Lemma数学ロードマップ

20 · 最終ステージ 総合演習

総合演習(大学院入試・修士レベル)

分野横断のオリジナル問題と詳しい解答。前半は大学院入試レベル、後半は修士修了レベル

9 章目安 60〜100 時間演習 105 問

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章の一覧

  1. 1 微分積分と線形代数目安 7〜12 時間 · 演習 12 問
  2. 2 集合と位相目安 7〜11 時間 · 演習 11 問
  3. 3 代数学目安 7〜12 時間 · 演習 12 問
  4. 4 複素関数論目安 7〜11 時間 · 演習 11 問
  5. 5 ルベーグ積分と関数解析目安 6〜11 時間 · 演習 11 問
  6. 6 多様体と位相幾何学目安 6〜11 時間 · 演習 11 問
  7. 7 微分方程式と確率論目安 6〜10 時間 · 演習 12 問
  8. 8 修士レベル:代数・数論・代数幾何目安 7〜11 時間 · 演習 12 問
  9. 9 修士レベル:解析・幾何目安 7〜12 時間 · 演習 13 問

概要

この科目は、これまでの各科目の知識を横断的に使う問題集である。第1〜7章は日本の大学院入試(院試)の専門科目・基礎科目の典型的なレベルと形式を、第8・9章は修士課程修了時の口頭試問や海外の qualifying exam に相当するレベルを想定している。すべてオリジナル問題で(題材は標準的だが、数値・設定・誘導は自作)、実際の入試問題の転載ではない。

各問題には、関連する章へのリンク(「使う知識」)、答案として書くべき論証をすべて含む完全な解答、そして着眼点・別解・よくある誤答・発展をまとめた解説をつけた。解答は「読んで納得する」ためではなく、「自分の答案と照合して、足りない論証を見つける」ために使ってほしい。

前提知識

すべてを学び終えてから始める必要はない。科目を 1 つ学び終えるごとに、対応する章の問題を解くのがよい。

到達目標

  • [ ] 第1〜7章の ★★ の問題を、1 問 30〜40 分で、論証の穴のない答案として書ける
  • [ ] 定理を使うたびに、その仮定(一様収束・可積分性・コンパクト性・正則値・完備性など)を確認したことを答案に書ける
  • [ ] 計算問題で、別の方法による検算(部分分数分解・数値・特殊な場合の代入)を習慣として行える
  • [ ] 「反例を挙げよ」「存在しないことを示せ」という問題で、標準的な反例と不変量を使いこなせる
  • [ ] 第8・9章の問題について、使う定理を正確に述べ、具体的な対象に適用して結論まで計算できる

問題集の使い方

各問題は次の形式で書かれている。

  1. 問題文:院試と同様に、小問 (1)(2)(3) が後の小問への誘導になっていることが多い。前の小問の結果は、解けなくても後の小問で使ってよい。
  2. 使う知識:関連する科目の章へのリンク。解けなかったときに戻る場所である。
  3. 解答(折りたたみ):答案として書くべき内容。採点者が減点しない程度の詳しさで書いてある。
  4. 解説・発展(折りたたみ):着眼点、別解、よくある誤答、発展的な話題。

おすすめの手順は次のとおり。

  1. 時間を計って、紙に答案を書く(頭の中で解いただけで済ませない)。
  2. 解答と照合し、論証の欠落(仮定の確認・場合分け・存在の根拠)に赤で印をつける。
  3. 解説を読み、別解やよくある誤答を確認する。
  4. 1 週間後に、印をつけた問題だけをもう一度解く。

難易度の目安

記号 第1〜7章での意味 第8・9章での意味 目安時間
★ 定義・定理の確認。院試なら落とせない問題 定理を 1 つ直接適用する問題 20〜25 分
★★ 院試の標準問題。合否を分ける 修士の口頭試問で問われる標準的な計算 30〜40 分
★★★ 院試で差がつく発展問題 qualifying exam の難しめの問題 50〜60 分

第8・9章の ★ は、第1〜7章の ★★ より難しい。

章立て

  1. 微分積分と線形代数(12 問)— ε-δ と一様連続性、級数・広義積分の収束判定、一様収束と項別微分、退化した臨界点の極値、ラグランジュの未定乗数法、重積分の変数変換とガウス積分、ジョルダン標準形と etAe^{tA}、行列の関数方程式、正定値性と二次形式、ゲルシュゴリンの定理、可換子とシルベスター方程式。
  2. 集合と位相(11 問)— 濃度、閉包・内部の計算(補有限位相・ゾルゲンフライ直線)、稠密集合上で一致する連続写像、積位相と箱位相、コンパクト性(ヒルベルト立方体・等長写像)、連結性(GL⁡n\operatorname{GL}_n・位相幾何学者の正弦曲線)、商空間、完備性と縮小写像、ベールの範疇定理の応用、位相不変量による非同相、アスコリ–アルツェラの定理。
  3. 代数学(12 問)— pp 群と類等式、位数 105 の群(シロー)、GL⁡2(Fp)\operatorname{GL}_2(\mathbb{F}_p)、有限アーベル群と単因子、Z[x]\mathbb{Z}[x] の剰余環、Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] のイデアル、既約性判定、拡大次数と作図、ガロア群の計算、ガロア群 S5\mathfrak{S}_5、有限体、二平方和定理。
  4. 複素関数論(11 問)— 留数による積分(有理関数・三角関数・フーリエ型・分岐あり)、ルーシェの定理、シュワルツの補題、等角写像とディリクレ問題、整関数の決定、一致の定理と有理型関数、πcot⁡πz\pi\cot\pi z による級数和、整関数の関数方程式、有限ブラシュケ積。
  5. ルベーグ積分と関数解析(11 問)— 収束定理の適用、項別積分、フビニの定理(反例と ∫0∞sin⁡xxdx\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}dx)、LpL^p の包含、収束の型、ヒルベルト空間の射影、完全正規直交系と ζ(6)\zeta(6)、作用素のノルムとスペクトル、ヴォルテラ作用素、一様有界性原理・閉グラフ定理、弱収束。
  6. 多様体と位相幾何学(11 問)— 正則値定理、行列群の接空間、立体角形式とストークスの定理、ブラウワーの不動点定理、トーラス上の写像度、ド・ラーム・コホモロジー、ファン・カンペンの定理、被覆空間、胞体ホモロジー、マイヤー–ヴィートリス完全系列、写像度の応用。
  7. 微分方程式と確率論(12 問)— 解の存在・一意性・延長、比較定理と爆発時刻、線形系、平衡点の安定性、境界値問題とフレドホルムの択一定理、フーリエ級数、熱方程式、波動方程式とラプラス方程式、確率の基本計算、ボレル–カンテリの補題、大数の法則・中心極限定理の応用、マルチンゲール。
  8. 修士レベル:代数・数論・代数幾何(12 問)— 局所化、整閉包と次元、離散付値環、Tor と Ext、ねじれ 3 次曲線、層と指数完全系列、リーマン–ロッホの定理の応用、純 3 次体の素イデアル分解、Q(−23)\mathbb{Q}(\sqrt{-23}) の類数、pp 進数、A4\mathfrak{A}_4 の指標表、sl2\mathfrak{sl}_2 の表現。
  9. 修士レベル:解析・幾何(13 問)— 平行移動・離散ラプラシアンのスペクトル、積分方程式とフレドホルムの択一定理、ソボレフ空間、弱解、最大値原理、曲率の計算、マイヤーズ・カルタン–アダマールの定理の応用、コホモロジー環、ポアンカレ双対、リーマン–フルヴィッツの公式、ワイエルシュトラスの空隙定理、マルチンゲール収束定理、ブラウン運動。

院試対策としての学習法

時間配分

  • 院試の専門科目は、多くの場合 1 問 30〜60 分程度で、複数の大問から選択する形式である。本番では、最初の 5 分で全問に目を通し、確実に完答できる問題から着手する。
  • 1 問に予定の 1.5 倍の時間をかけても方針が立たなければ、いったん次に移る。部分点は小問単位でつくことが多いので、誘導の前半だけでも確実に書く。
  • 見直しの時間を最後に 10 分程度残す。計算問題は検算(特殊値の代入、別の方法での計算)を 1 つは行う。

答案の書き方

  • 結論を先に:「答:p>1p > 1」のように結論を明示し、その後に論証を書く。求値問題では最終値を枠で囲むか太字にする。
  • 使う定理を名指しする:「優収束定理より」「ルーシェの定理より」と書き、その仮定を満たしていること(優関数の可積分性、円周上の不等式など)を必ず確認して書く。
  • 記号を定義する:自分で導入した記号(δ\delta, NN, 部分和 SnS_n など)は、何であるかを最初に書く。
  • 場合分けを明示する:「p≤0p \leq 0 のとき」「p>0p > 0 のとき」のように、すべての場合を尽くしたことがわかる形で書く。
  • 計算は途中式を残す:結果だけでは、どこで誤ったかがわからず部分点がつかない。

典型的な減点ポイント

減点されやすい書き方 正しい対処
極限と積分・和・微分の交換を無断で行う 単調収束・優収束・一様収束・フビニのどれを使うか書き、仮定を確認する
「明らか」「同様に」で本質的な部分を飛ばす 本当に 1 行で確認できる場合以外は書く
必要条件だけ示して十分条件を示さない ラグランジュの未定乗数法などは候補を出すだけ。最大値の存在(コンパクト性)を別に示す
定理の適用範囲外で使う ライプニッツの判定法の単調性、閉グラフ定理の完備性、第 2 ボレル–カンテリの独立性など
反例が条件を満たしていることを確認しない 反例は、仮定をすべて満たし結論だけが成り立たないことを両方示す
等号・境界の場合を落とす ≤\leq と <<、閉区間と開区間、判別式が 00 の場合などを確認する
多価関数の分枝を曖昧にする 留数計算では arg⁡\arg の範囲を明記する

学習時間の目安と進め方

  • 全体で 60〜100 時間。第1〜7章(80 問)は 1 章あたり 6〜10 時間、第8・9章(25 問)は 1 章あたり 10〜15 時間が目安。
  • 院試の 3〜6 か月前から、週に 1 章のペースで取り組むのが標準的。まず全章の ★ と ★★ を解き、残り時間で ★★★ に進む。
  • 志望先の過去問は必ず別に解くこと。本書の問題は典型的な題材を網羅することを優先しており、特定の大学の出題傾向には合わせていない。
  • 第8・9章は修士 1〜2 年での復習・口頭試問対策を想定している。専門分野に近い問題から取り組んでよい。

参考文献

  • 姫野俊一・陳啓浩『演習 大学院入試問題[数学]I, II』(サイエンス社)— 実際の院試問題とその解答を分野別に収録。本書で基礎を固めた後、実戦演習に使う。
  • P. N. de Souza, J.-N. Silva, Berkeley Problems in Mathematics (Springer) — カリフォルニア大学バークレー校の予備試験問題集。学部レベルの解析・線形代数・代数の問題が豊富。
  • 各科目の README に挙げた参考文献(とくに演習書)。

次に学ぶもの

  • 本書の問題で解けなかったものは、「使う知識」のリンクから該当する章に戻って復習する。
  • 修士課程では、専門分野の論文や専門書のセミナーに進む。第8・9章の各問題の「解説・発展」に、その先の話題への入口を記した。
  • 全体の目次の「到達度チェックリスト」で、自分の到達度を確認するとよい。