この章の目標
- 集合を外延的記法・内包的記法で正しく書き、∈ と ⊂ を区別できる
- 集合の相等を「A⊂B かつ B⊂A」によって証明できる
- 和・共通部分・差・補集合・冪集合・直積を扱い、分配法則やド・モルガンの法則を元の議論で証明できる
- 添字付けられた集合族の和と共通部分を計算し、その性質を量化子を使って証明できる
- ラッセルのパラドックスの内容と、公理的集合論(ZFC)の各公理のおおまかな意味を説明できる
前提:第1章
現代の数学では、数も関数も図形も、すべて集合の言葉で書かれる。「f は R 上で連続」「V は W の部分空間」「U は開集合」──どの主張も、何かが何かに属するか、何かが何かに含まれるかという集合の関係に翻訳される。本章では集合の基本操作を学び、第1章の論理がそのまま集合の計算規則になることを見る。最後に、素朴に「集まり」を集合と呼ぶと矛盾が生じること(ラッセルのパラドックス)と、それを避けるための公理的集合論を概観する。
2.1 集合と元
定義 2.1(集合と元)ある対象がそれに属するかどうかがはっきり定まっている「ものの集まり」を集合 (set) という。対象 x が集合 A に属するとき、x は A の元(要素, element)であるといい、x∈A と書く。属さないときは x∈/A と書く。
x∈A は「x は A に属する」「x は A の元」と読む。A∋x と書くこともある。これは素朴な定義であり、何でも集まりを集合と認めてよいわけではないことを 2.7 節で見る。
集合の表し方は主に二通りある。
- 外延的記法 (roster notation):元を並べて書く。{1,2,3}、{1,2,…,n} など。「…」は規則が誤解なく読みとれるときだけ使う。
- 内包的記法 (set-builder notation):集合 X と X 上の条件 P(x) に対し、P(x) を満たす X の元全体を {x∈X∣P(x)} と書く。縦線の代わりにコロンを使って {x∈X:P(x)} と書く本もある。
さらに、写像や式 f(x) を使った {f(x)∣x∈X} という書き方もよく使う。これは {y∣∃x∈X, y=f(x)}、つまり「x が X を動くときの f(x) の値全体」を表す。区間は [a,b]={x∈R∣a≤x≤b}、(a,b)={x∈R∣a<x<b}、[a,∞)={x∈R∣x≥a} などと定める。
例 2.2
- {x∈Z∣x2<5}={−2,−1,0,1,2}
- {x∈R∣x2−3x+2=0}={1,2}
- {2k∣k∈Z} は偶数全体であり、{n∈Z∣n は偶数} と同じ集合である。
- {n2∣n∈N}={1,4,9,16,…}
- {x∈R∣x2=−1} は元を一つももたない。
2.2 部分集合と相等
定義 2.4(部分集合と相等)集合 A,B について、A のどの元も B の元であるとき、すなわち
∀x, (x∈A⇒x∈B)
が成り立つとき、A は B の部分集合 (subset) である、または A は B に含まれるといい、A⊂B と書く。A と B がまったく同じ元をもつとき、すなわち ∀x, (x∈A⇔x∈B) のとき、A と B は等しいといい A=B と書く。A⊂B かつ A=B のとき A⊊B と書き、A を B の真部分集合 (proper subset) という。
本教材では A⊂B は A=B の場合を含む(記法)。これを A⊆B と書き、⊂ を真部分集合の意味に使う本もあるので注意する。
定理 2.6 集合 A,B,C について次が成り立つ。
- A⊂A
- A⊂B かつ B⊂C ならば A⊂C
- A=B⟺(A⊂B∧B⊂A)
証明. (1) x∈A⇒x∈A は常に真である。(2) x∈A とすると A⊂B より x∈B、B⊂C より x∈C である。(3) x∈A⇔x∈B は (x∈A⇒x∈B)∧(x∈B⇒x∈A) のことだから、定義からただちに従う。□
定理 2.6 (3) は、集合の等式を証明する標準的な方法を与える。
- A⊂B を示すには:「x∈A を任意にとる」と書き始め、「よって x∈B である」で終える。
- A=B を示すには:A⊂B と B⊂A を別々に示す。
例 2.7 A={6k∣k∈Z}、B={n∈Z∣n は 2 の倍数かつ 3 の倍数} とすると A=B である。
証明. (A⊂B) x∈A を任意にとる。x=6k となる k∈Z がとれ、x=2(3k)=3(2k) なので x は 2 の倍数かつ 3 の倍数である。よって x∈B。
(B⊂A) n∈B を任意にとる。n=2a、n=3b となる整数 a,b がとれる。3b=2a は偶数である。もし b が奇数なら 3 も奇数なので積 3b は奇数となり(例 1.28)、矛盾する。よって b は偶数で、b=2c(c∈Z)と書ける。n=3b=6c なので n∈A である。□
定義 2.8(空集合)元を一つももたない集合を空集合 (empty set) といい、∅ と書く。
定理 2.9 任意の集合 A について ∅⊂A である。また空集合はただ一つである。
証明. x∈∅ は常に偽なので、x∈∅⇒x∈A は常に真である(空虚な真)。よって ∅⊂A。E,E′ がともに元をもたない集合なら、いま示したことから E⊂E′ かつ E′⊂E なので E=E′ である。□
空集合の存在は 2.7 節の公理で保証される。∅ と {∅} は異なる:前者は元をもたず、後者は ∅ という元を一つもつ。
2.3 集合の演算
定義 2.10(和・共通部分・差・補集合)集合 A,B に対して次のように定める。
- 和集合 (union):A∪B:={x∣x∈A∨x∈B}
- 共通部分 (intersection):A∩B:={x∈A∣x∈B}
- 差集合 (difference):A∖B:={x∈A∣x∈/B}
考える集合がすべてある集合 X の部分集合であるとき、X を全体集合 (universal set) といい、A⊂X に対し Ac:=X∖A を A の補集合 (complement) という。A∩B=∅ のとき A と B は互いに素 (disjoint) であるといい、このときの和集合を A⊔B とも書く。
A∪B は「A または B に属する元の全体」であり、「または」は両方に属する場合を含む(注意 1.5)。補集合は全体集合に依存する:A=[0,1] の補集合は、全体集合が R なら (−∞,0)∪(1,∞)、[0,2] なら (1,2] である。
例 2.11 A=[0,2]、B=(1,3) とすると、A∪B=[0,3)、A∩B=(1,2]、A∖B=[0,1]、B∖A=(2,3) であり、全体集合を R とすれば Ac=(−∞,0)∪(2,∞) である。
定理 2.12(集合演算の基本法則)集合 A,B,C について次が成り立つ。
- (交換法則)A∪B=B∪A、A∩B=B∩A
- (結合法則)(A∪B)∪C=A∪(B∪C)、(A∩B)∩C=A∩(B∩C)
- (分配法則)A∩(B∪C)=(A∩B)∪(A∩C)、A∪(B∩C)=(A∪B)∩(A∪C)
- (ド・モルガンの法則)C∖(A∪B)=(C∖A)∩(C∖B)、C∖(A∩B)=(C∖A)∪(C∖B)
特に全体集合 X の部分集合について (A∪B)c=Ac∩Bc、(A∩B)c=Ac∪Bc、(Ac)c=A が成り立つ。
証明. どれも、元についての条件に翻訳して第1章の論理法則(定理 1.7)を使えばよい。分配法則の前半を示す。任意の x について
x∈A∩(B∪C)⟺x∈A∧(x∈B∨x∈C)⟺(x∈A∧x∈B)∨(x∈A∧x∈C)⟺x∈(A∩B)∪(A∩C)
である。1 行目と 3 行目は定義により、2 行目は論理の分配法則による。ド・モルガンの法則の前半も同様に
x∈C∖(A∪B)⟺x∈C∧¬(x∈A∨x∈B)⟺x∈C∧(x∈/A∧x∈/B)⟺(x∈C∧x∈/A)∧(x∈C∧x∈/B)⟺x∈(C∖A)∩(C∖B)
となる(3 行目では P≡P∧P と交換・結合法則を使った)。他も同様である。□
この証明では各行が「⟺」で結ばれている。第1章の添削 4 と違い、各段階が同値変形なので、両方向の包含が同時に示されている。同値でない変形が一つでも混じる場合は、二つの包含を別々に示すほうが安全である。
定理 2.13 集合 A,B について、次の三条件は同値である。
(i) A⊂B (ii) A∩B=A (iii) A∪B=B
証明. (i)⇒(ii):A∩B⊂A は定義から明らか。逆に x∈A なら (i) より x∈B なので x∈A∩B。(ii)⇒(iii):B⊂A∪B は明らか。x∈A∪B とする。x∈B ならよい。x∈A なら (ii) より x∈A∩B なので x∈B。(iii)⇒(i):x∈A なら x∈A∪B=B。□
注意
ベン図は集合の関係を直観的に理解するのに便利だが、証明ではない。図は特定の位置関係しか描けず、集合が 4 個以上になると円ではすべての場合を描き分けることすらできない。等式を証明するときは元についての議論を書き、等式を否定するときは具体的な反例を挙げる。
2.4 冪集合
集合の元が集合であってもよいので、「部分集合全体の集合」を考えることができる。
定義 2.14(冪集合)集合 X の部分集合全体からなる集合を X の冪集合 (power set) といい、P(X) と書く:P(X):={A∣A⊂X}。
A∈P(X)⟺A⊂X である。常に ∅∈P(X)、X∈P(X) であり、x∈X⟺{x}∈P(X) である。
例 2.15 P(∅)={∅}、P({1})={∅,{1}}、P({1,2})={∅,{1},{2},{1,2}}。P(∅) は空集合ではなく、1 個の元 ∅ をもつことに注意する。
定理 2.16 n≥0 を整数とする。n 個の元からなる集合 X の冪集合 P(X) は 2n 個の元をもつ。
証明. n についての帰納法で示す。n=0 のとき X=∅ であり、P(∅)={∅} は 1=20 個の元をもつ。n 個の元からなる集合について正しいと仮定し、X を n+1 個の元からなる集合とする。a∈X を一つ選び、X′:=X∖{a} とおく(X′ は n 個の元をもつ)。X の部分集合 A は、a∈/A であるものと a∈A であるものに分かれる。前者はちょうど X′ の部分集合であり、仮定より 2n 個ある。後者 A には A∖{a}⊂X′ を対応させると、これは後者と X′ の部分集合との一対一の対応を与える(逆の対応は B↦B∪{a})。よって後者も 2n 個あり、合計 2n+2n=2n+1 個である。□
「一対一の対応」「個数」の厳密な扱いは第3章と第5章で行う。第3章では、P(X) を X から {0,1} への写像全体と同一視することで、この定理を見通しよく理解する。
2.5 直積
平面の点は二つの実数の組 (x,y) で表される。この「組」を一般の集合について考える。
定義 2.17(順序対と直積)二つの対象 a,b から作られる順序対 (ordered pair) (a,b) は、次の性質で特徴づけられる。
(a,b)=(c,d)⟺(a=c∧b=d)
集合 A,B に対し、a∈A、b∈B の順序対全体を A と B の直積 (Cartesian product) といい、A×B:={(a,b)∣a∈A, b∈B} と書く。同様に n 個の集合の直積 A1×⋯×An:={(a1,…,an)∣ai∈Ai (1≤i≤n)} を定め、A×⋯×A(n 個)を An と書く。
例 2.19 A={1,2}、B={p,q} とすると A×B={(1,p),(1,q),(2,p),(2,q)} であり、B×A={(p,1),(q,1),(p,2),(q,2)} はこれと異なる。有限集合では A×B の元の個数は A と B の元の個数の積である。R2=R×R は座標平面、[a,b]×[c,d] は長方形である。どんな A についても A×∅=∅ である(組の第 2 成分に入れるものがない)。
定理 2.20 集合 A,B,C,D について次が成り立つ。
- A×(B∪C)=(A×B)∪(A×C)
- A×(B∩C)=(A×B)∩(A×C)
- (A×B)∩(C×D)=(A∩C)×(B∩D)
証明. どの辺も順序対からなる集合なので、順序対 (x,y) がそれに属する条件を比べればよい。(1):
(x,y)∈A×(B∪C)⟺x∈A∧(y∈B∨y∈C)⟺(x∈A∧y∈B)∨(x∈A∧y∈C)⟺(x,y)∈(A×B)∪(A×C)
(3):(x,y)∈(A×B)∩(C×D)⟺(x∈A∧y∈B)∧(x∈C∧y∈D)⟺(x∈A∩C)∧(y∈B∩D) であり、最後の条件は (x,y)∈(A∩C)×(B∩D) と同値である。(2) は (3) で C を A に、D を C に置き換えた特別な場合である(A∩A=A に注意)。□
和集合については (A×B)∪(C×D)⊂(A∪C)×(B∪D) しか成り立たない(問題 2.6)。長方形二つの和集合は一般に長方形ではない、という図を思い浮かべるとよい。
2.6 集合族
「区間 [1/n,1] を n=1,2,3,… について全部合わせる」のように、無限個の集合の和や共通部分を考えたい場面は多い。
定義 2.21(集合族とその和・共通部分)集合 Λ の各元 λ に集合 Aλ が一つずつ対応しているとき、これを Λ を添字集合 (index set) とする集合族 (family of sets) といい、(Aλ)λ∈Λ と書く。その和集合と(Λ=∅ のとき)共通部分を
λ∈Λ⋃Aλ:={x∣∃λ∈Λ, x∈Aλ},λ∈Λ⋂Aλ:={x∣∀λ∈Λ, x∈Aλ}
で定める。Λ=N のときは ⋃n=1∞An、⋂n=1∞An とも書く。
和集合は「どれか一つには属する元」の全体、共通部分は「すべてに属する元」の全体である。Λ={1,2} ならそれぞれ A1∪A2、A1∩A2 に一致する。集合を元とする集合 A に対しては、A 自身を添字集合として ⋃A:=⋃A∈AA とも書く。族を正確に定義するには写像の概念を使う(第3章 3.9 節)。
以下ではアルキメデスの性質「任意の実数 x に対し x<n となる n∈N が存在する」を使う(微分積分学 第1章、本教材第7章)。
例 2.22
(1) ⋃n∈N[1/n,1]=(0,1]。
実際、左辺の元 x はある n で 0<1/n≤x≤1 を満たすので x∈(0,1] である。逆に x∈(0,1] とすると、アルキメデスの性質より n>1/x となる n∈N があり、1/n<x≤1 なので x∈[1/n,1]、よって x は左辺に属する。
(2) ⋂n∈N(−1/n,1/n)={0}。
0 はすべての (−1/n,1/n) に属する。逆に x=0 とすると、n>1/∣x∣ となる n があり、∣x∣>1/n なので x∈/(−1/n,1/n)、よって x は左辺に属さない。対偶をとれば、左辺の元は 0 に限る。
(3) ⋂n∈N(0,1/n)=∅。
左辺に元 x があったとすると x>0 であり、n>1/x となる n について x>1/n なので x∈/(0,1/n)、矛盾である。
有限個の共通部分 ⋂n=1N(0,1/n)=(0,1/N) はどれも空でないのに、無限個の共通部分は空になる。「有限個」と「無限個」の違いは位相空間論などで本質的な役割を果たす。
定理 2.24(集合族の分配法則とド・モルガンの法則)(Aλ)λ∈Λ を集合族、B を集合とし、Λ=∅ とする。
- B∩⋃λ∈ΛAλ=⋃λ∈Λ(B∩Aλ)
- B∪⋂λ∈ΛAλ=⋂λ∈Λ(B∪Aλ)
- B∖⋃λ∈ΛAλ=⋂λ∈Λ(B∖Aλ)
- B∖⋂λ∈ΛAλ=⋃λ∈Λ(B∖Aλ)
証明. (1) 任意の x について
x∈B∩λ⋃Aλ⟺x∈B∧∃λ∈Λ, x∈Aλ⟺∃λ∈Λ, (x∈B∧x∈Aλ)⟺x∈λ⋃(B∩Aλ)
である。中央の同値は、どちらも「x∈Aλ となる λ があり、しかも x∈B」を意味することによる。
(3) 定理 1.24 を使うと
x∈B∖λ⋃Aλ⟺x∈B∧¬(∃λ∈Λ, x∈Aλ)⟺x∈B∧∀λ∈Λ, x∈/Aλ⟺∀λ∈Λ, (x∈B∧x∈/Aλ)⟺x∈λ⋂(B∖Aλ)
である。2 行目の最初の同値で Λ=∅ を使う。⇐ の向きで x∈B を取り出すには、少なくとも一つの λ が必要だからである。(2)(4) も同様に示せる。□
2.7 ラッセルのパラドックスと公理的集合論
ここまで「ものの集まり」を無邪気に集合と呼んできた。特に、どんな条件 P(x) に対しても {x∣P(x)} が集合になると考えてきた。19 世紀末の集合論もこの考えに立っていたが、1901 年頃ラッセル (B. Russell) は次の矛盾を指摘した。
条件「x∈/x」(自分自身を元として含まない)を考え、R:={x∣x∈/x} とおく。R∈R だろうか。もし R∈R なら、R は R の条件を満たすので R∈/R である。もし R∈/R なら、R は条件を満たすので R∈R である。どちらでも矛盾する。これをラッセルのパラドックス (Russell's paradox) という。
定理 2.25 すべての集合 x について「x∈R⟺x∈/x」が成り立つような集合 R は存在しない。
証明. そのような R があれば、x=R とおいて R∈R⟺R∈/R を得る。Q⇔¬Q はどんな命題 Q についても偽であるから矛盾である。□
系 2.26 すべての集合を元とする集合は存在しない。
証明. そのような集合 V があったとする。後述の分出公理により R:={x∈V∣x∈/x} は集合である。任意の集合 x は V に属するので、x∈R⟺x∈/x となり、定理 2.25 に反する。□
教訓は、条件だけから勝手に集合を作ってはならないということである。すでに集合とわかっている X から {x∈X∣P(x)} として切り出すのは安全であり(上の証明でもこの形でしか使っていない)、それ以外の集合の作り方は、あらかじめ認めた操作に限る。こうして集合の存在を公理で規定する立場を公理的集合論 (axiomatic set theory) という。標準的なのは、ツェルメロとフレンケルの公理系に選択公理を加えた ZFC である。その公理をおおまかな意味とともに挙げる。
| 公理 |
おおまかな意味 |
| 外延性公理 |
同じ元をもつ二つの集合は等しい |
| 空集合の公理 |
元をもたない集合 ∅ が存在する |
| 対の公理 |
任意の a,b に対して集合 {a,b} が存在する |
| 和集合の公理 |
任意の集合 A に対して ⋃A が存在する |
| 冪集合の公理 |
任意の集合 X に対して P(X) が存在する |
| 分出公理 |
集合 X と条件 P(x) に対して {x∈X∣P(x)} が存在する |
| 置換公理 |
集合 X の各元 x に対して F(x) がただ一つ定まる規則 F があれば、{F(x)∣x∈X} が存在する |
| 無限公理 |
∅ を元にもち、x を元にもてば x∪{x} も元にもつ集合が存在する |
| 正則性公理 |
空でない集合 A は、a∩A=∅ を満たす元 a∈A をもつ |
| 選択公理 |
空でない集合からなる族から、各集合の元を一つずつ同時に選べる(第6章) |
選択公理を除いたものを ZF という。いくつか補足する。
- 本章の構成はすべてこれらの公理で正当化される。A∪B=⋃{A,B} は対の公理と和集合の公理から、A∩B、A∖B は分出公理から得られる。直積は、(a,b)={{a},{a,b}} が P(P(A∪B)) の元であることに注意して、P(P(A∪B)) から「ある a∈A、b∈B により (a,b) と書ける」元を分出公理で切り出せばよい。
- 無限公理は自然数全体の集合を作るために使う。∅,{∅},{∅,{∅}},… を順に 0,1,2,… とみなすのが標準的な構成である(第7章)。
- 正則性公理から、x∈x となる集合 x は存在しないことがわかる。実際 A={x} に公理を適用すると、A の唯一の元 x について x∩{x}=∅ となるが、x∈x なら x∈x∩{x} となってしまう。
- ZFC では、数・関数・順序対など数学のすべての対象が集合として構成される。一方「すべての集合の集まり」のように大きすぎて集合にならない集まりはクラス (class) と呼ばれる。群全体・位相空間全体なども同様であり、圏論ではこの点に注意が必要になる。
まとめ
- 集合は元によって決まる(外延性)。外延的記法 {1,2,3} と内包的記法 {x∈X∣P(x)} を使い分ける。
- ∈ は元と集合の関係、⊂ は集合と集合の関係である。∅ はどの集合にも含まれる。
- 集合の等式 A=B は、A⊂B と B⊂A を元の議論(「x∈A を任意にとる」)で示すのが基本である。
- 集合演算の法則(分配法則・ド・モルガンの法則など)は、論理法則を元についての条件に翻訳したものである。
- 冪集合 P(X) は部分集合全体、直積 A×B は順序対全体である。n 元集合の冪集合は 2n 個の元をもつ。
- 集合族の和は ∃、共通部分は ∀ で定義され、その性質は量化子の論理(定理 1.24)から従う。無限個の共通部分では、有限個の場合にない現象が起こる。
- 条件から勝手に集合を作ると矛盾が生じる(ラッセルのパラドックス)。ZFC は集合の作り方を公理で規定し、これを避ける。
演習問題
問題 2.1 ★ 次の真偽を判定せよ。
(a) ∅∈∅ (b) ∅⊂∅ (c) ∅∈{∅} (d) ∅⊂{∅} (e) {∅}∈{∅} (f) {1}∈{1,{1}} (g) {1}⊂{1,{1}} (h) {{1}}⊂{1,{1}}
また P({a,b,c}) の元をすべて書き出せ。
解答
(a) 偽(∅ は元をもたない)。(b) 真(定理 2.9)。(c) 真。(d) 真(定理 2.9)。(e) 偽({∅} の元は ∅ だけであり、{∅}=∅)。(f) 真。(g) 真(1∈{1,{1}})。(h) 真({1}∈{1,{1}})。
P({a,b,c})={∅,{a},{b},{c},{a,b},{a,c},{b,c},{a,b,c}}(23=8 個)。
問題 2.2 ★ 集合 A,B,C について (A∖B)∖C=A∖(B∪C) および A∖(A∖B)=A∩B を示せ。
解答
任意の x について
x∈(A∖B)∖C⟺(x∈A∧x∈/B)∧x∈/C⟺x∈A∧¬(x∈B∨x∈C)⟺x∈A∖(B∪C)
(中央でド・モルガンの法則を使った)。また
x∈A∖(A∖B)⟺x∈A∧¬(x∈A∧x∈/B)⟺x∈A∧(x∈/A∨x∈B)
であり、分配法則で右辺は (x∈A∧x∈/A)∨(x∈A∧x∈B) となる。前半は常に偽なので、これは x∈A∩B と同値である。
問題 2.3 ★ 集合 A,B について P(A∩B)=P(A)∩P(B) および P(A)∪P(B)⊂P(A∪B) を示せ。後者で等号が成り立たない例を挙げよ。
解答
C∈P(A∩B)⟺C⊂A∩B⟺(C⊂A∧C⊂B)⟺C∈P(A)∩P(B)。中央の同値は、C⊂A∩B が「∀x, x∈C⇒(x∈A∧x∈B)」であり、これが「(∀x, x∈C⇒x∈A)∧(∀x, x∈C⇒x∈B)」と同値であることによる。
後者:C∈P(A) なら C⊂A⊂A∪B なので C∈P(A∪B)。B についても同様。等号が成り立たない例:A={1}、B={2} とすると {1,2}∈P(A∪B) だが、{1,2} は A にも B にも含まれない。
問題 2.4 ★★ 集合 A,B の対称差 (symmetric difference) を A△B:=(A∖B)∪(B∖A) で定める。次を示せ。
(a) A△B=(A∪B)∖(A∩B)
(b) A△B=∅⟺A=B
(c) A△∅=A、A△A=∅
解答
(a) x∈A△B は「x は A と B のちょうど一方に属する」ことと同値である。一方 x∈(A∪B)∖(A∩B) は「少なくとも一方に属し、両方には属さない」ことであり、これも「ちょうど一方に属する」と同値である。
(b) A△B=∅⟺(A∖B=∅∧B∖A=∅) である。A∖B=∅ は「x∈A かつ x∈/B となる x がない」、すなわち A⊂B と同値である。同様に B∖A=∅⟺B⊂A。定理 2.6 (3) より結論を得る。
(c) A∖∅=A、∅∖A=∅ より A△∅=A。A∖A=∅ より A△A=∅。
(結合法則 (A△B)△C=A△(B△C) は第3章の問題 3.6 で扱う。)
問題 2.5 ★★ 次の集合を求め、答えが正しいことを証明せよ。
(a) ⋃n∈N[1/n, 2−1/n] (b) ⋂n∈N[0, 1+1/n) (c) ⋂n∈N[n,∞)
解答
(a) (0,2)。左辺の元 x はある n で 0<1/n≤x≤2−1/n<2 を満たす。逆に 0<x<2 なら、アルキメデスの性質より n>1/x かつ n>1/(2−x) を満たす n∈N がとれ(二つの n の大きいほうをとる)、1/n<x かつ x<2−1/n となるので x∈[1/n,2−1/n]。
(b) [0,1]。0≤x≤1 なら各 n で x<1+1/n なので左辺に属する。逆に左辺の元 x は x≥0 を満たす。もし x>1 なら n>1/(x−1) となる n について 1+1/n<x となり、x∈/[0,1+1/n) で矛盾。よって x∈[0,1]。
(c) ∅。元 x があれば、すべての n∈N で x≥n となり、アルキメデスの性質に反する。
問題 2.6 ★★ 集合 A,B,C,D について (A×B)∪(C×D)⊂(A∪C)×(B∪D) を示し、等号が成り立たない例を挙げよ。また A×(B∖C)=(A×B)∖(A×C) を示せ。
解答
(x,y)∈A×B なら x∈A⊂A∪C、y∈B⊂B∪D なので右辺に属する。C×D についても同様。例:A=B={1}、C=D={2} とすると左辺は {(1,1),(2,2)}、右辺は (1,2) も含む。
後半:どちらの辺も順序対からなる。(x,y)∈(A×B)∖(A×C)⟺(x∈A∧y∈B)∧¬(x∈A∧y∈C) であり、x∈A が成り立っている下では ¬(x∈A∧y∈C) は y∈/C と同値である。よって右辺の条件は x∈A∧y∈B∧y∈/C、すなわち (x,y)∈A×(B∖C) と同値である。
問題 2.7 ★★ (a,b):={{a},{a,b}} と定める。(a,b)=(c,d)⟺(a=c∧b=d) を示せ。
解答
⇐ は明らか。⇒ を示す。{{a},{a,b}}={{c},{c,d}} と仮定する。
a=b の場合:左辺は {{a}} である。右辺の元 {c}、{c,d} はともに {a} に等しいので c=a、d=a。よって a=c、b=a=d。
a=b の場合:{a} は右辺の元なので {a}={c} または {a}={c,d}。後者なら c=d=a となり、右辺は {{a}} である。すると左辺の元 {a,b} も {a} に等しく b=a となって矛盾。よって {a}={c}、a=c。次に {a,b} は右辺の元であり、b=a より {a,b}={a}={c} なので、{a,b}={c,d}={a,d}。b∈{a,d} かつ b=a より b=d。□
問題 2.8 ★★ 集合族 (Aλ)λ∈Λ、(Bμ)μ∈M について次を示せ。
(λ∈Λ⋃Aλ)∩(μ∈M⋃Bμ)=(λ,μ)∈Λ×M⋃(Aλ∩Bμ)
解答
x が左辺に属する ⟺ (x∈Aλ となる λ∈Λ があり、かつ x∈Bμ となる μ∈M がある) ⟺ (x∈Aλ∩Bμ となる組 (λ,μ)∈Λ×M がある) ⟺ x が右辺に属する。中央の同値は、左から右へは見つかった λ と μ を組にすればよく、右から左へは組の成分をとればよい。
問題 2.9 ★★★ 集合の列 (An)n∈N に対して
n→∞limsupAn:=n=1⋂∞k=n⋃∞Ak,n→∞liminfAn:=n=1⋃∞k=n⋂∞Ak
と定める(上極限集合・下極限集合)。
(a) x∈limsupAn は「どんな n に対しても k≥n かつ x∈Ak となる k がある」(無限個の k で x∈Ak)ことと、x∈liminfAn は「ある n があって、k≥n ならつねに x∈Ak」(有限個を除くすべての k で x∈Ak)ことと同値であることを示せ。
(b) liminfAn⊂limsupAn を示せ。
(c) An=[0,1](n 奇数)、An=[1,2](n 偶数)のとき、両者を求めよ。
解答
(a) 定義 2.21 を書き下すと、x∈⋂n⋃k≥nAk⟺∀n∈N, ∃k≥n, x∈Ak、x∈⋃n⋂k≥nAk⟺∃n∈N, ∀k≥n, x∈Ak である。括弧内の言いかえは、K:={k∈N∣x∈Ak} とおくと、「N の部分集合が無限集合であることと、上に有界でない(どんな n に対しても n 以上の元をもつ)ことは同値」(第5章 系 5.6 (3) と、空でない有限集合が最大元をもつことによる)を K と N∖K に適用すれば得られる。前者は ∀n, ∃k≥n, k∈K そのものであり、後者は「N∖K が有限 ⟺ ある n 以上の k がすべて K に属する」を与える。
(b) x∈liminfAn とし、k≥n0 なら x∈Ak となる n0 をとる。任意の n に対し k:=max{n,n0} とおくと k≥n かつ x∈Ak。よって x∈limsupAn。
(c) x∈[0,2] は [0,1] か [1,2] の少なくとも一方に属し、奇数も偶数も無限にあるので、無限個の k で x∈Ak。[0,2] の外の点はどの Ak にも属さない。よって limsupAn=[0,2]。一方、ある番号から先のすべての Ak に属するには、奇数番目と偶数番目の両方に属す必要があるので x∈[0,1]∩[1,2]={1}。逆に 1 はすべての Ak に属する。よって liminfAn={1}。
この概念は確率論のボレル–カンテリの補題などで使われる(確率論 第2章)。
問題 2.10 ★★★ (a) 任意の集合 A について、RA:={x∈A∣x∈/x} は A の元でないことを示せ(正則性公理は使わないこと)。(b) (a) から、すべての集合を元とする集合が存在しないことを導け。(c) 正則性公理を用いて、x∈y かつ y∈x となる集合 x,y は存在しないことを示せ。
解答
(a) RA∈A と仮定する。RA の定義より RA∈RA⟺(RA∈A∧RA∈/RA) であり、仮定 RA∈A の下では右辺は RA∈/RA と同値になる。よって RA∈RA⟺RA∈/RA となり矛盾。したがって RA∈/A。
(b) すべての集合を元とする集合 V があれば、RV も集合なので RV∈V となり (a) に反する。
(c) そのような x,y があったとする。対の公理により A:={x,y} は空でない集合なので、正則性公理より a∩A=∅ となる a∈A がある。a=x なら y∈x かつ y∈A より y∈x∩A、a=y なら x∈y∩A となり、いずれも a∩A=∅ に反する。□