この章の目標
- 積閉集合による分数環・分数加群を構成し、局所化が完全関手(したがって平坦)であることを証明する
- 加群が 0 であること・単射・全射・平坦性が局所的性質であることを証明する
- 局所化での素イデアルの対応を証明し、SpecA のザリスキー位相(準コンパクト性・生成点・関手性)を扱える
- SpecZ、SpecK[x]、SpecC[x,y] の点を分類できる
前提:第1章、集合と位相 第2章(位相空間)、集合と位相 第5章(コンパクト性)
関数 f の分母を許すことは、f の零点を取り除くことである。K[x] に 1/x を加えた K[x,x−1] は「原点を除いた直線」上の関数の環であり、x で割り切れない(原点で 0 にならない)多項式をすべて分母に許した K[x](x) は「原点のいくらでも小さな近傍」上の関数の環である。この操作が局所化であり、幾何的には開集合への制限、あるいは 1 点のまわりへのズームにあたる。局所化で調べて全体に戻す「局所–大域」の議論は、可換環論と代数幾何学の基本技法である。
2.1 積閉集合と分数環
定義 2.1 部分集合 S⊂A が 1∈S をみたし乗法で閉じているとき、積閉集合 (multiplicative subset) という。
定理 2.2(分数環, ring of fractions)S を積閉集合とする。A×S 上の関係
(a,s)∼(b,t)⟺ある u∈S で u(at−bs)=0
は同値関係であり、(a,s) の類を a/s、商集合を S−1A と書くと、a/s+b/t=(at+bs)/st、(a/s)(b/t)=ab/st により S−1A は環になる。ι:A→S−1A, a↦a/1 は環準同型で、ι(S)⊂(S−1A)×、Kerι={a∣sa=0 (∃s∈S)} である。さらに次の普遍性をもつ:環準同型 φ:A→B が φ(S)⊂B× をみたせば、ψ∘ι=φ となる環準同型 ψ:S−1A→B がただ一つ存在する。
証明. 反射律・対称律は明らか。推移律:u(at−bs)=0, v(br−ct)=0 の第 1 式に vr、第 2 式に us を掛けて加えると uvrat−uvsct=0、すなわち (uvt)(ar−cs)=0 で uvt∈S。加法の well-definedness:u(as′−a′s)=0 なら
u[(at+bs)s′t−(a′t+bs′)st]=ut2(as′−a′s)=0
乗法も同様で、環の公理は分数の通常の計算と同じく確かめられる。ι(s)⋅(1/s)=1 であり、a/1=0/1⟺ua=0 (∃u∈S) である。普遍性:ψ(a/s):=φ(a)φ(s)−1 とおく。u(at−bs)=0 なら φ(u) が単元なので φ(a)φ(t)=φ(b)φ(s) となり well-defined。準同型であることは直接確かめられる。一意性は ψ(a/s)ψ(s/1)=ψ(a/1)=φ(a) から従う。□
例 2.4 (1) f∈A に対し S={fn∣n≥0} のとき S−1A=:Af。普遍性から Af≅A[t]/(ft−1) であり、Af=0⟺0∈S⟺f は冪零。
(2) 素イデアル p に対し S=A∖p のとき S−1A=:Ap(p での局所化)。Z(p), K[x](x) はこの例である。
(3) A が整域で S=A∖{0} なら S−1A=FracA。
(4) A=K[x,y]/(xy) では x⋅y=0 より Ax で y/1=0 となり、Ax≅K[x,x−1]。2 本の座標軸の和集合から x=0 の部分を取り出すと「原点を除いた x 軸」が残る。
2.2 分数加群と完全性
定義 2.5 A 加群 M に対し、M×S に (x,s)∼(y,t)⟺u(tx−sy)=0 (∃u∈S) で同値関係を入れた商を S−1M と書く。S−1A 加群であり、p に対しては Mp、f に対しては Mf と書く。準同型 φ:M→N は S−1φ(x/s)=φ(x)/s を誘導する。
命題 2.6 S−1A⊗AM≅S−1M((a/s)⊗x↦ax/s)。
証明. (a/s,x)↦ax/s は well-defined な双線形写像で、誘導される α は全射である。S−1A⊗M の元は通分により (1/s)⊗x の形に書ける:∑(ai/si)⊗xi=∑(1/s)⊗tiaixi(s=∏si, ti=s/si)。α((1/s)⊗x)=x/s=0 なら ux=0 となる u∈S があり、(1/s)⊗x=(u/us)⊗x=(1/us)⊗ux=0。よって α は単射である。□
定理 2.7(局所化の完全性)M′fMgM′′ が M で完全ならば、S−1M′→S−1M→S−1M′′ も完全である。
証明. gf=0 より合成は 0。S−1g(x/s)=g(x)/s=0 なら ug(x)=0 となる u∈S があり、g(ux)=0 だから ux=f(x′) と書ける。このとき x/s=ux/us=S−1f(x′/us)。□
系 2.8 (1) S−1A は平坦な A 加群である。特に Q は平坦な Z 加群である。
(2) 部分加群 N,P⊂M について S−1(N+P)=S−1N+S−1P、S−1(N∩P)=S−1N∩S−1P、S−1(M/N)≅S−1M/S−1N。
証明. (1) 命題 2.6 と定理 2.7。(2) 和は明らか。0→N∩P→M→M/N⊕M/P と 0→N→M→M/N→0 の完全性が局所化で保たれることから従う。□
定義 2.9(台, support)SuppM:={p∈SpecA∣Mp=0} を M の台という。
命題 2.10 M が有限生成ならば SuppM=V(AnnM)。
証明. M=∑i=1nAxi とする。Mp=0⟺ 各 i で sixi=0 となる si∈/p がある ⟺ AnnM⊂p。実際、前者なら s=∏si∈AnnM∖p、後者なら s∈AnnM∖p がすべての xi を零化する。□
例 2.11 Supp(Z/12)={(2),(3)}、Supp(A/I)=V(I)。有限生成でないと命題 2.10 は成り立たない:M=⨁pZ/p では AnnM=0 で V(0)=SpecZ だが、M(0)=M⊗Q=0 なので SuppM は閉点全体であり、閉集合ですらない(例 2.29)。
2.3 局所的性質
性質 P が「M が P をもつ ⟺ すべての p で Mp が P をもつ」をみたすとき、P は局所的性質 (local property) であるという。
命題 2.12 次は同値である:(a) M=0 (b) すべての素イデアル p で Mp=0 (c) すべての極大イデアル m で Mm=0。
証明. (a)⇒(b)⇒(c) は明らか。M=0 として 0=x∈M をとる。Ann(x)=A を含む極大イデアル m をとると、x/1=0 in Mm なら sx=0 となる s∈/m があるが、s∈Ann(x)⊂m に反する。よって Mm=0。□
命題 2.13 φ:M→N が単射(全射)⟺ すべての極大イデアル m で φm:Mm→Nm が単射(全射)。
証明. 完全列 0→Kerφ→M→N→Cokerφ→0 を局所化すると、定理 2.7 より (Kerφ)m=Kerφm、(Cokerφ)m=Cokerφm。命題 2.12 を適用する。□
補題 2.14 (1) S−1A 加群 P に対し P⊗S−1AS−1M≅P⊗AM。(2) S−1(M⊗AN)≅S−1M⊗S−1AS−1N。
証明. (1) 命題 2.6 とテンソル積の結合法則 P⊗S−1A(S−1A⊗AM)≅(P⊗S−1AS−1A)⊗AM≅P⊗AM(普遍性から命題 1.27 と同様に示せる)による。(2) (1) で P=S−1N とすると、右辺 ≅S−1N⊗AM≅S−1A⊗AN⊗AM≅S−1(N⊗AM)。□
命題 2.15(平坦性は局所的)A 加群 M について次は同値である:(a) M は平坦 (b) すべての p で Mp は平坦な Ap 加群 (c) すべての極大イデアル m で Mm は平坦な Am 加群。
証明. (a)⇒(b):Ap 加群の単射 N′→N は A 加群の単射でもあり、補題 2.14 (1) より N′⊗ApMp→N⊗ApMp は N′⊗AM→N⊗AM と同一視されるので単射。(b)⇒(c) は明らか。(c)⇒(a):A 加群の単射 N′→N に対し、補題 2.14 (2) より (N′⊗AM)m→(N⊗AM)m は Nm′⊗Mm→Nm⊗Mm と同一視される。Nm′→Nm は単射(定理 2.7)で Mm は平坦なのでこれは単射。命題 2.13 より N′⊗M→N⊗M は単射。□
例 2.16(局所的でない性質)(1) 整域であること:A=K×K の素イデアルは K×0 と 0×K で、どちらの局所化も K(体)だが、A は整域でない。
(2) 自由であること:Z[−5] のイデアル (2,1+−5) は各局所化で単項(階数 1 の自由加群)だが、単項イデアルではない(第7章)。「局所自由」と「自由」の差が類群を生む。
(3) ネーター性:∏n∈NF2 はネーター環でないが、すべての局所化は F2 である(第3章の問題 3.1)。
2.4 局所化と素イデアルの対応
定理 2.17 ι:A→S−1A を自然な準同型とする。p↦S−1p と q↦ι−1(q) は、S と交わらない A の素イデアルの集合と S−1A の素イデアルの集合の間の、包含関係を保つ互いに逆な全単射である。
証明. S−1A の任意のイデアル J について J=S−1(ι−1J) である(a/s∈J なら a/1=s⋅(a/s)∈J)。q が素イデアルなら ι−1(q) は素イデアルで、S の元は単元に写るので S と交わらない。逆に p∩S=∅ とする。a/s∈S−1p なら a/s=p/t (p∈p) と書け、u(at−ps)=0 より uta∈p、ut∈/p なので a∈p。すなわち a/s∈S−1p⟺a∈p である。これから 1∈/S−1p、S−1p は素イデアル、ι−1(S−1p)=p が従う。□
系 2.18 (1) Ap は pAp を極大イデアルとする局所環で、その素イデアルは p に含まれる A の素イデアルと 1 対 1 に対応する。
(2) Ap/pAp≅κ(p)。
(3) nil(S−1A)=S−1nil(A)。
証明. (1) 定理 2.17 で S=A∖p。(2) 系 2.8 より Ap/pAp≅(A/p)p で、これは整域 A/p の非零元をすべて分母に許したものだから Frac(A/p)。(3) (a/s)n=0 なら uan=0、(ua)n=0 より a/s=ua/us∈S−1nil(A)。逆は明らか。□
幾何的には、SpecAp は「p を通るすべての既約閉集合の生成点」の集合で、点 p の無限小の近傍にあたる。たとえば SpecZ(p)={(0),(p)}、SpecK[x,y](x,y) は原点・原点を通る既約曲線の生成点・平面の生成点 (0) からなる。
命題 2.19(ファイバー)環準同型 φ:A→B と p∈SpecA について、B⊗Aκ(p) の素イデアルは、φ−1(q)=p となる q∈SpecB と 1 対 1 に対応する。
証明. T=φ(A∖p) とおくと B⊗Aκ(p)≅B⊗AAp/pAp≅T−1(B/pB)。その素イデアルは、pB を含み T と交わらない B の素イデアル q、すなわち φ−1(q)⊃p かつ φ−1(q)⊂p となるものに対応する(定理 2.17 と剰余環の素イデアルの対応)。□
これで第1章の例 1.35(Z[−5] のファイバー)の解釈が正当化される。
2.5 ザリスキー位相
V(I) を閉集合とする位相を入れると、SpecA は幾何的な空間になる。
命題 2.20(ザリスキー位相, Zariski topology)SpecA の部分集合 V(I)(I はイデアル)全体は閉集合の公理をみたす:V(0)=SpecA、V(A)=∅、⋂λV(Iλ)=V(∑λIλ)、V(I)∪V(J)=V(IJ)。
証明. 最後の等式は命題 1.5、他は定義から明らか。□
f∈A に対し D(f):=SpecA∖V((f)) を基本開集合という。D(f) は「f の値が 0 でない点」の集合である。
命題 2.21 (1) D(f) たちは開基をなし、D(f)∩D(g)=D(fg)。
(2) D(f)=∅⟺f は冪零。D(f)=SpecA⟺f∈A×。
(3) D(f)⊂D(g)⟺f∈(g)。
証明. (1) 開集合 SpecA∖V(I)=⋃f∈ID(f)。p∋fg⟺p∋f かつ p∋g。(2) 定理 1.9 と、非単元が極大イデアルに含まれること。(3) D(f)⊂D(g)⟺V(g)⊂V(f)⟺f∈⋂p∋gp=(g)(系 1.10)。□
定理 2.22 SpecA は準コンパクトである(任意の開被覆が有限部分被覆をもつ)。
証明. 基本開集合による被覆 SpecA=⋃λD(fλ) について示せば十分。これは V(∑λ(fλ))=∅、すなわち (fλ)λ=A を意味するので、1=a1fλ1+⋯+anfλn と有限個で書け、SpecA=D(fλ1)∪⋯∪D(fλn)。□
「準」とつけるのは、一般にはハウスドルフでないからである。実際、次に見るように 1 点が閉集合とは限らない。
命題 2.23 部分集合 Y⊂SpecA に対し I(Y):=⋂p∈Yp とおくと Y=V(I(Y))。特に {p}=V(p) であり、{p} が閉集合 ⟺ p は極大イデアル。さらに I↦V(I) は根基イデアルと閉集合の間の包含を逆にする全単射で、逆写像は Y↦I(Y) である。
証明. V(J)⊃Y⟺ すべての p∈Y が J を含む ⟺J⊂I(Y) なので、Y を含む最小の閉集合は V(I(Y))。I(V(J))=J(系 1.10)なので、根基イデアル J について I(V(J))=J、閉集合 Y について V(I(Y))=Y=Y。□
定義 2.24 空でない位相空間が、2 つの真の閉部分集合の和集合に書けないとき既約 (irreducible) という。既約閉集合 Y に対し {η}=Y となる点 η を Y の生成点 (generic point) という。
定理 2.25 閉集合 Y⊂SpecA が既約 ⟺ I(Y) は素イデアル。したがって既約閉集合は素イデアル p により V(p) と書け、ただ一つの生成点 p をもつ。
証明. V(p)=Y1∪Y2(閉集合)なら p∈Y1 としてよく、V(p)={p}⊂Y1 だから既約。逆に Y が既約で ab∈I(Y) なら、Y=(Y∩V(a))∪(Y∩V(b)) より Y⊂V(a) または Y⊂V(b)、すなわち a∈I(Y) または b∈I(Y)。Y=∅ より I(Y)=A。生成点の一意性は命題 2.23 の全単射性による。□
命題 2.26(関手性)環準同型 φ:A→B は連続写像 φ∗:SpecB→SpecA, q↦φ−1(q) を誘導し、(φ∗)−1(V(I))=V(φ(I)B)、(φ∗)−1(D(f))=D(φ(f))。(ψ∘φ)∗=φ∗∘ψ∗ である。さらに
(1) A→A/I は Spec(A/I) から閉集合 V(I) への同相を誘導する。
(2) A→S−1A は SpecS−1A から部分空間 {p∣p∩S=∅} への同相を誘導する。特に SpecAf≅D(f)。
証明. φ−1(q)⊃I⟺q⊃φ(I)⟺q⊃φ(I)B より前半が従う。(1) 全単射性は剰余環の素イデアルの対応による。V(I) 内の閉集合 V(J) (J⊃I) は V(J/I) の像なので同相。(2) 全単射性は定理 2.17。S−1A のイデアル J と素イデアル q、p=ι−1(q) について q⊃J⟺p⊃ι−1(J)(⇐ は q=S−1p⊃S−1ι−1(J)=J)なので、V(J) の像は V(ι−1J) と像との共通部分であり、閉集合は閉集合に写る。□
この命題が「局所化 Af = 開集合 D(f) への制限」「剰余環 A/I = 閉集合 V(I) への制限」という辞書の正確な意味である。D(f) も SpecAf と同相なので準コンパクトである。
2.6 例:点の分類
例 2.27(SpecZ)点は (0) と (p)。V((n))={(p)∣p∣n} (n=0) だから、閉集合は閉点の有限集合と全体だけである。{(0)}=SpecZ で、(0) はあらゆる空でない開集合に含まれる生成点である。D(n)≅SpecZ[1/n] は n を割る素数を取り除いた部分である。
例 2.28(SpecK[x])K[x] は単項イデアル整域なので、点は (0) と、モニック既約多項式 f に対する (f) である。K が代数閉体なら (x−a)↔a∈K で、SpecK[x] は「直線 K に生成点を 1 つ加えたもの」である。K=R なら閉点は (x−a) (a∈R) と、(x−z)(x−zˉ) (Imz>0) で生成されるイデアルであり、後者の剰余体は C である。閉点は「実数」と「共役な複素数の対」に対応する(問題 2.5)。
例 2.29 SpecZ の閉点全体は無限集合なので閉集合でない(その閉包は全体)。例 2.11 の SuppM はこれである。
定理 2.30(SpecK[x,y] の点)K を代数閉体とする。K[x,y] の素イデアルは次のいずれかである。
(1) (0) (2) 既約多項式 f に対する (f) (3) (x−a,y−b) (a,b∈K)(極大イデアル)
証明. p=0 が単項でないとする。p の非零元の既約因子のうち p に属するもの f をとると、(f)⊊p なので g∈p∖(f) がとれる。まず 0=d(x)∈(f,g)∩K[x] を見つける。f∈K[x] なら d=f とする。そうでなければ f は y について正の次数をもつ K[x][y] の既約元なので原始的で、ガウスの補題(代数学 第6章 6.4 節)より K(x)[y] でも既約であり、K(x)[y] で f∤g(割り切れれば K[x][y] でも割り切れる)。単項イデアル整域 K(x)[y] で af+bg=1 となる a,b があり、分母を払うと d(x)=a′f+b′g (a′,b′∈K[x,y])。d∈p は K 上一次式の積に分解するので、ある x−a∈p。x と y の役割を入れ替えて同様にある y−b∈p。よって p⊃(x−a,y−b) で、右辺は極大なので等号が成り立つ。□
幾何的には、SpecC[x,y] は「平面 C2 の点(閉点)」「既約曲線ごとの生成点」「平面全体の生成点」からなり、(f) の閉包 V(f) は曲線 f=0 上の閉点すべてと (f) 自身からなる。
例 2.31(尖点)A=K[x,y]/(y2−x3)≅K[t2,t3](K は代数閉体)の点は、命題 2.26 (1) により y2−x3 を含む K[x,y] の素イデアル、すなわち (y2−x3) と (x−t2,y−t3) (t∈K) である(b2=a3 なら a=t2,b=t3 となる t が一意にある)。こうして SpecA は位相空間として直線 SpecK[t] と同相であるが、例 1.25 で見たとおり環としては同型でない。位相だけでは特異点は見えない。環(関数の層)を込めて空間を考える必要がある。
まとめ
- 積閉集合 S による分数環 S−1A は、零因子に対応するため u(at−bs)=0 で同値関係を定める。普遍性は「S を可逆にする最小の拡大」。
- S−1M≅S−1A⊗AM であり、局所化は完全、したがって S−1A は平坦。
- 加群が 0 であること、準同型の単射性・全射性、平坦性は局所的性質。整域性・自由性・ネーター性は局所的でない。
- S−1A の素イデアルは S と交わらない A の素イデアルに対応し、Ap は剰余体 κ(p) をもつ局所環。
- SpecA のザリスキー位相は準コンパクトで、閉点は極大イデアル、既約閉集合はただ一つの生成点をもつ。
- 環準同型は連続写像を誘導し、Af は開集合 D(f)、A/I は閉集合 V(I) への制限にあたる。
- SpecK[x,y](K 代数閉体)の点は (0)、既約曲線 (f)、平面の点 (x−a,y−b) に限る。
演習問題
問題 2.1 ★ Z 加群 M=Z/12 について、Z の素イデアルでの局所化 M(2), M(3), M(5), M(0) と、S={1,2,4,8,…} による S−1M を求めよ。また SuppM を求め、命題 2.10 を確かめよ。
解答
中国剰余定理より M≅Z/4⊕Z/3 で、局所化は直和と可換である。Z(2) では 3 が単元なので、3 で零化される Z/3 の局所化は 0。一方、奇数は Z/4 にもともと可逆に作用するので (Z/4)(2)=Z/4。よって M(2)≅Z/4。同様に M(3)≅Z/3。Z(5) と Q では 12 が単元で M を零化するので M(5)=M(0)=0。S−1M では 4 が単元になるので Z/4 成分が消え、S−1M≅Z/3。
したがって SuppM={(2),(3)} で、これは V(AnnM)=V((12)) に一致する。
問題 2.2 ★★ SpecK[x,y](K 代数閉体)において U=D(x)∪D(y) はどのような集合か。U が D(f) の形に書けないことを示せ。
解答
U の補集合は V(x)∩V(y)=V((x,y))={(x,y)} なので、U は原点を除いた部分である。U=D(f) とすると V(f)={(x,y)}。f=0 なら V(f) は全体、f が単元なら空集合なので、f は定数でない。その既約因子 g について (g)∈V(f) だが、(g) は極大イデアルでないので (g)=(x,y)。矛盾。
問題 2.3 ★★ SpecA が連結でない ⟺ A は 0,1 以外の冪等元 e(e2=e)をもつ、を示せ。
解答
(⇐) e(1−e)=0 より SpecA=V(e)∪V(1−e)、e+(1−e)=1 より V(e)∩V(1−e)=∅。e=1 なら e は単元でない(e が単元なら e=e2e−1=1)ので V(e)=∅。同様に V(1−e)=∅。
(⇒) SpecA=V(I)⊔V(J)(空でない閉集合)とする。V(I+J)=∅ より I+J=A、V(IJ)=SpecA より IJ⊂nil(A)。1=a+b (a∈I,b∈J) とすると (ab)n=0 となる n がある。V(an)∩V(bn)=V(a)∩V(b)⊂V(a+b)=∅ より (an,bn)=A、1=uan+vbn と書ける。e=uan とおくと e(1−e)=uv(ab)n=0 で e は冪等。e∈I より V(e)⊃V(I)=∅ なので e=1、1−e∈J より同様に e=0。
問題 2.4 ★★ Spec(A×B) は SpecA と SpecB の非交和(両者は開かつ閉)と同相であることを示せ。また p∈SpecA に対応する点での A×B の局所化は Ap であることを示せ。
解答
e=(1,0) は冪等元で、A×B の素イデアル P は e(1−e)=0 より e か 1−e の一方だけを含む。1−e∈P なら P=p×B(p∈SpecA)の形であり、V(1−e)≅Spec((A×B)/(1−e))=SpecA(命題 2.26 (1))。V(e) も同様で、V(e),V(1−e) は互いの補集合なので開かつ閉。局所化:e∈/p×B なので e は (A×B)p×B で単元になり、e(1−e)=0 より 1−e↦0。よって局所化は (A×B)/(1−e)=A の p での局所化 Ap に等しい。
問題 2.5 ★★ SpecC[x]→SpecR[x](包含 R[x]⊂C[x] が誘導する写像)を具体的に書き、点 (x2+1) および (x) 上のファイバーを求めよ。
解答
(x−z)∩R[x] は、z∈R なら (x−z)、z∈/R なら z を根にもつ実係数多項式全体 ((x−z)(x−zˉ)) である(実係数多項式が z を根にもてば zˉ も根)。(0)↦(0)。よって写像は閉点については「z と zˉ を同一視する」写像で、SpecR[x] の閉点は C を複素共役で割った集合(上半平面と実軸)と同一視できる。ファイバーは命題 2.19 より C[x]⊗R[x]κ(p) で、(x2+1) 上は C[x]/(x2+1)≅C×C(2 点 (x−i),(x+i))、(x) 上は C[x]/(x)≅C(1 点)。
問題 2.6 ★★★ SpecZ[x] の点を分類せよ。
解答
(詳しいヒント)P∈SpecZ[x] について P∩Z は Z の素イデアルである。
- P∩Z=(p) のとき:P は Z[x]/(p)=Fp[x] の素イデアルに対応し、P=(p) か、Fp 上既約な多項式の持ち上げ f による (p,f)(極大イデアル、剰余体は有限体 Fp[x]/(fˉ))である。
- P∩Z=(0) のとき:S=Z∖{0} として定理 2.17 より P は S−1Z[x]=Q[x] の素イデアルに対応し、(0) か、P=fQ[x]∩Z[x](f は Z[x] の原始的既約多項式)。ガウスの補題より fQ[x]∩Z[x]=fZ[x]。
したがって点は、(0)、(p)、(f)(f は正の次数の原始的既約多項式)、(p,f)(極大イデアル)の 4 種類である。SpecZ[x] は、各素数 p の上に「直線」SpecFp[x] が立ち並ぶ 2 次元の「数論的曲面」として描ける(第5章でクルル次元が 2 であることを見る)。