この章のねらい
- 常微分方程式の解の存在・一意性・延長・安定性を、定理の仮定を確認しながら論じられるようにする
- 古典的な偏微分方程式を変数分離・フーリエ級数・エネルギー法・最大値原理で扱えるようにする
- 確率論の基本計算から大数の法則・中心極限定理・マルチンゲールの応用までを答案として書けるようにする
前提:微分方程式、確率論
目安:★ は 20 分、★★ は 30〜40 分、★★★ は 50 分。
問題 1 ★(解の存在と一意性)
(1) 初期値問題 y′=∣y∣, y(0)=0 は R 上で無数の解をもつことを示し、一意性定理と矛盾しない理由を述べよ。
(2) y′=y2, y(0)=1 の最大解とその定義区間を求めよ。
(3) 任意の y0∈R に対し、y′=sin(ty), y(0)=y0 の解は R 全体でただ一つ存在することを示せ。
使う知識:微分方程式 第2章(ピカール–リンデレーフの定理・解の延長)
解答
(1) y≡0 と、各 c≥0 に対する yc(t)=4(t−c)2 (t≥c), yc(t)=0 (t<c) はすべて解である(t≥c で yc′=2t−c=yc、t=c で左右の微分係数はともに 0)。一意性定理は右辺が y について局所リプシッツであることを仮定するが、∣y∣ は y=0 の近傍でリプシッツでない(∣y∣/∣y∣→∞)。
(2) y=0 で (−1/y)′=1 より y=1−t1。解は t→1− で発散するので、最大解は区間 (−∞,1) 上の y=1−t1。
(3) f(t,y)=sin(ty) は C1 級なので局所リプシッツで、局所解がただ一つ存在する。最大解を (α,β) 上の y とすると、∣y′∣≤1 より ∣y(t)∣≤∣y0∣+∣t∣。β<∞ なら y は [0,β) で有界になるが、延長定理(最大解は有限時刻で有界にとどまれない)に反する。よって β=∞、同様に α=−∞。
解説・発展
- 一意性の破れ((1))と解の爆発((2))は別の現象である。局所リプシッツ性は前者を、線形増大条件 ∣f(t,y)∣≤a(t)+b(t)∣y∣ は後者を防ぐ。
- (3) の「有界 ⇒ 延長可能」は院試で頻出の論法。延長定理の正確な形(最大解が有限時刻で終わるなら、解は任意のコンパクト集合から出ていく)を覚えておく。
問題 2 ★★(比較定理と爆発時刻)
初期値問題 y′=t2+y2, y(0)=0 の t≥0 側の最大解を [0,T) 上の y とする。
(1) T>1 を示せ。
(2) T<1+2π−arctan31 を示せ。
使う知識:微分方程式 第2章(解の延長・比較定理)
解答
y′≥0 なので y は単調増加で y≥0。また延長定理より、T<∞ ならば y(t)→∞ (t→T) である。
(1) T≤1 と仮定する。[0,T) で y′≤1+y2 より (arctany)′=1+y2y′≤1、よって arctany(t)≤t≤1、y(t)≤tan1。y は有界となり矛盾。よって T>1。
(2) t>0 で y′≥t2>0 なので y>0、よって y(1)=∫01(t2+y2) dt>∫01t2 dt=31。t∈[1,T) では y′≥1+y2 より (arctany)′≥1、したがって
t−1≤arctany(t)−arctany(1)<2π−arctany(1)
これが [1,T) のすべての t で成り立つので T≤1+2π−arctany(1)<1+2π−arctan31。
解説・発展
- 解けない方程式の解の振る舞いを、解ける方程式(ここでは y′=1+y2、解は tan)と比較して調べるのが比較定理の考え方。答案では「(arctany)′ を評価して積分する」形で書けば、比較定理を引用せずに済む。
- 数値計算では T≈2.003 で、(2) の上界は約 2.249。区間をさらに分けて比較すれば評価は改善できる。
問題 3 ★★(線形微分方程式系)
(1) 次の A に対し etA を求めよ。
A=(11−2−1)
また、x′=Ax のすべての解は周期 2π の周期関数で、ある正定値二次形式 Q に対し Q(x(t)) が一定であることを示せ。
(2) y′′′−3y′′+3y′−y=et の一般解を求めよ。
使う知識:微分方程式 第3章(行列の指数関数・定数係数線形方程式)
解答
(1) A2=−I なので A2k=(−1)kI, A2k+1=(−1)kA で、指数関数の級数を偶数次と奇数次に分けて
etA=(cost)I+(sint)A=(cost+sintsint−2sintcost−sint)
解 x(t)=etAx(0) は周期 2π。Q(x)=x12−2x1x2+2x22=(x1−x2)2+x22(正定値)とおくと、x1′=x1−2x2, x2′=x1−x2 より
dtdQ=2(x1−x2)(x1′−x2′)+2x2x2′=2(x1−x2)(−x2)+2x2(x1−x2)=0
(2) 左辺は (D−1)3y(D=dtd)。同次方程式の一般解は (c0+c1t+c2t2)et。(D−1)(tket)=ktk−1et より (D−1)3(6t3et)=et なので、一般解は
y=(c0+c1t+c2t2+6t3)et(c0,c1,c2∈R)
解説・発展
- 保存される二次形式は ATP+PA=O を満たす正定値対称行列 P を探せば見つかる(本問では P の行は (1,−1),(−1,2))。軌道は楕円で、原点は中心(安定だが漸近安定でない)。
- (2) の特殊解は、右辺 et が特性根 1(重複度 3)に共鳴するため t3 が掛かる。これは (D−1)3 が 3 次のジョルダン細胞に対応することの反映である。
問題 4 ★★(平衡点の安定性)
次の系の原点の安定性を判定せよ。
(1) x′=−x+y2, y′=−2y+x2
(2) x′=−x3+y, y′=−x−y3
(3) x′=x3+y, y′=−x+y3
使う知識:微分方程式 第4章(線形化安定性・リャプノフ関数)
解答
(1) 原点での線形化行列は diag(−1,−2) で、固有値の実部がすべて負。線形化安定性定理より漸近安定。
(2) 線形化行列は第 1 行 (0,1)、第 2 行 (−1,0) で固有値 ±i となり、線形化では判定できない。V=x2+y2 とすると V˙=2x(−x3+y)+2y(−x−y3)=−2(x4+y4) で、これは原点以外で負。V は正定値、V˙ は負定値なので、リャプノフの定理より漸近安定。
(3) 線形化は (2) と同じで判定できない。V=x2+y2 で V˙=2(x4+y4)≥V2(x4+y4≥2(x2+y2)2)。初期値 p=0 の解は V≥∣p∣2 を保ち、単位円板内にいる間は V˙≥∣p∣4、よって V(t)≥∣p∣2+∣p∣4t となり有限時間で単位円板を出る。∣p∣ はいくらでも小さくとれるので不安定。
解説・発展
- 線形化で判定できるのは、固有値の実部がすべて負(漸近安定)か正のものがある(不安定)場合だけ。実部 0 の固有値があると、(2) と (3) のように非線形項で結論が逆になりうる。
- (2) では V の等高線が有界なので、全平面のすべての解が原点に収束する(大域的漸近安定)。
問題 5 ★★(境界値問題)
(1) 固有値問題 −y′′=λy (0<x<1), y(0)=0, y′(1)=0 の固有値と固有関数をすべて求めよ。
(2) f∈C[0,1] に対し、−u′′=f, u(0)=0, u′(1)=0 の解はただ一つで u(x)=∫01min(x,s)f(s) ds と表されることを示せ。
(3) f∈C[0,1] とする。−y′′−π2y=f, y(0)=y(1)=0 が解をもつための必要十分条件は ∫01f(x)sinπx dx=0 であることを示せ。
使う知識:微分方程式 第5章(スツルム–リウヴィル問題・グリーン関数・フレドホルムの択一定理)
解答
(1) 固有関数 y に y を掛けて積分すると、境界項 [y′y]01=0 より λ∫01y2=∫01y′2。よって λ≥0 で、λ=0 なら y′=0、y=y(0)=0。λ>0 なら y(0)=0 から y=csinλx、y′(1)=cλcosλ=0 より λ=(k−21)π。固有値は λk=(k−21)2π2、固有関数は sin((k−21)πx) (k∈N)。
(2) u(x)=∫0xsf(s) ds+x∫x1f(s) ds は u′=xf(x)+∫x1f−xf(x)=∫x1f, u′′=−f, u(0)=0, u′(1)=0 を満たす。2 つの解の差 w は −w′′=0, w(0)=w′(1)=0 を満たし、(1) より 0 は固有値でないので w=0。
(3) 必要性:解 y があれば、部分積分を 2 回行い y(0)=y(1)=0 と sin0=sinπ=0 を使うと
∫01fsinπxdx=∫01y(−(sinπx)′′−π2sinπx)dx=0
十分性:定数変化法により yp(x)=−π1∫0xsin(π(x−s))f(s) ds は yp′′+π2yp=−f, yp(0)=0 を満たし、yp(1)=−π1∫01sin(πs)f(s) ds=0。よって yp は解である(解は yp+csinπx で一意でない)。
解説・発展
- (3) は「λ=π2 が固有値のとき、非斉次問題は右辺が固有関数と直交するときに限り解けて、解は固有関数の分だけ不定」というフレドホルムの択一定理の典型例。行列の Ax=b が b⊥kerAT のとき解けることの無限次元版である。
- (2) のグリーン関数 min(x,s) はブラウン運動の共分散 E[BxBs] と一致する。固有値 λk の逆数はこの積分作用素の固有値である。
問題 6 ★★(フーリエ級数)
(1) f(x)=∣sinx∣ の [−π,π] 上のフーリエ級数が π2−π4∑n=1∞4n2−1cos2nx であり、f に一様収束することを示せ。
(2) ∑n=1∞4n2−11 と ∑n=1∞4n2−1(−1)n を求めよ。
(3) ∑n=1∞(4n2−1)21 を求めよ。
使う知識:微分方程式 第6章(フーリエ係数・一様収束・パーセヴァルの等式)
解答
(1) f は偶関数なので bn=0。a0=π2∫0πsinx dx=π4、n≥1 で
an=π2∫0πsinxcosnxdx=π1∫0π(sin(n+1)x−sin(n−1)x)dx=π1(n+11−(−1)n+1−n−11−(−1)n−1)
(n=1 では第 2 項を 0 とする)。n が奇数なら an=0、n=2m なら a2m=π2(2m+11−2m−11)=−π(4m2−1)4。係数は O(m−2) なので M 判定法により級数は一様収束し、その和 g は連続で f と同じフーリエ係数をもつ。三角関数系の完全性(または連続関数のフーリエ係数の一意性)から g=f。
(2) x=0 を代入して 0=π2−π4∑4n2−11、よって ∑4n2−11=21。x=2π で cosnπ=(−1)n より 1=π2−π4∑4n2−1(−1)n、よって ∑4n2−1(−1)n=21−4π。
(3) パーセヴァルの等式 π1∫−ππf2 dx=2a02+∑an2 に代入すると 1=π28+π216∑(4n2−1)21。よって ∑n=1∞(4n2−1)21=16π2−8。
解説・発展
- (2) の第 1 式は 4n2−11=21(2n−11−2n+11) の望遠鏡和でも得られ、検算になる。
- 各点での値を代入するには、その点でフーリエ級数が f に収束することの根拠(一様収束、またはディリクレの定理)が必要。不連続点では左右の極限の平均に収束する。
問題 7 ★★(熱方程式)
ut=uxx (0<x<π, t>0), u(0,t)=u(π,t)=0, u(x,0)=x(π−x) を考える。
(1) 変数分離により解を級数で求めよ。
(2) (1) の級数は [0,π]×[0,∞) で連続、t>0 で C∞ 級の関数を定め、方程式と境界条件・初期条件を満たすことを示せ。
(3) 解は(十分滑らかな解の範囲で)一意であることを、E(t)=∫0πu2 dx を用いて示せ。
(4) t→∞ で etu(x,t)→π8sinx(x について一様)を示せ。
使う知識:微分方程式 第7章(変数分離・エネルギー法)、微分方程式 第6章
解答
(1) u=X(x)T(t) とおくと X′′=−λX, X(0)=X(π)=0 より X=sinnx, λ=n2、T=e−n2t。初期値を正弦級数に展開すると(第5章 問題 7 の計算)x(π−x)=∑n oddπn38sinnx なので
u(x,t)=n odd∑πn38e−n2tsinnx
(2) 各項は πn38 以下なので M 判定法により [0,π]×[0,∞) で一様収束し、u は連続。t=0 では x(π−x) の正弦級数で、一様収束するので和は x(π−x) に等しい。t≥t0>0 では、∂tj∂xk を項別にとった級数の各項は Cn2j+ke−n2t0 以下で総和有限なので一様収束し、u は C∞ 級で項別微分できる。各項が方程式と境界条件を満たすので u も満たす。
(3) 2 つの解の差 w は同じ方程式と、境界値 0・初期値 0 を満たす。E(t)=∫0πw2dx とすると、部分積分と境界条件より E′(t)=2∫0πwwxx dx=−2∫0πwx2 dx≤0。E≥0, E(0)=0 なので E≡0、w≡0。
(4) etu−π8sinx=∑n≥3 oddπn38e−(n2−1)tsinnx の絶対値は e−8t∑nπn38→0。
解説・発展
- 熱方程式の解は t>0 で瞬時に滑らかになる(高周波成分が e−n2t で急速に減衰する)。(2) の論証はこの平滑化効果の証明そのものである。
- 最大値原理を使うと 0≤u≤maxu(⋅,0)=4π2 もわかる。一意性はエネルギー法でも最大値原理でも示せる。
問題 8 ★★(波動方程式とラプラス方程式)
(1) φ∈C2(R), ψ∈C1(R) とする。utt=c2uxx (c>0), u(x,0)=φ(x), ut(x,0)=ψ(x) の C2 級の解はダランベールの公式
u(x,t)=2φ(x+ct)+φ(x−ct)+2c1∫x−ctx+ctψ(s)ds
で与えられ、ただ一つであることを示せ。
(2) [0,L] 上で u(0,t)=u(L,t)=0 を満たす波動方程式の解について、エネルギー 21∫0L(ut2+c2ux2) dx は時間によらないことを示せ。
(3) 単位円板で調和で、境界 x=cosθ, y=sinθ で cos3θ に等しい関数を求め、それがただ一つであることを示せ。
使う知識:微分方程式 第7章(ダランベールの公式・エネルギー保存・最大値原理)
解答
(1) ξ=x+ct, η=x−ct とし u(x,t)=w(ξ,η) とおくと、utt−c2uxx=−4c2wξη。よって wξη=0 で、w=F(ξ)+G(η)(F,G∈C2)。初期条件から F(x)+G(x)=φ(x), c(F′(x)−G′(x))=ψ(x)。後者を積分して F−G=c1∫0xψ+k。連立して F=2φ+2c1∫0xψ+2k, G=2φ−2c1∫0xψ−2k となり、u=F(x+ct)+G(x−ct) は公式に一致する。導出はどの解にも適用できるので、解は一意である。
(2) E′(t)=∫0L(ututt+c2uxuxt) dx=∫0Lut(utt−c2uxx) dx+c2[uxut]0L=0(境界で u=0 なので ut=0)。
(3) cos3θ=43cosθ+41cos3θ で、rcosθ=x, r3cos3θ=Re(x+iy)3=x3−3xy2 は調和多項式。よって
u(x,y)=43x+41(x3−3xy2)
は条件を満たす。2 つの解の差は円板で調和、境界で 0 なので、最大値原理と最小値原理から恒等的に 0。
解説・発展
- 波動方程式の解は初期値の滑らかさを改善しない(特異性は特性線 x±ct= 一定に沿って伝わる)。熱方程式との対比が重要である。依存領域は [x−ct,x+ct] で、有限の伝播速度をもつ。
- (3) の一般形はポアソン積分公式 u(reiθ)=2π1∫02π1−2rcos(θ−ϕ)+r21−r2g(ϕ) dϕ。原点での値 u(0)=0 は境界値の平均(平均値の性質)に一致する。
問題 9 ★(確率の基本計算)
(1) X,Y は独立で、ともに母数 λ>0 の指数分布に従う。P(X<Y)、min(X,Y) の分布、E[max(X,Y)] を求めよ。
(2) (1) の X,Y について、U=X+YX は区間 (0,1) 上の一様分布に従い、S=X+Y と独立であることを示せ。
(3) n 種類のクーポンが等確率で 1 枚ずつ出るとき、全種類がそろうまでの回数 T の期待値を求めよ。
使う知識:確率論 第1章(独立性・密度の変数変換・期待値)
解答
(1) 対称性と P(X=Y)=0 より P(X<Y)=21。P(min(X,Y)>t)=P(X>t)P(Y>t)=e−2λt なので min(X,Y) は母数 2λ の指数分布。max+min=X+Y より E[max(X,Y)]=λ2−2λ1=2λ3。
(2) (X,Y) の密度は λ2e−λ(x+y) (x,y>0)。(x,y)=(us,(1−u)s) は (0,1)×(0,∞) から (0,∞)2 への C1 級全単射で、ヤコビアンは ∂(u,s)∂(x,y)=s(1−u)−u(−s)=s。よって (U,S) の密度は 1(0,1)(u)⋅λ2se−λs で、u の関数と s の関数の積。したがって U と S は独立で、U は一様分布(S はガンマ分布)。
(3) k−1 種類そろった後、新しい種類が出るまでの回数 Tk は成功確率 nn−k+1 の幾何分布に従い、E[Tk]=n−k+1n。T=∑k=1nTk より E[T]=n∑j=1nj1(≈nlogn)。
解説・発展
- (1) の min の分布は「独立な指数時計のうち最初に鳴る時刻」で、待ち行列やマルコフ過程の基本。(2) は、ポアソン過程で 2 回目の到着時刻を条件としたとき 1 回目の到着時刻が一様分布になることと同じ事実である。
- (3) は期待値の線形性だけで計算でき、Tk の独立性は不要(分散の計算には独立性を使う)。
問題 10 ★★(収束の型とボレル–カンテリの補題)
X1,X2,… は独立で、母数 1 の指数分布に従うとする。
(1) limsupn→∞lognXn=1 a.s. を示せ。
(2) lognXn は 0 に確率収束するが、概収束しないことを示せ。
(3) 分布収束するが確率収束しない確率変数列の例を挙げよ。
使う知識:確率論 第2章(ボレル–カンテリの補題)、確率論 第3章(分布収束)
解答
(1) c>0 に対し P(Xn>clogn)=n−c。c>1 なら ∑n−c<∞ で、第 1 ボレル–カンテリの補題より a.s. に有限個の n を除き Xn≤clogn、よって limsuplognXn≤c。c=1+m1 (m∈N) として可算個の確率 1 の事象の共通部分をとれば limsup≤1 a.s.。c=1 では ∑n1=∞ で事象は独立なので、第 2 ボレル–カンテリの補題より Xn>logn が無限回起こり、limsup≥1 a.s.。
(2) ε>0 に対し P(lognXn>ε)=n−ε→0 なので確率収束する。しかし (1) より a.s. に limsup=1=0 で、概収束しない。
(3) X∼N(0,1) とし Xn=−X とおく。Xn の分布は X と同じなので Xn→X は分布収束だが、P(∣Xn−X∣>ε)=P(2∣X∣>ε) は n によらない正の定数で、確率収束しない。
解説・発展
- 第 2 ボレル–カンテリの補題には独立性が必要。第 1 は独立性なしで使える。答案ではどちらを使ったか、独立性をどこで使ったかを明記する。
- 「概収束 ⇒ 確率収束 ⇒ 分布収束」で、逆はいずれも一般に成り立たない。ただし極限が定数なら分布収束と確率収束は同値である。
問題 11 ★★(大数の法則と中心極限定理の応用)
(1) n→∞lim∫[0,1]nx1+⋯+xnx12+⋯+xn2 dx1⋯dxn を求めよ。
(2) n→∞lime−nk=0∑nk!nk を求めよ。
(3) 公平な硬貨を 10000 回投げるとき、表が 5100 回以上出る確率を中心極限定理で近似せよ(Φ(2)≈0.9772 を用いよ。Φ は標準正規分布の分布関数)。
使う知識:確率論 第2章(大数の強法則)、確率論 第4章(中心極限定理)
解答
(1) U1,U2,… を独立な [0,1] 上の一様分布とすると、積分は E[∑i≤nUi∑i≤nUi2] に等しい。大数の強法則より n1∑Ui2→E[U2]=31, n1∑Ui→E[U]=21 a.s. なので、比は a.s. に 32 に収束する。Ui2≤Ui より比は [0,1] に値をとるので、有界収束定理より極限は 32。
(2) Sn を独立な母数 1 のポアソン分布 n 個の和とすると Sn は母数 n のポアソン分布で、与式は P(Sn≤n)=P(nSn−n≤0)。平均 1・分散 1 なので中心極限定理より、これは Φ(0)=21 に収束する。
(3) 表の回数 S は平均 5000、標準偏差 10000⋅41=50。P(S≥5100)=P(50S−5000≥2)≈1−Φ(2)≈0.023。
解説・発展
- (1) のように「高次元の積分の極限」を確率変数の平均の極限と読み替えるのは典型的な手法。高次元の立方体の体積はほとんど「平均的な点」の近くに集中する(測度の集中)。
- (2) の収束は遅く、誤差は O(n−1/2)(ベリー–エシーンの定理)。(3) で連続補正をすると 1−Φ(1.99)≈0.0233 となる。
問題 12 ★★★(マルチンゲール)
(1)(ギャンブラーの破産問題)Sn=a+∑k=1nξk(ξk は独立で P(ξk=±1)=21, 0<a<N は整数)とし、τ=min{n∣Sn∈{0,N}} とする。E[τ]<∞ を示し、P(Sτ=N)=Na、E[τ]=a(N−a) を示せ。
(2)(ポリアの壺)赤玉 1 個と白玉 1 個の入った壺から玉を 1 個取り出し、それと同じ色の玉を 1 個加えて 2 個とも戻す操作を繰り返す。n 回後の赤玉の割合 Mn はマルチンゲールであり、a.s. に収束し、その極限は [0,1] 上の一様分布に従うことを示せ。
使う知識:確率論 第5章(任意抽出定理・マルチンゲール収束定理)
解答
(1) どの状態からでも +1 が N 回続けば終わるので P(τ>kN)≤(1−2−N)k、E[τ]=∑m≥0P(τ>m)≤N∑k(1−2−N)k<∞。Sn はマルチンゲールで ∣Sn∧τ∣≤N なので、任意抽出定理より E[Sn∧τ]=a。n→∞ で有界収束定理より E[Sτ]=a、すなわち N⋅P(Sτ=N)=a。次に Sn2−n もマルチンゲール(E[Sn+12−Sn2∣Fn]=1)なので E[Sn∧τ2]=a2+E[n∧τ]。n→∞ で左辺は有界収束定理により E[Sτ2]=N2⋅Na=aN、右辺は単調収束定理により a2+E[τ]。よって E[τ]=aN−a2=a(N−a)。
(2) n 回後の玉は n+2 個で、赤玉の数を Rn とすると Mn=n+2Rn。E[Rn+1∣Fn]=Rn+Mn より
E[Mn+1∣Fn]=n+3Rn+n+2Rn=n+2Rn=Mn
0≤Mn≤1 なのでマルチンゲール収束定理により a.s. に収束する。赤 k 回・白 n−k 回の特定の順序の確率は、分子が k! (n−k)!、分母が 2⋅3⋯(n+1)=(n+1)! なので、P(Rn=k+1)=(kn)(n+1)!k!(n−k)!=n+11 (0≤k≤n)。Mn は {n+21,…,n+2n+1} 上の一様分布で、[0,1] 上の一様分布に分布収束する。概収束は分布収束を導くので、極限は一様分布に従う。
解説・発展
- 任意抽出定理の適用では、(i) 停止時刻が有界、(ii) 停止過程が有界で τ<∞ a.s.、(iii) E[τ]<∞ かつ増分が有界、のどれかを確認する。「E[Sτ]=E[S0]」だけを書く答案は減点される(上界 N をなくし、1 から出発して 0 に到達した時刻で止めると、τ<∞ a.s. だが E[Sτ]=0=1)。
- 非対称なら(P(ξ=1)=p=21)(q/p)Sn がマルチンゲールで、P(Sτ=N)=1−(q/p)N1−(q/p)a(q=1−p)。