この章の目標
- 外測度とカラテオドリの可測性から測度を構成できる(カラテオドリの定理)
- ホップの拡張定理を証明し、ルベーグ測度・ルベーグ–スティルチェス測度を構成できる
- ルベーグ測度の正則性・平行移動不変性・線形変換による変換則を証明できる
- ヴィタリの非可測集合、カントール集合を説明できる
前提:第1章、03-topology 第5章(ハイネ–ボレルの定理)、00-foundations 第6章(選択公理)
区間の長さ、直方体の体積は誰もが知っている。問題はそれを複雑な集合にまで矛盾なく広げることである。方針は二段階からなる。まず直方体の有限和という扱いやすい集合族の上で体積を定め、可算加法性を確かめる(前測度)。次に任意の集合を直方体の可算和で外から覆って「外測度」を定め、その上でうまく振る舞う集合だけを集めると σ-加法族と測度が得られる(カラテオドリの方法)。
2.1 外測度とカラテオドリの定理
定義 2.1(外測度, outer measure)写像 μ∗:P(X)→[0,∞] が次を満たすとき、外測度という。(1) μ∗(∅)=0。(2) A⊂B ならば μ∗(A)≤μ∗(B)。(3) μ∗(⋃nAn)≤∑nμ∗(An)。
命題 2.2 E⊂P(X) は ∅ を含み、ρ:E→[0,∞] は ρ(∅)=0 を満たすとする。A⊂X に対し
μ∗(A)=inf{k=1∑∞ρ(Ek)∣Ek∈E, A⊂k=1⋃∞Ek}
とおく(そのような被覆がなければ ∞)。μ∗ は外測度である。
証明. (1) は ∅ を ∅ で覆えばよく、(2) は B の被覆が A の被覆でもあることによる。(3) は ∑nμ∗(An)<∞ の場合を示せば十分である。ε>0 に対し、An の被覆 (En,k)k を ∑kρ(En,k)<μ∗(An)+ε2−n ととる。(En,k)n,k は ⋃nAn の可算被覆だから μ∗(⋃nAn)≤∑nμ∗(An)+ε。□
外測度はすべての集合に値をもつが、一般に加法的でない(2.6 節)。加法性が成り立つ集合を次のように選び出す。
定義 2.3(カラテオドリの可測性)外測度 μ∗ について、E⊂X が任意の A⊂X に対して
μ∗(A)=μ∗(A∩E)+μ∗(A∩Ec)
を満たすとき、E は μ∗-可測 (Carathéodory measurable) であるという。その全体を M∗ と書く。
「E がどんな集合 A もきれいに二分する」という条件である。劣加法性から ≤ は常に成り立つので、示すべきは μ∗(A)<∞ のときの ≥ だけである。
定理 2.4(カラテオドリの定理, Carathéodory's theorem)M∗ は σ-加法族であり、μ∗ の M∗ への制限は完備な測度である。
証明. (補集合)定義は E と Ec について対称だから、E∈M∗⇒Ec∈M∗。
(有限和)E,F∈M∗、A⊂X とする。E、次に F の可測性を使い、A∩(E∪F)=(A∩E)∪(A∩Ec∩F) と劣加法性を使うと
μ∗(A)=μ∗(A∩E)+μ∗(A∩Ec∩F)+μ∗(A∩Ec∩Fc)≥μ∗(A∩(E∪F))+μ∗(A∩(E∪F)c)
よって E∪F∈M∗ で、M∗ は有限加法族である。
(可算和)E1,E2,⋯∈M∗ を互いに交わらないとし、Bn=⋃k≤nEk、B=⋃kEk とおく。任意の A について、En の可測性を A∩Bn に適用すると μ∗(A∩Bn)=μ∗(A∩En)+μ∗(A∩Bn−1) だから、帰納法で μ∗(A∩Bn)=∑k≤nμ∗(A∩Ek)。Bn∈M∗ と Bc⊂Bnc より
μ∗(A)=μ∗(A∩Bn)+μ∗(A∩Bnc)≥k=1∑nμ∗(A∩Ek)+μ∗(A∩Bc)
n→∞ として劣加法性を使えば μ∗(A)≥∑kμ∗(A∩Ek)+μ∗(A∩Bc)≥μ∗(A∩B)+μ∗(A∩Bc)。よって B∈M∗。A=B とおけば μ∗(B)=∑kμ∗(Ek)(可算加法性)を得る。一般の可算和は、有限加法族であることを使って互いに交わらない和に直せばよい。
(完備性)μ∗(N)=0 なら、任意の A で μ∗(A∩N)+μ∗(A∩Nc)≤0+μ∗(A) だから N∈M∗。零集合の部分集合も外測度 0 なので M∗ に属する。□
2.2 ホップの拡張定理
定義 2.5(前測度, premeasure)A を X 上の有限加法族とする。μ0:A→[0,∞] が μ0(∅)=0 を満たし、互いに交わらない Ak∈A で ⋃kAk∈A となるものについて μ0(⋃kAk)=∑kμ0(Ak) を満たすとき、前測度という。
前測度は有限加法的なので、命題 1.19 と同様に単調かつ有限劣加法的である。
定理 2.6(ホップの拡張定理, Hopf extension theorem)μ0 を有限加法族 A 上の前測度とし、μ∗ を命題 2.2 で E=A、ρ=μ0 として作った外測度とする。
- A 上で μ∗=μ0。
- A⊂M∗。したがって μ:=μ∗∣σ(A) は μ0 を拡張する σ(A) 上の測度である。
- μ0 が σ-有限(X=⋃nXn、Xn∈A、μ0(Xn)<∞)ならば、μ0 を拡張する σ(A) 上の測度は μ だけである。
証明. 1. E∈A は自分自身で覆えるので μ∗(E)≤μ0(E)。逆に E⊂⋃kAk(Ak∈A)とし、Bk=E∩Ak∖(A1∪⋯∪Ak−1)∈A とおくと、Bk は互いに交わらず和は E∈A だから、前測度の性質より μ0(E)=∑kμ0(Bk)≤∑kμ0(Ak)。下限をとって μ0(E)≤μ∗(E)。
- E∈A、A⊂X、μ∗(A)<∞、ε>0 とし、A⊂⋃kAk、∑kμ0(Ak)<μ∗(A)+ε となる Ak∈A をとる。(Ak∩E)k は A∩E の、(Ak∩Ec)k は A∩Ec の A による被覆で、μ0(Ak)=μ0(Ak∩E)+μ0(Ak∩Ec) だから
μ∗(A∩E)+μ∗(A∩Ec)≤k∑μ0(Ak)<μ∗(A)+ε
よって E∈M∗。M∗ は σ-加法族だから σ(A)⊂M∗ で、定理 2.4 と 1 から後半が従う。
- Xn を X1∪⋯∪Xn に取り替えて増加列としてよい(有限劣加法性より測度は有限のまま)。A は π-系だから、定理 1.31 より拡張は一意である。□
2.3 Rn のルベーグ測度
−∞≤ai<bi≤∞ に対し R=∏i=1n(ai,bi] を半開直方体と呼ぶ(bi=∞ のときの (ai,∞] は (ai,∞) と読む)。その体積を vol(R)=∏i(bi−ai)∈(0,∞] と定める。
補題 2.7 有限個の互いに交わらない半開直方体の和全体を An とする(∅ を含める)。An は有限加法族であり、σ(An)=B(Rn) である。
証明. 二つの半開直方体の共通部分は、座標ごとの共通部分をとれば半開直方体か空集合である。(a,b] の補集合は (−∞,a]∪(b,∞) であり、R=∏iIi の補集合は「xk∈/Ik となる最初の k」で分類して
Rc=k=1⨆nI1×⋯×Ik−1×Ikc×R×⋯×R
と交わらない和に分解されるから、An に属する。An の元の共通部分は (⨆jRj)∩(⨆kSk)=⨆j,k(Rj∩Sk) で An に属し、補集合 (⨆jRj)c=⋂jRjc も An の元の共通部分として An に属する。後半は命題 1.14 による。□
補題 2.8(体積の可算加法性)半開直方体 R が互いに交わらない半開直方体 R1,R2,…(有限個または可算個)の和であれば、vol(R)=∑kvol(Rk) である。
証明. (有限個の場合)R が非有界なら、有界な直方体の有限和は有界だから、ある Rk も非有界で両辺は ∞ である。R が有界なら、各座標 i について R1,…,Rm の第 i 座標の端点すべてで (ai,bi] を細分し、その積として得られる格子状の小直方体(格子直方体)を考える。R と各 Rk は格子直方体の交わらない和であり、Rk の各辺の長さはその辺を分割する小区間の長さの和だから、積を展開して vol(Rk)=∑G⊂Rkvol(G)(G は格子直方体)。同様に vol(R)=∑Gvol(G)=∑k∑G⊂Rkvol(G)=∑kvol(Rk)。
この結果、λ0(⨆jRj):=∑jvol(Rj) は表し方によらずに定まる(二つの表し方の共通細分 Rj∩Sk を考える)。λ0 は An 上で有限加法的、したがって単調かつ有限劣加法的である。
(可算個の場合)各 N について R∖(R1∪⋯∪RN)∈An だから、単調性と有限加法性より vol(R)≥∑k≤Nvol(Rk)。逆向きの不等式を示す。まず R=∏i(ai,bi] が有界とし、ε>0 をとる。δ>0 を小さくとって R′=∏i(ai+δ,bi] が vol(R′)>vol(R)−ε を満たすようにする。各 Rk=∏i(ck,i,dk,i] について δk>0 を小さくとり、開直方体 Vk=∏i(ck,i,dk,i+δk) と Rk=∏i(ck,i,dk,i+δk] が vol(Rk)<vol(Rk)+ε2−k を満たすようにする。コンパクト集合 K=∏i[ai+δ,bi] は開集合 Vk たちで覆われるので、ハイネ–ボレルの定理より K⊂V1∪⋯∪VN となる N がある。R′⊂K⊂R1∪⋯∪RN と有限劣加法性より
vol(R)−ε<vol(R′)≤k=1∑Nvol(Rk)<k=1∑∞vol(Rk)+ε
R が非有界なら、R∩(−m,m]n=⨆k(Rk∩(−m,m]n) に有界の場合を適用して vol(R∩(−m,m]n)≤∑kvol(Rk) を得、m→∞ とすればよい。□
A∈An が Ak∈An の交わらない可算和なら、A と Ak を直方体に分けて補題 2.8 を適用し、非負項の和の順序を入れ替えれば λ0(A)=∑kλ0(Ak) がわかる。つまり λ0 は An 上の前測度であり、λ0((−m,m]n)<∞ だから σ-有限である。
定義 2.9(ルベーグ測度, Lebesgue measure)λ0 にホップの拡張定理を適用して得られる外測度をルベーグ外測度 λ∗、λ∗-可測集合をルベーグ可測集合といい、その全体を L(Rn) と書く。λ=λ∗∣L(Rn) を Rn のルベーグ測度という。
定理 2.4 と 2.6 より、λ は完備な測度、B(Rn)⊂L(Rn)、λ(R)=vol(R) であり、B(Rn) 上でこの性質をもつ測度は λ だけである。非有界な直方体は有界な直方体の可算和なので、次のように書ける:
λ∗(A)=inf{k=1∑∞vol(Rk)∣Rk は有界な半開直方体, A⊂k⋃Rk}
例 2.10 (1) 一点 x は ∏i(xi−ε,xi] に含まれるので λ({x})=0。可算集合は零集合で、Q は稠密だが λ(Q)=0 である。したがって λ([a,b])=λ((a,b))=b−a。
(2) Rn(n≥2)の超平面 H={x1=c} は零集合である。H∩(−m,m]n⊂(c−δ,c]×(−m,m]n−1 の体積 δ(2m)n−1 はいくらでも小さく、H はその可算和だからである。
(3) Q の元を q1,q2,… と並べ U=⋃k(qk−ε2−k,qk+ε2−k) とおくと、U は稠密な開集合で λ(U)≤2ε。「稠密」と「大きい」は別物である。
2.4 正則性
ルベーグ可測集合は、外からは開集合で、内からはコンパクト集合で近似できる。
定理 2.11(正則性, regularity)E∈L(Rn) とする。
- λ(E)=inf{λ(U)∣U⊃E, U は開集合}(外正則性)。
- λ(E)=sup{λ(K)∣K⊂E, K はコンパクト}(内正則性)。
- 任意の ε>0 に対し、開集合 U⊃E と閉集合 F⊂E で λ(U∖E)<ε、λ(E∖F)<ε となるものがある。
- Gδ 集合 G と Fσ 集合 F で、F⊂E⊂G、λ(G∖F)=0 となるものがある。
証明. 1. λ(E)<∞ としてよい。ε>0 に対し、E⊂⋃kRk、∑kvol(Rk)<λ(E)+ε となる有界な半開直方体 Rk をとる。補題 2.8 の証明のように Rk の右端を少し広げた開直方体 Uk⊃Rk で λ(Uk)<vol(Rk)+ε2−k となるものをとれば、U=⋃kUk は開集合で λ(U)<λ(E)+2ε。
-
Em=E∩(−m,m]n は有限測度だから、1 より開集合 Um⊃Em で λ(Um∖Em)=λ(Um)−λ(Em)<ε2−m となるものがある。U=⋃mUm は E を含む開集合で、U∖E⊂⋃m(Um∖Em) より λ(U∖E)<ε。閉集合の方は、Ec に適用して開集合 V⊃Ec、λ(V∖Ec)<ε をとり、F=Vc とおけばよい(E∖F=V∖Ec)。
-
3 の閉集合 F に対し Km=F∩[−m,m]n はコンパクトで、下からの連続性より λ(Km)→λ(F)≥λ(E)−ε(λ(E)=∞ なら λ(F)=∞)。
-
3 で ε=1/k としたものを Uk,Fk とし、G=⋂kUk、F=⋃kFk とおく。λ(G∖F)≤λ(Uk∖E)+λ(E∖Fk)<2/k がすべての k で成り立つ。□
系 2.12 L(Rn) は B(Rn) の λ に関する完備化である。すなわち、E がルベーグ可測であることと、ボレル集合 B とボレル零集合に含まれる集合 N によって E=B∪N と書けることは同値である。
証明. L(Rn) は完備で B(Rn) を含むから、完備化を含む。逆に定理 2.11 の 4 より E=F∪(E∖F) で、F はボレル集合、E∖F はボレル零集合 G∖F に含まれる。□
2.5 平行移動不変性と線形変換
定理 2.13(平行移動不変性)E∈L(Rn)、x∈Rn ならば E+x∈L(Rn) かつ λ(E+x)=λ(E)。
証明. 直方体の平行移動は同じ体積の直方体だから、被覆どうしの対応により任意の A で λ∗(A+x)=λ∗(A)。これを使うと λ∗(A∩(E+x))+λ∗(A∩(E+x)c)=λ∗((A−x)∩E)+λ∗((A−x)∩Ec)=λ∗(A−x)=λ∗(A) となり、E+x は可測である。□
逆に、平行移動不変性はルベーグ測度を特徴づける。
定理 2.14 μ を B(Rn) 上の平行移動不変な測度で c:=μ((0,1]n)<∞ を満たすものとする。このとき μ=cλ である。
証明. (0,1]n は一辺 2−m の二進立方体 2mn 個の交わらない和で、それらは互いに平行移動で移り合うから、一辺 2−m の二進立方体 Q について μ(Q)=c2−mn=cλ(Q)。端点が二進有理数の半開直方体は、十分小さい同じ大きさの二進立方体の有限個の交わらない和だから、そこでも μ=cλ。そのような直方体全体と ∅ は π-系で、命題 1.14 より B(Rn) を生成する。Xm=(−m,m]n として定理 1.31 を適用すればよい。□
定理 2.15(線形変換)T:Rn→Rn を線形写像とする。E∈L(Rn) ならば T(E)∈L(Rn) であり、λ(T(E))=∣detT∣ λ(E)。
証明. T が正則とする。T は同相写像だからボレル集合をボレル集合に写し、μT(E):=λ(T(E)) は B(Rn) 上の測度である。T(E+x)=T(E)+Tx より平行移動不変で、T((0,1]n) は有界だから有限値である。定理 2.14 より λ(T(E))=c(T)λ(E)、c(T)=λ(T((0,1]n))。λ(ST(E))=c(S)c(T)λ(E) より c(ST)=c(S)c(T) で、det も乗法的だから、c(T)=∣detT∣ は基本行列について示せば十分である(02-linear-algebra 第4章)。
- 座標の置換は (0,1]n を自分自身に写すので c=1。
- 第1座標の a 倍(a=0)は (0,1]n を一辺の長さ ∣a∣ の直方体(端点の開閉は零集合の差)に写すので c=∣a∣。
- シアー T(x)=(x1+x2,x2,…,xn) について、S=T((0,1]n) を S1=S∩{y1≤1} と S2=S∩{y1>1} に分けると、S1={y2<y1≤1}、S2−e1={0<y1≤y2}(いずれも他の座標は (0,1])で、両者は (0,1]n を交わらずに埋め尽くす。平行移動不変性より c(T)=λ(S1)+λ(S2−e1)=1。一般のシアー xi↦xi+txj はこれを置換と定数倍で共役にしたものだから、やはり c=1。
ルベーグ可測集合 E=B∪N(系 2.12)については、N⊂G(ボレル零集合)とすると λ(T(G))=0 だから T(N) は零集合に含まれ、T(E) は可測で λ(T(E))=λ(T(B))。T が正則でなければ、T(Rn) は超平面に含まれ零集合なので、T(E) は可測で測度 0 である。□
特に λ(rE)=rnλ(E)(r>0)であり、ルベーグ測度は直交変換(回転・鏡映)で不変である。一次独立なベクトル v1,…,vn の張る平行体の体積は ∣det(v1,…,vn)∣ である。
2.6 非可測集合の存在
定理 2.16(ヴィタリ, Vitali)ルベーグ可測でない V⊂[0,1] が存在する(選択公理を用いる)。
証明. [0,1] 上の同値関係 x∼y⇔x−y∈Q を考え、選択公理により各同値類からちょうど 1 つずつ元を選んだ集合を V とする。Q∩[−1,1] を q1,q2,… と並べ、Vk=V+qk とおく。
(a) Vk は互いに交わらない。x∈Vk∩Vl なら x=v+qk=v′+ql(v,v′∈V)で v−v′∈Q、よって v,v′ は同じ同値類の代表だから v=v′、したがって qk=ql。
(b) [0,1]⊂⋃kVk⊂[−1,2]。x∈[0,1] の同値類の代表を v∈V とすると x−v∈Q∩[−1,1] だから x∈Vk となる k がある。
V が可測なら平行移動不変性より λ(Vk)=λ(V) で、(a)(b) より 1≤∑kλ(V)≤3。しかし右の和は λ(V)=0 なら 0、λ(V)>0 なら ∞ であり、矛盾する。□
この証明が使ったのは可算加法性と平行移動不変性だけである。したがって、P(R) 全体の上で定義され、平行移動不変で、[0,1] に有限正の値を与える測度は存在しない。これが測度を σ-加法族の上に制限する理由である。また λ∗ は P(R) 上で可算加法的でない(問題 2.4)。
補足
選択公理は本質的である。ソロヴェイ(1970年)は、選択公理の代わりに従属選択公理のみを仮定する集合論のモデルで、R のすべての部分集合がルベーグ可測になりうることを示した(到達不能基数の存在を仮定する。主張のみ)。
2.7 カントール集合
C0=[0,1] から始めて、Ck+1=31Ck∪(32+31Ck) とおく。Ck は長さ 3−k の閉区間 2k 個の交わらない和であり、Ck+1 は Ck の各区間から中央の開区間 31 を取り除いたものである。C=⋂kCk をカントール集合 (Cantor set) という。
命題 2.17 カントール集合 C はコンパクトで内点をもたない零集合であり、その濃度は連続体濃度 c である。
証明. 閉集合の共通部分で有界だからコンパクトである。λ(C)≤λ(Ck)=(2/3)k→0。C は長さ 3−k より長い区間を含まないので内点をもたない。
帰納法により、Ck の 2k 個の区間は a1,…,ak∈{0,2} によって Ia1⋯ak=[∑j≤kaj3−j, ∑j≤kaj3−j+3−k] と書け、Ia1⋯akak+1⊂Ia1⋯ak であり、同じ段階の異なる区間は交わらない。x∈C なら各段階で x を含む区間がただ一つあり、それらは入れ子だから、一つの列 (aj)∈{0,2}N が定まって x=∑jaj3−j となる。逆に任意の (aj)∈{0,2}N に対し ∑jaj3−j はすべての Ia1⋯ak に属するので C の元であり、異なる列は(ある段階で異なる区間に入るので)異なる点を与える。よって C は {0,2}N と全単射で対応し、濃度は 2ℵ0=c。□
つまり C は「3 進展開で数字 1 を使わずに書ける数」の全体である。零集合は「小さい」が、可算とは限らない。
例 2.18(太ったカントール集合)第 k 段階で残った 2k−1 個の閉区間それぞれの中央から、長さ 4−k の開区間を取り除く(第 k 段階の区間は長さ 4−k より長いので可能である)。取り除く長さの合計は ∑k≥12k−14−k=21 だから、残る閉集合 F は内点をもたないが λ(F)=21 である。「内点をもたない」と「測度 0」も別物である。
命題 2.19 ルベーグ可測だがボレル集合でない集合が存在する。
証明の方針. C は零集合で λ は完備だから、C の 2c 個の部分集合はすべてルベーグ可測である。一方 B(R) の濃度は c である(注意 1.16、証明は省略した)。よって L(R)=B(R)。□
カントール関数を使った具体的な構成は第7章の問題 7.6 で扱う。
2.8 ルベーグ–スティルチェス測度
確率論の分布や「点に質量のある測度」を扱うため、長さ b−a を一般の増加関数の増分 F(b)−F(a) に取り替える。
定理 2.20(ルベーグ–スティルチェス測度)F:R→R が単調非減少かつ右連続ならば、B(R) 上の測度 μF で、すべての a<b について μF((a,b])=F(b)−F(a) を満たすものがただ一つ存在する。逆に、有界集合上で有限値をとる B(R) 上の測度 μ は、x≥0 で F(x)=μ((0,x])、x<0 で F(x)=−μ((x,0]) とおけばこの形に書ける。
証明. F(±∞)=limx→±∞F(x)(±∞ も許す)とし、A1 上で μ0(⨆j(aj,bj])=∑j(F(bj)−F(aj)) と定める。(a,b] を隣り合う区間に分けたときの加法性は和が望遠鏡和になることからわかり、補題 2.8 の前半と同様に μ0 は矛盾なく定まって有限加法的である。可算加法性の証明も補題 2.8 と同じで、変更点は近似の段階だけである。有界な (a,b] に対し、F の a での右連続性から F(a+δ)−F(a)<ε となる δ をとって [a+δ,b] で近似し、各 (ak,bk] は bk での右連続性から F(bk+δk)−F(bk)<ε2−k となる (ak,bk+δk) で覆う。非有界な場合は F(±∞) の定義から従う。よって μ0 は σ-有限な前測度で、ホップの拡張定理から μF が一意に存在する。
逆に、μ から定めた F は単調非減少で、測度の連続性(定理 1.20。x≥0 では (0,x+h] に上からの連続性、x<0 では (x+h,0] に下からの連続性を使う)より右連続であり、a,b の符号で場合分けすれば μ((a,b])=F(b)−F(a) がわかる。系 1.32 より μ=μF。□
μF を完備化したものも、ルベーグ–スティルチェス測度と呼ぶ。F に定数を加えても μF は変わらない。
例 2.21 (1) F(x)=x ならルベーグ測度、F=1[0,∞) なら δ0、F(x)=⌊x⌋ なら Z 上の数え上げ測度である。
(2) 上からの連続性より μF({a})=limkμF((a−1/k,a])=F(a)−F(a−)。したがって μF が一点に正の測度(原子 (atom))をもつのは F が不連続な点に限られ、そこでの跳びが原子の質量になる。同様に μF([a,b])=F(b)−F(a−)、μF((a,b))=F(b−)−F(a)。
(3) 確率測度 μ に対し F(x)=μ((−∞,x]) を分布関数という。標準正規分布は F(x)=2π1∫−∞xe−t2/2 dt に対応する(11-probability 第1章)。第7章のカントール関数は、連続なのにルベーグ測度と「直交する」分布を与える。
まとめ
- 外測度から、カラテオドリの条件を満たす集合を集めると完備な測度空間が得られる(カラテオドリの定理)。
- 有限加法族上の前測度は σ-加法族上の測度に拡張でき、σ-有限なら拡張は一意である(ホップの拡張定理)。
- 半開直方体の体積の可算加法性はハイネ–ボレルの定理(コンパクト性)から従い、これによって Rn のルベーグ測度が構成される。
- ルベーグ可測集合は開集合で外から、コンパクト集合で内から近似でき、ボレル集合と零集合の差しかない(L は B の完備化)。
- ルベーグ測度は平行移動不変であり、それで定数倍を除いて特徴づけられる。線形写像 T で測度は ∣detT∣ 倍になる。
- 選択公理のもとで非可測集合が存在する(ヴィタリ)。すべての集合に長さを与えることはできない。
- カントール集合は非可算な零集合である。単調非減少で右連続な F はルベーグ–スティルチェス測度 μF を定める。
演習問題
問題 2.1 ★ F(x)=0(x<0)、x+21(0≤x<1)、2(x≥1)とする。μF({0})、μF({1})、μF((0,1))、μF([0,1]) を求め、μF を δ と λ で表せ。
解答
例 2.21 (2) より μF({0})=F(0)−F(0−)=21、μF({1})=F(1)−F(1−)=2−23=21、μF((0,1))=F(1−)−F(0)=23−21=1、μF([0,1])=F(1)−F(0−)=2。ν=21δ0+λ∣[0,1]+21δ1 とすると、すべての (a,b] で ν((a,b])=F(b)−F(a) が確かめられるので、系 1.32 より μF=ν。
問題 2.2 ★★ カントール集合 C について C+C:={x+y∣x,y∈C}=[0,2] を示せ。零集合どうしの和が正の測度をもちうる。
解答
命題 2.17 より 21C={∑jbj3−j∣bj∈{0,1}}。任意の t∈[0,1] は 3 進展開 t=∑jcj3−j(cj∈{0,1,2})をもち、cj=bj+bj′(bj,bj′∈{0,1})と分解できるから、t∈21C+21C。逆の包含は C⊂[0,1] から明らか。よって 21C+21C=[0,1]、すなわち C+C=[0,2]。
問題 2.3 ★★ E⊂Rn がルベーグ可測であるための必要十分条件は、任意の ε>0 に対して λ∗(U∖E)<ε となる開集合 U⊃E が存在することであることを示せ。
解答
必要性は定理 2.11 の 3。十分性:Uk⊃E を λ∗(Uk∖E)<1/k ととり、G=⋂kUk とおく。G はボレル集合で、G∖E⊂Uk∖E より λ∗(G∖E)=0。外測度 0 の集合は可測(定理 2.4)だから、E=G∖(G∖E) は可測である。
問題 2.4 ★★ ヴィタリの定理の V,Vk について、λ∗(V)>0 であり、λ∗(⋃kVk)<∑kλ∗(Vk) となることを示せ。
解答
λ∗(V)=0 なら V は可測になってしまう(定理 2.4)ので λ∗(V)>0。外測度も平行移動不変(定理 2.13 の証明)だから ∑kλ∗(Vk)=∑kλ∗(V)=∞。一方 ⋃kVk⊂[−1,2] より左辺は 3 以下である。
問題 2.5 ★★ ほとんどすべての x∈[0,1] について、x−qp<q31 を満たす整数の組 (p,q)(q≥1)は有限個しかないことを示せ。
解答
x∈[0,1] で ∣x−p/q∣<q−3≤q−2 なら p∈{0,1,…,q} である(q=1 も含めて確かめられる)。Aq=⋃p=0q(p/q−q−3,p/q+q−3) とおくと λ(Aq)≤2(q+1)q−3≤4q−2 で、∑q4q−2<∞。ボレル–カンテリの補題(命題 1.22)より、ほとんどすべての x は有限個の Aq にしか属さない。各 q について p は有限個だから、組 (p,q) も有限個である。
問題 2.6 ★★★(シュタインハウスの定理)E∈L(R)、λ(E)>0 ならば、E−E={x−y∣x,y∈E} は 0 の近傍を含むことを示せ。
解答
内正則性より、コンパクト集合 K⊂E で 0<λ(K)<∞ となるものがある。外正則性より開集合 U⊃K で λ(U)<2λ(K) となるものをとる。コンパクト集合 K と閉集合 Uc は交わらないので δ=inf{∣x−y∣∣x∈K,y∈/U}>0(U=R なら δ=∞)。∣t∣<δ なら K+t⊂U。もし (K+t)∩K=∅ なら λ(U)≥λ(K+t)+λ(K)=2λ(K) となり矛盾する。よって x+t=y となる x,y∈K があり、t=y−x∈E−E。したがって (−δ,δ)⊂E−E。