この章のねらい
- 学部 1・2 年の微分積分と線形代数の標準的な論証を、院試の答案として過不足なく書けるようにする
- 計算の正当化(一様収束の確認、退化した臨界点の処理、最大値の存在など)を書き落とさない
前提:微分積分学、線形代数
目安:★ は 20 分、★★ は 30〜40 分、★★★ は 50 分。
問題 1 ★(ε-δ 論法と一様連続性)
(1) f:[0,∞)→R は連続で、有限な極限 L=limx→∞f(x) が存在するとする。f は [0,∞) 上で一様連続であることを示せ。
(2) g(x)=sin(x2) は [0,∞) 上で一様連続でないことを示せ。
(3) h(x)=x2sin(1/x) は (0,∞) 上で一様連続であることを示せ。
使う知識:微分積分 第3章(ハイネ–カントールの定理)、微分積分 第4章(平均値の定理)
解答
(1) ε>0 とする。ある M>0 があって x≥M ならば ∣f(x)−L∣<ε/2。f は有界閉区間 [0,M+1] 上で一様連続(ハイネ–カントールの定理)だから、ある δ1>0 があって x,y∈[0,M+1], ∣x−y∣<δ1 ならば ∣f(x)−f(y)∣<ε。δ=min{δ1,1} とし、x,y≥0, ∣x−y∣<δ とする。x,y∈[0,M+1] なら ∣f(x)−f(y)∣<ε。そうでなければ、たとえば x>M+1 で y>x−1>M となり、∣f(x)−f(y)∣≤∣f(x)−L∣+∣L−f(y)∣<ε。よって f は一様連続である。
(2) xn=(n+21)π, yn=nπ とおくと xn−yn=xn+ynπ/2→0 だが、∣g(xn)−g(yn)∣=1。一様連続なら ε=1 に対する δ をとると、大きな n で ∣xn−yn∣<δ なのに差が 1 となり矛盾する。
(3) h′(x)=2xsin(1/x)−cos(1/x) で、∣sint∣≤∣t∣ より ∣2xsin(1/x)∣≤2、よって ∣h′(x)∣≤3。平均値の定理より ∣h(x)−h(y)∣≤3∣x−y∣ で、δ=ε/3 とすればよい。
解説・発展
- (1) の要点は、コンパクトな部分と無限遠に分け、境目をまたぐ 2 点を処理するために [0,M+1] をとって δ≤1 とすること。
- 一様連続でないことは、「∣xn−yn∣→0 かつ ∣g(xn)−g(yn)∣≥ε0 となる点列」を作って示すのが定石。
問題 2 ★★(級数の収束判定)
(1) 実数 p に対し、n=2∑∞n(logn)p1 が収束するための p の条件を求めよ。
(2) a>0 とする。n=2∑∞na+(−1)n(−1)n が収束するための a の条件を求めよ。
(3) べき級数 n=1∑∞(2n)!(n!)2xn の収束半径 r を求め、x=±r での収束・発散を判定せよ。
使う知識:微分積分 第2章(比較判定法・交代級数)、微分積分 第5章(積分判定法)、微分積分 第6章(収束半径)
解答
(1) 答:p>1。 p≤0 なら n≥3 で n(logn)p1≥n1 となり発散する。p>0 なら x(logx)p1 は [3,∞) で正・連続・単調減少なので、積分判定法により収束は ∫3∞x(logx)pdx=∫log3∞t−p dt<∞ と同値で、それは p>1 と同値である。
(2) 答:a>1/2。 n≥2 で na+(−1)n>0 であり、通分して確かめられる恒等式
na+(−1)n(−1)n=na(−1)n−cn,cn=na(na+(−1)n)1>0
を用いる。∑(−1)nn−a はライプニッツの判定法で収束する。n2acn→1 だから、極限比較判定法により ∑cn の収束は ∑n−2a の収束、すなわち a>1/2 と同値である。収束級数と発散級数の和は発散するので、結論を得る。
(3) an=(2n)!(n!)2 とおくと anan+1=(2n+2)(2n+1)(n+1)2→41 より r=4。x=±4 では、(n2n)≤∑k(k2n)=4n より ∣anxn∣=4n/(n2n)≥1 で、一般項が 0 に収束しないから両端とも発散する。
解説・発展
- (2) は典型的な落とし穴。ライプニッツの判定法には ∣bn∣ の単調減少が必要だが、ここでは単調でない。漸近展開で見当をつけ、答案では上のような厳密な等式で処理する(展開の剰余項 O(n−3a) は a≤1/3 で絶対収束しない)。
問題 3 ★★(広義積分の収束)
(1) p∈R とする。広義積分 ∫0∞xpsinx dx が収束するための必要十分条件は 0<p<2 であることを示せ。
(2) ∫0∞xsinx dx=2π を用いて、∫0∞x21−cosx dx と ∫0∞x2sin2x dx の値を求めよ。
使う知識:微分積分 第5章(広義積分・コーシーの判定条件・部分積分)
解答
(1) ∫01 と ∫1∞ に分ける。0<x≤1 では π2x≤sinx≤x だから π2x1−p≤xpsinx≤x1−p。被積分関数は正なので、∫01 の収束は ∫01x1−p dx<∞、すなわち p<2 と同値である。
p>0 のとき、部分積分により
∫1Xxpsinxdx=cos1−XpcosX−p∫1Xxp+1cosxdx
で、XpcosX→0、右辺の積分は ∣cosx∣x−p−1≤x−p−1 より絶対収束するので ∫1∞ は収束する。p≤0 のときは、x≥1 で x−p≥1 より ∫2kπ(2k+1)πxpsinx dx≥∫2kπ(2k+1)πsinx dx=2 (k∈N) となり、コーシーの判定条件が破れて発散する。以上より、収束 ⇔ 0<p<2。
(2) 0<ε<X で部分積分すると
∫εXx21−cosxdx=ε1−cosε−X1−cosX+∫εXxsinxdx
0≤ε1−cosε≤2ε, 0≤X1−cosX≤X2 だから、極限をとって ∫0∞x21−cosx dx=2π。さらに sin2x=21−cos2x と u=2x により ∫0∞x2sin2x dx=∫0∞u21−cosu du=2π。
解説・発展
- 振動する被積分関数の無限遠での収束は比較判定法では扱えない。部分積分かディリクレの判定法を使う。x=0 の近くで極限比較を使うときは、被積分関数の符号が一定であることに触れる。
- 同様の議論で、絶対収束の必要十分条件は 1<p<2 とわかる(0<p≤1 では ∫kπ(k+1)π∣sinx∣x−p dx≥2((k+1)π)−p の和が発散し、p≤0 では (1) より収束すらしない)。
問題 4 ★★(一様収束と項別微分)
fn(x)=1+nx2x (x∈R, n∈N) とおく。
(1) fn は R 上で 0 に一様収束することを示せ。
(2) fn′ の各点極限 g を求め、fn′ は R 上では一様収束しないが、任意の δ>0 に対して {∣x∣≥δ} 上では一様収束することを示せ。
(3) F(x)=n=1∑∞nfn(x) は R 上の連続関数で、R∖{0} 上で C1 級だが、x=0 で微分可能でないことを示せ。
使う知識:微分積分 第6章(M 判定法・項別微分定理)
解答
(1) 相加相乗平均より 1+nx2≥2n∣x∣ なので ∣fn(x)∣≤2n1。よって supx∣fn(x)∣→0。
(2) fn′(x)=(1+nx2)21−nx2 より g(0)=1, g(x)=0 (x=0)。連続関数の一様極限は連続だが g は 0 で不連続なので、R 上では一様収束しない。∣x∣≥δ では ∣fn′(x)∣≤(1+nx2)21+nx2=1+nx21≤1+nδ21→0 で、一様収束する。
(3) ∣fn(x)/n∣≤2n3/21 だから M 判定法により一様収束し、F は連続である。∣x∣≥δ では (2) より ∣fn′(x)/n∣≤δ2n21 なので導関数の級数も一様収束し、項別微分定理により F は (δ,∞) と (−∞,−δ) で C1 級。δ は任意なので R∖{0} で C1 級である。最後に x=0 で
xF(x)−F(0)=n=1∑∞n(1+nx2)1≥n=1∑Nn(1+nx2)1 x→0 n=1∑Nn1
が任意の N で成り立つので、差分商は +∞ に発散し、F は 0 で微分可能でない。
解説・発展
- 項別微分定理の仮定は「導関数の級数が一様収束すること」。元の級数の一様収束だけでは極限の微分可能性は保証されず、本問がその反例になっている(x=0 で導関数の級数は ∑1/n)。
問題 5 ★★(2 変数関数の極値)
f(x,y)=x4+y4−4(x−y)2 とする。
(1) f の臨界点をすべて求め、各臨界点で極値をとるかどうか判定せよ。
(2) f の R2 上の最小値が存在することを示し、その値を求めよ。
使う知識:微分積分 第7章(ヘッセ行列による極値判定)、位相 第5章(コンパクト集合上の最小値)
解答
(1) fx=4x3−8(x−y), fy=4y3+8(x−y)。和をとると x3+y3=0 より y=−x、代入して 4x3−16x=0。臨界点は (0,0), (2,−2), (−2,2)。fxx=12x2−8, fxy=8, fyy=12y2−8 である。
- (±2,∓2):fxx=fyy=40, fxxfyy−fxy2=1536>0 で狭義の極小。極小値 f=16+16−64=−32。
- (0,0):fxxfyy−fxy2=64−64=0 で判定できない。直接調べると、t=0 で f(t,t)=2t4>0, 0<∣t∣<22 で f(t,−t)=2t2(t2−8)<0。f(0,0)=0 だから原点のどの近傍にも f>0 の点と f<0 の点があり、極値でない。
(2) r2=x2+y2 とおくと、x4+y4≥2r4 と 4(x−y)2≤8r2 より f≥2r4−8r2=2r2(r2−16) で、r≥4 なら f≥0(r=4 では f(22,−22)=0 のように等号も起こる)。コンパクトな K={r≤4} 上で f は最小値をとり、それは f(2,−2)=−32 以下である。K の境界上では f≥0>−32 なので最小点は内部にあり臨界点である。臨界点での値 0,−32 を比べ、さらに K の外で f≥0 であることから、最小値は −32((±2,∓2) でとる)。
解説・発展
- 判別式が 0 のときは「判定不能」で終わらせず、本問のように方向を選んで値を比べる。(1,1) 方向(ヘッセ行列の核)では 4 次の項が効いて正、(1,−1) 方向では 2 次の項が効いて負になる。
- 「極小値だから最小値」は誤り。2 変数では「臨界点がただ一つで極小」でも最小とは限らない:x2+y2(1−x)3 は臨界点が原点だけで狭義の極小だが、f(4,y)=16−27y2 は下に有界でない。
問題 6 ★★(条件付き極値)
M={(x,y,z)∈R3∣x2+y2+z2=1, x+y+z=0} とする。
(1) g=x2+y2+z2−1, h=x+y+z とおく。M の各点で ∇g, ∇h が 1 次独立であることを示せ。
(2) f(x,y,z)=xyz の M 上の最大値・最小値と、それをとる点を求めよ。
使う知識:微分積分 第8章(ラグランジュの未定乗数法)
解答
(1) ∇g=2(x,y,z) と ∇h=(1,1,1) が 1 次従属なら (x,y,z)=c(1,1,1) で、x+y+z=3c=0 より (x,y,z)=0 となり x2+y2+z2=1 に反する。
(2) M はコンパクトで空でなく f は連続なので、最大値・最小値が存在する。(1) により、それをとる点ではある λ,μ で
yz=2λx+μ,zx=2λy+μ,xy=2λz+μ
が成り立つ。第 1 式と第 2 式の差から (x−y)(z+2λ)=0、同様に (y−z)(x+2λ)=0, (z−x)(y+2λ)=0。x,y,z が相異なると x=y=z=−2λ となり矛盾するので、2 つは等しい。x=y としてよく、z=−2x, 6x2=1。候補点は (x,x,−2x)(x=±61)とその座標の置換で、f=−2x3=∓361。よって
- 最大値 186:(−61,−61,62) とその置換の 3 点
- 最小値 −186:(61,61,−62) とその置換の 3 点
解説・発展
- 未定乗数法は極値点の必要条件しか与えない。答案では (i) 階数条件、(ii) コンパクト性による最大・最小の存在、(iii) 候補点の値の比較、の 3 点を書く。x−y で割って x=y の場合を落とす誤りが多い。
- 別解:M 上では x,y,z は t3−21t−xyz=0 の 3 実解なので、3 次関数の極大値 ≥0≥ 極小値の条件から ∣xyz∣≤361 が出る。
問題 7 ★★(重積分の変数変換とガウス積分)
(1) D={(x,y)∣x>0, 1≤xy≤2, x≤y≤3x} に対し ∬D(x2+y2) dx dy を求めよ。
(2) ∬R2e−(x2+xy+y2) dx dy を求めよ。∫−∞∞e−t2 dt=π は用いてよい。
使う知識:微分積分 第9章(変数変換公式・広義重積分)、線形代数 第7章(直交対角化)
解答
(1) u=xy, v=y/x とおく。(x,y)↦(u,v) は第 1 象限からそれ自身への C1 級全単射(逆は x=u/v, y=uv)で、
∂(x,y)∂(u,v)=det(y−y/x2x1/x)=x2y=2v
だから dx dy=2vdu dv。D は [1,2]×[1,3] に写り、x2+y2=u(v+v−1) なので
∬D(x2+y2)dxdy=21∫12udu∫13(1+v21)dv=21⋅23⋅38=2
(2) 被積分関数は正で連続なので、広義積分は近似増加列のとり方によらず定まり、変数変換とトネリの定理が使える。直交変換 u=2x+y, v=2x−y(ヤコビアンの絶対値 1)により x2+xy+y2=23u2+21v2 だから
∬R2e−(x2+xy+y2)dxdy=∫−∞∞e−23u2du∫−∞∞e−21v2dv=32π2π=32π
解説・発展
- (1) の要点は、境界の式をそのまま新しい変数に選ぶこと。答案には (i) 単射性、(ii) ヤコビアンの絶対値、(iii) 領域の対応を書く。
- 一般に n 次正定値実対称行列 A に対し ∫Rne−⟨Ax,x⟩dx=πn/2/detA。多次元正規分布の正規化定数の計算そのものである。
問題 8 ★★(ジョルダン標準形と行列の冪・指数関数)
A=2−100100001111−101
(1) A の固有多項式と最小多項式を求めよ。
(2) A のジョルダン標準形 J と、P−1AP=J となる正則行列 P を一組求めよ。
(3) An (n∈N) と etA を求めよ。また X2=A を満たす実行列 X を一つ求めよ。
使う知識:線形代数 第6章(ジョルダン標準形・ジョルダン鎖・行列の指数関数)
解答
(1) A は左下 2×2 ブロックが 0 のブロック上三角行列で、左上と右下の対角ブロックの固有多項式はともに (λ−1)2 である(左上は λ(λ−2)+1)。よって固有多項式は (λ−1)4。N=A−I とおくと
N=1−1001−10001011−100,N2=000000002−2000000,N3=O
N2=O だから最小多項式は (λ−1)3。
(2) rankN=2, rankN2=1, rankN3=0。細胞の個数は 4−2=2、サイズ 2 以上は 2−1=1 個、サイズ 3 以上は 1−0=1 個なので、サイズは 3 と 1。N2e3=0 より p3=e3, p2=Np3=(0,1,0,1)T, p1=Np2=(2,−2,0,0)T とし、kerN={x3=0, x1+x2+x4=0} から p1 と独立な p4=(1,0,0,−1)T をとる。detP=−4=0 で
P=2−20001010010100−1,J=P−1AP=1000110001100001
(Ap1=p1, Ap2=p1+p2, Ap3=p2+p3, Ap4=p4 による。)
(3) I と N は可換で N3=O だから
An=I+nN+(2n)N2=n+1−n00n1−n00n(n−1)n(2−n)1nn−n01,etA=et(I+tN+2t2N2)
また X=I+21N−81N2 とおくと、X2=I+N+(41−41)N2=A。
解説・発展
- 4 次で固有値が 1 つ、dimkerN=2 のとき、細胞のサイズは (3,1) と (2,2) の 2 通りがあり得る。固有空間の次元だけでは決まらないので rankN2 を必ず計算する。
- P は最長の鎖の「頭」(N2p=0 となる p)から作るのが確実。固有ベクトルから逆向きに Np=v を解くと、解が存在しない v を選ぶ危険がある。
- X は (1+s)1/2 の展開を s=N で打ち切ったもの。etA は x′=Ax の基本解行列である(微分方程式 第3章)。
問題 9 ★★(行列の関数方程式)
(1) XY−YX=In を満たす X,Y∈Mn(C) は存在しないことを示せ。
(2) X2=−I2 を満たす実 2 次正方行列 X をすべて求めよ。
(3) 実 2 次正方行列 X で、X2=D, D=diag(−1,−4) を満たすものは存在しないことを示せ。
(4) 実 2 次正方行列 X で、次を満たすものは存在しないことを示せ。
eX=A,A=(−101−1)
使う知識:線形代数 第5章(トレース・ケーリー–ハミルトンの定理)、線形代数 第6章(行列の指数関数)
解答
(1) tr(XY−YX)=0=n=trIn。
(2) ケーリー–ハミルトンの定理 X2−(trX)X+(detX)I=O に X2=−I を代入すると (trX)X=(detX−1)I。trX=0 なら X=cI(c は実数)で c2=−1 となり矛盾。よって trX=0, detX=1 で、逆にこのとき X2=−I。答えは、a2+bc=−1 を満たす実数 a,b,c を用いて第 1 行 (a,b)、第 2 行 (c,−a) と書ける行列の全体である。
(3) X2=D なら XD=X3=DX。成分で xijdj=dixij で d1=d2 だから x12=x21=0。すると x112=−1 となり実数では不可能。
(4) X の固有値を μ1,μ2 とする。複素行列として上三角化すれば、eX の固有値は eμ1,eμ2 とわかる。eX=A なら eμ1=eμ2=−1。μi が実数なら eμi>0 で矛盾。そうでなければ μ2=μ1=μ1 なので X は複素行列として対角化可能で、X=Rdiag(μ1,μ2)R−1 から eX=R(−I)R−1=−I=A となり矛盾。
解説・発展
- (2) と (3) の対比が要点。−I は回転の 2 乗として実の平方根をもつが、相異なる負の固有値をもつ行列は、可換性から平方根が対角行列に限られ、実の平方根をもたない。
- (4) は複素行列なら解がある(正則な複素行列は常に複素の対数をもつ)。実の対数がないのは、負の固有値のジョルダン細胞が対になっていないためである。
- (1) は標数 0 が本質的。標数 p では Fp[x]/(xp) 上の微分 D と x 倍 M が DM−MD=I を満たす。
問題 10 ★★(正定値性と二次形式)
(1) 二次形式 Q(x,y,z)=2xy+2yz+2zx を直交変換で標準形に直し、符号(正・負の固有値の個数)を求めよ。
(2) 次の Aa が正定値となる実数 a の範囲を求めよ。
Aa=1a0a21013
(3) A,B を n 次の正定値実対称行列とする。AB の固有値はすべて正の実数であることを示せ。
使う知識:線形代数 第8章(シルベスターの判定法・慣性法則)、線形代数 第7章
解答
(1) 表現行列は S=E−I(E は全成分 1 の 3 次行列)。E の固有値は 3,0,0 なので S の固有値は 2,−1,−1。正規直交固有ベクトル u1=31(1,1,1)T, u2=21(1,−1,0)T, u3=61(1,1,−2)T を並べた直交行列で (x,y,z)T=(u1 u2 u3)(X,Y,Z)T とすると Q=2X2−Y2−Z2。符号は(正 1 個, 負 2 個)。
(2) シルベスターの判定法より、首座小行列式 1, 2−a2, detAa=5−3a2 がすべて正であることが必要十分。よって ∣a∣<5/3=315。
(3) ABv=λv(v∈Cn∖{0})とし w=Bv とおくと、w=0 で Aw=λv。A,B は実対称だから wTAw=λ wTv=λ vTBv。正定値実対称行列 C は zTCz>0 (z=0) を満たす(z=a+ib なら aTCa+bTCb に等しい)ので、λ=wTAw/vTBv>0。
解説・発展
- 半正定値の判定は「すべての主小行列式 ≥0」で、首座小行列式だけでは足りない(diag(0,−1) が反例)。
- (3) の別解:AB=A1/2(A1/2BA1/2)A−1/2 は正定値対称行列と相似。AB 自体は対称とは限らない。
問題 11 ★★(固有値の評価)
A=(aij)∈Mn(C) に対し Ri=∑j=i∣aij∣ とおく。
(1)(ゲルシュゴリンの定理)A の任意の固有値 λ は、ある i について ∣λ−aii∣≤Ri を満たすことを示せ。
(2) すべての i で ∣aii∣>Ri ならば A は正則であることを示せ。
(3) Tn を対角成分が 2、その上下の成分が −1、他が 0 の n 次三重対角行列とする。Tn の固有値はすべて (0,4) に含まれることを示し、2−2cosn+1kπ (1≤k≤n) が固有値であることを確かめよ。
使う知識:線形代数 第7章(スペクトル定理)、線形代数 第8章
解答
(1) Ax=λx, x=0 とし、∣xi∣=maxj∣xj∣ となる i をとる。第 i 成分から (λ−aii)xi=∑j=iaijxj で、両辺の絶対値を ∣xi∣>0 で割って ∣λ−aii∣≤∑j=i∣aij∣∣xi∣∣xj∣≤Ri。
(2) 0 が固有値なら (1) より ∣aii∣≤Ri となる i があり、仮定に反する。
(3) Tn は実対称なので固有値は実数で、(1) より ∣λ−2∣≤2、つまり [0,4] に含まれる。端点を除くため、展開して確かめられる恒等式
xTTnx=x12+i=1∑n−1(xi−xi+1)2+xn2,xT(4I−Tn)x=x12+i=1∑n−1(xi+xi+1)2+xn2
を使う。前者が 0 なら x1=0 かつ x1=⋯=xn で x=0、後者も同様。よって Tn, 4I−Tn は正定値で、固有値は (0,4) にある。次に θ=n+1kπ, vj=sin(jθ) (0≤j≤n+1) とすると v0=vn+1=0 で、1≤j≤n に対し (Tnv)j=2vj−vj−1−vj+1=(2−2cosθ)vj。v1=sinθ=0 なので 2−2cosθ は固有値である。k=1,…,n で相異なるから、これが固有値のすべてである。
解説・発展
- ゲルシュゴリンの定理は「絶対値最大の成分に注目する」だけで証明でき、院試で頻出する。確率行列の固有値が ∣λ∣≤1 を満たすことも同じ議論で示せる。
- Tn は −dx2d2 の差分近似で、その固有値はディリクレ境界条件の固有値問題(微分方程式 第5章)の離散版である。
問題 12 ★★★(線形写像の空間の次元:可換子とシルベスター方程式)
(1) A∈Mm(C), B∈Mn(C) は共通の固有値をもたないとする。Φ(X)=AX−XB で定まる線形写像 Φ:Mm×n(C)→Mm×n(C) は全単射であることを示せ。
(2) C(A)={X∈Mn(C)∣AX=XA} とおく。A が対角化可能で、相異なる固有値の重複度が m1,…,mk のとき dimC(A)=∑imi2 を示せ。
(3) N を n 次のべき零ジョルダン細胞(Ne1=0, Nej=ej−1)とする。C(N)={p(N)∣p∈C[t]} で dimC(N)=n であることを示せ。これを用いて、次数 n 以下の実係数多項式の空間 V 上で微分 D と可換な線形変換全体の次元を求めよ。
使う知識:線形代数 第5章(ケーリー–ハミルトンの定理)、線形代数 第6章
解答
(1) 有限次元なので単射を示せばよい。AX=XB なら任意の多項式 p で p(A)X=Xp(B)。p=χB(B の固有多項式)とすると、ケーリー–ハミルトンの定理より χB(A)X=O。B の固有値を νj とすると χB(A)=∏j(A−νjI) で、各 νj は A の固有値でないから各因子は正則。よって X=O。
(2) A=PDP−1, D=diag(μ1Im1,…,μkImk)(μi は相異なる)とすると、X↦P−1XP は C(A)≅C(D) を与える。X を同じ区分けでブロック Xij に分けると、DX−XD の (i,j) ブロックは (μi−μj)Xij。よって C(D) はブロック対角行列の全体で、dimC(A)=∑mi2。
(3) p(N)∈C(N) は明らか。XN=NX とする。ej=Nn−jen なので、Xen=∑jcjej=p(N)en(p(t)=∑jcjtn−j)と書ける。すると Xej=XNn−jen=Nn−jp(N)en=p(N)ej で X=p(N)。Nken=en−k (0≤k<n) は相異なる基底ベクトルなので I,N,…,Nn−1 は 1 次独立、Nn=O より dimC(N)=n。
V の基底 ej=xj−1/(j−1)! (1≤j≤n+1) に関して De1=0, Dej=ej−1 なので、D は n+1 次のべき零ジョルダン細胞で表される。上の C(N) の議論は係数体によらず(R 上でも)そのまま成り立つので、求める次元は n+1 である(D と可換な線形変換は D の多項式 ∑k=0nakDk に限る)。
解説・発展
- (1) の別証明:Φ=LA−RB(左・右からの積)の固有値は λi−νj=0の形になる(λi, νj は A, B の固有値)。
- 一般に dimC(A)=∑λ∑i,jmin(pi(λ),pj(λ))≥n(pi(λ) は固有値 λ のジョルダン細胞のサイズ)。問題 8 の A では 3+1+1+1=6。等号は最小多項式と固有多項式が一致するときで、そのとき C(A)=C[A]。