この章の目標
- 実数全体 R を「連続性公理を満たす順序体」として公理的にとらえる
- 上界・上限・下限を正確に扱い、上限の ε による特徴づけを使えるようになる
- アルキメデスの性質と有理数の稠密性を連続性公理から証明できる
- 連続性公理と同値な条件(単調収束定理・区間縮小法・ボルツァノ–ワイエルシュトラスの定理・コーシー列の収束)の同値性を証明できる
- 有理数体 Q ではこれらがすべて成り立たないことを具体例で確かめる
前提:00-foundations 第1章 命題と論理(量化子とその否定)、第2章 集合、第4章 同値関係と順序(全順序)
1.1 高校の微分積分と大学の微分積分
高校の微分積分では、次のような事実を証明なしに使ってきた。
- 増加し続け、しかも上に有界な数列は収束する。たとえば (1+n1)n は増加して 3 を超えないので収束し、その極限を e と定めた。
- 連続関数 f が f(a)<0<f(b) を満たせば、f(c)=0 となる c が a と b の間に存在する(中間値の定理)。
- 閉区間で連続な関数は最大値と最小値をとる。
どれも「数直線には隙間がない」という直観に支えられている。ところがこの直観は、有理数だけの世界では成り立たない。f(x)=x2−2 を有理数 x だけで考えると、f(1)=−1<0<2=f(2) であるのに、f(c)=0 となる有理数 c は存在しない(2 は無理数である。例 1.17 で証明する)。つまり中間値の定理は、関数の連続性だけでなく、数の体系に隙間がないことに依存している。
では「隙間がない」とは正確にはどういうことか。高校では実数を「無限小数で表される数」として導入したが、無限小数どうしの足し算や掛け算を正確に定義するのは意外に面倒であり、そもそも「無限に続く小数」という言葉自体が極限の考え方を前提にしている。そこで本科目では、実数を次の三つの性質で公理的に特徴づける。
- 四則演算ができる(体である)。
- 大小関係が四則演算と両立する(順序体である)。
- 隙間がない(連続性公理を満たす)。
以後、微分積分学のすべての定理を、この三つの性質だけから証明していく。本章の中心は三つ目の性質であり、それを「上限の存在」として定式化したうえで、単調有界数列の収束・区間縮小法・有界数列の収束部分列の存在・コーシー列の収束と同値であることを示す(定理 1.34)。
補足
連続性公理を満たす順序体が実際に存在することは、有理数から実数を構成することで示される(デデキントの切断やコーシー列による構成。00-foundations 第7章 数の体系 を参照)。また、そのような順序体は、演算と順序を保つ全単射を除いてただ一つであることが知られている。本科目ではこれらを認め、実数の性質はすべて公理から導く。
1.2 順序体
まず「四則演算ができて大小が比べられる数の体系」を正確に定義する。
定義 1.1(体, field)集合 K に加法 + と乗法 ⋅ が定められ、相異なる二つの元 0,1∈K があって、任意の a,b,c∈K について次が成り立つとき、K を体 (field) という。
- 加法:(a+b)+c=a+(b+c)、a+b=b+a、a+0=a、各 a に対して a+a′=0 となる a′∈K が存在する(a′=−a と書く)。
- 乗法:(ab)c=a(bc)、ab=ba、a⋅1=a、各 a=0 に対して aa′=1 となる a′∈K が存在する(a′=a−1 と書く)。
- 分配法則:a(b+c)=ab+ac。
b−a:=b+(−a)、b/a:=ba−1 と書く。これらの公理から 0⋅a=0、(−a)b=−(ab)、(−1)(−1)=1 など、通常の計算規則がすべて導かれる(ここでは認める)。
定義 1.2(順序体, ordered field)体 K に全順序 ≤ が与えられ、任意の a,b,c∈K について
- (O1) a≤b ならば a+c≤b+c
- (O2) 0≤a かつ 0≤b ならば 0≤ab
が成り立つとき、K を順序体 (ordered field) という。a≤b かつ a=b のとき a<b と書き、0<a となる a を正 (positive)、a<0 となる a を負 (negative) という。
全順序なので、任意の a,b について a<b、a=b、b<a のちょうど一つが成り立つ。
命題 1.3 順序体 K の任意の元 a,b,c について次が成り立つ。
- a≤b⇔0≤b−a⇔−b≤−a。
- a≤b かつ 0≤c ならば ac≤bc。さらに a<b かつ 0<c ならば ac<bc。また a≤b かつ c≤0 ならば bc≤ac。
- 0≤a2。特に 0<1。
- 0<a ならば 0<a−1。また 0<a<b ならば 0<b−1<a−1。
- a<b ならば a<2a+b<b。
証明. (1) (O1) で両辺に −a を加えると a≤b⇒0≤b−a、逆に a を加えると 0≤b−a⇒a≤b を得る。同様に −a−b を加えれば a≤b⇔−b≤−a である。
(2) a≤b なら (1) より 0≤b−a なので、0≤c のとき (O2) より 0≤(b−a)c=bc−ac、すなわち ac≤bc。a<b、0<c のとき ac=bc なら c−1 を掛けて a=b となり矛盾するから ac<bc。c≤0 のときは 0≤−c なので 0≤(b−a)(−c)=ac−bc。
(3) 0≤a なら (O2) より 0≤a⋅a。a≤0 なら 0≤−a なので 0≤(−a)(−a)=a2。特に 0≤12=1 であり、0=1 だから 0<1。
(4) 0<a とする。a⋅0=0=1 だから a−1=0。もし a−1<0 なら、(2) により a−1≤0 の両辺に a≥0 を掛けて 1=a−1a≤0 となり (3) に反する。よって 0<a−1。次に 0<a<b なら a−1b−1>0 であり、a<b の両辺にこれを掛けて (2) より b−1<a−1。
(5) 2:=1+1 とおくと (O1) と (3) から 1<2、特に 0<2。a<b から (O1) を 2 回使って 2a=a+a<a+b<b+b=2b(等号が成り立たないことは加法の簡約でわかる)。両辺に 2−1>0 を掛ければよい。□
例 1.5 Q は通常の大小関係で順序体である。C にはどんな全順序を入れても順序体にならない。実際、順序体なら命題 1.3 (3) より i2=−1≥0 であるが、一方 0<1 と (1) より −1<0 であり、矛盾する。
例 1.6(アルキメデス的でない順序体)実数係数の有理関数全体 K=R(t) を考える。0 でない f=p/q(p,q は多項式)に対し、p と q の最高次の係数の積が正のとき f>0 と定める。直観的には「十分大きな実数 x に対して f(x)>0」ということである。正の元全体が加法・乗法で閉じ、各 f について f>0、f=0、−f>0 のちょうど一つが成り立つことが確かめられ、f≤g:⇔g−f>0 または g=f によって K は順序体になる(詳細は省略する)。この K では、各 n∈N について t−n の最高次の係数は 1>0 だから t>n である。つまり t はすべての自然数より大きい「無限大」の元であり、1/t は正なのにすべての 1/n より小さい「無限小」の元である。実数にはこのような元がないことを 1.5 節で証明する。
定義 1.7(絶対値, absolute value)順序体 K の元 a に対して、a≥0 のとき ∣a∣=a、a<0 のとき ∣a∣=−a と定める。
命題 1.8 順序体 K の元 a,b と ε>0 について次が成り立つ。
- ∣a∣≥0 であり、∣a∣=0⇔a=0。また −∣a∣≤a≤∣a∣。
- ∣ab∣=∣a∣∣b∣。
- ∣a∣<ε⇔−ε<a<ε。
- (三角不等式, triangle inequality)∣a+b∣≤∣a∣+∣b∣。
- ∣a∣−∣b∣≤∣a−b∣。
証明. (1)〜(3) は a,b の正負で場合分けすれば直ちに確かめられる。(4) (1) より −∣a∣≤a≤∣a∣、−∣b∣≤b≤∣b∣ であり、辺々加えて −(∣a∣+∣b∣)≤a+b≤∣a∣+∣b∣。a+b と −(a+b) のどちらも ∣a∣+∣b∣ 以下なので ∣a+b∣≤∣a∣+∣b∣。(5) (4) より ∣a∣=∣(a−b)+b∣≤∣a−b∣+∣b∣ なので ∣a∣−∣b∣≤∣a−b∣。a と b を入れ替えて ∣b∣−∣a∣≤∣a−b∣。□
∣a−b∣ は a と b の「距離」と考えられる。三角不等式 ∣a−c∣≤∣a−b∣+∣b−c∣ は、以後ほぼすべての証明で使う最重要の道具である。
1.3 上界と上限
開区間 (0,1)={x∈R∣0<x<1} には最大値がない(どんな x∈(0,1) をとっても 2x+1 の方が大きい)。しかし 1 はこの集合の「天井」になっている。最大値の代わりにこの天井をとらえるのが上限である。
定義 1.9 順序体 K の部分集合 S について次のように定める。
- M∈K がすべての x∈S に対して x≤M を満たすとき、M を S の上界 (upper bound) という。上界が存在するとき、S は上に有界 (bounded above) であるという。
- 同様に下界 (lower bound)、下に有界 (bounded below) を定める。上にも下にも有界なとき、S は有界 (bounded) であるという。
- S の上界であって S に属する元を S の最大元(最大値, maximum)といい、maxS と書く。最小元 minS も同様に定める。
最大元は、存在すればただ一つである(m,m′ が最大元なら m≤m′ かつ m′≤m)。
定義 1.10(上限・下限, supremum / infimum)S⊂K の上界全体の集合に最小元が存在するとき、それを S の上限 (supremum, least upper bound) といい、supS と書く。同様に、下界全体の集合の最大元を S の下限 (infimum, greatest lower bound) といい、infS と書く。
言い換えると、α=supS とは次の二条件が成り立つことである。
- (i) α は S の上界である:すべての x∈S に対して x≤α。
- (ii) α は上界の中で最小である:M が S の上界ならば α≤M。
例 1.11 S=(0,1)⊂R について supS=1、infS=0 であり、maxS、minS は存在しない。実際、1 は上界である。M を上界とし、M<1 と仮定する。21∈S より M≥21>0 なので、x=2M+1 は 0<M<x<1(命題 1.3 (5))を満たし、x∈S かつ x>M となって M が上界であることに反する。よって上界はすべて 1 以上であり、supS=1。1∈/S だから最大元は存在しない(最大元が存在すればそれは上限に等しい)。下限についても同様である。
上限の条件 (ii) は「α より小さい数は上界でない」と言い換えられる。これを ε を使って書くと、実際の証明で非常に使いやすい形になる。
命題 1.12(上限の特徴づけ)S⊂K、α∈K とする。α=supS であるための必要十分条件は、次の二つが成り立つことである。
- (i) すべての x∈S に対して x≤α。
- (ii') 任意の ε>0 に対して、x>α−ε を満たす x∈S が存在する。
下限についても、不等号を逆にした同様の特徴づけが成り立つ。
証明. (必要性) α=supS とする。(ii') が成り立たないとすると、ある ε>0 について、すべての x∈S が x≤α−ε を満たす。すると α−ε は S の上界であって α より小さく、α が上界の最小元であることに反する。
(十分性) (i), (ii') を仮定し、M を S の任意の上界とする。M<α と仮定すると、ε=α−M>0 に対して (ii') より x>α−ε=M となる x∈S が存在し、M が上界であることに反する。よって α≤M であり、α=supS。□
注意
命題 1.12 (ii') の量化子の順序に注意すること。「任意の ε>0 に対して、(その ε に応じて)x∈S が存在する」であって、「ある x∈S がすべての ε に対して x>α−ε を満たす」ではない。後者は x≥α、つまり α∈S を意味してしまう(系 1.20 (3) を参照)。
1.4 実数の連続性公理
いよいよ「隙間がない」ことを公理として述べる。
公理 1.14(実数の連続性公理, completeness axiom)R は順序体であって、次の性質をもつ:上に有界な空でない任意の部分集合 S⊂R は、R の中に上限をもつ。
この性質を上限性質 (least upper bound property) ともいい、これを満たす順序体を完備順序体 (complete ordered field) という。以後 R は完備順序体であるとし、R の元を実数 (real number) と呼ぶ。「空でない」「上に有界」という仮定はどちらも必要である。空集合ではすべての元が上界になり最小の上界はなく、N は(後で示すように)上に有界でないので上限をもたない。
命題 1.15 下に有界な空でない部分集合 S⊂R は下限をもつ。
証明. S の下界を m とすると −m は −S の上界であり、−S は空でない。公理 1.14 より sup(−S) が存在し、注意 1.13 (2) より infS=−sup(−S) が存在する。□
連続性公理の最初の成果として、2 が実数として存在することを証明しよう。ここでは「h をどう選ぶか」を探す下書きと、完成した証明(清書)を分けて示す。
定理 1.16(2 の存在)α2=2 を満たす正の実数 α がただ一つ存在する。
下書き. S={x∈R∣x>0, x2<2} の上限を α とし、α2<2 と α2>2 をともに否定したい。
- α2<2 なら、少し大きい α+h もまだ S に入るはずである。0<h≤1 なら h2≤h なので (α+h)2=α2+2αh+h2≤α2+(2α+1)h。これが 2 より小さくなるには h<2α+12−α2 ならよい。余裕をもって h=2(2α+1)2−α2 とする。α≥1 なら 2−α2≤1、2α+1≥3 だから h≤61 となり、h≤1 も自動的に満たされる。
- α2>2 なら、少し小さい α−h がまだ S の上界になるはずである。(α−h)2=α2−2αh+h2>α2−2αh なので、2αh=α2−2、すなわち h=2αα2−2 とすれば (α−h)2>2 となる。
証明. S={x∈R∣x>0, x2<2} とおく。1∈S だから S は空でない。x≥2 なら x2≥4>2 なので x∈/S、したがって 2 は S の上界である。公理 1.14 より α=supS が存在し、1∈S より α≥1。
α2<2 と仮定する。h=2(2α+1)2−α2 とおくと 0<h≤61 であり、h2≤h より
(α+h)2≤α2+(2α+1)h=α2+22−α2<2
となる。よって α+h∈S だが、α+h>α は α が上界であることに反する。
α2>2 と仮定する。h=2αα2−2>0 とおくと α−h=2αα2+2>0 であり、(α−h)2>α2−2αh=2。もし x∈S が x>α−h を満たせば、両辺とも正なので x2>(α−h)2>2 となり x∈S に反する。よって α−h は S の上界であるが、α−h<α は α が最小の上界であることに反する。
以上より α2=2。一意性:α,β>0 が α2=β2=2 を満たせば (α−β)(α+β)=0 で α+β>0 だから α=β。□
この α を 2 と書く。同じ方法で、任意の a>0 と n∈N に対して bn=a となる b>0 がただ一つ存在することが示せる(問題 1.6。第3章では中間値の定理を使ってより簡単に示す)。
例 1.17(Q は連続性公理を満たさない)まず 2 が無理数であることを示す。p,q∈N が互いに素で (p/q)2=2 とすると p2=2q2 なので p2 は偶数、よって p は偶数である(奇数の平方は奇数)。p=2p′ とおくと 2p′2=q2 となり q も偶数で、互いに素であることに反する。
次に SQ={x∈Q∣x>0, x2<2} を考える。SQ は空でなく、2 を上界にもつ。もし Q の中に上限 α∈Q があったとすると、定理 1.16 の証明がそのまま Q の中で通用する。実際、証明で使った h は α から四則演算だけで作られるので α∈Q なら h∈Q であり、議論はすべて Q の中で完結する。すると α2=2 となり、2 の無理性に反する。したがって SQ は Q の中に上限をもたない。Q は順序体だが、完備順序体ではない。
1.5 アルキメデスの性質と有理数の稠密性
高校では「n を大きくすると n1 は 0 に近づく」ことを当然としてきた。しかし例 1.6 の順序体 R(t) では、正の元 1/t がすべての 1/n より小さいので、1/n は 0 に「いくらでも近づく」ことができない。R にこのような無限小が存在しないことは、公理から証明すべき事実である。
定義 1.18(アルキメデス的, Archimedean)順序体 K がアルキメデス的であるとは、任意の a>0 と b∈K に対して na>b となる n∈N が存在することをいう。
定理 1.19(アルキメデスの性質, Archimedean property)R はアルキメデス的である。
証明. 結論を否定すると、ある a>0 と b について、すべての n∈N で na≤b となる。すると S={na∣n∈N} は空でなく上に有界だから、公理 1.14 より α=supS が存在する。a>0 より α−a<α なので α−a は S の上界でなく、na>α−a となる n∈N がある。すると (n+1)a>α かつ (n+1)a∈S となり、α が上界であることに反する。□
系 1.20 (1) N は R の中で上に有界でない。
(2) 任意の ε>0 に対して n1<ε となる n∈N が存在する。
(3) x∈R がすべての ε>0 に対して x≤ε を満たせば x≤0 である。特に、∣a−b∣≤ε がすべての ε>0 について成り立てば a=b である。
証明. (1) 定理 1.19 で a=1 とすれば、任意の b に対して n>b となる n∈N がある。(2) a=ε、b=1 として nε>1 となる n をとれば n1<ε。(3) x>0 なら ε=x/2 に対して x≤x/2 となり矛盾。後半は x=∣a−b∣ に適用する。□
系 1.20 (3) は解析学で最も頻繁に使う論法の一つである。二つの数が等しいことを示すには、差の絶対値が任意の ε>0 以下であることを示せばよい。
例 1.21 S={1−n1∣n∈N} について supS=1、minS=0 である。1 が上界であることは明らか。任意の ε>0 に対して、系 1.20 (2) より n1<ε となる n があり、1−n1>1−ε。命題 1.12 より supS=1。一方、例 1.6 の R(t) では N が t を上界にもつが、上限はもたない(もし上限 α があれば、α−1 は上界でないので n>α−1 となる n があり、n+1>α となって矛盾)。R(t) はアルキメデス的でなく、完備でもない。
整数部分(ガウス記号)の存在もアルキメデスの性質から従う。
命題 1.22(整数部分, floor)任意の x∈R に対して、m≤x<m+1 を満たす整数 m がただ一つ存在する。この m を ⌊x⌋ と書く(高校の記号では [x])。⌊x⌋ は x 以下の整数のうち最大のものである。
証明. 存在:系 1.20 (1) より k>−x となる k∈N があり、y=x+k>0 である。y について m′≤y<m′+1 となる整数 m′ が見つかれば、m=m′−k が求めるものである。A={j∈N∣j>y} は系 1.20 (1) より空でないので、自然数の整列性により最小元 j0 をもつ。j0=1 なら m′=0 とすれば 0<y<1。j0≥2 なら j0−1∈N∖A だから j0−1≤y<j0 で、m′=j0−1 とすればよい。
一意性:m,m′ がともに条件を満たせば m≤x<m′+1 かつ m′≤x<m+1 より ∣m−m′∣<1 となり、整数なので m=m′。最後の主張:整数 j が j≤x を満たすとき、j≥m+1 なら j>x となり矛盾するので j≤m。□
定理 1.23(有理数の稠密性, density of the rationals)a<b を満たす任意の実数 a,b に対して、a<r<b となる有理数 r が存在する。
下書き. 分母を n に固定すると、nm(m∈Z)は間隔 n1 で数直線上に並ぶ。間隔が区間の幅 b−a より小さければ、どれかが区間 (a,b) に落ちるはずである。候補は「a を超える最初の nm」、すなわち m=⌊na⌋+1 である。
証明. 定理 1.19 より n(b−a)>1 となる n∈N をとり、m=⌊na⌋+1 とおく。命題 1.22 より m−1≤na<m なので a<nm。また m≤na+1<na+n(b−a)=nb なので nm<b。r=nm とすればよい。□
系 1.24 a<b を満たす任意の実数 a,b に対して、a<x<b となる無理数 x が存在する。
証明. 定理 1.23 を 2a<2b に適用して有理数 r をとる。r=0 となった場合は、区間 (0,2b) に(このとき 0<2b である)改めて定理 1.23 を適用し、0 でない有理数 r をとり直す。x=r2 とおくと a<x<b であり、x が有理数なら 2=x/r も有理数となって例 1.17 に反する。□
どんなに短い区間にも有理数と無理数が(実は無限個)含まれる。数直線上で有理数は「びっしり」並んでいるが、それでも例 1.17 のように隙間だらけである。この微妙な状況を正確に扱えることが、公理的な方法の強みである。
1.6 数列の収束(準備)
連続性公理と同値な条件を述べるには数列の収束が必要になる。ここでは第2章に先立って定義と最小限の性質を準備する。Q などとの比較のため、しばらく一般の順序体 K で考える。
高校では「n を限りなく大きくするとき an が α に限りなく近づく」ことを limn→∞an=α と書いた。「限りなく近づく」を不等式で言い直すと、「どんなに小さな誤差 ε>0 を指定されても、番号 N を十分大きくとれば、N 番目以降のすべての an が α から誤差 ε 未満に収まる」となる。
定義 1.25(数列の収束, convergence)順序体 K の元の列 (an)n∈N と α∈K について
∀ε>0, ∃N∈N, ∀n≥N, ∣an−α∣<ε
が成り立つとき(ε は K の正の元を動く)、(an) は α に収束する (converge) といい、limn→∞an=α または an→α (n→∞) と書く。α を極限 (limit) という。
この形の論法を ε-N 論法 (epsilon-N argument) という。N は ε に応じて選んでよい(N は ε の関数である)ことが要点である。本教材では、ε-N 論法・ε-δ 論法による証明を下書きと清書に分けて示す。下書きは「ε が与えられたとき N をどう選べばよいか」を結論から逆算する作業であり、答案には書かない。清書では、選んだ N を先に宣言し、上から順に不等式を確かめる。
例 1.26 R において limn→∞n1=0 である。
下書き. n1−0=n1<ε となるのは n>ε1 のとき。そこで N>ε1 となる自然数 N をとればよい(アルキメデスの性質で存在する)。
証明. ε>0 を任意にとる。定理 1.19 より N>ε1 となる N∈N が存在する。n≥N ならば n1−0=n1≤N1<ε。□
例 1.6 の R(t) では、ε=t1 に対してすべての n で n1>t1 なので、n1 は 0 に収束しない。「n1→0」はアルキメデスの性質そのものである(補題 1.33)。
例 1.27 limn→∞n+32n+1=2 である。
下書き. n+32n+1−2=n+35。これを ε 未満にする n の範囲を正確に求める必要はなく、大きめに評価して簡単な式にしてよい:n+35<n5 なので、n5≤ε、つまり n≥ε5 なら十分である。
証明. ε>0 を任意にとり、N>ε5 となる N∈N をとる。n≥N ならば
n+32n+1−2=n+35<n5≤N5<ε
である。□
補題 1.28 順序体 K の数列について次が成り立つ。
- (極限の一意性)an→α かつ an→β ならば α=β。
- (極限は不等号を保つ)an→α であり、ある n0 以降のすべての n で an≤c ならば α≤c。an≥c についても同様。
証明. (1) α=β と仮定し、ε=2∣α−β∣>0 とおく。n≥N1 で ∣an−α∣<ε、n≥N2 で ∣an−β∣<ε となる N1,N2 をとり、n=max{N1,N2} とすると、三角不等式より ∣α−β∣≤∣α−an∣+∣an−β∣<2ε=∣α−β∣ となり矛盾。
(2) α>c と仮定し、ε=α−c>0 とおく。n≥N で ∣an−α∣<ε となる N をとり、n≥max{N,n0} とすると an>α−ε=c となり、an≤c に反する。□
注意
補題 1.28 (2) で、仮定を狭義の不等号 an<c にしても、結論は α<c にはならない。an=1−n1<1 だが liman=1 である。極限をとると < は ≤ に弱まる。
定義 1.29 数列 (an) が、すべての n で an≤an+1 を満たすとき単調増加 (monotonically increasing)、an<an+1 を満たすとき狭義単調増加 (strictly increasing) という。単調減少も同様に定める。集合 {an∣n∈N} が上に有界・有界であるとき、数列が上に有界・有界であるという。狭義単調増加な自然数の列 n1<n2<n3<⋯ に対して、数列 (ank)k∈N を (an) の部分列 (subsequence) という。
部分列の番号について、帰納法により nk≥k がすべての k で成り立つ(n1≥1 で、nk+1>nk≥k より nk+1≥k+1)。
補題 1.30 an→α ならば、(an) の任意の部分列 (ank) も α に収束する。
証明. ε>0 に対し、n≥N で ∣an−α∣<ε となる N をとる。k≥N ならば nk≥k≥N なので ∣ank−α∣<ε。□
収束の定義には極限 α が現れるが、極限の値を知らずに「収束しそうか」を判定したいことが多い。そのための概念がコーシー列である。
定義 1.31(コーシー列, Cauchy sequence)数列 (an) が
∀ε>0, ∃N∈N, ∀m,n≥N, ∣am−an∣<ε
を満たすとき、コーシー列という。
補題 1.32 順序体 K の数列について次が成り立つ。
- 収束する数列はコーシー列である。
- コーシー列は有界である。
- コーシー列が収束する部分列をもてば、もとの数列もその極限に収束する。
証明. (1) an→α とし、ε>0 に対して n≥N で ∣an−α∣<2ε となる N をとる。m,n≥N なら ∣am−an∣≤∣am−α∣+∣α−an∣<ε。
(2) ε=1 に対する N をとると、n≥N で ∣an∣≤∣an−aN∣+∣aN∣<1+∣aN∣。よって M=max{∣a1∣,…,∣aN−1∣,1+∣aN∣} とおけば、すべての n で ∣an∣≤M。
(3) (an) をコーシー列、ank→α とする。ε>0 に対し、m,n≥N で ∣am−an∣<2ε となる N と、k≥K で ∣ank−α∣<2ε となる K をとる。k=max{N,K} とすると nk≥k≥N なので、n≥N ならば
∣an−α∣≤∣an−ank∣+∣ank−α∣<2ε+2ε=ε
である。□
補題 1.33 順序体 K について次は同値である。
- K はアルキメデス的である。
- N は K の中で上に有界でない。
- K において n1→0。
証明. (1)⇒(2):定義で a=1 とする。(2)⇒(3):ε>0 に対し、ε1 は N の上界でないから N>ε1 となる N∈N があり、n≥N で n1≤N1<ε。(3)⇒(1):a>0、b∈K とする。b≤0 なら n=1 でよい。b>0 なら ε=a/b>0 に対して n1<ba となる n があり、na>b。□
1.7 連続性公理と同値な条件
実数の「隙間のなさ」は、上限の存在以外にもさまざまな形で表現できる。どの形も後の章で使うので、同値性をまとめて証明しておく。
定理 1.34(連続性公理の同値な言い換え)順序体 K について、次の (A)〜(E) は互いに同値である。
- (A)(上限の存在)上に有界な空でない任意の部分集合は、K の中に上限をもつ。
- (B)(単調収束定理, monotone convergence theorem)上に有界な単調増加数列は収束する。
- (C)(区間縮小法, nested interval property)K はアルキメデス的であり、かつ閉区間の減少列 [a1,b1]⊃[a2,b2]⊃⋯(an≤bn)に対して ⋂n=1∞[an,bn]=∅ である。
- (D)(ボルツァノ–ワイエルシュトラスの定理, Bolzano–Weierstrass theorem)有界な数列は収束する部分列をもつ。
- (E)(コーシー列の収束)K はアルキメデス的であり、かつ K のコーシー列はすべて収束する。
証明. (A)⇒(B)⇒(C)⇒(D)⇒(E)⇒(A) の順に示す。
(A)⇒(B). (an) を上に有界な単調増加数列とし、α=sup{an∣n∈N} とおく((A) より存在する)。ε>0 に対し、命題 1.12 より aN>α−ε となる N がある。n≥N なら単調性より α−ε<aN≤an≤α なので ∣an−α∣<ε。よって an→α。
(B)⇒(C). まずアルキメデス性を示す。N が K で上に有界だと仮定すると、数列 an=n は上に有界な単調増加数列なので、(B) よりある α に収束する。ε=21 に対する N をとると
1=∣(N+1)−N∣≤∣(N+1)−α∣+∣α−N∣<21+21=1
となり矛盾する。よって補題 1.33 より K はアルキメデス的である。
次に区間の減少列 [an,bn] を考える。[an+1,bn+1]⊂[an,bn] より an≤an+1≤bn+1≤bn なので、(an) は単調増加で b1 を上界にもつ。(B) より an→α となる α がある。任意の m を固定する。n≤m なら an≤am≤bm、n≥m なら an≤bn≤bm なので、すべての n で an≤bm であり、補題 1.28 (2) より α≤bm。また n≥m で an≥am なので、同じく α≥am。よって α∈[am,bm] がすべての m で成り立ち、共通部分は空でない。
(C)⇒(D). (xn) を有界な数列とし、すべての n で ∣xn∣≤M(M>0)とする。二分法 (bisection) で区間の列を作る。[a1,b1]=[−M,M] とおく。これは xn∈[a1,b1] となる n を無限個(実際にはすべて)含む。[ak,bk] が「xn∈[ak,bk] となる n が無限個ある」という性質をもつとき、中点 ck=2ak+bk で二つに分けると、[ak,ck] と [ck,bk] の少なくとも一方は同じ性質をもつ(両方とも有限個しか含まなければ、合わせても有限個になる)。そのような方(両方なら左側)を [ak+1,bk+1] とする。こうして区間の減少列が得られ、bk−ak=2k−12M である。
部分列を帰納的に選ぶ:n1=1 とし、nk まで選んだら、xn∈[ak+1,bk+1] となる n は無限個あるので、その中から nk+1>nk を満たすものを一つ選ぶ。すると xnk∈[ak,bk] がすべての k で成り立つ。
(C) より c∈⋂k[ak,bk] がとれる。xnk と c はともに [ak,bk] に属するので、2k−1≥k(帰納法で示せる)と合わせて
∣xnk−c∣≤bk−ak=2k−12M≤k2M
である。ε>0 に対し、アルキメデス性より K0>ε2M となる K0∈N をとれば、k≥K0 で ∣xnk−c∣≤K02M<ε。よって xnk→c。
(D)⇒(E). アルキメデス性を示す。N が上に有界だと仮定すると、数列 an=n は有界(下界 1)なので、(D) より収束部分列 (nk) をもつ。補題 1.32 (1) よりこれはコーシー列だが、nk+1 と nk は相異なる自然数なので ∣nk+1−nk∣≥1 がすべての k で成り立ち、ε=1 でコーシー列の条件に反する。よって K はアルキメデス的である。次に (an) をコーシー列とすると、補題 1.32 (2) より有界、(D) より収束部分列をもち、補題 1.32 (3) より (an) 自身が収束する。
(E)⇒(A). S を上に有界な空でない部分集合とし、s0∈S と S の上界 b1 をとる。a1=s0−1 とおくと a1<s0 なので a1 は S の上界でなく、a1<b1。二分法で区間 [an,bn] を次のように定める:中点 cn=2an+bn が S の上界なら [an+1,bn+1]=[an,cn]、そうでなければ [an+1,bn+1]=[cn,bn] とする。帰納法により、すべての n で
- bn は S の上界であり、an は S の上界でない、
- an≤an+1≤bn+1≤bn、かつ bn−an=2n−1b1−a1≤nb1−a1
が成り立つ。m≥n なら an≤am≤bm≤bn より ∣am−an∣≤bn−an≤nb1−a1 であり、アルキメデス性(補題 1.33)から (an) はコーシー列である。同様に (bn) もコーシー列である。(E) より an→α、bn→β となる α,β がある。任意の n について
∣α−β∣≤∣α−an∣+(bn−an)+∣bn−β∣
であり、右辺は n を大きくすればいくらでも小さくできる(各項が 3ε 未満となる n をとればよい)から、系 1.20 (3) と同じ論法で α=β。(系 1.20 (3) の証明はアルキメデス性を使わないので、K でも成り立つ。)
α=supS を示す。s∈S なら、すべての n で s≤bn なので、補題 1.28 (2) より s≤β=α。よって α は上界である。M を S の上界とし、M<α と仮定する。an→α なので、ε=α−M に対して an>α−ε=M となる n がある。an は上界でないので s>an となる s∈S があり、s>M となって M が上界であることに反する。よって α≤M であり、α=supS。□
公理 1.14 より R は (A) を満たすので、(B)〜(E) もすべて R で成り立つ。特に次がわかる。
系 1.35 R において次が成り立つ。
- 上に有界な単調増加数列は上限 supnan に収束し、下に有界な単調減少数列は下限 infnan に収束する。
- 閉区間の減少列 [an,bn] が bn−an→0 を満たせば、⋂n[an,bn] はちょうど 1 点からなる。
- 有界な実数列は収束部分列をもつ。
- 実数列が収束するための必要十分条件は、コーシー列であることである。
証明. (1) 前半は (A)⇒(B) の証明そのもの。後半は (−an) に前半を適用する。(2) 共通部分は (C) より空でない。x,y がともに共通部分に属すれば、すべての n で ∣x−y∣≤bn−an であり、補題 1.28 (2) より ∣x−y∣≤0、すなわち x=y。(3), (4) は (D), (E) と補題 1.32 (1) による。□
例 1.37(Q では (B)〜(E) がすべて成り立たない)Q はアルキメデス的な順序体だが、(A) を満たさない(例 1.17)ので、定理 1.34 より (B)〜(E) も成り立たない。具体例を見ておこう。an=10n⌊10n2⌋(2 の小数第 n 位までの近似 1.4,1.41,1.414,…)とおくと an∈Q であり、問題 1.4 より (an) は単調増加、an≤2<an+10−n を満たし、R で 2 に収束する。
- (B) の反例:(an) は Q の中で単調増加かつ上に有界(上界 2)だが、Q の中に極限をもたない。実際、Q で an→q なら、任意の実数 ε>0 に対して 0<ε′<ε となる有理数 ε′ をとる(定理 1.23)ことで R でも an→q となり、極限の一意性から q=2∈/Q となって矛盾する。
- (C) の反例:区間 In={x∈Q∣an≤x≤an+10−n} は Q の閉区間の減少列だが(問題 1.4 の解答を参照)、R での共通部分は系 1.35 (2) より {2} なので、Q での共通部分は空である。
- (D) の反例:(an) は有界だが、どの部分列も R で 2 に収束する(補題 1.30)ので、Q で収束する部分列はない。
- (E) の反例:(an) は R で収束するのでコーシー列であり、有理数の ε についても条件が成り立つから Q のコーシー列でもあるが、Q で収束しない。
ヒント
定理 1.34 の五つの条件のうち、どれを使うと証明が楽になるかは場面による。「極限の候補が具体的に作れる」なら (A) や (B)、「候補がわからないが近づいていく」なら (E)、「無限個の点のどこかに集積点がある」ことを言いたいなら (D) が便利である。第3章の中間値の定理・最大値定理は、それぞれ (A) と (D) を使うと見通しよく証明できる。
まとめ
- 実数全体 R は、連続性公理(上に有界な空でない部分集合は上限をもつ)を満たす順序体として公理的に特徴づけられる。Q は順序体だがこの公理を満たさない。
- α=supS は「α が上界であり、任意の ε>0 に対して x>α−ε となる x∈S がある」と同値である。上限は S に属するとは限らない。
- 連続性公理から 2 の存在、アルキメデスの性質(N は上に有界でない、n1→0)、整数部分の存在、有理数・無理数の稠密性が従う。
- 「∣a−b∣≤ε がすべての ε>0 で成り立てば a=b」は解析学の基本的な論法である。
- 数列の収束は ε-N 論法で定義される。証明を書くときは、N を逆算する下書きと、N を先に宣言する清書を区別する。
- 順序体において、上限の存在・単調収束定理・区間縮小法(+アルキメデス性)・ボルツァノ–ワイエルシュトラスの定理・コーシー列の収束(+アルキメデス性)は互いに同値である。
- 極限をとると不等号 < は ≤ に弱まる。
演習問題
問題 1.1 ★ 次の集合 S⊂R の上限・下限を求め、最大元・最小元が存在するかどうかを答えよ。
(1) S={(−1)n+n1∣n∈N} (2) S={x∈Q∣x2<3} (3) S={m+nm∣m,n∈N}
解答
(1) n=2 のとき 23。偶数 n では 1+n1≤23、奇数 n では −1+n1≤0 なので maxS=supS=23。また (−1)n≥−1、n1>0 よりすべての元は −1 より大きい。任意の ε>0 に対し m1<ε となる m をとり n=2m+1 とすれば、−1+n1<−1+ε。よって(命題 1.12 の下限版により)infS=−1。−1∈/S なので最小元はない。
(2) 3 の存在は定理 1.16 と同様(問題 1.6)。x∈S なら ∣x∣<3(∣x∣≥3 なら x2≥3)なので 3 は上界。0<ε<3 に対し、定理 1.23 より 3−ε<r<3 となる有理数 r があり、0<r<3 より r2<3、つまり r∈S。ε≥3 なら 1∈S が 1>3−ε を満たす。よって supS=3。(3)2=3 なので 3∈/S であり、最大元はない。S=−S なので infS=−3 で、最小元もない。
(3) すべての元は 0 と 1 の間にある(両端を含まない)。m+1m=1−m+11 と 1+n1 を考えれば、例 1.21 と同様に supS=1、infS=0。0,1∈/S なので最大元も最小元もない。
問題 1.2 ★ A,B⊂R を上に有界な空でない集合とし、A+B={a+b∣a∈A, b∈B} とおく。sup(A+B)=supA+supB を示せ。
解答
α=supA、β=supB とおく。a∈A、b∈B なら a+b≤α+β なので α+β は A+B の上界である。ε>0 に対し、命題 1.12 より a>α−2ε となる a∈A と b>β−2ε となる b∈B があり、a+b>α+β−ε。命題 1.12 より sup(A+B)=α+β。
問題 1.3 ★ ⋂n=1∞(0,n1]=∅、⋂n=1∞[n,∞)=∅ を示せ。これらは区間縮小法(定理 1.34 (C))に反しないか。
解答
x∈⋂n(0,n1] とすると、x>0 かつすべての n で x≤n1。系 1.20 (2) より n1<x となる n があり矛盾する。x∈⋂n[n,∞) とすると、すべての n で n≤x となり、系 1.20 (1) に反する。どちらも区間縮小法には反しない。区間縮小法の区間は有界な閉区間 [an,bn] でなければならず、前者は左端が開いており、後者は有界でない。
問題 1.4 ★ x∈R に対して an=10n⌊10nx⌋ とおく。(1) an≤x<an+10−n、(2) an≤an+1 かつ an+1+10−(n+1)≤an+10−n、(3) an→x を示せ((1)〜(3) は x の小数展開の存在を意味する)。
解答
(1) 命題 1.22 より ⌊10nx⌋≤10nx<⌊10nx⌋+1。10n で割ればよい。
(2) 10⌊10nx⌋ は 10n+1x 以下の整数なので、命題 1.22 の最後の主張より 10⌊10nx⌋≤⌊10n+1x⌋。10n+1 で割って an≤an+1。また ⌊10n+1x⌋≤10n+1x<10(⌊10nx⌋+1) で、両端は整数なので ⌊10n+1x⌋+1≤10(⌊10nx⌋+1)。10n+1 で割って an+1+10−(n+1)≤an+10−n。
(3) (1) より 0≤x−an<10−n≤n1(10n≥n は帰納法でわかる)。ε>0 に対し N>ε1 をとれば、n≥N で ∣an−x∣<n1≤N1<ε。
問題 1.5 ★★ S⊂R を空でない集合、α∈R とする。α=supS であるための必要十分条件は、α が S の上界であり、かつ xn→α となる S の点列 (xn) が存在することであることを示せ。
解答
(必要性)各 n について命題 1.12 を ε=n1 に適用し、α−n1<xn≤α となる xn∈S を選ぶ。∣xn−α∣<n1 なので、例 1.26 と同様に xn→α。
(十分性)M を S の任意の上界とすると、すべての n で xn≤M なので、補題 1.28 (2) より α=limxn≤M。α 自身も上界なので α=supS。
問題 1.6 ★★ a>0、n∈N とする。bn=a を満たす b>0 がただ一つ存在することを、連続性公理から直接示せ。
解答
n=1 は自明なので n≥2 とする。まず 0<x<y なら xn<yn である(命題 1.3 (2) と帰納法)。これから一意性が従う。
S={x>0∣xn<a} とおく。x0=1+aa は 0<x0<1、x0<a を満たすので x0n≤x0<a、よって S=∅。x≥1+a なら xn≥x>a なので 1+a は上界。b=supS>0 とおく。
下書き. bn<a なら b+h∈S、bn>a なら b−h が上界、となる h>0 を探す。二項定理より 0<h≤1 のとき hk≤h なので
(b+h)n=bn+k=1∑n(kn)bn−khk≤bn+hk=1∑n(kn)bn−k=bn+hC,C:=(b+1)n−bn>0
また 0<h<b のとき bn−(b−h)n=h∑k=0n−1bn−1−k(b−h)k≤hnbn−1。
証明. bn<a と仮定し、h=min{1,2Ca−bn} とおくと (b+h)n≤bn+2a−bn<a なので b+h∈S となり、b が上界であることに反する。bn>a と仮定し、h=nbn−1bn−a とおくと 0<h<nbn−1bn=nb<b であり、(b−h)n≥bn−hnbn−1=a。x∈S が x>b−h を満たせば xn>(b−h)n≥a となり矛盾するので、b−h は S の上界であり、b が最小の上界であることに反する。よって bn=a。
問題 1.7 ★★ S,T を正の実数からなる上に有界な空でない集合とし、ST={st∣s∈S, t∈T} とおく。sup(ST)=supS⋅supT を示せ。
解答
α=supS>0、β=supT>0 とおく。st≤αt≤αβ なので αβ は上界。
下書き. s>α−δ、t>β−δ なら、α−δ≥0 のもとで st>(α−δ)(β−δ)≥αβ−δ(α+β) となる。δ(α+β)≤ε となるように δ を選べばよい。
証明. ε>0 に対し δ=min{α+βε,α,β}>0 とおき、s>α−δ となる s∈S、t>β−δ となる t∈T をとる。α−δ≥0、t>0 より st>(α−δ)t、さらに α−δ≥0 より (α−δ)t≥(α−δ)(β−δ)。したがって
st>(α−δ)(β−δ)=αβ−δ(α+β)+δ2≥αβ−ε
命題 1.12 より sup(ST)=αβ。
問題 1.8 ★★ G={m+n2∣m,n∈Z} は R で稠密であること、すなわち任意の a<b に対して a<g<b となる g∈G が存在することを示せ。
解答
G は加法と符号の反転で閉じている。
(第1段) 任意の N∈N に対し、0<g<N1 となる g∈G があることを示す。k=0,1,…,N に対して θk=k2−⌊k2⌋∈[0,1) とおく。[0,1) を N 個の区間 [Nj,Nj+1)(j=0,…,N−1)に分けると、N+1 個の θk のうち二つ θk,θl(k=l)が同じ区間に入る(鳩の巣原理)。g=θk−θl=(k−l)2−(⌊k2⌋−⌊l2⌋)∈G は ∣g∣<N1 を満たし、2 が無理数で k=l だから g=0。必要なら −g に取り替えて 0<g<N1 とできる。
(第2段) a<b とし、N1<b−a となる N をとって第1段の g を選ぶ。m=⌊a/g⌋+1 とおくと m−1≤a/g<m より a<mg≤a+g<b。mg∈G である。
問題 1.9 ★★★(デデキントの公理)順序体 K の部分集合の組 (A,B) が、A=∅、B=∅、A∪B=K、A∩B=∅ であり、かつすべての a∈A、b∈B で a<b となるとき、切断 (cut) という。「任意の切断 (A,B) について、A が最大元をもつか B が最小元をもつかのいずれかである」という条件(デデキントの公理)が連続性公理 (A) と同値であることを示せ。また、A の最大元と B の最小元が同時に存在することはないことを示せ。
解答
((A)⇒デデキント)切断 (A,B) をとる。A は空でなく、任意の b∈B を上界にもつので α=supA が存在する。α∈A なら α=maxA。α∈/A なら α∈B であり、各 b∈B は A の上界なので α≤b。よって α=minB。
(デデキント⇒(A))S を上に有界な空でない集合とし、B を S の上界全体、A=K∖B とおく。B=∅。s∈S なら s−1 は上界でないので A=∅。a∈A、b∈B なら、a は上界でないので s>a となる s∈S があり、b≥s>a。よって (A,B) は切断である。A が最大元 a0 をもつと仮定すると、a0 は上界でないので s>a0 となる s∈S があり、c=2a0+s は a0<c<s を満たすので上界でなく、c∈A となって a0 の最大性に反する。よってデデキントの公理から B は最小元をもち、それが supS である。
(同時には起こらないこと)a0=maxA、b0=minB とすると a0<b0 で、c=2a0+b0 は a0<c<b0 を満たす。c∈A なら a0 の最大性に、c∈B なら b0 の最小性に反する。