この章のねらい
- 極限と積分の交換を、どの定理(単調収束・優収束・フビニ)のどの仮定で正当化するかを明示して書けるようにする
- ヒルベルト空間・有界作用素・コンパクト作用素の具体例で、ノルムとスペクトルを実際に計算できるようにする
前提:測度と積分、関数解析
目安:★ は 20 分、★★ は 30〜40 分、★★★ は 50 分。
問題 1 ★(収束定理の適用)
次の極限を求めよ。
(1) n→∞lim∫0n(1−nx)nex/2 dx
(2) n→∞lim∫0∞x(1+x2)nsin(x/n) dx
(3) n→∞lim∫011+xnxn−1 dx
使う知識:測度と積分 第3章(単調収束定理・優収束定理)
解答
(1) fn(x)=(1−nx)nex/21[0,n](x) とおく。log(1−t)≤−t より 0≤(1−nx)n≤e−x (0≤x≤n) なので 0≤fn≤e−x/2 で、右辺は [0,∞) で可積分。fn(x)→e−xex/2 だから、優収束定理より極限は ∫0∞e−x/2dx=2。
(2) ∣sint∣≤∣t∣ より被積分関数の絶対値は 1+x21 以下で可積分。nsin(x/n)→x なので被積分関数は 1+x21 に各点収束し、優収束定理より極限は ∫0∞1+x2dx=2π。
(3) 部分積分により
∫011+xnxn−1dx=[1+xxn]01+∫01(1+x)2xndx=21+∫01(1+x)2xndx
で、最後の積分は 0 以上 ∫01xndx=n+11 以下。よって極限は 21。
解説・発展
- (3) では nxn−1→0 (0≤x<1) だが ∫01nxn−1dx=1 で、積分の「質量」が x=1 に集中する。supnnxn−1 は x→1 で e(1−x)1 程度に増大し可積分でないので、優収束定理は直接使えない。極限 21 は 1+x1 の x=1 での値である。
- 答案では「優関数 g を明示し、それが可積分であること」まで書く。優関数が n に依存してはいけない。
問題 2 ★★(項別積分)
(1) ∫011−x−logx dx=6π2 を示せ。∑n=1∞n21=6π2 は用いてよい。
(2) ∫0∞ex−1sinx dx=n=1∑∞n2+11 を示せ。
使う知識:測度と積分 第3章(非負関数の級数の項別積分・優収束定理)
解答
(1) 0<x<1 で 1−x−logx=∑n=0∞(−logx)xn であり、各項は非負。単調収束定理(非負関数の級数の項別積分)により
∫011−x−logxdx=n=0∑∞∫01xn(−logx)dx=n=0∑∞∫0∞te−(n+1)tdt=n=0∑∞(n+1)21=6π2
(x=e−t と置換した。)
(2) x>0 で ex−1sinx=∑n=1∞sinx e−nx。部分和は
n=1∑Nsinxe−nx≤∣sinx∣n=1∑∞e−nx=ex−1∣sinx∣≤ex−1x
と N によらず押さえられ、右辺は (0,∞) で可積分(x→0 で 1 に収束し、無限遠で指数的に減衰)。優収束定理より項別積分でき、
∫0∞sinxe−nxdx=Im∫0∞e(i−n)xdx=Imn−i1=n2+11
解説・発展
- 非負の項の級数は単調収束定理で無条件に項別積分できるが、符号が変わる項では部分和を押さえる可積分関数が必要である。∑∫∣fn∣<∞ を示す方法でもよい(本問 (2) では ∫0∞∣sinx∣e−nxdx≤n21 から従う)。
- (2) の右辺は第4章 問題 9より 2πcothπ−1 である。
問題 3 ★★(フビニの定理)
(1) f(x,y)=(x+y)3x−y に対し、(0,1]2 上の 2 つの累次積分 ∫01(∫01f dy)dx と ∫01(∫01f dx)dy を計算し、フビニの定理が適用できない理由を説明せよ。
(2) x1=∫0∞e−xt dt (x>0) とフビニの定理を用いて、A→∞lim∫0Axsinx dx=2π を示せ。
使う知識:測度と積分 第5章(フビニ・トネリの定理)
解答
(1) x>0 を固定すると ∂y∂(x+y)2y=(x+y)3x−y なので ∫01f(x,y) dy=(1+x)21、よって第 1 の累次積分は ∫01(1+x)2dx=21。f(y,x)=−f(x,y) より第 2 の累次積分は −21。フビニの定理は f∈L1((0,1]2) を仮定するが、トネリの定理より
∬(0,1]2∣f∣≥∫01(∫0x(x+y)3x−ydy)dx=∫01(2x)2xdx=∫014xdx=∞
で可積分でない。累次積分が一致しないのはこのためである。
(2) A>0 とする。[0,A]×[0,∞) 上で ∬∣sinx∣e−xt dt dx=∫0Ax∣sinx∣dx≤A<∞ なので、フビニの定理により
∫0Axsinxdx=∫0∞(∫0Asinxe−xtdx)dt=∫0∞1+t21−e−At(tsinA+cosA)dt
(内側は Im∫0Ae(i−t)xdx を計算した。)A≥1 で 1+t2e−At(tsinA+cosA)≤1+t2(1+t)e−t(可積分)であり、各 t>0 で A→∞ のとき 0 に収束する。優収束定理より、A→∞ で右辺は ∫0∞1+t2dt=2π に収束する。
解説・発展
- フビニの定理を使う答案では「∬∣f∣<∞ をトネリの定理で確認した」ことを必ず書く。(1) はこの確認を怠ると誤った結論になる例である。
- (2) で積分範囲を最初から [0,∞)2 にすると ∬∣sinx∣e−xt=∫0∞x∣sinx∣dx=∞ となりフビニが使えない。有限区間 [0,A] で交換してから A→∞ とするのが要点である。
問題 4 ★★(Lp 空間の包含関係)
(1) μ(X)<∞ の測度空間で、1≤p<q≤∞ なら ∥f∥p≤μ(X)1/p−1/q∥f∥q であり、Lq⊂Lp となることを示せ。
(2) R 上のルベーグ測度について、L1⊂L2 かつ L2⊂L1 を示せ。
(3) 数列空間では 1≤p<q≤∞ に対し ℓp⊂ℓq, ∥x∥q≤∥x∥p を示せ。
(4) 確率空間上の f∈L∞ に対し limp→∞∥f∥p=∥f∥∞ を示せ。
使う知識:測度と積分 第4章(ヘルダーの不等式)
解答
(1) q=∞ なら ∫∣f∣p≤∥f∥∞pμ(X) で明らか。q<∞ ならヘルダーの不等式(指数 pq とその共役指数)より ∫∣f∣p⋅1 dμ≤(∫∣f∣q)p/qμ(X)1−p/q。1/p 乗して結論を得る。
(2) f=x−1/21(0,1) は ∫∣f∣=2 だが ∫∣f∣2=∫01xdx=∞。g=(1+∣x∣)−1 は ∫g2=2<∞ だが ∫g=∞。
(3) ∥x∥p=1 なら各 ∣xn∣≤1 で ∣xn∣q≤∣xn∣p、よって ∥x∥qq≤1。一般の x=0 は x/∥x∥p に適用する(q=∞ は明らか)。
(4) 確率空間なので ∥f∥p≤∥f∥∞。逆に 0<t<∥f∥∞ に対し A={∣f∣>t} は μ(A)>0 で、∥f∥p≥tμ(A)1/p→t (p→∞)。よって liminfp∥f∥p≥t がすべての t<∥f∥∞ で成り立つ。
解説・発展
- 包含関係の向きは「有限測度では大きい p ほど小さい空間」「数え上げ測度では大きい p ほど大きい空間」。前者は無限遠での減衰が不要で局所的な特異性だけが問題になり、後者は局所的な特異性がなく減衰だけが問題になるためである。
- (1) より有限測度空間では L∞⊂⋂pLp だが逆は成り立たない(logx はすべての p<∞ で Lp(0,1) に属するが有界でない)。
問題 5 ★★(収束の型)
[0,1] 上のルベーグ測度で考える。
(1) ∥fn∥1→0 だが、どの点でも fn(x) が収束しない関数列の例を挙げよ。
(2) 各点で fn→0 だが ∥fn∥1→0 となる例を挙げよ。
(3) 1≤p<∞ とする。fn→f a.e. かつ ∥fn∥p→∥f∥p<∞ ならば ∥fn−f∥p→0 であることを示せ。
使う知識:測度と積分 第3章(ファトゥの補題)、測度と積分 第4章
解答
(1) n=2k+j(k≥0, 0≤j<2k)に対し fn=1[j2−k,(j+1)2−k] とする。∥fn∥1=2−k→0。一方、各 x と各 k について fn(x)=1 となる j があり、また fn(x)=0 となる j もある(k≥1)。よって fn(x) は 1 と 0 を無限回ずつとり、収束しない。
(2) fn=n1(0,1/n)。各 x で n>1/x なら fn(x)=0(x=0 でも 0)だが、∥fn∥1=1。
(3) ∣a−b∣p≤2p−1(∣a∣p+∣b∣p)(t↦tp の凸性)より gn=2p−1(∣fn∣p+∣f∣p)−∣fn−f∣p≥0 で、gn→2p∣f∣p a.e.。ファトゥの補題より
2p∫∣f∣p≤nliminf∫gn=2p∫∣f∣p−nlimsup∫∣fn−f∣p
∫∣f∣p<∞ なので limsupn∥fn−f∥pp≤0。
解説・発展
- 関係は「Lp 収束 ⇒ 測度収束 ⇒ 部分列が a.e. 収束」、有限測度では「a.e. 収束 ⇒ 測度収束」(エゴロフの定理)。(1) でも部分列 f2k は a.e. で 0 に収束する。
- (3) は p=1 の場合がシェッフェの補題として知られる(確率密度の各点収束から全変動距離での収束が出る)。
問題 6 ★★(ヒルベルト空間の射影)
(1) a,b,c∈Rmin∫−11∣x3−a−bx−cx2∣2 dx と、それを与える a,b,c を求めよ。
(2) M={f∈L2[0,1]∣∫01f dx=0} は閉部分空間であることを示し、M⊥ と M への直交射影 PM を求めよ。
(3) ∫01xf(x) dx=1 を満たす f∈L2[0,1] のうち、ノルム最小のものがただ一つ存在することを示し、それを求めよ。
使う知識:関数解析 第2章(射影定理・直交補空間)
解答
(1) 求める最小値は L2[−1,1] における x3 と V=span{1,x,x2} の距離の 2 乗で、最小を与えるのは直交射影 p、すなわち x3−p⊥V となるただ一つの p∈V である。p=53x とすると、x3−53x は奇関数なので 1,x2 と直交し、∫−11(x4−53x2)dx=52−52=0 より x とも直交する。よって a=c=0, b=53 で、最小値は
∫−11(x3−53x)2dx=72−56⋅52+259⋅32=72−256=1758
(2) M={1}⊥ は連続線形汎関数 f↦⟨f,1⟩ の核なので閉部分空間。M⊥=({1}⊥)⊥=span{1} は定数関数全体。f=⟨f,1⟩1+(f−⟨f,1⟩1) が直交分解なので、PMf=f−∫01f dx。
(3) g(x)=x とおくと条件は ⟨f,g⟩=1。シュワルツの不等式より 1≤∥f∥∥g∥=∥f∥/3、すなわち ∥f∥≥3 で、等号は f=cg のときに限る。⟨cg,g⟩=c/3=1 より c=3。最小元は f(x)=3x ただ一つ(ノルム 3)。
解説・発展
- (1) の x3−53x はルジャンドル多項式 P3 の定数倍である。一般に、次数 n−1 以下の多項式で近似したときの残差は Pn に比例する。対称性(偶奇)を使うと計算が大幅に減る。
- (3) は「閉凸集合には最小ノルム元がただ一つある」という射影定理の特別な場合。線形制約つき最小化問題は、制約を表すベクトルの定数倍が答えになる。
問題 7 ★★(完全正規直交系とパーセヴァルの等式)
(1) en(x)=2/πsinnx (n∈N) は L2[0,π] の完全正規直交系であることを示せ。三角関数系 {1,cosnx,sinnx} が L2[−π,π] で完全であることは用いてよい。
(2) f(x)=x(π−x) を {en} で展開し、パーセヴァルの等式を用いて ∑n=1∞n61 を求めよ。
使う知識:関数解析 第2章(完全正規直交系・パーセヴァルの等式)、微分方程式 第6章
解答
(1) ∫0πsinmxsinnx dx=21∫0π(cos(m−n)x−cos(m+n)x)dx=2πδmn より正規直交。完全性:f∈L2[0,π] がすべての sinnx と直交するとし、F を f の奇関数拡張とする。F は cosnx(偶関数)と直交し、∫−ππFsinnx=2∫0πfsinnx=0。三角関数系の完全性から F=0、よって f=0 a.e.。
(2) 部分積分を 2 回行うと(f(0)=f(π)=0)
∫0πx(π−x)sinnxdx=n1∫0π(π−2x)cosnxdx=n22∫0πsinnxdx=n32(1−(−1)n)
よって ⟨f,en⟩=2/π⋅n34(n 奇数), 0(n 偶数)。∥f∥2=∫0πx2(π−x)2dx=30π5 だから、パーセヴァルの等式より
30π5=π2n odd∑n616,n odd∑n61=960π6
∑nn61=∑odd+641∑nn61 より ∑n=1∞n61=6364⋅960π6=945π6。
解説・発展
- 同じ方法で、{2/πcosnx}∪{1/π}(偶関数拡張)も L2[0,π] の完全正規直交系になる。境界条件(ディリクレ・ノイマン)に応じて正弦・余弦展開を使い分けるのが、熱方程式などの変数分離の基礎である(第7章 問題 7)。
- パーセヴァルの等式の検算:30π5 は B(3,3)π5=5!2! 2!π5 から得られる。
問題 8 ★★(有界作用素のノルムとスペクトル)
(1) φ∈C[0,1] に対し、L2[0,1] 上の掛け算作用素 Mφf=φf について ∥Mφ∥=∥φ∥∞, σ(Mφ)=φ([0,1]) を示せ。φ(x)=x のとき固有値は存在するか。
(2) ℓ2 上の右シフト S(x1,x2,…)=(0,x1,x2,…) について、S は固有値をもたず、共役作用素 S∗ の点スペクトルは開円板 {∣λ∣<1} であること、σ(S)={∣λ∣≤1} であることを示せ。
(3) ℓ2 の標準基底 (en) に対し Ten=n1en+1 で定まる有界作用素 T について、∥T∥ と σ(T) を求めよ。
使う知識:関数解析 第6章(スペクトル・スペクトル半径の公式)
解答
(1) ∥φf∥≤∥φ∥∞∥f∥。逆向きは、∣φ(x0)∣=∥φ∥∞ となる x0 と ε>0 をとり、∣φ∣>∥φ∥∞−ε となる x0 を含む区間 I について f=∣I∣−1/21I を考えれば ∥Mφf∥≥∥φ∥∞−ε。スペクトル:λ∈/φ([0,1])(コンパクト集合)なら φ−λ1 は有界連続で M1/(φ−λ) が逆作用素。λ=φ(x0) なら、同様の fε(∣φ−λ∣<ε となる区間で作る)が ∥fε∥=1, ∥(Mφ−λ)fε∥≤ε を満たし、有界な逆は存在しない。φ(x)=x で (x−λ)f=0 a.e. なら f=0 a.e. なので固有値はない。
(2) Sx=λx なら (0,x1,x2,…)=(λx1,λx2,…)。λ=0 なら x=0、λ=0 なら x1=0 から順に xn=0。S∗ は左シフト (x2,x3,…) で、S∗x=λx ⇔ x=x1(1,λ,λ2,…)。これが ℓ2 の 0 でない元であるのは ∣λ∣<1 のときに限る。∥S∥=1 より σ(S)⊂{∣λ∣≤1}、σ(S∗) は閉集合で開円板を含むので閉円板に等しく、σ(S)={λ∣λ∈σ(S∗)} も閉円板。
(3) T は正規直交基底を直交系に写すので ∥T∑cnen∥2=∑∣cn∣2/n2、∥T∥=1。同様に Tken=n(n+1)⋯(n+k−1)1en+k から ∥Tk∥=k!1。スペクトル半径の公式より r(T)=limk(k!)−1/k=0、スペクトルは空でないので σ(T)={0}。
解説・発展
- 無限次元では「スペクトル = 固有値の集合」。(1) の Mx はスペクトル [0,1] がすべて連続スペクトル、(2) の S は開円板 {∣λ∣<1} が剰余スペクトル(λ が S∗ の固有値なので S−λ の値域は稠密でない)、単位円周 {∣λ∣=1} が連続スペクトル(S∗−λ が単射なので値域は稠密)になる。
- (3) の T は ∥T∥=1 だが r(T)=0 の準べき零作用素で、コンパクト作用素でもある(有限ランク作用素のノルム極限)。
問題 9 ★★★(コンパクト作用素:ヴォルテラ作用素)
L2[0,1] 上の作用素 (Vf)(x)=∫0xf(y) dy を考える。
(1) V はコンパクト作用素であることを示せ。
(2) σ(V)={0} であり、V は固有値をもたないことを示せ。
(3) ∥V∥=π2 を示せ。
使う知識:関数解析 第5章(ヒルベルト–シュミット作用素・コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理)
解答
(1) V は核 k(x,y)=1{y<x} をもつ積分作用素で、k∈L2([0,1]2) なのでヒルベルト–シュミット作用素、したがってコンパクト。
(2) 帰納法で (Vnf)(x)=∫0x(n−1)!(x−y)n−1f(y) dy。核の絶対値は (n−1)!1 以下なので ∥Vn∥≤(n−1)!1、スペクトル半径 r(V)=lim∥Vn∥1/n=0。スペクトルは空でない(あるいは、無限次元空間上のコンパクト作用素 V は可逆でないので 0∈σ(V))から、σ(V)={0}。Vf=0 なら f のすべての区間 [0,x] 上の積分が 0 なので f=0 a.e.、0 も固有値でない。
(3) ∥V∥2=∥V∗V∥ で、V∗V はコンパクトな正の自己共役作用素なので、そのノルムは最大固有値に等しい。(V∗g)(x)=∫x1g(y) dy である。V∗Vf=μf(μ>0)とすると、u=V∗Vf は u(1)=0, u′=−Vf, u′(0)=0, u′′=−f を満たす。f=u/μ より f は C2 級で μf′′=−f, f(1)=0, f′(0)=0。よって f=cosωx(定数倍を除く), ω2=1/μ, cosω=0 で、μ=(k+21)2π21 (k≥0)。逆にこれらは固有値である(V∗Vcosωx=ω2cosωx−cosω)。最大固有値は π24 なので ∥V∥=π2。
解説・発展
- (2) は「コンパクト作用素の 0 でないスペクトルは固有値」の例で、ヴォルテラ作用素には 0 以外のスペクトルがない。積分方程式 f−λVf=g がすべての λ で一意可解であることを意味する(ノイマン級数が収束する)。
- (3) のように、作用素のノルムを「V∗V の固有値問題 = 境界値問題」に帰着させるのは定番の手法。同じ方法で核 min(x,y) の作用素(ブラウン運動の共分散)の固有値 (k−21)2π21 も求まる。
問題 10 ★★(一様有界性原理と閉グラフ定理)
(1) 実数列 a=(an) が、すべての x∈ℓ2 に対して ∑nanxn が収束するという性質をもつならば、a∈ℓ2 であることを示せ。
(2)(ヘリンガー–テプリッツの定理)ヒルベルト空間 H 上の線形写像 T が、すべての x,y について ⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩ を満たすならば、T は有界であることを示せ。
(3) C1[0,1] と C[0,1] にともに一様ノルムを入れる。微分 D:C1[0,1]→C[0,1] はグラフが閉だが有界でないことを示し、閉グラフ定理と矛盾しない理由を述べよ。
使う知識:関数解析 第3章(一様有界性原理・閉グラフ定理)
解答
(1) φN(x)=∑n≤Nanxn は ℓ2 上の有界線形汎関数で、∥φN∥=(∑n≤Nan2)1/2(x=(a1,…,aN,0,…) で達成)。仮定より各 x で (φN(x))N は収束し有界。一様有界性原理より supN∥φN∥<∞、すなわち ∑an2<∞。
(2) 閉グラフ定理より、xn→x, Txn→y のとき y=Tx を示せばよい。任意の z に対し ⟨y,z⟩=lim⟨Txn,z⟩=lim⟨xn,Tz⟩=⟨x,Tz⟩=⟨Tx,z⟩。よって y=Tx。
(3) fn→f, fn′→g(ともに一様収束)なら、fn(x)=fn(0)+∫0xfn′ で極限をとって f(x)=f(0)+∫0xg、よって f∈C1, f′=g。グラフは閉。一方 fn(x)=xn は ∥fn∥∞=1, ∥fn′∥∞=n で、D は有界でない。閉グラフ定理は定義域がバナッハ空間であることを仮定するが、(C1[0,1],∥⋅∥∞) は完備でない(C1 関数列の一様極限は C1 とは限らない)ので矛盾しない。
解説・発展
- (1) は「弱い意味で有界なら強い意味で有界」という一様有界性原理の典型的な使い方。ℓ2 を ℓp に変えると結論は a∈ℓp′(共役指数)になる。
- (2) の帰結として、量子力学に現れる非有界な対称作用素(微分作用素など)は、全空間では定義できない。非有界作用素論では定義域の指定が本質的になる(関数解析 第7章)。
問題 11 ★★(弱収束)
H をヒルベルト空間とする。
(1) 正規直交列 (en) は 0 に弱収束するが、ノルム収束しないことを示せ。
(2) xn⇀x(弱収束)かつ ∥xn∥→∥x∥ ならば xn→x(ノルム収束)であることを示せ。
(3) 弱収束列は有界で、∥x∥≤liminfn∥xn∥ であることを示せ。
(4) L2(0,2π) で sinnx⇀0 だが sin2nx⇀21 であることを示せ。
使う知識:関数解析 第4章(弱収束)、関数解析 第2章(ベッセルの不等式・リースの表現定理)
解答
リースの表現定理により、xn⇀x はすべての y∈H で ⟨xn,y⟩→⟨x,y⟩ となることと同値である。
(1) ベッセルの不等式 ∑n∣⟨y,en⟩∣2≤∥y∥2 より ⟨en,y⟩→0。一方 ∥en∥=1 なので 0 にノルム収束しない。
(2) ∥xn−x∥2=∥xn∥2−2Re⟨xn,x⟩+∥x∥2→∥x∥2−2∥x∥2+∥x∥2=0。
(3) ℓn(y)=⟨y,xn⟩ は ∥ℓn∥=∥xn∥ の有界線形汎関数で、各 y で (ℓn(y)) は収束するので有界。一様有界性原理より supn∥xn∥<∞。また ∥x∥2=lim⟨xn,x⟩≤liminf∥xn∥∥x∥。
(4) {sinnx/π} と {cosnx/π} は正規直交列なので、(1) より sinnx⇀0, cos2nx⇀0。sin2nx=21−21cos2nx⇀21。
解説・発展
- (4) は「弱収束は非線形演算と可換でない」ことを示す。0=(弱極限)2=弱極限(fn2)=21 の差は振動のエネルギーで、非線形偏微分方程式の変分法で弱極限の扱いが難しい理由である。
- (2) の性質(ラドン–リース性)は一様凸なバナッハ空間(Lp, 1<p<∞)でも成り立つが、L1 では成り立たない。