この章の目標
- 半単純リー環の有限次元表現のウェイト分解を理解し、ウェイトの重複度がワイル群で不変であることを示せる
- ウェイト格子・基本ウェイト・支配的整ウェイトを sl3 で具体的に計算できる
- 普遍包絡環と PBW の定理の主張を理解し、ヴェルマ加群とその既約商を構成できる
- 有限次元既約表現が支配的整ウェイトで分類されることを説明できる
- ワイルの指標公式・次元公式を使って表現の次元を計算し、テンソル積を分解できる
前提:第4章、第1章(指標の考え方)、線形代数 第9章(対称積・外積)
sl2 の既約表現は、最高ウェイト m∈Z≥0 で完全に分類された(定理 4.3)。この章では同じことを一般の複素半単純リー環で行う。H の固有値の代わりにカルタン部分環 h の同時固有値(ウェイト λ∈h∗)を、E の代わりに正ルートのルートベクトルを使えば、「最高ウェイトベクトル」の概念がそのまま一般化される。結論は、有限次元既約表現は支配的整ウェイトと一対一に対応するというものであり、その指標はワイルの指標公式で与えられる。
この章を通じて、L は C 上の半単純リー環、h はカルタン部分環、Φ はルート系、Δ={α1,…,αℓ} は単純ルート系、Φ+ は正ルートの集合、W はワイル群とする。各 α∈Φ に対し sl2-三つ組 (xα,hα,yα)(定理 4.11)をとり、xi=xαi, hi=hαi, yi=yαi と書く。λ∈h∗ について λ(hα)=⟨λ,α∨⟩ である。
n+=α∈Φ+⨁Lα,n−=α∈Φ+⨁L−α,b=h⊕n+,L=n−⊕h⊕n+
とおく(三角分解)。sln では n+, n−, b はそれぞれ狭義上三角・狭義下三角・上三角行列である。
5.1 ウェイトとウェイト空間
定義 5.1(ウェイト)L-加群 V(無限次元でもよい)と λ∈h∗ に対し Vλ={v∈V∣hv=λ(h)v (∀h∈h)} とおく。Vλ=0 のとき λ を V のウェイト、Vλ をウェイト空間、dimVλ を重複度という。V=⨁λVλ のとき V をウェイト加群という。
命題 4.8 (1) と同じ計算で LαVλ⊂Vλ+α である。
命題 5.2 V を有限次元 L-加群とする。
- V=⨁λVλ(h は V 上で同時対角化可能)。
- V のウェイト λ はすべての α∈Φ について ⟨λ,α∨⟩∈Z を満たす。
- すべての w∈W について dimVλ=dimVwλ。
証明. 各 α について V は Sα≅sl2 の有限次元加群なので、系 4.4 より hα は整数固有値で対角化可能である。hα (α∈Φ) は h を張り(Φ が h∗ を張るので)、互いに可換だから同時対角化でき、1 と 2 を得る。3:W は鏡映 sα で生成されるので w=sα としてよい。m=⟨λ,α∨⟩ とし、U=⨁k∈ZVλ+kα を考えると、U は Sα-部分加群で、Vλ+kα 上の hα の固有値は m+2k で k ごとに異なる。よって U の hα-固有値 m の固有空間は Vλ、固有値 −m の固有空間は Vλ−mα=Vsαλ であり、系 4.4 (2) よりこれらの次元は等しい。□
例 5.3(sl3)例 4.10 の記号で、C3 の標準基底 ei は diag(a1,a2,a3)ei=aiei よりウェイト εi をもつ。したがって
- C3 のウェイトは ε1,ε2,ε3、双対 (C3)∗ のウェイトは −ε1,−ε2,−ε3。
- 随伴表現のウェイトは 6 つのルート εi−εj(重複度 1)と 0(重複度 dimh=2)。
- Sym2C3 のウェイトは 2εi と εi+εj (i<j)、Λ2C3 のウェイトは εi+εj=−εk ({i,j,k}={1,2,3})。
W=S3 は εi の添字を置換し、どの例でも重複度は W で不変である。
5.2 ウェイト格子と支配的ウェイト
定義 5.4 Λ={λ∈h∗∣⟨λ,α∨⟩∈Z (∀α∈Φ)} をウェイト格子(整ウェイトの全体)、Q=ZΦ をルート格子という。⟨ωi,αj∨⟩=δij で定まる ω1,…,ωℓ を基本ウェイト (fundamental weights) という。⟨λ,αi∨⟩≥0 (1≤i≤ℓ) を満たす λ を支配的 (dominant) といい、支配的な整ウェイトの全体を Λ+ と書く。
(R4) より Q⊂Λ。コルート α∨ の全体は単純ルート系 {αi∨} をもつルート系をなし、各 α∨ は αi∨ の整数係数の一次結合なので、λ∈Λ であるためには ⟨λ,αi∨⟩∈Z (1≤i≤ℓ) で十分である(この事実は主張のみ)。したがって
Λ=i=1⨁ℓZωi,Λ+={i=1∑ℓmiωi mi∈Z≥0}
である。⟨αi,αj∨⟩=Cij だから αi=∑jCijωj(カルタン行列の第 i 行)であり、[Λ:Q]=∣detC∣。補題 4.20 より ρ=21∑α∈Φ+α は ρ=ω1+⋯+ωℓ を満たす。h∗ の半順序を、λ−μ が単純ルートの非負整数係数の和であるとき μ≤λ と定める。
例 5.5(sl3)α1=ε1−ε2, α2=ε2−ε3、h1=E11−E22, h2=E22−E33 である。ε1(h1)=1, ε1(h2)=0、(ε1+ε2)(h1)=0, (ε1+ε2)(h2)=1 なので
ω1=ε1,ω2=ε1+ε2=−ε3,ρ=ω1+ω2=ε1−ε3=α1+α2
また α1=2ω1−ω2, α2=−ω1+2ω2 で、[Λ:Q]=detC=2⋅2−(−1)(−1)=3。aω1+bω2 がルート格子に属するのは a≡b(mod3) のときである。ウェイト格子は平面上の三角格子(正六角形の対称性をもつ)で、6 つのルートはその上の正六角形の頂点に並ぶ。C3 の最高ウェイト ε1=ω1 は支配的、他のウェイト ε2,ε3 は ω1 の W-軌道に属する。
例 5.6(sl2)ω=21α, Λ=Zω, Λ+=Z≥0ω, ρ=ω。V(m) のウェイトは mω,(m−2)ω,…,−mω である。
5.3 普遍包絡環と PBW の定理
リー環の表現を結合的代数の加群として扱うための道具が普遍包絡環である。
定義 5.7(普遍包絡環, universal enveloping algebra)L のテンソル代数 T(L)=⨁k≥0L⊗k を、x⊗y−y⊗x−[x,y] (x,y∈L) で生成される両側イデアルで割った結合代数を U(L) と書き、普遍包絡環という。
ι:L→U(L) を自然な写像とすると、ι([x,y])=ι(x)ι(y)−ι(y)ι(x) であり、次の普遍性をもつ:結合代数 A への線形写像 φ で φ([x,y])=φ(x)φ(y)−φ(y)φ(x) を満たすものは、代数の準同型 U(L)→A に一意に拡張される。特に A=End(V) とすれば、L-加群と U(L)-加群は同じものである。
定理 5.8(ポアンカレ–バーコフ–ヴィットの定理, PBW theorem)x1,…,xn を L の順序づけられた基底とすると、単項式 x1k1x2k2⋯xnkn (ki≥0) は U(L) の基底をなす。特に ι は単射である。(主張のみ。Humphreys の本の §17.3 を参照。)
単項式が U(L) を張ることは、交換関係 xjxi=xixj+[xj,xi] で並べ替えればわかる(交換子の項は次数が低い)。定理の本質は一次独立性である。PBW の定理から、L=a⊕c(ベクトル空間として、a,c は部分リー環)なら積写像 U(a)⊗U(c)→U(L) は線形同型である。特に
U(L)=U(n−)⊗U(h)⊗U(n+)=U(n−)⊗U(b)
であり、U(L) は右 U(b)-加群として自由である。U(sl2) では FaHbEc が基底をなす。
5.4 ヴェルマ加群と既約商
定義 5.9(最高ウェイト加群)L-加群 V の元 v=0 が v∈Vλ かつ n+v=0 を満たすとき、ウェイト λ の極大ベクトル(最高ウェイトベクトル)という。V=U(L)v となる極大ベクトル v があるとき、V を最高ウェイト λ の最高ウェイト加群という。
命題 5.10 V=U(L)v を最高ウェイト λ の最高ウェイト加群とする。
- V=U(n−)v であり、V は yβ1⋯yβkv (βj∈Φ+) で張られる。
- V はウェイト加群で、ウェイトはすべて μ≤λ を満たし、各 Vμ は有限次元、Vλ=Cv。
- V の部分加群はウェイト加群である(W=⨁μ(W∩Vμ))。
- V はただ一つの極大な真部分加群をもち、したがってただ一つの既約商をもつ。
証明. 1:PBW より U(L)=U(n−)U(h)U(n+) であり、U(n+)v=Cv, U(h)v=Cv。2:yβ1⋯yβkv はウェイト λ−∑βj をもち、λ−μ を正ルートの和に書く方法は有限通りしかない。k=0 の項だけがウェイト λ をもつので Vλ=Cv。3:w=v1+⋯+vr∈W(vj∈Vμj、μj は相異なる)とする。μj(h) がすべて異なる h∈h をとり、∏k=jμj(h)−μk(h)h−μk(h) を w に施すと vj が得られるので vj∈W。4:真部分加群 W は v を含まないので、3 と Vλ=Cv より W⊂⨁μ=λVμ。したがって真部分加群すべての和も ⨁μ=λVμ に含まれ、真部分加群である。これが唯一の極大な真部分加群 N で、V/N が唯一の既約商である。□
定義 5.11(ヴェルマ加群, Verma module)λ∈h∗ に対し、n+ と h−λ(h) (h∈h) で生成される U(L) の左イデアルを Iλ とし、M(λ)=U(L)/Iλ をヴェルマ加群という。1 の像を vλ と書く。
定理 5.12
- M(λ) は vλ を極大ベクトルとする最高ウェイト λ の最高ウェイト加群であり、u↦uvλ は線形同型 U(n−)≅M(λ) を与える。
- (普遍性)最高ウェイト λ の最高ウェイト加群 V=U(L)v は、vλ↦v によって M(λ) の商である。
- M(λ) の唯一の既約商を L(λ) と書く。最高ウェイト λ の既約な最高ウェイト加群はすべて L(λ) と同型であり、L(λ)≅L(μ) なら λ=μ である。
証明. 1:λ を n+ 上 0 として b 上に延ばすと、[b,b]=n+ の上で 0 なのでリー環の準同型 b→C であり、代数の準同型 χλ:U(b)→C に延びる。その核 Kλ は n+ と h−λ(h) で生成される U(b) の左イデアルである(PBW により、この左イデアルを法として U(b) の元は定数に等しい)。PBW の分解 U(L)=U(n−)⊗U(b) のもとで Iλ=U(L)Kλ=U(n−)⊗Kλ なので、M(λ)≅U(n−)⊗(U(b)/Kλ)≅U(n−)。特に vλ=0 であり、定義から n+vλ=0, hvλ=λ(h)vλ。2:u↦uv は Iλ を 0 に写すので、M(λ)→V を誘導し、これは全射である。3:命題 5.10 の 4 より L(λ) は既約。V が最高ウェイト λ の既約加群なら、全射 M(λ)→V の核は極大な真部分加群、すなわち N なので V≅L(λ)。λ は L(λ) のウェイトのうち最大のものとして L(λ) から決まる。□
例 5.13(sl2 のヴェルマ加群)M(λ) は基底 Fkvλ (k≥0) をもち、補題 4.2 の計算から
HFkvλ=(λ−2k)Fkvλ,EFkvλ=k(λ−k+1)Fk−1vλ
である。(1) λ∈/Z≥0 なら k(λ−k+1)=0 (k≥1) で、0 でない部分加群は(命題 5.10 の 3 より)ある Fkvλ を含み、Ek で vλ に戻れるので、M(λ)=L(λ) は既約な無限次元加群である。(2) λ=m∈Z≥0 なら EFm+1vλ=0 なので Fm+1vλ はウェイト −m−2 の極大ベクトルであり、C[F]Fm+1vλ≅M(−m−2) が部分加群となる。商は基底 vλ,…,Fmvλ をもつ V(m) で既約だから、L(mω)=V(m) である。
5.5 有限次元既約表現の分類
定理 5.14(最高ウェイトによる分類)
- 有限次元既約 L-加群 V は、ただ一つの λ∈Λ+ について L(λ) と同型である。
- λ∈Λ+ ならば L(λ) は有限次元である。
したがって λ↦L(λ) は、Λ+ と有限次元既約 L-加群の同型類の間の全単射である。
証明. 1:命題 5.2 より V はウェイト加群で、ウェイトは有限個である。半順序 ≤ に関して極大なウェイト λ と 0=v∈Vλ をとると、α∈Φ+ について xαv∈Vλ+α=0 なので v は極大ベクトルであり、既約性から V=U(L)v。定理 5.12 の 3 より V≅L(λ)。命題 5.2 より λ∈Λ。さらに v は Sαi≅sl2 の有限次元加群の極大ベクトルで hi-ウェイト ⟨λ,αi∨⟩ をもつので、定理 4.3 の証明と同様にこれは非負整数である。よって λ∈Λ+。
2(証明の概略):mi=⟨λ,αi∨⟩∈Z≥0、v+ を L(λ) の最高ウェイトベクトルとする。(a) yimi+1v+=0:j=i なら αj−αi∈/Φ より [xj,yi]=0 で xjyimi+1v+=0、j=i なら sl2 の計算(例 5.13)から xiyimi+1v+=(mi+1)(mi−mi)yimiv+=0。よって yimi+1v+ は L(λ) の極大ベクトルだが、既約加群の極大ベクトルは v+ の定数倍しかないので 0 である。(b) L(λ) は yi1⋯yikv+ で張られ(n− は yi で生成される)、adyi は L 上冪零なので、(a) と合わせて xi,yi は L(λ) の各元に対し冪零に作用する。すると L(λ) は有限次元 Sαi-加群の和であり、命題 5.2 の 3 の証明がそのまま使えて、ウェイトの重複度は si で、したがって W で不変である。(c) 各 W-軌道は支配的なウェイトをちょうど一つ含み、L(λ) の支配的なウェイトは μ≤λ を満たすものに限られ、そのような支配的 μ は有限個である。よってウェイトは有限個で、各重複度も有限だから dimL(λ)<∞。詳細は Humphreys の本の §21 を参照。□
例 5.15(sl3 の既約表現)L(a,b):=L(aω1+bω2) と書く。
| 最高ウェイト |
表現 |
次元 |
| 0 |
自明表現 |
1 |
| ω1=ε1 |
C3 |
3 |
| ω2=ε1+ε2 |
Λ2C3≅(C3)∗ |
3 |
| 2ω1 |
Sym2C3 |
6 |
| ω1+ω2=ε1−ε3 |
随伴表現 sl3 |
8 |
| kω1 |
SymkC3 |
(k+1)(k+2)/2 |
いずれも、例 5.3 のウェイトのうち最大のものが最高ウェイトである。随伴表現の最高ウェイトは最高ルート α1+α2 である。一般に L(a,b)∗≅L(b,a) となる(双対表現のウェイトは −μ で、その最大のものは −w0λ。w0 は ε1↔ε3 を入れ替える W の最長元)。
5.6 ワイルの指標公式と次元公式
有限群の指標の類似として、有限次元加群 V の形式指標 (formal character) を
chV=μ∈Λ∑dimVμeμ∈Z[Λ]
で定める。Z[Λ] は記号 eμ (μ∈Λ) を基底とし eμeν=eμ+ν で積を定めた群環である。ch(V⊕V′)=chV+chV′, ch(V⊗V′)=chV⋅chV′(テンソル積のウェイトは和)であり、chV は W で不変である。chL(λ)=eλ+(より低いウェイトの項) なので、最高の項から順に引き去ることで、有限次元加群は形式指標で同型を除いて決まる(完全可約性を使う)。
定理 5.16(ワイルの指標公式, Weyl character formula)λ∈Λ+ とし、ε(w)=detw=±1 とする。このとき
(w∈W∑ε(w)ewρ)⋅chL(λ)=w∈W∑ε(w)ew(λ+ρ)
が成り立つ。左辺の第 1 因子は ∑wε(w)ewρ=∏α∈Φ+(eα/2−e−α/2) と積に分解する(ワイルの分母公式)。(主張のみ。代数的な証明は Humphreys の本の §24、コンパクト群を用いた解析的な証明は第6章で概略を述べる。)
系 5.17(ワイルの次元公式, Weyl dimension formula)
dimL(λ)=α∈Φ+∏(ρ,α)(λ+ρ,α)=α∈Φ+∏⟨ρ,α∨⟩⟨λ+ρ,α∨⟩
指標公式から次元公式を導く方法は問題 5.7 で扱う。
例 5.18(sl2)W={1,s}, ρ=ω, λ=mω で、指標公式は
chV(m)=eω−e−ωe(m+1)ω−e−(m+1)ω=emω+e(m−2)ω+⋯+e−mω
となり定理 4.3 と一致する。次元公式は ⟨(m+1)ω,α∨⟩/⟨ω,α∨⟩=m+1。
例 5.19(sl3 の次元公式)正ルートは α1,α2,α1+α2 で、すべて同じ長さなので (α1+α2)∨=α1∨+α2∨。λ+ρ=(a+1)ω1+(b+1)ω2 との ⟨⋅,α∨⟩ は a+1, b+1, a+b+2、ρ とのそれは 1,1,2 なので
dimL(a,b)=2(a+1)(b+1)(a+b+2)
| (a,b) |
(0,0) |
(1,0) |
(0,1) |
(2,0) |
(1,1) |
(3,0) |
(2,1) |
(4,0) |
(3,1) |
(2,2) |
| 次元 |
1 |
3 |
3 |
6 |
8 |
10 |
15 |
15 |
24 |
27 |
例 5.15 の表と一致する(SymkC3 では (k+1)⋅1⋅(k+2)/2)。ウェイトの重複度の計算にはフロイデンタールの公式などが使われる。sl3 では、L(a,b) のウェイトの重複度が外側の六角形から内側に向かって 1 ずつ増え、三角形の層に達すると一定になるという規則が知られている(Fulton–Harris の sl3 を扱う講を参照)。例えば随伴表現では外側の 6 つのルートが重複度 1、中心の 0 が重複度 2 である。
5.7 テンソル積の分解
テンソル積 L(λ)⊗L(μ) は完全可約なので、既約成分の重複度を求めればよい。形式指標の積を計算し、最高ウェイトから順に既約指標を引き去るのが基本的な方法である。
定理 5.20(クレブシュ–ゴルダンの公式, Clebsch–Gordan formula)sl2-加群として
V(m)⊗V(n)≅k=0⨁min(m,n)V(m+n−2k)=V(m+n)⊕V(m+n−2)⊕⋯⊕V(∣m−n∣)
証明. m≥n としてよい。テンソル積のウェイトは (m−2p)+(n−2q) (0≤p≤m, 0≤q≤n) なので、ウェイト m+n−2j の重複度 dj は p+q=j となる組の個数であり、0≤j≤2m+n では dj=min(j,n)+1(j≤m に注意)。系 4.4 の証明と同様に、V(m+n−2j) の重複度は dj−dj−1(d−1=0)に等しい(ウェイト k≥0 の空間の次元は最高ウェイト ≥k で k と偶奇が同じ成分の個数だから)。これは j≤n のとき 1、j>n のとき 0 である。□
次元の検算:∑k=0n(m+n−2k+1)=(n+1)(m+1)。物理学では V(m) を「スピン m/2」と呼び、この公式は角運動量の合成則である。
例 5.21(sl3 のテンソル積)
(1) C3⊗C3≅L(2ω1)⊕L(ω2)、すなわち Sym2C3⊕Λ2C3(9=6+3)。
(2) C3⊗(C3)∗≅L(ω1+ω2)⊕L(0)(9=8+1)。ウェイトは εi−εj で、ルートが重複度 1、0 が重複度 3 である。随伴表現(0 の重複度 2)を引くと 0 が 1 つ残る。これは gl3=sl3⊕CI の表現論的な言い換えである。
(3) L(ω1)⊗L(ω1+ω2)≅L(2ω1+ω2)⊕L(2ω2)⊕L(ω1)(24=15+6+3)。確かめるには、支配的ウェイトの重複度を比べればよい(W-不変性より、他のウェイトの重複度はこれで決まる)。テンソル積のウェイトは εk+εi−εj (i=j) と εk(2 回)であり、支配的なものは
| 支配的ウェイト |
2ω1+ω2 |
2ω2 |
ω1 |
| テンソル積での重複度 |
1 |
2 |
4 |
| L(2ω1+ω2) |
1 |
1 |
2 |
| L(2ω2) |
0 |
1 |
1 |
| L(ω1) |
0 |
0 |
1 |
である。例えばテンソル積で ω1=ε1 が現れるのは ε2+(ε1−ε2), ε3+(ε1−ε3), ε1+0(2 回)の 4 通り。L(2ω1+ω2) の重複度は、2ω2=λ−α1 のウェイト空間が y1v+ で張られること(命題 5.10)から 2ω2 の重複度が 1 とわかり、W-軌道の大きさ(6,3,3)と次元 15 から 6⋅1+3⋅1+3⋅m=15 で m=2 と決まる。各列で 3 つの既約表現の重複度の和がテンソル積の重複度に一致する。
5.8 sln の表現とヤング図形
sln の基本ウェイトは ωk=ε1+⋯+εk で、L(ωk)=ΛkCn である(1≤k≤n−1)。支配的整ウェイト λ=∑kakωk に、分割 (partition) λ1≥λ2≥⋯≥λn−1≥0(λk=ak+ak+1+⋯+an−1)を対応させ、第 k 行に λk 個の箱を並べた図をヤング図形 (Young diagram) という。ωk は k 個の箱の縦一列、kω1 は k 個の箱の横一列(SymkCn)に対応する。
以下は紹介であり、証明は Fulton–Harris の本の該当部分(Schur functor と Weyl の構成を扱う講)を参照。
- シューア–ワイル双対性 (Schur–Weyl duality):Sk はテンソル積 (Cn)⊗k に成分の置換で作用し、gln の作用と可換である。gln×Sk の表現として
(Cn)⊗k≅λ⨁Sλ(Cn)⊗Mλ
と分解する。ここで λ は k の分割で行数 ≤n のものを動き、Mλ は Sk の既約表現(シュペヒト加群)、Sλ(Cn) は既約な gln-加群(シューア関手)である。k=2 では (Cn)⊗2=Sym2⊗1⊕Λ2⊗sgn。k=3 では S3 の既約表現(第1章)が (3),(2,1),(1,1,1) に対応し、(Cn)⊗3=Sym3⊕S(2,1)⊕2⊕Λ3。n=3 で次元を比べると 27=10+2⋅8+1 となる。
- フック・コンテンツ公式:箱 (i,j)(第 i 行第 j 列)のフック長を h(i,j) とすると dimSλ(Cn)=∏(i,j)∈λh(i,j)n+j−i。λ=(2,1), n=3 なら箱の値は 33,14,12 で積は 8(随伴表現)。
- 指標はシューア多項式 sλ(x1,…,xn)=det(xiλj+n−j)/det(xin−j) で与えられる。これは GLn(あるいは U(n))に対するワイルの指標公式そのものである(第6章)。
- テンソル積の分解はリトルウッド–リチャードソン規則で与えられる。特に箱 1 つとのテンソル積は、ヤング図形に箱を 1 つ加えたものすべての和になる(ピエリ規則の特別な場合)。sln では長さ n の列は自明表現に対応するので取り除いてよい。例えば sl3 で □⊗(2,1)=(3,1)+(2,2)+(2,1,1) で、(2,1,1) から長さ 3 の列を除くと (1) となり、例 5.21 の (3) が再現される。
まとめ
- 有限次元加群では h が対角化され、ウェイトは整ウェイトで、重複度はワイル群で不変である。
- ウェイト格子は基本ウェイト ωi で張られ、支配的整ウェイトは ∑miωi (mi≥0)。ρ=∑ωi。
- 普遍包絡環 U(L) により表現を結合代数の加群として扱える。PBW の定理により U(L)=U(n−)⊗U(b)。
- ヴェルマ加群 M(λ)≅U(n−) は最高ウェイト加群の普遍的なもので、唯一の既約商 L(λ) をもつ。
- 有限次元既約表現は L(λ) (λ∈Λ+) で尽き、重複なく現れる。
- ワイルの指標公式・次元公式は既約表現の指標と次元を与える。sl3 では dimL(a,b)=(a+1)(b+1)(a+b+2)/2。
- テンソル積は指標の積を最高ウェイトから引き去って分解する。sl2 ではクレブシュ–ゴルダンの公式。
- sln の既約表現はヤング図形で表され、シューア–ワイル双対性で対称群の表現と結びつく。
演習問題
問題 5.1 ★ sl3 の Sym2C3 のウェイトを aω1+bω2 の形で書き、最高ウェイトが 2ω1 であることと、支配的ウェイトが 2ω1 と ω2 の 2 つであることを確かめよ。
解答
ε1=ω1, ε2=ω2−ω1, ε3=−ω2 である(ε2=(ε1+ε2)−ε1)。ウェイトは 2ε1=2ω1, 2ε2=−2ω1+2ω2, 2ε3=−2ω2, ε1+ε2=ω2, ε1+ε3=ω1−ω2, ε2+ε3=−ω1。係数がともに非負のものは 2ω1 と ω2。2ω1−ω2=α1≥0 で、他のウェイトも 2ω1 から正ルートを引いて得られるので、最高ウェイトは 2ω1。次元 6 は次元公式の (3⋅1⋅4)/2=6 と一致する。
問題 5.2 ★ dimL(a,b)=dimL(b,a) を次元公式から確かめ、sl3 の既約表現で次元が 15 のものをすべて求めよ。
解答
公式 (a+1)(b+1)(a+b+2)/2 は a,b について対称である。(a+1)(b+1)(a+b+2)=30 を解く。x=a+1, y=b+1≥1 として xy(x+y)=30。(x,y)=(1,5) なら 1⋅5⋅6=30、(2,3) なら 2⋅3⋅5=30、その他((1,1),(1,2),(1,3),(1,4),(2,2) など)は 30 にならない。よって (a,b)=(0,4),(4,0),(1,2),(2,1) の 4 つ。
問題 5.3 ★★ U(sl2) のカシミール元 C=EF+FE+21H2 が U(sl2) の中心に属することを示し、V(m) 上で 21m(m+2) 倍として作用することを確かめよ。
解答
[E,EF]=E[E,F]=EH, [E,FE]=[E,F]E=HE, [E,H2]=[E,H]H+H[E,H]=−2EH−2HE なので [E,C]=EH+HE−EH−HE=0。対称性(E↔F, H↔−H の自己同型)から [F,C]=0。[H,EF]=[H,E]F+E[H,F]=2EF−2EF=0 などから [H,C]=0。U(sl2) は E,F,H で生成されるので C は中心元である。シューアの補題より C は既約な V(m) にスカラーで作用し、最高ウェイトベクトル v0 に施すと EFv0=[E,F]v0=mv0, FEv0=0, 21H2v0=2m2v0 なので、スカラーは m+2m2=2m(m+2)。
問題 5.4 ★★ sl2 のヴェルマ加群 M(λ) の部分加群をすべて決定せよ。
解答
部分加群はウェイト加群で、各ウェイト空間は 1 次元なので、部分加群 U は {k∣Fkvλ∈U} で決まる。F で閉じるので、Fkvλ∈U となる最小の k を k0 とすると U=span(Fkvλ∣k≥k0)。E で閉じるためには EFk0vλ=k0(λ−k0+1)Fk0−1vλ∈U、すなわち k0=0 または λ=k0−1 が必要十分である。よって λ∈/Z≥0 なら部分加群は 0 と M(λ) だけ、λ=m∈Z≥0 なら 0, C[F]Fm+1vλ≅M(−m−2), M(λ) の 3 つである。
問題 5.5 ★★ B2 型(so5≅sp4)で、α1=e1−e2(長)、α2=e2(短)とする。dimL(aω1+bω2) を次元公式で求め、(a,b)=(0,1),(1,0),(0,2),(1,1) の値を計算せよ。
解答
α1∨=α1, α2∨=2α2 で、正ルートは α1,α2,α1+α2=e1(短), α1+2α2=e1+e2(長)。そのコルートは e1∨=2e1=2α1∨+α2∨, (e1+e2)∨=e1+e2=α1∨+α2∨。x=a+1, y=b+1 とすると ⟨λ+ρ,⋅⟩ は順に x,y,2x+y,x+y、ρ では 1,1,3,2。よって
dimL(aω1+bω2)=6(a+1)(b+1)(2a+b+3)(a+b+2)
(0,1):1⋅2⋅4⋅3/6=4(sp4 の標準表現、so5 のスピン表現)。(1,0):2⋅1⋅5⋅3/6=5(so5 のベクトル表現)。(0,2):1⋅3⋅5⋅4/6=10(随伴表現。最高ルート e1+e2=2ω2)。(1,1):2⋅2⋅6⋅4/6=16。
問題 5.6 ★★ sl3 について (C3)⊗3 を既約分解し、シューア–ワイル双対性(5.8 節)と整合することを確かめよ。
解答
C3⊗C3=L(2ω1)⊕L(ω2)(例 5.21)。さらに C3 を掛ける。L(2ω1)⊗L(ω1) のウェイトは 2εi+εk, εi+εj+εk で、最高ウェイト 3ω1 の L(3ω1)(次元 10)を引くと次元 8、最高ウェイト ω1+ω2=2ε1+ε2 が残るので L(3ω1)⊕L(ω1+ω2)(18=10+8)。L(ω2)⊗L(ω1) は、最高ウェイト ω1+ω2 の L(ω1+ω2) を引くと次元 1 が残り、L(ω1+ω2)⊕L(0)(9=8+1)。よって
(C3)⊗3≅L(3ω1)⊕L(ω1+ω2)⊕2⊕L(0)
これはシューア–ワイル双対性の Sym3⊕S(2,1)⊕2⊕Λ3 と一致する(Λ3C3 は自明表現、S(2,1) は随伴表現で、重複度 2 は S3 の標準表現の次元)。
問題 5.7 ★★★ ワイルの指標公式と分母公式から次元公式(系 5.17)を導け。(ヒント:ν∈E に対し、環準同型 Fν:Z[Λ]→{R 上の関数} を Fν(eμ)(t)=et(μ,ν) で定め、ν=ρ として t→0 とせよ。)
解答
Aμ=∑wε(w)ewμ とおくと指標公式は AρchL(λ)=Aλ+ρ。(wμ,ρ)=(μ,w−1ρ) と ε(w−1)=ε(w) から
Fρ(Aμ)(t)=w∑ε(w)et(μ,w−1ρ)=Fμ(Aρ)(t)=α∈Φ+∏(et(μ,α)/2−e−t(μ,α)/2)
(最後は分母公式に Fμ を施した)。これを μ=λ+ρ と μ=ρ に使い、指標公式に Fρ を施すと、t=0 で
Fρ(chL(λ))(t)=μ∑dimL(λ)μet(μ,ρ)=α∈Φ+∏et(ρ,α)/2−e−t(ρ,α)/2et(λ+ρ,α)/2−e−t(λ+ρ,α)/2
(分母は (ρ,α)>0 より t=0 で 0 でない)。t→0 とすると左辺は ∑μdimL(λ)μ=dimL(λ)、右辺の各因子は (λ+ρ,α)/(ρ,α) に収束する。