Lemma数学ロードマップ

14 · ステージ 6 大学院

代数幾何学

アフィン・射影多様体、層、スキーム、準連接層と因子、層コホモロジー、代数曲線とリーマン–ロッホの定理

9 章目安 150〜200 時間演習 52 問

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前提となる科目Rₚ13 可換環論⊣12 圏論

章の一覧

  1. 1 アフィン代数多様体目安 19〜25 時間 · 演習 5 問
  2. 2 射影多様体目安 16〜21 時間 · 演習 6 問
  3. 3 層目安 16〜22 時間 · 演習 6 問
  4. 4 スキーム目安 18〜24 時間 · 演習 6 問
  5. 5 スキームの性質と射目安 16〜21 時間 · 演習 6 問
  6. 6 準連接層・直線束・因子目安 18〜24 時間 · 演習 6 問
  7. 7 層のコホモロジー目安 17〜22 時間 · 演習 6 問
  8. 8 代数曲線とリーマン–ロッホの定理目安 15〜20 時間 · 演習 6 問
  9. 9 さらに先へ目安 15〜21 時間 · 演習 5 問

概要

代数幾何学は、多項式の零点として定義される図形――平面曲線 y2=x3−xy^2 = x^3 - x、二次曲面 xw=yzxw = yz、ねじれ 3 次曲線 (t,t2,t3)(t, t^2, t^3) など――を、多項式環とそのイデアルの言葉で調べる分野である。図形の性質(既約性・次元・特異点・交わり)が環の性質(素イデアル・クルル次元・正則局所環・剰余環の長さ)に翻訳され、逆に環論の定理が図形についての定理になる。この「図形と環の辞書」が代数幾何学の出発点である。

20 世紀半ば、グロタンディークはこの辞書をすべての可換環に広げ、スキーム (scheme) の理論を作った。スキームを使うと、交わりの重複度を記憶する冪零元、既約な図形全体を代表する生成点、そして Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} のような数論的対象までを、一つの幾何学の中で扱える。この科目では古典的な図形(代数多様体)から出発し、層・スキーム・準連接層・層のコホモロジーを順に導入して、最後に代数曲線のリーマン–ロッホの定理を層のコホモロジーを使って証明する。

学び方の基本方針:抽象的な定義に出会ったら、必ず次の例で確かめること。平面曲線(直線・円錐曲線・尖点 y2=x3y^2 = x^3・結節点 y2=x2(x+1)y^2 = x^2(x+1)・楕円曲線)、二次曲面、ねじれ 3 次曲線、射影空間 Pn\mathbb{P}^n、そしてスキームの例として Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}、二重点 Spec⁡k[x]/(x2)\operatorname{Spec} k[x]/(x^2)、原点が 2 つある直線。本科目の定理のほとんどは、これらの例で意味が見えるように述べてある。

前提知識

到達目標

  • [ ] 零点定理を使ってイデアルと代数的集合の対応を説明し、具体的な代数的集合を既約成分に分解できる
  • [ ] アフィン多様体の圏と座標環の圏の反変同値を証明し、ヤコビアン判定法で特異点を求められる
  • [ ] 射影多様体の射影閉包・セグレ埋め込み・ヴェロネーゼ埋め込みを計算し、ヒルベルト多項式から次数と種数を読み取れる
  • [ ] 層・茎・層化・順像と逆像を定義し、層の射の単射・全射を茎で判定できる。大域切断関手が右完全でない例を挙げられる
  • [ ] アフィンスキームの構造層を構成し、O(D(f))=Af\mathcal{O}(D(f)) = A_f と Hom⁡(X,Spec⁡A)=Hom⁡(A,OX(X))\operatorname{Hom}(X, \operatorname{Spec} A) = \operatorname{Hom}(A, \mathcal{O}_X(X)) を証明できる
  • [ ] 冪零元・生成点・Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} 上のスキームの例を使って、スキームが必要な理由を説明できる
  • [ ] ファイバー積とファイバーを計算し(例:Spec⁡Z[i]→Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[i] \to \operatorname{Spec} \mathbb{Z})、分離的射・固有射・平坦射の意味を例で説明できる
  • [ ] 準連接層と加群の対応を理解し、Pn\mathbb{P}^n 上の O(n)\mathcal{O}(n)、因子類群 Cl⁡(Pn)≅Z\operatorname{Cl}(\mathbb{P}^n) \cong \mathbb{Z}、二次錐の因子類群を計算できる
  • [ ] チェック複体を使って Pn\mathbb{P}^n 上の O(m)\mathcal{O}(m) のコホモロジーを計算し、平面曲線の種数 (d−1)(d−2)/2(d-1)(d-2)/2 を導ける
  • [ ] リーマン–ロッホの定理をセール双対性から証明し、種数 0 の曲線が P1\mathbb{P}^1 であることや楕円曲線の群構造の構成に応用できる
  • [ ] フルヴィッツの公式を使って曲線の種数を計算できる
  • [ ] 交点理論・極小モデル理論・モジュライ・ヴェイユ予想・ホッジ理論・数論幾何が何を問題にしているかを説明できる

章立て

  1. 第1章 アフィン代数多様体 代数的集合とイデアル、ザリスキー位相と既約分解、零点定理とイデアル–多様体対応、座標環と正則関数、射と座標環の反変同値、次元、接空間とヤコビアン判定法。
  2. 第2章 射影多様体 射影空間と斉次座標、射影的零点定理、射影閉包、射影多様体の射、セグレ埋め込み・ヴェロネーゼ埋め込み、二次曲面上の直線、ヒルベルト多項式と次数、ベズーの定理、完備性、グラスマン多様体。
  3. 第3章 層 前層と層、茎と芽、層の射の単射・全射の茎による判定、層化、層の完全列と指数関数列、順像・逆像と随伴、局所環付き空間としての多様体。
  4. 第4章 スキーム なぜスキームが必要か、アフィンスキームの構造層、スキームの定義、Spec⁡\operatorname{Spec} の関手性、Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}・二重点・生成点、貼り合わせ、Proj⁡\operatorname{Proj}、多様体からスキームへ、TT 値点。
  5. 第5章 スキームの性質と射 被約・整・ネーター、閉部分スキーム、ファイバー積とファイバー、有限型・有限射、分離的射、固有射と付値判定法、次元、平坦射。
  6. 第6章 準連接層・直線束・因子 OX\mathcal{O}_X-加群と M~\widetilde{M}、準連接層と連接層、局所自由層、ピカール群、O(n)\mathcal{O}(n)、ヴェイユ因子とカルティエ因子、射影空間への射、豊富な直線束、微分形式の層と標準層。
  7. 第7章 層のコホモロジー 導来関手としてのコホモロジー、脆弱層、チェック・コホモロジー、セールの消滅定理、Pn\mathbb{P}^n 上の O(m)\mathcal{O}(m) のコホモロジー、有限性と消滅定理、オイラー標数とヒルベルト多項式、セール双対性。
  8. 第8章 代数曲線とリーマン–ロッホの定理 非特異射影曲線と関数体、因子の次数、種数、リーマン–ロッホの定理、種数 0・種数 1 の曲線、フルヴィッツの公式、超楕円曲線と標準曲線、平面曲線の種数公式。
  9. 第9章 さらに先へ 曲面の交点理論、極小モデル理論、曲線のモジュライ、合同ゼータ関数とヴェイユ予想、ホッジ理論、数論幾何への展望、学習ロードマップと文献案内。

学習時間の目安と進め方

  • 1 章あたり 15〜20 時間(本文の精読 8〜12 時間、演習 6〜8 時間)、全体で 140〜180 時間程度を想定している。大学院の講義なら修士 1 年の通年 2 科目分(古典的多様体と層で半期、スキームとコホモロジー・曲線で半期)に相当する。
  • 章の依存関係はおおよそ次のとおりである。
    • 第1章 → 第2章(古典的な代数多様体)
    • 第3章は第1章と並行して読める(層の一般論)。第4章以降はすべて第3章を使う
    • 第4章 → 第5章 → 第6章 → 第7章 → 第8章(スキーム論の流れ)
    • 第9章はサーベイであり、各節は第6章〜第8章のどこかと対応している
  • 第4章以降で抽象度が急に上がる。新しい定義に出会うたびに、「Spec⁡\operatorname{Spec} of 多項式環(古典的な多様体)」「Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z}(数論)」「冪零元をもつ環(二重点)」の 3 種類の例で確かめること。
  • 第7章・第8章の計算(Pn\mathbb{P}^n のコホモロジー、平面曲線の種数、リーマン–ロッホの応用)は、手を動かして表を作ると定着する。
  • 演習問題は ★ をすべて解いてから ★★ に進むとよい。★★ には大学院入試の基本レベルの問題が含まれる。

参考文献

  • R. Hartshorne, Algebraic Geometry (Springer) 標準的な教科書。第 I 章が古典的な多様体、第 II 章がスキーム、第 III 章がコホモロジー、第 IV 章が曲線で、本科目の第1章〜第8章とほぼ対応する。演習問題が本文の一部をなしている。
  • 上野健爾『代数幾何』(岩波書店) スキーム論とコホモロジーを日本語で丁寧に解説した本。第4章〜第7章の参考書として適する。
  • 川又雄二郎『射影空間の幾何学』(朝倉書店) 射影空間とその部分多様体を具体的に扱う。第2章の射影幾何・二次曲面・グラスマン多様体の理解を深めるのに向く。
  • 桂利行『代数幾何入門』(共立出版) 代数多様体から曲線論までを見通しよく解説した入門書。第1章・第2章・第8章と並行して読める。
  • D. Mumford, The Red Book of Varieties and Schemes (Springer) 古典的な多様体からスキームへの移行を、幾何的な直観を重視して解説する。Spec⁡Z[x]\operatorname{Spec} \mathbb{Z}[x] の絵などは第4章の理解に役立つ。
  • R. Vakil, The Rising Sea: Foundations of Algebraic Geometry スキーム論を例と演習を中心に網羅的に解説した大部の本。第3章〜第7章の副読本として最適である。
  • U. Görtz, T. Wedhorn, Algebraic Geometry I (Springer) スキーム論の基礎を正確かつ詳細に扱う。関手的な見方(TT 値点)やファイバー積の構成を確認するのに向く。
  • Q. Liu, Algebraic Geometry and Arithmetic Curves (Oxford University Press) 数論的な対象(Spec⁡Z\operatorname{Spec} \mathbb{Z} 上のスキーム、算術曲面)を重視したスキーム論の教科書。第5章の例や第9章の数論幾何への入口になる。
  • I. R. Shafarevich, Basic Algebraic Geometry 1, 2 (Springer) 第 1 巻は古典的な多様体の幾何を豊富な例とともに、第 2 巻はスキームと複素多様体を扱う。第1章・第2章の副読本として適する。
  • W. Fulton, Algebraic Curves 平面代数曲線の入門書。交点数・ベズーの定理・リーマン–ロッホの定理を初等的に扱い、第2章・第8章の具体的な計算の参考になる。

次に学ぶもの