この章の目標
- 群の作用の言葉を理解し、軌道–固定部分群定理と類等式を使って数え上げができる
- p 群の中心が非自明であることを証明し、位数 p2 の群を決定できる
- コーシーの定理とシローの定理を証明し、それを使って与えられた位数の群の構造を調べられる
- バーンサイドの補題で「回転・裏返しで重なるものを同一視した」数え上げができる
前提:第2章(剰余類、ラグランジュの定理、正規部分群、準同型定理、対応定理)
群はもともと「何かを動かすもの」として現れた。正多角形の対称性の群は頂点を動かし、GLn(K) はベクトルを動かし、ガロア群は方程式の根を動かす。群がある集合を動かす様子を群の作用という。
作用を考える利点は、群の構造についての情報が「数え上げ」に変換されることである。作用で動く点の集まり(軌道)の大きさは群の位数の約数であり、集合全体の大きさは軌道の大きさの和である。この単純な事実から、p 群の中心の非自明性、コーシーの定理、そして有限群論の基本定理であるシローの定理が次々に導かれる。シローの定理は「位数 n の群はどんな構造をもちうるか」という問いに対する最も強力な道具である。
3.1 群の作用
定義 3.1(群の作用, group action)群 G と集合 X に対し、写像 G×X→X, (g,x)↦g⋅x が
- 任意の x∈X について e⋅x=x
- 任意の g,h∈G, x∈X について g⋅(h⋅x)=(gh)⋅x
をみたすとき、これを G の X への(左)作用といい、G は X に作用する (act) という。X を G-集合 (G-set) ともいう。
命題 3.2 G の X への作用が与えられたとき、ρ(g)(x)=g⋅x で定まる ρ:G→S(X) は準同型写像である。逆に、準同型写像 ρ:G→S(X) から g⋅x:=ρ(g)(x) により作用が定まる。
証明. 作用の条件 2 は ρ(g)∘ρ(h)=ρ(gh) を意味し、条件 1 は ρ(e)=idX を意味する。よって ρ(g)∘ρ(g−1)=ρ(g−1)∘ρ(g)=idX で、ρ(g) は全単射、すなわち ρ(g)∈S(X) であり、ρ は準同型である。逆に準同型 ρ が与えられれば、ρ(e)=idX(命題 2.39)と ρ(g)ρ(h)=ρ(gh) が作用の 2 条件そのものである。□
Kerρ={g∈G∣すべての x について g⋅x=x} を作用の核といい、Kerρ={e} のとき作用は忠実 (faithful) であるという。忠実な作用は G を S(X) の部分群と同一視することを可能にする。
例 3.3
- Sn は {1,…,n} に σ⋅i=σ(i) で作用する。GLn(K) は Kn に A⋅v=Av で作用する。
- Dn は正 n 角形の頂点の集合に作用する。これは忠実なので(頂点の行き先で合同変換は決まる)、Dn は Sn の位数 2n の部分群と同一視できる。
- 左乗法:G は G 自身に g⋅x=gx で作用する。
- 共役作用:G は G 自身に g⋅x=gxg−1 で作用する。g⋅(h⋅x)=ghxh−1g−1=(gh)⋅x である。
- 剰余類への作用:H≤G に対し、G は左剰余類の集合 G/H に g⋅aH=gaH で作用する。
- 部分群への共役作用:G は G の部分群全体の集合に g⋅H=gHg−1 で作用する。
- 作用でない例:g⋅x=xg(右からの積)は、g⋅(h⋅x)=xhg と (gh)⋅x=xgh が一般に異なるので左作用ではない。g⋅x=xg−1 とすれば左作用になる。
3.2 軌道と固定部分群
定義 3.4(軌道と固定部分群)G が X に作用しているとする。x∈X に対し
G⋅x={g⋅x∣g∈G},Gx={g∈G∣g⋅x=x}
をそれぞれ x の軌道 (orbit)、固定部分群(安定化群, stabilizer)という。軌道がただ一つ(X 全体)のとき、作用は推移的 (transitive) であるという。G⋅x={x} となる x を固定点 (fixed point) といい、固定点全体を XG と書く。
命題 3.5
- x∼y⟺ ある g∈G で y=g⋅x、で定まる関係は同値関係で、同値類は軌道である。特に X は軌道の非交和である。
- Gx は G の部分群であり、Gg⋅x=gGxg−1 が成り立つ。
証明. (1) x=e⋅x、y=g⋅x⇒x=g−1⋅y、y=g⋅x, z=h⋅y⇒z=(hg)⋅x から反射律・対称律・推移律が従う。(2) g,h∈Gx なら (gh−1)⋅x=g⋅(h−1⋅x)=g⋅x=x(h⋅x=x の両辺に h−1 を作用させると x=h−1⋅x)。また h∈Gg⋅x⟺hg⋅x=g⋅x⟺g−1hg∈Gx⟺h∈gGxg−1。□
定理 3.6(軌道–固定部分群定理, orbit-stabilizer theorem)G が X に作用しているとき、x∈X に対し
G/Gx→G⋅x,gGx↦g⋅x
は well-defined な全単射である。特に ∣G⋅x∣=[G:Gx] であり、G が有限群なら ∣G⋅x∣∣Gx∣=∣G∣、したがって軌道の大きさは ∣G∣ の約数である。
証明. gGx=hGx⟺g−1h∈Gx⟺g−1h⋅x=x⟺h⋅x=g⋅x。左から右が well-defined 性、右から左が単射性を与える。全射性は軌道の定義から明らか。後半はラグランジュの定理による。□
X が有限集合で、軌道の代表元を x1,…,xr とすると、命題 3.5 と定理 3.6 から
∣X∣=i=1∑r∣G⋅xi∣=i=1∑r[G:Gxi](1)
が成り立つ。これを軌道分解の式とよぶ。本章の議論はすべてこの式の応用である。
例 3.7
- Sn の {1,…,n} への作用は推移的で、n の固定部分群は {1,…,n−1} の置換全体(Sn−1 と同一視できる)である。定理 3.6 より n!=n⋅(n−1)!。
- Dn の頂点への作用は推移的で、頂点 P0 の固定部分群は {e,s} である。2n=n⋅2。
- 立方体の回転群:立方体を自分自身に重ねる空間の回転全体を G とする。G は 6 つの面に推移的に作用し、1 つの面の固定部分群はその面の中心を通る軸のまわりの 0∘,90∘,180∘,270∘ 回転の 4 個である。よって ∣G∣=6⋅4=24。頂点への作用(8 頂点、固定部分群は頂点を通る対角線のまわりの 3 個の回転)で数えても 8⋅3=24、辺への作用(12 辺、固定部分群は 2 個)で数えても 12⋅2=24 となる。具体的には、G は恒等変換 1 個、面の中心を通る 3 本の軸のまわりの ±90∘ 回転 6 個と 180∘ 回転 3 個、頂点を通る 4 本の軸のまわりの ±120∘ 回転 8 個、向かい合う辺の中点を通る 6 本の軸のまわりの 180∘ 回転 6 個からなる(1+6+3+8+6=24)。
3.3 ケイリーの定理と剰余類への作用
定理 3.8(ケイリーの定理, Cayley's theorem)任意の群 G は S(G) のある部分群と同型である。特に位数 n の有限群は Sn のある部分群と同型である。
証明. 左乗法による作用(例 3.3(3))に対応する準同型 ρ:G→S(G) を考える。ρ(g)=id なら g=g⋅e=e なので ρ は単射であり、第 1 同型定理より G≅ρ(G)≤S(G)。∣G∣=n なら G の元に 1,…,n と番号をつけて S(G)≅Sn とすればよい。□
たとえば Z/3Z={0,1,2} で元に番号 1,2,3 をつけると、1 の左乗法(加法)は 1↦2↦3↦1 なので、Z/3Z≅⟨(1 2 3)⟩≤S3 となる。ケイリーの定理は「対称群を調べればすべての有限群を調べたことになる」ことを意味するが、Sn は n に比べて巨大なので、実用上は次のように小さな集合への作用を使うことが多い。
命題 3.9 H≤G, [G:H]=n<∞ とし、ρ:G→S(G/H)≅Sn を剰余類への作用(例 3.3(5))に対応する準同型とする。このとき
Kerρ=g∈G⋂gHg−1⊂H
であり、G/Kerρ は Sn の部分群と同型である。特に G が有限群で ∣G∣ が n! を割り切らなければ、G は H に含まれる {e} でない正規部分群をもつ。
証明. x∈Kerρ⟺ 任意の g で xgH=gH⟺ 任意の g で g−1xg∈H⟺ 任意の g で x∈gHg−1。g=e の項から Kerρ⊂H。第 1 同型定理より G/Kerρ≅ρ(G)≤Sn なので、ラグランジュの定理より ∣G/Kerρ∣ は n! を割る。∣G∣∤n! なら Kerρ={e} である。□
系 3.10 有限群 G の位数を割る最小の素数を p とする。指数 p の部分群 H は正規部分群である。
証明. 命題 3.9 の K=Kerρ⊂H をとる。G/K は Sp の部分群と同型なので ∣G/K∣=[G:H][H:K]=p[H:K] は p! を割り、[H:K] は (p−1)! を割る。一方 [H:K] は ∣G∣ の約数なので、その素因数はすべて p 以上である。(p−1)! の素因数はすべて p 未満なので [H:K]=1、すなわち H=K⊴G。□
p=2 の場合が「指数 2 の部分群は正規」(例 2.35)である。
3.4 共役類と類等式
群 G の自分自身への共役作用 g⋅x=gxg−1 を考える。x の軌道 {gxg−1∣g∈G} を x の共役類 (conjugacy class) といい、x の固定部分群は中心化群 CG(x)={g∣gx=xg} である。定理 3.6 より、共役類の大きさは [G:CG(x)] である。x の共役類が {x} だけ ⟺ x∈Z(G) である。
定理 3.11(類等式, class equation)G を有限群とし、Z(G) に含まれない元の共役類の代表元を x1,…,xr とすると
∣G∣=∣Z(G)∣+i=1∑r[G:CG(xi)]
が成り立つ。右辺の各 [G:CG(xi)] は 1 より大きい ∣G∣ の約数である。
証明. 共役作用に軌道分解の式 (1) を適用し、大きさ 1 の軌道(中心の元)をまとめればよい。□
共役類を計算するには、置換の共役についての次の公式が便利である。
補題 3.12 σ∈Sn と巡回置換 (a1 a2 ⋯ ak) について
σ(a1 a2 ⋯ ak)σ−1=(σ(a1) σ(a2) ⋯ σ(ak))
証明. c=(a1 ⋯ ak) とおく。σcσ−1(σ(ai))=σ(c(ai))=σ(ai+1)(添字は k を法とする)。b∈/{σ(a1),…,σ(ak)} なら σ−1(b)∈/{a1,…,ak} なので c で動かず、σcσ−1(b)=b。□
特に、置換を互いに素な巡回置換の積に分解したときの「巡回置換の長さの組」(型)は共役で変わらない。逆に同じ型の置換は共役である(第4章で示す)。
例 3.13(類等式の計算)
- S3(第2章の記号で σ=(1 2 3), τ=(1 2)):共役類は {e}, {σ,σ2}, {τ,στ,σ2τ} で、6=1+2+3。実際 τστ−1=σ2、στσ−1=σ2τ、σ2τσ−2=στ。
- D4:srs−1=r3、rsr−1=r2s、r(rs)r−1=r3s などから、共役類は {e}, {r2}, {r,r3}, {s,r2s}, {rs,r3s} で、類等式は 8=∣Z(D4)∣+2+2+2(Z(D4)={e,r2})。
- Q8:jij−1=−i などから、共役類は {1}, {−1}, {±i}, {±j}, {±k} で、類等式は 8=∣Z(Q8)∣+2+2+2(Z(Q8)={±1})。D4 と Q8 は同型でないが、類等式は同じ形である。
- S4:型ごとに数えると、単位元 1 個、互換 (24)=6 個、(a b)(c d) の形 3 個、長さ 3 の巡回置換 4⋅2=8 個、長さ 4 の巡回置換 3!=6 個で、24=1+6+3+8+6。各項が 24 の約数であることを確かめよ。
3.5 p 群
以下 p は素数とする。
定義 3.14(p 群)位数が p のべき pn(n≥0)である有限群を p 群 (p-group) という。
命題 3.15(固定点の個数)p 群 G が有限集合 X に作用するならば、∣X∣≡∣XG∣(modp)。
証明. 軌道分解の式 (1) で、大きさ 1 の軌道はちょうど固定点に対応する。それ以外の軌道の大きさは ∣G∣=pn の 1 でない約数なので p で割り切れる。□
定理 3.16 G={e} を p 群とすると、Z(G)={e} である。
証明. 共役作用に命題 3.15 を適用すると、固定点全体は Z(G) なので ∣Z(G)∣≡∣G∣≡0(modp)。e∈Z(G) より ∣Z(G)∣≥1 なので ∣Z(G)∣≥p。□
系 3.17 位数 p2 の群は可換であり、Z/p2Z または Z/pZ×Z/pZ に同型である。
証明. ∣G∣=p2 とする。定理 3.16 より ∣Z(G)∣∈{p,p2}。∣Z(G)∣=p なら G/Z(G) は位数 p で巡回群となり、第2章 問題 2.5 より G は可換、すると Z(G)=G で矛盾。よって Z(G)=G、G は可換である。
G が位数 p2 の元をもてば G≅Z/p2Z。もたなければ、e 以外の元の位数はすべて p である。a=e をとり b∈/⟨a⟩ をとると、⟨a⟩∩⟨b⟩ は位数 p の群 ⟨b⟩ の真部分群なので {e}。f:Z/pZ×Z/pZ→G, (i,j)↦aibj は G が可換なので準同型であり、aibj=e なら ai=b−j∈⟨a⟩∩⟨b⟩={e} より i=j=0 なので単射。位数が等しいので f は同型である。□
位数 p3 になると非可換な群が現れる(D4, Q8 は位数 23)。
命題 3.18 ∣G∣=pn ならば、各 0≤k≤n に対し G は位数 pk の正規部分群をもつ。
証明. n についての帰納法。n=0 は明らか。n≥1 とし、k≥1 とする(k=0 は {e})。定理 3.16 より Z(G) は e 以外の元 z をもち、その位数を pm(m≥1)とすると z0=zpm−1 は位数 p である。N=⟨z0⟩ は中心に含まれるので G の正規部分群で、∣G/N∣=pn−1。帰納法の仮定より G/N は位数 pk−1 の正規部分群 H をもつ。対応定理(定理 2.47)より H=π−1(H) は N を含む G の正規部分群で、∣H∣=∣N∣∣H∣=pk。□
3.6 コーシーの定理
ラグランジュの定理の逆は一般には成り立たないが(例 2.32)、素数については成り立つ。
定理 3.19(コーシーの定理, Cauchy's theorem)G を有限群、p を ∣G∣ を割る素数とすると、G は位数 p の元をもつ。
証明. 集合
X={(x1,x2,…,xp)∈Gp∣x1x2⋯xp=e}
を考える。x1,…,xp−1 を任意に選ぶと xp=(x1⋯xp−1)−1 が決まるので ∣X∣=∣G∣p−1 であり、これは p で割り切れる。x1x2⋯xp=e ならば x2⋯xpx1=x1−1(x1x2⋯xp)x1=e なので、巡回シフト (x1,x2,…,xp)↦(x2,…,xp,x1) は X からそれ自身への写像を定める。これを p 回繰り返すと恒等写像なので、Z/pZ が「k は k 回シフトする」ことで X に作用する。この作用の固定点は (x,x,…,x)(xp=e)の形の元である。命題 3.15 より固定点の個数は ∣X∣≡0(modp) と合同であり、(e,…,e) が固定点なので、固定点は少なくとも p 個ある。したがって x=e, xp=e となる x が存在し、p は素数なので ord(x)=p である。□
例 3.20 位数 6 の群 G は Z/6Z か S3 に同型である。実際、コーシーの定理より位数 3 の元 a と位数 2 の元 b がある。N=⟨a⟩ は指数 2 なので正規であり、bab−1∈N は位数 3 だから a または a2。G={aibj∣0≤i<3,0≤j<2}(6 個は相異なる)であり、bab−1=a なら G は可換で ab の位数は 6(第2章 問題 2.3)、よって G≅Z/6Z。bab−1=a2=a−1 なら積の規則が S3(σ↔a, τ↔b)と一致し、G≅S3。
3.7 シローの定理
定義 3.21(シロー部分群)G を有限群、p を素数とし、∣G∣=pam(p∤m)と書く。位数 pa の部分群を G のシロー p 部分群 (Sylow p-subgroup) という。その全体を Sylp(G) と書き、np=∣Sylp(G)∣ とおく。また部分群 H に対し NG(H)={g∈G∣gHg−1=H} を H の正規化群 (normalizer) という。
NG(H) は部分群への共役作用(例 3.3(6))における H の固定部分群であり、H⊴NG(H) である。定理 3.6 より、H と共役な部分群の個数は [G:NG(H)] である。
定理 3.22(シローの定理, Sylow theorems)G を有限群、p を素数とし、∣G∣=pam(p∤m)とする。
- (存在)G はシロー p 部分群をもつ。
- (共役性)P を G のシロー p 部分群とすると、G の任意の p 部分群 H(位数が p のべきの部分群)に対し、H⊂gPg−1 となる g∈G が存在する。特に、シロー p 部分群はすべて互いに共役である。
- (個数)np≡1(modp) かつ np∣m である。より詳しく、np=[G:NG(P)] である。
証明. (1) ∣G∣ についての帰納法で示す。a=0 なら {e} がシロー部分群なので、a≥1 とする。
(i) p∣∣Z(G)∣ の場合:コーシーの定理より位数 p の z∈Z(G) がある。N=⟨z⟩ は中心に含まれるので正規で、∣G/N∣=pa−1m。帰納法の仮定より G/N は位数 pa−1 の部分群 P をもち、対応定理より P=π−1(P) は位数 p⋅pa−1=pa の部分群である。
(ii) p∤∣Z(G)∣ の場合:類等式 ∣G∣=∣Z(G)∣+∑i[G:CG(xi)] で、左辺は p で割り切れ、∣Z(G)∣ は割り切れないので、ある i について p∤[G:CG(xi)]。C=CG(xi) とおくと ∣C∣=∣G∣/[G:C] は pa で割り切れ、[G:C]>1 より ∣C∣<∣G∣。帰納法の仮定より C は位数 pa の部分群をもち、それが G のシロー p 部分群である。
(2) H を左乗法で G/P に作用させる(例 3.3(5) の制限)。∣G/P∣=m は p で割り切れないので、命題 3.15 より固定点 gP が存在する。すべての h∈H について hgP=gP、すなわち g−1hg∈P だから H⊂gPg−1。H もシロー p 部分群なら、位数が等しいので H=gPg−1。
(3) (2) より Sylp(G) は P の共役全体なので、np=[G:NG(P)]。P≤NG(P) より [G:P]=[G:NG(P)][NG(P):P] なので np∣m。
次に P を共役で Sylp(G) に作用させる。Q∈Sylp(G) が固定点 ⟺ すべての x∈P について xQx−1=Q ⟺P≤NG(Q)。このとき P と Q はどちらも NG(Q) のシロー p 部分群であり(位数 pa は ∣NG(Q)∣ を割る p の最大べき)、NG(Q) に (2) を適用すると P=nQn−1(n∈NG(Q))=Q。よって固定点は P だけであり、命題 3.15 より np≡1(modp)。□
系 3.23 P∈Sylp(G) について、P⊴G⟺np=1。
証明. np=[G:NG(P)] であり、np=1⟺NG(P)=G⟺P⊴G。□
ヒント
シローの定理を使うときの定型手順:(1) ∣G∣ を素因数分解する。(2) 各素因数 p について、np∣m かつ np≡1(modp) をみたす np の候補を列挙する。(3) 候補が 1 だけなら、シロー p 部分群は正規。(4) そうでなければ、相異なるシロー p 部分群(位数 p なら交わりは {e})に含まれる元を数えて矛盾を導く。
例 3.24
- S3(6=2⋅3):n3∣2, n3≡1(mod3) より n3=1(⟨σ⟩)。n2∣3 より n2∈{1,3} で、実際には ⟨τ⟩,⟨στ⟩,⟨σ2τ⟩ の 3 個。
- A4(12=22⋅3):位数 3 の元は長さ 3 の巡回置換 8 個で、位数 3 の部分群は 8/2=4 個なので n3=4(≡1(mod3), 4∣4)。位数 4 の部分群は V={e,(1 2)(3 4),(1 3)(2 4),(1 4)(2 3)} ただ一つで、n2=1、V⊴A4。
- GL2(Fp)(位数 (p2−1)(p2−p)=p(p−1)2(p+1)):上三角で対角成分がともに 1 の行列全体 U((1,2) 成分 b∈Fp だけが自由)は位数 p でシロー p 部分群である。U の正規化群は上三角行列全体 B(位数 (p−1)2p)であることが計算で確かめられ、np=[GL2(Fp):B]=p+1。これは Fp2 の 1 次元部分空間の個数に等しい(各シロー p 部分群はちょうど一つの直線を固定する)。
3.8 シローの定理の応用
定理 3.25(位数 pq の群)p<q を素数とし、∣G∣=pq とする。
- シロー q 部分群は G の正規部分群である。
- p∤q−1 ならば G は巡回群であり、G≅Z/pqZ。
証明. (1) nq∣p かつ nq≡1(modq)。nq∈{1,p} だが 1<p<q なので p≡1(modq)、よって nq=1。
(2) np∣q かつ np≡1(modp) で、np=q は p∣q−1 を意味するので除外され、np=1。よってシロー部分群 P=⟨x⟩(位数 p)、Q=⟨y⟩(位数 q)はともに正規で、ラグランジュの定理より P∩Q={e}。xyx−1y−1 は (xyx−1)y−1∈Q かつ x(yx−1y−1)∈P なので e であり、xy=yx。第2章 問題 2.3 より ord(xy)=pq で、G=⟨xy⟩。□
例 3.26
- 位数 15 の群は巡回群である(p=3, q=5, 3∤4)。同様に位数 33=3⋅11, 35=5⋅7, 51=3⋅17, 65=5⋅13 の群はすべて巡回群である。
- 位数 6=2⋅3 や 21=3⋅7 では p∣q−1 であり、実際に非可換な群(S3 や、第4章で半直積として構成する位数 21 の群)が存在する。
- 位数 2q(q は奇素数)の群は Z/2qZ か Dq に同型である(例 3.20 と同様の議論。問題 3.4)。
例 3.27(位数 12 の群)位数 12 の群 G は、正規なシロー 3 部分群か正規なシロー 2 部分群をもつ。実際、n3∣4, n3≡1(mod3) より n3∈{1,4}。n3=4 とすると、4 つの位数 3 の部分群はどの 2 つも {e} でしか交わらない(位数 3 の群の真部分群は自明)ので、位数 3 の元が 4⋅2=8 個ある。残りは 12−8=4 個である。シロー 2 部分群(位数 4)は位数 3 の元を含まないので、この残りの 4 個に含まれ、したがってこの 4 個に一致する。よって n2=1。A4 はまさにこの場合である(例 3.24)。特に位数 12 の単純群は存在しない。
例 3.28(位数 20 と 30 の群)
- ∣G∣=20=22⋅5:n5∣4, n5≡1(mod5) より n5=1。シロー 5 部分群は正規であり、G は単純でない。
- ∣G∣=30=2⋅3⋅5:n3∈{1,10}, n5∈{1,6}。n3=10 かつ n5=6 なら、位数 3 の元が 10⋅2=20 個、位数 5 の元が 6⋅4=24 個となり、合計 44>30 で矛盾。よって n3=1 または n5=1 で、G は単純でない。さらに、P3, P5 をシロー 3, 5 部分群とすると、どちらかが正規なので P3P5 は位数 15 の部分群(第2章 定理 2.43、問題 2.4)で、指数 2 だから正規である。位数 15 の群は巡回群なので、P3, P5 は P3P5 の唯一の位数 3, 5 の部分群であり、共役で P3P5 に写されるから G で正規である。結局、位数 30 の群では n3=n5=1 である。
最後の議論では「N⊴G が巡回群なら、N の部分群はすべて G で正規」という事実を使った(gKg−1 は N の同じ位数の部分群であり、巡回群では同じ位数の部分群は一つしかない)。
補足
可換でない単純群のうち位数最小のものは位数 60 の交代群 A5 である(第4章で A5 の単純性を証明する)。位数 60 未満の群が単純でないことは、本節のような議論を位数ごとに行えば確かめられる。
3.9 バーンサイドの補題と数え上げ
6 個の玉を輪にしたネックレスを白と黒の玉で作るとき、回転して重なるものを同じとみなすと何通りあるだろうか。26=64 通りの塗り方を回転群の軌道に分けて、軌道の個数を数えればよい。軌道の大きさはまちまちなので単純な割り算はできないが、次の補題が答えを与える。
定理 3.29(バーンサイドの補題, Burnside's lemma)有限群 G が有限集合 X に作用するとき、Xg={x∈X∣g⋅x=x} とおくと
(軌道の個数)=∣G∣1g∈G∑∣Xg∣
証明. g⋅x=x となる組 (g,x)∈G×X の個数を 2 通りに数えると ∑g∣Xg∣=∑x∣Gx∣。定理 3.6 より ∣Gx∣=∣G∣/∣G⋅x∣ なので
g∈G∑∣Xg∣=∣G∣x∈X∑∣G⋅x∣1=∣G∣O∑x∈O∑∣O∣1=∣G∣⋅(軌道の個数)
(O は軌道全体を動く)。□
g が位置の集合を置換として動かすとき、塗り分けが g で固定される ⟺ g の各巡回(サイクル)の上で色が一定、である。よって k 色で塗る場合、∣Xg∣=kc(g)(c(g) は g を位置の置換とみたときの巡回の個数。固定される位置も長さ 1 の巡回として数える)となる。
例 3.30(ネックレス)n 個の玉を k 色で塗ったネックレスを、回転で重なるものを同一視して数える。回転群 Z/nZ の元 j は位置 i↦i+j と動かし、その巡回はすべて長さ ord(j)=n/gcd(n,j) なので、巡回の個数は gcd(n,j) である。gcd(n,j)=n/d となる j∈{0,…,n−1} はちょうど φ(d) 個ある(j の位数が d ということだから、系 2.25)。よって
(ネックレスの個数)=n1j=0∑n−1kgcd(n,j)=n1d∣n∑φ(d)kn/d
n=6, k=2 では、j=0,1,2,3,4,5 に対し gcd(6,j)=6,1,2,3,2,1 だから
61(26+21+22+23+22+21)=664+2+4+8+4+2=684=14
通りである。さらに裏返しも許す(D6 の作用、位数 12)と、6 個の折り返しのうち向かい合う玉を通る軸をもつ 3 個は巡回が 4 個(固定される玉 2 個と互換 2 個)、玉の間を通る軸をもつ 3 個は巡回が 3 個(互換 3 個)なので、
121(84+3⋅24+3⋅23)=1284+48+24=12156=13
通りとなる。
例 3.31(立方体の面の塗り分け)立方体の 6 面を白黒 2 色で塗る方法を、回転で重なるものを同一視して数える。例 3.7(3) の 24 個の回転について、面の置換としての巡回の個数は
| 回転の種類 |
個数 |
面の巡回の個数 |
∣Xg∣ |
| 恒等変換 |
1 |
6 |
64 |
| 面の軸のまわり ±90∘ |
6 |
3(上下 2 面は固定、側面 4 面が 1 巡回) |
8 |
| 面の軸のまわり 180∘ |
3 |
4(上下 2 面は固定、側面が 2 巡回) |
16 |
| 頂点の軸のまわり ±120∘ |
8 |
2(3 面ずつの 2 巡回) |
4 |
| 辺の軸のまわり 180∘ |
6 |
3(互換 3 個) |
8 |
であるから、バーンサイドの補題より
241(64+6⋅8+3⋅16+8⋅4+6⋅8)=24240=10
通りである。実際、黒い面の枚数で分類すると 0,1,2,3,4,5,6 枚に対し 1,1,2,2,2,1,1 通り(2 枚なら「隣接」と「向かい合う」、3 枚なら「1 頂点に集まる」と「コの字型」)で、合計 10 通りと一致する。
まとめ
- 群の作用とは準同型 G→S(X) のことである。基本例は左乗法、共役、剰余類 G/H への作用。
- 軌道–固定部分群定理 ∣G⋅x∣=[G:Gx] と、X の軌道分解 ∣X∣=∑[G:Gxi] が本章のすべての議論の基礎である。
- ケイリーの定理:どの群も対称群の部分群。指数 n の部分群から G→Sn が得られ、∣G∣∤n! なら非自明な正規部分群が得られる。
- 共役作用の軌道分解が類等式 ∣G∣=∣Z(G)∣+∑[G:CG(xi)] である。
- p 群の作用では ∣X∣≡∣XG∣(modp)。ここから p 群の中心は非自明、位数 p2 の群は可換。
- コーシーの定理:素数 p が ∣G∣ を割れば位数 p の元がある。
- シローの定理:シロー p 部分群は存在し、互いに共役で、個数は np≡1(modp), np∣m。np=1⟺ 正規。
- 応用:位数 pq(p<q, p∤q−1)の群は巡回群(位数 15 など)。位数 12, 20, 30 の群は単純でない。元の個数を数える議論が有効。
- バーンサイドの補題:軌道の個数 =∣G∣1∑g∣Xg∣。ネックレスや立方体の塗り分けの数え上げに使える。
群の作用は数学の至るところに現れる。被覆空間の被覆変換群(位相幾何学 第3章)や、有限群の表現論における類関数(リー群と表現論 第1章)はその代表例である。
演習問題
問題 3.1 ★ D5 の共役類をすべて求め、類等式を書け。
解答
srks−1=r−k なので rk と r−k は共役。r との共役では回転は変わらないので、回転の共役類は {e}, {r,r4}, {r2,r3}。
折り返しについては r(rks)r−1=rk+1sr−1=rk+1rs=rk+2s なので、rks は rk+2s,rk+4s,… と共役である。5 は奇数なので k+2j(j=0,…,4)は 5 を法としてすべての剰余類を動き、5 個の折り返しはすべて共役である。
よって類等式は 10=1+2+2+5(Z(D5)={e})。各項が 10 の約数であることも確かめられる。
問題 3.2 ★ 位数 35 の群と位数 185 の群はすべて巡回群であることを示せ。
解答
35=5⋅7 で 5∤7−1=6。185=5⋅37 で 5∤37−1=36。いずれも定理 3.25(2) より巡回群である。
直接確かめると、位数 185 では n37∣5, n37≡1(mod37) より n37=1、n5∣37, n5≡1(mod5) で 37≡2(mod5) より n5=1。両シロー部分群が正規で交わりが自明なので、定理 3.25 の証明と同様に生成元の積が位数 185 の元になる。
問題 3.3 ★★ S4 について n3=4, n2=3 を示せ。また、シロー 2 部分群の一つを具体的に書け。
解答
24=23⋅3。位数 3 の元は長さ 3 の巡回置換 8 個で、各位数 3 の部分群はそのうち 2 個を含むので、n3=8/2=4。
シロー 2 部分群の位数は 8。n2∣3, n2 は奇数なので n2∈{1,3}。位数が 2 のべきの元(位数 1, 2, 4 の元)は、単位元 1、互換 6、(a b)(c d) 型 3、長さ 4 の巡回置換 6 の計 16 個ある。シローの定理 (2) より、各元 x の生成する 2 部分群 ⟨x⟩ はあるシロー 2 部分群に含まれる。n2=1 なら 16 個すべてが位数 8 の一つの部分群に含まれることになり矛盾。よって n2=3。
例:⟨(1 2 3 4),(1 3)⟩={e,(1 2 3 4),(1 3)(2 4),(1 4 3 2),(1 3),(2 4),(1 2)(3 4),(1 4)(2 3)}。これは正方形の頂点 1,2,3,4(この順に並ぶ)への D4 の作用の像である。
問題 3.4 ★★ q を奇素数とする。位数 2q の群は Z/2qZ または Dq に同型であることを示せ。
解答
コーシーの定理より位数 q の元 a と位数 2 の元 b がある。N=⟨a⟩ は指数 2 なので正規で、bab−1=ak となる k がある。b2=e より a=b2ab−2=bakb−1=(bab−1)k=ak2 なので k2≡1(modq)、q は素数だから k≡±1(modq)(第1章 のユークリッドの補題)。b∈/N なので G=N⊔bN={aibj∣0≤i<q,0≤j<2}。
k≡1 なら ab=ba で G は可換、ab の位数は 2q なので G≅Z/2qZ。k≡−1 なら bab−1=a−1 で、積の規則 aibj⋅ai′bj′=ai+(−1)ji′bj+j′ が Dq の risj の積の規則と一致するので、aibj↦risj が同型を与える。
問題 3.5 ★★ 位数 56 の群は単純でないことを示せ。
解答
56=23⋅7。n7∣8, n7≡1(mod7) より n7∈{1,8}。n7=1 ならシロー 7 部分群が正規。n7=8 なら、8 個の位数 7 の部分群はどの 2 つも自明にしか交わらないので、位数 7 の元が 8⋅6=48 個ある。残りは 8 個で、位数 8 のシロー 2 部分群は位数 7 の元を含まないからこの 8 個と一致する。よって n2=1 でシロー 2 部分群が正規。いずれにせよ単純でない。
問題 3.6 ★★ 位数 36 の群は単純でないことを示せ。(ヒント:シロー 3 部分群の集合への共役作用を考える。)
解答
36=22⋅32。n3∣4, n3≡1(mod3) より n3∈{1,4}。n3=1 なら正規なシロー 3 部分群がある。n3=4 とし、G を共役で Syl3(G)(4 元集合)に作用させて準同型 ρ:G→S4 を得る。∣G∣=36∤24=∣S4∣ なので ρ は単射でなく、Kerρ={e}。一方、シローの定理 (2) より作用は推移的なので ρ(G)={e}、よって Kerρ=G。Kerρ は非自明な正規部分群である。
(Kerρ=⋂PNG(P) で、[G:NG(P)]=4 より ∣NG(P)∣=9、つまり NG(P)=P。核は 4 つのシロー 3 部分群の共通部分であり、位数は 3 である。)
問題 3.7 ★★ 正方形の 4 頂点を 3 色で塗る方法は、D4 の作用(回転と裏返し)で重なるものを同一視すると何通りあるか。
解答
D4 の 8 元を頂点の置換とみて巡回の個数を数える:e は 4、r,r3 は 1(4-巡回)、r2 は 2、対角線に関する折り返し 2 個は 3(2 頂点固定と互換 1 個)、辺の中点を通る軸に関する折り返し 2 個は 2(互換 2 個)。バーンサイドの補題より
81(34+2⋅31+32+2⋅33+2⋅32)=881+6+9+54+18=8168=21
通り。
問題 3.8 ★★ G を p 群、N={e} をその正規部分群とする。N∩Z(G)={e} を示せ。
解答
N は正規なので、G は N に共役で作用する。固定点は「すべての g について gxg−1=x」をみたす x∈N、すなわち N∩Z(G) である。命題 3.15 より ∣N∩Z(G)∣≡∣N∣≡0(modp)(∣N∣ は 1 でない p のべき)。e∈N∩Z(G) なので ∣N∩Z(G)∣≥p。
問題 3.9 ★★★ (フラッティーニの論法, Frattini argument)G を有限群、N⊴G、P を N のシロー p 部分群とする。G=NG(P)N を示せ。
解答
g∈G とする。gPg−1⊂gNg−1=N で、gPg−1 は P と同じ位数なので N のシロー p 部分群である。N にシローの定理 (2) を適用すると、gPg−1=nPn−1 となる n∈N がある。すると (n−1g)P(n−1g)−1=P、すなわち n−1g∈NG(P)。よって g=n⋅n−1g∈NNG(P)。N は正規なので、nh=h(h−1nh) より NNG(P)=NG(P)N である。したがって G=NG(P)N。
問題 3.10 ★★★ 立方体の回転群 G(位数 24)は S4 に同型であることを示せ。(ヒント:4 本の対角線への作用を考える。)
解答
立方体の中心を原点とすると、4 本の対角線(向かい合う頂点を結ぶ直線)の方向ベクトル v1,…,v4 は、どの 3 本も一次独立である(たとえば (±1,±1,1) の 4 本)。回転は対角線の集合を置換するので、準同型 ρ:G→S4 が得られる。
ρ(g)=e とする。g は各対角線を(向きを込めずに)保つので、各 vi は g の固有値 ±1 の固有ベクトルである。g=e と仮定する。g は回転なので、固有値 1 の固有空間は回転軸(1 次元)であり、固有値 −1 の固有ベクトルが存在するのは 180∘ 回転のときだけで、そのときの固有空間は軸に垂直な平面である。g が 180∘ 回転でなければ、4 本の vi がすべて回転軸上にあることになり矛盾。180∘ 回転なら、回転軸上にある vi は高々 1 本なので、少なくとも 3 本が軸に垂直な平面(2 次元)に含まれ、「どの 3 本も一次独立」に矛盾する。よって g=e で ρ は単射。∣G∣=24=∣S4∣ なので ρ は同型である。