((p−1)/2)! とおけば x2≡−1(modp)。□
定理 6.30(フェルマーの二平方和定理, Fermat's theorem on sums of two squares)奇素数 p が 2 つの整数の平方の和で表されるための必要十分条件は、p≡1(mod4) である。
証明. 必要性は上で見た。p≡1(mod4) とし、補題 6.29 の x をとると
p∣x2+1=(x+i)(x−i)in Z[i]
(x±i)/p=x/p±i/p∈/Z[i] なので p∤x±i。よって p は Z[i] の素元でない。Z[i] は一意分解整域(系 6.14)なので既約元と素元は一致し、p は既約でない:p=αβ(α,β は非単元)。p2=N(p)=N(α)N(β) で N(α),N(β)>1 なので N(α)=p。α=a+bi とすれば p=a2+b2。□
定理 6.31(ガウス整数の素元)Z[i] の素元は、同伴を除いて次のもので尽くされる。
- 1+i(2=−i(1+i)2)
- p≡1(mod4) となる素数 p に対し、p=a2+b2 と表したときの a+bi と a−bi(この 2 つは同伴でない)
- q≡3(mod4) となる素数 q
証明. (1), (2) の元はノルムが素数なので既約(例 6.4(4))、したがって素元である。(3):q=αβ(非単元)なら N(α)=q となり、q が 2 つの平方の和になって矛盾するので q は既約。
逆に π を素元とする。π∣ππ=N(π) で、N(π) を素因数分解すると π はある素数 p を割る。N(π)∣N(p)=p2 より N(π)=p または p2。N(π)=p なら p=a2+b2 で、p=2 または p≡1(mod4)、π は (1) か (2) の元と同伴である(N(π)=p となる π は、p=ππ の分解の一意性から a+bi, a−bi のいずれかと同伴)。N(π)=p2 なら p=πu で N(u)=1、u は単元なので p∼π は素元である。p=2 や p≡1(mod4) は p=(a+bi)(a−bi) と分解するので素元でなく、p≡3(mod4)。
(2) の 2 元が同伴でないこと:a+bi の同伴は ±(a+bi), ±(−b+ai) である。a−bi がこのいずれかに等しいとすると b=0, a=0, a=b, a=−b のいずれかとなるが、p=a2+b2 が奇素数ならどれも起こらない。□
例 6.32
- 65=5⋅13=(2+i)(2−i)(3+2i)(3−2i)。因子の組合せを変えると (2+i)(3+2i)=4+7i, (2+i)(3−2i)=8−i より、65=42+72=82+12 という 2 通りの表し方が得られる。
- 3 は Z[i] でも素元のままであり、Z[i]/(3) は 9 元体である(第5章 問題 5.4)。
系 6.33 自然数 n が 2 つの整数の平方の和で表されるための必要十分条件は、n の素因数分解において q≡3(mod4) となる各素数 q の指数が偶数であることである。
証明. n=a2+b2⟺n=N(α)(α=a+bi)である。(⇐) N は乗法的で、2=N(1+i), p=N(a+bi)(p≡1(mod4))、q2=N(q) なので、条件をみたす n はノルムの積として表される。(⇒) α=u∏jπjej と素元分解すると n=∏jN(πj)ej で、定理 6.31 より N(πj) は 2、p≡1(mod4)、q2(q≡3(mod4))のいずれかである。よって q の指数は偶数。□
たとえば 2023=7⋅172 は 7 の指数が奇数なので 2 つの平方の和で表せず、2025=34⋅52 は 272+362 と表される(729+1296=2025)。
補足
Z[i] で素数 p が「分解する(p≡1mod4)」「分岐する(p=2)」「素元のまま残る(p≡3mod4)」という 3 つの振る舞いは、代数的整数論における素イデアル分解の最初の例である(代数的整数論 第2章)。Z[−5] で壊れた一意性も、そこでイデアルの素因数分解として回復される。
まとめ
- 整域において、素元は既約元である。既約元への分解が存在する整域では、「一意分解整域 ⟺ 既約元がすべて素元」。
- ユークリッド整域 ⇒ 単項イデアル整域 ⇒ 一意分解整域。Z, K[x], Z[i] はユークリッド整域。
- 単項イデアル整域では既約元が生成するイデアルは極大であり、K[x]/(f) が体 ⟺f が既約。
- Z[−5] では 6=2⋅3=(1+−5)(1−−5) となり一意分解が崩れる。Z[x], K[x,y] は一意分解整域だが単項イデアル整域でない。
- ガウスの補題:原始多項式の積は原始的。これより、原始多項式の既約性は R[x] と K[x] で一致し、R が一意分解整域なら R[x] もそうである。
- アイゼンシュタインの判定法、変数変換、modp 還元、有理根定理が既約性判定の基本的な道具。Φp は既約。
- Z[i] の素元は 1+i、p≡1(mod4) を分ける a±bi、q≡3(mod4) の 3 種類。素数 p≡1(mod4) は 2 つの平方の和である。
演習問題
問題 6.1 ★ Z[−5] において、9 の既約元への分解を 2 通り与え、それらが本質的に異なる(同伴な因子の並べ替えで移り合わない)ことを示せ。
解答
9=3⋅3=(2+−5)(2−−5)(4+5=9)。3 と 2±−5 はノルムが 9 で、ノルム 3 の元が存在しないので既約である(例 6.5 と同じ議論)。単元は ±1 だけなので、3 は 2±−5 と同伴でない。よって 2 つの分解は本質的に異なる。
問題 6.2 ★ 次の多項式が Q 上既約かどうか判定せよ。
(1) x5−6x+3 (2) x3−2x+7 (3) x4+3x3+x+5 (4) x4+4
解答
(1) p=3 でアイゼンシュタインの条件をみたすので既約。
(2) 3 次なので、有理根がなければ既約。有理根定理より候補は ±1,±7 で、f(1)=6, f(−1)=8, f(7)=336, f(−7)=−322 はいずれも 0 でない。よって既約。
(3) mod2 で還元すると x4+x3+x+1=(x+1)(x3+1) となり可約なので、mod2 では判定できない。mod3 で還元すると x4+x+2。F3 で 0,1,2 を代入すると 2,4≡1,20≡2 で根がない。2 次の既約多項式の積 (x2+ax+b)(x2+cx+d) になるとすると、x3 の係数から c=−a、x2 の係数から b+d−a2=0、x の係数から a(d−b)=1、定数項から bd=2。a=0 で d−b=a−1。bd=2 となる (b,d) は (1,2),(2,1) で、b+d=0=a2 となり a=0 に矛盾。よって F3 上既約で、定理 6.27 より Q 上既約。
(4) x4+4=(x2+2x+2)(x2−2x+2) と分解する(展開して確かめよ)ので可約。各因子は判別式が負なので Q 上(R 上でも)既約。
問題 6.3 ★★ Z[i] において、互除法で gcd(11+3i,1+8i) を求めよ。
解答
N(11+3i)=130, N(1+8i)=65。
1+8i11+3i=65(11+3i)(1−8i)=6535−85i≈0.54−1.31i なので q=1−i とし、r=(11+3i)−(1+8i)(1−i)=(11+3i)−(9+7i)=2−4i(N(r)=20<65)。
2−4i1+8i=20(1+8i)(2+4i)=20−30+20i=−1.5+i なので q=−1+i とし、r=(1+8i)−(2−4i)(−1+i)=(1+8i)−(2+6i)=−1+2i(N(r)=5<20)。
−1+2i2−4i=5(2−4i)(−1−2i)=5−10=−2 で割り切れる。
よって gcd=−1+2i∼2+i(−i 倍)。検算:11+3i=(2+i)(5−i), 1+8i=(2+i)(2+3i)。
問題 6.4 ★★ Z[−2] はノルム N(a+b−2)=a2+2b2 に関してユークリッド整域であることを示せ。これを用いて、素数 p が x2≡−2(modp) の解をもつならば p=a2+2b2 と表されることを示せ。
解答
α,β=0 に対し α/β=s+t−2(s,t∈Q)とし、∣s−m∣,∣t−n∣≤21 となる整数をとる。q=m+n−2 とすると N(α−βq)=N(β)((s−m)2+2(t−n)2)≤N(β)(41+42)<N(β)。
p∣x2+2=(x+−2)(x−−2) で、(x±−2)/p∈/Z[−2] なので p は素元でない。一意分解整域なので既約でもなく、p=αβ(非単元)、N(α)=p となる。α=a+b−2 として p=a2+2b2。(例:x2≡−2(mod11) は x=3 が解で、11=32+2⋅12。)
問題 6.5 ★★ Z[−5] のイデアル (2,1+−5) は単項イデアルでないことを示せ。
解答
まず 1∈/I=(2,1+−5) を示す。I の元は 2(a+b−5)+(1+−5)(c+d−5)=(2a+c−5d)+(2b+c+d)−5 の形である。これが 1 なら 2a+c−5d=1, 2b+c+d=0 で、辺々引くと 2a−2b−6d=1 となり、左辺が偶数なので矛盾。よって I=R。
I=(α) とすると α∣2, α∣1+−5 より N(α)∣4 かつ N(α)∣6、よって N(α)∣2。ノルム 2 の元はないので N(α)=1、α=±1 となり I=R に矛盾する。
(I2=(2) が成り立ち、(2) は素イデアルの積 I2 に分解する。これがイデアル論による一意分解の回復である。)
問題 6.6 ★★ Z[i] の素元分解を用いて、325 を 2 つの平方数の和で表す方法を(順序と符号を除いて)すべて求めよ。
解答
325=52⋅13、5=(2+i)(2−i), 13=(3+2i)(3−2i)。N(α)=325 となる α は、単元倍を除いて (2+i)a(2−i)2−a(3±2i)(a=0,1,2)で、複素共役をとれば同じ表し方を与えるので、本質的に次の 3 つである。
- (2+i)2(3+2i)=(3+4i)(3+2i)=1+18i:325=12+182
- (2+i)2(3−2i)=(3+4i)(3−2i)=17+6i:325=172+62
- (2+i)(2−i)(3+2i)=15+10i:325=152+102
検算:1+324=289+36=225+100=325。
問題 6.7 ★★ K を体とする。K[x] で f=x4−1 の既約分解を K=Q,R,C,F5,F3 のそれぞれについて求めよ。
解答
x4−1=(x−1)(x+1)(x2+1)。
- Q, R:x2+1 は根をもたないので既約。分解は (x−1)(x+1)(x2+1)。
- C:(x−1)(x+1)(x−i)(x+i)。
- F5:22=4=−1 なので x2+1=(x−2)(x+2)。分解は (x−1)(x+1)(x−2)(x+2)(F5× の 4 元がちょうど根)。
- F3:02,12,22=0,1,1 なので x2+1 は根をもたず既約。分解は (x−1)(x+1)(x2+1)。
問題 6.8 ★★★ ω=2−1+−3 とする。(1) Z[−3] は一意分解整域でないことを示せ。(2) Z[ω]={a+bω∣a,b∈Z} はノルム N(z)=∣z∣2 に関してユークリッド整域であることを示せ。
解答
(1) N(a+b−3)=a2+3b2 で、ノルム 2 の元はない。4=2⋅2=(1+−3)(1−−3) で、2,1±−3 はノルム 4 なので既約(因子のノルムは 2 になってしまう)。単元は ±1 だけなので 2 と 1±−3 は同伴でない。よって一意分解整域でない。
(2) Z[ω] の元は 2a+b−3(a,b∈Z, a≡b(mod2))の形の数全体である(ω2=−1−ω より Z[ω] は環)。z=s+t−3(s,t∈Q)に対し、まず 2t に最も近い整数 b をとり(∣t−b/2∣≤41)、次に b と同じ偶奇の整数 a で 2s に最も近いものをとる(∣2s−a∣≤1, ∣s−a/2∣≤21)。q=(a+b−3)/2 とすると
N(z−q)=(s−a/2)2+3(t−b/2)2≤41+163=167<1
これを z=α/β に適用すれば除法の原理が得られる。
(Z[−3] は Z[ω] の部分環で、「整数をすべて含む」のは後者である。この違いは代数的整数論 第1章で整数環の概念として説明される。)
問題 6.9 ★★★ p を素数とする。Φp2(x)=Φp(xp)=xp−1xp2−1 は Q 上既約であることを示せ。
解答
g(y)=Φp2(y+1) にアイゼンシュタインの判定法を p で適用する。g はモニックで、定数項は g(0)=Φp(1p)=Φp(1)=p なので p2 で割り切れない。Z[y] で g(y)((y+1)p−1)=(y+1)p2−1 が成り立ち、modp で還元すると、フロベニウス準同型により (y+1)pk≡ypk+1 なので g(y)⋅yp=yp2。Fp[y] は整域なので g(y)=yp2−p。すなわち g の最高次以外の係数はすべて p で割り切れる。よって g、したがって Φp2 は既約である。