この章の目標
- 表現・部分表現・同値・既約性を定義し、置換表現・正則表現・二面体群の表現などの例を扱えるようになる
- マシュケの定理とシューアの補題を、仮定(体の標数・代数閉性)に注意して証明できる
- 指標の直交関係と「既約表現の個数=共役類の個数」を証明し、指標を使って表現を分解できる
- S3, S4, A4, D4, Q8 の指標表を自分で作り、検算できる
- 既約表現の次数が群の位数を割ることを、代数的整数を用いて証明できる
- 誘導表現を構成し、フロベニウスの相互律を使える
前提:代数学 第2章〜第4章(群・共役類・群の作用・交換子群)、線形代数 第5章(固有値と対角化)、線形代数 第9章(テンソル積・双対空間)
群は「対称性」を記述する言葉である。しかし抽象的な群をそのまま調べるのは難しい。表現論 (representation theory) の基本的な発想は、群の元を線形変換として実現し、線形代数の道具(固有値・トレース・直和分解)を群の研究に持ち込むことである。有限群の場合、この発想は驚くほどうまくいく。複素数体上では、すべての表現が既約表現の直和に分解し、既約表現は指標という一つの関数(行列のトレース)で完全に決まり、しかも指標たちは互いに「直交」する。この章ではこの理論を仮定に注意しながら証明し、代表的な群の指標表を実際に計算する。
この章の内容は、コンパクトリー群の表現論(第6章)の雛形でもある。有限群での平均 ∣G∣1∑g∈G をハール測度による積分 ∫Gdg に置き換えると、ほとんどの議論がそのまま通用する。
以下この章を通じて、G は有限群、表現空間はすべて有限次元とする。
1.1 表現とは何か
動機:巡回群とフーリエ解析
G=Z/n 上の複素数値関数 f は、離散フーリエ変換によって
f(a)=k=0∑n−1f(k)ζka,ζ=e2πi/n
と「指数関数」χk(a)=ζka の重ね合わせに分解できる。各 χk は準同型 Z/n→C× であり、平行移動 f↦f(⋅−b) に対して定数倍されるだけである。つまりフーリエ展開とは、関数の空間を「平行移動で不変な 1 次元部分空間」に分解することである。非可換群ではこのような 1 次元の分解では足りず、それ以上分解できない高次元の不変部分空間が現れる。これが既約表現である。
定義 1.1(表現, representation)G を群、K を体、V を K 上の有限次元ベクトル空間とする。群準同型 ρ:G→GL(V) を G の V 上の表現といい、dimV を表現の次数 (degree) という。
ρ(g)v を略して gv と書き、表現 (ρ,V) を単に V と書くことも多い。表現を与えることは、G の V への線形な作用を与えることと同じである。基底を選べば ρ は準同型 G→GLn(K)(行列表現)になる。また、表現は群環 K[G] 上の加群と同じものである(∑gagg∈K[G] を ∑gagρ(g) として作用させる)。
例 1.2
- 自明表現 (trivial representation):V=K, ρ(g)=1。
- 符号表現 (sign representation):Sn→{±1}=GL1(K), σ↦sgnσ。
- Z/n の 1 次元表現:ζ∈K を ζn=1 を満たす元として ρ(a)=ζa。K=C なら ζ=e2πik/n (0≤k≤n−1) の n 通りがある。
- 置換表現 (permutation representation):G が有限集合 X に作用しているとき、X で添字づけた基底 {ex}x∈X をもつ空間 K[X] 上に ρ(g)ex=egx で表現が定まる。Sn が {1,…,n} に作用する場合は、置換行列による Kn 上の表現である。
- 正則表現 (regular representation):G が左からの積で G 自身に作用するときの置換表現 K[G]。次数は ∣G∣ である。
例 1.3(二面体群と四元数群)二面体群 (dihedral group) Dn=⟨r,s∣rn=s2=1, srs−1=r−1⟩(位数 2n)は正 n 角形の対称性の群であり、
ρ(r)=(cos(2π/n)sin(2π/n)−sin(2π/n)cos(2π/n)),ρ(s)=(100−1)
によって C2 上の 2 次元表現が定まる(ρ(s)ρ(r)ρ(s)−1=ρ(r)−1 を確かめよ)。四元数群 (quaternion group) は Q8={±1,±i,±j,±k}(i2=j2=k2=ijk=−1)であり、
i↦(i00−i),j↦(01−10),k↦(0−i−i0)
が 2 次元表現を与える(3 つの行列の 2 乗がすべて −I で、第 1 と第 2 の積が第 3 になることを直接計算で確かめよ)。
補足
二面体群の記号は本によって異なる。本教材では位数 2n の二面体群を Dn と書く(D4 は正方形の対称性の群で位数 8)。位数を添字にして D2n と書く本も多い。
定義 1.4(G-線形写像, 同値)(ρV,V), (ρW,W) を G の表現とする。線形写像 f:V→W がすべての g∈G について f∘ρV(g)=ρW(g)∘f を満たすとき、f を G-線形写像(絡作用素, intertwining operator)といい、その全体を HomG(V,W) と書く。全単射な G-線形写像が存在するとき、V と W は同値(同型, equivalent)であるといい、V≅W と書く。
行列表現でいえば、同値とは一つの正則行列 P によって ρW(g)=PρV(g)P−1 がすべての g について同時に成り立つことである。
定義 1.5(部分表現, 既約表現)V の部分空間 W がすべての ρ(g) で不変であるとき、W を部分表現 (subrepresentation) または G-不変部分空間という。V=0 であって部分表現が 0 と V しかないとき、V は既約 (irreducible) であるという。
1 次元表現は常に既約である。部分表現 W⊂V があれば、商空間 V/W にも表現が誘導される。
例 1.6 Sn (n≥2) の置換表現 Kn において
L=K(1,1,…,1),H={(x1,…,xn)∈Kn∣x1+⋯+xn=0}
はどちらも部分表現である。charK∤n ならば (1,…,1)∈/H なので Kn=L⊕H と分解する。一方 charK=p が n を割るときは (1,…,1) の成分の和が n=0 なので L⊂H となり、この分解は成り立たない。charK∤n のときの H を Sn の標準表現 (standard representation) という(次数 n−1)。K=C で H が既約であることは、n=3,4 の場合に 1.5 節と 1.8 節で指標を使って確かめる。
1.2 マシュケの定理
表現を理解する基本戦略は「既約表現に分解し、既約表現を分類する」ことである。その第一歩が次の定理である。
定理 1.7(マシュケの定理, Maschke's theorem)G を有限群、K を charK∤∣G∣ を満たす体(例えば標数 0 の体)とする。V を G の K 上の表現、W⊂V を部分表現とすると、V=W⊕W′ となる部分表現 W′ が存在する。
証明. 線形写像 p:V→V で p(V)⊂W かつ p∣W=idW となるもの(W への射影)を一つとる(W の基底を V の基底に延長すればよい)。仮定より ∣G∣ は K で可逆なので
p∘=∣G∣1g∈G∑ρ(g)pρ(g)−1
が定義できる。(i) 各 ρ(g) は W を保つので p∘(V)⊂W。(ii) w∈W なら ρ(g)−1w∈W より pρ(g)−1w=ρ(g)−1w だから、和の各項は w を w に写し、p∘w=w となる(ここで ∣G∣ 個の w の和を ∣G∣ で割っている)。(iii) h∈G に対し、g↦hg が G の全単射であることから
ρ(h)p∘ρ(h)−1=∣G∣1g∈G∑ρ(hg)pρ(hg)−1=p∘
よって p∘ は W への G-線形な射影であり、W′=kerp∘ は部分表現で V=W⊕W′ となる。□
系 1.8(完全可約性, complete reducibility)charK∤∣G∣ ならば、G の任意の表現 V=0 は既約表現の直和に分解する。
証明. dimV に関する帰納法。V が既約なら終わり。そうでなければ部分表現 0=W⊊V があり、定理 1.7 より V=W⊕W′ となる。W,W′ は V より次元が小さいので、帰納法の仮定から既約表現の直和である。□
例 1.9(仮定は外せない)p を素数、G=Z/p、K=Fp とし、
ρ(a)=(10a1)(a∈Z/p)
とおく(a は Fp の元とみなせ、ρ(a)ρ(b)=ρ(a+b) である)。W=Fpe1 は部分表現である。不変な 1 次元部分空間は ρ(1) の固有直線でなければならないが、ρ(1)−I の核は Fpe1 だけなので、不変な直線は W しかない。したがって W の補空間となる部分表現は存在しない。同じ形の行列で Z の C2 上の表現 n↦ρ(n) を考えれば、無限群ではマシュケの定理が成り立たない例になる(有限性の代わりにコンパクト性があればよいことを第6章で見る)。
注意 1.10(ユニタリ化)K=C のとき、V の任意のエルミート内積 ⟨⋅,⋅⟩0 から
⟨u,v⟩=∣G∣1g∈G∑⟨gu,gv⟩0
を作ると、これは正定値で G-不変(⟨gu,gv⟩=⟨u,v⟩)なエルミート内積になる。この内積に関して各 ρ(g) はユニタリであり、部分表現 W の直交補空間 W⊥ も G-不変である。これはマシュケの定理の別証明であり、コンパクト群にそのまま一般化できる形である。
1.3 シューアの補題
定理 1.11(シューアの補題, Schur's lemma)
- K を任意の体、V,W を G の既約表現、f∈HomG(V,W) とする。このとき f=0 であるか、f は同型である。特に EndG(V):=HomG(V,V) は(可換とは限らない)斜体である。
- さらに K が代数閉体ならば、EndG(V)=K⋅idV である。
証明. 1. f(gv)=gf(v) より、kerf は V の、Imf は W の部分表現である。f=0 なら kerf=V なので既約性から kerf=0、また Imf=0 なので Imf=W となり、f は同型である。
- f∈EndG(V) とする。K は代数閉で V=0 は有限次元だから、f は固有値 λ∈K をもつ。f−λidV∈EndG(V) は核が 0 でないので同型でなく、1 より 0 である。□
補足
証明では G が有限であることを使っていない。シューアの補題は任意の群(さらに位相群やリー環)の有限次元表現について成り立ち、以後の章で繰り返し使う。
例 1.12(代数閉性は外せない)G=Z/4 を R2 に 90° 回転
J=(01−10)
で作用させる。不変な直線は J の実固有ベクトルで張られるはずだが、J の固有値は ±i なので、この表現は R 上既約である。一方、J と可換な実行列は aI+bJ (a,b∈R) の形のものすべてであり、EndG(R2)≅C はスカラー倍だけではない。C 上に係数拡大すると C2 は固有値 i, −i の固有直線に分解し、既約でなくなる。
系 1.13 K を代数閉体、G を可換群とする。G の有限次元既約表現はすべて 1 次元である。
証明. G が可換なので、各 ρ(h) は G-線形写像である。シューアの補題より ρ(h) はスカラー倍であり、したがって V のすべての部分空間が G-不変である。既約性から dimV=1。□
例 1.14(1 次元表現とアーベル化)1 次元表現 ρ:G→K× の像は可換なので、ρ は交換子群 [G,G] 上で自明であり、アーベル化 Gab=G/[G,G] を経由する(代数学 第4章)。逆に Gab の 1 次元表現は G の 1 次元表現を与える。K=C のとき、有限アーベル群 A の 1 次元表現はちょうど ∣A∣ 個ある(A を巡回群の直積に分解し、例 1.2 の 3 を使う)。例えば:
- Sn (n≥2):[Sn,Sn]=An なので、1 次元表現は自明表現と符号表現の 2 つ。
- D4:srs−1r−1=r−2=r2 より r2∈[D4,D4]。D4/⟨r2⟩ は位数 4 で可換なので [D4,D4]=⟨r2⟩、1 次元表現は 4 つ。
- Q8:iji−1j−1=ij⋅ij=k2=−1 より同様に [Q8,Q8]={±1}、1 次元表現は 4 つ。
- A4:V4={1,(12)(34),(13)(24),(14)(23)} は正規部分群で A4/V4≅Z/3 だから [A4,A4]⊂V4。[A4,A4] は自明でない正規部分群だが、V4 の位数 2 の部分群は (123) による共役で互いに移り合い正規でないから、[A4,A4]=V4。1 次元表現は 3 つ。
1.4 表現の構成:直和・テンソル積・双対
定義 1.15 V,W を G の表現とする。
- 直和 V⊕W:g(v,w)=(gv,gw)。
- テンソル積 (tensor product) V⊗W:g(v⊗w)=gv⊗gw。
- 双対表現 (dual representation) V∗=HomK(V,K):(gφ)(v)=φ(g−1v)。
- HomK(V,W):g⋅f=ρW(g)∘f∘ρV(g)−1。
双対表現で g−1 を使うのは、(gh)φ=g(hφ)(左作用)を成り立たせるためであり、そうすると自然なペアリングが不変 (gφ)(gv)=φ(v) になる。双対基底に関する行列は tρ(g−1)(t は転置)である。
一般に表現 U の不変部分空間 (invariants) を UG={u∈U∣gu=u (∀g∈G)} と書く。定義から直ちに
HomK(V,W)G=HomG(V,W)
である。また φ⊗w↦(v↦φ(v)w) は G-線形な同型 V∗⊗W≅HomK(V,W) を与える。
1.5 指標
以下、この章の終わりまで K=C とする。
定義 1.16(指標, character)表現 (ρ,V) の指標を χV(g)=trρ(g) (g∈G) で定める。既約表現の指標を既約指標 (irreducible character) という。
命題 1.17 V,W を G の表現とする。
- χV(1)=dimV。
- χV(hgh−1)=χV(g)。すなわち χV は類関数 (class function)(各共役類の上で一定の関数)である。
- ρ(g) は対角化可能で、固有値は 1 の冪根である。特に χV(g−1)=χV(g) かつ ∣χV(g)∣≤dimV。
- χV⊕W=χV+χW, χV⊗W=χVχW, χV∗=χV, χHom(V,W)=χVχW。
- V≅W ならば χV=χW。
証明. 1, 2, 5 はトレースの性質 tr(PAP−1)=trA から従う。3:g の位数を m とすると ρ(g)m=I なので、ρ(g) の最小多項式は重根をもたない多項式 xm−1 を割る。よって ρ(g) は対角化可能で、固有値 ζ1,…,ζd は 1 の m 乗根である。ρ(g−1) の固有値は ζi−1=ζi だから χV(g−1)=χV(g)、また ∣ζ1+⋯+ζd∣≤d。4:直和は明らか。ρV(g), ρW(g) を固有ベクトルの基底 {vi}, {wj}(固有値 λi, μj)で対角化すると、{vi⊗wj} は V⊗W の固有ベクトルの基底で固有値は λiμj だから χV⊗W(g)=∑i,jλiμj=χV(g)χW(g)。V∗ の行列は tρ(g−1) なのでトレースは χV(g−1)=χV(g)。最後の式は Hom(V,W)≅V∗⊗W から従う。□
類関数全体のなすベクトル空間を C(G) と書く。その次元は共役類の個数 h に等しい。C(G) に次のエルミート内積を入れる:
⟨φ,ψ⟩G=∣G∣1g∈G∑φ(g)ψ(g)
補題 1.18 表現 V に対し dimVG=∣G∣1∑g∈GχV(g) である。
証明. e=∣G∣1∑g∈Gρ(g) とおく。g↦hg の置き換えにより ρ(h)e=e なので e(V)⊂VG。また v∈VG なら ev=v。よって e2=e は VG への射影である。射影は固有値 1 の固有空間(像)と固有値 0 の固有空間(核)の直和に対角化されるので、そのトレースは像の次元に等しい。tre=∣G∣1∑gχV(g) である。□
定理 1.19(指標の第一直交関係, orthogonality relations)V,W を G の表現とすると
⟨χW,χV⟩G=dimHomG(V,W)
である。特に V,W が既約ならば、⟨χW,χV⟩G は V≅W のとき 1、そうでないとき 0 である。
証明. 補題 1.18 を表現 Hom(V,W) に適用し、命題 1.17 の 4 を使うと
dimHomG(V,W)=dimHom(V,W)G=∣G∣1g∈G∑χV(g)χW(g)=⟨χW,χV⟩G
V,W が既約のとき、シューアの補題により、V≅W なら HomG(V,W)=0 である。V≅W なら同型 f0 を一つとると、任意の f∈HomG(V,W) に対し f0−1∘f∈EndG(V)=C⋅idV なので HomG(V,W)=Cf0 は 1 次元である。□
系 1.20 V1,…,Vk を互いに同値でない既約表現とし、χi=χVi とする。
- χ1,…,χk は C(G) の正規直交系である。特に k≤h であり、G の既約表現は同値を除いて有限個しかない。
- 表現 V が V≅⨁iVi⊕mi と分解すれば mi=⟨χV,χi⟩G である。特に重複度 (multiplicity) mi は分解の仕方によらない。
- ⟨χV,χV⟩G=∑imi2。したがって、V が既約であるための必要十分条件は ⟨χV,χV⟩G=1 である。
- V≅W であるための必要十分条件は χV=χW である。
証明. 1 は定理 1.19 そのものであり、正規直交系は一次独立だから k≤dimC(G)=h。2, 3 は χV=∑imiχi と正規直交性から従う。4:χV=χW なら 2 より重複度がすべて一致するので、完全可約性(系 1.8)から V≅W。□
例 1.21 S3 の置換表現 C3 の指標は固定点の個数 χ(σ)=∣{i∣σ(i)=i}∣ であり、単位元・互換・3-巡回置換でそれぞれ 3,1,0 をとる。C3=L⊕H(例 1.6)より、標準表現の指標は χH=(2,0,−1) である。共役類の大きさは順に 1,3,2 なので
⟨χH,χH⟩G=61(1⋅22+3⋅02+2⋅(−1)2)=1
となり、H は既約である。
1.6 正則表現
命題 1.22 正則表現 C[G] の指標は χreg(1)=∣G∣, χreg(g)=0 (g=1) である。したがって、既約表現の同値類の代表 V1,…,Vk(di=dimVi)はそれぞれ正則表現にちょうど di 回現れ、
C[G]≅i=1⨁kVi⊕di,i=1∑kdi2=∣G∣,i=1∑kdiχi(g)=0(g=1)
が成り立つ。
証明. gex=egx であり gx=x⟺g=1 なので、g=1 に対応する置換行列の対角成分はすべて 0 である。重複度は ⟨χreg,χi⟩G=∣G∣1∣G∣χi(1)=di(系 1.20)。これよりすべての既約表現が正則表現に現れる。残りの 2 式は χreg=∑idiχi を g=1 と g=1 で評価したものである。□
例えば S3 では、自明表現・符号表現・標準表現について 12+12+22=6 なので、既約表現はこの 3 つで尽きている。
1.7 既約表現の個数と第二直交関係
定理 1.23 既約指標は類関数の空間 C(G) の正規直交基底をなす。特に、既約表現の同値類の個数は共役類の個数 h に等しい。
証明. 既約指標が正規直交系であることは示したので、C(G) を張ることを示せばよい。f∈C(G) がすべての既約指標と直交するとする。表現 (ρ,V) に対し ρf=∑g∈Gf(g)ρ(g) とおく。f は類関数なので
ρ(h)ρfρ(h)−1=g∈G∑f(g)ρ(hgh−1)=g∈G∑f(h−1gh)ρ(g)=ρf
となり、ρf∈EndG(V)。V が既約で dimV=d ならシューアの補題より ρf=λ⋅idV であり、トレースをとると
λd=g∈G∑f(g)χV(g)=∣G∣⟨f,χV⟩G=∣G∣⟨f,χV∗⟩G
V∗ も既約である(⟨χV,χV⟩G=⟨χV,χV⟩G=1)から、仮定より右辺は 0 で、ρf=0。完全可約性より任意の表現で ρf=0 となる。これを正則表現に適用すると 0=ρf(e1)=∑gf(g)eg なので f=0。□
定理 1.24(第二直交関係)χ1,…,χh を既約指標の全体とする。g,g′∈G に対し
i=1∑hχi(g)χi(g′)={∣CG(g)∣0(g と g′ が共役)(それ以外)
が成り立つ。ここで CG(g) は g の中心化群である。
証明. 共役類を C1,…,Ch、代表元を gj∈Cj とし、h×h 行列 U を Uij=∣Cj∣/∣G∣ χi(gj) で定める。第一直交関係は ∑jUijUkj=⟨χi,χk⟩G=δik、すなわち UU∗=I を意味する。U は正方行列なので U∗U=I でもあり、∑iUijUil=δjl。これを書き直すと ∑iχi(gl)χi(gj)=δjl∣G∣/∣Cj∣ であり、軌道と安定化群の関係 ∣G∣/∣Cj∣=∣CG(gj)∣(代数学 第3章)より主張を得る。□
ヒント
指標表は、行(既約指標)が重み ∣Cj∣/∣G∣ つきで正規直交し、列が重み 1/∣CG(gj)∣ つきで正規直交する正方行列である。表を作ったら、必ず行と列の両方の直交関係で検算すること。
1.8 指標表の計算例
指標表は次の手順で作ることが多い。(1) 共役類とその大きさを求める。(2) アーベル化から 1 次元指標を求める(例 1.14)。(3) 置換表現、既知の表現とのテンソル積、商群の表現、誘導表現(1.10 節)から既約表現を探し、⟨χ,χ⟩=1 で既約性を判定する。(4) ∑di2=∣G∣ で残りの次数を決め、直交関係で空欄を埋める。
例 1.25(S3)共役類は巡回置換型で決まる。既約表現は自明・符号・標準(例 1.21)であり、指標表は次のとおり。
| 代表元 |
1 |
(12) |
(123) |
| 類の大きさ |
1 |
3 |
2 |
| χtriv |
1 |
1 |
1 |
| χsgn |
1 |
−1 |
1 |
| χstd |
2 |
0 |
−1 |
検算:⟨χsgn,χstd⟩=61(2+0−2)=0。列 (12) について 12+(−1)2+02=2=∣CG((12))∣、列 (123) について 1+1+1=3=∣CG((123))∣。
例 1.26(D4)rsr−1=r2s と r(sr)r−1=sr3 より、共役類は {1}, {r2}, {r,r3}, {s,sr2}, {sr,sr3} の 5 つである。1 次元指標は D4ab≅(Z/2)2 から 4 つ得られ、χ(r),χ(s)∈{±1} を自由に選べる(χ(r2)=1, χ(sr)=χ(s)χ(r))。4⋅12+d2=8 より残りは 2 次元で、例 1.3 の表現(n=4)がそれである。ρ(r) は 90° 回転(トレース 0)、ρ(r2)=−I、ρ(s), ρ(sr) は鏡映(トレース 0)なので:
| 代表元 |
1 |
r2 |
r |
s |
sr |
| 類の大きさ |
1 |
1 |
2 |
2 |
2 |
| χ1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
| χ2 |
1 |
1 |
1 |
−1 |
−1 |
| χ3 |
1 |
1 |
−1 |
1 |
−1 |
| χ4 |
1 |
1 |
−1 |
−1 |
1 |
| χ5 |
2 |
−2 |
0 |
0 |
0 |
検算:⟨χ5,χ5⟩=81(4+4)=1 で既約。列 r2 について 1+1+1+1+4=8=∣CG(r2)∣(r2 は中心元)。
例 1.27(Q8)jij−1=−i などから、共役類は {1}, {−1}, {±i}, {±j}, {±k} の 5 つ。1 次元指標は χ(i),χ(j)∈{±1} で決まり(χ(−1)=1, χ(k)=χ(i)χ(j))、残りは例 1.3 の 2 次元表現(±1↦±I、他はトレース 0)である。
| 代表元 |
1 |
−1 |
i |
j |
k |
| 類の大きさ |
1 |
1 |
2 |
2 |
2 |
| χ1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
| χ2 |
1 |
1 |
1 |
−1 |
−1 |
| χ3 |
1 |
1 |
−1 |
1 |
−1 |
| χ4 |
1 |
1 |
−1 |
−1 |
1 |
| χ5 |
2 |
−2 |
0 |
0 |
0 |
注意
指標表は群を決定しない。D4 と Q8 は同型でない(位数 2 の元は D4 では r2,s,sr,sr2,sr3 の 5 個、Q8 では −1 の 1 個)が、共役類を適切に対応させると指標表は完全に一致する。違いは、例えば ∣G∣1∑gχ5(g2) に現れる(問題 1.5)。
例 1.28(A4)S4 における (123) の中心化群は ⟨(123)⟩ で A4 に含まれるから、A4 での中心化群も位数 3 で、共役類の大きさは 12/3=4。したがって 8 個の 3-巡回置換は大きさ 4 の 2 つの類に分かれる。(123) と (132) は別の類に属する:x(123)x−1=(x(1) x(2) x(3)) が (132) になる x は (23), (13), (12) に {1,2,3} 上で一致し、いずれも奇置換だからである。共役類は {1}, V4∖{1}(大きさ 3), (123) の類, (132) の類の 4 つ。1 次元指標は A4→A4/V4≅Z/3 から 3 つ得られる(ω=e2πi/3)。3+d2=12 より残りは 3 次元で、S4 の標準表現(固定点の個数 −1)を制限したものの指標 (3,−1,0,0) は ⟨χ,χ⟩=121(9+3⋅1)=1 を満たすので既約である。
| 代表元 |
1 |
(12)(34) |
(123) |
(132) |
| 類の大きさ |
1 |
3 |
4 |
4 |
| χ1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
| χ2 |
1 |
1 |
ω |
ω2 |
| χ3 |
1 |
1 |
ω2 |
ω |
| χ4 |
3 |
−1 |
0 |
0 |
検算:⟨χ2,χ1⟩=121(1+3+4ω+4ω2)=0(1+ω+ω2=0)。列 (123) について 1+∣ω∣2+∣ω2∣2+0=3=∣CG((123))∣、列 (12)(34) について 1+1+1+1=4=∣V4∣。
例 1.29(S4)共役類は巡回置換型 1, (12), (12)(34), (123), (1234) で、大きさは 1,6,3,8,6 である。既約表現は次の 5 つ。
- 自明表現と符号表現。
- W:S4 は {1,2,3,4} を 2 つずつの組に分ける 3 通りの分け方 {12∣34,13∣24,14∣23} に作用し、全射 S4→S3(核は V4)を与える。これと S3 の標準表現の合成が W である。全射と合成しても不変部分空間は変わらないので W は既約。(12) と (1234) は互換に、(12)(34) は単位元に、(123) は 3-巡回置換に写る。
- 標準表現 V:指標は「固定点の個数 −1」。
- V′=V⊗sgn:指標は χVχsgn。
| 代表元 |
1 |
(12) |
(12)(34) |
(123) |
(1234) |
| 類の大きさ |
1 |
6 |
3 |
8 |
6 |
| χtriv |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
| χsgn |
1 |
−1 |
1 |
1 |
−1 |
| χW |
2 |
0 |
2 |
−1 |
0 |
| χV |
3 |
1 |
−1 |
0 |
−1 |
| χV′ |
3 |
−1 |
−1 |
0 |
1 |
検算:⟨χV,χV⟩=241(9+6+3+0+6)=1, ⟨χW,χW⟩=241(4+0+12+8+0)=1, ⟨χV,χV′⟩=241(9−6+3+0−6)=0。次数について 1+1+4+9+9=24。列の直交関係:列 (12) は 1+1+0+1+1=4=24/6、列 (12)(34) は 1+1+4+1+1=8=24/3、列 (123) は 1+1+1=3=24/8、列 (12) と列 (1234) の内積は 1+1+0−1−1=0。
S4 は立方体の回転群と同型である(4 本の対角線への作用)。回転群の R3 への自然な作用の指標は、回転角 θ の回転のトレース 1+2cosθ から計算でき、面の中心を通る軸の周りの 90° 回転((1234) 型)で 1、180° 回転((12)(34) 型)で −1、対角線の周りの 120° 回転((123) 型)で 0、辺の中点を通る軸の周りの 180° 回転((12) 型)で −1 となる。これは χV′ に一致する。
例 1.30(テンソル積の分解)S4 の V⊗V の指標は χV2=(9,1,1,0,1) である。重複度を計算すると
⟨χV2,χtriv⟩⟨χV2,χW⟩⟨χV2,χV′⟩=241(9+6+3+0+6)=1,=241(18+0+6+0+0)=1,=241(27−6−3+0+6)=1⟨χV2,χsgn⟩⟨χV2,χV⟩=241(9−6+3+0−6)=0,=241(27+6−3+0−6)=1,
なので V⊗V≅1⊕W⊕V⊕V′(1 は自明表現)である。次数は 1+2+3+3=9 で合っている。
1.9 既約表現の次数は位数を割る
S4 の既約表現の次数 1,1,2,3,3 はどれも 24 を割る。これは偶然ではない。証明には整数性の議論を使う。
定義 1.31(代数的整数, algebraic integer)複素数 α が整数係数のモニック多項式の根であるとき、α を代数的整数という。
1 の冪根は xm−1 の根なので代数的整数である。代数的整数について詳しくは代数的整数論 第1章、可換環論 第4章を参照。ここでは必要な事実だけを証明する。
補題 1.32 α∈C について次は同値である。
- α は代数的整数である。
- C の有限生成な加法部分群 M=0 で αM⊂M となるものが存在する。
特に、代数的整数の和と積は代数的整数であり、有理数である代数的整数は整数である。
証明. 1 ⇒ 2:αn+an−1αn−1+⋯+a0=0 (ai∈Z) なら M=Z+Zα+⋯+Zαn−1 とすればよい。2 ⇒ 1:M の生成元を m1,…,mn とすると αmi=∑jaijmj (aij∈Z) と書ける。A=(aij), m=t(m1,…,mn)=0 とすると (αI−A)m=0 なので det(αI−A)=0 であり、これは α についての整数係数モニック多項式である。
α,β が代数的整数で、それぞれ次数 n, n′ のモニック多項式の根なら、M=∑0≤i<n, 0≤j<n′Zαiβj は有限生成で、α+β 倍でも αβ 倍でも保たれる。最後に、既約分数 p/q がモニック多項式 xn+⋯+a0 の根なら、qn を掛けて pn=−q(an−1pn−1+⋯+a0qn−1) となるので q は pn を割り、q=±1 である。□
特に、指標の値 χ(g)(1 の冪根の和)はすべて代数的整数である。
補題 1.33 V を既約表現、χ をその指標、d=dimV とする。共役類 C と gC∈C に対し、ω(C)=∣C∣χ(gC)/d は代数的整数である。
証明. zC=∑g∈Cρ(g) とおく。共役 g↦hgh−1 は C の全単射なので ρ(h)zCρ(h)−1=zC であり、シューアの補題より zC はスカラー倍 λC⋅idV である。トレースをとると λCd=∣C∣χ(gC) なので λC=ω(C)。次に、共役類 C,C′ に対し
zCzC′=x∈C, y∈C′∑ρ(xy)=C′′∑aC′′zC′′
と書ける。ここで aC′′ は g′′∈C′′ を一つ固定したときの {(x,y)∈C×C′∣xy=g′′} の元の個数であり、(x,y)↦(kxk−1,kyk−1) が全単射を与えるので g′′ の選び方によらない。よって ω(C)ω(C′)=∑C′′aC′′ω(C′′) (aC′′∈Z≥0)。M=∑C′′Zω(C′′) は有限生成で、ω({1})=1 を含むので 0 でなく、ω(C)M⊂M を満たす。補題 1.32 より ω(C) は代数的整数である。□
定理 1.34 既約表現の次数は群の位数を割る。
証明. 既約指標 χ、次数 d について ⟨χ,χ⟩G=1 を共役類ごとにまとめると
∣G∣=g∈G∑χ(g)χ(g)=C∑∣C∣χ(gC)χ(gC),よってd∣G∣=C∑ω(C)χ(gC)
右辺の各項は代数的整数の積(χ(gC)=χ(gC−1) も代数的整数)なので、∣G∣/d は代数的整数であり、有理数でもあるから整数である。□
例 1.35(位数 p2 の群は可換)p を素数、∣G∣=p2 とする。既約表現の次数は 1,p,p2 のいずれかで、∑di2=p2 かつ自明表現が d=1 を与えるから、d=p や d=p2 は現れない。よって既約表現はすべて 1 次元で、その個数 p2 は ∣Gab∣ に等しい(例 1.14)。したがって [G,G]=1、すなわち G は可換である。
補足
より強く、既約表現の次数は [G:Z(G)] を割る(さらに可換正規部分群 A について [G:A] を割る:伊藤の定理)。証明は例えば I. M. Isaacs, Character Theory of Finite Groups を参照。
1.10 誘導表現とフロベニウスの相互律
部分群 H≤G の表現から G の表現を作る方法があると、指標表の計算が格段に楽になる。置換表現 C[G/H] は、H の自明表現からこの方法で作られる典型例である。
定義 1.36(誘導表現, induced representation)H≤G, (σ,W) を H の表現とする。
IndHGW={f:G→W∣f(xh)=σ(h)−1f(x) (∀x∈G, h∈H)}
に (g⋅f)(x)=f(g−1x) で G を作用させたものを誘導表現という。
(g⋅f)(xh)=f(g−1xh)=σ(h)−1f(g−1x) なので g⋅f は再び条件を満たし、これは G の表現である。f は左剰余類の代表系 x1,…,xr(r=[G:H])での値で決まり、その値は任意にとれるから dimIndHGW=[G:H]dimW である。G の表現 V を H に制限したものを ResHGV と書く。
命題 1.37(誘導指標の公式)
χIndW(g)=xH∈G/H, x−1gx∈H∑χW(x−1gx)=∣H∣1x∈G, x−1gx∈H∑χW(x−1gx)
証明. 剰余類 xH 上に台をもつ f の全体を WxH とすると、IndW=⨁xH∈G/HWxH であり、g は WxH を WgxH に写す。トレースに寄与するのは gxH=xH、すなわち x−1gx∈H となる剰余類だけである。そのような xH について、f↦f(x) は同型 WxH≅W を与え、
(g⋅f)(x)=f(g−1x)=f(x⋅x−1g−1x)=σ(x−1g−1x)−1f(x)=σ(x−1gx)f(x)
なので、g の WxH 上の作用は σ(x−1gx) に対応し、トレースは χW(x−1gx) である(代表元 x を xh に替えても H 内で共役になるだけで値は変わらない)。第 2 の等式は、各剰余類が ∣H∣ 個の x からなることによる。□
定理 1.38(フロベニウスの相互律, Frobenius reciprocity)H≤G、W を H の表現、V を G の表現とすると、線形同型
HomG(V,IndHGW)≅HomH(ResHGV,W),Φ↦(v↦Φ(v)(1))
がある。特に ⟨χV,χIndW⟩G=⟨χResV,χW⟩H および ⟨χIndW,χV⟩G=⟨χW,χResV⟩H が成り立つ。
証明. Φ を G-線形とし、φ(v)=Φ(v)(1) とおく。h∈H について、Φ(v) が誘導表現の条件を満たすことから Φ(v)(h−1)=σ(h)Φ(v)(1) であり、
φ(hv)=Φ(hv)(1)=(h⋅Φ(v))(1)=Φ(v)(h−1)=σ(h)φ(v)
なので φ は H-線形である。逆に H-線形な φ に対し Φ(v)(x)=φ(x−1v) と定める。Φ(v)(xh)=φ(h−1x−1v)=σ(h)−1φ(x−1v) より Φ(v)∈IndW、また Φ(gv)(x)=φ(x−1gv)=Φ(v)(g−1x)=(g⋅Φ(v))(x) より Φ は G-線形である。Φ(v)(1)=φ(v) であり、逆に G-線形な Φ から作った φ について φ(x−1v)=Φ(x−1v)(1)=(x−1⋅Φ(v))(1)=Φ(v)(x) だから、2 つの対応は互いに逆である。指標の等式は、両辺の次元を定理 1.19 で書き直せば得られる(2 つ目は 1 つ目の複素共役であり、値は整数なので等しい)。□
例 1.39(置換表現)H の自明表現から誘導すると、IndHG1 は G/H 上の関数の空間であり、G/H 上の置換表現 C[G/H] と同型である。命題 1.37 より、その指標は g が固定する剰余類の個数である。フロベニウスの相互律から、既約表現 V が C[G/H] に現れる重複度は ⟨χResV,1⟩H=dimVH に等しい。H={1} とすれば正則表現が得られ、命題 1.22 が再び導かれる。
例 1.40 (1) G=S3, H=A3=⟨(123)⟩≅Z/3, W を (123)↦ω で定まる 1 次元表現とする。剰余類の代表を 1,(12) とし、(12)(123)(12)−1=(213)=(132) に注意すると、命題 1.37 より
χIndW(1)=2,χIndW((12))=0,χIndW((123))=ω+ω2=−1
となり、IndW は標準表現に一致する。フロベニウスの相互律で検算すると、標準表現の A3 への制限の指標は (2,−1,−1) で、これは W と W∗ の直和の指標 (1,ω,ω2)+(1,ω2,ω) に等しいから、⟨χResV,χW⟩=1 である。
(2) G=D4, H=⟨r⟩≅Z/4, W を r↦i で定まる表現とする。代表を 1,s とすると s−1rs=r−1 なので χIndW(r)=i+(−i)=0、χIndW(r2)=−1+(−1)=−2、s と sr の共役は H に入らないので値は 0。これは χ5 であり、2 次元既約表現は誘導表現として得られる。
1.11 バーンサイドの定理
指標理論の最初の大きな応用は、純粋に群論的な次の定理であった。
定理 1.41(バーンサイドの paqb 定理, Burnside's theorem)p,q を素数、a,b≥0 を整数とする。位数 paqb の群は可解群である。
証明は本書では扱わない(主張のみ)。鍵は「共役類の大きさが素数冪 pk (k≥1) であるような元が存在すれば、G は単純群でない」という補題であり、その証明に補題 1.33 の整数性 ∣C∣χ(g)/χ(1)∈Z と、1 の冪根の平均についての考察を用いる。詳しくは Isaacs の前掲書の第3章を参照。群論だけによる証明は、定理の発表(1904 年)から長い間知られなかった。
まとめ
- 有限群の表現は、charK∤∣G∣ なら完全可約(マシュケ)。標数が位数を割る場合や無限群では成り立たない。
- 既約表現の間の G-線形写像は 0 か同型であり、代数閉体上では既約表現の自己準同型はスカラーだけ(シューア)。
- 複素数体上、指標 χV=trρ は類関数で、⟨χW,χV⟩G=dimHomG(V,W)。既約指標は類関数の空間の正規直交基底をなす。
- 表現は指標で決まり、重複度は内積で計算できる。既約性の判定は ⟨χ,χ⟩=1。
- 正則表現にはすべての既約表現が次数と同じ回数現れ、∑di2=∣G∣。既約表現の個数は共役類の個数に等しい。
- 指標表は行・列の両方で直交する。D4 と Q8 のように、同型でない群が同じ指標表をもつことがある。
- 既約表現の次数は ∣G∣ を割る(代数的整数の議論)。
- 誘導表現はフロベニウスの相互律 HomG(V,IndW)≅HomH(ResV,W) をもち、指標は命題 1.37 で計算できる。
演習問題
問題 1.1 ★ G=Z/2×Z/2 の指標表を書き、行と列の直交関係を確かめよ。また Z/n の既約指標 χk(a)=ζka (ζ=e2πi/n) について ⟨χk,χl⟩=δkl を直接確かめよ。
解答
G={(0,0),(1,0),(0,1),(1,1)} は可換なので共役類は 4 つ、既約指標は 1 次元で 4 つある。χε1,ε2(a,b)=ε1aε2b (εi=±1) である。
| 代表元 |
(0,0) |
(1,0) |
(0,1) |
(1,1) |
| χ+,+ |
1 |
1 |
1 |
1 |
| χ−,+ |
1 |
−1 |
1 |
−1 |
| χ+,− |
1 |
1 |
−1 |
−1 |
| χ−,− |
1 |
−1 |
−1 |
1 |
どの 2 行も 4 つの成分のうちちょうど 2 つで符号が一致するので内積は 41(2−2)=0。列についても同様で、各列の絶対値の 2 乗和は 4=∣CG(g)∣ である。Z/n については ⟨χk,χl⟩=n1∑a=0n−1ζ(k−l)a で、k=l なら 1、k=l なら ζk−l=1 に対する等比数列の和 n1⋅ζk−l−1ζ(k−l)n−1=0 である。
問題 1.2 ★ S3 の標準表現 V について、V⊗V と V⊗sgn を既約表現の直和に分解せよ。
解答
χV2=(4,0,1)(類 1,(12),(123) の順)。類の大きさ 1,3,2 を使うと
⟨χV2,χtriv⟩=61(4+0+2)=1,⟨χV2,χsgn⟩=61(4−0+2)=1,⟨χV2,χV⟩=61(8+0−2)=1
なので V⊗V≅1⊕sgn⊕V(次数 1+1+2=4)。また χVχsgn=(2,0,−1)=χV なので V⊗sgn≅V(系 1.20 の 4)。
問題 1.3 ★★ 表現 V の対称積 Sym2V と外積 Λ2V の指標は χSym2(g)=21(χ(g)2+χ(g2)), χΛ2(g)=21(χ(g)2−χ(g2)) で与えられる(ρ(g) を対角化して固有値で確かめよ)。S4 の標準表現 V について Sym2V と Λ2V を分解し、例 1.30 と整合することを確かめよ。
解答
固有値を λ1,…,λd とすると、Sym2V の固有値は λiλj (i≤j)、Λ2V の固有値は λiλj (i<j) である。∑i<jλiλj=21((∑λi)2−∑λi2) と ∑λi2=χ(g2) から公式が従う。
類 1,(12),(12)(34),(123),(1234) の元の 2 乗はそれぞれ 1,1,1,(132),(13)(24) なので、χV(g2)=(3,3,3,0,−1)。χV2=(9,1,1,0,1) と合わせて
χSym2V=(6,2,2,0,0),χΛ2V=(3,−1,−1,0,1)
後者は χV′ に等しいので Λ2V≅V′。前者は χtriv+χW+χV=(1+2+3,1+0+1,1+2−1,1−1+0,1+0−1)=(6,2,2,0,0) なので Sym2V≅1⊕W⊕V。V⊗V=Sym2V⊕Λ2V なので、例 1.30 の 1⊕W⊕V⊕V′ と一致する。
問題 1.4 ★★ H=S3⊂S4(4 を固定する置換)とする。IndHS4sgn を、(a) フロベニウスの相互律、(b) 命題 1.37 の指標公式、の 2 通りで分解せよ。
解答
(a) S4 の既約指標を H に制限すると(類 1,(12),(123) の順)、χtriv↦(1,1,1), χsgn↦(1,−1,1), χW↦(2,0,−1), χV↦(3,1,0), χV′↦(3,−1,0)。これらと sgnH=(1,−1,1) の内積(類の大きさ 1,3,2)は順に 61(1−3+2)=0, 61(1+3+2)=1, 61(2+0−2)=0, 61(3−3+0)=0, 61(3+3+0)=1。よって Indsgn≅sgn⊕V′(次数 1+3=4=[S4:S3])。
(b) 剰余類 xS3 は x(4) で区別され、x−1gx∈S3 は g が x(4) を固定することと同値。x−1gx の符号は g の符号に等しいので χInd(g)=sgn(g)⋅(g の固定点の個数)、すなわち (4,−2,0,1,0)。一方 χsgn+χV′=(1+3,−1−1,1−1,1+0,−1+1)=(4,−2,0,1,0) で一致する。
問題 1.5 ★★ (a) D4 と Q8 が同型でないことを示せ。(b) 2 次元既約指標 χ5 について ν(χ5)=∣G∣1∑g∈Gχ5(g2) を G=D4 と G=Q8 のそれぞれで計算せよ。(ν はフロベニウス–シューア指標と呼ばれ、既約指標 χ について、χ が実数値でないとき 0、χ が R 上で実現できるとき 1、実数値だが R 上で実現できないとき −1 であることが知られている。)
解答
(a) 位数 2 の元の個数は同型不変量である。D4 では r2 と 4 つの鏡映 s,sr,sr2,sr3 の 5 個、Q8 では −1 だけの 1 個なので、同型でない。
(b) D4:g2 は g=1,r2 と 4 つの鏡映で 1、g=r,r3 で r2。よって ∑gχ5(g2)=6⋅2+2⋅(−2)=8、ν=1(実際、正方形の対称性として実行列で実現されている)。Q8:g=±1 で g2=1、他の 6 元で g2=−1。よって ∑gχ5(g2)=2⋅2+6⋅(−2)=−8、ν=−1。Q8 の 2 次元表現は実数値の指標をもつが、実行列では実現できない(四元数体 H 上の表現に由来する)。
問題 1.6 ★★ p を素数、G を位数 p3 の非可換群とする。G の既約表現の次数と個数を決定し、G の共役類の個数が p2+p−1 であることを示せ。p=2 のとき D4, Q8 の指標表と整合することを確かめよ。
解答
p-群の中心 Z(G) は自明でない(類等式)。∣Z(G)∣=p2 なら G/Z(G) は位数 p の巡回群になり G は可換となって矛盾、∣Z(G)∣=p3 も非可換性に反する。よって ∣Z(G)∣=p。G/Z(G) は位数 p2 で可換(例 1.35)なので [G,G]⊂Z(G)、非可換性から [G,G]=1 なので [G,G]=Z(G) で、∣Gab∣=p2。よって 1 次元表現はちょうど p2 個。残りの既約表現の次数 d>1 は p3 の約数で、d2≤p3−p2<p4 だから d=p。その個数 m は p2+mp2=p3 より m=p−1。既約表現の総数 p2+p−1 が共役類の個数に等しい(定理 1.23)。p=2 では 1 次元が 4 個、2 次元が 1 個、共役類が 5 個で、例 1.26, 1.27 と一致する。
問題 1.7 ★★★ 実数値をとる既約指標の個数は、C−1=C を満たす共役類 C(実共役類)の個数に等しいことを示せ。これを用いて、Sn の既約指標はすべて実数値であること、A4 の実数値の既約指標は 2 個であることを確かめよ。
解答
指標表を h×h 行列 X=(χi(gj)) とする。既約指標の複素共役 χi=χVi∗ は再び既約指標なので、複素共役は行の置換を引き起こす:X=PX(P は置換行列)。一方 χ(g)=χ(g−1) なので、複素共役は列の置換 C↦C−1 でもある:X=XQ(Q は置換行列)。第二直交関係より X の列は直交して 0 でないので X は正則であり、P=XQX−1。トレースをとると trP=trQ。trP は χi=χi となる i の個数(実数値の既約指標の個数)、trQ は C−1=C となる類の個数である。
Sn では σ と σ−1 の巡回置換型が同じなので、すべての類が実であり、すべての既約指標が実数値である。A4 では (123)−1=(132) は別の類に属する(例 1.28)ので、実共役類は {1} と V4∖{1} の 2 つであり、実際に実数値の既約指標は χ1, χ4 の 2 つである。