この章のねらい
- 正則値定理・ストークスの定理・マイヤー–ヴィートリス完全系列・ファン・カンペンの定理を、具体的な空間の計算に使えるようにする
- 写像度・基本群・ホモロジー群を「空間を区別する道具」「写像の存在・非存在を示す道具」として使いこなす
前提:多様体、位相幾何学
目安:★ は 20 分、★★ は 30〜40 分、★★★ は 50 分。
問題 1 ★(正則値定理)
F(x,y,z)=x2+y2−z2、Mc=F−1(c)⊂R3 とする。
(1) c=0 のとき Mc は 2 次元部分多様体であることを示し、連結成分の個数を求めよ。
(2) M1 の点 p=(1,0,0) における接空間 TpM1 を求めよ。
(3) M0 は原点の近傍で 2 次元位相多様体でないことを示せ。
使う知識:多様体 第3章(正則値定理・部分多様体の接空間)
解答
(1) ∇F=(2x,2y,−2z) は原点でのみ 0 で、原点は F−1(0) に属する。よって c=0 は正則値で、正則値定理により Mc は 3−1=2 次元の部分多様体。c>0 のとき (x,y,z)↦(c+z2(x,y),z) は Mc から S1×R への同相で、連結(一葉双曲面)。c<0 のとき z2=x2+y2−c>0 なので Mc は z>0 と z<0 の部分に分かれ、各部分は R2 上のグラフ z=±x2+y2−c で連結。よって2 成分(二葉双曲面)。
(2) TpM1=kerdFp={v∣⟨∇F(p),v⟩=0}。∇F(p)=(2,0,0) なので TpM1={v1=0}=span{e2,e3}。
(3) 原点 0 の M0 における任意の開近傍 W について、W∖{0} は W∩{z>0} と W∩{z<0} の交わらない開集合の和で、どちらも空でない(小さい t>0 で (t,0,±t)∈W)ので、連結でない。一方、0 が R2 と同相な近傍 U をもつなら、U 内の開円板に対応する近傍 W がとれ、W∖{0} は穴あき円板と同相で連結。矛盾。
解説・発展
- 正則値定理を使う答案では「どの点で dF が全射でないか」を先に求め、それが F−1(c) に含まれないことを確認する。c=0 でも M0∖{0} は多様体である。
- (3) で「∇F(0)=0 だから多様体でない」とするのは誤り。正則値でないことは多様体でないことを意味しない(例:F=(x2+y2+z2−1)2 の F−1(0)=S2)。
問題 2 ★★(行列群の多様体構造と接空間)
(1) O(n)={A∈Mn(R)∣ATA=I} は 2n(n−1) 次元の部分多様体で、TIO(n)={X∣XT+X=O} であることを示せ。
(2) SLn(R) は n2−1 次元の部分多様体で、TISLn(R)={X∣trX=0} であることを示せ。
(3) O(n) はコンパクトだが、n≥2 で SLn(R) はコンパクトでないことを示せ。
使う知識:多様体 第3章(正則値定理)、リー群と表現論 第2章
解答
(1) Symn を対称行列の空間(次元 2n(n+1))とし、F:Mn(R)→Symn, F(A)=ATA とする。dFA(X)=XTA+ATX。A∈O(n), S∈Symn に対し X=21AS とおくと dFA(X)=21(STATA+ATAS)=S なので dFA は全射。よって I は正則値で、O(n)=F−1(I) は n2−2n(n+1)=2n(n−1) 次元。TIO(n)=kerdFI={XT+X=O}。
(2) det(A+tX)=detAdet(I+tA−1X)=detA (1+ttr(A−1X)+O(t2)) より d(det)A(X)=detAtr(A−1X)。A∈SLn で X=A とすると値は n=0 なので全射。よって 1 は正則値で、SLn(R) は n2−1 次元、TI={trX=0}。
(3) O(n) は連続写像 F による閉集合の逆像なので閉集合で、各列が単位ベクトルなので成分は [−1,1] に入り有界。よってコンパクト。SLn(R) は diag(t,t−1,1,…,1) (t>0) を含み有界でない。
解説・発展
- 値域を Mn ではなく Symn にとるのが要点。Mn を値域にすると dFA の像は対称行列に限られ、全射にならない(正則値でなくなる)。
- 接空間 o(n), sln は対応するリー群のリー環で、eX により群に写る(deteX=etrX)。
問題 3 ★★(微分形式とストークスの定理)
R3∖{0} 上の 2 次微分形式
σ=(x2+y2+z2)3/2xdy∧dz+ydz∧dx+zdx∧dy
を考える。球面や曲面には外向きの向きを入れる。
(1) dσ=0 を示せ。
(2) ∫S2σ=4π を示し、σ は R3∖{0} 上で完全形式でないことを示せ。
(3) 楕円面 E={4x2+y2+9z2=1} に対し ∫Eσ を求めよ。
使う知識:多様体 第5章、多様体 第6章(ストークスの定理)
解答
(1) r=(x2+y2+z2)1/2 とすると dσ=(∑i∂xi∂r3xi)dx∧dy∧dz で、∂x∂r3x=r31−r53x2 などの和は r33−r53r2=0。
(2) S2 上では r=1 なので σ=ω0:=x dy∧dz+y dz∧dx+z dx∧dy の制限に等しい。ω0 は R3 全体で滑らかで dω0=3 dx∧dy∧dz だから、単位球体 B でストークスの定理を使い ∫S2σ=∫B3 dV=4π。もし σ=dη なら、ストークスの定理より ∫S2dη=∫∂S2η=0 となり矛盾する。
(3) ∣p∣<1 なら 4x2+y2+9z2≤∣p∣2<1 なので、0<ε<1 の球面 Sε は E の内部にある。E と Sε に挟まれたコンパクト領域 R は境界 ∂R=E⊔(−Sε) をもつ 3 次元多様体で、σ は R の近傍で滑らか。ストークスの定理と (1) より ∫Eσ−∫Sεσ=∫Rdσ=0。σ は拡大 x↦εx による引き戻しで不変(分子は ε3 倍、分母も ε3 倍)なので ∫Sεσ=∫S2σ=4π。よって ∫Eσ=4π。
解説・発展
- σ は立体角形式で、4π1∫Σσ は閉曲面 Σ が原点のまわりを何回包むかを表す(ガウスの法則:点電荷の電場の流束は電荷を囲むかどうかだけで決まる)。Σ が原点を囲まなければ積分は 0 である。
- (3) を直接パラメータ表示で計算するのは困難。「閉形式の積分はホモロジー類だけで決まる」ことを使うのが要点で、[σ] は HdR2(R3∖0)≅R の生成元になる。
問題 4 ★★★(ストークスの定理とブラウワーの不動点定理)
n≥2 とし、Dn を Rn の閉単位球体とする。
(1) 滑らかな写像 r:Dn→Sn−1 で r∣Sn−1=id となるもの(レトラクション)は存在しないことを、ストークスの定理を用いて示せ。
(2) 滑らかな写像 f:Dn→Dn は不動点をもつことを示せ。
(3) 連続写像 f:Dn→Dn は不動点をもつことを示せ。
使う知識:多様体 第6章(ストークスの定理・ブラウアーの不動点定理)、位相 第7章(ストーン–ワイエルシュトラスの定理)
解答
(1) ω を Sn−1 の体積形式とすると ∫Sn−1ω>0。r∗ω は Dn 上の (n−1) 次形式で、d(r∗ω)=r∗(dω)=0(dω は (n−1) 次元多様体上の n 次形式で 0)。包含写像を ι とすると r∘ι=id より ι∗r∗ω=ω。ストークスの定理より ∫Sn−1ω=∫∂Dnr∗ω=∫Dnd(r∗ω)=0 となり矛盾。
(2) 不動点がないとし、u(x)=x−f(x)=0 とおく。f(x) から x へ向かう半直線と Sn−1 の交点を r(x)=x+t(x)u(x) とする。t は ∣u∣2t2+2⟨x,u⟩t+∣x∣2−1=0 の大きい方の根で、
t(x)=∣u∣2−⟨x,u⟩+⟨x,u⟩2+∣u∣2(1−∣x∣2)
根号の中は正である:∣x∣<1 なら ∣u∣2(1−∣x∣2)>0、∣x∣=1 なら ⟨x,u⟩=1−⟨x,f(x)⟩>0(等号 ⟨x,f(x)⟩=1 は f(x)=x のときに限る)。よって r は滑らかで、∣x∣=1 なら t(x)=0, r(x)=x。これは (1) に反する。
(3) 不動点がないとすると、コンパクト性から m=minx∣f(x)−x∣>0。ワイエルシュトラスの近似定理により、成分が多項式の写像 p で sup∣p−f∣<2m となるものがある。g=p/(1+2m) とおくと ∣g∣≤1 で滑らか、∣g−p∣≤∣p∣1+m/2m/2≤2m より ∣g−f∣<m。(2) より g(x)=x となる x があり、∣f(x)−x∣=∣f(x)−g(x)∣<m で矛盾。
解説・発展
- (1) はホモロジーを使うと「Sn−1ιDnrSn−1 の合成が恒等写像なのに H~n−1(Dn)=0 を経由する」と 1 行で示せる。ストークスの定理による証明は、ド・ラーム・コホモロジーで同じことをしている。
- (2) の r の滑らかさの確認(根号の中が正)を省く答案が多い。∣x∣=1 での議論が要点である。
問題 5 ★★(写像度:トーラス上の線形写像)
T2=R2/Z2、A∈M2(Z), detA=0 とし、fA([x])=[Ax] とおく。
(1) fA は T2 上の滑らかな写像として well-defined であり、degfA=detA であることを示せ。
(2) 任意の q∈T2 に対し ∣fA−1(q)∣=∣detA∣ を示せ。
(3) det(A−I)=0 なら fA の不動点は ∣det(A−I)∣ 個あることを示せ。第 1 行 (2,1)、第 2 行 (1,1) の行列 A について、fA の不動点と、最小周期がちょうど 2 の周期点の個数を求めよ。
使う知識:多様体 第7章(写像度)、代数学 第7章(部分格子の指数)
解答
(1) AZ2⊂Z2 なので x−y∈Z2⇒Ax−Ay∈Z2 で well-defined。局所的には線形写像なので滑らか。ω=dx∧dy は平行移動で不変なので T2 上の 2 次形式を定め、∫T2ω=1。線形写像の引き戻しは fA∗ω=(detA)ω だから degfA=∫fA∗ω/∫ω=detA。
(2) q=[y] とすると、[x]∈fA−1(q)⇔Ax∈y+Z2⇔x∈A−1y+A−1Z2。よって逆像の個数は [A−1Z2:Z2]=[Z2:AZ2]=∣detA∣(単因子標準形 A=PDQ で指数 =∣d1d2∣)。
(3) [x] が不動点 ⇔(A−I)x∈Z2 で、(2) と同様に個数は [Z2:(A−I)Z2]=∣det(A−I)∣。det(A−I)=1⋅0−1⋅1=−1 より fA の不動点は 1 個。A2 の行は (5,3),(3,2) で、det(A2−I)=4⋅1−3⋅3=−5 より fA2 の不動点は 5 個。最小周期 2 の点は 5−1= 4 個(2 つの周期軌道)。
解説・発展
- (2) で各逆像点での dfA の行列式の符号はすべて sgndetA なので、符号付き個数は detA となり (1) と整合する(写像度の「正則値の逆像の符号付き個数」による定義)。
- レフシェッツ数は L(fA)=∑(−1)ktr(fA∗∣Hk)=1−trA+detA=det(I−A) で、不動点指数の和に等しい。A は双曲型で、fAn の不動点の個数 ∣det(An−I)∣=λn+λ−n−2(λ=23+5)は指数的に増える(アノソフ写像)。
問題 6 ★★(ド・ラーム・コホモロジー)
X=R2∖{p1,p2}(p1=(−1,0), p2=(1,0))とする。
(1) マイヤー–ヴィートリス完全系列を用いて HdRk(X) を求めよ。
(2) ωj=(x−aj)2+y2−y dx+(x−aj) dy(a1=−1, a2=1)とする。[ω1],[ω2] は HdR1(X) の基底であることを示せ。
(3) η=ω1−ω2 は円 ∣z∣=3 に沿った積分が 0 だが、完全形式でないことを示せ。
使う知識:多様体 第7章(ポアンカレの補題・マイヤー–ヴィートリス完全系列・ホモトピー不変性)
解答
(1) U={x<21}∖{p1}, V={x>−21}∖{p2} とする。U, V は凸集合から内点を除いたものなので円周とホモトピー同値で H0=H1=R, H2=0。U∩V={−21<x<21} は凸で可縮。マイヤー–ヴィートリス完全系列
0→H0(X)→H0(U)⊕H0(V)→H0(U∩V)δH1(X)→H1(U)⊕H1(V)→H1(U∩V)=0
において、X は連結なので H0(X)=R、R2→R((a,b)↦b−a)は全射で δ=0。よって H1(X)≅H1(U)⊕H1(V)=R2。また 0=H1(U∩V)→H2(X)→H2(U)⊕H2(V)=0 より H2(X)=0。
(2) ωj は pj を中心とする偏角 θj の微分 dθj(局所的に)なので閉形式。γk を pk を中心とする半径 21 の円とすると、∫γkωj=2πδjk(j=k なら ωj は γk の囲む円板上で滑らかな閉形式なので、ストークスの定理より 0)。完全形式の閉曲線上の積分は 0 なので、[ω]↦(∫γ1ω,∫γ2ω) は H1(X)→R2 の線形写像として well-defined で、[ω1],[ω2] を 1 次独立なベクトルに写す。dimH1(X)=2 なので基底である。
(3) 円 C={∣z∣=3} と γ1,γ2 に挟まれた領域でストークスの定理を使うと ∫Cη=∫γ1η+∫γ2η=2π−2π=0。しかし ∫γ1η=2π=0 なので η は完全でない。
解説・発展
- 一般に R2 から k 点を除いた空間は HdR1≅Rk で、閉形式の類は「各穴のまわりの周回積分」で決まる(留数定理の実版)。(3) は「1 つの閉曲線上の積分が 0 でも完全とは限らない」ことを示す例。
- マイヤー–ヴィートリスを使う答案では、U, V, U∩V のコホモロジーをホモトピー不変性で求めた根拠と、連結準同型が 0 になる理由を明記する。
問題 7 ★★(基本群とファン・カンペンの定理)
(1) クラインの壺 K を、正方形の辺を aba−1b の順に貼り合わせた空間とする。π1(K) と H1(K) を求め、π1(K) は非可換であることを示せ。
(2) トーラス T2(1 次元骨格 a∨b、2 胞体の貼り付け語 aba−1b−1)に、語 a2b4 に沿って 2 胞体を貼り付けた空間を X とする。π1(X) を求めよ。
(3) K と X は 1 次ホモロジー群が同型だが、ホモトピー同値でないことを示せ。
使う知識:位相幾何学 第2章(ファン・カンペンの定理・2 胞体の貼り付け)、位相幾何学 第4章(H1 は π1 の可換化)
解答
弧状連結な空間 Y に 2 胞体を語 w に沿って貼ると、ファン・カンペンの定理より π1 は π1(Y)/⟨⟨w⟩⟩ になる。
(1) K は S1∨S1 に語 aba−1b で 2 胞体を貼った空間なので π1(K)=⟨a,b∣aba−1b⟩。可換化すると 2b=0 なので H1(K)≅Z⊕Z/2Z。非可換性:R の等長変換 s(x)=−x, t(x)=x+1 について s∘t∘s−1∘t=id なので、a↦s, b↦t は準同型を定める。s∘t(x)=−x−1=−x+1=t∘s(x) だから像は非可換、よって π1(K) も非可換。
(2) π1(X)=⟨a,b∣aba−1b−1, a2b4⟩。第 1 の関係式から可換群で、Z2/⟨(2,4)⟩ に同型。Z2 の基底を (1,2),(0,1) にとると (2,4)=2(1,2) なので π1(X)≅Z/2Z⊕Z。
(3) H1(X)=π1(X)ab≅Z⊕Z/2Z≅H1(K)。しかし π1(X) は可換、π1(K) は非可換で同型でない。基本群はホモトピー不変量なので、K と X はホモトピー同値でない。
解説・発展
- 群の非可換性は「具体的な非可換群への準同型を作る」のが確実な証明法。ここでは無限二面体群への準同型を使った。
- ホモロジーだけでは区別できない空間を基本群で区別する例。逆に、基本群が同型でもホモロジーの高次の部分で区別できる場合もある(S2 と S3)。
問題 8 ★★(被覆空間)
(1) S1∨S1 の連結な 2 重被覆は、同型を除いていくつあるか。それぞれを図示せよ。
(2) n≥2 のとき、連続写像 RPn→S1 はすべて定値写像にホモトピックであることを示せ。
(3) 連続写像 f:S2→S1 で f(−x)=−f(x) を満たすものは存在しないことを示せ(S1⊂C とみる)。
使う知識:位相幾何学 第3章(持ち上げの基準・被覆の分類)
解答
(1) 連結な 2 重被覆(基点を忘れた同型類)は、F2=π1(S1∨S1)=⟨a,b⟩ の指数 2 の部分群の共役類に対応する。指数 2 の部分群は正規で、全射準同型 F2→Z/2Z の核と一対一に対応する。全射は (a,b)↦(1,0),(0,1),(1,1) の 3 つ。対応する被覆空間は、頂点 v0,v1 の 2 つをもつグラフで:(i) a の 2 本の辺が v0,v1 を結ぶ円周をなし、各頂点に b のループがある、(ii) a と b の役割を入れ替えたもの、(iii) a の辺も b の辺も v0 と v1 を結ぶ(4 本の辺が 2 頂点を結ぶ)もの。
(2) π1(RPn)≅Z/2Z (n≥2) から π1(S1)≅Z への準同型は自明。RPn は連結かつ局所弧状連結なので、持ち上げの基準により f は普遍被覆 p:R→S1 を通して f=p∘f~ と持ち上がる。R は可縮なので f~≃ 定値写像で、f≃ 定値写像。
(3) そのような f があるとする。p(t)=e2πit とし、γ を x0 から −x0 への道、α を f∘γ の持ち上げとする。f(−x0)=−f(x0) より c:=α(1)−α(0)∈21+Z。道 −γ(−x0 から x0)について f(−γ(t))=−f(γ(t)) なので、β(t)=α(t)+c は β(0)=α(1) となる f∘(−γ) の持ち上げである。よってループ γ⋅(−γ) の f による像は、持ち上げの端点の差が 2c(奇数)となり、S1 で自明でない。一方 S2 は単連結なのでこのループは零ホモトピックで、その像も零ホモトピック(差は 0)。矛盾。
解説・発展
- (3) から n=2 のボルスク–ウラムの定理が従う:連続写像 g:S2→R2 に対し g(x)=g(−x) となる x がある(なければ ∣g(x)−g(−x)∣g(x)−g(−x) が奇写像になる)。「地球上に気温と気圧が同じ対蹠点の組がある」という主張である。
- 被覆の分類では「基点つき同型 ↔ 部分群」「基点なし同型 ↔ 部分群の共役類」の区別に注意する。
問題 9 ★★(胞体ホモロジー)
(1) RPn は各次元 0≤k≤n に 1 つずつ胞体をもち、胞体鎖複体の境界写像は dk=1+(−1)k 倍で与えられる。Hk(RPn;Z) を求めよ。
(2) S1 に写像 z↦z3 で 2 胞体を貼り付けた空間 X の π1(X) と Hk(X;Z) を求めよ。
(3) RPn と X のオイラー標数を、胞体の個数とベッチ数の両方から計算して一致を確かめよ。
使う知識:位相幾何学 第5章(胞体ホモロジー・オイラー標数)
解答
(1) dk は k が奇数なら 0、k≥2 が偶数なら 2 倍(単射)。よって
Hk(RPn)≅⎩⎨⎧ZZ/2Z0Zk=0k は奇数,0<k<nk は偶数,0<k≤nk=n が奇数
(0<k<n で k 奇数なら kerdk=Z, imdk+1=2Z。k=n 奇数なら dn+1 がないので Z。)k>n では 0。
(2) 胞体は 0 胞体、1 胞体 a、2 胞体 e で、貼り付け写像の次数が 3 なので d2(e)=3a、d1=0。よって H0=Z, H1=Z/3Z, H2=ker(×3)=0。ファン・カンペンの定理より π1(X)=⟨a∣a3⟩≅Z/3Z。
(3) χ(RPn)=∑k=0n(−1)k は n が偶数なら 1、奇数なら 0。ベッチ数(有理係数の次元)は b0=1 と、n が奇数なら bn=1 だけなので同じ値。χ(X)=1−1+1=1=b0。
解説・発展
- RPn の dk=1+(−1)k は、Sk−1→RPk−1 の 2 重被覆を通した貼り付け写像の写像度が deg(id)+deg(対蹠写像)=1+(−1)k となることから出る。
- Z/2 係数では dk=0 となり、Hk(RPn;Z/2)=Z/2 (0≤k≤n)。係数によってホモロジーが変わる典型例で、普遍係数定理で説明される。
問題 10 ★★(マイヤー–ヴィートリス完全系列)
(1) 空間 Y の懸垂 SY について H~k+1(SY)≅H~k(Y) を示し、Hk(Sn) を求めよ。
(2) 種数 2 の閉曲面 Σ2 のホモロジー群を求めよ。
使う知識:位相幾何学 第5章(マイヤー–ヴィートリス完全系列)
解答
(1) SY を上下 2 つの開いた錐 C+,C−(ともに可縮)で覆うと、C+∩C−≃Y。被約ホモロジーのマイヤー–ヴィートリス完全系列
H~k+1(C+)⊕H~k+1(C−)→H~k+1(SY)∂H~k(C+∩C−)→H~k(C+)⊕H~k(C−)
の両端は 0 なので ∂ は同型。Sn=S(Sn−1) で H~k(S0)=Z (k=0), 0 (k=0) だから、帰納法により H~k(Sn)=Z (k=n), 0 (k=n)。
(2) Σ2 を分離する円周 c の両側を A, B(それぞれ穴あきトーラスに、c の近傍を加えた開集合)とすると、A≃B≃S1∨S1, A∩B≃S1。完全系列
0=H2(A)⊕H2(B)→H2(Σ2)→H1(A∩B)φH1(A)⊕H1(B)→H1(Σ2)→H~0(A∩B)=0
において、c は穴あきトーラスの境界で、ループとしては交換子 aba−1b−1 にホモトピックなので H1(A) で 0(B でも同様)。よって φ=0 で、H2(Σ2)≅Z, H1(Σ2)≅Z2⊕Z2=Z4。H0=Z、k≥3 では 0。
解説・発展
- 一般に種数 g の閉曲面は H1≅Z2g, H2≅Z で、χ=2−2g。胞体分割(0 胞体 1 個、1 胞体 2g 個、2 胞体 1 個、貼り付け語 ∏[ai,bi])からも直ちに得られる。
- マイヤー–ヴィートリスの答案では、写像 φ を具体的に決定する部分が採点の中心になる。「φ=0 だから」と理由なしに書かないこと。
問題 11 ★★(写像度の応用)
Sn の対蹠写像 a(x)=−x の写像度は (−1)n+1 であり、写像度はホモトピー不変で deg(g∘h)=degg⋅degh を満たすことは用いてよい。
(1) 連続写像 f:Sn→Sn が不動点をもたなければ degf=(−1)n+1 であることを示せ。
(2) 偶数次元球面 S2m 上には、零点をもたない連続な接ベクトル場は存在しないことを示せ。
(3) 自明でない群 G が S2m に自由に(単位元以外は不動点なく)同相写像で作用するならば、G≅Z/2Z であることを示せ。
使う知識:位相幾何学 第5章(写像度とその応用)
解答
(1) H(x,t)=∣(1−t)f(x)−tx∣(1−t)f(x)−tx とおく。分母が 0 なら (1−t)f(x)=tx で、ノルムをとって 1−t=t、t=21 で f(x)=x となり仮定に反する。よって H は f から a へのホモトピーで、degf=dega=(−1)n+1。
(2) v(x)⊥x, v(x)=0 となる連続な v があれば、H(x,t)=cos(πt) x+sin(πt)∣v(x)∣v(x) は S2m 内のホモトピーで、id と a を結ぶ。よって 1=dega=(−1)2m+1=−1 となり矛盾。
(3) g=e は不動点をもたないので、(1) より degg=(−1)2m+1=−1。deg:G→{±1} は準同型で、単位元以外をすべて −1 に写すので核は自明、すなわち単射。よって ∣G∣≤2 で、G≅Z/2Z。
解説・発展
- (2) は「毛の生えた球の定理」。奇数次元球面 S2m−1⊂Cm には v(z)=iz という零点のないベクトル場がある。
- (3) の帰結として、S2m を被覆空間にもつ空間(S2m への群の自由な作用による商)の基本群は、自明群か Z/2Z に限る(被覆変換群が S2m に自由に作用するため)。RP2m がその例である。一方、奇数次元球面には任意の有限巡回群が自由に作用する(レンズ空間)。